(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】水処理分離膜の製造方法およびこれにより製造された水処理分離膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/56 20060101AFI20220809BHJP
B01D 67/00 20060101ALI20220809BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D67/00
C02F1/44 A
(21)【出願番号】P 2020519255
(86)(22)【出願日】2019-01-18
(86)【国際出願番号】 KR2019000764
(87)【国際公開番号】W WO2019143182
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2018-0006486
(32)【優先日】2018-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン、ヘリム
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ダンビ
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ウン ウー
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ヒュンジュン
(72)【発明者】
【氏名】シン、チョン キュ
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、ラクウォン
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107138052(CN,A)
【文献】特開2007-268530(JP,A)
【文献】特開2001-259388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22、61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理分離膜のポリアミド活性層に遊離塩素および臭素イオンを含む水溶液を接触させるステップを含み、
前記水溶液を基準として、前記遊離塩素の含有量は150ppm~400ppmであり、前記臭素イオンの含有量は150ppm~400ppmであり、
水処理分離膜の表面の元素分析時、臭素元素の含有量が0.88at%以上4.7at%以下であり、塩素元素が検出されないか、塩素元素が検出される場合、塩素元素の含有量が0at%超過1at%以下であり、塩素元素に対する臭素元素の比(Br/Cl)が5~10である、水処理分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記遊離塩素および臭素イオンを含む水溶液のpHは4~11である、請求項1に記載の水処理分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記遊離塩素および臭素イオンを含む水溶液のpHは4~6である、請求項1に記載の水処理分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記遊離塩素および臭素イオンを含む水溶液のpHは9~11である、請求項1に記載の水処理分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記ポリアミド活性層に前記遊離塩素および臭素イオンを含む水溶液を接触させるステップは、5秒~5分間行われるものである、請求項1から4のいずれか一項に記載の水処理分離膜の製造方法。
【請求項6】
水処理分離膜の表面の元素分析時、臭素元素の含有量が0.88at%以上4.7at%以下である水処理分離膜であって、
前記水処理分離膜は、ポリアミド活性層を備え、
前記水処理分離膜の表面の元素分析時、塩素元素が検出されないか、塩素元素が検出される場合、塩素元素の含有量が0at%超過1at%以下であり、塩素元素に対する臭素元素の比(Br/Cl)が5~10である水処理分離膜。
【請求項7】
水処理分離膜の表面の元素分析時、臭素元素の含有量が0.88at%以上4.7at%以下であり、塩素元素の含有量が0.5at%以上0.6at%以下であり、塩素元素に対する臭素元素の比(Br/Cl)が6.3~9.4である、請求項6に記載の水処理分離膜。
【請求項8】
水処理分離膜の表面の元素分析時、臭素元素の含有量が0.88at%以上4.7at%以下であり、塩素元素が検出されない、請求項6に記載の水処理分離膜。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか一項に記載の水処理分離膜を1つ以上含む水処理モジュール。
【請求項10】
請求項9に記載の水処理モジュールを1つ以上含む水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年1月18日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2018-0006486号の出願日の利益を主張し、その内容のすべては本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書は、水処理分離膜の製造方法、これにより製造された水処理分離膜、水処理分離膜を含む水処理モジュールおよび水処理モジュールを含む水処理装置に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、水質環境の深刻な汚染と水不足により、新たな水資源供給源を開発することが当面の課題として浮上している。水質環境汚染に関する研究は、良質の生活および工業用水、各種生活排水および産業廃水の処理を目指しており、省エネの利点を有する分離膜を用いた水処理工程に対する関心が高まっている。また、加速化している環境規制の強化は分離膜技術の活性化を早めることが予想される。伝統的な水処理工程では強化される規制に符合し難いが、分離膜技術の場合、優れた処理効率と安定した処理を保証するため、今後の水処理分野の主導的な技術として位置づけると予想される。
【0004】
液体分離は、膜の気孔によって、精密濾過(Micro Filtration)、限外濾過(Ultra Filtration)、ナノ濾過(Nano Filtration)、逆浸透(Reverse Osmosis)、浸析、能動輸送および電気透析などに分類される。そのうち、逆浸透方法は、水は透過するが、塩に対しては不透過性を示す半透膜を用いて脱塩作業をする工程をいうもので、塩の溶けている高圧水が半透膜の一方の面に流入する時、塩の除去された純水が低い圧力で他方の面に出る。
【0005】
具体的には、このような水処理分離膜の代表例としては、ポリアミド系水処理分離膜が挙げられ、塩除去率や透過流量を高めることに関する研究が行われ続けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書は、水処理分離膜の製造方法、これにより製造された水処理分離膜、水処理分離膜を含む水処理モジュールおよび水処理モジュールを含む水処理装置を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書の一実施態様は、ポリアミド活性層に遊離塩素およびハロゲンイオンを含む水溶液を接触させるステップを含み、前記水溶液を基準として、前記遊離塩素の含有量は150ppm~400ppmであり、前記ハロゲンイオンの含有量は150ppm~400ppmである水処理分離膜の製造方法を提供する。
【0008】
また、本明細書の一実施態様は、前述した水処理分離膜の製造方法により製造された水処理分離膜を提供する。
【0009】
本明細書の一実施態様は、前述した水処理分離膜を1つ以上含む水処理モジュールを提供する。
【0010】
また、本明細書の一実施態様は、前述した水処理モジュールを1つ以上含む水処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本明細書の一実施態様に係る水処理分離膜は、ポリアミド活性層の表面に遊離塩素およびハロゲン元素を導入することにより、水処理分離膜の塩除去率、ボロン除去率および/または透過流量の向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本明細書の一実施態様に係る水処理分離膜を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本明細書についてより詳細に説明する。
【0014】
本明細書において、ある部材が他の部材の「上に」位置しているとする時、これは、ある部材が他の部材に接している場合のみならず、2つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合も含む。
【0015】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0016】
本明細書において、at%は、元素の含有量比であって、当業界で使用されるatomic%を意味する。
【0017】
本明細書の一実施態様は、ポリアミド活性層に遊離塩素およびハロゲンイオンを含む水溶液を接触させるステップを含み、前記水溶液を基準として、前記遊離塩素の含有量は150ppm~400ppmであり、前記ハロゲンイオンの含有量は150ppm~400ppmである水処理分離膜の製造方法を提供する。
【0018】
水処理分離膜は、支持層と活性層とから構成されており、なかでも、逆浸透膜は、逆浸透現象を利用して溶媒と溶質とを分離する膜である。水処理分離膜の透過流量と塩除去率は、分離膜の性能を示す重要な指標として用いられ、このような性能は、界面重合法によって生成されたポリアミド構造の活性層によって大きな影響を受ける。
【0019】
これによって、本発明者らは、水処理分離膜内の活性層上に、遊離塩素およびハロゲン元素を導入して、分離膜の塩除去率およびボロン除去率を上昇させるか、塩除去率は維持しながら透過流量を向上させた水処理分離膜を製造した。
【0020】
本明細書の一実施態様によれば、前記遊離塩素は、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、およびこれらのイオンなどに由来するものであってもよいし、遊離塩素を生成できる物質に由来するものであれば制限なく使用可能である。
【0021】
本明細書の一実施態様によれば、前記ハロゲンイオンは、塩素(Cl)を除いた周期律表の17族元素に由来するイオンを意味することができる。すなわち、塩素イオンを除いた残りの17族元素のイオンであってもよい。
【0022】
本明細書の一実施態様によれば、前記ハロゲンイオンは、臭素イオン、ヨウ素イオン、およびフッ素イオンのうちの1つ以上を含むものであってもよい。
【0023】
本明細書の一実施態様によれば、前記ハロゲンイオンは、臭素イオンであることが好ましい。特に、遊離塩素と臭素イオンとを含む水溶液を用いる場合、ヨウ素のみ含む水溶液を用いるか、遊離塩素とヨウ素イオンのみを含む水溶液で処理するよりも、水処理分離膜の塩除去率およびボロン除去率を向上させることができる。
【0024】
本明細書の一実施態様によれば、前記臭素は、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化アンモニウム、臭化リチウム、臭化ゲルマニウム、臭化コバルト、臭化ストロンチウム、臭化セシウム、臭化タングステン、臭化第二銅(Copper(II) bromide)、臭化バリウム、および/または臭化水素に由来するものであってもよい。
【0025】
本明細書の一実施態様によれば、前記遊離塩素の含有量は、前記水溶液を基準として150ppm~400ppmであってもよい。前記遊離塩素の含有量が前記範囲を満足する場合、水処理分離膜のボロン除去率を増加させることができる。
【0026】
本明細書の一実施態様によれば、前記ハロゲンイオンの含有量は、水溶液を基準として150ppm~400ppmであってもよい。前記ハロゲンイオンの含有量が前記範囲を満足する場合、水処理分離膜の塩除去率およびボロン除去率を向上させることができる。
【0027】
本明細書の一実施態様によれば、前記遊離塩素およびハロゲンイオンを含む水溶液のpHは4~11であってもよい。水溶液のpHに応じて、遊離塩素およびハロゲンイオンの濃度を調節して、水処理分離膜の塩除去率、ボロン除去率、および/または透過流量の特性を所望の目的で製造することができる。本明細書の一実施態様によれば、前記ポリアミド活性層に前記遊離塩素およびハロゲンイオンを含む水溶液を接触させるステップは、5秒~5分間行われるものであってもよいし、好ましくは10秒~1分間、さらに好ましくは15秒~30秒間行われる。前記接触時間が5秒未満の場合、ポリアミド活性層に遊離塩素とハロゲンイオンの影響がわずかになり、5分超過の場合、ポリアミド活性層に滞留する時間が長くなって膜が汚染しうる。
【0028】
本明細書の一実施態様によれば、前記接触の方法としては、浸漬、噴霧、塗布、または滴下などが選択可能であり、好ましくは、浸漬が選択される。
【0029】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の製造方法は、多孔性支持体上にポリアミド活性層を備えるステップをさらに含んでもよい。
【0030】
本明細書の一実施態様によれば、前記多孔性支持体としては、不織布上に高分子材料のコーティング層が形成されたものを使用することができる。前記高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンオキシド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリメチルクロライド、ポリビニリデンフルオライド、およびこれらの混合物からなる群より選択される1種以上が使用できるが、必ずしもこれらに制限されることはない。具体的には、前記高分子材料としてポリスルホンを使用することができる。
【0031】
本明細書の一実施態様によれば、前記ポリアミド活性層は、芳香族アミン化合物を含む水溶液と多官能性アシルハライド化合物を含む有機溶液との界面重合により形成される。具体的には、前記芳香族アミン化合物を含む水溶液層と前記有機溶液との接触時、前記多孔性支持体の表面にコーティングされた芳香族アミン化合物と多官能性アシルハライド化合物とが反応しながら界面重合によってポリアミドを生成し、多孔性支持体に吸着されて薄膜が形成される。前記接触方法において、浸漬、スプレー、またはコーティングなどの方法によりポリアミド活性層を形成することもできる。
【0032】
本明細書の一実施態様によれば、多孔性支持体を用意し、多孔性支持体上にポリアミド活性層を形成するステップ、すなわち、芳香族アミン化合物および添加剤を含む水溶液を多孔性支持体上に塗布する前に、TEACSA(triethylammonium camphorsulfonate)のような添加剤をさらに塗布するステップを含むことができる。
【0033】
本明細書の一実施態様によれば、前記芳香族アミン化合物は、水処理分離膜の製造に使用される芳香族アミン化合物であればその種類を制限しないが、具体例を挙げると、m-フェニレンジアミン(mPD)、p-フェニレンジアミン、1,2,4-ベンゼントリアミン、4-クロロ-1,3-フェニレンジアミン、2-クロロ-1,4-フェニレンジアミン、およびこれらの混合物からなる群より選択される1種以上であってもよい。具体的には、m-フェニレンジアミン(mPD)が好ましい。
【0034】
本明細書の一実施態様によれば、前記芳香族アミン化合物を含む水溶液の全重量を基準として、前記芳香族アミン化合物の含有量は0.1wt%~15wt%であってもよい。好ましくは0.1wt%~10wt%であってもよい。前記芳香族アミン化合物の含有量が前記範囲を満足する場合、水処理分離膜活性層の形成時、多官能性アシルハライド化合物を含む有機溶液との反応が円滑に行われ、芳香族アミン化合物が水溶液に安定して溶解できる。
【0035】
本明細書の一実施態様によれば、前記芳香族アミン化合物を含む水溶液は、界面活性剤をさらに含んでもよい。
【0036】
本明細書の一実施態様において、前記界面活性剤は、非イオン性、陽イオン性、陰イオン性、および両性界面活性剤の中から選択できる。本明細書の一実施態様によれば、前記界面活性剤は、ソジウムラウリルスルフェート(SLS);アルキルエーテルスルフェート類;アルキルスルフェート類;オレフィンスルホネート類;アルキルエーテルカルボキシレート類;スルホスクシネート類;芳香族スルホネート類;オクチルフェノールエトキシレート類;エトキシ化ノニルフェノール類;アルキルポリ(エチレンオキシド);ポリ(エチレンオキシド)およびポリ(プロピレンオキシド)の共重合体;オクチルグルコシドおよびデシルマルトシドなどのアルキルポリグルコシド類;セチルアルコール、オレイルアルコール、コカミドMEA、コカミドDEA、アルキルヒドロキシエチルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、およびヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライドなどの脂肪酸アルコール類;およびアルキルベタイン類の中から選択されるものであってもよい。具体的には、前記界面活性剤は、SLS、オクチルフェノールエトキシレート類、またはエトキシ化ノニルフェノール類であってもよい。
【0037】
本明細書の一実施態様によれば、前記界面活性剤の含有量は、前記芳香族アミン化合物を含む水溶液の総重量を基準として0.005wt%~0.5wt%であってもよい。
【0038】
本明細書の一実施態様によれば、前記芳香族アミン化合物を含む水溶液層を形成するステップは特に限定せず、多孔性支持体上に水溶液層を形成できる方法であれば制限なく使用可能である。具体的には、前記多孔性支持体上に芳香族アミン化合物を含む水溶液層を形成する方法は、噴霧、塗布、浸漬、滴下などが挙げられる。
【0039】
本明細書の一実施態様によれば、前記水溶液層は、必要に応じて、過剰の芳香族アミン化合物を含む水溶液を除去するステップを追加的に経ることができる。前記多孔性支持体上に形成された水溶液層は、支持体上に存在する水溶液が多すぎる場合には不均一に分布しうるが、水溶液が不均一に分布する場合には、後の界面重合によって不均一な活性層が形成される。したがって、前記支持体上に水溶液層を形成した後に過剰の水溶液を除去することが好ましい。前記過剰の水溶液の除去は特に制限されないが、例えば、スポンジ、エアナイフ、窒素ガスブローイング、自然乾燥、または圧縮ロールなどを用いて行うことができる。
【0040】
本明細書の一実施態様によれば、前記多官能性アシルハライド化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、2個~3個のカルボン酸ハライドを有する芳香族化合物であって、トリメソイルクロライド(TMC)、イソフタロイルクロライド、テレフタロイルクロライド、およびこれらの混合物からなる群より選択される1種以上の混合物であってもよい。
【0041】
本明細書の一実施態様によれば、前記多官能性アシルハライド化合物の含有量は、多官能性アシルハライド化合物を含む有機溶液の総重量を基準として0.1wt%~0.5wt%であってもよい。前記多官能性アシルハライド化合物の含有量が前記範囲を満足する場合、最終的に製造された分離膜の塩除去率および透過流量が減少する現象を防止できる効果がある。
【0042】
本明細書の一実施態様によれば、前記有機溶媒は、界面重合反応に参加しないことが好ましく、脂肪族炭化水素溶媒、例えば、フレオン類と炭素数が5~12のアルカンおよびアルカン混合物質であるイソパラフィン系溶媒の中から選択された1種以上を含むことができる。具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、IsoPar(Exxon)、IsoPar G(Exxon)、ISOL-C(SK Chem)、およびISOL-G(Exxon)などが使用できるが、これに制限されることはない。
【0043】
本明細書の一実施態様によれば、前記有機溶媒は、有機溶液の総重量を基準として99.5wt%~99.9wt%含むことができる。前記有機溶媒が前記範囲を満足する場合、最終的に製造された分離膜の塩除去率および透過流量が減少する現象を防止できる効果がある。
【0044】
本明細書の一実施態様は、前述した水処理分離膜の製造方法により製造された水処理分離膜を提供する。
【0045】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の表面は、臭素元素を含むことができる。
【0046】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の表面は、塩素元素を含むことができる。
【0047】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の表面は、臭素元素は含むが、塩素元素は含まなくてもよい。
【0048】
本明細書において、元素分析は、電子分光化学分析法(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis、ESCA)により行われる。具体的には、X線光電子分光法(X-Ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)を使用することができる。
【0049】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の表面の元素分析時、臭素元素の含有量は0at%超過5at%以下であってもよい。具体的には、0.88at%以上4.7at%以下であってもよい。
【0050】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の表面の元素分析時、塩素元素の含有量は0at%超過1at%以下であってもよい。具体的には、0.5at%以上0.6at%以下であってもよい。
【0051】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の表面は、塩素元素を含まなくてもよい。
【0052】
本明細書の一実施態様によれば、遊離塩素と臭素イオンとを含む水溶液のpHに応じた遊離塩素の反応性の差によって、前記水処理分離膜の表面の元素分析時に塩素元素が検出されなくてもよい。
【0053】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の表面の元素分析時に塩素元素と臭素元素が検出される場合、塩素元素に対する臭素元素の比(Br/Cl)が5~10であってもよい。前記塩素元素に対する臭素元素の比が5未満の場合、活性層の表面に遊離塩素および臭素イオンが影響を及ぼすことができず、塩素元素に対する臭素元素の比が10超過の場合、活性層の表面に不均一な膜が形成されて透過流量の減少が発生することがある。
【0054】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の表面の元素分析時、塩素元素の含有量が0at%超過1at%以下の場合、塩素元素に対する臭素元素の比(Br/Cl)が5~10であってもよい。
【0055】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の表面の元素分析時、塩素元素の含有量が0at%超過1at%以下であり、臭素元素の含有量は0at%超過5at%以下の場合、塩素元素に対する臭素元素の比(Br/Cl)が5~10であってもよい。
【0056】
本明細書の一実施態様によれば、前記塩素元素に対する臭素元素の比(Br/Cl)は、具体的には6~10であってもよく、さらに好ましくは6.3~9.4であってもよい。
【0057】
本明細書の一実施態様によれば、前記ポリアミド活性層に遊離塩素およびハロゲンイオンを含む水溶液を接触するステップの後、保護層組成物をさらに塗布して保護層を形成するステップをさらに含んでもよい。前記保護層組成物は、水処理分離膜の透過流量を増加させるために、親水性物質を含むことができるが、水処理分離膜の透過流量または耐久性を増加させるためのものであれば制限なく使用可能である。
【0058】
図1は、本明細書の一実施態様に係る水処理分離膜を示すものである。具体的には、
図1は、不織布100、多孔性支持体200、およびポリアミド活性層300が順次に備えられた水処理分離膜を示すものであって、ポリアミド活性層300に塩水400が流入して、精製水500が不織布100を通して排出され、濃縮水600はポリアミド活性層300を通過せずに外部に排出される。ただし、本明細書の一実施態様に係る水処理分離膜は
図1の構造に限定されず、追加の構成がさらに含まれていてもよい。
【0059】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜の厚さは100μm以上250μm以下であってもよく、前記水処理分離膜の厚さが100μm以上の場合には、分離膜の透過流量および塩除去率が減少する現象を防止できる効果があり、250μm以下の場合には、分離膜の塩除去率が減少する現象を防止できる効果がある。
【0060】
本明細書の一実施態様によれば、前記多孔性支持体の厚さは60μm~150μmであってもよいが、これに限定されるものではなく、必要に応じて調節可能である。また、前記多孔性支持体の気孔サイズは1nm~500nmであることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0061】
本明細書の一実施態様によれば、前記水処理分離膜は、精密濾過膜(Micro Filtration)、限外濾過膜(Ultra Filtration)、ナノ濾過膜(Nano Filtration)、または逆浸透膜(Reverse Osmosis)などに利用可能であり、具体的には、逆浸透膜に利用される。
【0062】
本明細書のもう一つの実施態様は、前述した水処理分離膜を1つ以上含む水処理モジュールを提供する。
【0063】
前記水処理モジュールの具体的な種類は特に制限されず、その例には、板型(Plate&Frame)モジュール、管状(Tubular)モジュール、中空糸状(Hollow&Fiber)モジュール、または螺巻状(Spiral wound)モジュールなどが含まれる。また、前記水処理モジュールは、前述した本明細書の一実施態様に係る水処理分離膜を含む限り、それ以外の他の構成および製造方法などは特に限定されず、この分野における公知の一般的な手段を制限なく採用可能である。
【0064】
一方、本明細書の一実施態様に係る水処理モジュールは、塩除去率および透過流量に優れ、化学的安定性に優れていて、家庭用/産業用浄水装置、下水処理装置、海淡水処理装置などのような水処理装置に有用に使用可能である。
【0065】
また、本明細書の一実施態様は、前述した水処理モジュールを1つ以上含む水処理装置を提供する。
【0066】
以下、本明細書を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本明細書に係る実施例は種々の異なる形態に変形可能であり、本明細書の範囲が以下に詳述する実施例に限定されると解釈されない。本明細書の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本明細書をより完全に説明するために提供されるものである。
【実施例】
【0067】
<実施例:水処理分離膜の製造>
<実施例1>
DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に18wt%のポリスルホン固形分を入れて、80℃で12時間以上溶かして均一な液相を得た。この溶液をポリエステル材質の95μm~100μmの厚さの不織布上に150μmの厚さにキャスティングした。その後、キャスティングされた不織布を水に入れて多孔性ポリスルホン支持体を製造した。その後、全体水溶液の総重量を基準として5wt%のメタフェニレンジアミン(mPD)を含む水溶液を前記多孔性ポリスルホン支持体上に塗布して水溶液層を形成した。さらに、塗布時に発生した余分な水溶液をエアナイフを用いて除去した。前記水溶液層上に全体有機溶液の総重量を基準として0.3重量%のトリメソイルクロライド(TMC)および有機溶媒(IsoPar G)を含む有機溶液を塗布した。そして、95℃で液状成分がすべて蒸発するまで乾燥した後、純水(DIW)で洗浄して水処理分離膜を製造した。
【0068】
製造された水処理分離膜を遊離塩素150ppmと臭素イオン200ppmとを含む水溶液に20秒間浸漬した。この時、水溶液のpHは7未満に調節した。この後、分離膜の表面を乾燥して水処理分離膜を製造した。
【0069】
<実施例2>
実施例1において、臭素イオン200ppmの代わりに臭素イオン300ppmを含む水溶液を用いることを除けば、実施例1と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0070】
<実施例3>
実施例1において、臭素イオン200ppmの代わりに臭素イオン400ppmを含む水溶液を用いることを除けば、実施例1と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0071】
<実施例4>
実施例1において、遊離塩素と臭素イオンとを含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、実施例1と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0072】
<実施例5>
実施例2において、遊離塩素と臭素イオンとを含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、実施例2と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0073】
<実施例6>
実施例3において、遊離塩素と臭素イオンとを含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、実施例3と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0074】
<比較例1>
DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に18wt%のポリスルホン固形分を入れて、80℃で12時間以上溶かして均一な液相を得た。この溶液をポリエステル材質の95μm~100μmの厚さの不織布上に150μmの厚さにキャスティングした。その後、キャスティングされた不織布を水に入れて多孔性ポリスルホン支持体を製造した。その後、全体水溶液の総重量を基準として5wt%のメタフェニレンジアミン(mPD)を含む水溶液を前記多孔性ポリスルホン支持体上に塗布して水溶液層を形成した。さらに、塗布時に発生した余分な水溶液をエアナイフを用いて除去した。前記水溶液層上に全体有機溶液の総重量を基準として0.3重量%のトリメソイルクロライド(TMC)および有機溶媒(IsoPar G)を含む有機溶液を塗布した。そして、95℃で液状成分がすべて蒸発するまで乾燥した後、超純水蒸留水(DIW)で洗浄して水処理分離膜を製造した。
【0075】
<比較例2>
比較例1で製造した水処理分離膜を遊離塩素150ppmを含む水溶液に20秒間浸漬した。この時、水溶液のpHは7未満に調節した。この後、分離膜の表面を乾燥して水処理分離膜を製造した。
【0076】
<比較例3>
比較例2において、遊離塩素150ppmの代わりに遊離塩素300ppmを含む水溶液を用いることを除けば、比較例2と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0077】
<比較例4>
比較例2において、遊離塩素150ppmの代わりに遊離塩素400ppmを含む水溶液を用いることを除けば、比較例2と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0078】
<比較例5>
比較例2において、遊離塩素150ppmの代わりに臭素イオン150ppmを含む水溶液を用いることを除けば、比較例2と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0079】
<比較例6>
比較例5において、臭素イオン150ppmの代わりに臭素イオン300ppmを含む水溶液を用いることを除けば、比較例5と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0080】
<比較例7>
比較例5において、臭素イオン150ppmの代わりに臭素イオン400ppmを含む水溶液を用いることを除けば、比較例5と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0081】
<比較例8>
比較例2において、遊離塩素を含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、比較例2と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0082】
<比較例9>
比較例3において、遊離塩素を含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、比較例3と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0083】
<比較例10>
比較例4において、遊離塩素を含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、比較例4と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0084】
<比較例11>
比較例5において、臭素イオンを含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、比較例5と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0085】
<比較例12>
比較例6において、臭素イオンを含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、比較例6と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0086】
<比較例13>
比較例7において、臭素イオンを含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、比較例7と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0087】
<比較例14>
比較例1で製造した水処理分離膜を遊離塩素75ppmおよび臭素イオン50ppmを含む水溶液に20秒間浸漬した。この時、水溶液のpHは7未満に調節した。この後、分離膜の表面を乾燥して水処理分離膜を製造した。
【0088】
<比較例15>
比較例14において、臭素イオン50ppmの代わりに臭素イオン100ppmを含む水溶液を用いることを除けば、比較例14と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0089】
<比較例16>
比較例15において、遊離塩素75ppmの代わりに遊離塩素150ppmを含む水溶液を用いることを除けば、比較例15と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0090】
<比較例17>
比較例1で製造した水処理分離膜を遊離塩素75ppmおよび臭素イオン200ppmを含む水溶液に20秒間浸漬した。この時、水溶液のpHは7未満に調節した。この後、分離膜の表面を乾燥して水処理分離膜を製造した。
【0091】
<比較例18>
比較例17において、遊離塩素および臭素イオンを含む水溶液のpHを7超過に調節することを除けば、比較例17と同様の方法で水処理分離膜を製造した。
【0092】
前記実施例および比較例でpHを7超過に調節したことは、pHを9~11の範囲に調節したことを意味し、pHを7未満に調節したことは、pHを4~6の範囲に調節したことを意味する。
【0093】
<実験例:水処理分離膜の性能評価>
前記実施例1~6および比較例1~18により製造された水処理分離膜に対して、32,000ppmのNaCl水溶液、5ppmのボロン酸水溶液を800psi、4.5L/minの流量で1時間程度装置運転を実施して安定化されたことを確認した後、25℃で10分間透過する水の量を測定して透過流量(flux:GFD(gallon/ft2/day))を計算し、導電度メーター(Conductivity Meter)を用いて透過前と後の塩濃度を分析して、塩除去率(Rejection)およびボロン除去率を計算した結果を下記表1に記載した。
【0094】
また、分離膜の表面の元素分析(ESCA)の結果を下記表1に記載した。前記元素分析はX線光電子分光法を用い、X-rayソースはAl Kaを用いながら1サンプルあたり3spot以上で分析し、1spotあたり20回以上スキャンしてデータを収集した。
【0095】
【0096】
前記表1の結果によれば、実施例1~3による水処理分離膜は、比較例14~16による水処理分離膜と比較して、遊離塩素および臭素イオンの含有量が高くて、塩除去率(Salt Rej.)およびボロン除去率(Boron Rej.)が増加することを確認することができる。特に、製造された水処理分離膜の表面元素分析の結果、実施例1~3の水処理分離膜のBr/Clの比が6.3以上である結果からみて、遊離塩素および臭素イオンの含有量が一定水準以上の時、分離膜の性能に影響を及ぼすことが分かる。
【0097】
実施例1~6と比較例1とを比較すれば、実施例1~6によりポリアミド活性層の表面に遊離塩素および臭素イオンの水溶液を処理した場合、塩除去率およびボロン除去率が著しく増加することを確認することができる。
【0098】
また、実施例1~3と比較例2~7とを比較すれば、pHが7未満の区間で、遊離塩素のみ含む水溶液を処理するか、臭素イオンのみ含む水溶液を処理する場合と比較して、遊離塩素および臭素イオンをすべて含む水溶液でポリアミド活性層を処理する場合、塩除去率およびボロン除去率が増加することを確認することができる。
【0099】
同じく、実施例4~6と比較例8~13とを比較すれば、pHが7超過の区間で、遊離塩素のみ含む水溶液を処理するか、臭素イオンのみ含む水溶液を処理する場合と比較して、遊離塩素および臭素イオンをすべて含む水溶液でポリアミド活性層を処理する場合、透過流量(Flux)は維持しながらも、塩除去率およびボロン除去率が増加することを確認することができる。
【0100】
また、実施例1と比較例17とを比較すれば、pHが7未満の区間で、遊離塩素の含有量が150ppm未満である比較例17の場合、遊離塩素の含有量が150ppm以上である実施例1に比べてボロン除去率が減少することを確認することができる。
【0101】
同じく、実施例4と比較例18とを比較すれば、pHが7超過の区間で、遊離塩素の含有量が150ppm未満である比較例18の場合、遊離塩素の含有量が150ppm以上である実施例4に比べてボロン除去率が減少することを確認することができる。
【0102】
実施例1~6によれば、水溶液中の臭素イオンの濃度が増加するほど分離膜の塩除去率およびボロン除去率が向上することを確認することができ、また、実施例1~6による水処理分離膜の物性値によれば、水溶液のpHを調節することにより、塩除去率およびボロン除去率の変化を少なくしながらも透過流量を向上させることを確認することができる。
【0103】
結果として、本明細書の一実施態様に係る水処理分離膜は、水処理分離膜の製造過程において、ポリアミド活性層の表面に特定含有量の遊離塩素および臭素イオンを含む水溶液を接触させることにより、最終的に分離膜の塩除去率およびボロン除去率を向上させることができ、水溶液のpH調節によって、透過流量特性も併せて調節可能であることを確認することができる。
【0104】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の範囲内で多様に変形して実施することが可能であり、これも発明の範疇に属する。
【符号の説明】
【0105】
100:不織布
200:多孔性支持層
300:ポリアミド活性層
400:塩水
500:精製水
600:濃縮水