IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-硫化水素の製造方法及び硫黄の回収方法 図1
  • 特許-硫化水素の製造方法及び硫黄の回収方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】硫化水素の製造方法及び硫黄の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/16 20060101AFI20220809BHJP
   B01D 29/50 20060101ALI20220809BHJP
   B01D 29/39 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C01B17/16 B
B01D29/26 C
B01D29/34 530A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019561625
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2018047144
(87)【国際公開番号】W WO2019131474
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2017247733
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】仲田 佳広
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-030866(JP,A)
【文献】特開昭60-139315(JP,A)
【文献】特開2005-171270(JP,A)
【文献】特開2006-045599(JP,A)
【文献】特表2009-512769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/00-23/00
B01D 23/00-35/04
B01D 35/08-37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄及び水素から硫化水素を製造する方法であって、
硫黄及び水素を反応させて、粗製硫化水素ガスを得る反応工程と、
前記粗製硫化水素ガスと、脂肪族低級アルコールとを充填塔内で接触させて、当該粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄を析出させることにより、当該粗製硫化水素ガスを精製する精製工程と、
前記精製工程で得られる硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液を前記充填塔内から排出する排出工程と、
前記硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液をフィルターで濾過し、硫黄のケーキを得る濾過工程と
を含み、
前記フィルターが、ロータリーフィルター又はリーフフィルターである、前記方法。
【請求項2】
前記フィルターが前記ロータリーフィルターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濾過工程で得られた濾液を排水として処理する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
硫黄を含む粗製硫化水素ガスから当該硫黄を回収する方法であって、
粗製硫化水素ガスと、脂肪族低級アルコールとを充填塔内で接触させて、当該粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄を析出させることにより、当該粗製硫化水素ガスを精製する精製工程と、
前記精製工程で得られる硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液を前記充填塔内から排出する排出工程と、
前記硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液をフィルターで濾過し、硫黄のケーキを得る濾過工程と
を含み、
前記フィルターが、ロータリーフィルター又はリーフフィルターである、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は日本国特許出願第2017-247733号(出願日:2017年12月25日)についてパリ条約上の優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本発明は、硫化水素の製造方法及び硫黄の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化水素は、メチルメルカプタン、チオグリコール酸等の有機硫黄化合物の製造に利用されている。硫化水素は、液相又は気相で、硫黄と水素とを反応させて製造されている。
この反応によって得られる粗製硫化水素ガスには、硫化水素の他に原料の硫黄等の不純物が含まれることがある。このため、粗製硫化水素ガスから不純物を除いて硫化水素を前述の製造に用いるために、粗製硫化水素ガスの精製方法に関する検討が行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示された硫化水素ガスの精製方法では、充填塔において、粗製硫化水素ガスがアルコールに接触させられる。この接触により硫黄を粉体状としアルコールに取り込んだ後、この粉体状の硫黄を充填塔の充填部に付着させることで、粗製硫化水素ガスから硫黄が除かれている。
【0004】
硫黄は、硫化水素の原料である。このため、硫黄の再利用の観点から、特許文献1に開示された精製方法では、充填塔の充填部に付着させた硫黄が回収されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-030866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、特許文献1に開示された精製方法では、充填部に付着した硫黄が回収されている。しかし、一部の硫黄は充填部に付着することなくアルコール中に残存しており、粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄の全てを回収できていないのが実状である。
【0007】
硫黄が残存するアルコールを使用し続けると、この硫黄が配管を閉塞する恐れがある。
また、硫黄を含むアルコールを廃液として処理をすると、硫黄の回収率を向上できないだけでなく、硫黄の廃棄が環境に悪影響を及ぼす恐れもある。
【0008】
アルコール中に残存する硫黄には粒径の小さな硫黄が含まれており、粒径の小さな硫黄は沈降することなく液中を浮遊する傾向にある。このため、沈降や遠心分離といった固液分離方法では、アルコールに残存する硫黄の全てを回収することは難しい。
【0009】
特許文献1では、充填部に付着した硫黄を回収する技術について詳述されているものの、アルコール中に硫黄が残存していることにすら触れられていない。すなわち、特許文献1は、アルコールに残存する硫黄の回収技術について開示しない。硫黄及び水素から硫化水素を製造する方法においては、硫黄の回収率をさらに向上できる見込みがある。
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、硫黄を効率よく回収できる、硫化水素の製造方法及び硫黄の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、硫黄及び水素から硫化水素を製造する方法において、硫黄を含む粗製硫化水素ガスを精製することにより得られる硫黄のアルコール懸濁液から硫黄を回収する方法について鋭意検討したところ、特定のフィルターで硫黄のアルコール懸濁液を濾過することで、硫黄を効率よく回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、硫黄及び水素から硫化水素を製造する方法であって、
(1)硫黄及び水素を反応させて、粗製硫化水素ガスを得る反応工程、
(2)前記粗製硫化水素ガスと、脂肪族低級アルコールとを充填塔内で接触させて、当該粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄を析出させることにより、当該粗製硫化水素ガスを精製する精製工程、
(3)前記精製工程で得られる硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液を前記充填塔内から排出する排出工程、及び、
(4)前記硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液をフィルターで濾過し、硫黄のケーキを得る濾過工程
を含み、前記フィルターがロータリーフィルター又はリーフフィルターであることを特徴とする。
【0013】
この硫化水素の製造方法では、脂肪族低級アルコールを用いて粗製硫化水素ガスを精製して得られる、硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液を濾過することにより、硫黄のケーキが得られる。この硫黄のケーキに対して加熱乾燥等の処理を施せば、原料として再利用可能な硫黄が得られる。特に、硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液の濾過にフィルターとしてロータリーフィルター又はリーフフィルターが用いられるので、沈降や遠心分離といった固液分離方法では回収が困難な、粒径の小さな硫黄の回収が可能である。しかもこのフィルターから排出される濾液に、硫黄は含まれない。この製造方法では、硫黄を効率よく回収できるとともに、環境への負荷も低減できる。効率よい硫黄の回収の観点から、前記フィルターは前記ロータリーフィルターであることが好ましい。
【0014】
別の観点によれば、本発明は、硫黄を含む粗製硫化水素ガスから当該硫黄を回収する方法であって、
(1)粗製硫化水素ガスと、脂肪族低級アルコールとを充填塔内で接触させて、当該粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄を析出させることにより、当該粗製硫化水素ガスを精製する精製工程、
(2)前記精製工程で得られる硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液を前記充填塔内から排出する排出工程、及び、
(3)前記硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液をフィルターで濾過し、硫黄のケーキを得る濾過工程
を含み、前記フィルターがロータリーフィルター又はリーフフィルターであることを特徴とする。
【0015】
この硫黄の回収方法においても、前述の硫化水素の製造方法と同様に、粗製硫化水素ガスと脂肪族低級アルコールとを接触させて得られる、硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液を濾過することによって、硫黄のケーキが得られる。この硫黄のケーキに対して加熱乾燥等の処理を施せば、原料として再利用可能な硫黄が得られる。特に、硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液の濾過にフィルターとしてロータリーフィルター又はリーフフィルターが用いられるので、沈降や遠心分離といった固液分離方法では回収が困難な、粒径の小さな硫黄の回収が可能である。しかもこのフィルターから排出される濾液に、硫黄は含まれない。この回収方法では、硫黄を効率よく回収できるとともに、環境への負荷も低減できる。効率よい硫黄の回収の観点から、前記フィルターは前記ロータリーフィルターであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から明らかなように、本発明の硫化水素の製造方法及び硫黄の回収方法では、硫黄を効率よく回収することができるとともに、環境への負荷も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る硫化水素の製造方法で用いられる充填塔が示された概略図である。
図2図2は、図1の充填塔内から回収した、硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液を濾過するためのフィルターが示された概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0019】
本発明の硫化水素の製造方法は、反応工程、精製工程、排出工程、濾過工程、及び、乾燥工程を含む。以下に、各工程の内容が説明される。
【0020】
[反応工程]
反応工程では、硫黄及び水素を反応させて硫化水素が生成される。この製造方法では、硫化水素の生成のために過剰の硫黄が用いられる。このため、硫黄及び水素を反応させて得られるガスには、硫化水素以外に余剰の硫黄が含まれる。本発明においては、硫黄及び水素を反応させて得られ、硫化水素以外に硫黄を含むガスが、粗製硫化水素ガスと称される。この反応工程では、過剰の硫黄及び水素を反応させて、未反応の硫黄を含む粗製硫化水素ガスが得られる。
【0021】
この製造方法では、粗製硫化水素ガスは、触媒が充填された反応器(図示されず)中へ、ガス状の硫黄及び水素ガスを供給し、これらを反応させることで得られるが、本発明においては、この粗製硫化水素ガスの生成方法に特に制限はない。なお、この製造方法では、効率よく硫化水素が生成される観点から、反応器に供給する原料ガス中の水素分子に対する硫黄原子のモル比は、好ましくは1~1.5、より好ましくは1~1.3となるように調整される。
【0022】
[精製工程]
精製工程では、反応工程で得た粗製硫化水素ガスが精製される。この製造方法では、粗製硫化水素ガスの精製には、図1に示された設備2が用いられる。
【0023】
この設備2は、充填塔4を備えている。この充填塔4は、充填部6を備えている。図示されていないが、充填部6には、ラシヒリングが充填されている。
【0024】
この精製工程では、前述の粗製硫化水素ガスが充填塔4に供給される。粗製硫化水素ガスは、充填塔4の下部からこの充填塔4内に導入される。この充填塔4には、脂肪族低級アルコールも供給される。この脂肪族低級アルコールは、充填塔4の下部からこの充填塔4に導入された後、ポンプ8により循環ライン10を経由して充填塔4内を繰り返し循環させられる。
【0025】
前述したように、この製造方法では、脂肪族低級アルコールが充填塔4に供給される。
本発明において脂肪族低級アルコールとは、炭素数5以下の脂肪族アルコールを指す。この脂肪族低級アルコールとしては、メタノール、エタノール及びプロパノールが例示される。取り扱いが容易である観点から、この脂肪族低級アルコールとしてはメタノールが好ましい。特に、メチルメルカプタンの製造にはメタノールが用いられる。このため、硫化水素がメチルメルカプタンの原料として用いられる場合には、この脂肪族低級アルコールとしてはメタノールが好ましい。
【0026】
この製造方法では、脂肪族低級アルコール(以下、アルコールと記すことがある。)は必要に応じて水と混合して用いることができる。この場合、アルコールと混合して用いられる水としては、純水、イオン交換水、水道水、工業用水等が挙げられる。アルコールとしてメタノールを用いる場合には、メタノールと水との混合液全量に対するメタノールの量の比率は、30質量%以上に設定される。
【0027】
この精製工程では、充填塔4内において、粗製硫化水素ガスと、アルコールとが接触させられる。この接触により、粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄が結晶として析出させられる。この精製工程では、粗製硫化水素ガスとアルコールとの接触は、常温から40℃の範囲で行われる。
【0028】
この精製工程では、結晶化した硫黄はアルコールに取り込まれ、この結晶化した硫黄がアルコールに懸濁したアルコール懸濁液、すなわち、硫黄のアルコール懸濁液が得られる。これにより、粗製硫化水素ガスから硫黄が除かれる。
【0029】
この製造方法では、粗製硫化水素ガスは、硫化水素及び硫黄以外に、多硫化水素を含むことがある。多硫化水素はアルコールと接触すると、硫化水素と硫黄とに分解する。このため、粗製硫化水素ガスに多硫化水素が含まれている場合には、精製工程で得られる硫黄のアルコール懸濁液には、多硫化水素ガスを起源とする硫黄が含まれる。
【0030】
この精製工程では、硫黄が除かれた粗製硫化水素ガス(以下、準精製硫化水素ガスと記すことがある。)は、充填塔4の上部から排出される。前述したように、粗製硫化水素ガスはアルコールと接触させられる。このため、準精製硫化水素ガスには蒸気圧分のアルコールが含まれている。
【0031】
この製造方法では、準精製硫化水素ガスは、温度が-5℃~5℃の範囲に調整された凝縮器12において、冷却され、準精製硫化水素ガスに含まれる蒸気圧分のアルコールが凝縮される。これにより、準精製硫化水素ガスからアルコールが除かれ、硫化水素が精製硫化水素ガスとしてこの凝縮器12から排出される。
【0032】
この精製工程では、以上のようにして、粗製硫化水素ガスとアルコールとを充填塔4内で接触させて粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄を析出させることにより、粗製硫化水素ガスが精製される。
【0033】
前述したように、精製工程では、硫黄のアルコール懸濁液(以下、懸濁液と記すことがある。)が得られる。この精製工程において、懸濁液は充填部6を通過する。この通過により、懸濁液に含まれる、結晶化した硫黄は、充填部6に付着する。この設備2では、懸濁液は循環ライン10を経由して充填塔4内を繰り返し循環させられるので、硫黄が充填部6に蓄積していく。このため、この設備2では、充填塔4の運転状況等が考慮され、適宜、充填部6に付着した硫黄が回収される。この製造方法では、充填部6に付着した硫黄の回収のために、充填塔4内を繰り返し循環させられた懸濁液がこの充填塔4内から排出される。
【0034】
[排出工程]
排出工程では、粗製硫化水素ガス及びアルコールの供給、並びにアルコール及び/又は懸濁液の循環が停止される。停止後、充填塔4内から懸濁液が排出される。この製造方法では、懸濁液の排出後、充填塔4内に水が投入され、この充填塔4内が洗浄される。洗浄後、この洗浄に用いた水(以下、洗浄水と記すことがある。)が充填塔4内から排出される。排出した洗浄水は、その一部又は全部が懸濁液と混合される。
【0035】
この製造方法では、充填塔4内から排出される懸濁液には、充填部6に付着できなかった硫黄が含まれている。この充填塔4内から排出された懸濁液に含まれる硫黄の含有率は、通常、0.1質量%以上7.5質量%以下の範囲にある。なお、本発明において、硫黄の含有率は加熱減量法によって得られる。
【0036】
この製造方法では、懸濁液を充填塔4内から排出した後、充填部6の外部に設けられているジャケット14にスチームを供給して充填部6が加熱される。さらに充填塔4内にスチームを供給し、充填塔4内に付着している硫黄が融解させられる。融解した硫黄は流下され、ジャケット16にスチームを供給して加熱されたタンク18に回収される。この製造方法では、このようにして充填塔4内に付着した硫黄が回収される。なお、この製造方法では、充填部6のジャケット14に供給されるスチーム、充填塔4内に供給されるスチーム、及び、タンク18のジャケット16に供給されるスチームの温度は、好ましくは、130℃~160℃の範囲で設定される。
【0037】
前述したように、この製造方法では、硫黄の回収のタイミングは充填塔4の運転状況等が考慮され適宜決められる。具体的には、充填塔4の塔底及び塔頂の圧力差を監視しておき、閉塞具合を勘案して、硫黄の回収のタイミングが決められる。
【0038】
前述したように、排出工程において、精製工程で得られる懸濁液が充填塔4内から排出される。この製造方法では、この懸濁液がフィルターを用いて濾過される。
【0039】
[濾過工程]
濾過工程では、図2に示されたフィルター20が充填塔4内から回収した懸濁液の濾過に用いられている。以下に、このフィルター20について説明する。
【0040】
この製造方法では、フィルター20として用いられているのはロータリーフィルター22である。このロータリーフィルター22は、円筒状のドラム24と、攪拌部26と、複数の濾過板28(この図例では、5枚)とを備えている。このロータリーフィルター22では、ドラム24の内部において、攪拌部26と濾過板28との間が濾過室30と称される。
【0041】
このロータリーフィルター22では、攪拌部26はドラム24内に設けられている。この攪拌部26は、複数の攪拌板32(この図例では6枚)と、駆動軸34とを備えている。複数の攪拌板32は、駆動軸34に固定されている。これらの攪拌板32は、この駆動軸34に沿って間隔をあけて配置されている。このロータリーフィルター22は、モーター(図示されず)によって駆動軸34を回転させることで、攪拌板32が回転するように構成されている。
【0042】
このロータリーフィルター22では、複数の濾過板28はそれぞれドラム24の内面から内向きに突出している。濾過板28は、2枚の攪拌板32の間に位置するように配置されている。図示されていないが、この濾過板28は、ドラム24の内面に固定される支持板の両側に金属製のメッシュ等の濾材補強板を介して濾材が取り付けられた構造を有している。
【0043】
この製造方法では、常温の懸濁液が供給口36から加圧供給される。この懸濁液は、攪拌板32で攪拌されながら濾過板28を縫って濾過室30内を排出口38に向かって移動していく。この移動の間に、各濾過板28において懸濁液が濾過され、濃縮物としての硫黄のケーキが排出口38から排出される。そして、懸濁液を濾過して得られる濾液は、濾過板28の支持板を通じて排出される。なお、濾材には、懸濁液に含まれる小さな粒径の硫黄を捕捉できる濾材が用いられているので、懸濁液を濾過して得られる濾液には硫黄は含まれない。この製造方法では、この濾液は排水として処理される。
【0044】
この製造方法におけるロータリーフィルターの運転条件は、例えば、濾過面積が0.10~50.0mの範囲であるロータリーフィルター22が用いられ、懸濁液の供給圧力は0.1~1.0MPaGの範囲で設定される。濾過面積1m当たりの供給量は、毎時0.5~50.0mの範囲で設定される。濾過室30内の温度は、0~40℃の範囲で通常設定される。攪拌部26の回転トルクは、0.5~100.0kWの範囲で設定される。濾材は、耐腐食性であるものが適宜選択され、その材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル等の合成繊維、ステンレス鋼等の金属が挙げられる。合成繊維の濾布を用いる場合は、通気度0.03~1.0cm/cm・s程度の濾布の使用が好ましい。金網を用いる場合は、40~400メッシュ程度の金網の使用が好ましい。
【0045】
このロータリーフィルター22では、加圧供給された懸濁液が濾過板28で濾過される。このロータリーフィルター22は、加圧タイプのフィルターである。さらにこのロータリーフィルター22では、懸濁液を供給すれば連続して硫黄のケーキが得られる。このロータリーフィルター22は加圧タイプの連続式フィルターである。このようなロータリーフィルター22として、広島メタル&マシナリ―社製の商品名「ロータリーフィルター」が例示される。
【0046】
工業的に利用される加圧タイプのフィルターとして、ロータリーフィルター22以外に、リーフフィルターがある。この製造方法では、このリーフフィルターもフィルター20として用いることができる。
【0047】
図示されていないが、リーフフィルターの内部には、リーフ状の多数の濾過板とシャフトとが設けられている。多数の濾過板は、シャフトに固定されるとともに、このシャフトに沿って間隔をあけて配置されている。このリーフフィルターでは、加圧供給された懸濁液は、各濾過板において濾過され、濃縮物としての硫黄のケーキが濾過板に堆積していく。濾液は、シャフトを通じて排出される。硫黄のケーキがある程度堆積した時点で、懸濁液の供給が停止され、シャフトが回転される。これにより、濾過板に堆積していた硫黄のケーキが遠心力によって濾過板から飛ばされ、この硫黄のケーキが回収される。このリーフフィルターでは、濃縮物としての硫黄のケーキを回収する際、懸濁液の供給が停止される。このリーフフィルターは、加圧タイプの回分式フィルターである。このようなリーフフィルターとして、IHI社製の商品名「リーフフィルター」が例示される。
【0048】
[乾燥工程]
この製造方法では、濾過工程において得た硫黄のケーキは加熱ドラム40に供給される。この加熱ドラム40において、硫黄のケーキは乾燥される。
【0049】
加熱ドラム40の外部には、ジャケット42が設けられている。図示されていないが、この加熱ドラム40の内部にはコイル管が設けられている。このジャケット42及びコイル管のそれぞれに、スチームが供給される。これにより、この加熱ドラム40が加熱される。なお、この製造方法では、ジャケット42に供給されるスチーム、及び、コイル管に供給されるスチームの温度は、好ましくは、130℃~160℃の範囲で設定される。
【0050】
この製造方法では、加熱ドラム40において、硫黄のケーキは加熱される。これにより、硫黄のケーキが乾燥され、硫黄が得られる。この硫黄は、前述の充填塔4内から回収した硫黄とともに、硫化水素の原料として再利用される。この製造方法では、乾燥のための加熱時間は、10時間~100時間の範囲で設定される。
【0051】
この製造方法では、粗製硫化水素の精製後に排出される懸濁液を濾過することによって硫黄のケーキが得られる。この硫黄のケーキに対して加熱乾燥等の処理を施せば、原料として再利用可能な硫黄が得られる。特に、懸濁液の濾過にフィルター20としてロータリーフィルター22又はリーフフィルターが用いられるので、沈降や遠心分離といった固液分離方法では回収が困難な、粒径の小さな硫黄の回収が可能である。しかもこのフィルター20から排出される濾液に、硫黄は含まれない。この製造方法では、硫黄を効率よく回収できるとともに、環境への負荷も低減できる。効率よい硫黄の回収の観点から、フィルター20は、加圧タイプで連続式のフィルターであるロータリーフィルター22が好ましい。
【0052】
この製造方法では、ケーキにおける硫黄の含有率が低すぎると、乾燥工程のスチーム使用量が増加する。この観点から、ケーキにおける硫黄の含有率は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。このケーキにおける硫黄の含有率が高すぎると、ケーキが固化してこのケーキの排出が困難になる恐れがある。この観点から、このケーキにおける硫黄の含有率は60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0053】
前述の硫化水素の製造方法は、硫黄を含む粗製硫化水素ガスから硫黄を回収する方法を含んでいる。つまり、別の観点によれば、本発明は、硫黄を含む粗製硫化水素ガスから当該硫黄を回収する方法である。本発明の硫黄の回収方法は、前述の精製工程、排出工程、及び、濾過工程を含んでいる。本発明の硫黄の回収方法は、前述したように本発明の硫化水素の製造方法における硫黄の回収方法として好適であるが、その適用範囲はこれに限定されることはない。
【0054】
以上の説明から明らかなように、本発明の硫化水素の製造方法及び硫黄の回収方法では、硫黄を効率よく回収することができる。
【実施例
【0055】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
[反応器の作製]
ステンレス鋼製の固定床多管式反応器内に触媒を充填することにより反応器を作製した。活性アルミナ単体と、モリブデンが5%担持された活性アルミナとの混合物を触媒として用いた。
【0057】
[粗製硫化水素ガスの製造]
気化ユニット中の380℃に加熱した溶融硫黄の液相部に、毎時約500Nmの水素ガスを流して、水素ガスと硫黄ガスとの混合ガスを発生させた。このときの水素分子に対する硫黄原子のモル比は、2.10であった。
次に、発生した混合ガスに毎時約500Nmの水素ガスを添加して、水素分子に対する硫黄原子のモル比が1.05となるように原料ガスを調製した。
引き続き、原料ガスを圧力45kPaGの条件で、380℃に設定した反応器へ供給した。反応器において、硫黄と水素とを反応させて、粗製硫化水素ガス(硫黄濃度=1.6g/m)を得た。
【0058】
[粗製硫化水素ガスの精製]
反応器において硫黄及び水素を反応させて得た粗製硫化水素ガスを、図1に示された充填塔と同様の構成を有するステンレス鋼製の充填塔(直径1500mmφ×高さ7000mm、充填部:80Aのラシヒリングを高さ3000mm充填)において、メタノールと接触させて粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄を析出させることにより、粗製硫化水素ガスを精製した。メタノールの循環流量は、毎時約40mに設定された。充填塔への粗製硫化水素ガスの供給量は、毎時約1000Nmに設定された。充填塔からの排出ガスを多管式凝縮器(伝熱面積:46m)で約0℃に冷却し、凝縮したメタノールを充填塔に回収した。充填塔からの排出ガスの温度は、約25℃であった。なお、充填塔内の液面が一定になるようにメタノールが補給された。得られる精製硫化水素ガス中の硫黄濃度は0.1g/m未満であった。なお、硫黄濃度は硫化水素ガスを、水を入れた捕集瓶に導入して捕集し、粉体硫黄を濾過して乾燥し、その硫黄量から求めた。
充填塔を、約2週間連続運転した後、粗製硫化水素ガス及びメタノールの供給を停止し、充填塔内から懸濁液を排出した。また、充填塔内に約140℃のスチームを供給し、充填塔内の硫黄を融解させて回収した。
【0059】
[実施例]
図2に示されたフィルターと同様の構成を有するフィルター(広島メタル&マシナリ―社製の商品名「ロータリーフィルター:RF-02(濾過面積=0.18m)」を用いて、充填塔内から排出した懸濁液を濾過した。このフィルターの運転条件は以下の通りに設定された。濾材は、通気度0.07~0.1cm/cm・sのポリエステル製濾布を使用した。なお、懸濁液における硫黄の含有率は4.7質量%であった。
供給圧力=0.3~0.4MPaG
供給量=毎時1312kg/h(毎時1.20m/h)
濾過室内の温度=25~29℃
攪拌部の回転トルク=1.0~1.7kW
【0060】
この実施例では、硫黄の含有率が4.7質量%の懸濁液を供給量毎時1312kgで供給し、硫黄のケーキを毎時136kg、濾液を毎時1176kg得た。ケーキにおける硫黄の含有率は45質量%であった。濾液における硫黄の含有率は0質量%、すなわち、濾液には硫黄は含まれていなかった。フィルターを用いて懸濁液から回収された硫黄の量と、充填塔で回収された硫黄の量との合計は、充填塔で回収された硫黄の量の2.6質量倍であった。
【0061】
この実施例では、遠心分離では回収が困難な、粒径の小さな硫黄を回収できることが確認された。この結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明された硫化水素の製造方法及び硫黄の回収方法によれば、硫黄を効率よく回収できるとともに、環境への負荷も低減できる。
本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕硫黄及び水素から硫化水素を製造する方法であって、
硫黄及び水素を反応させて、粗製硫化水素ガスを得る反応工程と、
前記粗製硫化水素ガスと、脂肪族低級アルコールとを充填塔内で接触させて、当該粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄を析出させることにより、当該粗製硫化水素ガスを精製する精製工程と、
前記精製工程で得られる硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液を前記充填塔内から排出する排出工程と、
前記硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液をフィルターで濾過し、硫黄のケーキを得る濾過工程と
を含み、
前記フィルターが、ロータリーフィルター又はリーフフィルターである、前記方法。
〔2〕前記フィルターが前記ロータリーフィルターである、〔1〕に記載の方法。
〔3〕硫黄を含む粗製硫化水素ガスから当該硫黄を回収する方法であって、
粗製硫化水素ガスと、脂肪族低級アルコールとを充填塔内で接触させて、当該粗製硫化水素ガスに含まれる硫黄を析出させることにより、当該粗製硫化水素ガスを精製する精製工程と、
前記精製工程で得られる硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液を前記充填塔内から排出する排出工程と、
前記硫黄の脂肪族低級アルコール懸濁液をフィルターで濾過し、硫黄のケーキを得る濾過工程と
を含み、
前記フィルターが、ロータリーフィルター又はリーフフィルターである、前記方法。
【符号の説明】
【0063】
2・・・設備
4・・・充填塔
6・・・充填部
8・・・ポンプ
10・・・循環ライン
12・・・凝縮器
14・・・ジャケット
16・・・ジャケット
18・・・タンク
20・・・フィルター
22・・・ロータリーフィルター
24・・・ドラム
26・・・攪拌部
28・・・濾過板
30・・・濾過室
32・・・攪拌板
34・・・駆動軸
36・・・供給口
38・・・排出口
40・・・加熱ドラム
42・・・ジャケット
図1
図2