(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】金属配線を備える導電基板及び該導電基板の製造方法、並びに金属配線形成用の金属インク
(51)【国際特許分類】
H05K 3/12 20060101AFI20220809BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220809BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20220809BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20220809BHJP
【FI】
H05K3/12 610D
H05K3/12 610B
H05K1/09 A
H01B5/14 B
H01B5/14 A
C09D11/54
(21)【出願番号】P 2018215738
(22)【出願日】2018-11-16
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】越路 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】牧田 勇一
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀章
(72)【発明者】
【氏名】春日 政人
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 優輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘規
(72)【発明者】
【氏名】久保 仁志
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-048601(JP,A)
【文献】特表2016-527659(JP,A)
【文献】特開2002-298665(JP,A)
【文献】特開2014-165263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/12
H05K 1/09
H01B 5/14
C09D 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも片面に形成され、銀又は銅の少なくともいずれかよりなる金属配線と、を備える導電基板において、
前記金属配線の一部又は全部の表面上に、銀又は銅の少なくともいずれかよりなる粗化粒子と、前記粗化粒子の間に埋設された前記粗化粒子よりも微細な黒化粒子と、を含んでなる反射防止領域が形成されており、
前記黒化粒子は、銀又は銀化合物、銅又は銅化合物、若しくは、カーボン又は炭素含有率25重量%以上の有機物の少なくともいずれかよりなり、
更に、前記反射防止領域は、表面の中心線平均粗さが15nm以上70nm以下であることを特徴とする導電基板。
【請求項2】
黒化粒子は、銀化合物又は銅化合物であり、酸化物、硫化物、塩化物である請求項1記載の導電基板。
【請求項3】
黒化粒子は、カーボン、又は、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、グリコーゲン、アミロース、セルロース、デキストリン、グルカン、フルクタン、キチンの少なくともいずれかよりなる請求項1記載の導電基板。
【請求項4】
粗化粒子は、平均粒子径が40nm以上150nm以下である請求項1~請求項3のいずれかに記載の導電基板。
【請求項5】
金属配線の幅は、0.5μm以上30μm以下である請求項1~請求項4のいずれかに記載の導電基板。
【請求項6】
金属配線の厚さは、0.08μm以上10μm以下である請求項1~請求項5のいずれかに記載の導電基板。
【請求項7】
基材が透明体からなる請求項1~請求項6のいずれかに記載の導電基板。
【請求項8】
基材は、少なくとも金属配線が形成される面がフッ素含有樹脂からなる請求項1~請求項7のいずれかに記載の導電基板。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれかに記載の導電基板を製造する方法であって、
銀又は銅のいずれかの金属粒子の少なくとも1種を溶媒に分散してなる金属インクを基材に塗布し、前記金属粒子同士を結合させる工程、を少なくとも1回行って金属配線を形成する工程と、
少なくとも1種の黒化粒子を溶媒に分散してなる黒化インクを前記金属配線の一部又は全部に塗布し、前記金属配線表面の粗化粒子の間に前記黒化粒子を埋設する工程、を少なくとも1回行って反射防止領域を形成する工程と、を含む導電基板の製造方法。
【請求項10】
金属インクの金属粒子は、平均粒子径が40nm以上150nm以下であり、10%粒径(D
10)が40nm以上100nm以下の金属粒子である請求項9に記載の導電基板の製造方法。
【請求項11】
金属インクは、金属粒子を保護する保護剤を含み、前記保護剤は、炭素数4以上12以下のアミン化合物の少なくとも1種からなる保護剤Aと、炭素数4以上24以下の脂肪酸の少なくとも1種からなる保護剤Bとからなる請求項9又は請求項10に記載の導電基板の製造方法。
【請求項12】
金属インクを基材に塗布後、基材を40℃以上250℃以下に加熱することで金属粒子同士を結合し金属配線を形成する請求項9~請求項11のいずれかに記載の導電基板の製造方法。
【請求項13】
金属配線を形成するためのパターン形成部が基材に設定されており、
前記基材は、少なくとも前記パターン形成部を含む表面上にフッ素含有樹脂層を備えるものであり、
金属配線を形成する工程は、前記フッ素含有樹脂層表面のパターン形成部に官能基を形成した後に、前記基材表面に金属インクを塗布し、金属粒子を前記パターン形成部に接合させた後に、金属粒子同士を結合させることで金属配線とする工程である請求項9~請求項12のいずれかに記載の導電基板の製造方法。
【請求項14】
フッ素含有樹脂層は、その重合体を構成するフッ素含有単量体に基づく繰り返し単位として、フッ素原子数と炭素原子数との比(F/C)が1.0以上の繰り返し単位を少なくとも1種有する重合体からなる請求項13記載の導電基板の製造方法。
【請求項15】
フッ素含有樹脂層表面に官能基を形成する工程は、フッ素含有樹脂層表面のパターン形成部に1mJ/cm
2以上4000mJ/cm
2以下のエネルギーを印加するものである請求項13又は請求項14に記載の導電基板の製造方法。
【請求項16】
官能基として、カルボキシ基、ヒドロキシ基、カルボニル基の少なくともいずれかを形成する請求項13~請求項15のいずれかに記載の導電基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面上に金属配線が形成された導電基板に関する。詳しくは、光反射が抑制された金属配線であって、特に、これまでの方法では製造が難しかった厚膜の金属配線を有する導電基板に関する。また、そのような金属配線を形成する方法を含む導電基板の製造方法と、金属配線形成のための金属インクについても開示する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル、ディスプレイ等の表示装置やフィルムヒーターにおいては、透明基材に透明電極材料からなる配線が形成された導電基板が用いられている。これら導電基板の配線には、従来からITO等の酸化物系の透明電極材料が適用されてきたが、近年のパネル大型化の要求等により、電気抵抗が低い銀や銅等の金属材料の適用が検討されている。これらの金属は良好な導電体であるので、パネル大型化による配線長増大に対応できる。また、銀や銅等の金属は透明ではないが、ミクロンオーダーの人間の可視領域を超えた配線幅にすることで、透明電極と同等に透光性を発揮し、透明電極材料として機能し得る。
【0003】
電極材料として銀や銅等の金属を配線に形成するための手段として、これら金属の微粒子を適宜の溶媒に分散させたペースト・インクによるプロセスが知られている(本願において、この金属粒子が分散するペースト・インクを、金属インク或いは単にインクと称することがある)。この金属インクによる配線形成プロセスでは、基材に金属インクを塗布し、その後、加熱することで金属粒子同士を結合(焼結)して配線となる金属膜を形成する。金属インクによる配線形成プロセスでは、金属インクという液状の前駆体を使用することで自在な形状・パターンの配線を形成することができ、また、金属インクの金属粒子は、比較的低温で焼結できるので、基材の構成材料も樹脂等の広範な範囲から選択できる。
【0004】
金属インクを用いた配線形成プロセスに関しては、金属インクの構成の最適化や塗布・印刷技術の進歩により、高精細化された配線パターンを大面積で形成が可能となっている。例えば、本出願人は、フッ素含有樹脂を含む基材を用い、所定の構成の銀からなる金属粒子分散液を使用する導電基板の製造方法を開示している。この本出願人による導電基板の製造方法では、撥液性のあるフッ素含有樹脂からなる基材に対し、配線パターンを形成する部位に官能基(親水基)を形成する。そして、基材に金属インクを塗布して、インク中の金属粒子を官能基に接合させた後、金属粒子を焼結させてバルク状に近い金属配線を形成する。この配線形成プロセスでは、基材表面に官能基を形成する方法として、微細なパターニングが可能な紫外線等の光照射を適用している。これにより、高精細な配線を効率的に製造できる。具体的には、線幅1μm以下の極細の金属配線であっても高密度で形成することができ、従来の透明電極材料を適用する導電基板と同等の透光性の導電基板を製造することができる。
【0005】
もっとも、金属インクにより形成される配線には、金属で構成されることに起因する改善点もある。即ち、本願発明者等の検討では、上記のようにして製造される金属配線を備える導電基板は、見る角度によって配線からの反射光によって配線パターンが識別されることがある。金属配線はバルク状の金属で構成されており、銀等の反射率が高い金属が採用されることが多い。そのため、ある角度では金属配線の実体(線幅)が視認できない場合でも、角度が変わると光を正反射することで配線の存在が肉眼でも視認されることがある。
【0006】
かかる金属配線の反射の問題への対応としては、金属配線表面を反射性のない材質で被覆することが考えられる。例えば、特許文献2には、銀粒子とバインダー樹脂を含む導電性パターン層(配線)が形成された透明基材について、テルル(Te)を含む塩酸溶液で処理する透明導電材の製造方法が記載されている。この方法によれば、導電性パターン層の表面に一定厚さを有し、黒色を呈する化合物層(黒化層)が形成され、これが金属配線の反射を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-48601号公報
【文献】特開2011-82211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2の先行技術は、配線の形成方法及び形態・構成という基本的事項は相違するものの、金属配線を対象とするものであり、その反射抑制の手法としては有用と予測される。しかし、本発明者等の検討によれば、この所定の化成処理による着色(黒化)された金属配線においては、いくつかの問題があり、その有用性はさほど高くないことが確認されている。
【0009】
即ち、特許文献2記載の導電基板では、金属配線の表面を全面的に変質させて黒色の黒化層を形成させている。この黒化層は、配線を構成する金属の酸化物、塩化物や処理液中のTeの酸化物、塩化物等からなる、こうした酸化物等からなる黒化層は、多少の導電性は有するものの純金属に比べれば導電性は劣る。よって、そのような酸化物等で配線を全面的に覆うことで、金属配線の抵抗値の上昇が懸念される。また、Teのような異種金属が金属配線と反応することによる抵抗の変動も無視できない。特許文献2では、金属配線の抵抗値上昇を一応は懸念し、黒化層の厚さを制限しているが、前記黒化層の反応性等も考慮するとその影響の程度が不明確である。
【0010】
また、反射防止のために配線を着色する従来技術は、金属配線の透明化(細線化)への影響も懸念される。金属配線を如何に細く形成して透明化するとしても、着色により可視化されるようになっては無意味である。
【0011】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、金属インク・ペーストを前駆体として形成される金属配線を有する導電基板に関し、光反射が効果的に抑制しながら、電気的特性の低下のない金属配線を有するものを提供する。また、金属配線の細線化も可能な導電基板を提供する。
【0012】
更に、本発明は、高精細化と共に厚膜化が可能となった金属配線を有する導電基板についても開示する。そして、これらの金属配線を備える導電基板の製造方法及びそのための金属インクについても明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決するため、金属インクの構成についていくつかの調整を行いつつ、調整された各種の金属インクによる金属配線の形成可否と形成された金属配線の形態を調査・検討した。そして、この検討過程において、金属配線の表面形態の調整により、その光反射特性に変化が生じることを見出した。
【0014】
金属インクは、ナノオーダーの粒径の金属粒子が分散した溶液である。特に、従来から金属配線形成に用いられてきた金属インクは、粒径5nm以上で100nmを超えない範囲の微細な金属粒子を含むものが一般的である。本発明者等による検討は、この従来の金属配線用の金属インクに加えて、それらより大粒径の金属粒子を含む金属インクによる金属配線形成の可否についても検討を行うこととした。また、複数種の金属インクを組み合わせた金属配線の形成とその形態についても検討した。
【0015】
本発明者等によれば、金属インクにより形成された金属配線の表面には、焼結による多少の粗粒化は見られるものの、インクの金属粒子と略等しい粒径の金属粒子による凹凸が形成される。従って、大粒径の金属粒子を含むインクで金属配線を形成すれば、粗大な金属粒子が表面に露出して凹凸を形成する。そのような金属配線は、従来の微細金属粒子の金属インクで製造された金属配線と対比すると、光反射特性に差異があることが確認されている。もっとも、反射特性に差異があるとしても、金属配線を構成する金属粒子を粗大化しても反射が抑制されるというわけではない。尚、粗大な金属粒子で構成される金属配線であっても、配線幅をミクロンオーダーとする限り光透過性は維持されることも確認されている。
【0016】
ここで本発明者等は、大粒径の金属粒子を含む金属インクで金属配線を構成した後、追加的に微細粒子を含む従来の金属インクを塗布した金属配線の試作を行った。そして、本発明者等は、この複合的構成を有する金属配線の表面においては、粗大粒子が部分的に露出し、その間隙に微細粒子が埋設された特異な表面形態を呈することがあることを見出した。更に、そのような表面形態の金属配線について検討したところ、光反射率の低減が見られることが確認された。
【0017】
上記のような粒径が相違する粒子が混在した複合的な表面形態の配線において光反射が抑制される理由として、配線表面に点在して状態で観察される粗大粒子の光学的特性と、粗大粒子の間隙の微細粒子が有する特有の作用が考えられる。
【0018】
金属に限定された現象ではないが固体粒子は、その粒径がナノオーダー~サブミクロンオーダーへと微細化されたとき、光の吸収・散乱特性において特徴的な傾向を有することがある。本発明者等が検討する金属配線においても、微細粒子が存在する領域において光の吸収・散乱が生じ、反射特性を変化させていると予測される。そして、この様な作用を有する微細粒子と粗大粒子との協調により、配線が擬似的に黒化されて反射を防止できることが考えられる。
【0019】
そこで本発明者等は、粗大粒子の金属インクによって本体部分となる金属配線を形成した後に、各種の微細粒子を付加した金属配線を形成し、その表面形態と反射抑制の作用との関連を検討したところ、本発明に想到した。
【0020】
本発明は、基材と、前記基材の少なくとも片面に形成され、銀又は銅の少なくともいずれかよりなる金属配線と、を備える導電基板において、 前記金属配線の一部又は全部の表面上に、銀又は銅の少なくともいずれかよりなる粗化粒子と、前記粗化粒子の間に埋設された前記粗化粒子よりも微細な黒化粒子と、を含んでなる反射防止領域が形成されており、 前記黒化粒子は、銀又は銀化合物、銅又は銅化合物、若しくは、カーボン又は炭素含有率25重量%以上の有機物の少なくともいずれかよりなり、更に、前記反射防止領域は、表面の中心線平均粗さが15nm以上70nm以下であることを特徴とする導電基板である。以下、本発明の構成及びその作用について詳細に説明する。
【0021】
(I)本発明に係る導電基板の構成
本発明に関し、まず、導電基板の構成について説明する。上記のとおり本発明に係る導電基板は、基材とこの基材上に形成される金属配線との組み合わせを最小単位とする。そして、本発明は金属配線の表面形態に特徴を有し、金属配線の本体(骨格)を構成する粗大な粗化粒子と、それよりも小粒径の黒化粒子とで構成された反射防止領域を有する。
【0022】
A.基材
本発明に適用される基材は、特に限定する必要はなく、金属、セラミックからなる基材が適用でき、更に、樹脂、プラスチック製の基材も適用可能である。また、重量の制限がなければガラスを使用することも可能である。基材は、透明体からなるものが好ましい。本発明は、タッチパネル、ディスプレイ等の表示装置に好適に使用可能だからである。尚、ここでの透明体とは、可視光における透過率が80%以上の材料とする。
【0023】
尚、上記した本願出願人による金属配線の形成方法(特許文献1)による導電基板とするためには、基材は、金属配線を形成する面の表面にフッ素含有樹脂層を有するものが好ましい。この本願出願人の従来の金属配線の形成方法については、後に詳述するが、基材の表面に撥液性を付与するためにフッ素含有樹脂層が付加される。フッ素含有樹脂層は、金属配線が形成される領域を包含していれば、基材全面に形成されていても良く基板表面の一部に形成されていても良い。フッ素含有樹脂層の厚さについては特に制限はない。0.01μm以上あれば撥液性が発揮される。また、透明性が要求される場合においては、フッ素含有樹脂層の上限は5μmとするのが好ましい。
【0024】
フッ素含有樹脂は、フッ素原子を含むフッ素含有単量体に基づく繰り返し単位を1種又は2種以上有する重合体であるフッ素含有樹脂が適用できる。また、フッ素含有単量体に基づく繰り返し単位と、フッ素原子を含まないフッ素非含有単量体に基づく繰り返し単位とを、それぞれ1種又は2種以上有する重合体であるフッ素含有樹脂であっても良い。更に、本発明におけるフッ素含有樹脂は、その一部に酸素、窒素、塩素等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0025】
このようなフッ素含有樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)、環状パーフルオロアルキル構造又は環状パーフルオロアルキルエーテル構造を有するフッ素含有樹脂等が挙げられる。
【0026】
また、撥液性の観点から好ましいフッ素含有樹脂は、重合体を構成するフッ素含有単量体に基づく繰り返し単位に関して、フッ素原子数と炭素原子数との比(F/C)が1.0以上である繰り返し単位を少なくとも1種有する重合体からなるフッ素含有樹脂である。このフッ素含有単量体に基づく繰り返し単位のF/Cは、1.5以上であるものがより好ましい。尚、F/Cの上限については、撥液性、入手容易性の理由からF/Cは2.0を上限とするのが好ましい。また、この要件に関連して特に好ましいフッ素含有樹脂は、パーフルオロ化合物の単量体に基づく繰り返し単位を有するパーフルオロ樹脂であって、当該繰り返し単位におけるF/Cが1.5以上であるパーフルオロ樹脂である。
【0027】
更に、撥液性に加え、他の特性を考慮して好適なフッ素含有樹脂を選択できる。例えば、基材にフッ素含有樹脂を塗布するための溶媒への可溶性を考慮する場合、フッ素含有樹脂としては、主鎖に環状構造を有するパーフルオロ樹脂が好ましい。このとき、フッ素含有樹脂層に透明性が要求される場合には、非晶質のパーフルオロ樹脂を適用するのがより好ましい。また、後述するフッ素含有樹脂層に対する官能基形成の際の露光操作において、好適なフッ素含有樹脂として、その重合体を構成するフッ素含有単量体に基づく繰り返し単位に少なくとも1つの酸素原子を含むフッ素含有樹脂が好ましい。
【0028】
これらの特性を考慮した好ましいフッ素含有樹脂としては、パーフルオロブテニルビニルエーテル重合体(CYTOP(登録商標):旭硝子株式会社)、テトラフルオロエチレンーパーフルオロジオキソール共重合体(TFE-PDD)、テフロン(登録商標)AF:三井・デュポン フロロケミカル株式会社)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、パーフルオロアルコキシ重合体(アルゴフロン(登録商標):ソルベイジャパン株式会社)等が挙げられる。
【0029】
但し、以上説明したフッ素樹脂層は、上記した本出願人による配線形成プロセス(特許文献1)による導電基板を製造する際に、基材に付加される構成である。本発明の導電基板に適用する金属配線は、それ以外のプロセス・基材に適用可能であるので、基材にとってフッ素樹脂層は必須の構成ではない。
【0030】
B.金属配線
本発明は、金属配線として銀又は銅の少なくともいずれかよりなる金属配線を備える。これらの金属は、導電性に優れ配線材料として機能し得るからである。金属配線は、銀又は銅のいずれかの金属のみよりなるものの他、銀及び銅の双方からなるものであっても良い。後者においては、銀と銅との合金であっても良いが、金属銀と金属銅との混合体であっても良い。特に、導電線の観点から銀を適用するのが好ましい。また、金属配線は、単層構造であっても良いが、多層構造を有するものでも良い。例えば、銀よりなる金属配線の上に銅よりなる金属配線を重ねた2層構造の金属配線を適用することができる。
【0031】
金属配線の寸法(厚さ、線幅)について限定されることはない。但し、タッチパネル等の用途を考慮し、可視領域を超えたミクロンオーダーの細線が好ましことから、金属配線の幅は、0.5μm以上30μm以下のものが好ましい。
【0032】
また、金属配線の厚さに関しても特に制限はない。そして、本発明の金属配線は厚膜化に容易に対応できる。従来の金属インクは、微細な金属粒子を含むものが多く、厚膜を形成するためには塗布と焼結の繰り返しを多数行う必要があり、実質的には厚膜の金属配線の製造は困難であった。本発明では、粗大な金属粒子で金属配線の本体部分を構成させるので、厚膜の金属配線にも対応できる。本発明の金属配線の厚さの具体的な範囲としては、0.08μm以上10μm以下とすることができる。
【0033】
C.反射防止領域
本発明に係る導電基板の特徴は、上記金属配線の少なくとも一部に反射防止領域を備える点にある。この反射防止領域は、金属配線の本体部分と連通し、配線表面に露出する粗大な粗化粒子と、粗化粒子の間隙に敷設された黒化粒子とで構成される。黒化粒子とは、反射防止領域を構成する粒子であって、導電基板に入射する光を吸収・散乱させることで金属配線からの光反射を抑制する作用を有する粒子である。
【0034】
本発明に係る導電基板の金属配線の反射防止領域は、粒径が相違する粗化粒子と黒化粒子で形成される表面形態に調整によって反射防止効果を発揮する。上述した従来技術(特許文献2)では、金属配線の表面の着色(黒化)により反射を抑制している。本発明のように、形態的要因による反射防止では、表面の色彩(黒化の程度)によらずにその目的を発揮できる。そして、銀又は銅からなる粗化粒子に黒化粒子を混在させているので、黒化粒子の導電性に如何によらず配線全体の導電性を確保できる。また、本発明は表面形態の調整に基づくことから、配線の透明性に及ぼす影響も極めて僅かである。透明性のある極細の金属配線であっても、粗大な粗化粒子と微細は黒化粒子との組み合わせにより形成可能であり、反射のない表面形態を形成することができる。
【0035】
上記のとおり、粗化粒子は、銀又は銅の少なくともいずれかの金属よりなる。粗化粒子は、金属配線を形成する金属粒子が配線表面に露出した状態の粒子である。よって粗化粒子は、金属配線の本体に連通する金属配線の一部分である。粗化粒子は金属配線の一部であることから銀又は銅のいずれかであって金属配線を構成する金属と同じ金属となる。粗化粒子のサイズは、平均粒径で40nm以上200nm以下の状態のものが好ましい。
【0036】
そして、黒化粒子は、粗化粒子よりも粒径の小さい微細粒子であり、その粒径に起因する光の吸収・散乱効果により光反射を抑制するための重要な構成である。この黒化粒子は、平均粒径で5nm以上80nm以下の範囲内であって、粗化粒子の平均粒径よりも小さい粒子が好ましい。
【0037】
黒化粒子は、銀又は銀化合物又は銅又は銅化合物、非金属であるカーボン又は有機物で構成することができる。粗化粒子と異なり、銀等の化合物やカーボン等が適用されるのは、黒化粒子に非金属等を適用しても金属配線の導電性に与える影響は過小だからである。黒化粒子の付着量は、銀又は銅からなる金属配線に対して極めて僅かである。また、金属配線の表面(反射防止領域)においても、銀、銅からなる粗化粒子と混合した状態で、配線表面の一部に定着する。これらから、黒化粒子の導電性が及ぼす影響は殆どない。
【0038】
但し、導電性が懸念されないとしても、黒化粒子の成分を無制限に設定することは好ましくない。そこで、本発明では、黒化粒子の成分として、金属配線の構成金属の範囲内にある金属(銀又は銅)の化合物を許容することとした。また、これら金属化合物に加えて、カーボン又は炭素含有率25重量%以上の有機物も黒化粒子の構成成分として許容することとした。カーボン及び炭素を一定量以上含む有機物は、金属配線を構成する銀や銅との反応性が低いので、それらに限定することで抵抗値への影響を最小限に抑えられるからである。
【0039】
黒化粒子を、銀又は銅の化合物にする場合には、それら金属の酸化物、塩化物、硫化物が挙げられる。一方、非金属の黒化粒子としては、カーボン又は有機物が挙げられる。有機物の具体例としては、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、グリコーゲン、アミロース、セルロース、デキストリン、グルカン、フルクタン、キチン等が挙げられる。これらの有機物からなる黒化粒子は、表面にカップリング剤が吸着していても良く、このカップリング剤は黒化粒子の構成に含まれる。これら非金属の中で、カーボン、アクリル樹脂、セルロースが、金属配線の導電性への影響及び反射防止の効果から、特に好ましい黒化粒子となる。
【0040】
本発明の金属配線の反射防止領域による効果は、粗化粒子と黒化粒子とで形成される表面形態の影響を受ける。本発明では、反射防止領域の表面形態を表面粗さによって規定する。金属配線の表面の状態を規定するための指標としては、粒子の平均粒径に加えて、それらの粒度分布、粒子間距離等の各種パラメータが挙げられる。本発明者等の検討によれば、本発明の場合、それらを個々に規定しても、光吸収・散乱の好適な作用を有する反射防止領域を定義し難い。この点、表面粗さは、粒径等の各種パラメータが総合的に関与することで定められ、本発明の反射防止領域を適切かつ簡便に規定することができる。
【0041】
本発明で規定される反射防止領域の表面粗さは、中心線平均粗さである。中心線平均粗さは、反射防止領域が形成された金属配線の任意の部位(線)について測定される。本発明において中心線平均粗さは、JIS B 0601に基づき、原子間力顕微鏡(AFM)等の走査型プローブ顕微鏡を用いることで、配線表面の高さ方向の凹凸を測定して得られるデータに基づき定めることができる。
【0042】
そして、本発明では、金属配線の反射防止領域表面の中心線平均粗さを15nm以上70nm以下とする。15nm未満では光反射の抑制がなされず、反射光により配線が視認されることとなる。一方、中心線平均粗さが70nmを超えていると、粗化粒子又は黒化粒子のいずれかに金属光沢が発生することがあり、反射防止領域としての機能が損なわれるおそれが生じる。尚、この中心線平均粗さは、15nm以上50nm以下がより好ましい。
【0043】
以上説明した粗化粒子と黒化粒子を有する反射防止領域は、基材上の金属配線の一部又は全部に形成される。金属配線の全面、或いは反射防止を必要とする領域の全面に反射防止領域が形成されていなくても良い。反射防止領域が全面的でなくても、基板表面全体或いは反射防止を必要とする領域における反射が弱ければ、金属配線が視認されることはないからである。但し、反射防止が必要な金属配線の面積に対して、50%以上(より好ましくは70%以上)の面積の反射防止領域が形成されており、当該領域での表面粗さ(中心線平均粗さ)が15nm以上70nm以下(より好ましくは15nm以上50nm以下)となっていることが好ましい。尚、反射により金属配線が視認されても問題がないような部位に対しては、当然に反射防止領域を形成する必要はない。
【0044】
D.その他の構成
以上説明した本発明に係る導電基板は、基材及び適宜に反射防止領域が形成された金属配線で構成されるが、タッチパネル、ディスプレイ、フィルムヒーター等の各種の具体的用途に供することを考慮した付加的構成を含んでいても良い。例えば、反射防止領域の形成後、導電基板表面にコーティング樹脂層を備えていても良い。このコーティング樹脂層は、金属配線のマイグレーション防止、金属配線の防湿及び酸化防止、更に、傷防止、剥離防止、他フィルムとの接着等を目的として形成される。また、コーティング樹脂層の材質は、例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。また、反射防止領域形成後、粗化粒子が化学的、熱的に不安定である場合、その表面に単分子膜を形成し、金属表面を安定化させても良い。単分子膜としては、チオール化合物、脂肪酸が挙げられる。以上のコーティング樹脂層及び単分子膜は、複数種類を組み合わせて適用することができる。
【0045】
(II)本発明に係る導電基板の製造方法
次に、本発明に係る導電基板の製造方法について説明する。上記のとおり、本発明に係る導電基板は、基材及び基材上に形成された金属配線とからなり、金属配線の少なくとも一部の表面に反射防止領域が形成される。よって、この導電基板の製造方法は、基材に金属配線を形成する工程と、形成した金属配線上に反射防止領域を形成する工程との組み合わせを基本的工程として含む。
【0046】
a.金属配線の形成工程
金属配線の形成工程は、所定の金属インクを基板に塗布し、金属インク中の金属粒子を基板上に固定した後、金属粒子同士を結合させる工程である。上述したとおり、金属インクとは、保護剤と結合状態にある金属粒子を溶剤に分散させて構成する金属粒子分散液である。本発明において金属配線の形成を適切行うため、好適な金属インクの構成とは以下のようなものである。
【0047】
a-1.金属インク
金属インクに分散する金属粒子は、上記のとおり、銀又は銅の少なくともいずれかの金属よりなる。この金属インクの金属粒子は、金属平均粒子径が40nm以上150nm以下であり、10%粒径(D10)が40nm以上100nm以下の粒径分布を有するものが好ましい。本発明の金属インクの金属粒子の粒径は、従来の金属配線形成用の金属インク(特許文献1等)における金属粒子に対して粗大となっている。本発明における金属インクの金属粒子は、金属配線の本体(骨格)を形成することに加えて、配線表面で粗化粒子を形成することによる。また、本発明では金属配線の厚膜化への対応も課題としている。厚膜を形成するためには金属粒子の粒径を増大させることが好ましいことも考慮し、前記粒径範囲とした。尚、10%粒径(D10)とは、SEM等の顕微鏡観察で観察された粒子に対する画像解析法や粒度分布計等により測定される、粒径加積曲線(個数基準)における累積10%粒径である。また、上記の金属インクにおける金属粒子の平均粒径の範囲は、粗化粒子がこの金属粒子の焼結により形成されることを考慮したものである。焼結により、粗化粒子の粒径は使用した金属インクの金属粒子の粒径より粗大化する傾向がある。
【0048】
金属インクにおける保護剤とは、金属粒子の凝集や過剰な粗大化を抑制し、分散状態を安定させるための添加物である。金属粒子の凝集は、金属インクの保管や使用時の金属の沈殿の要因になるばかりでなく、基材に接合させた後の焼結特性に影響を及ぼすことから、これを抑制する保護剤の添加が必須となる。
【0049】
本発明で使用される金属インクの保護剤は、基本構造の相違する2系統の化合物を複合的に使用することが好ましい。具体的には、アミン化合物からなる保護剤Aと脂肪酸からなる保護剤Bの2種の保護剤を適用するのが好ましい。
【0050】
保護剤Aであるアミン化合物は、その炭素数の総和が4以上12以下であるものが好ましい。これは、アミンの炭素数が金属粒子の安定性、パターン形成時の焼結特性に影響を及ぼすからである。
【0051】
また、アミン化合物中のアミノ基の数としては、アミノ基が1つである(モノ)アミンや、アミノ基を2つ有するジアミンを適用できる。また、アミノ基に結合する炭化水素基の数は、1つ又は2つが好ましく、すなわち、1級アミン(RNH2)、又は2級アミン(R2NH)が好ましい。そして、保護剤としてジアミンを適用する場合、少なくとも1以上のアミノ基が1級アミン又は2級アミンのものが好ましい。アミノ基に結合する炭化水素基は、直鎖構造又は分枝構造を有する鎖式炭化水素の他、環状構造の炭化水素基であっても良い。また、一部に酸素を含んでいても良い。
【0052】
本発明で保護剤として適用されるアミン化合物の具体例としては、ブチルアミン(炭素数4)、1,4-ジアミノブタン(炭素数4)、3-メトキシプロピルアミン(炭素数4)、ペンチルアミン(炭素数5)、2,2-ジメチルプロピルアミン(炭素数5)、3-エトキシプロピルアミン(炭素数5)、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン(炭素数5)、ヘキシルアミン(炭素数6)、ヘプチルアミン(炭素数7)、ベンジルアミン(炭素数7)、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(炭素数7)、オクチルアミン(炭素数8)、2-エチルヘキシルアミン(炭素数8)、ノニルアミン(炭素数9)、デシルアミン(炭素数10)、ジアミノデカン(炭素数10)、ウンデシルアミン(炭素数11)、ドデシルアミン(炭素数12)、ジアミノドデカン(炭素数12)等が挙げられる。尚、保護剤Aであるアミン化合物は、金属インク中での金属粒子の分散性や低温焼結性を調節する目的で複数種のアミン化合物を混合・組合せて使用しても良い。また、炭素数の総和が4以上12以下のアミン化合物を少なくとも1種含んでいればよく、そうであれば当該範囲外の炭素数のアミン化合物が存在していても良い。
【0053】
一方、保護剤Bとして適用される脂肪酸は、金属インク中ではアミン化合物の補助的な保護剤として作用し金属粒子の安定性を高める。そして、脂肪酸の作用が明確に現れるのは、金属粒子を基材に塗布した後であり、脂肪酸を添加することで均一な膜厚の金属パターンを形成することができる。この作用は脂肪酸の無い金属粒子を塗布した場合と対比することで顕著に理解でき、脂肪酸の無い金属粒子では安定した金属パターンを形成することができない。
【0054】
脂肪酸は、好ましくは、炭素数4以上24以下の不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸が好ましい。好ましい脂肪酸としては、具体的には、ブタン酸(炭素数4)、ペンタン酸(炭素数5)、ヘキサン酸(炭素数6)、ヘプタン酸(炭素数7)、オクタン酸(炭素数8)、ノナン酸(炭素数9)、デカン酸(別名:カプリン酸、炭素数10)、ウンデカン酸(別名:ウンデシル酸、炭素数11)、ドデカンサン酸(別名:ラウリン酸、炭素数12)、トリデカン酸(別名:トリデシル酸、炭素数13)、テトラデカン酸(別名:ミリスチン酸、炭素数14)、ペンタデカン酸(別名:ペンタデシル酸、炭素数15)、ヘキサデカン酸(別名:パルミチン酸、炭素数16)、ヘプタデカン酸(別名:マルガリン酸、炭素数17)、オクタデカン酸(別名:ステアリン酸、炭素数18)、ノナデカン酸(別名:ノナデシル酸、炭素数19)、エイコサン酸(別名:アラキジン酸、炭素数20)、ベヘン酸(別名:ドコサン酸、炭素数22)、リグノセリン酸(別名:テトラコセン酸、炭素数24)等の飽和脂肪酸、パルミトレイン酸(炭素数16)、オレイン酸(炭素数18)、リノール酸(炭素数18)、リノレン酸(炭素数18)、アラキドン酸(炭素数20)、エルカ酸(炭素数20)、ネルボン酸(別名:cis-15-テトラコセン酸、炭素数24)等の不飽和脂肪酸が挙げられる。特に好ましいのは、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ブタン酸、エルカ酸である。尚、以上説明した保護剤Bとなる脂肪酸に関しても、複数種のものを組合せて使用しても良い。また、炭素数が4以上24以下の不飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸を少なくとも1種含んでいればよく、そうであればそれ以外の脂肪酸が存在していても良い。
【0055】
上記した各種保護剤で保護された金属粒子を、溶媒に分散することで金属インクが構成される。金属インクに好適な溶媒は、有機溶媒であり、沸点50~240℃の極性溶媒、又は、沸点80~260℃の非極性溶媒のいずれかを含む溶媒が好ましい。具体的には、例えば、アルコール、ベンゼン、トルエン、アルカン等である。これらを混合しても良い。好ましい溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等のアルカン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール等のアルコールであり、より好ましくは、これらの中から選択される1種又は2種以上のアルコールと1種又は2種以上のアルカンとの混合溶媒である。
【0056】
金属インク中の金属粒子の含有量は、液質量に対する金属質量で20質量%以上60質量%以下とするのが好ましい。金属粒子の含有量が20%未満の場合は、パターン形成部に、十分な導電性を確保するための均一な膜厚の金属パターンを形成することができず、金属パターンの抵抗値が高くなる。金属粒子の含有量が60%を超える場合は、金属粒子の凝集・肥大化により安定した金属パターンを形成することが困難となる。尚、銀と銅の双方の金属の合金又は混合体よりなる金属配線を形成する場合、銀粒子と銅粒子の双方を含む金属インクが適用できる。
【0057】
金属インクの保護剤の含有量は、保護剤Aであるアミン化合物については、金属インク中の金属のモル数(molmetal)に対するアミンのモル数(molアミン)の比(molアミン/molmetal)で、0.001以上0.024以下とするのが好ましい。また、保護剤Bである脂肪酸の含有量は、金属のモル数(molmetal)に対する脂肪酸のモル数(mol脂肪酸)の比(mol脂肪酸/molmetal)で、0.0001以上0.002以下とするのが好ましい。金属インク中の保護剤の含有量は、上記好適範囲を超えても金属粒子の分散性には影響が生じないが、過剰な保護剤は、金属粒子の低温焼結製や形成される金属パターンの抵抗値に影響を及ぼすことから上記範囲にするのが好ましい。また、本発明では金属配線形成用の金属インクとして、従来品に対して粗大な金属粒子を構成成分とするものを適用する。上記の各保護剤の含有量は、粗大な金属粒子を含む金属インクにおいて、分散性や基材への定着性を好適にする上で好ましい数値である。尚、上記の保護剤のモル数については、複数種のアミン化合物、脂肪酸を使用する場合には、それぞれ、合計モル数を適用する。
【0058】
a-2.金属インクによる金属配線の形成工程
金属配線の形成工程においては、以上で説明した金属インクを基材に塗布する。インクの塗布法は、ディッピング、スピンコート、ロールコーターが適用できるが、ブレード、スキージ、ヘラのような塗布部材を用いて、インクを滴下して塗り広げても良い。塗布後は、金属インクの溶剤が揮発すると共に、基材上の金属粒子同士が結合し焼結して金属膜となり金属配線が形成される。
【0059】
この金属粒子の焼結は室温であっても生じ得る現象(自己焼結)であるので、金属パターン形成に際して基材の加熱は必須の工程ではない。但し、焼結後の金属パターンを焼成することで、金属膜中に残存する保護剤(アミン化合物、脂肪酸)を完全に除去することができ、これにより抵抗値の低減を図ることができる。この焼成処理は、40℃以上250℃で行うことが好ましい。40℃未満では保護剤の脱離や揮発に長時間を要するため好ましくない。また、250℃を超えると樹脂基材等に対する変形の要因となる。焼成時間は、10分以上120分以下が好ましい。尚、焼成工程は、大気雰囲気で行っても良いし、真空雰囲気でも良い。
【0060】
上記の金属インクの塗布と金属粒子の結合・焼結により、金属配線が形成できる。これらの工程を少なくとも1回行うことで、1層以上の金属配線を形成することができる。金属インクの塗布及び金属粒子の結合を繰返し行うことで、任意の膜厚の金属配線を形成することができる。特に、本願で適用する金属インクは比較的大粒径の金属粒子を含むものであり、繰返し塗布により厚膜の金属配線が形成できる。また、繰返し塗布により、多層構造の金属配線を形成することができる。例えば、銀の金属インクで下層の金属配線(銀配線)を形成し、銅の金属インクで上層の金属配線(銅配線)を形成し、2層構造の金属配線を形成することができる。
【0061】
以上の金属インクの塗布及び焼結した金属粒子の焼成は、金属配線形成の基本的な工程である。そして、本発明においては、上述した本願出願人による金属配線の形成方法(特許文献1)を適用して金属配線を形成することがより好ましい。この金属配線の形成方法に従い、本発明では、基材として、少なくともパターン形成部を含む表面上にフッ素含有樹脂層を備えるものを適用し、まず、このフッ素含有樹脂層表面のパターン形成部に官能基を形成する。そして、その後、金属インクを基材表面に塗布し、金属粒子をパターン形成部に接合すると共に金属粒子同士を結合させることにより金属配線を形成する。
【0062】
この金属配線の形成工程においては、(1)撥液性のあるフッ素含有樹脂層を有する基材を選択し、(2)この基材表面に対して所定の処理を行いフッ素含有樹脂表面のパターン形成部を変質させて官能基を形成した後、(3)保護剤を含む金属インクを使用して、インク中の金属粒子をフッ素含有樹脂表面の変質した部位に選択的に固定させることにより高精細な配線パターンを形成可能としている。これら各工程について、より詳細に説明する。
【0063】
基材のパターン形成部を含む表面にフッ素含有樹脂層を備えるものとしたのは、配線を形成する際に基材表面に撥液性を付与するためである。基材表面に撥液性を付与した上で、その一部に官能基を形成することで、官能基のない部位でインクが弾かれるようにしている。フッ素含有樹脂層の構成については、上記のとおりである。フッ素含有樹脂層は、基材に予め形成されたものを用いても良く、金属配線形成の一工程として、フッ素含有樹脂層のない基材に塗布等により形成しても良い。
【0064】
フッ素含有樹脂層を基材に形成する際には、フッ素含有樹脂を適宜の溶媒に溶解させたものを塗布することで対応できる。塗布後は焼成することでフッ素含有樹脂層が形成される。フッ素含有樹脂の塗布方法としては、ディッピング、スピンコート、ロールコーター等特に限定されない。フッ素含有樹脂を塗布した後は、樹脂の種類に応じた後処理(乾燥処理、焼成処理)を行い、フッ素含有樹脂層を形成する。
【0065】
次に、基材上のフッ素含有樹脂層表面に官能基を形成する。この官能基とは、フッ素含有樹脂の共有結合を切断することで形成される官能基である。具体的には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、カルボニル基が形成される。
【0066】
フッ素含有樹脂層表面への官能基形成の処理方法としては、紫外線照射、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、エキシマレーザー照射による。これらの処理は、フッ素含有樹脂表面に光化学反応を生じさせて共有結合を切断するものであり、適度なエネルギーの印加処理であることが必要である。パターン形成部に対する印加エネルギー量は、1mJ/cm2以上4000mJ/cm2以下を目安とするのが好ましい。例えば、紫外線照射による場合、波長が10nm以上380nm以下の範囲の紫外線照射が好ましく、特に好ましくは、波長が100nm以上200nm以下の範囲の紫外線を照射する。
【0067】
フッ素含有樹脂層表面への紫外線照射等においては、一般にフォトマスク(レチクル)を使用した露光処理がなされる。本発明では露光方式に関しては、非接触の露光方式(プロキシミティ露光、プロジェクション露光)と接触の露光方式(コンタクト露光)のいずれも適用できる。プロキシミティ露光においては、マスクとフッ素含有樹脂層表面との間隔は、10μm以下とするのが好ましく、3μm以下とするのがより好ましい。
【0068】
以上のようにして、基材にフッ素含有樹脂層形成及びパターン形成部に対する官能基形成処理を行い、この基材を金属インクに接触させる。このプロセスでは、予めパターン形成部に金属粒子を選択的に固定するための官能基が形成されており、一気に金属インクを塗り広げることでパターン形成ができ効率的である。このとき、金属インク(金属粒子)は、官能基のないフッ素含有樹脂の素地面ではその撥液性により弾かれる。ブレード等の塗布部材を使用した場合、弾かれた金属インクは基材表面から除去される。一方、官能基が形成されたパターン形成部では、金属粒子の保護剤と官能基との置換反応が生じ、金属粒子が基材に固定される。その後は、上記した基本工程と同様、金属粒子の結合・焼結と焼成によって金属配線が形成される。
【0069】
上述した、フッ素樹脂基材の適用と官能基形成工程を含む金属配線形成プロセスは、特に、線幅の狭い高精細の金属配線の形成に好適である。但し、本発明に係る導電基板の金属配線は、このプロセスに限定されることなく、上記した基本的工程によって製造可能である。
【0070】
b.反射防止領域の形成工程
本発明では、上記のようにして形成した金属配線上に反射防止領域を形成する。この反射防止領域を形成する工程は、黒化粒子が溶媒に分散してなる黒化インクを前記金属配線上に塗布する工程である。これにより、金属配線の粗化粒子の間隙に黒化粒子を埋設して、反射防止領域が形成される。
【0071】
b-1.黒化インク
この反射防止領域の形成工程で使用される黒化インクとは、黒化粒子の種類に応じていくつかの態様が挙げられる。即ち、黒化粒子は、銀(化合物)又は銅(化合物)からなる金属粒子に加えて、カーボン、セルロース等の非金属粒子で構成することができる。黒化インクの成分は、その構成材料に基づく。
【0072】
黒化粒子が銀(化合物)又は銅(化合物)からなる金属粒子であるとき、黒化インクの基本的構成は、金属配線形成用の金属インクと同様となる。即ち、銀又は銅からなる金属粒子に、上記した金属インクと同様の保護剤と溶媒を含むものが好ましい。但し、黒化インクとして重要なのは、微細な粒径の金属粒子に保護剤を添加したものを溶媒に分散させた金属インクとする。金属粒子は、平均粒径が5nm以上80nm以下、10%粒径(D10)が5nm以上60nm以下の粒径分布を有するものが好ましい。平均粒径は、より好ましくは5nm以上50nm以下とする。つまり、銀等を黒化粒子とするときに適用される黒化インクは、従来の金属配線形成用の金属インクと同様の構成となる。尚、黒化粒子は焼結により形成されるものではないので、黒化インク中の金属粒子の平均粒径と黒化粒子の平均粒径とは近似することが多い。これは、後述するカーボン等の黒化インクでも同様である。
【0073】
この金属インクを黒化インクとするとき、保護剤としては、上記金属インクと同様のアミン化合物(保護剤A)と脂肪酸(保護剤B)を適用し、これらの保護剤が黒化粒子である金属粒子に結合した状態で溶媒に分散する金属インクを使用することが好ましい。更に、溶媒に関しても金属インクと同様のものが好ましい。尚、黒化インクの保護剤は、上記したアミン化合物と脂肪酸の範囲内のものであれば、完全に同じでも良く、一部で重複しても良く、異なっても良い。
【0074】
黒化インクの保護剤の含有量に関しては、保護剤A(アミン化合物)を金属インク中の金属のモル数(molmetal)に対するアミンのモル数(molアミン)の比(molアミン/molmetal)で、0.01以上0.32以下とするのが好ましい。また、黒化インクの保護剤B(脂肪酸)の含有量は、金属のモル数(molmetal)に対する脂肪酸のモル数(mol脂肪酸)の比(mol脂肪酸/molmetal)で、0.001以上0.05以下とするのが好ましい。黒化インクにおける金属粒子は粒径が微細であり、その分散性を考慮し上記範囲にするのが好ましい。
【0075】
また、金属配線を構成する金属と、反射防止領域(黒化粒子)を構成する金属との組み合わせは、同じ金属を組み合わせても良いし相違する金属としても良い。例えば、金属インクとして銀インクを用いて金属配線を形成し、黒化インクとして銅インクを適用することができる。また、銀、銅の化合物で黒化粒子を構成する場合でも、黒化粒子は上記の黒化インクを使用する。化合物からなる黒化粒子は、黒化インク塗布後に熱処理等して銀、銅を化合物にする。
【0076】
一方、カーボン又は有機物を黒化粒子とするとき、黒化インクはこれらカーボン又は有機物の微粒子を溶媒に分散させたものを適用する。非金属の黒化粒子として好ましいもの、カーボン、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、グリコーゲン、アミロース、セルロース、デキストリン、グルカン、フルクタン、キチンであるので、これらの微粒子のインクの使用が好ましい。黒化インク中の有機物微粒子の粒径は、平均粒径が5nm以上80nm以下のものが好ましい。より好ましくは、5nm以上50nm以下とする。
【0077】
有機物の黒化インクの溶媒は、水、アルカン、ベンゼン、トルエン、アルコール、ケトン、アルデヒド、エーテルとする。もしくは、これらを混合させ使用してもよい。より具体的には、オクタン、デカン、1-プロパノール、2-プロパノール、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジブチルエーテルが好ましい。この黒化インクにおける有機物微粒子の濃度は、1質量%以上50質量%以下とするのが好ましい。
【0078】
上記有機物粒子を含む黒化インクにおいては、分散剤・保護剤等の機能を有する添加剤として、官能基として、-OH、-CHO、 -CO、 -COOH、 -NH2、- H2PO4、-PO 、-SH、-SO3Hを含む有機化合物を添加・混合することができる。具体的な添加剤としては、1,3-メルカプトプロパンジオール、ドデカンチオール等のチオール類、1-ブタノール、1-ヘキサノールなどのアルコール類、オレイン酸などのカルボン酸類、リン酸エステル等が好ましい。
【0079】
b-2.黒化インクによる反射防止領域の形成
粗化粒子が表面に露出した金属配線に、上記で説明した黒化インクを塗布することで反射防止領域が形成される。この黒化インクの塗布方法は、金属配線形成の際の金属インクの塗布方法と同様の方法が採用できる。黒化インク中の金属又は非金属の黒化粒子は、金属配線の表面に対して、比較的弱い相互作用による吸着現象によって結合する。
【0080】
黒化インクを塗布すると、金属配線表面で粗化粒子によって形成される起伏の谷となっている領域に、微細な黒化粒子が充填される。埋設された黒化粒子は、金属配線表面に吸着して反射防止領域が形成される。この黒化インクの塗布処理後は、そのまま放置しても良いし、乾燥処理をしても良い。黒化粒子の種類によっては、黒化インク塗布後に基板を低温で加熱することで、黒化粒子を強固に結合するときもある。低温加熱処理を行う場合、温度40℃以上200℃以下とし、処理時間を30秒以上120分以下とするのが好ましい。
【0081】
また、銀、銅粒子を黒化粒子としたとき、これを熱処理することで、化合物からなる黒化粒子とすることができる。この場合の処理としては、大気中或いは酸化・硫化雰囲気中、60℃以上200℃以下の温度で、1分以上120分以下加熱することで、酸化物、硫化物等の化合物を形成することができる。
【0082】
以上説明した黒化インクの塗布により、金属配線表面の粗大な金属粒子により形成された起伏に黒化粒子が固定される。これにより反射防止領域を備えた金属配線が形成され、本発明に係る導電基板とすることができる。
【発明の効果】
【0083】
以上説明した本発明に係る導電基板は、金属配線上に所定の構成の反射防止領域が形成されている。本発明では、反射防止領域の作用により入射光の反射が抑制され、金属配線が視認され難くなっている。従って、基材として透明体を適用することで、真に透明な導電基板を得ることができる。
【0084】
また、本発明に係る導電基板の製造方法では、所定構成の金属インクにより形成した金属配線の上に、黒化インクを追加的に塗布している。これにより、上記反射防止領域を金属配線に付与することができる。本発明で採用した、所定の金属インクによる金属配線の形成方法は、高精細の金属配線を効率的に形成することができる。そして、金属インクを使用することで、効率的に金属配線に反射防止処理を行うことができる。
【0085】
更に、本発明で使用する金属インクは、比較的大粒径の金属粒子から金属配線を形成するのに対して好適である。そして、大粒径の金属粒子を使用することで、厚膜の金属配線を効率的に製造することができる。こうした厚膜の金属配線は、フィルムヒーター等の配線として有用である。本発明によれば、反射を抑えた厚膜の金属配線を備える導電基板とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【
図1】第1実施形態で製造した導電基板における、反射防止領域形成前後の金属配線表面のSEM写真。
【
図2】第2実施形態で製造した導電基板の金属配線表面のSEM写真。
【
図3】第2実施形態で製造した導電基板の金属配線表面のAFMによる2次元像と測定ラインの断面プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0087】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
第1実施形態:本実施形態では、銀からなる金属配線に、黒化粒子として微細銀粒子を適用した反射防止領域を形成し配線基板を製造することとした。
【0088】
具体的には、フッ素含有樹脂を塗布した基材に、金属インクとして大粒径の銀粒子を含む銀インクを塗布・印刷して銀配線を形成した後、黒化インクとして微細な銀粒子の銀インクを塗布し、反射防止領域を形成して導電基板を製造した。また、製造した導電基板について、配線表面の表面粗さ(中心線平均粗さ)を測定すると共に、目視による銀配線の反射による視認の有無を評価した。以下、本実施形態の内容を詳細に説明する。
【0089】
[基材の用意とフッ素含有樹脂層の形成と前処理]
基材としてポリエチレンナフタレートからなる透明樹脂基板(寸法:100mm×100mm)を用意した。この樹脂基板にフッ素含有樹脂として非晶質性パーフルオロブテニルエーテル重合体(CYTOP(登録商標):旭硝子(株)製)をスピンコート法(回転数2000rpm、20sec)で塗布した後、50℃で10分、続いて80℃で10分加熱し、更にオーブンにて100℃で60分加熱して焼成した。これにより1μmのフッ素含有樹脂層が形成された。
【0090】
次に、このフッ素含有樹脂層が形成された基板に、官能基形成のための前処理を行った。基板に、格子パターン(線幅4μm、線間隔300μm)のフォトマスクを密着し、ここに紫外線(VUV光)を照射した(マスク-基板間距離0のコンタクト露光)。VUV光は、波長172nm、11mW/cm-2で20秒照射した。
【0091】
[銀インクの製造]
本実施形態では、金属インク及び黒化インクの双方において、銀粒子を含む銀インクを使用した。いずれも熱分解法により製造された銀粒子を溶媒に分散させたものである。但し、これらの銀インクは、その用途に応じて銀粒子の粒径が相違する。そこで、各銀インクの製造方法を説明する。尚、熱分解法とは、炭酸銀(Ag2CO3)やシュウ酸銀(Ag2C2O4)等の熱分解性を有する銀化合物を出発原料とし、銀化合物と保護剤とを反応させて銀錯体を形成し、これを前駆体として加熱し分解することで銀粒子を得る方法である。
【0092】
[金属インク(配線形成用インク)の製造]
出発原料である炭酸銀25.56gに、水9.32を加え、湿潤状態とした。その後、銀化合物に保護剤のアミン化合物として3-メトキシプロピルアミン49.67gを加え、銀-アミン錯体を製造した。銀化合物とアミンとの混合は室温で行い、銀化合物の未錯体面積を適性に減らした。
【0093】
上記の銀-アミン錯体について、加熱前に反応系の水分量をチェックし、水分量が炭酸銀100重量部に対して33重量部とした。そして、この反応系を室温から加熱して銀―アミン錯体を分解し銀粒子を析出させた。このときの加熱温度は、錯体の分解温度として110~130℃を想定し、これを到達温度とした。また、加熱速度は10℃/分とした。この加熱工程においては、分解温度近傍から二酸化炭素の発生が確認された。二酸化炭素の発生が止まるまで加熱を継続し、銀粒子が懸濁した液体を得た。銀粒子の析出後、反応液にメタノールを添加して洗浄し、これを遠心分離した。この洗浄と遠心分離は2回行った。
【0094】
上記で得られたメタノール湿潤の銀粒子に2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(製品名:日香NG-120)を添加して洗浄し、これを遠心分離した。この洗浄と分離は2回行った。 この結果、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートにより湿潤状態にある銀粒子を得た。
【0095】
そして、この銀粒子に、ヘキシルアミン(3500ppm)、ドデシルアミン(800ppm)、エルカ酸(900ppm)を含む、オクタンと1-プロパノールとの混合溶媒(混合比(体積比)5:5)を添加し、配線形成用の金属インクとなる銀インクを得た。この銀インクの銀濃度は50質量%とした。そして、この黒化インクとなる銀インクの銀粒子の粒径は、平均粒径125nmであった。また、10%粒径(D10)は、71nmであった。
【0096】
[黒化インク(反射防止領域用インク)の製造]
出発原料であるシュウ酸銀1.519gにメタノール0.651gを添加し湿らせた。そして、このシュウ酸銀に、保護剤となるアミン化合物と脂肪酸を添加した。具体的には、最初にN,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン(0.778g)を加えて暫く混練した後、更にヘキシルアミン(1.156g)、ドデシルアミン(0.176g)、オレイン酸(0.042g)を加えて混練し、その後110℃で加熱攪拌した。加熱攪拌中、クリーム色の銀錯体が徐々に褐色になりさらに黒色に変化した。この加熱・攪拌操作は、反応系からの気泡発生が出なくなるまで行った。反応終了後、反応系を放冷し室温にした後、メタノールを加えて十分に攪拌し、遠心分離を行うことで、過剰の保護剤を除去し、銀微粒子を精製した。このメタノール添加と遠心分離による銀微粒子の精製を再び行い、沈殿物として銀微粒子を得た。
【0097】
そして、製造した銀微粒子に、オクタンとブタノールとの混合溶媒(オクタン:ブタノール=4:1(体積比))を添加し、黒化インクとなる銀インクを得た。この銀インクの銀濃度は40質量%とした。そして、この黒化インクとなる銀インクの銀粒子の粒径は、15nmであった。また、10%粒径(D10)は、10nmであった。
【0098】
[金属配線の形成工程]
上記のとおり前処理した基板に、上記で製造した金属インクを塗布し金属配線を形成した。金属インクの塗布は、基材とブレード(ガラス製)との接触部分に予め金属インクを濡れ広がらせた後、ブレードを一方向に掃引した。ここでは、掃引速度を2mm/secとした。このブレードによる塗布により、基材の紫外線照射部(官能基形成部)のみにインクが付着しているのが確認された。そして、基材を120℃で熱風乾燥させて銀配線(線幅4μm)を形成した。この銀配線による格子パターン(L/S=4μm/300μm、長さ125mm、幅6mm)について、両端にデジタルテスターの端子を接触させ電気抵抗値を測定した結果、2.2kΩであった。また、金属配線の膜厚は、平均で0.2μmであった。
【0099】
[反射防止領域の形成]
上記で形成した金属配線上に反射防止領域を形成した。上記で製造した黒化インクを、金属配線の形成工程と同様にブレードを用いて塗布した。そして、室温でエアーを当てて風乾し、溶媒を揮発させた。
【0100】
以上の工程により、金属配線(銀配線)及び反射防止領域が形成された導電基板を製造した。この本実施形態で製造した導電基板は、外観上は金属配線が視認されず透明な導電基板であった。
【0101】
上記した導電基板の製造過程に関し、金属配線形成直後の表面形態と、黒化粒子固定後の反射防止領域の表面形態をSEM観察した。この結果を
図1に示す。
図1から、金属インクにより形成された金属配線の表面は、粗化粒子(金属粒子)に覆われ凹凸が観察される。そして、ここに微細銀粒子からなる黒化粒子を塗布すると、粗化粒子の間に黒化粒子が入り込んでいることが確認された。このSEM観察の結果を基に、反射防止領域における粗化粒子、黒化粒子の粒径を測定した。粒径の測定は、SEM像(50000倍)を基に、任意の粒子をそれぞれ100個選定し二軸法にて粒径を算出した。その結果、本実施形態における粗化粒子の平均粒径は172nmであり、黒化粒子の平均粒径は15nmであった。
【0102】
次に、本実施形態で製造した透明導電基板について、銀配線(反射防止領域表面)の表面粗さ(中心線平均粗さ)を測定した。表面粗さの測定は、AFM(原子間力顕微鏡:日立ハイテクサイエンス製Nanocute使用)による観察結果(高さ方向6μm、分解能0.05nm)を基にした。AFM観察は、銀配線上の10μm×10μmの領域を任意に選択して観察を行った。そして、配線上に任意の線(長さ10μm)を画定し、この測定ラインにおける中心線平均粗さを測定した。本実施形態の導電基板の銀配線の中心線平均粗さは、66nmであった。
【0103】
次に、本実施形態で製造した透明導電基板について、反射光による金属配線視認の有無を評価した。この評価は、室内白色蛍光灯の下、透明導電基板を真上から縦方向に±90°角度を変えて目視観察した。同様に真上から左右横方向にも90°角度を変えて目視観察し、銀配線のメッシュパターンが正反射により明確に視認された場合を反射有と判定した。その結果、本実施形態で製造した透明導電基板においては、反射光による金属配線の存在は確認できなかった。
【0104】
また、本実施形態で製造した透明導電基板について、金属配線の電気抵抗値の測定を行ったところ2.1kΩであった。この数値は金属配線の抵抗値として好適であり、反射防止領域(黒化粒子)による導電性の悪化は無いことが確認された。黒化粒子による金属配線の被覆は部分的なものであり、その質量もさほど多くないと考えられる。そのため、金属配線全体に対する影響は限定的である。また、本実施形態では、黒化粒子が銀粒子であることも、抵抗値への影響が少ない理由であろう。本発明は、黒化粒子の粒径・表面形態による光の吸収・散乱を利用して光反射を抑制する。これは、従来技術(特許文献2)のような、配線を着色する技術とは本質的に相違する。
【0105】
第2実施形態:この実施形態では、金属粒子(銀粒子)の粒径の異なる金属インクにより金属配線(銀配線)を形成し、各種の黒化インク(銀インク、カーボンインク)を含む黒化インクを塗布し反射防止領域を形成して透明導電基板を製造した。
【0106】
配線形成用の金属インクとしては、平均粒径125nm(D10=71nm)及び平均粒径60nm(D10=45nm)の銀インクを用意した。これらの銀インクは、第1実施形態の配線形成用の銀インクの製造方法において、銀-アミン錯体の加熱分解の際の水分量と加熱速度を調整して製造した。また、比較例のため、第1実施形態で黒化インクとして使用した銀インク(平均粒径15nm)を配線形成用の金属インクとして使用する試験も行った。更に、同じ金属粒子を含む金属インクを重ねて塗布する試験も行った。
【0107】
カーボンインクは、市販の高濃度カーボン分散液(カーボン粒径50nm、 カーボン濃度10質量%、 分散媒:3-ペンタノン)を使用した。
【0108】
本実施形態では、第1実施形態と同じ基材に同じ金属インク(銀インク)を塗布して金属配線を形成した。そして、ここに黒化インクを塗布した。黒化インクの塗布は、第1実施形態と同様とした。黒化インク塗布後の処理は、黒化インクとして金属インク(銀インク)を塗布した後は、第1実施形態と同様に室温乾燥した。また、カーボンインクの場合は、塗布後に60℃で3分間加熱して乾燥と黒化粒子の定着を図った。黒化インクの塗布は1回実施とした。
【0109】
尚、本実施形態では、上記のような金属インクと黒化インクとの組み合わせによる金属配線の形成試験の他、従来例として金属インク(粒径120nm、15nm)の塗布のみによる金属配線形成も行った。
【0110】
そして、本実施形態で製造した導電基板について、第1実施形態と同様にして、表面形態の検討、金属配線の光反射の有無(配線視認性)の評価、及び抵抗値の測定を行った。視認性評価は、第1実施形態と同様の条件で基板を観察し、基板全面で銀配線が部分的に視認された場合までの評価を「◎」とし、半分の面積以下で銀配線が視認された場合を「○」とし、半分の面積以上で銀配線が視認された場合を「×」と評価した。また、抵抗値の評価については、従来例である黒化粒子のない銀配線(下記表1のNo.7)の抵抗値2.3kΩに対して同程度の抵抗値である2.5kΩを基準とした。2.5kΩ以下のもの「◎」とし、2.5kΩを超えており3.5kΩ以下のものを「○」とし、3.5kΩを超えたものを「×」と評価することとした。以上の測定結果、評価結果を表1に示す。
【0111】
図2は、本実施形態で製造した導電基板の金属配線のSEM写真の一例である(No.1とNo.8)。第1実施形態と同様、粗化粒子(銀粒子)の一部の領域が黒化粒子によって埋まった形態になっている。
図3は、これらの金属配線のAFMによる表面形態を示す2次元像である。
図3のように、配線上に任意の線(長さ10μm)を画定し、この測定ラインにおける中心線平均粗さを測定した。
図3の右図は、配線(反射防止領域)の測定ラインにおける断面プロファイルである。これらの導電基板の銀配線の中心線平均粗さは、43.2nm(No.1)、39.6nm(No.8)。であった。同様にして他の導電基板の金属配線の中心線平均粗さも測定した。
【0112】
【0113】
表1において、黒化インク(黒化粒子)を適用せず反射防止領域のない従来の金属配線(No.6、No.7)は、いずれも反射により金属配線が視認された。より詳細には、粒子の細かいNo.7では、金属光沢のあるギラツキのある金属配線が観察された。また、粒子の粗いNo.6では、光沢はないが薄白色の金属配線が観察された。中心線平均粗さの測定結果からも分かるように、金属インクの金属粒子の粒径によって金属配線の表面形態に差異が生じたので、見え方が異なったと考えられる。
【0114】
そして、表1から、金属インクと黒化インクとを適切に組み合わせて、好適な中心線平均粗さの反射防止領域を有する金属配線は、十分な反射抑制がなされ視認性が良好であった(No.1、No.3、No.8、No.9)。粗化粒子とそれより微細な黒化粒子による表面形態の有用性が確認された。また、黒化粒子に関しては金属配線と同じ金属(銀)に限られず、カーボンも有効である。
【0115】
これに対して、金属インクと黒化インクとの組み合わせによって、中心線平均粗さが好適範囲外となる金属配線では、反射によりその存在が視認されることが確認された(No.2、No.4、No.5、No.10)。具体的に説明すると、No.2のように同じ粗大粒径の金属インクを重ねて塗布しても好適な中心線平均粗さにはならず、金属配線の視認性改善はなされなかった。一方、No.4のように微細粒径の金属インクを重ねて塗布したとき、その単独塗布(No.7)と同じように、ギラツキのある金属配線が視認された。
【0116】
尚、No.2、No.4の金属配線は、同じ粒径の銀粒子を2度塗布したものであり、反射防止領域をSEM観察したときには、表面上に観察される主だった銀粒子は黒化粒子と想定される銀粒子であった。そして、粗化粒子と黒化粒子との区別は困難であった。そこで、本実施形態では、これらの比較例について、表面の黒化粒子の平均粒径、中心線平均粗さの測定等を行った後、粘着テープによるピールを繰返し行って黒化粒子を強制的に剥離し、粗化粒子を露出させた。その後、金属配線表面に現れた銀粒子を粗化粒子とし、その平均粒径を測定した。
【0117】
また、No.5では、金属粒子を微細にして金属配線を形成した後に、粗粒な金属粒子(黒化インク)を塗布したが、本発明で狙った表面形態は得られなかった。尚、このNo.5の金属配線でも、粗化粒子と黒化粒子との区別は困難であったので、上記と同様に黒化粒子のピーリングを行い、粗化粒子の粒径を測定した。また、このNo.5に関しては、ピーリング後に観察された銀粒子の方が黒化粒子よりも平均粒径が小さくなるが、これを粗化粒子とし表1に記載した。上述したように、本発明における粗化粒子とは、金属配線の本体を構成する金属粒子であり、金属配線に連通・接触している金属粒子だからである。
【0118】
そして、No.10は、黒化粒子にカーボンを適用した例であるが、No.5と同じく金属配線を微細金属で形成し、その後それより粗大な粒子を塗布したため好適な表面形態とはならなかった。このNo.10の金属配線は、カーボンインク塗布により配線に着色はあったものの、下地の銀配線が平坦で滑らかであり、銀配線からの反射を抑制することができずギラツキが観察された。このNo.10の結果から分かるように、着色による反射抑制は必ずしも有用ではないといえる。
【0119】
更に、金属配線の導電性(電気抵抗値)に関してみると、本実施形態の各実施例の金属配線を備える導電基板はいずれも良好な導電性を有することが確認できた(No.1、No.3、No.8、No.9)。以上から、本発明に係る導電基板は、反射が抑制された金属配線であって、その本来の機能である導電性も良好なものを備える導電基板であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上説明したように、本発明は、高精細及び/又は厚膜の金属配線であって光反射の防止処理がなされているものを備える導電基板である。本発明は、各種半導体デバイスの電極・配線形成に有用である他、透光性が要求されるタッチパネルのパネル面の繊細な金属配線の形成にも有効に適用できる。また、フィルムヒーター等の厚膜の金属配線にも有用である。