(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】焼成後冷凍パン類及び焼成後冷凍パン類用組成物
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20220809BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20220809BHJP
A21D 15/02 20060101ALI20220809BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/00
A21D15/02
A21D2/26
(21)【出願番号】P 2018094917
(22)【出願日】2018-05-16
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/133836(WO,A1)
【文献】特開2007-244306(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1806564(CN,A)
【文献】国際公開第2005/107480(WO,A1)
【文献】国際公開第91/004669(WO,A1)
【文献】特開2019-180268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉と、
α化澱粉と、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤と、
マルトース生成アミラーゼと、
を含有する焼成後冷凍パン類
用組成物。
【請求項2】
前記α化澱粉は、リン酸架橋を有するα化加工澱粉である、請求項1に記載の焼成後冷凍パン類用組成物。
【請求項3】
前記α化澱粉と前記増粘剤との配合比が、1.0~10:0.1~2.0である、請求項1
又は2記載の焼成後冷凍パン類
用組成物。
【請求項4】
前記マルトース生成アミラーゼとして、少なくともβ-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼが用いられた、請求項
1から3のいずれか一項に記載の焼成後冷凍パン類
用組成物。
【請求項5】
前記β-アミラーゼとして5.0単位
以上用いられた、請求項
4記載の焼成後冷凍パン類
用組成物。
【請求項6】
前記マルトース生成α-アミラーゼとして3.0~30.0単位用いられた、請求項
4又は
5に記載の焼成後冷凍パン類
用組成物。
【請求項7】
β-アミラーゼとして5.0単位以上及びマルトース生成α-アミラーゼとして3.0~30.0単位が用いられた、請求項4から6のいずれか一項に記載の焼成後冷凍パン類用組成物。
【請求項8】
小麦粉と、
α化澱粉と、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤と、
マルトース生成アミラーゼと、
が用いられた焼成後冷凍パン
類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成後冷凍パン類に関する。より詳しくは、焼成後に冷凍して保存、流通等を行い、喫食時には解凍・再加熱を行う、焼成後冷凍パン類及び焼成後冷凍パン類用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ベーカリー業界において、焼成後に冷凍し、喫食時には解凍・再加熱を行う焼成後冷凍パン類の開発が進められている。焼成後冷凍パン類は、焼き立てのパンの提供の簡便さ、必要時に必要な量を解凍・再加熱して提供できるため、製品ロスが低減できることから、その市場は、ベーカリー、スーパーマーケット、ホテル、レストラン等や、一般消費者において、急激に成長しており、それに伴い、焼成後冷凍パン類の技術革新がなされつつある。
【0003】
例えば、特許文献1では、表面生地における油脂量が10質量%以上の焼成済パンの表面に糖類(単糖を除く)を付着させた後、凍結させることにより、再加熱処理による表面の焦げが低減されたパンが得られる焼成済冷凍パンの製造技術が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2では、焼成後のパン類の表面に加水処理を行った後、真空冷却することにより、焼成後のパン類を、良好な食感及び風味を保たせつつ迅速に冷却するためのパン類の冷却技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-21992号公報
【文献】特開2012-120469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、焼成後冷凍パン類の品質を向上させる技術は、様々に開発が進められているが、冷凍前の品質の維持が難しいといった問題があった。焼成後冷凍パン類は、焼成前の生地を冷凍する冷凍生地とは異なり、焼成後に冷凍を行うため、凍結、冷凍保管や冷凍流通の過程で生じる影響が、製品の品質に直接影響を与え、冷凍前の品質が損なわれてしまう。具体的には、焼成により外皮と内相の水分勾配が生じた状態で、凍結、冷凍保管や冷凍流通の過程を経る間に内部に保持された水分の減少が生じ、外皮はより硬く、内相は縮みが生じて外皮との分離が発生するといった問題が生じていた。
【0007】
また、再加熱を行うことで、さらにパンの水分量が減少し、その結果、再加熱後のパン類は老化が早く、食感が低下するといった問題もあった。
【0008】
そこで、本発明では、焼成後冷凍パン類において、冷凍前の品質を維持するために、保存・流通時の外観の品質を保ちつつ、再加熱後の喫食時における食感の低下を防止する技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、焼成後冷凍パン類の製造技術について鋭意研究を行った結果、特定の2つの成分を組み合わせることにより、冷凍前の品質を維持することが可能となり、保存・流通時の外観の品質を保ちつつ、再加熱後の喫食時においても本来の食感が保たれた焼成後冷凍パン類を製造することに成功し、本発明完成させるに至った。
【0010】
即ち、本技術では、まず、
α化澱粉と、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤と、
が用いられた焼成後冷凍パン類を提供する。
本技術に係る焼成後冷凍パン類では、前記α化澱粉と前記増粘剤との配合比を、1.0~10:0.1~2.0とすることができる。
本技術に係る焼成後冷凍パン類には、更に、マルトース生成アミラーゼを用いることができる。
本技術に係る焼成後冷凍パン類において、前記マルトース生成アミラーゼとしては、少なくともβ-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼを用いることができる。
この場合、前記β-アミラーゼとして5.0~100.0単位用いることができる。
また、前記マルトース生成α-アミラーゼとして3.0~30.0単位用いることができる。
【0011】
本技術では、次に、
α化澱粉と、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤と、
を含有する焼成後冷凍パン類用組成物を提供する。
本技術に係る焼成後冷凍パン類用組成物には、更に、マルトース生成アミラーゼを含有させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本技術によれば、焼成後冷凍パン類において、冷凍前の品質を維持することが可能となり、保存・流通時の外観の品質を保ちつつ、再加熱後の喫食時における食感の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
<焼成後冷凍パン類>
本技術に係る焼成後冷凍パン類は、(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、が用いられる。また、その他の成分として、(3)マルトース生成アミラーゼや(4)その他パン類に用いることができる成分を用いることもできる。以下、各成分について詳細に説明する。
【0015】
(1)α化澱粉
α化澱粉は、水分とともに加熱することにより糊化した澱粉を、ドラムドライヤーやスプレードライヤー等を用いて急激に脱水乾燥して得られ、加熱を必要とせず、冷水で膨潤糊化するのが特徴である。
【0016】
本技術に係る焼成後冷凍パン類に用いるα化澱粉は、好ましくはα化加工澱粉であり、より好ましくは架橋処理を施したα化架橋澱粉である。α化架橋澱粉を用いることで、混捏時の生地のべたつきをより効率よく抑制することができる。
原料澱粉は、植物から抽出した澱粉、及びこれらに化学的加工を施した加工澱粉であれば、特に制限はない。例えば、馬鈴薯澱粉、餅種(以下、糯種またはワキシーともいう)の馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、餅米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、化学的に加工を施した加工澱粉が挙げられる。加工澱粉としては、どのような種類の加工澱粉でもよく、例えば、酵素処理澱粉;酸化澱粉;酸処理澱粉;酢酸澱粉(アセチル化澱粉)等のエステル化澱粉;リン酸化澱粉;ヒドロキシプロピル化澱粉等のエーテル化澱粉;リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉等の架橋澱粉;アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等の複数の加工を組み合わせた加工澱粉等が挙げられる。これらの原料澱粉を常法によってα化処理したものを単独または複数混合して使用することができる。本技術においては、リン酸架橋を有するα化加工澱粉を用いるのが特に好ましい。そして、本技術において、α化澱粉は、粉末状、糊状など任意の状態で用いることができる。
【0017】
本技術に係る焼成後冷凍パン類に用いるα化澱粉の含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、焼成後冷凍パン類に用いる穀粉(α化澱粉を含む、以下同じ)を100質量部とした場合に、1.0~10.0質量部とすることが好ましく、1.5~8.0質量部とすることがより好ましく、2.0~8.0質量部とすることがさらに好ましい。α化澱粉の含有量を1.0質量部以上とすることで、保存・流通時の外皮の剥がれや外皮と内相との分離の発生を抑制し、焼成後冷凍パン類の外観を良好に保つことができる。また、再加熱後の喫食時においても、本来の食感を保つことが可能である。また、10.0質量部以下とすることで、生地のべたつきを防止し、製パン時の作業性及び保形性を向上させることができる。
【0018】
(2)増粘剤
本技術に係る焼成後冷凍パン類に用いる増粘剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」ともいう)、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ともいう)、ガム質から1種又は2種以上選択して用いることができる。ガム質としては、本技術の効果を損なわない限り、公知のガム質を1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム、グアガム、タラガム等が挙げられる。
【0019】
本技術において、増粘剤としては、再加熱後の喫食時における食感の低下を防止する観点からは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガムから1種又は2種以上選択して用いることが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースを用いることが、より好ましい。
【0020】
本技術に係る焼成後冷凍パン類に用いる増粘剤の含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、焼成後冷凍パン類に用いる穀粉100質量部に対して、0.1~2.0質量部とすることが好ましく、0.2~0.7質量部とすることがより好ましい。増粘剤の含有量を0.1質量部以上とすることで、保存・流通時の外皮の剥がれや外皮と内相との分離の発生を抑制し、焼成後冷凍パン類の外観を良好に保つことができる。また、再加熱後の喫食時においても、本来の食感を保つことが可能である。また、2.0質量部以下とすることで、必要加水量が増えすぎるのを防止し、製パン時の作業性やパン類の保形性を向上させることができる。
【0021】
本技術に係る焼成後冷凍パン類において、α化澱粉と増粘剤との配合比は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができるが、1.0~10:0.1~2.0とすることが好ましく、1.5~8:0.2~0.7とすることがより好ましい。この範囲に設定することで、保存・流通時の外皮の剥がれや外皮と内相との分離の発生を抑制し、焼成後冷凍パン類の外観を良好に保つことができる。また、再加熱後の喫食時においても、本来の食感を保つことが可能である。
【0022】
(3)マルトース生成アミラーゼ
本技術に係る焼成後冷凍パン類は、前記α化澱粉及び前記増粘剤と共に、更に、マルトース生成アミラーゼを用いることで、再加熱後の喫食時においても、そのパン類本来の食感を保つことができる。マルトース生成アミラーゼとしては、具体的に、β-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼを用いることができる。ここで、マルトース生成α-アミラーゼとは、一般的なカビ由来のα―アミラーゼと違い、マルトースを主体とするオリゴ糖を生成するα―アミラーゼであり、市販品としてはノボザイムズジャパン社のノバミルシリーズ(ノバミル3DBG、ノバミル10000BG)などが挙げられる。また、過剰に添加した場合にも、焼成後冷凍パン類の外観及び食感に悪影響のないことから、β-アミラーゼを選択して用いることがより好ましい。なお、マルトース生成アミラーゼ(β-アミラーゼ、マルトース生成α-アミラーゼ)と共に、本技術の効果を損なわない範囲において、一般的なカビ由来α―アミラーゼとを、併用することも可能である。
【0023】
本技術に係る焼成後冷凍パン類にβ-アミラーゼを用いる場合、その含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、5.0単位以上とすることが好ましく、6.0単位以上とすることがより好ましく、10.0~150.0単位とすることがさらに好ましい。β-アミラーゼの含有量を5.0単位以上とすることで、保存・流通時の外皮の剥がれや外皮と内相との分離の発生を抑制し、焼成後冷凍パン類の外観を良好に保つことができる。また、再加熱後の喫食時においても、本来の食感を保つことが可能である。なお、150単位を超えて添加しても問題ないが、後述する実施例に示す通り、150単位を超えて添加しても、その効果に変化がなく、また96単位の添加でも高い効果を発揮するため、コスト削減の観点からは、150単位以下とすることが好ましく、100単位以下とすることがより好ましい。
【0024】
また、本技術に係る焼成後冷凍パン類にマルトース生成α-アミラーゼを用いる場合、その含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、3.0~30.0単位とすることが好ましく、5.0~25.0単位とすることがより好ましい。マルトース生成α-アミラーゼの含有量を3.0単位以上とすることで、保存・流通時の外皮の剥がれや外皮と内相との分離の発生を抑制し、焼成後冷凍パン類の外観を良好に保つことができる。また、再加熱後の喫食時においても、本来の食感を保つことが可能である。また、30.0単位以下とすることで、必要加水量が増えすぎるのを防止し、製パン時の作業性やパン類の保形性を向上させることができる。
【0025】
さらには、本技術に係る焼成後冷凍パン類には、マルトース生成α-アミラーゼとβ-アミラーゼを併用することもでき、併用する場合であってもそれぞれ上記の酵素単位の範囲で用いればよい。
【0026】
なお、β-アミラーゼの上記「1単位」とは、第四版既存添加物自主規格(日本食品添加物協会、2008年10月16日発刊)記載のデンプン糖化力測定法に従い測定した、1分間に1mgのブドウ糖に相当する還元力の増加をもたらす酵素量を示す。
【0027】
マルトース生成α-アミラーゼの上記「1単位」とは、マルトトリオースを基質として酵素を作用させ、1分間に1μmolのマルトースを生成する酵素量を示す。マルトースの測定は、還元糖の定量法第2版(福井作蔵著 学会出版センター)を参照して行うことができる。
【0028】
(4)その他
本技術に係る焼成後冷凍パン類は、前述した(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、(3)マルトース生成アミラーゼの他に、従来からパン類に用いられている材料や添加物を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉等の穀粉類;前記α化澱粉以外の澱粉類(加工澱粉類を含む);大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳などの蛋白素材;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維;澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトース等の糖質類;食塩、炭酸カルシウム等の無機塩類;膨張剤、前記増粘剤以外の増粘剤、乳化剤、前記マルトース生成アミラーゼ以外の酵素製剤、pH調整剤、ビタミン類、イースト、イーストフード、膨張剤、甘味料、香辛料、調味料、ミネラル類、色素、香料などを適宜含有させることができる。なお、本技術における加水量増加の効果を確実にするため、パン類の骨格形成を補助する目的で小麦グルテンを含有させること又は穀粉の一部に超強力粉を用いることがより好ましい。
【0029】
本技術に係る焼成後冷凍パン類が適用可能なパン類の種類としては、特に限定されず、あらゆる種類のパン類に適用することが可能である。焼成後冷凍パン類の中でも、配合がリーンになるほど、保存・流通時の外皮の剥がれや外皮と内相との分離の発生頻度が高くなり、また食感の劣化も顕著に現れる。本技術はリーンな配合のパン類、特にハード系パン類において、顕著な改善効果が得られる点で優位性がある。リーンな配合のパン類としては、例えば、フランスパン等のハード系パン類;山型食パン、角型食パン等の食パン類;ソフトフランスパン等が挙げられる。
【0030】
<焼成後冷凍パン類用組成物>
本技術に係る焼成後冷凍パン類用組成物は、前述した(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、を含有することを特徴とする。また、(3)マルトース生成アミラーゼや(4)その他の成分として、パン類に用いることができる成分を用いることもできる。本技術に係る焼成後冷凍パン類用組成物は、(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、を含有することで、保存・流通時の外皮の剥がれや外皮と内相との分離の発生を抑制し、焼成後冷凍パン類の外観を良好に保つことができる。また、再加熱後の喫食時においても、本来の食感を保つことが可能である。
【0031】
なお、α化澱粉、増粘剤、マルトース生成アミラーゼ、及びその他の成分の詳細は、前述した焼成後冷凍パン類と同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0032】
本技術に係る焼成後冷凍パン類用組成物は、少なくとも前述した(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、前記材料や添加物とを混合して得られるパン類用ミックスとして流通させる形態を採用することができる。またパン類用ミックスには、(3)マルトース生成アミラーゼを混合することもできる。
【0033】
<焼成後冷凍パン類の製造方法>
本技術に係る焼成後冷凍パン類は、一般的に用いる製パン方法にてパン類を製造し、その焼成工程において、半焼成時又は焼成後に、冷凍(凍結)を行うことで、製造することができる。
【0034】
本技術で用いることができる製パン方法は、特に限定されず、パンの種類や目的に応じて自由に選択することができる。例えば、ストレート法、中種法、発酵種法、湯種法等、公知の様々な方法を用いることができる。
【0035】
本技術で用いることができる冷凍方法(凍結方法)も、特に限定されず、公知の冷凍方法(凍結方法)を自由に選択することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0037】
なお、特に記載のない限り、本実施例で使用した各材料は、以下の通りである。
強力粉:ハイネオン(昭和産業株式会社)
α化澱粉A:α化エーテル化リン酸架橋馬鈴薯澱粉
α化澱粉B:α化リン酸架橋タピオカ澱粉
CMC:サンローズF(日本製紙株式会社)
HPMC:メトセルF50(ユニテックフーズ株式会社)
キサンタンガム:ウルトラキサンタン(伊那食品工業株式会社)
マルトース生成アミラーゼ:ノバミル(登録商標)10000BG(ノボザイムズジャパン株式会社)
β-アミラーゼ:βアミラーゼFアマノ(天野エンザイム株式会社)
【0038】
<実験例1>
実験例1では、焼成後冷凍パン類を製造する場合において、各種成分の配合効果を調べた。なお、本実験例では、パン類の一例として、フランスパンを製造した。
【0039】
(1)焼成後冷凍パン類の製造
[参考例1、参考例1-1~3、実施例4、5、参考例6~11、実施例12~18、比較例1及び2]
下記表1に記載の配合の材料を、低速で8分、中速で10分ミキシングして、混捏生地を調製した。生地の捏上温度は、24℃とした。調製した混捏生地について、室温で60分間フロアタイムをとった後、300gに分割して丸めた。その後、室温で20分間のベンチタイムをとった後、バゲットモルダーを使用してバゲット型に成形して、28℃、湿度70%で60分間のホイロをとった後、蒸気を使用し、230℃で25分間焼成してフランスパンを得た。得られたフランスパンを、室温にて粗熱をとった後、-30℃にて急速冷凍して、焼成後冷凍フランスパンを製造した。
【0040】
(2)評価
前記で製造した参考例1、参考例1-1~3、実施例4、5、参考例6~11、実施例12~18、比較例1及び2に係る焼成後冷凍パン類(焼成後冷凍フランスパン)を、-18℃にて4週間、冷凍保存した後、下記の評価基準に基づいて、クラスト部(外皮、以下同じ)の状態、及びクラム部(内相、以下同じ)とクラスト部の境界の状態を評価した。なお、クラスト部の状態は自然解凍後の状態を観察し、クラム部とクラスト部の境界の状態は自然解凍の後、再加熱を行い、包丁で輪切りにした断面を観察した。
【0041】
[クラスト部の状態]
◎:冷凍前の状態を保っており、商品価値高い
○:品質上問題となる不具合はなく、良好
△:細かな欠損部位はあるが許容範囲内である
×:欠損部位があり、外観劣る
××:大きな欠損部位があり、商品価値なし
【0042】
[クラム部とクラスト部の境界の状態]
○:クラム部とクラスト部の分離(隙間)は認められず、良好な状態である
△:クラム部とクラスト部に僅かな分離(隙間)があるが許容範囲内である
×:クラム部とクラスト部に一部分離(隙間)がみられる
××:クラム部が縮み、クラスト部と明らかに分離し、商品価値なし
【0043】
また、前記で製造した参考例1、参考例1-1~3、実施例4、5、参考例6~11、実施例12~18、比較例1及び2に係る焼成後冷凍パン類を、自然解凍後、220℃で3分間再加熱した後の喫食時において、下記の評価基準に基づいて、食感を評価した。
【0044】
[食感]
10名の専門パネルにより、下記の評価基準に基づいて、食感の評価を行った。10名の専門パネルの評価点の平均値を算出した値を評価点とした。
5:非常にソフトで、しっとりとした食感であり、優れている
4:しっとりとした食感で好ましい
3:通常製法での標準的な食感である
2:やや引きがあり、劣る
1:ヒキが強く、明らかに老化している
【0045】
(3)結果
結果を下記表1に示す。
【0046】
【0047】
(4)考察
表1に示す通り、増粘剤を用いていない比較例1は、再加熱後の食感評価が劣り、α化澱粉を用いていない比較例2は、クラスト部に大きな欠損部位があり、クラム部とクラスト部に一部分離が見られた。これに対して、α化澱粉と、増粘剤とを併用した参考例1-1~3、実施例4、5、参考例6~11、実施例12~18は、外観の状態も問題なく、再加熱後の食感評価も良好であった。
【0048】
実施例内で比較すると、マルトース生成アミラーゼを使用した実施例4、5、12~18の方が、マルトース生成アミラーゼを使用していない実施例1に比べて、再加熱後の食感がより向上していることが分かった。
【0049】
実施例1~3の結果から、α化澱粉や増粘剤の種類を変更しても、本技術の効果を得られることが分かった。
また、実施例4及び5の結果から、マルトース生成アミラーゼを用いる場合に、その種類を変更しても、本技術の結果を得られることが分かった。
【0050】
実施例6~9の結果から、焼成後冷凍パン類に用いる穀粉(α化澱粉を含む、以下同じ)を100質量部とした場合に、α化澱粉の使用量を2.0~8.0質量部とすることがより好ましいことが分かった。
【0051】
実施例10及び11の結果から、焼成後冷凍パン類に用いる穀粉(α化澱粉を含む、以下同じ)を100質量部とした場合に、増粘剤の使用量を0.2~0.7質量部の範囲とした方が、より外観の品質を向上できることが分かった。
【0052】
実施例4、12~16の結果から、マルトース生成アミラーゼとしてβ-アミラーゼを用いる場合、再加熱後の食感が用量依存的に向上することが分かったが、150単位を超えて添加しても、その効果に変化がなく、また96単位の添加でも高い効果を発揮するため、コスト削減の観点からは、150単位以下とすることが好ましく、100単位以下とすることがより好ましいことが分かった。
【0053】
実施例5、17及び18の結果から、マルトース生成アミラーゼとしてマルトース生成α-アミラーゼを用いる場合、用量を多くすると、再加熱後の食感が低下することが分かり、3.0~30.0単位とすることが好ましく、5.0~25.0単位とすることがより好ましいことが分かった。
【0054】
<実験例2>
実験例2では、各種バラエティでの効果の確認を行った。
【0055】
(1)実施例19:ソフトフランスパン
下記表2の配合、工程にて、焼成冷凍ソフトフランスパンを製造した。冷凍保存4週間後に、自然解凍を行い、次いでオーブンにて220℃3分間の再加熱を行い、ソフトフランスパンを得た。自然解凍後の外観(クラスト部の状態)は良好であった。再加熱後4時間経過後に、パン切り包丁にてカットし、断面の観察(クラム部とクラスト部の境界の状態)を行い、さらに食味評価を行った。断面観察では、クラム部とクラスト部の分離は認められず良好な状態であった。また食味評価では、しっとりとした食感で、美味であった。
【0056】
(2)実施例20:ロールパン
下記表2の配合、工程にて、焼成冷凍ロールパンを製造した。冷凍保存4週間後に、自然解凍を行い、次いでオーブンにて200℃3分間の再加熱を行い、ロールパンを得た。自然解凍後の外観(クラスト部の状態)は良好であった。再加熱後4時間経過後に、パン切り包丁にてカットし、断面の観察(クラム部とクラスト部の境界の状態)を行い、さらに食味評価を行った。断面観察では、クラム部とクラスト部の分離は認められず良好な状態であった。また食味評価では、しっとりとした食感で、美味であった。
【0057】