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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】蒸留装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/36 20060101AFI20220809BHJP
   B01D 3/10 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B01D61/36
B01D3/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020157300
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051045
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】増田 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳一
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-327288(JP,A)
【文献】特開平05-115857(JP,A)
【文献】特開平03-052627(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00634198(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D1/00-8/00
B01D61/36
C02F1/02-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性酸性ガスの水溶液よりなる、蒸留処理される液が導入される膜式蒸留器と、
該蒸留器内で生じた蒸気を吸引するアスピレータ又はエゼクタと、
該アスピレータ又はエゼクタの流出水が流入するタンクと、
該タンク内の水を前記アスピレータ又はエゼクタの作動流体流入部に送水する経路と、
該経路に設けられた冷却用の、チタン、チタン合金又はハステロイ製の熱交換器と、
前記タンク内の水、又はタンクとアスピレータもしくはエゼクタとの間を循環する水の水質測定手段と、
該水質測定手段で測定された水質が規定値を超えた場合に該水の一部を排出する排出手段と
を有し、
前記水質は電気伝導度又は比抵抗である蒸留装置。
【請求項2】
前記タンクに水を補給する手段を有する請求項の蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留装置に係り、特に蒸留処理される液を熱交換器を用いて加熱するよう構成された蒸留装置に関する。本発明は、特に揮発性酸性ガスの水溶液から揮発性酸性ガスを分離する用途に用いるのに好適な蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留処理される液を熱交換器を用いて加熱するよう構成された蒸留装置の一例を図2に示す。
【0003】
供給ライン(図示略)を介して給水タンク1内に導入された原料水(蒸留処理される液)は、該給水タンク1からポンプ2及び配管3を介して熱交換器4に送液され、該熱交換器4で加熱された後、配管5を介して膜モジュール10に送水される。
【0004】
この従来例では、膜モジュール10は中空糸膜モジュールである。膜モジュール10では、多数本の中空糸11が引き揃えられて中空糸束とされ、上下方向に配設されている。中空糸束の上端側及び下端側がポッティング材12,13で結束されている。
【0005】
中空糸束は膜モジュール10のケーシング14内に配置されており、上側ポッティング材12の上側に流入室15が形成され、下側ポッティング材13の下側に流出室16が形成されている。各中空糸11内はそれぞれ流入室15及び流出室16内に連通している。
【0006】
配管5からの被処理液は、流入室15から各中空糸11内(一次側)に流入し、中空糸11を通り、流出室16へ流れ、該流出室16から配管18を介して給水タンク1に戻る。
【0007】
ケーシング14内における中空糸11外であって且つポッティング材12,13間が二次側17である。
【0008】
該二次側17は、配管(蒸気配管)6、熱交換器(冷却器)7の被冷却側流路、配管8、凝縮水タンク9及び配管9aを介して減圧装置9bに連通しており、該減圧装置9bによって該二次側17が減圧される。
【0009】
被処理液が中空糸17内(一次側)を流れる間に被処理液中の水が中空糸11を透過し、蒸気となって二次側17から配管6へ吸引排出され、熱交換器7で冷却されて凝縮水が生成する。凝縮水は、凝縮水タンク9に貯留される。凝縮水タンク9内に溜まった凝縮水は、該凝縮水タンク9の下部から取出ライン(図示略)を介して取り出される。凝縮水タンク9の上部が配管9aを介して減圧装置9bに接続されている。
【0010】
熱交換器4の熱源流体流路4aには、ヒートポンプシステム19からの高温水が通水され、熱交換器7の熱源流体流路7aにはヒートポンプシステム19からの低温水が通水される。
【0011】
ヒートポンプシステム19のヒートポンプ20は、周知構成のものであり、蒸発器21からの代替フロン等の熱媒体を圧縮機22で断熱圧縮により高温として凝縮器23に導入し、凝縮器23からの熱媒体を膨張弁24を介して蒸発器21に導入し、断熱膨張させて降温させるように構成されている。
【0012】
凝縮器23内に設けられた伝熱チューブ23aに温水タンク30内の水がポンプ31及び配管32を介して通水され、高温熱媒体と熱交換して加熱される。加熱されて高温水となった水は、配管33を介して温水タンク30に返送される。
【0013】
この温水タンク30内の高温水が、ポンプ34及び配管35を介して熱交換器4の熱源流体流路4aに通水され、原料水と熱交換してこれを加熱する。原料水と熱交換することにより温度が低下した水は、配管36を介して温水タンク30に返送される。
【0014】
蒸発器21内に設けられた伝熱チューブ21aに、冷水タンク40内の水がポンプ41及び配管42を介して通水され、低温熱媒体と熱交換して冷却される。冷却されて低温水となった水は、配管43を介して冷水タンク40に返送される。
【0015】
このタンク40内の低温水が、ポンプ44及び配管45を介して熱交換器7の熱源流体流路7aに通水され、蒸気と熱交換してこれを冷却する。蒸気と熱交換することにより温度が上昇した水は、配管46を介して冷水タンク40に返送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平3-52627号公報
【文献】特開2019-158173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
蒸留処理される水(原料水)が塩酸、フッ酸などの揮発性酸性ガスの水溶液であり、該揮発性酸性ガスを膜モジュールで膜透過させて回収する場合、熱交換器7は高濃度の腐食性酸と接することになる。そのため、熱交換器7として耐腐食性に優れた合成樹脂(例えばフッ素樹脂)製のものが用いられているが、合成樹脂は熱伝導度が低いので、熱交換器7として熱交換面積の大きい大型熱交換器を用いる必要があった。また、合成樹脂製の熱交換器はコスト高でもある。
【0018】
本発明は、原料水が揮発性酸性ガスを含む場合であっても、熱交換器として熱伝導度の高い金属製熱交換器を用いることができる蒸留装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、次を要旨とするものである。
【0020】
[1] 蒸留処理される液が導入される蒸留器と、該蒸留器内で生じた蒸気を吸引するアスピレータ又はエゼクタと、該アスピレータ又はエゼクタの流出水が流入するタンクと、該タンク内の水を前記アスピレータ又はエゼクタの作動流体流入部に送水する経路と、該経路に設けられた冷却用の熱交換器とを有する蒸留装置。
【0021】
[2] 前記タンク内の水、又はタンクとアスピレータもしくはエゼクタとの間を循環する水の水質測定手段と、該水質測定手段で測定された水質が規定値を超えた場合に該水の一部を排出する排出手段を備えた[1]の蒸留装置。
【0022】
[3] 前記水は酸の水溶液であり、前記水質は電気伝導度又は比抵抗である[2]の蒸留装置。
【0023】
[4] 前記熱交換器は高耐食性金属製である[1]~[3]のいずれかの蒸留装置。
【0024】
[5] 前記蒸留器は、膜式蒸留器である[1]~[4]のいずれかの蒸留装置。
【0025】
[6] 前記タンクに水を補給する手段を有する[1]~[5]のいずれかの蒸留装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明の蒸留装置では、蒸留器内で生じた蒸気をアスピレータ又はエゼクタで吸引する。このアスピレータ又はエゼクタの流出水中に蒸気が溶解するため、蒸気が酸性ガスを含む場合であっても、該流出水中の酸濃度は低いものとなる。そのため、この流出水をタンクからアスピレータ又はエゼクタに作動流体として送水する経路に設けられた熱交換器を金属製のものとしても、長期にわたって腐食することが防止される。この金属製の熱交換器は、熱交換特性が良好であり、合成樹脂製の熱交換器に比べて著しく小型である。
【0027】
本発明の一態様では、作動流体としての水の酸濃度が所定値よりも高くなったときには、該水の一部を排出し、新しい水を追加する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施の形態に係る蒸留装置の構成図である。
図2】従来例に係る蒸留装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図1を参照して実施の形態について説明する。
【0030】
この実施の形態では、膜モジュール10の2次側17を吸引するための配管6の末端がアスピレータ50の吸引部に接続されている。アスピレータ50の作動流体流入口へは凝縮水タンク9内の水が、ポンプ51、配管52、金属製熱交換器7の被冷却側流路、配管54を介して導入される。アスピレータ50の流出水は配管55を介して凝縮水タンク9に戻る。
【0031】
凝縮水タンク9へは補給水ライン56を介して補給水が導入可能とされている。蒸留装置の運転開始に先立って、補給水ライン56から凝縮水タンク9に所定量の水を供給して貯めておく。
【0032】
配管52からは配管57が分岐しており、該配管57に弁58が設けられている。凝縮水タンク9に設けられた電気伝導度計59で検出される電気伝導度が所定値よりも高くなったときには、弁58が開とされ、凝縮水の一部が系外に排出され、代りに補給水が補給水ライン56から供給される。
【0033】
給水タンク1内の水が塩酸、フッ酸などの揮発性酸性ガスの水溶液である場合、ポンプ51を作動させてアスピレータ50に通水することにより生じた負圧によって膜モジュール10の2次側17から配管6へ酸性ガスが吸引される。この酸性ガスは、アスピレータ50内を流れる水に溶け込み、揮発性酸性ガスの水溶液として凝縮水タンク9に流入する。
【0034】
凝縮水タンク9内の水溶液の酸濃度が次第に高くなるので、規定濃度よりも高くなったときには、前述の通り、弁58を開として高濃度酸水溶液を配管57から系外に排出し、代りに補給水ライン56から補給水を凝縮水タンク9に導入する。
【0035】
この実施の形態では、熱交換器7の被冷却側流路には、凝縮水タンク9内の該規定濃度以下の酸水溶液が流れるので、熱交換器7として金属製のものを用いても長期にわたって腐食することなく、安定した運転を行うことができる。
【0036】
熱交換器7を構成するための金属としては、チタン、チタン合金やハステロイなどの高耐食性金属又は合金が好適である。
【0037】
なお、チタン、ハステロイC及びポリテトラフルオロエチレンの熱伝導率の一例を次に示す。
【0038】
チタン:21.9w/(m・k)
ハステロイC:11.1w/(m・k)
ポリテトラフルオロエチレン:0.24w/(m・k)
このように、チタンやハステロイの熱伝導率はポリテトラフルオロエチレンに比べて著しく高いので、熱交換器7として熱交換面積の小さい、小型のものを用いることが可能となる。
【0039】
図1の蒸留装置のその他の構成は図2と同一であり、同一符号は同一部分を示している。なお、図1ではアスピレータが用いられているが、エゼクタを用いてもよい。
【0040】
この蒸留装置においても、給水タンク1内の原料水が給水タンク1からポンプ2及び配管3を介して熱交換器4に送液され、該熱交換器4で加熱された後、膜モジュール10に送水され、膜蒸留処理され、給水タンク1に戻る。
【0041】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態とされてもよい。例えば、上記実施の形態では電気伝導度計が用いられているが、比抵抗計、pH計など水中の酸濃度を検出できる各種センサを用いることができる。
【0042】
また、上記実施の形態では電気伝導度計は凝縮水タンク9に設けられているが、配管52,54など他の部位に設置されてもよい。
【0043】
上記実施の形態では膜モジュール10と給水タンク1とを有した膜式蒸留器が設置されているが、これ以外の蒸留器を用いてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 給水タンク
4,7 熱交換器
9 凝縮水タンク
19 ヒートポンプシステム
20 ヒートポンプ
21 蒸発器
22 圧縮機
23 凝縮器
24 膨張弁
30 温水タンク
40 冷水タンク
50 アスピレータ
59 電気伝導度計
図1
図2