(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】抵抗体膜の製造方法及び抵抗体膜
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20220809BHJP
H01L 37/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H01L21/316 Y
H01L37/00
(21)【出願番号】P 2018170097
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2018091636
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】露木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 勲
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0167592(US,A1)
【文献】特開平07-331430(JP,A)
【文献】特開2011-246759(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073711(WO,A1)
【文献】特開2016-216688(JP,A)
【文献】特開平02-038310(JP,A)
【文献】特表2002-516813(JP,A)
【文献】特開2013-207130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性スパッタリング法により、被処理体上に酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜の製造方法であって、
タングステンバナジウム(WV)からなるターゲットを用い、
減圧可能なチャンバ内において、前記被処理体の被処理面に対して、前記ターゲットから飛翔したスパッタ粒子を斜め入射させると共に、
プラズマを励起させるプロセスガス
として、
前記ターゲットの近傍に配置された第一プロセスガス導入手段からアルゴンからなる第一プロセスガスを導入し、
前記被処理体の被処理面の一方の外縁付近に配置された第二プロセスガス導入手段から、第二プロセスガスを前記被処理体の被処理面に対して平行を成し、かつ、前記被処理体の被処理面の上空を通過するように流し
て、
前記スパッタ粒子が、前記被処理体の被処理面に付着する前に前記第二プロセスガスが流れる雰囲気中を通過して、前記第二プロセスガスの影響を受けた後に前記被処理体の被処理面に付着して堆積することで、前記被処理面を覆うように所望の抵抗体膜を形成する際に、
前記被処理体の被処理面をその面内において回転させて、
前記被処理体の被処理面における成膜温度を25℃~200℃とし、
前記
第二プロセスガスとして酸素とアルゴンからなる混合ガスを用い
るとともに、酸素の流量をF1、アルゴンの流量をF2とした場合に、酸素流量比{F1/(F1+F2)}の値を、
{10/(10+50)}~{30/(30+50)}
の範囲として、
1回の成膜工程によりタングステン(W)とバナジウム(V)と酸素(O)の各比率を制御した前記抵抗体膜を成膜する、ことを特徴とする抵抗体膜の製造方法。
【請求項2】
前記ターゲットとしてV-5at%Wからなる合金を用い、前記抵抗体膜における膜中のタングステン(W)の含有量が3~7[at%]の範囲内となるように、前記混合ガスにおける前記酸素の流量と前記アルゴンの流量との流量比を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の抵抗体膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造方法によって製造された酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜であって、
前記抵抗体膜は、タングステン(W)、バナジウム(V)及び酸素(O)を含み、該膜中における前記タングステン(W)の含有量が3~7[at%]の範囲内であ
り、比抵抗値が0.3~1[Ω・cm]の範囲内である、ことを特徴とする抵抗体膜。
【請求項4】
抵抗温度係数(TCR)
の絶対値が2.5[@300K(%/K)]以上である、ことを特徴とする請求項3に記載の抵抗体膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗温度係数(TCR)の高い酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜の製造方法及び抵抗体膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化バナジウム薄膜の諸特性に着目した各種の電子デバイスの開発が進められている。このような電子デバイスとしては、たとえば、高TCRに着目した赤外線カメラや赤外線センサ、イオン伝導に着目したLi電池キャパシタ、金属絶縁体転移に着目したスマートガラスやReRAM、NIRスイッチ、チューナブルデバイス、エレクトロクロミックに着目した電子ペーパー、等が挙げられる。
【0003】
中でも、赤外線センサは、IRフォトンと電子との相互作用を利用するフォトン方式と、温度変化による電気特性の変化を検出するサーマル方式と、に大別される。
フォトン方式は、感度が大きく、応答速度が大きい、というメリットがある反面、77Kまで冷却が必要、感度の波長依存性が大きい、というデメリットがある。
サーマル方式は、冷却不要、感度の波長依存性が小さい、というメリットがある反面、感度が小さい、応答速度が小さい、というデメリットがある。
【0004】
しかしながら、サーマル方式は、MEMS技術の発達により、センシング部の熱容量を極めて小さくできるようになり、高速応答が可能になった。また、消費電力が極めて小さく、かつ、空間分解能も格段に向上した。このため、サーマル方式は現在、主流になっている。
【0005】
このサーマル方式としては、焦電方式、ボロメータ方式、熱電対方式、ダイオード方式、等が挙げられる。その中でも、電磁波(たとえば赤外線)の吸収による温度変化を、ボロメータ材料の抵抗値の変化として検出するボロメータ方式が最も使用されている。ボロメータ材料としては、VOx(酸化バナジウム),a-Si(アモルファスシリコン),YBCO(イットリウム系超伝導体)、等が好適に用いられる。ボロメータ方式は、検出波長が選択可能というメリットを備えている。
【0006】
ボロメータ方式による温度センサ(たとえば
図10)は、赤外線の吸収による赤外線吸収膜514の温度変化に伴って、ボロメータ材料501の抵抗値が変化する現象を利用している(
図9)。このため、温度変化に対する抵抗値の変化が大きければ大きいほど、温度センサとして感度の高いものが得られる。ゆえに、
図11に示すように、ボロメータ材料としては、抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)の絶対値が大きいことが好ましい。一方、消費電力や発熱などの観点から、ボロメータ材料の比抵抗は小さいことが望ましい。
【0007】
特許文献1には、VO2を主成分とし、かつ、W、Nb、MoおよびTiの少なくとも1種を添加元素として含む、薄膜からなる抵抗体を備えた抵抗素子が開示されている。この薄膜は、複数の層状領域をその厚み方向に分布させていて、これら層状領域を、隣り合うものの間で、前記添加元素の添加量を異ならされている。これにより、特許文献1の抵抗素子は、比較的任意の温度で、ある程度の温度幅をもって、大きな抵抗変化率を示すことが記載されている。
【0008】
特許文献1の抵抗素子は、複数の層状領域を有する薄膜が必須であり、このような薄膜を得るためには数多くの工程を経る必要があるため、製造コストが嵩む虞があった。これを解消ため、抵抗温度係数(TCR)が高い酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を、簡易な製造工程で形成することが可能な、抵抗体膜の製造方法及び抵抗体膜の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、抵抗温度係数(TCR)が高い酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を、簡易な製造工程で形成することが可能な、抵抗体膜の製造方法及び抵抗体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載の抵抗体膜の製造方法は、反応性スパッタリング法により、被処理体上に酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜の製造方法であって、タングステンバナジウム(WV)からなるターゲットを用い、減圧可能なチャンバ内において、前記被処理体の被処理面に対して、前記ターゲットから飛翔したスパッタ粒子を斜め入射させると共に、プラズマを励起させるプロセスガスとして、前記ターゲットの近傍に配置された第一プロセスガス導入手段からアルゴンからなる第一プロセスガスを導入し、前記被処理体の被処理面の一方の外縁付近に配置された第二プロセスガス導入手段から、第二プロセスガスを前記被処理体の被処理面に対して平行を成し、かつ、前記被処理体の被処理面の上空を通過するように流して、前記スパッタ粒子が、前記被処理体の被処理面に付着する前に前記第二プロセスガスが流れる雰囲気中を通過して、前記第二プロセスガスの影響を受けた後に前記被処理体の被処理面に付着して堆積することで、前記被処理面を覆うように所望の抵抗体膜を形成する際に、前記被処理体の被処理面をその面内において回転させて、前記被処理体の被処理面における成膜温度を25℃~200℃とし、前記第二プロセスガスとして酸素とアルゴンからなる混合ガスを用いるとともに、酸素の流量をF1、アルゴンの流量をF2とした場合に、酸素流量比{F1/(F1+F2)}の値を、
{10/(10+50)}~{30/(30+50)}
の範囲として、1回の成膜工程によりタングステン(W)とバナジウム(V)と酸素(O)の各比率を制御した前記抵抗体膜を成膜する、ことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の抵抗体膜の製造方法は、請求項1において、前記ターゲットとしてV-5at%Wからなる合金を用い、前記抵抗体膜における膜中のタングステン(W)の含有量が3~7[at%]の範囲内となるように、前記混合ガスにおける前記酸素の流量と前記アルゴンの流量との流量比を制御する、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に記載の抵抗体膜は、請求項1または請求項2に記載の製造方法によって製造された酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜であって、前記抵抗体膜は、タングステン(W)、バナジウム(V)及び酸素(O)を含み、該膜中における前記タングステン(W)の含有量が3~7[at%]の範囲内であり、比抵抗値が0.3~1[Ω・cm]の範囲内である、ことを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の抵抗体膜は、請求項3において、抵抗温度係数(TCR)の絶対値が2.5[@300K(%/K)]以上である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る抵抗体膜の製造方法は、反応性スパッタリング法により、被処理体上に酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成する際に、タングステンバナジウム(WV)からなるターゲットを用いるとともに、プロセスガスとして酸素とアルゴンからなる混合ガスを用いる。これにより、混合ガスに占める酸素とアルゴンの比率を適宜変更して、タングステンを含む酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成できる。その際、被処理体の被処理面に対して、タングステンバナジウムのターゲットから飛翔したスパッタ粒子を斜め入射させると共に、前記プロセスガスを、前記被処理体の被処理面の上空を通過するように流しながら、前記被処理面を覆うように所望の抵抗体膜を形成する。その結果、形成された抵抗体膜が含有する、タングステン(W)とバナジウム(V)と酸素(O)の各比率を制御することができる。ゆえに、本発明は、各種VyW(1-x)Ox膜[ここで、xは酸素の比率、yはバナジウムの比率、(1-x)はタングステンの比率]を、1回の成膜工程により作り分けることが可能な成膜方法の提供に寄与する。よって、本発明は簡易な製造工程で所望の抵抗体膜が形成できる製造方法をもたらす。
特に、前記ターゲットとしてV-5at%Wからなる合金を用い、前記抵抗体膜における膜中のタングステン(W)の含有量が3~7[at%]の範囲内となるように、前記混合ガスにおける前記酸素の流量と前記アルゴンの流量との流量比を制御することにより、抵抗温度係数(TCR)が2.5[@300K(%/K)]以上である抵抗体膜を安定して形成することができる。
【0014】
本発明に係る抵抗体膜は、酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜であり、タングステン(W)、バナジウム(V)及び酸素(O)を含み、該膜中における前記タングステン(W)の含有量が3~7[at%]の範囲内である。これにより、膜自体は単層膜でありながら、抵抗温度係数(TCR)の高い抵抗体膜が得られる。つまり、本発明の抵抗体膜は、単層膜ゆえに1回の成膜工程により作製できるので、特許文献1の抵抗素子に比べて、著しい製造コストの低減が図れる。
特に、本発明の抵抗体膜は、抵抗温度係数(TCR)が2.5[@300K(%/K)]以上である、優れた特性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る抵抗体膜の製造方法に用いる成膜装置の一例を示す模式断面図。
【
図2】成膜温度とVOx膜の抵抗値との関係を示すグラフ。
【
図3】酸素流量比とVOx膜の抵抗値との関係を示すグラフ。
【
図4】実験例1と実験例2で形成した膜の抵抗値とTCRとの関係を示すグラフ。
【
図5】プロセスガス中の酸素流量と膜中のW含有量とTCRとの関係を示す一覧表。
【
図6】実験例2で形成した膜中のW含有量とTCRとの関係を示すグラフ。
【
図7】ボロメータ膜をセンシング部としたセンサの一構成例を示す模式斜視図。
【
図8A】MEMS製造工程における最初のステップを示す模式的な断面図。
【
図9】ボロメータ方式による温度センサに関する動作原理を示す解説図。
【
図10】ボロメータ方式による温度センサの模式断面図。
【
図11】マイクロボロメータの特性指標を示す解説図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明に係る抵抗体膜の製造方法に用いる成膜装置の一例を示す模式断面図である。
図1に示すように、成膜装置10における真空槽11には、この真空槽11の内部空間11aを排気する各種の真空ポンプからなる排気手段12が連結されている。真空槽11と排気手段12との間には、ゲートバルブ等からなる仕切弁13が配置されている。真空槽11の仕切弁13と対向する位置には、被処理体である基板Sを搬送手段(不図示)により、真空槽11の外部と搬入・搬出するためのドアバルブ15が配置されている。
【0018】
搬入された基板Sは、支持台(基板ステージ)21に載置される。基板を搬入・搬出する際には、支持台21に対して基板Sを下方から突き上げ、基板Sを上下動させるリフトピンを備えた第一移動機構22が、支持台21の下部に配置されている。支持台21の裏面側には、第一移動機構22の一部として、基板Sの温度制御手段22aが配置されている。
【0019】
また、支持台21の下部には、基板Sを載置した状態において、基板Sを被処理面(
図1では上面)内で所定の回転速度で自転させるための第二移動機構23、および、基板Sを上下動させて所定の高さ位置で基板Sを保持するための第三移動機構24、が配置されている。
【0020】
真空槽11の内部空間11aには、タングステンバナジウム(WV)のターゲット31が基板Sの上方に配置されている。この成膜装置10においては、ターゲット31から飛翔したスパッタ粒子が、前記被処理体である基板Sの被処理面に対して、角度θで斜め入射するように(点線矢印)、ターゲット31と被処理体(基板S)が所定の離間距離Dで配置されている。
換言すると、被処理体である基板Sを載置する支持台21は、前記斜め入射を保ちながら、前記被処理体の被処理面をその面内において回転させる機構(第二移動機構23)を備えたものである。
【0021】
タングステンバナジウム(WV)のターゲット31としては、たとえば、V-5at%Wからなる合金、すなわち、5at%のタングステン(W)を含み、残部がバナジウム(V)から構成される合金が好適に用いられる。
図1の成膜装置では、1つのターゲットを用いて成膜する例を示しているが、2つのターゲットを用いる場合は、この限りではない。すなわち、タングステン(W)のターゲットとバナジウム(V)のターゲットとを同時にスパッタする方法(コスパッタ法)を用い、各ターゲットに印可するパワーを調整しても構わない。
【0022】
ターゲット31の裏面側には、ターゲット31の表面側に漏洩磁束を形成するための磁石機構32が配置されている。第一プロセスガス(たとえばアルゴンガス)を導入する第一プロセスガス導入手段33を備え、第一ガス導入手段33の導出口33aがターゲット31の近傍に配置されている。ターゲット31の側方近傍にはカソードが配置されている。本発明では、ターゲット31、磁石機構32、および、第一プロセスガス導入手段33を纏めて、ターゲット機構とも呼ぶ。
【0023】
真空槽11の内部空間11aには、成膜シールド36が配置されている。前記ターゲット機構から見て、基板ステージ21上にある基板Sを覗き見ることが可能な開口部36aを、成膜シールド36は備えている。成膜シールド36と前記ターゲット機構との間には、シャッター機構35が配置されており、シャッター機構35を開閉動作させることにより、成膜シールド36の開口部36aを通して、基板Sへ向けてターゲット31から飛翔したスパッタ粒子が通過・遮断する時間を制御する。
【0024】
また、被処理体である基板Sを載置する支持台21の近傍には、前記被処理体の被処理面に対して平行を成し、かつ、前記被処理体の被処理面の上空を通過するように、第二プロセスガス(たとえば酸素とアルゴンからなる混合ガス)を導入する第二プロセスガス導入手段40を備えている。すなわち、第二プロセスガス導入手段40の導出口40aが支持台21に載置された基板Sの一方の外縁付近に配置されている。これにより、基板Sの一方の外縁付近から他方の外縁付近へ向けて、第二プロセスガスは進行する(一点鎖線の矢印)。つまり、本発明の成膜装置10においては、基板Sに付着するスパッタ粒子は、基板Sに付着する前に、第二プロセスガスが流れる雰囲気中を通過し、第二プロセスガスの影響を受けた後、基板Sに付着し、堆積することにより膜形成が行われる。
【0025】
上記構成によれば、被処理体である基板Sの上に形成された抵抗体膜は、タングステン(W)とバナジウム(V)と酸素(O)の各比率を適宜制御することができる。つまり、本発明によれば、各種VyW(1-x)Ox膜[xは酸素の比率、yはバナジウムの比率、(1-x)はタングステンの比率]を、1回の成膜工程により作り分けることが可能である。換言すると、本発明の抵抗体膜は、特許文献1のような数多くの工程を経る必要がなく、1回の成膜工程により形成される単層膜により実現できる。よって、本発明は簡易な製造工程で所望の抵抗体膜が形成可能な製造方法をもたらす。
【0026】
特に、前記ターゲットとしてV-5at%Wからなる合金を用い、前記抵抗体膜における膜中のタングステン(W)の含有量が3~7[at%]の範囲内となるように、前記混合ガスにおける前記酸素の流量と前記アルゴンの流量との流量比を制御するとよい。これにより、抵抗温度係数(TCR)が2.5[@300K(%/K)]以上である抵抗体膜が安定して得られる。
【0027】
図1の成膜装置10を用いて抵抗体膜を形成する際には、被処理体である基板Sの被処理面に対して、タングステンバナジウムのターゲット31から飛翔したスパッタ粒子を斜め入射させる(
図1において、θが入射角を表す)。これと共に、前記プロセスガスを、第二プロセスガス導入手段40の導出口40aから吐出させて、前記被処理体の被処理面の上空を通過するように流しながら(導出口40aから始まる点線矢印)、前記被処理面を覆うように所望の抵抗体膜を形成する。
【0028】
このような条件で成膜を行うことにより、被処理体である基板S上に形成された抵抗体膜は、タングステン(W)とバナジウム(V)と酸素(O)の各比率が適宜制御されたものとなる。ゆえに、本発明の製造方法によれば、各種VyW(1-x)Ox膜[ここで、xは酸素の比率、yはバナジウムの比率、(1-x)はタングステンの比率]を、1回の成膜工程により作り分けることが可能となる。したがって、本発明は、簡易な製造工程で所望の抵抗体膜を形成できる製造方法をもたらす。
【0029】
(実験例1)
本例では、V
yW
(1-x)O
x膜を検討する予備実験として、Wを添加する前のVOx膜について評価した。
図1に示す成膜装置を用い、表1に示す成膜条件によってVOx膜を形成した。VOx膜を形成する際の成膜温度(基板温度とも呼ぶ)を、25℃~250℃の範囲で変更した試料を作製し、VOx膜の比抵抗[Ω・cm]を調べた。
【0030】
【0031】
図2は、成膜温度とVOx膜の抵抗値[Ω・cm]との関係を示すグラフである。
図2から、以下の点が明らかとなった。
(A1)VOx膜の抵抗値は成膜温度に強く依存する。成膜温度の増加に伴い、抵抗値が急減する。
(A2)目標とする抵抗値分布(直径8inchの基板において±3%以内)を達成するには、基板面内における温度分布をΔ7℃以下にする必要がある。
(A3)膜厚分布や組成分布を考慮すると、基板面内における温度分布をΔ5℃以下を達成する必要がある。
【0032】
図3は、酸素流量比とVOx膜の抵抗値[Ω・cm]との関係を示すグラフであり、成膜温度を25℃(RT)~350℃の間で変更した場合の結果である。ここで、酸素流量比とは、「酸素流量を(アルゴン流量+酸素流量)で除した値」であり、
図3の横軸には、「O2/(Ar+O2)」と記載した。
図3において、△印は25℃(RT)の場合、□印は100℃の場合、○印は200℃の場合、◇印は250℃の場合、▽印は350℃の場合、を各々表している。
【0033】
図3から、以下の点が明らかとなった。
(B1)VOx膜の特徴として、成膜温度が25℃(RT)~200℃までは、酸素流量比に対して抵抗値が一定の領域が存在する。このため、酸素に対するプロセスマージンは十分あり、成膜温度が25℃(RT)~200℃の間では、成膜温度を変えることにより所望の抵抗値が得られる。
(B2)これに対して、成膜温度が250℃、350℃の場合は、酸素流量比に対して抵抗値が一定の領域が存在しない。
図3の結果から、プロセスガスを構成する、酸素の流量をF1[sccm]、アルゴンの流量をF2[sccm]と定義した場合、前記プロセスガスの導入手段は、8.75≦{F1/(F1+F2)}≦11.5 の条件を満たすように、前記プロセスガスの流量比を制御することにより、VOx膜の抵抗値が一定の領域を得ることができる。
【0034】
(実験例2)
本例では、実験例1の結果を踏まえて、Wを添加したVOx膜、すなわちV
yW
(1-x)O
x膜について評価した。
図1に示す成膜装置を用い、表2に示す成膜条件によってV
yW
(1-x)O
x膜を形成した。
【0035】
【0036】
表2に示すように、V
yW
(1-x)O
x膜を形成する際のプロセスガスの流量比を変えるため、アルゴン(Ar)の流量50sccmに対して酸素(O
2)の流量を2~50sccmの範囲で調整した。これにより、
図5に示すように、膜中のW含有量が1~9at%の範囲内にあるV
yW
(1-x)O
x膜を形成した。
【0037】
図4は、実験例1と実験例2で形成した膜の抵抗値[Ω・cm]とTCR[@300K(%/K)]との関係を示すグラフである。
図4において、◇印は実験例1で形成したVOx膜の場合、○印は実験例2で形成したV
yW
(1-x)O
x膜の場合、を各々表している。
図4から、以下の点が明らかとなった。
(A1)実験例1で形成したVOx膜は、抵抗値が1[Ω・cm]付近になって初めて、2.5を僅かに越えるTCRが得られた。
(A2)実験例2で形成したV
yW
(1-x)O
x膜は、抵抗値が0.3~1[Ω・cm]の範囲内で、2.5~3.1のTCRが確認された。
【0038】
図5は、実験例2で形成したV
yW
(1-x)O
x膜について、プロセスガス中の酸素流量[sccm]と膜中のW含有量[at%]とTCRとの関係を示す一覧表である。
図5において、○印はTCRが2.5以上であることを、△印はTCRが2.0以上で2.5より小さいことを、×印はTCRが2.0より小さいことを、各々表している。
【0039】
図5から、以下の点が明らかとなった。
(B1)酸素流量が10~30sccmの範囲内で、TCRが2.5以上のV
yW
(1-x)O
x膜が得られた。
(B2)TCRが2.5以上となるV
yW
(1-x)O
x膜は、膜中のW含有量[at%]が3.0以上7.0以下であった。
【0040】
以上の結果から、Wを添加したVOx膜、すなわちVyW(1-x)Ox膜は、1[Ω・cm]以下の低抵抗値であり、かつ、2.5を越える抵抗温度係数(TCR)を有することが確認された。
本発明は、このような抵抗温度係数(TCR)が高い酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を、簡易な製造工程で形成することが可能である。
【0041】
図6は、実験例2で形成したV
yW
(1-x)O
x膜について、膜中のW含有量[at%]とTCR[@300K(%/K)]との関係を示すグラフである。
図6より、膜中のW含有量[at%]を3~7の範囲内とすることにより、2.5を越える抵抗温度係数(TCR)を有する膜が形成できることが確認された。
【0042】
図7は、上述したV
yW
(1-x)O
x膜をボロメータ膜として採用し、このボロメータ膜をセンシング部としたセンサの一構成例を示す模式斜視図である。
図7において、SSはセンサ、301はボロメータ膜、302(302A、302B)は画素配線、303はSiN支持膜、304はバイポーラトランジスタ、305は信号線、306はアドレス線である。
【0043】
図7のセンサSSは、センシング部であるボロメータ膜301をIC読出回路上にダイアフラム構造とすることにより、熱コンダクタンスを低減すると共に、赤外線受光部の割合(フィルファクタ)を増加させている。
【0044】
図8Aは、MEMS製造工程における最初のステップを示す模式的な断面図である。
図8Bは
図8Aの次なるステップを示す模式的な断面図、
図8Cは
図8Bの次なるステップを示す模式的な断面図、
図8Dは
図8Cの次なるステップを示す模式的な断面図、
図8Eは
図8Dの次なるステップを示す模式的な断面図、
図8Fは
図8Eの次なるステップを示す模式的な断面図、
図8Gは
図8Fの次なるステップを示す模式的な断面図である。
【0045】
最初のステップ(
図8A:下部SiN膜の成膜)では、たとえばSiからなる第一基板300の一面(
図8Aでは上面)を覆うように下部SiN膜300Mを、PECVD法やスパッタ法により形成する。
【0046】
次のステップ(
図8B:V
yW
(1-x)O
x膜の成膜)では、下部SiN膜300Mを覆うようにボロメータ膜(VOx膜)301をスパッタ法により形成する。
【0047】
次のステップ(
図8C:V
yW
(1-x)O
x膜の分離)では、ドライエッチグ法によりボロメータ膜(V
yW
(1-x)O
x膜)301を分離させる。これにより、下部SiN膜300M上にボロメータ膜301が局在し、ボロメータ膜301が除去された領域では、下部SiN膜300Mが露呈した状態とする。
【0048】
次のステップ(
図8D:電極の形成)では、蒸着法により電極302(302A、302B)を形成する。これにより、ボロメータ膜301が除去された領域に位置する下部SiN膜300Mと、ボロメータ膜301の側面および上面の周縁域とを覆うように、電極302(302A、302B)を配置する。
【0049】
次のステップ(
図8E:上部SiN膜の成膜)では、ボロメータ膜301と電極302(302A、302B)を覆うように上部SiN膜312を、PECVD法やスパッタ法により形成する。
【0050】
次のステップ(
図8F:縦孔部の形成)では、第一基板300上に下部SiN膜300M、電極302(302A、302B)、上部SiN膜312が順に積層された領域に、上部SiN膜312側から第一基板300の一面(
図8Fでは上面)まで到達する、縦孔部312(312A、312B)をドライエッチング法により形成する。
【0051】
次のステップ(
図8G:キャビティの形成)では、縦孔部312(312A、312B)を通じて、ウェットエッチング法によりキャビティ311を形成する。これにより、ダイアフラム構造を形成し、
図7に示すようなセンサSSを得る。
【0052】
このように、本発明に係る抵抗体膜の製造方法によれば、抵抗温度係数(TCR)の高い酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜が、簡易な製造工程によって形成可能であることから、作製条件を適宜選定することにより、抵抗温度係数(TCR)の絶対値が大きく、かつ、比抵抗の小さな、ボロメータ材料を作製することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、抵抗温度係数(TCR)が高い酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を、簡易な製造工程で形成することが可能な、抵抗体膜の製造方法及び抵抗体膜の提供に貢献する。本発明により形成される酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜は、ボロメーター乃至非冷却型赤外線センサ以外にも、温度センサ、感熱センサ等、温度や熱に関する高精度のセンサ等として幅広く応用できる。
【符号の説明】
【0054】
D 離間距離、S 基板(被処理体)、θ 角度、1 成膜装置、11 真空槽(チャンバ)、11a 内部空間、12 排気手段、13 仕切弁、15 ドアバルブ、21 支持台(基板ステージ)、22 第一移動機構、22a 温度制御手段、23 第二移動機構、24 第三移動機構、31 ターゲット、32 磁石機構、33 第一プロセスガス導入手段、36 成膜シールド、36a 開口部、40 第二プロセスガス導入手段、40a 導出口。