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特許7120341高周波デバイス用ガラス基板と高周波デバイス用回路基板
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  • 特許-高周波デバイス用ガラス基板と高周波デバイス用回路基板 図1
  • 特許-高周波デバイス用ガラス基板と高周波デバイス用回路基板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】高周波デバイス用ガラス基板と高周波デバイス用回路基板
(51)【国際特許分類】
   C03C 4/16 20060101AFI20220809BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20220809BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20220809BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C03C4/16
C03C3/091
C03C3/089
H05K1/03 610B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021008815
(22)【出願日】2021-01-22
(62)【分割の表示】P 2019208014の分割
【原出願日】2017-08-30
(65)【公開番号】P2021066656
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2016178512
(32)【優先日】2016-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017053300
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
(72)【発明者】
【氏名】野村 周平
(72)【発明者】
【氏名】木寺 信隆
(72)【発明者】
【氏名】竹下 暢彦
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-093422(JP,A)
【文献】特開2004-244271(JP,A)
【文献】特開2004-168597(JP,A)
【文献】特開2011-042509(JP,A)
【文献】特表2016-501818(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0051060(US,A1)
【文献】特開2011-139052(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129254(WO,A1)
【文献】特開2007-314409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 -14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001~5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNaO/(NaO+KO)で表されるモル比が0.01~0.99の範囲であり、Bを13~36%含有し、かつMgOの含有量が3~11%の範囲であり、CaOの含有量が5%以下であると共に、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として3~13%の範囲で含有する、SiOを主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項2】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001~5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNaO/(NaO+KO)で表されるモル比が0.01~0.99の範囲であり、B18.5~30%含有し、Al の含有量が0~10%の範囲であり、かつMgOの含有量が11%以下であり、CaOの含有量が5%以下であると共に、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として3~13%の範囲で含有する、SiOを主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項3】
酸化物基準のモル百分率で、AlおよびBを合計含有量として13~40%の範囲で含有すると共に、Al/(Al+B)で表されるモル比が0~0.45の範囲である、請求項1に記載のガラス基板。
【請求項4】
酸化物基準のモル百分率で、Fe換算でのFeの含有量が0.012%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項5】
β-OH値が0.05~0.6mm-1の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項6】
35GHzにおける比誘電率が10以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項7】
50~350℃における平均熱膨張係数が3~15ppm/℃の範囲である、請求項1~6のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項8】
ヤング率が40GPa以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項9】
気孔率が0.1%以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項10】
波長350nmの透過率が50%以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項11】
厚さが0.05~1mmの範囲であると共に、基板面積が225~10000cmの範囲である、請求項1~10のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項12】
非晶質である、請求項1~11のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波デバイス用ガラス基板と高周波デバイス用回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、スマートフォン、携帯情報端末、Wi-Fi機器のような通信機器、弾性表面波(SAW)デバイス、レーダ部品、アンテナ部品等の電子デバイスにおいては、通信容量の大容量化や通信速度の高速化等を図るために、信号周波数の高周波化が進められている。このような高周波用途の電子機器に用いられる回路基板には、一般的に樹脂基板、セラミックス基板、ガラス基板等の絶縁基板が使用されている。高周波デバイスに用いられる絶縁基板には、高周波信号の質や強度等の特性を確保するために、誘電損失や導体損失等に基づく伝送損失を低減することが求められている。
【0003】
これらの絶縁基板のうち、樹脂基板はその特性から剛性が低い。そのため、半導体パッケージ製品に剛性(強度)が必要な場合には、樹脂基板は適用しにくい。セラミックス基板は表面の平滑性を高めることが難しく、これにより基板表面に形成される導体に起因する導体損失が大きくなりやすいという難点を有している。一方、ガラス基板は剛性が高いため、パッケージの小型化や薄型化等を図りやすく、表面平滑性にも優れ、また基板自体として大型化することが容易であるというような特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-077769号公報
【文献】特開2004-244271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の無アルカリガラス基板は20GHz程度までは誘電損失およびそれに基づく伝送損失の低減に効果を示すものの、それ以上、例えば30GHzを超えるような領域では誘電損失の低減に限界がある。そのため、従来の無アルカリガラス基板を用いた回路基板では、30GHzを超えるような高周波信号の質や強度等の特性を維持することが困難になる。一方、石英ガラス基板は30GHzを超えるような領域においても低誘電損失を維持することができる反面、熱膨張係数が小さすぎることから、電子デバイスを構成する際に他の部材との熱膨張係数差が大きくなりすぎるという欠点がある。これは、電子デバイスの実用性を低下させる要因となる。
【0006】
本発明は、高周波信号の誘電損失を低減することができ、かつ実用的な電子デバイスを提供することが可能な高周波デバイス用ガラス基板、およびそれを用いた高周波信号の伝送損失を低減することが可能な高周波デバイス用回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態による高周波デバイス用ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を0.001~5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNaO/(NaO+KO)で表されるモル比が0.01~0.99の範囲であり、かつAlおよびBを合計含有量として1~40%の範囲で含有すると共に、Al/(Al+B)で表されるモル比が0~0.45の範囲である、SiOを主成分とするガラス基板であって、前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である。
【0008】
本発明の第2の形態による高周波デバイス用ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を0.001~5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNaO/(NaO+KO)で表されるモル比が0.01~0.99の範囲であり、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1~13%の範囲で含有する、SiOを主成分とするガラス基板であって、前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である。
【0009】
本発明の第3の形態による高周波デバイス用回路基板は、本発明の第1の形態または第2の形態によるガラス基板と、前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高周波デバイス用ガラス基板によれば、高周波信号の誘電損失を低減することができる。そのようなガラス基板を用いた回路基板によれば、高周波信号の伝送損失を低減することができ、実用的な電子デバイス等の高周波デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の回路基板の構成を示す断面図である。
図2】例1~6による回路基板の信号周波数と伝送損失との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。ガラス基板における各成分の含有率は、特に断らない限り、酸化物基準のモル百分率(モル%)を示す。なお、本明細書における「高周波」とは、10GHz以上、好ましくは30GHzより大きく、より好ましくは35GHz以上とする。
【0013】
図1は、本発明の実施形態の高周波デバイス用回路基板を示している。図1に示す回路基板1は、絶縁性を有するガラス基板2と、ガラス基板2の第1の主表面2aに形成された第1の配線層3と、ガラス基板2の第2の主表面2bに形成された第2の配線層4とを備えている。第1および第2の配線層3、4は、伝送線路の一例としてマイクロストリップ線路を形成している。第1の配線層3は信号配線を構成し、第2の配線層4はグランド線を構成している。ただし、第1および第2の配線層3、4の構造はこれに限られるものではなく、また配線層はガラス基板2の一方の主表面のみに形成されていてもよい。
【0014】
第1および第2の配線層3、4は、導体で形成された層であり、その厚さは通常0.1~50μm程度である。第1および第2の配線層3、4を形成する導体は、特に限定されるものではなく、例えば銅、金、銀、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タングステン、白金、ニッケル等の金属、それらの金属を少なくとも1つ含む合金や金属化合物等が用いられる。第1および第2の配線層3、4の構造は、一層構造に限らず、例えばチタン層と銅層との積層構造のような複数層構造を有していてもよい。第1および第2の配線層3、4の形成方法は、特に限定されるものではなく、例えば導体ペーストを用いた印刷法、ディップ法、メッキ法、蒸着法、スパッタ等の各種公知の形成方法を適用することができる。
【0015】
ガラス基板2は、本発明の実施形態の高周波デバイス用ガラス基板からなり、35GHzにおける誘電正接(tanδ)が0.007以下という特性を有する。ガラス基板2の35GHzにおける比誘電率は10以下であることが好ましい。ガラス基板2の35GHzにおける誘電正接を0.007以下とすることによって、30GHzを超えるような高周波領域での誘電損失を低減することができる。ガラス基板2の35GHzにおける比誘電率を10以下とすることによっても、高周波領域での誘電損失を低減することができる。ガラス基板2の35GHzにおける誘電正接は、0.005以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましい。ガラス基板2の比誘電率は7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、5以下が特に好ましい。
【0016】
さらに、ガラス基板2の第1および第2の配線層3、4が形成される主表面2a、2bの表面粗さは、算術平均粗さRaの値として1.5nm以下とされている。ガラス基板2の第1および第2の配線層3、4が形成される主表面2a、2bの算術平均粗さRaを1.5nm以下とすることによって、30GHzを超えるような高周波領域で第1および第2の配線層3、4に表皮効果が生じた場合においても、第1および第2の配線層3、4の表皮抵抗を低下させることができ、これにより導体損失が低減される。ガラス基板2の主表面2a、2bの算術平均粗さRaは、1.0nm以下がより好ましく、0.5nm以下がさらに好ましい。ガラス基板2の主表面とは、配線層が形成される表面を指すものである。一方の主表面に配線層が形成される場合、一方の主表面の算術平均粗さRaの値が1.5nm以下を満たせばよい。なお、本明細書における表面粗さRaは、JIS B0601(2001年)に準拠して得られた値を意味する。
【0017】
ガラス基板2の主表面2a、2bの表面粗さは、必要に応じてガラス基板2の表面に研磨処理等を施すことにより実現することができる。ガラス基板2の表面の研磨処理には、例えば酸化セリウムやコロイダルシリカ等を主成分とする研磨剤、および研磨パッドを用いた機械的研磨、研磨剤、酸性液またはアルカリ性液を分散媒とする研磨スラリー、および研磨パッドを用いた化学機械的研磨、酸性液またはアルカリ性液をエッチング液として用いた化学的研磨等を適用することができる。これら研磨処理は、ガラス基板2の素材となるガラス板の表面粗さに応じて適用され、例えば予備研磨と仕上げ研磨とを組み合わせて適用してもよい。また、ガラス基板2の端面は、プロセス流動中に端面を起因とするガラス基板2の割れ、クラック、欠けを防止するため、面取りされていることが好ましい。面取りの形態は、C面取り、R面取り、糸面取り等のいずれであってもよい。
【0018】
このようなガラス基板2を用いることによって、回路基板1の35GHzにおける伝送損失を低減、具体的には1dB/cm以下まで低減することができる。従って、高周波信号、特に30GHzを超える高周波信号、さらには35GHz以上の高周波信号の質や強度等の特性が維持されるため、そのような高周波信号を扱う高周波デバイスに好適なガラス基板2および回路基板1を提供することができる。すなわち、そのような高周波信号を扱う高周波デバイスの特性や品質を向上させることができる。回路基板1の35GHzにおける伝送損失は、0.5dB/cm以下がより好ましい。
【0019】
上述したような誘電正接等の誘電特性を有するガラス基板2は、SiOを主成分であるネットワーク形成物質とするガラス基板において、以下に示す条件(1)と条件(2)、条件(1)と条件(3)、または条件(1)と条件(2)と条件(3)を満足させることで実現することができる。ここで、ガラス基板2は、原料組成物を溶融および硬化させることにより形成されるものである。ガラス基板2の製造方法は、特に限定されるものではないが、一般的な溶融ガラスをフロート法により所定の板厚に成形し、徐冷後に所望形状に切断して板ガラスを得る方法等を適用することができる。
【0020】
ここで、本明細書におけるガラスとは、その定義より非晶質であり、ガラス転移を示す固体を示す。ガラスと結晶体の混合物である結晶化ガラスや、結晶質フィラーを含有するガラス焼結体は含まない。なお、非晶質のみからなるかどうかは、例えば、X線回折測定を行い、明確な回折ピークが認められないことにより確認することができる。
【0021】
また、本明細書における「SiOを主成分」とは、酸化物基準のモル%における成分の割合において、SiOの含有量が最大であることを意味する。
【0022】
条件(1):ガラス基板2は、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001~5%の範囲で含有すると共に、アルカリ金属酸化物のうちNaO/(NaO+KO)で表されるモル比が0.01~0.99の範囲である。
【0023】
条件(2):ガラス基板2は、AlおよびBを合計含有量として1~40%の範囲で含有すると共に、Al/(Al+B)で表されるモル比が0~0.45の範囲である。
【0024】
条件(3):ガラス基板2は、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1~13%の範囲で含有する。
【0025】
条件(1)に関しては、SiOを主成分とするガラス基板2のアルカリ金属酸化物の含有量を5%以下とすることによって、ガラス基板2の低誘電損失性を高めることができる。また、アルカリ金属酸化物の含有量を0.001%以上とすることによって、過剰な原料精製を必要とすることがなく、実用的なガラスの溶融性およびガラス基板2の生産性が得られると共に、ガラス基板2の熱膨張係数を調整することができる。ガラス基板2に含まれるアルカリ金属酸化物としては、LiO、NaO、KO、RbO、CsOが挙げられるが、特にNaOおよびKOが重要となるため、NaOおよびKOの合計含有量が0.001~5%の範囲であることが好ましい。アルカリ金属酸化物の含有量は、3%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.2%以下がさらに好ましく、0.1%以下がさらに好ましく、0.05%以下が特に望ましい。アルカリ金属酸化物の含有量は0.002%以上がより好ましく、0.003%以上がさらに好ましく、0.005%以上が特に好ましい。
【0026】
さらに、SiOを主成分とするガラス状物質にNaOとKOを共存させることで、言い換えるとNaO/(NaO+KO)で表されるモル比を0.01~0.99の範囲とすることで、アルカリ成分の移動が抑えられるため、ガラス基板2の低誘電損失性を高めることができる。NaO/(NaO+KO)で表されるモル比は、0.98以下がより好ましく、0.95以下がさらに好ましく、0.9以下が特に好ましい。NaO/(NaO+KO)で表されるモル比は、0.02以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましく、0.1以上が特に好ましい。
【0027】
上述したアルカリ金属酸化物の量や比率を規定する条件(1)に加えて、条件(2)のAlおよびBを量や比率、条件(3)のアルカリ土類金属酸化物の量、または条件(2)と条件(3)を満足させることによって、ガラス基板2の35GHzにおける誘電正接を0.007以下とすることができる。条件(2)において、Alは必須ではないが、耐候性の向上、ガラスの分相性の抑制、熱膨張係数の低下等に効果を発揮する成分であり、その含有量は0~15%の範囲が好ましい。Bはガラスの溶解反応性の向上、失透温度の低下等に効果を発揮する成分であり、その含有量は9~30%の範囲が好ましい。
【0028】
条件(2)において、Al/(Al+B)で表されるモル比が0.45以下であると、ガラス基板2の低誘電損失性を高めることができる。Al/(Al+B)で表されるモル比は、0であってもよい。Al/(Al+B)で表されるモル比は0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。Al/(Al+B)で表されるモル比は0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。
【0029】
AlおよびBの合計含有量(Alの含有量が0の場合を含む)が1%以上であると、ガラスの溶解性等を高めることができる。AlおよびBの合計含有量は、3%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、7%以上が特に好ましい。また、AlおよびBの合計含有量(Alの含有量が0の場合を含む)が40%以下であると、ガラスの溶解性等を維持しつつ、ガラス基板2の低誘電損失性を高めることができる。AlおよびBの合計含有量は、37%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましく、33%以下が特に好ましい。
【0030】
Alの含有量が15%以下であれば、ガラスの溶解性等を良好にすることができる。Alの含有量は14%以下がより好ましい。Alの含有量は0.5%以上がより好ましい。Bの含有量が30%以下であれば、耐酸性や歪点を良好にすることができる。Bの含有量は28%以下がより好ましく、26%以下がさらに好ましく、24%以下が特に好ましく、23%以下が最も好ましい。また、Bの含有量が9%以上であれば、溶解性を向上させることができる。Bの含有量は13%以上がより好ましく、16%以上がさらに好ましい。
【0031】
条件(3)において、アルカリ土類金属酸化物としては、MgO、CaO、SrO、BaOが挙げられ、これらはいずれもガラスの溶解反応性を高める成分として機能する。このようなアルカリ土類金属酸化物の合計含有量が13%以下であれば、ガラス基板2の低誘電損失性を高めることができる。アルカリ土類金属酸化物の合計含有量は、11%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、8%以下が特に好ましく、6%以下が最も好ましい。また、アルカリ土類金属酸化物の合計含有量が0.1%以上であれば、ガラスの溶解性を良好に保つことができる。アルカリ土類金属酸化物の合計含有量は、3%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。
【0032】
MgOは必須成分ではないが、比重を上げずにヤング率を上げる成分である。つまり、MgOは、比弾性率を高くできる成分であり、それによりたわみの問題を軽減でき、破壊靱性値を向上させてガラス強度を上げることができる。また、MgOは溶解性も向上させる成分である。MgOは必須成分ではないが、MgOの含有量は0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましい。MgOの含有量が0.1%以上であれば、MgOを含有させる効果を十分得ることができ、かつ熱膨張係数が低くなりすぎるのを抑えることができる。MgOの含有量は13%以下が好ましく、11%以下がより好ましく、9%以下がさらに好ましい。MgOの含有量が13%以下であれば、失透温度の上昇を抑えることができる。
【0033】
CaOは、アルカリ土類金属中ではMgOに次いで比弾性率を高くし、かつ歪点を過大には低下させないという特徴を有し、MgOと同様に溶解性も向上させる成分である。さらに、MgOと比べて失透温度を高くしにくいという特徴も有する成分である。CaOは必須成分ではないが、CaOの含有量は0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましい。CaOが0.1%以上であれば、CaOを含有させる効果を十分に得ることができる。また、CaOの含有量は13%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましい。CaOの含有量が13%以下であれば、平均熱膨張係数が高くなりすぎず、かつ失透温度の上昇を抑えてガラスの製造時の失透を防ぐことができる。
【0034】
SrOは、ガラスの失透温度を上昇させず、溶解性を向上させる成分である。SrOは必須成分ではないが、SrOの含有量は0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1.0%以上がさらに好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましい。SrOの含有量が0.1%以上であれば、SrOを含有させる効果を十分に得ることができる。また、SrOの含有量は13%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。SrOの含有量が13%以下であれば、比重を大きくしすぎることなく、平均熱膨張係数が高くなりすぎるのも抑えることができる。
【0035】
BaOは必須成分ではないが、ガラスの失透温度を上昇させず、溶解性を向上させる成分である。しかし、BaOを多く含有すると比重が大きくなり、ヤング率が下がり、比誘電率が高くなり、平均熱膨張係数が大きくなりすぎる傾向がある。そのため、BaOの含有量は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0036】
なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。本発明において、BaOを実質的に含有しないとは、例えば0.3%以下である。
【0037】
上述したように、条件(1)に加えて、条件(2)または条件(3)を満足させることによって、ガラス基板2の35GHzにおける誘電正接を0.007以下とすることができ、ガラス基板2の誘電損失を低減することができる。ガラス基板2の低誘電損失性をさらに高めるために、ガラス基板2は条件(1)、条件(2)、および条件(3)の全てを満足することがより好ましい。
【0038】
ガラス基板2の構成成分のうち、主成分であるネットワーク形成物質としてのSiOの含有量は、40~75%の範囲が好ましい。SiOの含有量が40%以上であれば、ガラス形成能や耐候性を良好にすることができ、また失透を抑制することができる。SiOの含有量は45%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、55%以上が特に好ましい。また、SiOの含有量が75%以下であれば、ガラスの溶解性を良好にすることができる。SiOの含有量は74%以下がより好ましく、73%以下がさらに好ましく、72%以下が特に好ましい。
【0039】
ガラス基板2は、上記した各成分以外に任意成分として、Fe、TiO、ZrO、ZnO、Ta、WO、Y、La等を含んでいてもよい。Feは、ガラス基板2の光吸収性能、例えば赤外線吸収性能や紫外線吸収性能を制御する成分であり、必要に応じてFe換算でのFeの含有量として0.012%以下まで含有させることができる。上記したFeの含有量が0.012%以下であれば、ガラス基板2の低誘電損失性や紫外線透過率を維持することができる。紫外線透過率の向上のために、Feの含有量は0.01%以下がより好ましく、0.005%以下がさらに好ましい。ガラス基板2の紫外線透過率を高くすることによって、高周波デバイスの製造工程における積層工程等で紫外線硬化型材料を使用することができ、高周波デバイスの製造性を高めることができる。
【0040】
また、ガラス基板2は、必要に応じてFe換算でのFeの含有量として0.05%以上含有させることで、紫外線遮蔽能を高くすることができる。Feの含有量は0.07%以上がより好ましく、0.1%以上がさらに好ましい。ガラス基板2の紫外線遮蔽能を高くすることで、紫外線で劣化する樹脂を部材として用いる場合に、ガラス基板2に保護材としての機能を付与することができる。
【0041】
ガラス基板2の低誘電損失性をさらに向上させるにあたって、ガラス基板2のβ-OH値は0.05~0.6mm-1の範囲であることが好ましい。β-OH値はガラスの水分含有量の指標として用いられる値であり、ガラス試料の波長2.75~2.95μmの光に対する吸光度を測定し、その最大値βmaxを試料厚さ(mm)で割ることにより求められる値である。ガラス組成物のβ-OH値を0.6mm-1以下とすることによって、ガラス基板2の低誘電損失性をさらに向上させることができる。ガラス基板2のβ-OH値は0.5mm-1以下がより好ましく、0.4mm-1以下がさらに好ましい。また、ガラス基板2のβ-OH値が0.05mm-1以上であれば、極端な乾燥雰囲気での溶解や原料中の水分量を極端に減少させる必要がなく、ガラスの生産性や泡品質等を高めることができる。ガラス基板2のβ-OH値は0.1mm-1以上がより好ましく、0.2mm-1以上がさらに好ましい。
【0042】
ガラス基板2は、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物の含有量等にしたがって、電子デバイスに適した熱膨張係数を有している。具体的には、50~350℃における平均熱膨張係数が3~15ppm/℃の範囲である。このような熱膨張係数を有するガラス基板2によれば、高周波デバイスとして半導体パッケージ等を構成する際に、他部材との熱膨張係数差をより適切に調整することができる。例えば、高周波用途の2.5Dや3D(三次元)実装タイプのガラス貫通配線基板(TGV基板)を構成する際に、半導体チップ等の他部材との熱膨張係数差をより適切に調整することができる。
【0043】
さらに、ガラス基板2は40GPa以上のヤング率を有することが好ましい。このようなヤング率を有するガラス基板2によれば、高周波デバイスの製造工程(ウエハプロセス)時にガラス基板2を流動させる際の撓み量が例えば1mm以下に抑えられるため、高周波デバイスの製造不良の発生等を抑制することができる。ガラス基板2のヤング率は50GPa以上がより好ましく、55GPa以上がさらに好ましい。また、ガラス基板2の気孔率は0.1%以下であることが好ましい。これによって、高周波デバイスを作製した際のノイズ発生等を抑制することができる。ガラス基板2の気孔率は0.01%以下がより好ましく、0.001%以下がさらに好ましい。
【0044】
ガラス基板2の波長350nmの透過率は50%以上であることが好ましい。これによって、高周波デバイスの製造工程における積層工程等で紫外線硬化型材料を使用することができ、高周波デバイスの製造性を高めることができる。また、ガラス基板2の波長350nmの透過率は、デバイスの製造工程において紫外線硬化型材料に対する紫外線の照射時間を短くし、厚み方向の紫外線硬化型材料の硬化ムラを低減するために、70%以上であることがより好ましい。
【0045】
同様の理由で、ガラス基板2の波長300nmの透過率は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらにより好ましい。また、ガラス基板2の波長250nmの透過率は5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。
【0046】
ガラス基板2の波長350nmの透過率は80%以下であることが好ましい。これによって、紫外線で劣化する樹脂を部材として用いる場合に、ガラス基板2に紫外線遮蔽能をもたせて保護材としての機能を付与することが出来る。ガラス基板2の波長350nmの透過率は、60%以下がより好ましく、30%以下がさらにより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0047】
同様の理由で、ガラス基板2の波長300nmの透過率は80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、10%以下が最も好ましい。また、ガラス基板2の波長250mの透過率は60%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0048】
ガラス基板2の形状は、特に限定されるものではないが、その厚さは0.05~1mmの範囲であることが好ましく、ガラス基板2の一つの主表面の面積は225~10000cmであることが好ましい。ガラス基板2の厚さが1mm以下であるとき、高周波デバイスの薄型化や小型化、さらに生産効率の向上等をはかることができる。また、紫外線透過率を上げることができ、デバイスの製造工程で紫外線硬化材料を使用して製造性を高めることができる。ガラス基板2の厚さは0.5mm以下がより好ましい。また、ガラス基板2の厚さが0.05mm以上であれば、ガラス基板2の流動時における強度等を維持することができる。また、紫外線遮蔽能を高くすることができ、紫外線で劣化する樹脂を保護することが可能となる。ガラス基板2の厚さは0.1mm以上がより好ましく、0.2mm超がさらに好ましい。さらに、実施形態のガラス基板2によれば、上記した厚さで面積が10000cmの基板サイズを提供することができ、パネルサイズの大型化等に対応することができる。ガラス基板2の面積は3600cm以下がより好ましい。
【0049】
ガラス基板2の失透温度は、1400℃以下であることが好ましい。失透温度が1400℃以下であると、ガラスを成形する際に、成形設備の部材温度を低くすることができ、部材寿命を延ばすことができる。失透温度は1350℃以下がより好ましく、1330℃以下がさらに好ましく、1300℃以下が特に好ましい。ガラスの失透温度とは、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の試料の光学顕微鏡観察によって、ガラスの表面および内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との平均値である。
【0050】
次に、実施形態のガラス基板の製造方法について説明する。実施形態のガラス基板を製造する場合、ガラス原料を加熱して溶融ガラスを得る溶解工程、溶融ガラスから泡を除く清澄工程、溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る成形工程、およびガラスリボンを室温状態まで徐冷する徐冷工程を経る。あるいは、溶融ガラスをブロック状に成形し、徐冷した後、切断、研磨を経てガラス基板を製造する方法でも良い。
【0051】
溶解工程は、目標とするガラス基板の組成となるように原料を調製し、原料を溶解炉に連続的に投入し、好ましくは1450℃~1750℃程度に加熱して溶融ガラスを得る。
【0052】
原料には酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、塩化物等のハロゲン化物等も使用できる。溶解や清澄工程で溶融ガラスが白金と接触する工程がある場合、微小な白金粒子が溶融ガラス中に溶出し、得られるガラス基板中に異物として混入してしまう場合があるが、硝酸塩原料の使用は白金異物の生成を防止する効果がある。
【0053】
硝酸塩としては、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム等を使用できる。硝酸ストロンチウムを使用することがより好ましい。原料粒度も溶け残りが生じない程度の数百ミクロンの大きな粒径の原料から、原料搬送時の飛散が生じない、二次粒子として凝集しない程度の数ミクロン程度の小さな粒径の原料まで、適宜使用できる。造粒体の使用も可能である。原料の飛散を防ぐために原料含水量も適宜調整可能である。β-OH、Feの酸化還元度(レドックス[Fe2+/(Fe2++Fe3+)])等の溶解条件も適宜調整して使用できる。
【0054】
次の清澄工程は、上記溶解工程で得られた溶融ガラスから泡を除く工程である。清澄工程としては、減圧による脱泡法を適用しても良く、原料の溶解温度より高温とすることで脱泡しても良い。また、実施形態におけるガラス基板の製造工程においては、清澄剤としてSOやSnOを用いることができる。SO源としては、Al、Na、K、Mg、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素の硫酸塩が好ましく、アルカリ土類金属の硫酸塩がより好ましく、中でも、CaSO・2HO、SrSO、およびBaSOが、泡を大きくする作用が著しく、特に好ましい。
【0055】
減圧による脱泡法における清澄剤としては、ClまたはF等のハロゲンを使用するのが好ましい。Cl源としては、Al、Mg、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素の塩化物が好ましく、アルカリ土類金属の塩化物がより好ましく、中でも、SrCl・6HO、およびBaCl・2HOが、泡を大きくする作用が著しく、かつ潮解性が小さいため、特に好ましい。F源としては、Al、Na、K、Mg、Ca、Sr、およびBaから選ばれた少なくとも1つの元素のフッ化物が好ましく、アルカリ土類金属のフッ化物がより好ましく、中でも、CaFがガラス原料の溶解性を大きくする作用が著しく、より好ましい。
【0056】
SnOに代表されるスズ化合物は、ガラス融液中でOガスを発生する。ガラス融液中では、1450℃以上の温度でSnOからSnOに還元され、Oガスを発生し、泡を大きく成長させる作用を有する。実施形態のガラス基板2の製造時においては、ガラス原料を1450~1750℃程度に加熱して溶融するため、ガラス融液中の泡がより効果的に大きくなる。SnOを清澄剤として用いる場合、原料中のスズ化合物は、前記母組成の総量100%に対してSnO換算で、0.01%以上含まれるように調製する。SnO含有量が0.01%以上だと、ガラス原料の溶解時における清澄作用が得られ、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.10%以上である。SnO含有量が0.3%以下であれば、ガラスの着色や失透の発生が抑えられる。無アルカリガラス中のスズ化合物の含有量は、前記母組成の総量100%に対してSnO換算で0.25%以下がより好ましく、0.2%以下がさらに好ましく、0.15%以下が特に好ましい。
【0057】
次の成形工程は、上記清澄工程で泡を除いた溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る工程である。成形工程としては、溶融ガラスをスズ等の溶融金属上に流して板状にしてガラスリボンを得るフロート法、溶融ガラスを樋状の部材から下方に流下させるオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)、スリットから流下させるスリットダウンドロー法等、公知のガラスを板状に成形する方法を適用することができる。
【0058】
次に、徐冷工程は、上記成形工程で得られたガラスリボンを室温状態まで制御された冷却条件にて冷却する工程である。徐冷工程としては、ガラスリボンを、粘度が徐冷点から歪点となる温度になるまでの平均冷却速度がRとなるように冷却し、さらに室温状態まで所定の条件で徐冷する。徐冷したガラスリボンを切断後、ガラス基板を得る。
【0059】
徐冷工程における冷却速度Rが大きすぎると冷却後のガラスに歪が残りやすくなる。また、仮想温度を反映するパラメータである等価冷却速度が高くなりすぎ、その結果低誘電損失特性を得られなくなってしまう。そのため、等価冷却速度が800℃/分以下となるようにRを設定することが好ましい。等価冷却速度は400℃/分以下がより好ましく、100℃/分以下がさらに好ましく、50℃/分以下が特に好ましい。一方、冷却速度が小さすぎると、工程の所要時間が長くなりすぎて、生産性が低くなるという問題がある。そのため、0.1℃/以上となるように設定することが好ましく、0.5℃/分以上がより好ましく、1℃/分以上がさらに好ましい。
【0060】
ここで、等価冷却速度の定義ならびに評価方法は以下のとおりである。10mm×10mm×0.3~2.0mmの直方体に加工する、対象とする組成のガラスを、赤外線加熱式電気炉を用い、歪点+170℃にて5分間保持し、その後、ガラスを室温(25℃)まで冷却する。このとき、冷却速度を1℃/分から1000℃/分の範囲で振った複数のガラスサンプルを作製する。
【0061】
精密屈折率測定装置(例えば島津デバイス社製KPR2000)を用いて、複数のガラスサンプルのd線(波長587.6nm)の屈折率nを測定する。測定には、Vブロック法や最小偏角法を用いてもよい。得られたnを、前記冷却速度の対数に対してプロットすることにより、前記冷却速度に対するnの検量線を得る。
【0062】
次に、実際に溶解、成形、冷却等の工程を経て製造された同一組成のガラスのnを、上記測定方法により測定する。得られたnに対応する対応冷却速度(本実施形態において等価冷却速度という)を、前記検量線より求める。
【0063】
本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良等は本発明に含まれる。例えば、本発明のガラス基板を製造する場合、溶融ガラスを直接板状に成形するプレス成形法にてガラスを板状にしてもよい。
【0064】
また、本発明のガラス基板を製造する場合、耐火物製の溶解槽を使用する製造方法に加えて、白金または白金を主成分とする合金製の坩堝(以下、白金坩堝と呼ぶ)を溶解槽または清澄槽に用いてもよい。白金坩堝を用いた場合、溶解工程は、得られるガラス基板の組成となるように原料を調製し、原料を入れた白金坩堝を電気炉にて加熱し、好ましくは1450℃~1700℃程度に加熱する。白金スターラーを挿入し1時間~3時間撹拌して溶融ガラスを得る。
【0065】
白金坩堝を用いたガラス板の製造工程における成形工程では、溶融ガラスを例えばカーボン板上や型枠中に流し出し、板状またはブロック状にする。徐冷工程は、典型的にはTg+50℃程度の温度に保持した後、歪点付近まで1~10℃/分程度で冷却し、その後は室温状態まで、歪が残らない程度の冷却速度にて冷却する。所定の形状への切断および研磨の後、ガラス基板を得る。また、切断して得られたガラス基板を、例えばTg+50℃程度となるように加熱した後、室温状態まで所定の冷却速度で徐冷してもよい。このようにすることで、ガラスの等価冷却温度を調節することができる。
【0066】
上述した実施形態のガラス基板2を用いた回路基板1は、高周波信号、特に30GHzを超える高周波信号、さらには35GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに好適であり、そのような高周波信号の伝送損失を低減して高周波信号の質や強度等の特性を向上させることができる。実施形態のガラス基板2および回路基板1は、例えば携帯電話機、スマートフォン、携帯情報端末、Wi-Fi機器のような通信機器に用いられる半導体デバイスのような高周波デバイス(電子デバイス)、弾性表面波(SAW)デバイス、レーダ送受信機のようなレーダ部品、液晶アンテナのようなアンテナ部品等に好適である。
【実施例
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、例1~3、7~25が実施例であり、例4~6が比較例である。
【0068】
[例1~3、7~25]
【0069】
表1~4に示す組成を有し、厚さが0.125mm、形状が50×50mm、主表面の算術平均粗さRaが1.0nmのガラス基板を用意した。ガラス基板は、白金坩堝を用いた溶融法にて作製した。ガラスとして1kgとなるように珪砂等の原料を混合し、バッチを調合した。該目標組成の原料100%に対し、酸化物基準の質量百分率表示で、硫酸塩をSO換算で0.1%~1%、Fを0.16%、Clを1%添加した。原料を白金坩堝に入れ、電気炉中にて1650℃の温度で3時間加熱して溶融し、溶融ガラスとした。溶融にあたっては、白金坩堝に白金スターラーを挿入して1時間撹拌し、ガラスの均質化を行った。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、板状に成形した後、板状のガラスをTg+50℃程度の温度の電気炉に入れ、1時間保持した後、冷却速度1℃/分でTg-100℃まで電気炉を降温させ、その後ガラスが室温になるまで放冷した。その後、切断、研磨加工によりガラスを板状に成形した。
【0070】
例1~3、7~25のガラス基板について、50~350℃における平均熱膨張係数、β-OH値、ヤング率、気孔率、波長350nmの透過率、密度、比弾性率、失透温度を表5~8に示す。なお、表中の括弧書きした値は、計算により求めたものである。また、35GHzにおける誘電正接、35GHzにおける比誘電率、配線幅、35GHzにおける伝送損失、110GHzにおける伝送損失を表9~12に示す。図1に示したように、ガラス基板の第1の主表面に信号配線として厚さ0.125mmの銅配線層を形成し、また第2の主表面にグランド線としてベタ膜状の厚さ0.125mmの銅層を形成した。このようにして作製した回路基板を、後述する特性評価に供した。
【0071】
[例4]
【0072】
表1に示す組成を有し、厚さが0.125mm、形状が50×50mm、主表面の算術平均粗さRaが1.0nmの、フロート法にて製造されたソーダライムガラス基板を用意した。例4のガラス基板の特性を例1と同様に表5および表9に示す。このようなガラス基板の両主表面に例1と同様に、厚さ0.125mmの銅配線層および厚さ0.125mmの銅層を形成し、後述する特性評価に供した。
【0073】
[例5]
【0074】
表1に示す組成を有し、厚さが0.125mm、形状が50×50mm、主表面の算術平均粗さRaが1.0nmの、フロート法にて製造された無アルカリガラス基板を用意した。例5のガラス基板の特性を例1と同様に表5および表9に示す。このようなガラス基板の両主表面に例1と同様に、厚さ0.125mmの銅配線層および厚さ0.125mmの銅層を形成し、後述する特性評価に供した。
【0075】
[例6]
【0076】
表1に示す組成を有し、厚さが0.125mm、形状が50×50mm、主表面の算術平均粗さRaが1.0nmの、気相合成法にて製造された石英ガラス基板を用意した。なお、表1における組成において、(0.0)は、成分含有量が0.05%未満であることを示す。例6のガラス基板の特性を例1と同様に表5および表9に示す。このようなガラス基板の両主表面に例1と同様に、厚さ0.125mmの銅配線層および厚さ0.125mmの銅層を形成し、後述する特性評価に供した。
【0077】
以下に各物性の測定方法を示す。
(比誘電率、誘電正接)
JIS R1641(2007年)に規定されている方法に従い、空洞共振器およびベクトルネットワークアナライザを用いて測定した。測定周波数は空洞共振器の空気の共振周波数である35GHzである。
(平均熱膨張係数)
JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計を用いて測定した。測定温度範囲は50~350℃で、単位をppm/℃として表した。
(ヤング率)
JIS Z 2280に規定されている方法に従い、厚さ0.5~10mmのガラスについて、超音波パルス法により測定した。単位をGPaとして表した。
(透過率)
可視紫外分光光度計を用いて、所定の厚みの鏡面研磨されたガラスの透過率を測定した。透過率は、反射による損失を含んだ外部透過率として表した。
(気孔率)
ガラス基板中に含まれる気泡を光学顕微鏡により観察し、気泡の個数ならびに直径を求めて、単位体積当たりに含まれる気泡の体積を計算することにより求めた。
(β-OH)
上記実施形態に記載の方法で求めた。
(Ra)
JIS B0601(2001年)に規定されている方法に従い、AFMにより10μm□領域でのガラス表面の平均粗さを測定した。
(密度)
泡を含まない約20gのガラス塊の密度をアルキメデス法によって測定した。
(失透温度)
白金製皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の試料の光学顕微鏡観察によって、ガラスの内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との平均値とした。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
【0086】
(伝送損失の計算例)
例1~6のガラス基板材料の誘電特性による高周波信号の伝送損失の影響を確認するため、単純化したモデルでの伝送線路の伝送損失の計算を行った。解析手法としては、市販のモーメント法シミュレータSonnet Lite(R)(ソネットソフトウェアインク製)を用いた。伝送線路は、マイクロストリップ線路(MSL)とした。解析モデルは、以下の通りである。ガラス基板の一方の主表面に形成された銅配線層を、線路の特性インピーダンスが50Ωになる幅(表9~12に示す)に規定し、1GHz~110GHzでのSパラメータ(散乱パラメータS21)を計算した。銅層の表面粗度は、表皮効果が問題とならないほど十分に平滑であると設定した。計算したS21(透過特性)を図2に示す。また、35GHzおよび110GHzで信号伝送損失の値は表9~12に示した。
【0087】
【表9】
【0088】
【表10】
【0089】
【表11】
【0090】
【表12】
【0091】
図2および表9~12に示すように、例1~3、7~25のガラス基板を用いた回路基板によれば、例4の従来のソーダライムガラス基板や例5の従来の無アルカリガラス基板を用いた回路基板に比べて、高周波領域での伝送特性を向上させることができ、例6の従来の石英ガラス基板を用いた回路基板に近い高周波領域での低伝送損失特性を得ることができる。例6の石英ガラス基板は、熱膨張係数が0.7ppm/℃と小さいため、それを用いて電子デバイスを構成する際に、他部材との熱膨張係数差が大きくなり、実用的な電子デバイスを提供することができない。なお、例5に示すように、従来の無アルカリガラス基板は、無アルカリといってもアルカリ成分を0.05~0.1%程度含んでいる。
【0092】
紫外線透過率の例として、例21のガラスについて、Feの含有量を変化させた際の板厚0.5mm、1.0mmにおける波長250、300、350nmの透過率の値を測定した。測定結果を表13に示す。透過率は可視紫外分光光度計により測定した。これから、ガラスの板厚、Fe含有量を調整することによって、ガラスの紫外線透過率を所望の値に調整することが可能であることが分かる。
【0093】
【表13】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の高周波デバイス用ガラス基板は、高周波信号の誘電損失性に優れている。また、そのようなガラス基板を用いた回路基板は、高周波信号の伝送損失性に優れている。このようなガラス基板および回路基板は、10GHzを超えるような高周波信号、特に30GHzを超える高周波信号、さらには35GHz以上の高周波信号を扱う高周波電子デバイス全般、例えば通信機器のガラス基板、SAWデバイスおよびFBAR等の周波数フィルター部品、導波管等のバンドパスフィルターやSIW(Substrate Integrated waveguide)部品、レーダ部品、アンテナ部品(特に衛星通信に最適とされる液晶アンテナ)等に有用である。
【符号の説明】
【0095】
1…回路基板、2…ガラス基板、2a,2b…主表面、3,4…配線層。
図1
図2