(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】導電性高分子含有多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20220809BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20220809BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20220809BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20220809BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20220809BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220809BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20220809BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C08L79/00 A
C08L65/00
C08K5/09
C08K3/01
C08K3/22
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
(21)【出願番号】P 2018211733
(22)【出願日】2018-11-09
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 真吾
(72)【発明者】
【氏名】板東 徹
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150407(WO,A1)
【文献】特開2009-130256(JP,A)
【文献】国際公開第02/37536(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
C08L 79/00
C08L 65/00
C08K 5/09
C08K 3/01
C08K 3/22
H01B 13/00
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)導電性高分子と、成分(b)溶剤と、を含む、導電性高分子組成物を、多孔質体に含浸させる工程と、
含浸後の前記多孔質体を、前記溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度で乾燥し、その後、前記沸点以上の温度で乾燥する工程と、
を含む、導電性高分子含有多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記導電性高分子組成物が、さらに、成分(c)酸又は塩を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記成分(c)が、疎水性基を有する酸であり、
前記疎水性基が、直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、アルキルフェニル基、及びアルキルナフチル基からなる群から選択される1以上である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記成分(c)が、アルキルカルボン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、アルキルベンゼンカルボン酸及びアルキルベンゼンホスホン酸からなる群から選択される1以上である、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記成分(c)が、プロピオン酸、DL-2-メチル酪酸、2-メチル吉草酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ミリスチン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合物、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合物、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの混合物、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合物、リン酸モノ(2-エチルヘキシル)、リン酸ジ(2-エチルヘキシル)、及びリン酸モノ(2-エチルヘキシル)とリン酸ジ(2-エチルヘキシル)の混合物からなる群から選択される1以上である、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記成分(c)の含有量が、前記導電性高分子組成物中1.0~70質量%である、請求項2~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記成分(a)が、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール及びポリピロール誘導体から選択される1以上である、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記成分(a)が、ポリアニリンとプロトン供与体とを含むポリアニリン複合体であって、前記ポリアニリンが前記プロトン供与体でドープされている、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
さらに成分(d)耐熱安定化剤を含む、請求項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
さらに成分(e)フェノール性化合物を含む、請求項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させる工程と、
前記接触と同時に又は前記接触後に、成分(a)導電性高分子と、成分(b)溶剤と、を含む、導電性高分子組成物を、前記多孔質体に含浸させる工程と、
含浸後の前記多孔質体を、前記溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度で乾燥し、その後、前記沸点以上の温度で乾燥する工程と、
を含む、導電性高分子含有多孔質体の製造方法。
【請求項12】
前記酸又は塩の溶液の濃度が1.0~15.0質量%である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記酸又は塩が、スルホン酸及びその塩、リン酸及びその塩、リン酸エステル及びその塩、カルボン酸及びその塩、アミノ酸及びその塩、ホウ酸及びその塩、並びに、ボロン酸及びその塩からなる群から選択される1以上である、請求項11又は12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記成分(a)が、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール及びポリピロール誘導体から選択される1以上である、請求項11~13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
前記成分(a)が、ポリアニリンとプロトン供与体とを含むポリアニリン複合体であって、前記ポリアニリンが前記プロトン供与体でドープされている、請求項11~14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記導電性高分子組成物が、前記ポリアニリン複合体とフェノール性化合物を含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記導電性高分子組成物が、前記ポリアニリン複合体と、耐熱安定化剤とを含む、請求項15又は16記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子含有多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、コンデンサの固体電解質、電磁波吸収コート剤、帯電防止コート剤、電解めっき下地材、回路配線用途等の導電インクとして使用されている。
導電性高分子の一種であるポリアニリンは、その電気的な特性に加え、安価なアニリンから比較的簡便に合成できる。例えば、特許文献1に記載の方法によって、簡便に且つ高導電のポリアニリンを得ることができる。また、導電性を示す状態で酸素等に優れた安定性を示すという利点を有する。
一方、多孔質体は比表面積が大きいことから、電極材料、吸着剤等、多様な分野で使用されている。
【0003】
多孔質体に導電性高分子を含有させた導電性高分子含有多孔質体は、例えば、固体電解コンデンサの固体電解質に使用される。導電性高分子を用いることで耐熱性が高く、且つ抵抗が低い、高性能なコンデンサを製造することができる。
導電性高分子含有多孔質体の製造方法について、例えば、特許文献2にはポリアニリン溶液に酸を添加、又は、多孔質体表面を酸処理することにより、多孔質体内部への浸透性を向上できることが開示されている。しかしながら、乾燥条件によっては、乾燥途中に溶剤の蒸発とともにポリアニリンが多孔質体内部から外側に引き出されてしまい、多孔質体内部でのポリアニリンの付着量及び付着の均一性が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/102017号
【文献】国際公開第2017/150407号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的の1つは、多孔質体内部における導電性高分子の付着量及び付着の均一性を向上できる導電性高分子含有多孔質体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、成分(a)導電性高分子と、成分(b)溶剤と、を含む、導電性高分子組成物を、多孔質体に含浸させる工程と、含浸後の前記多孔質体を、前記溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度で乾燥し、その後、前記沸点以上の温度で乾燥する工程と、を含む、導電性高分子含有多孔質体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、多孔質体内部における導電性高分子の付着量及び付着の均一性を向上できる導電性高分子含有多孔質体の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例4の導電性高分子含有多孔質体の断面の顕微鏡写真である。
【
図2】比較例1の導電性高分子含有多孔質体の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
本発明の一実施形態に係る導電性高分子含有多孔質体の製造方法は、下記の工程(A)及び(B)を含む。
工程(A):(a)導電性高分子と、(b)溶剤と、を含む、導電性高分子組成物を、多孔質体に含浸させる工程
工程(B):含浸後の多孔質体を、溶剤(上記組成物中の最も低沸点の溶剤)の沸点よりも10℃以上低い温度で乾燥し、その後、沸点以上の温度で乾燥する工程
本実施形態では、導電性高分子組成物を含侵させた多孔質体を、異なる温度で2段階の乾燥を施すことにより、多孔質体内部における導電性高分子の付着量を向上できる。また、導電性高分子の付着の均一性が向上した導電性高分子含有多孔質体が製造できる。尚、2種以上の溶剤を混合した場合、「溶剤の沸点」とは沸点の最も低い溶剤の沸点を意味する。
以下、本実施形態で使用する部材等について説明する。
【0010】
工程(A)で使用する導電性高分子組成物は、(a)導電性高分子と、(b)溶剤と、を含む。
【0011】
(a)導電性高分子
導電性高分子(成分(a))としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは置換基を有してもよく、また、有していなくてもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
導電性高分子としてはポリアニリンが好ましい。
ポリアニリンは、好ましくは重量平均分子量が10,000以上であり、より好ましくは20,000以上であり、さらに好ましくは30,000以上1,000,000以下であり、よりさらに好ましくは40,000以上1,000,000以下であり、特に好ましくは52,000以上1,000,000以下である。
【0012】
例えば、固体電解コンデンサの固体電解質層に用いる場合、得られる電解質層の強度を高くできる観点から、一般に、導電性高分子の分子量が大きいほど好ましい。一方、分子量が大きいと粘度が高くなるため、多孔質体の細孔内部に含浸させることが困難となる場合がある。
ポリアニリンの分子量は、ゲルパーミェションクロマトグラフィ(GPC)によりポリスチレン換算で測定する。
【0013】
ポリアニリンは、汎用性及び経済性の観点から、好ましくは無置換のポリアニリンである。
置換基を有する場合の置換基としては、例えばメチル基、エチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分岐の炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基(-CF3基)等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
【0014】
本発明の一実施形態において、導電性高分子は、ポリアニリンにプロトン供与体がドープしたポリアニリン複合体であると好ましい。ポリアニリン複合体を用いることにより、溶剤への溶解性が向上する。
プロトン供与体がポリアニリンにドープしていることは、紫外・可視・近赤外分光法やX線光電子分光法によって確認することができる。プロトン供与体は、ポリアニリンにキャリアを発生させるのに十分な酸性を有していれば、特に制限なく使用できる。
【0015】
プロトン供与体としては、例えばブレンステッド酸、又はそれらの塩が挙げられる。好ましくは有機酸、又はそれらの塩であり、さらに好ましくは下記式(I)で示されるプロトン供与体である。
M(XARn)m (I)
式(I)のMは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基である。
上記有機遊離基としては、例えば、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、アニリニウム基が挙げられる。また、上記無機遊離基としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄が挙げられる。
式(I)のXは、アニオン基であり、例えば-SO3
-基、-PO3
2-基、-PO4(OH)-基、-OPO3
2-基、-OPO2(OH)-基、-COO-基が挙げられ、好ましくは-SO3
-基である。
【0016】
式(I)のAは、置換又は無置換の炭化水素基(炭素数は例えば1~20)である。
炭化水素基は、鎖状もしくは環状の飽和脂肪族炭化水素基、鎖状もしくは環状の不飽和脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基である。
鎖状の飽和脂肪族炭化水素基としては、直鎖もしくは分岐状のアルキル基(炭素数は例えば1~20)が挙げられる。環状の飽和脂肪族炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基(炭素数は例えば3~20)が挙げられる。環状の飽和脂肪族炭化水素基は、複数の環状の飽和脂肪族炭化水素基が縮合していてもよい。例えば、ノルボルニル基、アダマンチル基、縮合したアダマンチル基等が挙げられる。鎖状の不飽和脂肪族炭化水素(炭素数は例えば2~20)としては、直鎖又は分岐状のアルケニル基が挙げられる。環状の不飽和脂肪族炭化水素基(炭素数は例えば3~20)としては、環状アルケニル基が挙げられる。芳香族炭化水素基(炭素数は例えば6~20)としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0017】
Aが置換の炭化水素基である場合の置換基は、アルキル基(炭素数は例えば1~20)、シクロアルキル基(炭素数は例えば3~20)、ビニル基、アリル基、アリール基(炭素数は例えば6~20)、アルコキシ基(炭素数は例えば1~20)、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、シリル基又はエステル結合含有基である。
【0018】
式(I)のRは、Aと結合しており、-H、-R1、-OR1、-COR1、-COOR1、-(C=O)-(COR1)、又は-(C=O)-(COOR1)で表わされる置換基ある。R1は、置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、アルキルシリル基、-(R2O)x-R3基、又は-(OSiR3
2)x-OR3基である。R2はアルキレン基、R3は炭化水素基であり、xは1以上の整数である。xが2以上の場合、複数のR2はそれぞれ同一でも異なってもよく、複数のR3はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0019】
R1の炭化水素基(炭素数は例えば1~20)としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、エイコサニル基等が挙げられる。炭化水素基は直鎖状であってもよく、また、分岐状であってもよい。
炭化水素基の置換基は、アルキル基(炭素数は例えば1~20)、シクロアルキル基(炭素数は例えば3~20)、ビニル基、アリル基、アリール基(炭素数は例えば6~20)、アルコキシ基(炭素数は例えば1~20)、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基又はエステル結合含有基である。R3の炭化水素基もR1と同様である。
【0020】
R2のアルキレン基(炭素数は例えば1~20)としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。
式(I)のnは1以上の整数である。nが2以上の場合、複数のRはそれぞれ同一でも異なってもよい。
式(I)のmは、Mの価数/Xの価数である。
【0021】
式(I)で示される化合物としては、ジアルキルベンゼンスルフォン酸、ジアルキルナフタレンスルフォン酸、又はエステル結合を2以上含有する化合物が好ましい。
上記エステル結合を2以上含有する化合物は、スルホフタール酸エステル、又は下式(II)で表される化合物がより好ましい。
【化1】
【0022】
式(II)中、M及びXは、式(I)と同様である。Xは、-SO3
-基が好ましい。
R4、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基又はR9
3Si-基である。3つのR9はそれぞれ独立に炭化水素基である。
R4、R5及びR6が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基(炭素数は例えば6~20)、アルキルアリール基(炭素数は例えば7~20)等が挙げられる。
R9の炭化水素基としては、R4、R5及びR6の場合と同様である。
【0023】
式(II)のR7及びR8は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R10O)q-R11基である。R10は炭化水素基又はシリレン基であり、R11は水素原子、炭化水素基又はR12
3Si-であり、qは1以上の整数である。3つのR12は、それぞれ独立に炭化水素基である。
【0024】
R7及びR8が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1~24、好ましくは炭素数4以上の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基(炭素数は例えば6~20)、アルキルアリール基(炭素数は例えば7~20)等が挙げられ、具体例としては、例えば、いずれも直鎖又は分岐状の、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
【0025】
R7及びR8における、R10が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、例えば炭素数1~24の直鎖もしくは分岐状のアルキレン基、芳香環を含むアリーレン基(炭素数は例えば6~20)、アルキルアリーレン基(炭素数は例えば7~20)、又はアリールアルキレン基(炭素数は例えば7~20)である。また、R7及びR8における、R11及びR12が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R4、R5及びR6の場合と同様であり、qは、1~10であることが好ましい。
【0026】
R
7及びR
8が-(R
10O)
q-R
11基である場合の式(II)で表わされる化合物の具体例としては、下記式で表わされる2つの化合物である。
【化2】
(式中、Xは式(I)と同様である。)
【0027】
上記式(II)で表わされる化合物は、下記式(III)で示されるスルホコハク酸誘導体であることがさらに好ましい。
【化3】
【0028】
式(III)中、Mは、式(I)と同様である。m’は、Mの価数である。
R13及びR14は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R15O)r-R16基である。R15は炭化水素基又はシリレン基であり、R16は水素原子、炭化水素基又はR17
3Si-基であり、rは1以上の整数である。3つのR17はそれぞれ独立に炭化水素基である。rが2以上の場合、複数のR15はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0029】
R13及びR14が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R7及びR8と同様である。
R13及びR14において、R15が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記R10と同様である。また、R13及びR14において、R16及びR17が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記R4、R5及びR6と同様である。
rは、1~10であることが好ましい。
【0030】
R13及びR14が-(R15O)r-R16基である場合の具体例としては、R7及びR8における-(R10O)q-R11と同様である。
R13及びR14の炭化水素基としては、R7及びR8と同様であり、ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、デシル基が好ましい。
【0031】
式(I)で示される化合物としては、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムが好ましい。
【0032】
上記プロトン供与体はその構造を変えることにより、ポリアニリン複合体の導電性や、溶剤への溶解性をコントロールできることが知られている(特許第3384566号)。本実施形態では、用途毎の要求特性によって最適なプロトン供与体を選択できる。
【0033】
ポリアニリンに対するプロトン供与体のドープ率は、好ましくは0.30以上0.65以下であり、より好ましくは0.32以上0.60以下であり、さらに好ましくは0.33以上0.57以下であり、特に好ましくは0.34以上0.55以下である。通常、ドープ率が0.30以上であれば、ポリアニリン複合体の有機溶剤への溶解性は十分となる。
ドープ率は(ポリアニリンにドープしているプロトン供与体のモル数)/(ポリアニリンのモノマーユニットのモル数)で定義される。例えば無置換ポリアニリンとプロトン供与体を含むポリアニリン複合体のドープ率が0.5であることは、ポリアニリンのモノマーユニット分子2個に対し、プロトン供与体が1個ドープしていることを意味する。
尚、ドープ率は、ポリアニリン複合体中のプロトン供与体とポリアニリンのモノマーユニットのモル数が測定できれば算出可能である。例えば、プロトン供与体が有機スルホン酸の場合、プロトン供与体由来の硫黄原子のモル数と、ポリアニリンのモノマーユニット由来の窒素原子のモル数を、有機元素分析法により定量し、これらの値の比を取ることでドープ率を算出できる。
【0034】
ポリアニリン複合体は、無置換ポリアニリンとプロトン供与体であるスルホン酸とを含み、下記式(1)を満たすことが好ましい。
0.32≦S5/N5≦0.60 (1)
(式中、S5はポリアニリン複合体に含まれる硫黄原子のモル数の合計であり、N5はポリアニリン複合体に含まれる窒素原子のモル数の合計である。
尚、上記窒素原子及び硫黄原子のモル数は、例えば有機元素分析法により測定した値である。)
【0035】
(b)溶剤
溶剤(成分(b))は、導電性高分子を溶解するものであれば特に制限はない。但し、後述する成分(c)~(e)は含まない。溶剤は有機溶剤が好ましい。例えば、芳香族系炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル、エステルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機溶剤は、水溶性有機溶剤でもよく、また、実質的に水に混和しない有機溶剤(水不混和性有機溶剤)でもよい。
【0036】
水溶性有機溶剤としては高極性有機溶剤が使用でき、プロトン性極性溶媒でも非プロトン性極性溶媒でもよい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、ベンジルアルコール、アルコキシアルコール(例えば1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-ブタノール)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル等のエーテル類;Nメチルピロリドン等の非プロトン性極性溶剤等が挙げられる。
水不混和性有機溶剤としては、低極性有機溶剤が使用でき、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素系溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等の含ハロゲン系溶剤;酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶剤;メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類溶剤;シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類溶剤等が挙げられる。また、炭化水素系溶剤として1種又は2種以上のイソパラフィンを含むイソパラフィン系溶剤を用いてもよい。
【0037】
これらのうち、導電性高分子の溶解性に優れる点でトルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、トリクロロエタン及び酢酸エチルが好ましい。
尚、ポリアニリン複合体の場合は、溶剤がイソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、ベンジルアルコール、アルコキシアルコール等のアルコール類であっても溶解することができる。アルコールは、トルエン等の芳香族に比べて環境負荷低減の観点から好ましい。
【0038】
溶剤として有機溶剤を用いる場合、水不混和性有機溶剤と水溶性有機溶剤を99~1:1~99(質量比)で混合した混合有機溶剤を用いることにより、保存時のゲル等の発生を防止でき、長期保存できることから好ましい。
混合有機溶剤は、水不混和性有機溶剤を1種又は2種以上含んでもよく、水溶性有機溶剤を1種又は2種以上含んでもよい。
【0039】
溶剤に対する成分(a)の濃度[成分(a)×100/(成分(a)+成分(b))]は、0.01質量%以上であってもよく、0.03質量%以上であってもよく、0.05質量%以上であってもよい。また、通常15.0質量%以下であり、10.0質量%以下であってもよく、5.0質量%以下であってもよく、1.0質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよく、0.3質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよい。
尚、導電性高分子組成物が後述する成分(c)及び(e)を含む場合、溶剤に対する成分(a)の濃度は下記式により計算するが、沸点は成分(b)のみで判断する。
成分(a)の濃度(質量%)=成分(a)×100/(成分(a)+(b)+(c)+(e))
【0040】
本発明の一実施形態では、導電性高分子組成物が、さらに、(c)酸又は塩(成分(c))を含んでいてもよく、また、含まなくてもよい。
また、成分(c)を成分(b)と混合し、混合溶剤として用いてもよい。この場合、成分(a)の溶剤に対する濃度は、成分(b)と成分(c)を合わせた質量に対して計算する。
酸又は塩としては特に制限はない。但し、成分(c)は、後述する成分(d)と(e)は含まない。酸とは、酸性基(H+)を有するアレニウス酸又はブレンステッド酸である。例えば、スルホン酸及びその塩、リン酸及びその塩、リン酸エステル及びその塩、カルボン酸及びその塩、アミノ酸及びその塩、ホウ酸及びその塩、ボロン酸及びその塩等が挙げられる。
塩は、対応する酸のアンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)等を用いることができる。
【0041】
具体的には、リン酸及びその塩;リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合体及びそれらの塩;リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合体及びそれらの塩;リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピル及びリン酸ジイソプロピルの混合体及びそれらの塩;リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合体及びそれらの塩;リン酸モノ(2-エチルヘキシル)、リン酸ジ(2-エチルヘキシル)、リン酸モノ(2-エチルヘキシル)とリン酸ジ(2-エチルヘキシル)の混合体及びそれらの塩;酢酸及びその塩;プロピオン酸及びその塩;酪酸及びその塩;DL-2-メチル酪酸及びその塩;2-エチルヘキサン酸及びその塩;3,5,5-トリメチルヘキサン酸及びその塩;ミリスチン酸及びその塩;2-メチル吉草酸及びその塩;アジピン酸及びその塩;グリシン及びその塩;βアラニン及びその塩;DL-アラニン及びその塩;DL-バリン及びその塩;(±)-10-カンファースルホン酸及びその塩;スルホコハク酸ジオクチル及びその塩;2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ビペラジニル]エタンスルホン酸及びその塩;ホウ酸及びホウ酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸塩;フェニルボロン酸及びフェニルボロン酸塩等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記のうち、リン酸エステル及びその塩、カルボン酸及びその塩、カルボン酸エステル及びその塩、アミノ酸及びその塩等であってもよい。尚、耐熱安定化剤とは異なる酸を用いるように構成してもよい。
【0043】
成分(c)は、好ましくは溶解度パラメーター(SP値)が13.0(cal/cm3)1/2以下であり、より好ましくは11.0(cal/cm3)1/2以下である。また、10.0(cal/cm3)1/2以下としてもよい。SP値は通常0(cal/cm3)1/2以上である。
SP値は、「Polymer Engineering & Science」、1974年、第14巻、147~154頁に記載のFedors法により算出する。
【0044】
成分(c)は、疎水性基を有する酸であると好ましい。
疎水性基としては、直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、アルキルフェニル基、アルキルナフチル基等が挙げられる。直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基のアルキル基、及びアルキルフェニル基、アルキルナフチル基に含まれるアルキル基の炭素数は、好ましくは2~20である。
【0045】
成分(c)としては、アルキルカルボン酸,リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、アルキルベンゼンカルボン酸、アルキルベンゼンホスホン酸等が挙げられる。尚、アルキルベンゼンカルボン酸はR-Ph-COOHで表される化合物であり、アルキルベンゼンホスホン酸はR-Ph-PO(OH)2で表される化合物である(式中、Rはアルキル基を示し、Phはフェニル基を示す)。
アルキルカルボン酸、アルキルベンゼンカルボン酸及びアルキルベンゼンホスホン酸のアルキル基の炭素数は、好ましくは2~20である。リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルは、好ましくはリン酸と炭素数2~20のアルコールから得られるエステルである。
【0046】
成分(c)としては、具体的に、プロピオン酸、DL-2-メチル酪酸、2-メチル吉草酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ミリスチン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合物、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合物、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの混合物、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合物、リン酸モノ(2-エチルヘキシル)、リン酸ジ(2-エチルヘキシル)、リン酸モノ(2-エチルヘキシル)とリン酸ジ(2-エチルヘキシル)の混合物等が挙げられる。
【0047】
成分(c)の含有量は、導電性高分子組成物中に、好ましくは0.1~70質量%であり、より好ましくは0.5~70質量%であり、さらに好ましくは1~30質量%であり、よりさらに好ましくは2~20質量%である。
【0048】
一実施形態では、導電性高分子組成物は、さらに(d)耐熱安定化剤、及び/又は(e)フェノール性化合物を含んでもよい。
(d)耐熱安定化剤
耐熱安定化剤(成分(d))としては、酸性物質又は酸性物質の塩が挙げられる。但し、成分(d)は成分(c)及び(e)を含まない。酸性物質はスルホン酸基1つ以上含む有機酸(有機化合物の酸)、無機酸(無機化合物の酸)のいずれでもよい。
【0049】
酸性物質は、有機化合物の酸である有機酸、無機化合物の酸である無機酸のいずれでもよく、好ましくは有機酸である。
酸性物質としては、好ましくはスルホン酸基を1つ以上含む有機酸である。
【0050】
上記スルホン酸基を有する有機酸は、好ましくはスルホン酸基を1つ以上有する、環状、鎖状又は分岐のアルキルスルホン酸、置換又は無置換の芳香族スルホン酸、又はポリスルホン酸である。
上記アルキルスルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸が挙げられる。ここで、アルキル基は好ましくは炭素数が1~18の直鎖又は分岐のアルキル基である。
上記芳香族スルホン酸としては、炭素数6~20のものが挙げられ、例えば、ベンゼン環を有するスルホン酸、ナフタレン骨格を有するスルホン酸、アントラセン骨格を有するスルホン酸が挙げられる。また、上記芳香族スルホン酸としては、置換又は無置換のベンゼンスルホン酸、置換又は無置換のナフタレンスルホン酸及び置換又は無置換のアントラセンスルホン酸が挙げられる。
【0051】
置換基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1~20のもの)、アルコキシ基(例えば炭素数1~20のもの)、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アシル基からなる群から選択される置換基であり、1以上置換していてもよい。
【0052】
具体的に、芳香族スルホン酸として、下記式(4)又は(5)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
(式(4)中、lは1以上であり、mは0以上5以下の整数であり、nは0以上5以下の整数である。m又はnの一方が0の場合、他方は1以上である。)
【化5】
(式(5)中、qは1以上であり、pは0以上7以下の整数であり、Rは、それぞれ独立に炭素数1~20のアルキル基、カルボキシ基、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基である。)
【0053】
lは1~3が好ましい。mは1~3が好ましい。nは0~3が好ましい。
qは1~3が好ましい。pは0~3が好ましい。Rは炭素数1~20のアルキル基、カルボキシ基、水酸基が好ましい。
【0054】
芳香族スルホン酸としては、4-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸、5-スルホサリチル酸、1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、2-ヒドロキシ-6-ナフタレンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、トルエンスルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、4,4’-ビフェニルジスルホン酸、ジベンゾフラン-2-スルホン酸、フラビアン酸、(+)-10-カンファースルホン酸、モノイソプロピルナフタレンスルホン酸、1-ピレンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性向上の観点から、4-スルホフタル酸、5-スルホサリチル酸、5-スルホイソフタル酸、2-ナフタレンスルホン酸、ジベンゾフラン-2-スルホン酸、フラビアン酸、2-ヒドロキシ-6-ナフタレンスルホン酸及び1-ピレンスルホン酸が好ましい。
【0055】
酸性物質の塩としては、上記に挙げた化合物の塩が挙げられる。塩の対イオンとしては、ナトリウム、リチウム、カリウム、セシウム、アンモニウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。
成分(d)は水和物であってもよい。
【0056】
成分(d)の含有量は、好ましくは成分(a)100質量部に対して0.1~1000質量部であり、より好ましくは1~100質量部であり、さらに好ましくは1~30質量部である。
【0057】
尚、成分(d)は導電性高分子組成物に配合せずに、別途、導電性高分子組成物に含浸させた後の多孔質体を、成分(d)を含む溶液に浸漬してもよい。この場合の成分(d)としては、上記式(4)で表されるスルホン酸塩又はその塩が好ましい。
【0058】
浸漬する溶液は、溶剤を含んでもよい。
溶剤は、成分(d)が溶解すれば特に限定されず、水、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0059】
溶剤として、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、MIBK、メチルエチルケトン(MEK)、エチレングリコールモノtertブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0060】
また、成分(d)は、浸漬する溶液中、0.1質量%~10質量%が好ましく、0.3質量%~6質量%がより好ましく、0.7質量%~3.5質量%がさらに好ましい。
【0061】
浸漬方法は、ディップ等が挙げられる。
浸漬時間は1分間以上が好ましく、3分間以上200分間以下がより好ましい。浸漬温度は、5℃~50℃が好ましい。
浸漬後の乾燥は、オーブン、ホットプレート等により行うことが好ましい。
乾燥温度は、80~200℃が好ましく、100~170℃がより好ましい。
乾燥時間は、1~180分間が好ましく3~60分間がより好ましい。必要に応じて、減圧下で加熱してもよい。乾燥温度及び乾燥時間は、特に制限されず、用いる材料に応じて適宜選択すればよい。
【0062】
上述したように、成分(d)は上記の導電性高分子組成物中に加えてもよいし、別途、導電性高分子組成物に含浸させた後の多孔質体を成分(d)の溶液に含侵させてもよい。また、組成物中に成分(d)を加え、さらに成分(d)の溶液に多孔質体を含侵させてもよい。
即ち、本発明の一態様では、導電性高分子組成物に加えられた成分(d)(以下、成分(d1)と称する場合がある)と、組成物に含侵させた後に含侵させる成分(d)(以下、成分(d2)と称する場合がある)とを含む場合がある。成分(d1)と(d2)は同一でも異なってもよい。異なる場合、例えば、成分(d1)は上記式(5)で表される化合物であり、成分(d2)は上記式(4)で表される化合物である。
【0063】
(e)フェノール性化合物
フェノール性化合物(成分(e))は特に限定されず、ArOH(ここで、Arはアリール基又は置換アリール基である)で示される化合物である。尚、成分(e)は成分(b)~(d)とは異なる成分である。
具体的には、フェノール、o-,m-若しくはp-クレゾール、o-,m-若しくはp-エチルフェノール、o-,m-若しくはp-プロピルフェノール、o-,m-若しくはp-ブチルフェノール、o-,m-若しくはp-クロロフェノール、サリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフタレン等の置換フェノール類;カテコール、レゾルシノール等の多価フェノール性化合物;及びフェノール樹脂、ポリフェノール、ポリ(ヒドロキシスチレン)等の高分子化合物等を例示することができる。
【0064】
また、下記式(6)で表されるフェノール性化合物を用いることができる。
【化6】
(式中、nは1~5の整数である。nが2以上である場合、複数のR
21はそれぞれ、同じであってもよく、また、異なっていてもよい。
R
21は、それぞれ炭素数2~10のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基又は炭素数7~20のアリールアルキル基である。)
【0065】
上記R21のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャルブチル、ターシャルアミル等が挙げられる。
アルケニル基としては、上述したアルキル基の分子内に不飽和結合を有する置換基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
アルキルチオ基としては、メチルチオ、エチルチオ等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル、ナフチル等が挙げられる。
アルキルアリール基、及びアリールアルキル基としては、上述したアルキル基とアリール基を組み合わせて得られる置換基等が挙げられる。
これらの基のうち、R21としては、メチル又はエチル基が好ましい。
【0066】
成分(e)の含有量は、導電性高分子組成物中に1~80質量%、より好ましくは5~60質量%、さらに好ましくは10~40質量%である。当該フェノール性化合物を用いることにより、導電性が向上したり、アルコールへの溶解性が向上するため好ましい。
また、成分(e)を成分(b)と混合し、混合溶剤として用いてもよい。この場合、成分(a)の溶剤に対する濃度は、成分(b)と成分(e)を合わせた質量に対して計算する。
【0067】
導電性高分子組成物は、本質的に、成分(a)及び(b)並びに、任意に(c)、(d)及び(e)からなる群から選択される1以上の成分からなってもよい。この場合、不可避不純物を含んでもよい。導電性高分子組成物の、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上が、成分(a)及び(b)、並びに、任意に(c)、(d)及び(e)からなる群から選択される1以上の成分であってもよい。また、導電性高分子組成物は、成分(a)及び(b)、並びに、任意に(c)、(d)及び(e)からなる群から選択される1以上の成分のみからなってもよい。
【0068】
本実施形態では、上述した導電性高分子組成物を多孔質体に含浸させる(上記工程(A))。
多孔質体としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン)の酸化物多孔質体、ゼオライト、活性炭、メソポーラスシリカが挙げられる。
多孔質体は細孔が存在する材料であり、好ましくはその表面に直径1nm~10μm程度の細孔を多数有する。
【0069】
多孔質体の形状は特に制限されず、例えば成形体又は膜(箔)であって、一定の厚さを有するものである。
当該多孔質体としては、例えば金属の酸化物のみからなる成形体(例えば細孔を有する酸化アルミニウムからなる球体(アルミナボール))が挙げられる。また、金属の酸化物からなる膜(箔)(例えば粗面化によりエッチング孔を有するアルミニウムと、その表面に形成された酸化アルミニウムとからなる膜(箔)(アルミニウム電解コンデンサの陽極材料)、タンタル微粒子による焼結体を作製し、焼結体と、その表面に形成された五酸化タンタルとからなる膜(タンタルコンデンサの陽極材料)が挙げられる。
【0070】
導電性高分子組成物の含浸方法は、多孔質体の細孔内部へ導電性高分子を十分に含浸できる方法であれば特に制限はない。例えば、多孔質体を導電性高分子溶液に浸漬する方法が好ましい。含浸(浸漬)時間は、通常1~30分間であり、好ましくは1~10分間である。
尚、含侵後、上述したように多孔質体を成分(d)の溶液に含侵させてもよい。
【0071】
本実施形態では、含浸後の多孔質体を、温度を変えて2回以上乾燥させる(工程(B))。
第1の乾燥工程では、乾燥温度(Tf)を溶剤の沸点(Tb)よりも10℃以上低い温度(Tb-10℃以下)に設定する。尚、2種以上の溶剤を混合した場合、沸点の最も低い溶剤の沸点を基準とする。
乾燥温度(Tf)は20℃以上が好ましく、より好ましくは30℃以上であり、さらに好ましくは40℃以上である。
【0072】
乾燥時間は、10~120分間が好ましく、30~60分間がより好ましい。
尚、乾燥温度を一定にする必要はなく、溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度であれば、乾燥温度を変えて乾燥してもよい。
【0073】
次に、第2の乾燥工程では乾燥温度を溶剤の沸点以上の温度に設定する。乾燥温度(Ts)は、下記(b1)の範囲であることが好ましく、下記(b2)の範囲であることがより好ましい。
Tb+0℃≦Ts≦Tb+200℃ (b1)
Tb+5℃≦Ts≦Tb+100℃ (b2)
【0074】
乾燥時間は、10~120分間が好ましく、30~60分間がより好ましい。
乾燥温度を一定にする必要はなく、溶剤の沸点以上の温度であれば、乾燥温度を変えて乾燥してもよい
導電性高分子組成物の含浸工程(工程(A))と乾燥工程(工程(B))は、繰り返し行ってもよく、例えば、2~10回繰り返し行ってもよい。
尚、多孔質体を成分(d)の溶液に含侵させる場合、乾燥工程は、導電性高分子組成物に多孔質体を含侵させた後、成分(d)の溶液に含侵させる前に実施してもよく、また、成分(d)の溶液に含侵させた後に実施してもよい。さらに、乾燥工程は、導電性高分子組成物に多孔質体を含侵させた後、及び、成分(d)の溶液に含侵させた後の両方で実施してもよい。
【0075】
[第2実施形態]
本発明の一実施形態に係る導電性高分子含有多孔質体の製造方法は、下記の工程(C)、(A’)及び(B)を含む。
工程(C):多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させる工程
工程(A’):接触と同時に又は接触後に、(a)導電性高分子と、(b)溶剤と、を含む、導電性高分子組成物を、多孔質体に含浸させる工程
工程(B):含浸後の多孔質体を、溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度で乾燥し、その後、沸点以上の温度で乾燥する工程
本実施形態では、多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させる工程を有する。多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させることによって、多孔質体の表面を改質し、導電性高分子組成物を多孔質体の細孔の奥まで浸透させることができる。
工程(C)による接触と同時に又は接触後に、工程(A)及び(B)を実施する。工程(A)及び(B)は第1実施形態と同じである。
【0076】
工程(C)において、使用する酸又は塩は、第1実施形態の成分(c)と同じである。酸又は塩の溶液の濃度は、通常0.5~15.0質量%であり、好ましくは1.0~5.0質量%である。使用する酸又は塩の種類に応じて、多孔質体を溶解させない範囲で適宜設定する。
当該溶液の溶媒は、酸又は塩が溶解するものであれば特に制限はない。例えば、水、アルコール、ケトン、エーテル、エステルが挙げられる。また、導電性高分子組成物の溶剤と共通する同じ溶媒でもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
接触の方法は、多孔質体と酸又は塩の溶液が十分に接触する方法であれば特に制限されないが、多孔質体を酸又は塩の溶液に浸漬する方法が好ましい。
当該溶液との接触(浸漬)時間は、通常1~30分であり、好ましくは1~10分である。接触温度は特に制限はないが、通常、常温である。接触は常圧又は減圧下で行うことが好ましい。
【0078】
酸又は塩の溶液との接触の後、通常、多孔質体を乾燥する。乾燥条件は、用いる酸又は塩の溶液や溶媒の種類によって異なるが、当該溶液の溶媒を除去できる条件であれば特に制限はない。乾燥温度は、通常80~250℃であり、好ましくは110~200℃であり、より好ましくは150~200℃である。乾燥時間は、通常10~60分であり、好ましくは30~60分である。
より高温で乾燥することで溶媒等の残留量が少なくなり、導電性高分子組成物の浸透性を向上することができる。
【0079】
本発明の製造方法によって得られた導電性高分子含有多孔質体は、固体電解コンデンサの固体電解質等に使用できる。固体電解コンデンサは、電気・電子回路基板に実装される回路素子、特に、自動車等に搭載される回路素子として用いることができる。
【実施例】
【0080】
製造例1(ポリアニリン複合体の合成)
1,000mLのセパラブルフラスコに、ネオコールSWC(ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム:第一工業製薬株式会社製)32.4g、アニリン13.3g、及び、ソルボンT-20(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル構造を有する非イオン乳化剤:東邦化学工業株式会社製)0.9gを入れ、さらにトルエン320.4gを加えて溶解させた。そこに17質量%のリン酸水溶液450gを加え、トルエンと水の2つの液相を有する反応液を撹拌し、反応液の内温を-5℃まで冷却した。反応液の内温を-5℃に到達した時点で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム39.3gを17質量%のリン酸水溶液90.2gに溶解した溶液を、滴下漏斗を用いて1時間かけて滴下した。滴下終了後、溶液内温を-5℃に保ったまま8時間撹拌(合計反応時間9時間)した。撹拌停止後、分液漏斗に内容物を移し、水層とトルエン層を静置分離した。分離後、有機層を8.5質量%リン酸水溶液180.3gで1回、イオン交換水328.0gで5回洗浄することにより、ポリアニリン複合体トルエン溶液を得た。この溶液をNo.2の濾紙にて濾過し、不溶分を除去し、トルエンに可溶なポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。この溶液をエバポレーターに移し、60℃の湯浴で加温し、減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、ポリアニリン複合体(プロトネーションされたポリアニリン)を得た。
【0081】
実施例1
(1)導電性高分子組成物の製造
DL-2-メチル酪酸(成分(c))15g、イソプロピルアルコール(成分(b):沸点82.4℃)32g、p-tert-アミルフェノール(成分(e))32g、及びヘキサン(成分(b):沸点69℃)21gを均一になるまで撹拌混合して混合溶剤Aを調製した。尚、導電性高分子(ポリアニリン複合体)の濃度はこれらすべてを溶剤として計算するが、沸点は成分(b)のみで判断する。
混合溶剤A99.5gに、ポリアニリン複合体(成分(a))0.5gを添加して均一に溶解させ、ポリアニリン複合体が0.5質量%であるポリアニリン複合体溶液を調製した。その後、このポリアニリン複合体溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物(成分(d))0.038g添加し、均一に溶解させて導電性高分子組成物を得た。
【0082】
(2)導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価
上記(1)の導電性高分子組成物3gにアルミナボール(住友化学株式会社製「NKHO-24」:直径3mm、アルミニウムの酸化物からなる多孔質体)1個を5分間浸漬した。
浸漬後のアルミナボールを熱風乾燥機にて、40℃で30分間乾燥した。次いで、30分かけて40℃から150℃に昇温し、150℃で30分間乾燥して、導電性高分子含有アルミナボール(導電性高分子含有多孔質体)を製造した。
得られた導電性高分子含有アルミナボールをニッパーで切断して断面を観察した。その結果、アルミナボールの内部までポリアニリン複合体による着色があることから、ポリアニリン複合体がアルミナボールの内部まで均一に付着していることが確認できた。
【0083】
実施例2
実施例1のアルミナボールの浸漬及び乾燥の2工程を合計3回繰り返した他は、実施例1と同様にして導電性高分子含有多孔質体を製造し、評価した。その結果、ポリアニリン複合体がアルミナボールの内部まで均一に付着していることが確認できた。
【0084】
実施例3
(1)導電性高分子組成物の製造
実施例1(1)と同様の混合溶剤A99.7gに、ポリアニリン複合体(成分(a))0.3gを添加して均一に溶解させて、ポリアニリン複合体の濃度が0.3質量%であるポリアニリン複合体溶液を調製した。その後、このポリアニリン複合体溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物0.023g添加し、均一に溶解させて導電性高分子組成物を得た。
【0085】
(2)導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価
上記(1)の導電性高分子組成物(0.3質量%)を使用した他は、実施例2と同様に、浸漬及び乾燥の工程を合計3回繰り返して、導電性高分子含有多孔質体を製造し、評価した。その結果、ポリアニリン複合体がアルミナボールの内部まで均一に付着していることが確認できた。
【0086】
実施例4
(1)導電性高分子組成物の製造
実施例1(1)と同様の混合溶剤A99.9gに、ポリアニリン複合体1(成分(a))0.1gを添加して均一に溶解させ、ポリアニリン複合体が0.1質量%であるポリアニリン複合体溶液を調製した。その後、このポリアニリン複合体溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物0.0076g添加し、均一に溶解させて導電性高分子組成物を得た。
【0087】
(2)導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価
上記(1)の導電性高分子組成物(0.1質量%)を使用した他は、実施例2と同様に、浸漬及び乾燥を合計3回繰り返して、導電性高分子含有多孔質体を製造し、評価した。その結果、アルミナボールの内部にポリアニリン複合体が付着しており、また、均一に付着していることが確認できた。
実施例4の導電性高分子含有多孔質体の断面の顕微鏡写真を
図1に示す。
【0088】
比較例1
実施例4(1)と同じ導電性高分子組成物(0.1質量%)3gにアルミナボール1個を5分間浸漬した。
浸漬後のアルミナボールを、150℃で20分間乾燥した。
上記浸漬及び乾燥を合計3回繰り返すことにより、導電性高分子を含有させたアルミナボールを製造した。
得られたアルミナボールを、実施例1と同様に評価した結果、アルミナボールの内部にはポリアニリン複合体による着色が薄く、一方、アルミナボール外側部分の着色が濃かったことから、内部におけるポリアニリン複合体の付着量が少なく、また、ポリアニリン複合体が不均一に付着していることが確認できた。
比較例1の導電性高分子含有多孔質体の断面の顕微鏡写真を
図2に示す。