(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20220809BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220809BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220809BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220809BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220809BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C09J7/38
B32B27/00 M
B32B27/30 A
C09J11/06
C09J11/08
C09J133/06
(21)【出願番号】P 2020187938
(22)【出願日】2020-11-11
(62)【分割の表示】P 2019020610の分割
【原出願日】2012-06-20
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】長倉 毅
(72)【発明者】
【氏名】島口 龍介
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 良
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-069261(JP,A)
【文献】特開2007-092056(JP,A)
【文献】特開2010-037431(JP,A)
【文献】特開2010-222565(JP,A)
【文献】特開2008-150544(JP,A)
【文献】特開2010-202692(JP,A)
【文献】特表2008-503638(JP,A)
【文献】特許第5879208(JP,B2)
【文献】特許第6043445(JP,B2)
【文献】特許第6333923(JP,B2)
【文献】特許第6480624(JP,B2)
【文献】特許第6838090(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマーと、架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルムであって、
前記アクリル系ポリマーが、(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマー
の100重量部に対して、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマー
を0.1~5.0重量部と、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマー
を0.35~1.0重量部と、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマー
を1~20重量部と、(E)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたは水酸基を含有しないアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一種
を1~20重量部と、を共重合させた共重合体のアクリル系ポリマーからなり、
前記粘着剤組成物が、さらに、
前記共重合体の100重量部に対して、前記架橋剤として(F)3官能以上のイソシアネート化合物
を0.5~5.0重量部と、(G)架橋遅延剤
を1.0~5.0重量部と、(H)架橋触媒
を0.01~0.5重量部と、(I)帯電防止剤
を0.1~5.0重量部と、(J)HLB値が7~12であるポリエーテル変性シロキサン化合物
を0.01~0.5重量部とを含有し、前記アクリル系ポリマーの酸価が0.01~8.0であり、
前記(F)3官能以上のイソシアネート化合物が、(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上と、(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上とを含み、
前記粘着剤層のゲル分率が、95~100%であり、
前記粘着剤層の、低速の剥離速度0.3m/minでの粘着力が0.05~0.1N/25mmであり、高速の剥離速度30m/minでの粘着力が1.0N/25mm以下であることを特徴とする表面保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイの製造工程に利用される表面保護フィルムに関するものである。さらに詳しくは、液晶ディスプレイを構成する偏光板、位相差板などの光学部材の表面に貼着することにより、偏光板、位相差板などの光学部材の表面を保護するために使用される表面保護フィルム用の粘着剤組成物、及びそれを用いた表面保護フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶ディスプレイを構成する部材である偏光板、位相差板などの光学部材の製造工程においては、光学部材の表面を一時的に保護するための表面保護フィルムが貼着される。このような表面保護フィルムは、光学部材を製造する工程のみに使用され、光学部材を液晶ディスプレイに組み込む時点で、光学部材から剥離して除去される。このような光学部材の表面を保護するための表面保護フィルムは、製造工程においてのみに使用されるため、一般には、工程フィルムと呼ばれることもある。
【0003】
このように光学部材を製造する工程において使用される表面保護フィルムは、光学的に透明性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムの片面に粘着剤層が形成されているが、光学部材に貼り合わせるまで、その粘着剤層を保護するための剥離処理された剥離フィルムが、粘着剤層の上に貼り合わされている。
また、偏光板、位相差板などの光学部材は、表面保護フィルムを貼り合わされた状態で、液晶表示板の表示能力、色相、コントラスト、異物混入などの光学的評価を伴う製品検査を行うため、表面保護フィルムに対する要求性能としては、粘着剤層に気泡や異物が付着していないことが求められている。
また、近年では、偏光板、位相差板などの光学部材から表面保護フィルムを剥がすときに、粘着剤層を被着体が剥がす時に発生する静電気に伴って生じる剥離帯電が、液晶ディスプレイの電気制御回路の故障に影響することが懸念され、粘着剤層に対して優れた帯電防止性能が求められている。
また、偏光板、位相差板などの光学部材に表面保護フィルムを貼り合わせるときに、各種の理由により、一旦、表面保護フィルムを剥がして、再度、表面保護フィルムを貼り直すことがあり、そのときに被着体の光学部材から剥がし易いこと(リワーク性)が求められている。
また、最終的に偏光板、位相差板などの光学部材から表面保護フィルムを剥がすときには、速やかに剥離できることが求められている。いわゆる、高速剥離によっても、速やかに剥離できるように、粘着力が剥離速度によっても変化が少ないことが求められている。
【0004】
このように、近年においては、表面保護フィルムを構成する粘着剤層に対する要求性能として、(1)低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスを取ること、(2)糊残りの発生を防止すること、(3)優れた帯電防止性能、及び(4)リワーク性能などが、表面保護フィルムを使用するに当たっての使い易さの点から求められている。
しかし、表面保護フィルムを構成する粘着剤層に対する要求性能である、これら(1)~(4)のそれぞれ、個々の要求性能を満たすことは出来ても、表面保護フィルムの粘着剤層に求められる(1)~(4)の全ての要求性能を、同時に満たすことは非常に困難な課題であった。
【0005】
例えば、(1)低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスを取ること、及び(2)糊残りの発生を防止することについては、次のような提案が知られている。
【0006】
炭素数が7以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとカルボキシル基含有共重合性化合物との共重合体を主成分とし、これを架橋剤で架橋処理してなるアクリル系の粘着剤層では、長期間接着した場合に粘着剤が被着体側へ移着し、また被着体に対する接着力の経時上昇性が大きいという問題があった。これを回避するため、炭素数が8~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルコ―ル性水酸基を有する共重合性化合物との共重合体を用い、これを架橋剤で架橋処理した粘着剤層を設けたものが知られている(特許文献1)。
また、上記と同様の共重合体に(メタ)アクリル酸アルキルエステルとカルボキシル基含有共重合性化合物との共重合体を少量配合し、これを架橋剤で架橋処理した粘着剤層を設けたものなどが提案されている。しかし、これらは、表面張力が低くて表面が平滑なプラスチック板などの表面保護に使用すると、加工時や保存時の加熱により浮きなどの剥離現象を生じる問題や、手作業領域である高速での剥離時の再剥離性に劣るという問題もあった。
【0007】
これらの問題を解決するため、a)炭素数が8~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする(メタ)アクリル酸アルキルエステル100重量部に、b)カルボキシル基含有共重合性化合物1~15重量部と、c)炭素数が1~5の脂肪族カルボン酸のビニルエステル3~100重量部とを加えてなる単量体混合物の共重合体に、上記のb)成分のカルボキシル基に対して当量以上の架橋剤を配合した粘着剤組成物が提案されている(特許文献2)。
特許文献2に記載の粘着剤組成物では、加工時や保存時において、浮きなどの剥離現象を生じることがなく、その上、接着力の経時上昇性が小さくて再剥離性に優れており、長期保存、特に高温雰囲気下で長期保存しても小さな力で再剥離でき、その際被着体上に糊残りを生じず、また高速剥離を行ったときでも小さな力で再剥離できるとしている。
【0008】
また、(3)優れた帯電防止性能については、表面保護フィルムに帯電防止性を付与させための方法として、基材フィルムに帯電防止剤を練り込む方法などが示されている。帯電防止剤としては、例えば、(a)第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1~3級アミノ基などのカチオン性基を有する各種のカチオン性帯電防止剤、(b)スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基などのアニオン性基を有するアニオン性帯電防止剤、(c)アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系などの両性帯電防止剤、(d)アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系などのノニオン性帯電防止剤、(e)上記の様な帯電防止剤を高分子量化した高分子型帯電防止剤、などが開示されている(特許文献3)。
また、近年では、このような帯電防止剤を基材フィルムに含有させたり、あるいは基材フィルムの表面に塗布するのではなく、直接に粘着剤層に含有させたりすることが提案されている。
【0009】
また、(4)リワーク性能については、例えば、アクリル樹脂中に、イソシアネート系化合物の硬化剤と、特定のシリケートオリゴマーをアクリル系樹脂100重量部に対して0.0001~10重量部で配合した粘着剤組成物が提案されている(特許文献4)。
特許文献4では、アルキル基の炭素数が2~12程度のアクリル酸アルキルエステルやアルキル基の炭素数が4~12程度のメタクリル酸アルキルエステル等を主モノマー成分とし、例えば、カルボキシル基含有モノマーなどの他の官能基含有モノマー成分を含むことができるとしている。一般的には上記主モノマーを50重量%以上含有させることが好ましい、又、官能基含有モノマー成分の含有量は0.001~50重量%、好ましくは0.001~25重量%、更に好ましくは0.01~25重量%であることが望まれる、としている。このような特許文献4に記載の粘着剤組成物は、高温下又は高温高湿下でも凝集力及び接着力の経時変化が小さく、かつ、曲面に対する接着力にも優れた効果を示すことから、リワーク性を有するとしている。
一般に、粘着剤層を柔らかい性状のものにすると、糊残りが発生し易くなり、リワーク性が低下しやすい。すなわち、誤って貼合したときに剥離が難く、貼り直しが困難となり易い。このことから、カルボキシル基などの官能基を有するモノマーを主剤に架橋させて、粘着剤層を一定の硬さにすることが、リワーク性を持たせるためには必要と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭63-225677号公報
【文献】特開平11-256111号公報
【文献】特開平11-070629号公報
【文献】特開平8-199130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術においては、表面保護フィルムを構成する粘着剤層に対する要求性能として、低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスを取ること、優れた帯電防止性能、及びリワーク性能などが求められてきたが、それぞれ、個々の要求性能を満たすことは出来ても、表面保護フィルムの粘着剤層に求められる全ての要求性能を満たすことは出来なかった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、優れた帯電防止性能を備え、低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスが優れ、さらに、耐久性能、及びリワーク性能にも優れた粘着剤組成物及び表面保護フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明は、(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーと、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(E)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたは水酸基を含有しないアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一種と、を含む共重合体のアクリル系ポリマーからなり、さらに、(F)3官能以上のイソシアネート化合物と、(G)架橋遅延剤と、(H)架橋触媒と、(I)帯電防止剤と、(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有し、前記アクリル系ポリマーの酸価が0.01~8.0であり、前記(F)3官能以上のイソシアネート化合物が、(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上と、(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上とを含むことを特徴とする粘着剤組成物を提供する。
【0014】
前記(F)3官能以上のイソシアネート化合物の、前記(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群が、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のアダクト体、イソホロンジイソシアネート化合物のアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のビュレット体、イソホロンジイソシアネート化合物のビュレット体からなり、前記(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群が、トリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、キシリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、水添キシリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、トリレンジイソシアネート化合物のアダクト体、キシリレンジイソシアネート化合物のアダクト体、水添キシリレンジイソシアネート化合物のアダクト体からなることが好ましい。
【0015】
また、前記(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの100重量部に対して、前記(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーのうち、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの合計量が0~0.9重量部(8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを含有しない場合も許容される)であることが好ましい。
【0016】
また、前記(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーが、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルテトラヒドロフタル酸からなる化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上であることが好ましい。
【0017】
また、前記(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーが、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの中から選択された、少なくとも一種以上であり、前記(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの100重量部に対して、1~20重量部含まれることが好ましい。
【0018】
また、前記(E)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたはアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーが、前記(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの100重量部に対して、1~20重量部含まれることが好ましい。
【0019】
また、前記(F)3官能以上のイソシアネート化合物が、前記(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上と、前記(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上とを含み、前記共重合体の100重量部に対して、合計して0.5~5.0重量部含まれることが好ましい。
【0020】
また、前記(I)帯電防止剤が、前記共重合体の100重量部に対して0.1~5.0重量部含まれる、融点が30~80℃であるイオン性化合物であること、又は、前記共重合体中に0.1~5.0重量%共重合されたアクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物であることが好ましい。
【0021】
また、前記(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物が、HLB値が7~12であるポリエーテル変性シロキサン化合物であり、前記共重合体の100重量部に対して、前記(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物が0.01~0.5重量部含まれることが好ましい。
【0022】
また、前記(G)架橋遅延剤が、ケトエノール互変異性化合物であり、前記共重合体の100重量部に対して、前記(G)架橋遅延剤が1.0~5.0重量部含まれることが好ましい。
【0023】
また、前記(H)架橋触媒が、有機錫化合物であり、前記共重合体の100重量部に対して、前記(H)架橋触媒が0.01~0.5重量部含まれることが好ましい。
【0024】
また、前記粘着剤組成物を架橋させてなる粘着剤層の、低速の剥離速度0.3m/minでの粘着力が0.05~0.1N/25mmであり、高速の剥離速度30m/minでの粘着力が1.0N/25mm以下であることが好ましい。
【0025】
また、前記粘着剤組成物を架橋させてなる粘着剤層の、表面抵抗率が5.0×10+10Ω/□以下であり、剥離帯電圧が±0~0.3kVであることが好ましい。
【0026】
また、本発明は、前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面または両面に形成してなることを特徴とする粘着フィルムを提供する。
【0027】
また、本発明は、前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルムであって、前記粘着剤層を介して表面保護フィルムの上をボールペンでなぞった後に被着体に汚染移行の無いことを特徴とする表面保護フィルムを提供する。
【0028】
また、本発明の表面保護フィルムは、偏光板の表面保護フィルムの用途として使用することができる。
【0029】
また、本発明の表面保護フィルムは、樹脂フィルムの粘着剤層が形成された側とは反対面に、帯電防止および防汚処理がされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、従来技術では解決することのできなかった、表面保護フィルムの粘着剤層に要求される全ての性能を満足させることができ、なおかつ、優れた帯電防止性能が得られ、糊残りの発生を防止することが可能となった。具体的には、優れた帯電防止性能を維持しつつ、帯電防止剤の添加量を減らすことができ、糊残りの発生を防止する性能もさらに改善可能となった。
また、(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群から選択した1種以上と、(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群から選択した1種以上とを併用することにより、低速剥離領域および高速剥離領域の粘着力のバランスを改善できた。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、好適な実施の形態に基づいて本発明を説明する。
本発明の粘着剤組成物は、その主剤が、(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーと、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(E)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたはアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一種と、を含む共重合体のアクリル系ポリマーからなり、さらに、(F)3官能以上のイソシアネート化合物と、(G)架橋遅延剤と、(H)架橋触媒と、(I)帯電防止剤と、(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有し、前記アクリル系ポリマーの酸価が0.01~8.0であることを特徴とする。
【0032】
(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0033】
(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーとしては、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類や、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の水酸基含有(メタ)アクリルアミド類などが挙げられる。
8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドからなる化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上であることが好ましい。
(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの100重量部に対して、前記(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーが0.1~5.0重量部含まれることが好ましい。
なおかつ、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーのうち、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの合計量は、1重量部未満(含有しない場合も許容される)が好ましく、0~0.9重量部であることが好ましい。
【0034】
(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーが、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルテトラヒドロフタル酸からなる化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上であることが好ましい。
(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの100重量部に対して、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーが0.35~1.0重量部、より好ましくは0.35~0.6重量部、含まれることが好ましい。
【0035】
(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、ポリアルキレングリコールの有する複数の水酸基のうち、一つの水酸基が(メタ)アクリル酸エステルとしてエステル化された化合物であればよい。(メタ)アクリル酸エステル基が重合性基となるので、主剤ポリマーに共重合することができる。他の水酸基は、OHのままでもよく、メチルエーテルやエチルエーテル等のアルキルエーテルや、酢酸エステル等の飽和カルボン酸エステル等となっていてもよい。
ポリアルキレングリコールの有するアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられるが、これらに限定されない。ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等の2種以上のポリアルキレングリコールの共重合体であってもよい。ポリアルキレングリコールの共重合体としては、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリブチレングリコール、ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール等が挙げられ、該共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体であってもよい。
【0036】
(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの中から選択された、少なくとも一種以上であることが好ましい。
より具体的には、ポリエチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリブチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール-(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール-(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコール-(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール-ポリブチレングリコール-(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール-(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール-(メタ)アクリレート;エトキシポリエチレングリコール-(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール-(メタ)アクリレート、エトキシポリブチレングリコール-(メタ)アクリレート、エトキシ-ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-(メタ)アクリレート、エトキシ-ポリエチレングリコール-ポリブチレングリコール-(メタ)アクリレート、エトキシ-ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール-(メタ)アクリレート、エトキシ-ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール-(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの100重量部に対して、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーが1~20重量部含まれることが好ましい。
【0037】
(E)のうち、(E-1)窒素含有ビニルモノマーとしては、アミド結合を含有するビニルモノマー、アミノ基を含有するビニルモノマー、窒素含有の複素環式構造を有するビニルモノマー等が挙げられる。より具体的には、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルピロリドン、メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルラウリロラクタム等の、N-ビニル置換の複素環式構造を有する環状窒素ビニル化合物;N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピペラジン、N-(メタ)アクリロイルアジリジン、N-(メタ)アクリロイルアゼチジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルアゼパン、N-(メタ)アクリロイルアゾカン等の、N-(メタ)アクリロイル置換の複素環式構造を有する環状窒素ビニル化合物;N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等の、窒素原子及びエチレン系不飽和結合を環内に有する複素環式構造を有する環状窒素ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド等の無置換又はモノアルキル置換の(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル-N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキル置換(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノイソプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-エチル-N-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-メチル-N-プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-メチル-N-イソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノ(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-エチル-N-メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-プロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル置換アミノプロピル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド等のN-ビニルカルボン酸アミド類;N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の、(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和カルボン酸ニトリル類;などが挙げられる。
【0038】
(E-1)窒素含有ビニルモノマーとしては、水酸基を含有しないものが好ましく、水酸基およびカルボキシル基を含有しないものがより好ましい。このようなモノマーとしては、上に例示したモノマー、例えば、N,N-ジアルキル置換アミノ基やN,N-ジアルキル置換アミド基を含有するアクリル系モノマー;N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドンなどのN-ビニル置換ラクタム類;N-(メタ)アクリロイルモルホリンやN-(メタ)アクリロイルピロリジンなどのN-(メタ)アクリロイル置換環状アミン類が好ましい。
【0039】
(E)のうち、(E-2)アルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2-イソプロポキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-プロポキシプロピル(メタ)アクリレート、2-イソプロポキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-プロポキシプロピル(メタ)アクリレート、3-イソプロポキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、4-エトキシブチル(メタ)アクリレート、4-プロポキシブチル(メタ)アクリレート、4-イソプロポキシブチル(メタ)アクリレート、4-ブトキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
これらのアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基の原子がアルコキシ基で置換された構造を有する。
【0040】
(E-1)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたは(E-2)アルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーが、(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの100重量部に対して、1~20重量部含まれることが好ましい。(E-1)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマー及び(E-2)アルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーを、それぞれ1種または2種以上併用することもできる。
【0041】
(F)3官能以上のイソシアネート化合物としては、1分子中に少なくとも3個以上のイソシアネート(NCO)基を有するポリイソシアネート化合物であればよい。ポリイソシアネート化合物には、脂肪族系イソシアネート、芳香族系イソシアネート、非環式系イソシアネート、脂環式系イソシアネートなどの分類があるが、いずれでもよい。ポリイソシアネート化合物の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等の脂肪族系イソシアネート化合物や、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ジメチルジフェニレンジイソシアネート(TOID)、トリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族系イソシアネート化合物が挙げられる。
3官能以上のイソシアネート化合物としては、ジイソシアネート類(1分子中に2個のNCO基を有する化合物)のビュレット変性体やイソシアヌレート変性体、トリメチロールプロパン(TMP)やグリセリン等の3価以上のポリオール(1分子中に少なくとも3個以上のOH基を有する化合物)とのアダクト体(ポリオール変性体)などが挙げられる。
【0042】
さらに、本発明に用いる(F)3官能以上のイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のアダクト体、イソホロンジイソシアネート化合物のアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のビュレット体、イソホロンジイソシアネート化合物のビュレット体からなる、(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上と、トリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、キシリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、水添キシリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、トリレンジイソシアネート化合物のアダクト体、キシリレンジイソシアネート化合物のアダクト体、水添キシリレンジイソシアネート化合物のアダクト体、からなる、(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上とを含むことが好ましい。(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群と(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群とを併用することが好ましい。本発明では、(F)3官能以上のイソシアネート化合物として、(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上と、(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上とを併用することにより、低速剥離領域および高速剥離領域の粘着力のバランスをさらに改善することができる。
また、(F)3官能以上のイソシアネート化合物は、前記(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上と、前記(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上とを含み、前記共重合体の100重量部に対して、合計して0.5~5.0重量部含まれることが好ましい。また、(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上と、(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上との混合比率は、(F-1):(F-2)が重量比で10%:90%~90%:10%の範囲内であることが好ましい。
【0043】
(G)架橋遅延剤としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル等のβ-ケトエステルや、アセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、ベンゾイルアセトン等のβ-ジケトンが挙げられる。これらはケトエノール互変異性化合物であり、ポリイソシアネート化合物を架橋剤とする粘着剤組成物において、架橋剤の有するイソシアネート基をブロックすることにより、架橋剤の配合後における粘着剤組成物の過剰な粘度上昇やゲル化を抑制し、粘着剤組成物のポットライフを延長することができる。
(G)架橋遅延剤は、ケトエノール互変異性化合物であるのが好ましく、特にアセチルアセトン、アセト酢酸エチルからなる化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上であることが好ましい。
(G)架橋遅延剤は、共重合体の100重量部に対して、1.0~5.0重量部含まれることが好ましい。
【0044】
(H)架橋触媒は、ポリイソシアネート化合物を架橋剤とする場合に、前記共重合体と架橋剤との反応(架橋反応)に対して触媒として機能する物質であればよく、第三級アミン等のアミン系化合物、有機錫化合物、有機鉛化合物、有機亜鉛化合物等の有機金属化合物等が挙げられる。
第三級アミンとしては、トリアルキルアミン、N,N,N’,N’-テトラアルキルジアミン、N,N-ジアルキルアミノアルコール、トリエチレンジアミン、モルホリン誘導体、ピペラジン誘導体等が挙げられる。
有機錫化合物としては、ジアルキル錫オキシドや、ジアルキル錫の脂肪酸塩、第1錫の脂肪酸塩等が挙げられる。
(H)架橋触媒は、有機錫化合物であるのが好ましく、特にジオクチル錫オキシド、ジオクチル錫ジラウレートからなる化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上であることが好ましい。
(H)架橋触媒は、共重合体の100重量部に対して、0.01~0.5重量部含まれることが好ましい。
【0045】
(I)帯電防止剤は、(I-1)融点が30~80℃であるイオン性化合物、又は、(I-2)アクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物であることが好ましい。
本発明では、(I)帯電防止剤として、(I-1)融点が30~80℃であるイオン性化合物を共重合体に添加し、又は(I-2)アクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物を共重合体中に共重合する。これらの(I)帯電防止剤は、融点が低いため、また、長鎖のアルキル基を有するため、アクリル共重合体との親和性は高いと推測される。
【0046】
(I-1)融点が30~80℃であるイオン性化合物としては、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、カチオンが、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、アンモニウムカチオン等の含窒素オニウムカチオンや、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオン等であり、アニオンが、六フッ化リン酸塩(PF6
-)、チオシアン酸塩(SCN-)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(RC6H4SO3
-)、過塩素酸塩(ClO4
-)、四フッ化ホウ酸塩(BF4
-)等の無機もしくは有機アニオンである化合物が挙げられる。常温(例えば30℃)で固体であることが好ましく、アルキル基の鎖長や置換基の位置、個数等の選択により、融点が30~80℃のものを得ることができる。カチオンは、好ましくは4級含窒素オニウムカチオンであり、1-アルキルピリジニウム(2~6位の炭素原子は置換基を有しても無置換でもよい。)等の4級ピリジニウムカチオン、や1,3-ジアルキルイミダゾリウム(2,4,5位の炭素原子は置換基を有しても無置換でもよい。)等の4級イミダゾリウムカチオン、テトラアルキルアンモニウム等の4級アンモニウムカチオン等が挙げられる。
(I-1)融点が30~80℃であるイオン性化合物は、共重合体の100重量部に対して0.1~5.0重量部含まれることが好ましい。
【0047】
(I-2)アクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物としては、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、カチオンが、(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルキルアンモニウム〔R3N+-CnH2n-OCOCQ=CH2、ただし、Q=HまたはCH3、R=アルキル〕等の(メタ)アクリロイル基含有4級アンモニウムであり、アニオンが、六フッ化リン酸塩(PF6
-)、チオシアン酸塩(SCN-)、有機スルホン酸塩(RSO3
-)、過塩素酸塩(ClO4
-)、四フッ化ホウ酸塩(BF4
-)、F含有イミド塩(RF
2N-)等の無機もしくは有機アニオンである化合物が挙げられる。F含有イミド塩(RF
2N-)のRFとしては、トリフルオロメタンスルホニル基、ペンタフルオロエタンスルホニル基等のパーフルオロアルカンスルホニル基やフルオロスルホニル基が挙げられる。F含有イミド塩としては、ビス(フルオロスルホニル)イミド塩〔(FSO2)2N-〕、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩〔(CF3SO2)2N-〕、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド塩〔(C2F5SO2)2N-〕等のビススルホニルイミド塩が挙げられる。
(I-2)アクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物は、共重合体中に0.1~5.0重量%共重合されることが好ましい。
【0048】
(I)帯電防止剤の具体例としては、特に限定されるものでないが、(I-1)融点が30~80℃であるイオン性化合物の具体例としては、1-オクチルピリジニウム 六フッ化リン酸塩、1-ノニルピリジニウム 六フッ化リン酸塩、2-メチル-1-ドデシルピリジニウム 六フッ化リン酸塩、1-オクチルピリジニウム ドデシルベンゼンスルホン酸塩、1-ドデシルピリジニウム チオシアン酸塩、1-ドデシルピリジニウム ドデシルベンゼンスルホン酸塩、4-メチル-1-オクチルピリジニウム 六フッ化リン酸塩等が挙げられる。また、(I-2)アクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物の具体例としては、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート 六フッ化リン酸メチル塩〔(CH3)3N+CH2OCOCQ=CH2・PF6
-、ただし、Q=HまたはCH3〕、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドメチル塩〔(CH3)3N+(CH2)2OCOCQ=CH2・(CF3SO2)2N-、ただし、Q=HまたはCH3〕、ジメチルアミノメチルメタクリレート ビス(フルオロスルホニル)イミドメチル塩〔(CH3)3N+CH2OCOCQ=CH2・(FSO2)2N-、ただし、Q=HまたはCH3〕等が挙げられる。
【0049】
(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物は、ポリエーテル基を有するシロキサン化合物であり、通常のシロキサン単位〔-SiR1
2-O-〕の他に、ポリエーテル基を有するシロキサン単位〔-SiR1(R2O(R3O)nR4)-O-〕を有する。ここで、R1は1種又は2種以上のアルキル基又はアリール基、R2及びR3は1種又は2種以上のアルキレン基、R4は1種又は2種以上のアルキル基やアシル基等(末端基)を示す。ポリエーテル基としては、ポリオキシエチレン基〔(C2H4O)n〕やポリオキシプロピレン基〔(C3H6O)n〕等のポリオキシアルキレン基が挙げられる。
(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物は、HLB値が7~12であるポリエーテル変性シロキサン化合物であることが好ましい。また、共重合体の100重量部に対して、(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物が0.01~0.5重量部含まれることが好ましい。より好ましくは、0.1~0.5重量部である。
HLBとは、例えばJIS K3211(界面活性剤用語)等に規定する親水親油バランス(親水性親油性比)である。
ポリエーテル変性シロキサン化合物は、例えば、水素化ケイ素基を有するポリオルガノシロキサン主鎖に対し、不飽和結合及びポリオキシアルキレン基を有する有機化合物をヒドロシリル化反応によりグラフトさせることによって得ることができる。具体的には、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン重合体等が挙げられる。
(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物を粘着剤組成物に配合することにより、粘着剤の粘着力及びリワーク性能を改善することができる。
【0050】
さらに、その他成分として、アルキレンオキサイドを含有する共重合可能な(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、ジアルキル置換アクリルアミドモノマー、界面活性剤、硬化促進剤、可塑剤、充填剤、硬化遅延剤、加工助剤、老化防止剤、酸化防止剤などの公知の添加剤を適宜に配合することが出来る。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0051】
本発明の粘着剤組成物に用いられる主剤の共重合体は、(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーと、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーを重合させることで合成することができる。共重合体の重合方法は特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合等、適宜の重合方法が使用可能である。
(I)帯電防止剤として(I-2)アクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物を用いる場合、本発明の粘着剤組成物に用いられる主剤の共重合体は、(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーと、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(I-2)アクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物を重合させることで合成することができる。
本発明の粘着剤組成物は、上記の共重合体に、(F)3官能以上のイソシアネート化合物、(G)架橋遅延剤、(H)架橋触媒、(I)帯電防止剤、(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物、さらに適宜任意の添加剤を配合することで調製することができる。なお、(I-2)アクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物を主剤の共重合体中に重合させた場合、共重合体に対して(I)帯電防止剤をさらに添加しても添加しなくても構わない。
【0052】
前記共重合体は、アクリル系ポリマーであることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルモノマーや(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド類などのアクリル系モノマーを50~100重量%含むことが好ましい。
また、アクリル系ポリマーの酸価は、0.01~8.0であることが好ましい。これにより、汚染性を改善し、糊残りの発生防止性能を向上することができる。
ここで、「酸価」とは、酸の含有量を表す指標の一つであり、カルボキシル基を含有するポリマー1gを中和するのに要する、水酸化カリウムのmg数で表される。
【0053】
前記粘着剤組成物を架橋させてなる粘着剤層の、低速の剥離速度0.3m/minでの粘着力が0.05~0.1N/25mmであり、高速の剥離速度30m/minでの粘着力が1.0N/25mm以下であることが好ましい。これにより、粘着力が剥離速度によっても変化が少ない性能が得られ、高速剥離によっても、速やかに剥離することが可能になる。また、貼り直しのため、一旦、表面保護フィルムを剥がすときにも、過大な力を必要とせず、被着体から剥がし易い。
【0054】
前記粘着剤組成物を架橋させてなる粘着剤層の、表面抵抗率が5.0×10+10Ω/□以下であり、剥離帯電圧が±0~0.3kVであることが好ましい。なお、本発明において、「±0~0.3kV」とは、0~-0.3kV及び0~+0.3kV、すなわち、-0.3~+0.3kVを意味する。表面抵抗率が大きいと剥離時に帯電で発生した静電気を逃がす性能に劣るため、表面抵抗率を十分に小さくすることにより、粘着剤層を被着体が剥がす時に発生する静電気に伴って生じる剥離帯電圧が低減され、被着体の電気制御回路等に影響することを抑制することができる。
【0055】
本発明の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層(架橋後の粘着剤)のゲル分率は、95~100%であることが好ましい。このようにゲル分率が高いことにより、低速の剥離速度において、粘着力が過大にならず、共重合体からの未重合モノマーあるいはオリゴマーの溶出が低減して、リワーク性や高温・高湿度における耐久性が改善され、被着体の汚染を抑制することができる。
【0056】
本発明の粘着フィルムは、本発明の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面または両面に形成してなる。また、本発明の表面保護フィルムは、本発明の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルムである。本発明の粘着剤組成物は、上記の(A)~(J)の各成分がバランスよく配合されているため、優れた帯電防止性能を備え、低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスが優れ、さらに、耐久性能、及びリワーク性能(粘着剤層を介して表面保護フィルムの上をボールペンでなぞった後に被着体に汚染移行の無いこと)にも優れたものとなる。このため、偏光板の表面保護フィルムの用途として好適に使用することができる。
【0057】
粘着剤層の基材フィルムや、粘着面を保護する剥離フィルム(セパレーター)としては、ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルム等を用いることができる。
基材フィルムには、樹脂フィルムの粘着剤層が形成された側とは反対面に、シリコーン系、フッ素系の離型剤やコート剤、シリカ微粒子等による防汚処理、帯電防止剤の塗布や練り込み等による帯電防止処理を施すことができる。
剥離フィルムには、粘着剤層の粘着面と合わされる側の面に、シリコーン系、フッ素系の離型剤などにより離型処理が施される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0059】
<アクリル共重合体の製造>
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、反応装置内の空気を窒素ガスで置換した。その後、反応装置に2-エチルヘキシルアクリレート100重量部、8-ヒドロキシオクチルアクリレート0.9重量部、アクリル酸0.5重量部、ポリエチレングリコールモノアクリレート3重量部、N-ビニルピロリドン5重量部とともに溶剤(酢酸エチル)を60重量部加えた。その後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を2時間かけて滴下させ、65℃で6時間反応させ、重量平均分子量50万の、実施例1に用いるアクリル共重合体溶液1を得た。アクリル共重合体の一部を採取し、後述する酸価の測定試料として用いた。
[実施例2~9及び比較例1~4]
単量体の組成を各々、表1の(A)~(E)及び(I-2)の記載のようにする以外は、上記の実施例1に用いるアクリル共重合体溶液1と同様にして、実施例2~9及び比較例1~4に用いるアクリル共重合体溶液を得た。
【0060】
【0061】
<粘着剤組成物及び表面保護フィルムの製造>
[実施例1]
上記のとおり製造した実施例1のアクリル共重合体溶液1に対して、1-オクチルピリジニウム 六フッ化リン酸塩1.5重量部、KF-351A(HLB=12のポリエーテル変性シロキサン化合物)0.2重量部、アセチルアセトン2.5重量部を加え撹拌したのち、コロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体)1.0重量部、コロネートL(トリレンジイソシアネート化合物のトリメチロールプロパンとのアダクト体)0.2重量部、ジオクチル錫ジラウレート0.02重量部を加えて撹拌混合して実施例1の粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物をシリコーン樹脂コートされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる剥離フィルムの上に塗布後、90℃で乾燥することによって溶剤を除去し、粘着剤層の厚さが25μmである粘着シートを得た。
その後、一方の面に帯電防止及び防汚処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの帯電防止及び防汚処理された面とは反対の面に粘着シートを転写させ、「帯電防止及び防汚処理されたPETフィルム/粘着剤層/剥離フィルム(シリコーン樹脂コートされたPETフィルム)」の積層構成を有する実施例1の表面保護フィルムを得た。
[実施例2~9及び比較例1~4]
添加剤の組成を各々、表2の(F)~(J)の記載のようにする以外は、上記の実施例1の表面保護フィルムと同様にして、実施例2~9及び比較例1~4の表面保護フィルムを得た。
【0062】
【0063】
表1及び表2は、各成分の配合比を示す一体の表を2つに分けたものであり、いずれも(A)群の合計を100重量部として求めた重量部の数値を括弧で囲んで示す。また、表1及び表2に用いた各成分の略記号の化合物名を、表3及び表4に示す。なお、コロネート(登録商標)HX、同HL及び同Lは日本ポリウレタン工業株式会社の商品名であり、タケネート(登録商標)D-140N、D-127N、D-110N、D-120Nは三井化学株式会社の商品名であり、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-640及びX-22-6191は信越化学株式会社の商品名である。
表1で、(I)帯電防止剤のうち、共重合体中に共重合された、(I-2)アクリロイル基含有の4級アンモニウム塩型イオン性化合物は、重合後に添加される、(I-1)融点が30~80℃であるイオン性化合物とは別の欄に記載した。
【0064】
【0065】
【0066】
<試験方法及び評価>
実施例1~9及び比較例1~4における表面保護フィルムを23℃、50%RHの雰囲気下で7日間エージングした後、剥離フィルム(シリコーン樹脂コートされたPETフィルム)を剥がして、粘着剤層を表出させたものを、ゲル分率及び表面抵抗率の測定試料とした。
さらに、この粘着剤層を表出させた表面保護フィルムを、粘着剤層を介して液晶セルに貼られた偏光板の表面に貼り合わせ、1日放置した後、50℃、5気圧、20分間オートクレーブ処理し、室温でさらに12時間放置したものを、粘着力、剥離帯電圧及び耐久性の測定試料とした。
【0067】
<酸価>
アクリル系ポリマーの酸価は、試料を溶剤(ジエチルエーテルとエタノールを体積比2:1で混合したもの)に溶かし、電位差自動滴定装置(京都電子工業製、AT-610)を用いて、0.1上記電位差滴定装置を用い、濃度が約0.1mol/lの水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行い、試料を中和するために必要な水酸化カリウムエタノール溶液の量を測定した。そして、下記式より、酸価を求めた。
酸価=(B×f×5.611)/S
B=滴定に用いた0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)
f=0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
S=試料の固形分の質量(g)
【0068】
<ゲル分率>
エージング終了後、偏光板に貼り合わせる前の測定試料の質量を正確に測定し、トルエン中に24時間浸漬後、200メッシュの金網で濾過する。その後、濾過物を100℃、1時間乾燥した後、残渣の質量を正確に測定して、以下の式から粘着剤層(架橋後の粘着剤)のゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=不溶部分質量(g)/粘着剤質量(g)×100
【0069】
<粘着力>
上記で得られた測定試料(25mm幅の表面保護フィルムを偏光板の表面に貼り合わせたもの)を180°方向に引張試験機を用いて低速の剥離速度(0.3m/min)及び高速の剥離速度(30m/min)において剥がして測定した剥離強度を粘着力とした。
【0070】
<表面抵抗率>
エージングした後、偏光板に貼り合わせる前に、剥離フィルム(シリコーン樹脂コートされたPETフィルム)を剥がして粘着剤層を表出し、抵抗率計ハイレスタUP-HT450(三菱化学アナリテック製)を用いて粘着剤層の表面抵抗率を測定した。
【0071】
<剥離帯電圧>
上記で得られた測定試料を30m/minの引張速度で180°剥離した際に偏光板が帯電して発生する電圧(帯電圧)を高精度静電気センサSK-035、SK-200(株式会社キーエンス製)を用いて測定し、測定値の最大値を剥離帯電圧とした。
【0072】
<リワーク性>
上記で得られた測定試料の表面保護フィルムの上をボールペンで(荷重500g、3往復)なぞった後、偏光板から表面保護フィルムを剥離して偏光板の表面を観察し、偏光板に汚染移行の無いことを確認した。評価目標基準は、偏光板に汚染移行の無い場合を「○」、ボールペンでなぞった軌跡に沿って少なくとも一部に汚染移行が確認された場合を「△」、ボールペンでなぞった軌跡に沿って汚染移行が確認され、粘着剤表面からも粘着剤の離脱が確認された場合を「×」と評価した。
【0073】
<耐久性>
上記で得られた測定試料を60℃、90%RHの雰囲気下に250時間放置後、室温に取り出し、さらに12時間放置した後、粘着力を測定して初期の粘着力と比較して明らかな増加が無いことを確認した。評価目標基準は、試験後の粘着力が初期粘着力の1.5倍以下である場合を「○」、1.5倍を超えた場合を「×」と評価した。
【0074】
表5に、評価結果を示す。なお、表面抵抗率は、「m×10+n」を「mE+n」とする方式(ただし、mは任意の実数値、nは正の整数)により表記した。
【0075】
【0076】
実施例1~9の表面保護フィルムは、低速の剥離速度0.3m/minでの粘着力が0.05~0.1N/25mmであり、高速の剥離速度30m/minでの粘着力が1.0N/25mm以下であり、表面抵抗率が5.0×10+10Ω/□以下であり、剥離帯電圧が±0~0.3kVであり、粘着剤層を介して表面保護フィルムの上をボールペンでなぞった後に被着体に汚染移行の無く、60℃、90%RHの雰囲気下に250時間放置したときの耐久性にも優れていた。
すなわち、(1)低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスを取ること、(2)糊残りの発生を防止すること、(3)優れた帯電防止性能、及び(4)リワーク性能の全ての要求性能を、同時に満たしている。
また、(F-1)第1の脂肪族系のイソシアネート化合物群から選択した1種以上と、(F-2)第2の芳香族系のイソシアネート化合物群から選択した1種以上とを併用することにより、低速剥離領域および高速剥離領域の粘着力のバランスを改善できた。
【0077】
比較例1の表面保護フィルムは、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマー及び(E)窒素含有ビニルモノマーまたはアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマー及び(F)イソシアネート化合物を含まないためか、ゲル分率が0であり、低速の剥離速度0.3m/minと高速の剥離速度30m/minでの粘着力が大きすぎ、リワーク性と耐久性が劣っていた。
比較例2の表面保護フィルムでは、(B)水酸基含有モノマーが過少、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーが過少で、(E)窒素含有ビニルモノマーまたはアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーを含まず、(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物のHLB値が過小であったためか、低速の剥離速度0.3m/minでの粘着力と高速の剥離速度30m/minでの粘着力が大きすぎ、剥離帯電圧が高く、リワーク性と耐久性が劣り、ゲル分率が低くなった。
比較例3の表面保護フィルムは、(F)イソシアネート化合物が過多で、(G)架橋遅延剤を配合しなかったためか、ポットライフが短くなりすぎ、塗布前に架橋が進行したため、塗工をすることができなかった。
比較例4の表面保護フィルムは、(F)イソシアネート化合物が過多であるためか、(H)架橋触媒を含んでいなくても、ポットライフが短くなりすぎ、塗布前に架橋が進行したため、塗工をすることができなかった。
このように、比較例1~4の表面保護フィルムでは、(1)低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスを取ること、(2)糊残りの発生を防止すること、(3)優れた帯電防止性能、及び(4)リワーク性能の全ての要求性能を、同時に満たすことができなかった。