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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】排ガス処理装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/60 20060101AFI20220809BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20220809BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20220809BHJP
   B01D 53/64 20060101ALI20220809BHJP
   B01D 53/74 20060101ALI20220809BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C04B7/60 ZAB
C04B7/38
C02F11/02
B01D53/64 100
B01D53/64
B01D53/74
F27D17/00 104D
F27D17/00 104G
F27D17/00 103
F27D17/00 101G
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018005462
(22)【出願日】2018-01-17
(65)【公開番号】P2019123641
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】河村 保宏
(72)【発明者】
【氏名】小島 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】藤永 祐太
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-190612(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0041690(US,A1)
【文献】特開2017-057236(JP,A)
【文献】特開2009-292691(JP,A)
【文献】特開2011-084425(JP,A)
【文献】特開2009-161415(JP,A)
【文献】特開昭55-129163(JP,A)
【文献】特表2015-530349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,
C04B40/00-40/06,
C04B103/00-111/94
C02F 11/02
B01D 53/64,53/74
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造するように構成されたロータリキルンと、
前記ロータリキルンから排出されたキルン排ガスを用いて前記セメント原料を予熱するように構成された予熱機と、
前記予熱機から排出された予熱機排ガスを用いて蒸気を発生させるように構成されたボイラと、
前記ボイラから排出されたボイラ排ガスと作動流体との間で熱交換することにより前記ボイラ排ガスを冷却するように構成された冷却機と、
前記ボイラ排ガスの前記冷却機による冷却に伴い、前記ボイラ排ガス中の重金属と共に前記冷却機の表面に付着した粉粒体を回収するように構成された回収手段とを備え、
前記重金属は水銀又は水銀化合物であり、
前記冷却機に導入される前記ボイラ排ガスの温度は300℃以下である、排ガス処理装置。
【請求項2】
前記冷却機に導入される前記ボイラ排ガスの温度は210℃以下である、請求項に記載の装置。
【請求項3】
前記冷却機から排出される冷却機排ガスの温度は100℃以上である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記冷却機は、冷却用の流体が流通可能に構成された配管である、請求項1~のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記流体は空気又は水である、請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記配管は、前記冷却機と、前記冷却機の下流側に位置する他の設備とを接続している、請求項又はに記載の装置。
【請求項7】
有機汚泥類を発酵させるように構成された発酵機をさらに備え、
前記配管は、前記冷却機と前記発酵機とを接続しており、前記ボイラ排ガスとの熱交換により昇温された前記配管内の流体を前記発酵機に導入するように構成されている、請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記回収手段は、前記冷却機の表面に付着した前記粉粒体を前記冷却機の表面から落下させるように構成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記回収手段は、前記冷却機の表面に気体を吹き付けるように構成されたブロワ、又は前記冷却機に振動を付与するように構成された加振器である、請求項1~のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記冷却機から排出される冷却機排ガスを用いて前記セメント原料を乾燥するように構成された乾燥機をさらに備える、請求項1~のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記ボイラ排ガスを部分的に前記冷却機に導入するように構成された抽気手段をさらに備える、請求項1~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記冷却機を収容する内部空間を含む第1及び第2の筐体をさらに備え、
前記第1及び第2の筐体は、前記ボイラ排ガスが分岐して前記各内部空間のそれぞれに導入されるように構成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記冷却機から排出される冷却機排ガスを用いて前記セメント原料を乾燥しつつ粉砕するように構成された粉砕機をさらに備える、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメント製造設備から排出される排ガスを処理するための排ガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント原料(例えば、石灰石、石炭、珪石、粘土、酸化鉄原料、一部の廃棄物等)には、水銀が含まれていることがある。水銀は人体、環境等に多大な悪影響を与えることから、セメント原料からセメントを製造する過程での水銀排出量を低減させるための種々の提案がなされている。例えば、特許文献1は、バグフィルタの内部に水銀吸着材(活性炭等)を投入するように構成された吸着材添加装置を備える排ガス処理装置を開示している。なお、水銀は、セメント製造設備内において、例えば金属水銀、塩化水銀等の形態で存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-001930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、水銀に関する水俣条約の発効がなされ、水銀排出量をよりいっそう厳格に管理することが国際的な潮流となっている。そのため、セメント製造設備からの水銀排出量をさらに低減することが求められている。特許文献1に記載の装置によれば、水銀排出量を低減できるものの、水銀を回収するために水銀吸着材を要することに加えて、水銀が吸着された水銀吸着材を処理しなければならないので、ランニングコストが高くなる傾向にある。さらに、装置内に投入された水銀吸着材が装置内を循環してセメント原料に混入することで、製造されたセメントの品質に懸念が生じうる。
【0005】
そこで、本開示は、吸着材を用いることなく重金属を回収して、重金属の排出量を安定的に低水準に抑制することが可能な排ガス処理装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例1.本開示の一つの例に係る排ガス処理装置は、セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造するように構成されたセメント焼成炉と、焼成によりセメント焼成炉の内部で発生したガスを冷却するように構成された冷却機と、ガスの冷却機による冷却に伴い、ガス中の重金属と共に冷却機の表面に付着した粉粒体を回収するように構成された回収手段とを備える。
【0007】
セメント焼成炉では、セメント原料が1450℃程度にまで加熱される。そのため、セメント原料に含まれる重金属は、セメント焼成炉内で気体状又は液状となっており、セメント焼成炉の内部で発生した燃焼ガス及び微粉に随伴して下流側に排出される。セメント焼成炉から排出されたガスが下流側の冷却機と接触すると、当該ガスが冷却機によって冷却され、微粉が冷却機の表面で凝集して粉粒体として堆積する。このとき、燃焼ガス及び微粉に随伴する気体状又は液状の重金属も冷却されるので、重金属が液状又は固体状に変化しながら、凝集する微粉に巻き込まれる。そのため、冷却機の表面に堆積した粉粒体を回収手段によって回収することで、粉粒体が含有する重金属も回収される。従って、例1の装置によれば、吸着材を用いることなく重金属を回収して、重金属の排出量を安定的に低水準に抑制することが可能となる。
【0008】
例2.例1の装置において、セメント焼成炉は、セメント原料の焼成を行うように構成されたロータリキルンと、ロータリキルンから排出されたキルン排ガスを用いてセメント原料を予熱するように構成された予熱機とを含み、冷却機は、予熱機から排出された予熱機排ガスを冷却するように構成されていてもよい。予熱機排ガスは、一般に400℃程度であり、重金属の沸点又は融点よりも高い傾向にある。そのため、キルン排ガスの熱をセメント原料の予熱に利用しつつ、冷却機において、セメント焼成炉の内部で発生したガスから重金属が回収される。従って、熱エネルギーの有効活用と重金属の回収とを両立させることが可能となる。
【0009】
例3.例2の装置は、予熱機から排出された予熱機排ガスを用いて蒸気を発生させるボイラをさらに備え、冷却機は、ボイラから排出されたボイラ排ガスを冷却するように構成されていてもよい。ボイラ排ガスは、一般に300℃程度以下であり、重金属の沸点又は融点よりも高い傾向にある。そのため、予熱機排ガスの熱を蒸気の生成のために利用しつつ、冷却機において、セメント焼成炉の内部で発生したガスから重金属が回収される。従って、熱エネルギーの有効活用と重金属の回収とを両立させることが可能となる。
【0010】
例4.例1~例3のいずれか一つの装置において、冷却機に導入されるガスの温度は300℃以下であってもよい。冷却機に導入されるガスが300℃以下であると、当該ガスが冷却機に接触することで当該ガスの温度が重金属の沸点又は融点を下回る傾向にある。そのため、冷却機に導入されるガスが300℃を超える場合と比較して、冷却機の表面に堆積する粉粒体が含有する重金属の濃度が高まる傾向にある。従って、重金属をより効果的に回収することが可能となる。
【0011】
例5.例1~例4のいずれか一つの装置において、冷却機から排出される冷却機排ガスの温度は100℃以上であってもよい。この場合、冷却機から排出される冷却機排ガスを他の設備に導入することで、冷却機排ガスの熱エネルギーを有効活用することが可能となる。
【0012】
例6.例1~例5のいずれか一つの装置において、冷却機は、冷却用の流体が流通可能に構成された配管であってもよい。この場合、極めて簡易に冷却機を構成することが可能となる。
【0013】
例7.例6の装置において、流体は空気又は水であってもよい。この場合、セメント焼成炉の内部で発生したガスの熱を極めて簡便に回収することが可能となる。
【0014】
例8.例6又は例7の装置において、配管は、冷却機と、冷却機の下流側に位置する他の設備とを接続していてもよい。この場合、セメント焼成炉の内部で発生したガスから流体が回収した熱を、当該他の設備において有効活用することが可能となる。
【0015】
例9.例8の装置は、有機汚泥類を発酵させるように構成された発酵機をさらに備え、配管は、冷却機と発酵機とを接続しており、ガスとの熱交換により昇温された配管内の流体を発酵機に導入するように構成されていてもよい。この場合、セメント焼成炉の内部で発生したガスから流体が回収した熱を、発酵機において有機汚泥類の発酵に活用することが可能となる。
【0016】
例10.例1~例9のいずれか一つの装置において、回収手段は、冷却機の表面に付着した粉粒体を冷却機の表面から落下させるように構成されていてもよい。この場合、重金属を粉粒体と共に容易に回収することが可能となる。
【0017】
例11.例1~例10のいずれか一つの装置において、回収手段は、冷却機の表面に気体を吹き付けるように構成されたブロワ、又は冷却機に振動を付与するように構成された加振器であってもよい。
【0018】
例12.例1~例11のいずれか一つの装置は、冷却機から排出される冷却機排ガスを用いてセメント原料を乾燥するように構成された乾燥機をさらに備えてもよい。この場合、冷却機から排出される冷却機排ガスの熱エネルギーを乾燥機において有効活用することが可能となる。
【0019】
例13.例1~例12のいずれか一つの装置は、ガスを部分的に冷却機に導入するように構成された抽気手段をさらに備えてもよい。この場合、冷却機において冷却すべきガスの量が抽気手段によって制限されるので、冷却機の冷却能力を必要以上に高める必要がなくなる。そのため、重金属の排出量を安定的に低水準に抑制しつつ、排ガス処理装置の建造コストを抑制することが可能となる。
【0020】
例14.例1~例13のいずれか一つの装置は、冷却機を収容する内部空間を含む第1及び第2の筐体をさらに備え、第1及び第2の筐体は、ガスが分岐して各内部空間のそれぞれに導入されるように構成されていてもよい。この場合、第1の筐体において粉粒体を回収する際に、第1の筐体へのガスの導入を停止して、第2の筐体にガスを導入することで、第2の筐体の冷却機でガスの冷却を継続することが可能となる。
【0021】
例15.例1~例14のいずれか一つの装置において、重金属は水銀又は水銀化合物であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本開示に係る排ガス処理装置によれば、吸着材を用いることなく重金属を回収して、重金属の排出量を安定的に低水準に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、クリンカ製造装置の一例を示すブロック図である。
図2図2は、ダストボックスの一例を概略的に示す図である。
図3図3は、温度に対する金属水銀の蒸気圧を示すグラフである。
図4図4は、配管に粉粒体が付着する様子を説明する断面図である。
図5図5は、配管を流通する流体と熱交換する際の排ガスの温度と、その温度で配管の表面に堆積する粉粒体の水銀濃度との関係を示すグラフである。
図6図6は、ダストボックスの他の例を概略的に示す図である。
図7図7は、ダストボックスの他の例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に説明される本開示に係る実施形態は本発明を説明するための例示であるので、本発明は以下の内容に限定されるべきではない。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0025】
[クリンカ製造装置の構成]
クリンカ製造装置1の構成について、図1図4を参照して説明する。クリンカ製造装置1は、セメント製造設備の一部であり、図1に示されるように、セメント原料M1からセメントクリンカM5を製造するための装置である。クリンカ製造装置1は、自身から排出される排ガスを内部で処理する機能も有しており、排ガス処理装置としても動作する。クリンカ製造装置1は、原料置き場10と、ドライヤ12(乾燥機)と、粉砕機14(乾燥機)と、サイロ16と、SP(サスペンションプレヒータ)18(予熱機;セメント焼成炉)と、ロータリキルン20(セメント焼成炉)と、ボイラ22と、ダストボックス24と、集塵機26と、発酵機28とを備える。
【0026】
原料置き場10は、セメント原料M1を貯留するように構成されている。セメント原料M1は、例えば、石灰石、石炭灰、珪石、粘土、酸化鉄原料、廃棄物等の混合物であり、数cm~十数cm程度の大きさを有している。これらのセメント原料M1には、重金属(例えば、水銀、水銀化合物、鉛、タリウムなど)が含まれていることがある。金属水銀の沸点は356.7℃程度であり、塩化水銀の沸点は302℃程度であり、鉛の沸点は1749℃程度であり、タリウムの沸点は1473℃程度である。金属水銀の融点は-38.83℃程度であり、塩化水銀の融点は277℃程度であり、鉛の融点は327.5℃程度であり、タリウムの融点は304℃程度である。なお、図3は、化学便覧の記載に基づいて、金属水銀の蒸気圧をグラフにしたものである。図3に示されるように、金属水銀の蒸気圧は、300℃以下で大幅に小さくなり、150℃程度でほぼ0を示す。すなわち、気体状態で存在する金属水銀は300℃以下で大幅に少なくなり、150℃程度以下では気体状態で存在する金属水銀がほぼなくなることが理解される。
【0027】
ドライヤ12は、原料置き場10から導入されたセメント原料M1に熱風(例えば400℃程度)を供給して、セメント原料M1を乾燥させるように構成されている。ドライヤ12で乾燥されたセメント原料M1は、乾燥原料M2となる。ドライヤ12には、ダストボックス24からの排ガスであるダストボックス排ガスG6が導入され、セメント原料M1の乾燥に利用される。一方、ドライヤ12からの排ガスであるドライヤ排ガスG7(乾燥機排ガス)は、集塵機26に導入される。集塵機26に導入される際のドライヤ排ガスG7の温度は、例えば90℃程度である。
【0028】
粉砕機14は、ドライヤ12から導入された乾燥原料M2を粉砕するように構成されている。粉砕機14は、例えば、竪型ローラミル、ボールミルなどが挙げられる。乾燥原料M2は、粉砕機14により300μm以下の粒状に粉砕されて粒状原料M3となる。乾燥原料M2が粉砕機14において粉砕される際、乾燥原料M2は、ダストボックス24からの排ガスであるダストボックス排ガスG4と接触してさらに乾燥される。その後、粒状原料M3はサイロ16に導入される。
【0029】
一方、粉砕機14からの排ガスである粉砕機排ガスG5(乾燥機排ガス)は、集塵機26に導入される。集塵機26に導入される際の粉砕機排ガスG5の温度は、例えば90℃程度である。
【0030】
サイロ16は、粉砕機14からの粒状原料M3を一時的に貯留するように構成されている。サイロ16は、粒状原料M3をSP18に適時供給する。
【0031】
SP18は、ロータリキルン20において原料の焼成効率を高める目的で、粒状原料M3を予熱する装置であり、セメント焼成炉2の一部を構成している。SP18は、複数段(例えば4段~5段程度)のサイクロン(分離器)を有する。SP18の塔頂部には粒状原料M3が投入される。SP18の塔底部からは、ロータリキルン20からの排ガスであるキルン排ガスG1(ガス)が導入される。キルン排ガスG1と粒状原料M3とが各段のサイクロンで順次熱交換され、粒状原料M3が例えば850℃程度まで予熱されてキルン原料M4となる。SP18において生成されたキルン原料M4は、塔底部から排出されて、ロータリキルン20内に導入される。
【0032】
一方、SP18からの排ガスであるSP排ガスG2(予熱機排ガス;ガス)は、SP18の塔頂部から排出される。SP排ガスG2は、例えば400℃程度である。SP18は、サイクロンの最下段とロータリキルン20との間に設けられた仮焼炉をさらに有するニュー・サスペンション・プレヒータ(NSP)であってもよい。NSPによれば、仮焼炉に燃料(例えば、微粉炭)を供給して粒状原料M3が仮焼されるので、キルン原料M4の生産量及び焼成効率が向上する。
【0033】
ロータリキルン20は、SP18から導入されたキルン原料M4を高温で焼成してセメントクリンカM5を生成するように構成されている。ロータリキルン20は、セメント焼成炉2の一部を構成している。ロータリキルン20の最高温度は通常2000℃を超える。そのため、ロータリキルン20では、キルン原料M4が例えば1450℃程度まで加熱される。ロータリキルン20での焼成により内部で発生したキルン排ガスG1は、SP18に導入される。SP18に導入される際のキルン排ガスG1の温度は、例えば900℃~1250℃程度である。
【0034】
ロータリキルン20内は重金属の沸点よりも高温であるので、ロータリキルン20に導入されるキルン原料M4に含まれる重金属はロータリキルン20内で気体状又は液状となっている。そのため、気体状又は液状の重金属は、キルン排ガスG1及び微粉に随伴してSP18に向けて排出される。
【0035】
ボイラ22は、SP排ガスG2と熱交換して蒸気を発生させるように構成されている。ボイラ22で得られた蒸気は、発電タービンに導入される。そのため、SP排ガスG2の熱の一部は、ボイラ22において電気エネルギーとして回収される。ボイラ22からの排ガスであるボイラ排ガスG3(ガス)は、ダストボックス24に導入される。ダストボックス24に導入される際のボイラ排ガスG3の温度は、例えば300℃以下であってもよいし、275℃以下であってもよいし、250℃以下であってもよいし、210℃以下であってもよい。
【0036】
ダストボックス24に導入される際のボイラ排ガスG3の温度が300℃以下であると、ボイラ排ガスG3が配管34に接触することでボイラ排ガスG3の温度が重金属の沸点又は融点を下回る傾向にある。そのため、ダストボックス24に導入される際のボイラ排ガスG3の温度が300℃を超える場合と比較して、配管34の表面に堆積する粉粒体Pが含有する重金属の濃度が高まる傾向にある。従って、重金属をより効果的に回収することが可能となる。
【0037】
ダストボックス24は、ボイラ排ガスG3中の重金属を捕集するように構成されている。具体的には、ダストボックス24は、図2に示されるように、筐体30と、供給源32(冷却機)と、配管34(冷却機)と、回収機36(回収手段)とを含む。
【0038】
筐体30は、配管34の一部を内部空間に収容している。筐体30には、ボイラ排ガスG3が導入される。筐体30からは、配管34と熱交換した後の排ガスであるダストボックス排ガスG4,G6が排出される。ダストボックス排ガスG4,G6の温度は、例えば、100℃以上であってもよいし、125℃以上であってもよいし、150℃以上であってもよい。ダストボックス排ガスG4の温度が100℃以上である場合、ダストボックス排ガスG4,G6を他の設備に導入することで、ダストボックス排ガスG4,G6の熱エネルギーを有効活用することが可能となる。
【0039】
供給源32は、配管34に流体Fを供給し、配管34を通して流体Fを下流側に流通させるように構成されている。流体Fとしては、常温で液体又は気体である種々の流体を用いることができるが、例えば、空気、水などであってもよい。この場合、ボイラ排ガスG3の熱を極めて簡便に回収することが可能となる。供給源32から配管34に供給される際の流体Fの温度は、例えば常温であってもよい。
【0040】
配管34の一部は、筐体30の内部空間を通っている。配管34の当該一部は、図2に示されるように、筐体30の内部空間内において蛇行していてもよい。配管34の上流端は、供給源32に接続されている。配管34の下流端は、SP18に接続されている。そのため、SP18には、筐体30の内部空間内においてボイラ排ガスG3と熱交換した後の流体Fが導入される。当該流体Fの熱は、SP18におけるバーナの燃焼用空気を予熱する熱源の一部等として用いられる。従って、SP18における燃料使用量の低減による省エネ化を図ることができる。
【0041】
ここで、ロータリキルン20において気体状又は液状となった重金属は、気体状又は液状のまま、あるいは気体状から液状に変化しながら、微粉と共にキルン排ガスG1、SP排ガスG2及びボイラ排ガスG3に順次随伴して、筐体30の内部空間に導入される。ボイラ排ガスG3が配管34の表面と接触すると、ボイラ排ガスG3が配管34によって冷却され、図4に示されるように、微粉が配管34の表面で凝集して粉粒体Pとして堆積する。具体的には、粉粒体Pは、配管34の表面全体を覆うように配管34に付着するが、特に、配管34の表面においてボイラ排ガスG3の上流側に向けて山型状に成長する。このとき、ボイラ排ガスG3及び微粉に随伴する気体状又は液状の重金属も冷却されるので、重金属が液状又は固体状に変化しながら、凝集する微粉に巻き込まれる。以上より、供給源32及び配管34は、ボイラ排ガスG3を冷却する冷却機CLとして機能する。
【0042】
回収機36は、配管34の表面に付着した粉粒体Pを回収するように構成されている。粉粒体Pを配管34の表面から回収できれば、回収機36による回収方法は特に限定されない。例えば、回収機36は、配管34の表面から粉粒体Pを落下させることで粉粒体Pを回収するように構成されていてもよい。配管34の表面に堆積した粉粒体Pが回収機36によって回収されることで、粉粒体Pが含有する重金属も回収される。
【0043】
このような回収機36としては、具体的には、配管34の表面に気体を吹き付けるように構成されたブロワ、配管34に振動を付与するように構成された加振機などが挙げられる。ブロワとしては、例えばスーツブロワなどが挙げられる。加振機としては、例えば、配管34に直接打撃を付与するハンマリング装置、配管34に直接又は間接に高周波振動を付与する高周波振動発生装置などが挙げられる。
【0044】
集塵機26は、粉砕機排ガスG5に含まれる粉粒体(粉末又は粒子)をガスから分離するように構成されている。集塵機26は、例えば電気集塵機が挙げられる。集塵機26を通過後のガスは、クリンカ製造装置1の排ガスG8としてクリンカ製造装置1の外部に放出される。
【0045】
発酵機28は、原料置き場10から導入された有機汚泥類OM1(例えば、下水汚泥、し尿汚泥、排水汚泥、動物の糞尿など)を発酵させるように構成されている。発酵機28において発酵熱を用いて有機汚泥類OM1を乾燥させることにより、乾燥汚泥OM2が生成され、汚泥の性状(例えば、減容化、汚泥のハンドリング性能など)の改善が図られる。発酵機28における発酵温度は、一般的に、60℃~80℃に設定されうる。
【0046】
発酵機28には、筐体30の内部空間内においてボイラ排ガスG3と熱交換した後の流体Fが導入される。当該流体Fの熱は、発酵機28における有機汚泥類OM1の発酵に用いられる。発酵機28において生じた乾燥汚泥OM2は、SP18に導入され、粒状原料M3を予熱する熱源の一部として用いられる。このように、乾燥汚泥OM2を他の用途に用いることにより、廃棄物を有効利用できると共に、SP18における燃料使用量の低減による省エネ化を図ることができる。
【0047】
[作用]
ところで、図5に示されるように、本発明者らによる鋭意研究の結果、配管34を流通する流体Fと熱交換する際のボイラ排ガスG3の温度が低くなるほど、配管34の表面に堆積する粉粒体Pの水銀濃度が高まるという新たな知見が得られた。特に、ボイラ排ガスG3の温度が300℃以下の場合には、ボイラ排ガスG3の温度が300℃を超える場合と比較して、粉粒体Pの水銀濃度が2倍以上であった。さらには、ボイラ排ガスG3の温度が210℃以下の場合には、ボイラ排ガスG3の温度が210℃を超える場合と比較して、粉粒体Pの水銀濃度が4倍以上であった。
【0048】
上記知見に鑑み、本実施形態に係るクリンカ製造装置1は、流体Fが流通する配管34を用いてボイラ排ガスG3を冷却し、配管34の表面に堆積した粉粒体Pを回収機36によって回収するように構成されている。そのため、粉粒体Pに含有されている重金属が粉粒体Pと共に回収機36によって回収される。従って、本実施形態に係るクリンカ製造装置1によれば、吸着材を用いることなく重金属を回収して、重金属の排出量を安定的に低水準に抑制することが可能となる。
【0049】
本実施形態では、ロータリキルン20からのキルン排ガスG1を利用して、粒状原料M3がSP18において予熱される。SP排ガスG2は、一般に400℃程度であり、重金属の沸点又は融点よりも高い傾向にある。そのため、キルン排ガスG1の熱を粒状原料M3の予熱に利用しつつ、配管34の表面において、セメント焼成炉2の内部で発生したガスから重金属が回収される。従って、熱エネルギーの有効活用と重金属の回収とを両立させることが可能となる。
【0050】
本実施形態では、SP18からのSP排ガスG2を利用して、ボイラ22において蒸気を発生させている。ボイラ排ガスG3は、一般に300℃程度以下であり、重金属の沸点又は融点よりも高い傾向にある。そのため、SP排ガスG2の熱を蒸気の生成のために利用しつつ、配管34の表面において、セメント焼成炉2の内部で発生したガスから重金属が回収される。従って、熱エネルギーの有効活用と重金属の回収とを両立させることが可能となる。
【0051】
本実施形態では、流体Fが流通する配管34が、ボイラ排ガスG3を冷却するための冷却機として機能する。そのため、極めて簡易に冷却機を構成することが可能となる。
【0052】
本実施形態では、配管34の下流端が発酵機28に接続されている。そのため、ボイラ排ガスG3から流体Fが回収した熱を、発酵機28において有機汚泥類の発酵に活用することが可能となる。
【0053】
本実施形態では、回収機36は、配管34の表面から粉粒体Pを落下させることで粉粒体Pを回収するように構成されうる。この場合、重金属を粉粒体Pと共に容易に回収することが可能となる。
【0054】
本実施形態では、ダストボックス24からのダストボックス排ガスG6を、ドライヤ12におけるセメント原料M1の乾燥に利用している。そのため、ダストボックス排ガスG6の熱エネルギーをドライヤ12において有効活用することが可能となる。
【0055】
[他の実施形態]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0056】
(1)例えば、図6に示されるように、クリンカ製造装置1は、ダンパ38(抽気手段)をさらに備えていてもよい。ダンパ38は、ボイラ22とダストボックス24との間に配置されている。ダンパ38は、ボイラ22からのボイラ排ガスG3の抽気量を調節可能に構成されている。そのため、ダンパ38の開度に応じて、ボイラ排ガスG3の一部又は全部がダストボックス24に導入される一方、ボイラ排ガスG3の残部がダストボックス24を経由せずにダストボックス排ガスG4,G6に合流する。
【0057】
図6に示されるクリンカ製造装置1の例によれば、配管34において冷却すべきガスの量がダンパ38によって制限されるので、配管34の冷却能力を必要以上に高める必要がなくなる。そのため、重金属の排出量を安定的に低水準に抑制しつつ、クリンカ製造装置1の建造コストを抑制することが可能となる。
【0058】
(2)図7に示されるように、ダストボックス24は、複数(図7では3つ)の筐体30A~30Cと、バルブ40A~40C,42A~42Cとを含んでいてもよい。図示はしていないが、筐体30A~30C内には、流体Fが流通する配管34が収容されている。この場合、筐体30A~30C内にそれぞれ独立した配管34が収容されていてもよいし、一つの配管34が筐体30A~30C内を横断していてもよい。
【0059】
バルブ40A~40Cは、対応する筐体30A~30Cの上流側にそれぞれ位置している。複数に分岐(図7では3つに分岐)したボイラ排ガスG3は、バルブ40A~40Cの開閉に応じて、対応する筐体30A~30Cに導入されうる。バルブ42A~42Cは、対応する筐体30A~30Cの下流側にそれぞれ位置している。筐体30A~30Cからそれぞれ排出された排ガスは、バルブ42A~42Cの開閉に応じて、ダストボックス排ガスG4,G6として下流側に向かいうる。
【0060】
図7に示されるクリンカ製造装置1の例において、例えば、筐体30Aにおいて粉粒体Pを回収する際に、バルブ40A,42Aを閉鎖して筐体30Aでのガスの流通を停止すると共に、バルブ40B,40C,42B,42Cを開放して筐体30B,30Cにガスを流通させてもよい。この場合、筐体30Aでの粉粒体Pの回収と、筐体30B,30C内の配管34によるガスの冷却とを同時に行うことが可能となる。しかも、筐体30Aでの粉粒体Pの回収の際には、バルブ40A,42Aが閉鎖されているので、重金属を含有する粉粒体Pの筐体30A外への飛散を防止することが可能となる。
【0061】
(3)配管34を流通する流体Fとの熱交換は、キルン排ガスG1との間で行われてもよいし、SP排ガスG2との間で行われてもよいし、ボイラ排ガスG3との間で行われてもよい。
【0062】
(4)配管34の下流端は、SP18以外の他の設備に接続されていてもよい。例えば、配管34の下流端は、セメント焼成炉2、ドライヤ12、粉砕機14、ロータリキルン20、ボイラ22、発酵機28、NSPの仮焼炉などに接続されていてもよい。この場合、セメント焼成炉2の内部で発生したガスから流体Fが回収した熱を、他の設備において有効活用することが可能となる。
【0063】
(5)セメント焼成炉2の内部で発生したガスを冷却するために、流体Fが流通する配管34のみならず、種々の冷却機を用いることができる。例えば、セメント焼成炉2の内部で発生したガスとの間で熱移動するように構成されたペルティエ素子が冷却機として用いられてもよい。
【0064】
(6)流体Fが流通する配管34の表面温度と、ボイラ排ガスG3の温度との温度差は、例えば、50℃以上であってもよいし、より好ましくは150℃以上であってもよい。当該温度差が大きいほど、重金属の回収効率が高まる傾向にある。
【符号の説明】
【0065】
1…クリンカ製造装置(排ガス処理装置)、2…セメント焼成炉、12…ドライヤ(乾燥機)、14…粉砕機(乾燥機)、18…SP(予熱機;セメント焼成炉)、20…ロータリキルン(セメント焼成炉)、22…ボイラ、24…ダストボックス、28…発酵機、30,30A~30C…筐体、32…供給源(冷却機)、34…配管(冷却機)、36…回収機(回収手段)、38…ダンパ(抽気手段)、CL…冷却機、F…流体、G1…キルン排ガス(ガス)、G2…SP排ガス(予熱機排ガス;ガス)、G3…ボイラ排ガス(ガス)、G5…粉砕機排ガス(乾燥機排ガス)、G7…ドライヤ排ガス(乾燥機排ガス)、M1…セメント原料、M5…セメントクリンカ、P…粉粒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7