(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】建設構造物用塗布剤
(51)【国際特許分類】
C09D 125/14 20060101AFI20220809BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220809BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220809BHJP
【FI】
C09D125/14
C09D5/02
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2018086993
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉滝 浩司
(72)【発明者】
【氏名】藤野 由隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智章
(72)【発明者】
【氏名】松野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】貫田 誠
(72)【発明者】
【氏名】橋村 雅之
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-095922(JP,A)
【文献】特開平09-194272(JP,A)
【文献】特開平05-287234(JP,A)
【文献】特開平10-101967(JP,A)
【文献】特開2005-042027(JP,A)
【文献】特開2005-343761(JP,A)
【文献】特開平11-116313(JP,A)
【文献】特開2012-092599(JP,A)
【文献】特開昭56-104965(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104196191(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマーと無機質粉末とを含む建設構造物用塗布剤であって、
前記プライマーは、ガラス転移温度が-11~-5℃のスチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体のエマルションからなり、23℃における粘度が50~200mPa・s、pHが5~10、固形分濃度が30~60質量%、エマルション粒子径が100~250nmであり、
前記無機質粉末は、
砂、若しくはフェロニッケルスラグ、又は砂とフェロニッケルスラグとの混合物であり、
前記プライマー100質量部に対して、前記無機質粉末を80~200質量部含む、建設構造物用塗布剤。
【請求項2】
前記フェロニッケルスラグは、150μmふるい残分が10~50質量部、JIS
Z 2601に規定される粒度指数が100~300、モース硬度が5~10である、請求項1に記載の建設構造物用塗布剤。
【請求項3】
前記砂は、150μmふるい残分が5質量部以下、活性度指数が50~80、フロー値比が80~110、密度が1.5~3.0g/cm
3、湿分が1以下である請求項1に記載の建設構造物用塗布剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設構造物用塗布剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの建設構造物は、日射、高低温、乾湿、風雨等の外部環境の変化や、これらの変化に起因した劣化因子の侵入にさらされている。このような外部環境の変化や、構造物への劣化因子の侵入は、建設構造物の劣化の要因となっている。
【0003】
特に、熱養生を行うコンクリート製品を用いた建設構造物は、該構造物の内部と表面との温度差や、養生中の急冷などによって、構造物の表面に微細なひび割れが生じることがある。これらのひび割れは、構造上重大な欠陥ではないものの、建設構造物の美観が悪くなってしまう。また、このようなひび割れから塩化物イオン等の劣化因子が侵入すると、構造物の長期耐久性が問題となる。
【0004】
ひび割れに起因した建設構造物の劣化を抑制するため、一般的に、構造物表面にタイルを貼り付けたり、耐候性塗料や吸水防止材などの塗布剤を塗布するなどの対策がとられる場合がある。例えば、特許文献1には、吸水防止性能を維持しつつ、塗布表面の剥がれや白化を阻止しうる吸水防止材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、建設構造物の劣化防止を目的として、従来の塗布剤を該構造物に塗布した場合、色むらが生じたり、刷毛跡が残ることに起因して、塗布後の構造物の美観を大きく損ねてしまう問題があった。また、特許文献1に記載の吸水防止材は、その原料が高価であることや、構造物への付着性や耐久性が不十分であることに起因して、該吸水防止材の使用が一部の構造物に限定されてしまう。
【0007】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであり、施工性に優れ、美観性が良く、安価かつ汎用性の高い建設構造物用塗布剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プライマーに特定の無機質粉末を含ませることによって、施工性や美観性に優れ、かつ安価な建設構造物用塗布剤が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、プライマーと無機質粉末とを含む建設構造物用塗布剤であって、
前記プライマーは、ガラス転移温度が-11~-5℃のスチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体のエマルションからなり、23℃における粘度が50~200mPa・s、pHが5~10、固形分濃度が30~60質量%、エマルション粒子径が100~250nmであり、
前記無機質粉末は、砂、フェロニッケルスラグ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、炭酸カルシウム粉及びフライアッシュからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記プライマー100質量部に対して、前記無機質粉末を80~200質量部含む、建設構造物用塗布剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価且つ汎用性が高く、既設構造物への施工性に優れ、色むら等の塗装むらが少なく、色の調整が容易に可能であるとともに、外部環境由来の劣化因子から建設構造物を保護できる建設構造物用塗布剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1~12において、建設構造物用塗布剤を基材モルタルに施工して乾燥させた後の状態を示す写真である。
【
図2】
図2は、比較例1~12において、建設構造物用塗布剤を基材モルタルに施工して乾燥させた後の状態を示す写真である。
【
図3】
図3は、比較例13~24において、建設構造物用塗布剤を基材モルタルに施工して乾燥させた後の状態を示す写真である。
【
図4】
図4は、比較例25~27において、建設構造物用塗布剤を基材モルタルに施工して乾燥させた後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の建設構造物用塗布剤をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0013】
本発明の建設構造物用塗布剤(以下、これを単に「塗布剤」ともいう。)は、プライマーと無機質粉末とを含むものである。なお、以下の説明では、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
【0014】
本発明に用いられるプライマーは、合成樹脂を含み、該合成樹脂を水に分散させてなる水系のエマルションである。このような合成樹脂としては、例えばアクリル酸系樹脂等が挙げられ、その中でも、スチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体を用いることが好ましい。またアルキルとしては、直鎖又は分枝鎖であってもよく、アルキルの炭素数は、例えば1以上8以下のものが挙げられるが、これらに限られず、後述するプライマーの物性を有するように適宜選択することができる。これらの合成樹脂は、公知の重合方法によって製造することができ、交互共重合していてもよく、ランダム共重合していてもよく、グラフト共重合していてもよい。
【0015】
上述した合成樹脂は、水に分散させてエマルションを形成できる限りにおいて、その数平均分子量に制限はないが、後述するプライマーの物性を有するように適宜調整することが好ましい。
【0016】
塗布剤製造時における取扱い性の観点から、スチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体における各構成成分のモル比率は、後述するプライマーの物性を有するように適宜調整することが好ましい。
【0017】
本発明のプライマーは、その23℃における粘度が好ましくは50~200mPa・sであり、より好ましくは70~180mPa・sであり、更に好ましくは90~160mPa・sである。プライマーの粘度が200mPa・s以下であれば、高粘度に起因する無機質粉末との混合性の悪化や、塗布剤の施工性の悪化を防止できる。また、プライマーの粘度が50mPa・s以上であれば、プライマーとの混合の際に無機質粉末の沈降を防止することができ、均一に混合させることができる。なお、ここでの粘度は、例えばJIS K 6833-1に準じて、23℃においてBM型粘度計(トキメック社製、測定条件:ローターNo.1、60rpm、1分間)により測定される。
【0018】
本発明のプライマーは、その不揮発性成分(固形分)であるスチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体のガラス転移温度(Tg)が好ましくは-11~-5℃であり、より好ましくは-10.5~-5.5℃であり、更に好ましくは-10~-6℃である。ガラス転移温度がこのような範囲であれば、既設構造物への施工性に優れ、塗装むらが少なく、色の調整が容易に可能な塗布剤となる。
【0019】
プライマー(共重合体)のガラス転移温度は、例えば共重合モノマーの質量分率と、共重合モノマーのホモポリマーの絶対温度でのガラス転移温度(K)とから、加重平均することで算出することができる。すなわち、共重合モノマーAと共重合モノマーBとからなるプライマー(共重合体)の場合、各共重合モノマーの質量分率をそれぞれWA,WBとし(ただし、WA+WB=1とする。)、各共重合モノマーのホモポリマーの絶対温度でのガラス転移温度(K)をそれぞれTgA,TgBとしたときに、以下の式Aからプライマー(共重合体)の絶対温度でのガラス転移温度TgP(K)を算出し、TgPをセルシウス温度に変換することで、プライマーのガラス転移温度Tg(℃)を求めることができる。共重合モノマーのホモポリマーの絶対温度でのガラス転移温度は、熱重量測定によって得ることができる。
1/TgP=WA/TgA+WB/TgB・・・式A
【0020】
本発明のプライマーは、そのpHが、好ましくは5~10であり、より好ましくは5.5~9.5であり、更に好ましくは6~9である。プライマーのpHがこのような範囲であれば、既設構造物への施工性に優れ、塗装むらが少なく、色の調整が容易に可能な塗布剤となる。pHは、例えばJIS K 6833-1に準じて、23℃で測定することができる。
【0021】
プライマーの不揮発性成分(固形分)の濃度は、好ましくは30~60質量%であり、より好ましくは35~55質量%であり、更に好ましくは40~50質量%である。プライマーの固形分濃度が60質量%以下であれば、プライマーの粘性が高くなりにくく、施工性の悪化を防止することができ、また、プライマーの固形分濃度が30質量%以上であれば、プライマーの粘性が低くなりにくく、無機質粉末の沈降を防止することができる。
【0022】
本発明のプライマーは、上述のとおりエマルションの形態となっている。本発明のプライマーは、そのエマルション粒子径が好ましくは100~250nmであり、より好ましくは120~230nmであり、更に好ましくは140~210nmである。エマルション粒子径が250nm以下であれば、塗布対象との構造物との付着性能を良好なものとすることができる。
【0023】
プライマーにおけるエマルション粒子径は、例えば粒子径測定装置(大塚電子株式会社製、FPAR-1000)を用いて測定することができる。
【0024】
本発明の建設構造物用塗布剤は、プライマーに加えて、無機質粉末を含む。このような無機質粉末としては、例えば、砂、フェロニッケルスラグ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、炭酸カルシウム粉及びフライアッシュ等が挙げられる。これらの無機質粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、プライマーとの均一な混合を行って優れた施工性を実現する観点から、無機質粉末として、砂及びフェロニッケルスラグの少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0025】
塗布剤における無機質粉末の含有量は、プライマー中の不揮発性成分(固形分)100質量部に対して、80~200質量部含むことが好ましく、90~180質量部含むことがより好ましく、100~170質量部含むことが更に好ましい。無機質粉末の含有量が200質量部以下であれば、塗布剤の粘性が高くなりにくいので、施工性が良好なものとすることができる。また、無機質粉末の含有量が80質量部以上であれば、塗布剤中で無機質粉末が沈降することを防止できる。なお上述の含有量は、無機質粉末としての合計量を指す。
【0026】
無機質粉末として用いられる砂としては、例えば山砂、川砂、海砂、砕石粉、砕砂、珪砂等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
無機質粉末として用いられる砂は、その粒度分布として、砂の全体量を100質量部としたときに、150μmふるい残分が5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが更に好ましく、また、その下限は0.01質量部以上であることが特に好ましい。150μmふるい残分が5質量部以下であれば、塗布剤の施工後において、粒子の粗さに起因した塗装むらを防ぐことができる。150μmふるい残分を上述の範囲とするためには、例えば粉砕等によって調整することができる。なお、砂の150μmふるい残分の測定は、JIS A 5041の方法に準じて行うことができる。
【0028】
無機質粉末として用いられる砂は、その材齢28日における活性度指数が50~80%であることが好ましく、55~75%であることがより好ましく、60~70%であることが更に好ましい。活性度指数が50%以上であれば、塗布剤施工後の耐久性を首尾よく発現させることができる。活性度指数の測定は、JIS A 5041の方法に準じて行うことができる。
【0029】
無機質粉末として用いられる砂は、そのフロー値比が80~110であることが好ましく、85~110以上であることがより好ましく、90~110であることが更に好ましい。フロー値比が80以上であれば、粒子が細かく粘性が高くなることを防止でき、施工性を高いものとすることができる。フロー値比の測定は、JIS A 5041の方法に準じて行うことができる。
【0030】
無機質粉末として用いられる砂は、その密度が1.5~3.0g/cm3であることが好ましく、1.6~2.9g/cm3であることがより好ましく、1.7~2.8g/cm3であることが更に好ましい。密度が3.0g/cm3以下であれば、塗布剤中での砂の沈降を防止することができ、また、密度が1.5g/cm3以上であれば塗布剤施工後の耐久性を首尾よく発現させることができる。密度の測定は、JIS A 5041の方法に準じて行うことができる。
【0031】
無機質粉末として用いられる砂は、その湿分が1%以下であることが好ましく、0.75%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが更に好ましい。湿分が1%以下であれば、保管や塗布剤製造時の計量を首尾よく行うことができる。砂の湿分をこのような範囲とするためには、例えば乾燥等の方法で調節することができる。湿分の測定は、JIS A 5041の方法に準じて行うことができる。
【0032】
本発明の塗布剤では、無機質粉末としてフェロニッケルスラグを用いることができる。フェロニッケルスラグは、ステンレス鋼などの原料となるフェロニッケルの製造時に排出される残留物である。フェロニッケルスラグは、珪酸と酸化カルシウムとを主成分とする物質であり、具体的な構成成分として酸化カルシウム、二酸化ケイ素、酸化鉄、酸化マグネシウムなどを含み、安定した結晶構造を有するものである。フェロニッケルスラグは、黒色の粉末であるので、フェロニッケルスラグの含有量を調整することによって、所望の色調を有する塗布剤を簡便に得ることができる。
【0033】
無機質粉末として用いられるフェロニッケルスラグは、その粒度分布として、フェロニッケルスラグの全体量を100質量部としたときに、150μmふるい残分が10~50質量部であることが好ましく、15~40質量部であることがより好ましく、20~30質量部であることが更に好ましい。150μmふるい残分が50質量部以下であれば、粒子径の粗さに起因した色むらを防止することができる。また、150μmふるい残分が10質量部以上であれば、粒子径の細かさに起因した過度の粘性を防止して、塗布剤を施工性の高いものとすることができる。150μmふるい残分を上述の範囲とするためには、例えば粉砕等によって調整することができる。なお、フェロニッケルスラグの150μmふるい残分の測定は、JIS R 5201の方法に準じて行うことができる。
【0034】
無機質粉末として用いられるフェロニッケルスラグは、JIS Z 2601に規定される粒度指数が100~300であることが好ましく、130~270であることが好ましく、160~240であることが更に好ましい。粒度指数が300以下であれば、粒子径の細かさに起因した過度の粘性を防止して、塗布剤を施工性の高いものとすることができる。また、粒度指数が100以上であれば、粒子径の粗さに起因した色むらを防止することができる。
【0035】
無機質粉末として用いられるフェロニッケルスラグは、そのモース硬度が5~10であることが好ましく、6~9であることがより好ましく、7~8であることが更に好ましい。モース硬度が5以上であれば、塗布剤施工後の耐久性を良好なものとすることができる。
【0036】
無機質粉末として用いられる高炉スラグ微粉末は、モルタルやコンクリートの製造に一般的に用いられる高炉スラグを粉砕することによって得られるものであり、そのブレーン比表面積が2750~10000cm2/g程度のものである。このような高炉スラグ微粉末は、例えば、JIS A 6206に規定される高炉スラグ微粉末3000,4000,6000及び8000を使用することができる。
【0037】
無機質粉末として用いられるシリカフュームは、アルカリ溶液中で溶解する非晶質のSiO2を主成分とするものである。施工性に優れ、塗装むらが少ない塗布剤とする観点から、シリカフュームのBET比表面積は、10万~25万cm2/gであることが好ましく、15万~20万cm2/gであることが更に好ましい。
【0038】
無機質粉末として用いられる炭酸カルシウム粉は、炭酸カルシウムを主成分として含むものである。炭酸カルシウム粉としては、例えば石灰石又は化学的に製造された炭酸カルシウムを粉砕、分級したものである。施工性に優れ、塗装むらが少ない塗布剤とする観点から、炭酸カルシウム粉のブレーン比表面積は、1000~5000cm2/gであることが好ましく、2000~4000cm2/gであることが更に好ましい。
【0039】
無機質粉末として用いられるフライアッシュは、石炭火力発電所にて微粉炭を燃焼した際に生成する灰であって、電気集塵機等で回収される廃棄物である。フライアッシュとしては、例えば、JIS A 6201に規定されるフライアッシュII種を用いることができる。
【0040】
本発明の建設構造物用塗布剤は、プライマーと無機質粉末とを混合することで調製することができる。無機質粉末が沈降するのを防ぐために、更に分散剤等の他の成分を混合してもよい。分散剤としては、例えば脂肪酸の金属塩や脂肪酸エステル、低融点樹脂等が挙げられる。
【0041】
本発明の建設構造物用塗布剤の施工方法は、施工対象に対して、該塗布剤を刷毛又はローラーを用いて塗布するか、又は塗装用スプレーで吹き付けて、その後乾燥させることによって行うことができる。無機質粉末が沈降するのを防ぐとともに、施工後の良好な外観を得る観点からは、塗布剤を施工前にあらかじめ混合しておくことが好ましい。
【0042】
本発明の塗布剤を適用可能な施工対象としては、例えば住宅、ビル等の屋外又は屋内の建設構造物を構成するコンクリート及びモルタル等が挙げられる。塗布剤の施工量(塗布量)は、50~600g/m2が好ましく、100~400g/m2が更に好ましい。また、塗布剤施工後の乾燥条件としては、例えば、10~40℃で1~5時間とすることができる。
【0043】
以上のとおり、本発明の建設構造物用塗布剤は、撥水性,耐候性及び付着性に優れているので、安価且つ汎用性が高く、既設の建設構造物への施工性に優れ、塗装むらが少ないものとなる。また、無機質粉末の種類や含有量を調整することによって、色の調整が容易に可能なものである。更に、塗布剤の施工後も耐久性が高く、外部環境由来の劣化因子から建設構造物を保護できるものとなる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、特に言及しない限り、「%」は「質量%」を示す。
【0045】
1.使用材料
(1)基材モルタル
以下に示すセメント、細骨材及び混和剤と、水(上水道水)とを以下の表1に示す割合で混練して混練物とした後、該混練物を20℃の水中で養生し、強度が異なる3種類の基材モルタルを調製した。これらの基材モルタルは、塗布面の大きさが10cm×20cmの板状のものであった。
【0046】
・セメント:
普通ポルトランドセメント(C1)(宇部三菱セメント製、ブレーン比表面積3260cm2/g、密度3.16g/cm3、SO3量=2.31%)。
シリカフュームセメント(C2)(宇部三菱セメント製、ブレーン比表面積6390cm2/g、密度3.08g/cm3、SO3量=2.12%)。
【0047】
・細骨材:
混合砂(S1)(表乾密度2.62g/cm3、吸水率1.69%、粗粒率2.66)。
山砂(S2)(表乾密度2.62g/cm3、吸水率1.75%、粗粒率2.64)。
【0048】
・混和剤:
チューポールEX20(AD)(竹本油脂社製、AE減水剤)。
マスターグレニウムSP8S(SP1)(BASFジャパン社製、高性能AE減水剤)。
マスターグレニウムSP8HU(SP2)(BASFジャパン社製、高性能AE減水剤、超高強度コンクリート用)。
【0049】
【0050】
(3)建設構造物用塗布剤の調製
プライマーと、無機質粉末とを表2に示す割合で混合し、建設構造物用塗布剤を調製した。各々の特性は以下の通りである。
・プライマー(X):
(特性)粘度=120mPa・s(23℃)、Tg=-8℃、pH=7.0、エマルション粒子径=180nm、固形分濃度=47%。
(主成分)スチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体。
【0051】
・無機質粉末(Y):
(Y1)砂として砕石粉を使用した。砕石粉:150μmふるい残分=0.3%、活性度指数=68%、フロー値比=91%、密度=2.73g/cm3、湿分=0.33以下。
(Y2)フェロニッケルスラグ:150μmふるい残分=22.2%、粒度指数=211.5(JIS Z 2601に準じて測定)、モース硬度=7.5。
【0052】
上述した建設構造物用塗布剤を基材モルタルに塗布し、乾燥させたものを、実施例1~20及び比較例1~19とした。詳細は以下のとおりである。塗布剤の施工量(塗布量)は約300g/m2とし、乾燥条件は室温で1時間とした。
【0053】
<実施例1~6>
建設構造物用塗布剤として、(X)プライマー(固形分)100質量部と、(Y1)砕石粉100~150質量部とをビーカーに入れ、さじを用いて十分に分散するまで30秒間混合したものを、サイズ30mmの刷毛を用いて各強度の基材モルタルの塗布面全面に塗布した。
【0054】
<実施例7~8>
(X)プライマー100(固形分)質量部と、(Y2)フェロニッケルスラグ100~150質量部を混合して建設構造物用塗布剤を得た。また、この塗布剤をサイズ30mmの刷毛を用いて超高強度の基材モルタルの塗布面全面に塗布した。
【0055】
<実施例9~14>
(X)プライマー100(固形分)質量部、(Y1)砕石粉70~105質量部、及び(Y2)フェロニッケルスラグ30~45質量部を混合して建設構造物用塗布剤を得た。また、この塗布剤をサイズ30mmの刷毛を用いて各強度の基材モルタルの塗布面全面に塗布した。
【0056】
<比較例1~3>
(X)プライマー単独のものを建設構造物用塗布剤として、実施例1と同様に塗布した。この塗布剤をサイズ30mmの刷毛を用いて各強度の基材モルタルの塗布面全面に塗布した。
【0057】
<比較例4~9>
(X)プライマー(固形分)100質量部と(Y1)砕石粉20~50質量部とを混合して建設構造物用塗布剤を得た。また、この塗布剤をサイズ30mmの刷毛を用いて高強度の基材モルタルの塗布面全面にそれぞれ塗布した。
【0058】
<比較例10~15>
(X)プライマー(固形分)100質量部と(Y2)フェロニッケルスラグ20~50質量部とを混合して建設構造物用塗布剤を得た。また、この塗布剤をサイズ30mmの刷毛を用いて各強度の基材モルタルの塗布面全面に塗布した。
【0059】
<比較例16~21>
(X)プライマー(固形分)100質量部、(Y1)砕石粉14~35質量部、及び(Y2)フェロニッケルスラグ6~15質量部とを混合して建設構造物用塗布剤を得た。また、この塗布剤をサイズ30mmの刷毛を用いて各強度の基材モルタルの塗布面全面に塗布した。
【0060】
(4)評価
実施例及び比較例で調製した建設構造物用塗布剤の施工性と、基材モルタルへ塗布して乾燥させた後の状態(塗装むら及び光沢)を目視で評価した。評価基準は以下のとおりとした。評価結果を表2及び
図1~4に示す。
【0061】
<施工性>
◎:施工性が非常に良好である。
○:施工性が概ね良好である。
△:施工性がやや良好である。
×:施工性が悪い。
【0062】
<塗装むら>
◎:塗装面に塗装むらがなく、非常に良好な外観である。
○:塗装面の一部に塗装むらが見られるものの、良好な外観である。
△:塗装面に塗装むらが見られるものの、問題のない外観である。
×:塗装面に塗装むらが多く見られ、外観が悪い。
【0063】
<光沢>
◎:塗布面の全面に光沢があり、非常に見栄えが良い。
○:塗布面の一部に光沢があり、見栄えが良い。
△:光沢がやや不十分であるものの、問題のない見栄えである。
×:光沢がないか、又は光沢が強すぎて、見栄えが悪い。
【0064】
表2に示すように、砕石粉を所定量混合した実施例1~6(
図1参照)は、プライマーのみを塗布した比較例1~3(
図3参照)や、砕石粉の混合割合が少ない比較例4~9(
図3参照)と比較して、いずれの基材モルタルを対象とした場合でも、施工性が良く、塗装むらが少なく、且つ光沢が良好に発現できる塗布剤であることが判る。
【0065】
なお、
図3に示すように、比較例1~3は表面の光沢が強すぎて、建設構造物用塗布剤としては不適であった。また、比較例4~9は、無機質粉末である砕石粉の混合量が少ないことに起因して、光沢や施工性に劣っていた。
【0066】
また表2に示すように、比較例10~15(
図3及び
図4参照)は、無機質粉末として、黒色の微粉末であるフェロニッケルスラグのみを含むことに起因して、フェロニッケルスラグを含有する塗布剤は、塗布後の光沢が不十分であると考えられる。
【0067】
更に、表2に示すように、砕石粉及びフェロニッケルスラグを所定の割合で混合した実施例9~14(
図1及び
図2参照)は、これらの混合量が少ない比較例16~21(
図4参照)と比較して、いずれの基材モルタルを対象とした場合でも、施工性が良く、塗装むらが少なく、且つ光沢が良好に発現できる塗布剤であることが判る。
【0068】
以上のとおり、本発明の建設構造物用塗布剤によれば、安価且つ汎用性が高く、既設構造物への施工性に優れ、色むら等の塗装むらが少なく、色の調整が容易に可能であるとともに、外部環境由来の劣化因子から建設構造物を保護できる建設構造物用塗布剤が提供される。
【0069】