(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】水蒸気改質触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/50 20060101AFI20220809BHJP
H01M 8/0612 20160101ALI20220809BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220809BHJP
【FI】
B01J23/50 M
H01M8/0612
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020520378
(86)(22)【出願日】2019-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2019020543
(87)【国際公開番号】W WO2019225715
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2018098937
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高根澤 豪紀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】菊原 俊司
(72)【発明者】
【氏名】菊地 浩二
(72)【発明者】
【氏名】原田 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】海野 哲也
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130937(WO,A1)
【文献】特開2005-185989(JP,A)
【文献】特開2004-082034(JP,A)
【文献】特開昭60-147242(JP,A)
【文献】国際公開第2008/075761(WO,A1)
【文献】David P. VanderWiel, Marek Pruski, Terry S. King,A Kinetic Study on the Adsorption and Reaction of Hydrogen over Silica-Supported Ruthenium and Silver-Ruthenium Catalysts during the Hydrogenation of Carbon Monoxide,Journal of Catalysis,Elsevier,1999年11月15日,Volume 188, Issue 1,Pages 186-202,https://doi.org/10.1006/jcat.1999.2646
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/00-6/34
H01M 8/0612
H01M 8/10
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
前記担体は、α-アルミナのみからなることを特徴とする、請求項1に記載の水蒸気改質触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気改質触媒に関し、特に炭化水素系燃料を水蒸気改質反応によって、一酸化炭素および水素を含む混合ガスに変換するための水蒸気改質触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池(PEFC)の燃料として使用される。水素の工業的製造法の一つとして天然ガス、都市ガス等の炭化水素系燃料の水蒸気改質法がある。炭化水素系燃料の水蒸気改質法では、水蒸気改質触媒が用いられ、炭化水素が水蒸気による改質反応により水素リッチな改質ガスへと変換される。
【0003】
水蒸気改質触媒としては、アルミナ(酸化アルミニウム)等の金属酸化物からなる適宜の担体に、ニッケル、ルテニウムを担持した触媒が用いられている。
【0004】
ところが、炭化水素系燃料ガス中に窒素が含まれていると、改質により生じた水素と当該窒素とからアンモニアが生成し、これが燃料電池反応の阻害要因となる。このようなアンモニア生成を抑制する手段として、水蒸気改質触媒に、白金やロジウムあるいはその両成分を担持させてなる触媒を用いる方法が提案されている(特許文献1~2)。
【0005】
また、窒素を含有する原燃料もしくは原燃料と窒素を含有する混合物を改質して得られる水素リッチガス中のアンモニアを、アンモニア除去器により除去する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2005-174783号公報
【文献】日本国特開2003-146615号公報
【文献】日本国特開2003-031247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年においては、燃料電池の低コスト化の要望が高まっており、かかる観点より、水蒸気改質触媒に用いられる材料についても、白金およびロジウム等の高価な貴金属材料を使用しないことが望まれている。
【0008】
また、特許文献3に開示される技術では高価な貴金属材料は使用されていないが、アンモニア除去器を用いているため、システムが複雑になる。
【0009】
本発明は上記に鑑みて、比較的廉価なルテニウムからなる、アンモニア生成が抑制された水蒸気改質触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、本発明の一態様は、担体及び、前記担体に担持させた、ルテニウムと銀とを含む合金からなる金属触媒を有することを特徴とする、窒素ガスを含む炭化水素系燃料の改質に用いられる水蒸気改質触媒に関する。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、ルテニウムを水蒸気改質触媒における金属触媒として単独で使用した場合においては、当該ルテニウムの活性点等において、水素および窒素の吸着反応が生じ、当該反応を通じてアンモニアが生成されることを見出した。そこで、本発明者らは、さらなる検討を行った結果、上記ルテニウムに対してさらに銀を含有させて、ルテニウムと銀とを含む合金からなる金属触媒を構成し、当該金属触媒を担体に担持させて水蒸気改質触媒を形成することにより、ルテニウムの、窒素の解離吸着に作用する活性点(以下、単に「活性点」ともいう)における窒素の解離を抑制することができ、ひいてはアンモニアの生成を抑制することができることを見出した。
【0012】
したがって、本発明の水蒸気改質触媒においては、従来、アンモニア生成の原因となっていた、ルテニウムの活性点における窒素の解離が大幅に抑制されているので、アンモニア生成を抑制した状態で、活性な水蒸気改質触媒を提供することができる。
【0013】
日本国特開2004-82034号公報には、担体に対してルテニウムと銀等とを担持させた水蒸気改質触媒が開示されているが、当該触媒は、数十ppm程度の比較的高濃度の硫黄成分を必須として含む炭化水素化合物類の改質に用いる水蒸気改質触媒であり、硫黄被毒安定性を改善し、安定な反応系を提供するものである。一方、本発明に係る水蒸気改質触媒は、窒素ガスを含む炭化水素系燃料の改質に用いられる触媒であって、その用途及び作用効果が全く異なるものである。但し、本発明の水蒸気改質触媒を硫黄を不可避的不純物として含むような炭化水素系燃料の改質に用いる場合を排除するものではない。
【0014】
また、本発明の一例においては、担体として、α-アルミナを用いることができる。この場合、上述した金属触媒を担持させると、当該金属触媒、すなわち水蒸気改質触媒の触媒活性を高く維持することができ、水蒸気改質触媒を高温下に配置した場合においてもその触媒活性を高く維持することができることから、耐久性も高く保持することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、比較的廉価な触媒によって、アンモニア生成が抑制された水蒸気改質を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の水蒸気改質触媒の一実施形態における金属触媒粒子のSTEM-EDX像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細について、実施形態に基づいて説明する。
なお、本明細書において「~」とはその下限の値以上、その上限の値以下であることを意味する。
【0018】
(金属触媒)
本実施形態において、水蒸気改質触媒を構成する金属触媒は、ルテニウム(Ru)と、銀(Ag)との合金からなることが必要である。銀はルテニウムと比較すると電子親和力が大きく、したがって、ルテニウムと銀とが合金を形成している本実施形態における金属触媒ではルテニウムの電子の一部が銀に移動しており、ルテニウムの電子密度が低下している。このことによりルテニウムの活性点における窒素(N2)の解離が抑制されるため、アンモニア生成を抑制した状態で、活性な水蒸気改質触媒を提供することができる。
【0019】
なお、本実施形態の金属触媒においてルテニウムと銀とは合金を形成しており、即ち金属状態で存在するが、本発明の効果を奏する範囲において部分的に酸化ルテニウムや酸化銀として存在してもよい。
【0020】
また、本発明の効果を奏する範囲においてルテニウムと銀とを含む合金からなる金属触媒はルテニウムと銀以外にロジウム、ニッケル、コバルト、ランタン、白金等を含有していてもよい。
【0021】
また、本実施形態の水蒸気改質触媒は、本発明の効果を奏する範囲においてルテニウムと銀とを含む合金を含まない金属触媒を含有してもよく、例えば、ルテニウムのみからなる金属触媒や銀のみからなる金属触媒を含有してもよい。
【0022】
本実施形態の金属触媒においてルテニウムと銀とが合金を形成する態様は特に限定されず、例えば固溶体であってもよく、共晶であってもよく、金属間化合物であってもよい。上記のアンモニア発生の抑制の効果を得るためにはルテニウムと銀とが電子のやり取りを行える程度に近接していればよく、即ち、1つの金属触媒粒子中にルテニウムと銀の両方が存在すればよい。
【0023】
ルテニウムと銀とを含む合金からなる金属触媒を製造する方法は特に限定はされないが、例えば以下の方法で得ることができる。
すなわち、まずルテニウムイオンと銀イオンとの両方を含有する前駆体溶液を製造する。当該前駆体溶液としては、例えば硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合溶液を用いることができる。次いで、当該前駆体溶液を担体に含浸させ、乾燥させたのち、水素還元することによって、担体にルテニウムと銀とを含む合金からなる金属触媒が担持された水蒸気改質触媒を得ることができる。
【0024】
金属触媒において、ルテニウムと銀が合金を形成していることは種々の方法により確認できるが、例えばSTEM-EDXを用いて、1つの粒子中にルテニウム及び銀の両方が含有されることを確認することができる。
また、例えばXPSを用いてピークシフトを観察することによってもルテニウムと銀が合金を形成していることを確認することができる。具体的には、例えば実施例の欄に記載したようにRu3d軌道のスペクトルを観察することにより確認できる。ルテニウムと銀が合金を形成している場合、先述のとおりルテニウムの電子は一部が銀に移動しており、このことに起因してRu3d軌道のピークトップの位置は高エネルギー側にシフトする。したがって、単体のルテニウムからなる金属触媒の場合と比較してRu3d軌道のピークトップの位置が高エネルギー側にシフトしていることを確認することにより、ルテニウムと銀が合金を形成していることを確認できる。当該ピークシフト幅は0.05eV以上であることが好ましく、この場合合金が形成されていると考えることができる。また、0.1eV以上であることがより好ましい。
【0025】
なお、金属触媒におけるルテニウムの含有量(原子%)に対する銀の含有量(原子%)の比(以下、(Ag/Ru)とも記載する)が、0.01~0.2であることが好ましく、0.01~0.1であることがより好ましく、0.01~0.06であることが最も好ましい。これによって、ルテニウムの活性点における窒素の解離を効果的に抑制することができ、ひいてはアンモニアの生成を効果的に抑制することができる。
なお、(Ag/Ru)はSTEM-EDXの点分析により求められるものであり、具体的には、水蒸気改質触媒中の金属触媒粒子をランダムに10抽出して、各々についてSTEM-EDXの点分析によりルテニウムの含有量、銀の含有量を測定して(Ag/Ru)を求め、その平均をとることにより求められる。
【0026】
また、金属触媒中の、ルテニウムの量が83.0~98.8原子%であり、銀の量が17.0~1.2原子%であることが好ましく、さらには、ルテニウムの量が90.9~98.8原子%であり、銀の量が9.1~1.2原子%であることがより好ましい。この場合も、ルテニウムの活性点における窒素の解離を効果的に抑制することができ、ひいてはアンモニアの生成を効果的に抑制することができる。
【0027】
(担体)
本実施形態の水蒸気改質触媒の担体の材料としては上述した金属触媒を担持させることができるものであれば特に限定されるものではなく、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムのようなアルカリ金属の酸化物、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムのようなアルカリ土類金属の酸化物、スカンジウム、イットリウムのような周期律表第IIIA族金属の酸化物、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムなどの希土類金属の酸化物、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの周期律表第IVA族金属の酸化物、アルミニウムの酸化物、珪素の酸化物、などの単元系酸化物などを例示することができる。
【0028】
これらの中でもアルミニウムの酸化物(アルミナ)が好ましく使用され、特に、α-アルミナを好ましく使用することができる。これは、α-アルミナからなる担体に上述した金属触媒を担持させた場合は、水蒸気改質触媒の触媒活性を高く維持することができ、水蒸気改質触媒を高温下に配置した場合においてもその触媒活性を高く維持することができ、耐久性に優れるからである。
【0029】
また、これらの酸化物の2種類以上を任意の比率で混合した混合酸化物も本実施形態の水蒸気改質触媒の担体の材料として使用でき、例えば、マグネシウム-チタン、カルシウム-チタン、ストロンチウム-チタン、バリウム-チタン、マグネシウム-ジルコニウム、カルシウム-ジルコニウム、ストロンチウム-ジルコニウム、バリウム-ジルコニウム、マグネシウム-アルミニウム、カルシウム-アルミニウム、ストロンチウム-アルミニウム、バリウム-アルミニウム、イットリウム-アルミニウム、チタン-アルミニウム、ジルコニウム-アルミニウム、セリウム-アルミニウム、マグネシウム-珪素、カルシウム-珪素、ストロンチウム-珪素、バリウム-珪素、イットリウム-珪素、チタン-珪素、ジルコニウム-珪素、ハフニウム-珪素、アルミニウム-珪素、マグネシウム-セリウム、カルシウム-セリウム、ストロンチウム-セリウム、バリウム-セリウムなどの2元系金属の酸化物(混合酸化物)が好適に使用できる。
【0030】
この中ではマグネシウム-アルミニウム、カルシウム-アルミニウム、ストロンチウム-アルミニウム、バリウム-アルミニウムのような金属の組み合わせからなるアルカリ土類金属酸化物とアルミナの混合酸化物、セリウム-アルミニウムのような金属の組み合わせからなるランタノイド金属酸化物とアルミナの混合酸化物、ジルコニアとアルミナの混合酸化物などが特に好適に使用される。
【0031】
さらに、マグネシウム-カルシウム-チタン、マグネシウム-バリウム-チタン、マグネシウム-イットリウム-チタン、マグネシウム-ジルコニウム-チタン、マグネシウム-セリウム-チタン、カルシウム-バリウム-チタン、カルシウム-イットリウム-チタン、カルシウム-ジルコニウム-チタン、カルシウム-セリウム-チタン、バリウム-イットリウム-チタン、マグネシウム-カルシウム-ジルコニウム、マグネシウム-バリウム-ジルコニウム、マグネシウム-イットリウム-ジルコニウム、マグネシウム-セリウム-ジルコニウム、カルシウム-バリウム-ジルコニウム、カルシウム-イットリウム-ジルコニウム、カルシウム-セリウム-ジルコニウム、バリウム-イットリウム-ジルコニウム、バリウム-チタン-ジルコニウム、マグネシウム-カルシウム-アルミニウム、マグネシウム-バリウム-アルミニウム、マグネシウム-イットリウム-アルミニウム、マグネシウム-チタン-アルミニウム、マグネシウム-ジルコニウム-アルミニウム、マグネシウム-セリウム-アルミニウム、カルシウム-バリウム-アルミニウム、カルシウム-イットリウム-アルミニウム、カルシウム-チタン-アルミニウム、カルシウム-ジルコニウム-アルミニウム、カルシウム-セリウム-アルミニウム、バリウム-イットリウム-アルミニウム、バリウム-チタン-アルミニウム、バリウム-ジルコニウム-アルミニウム、バリウム-セリウム-アルミニウム、イットリウム-チタン-アルミニウム、イットリウム-ジルコニウム-アルミニウム、チタン-ジルコニウム-アルミニウム、マグネシウム-カルシウム-珪素、マグネシウム-バリウム-珪素、マグネシウム-イットリウム-珪素、マグネシウム-チタン-珪素、マグネシウム-ジルコニウム-珪素、マグネシウム-セリウム-珪素、マグネシウム-アルミニウム-珪素、カルシウム-バリウム-珪素、カルシウム-イットリウム-珪素、カルシウム-チタン-珪素、カルシウム-ジルコニウム-珪素、カルシウム-セリウム-珪素、カルシウム-アルミニウム-珪素、バリウム-イットリウム-珪素、バリウム-チタン-珪素、バリウム-ジルコニウム-珪素、バリウム-セリウム-珪素、バリウム-アルミニウム-珪素、イットリウム-チタン-珪素、イットリウム-ジルコニウム-珪素、イットリウム-アルミニウム-珪素、イットリウム-セリウム-珪素、チタン-ジルコニウム-珪素、チタン-アルミニウム-珪素、チタン-セリウム-珪素、ジルコニウム-アルミニウム-珪素、ジルコニウム-セリウム-珪素、アルミニウム-セリウム-珪素などの三元系の酸化物(混合酸化物)が好適に使用できる。
【0032】
この中では、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物と、セリウムなどのランタノイド金属の酸化物とアルミナとの混合酸化物、または、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物と、ジルコニアとアルミナとの混合酸化物などが特に好適に使用される。
【0033】
また、ゼオライト等の天然物由来の担体を用いることもできる。
【0034】
担体または水蒸気改質触媒の形態は特に限定されるものではなく、例えば、打錠成形し粉砕後適当な範囲に整粒した担体、押し出し成形した担体、粉末あるいは球形、リング状、タブレット状、ペレット状、円筒状、フレーク状など適当な形に成形した担体などを用いることができる。また、ハニカム状に成形したものであってもよい。
【0035】
(水蒸気改質触媒)
本実施形態の水蒸気改質触媒は、先述の担体及び、先述の金属触媒を有することを特徴とする水蒸気改質触媒である。本実施形態の水蒸気改質触媒は例えば先述の方法で製造することができる。
【0036】
(炭化水素系燃料)
本実施形態の水蒸気改質触媒によって水蒸気改質反応に供する炭化水素系燃料は、窒素ガス、及び有機化合物を含む。有機化合物は好ましくは炭素数1~40、より好ましくは炭素数1~30の有機化合物である。有機化合物としては具体的には、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などを挙げることができ、また飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素については、鎖状、環状を問わず使用できる。芳香族炭化水素についても単環、多環を問わず使用できる。このような炭化水素化合物類は置換基を含むことができる。置換基としては、鎖状、環状のどちらをも使用でき、例として、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基およびアラルキル基等を挙げることができる。また、これらの炭化水素化合物類はヒドロキシ基、アルコキシ基、ヒドロキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基などのヘテロ原子を含有する置換基により置換されていてもよい。
【0037】
具体的には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサンなどの飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンなどの不飽和脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサンなど環状炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどの芳香族炭化水素を挙げることができる。また、これらの混合物も好適に使用でき、例えば、天然ガス、LPG、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油など工業的に安価に入手できる材料をも例示することができる。またヘテロ原子を含む置換基を有する炭化水素化合物類の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジメチルエーテル、フェノール、アニソール、アセトアルデヒド、酢酸などを挙げることができる。
【0038】
なお、上記炭化水素系燃料に、水蒸気改質反応に影響を与えない範囲内で、水素、水、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素などが含まれていてもよい。
本実施形態の触媒は、窒素が多く含まれる炭化水素系燃料を用いた場合においてもアンモニア生成が抑制された水蒸気改質を行うことができる。例えば、触媒に導入される水蒸気改質に用いられる全気体成分から水蒸気及び炭化水素系燃料中の有機化合物を除いた気体成分中の窒素の含有量が、50体積%以上である場合においてもアンモニア抑制の効果が得られ、とりわけ窒素の含有量が80~100体積%である場合においても、従来の触媒と比較し飛躍的なアンモニア抑制の効果が得られる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
まず、脱イオン水に溶解した硝酸銀結晶と、硝酸ルテニウム溶液とを、最終的に得られる水蒸気改質触媒における銀及びルテニウムの含有量が表1の触媒種欄に記載の含有量(担体を含む水蒸気改質触媒中のルテニウムまたは銀の含有量(wt%))となるように混合し前駆体溶液を得た。次いで、α-アルミナペレット担体に対して前駆体溶液を含浸した。次いで、120℃にてペレットを乾燥後、水素還元し、実施例1~3の水蒸気改質触媒(以下、単に「触媒」ともいう)を得た。
【0040】
その後、上記触媒15mLを、常圧固定床流通系反応装置内に設置し、当該反応装置内にメタン(CH4)ガスと純水(H2O)をSV=13,500h-1、スチーム/カーボン比(S/C)=2.0に調整して供給し、上記触媒を加熱する電気炉を750℃に保持して出口でのメタンガスの転化率を求めた。なお、ガス中の窒素の有無はメタン転化率には影響を及ぼさないため、メタン転化率は窒素をふくまないガスに対するメタン転化率をもって評価した。
また、窒素(N2)を25体積%含有するCH4ガスを原料とし、当該反応装置内に前記原料ガスと純水(H2O)を、SV=5,000h-1、S/C=2.7になるように調整して供給し、上記触媒を加熱する電気炉を750℃に保持して出口でのアンモニアガスの発生量を求めた。水蒸気改質に用いられる全気体成分のうち、水蒸気(H2O)及びメタン(CH4)を除く気体成分において、触媒に導入される前の窒素の含有量は、99.995体積%である。
【0041】
メタンガスの転化率は、ガスクロマトグラフを用いて測定した、反応装置出口ガス中の一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)およびメタンの濃度(体積%)から以下の式によって導出した。なお、式中[CO]outは一酸化炭素の濃度(体積%)、[CO2]outは二酸化炭素の濃度(体積%)、[CH4]outはメタンの濃度(体積%)を表す。測定値を表1に示す。
メタン転化率=([CO]out+[CO2]out)/([CH4]out+[CO]out+[CO2]out))×100
【0042】
また、アンモニアガスの発生量は、反応装置出口で、ホウ酸溶液でアンモニアを吸収し、インドフェノール青吸光光度法を用いて測定した。測定値を表1に示す。なお、表1中の「ND」は、NH3生成量が検出限界値未満であったことを意味する。
【0043】
ルテニウムと銀から構成された金属触媒粒子において、ルテニウムと銀の含有量(原子%)、及びルテニウムと銀の含有量の比(Ag/Ru)をSTEM-EDXの点分析から求めた。測定は、触媒中の金属触媒粒子をランダムに抽出して、各実施例においてそれぞれ10回行い、得られた(Ag/Ru)の平均をとった。結果を表1に示す。なお、分析位置は金属触媒粒子の外接円の中央とし分析対象は分析位置においてルテニウムと銀の両方の金属元素が検出される粒子とした。また、金属触媒粒子のSTEM-EDX像の例を
図1に示す。
なお、表1に示す通り、いずれの測定点においても金属触媒粒子がルテニウム及び銀の両方を含有すること、即ち、ルテニウムと銀との合金からなることが確認された。
【0044】
(比較例1)
硝酸銀を用いることなく、硝酸ルテニウム溶液を含む前駆体水溶液を実施例と同様にして調製し、α-アルミナペレット担体に対して前駆体溶液を含浸した。次いで、120℃にてペレットを乾燥後、水素還元しルテニウムからなる金属触媒をα-アルミナに担持させた水蒸気改質触媒を得た。なお、メタンガスの転化率及びアンモニアガスの発生量の測定は、実施例と同様にして行った。
【0045】
(比較例2)
硝酸ルテニウム溶液を用いることなく、硝酸銀結晶を含む前駆体水溶液を実施例と同様にして調製し、α-アルミナペレット担体に対して前駆体溶液を含浸した。次いで、120℃にてペレットを乾燥後、水素還元し銀(Ag)からなる金属触媒をα-アルミナに担持させた水蒸気改質触媒を得た。なお、メタンガスの転化率及びアンモニアガスの発生量の測定は、実施例と同様にして行った。
【0046】
【0047】
表1に示すように、実施例1~3の水蒸気改質触媒は、いずれも高いメタンガス転化率を示し、アンモニアガスの生成が少なかった。
一方、ルテニウムのみからなる金属触媒を担持させて得た比較例1の水蒸気改質触媒はアンモニアガスの生成量が多かった。
また、銀のみからなる金属触媒を担持させて得た比較例2の水蒸気改質触媒はメタン転化率が低かった。
【0048】
次いで、金属触媒においてルテニウムと銀とが合金を形成していることをXPS測定によっても確認するために、実施例1の触媒について下記XPS測定を行った。また、同様にして比較例1の触媒についてもXPS測定を行った。
【0049】
<XPS測定>
実施例1および比較例1の触媒をメノウ乳鉢で粉砕し、下記条件でXPS測定を行い、Ru3d軌道のスペクトルを得た。
ルテニウムのみからなる金属触媒のみを有する比較例1の水蒸気改質触媒では、Ru3d3/2のピークトップの位置は284.08eV、Ru3d5/2のピークトップの位置は279.88eVであった。
これに対し、実施例1の水蒸気改質触媒では、Ru3d3/2のピークトップの位置は284.28eV、Ru3d5/2のピークトップの位置は279.98eVであり、比較例1のピークトップの位置からRu3d3/2では0.2eV、Ru3d5/2では0.1eV高エネルギー側にシフトしていた。
このことからも、実施例1の水蒸気改質触媒における金属触媒ではルテニウムと銀とが合金を形成していることが確認された。
(XPS測定条件)
・分析装置:Thermo Fisher Scientific社製 K-Alpha+
・照射X線:単結晶分光AlKα線
・X線スポット系:400μm×800μm(楕円形)
・中和電子銃:使用
・ピーク位置補正:Al2pのピークトップ位置を74.0eVとして補正
また、実施例3の触媒についても同様に、XPS測定を行ったところ、実施例3の水蒸気改質触媒でも、比較例1のピークトップの位置から、Ru3d3/2では0.2eV、Ru3d5/2では0.1eV高エネルギー側にシフトしていた。
【0050】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0051】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2018年5月23日付けで出願された日本特許出願(特願2018-98937)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。