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特許7121201ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体
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  • 特許-ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体 図1
  • 特許-ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20220809BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220809BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220809BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220809BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220809BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20220809BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20220809BHJP
   C08L 83/10 20060101ALI20220809BHJP
   C08F 290/14 20060101ALI20220809BHJP
   C08G 77/442 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220809BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20220809BHJP
   C09D 7/47 20180101ALI20220809BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B27/00 101
B32B27/18 A
B32B27/20 Z
B32B27/30 A
B32B27/30 Z
C08K5/3492
C08L83/07
C08L83/10
C08F290/14
C08G77/442
C09D4/02
C09D7/61
C09D7/48
C09D7/47
C09D183/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021535360
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028908
(87)【国際公開番号】W WO2021020396
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019140244
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 泰廣
(72)【発明者】
【氏名】岡 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】浴中 達矢
(72)【発明者】
【氏名】依田 孝志
(72)【発明者】
【氏名】河野 茂雄
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/123942(WO,A1)
【文献】特開2015-178550(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067742(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/175369(WO,A1)
【文献】特開2018-192470(JP,A)
【文献】特表2013-518943(JP,A)
【文献】特開2010-082860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
C08J 7/04- 7/06
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08F 290/14
C08G 77/442
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが1mm~20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、前記A層、前記B層、及び前記C層が下記(a)~(e)の要件を満たし、
前記B層が前記A層及び前記C層に接している、
ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
(a)前記ポリカーボネート樹脂基材層が、粘度平均分子量17,000~40,000であるポリカーボネート樹脂を含む。
(b)前記B層が、前記A層及び前記C層の両成分を含む。
(c)前記B層の厚みと前記C層の厚みとの合計の厚みが、16μm~32μmである。
(d)前記B層の厚みが、6μm~9μmである。
(e)前記C層が、下記(A)~(I)を満たす。
(A) 前記C層が、複合樹脂C1と、(メタ)アクリレート化合物C2と、シリカ微粒子C3と、トリアジン系紫外線吸収剤C4と、非反応性シリコーン表面調整剤C5を含有する無機微粒子含有組成物の硬化物であるハードコート層であって、
前記複合樹脂C1が、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される構造単位と、シラノール基及び/又は加水分解性シリル基とを有するポリシロキサンセグメント(C1-1)と、ビニル系重合体セグメント(C1-2)と、が、下記式(3)で表される結合により結合された複合樹脂である。
【化1】

上記式(1)及び(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立して、-R-CH=CH、-R-C(CH)=CH、-R-O-CO-C(CH)=CH、及び、-R-O-CO-CH=CHよりなる群から選ばれる少なくとも1つの重合性二重結合を有する基(但し、Rは、単結合又は炭素原子数1~6のアルキレン基を表す)、炭素原子数が1~6のアルキル基、炭素原子が3~8のシクロアルキル基、アリール基、又は、炭素原子が7~12のアラルキル基を表し、R、R及びRの少なくとも1つは前記重合性二重結合を有する基を表す。
【化2】

一般式(3)中、炭素原子は、前記(C1-2)の一部分の構成を表し、Siは、前記(C1-1)の一部分の構成を表す。
(B) 前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3との合計量に対して、前記複合樹脂C1の配合率が5質量%~15質量%である。
(C) 前記複合樹脂C1中におけるポリシロキサンセグメント(C1-1)の含有量が、前記複合樹脂C1の固形分量全体に対して55質量%~65質量%であり、
(D) 前記(メタ)アクリレート化合物C2が、下記一般式(4)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)と、
下記一般式(5)で表されるイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と、
脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)と、を含有する。
【化3】

一般式(4)中、R、R、及び、Rはそれぞれ独立して、下記式(4-a)、又は、下記式(4-b)で表される基を表す。
【化4】

上記式(4-a)中、n1は2~4の整数を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Q及びQは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、Q及びQの少なくとも1つはアルキル基を表す。
【化5】

上記一般式(5)中、R、R10、及び、R11はそれぞれ独立して、下記式(5-a)で表される基を表す。
【化6】

上記式(5-a)中、n2は2~4の整数を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Q及びQはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。
(E) 前記(メタ)アクリレート化合物C2の配合率が、前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3の合計量に対し、70質量%~90質量%である。
(F) 前記イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)と前記イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と前記脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の合計量に対して、前記イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)の配合率が21質量%~33.5質量%であり、前記イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)の配合率が60質量%~70質量%であり、前記脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の配合率が6.5質量%~9質量%である。
(G) 前記シリカ微粒子C3の配合率が、前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3との合計量に対し、5質量%~15質量%である。
(H) トリアジン系紫外線吸収剤C4の配合量が、前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3との合計100質量部に対し、3質量%~5質量%である。
(I) 非反応性シリコーン表面調整剤C5の配合量が、前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3との合計100質量部に対し、0.05質量%~1質量%である。
【請求項2】
前記B層の厚みと前記C層の厚みとの合計の厚みに対する前記B層の厚みの割合が、20%~50%である、請求項1に記載のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂が、芳香族ポリカーボネート樹脂である、請求項1又は請求項2に記載のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項4】
前記脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)が、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、又は1、10-デカンジオールジ(メタ)アクリレートである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項5】
前記B層は、その断面を、顕微FT-IR測定装置を用いて分析したとき、カーボネート結合に由来するピークとアクリルエステルに由来するピークとが混在する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた透明性、耐熱性、機械的強度等を有するため電気、機械、自動車、医療用途等に幅広く使用されている。一方で近年ポリカーボネート樹脂は上記の各種優れた特徴により、各種透明部材に広く使用されている。中でも軽量化を目的とした車両用透明部材(以下、「車両用グレージング部材」ともいう。)への適用が広く試みられている。車両用グレージング部材としては、ヘッドランプレンズ、樹脂窓ガラス、リアランプレンズ、およびメーターカバーなどが挙げられる。これらの部材は、形状が複雑かつ大型であると共に、成形品の品質に対する要求が極めて高いことが特徴である。
【0003】
上記の如く車両用のグレージング部材においては、良好な透明性、耐候性および成形耐熱性に加えて、良好な離型性、低減された成形品の内部歪み、および改善された割れ耐性を有する、ポリカーボネート樹脂組成物が求められている。
【0004】
例えば、特許第4046159号公報には、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部、ペンタエリスリトールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル(B成分)0.005~2重量部、および紫外線吸収剤(C成分)0.005~3重量部からなる樹脂組成物であって、(i)該B成分の脂肪族カルボン酸はパルミチン酸成分とステアリン酸成分とを含み、そのガスクロマトグラフ-質量分析法(GC/MS法)におけるピーク面積において、パルミチン酸成分の面積(Sp)とステアリン酸成分の面積(Ss)との合計が全脂肪族カルボン酸成分中80%以上であり、かつ両者の面積比(Ss/Sp)が1.3~30であり、かつ(ii)該B成分は粘度平均分子量24,500の溶融押出法で製造されたビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂シートに対し、4分の1楕円試験法において温度120℃で24時間処理した際の限界応力が12MPa以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
更に車両用グレージング部材は、多くの場合にハードコート処理などの表面処理が施されるが、表面処理によって成形品に割れが発生する場合もあり、ポリカーボネート樹脂組成物の特性の何らかの要因が、成形品の割れの発生を促進していると考えられ、改善が求められている。
車両用グレージング部材は、過酷環境下に晒される場合もあるため、耐候性が求められている。
本発明の一実施形態によれば、耐候性に優れたハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
<1> 厚みが1mm~20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、前記A層、前記B層、及び前記C層が下記(a)~(e)の要件を満たし、
前記B層が前記A層及び前記C層に接している、
ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
(a)前記ポリカーボネート樹脂基材層が、粘度平均分子量17,000~40,000であるポリカーボネート樹脂を含む。
(b)前記B層が、前記A層及び前記C層の両成分を含む。
(c)前記B層の厚みと前記C層の厚みとの合計の厚みが、16μm~32μmである。
(d)前記B層の厚みが、6μm~9μmである。
(e)前記C層が、下記(A)~(I)を満たす。
(A) 前記C層が、複合樹脂C1と、(メタ)アクリレート化合物C2と、シリカ微粒子C3と、トリアジン系紫外線吸収剤C4と、非反応性シリコーン表面調整剤C5を含有する無機微粒子含有組成物の硬化物であるハードコート層であって、
前記複合樹脂C1が、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される構造単位と、シラノール基及び/又は加水分解性シリル基とを有するポリシロキサンセグメント(C1-1)と、ビニル系重合体セグメント(C1-2)と、が、下記式(3)で表される結合により結合された複合樹脂である。
【0007】
【化1】
【0008】
上記式(1)及び(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立して、-R-CH=CH、-R-C(CH)=CH、-R-O-CO-C(CH)=CH、及び、-R-O-CO-CH=CHよりなる群から選ばれる少なくとも1つの重合性二重結合を有する基(但し、Rは、単結合又は炭素原子数1~6のアルキレン基を表す)、炭素原子数が1~6のアルキル基、炭素原子が3~8のシクロアルキル基、アリール基、又は、炭素原子が7~12のアラルキル基を表し、R、R及びRの少なくとも1つは前記重合性二重結合を有する基を表す。
【0009】
【化2】
【0010】
一般式(3)中、炭素原子は、前記(C1-2)の一部分の構成を表し、Siは、前記(C1-1)の一部分の構成を表す。
【0011】
(B) 前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3との合計量に対して、前記複合樹脂C1の配合率が5質量%~15質量%である。
(C) 前記複合樹脂C1中におけるポリシロキサンセグメント(C1-1)の含有量が、前記複合樹脂C1の固形分量全体に対して55質量%~65質量%であり、
(D) 前記(メタ)アクリレート化合物C2が、下記一般式(4)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)と、
下記一般式(5)で表されるイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と、
脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)と、を含有する。
【0012】
【化3】
【0013】
一般式(4)中、R、R、及び、Rはそれぞれ独立して、下記式(4-a)、又は、下記式(4-b)で表される基を表す。
【0014】
【化4】
【0015】
上記式(4-a)中、n1は2~4の整数を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Q及びQは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、Q及びQの少なくとも1つはアルキル基を表す。
【0016】
【化5】
【0017】
上記一般式(5)中、R、R10、及び、R11はそれぞれ独立して、下記式(5-a)で表される基を表す。
【0018】
【化6】
【0019】
上記式(5-a)中、n2は2~4の整数を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Q及びQはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。
【0020】
(E) 前記(メタ)アクリレート化合物C2の配合率が、前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3の合計量に対し、70質量%~90質量%である。
(F) 前記イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)と前記イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と前記脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の合計量に対して、前記イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)の配合率が21質量%~33.5質量%であり、前記イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)の配合率が60質量%~70質量%であり、前記脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の配合率が6.5質量%~9質量%である。
(G) 前記シリカ微粒子C3の配合率が、前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3との合計量に対し、5質量%~15質量%である。
(H) トリアジン系紫外線吸収剤C4の配合量が、前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3との合計100質量部に対し、3質量%~5質量%である。
(I) 非反応性シリコーン表面調整剤C5の配合量が、前記複合樹脂C1と前記(メタ)アクリレート化合物C2と前記シリカ微粒子C3との合計100質量部に対し、0.05質量%~1質量%である。
<2> 前記B層の厚みと前記C層の厚みとの合計の厚みに対する前記B層の厚みの割合が、20%~50%である、<1>に記載のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
<3>前記ポリカーボネート樹脂が、芳香族ポリカーボネート樹脂である、<1>又は<2>に記載のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
<4>前記脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)が、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、又は1、10-デカンジオールジ(メタ)アクリレートである、<1>~<3>のいずれか1つに記載のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
<5>前記B層は、その断面を、顕微FT-IR測定装置を用いて分析したとき、カーボネート結合に由来するピークとアクリルエステルに由来するピークとが混在する、<1>~<4>のいずれか1つに記載のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態によれば、耐候性に優れたハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施例で作製された芳香族ポリカーボネートで形成された射出成形品の正面概略図を示す。
図2図2は、本開示に係る積層体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念として用いられる語である。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
特に限定しない限りにおいて、本開示において組成物中の各成分、又は、ポリマー中の各構成単位は、1種単独で含まれていてもよいし、2種以上を併用してもよいものとする。
更に、本開示においてポリマー中の各構成単位の量は、ポリマー中の各構成単位に該当する物質又は構成単位が複数存在する場合、特に断らない限り、ポリマー中に存在する該当する複数の各構成単位の合計量を意味する。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0024】
(ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体)
本開示の一実施形態に係るハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体(以下、単に「積層体」ともいう。)は、厚みが1mm~20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)~(e)の要件を満たし、前記B層が前記A層及び前記C層に接している。
(a)前記ポリカーボネート樹脂基材層に含まれるポリカーボネート樹脂が、粘度平均分子量17,000~40,000である。
(b)前記B層が、前記A層及び前記C層の両成分を含む。
(c)前記B層の厚みと前記C層の厚みとの合計の厚みが、16μm~32μmである。
(d)前記B層の厚みが、6μm~9μmである。
(e)前記C層が、下記(A)~(I)を満たす。
【0025】
本発明者らが鋭意検討した結果、特許第4046159号公報に記載のポリカーボネート樹脂組成物により形成された形成品は、耐候性に更なる改良が求められることを見出した。
通常、芳香族ポリカーボネート樹脂のような熱可塑性樹脂とハードコート層に用いられる熱硬化性樹脂とは、熱収縮率が異なるため、熱可塑性樹脂に熱硬化性樹脂を積層させることが困難であった。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、特定の厚みのポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、(A)~(I)を満たすハードコート層(C層)と、がこの順に積層され、かつ、上記(a)~(e)の要件を満たし、B層がA層及びC層に接していることにより、かつ、耐候性に優れるハードコート層付ポリカーボネート樹脂基材が得ることを見出した。
上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。
【0026】
ハードコート層(C層)では、複合樹脂C1と、(メタ)アクリレート化合物C2と、シリカ微粒子C3と、トリアジン系紫外線吸収剤C4と、非反応性シリコーン表面調整剤C5を含有する無機微粒子分散体が使用される。これらの成分のなかでも特にアクリレート化合物C2及び複合樹脂C1の溶解パラメーターがポリカーボネートに近く、両者の親和性が高く界面での分子間力が大きくなる。また、本開示に係るハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体では、B層は、A層及びC層の両成分を含む。そのため、C層とA層とはB層を介することで密着性が更に良好となると推測される。
また、無機微粒子分散体に含まれる、シラノール基及び/又は加水分解性シリル基を有するポリシロキサンセグメントと、ビニル系重合体セグメントとを有する複合樹脂C1が、シリカ微粒子C3等の無機微粒子を容易に分散することができる。更に、複合樹脂C1が重合性二重結合を有することで、紫外線等の活性エネルギー線で硬化させることが可能となる。(メタ)アクリレート化合物C2は、複合樹脂C1と共重合可能な重合性二重結合を有することから、複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とが3次元架橋する。そのため、得られるハードコート層の(塗膜)の表面物性及び耐候性に優れ、更に、耐摩耗性及び耐沸水性にも優れると推測される。特に、ハードコート層(C)に用いる樹脂が、無機微粒子の分子間力による結束点として作用する3次元架橋構造のアクリル樹脂であるため、弾性変形領域及び非破壊塑性変形領域の双方が広範囲になり、より過酷な条件下での耐候性(デューサイクル超促進耐候性)に優れると推測される。
また、本開示に係る積層体において、A層、B層及びC層が上記(a)~(e)の要件を満たすことで、ヘーズ値を低く抑えることができ、全光線透過率にも優れる。
【0027】
本開示に係る積層体は、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の両方の面に浸透層(B層)とハードコート層(C層)とが積層され、B層がA層及びC層と接している。
また、本開示に係る積層体は、必要に応じて、ハードコート層(C層)の上にその他の層が積層されていてもよい。
その他の層としては、例えば、加飾層が挙げられる。
加飾層を形成する方法として、公知の加飾方法を用いることができ、例えば、加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形しておき、成形シートを射出成型の型に挿入し、流動状態の樹脂(積層体)を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化するインサート成形法、射出成型の際に金型内に挿入された加飾シートを、及びキャビティ内に射出注入された溶融樹脂と一体化させ、射出成形体表面に加飾を施す射出成型同時加飾法が知られている。
【0028】
<<A層>>
本開示に係る積層体が有するポリカーボネート樹脂層に用いられるポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましく、二価フェノールとカーボネート前駆体を反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。
上記反応の方法としては例えば界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、及び、環状カーボネート化合物の開環重合法を挙げることができる。
【0029】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(3-イソプロピル-4-ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-フェニル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}フルオレン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-o-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、および4,4’-ジヒドロキシジフェニルエステルが挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0030】
上記二価フェノールのうち、ビスフェノールA、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及びα,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンからなる群より選ばれた少なくとも1種のビスフェノールより得られる単独重合体または共重合体が好ましく、特に、ビスフェノールAの単独重合体および1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンとビスフェノールA、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、又は、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンとの共重合体がより好ましく使用される。
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カーボネートエステル、及び、ハロホルメートが挙げられ、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、及び二価フェノールのジハロホルメートが挙げられる。
【0031】
界面重縮合法及びエステル交換法によるポリカーボネート樹脂の合成方法ついて以下に簡単に説明する。
カーボネート前駆体としてホスゲンを用いる界面重縮合法では、通常酸結合剤及び有機溶媒の存在下に二価フェノール成分とホスゲンとの反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、又は、ピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために、例えば、第三級アミン、第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることができ、分子量調節剤として、例えばフェノール、p-tert-ブチルフェノールのようなアルキル置換フェノール等の末端停止剤を用いることが望ましい。
反応温度は通常0℃~40℃、反応時間は10分~5時間、反応中のpHは10以上に保つのが好ましい。
【0032】
カーボネート前駆体として炭酸ジエステルを用いるエステル交換法(溶融法)は、不活性ガスの存在下に所定割合の二価フェノール成分と炭酸ジエステルとを加熱しながら攪拌し、生成するアルコール又はフェノール類を留出させる方法である。
反応温度は生成するアルコール又はフェノール類の沸点により異なるが、通常120℃~350℃の範囲であることが好ましい。反応方法は、反応の初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応させる方法が好ましい。
また反応を促進するために通常のエステル交換反応触媒を用いることができる。このエステル交換反応に用いる炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びジブチルカーボネートが挙げられ、特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0033】
(a)ポリカーボネート樹脂基材層(A層)に含まれるポリカーボネートは、粘度平均分子量が17,000~40,000であり、20,000~30,000であることが好ましい。また、ポリカーボネートは、界面重縮合法、又は、エステル交換法によって製造されることが好ましい。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が17,000~40,000であると、得られる積層体は、十分な強度及び良好な溶融流動性を有するため、耐候性、耐沸性及び耐摩耗性に優れ、中でも耐候性により優れる。
なお、ここで言う粘度平均分子量(M)は、オストワルド粘度計を用いて、塩化メチレンを溶媒として20℃で測定した溶液の極限粘度[η]を求め、下記Schnellの粘度式から求められる。
[η]=1.23×10-40.83
【0034】
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)は、粘度平均分子量が17,000~40,000以外のポリカーボネート樹脂、及び、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含んでいてもよいが、これらを含まないことが好ましい。
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)では、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性の観点から、粘度平均分子量が17,000~40,000以外のポリカーボネート樹脂の含有率は、A層の全質量に対して、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0035】
また、ポリカーボネート樹脂は、使用目的に応じて、光透過性を損なわない範囲で、芳香族ポリカーボネート樹脂に、慣用の添加剤、例えば、熱安定剤、離型剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、発泡剤、補強剤(例えば、タルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、アラミド粒子、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、グラファイト、導電性カーボンブラック、及び各種ウイスカー)、難燃剤(例えば、ハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、金属塩系難燃剤、赤リン系難燃剤、シリコン系難燃剤、フッ素系難燃剤、及び金属水和物系難燃剤)、着色剤(例えば、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、及び染料)、光拡散剤(例えば、アクリル架橋粒子、シリコン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、及び炭酸カルシウム粒子)、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、帯電防止剤、流動改質剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば、微粒子酸化チタン、及び微粒子酸化亜鉛)、グラフトゴムに代表される衝撃改質剤、又はフォトクロミック剤を配合することができる。
【0036】
ポリカーボネート樹脂を製造するには、任意の方法が採用される。ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、例えばポリカーボネート樹脂原料及び任意に他の添加剤を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて十分に混合した後、場合により押出造粒器、又はブリケッティングマシーンにより造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、及び、ペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。
【0037】
他に、ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、各成分をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法、及び、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法も挙げられる。各成分の一部を予備混合する方法としては例えば、リン系安定化剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の添加剤を予め予備混合した後、ポリカーボネート樹脂に混合又は押出機に直接供給する方法が挙げられる。
【0038】
また予備混合する方法としては、例えば、パウダーの形態を有するものを含む場合、かかるパウダーの一部と配合する添加剤とをブレンドして、パウダーで希釈した添加剤のマスターバッチとする方法が挙げられる。更に、予備混合する方法としては、一成分を独立に溶融押出機の途中から供給する方法なども挙げられる。尚、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融押出機への供給にいわゆる液注装置、又は液添装置を使用することができる。
【0039】
押出機としては、原料中の水分、及び溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分及び揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また、押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。
かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、及び焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)を挙げることができる。
【0040】
溶融混練機としては、二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、及び3軸以上の多軸押出機を挙げることができる。
【0041】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、又は、ストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。
【0042】
ポリカーボネート樹脂は、通常ポリカーボネート樹脂ペレットを射出成形して成形品を得ることにより各種製品を製造することができる。
射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および、超高速射出成形を挙げることができる。
また成形はコールドランナー方式、及び、ホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0043】
ポリカーボネート樹脂は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルム等の形態で使用することもできる。またシート、フィルムの成形には、インフレーション法、カレンダー法、又はキャスティング法も使用可能である。更に、ポリカーボネート樹脂は、特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。またポリカーボネート樹脂を、回転成形、又はブロー成形により中空成形品とすることも可能である。
【0044】
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の厚みは、1mm~20mmであり、好ましくは、2mm~20mm、更に好ましくは3mm~15mmである。
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の厚みは、本開示に係る積層体の厚みをマイクロメーターで測定し、この積層体の厚みから、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定されたB層及びC層の厚みを差し引くことで求められる。
なお、上記B層及びC層の厚みは、本開示に係る積層体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定して求められる。
【0045】
<<B層>>
(b)B層は、A層及びC層の両成分を含む。B層がA層及びC層の両成分を含むことにより、各層の密着性を向上することができる。
なお、「A層及びC層の両成分を含む」とは、A層に含まれる成分の一部又は全部と、C層に含まれる成分の一部又は全部を含むことを意味する。
【0046】
B層に含まれるA層及びC層の両成分は、顕微-赤外分光法(顕微FT-IR法により確認される。
具体的には、本開示に係る積層体を切断し、B層の断面の顕微FT-IR測定装置を用いて分析し、カーボネート結合に由来するピーク(1780cm-1)とアクリルエステルに由来するピーク(1740cm-1付近)との混在を確認することで、A層及びC層の両成分がまじりあっていること、すなわち、B層がA層及びC層の両成分を含むことを確認することができる。
【0047】
B層は、その断面を、顕微FT-IR測定装置を用いて分析したとき、カーボネート結合に由来するピークとアクリルエステルに由来するピークとが混在することが好ましい。
【0048】
B層のA層側から厚さ方向へ向かって1μmの位置において、顕微FT-IR測定装置を用いて分析したとき、カーボネート結合に由来するピークとアクリルエステルに由来するピークとの比が5:1~1:2であることが好ましい。
【0049】
耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性に優れる観点から、B層は、A層に含まれる成分と、C層に含まれる成分と、を含むことが好ましい。A層に含まれる成分として、B層は、ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。C層に含まれる成分として、B層は、複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2との架橋体を含むことが好ましい。また、B層には、複合樹脂C1が含まれていてもよく、(メタ)アクリレート化合物C2が含まれていてもよい。
【0050】
(d)B層の厚みは、6μm~9μmである。B層の厚みが6μm以上であると、耐沸水性に優れ、また、9μm以下であると、耐摩耗性及び耐候性に優れる。得られる積層体の耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性に優れる観点から、B層の厚みは、好ましくは6μm~8μmである。B層の厚みは、C層に含まれる無機微粒子分散体の塗布量で調整することができる。なお、B層の厚みは、A層の厚みと同様の方法により求めることができる。
【0051】
(c)B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みは、16μm~32μmである。B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みが、16μm以上であると耐候性に優れ、32μm以下であると硬化収縮又は線膨張の違いによりB層とA層との界面の応力が大きくなりすぎることがない。また、硬化時にB層とA層との界面まで紫外線等の活性エネルギー線が到達してA層との界面付近のB層中のC2成分も十分な付加反応が進むため、耐沸水性に優れる。耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性の観点から、B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みは、18μm~28μmであることが好ましく、18μm~25μmであることがより好ましい。
B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みは、C層に含まれる無機微粒子分散体の塗布量で調整することができる。なお、B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みは、A層の厚みと同様の方法により求めることができる。
【0052】
耐摩耗性、耐沸水性、耐候性及び、初期ヘーズを低く抑える観点から、B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みに対するB層の厚みの割合は、20%~50%であることが好ましく、20%~40%であることがより好ましく、25%~35%であることが更に好ましく、25%~30%であることが特に好ましい。
【0053】
<<C層>>
(e)C層は、下記(A)~(I)を満たす。
前記C層は、複合樹脂C1と、(メタ)アクリレート化合物C2と、シリカ微粒子C3と、トリアジン系紫外線吸収剤C4と、非反応性シリコーン表面調整剤C5を含有する無機微粒子含有組成物の硬化物であるハードコート層である。無機微微粒子含有組成物中、各成分は分散されていることが好ましい。以下、無機微粒子含有組成物を「無機微粒子分散体」ともいう。
以下、無機微粒子分散体に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0054】
〔(A)〕
<<複合樹脂C1>>
上記C層に使用される無機微粒子分散体は、複合樹脂C1を含有する。
複合樹脂C1は、下記式(1)及び/又は式(2)で表される構造単位とシラノール基及び/又は加水分解性シリル基とを有するポリシロキサンセグメント(C1-1)と、ビニル系重合体セグメント(C1-2)と、が、下記一般式(3)で表される結合により結合された複合樹脂である。
【0055】
【化7】
【0056】
上記式(1)及び(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立して、-R-CH=CH、-R-C(CH)=CH、-R-O-CO-C(CH)=CH、及び、-R-O-CO-CH=CHよりなる群から選ばれる少なくとも1つの重合性二重結合を有する基(但し、Rは、単結合又は炭素原子数1~6のアルキレン基を表す)、炭素原子数が1~6のアルキル基、炭素原子が3~8のシクロアルキル基、アリール基、又は、炭素原子が7~12のアラルキル基を表し、R、R及びRの少なくとも1つは前記重合性二重結合を有する基を表す。
【0057】
【化8】
【0058】
一般式(3)中、炭素原子は、前記ビニル系重合体セグメント(C1-2)の一部分の構成を表し、Siは、ポリシロキサンセグメント(C1-1)の一部分の構成を表す。
【0059】
複合樹脂C1を含有する無機微粒子分散体は、上記式(1)及び(2)において、R、R及びRの少なくとも1つが重合性二重結合を有する基である。そのため、活性エネルギー線により本開示に係る射出成型のハードコート層を硬化させることができ、活性エネルギー線、並びに、シラノール基及び/又は加水分解性シリル基の縮合反応による塗膜の架橋密度の向上という2つの硬化機構により、より優れた耐摩耗性、耐沸水性、及び、耐候性を有する硬化物を形成できる。また、複合樹脂C1を含有する無機微粒子分散体は、熱硬化性樹脂組成物を用いることが困難であった、自動車外装用塗料、及びプラスチックをはじめとする熱変形しやすい基材に対しても好適に使用することができる。
【0060】
-ポリシロキサンセグメント(C1-1)-
ポリシロキサンセグメント(C1-1)は、上記式(1)及び/又は式(2)で表される構造単位と、シラノール基及び/又は加水分解性シリル基と、を有する。
【0061】
上記Rにおける炭素原子数が1~6のアルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であってもよい。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、tert-ペンチレン基、1-メチルブチレン基、2-メチルブチレン基、1,2-ジメチルプロピレン基、1-エチルプロピレン基、ヘキシレン基、イソヘシレン基、1-メチルペンチレン基、2-メチルペンチレン基、3-メチルペンチレン基、1,1-ジメチルブチレン基、1,2-ジメチルブチレン基、2,2-ジメチルブチレン基、1-エチルブチレン基、1,1,2-トリメチルプロピレン基、1,2,2-トリメチルプロピレン基、1-エチル-2-メチルプロピレン基、及び1-エチル-1-メチルプロピレン基が挙げられる。
中でもRは、原料の入手の容易さから単結合または炭素原子数が2~4のアルキレン基であることが好ましく、炭素原子数が2~4の直鎖状のアルキレン基であることがより好ましく、炭素原子数が2又は3の直鎖状のアルキレン基であることが更に好ましい。
【0062】
、R及びRにおける炭素原子数が1~6のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、及び1-エチル-1-メチルプロピル基が挙げられる。
また、炭素原子数が3~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基が挙げられる。
また、上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、及び3-イソプロピルフェニル基が挙げられる。
また、上記炭素原子数が7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、及びナフチルメチル基が挙げられる。
【0063】
、R及びRの少なくとも1つは、-R-CH=CH、-R-C(CH)=CH、-R-O-CO-C(CH)=CH、及び、-R-O-CO-CH=CHよりなる群から選ばれる重合性二重結合を有する基(以下、単に重合性二重結合を有する基ともいう。)を有する。但し、Rは、単結合又は炭素原子数1~6のアルキレン基を表す。
重合性二重結合を有する基は、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性の観点から、-R-C(CH)=CH、又は、-R-O-CO-C(CH)=CHで表される基であることが好ましい。
重合性二重結合を有する基が(メタ)アクリロイル基(-O-CO-C(CH)=CH)を有する場合、紫外線硬化の際の反応性に富み、後述のビニル系重合体セグメント(C1-2)との相溶性が良好となる。
なお、ここでいう重合性二重結合を有する基とは、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の、フリーラジカルによる生長反応を行うことができる基の総称である。
【0064】
上記重合性二重結合を有する基は、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性の観点から、ポリシロキサンセグメント(C1-1)中に2個以上存在することが好ましく、3個~200個存在することがより好ましく、3個~50個存在することが更に好ましい。
具体的には、上記ポリシロキサンセグメント(C1-1)中の重合性二重結合を有する基の含有率が3質量%~35質量%であれば、所望の耐磨耗性を得ることができる。
また、重合性二重結合の含有率とは、ポリシロキサンセグメントの全質量中における重合性二重結合を有する基の総質量の比(質量%)を示すものである。
【0065】
上記式(1)及び/又は式(2)で表される構造単位は、ケイ素の結合手のうち2又は3つが架橋に関与した、三次元網目状のポリシロキサン構造単位である。複合樹脂C1が上記式(1)及び/又は式(2)で表される構造単位を含むと、硬化後に三次元網目構造を形成しながらも密な網目構造を形成しにくくなるので、ゲル化を抑制して、保存安定性も良好となる。
【0066】
-シラノール基及び/又は加水分解性シリル基-
ポリシロキサンセグメント(C1-1)は、シラノール基及び/又は加水分解性シリル基を有する。
本開示においてシラノール基とは、珪素原子に直接結合した水酸基を有する珪素含有基を示す。シラノール基は、具体的には、式(1)及び/又は上記式(2)で表される構造単位における、結合手を有する酸素原子が水素原子と結合して生じたシラノール基であることが好ましい。
【0067】
また本開示において加水分解性シリル基とは、珪素原子に直接結合した加水分解性基を有する珪素含有基を示す。加水分解性基としては、具体的には、例えば、下記一般式(S-1)で表される基が挙げられる。
加水分解性基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、フェノキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、及びアルケニルオキシ基が挙げられる。
【0068】
【化9】
【0069】
一般式(S-1)中、RS5はアルキル基、アリール基又はアラルキル基等の1価の有機基を表し、RS6は、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオロキシ基、フェノキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基及びアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる基(以下、「加水分解性基」ともいう。)を表し、bは、0~2の整数を表す。
【0070】
S5におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、及び1-エチル-1-メチルプロピル基が挙げられる。
またアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、及び3-イソプロピルフェニル基が挙げられる。
またアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、及びナフチルメチル基が挙げられる。
【0071】
S6において、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、及びter-ブトキシ基が挙げられる。
またアシルオロキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセトキシ、プロパノイルオキシ、ブタノイルオキシ、ピバロイルオキシ、ペンタノイルオキシ、フェニルアセトキシ、アセトアセトキシ、ベンゾイルオキシ、及びナフトイルオキシが挙げられる。
またアリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ、及びナフチルオキシが挙げられる。
アルケニルオキシ基としては、例えば、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、2-ペテニルオキシ基、3-メチル-3-ブテニルオキシ基、及び2-ヘキセニルオキシ基が挙げられる。
【0072】
S6で表される加水分解性基が加水分解されることにより、一般式(S-1)で表される加水分解性シリル基はシラノール基となる。加水分解性に優れることから、RS6で表される加水分解性基は、中でも、メトキシ基及びエトキシ基が好ましい。
また加水分解性シリル基は、具体的には、式(1)及び/又は式(2)で表される構造単位における、結合手を有する酸素原子が上記加水分解性基と結合、若しくは置換されている加水分解性シリル基であることが好ましい。
【0073】
シラノール基及び/又は加水分解性シリル基は、シラノール基中の水酸基と、加水分解性シリル基中の加水分解性基との間で加水分解縮合反応が進行するので、得られるハードコート層のポリシロキサン構造の架橋密度が高まり、耐摩耗性、及び耐候性に優れたハードコート層を形成することができる。
また、シラノール基及び/又は加水分解性シリル基は、シラノール基及び/又は加水分解性シリル基を含むポリシロキサンセグメント(C1-1)と後述のビニル系重合体セグメント(C1-2)とを、一般式(3)で表される結合を介して結合させる際に使用される。
【0074】
-ビニル系重合体セグメント(C1-2)-
複合樹脂C1に含まれるビニル系重合体セグメント(C1-2)は、アクリル系重合体、ビニルエステル系重合体等のビニル重合体セグメントである。ビニル重合体セグメントの種類は、用途により適宜選択することが好ましい。
【0075】
アクリル系重合性セグメント(C1-2)は、汎用の(メタ)アクリルモノマーを重合又は共重合させて得られる。アクリル系重合性セグメント(C1-2)の合成に用いられる(メタ)アクリルモノマーとしては、特に限定はない。また、アクリル系重合性セグメント(C1-2)は、(メタ)アクリルモノマーとビニルモノマーとを共重合させて得られたものでもよい。
(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の炭素原子数が1~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート等のω-アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類;クロトン酸メチル、クロトン酸エチル等のクロトン酸のアルキルエステル類;ジメチルマレート、ジ-n-ブチルマレート、ジメチルフマレート、ジメチルイタコネート等の不飽和二塩基酸のジアルキルエステル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のフルオロオレフィン類;エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル類;及び、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-ビニルピロリドン等の3級アミド基含有モノマー類が挙げられる。
【0076】
上記モノマーを共重合させる際の重合方法、溶剤、及び、重合開始剤にも特に限定はなく、公知の方法によりビニル系重合体セグメント(C1-2)を得ることができる。
例えば、塊状ラジカル重合法、溶液ラジカル重合法、非水分散ラジカル重合法等の種々の重合法により、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等の重合開始剤を使用してビニル系重合体セグメント(C1-2)を得ることができる。
【0077】
上記ビニル系重合体セグメント(C1-2)の数平均分子量としては、数平均分子量(以下、「Mn」と略す)に換算して500~200,000の範囲であることが好ましい。ビニル系重合体セグメント(C1-2)の数平均分子量が上記範囲内であると、複合樹脂C1を製造する際の増粘及びゲル化を防止でき、且つ耐久性に優れる。上記観点から、Mnは中でも700~100,000の範囲がより好ましい。1,000~50,000の範囲が、基材上に層を形成させる際に良好な硬化膜を形成できる等の理由から更に好ましい。
【0078】
ポリシロキサンセグメント(C1-1)について、R、R及びRの少なくとも1つが重合性二重結合を有する基の具体例としては、下記の構造が挙げられるが、これらに限定されることはない。下記構造中、R、R及びRは、式(1)及び(2)におけるR、R及びRと表す。
【0079】
【化10】
【0080】
【化11】
【0081】
【化12】
【0082】
【化13】
【0083】
【化14】
【0084】
【化15】
【0085】
【化16】
【0086】
【化17】
【0087】
【化18】
【0088】
〔(F)〕
複合樹脂C1に含まれるポリシロキサンセグメント(C1-1)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
複合樹脂C1中におけるポリシロキサンセグメント(C1-1)の含有量は、複合樹脂C1の固形分量全体に対して、55質量%~65質量%である。ポリシロキサンセグメント(C1-1)の含有量が上記範囲内であると、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性に優れる。同様の観点から、ポリシロキサンセグメント(C1-1)の含有量は、複合樹脂C1の固形分量全体に対して、58質量%~63質量%であることが好ましい。
【0089】
〔(E)〕
前記C1の配合率は、複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とシリカ微粒子C3との合計量に対して、5質量%~15質量%である。C1の配合率が上記範囲内であると、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性に優れる。同様の観点から、複合樹脂C1の配合率は、複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とシリカ微粒子C3との合計量に対して、5質量%~10質量%であることが好ましい。
【0090】
<<(メタ)アクリレート化合物C2>>
本開示に係るハードコート層に使用される無機微粒子分散体は、(メタ)アクリレート化合物C2を含有する。(メタ)アクリレート化合物C2は、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)と、イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と、脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)を含有する。
【0091】
〔(H)〕
複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とシリカ微粒子C3の合計量に対して、(メタ)アクリレート化合物C2の配合率は、70質量%~90質量%であり、好ましくは、72質量%~88質量%であり、80質量%~88質量%であることがより好ましい。(メタ)アクリレート化合物C2の配合率が上記範囲内であると、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性に優れる。
【0092】
〔(G)〕
-イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)-
イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)は、下記一般式(4)で表され、イソシアヌル環構造と、ウレタン結合と、(メタ)アクリロイル基と、を有する構造である。
【0093】
【化19】
【0094】
上記式(4)中、R、R、及び、Rはそれぞれ独立して、下記式(4-a)又は式(4-b)で表される基を表す。
【0095】
【化20】
【0096】
上記式(4-a)中、n1は2~4の整数を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Q及びQはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、但し、Q及びQの少なくとも一方は、アルキル基を表す。
炭素数1~5のアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。炭素数1~5のアルキル基は、炭素数1~3の直鎖のアルキル基であることが好ましい。
【0097】
イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)は、イソシアヌル環構造に対し、ウレタン結合を介して重合性不飽和基を有する基が3つ以上結合された化合物である。
【0098】
式(4-a)で表される基を形成する化合物としては、ヒドロキシ-アルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、2-ヒドロキシ-プロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-ブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0099】
イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)としては、例えば、1,6-ヘキサンジイソシアネートの3量体と、2-ヒドロキシ-プロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-ブチル(メタ)アクリレート、又は、ペンタエリスリトールトリアクリレートとを反応させた化合物が挙げられる。
【0100】
イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)の配合率は、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)とイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の合計量に対して、21質量%~33.5質量%である。耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性の観点から、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)の配合率は、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)とイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の合計量に対して、23質量%~30質量%であることが好ましく、23質量%~25質量%であることがより好ましい。
【0101】
<<イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)>>
イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)は、下記一般式(5)で表される。
【0102】
【化21】
【0103】
上記一般式(5)中、R、R10及びR11はそれぞれ独立して、下記式(5-a)で表される基を表す。
【0104】
【化22】
【0105】
上記式(5-a)中、n2は2~4の整数を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Q及びQは繰り返し単位中においてそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。
【0106】
イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)の好ましい構造としては、以下の構造が挙げられる。
【0107】
【化23】
【0108】
イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)は、合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、M-315(東亜合成(株)製)、A9300(新中村化学工業(株)製)、FA-731A(日立化成(株)製)、SR368(サートマー社製)、及びM-370(MIWON社製)が利用可能である。
【0109】
イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)とイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の合計量に対して、イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)の配合率は60質量%~70質量%であり、60質量%~69質量%であることが好ましく、65質量%~69質量%であることがより好ましい。
【0110】
<<脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)>>
脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)は、アルキルジオールとアクリル酸又はメタクリル酸をエステル化し、結合させた化合物である。
脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)としては、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、及び1、10-デカンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。
脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)は、合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、HDDA(ダイセル・オルネクス社製)、A-HD-N、A-NOD-N、A-DOD-N(以上、新中村化学工業(株)製)、及び1、9-DA(共栄化学工業(株)製)が利用可能である。
【0111】
脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)とイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の合計量に対して、脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の配合率は6.5質量%~9質量%であり、好ましくは6.6質量%~8.8質量%であり、より好ましくは6.6質量%~7.5質量%である。
【0112】
〔(I)〕
イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)とイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の合計量に対して、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)の配合率が21質量%~33.5質量%であり、イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)の配合率が60質量%~70質量%であり、脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の配合率が6.5質量%~9質量%である。
(メタ)アクリレート化合物C2において、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)、イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)及び脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)配合量が上記範囲内であると、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性に優れる。上記観点から、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)とイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の合計量に対して、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)の配合率が23質量%~30質量%であることが好ましく(より好ましくは、23質量%~25質量%)、イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)の配合率が60質量%~69質量%であることが好ましく(より好ましくは、65質量%~69質量%)脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の配合率が6.6質量%~8.8質量(より好ましくは、6.6質量%~7.5質量%)であることが好ましい。
【0113】
<<シリカ微粒子C3>>
本開示に係るハードコート層に使用される無機粒子分散体はシリカ微粒子C3を含む。シリカ微粒子C3は、特に限定はなく、コロイダルシリカ等の公知のシリカ微粒子を使用することができる。
市販のコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学工業(株)製メタノ-ルシリカゾル、IPA-ST、PGM-ST、MEK-ST、NBA-ST、XBA-ST、DMAC-ST、ST-UP、ST-OUP、ST-20、ST-40、ST-C、ST-N、ST-O、ST-50、及びST-OL(以上、製品名)を挙げることができる。
【0114】
また、シリカ微粒子C3は、公知の方法にて分散性を改良したシリカ微粒子を使用してもよい。このような分散性を改良したシリカ微粒子としては、例えば、シリカ微粒子を、疎水性基を有する反応性シランカップリング剤で表面処理したもの、及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物で修飾したものが挙げられる。(メタ)アクリロイル基を有する化合物で修飾した市販のコロイダルシリカとしては、日産化学工業(株)製MIBK-SD、MIBK-AC、MEK-AC、及びPGM-AC(以上、製品名)が挙げられる。
【0115】
シリカ微粒子の形状は特に限定はなく、球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、又は不定形状のものを用いることができる。例えば、市販の中空状シリカ微粒子としては、日鉄鉱業(株)製シリナックスを用いることができる。
【0116】
シリカ微粒子C3の平均一次粒子径は、ハードコート層中への分散性の観点から、3nm~500nmであることが好ましく、5nm~300nmであることがより好ましく、10nm~100nmであることが更に好ましい。
ハードコート層中への分散性の観点から、シリカ微粒子C3としては、球状、かつ、平均一次粒子径が5nm~100nmのコロイダルシリカであることが好ましく、より好ましくは平均一次粒子径が20nm~60nmのコロイダルシリカである。
シリカ微粒子C3の平均一次粒径は、本開示に係る射出成型の断面におけるハードコート層を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察することでよって測定される。
【0117】
〔(J)〕
シリカ微粒子C3は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
シリカ微粒子C3の配合率は、上記複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とシリカ微粒子C3の合計量に対して、5質量%~15質量%であり、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性の観点から、5.5質量%~14.5質量%であることが好ましく、5.5質量%~10質量%であることが更に好ましい。
【0118】
<<トリアジン系紫外線吸収剤C4>
本開示に係るハードコート層に使用される無機粒子分散体は、トリアジン系紫外線吸収剤C4を含有する。
トリアジン系紫外線吸収剤C4としては、分子骨格内にトリアジン骨格を有する紫外線吸収剤が挙げられる。
トリアジン系紫外線吸収剤C4は、上記構造を有するため、紫外線吸収能力に優れる。また、無機微粒子分散体は、トリアジン系紫外線吸収剤C4との相溶性に優れることから、無機微粒子分散体からなる、本開示に係るハードコート層は耐光性にも優れる。
トリアジン系紫外線吸収剤C4の具体例としては、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、及び2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジンが挙げられる。
トリアジン系紫外線吸収剤C4は合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、TINUVIN400(BASF社製)、TINUVIN405(BASF社製)、及びTINUVIN479(BASF社製)が利用可能である。
【0119】
トリアジン系紫外線吸収剤C4において、好ましくは2-[4-(オクチル-2-メチルエタノエート)オキシ-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-[ビス(2,4-ジメチルフェニル)]-1,3,5-トリアジン、又は2-[4-(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシ-プロピル)オキシ-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-[ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンである。
【0120】
〔K〕
トリアジン系紫外線吸収剤C4は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
トリアジン系紫外線吸収剤C4の配合量は、複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とシリカ微粒子C3との合計100質量部に対し、3質量%~5質量%であり、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性の観点から、好ましくは、3.5質量%~4.5質量%である。
【0121】
<<非反応性シリコーン表面調整剤C5>>
本開示に係るハードコート層に使用される無機粒子分散体は、非反応性シリコーン表面調整剤C5を含む。
非反応性シリコーン表面調整剤C5は、反応性基、具体的には重合性二重結合を有さないシリコーン表面調整剤である。すなわち、上記複合樹脂C1は、非反応性シリコーン表面調整剤C5に含まれない。重合性二重結合としては、上記複合樹脂C1における重合性二重結合が挙げられる。
シリコーン表面調整剤に反応性基が存在する場合、得られるハードコート層が固脆くなることから耐摩耗性及び耐沸水性に劣る。
非反応性シリコーン表面調整剤C5としては、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー、並びに、シリコーン鎖とポリエステル鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマーであって、重合性二重結合を含有しないものが挙げられる。
非反応性シリコーン表面調整剤C5は、合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、BYK-300、BYK-302、BYK-320、BYK-325、BYK-326、BYK-330、BYK-333、BYK-342、BYK-375、BYK-377、及びBYK-378(以上、ビックケミー社製)が挙げられる。
非反応性シリコーン表面調整剤C5は、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性の観点から、好ましくはシリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー、又は、シリコーン鎖とポリエステル鎖とを有するシリコーン系ポリマーである。非反応性シリコーン表面調整剤C5の市販品としては、BYK-377、BYK-333、又はBYK-378が好ましい。
【0122】
〔(L)〕
非反応性シリコーン表面調整剤C5は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
非反応性シリコーン表面調整剤C5の配合量は、複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とシリカ微粒子C3との合計100質量部に対し、0.05質量%~1質量%であり、好ましくは0.05質量%~0.5質量%であることがより好ましい。
【0123】
無機微粒子分散体は、複合樹脂C1と、(メタ)アクリレート化合物C2と、シリカ微粒子C3と、トリアジン系紫外線吸収剤C4と、非反応性シリコーン表面調整剤C5を含有し、複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とシリカ微粒子C3の合計量に対して、複合樹脂C1の配合率が5質量%~15質量%(好ましくは5質量%~10質量%)であって、複合樹脂C1中におけるポリシロキサンセグメント(C1-1)の含有量が、複合樹脂C1の固形分量全体に対して55質量%~65質量%(好ましくは58質量%~63質量%)であって、(メタ)アクリレート化合物C2の配合率が70質量%~90質量%(好ましくは、72質量%~88質量%であり、より好ましくは80質量%~88質量)であって、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)とイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)と脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の合計量に対して、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)の配合率が21質量%~33.5質量%(好ましくは23質量%~30質量%であり、より好ましくは23質量%~25質量%)であって、イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(C2-2)の配合率が60質量%~70質量%(好ましくは60質量%~69質量%であり、更に好ましくは65質量%~69質量%)であって、脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物(C2-3)の配合率が6.5質量%~9質量%(好ましくは6.6質量%~8.8質量%であり、より好ましくは6.6質量%~7.5質量%)であって、シリカ微粒子C3の配合率が、5質量%~15質量%(好ましくは、5.5質量%~14.5質量%であり、更に好ましくは5.5質量%~10質量%)であり、トリアジン系紫外線吸収剤C4の配合量は、複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とシリカ微粒子C3との合計100質量部に対し、3質量%~5質量%(好ましくは、3.5質量%~4.5質量%)であり、非反応性シリコーン表面調整剤C5の配合量は、複合樹脂C1と(メタ)アクリレート化合物C2とシリカ微粒子C3との合計100質量部に対し、0.05質量%~1質量%(好ましくは0.05質量%~0.5質量%)である。
本開示に係るハードコート層に使用される無機微粒子分散体において、C1~C5の配合量がそれぞれ上記配合範囲内であると、耐摩耗性、耐沸水性、及び、耐候性に優れたハードコート層を得ることができる。
【0124】
-その他の成分-
本開示に係るハードコート層に使用される無機微粒子分散体は、必要に応じてC1~C5成分以外の成分(すなわち、その他の成分)を含んでいてもよい。その他の成分としては、分散液の固形分量及び粘度を調整する目的として、分散媒を使用してもよい。
分散媒は、本開示の効果を損ねることのない液状媒体であればよく、各種有機溶剤が挙げられる。
【0125】
浸透層(B層)の層厚を好適な範囲に調整することができる観点から、有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4-メチル-2-ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、吉草酸エチル等のエステル類;メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノール(以下、「プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)」とも称する場合がある。)、エトキシプロパノール、ブトキシプロパノール等のエーテルアルコール類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;及び、トルエン、キシレン、(エチルベンゼン)、スチレン、スチルベン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
有機溶剤は、単独又は混合して使用することができる。
有機溶剤を単独で使用する場合、ハードコート層(C)に含まれるアクリル樹脂の溶解性、及び、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)への浸透性の観点から、有機溶剤は、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、ブトキシプロパノール等のエーテルアルコール類であることが好ましい。これらのなかでも、特に、揮発性、アクリル樹脂の溶解力、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)への浸透性のバランス及び毒性の低さの観点から、有機溶剤は、メトキシプロパノールであることがより好ましい。
有機溶剤を混合して使用する場合、浸透層(B)を形成しやすい観点から、上記単独で使用する場合の有機溶剤として挙げたエーテルアルコール類に、更にアセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4-メチル-2-ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、吉草酸エチル等のエステル類;及び、トルエン、キシレン、(エチルベンゼン)、スチレン、スチルベン等の芳香族炭化水素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を加えた混合溶剤を用いることが好ましい。また、沸点が70~140℃の範囲にあり、ハードコート塗布後基材を熱乾燥する際に溶剤が揮発して浸透層が必要以上に厚くなるのを遅らせることができるため、エーテルアルコール類にメチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び、トルエンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を加えた混合溶剤を用いることがより好ましく、メトキシプロパノールにメチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び、トルエンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を加えた混合溶剤を用いることが特に好ましい。
塗工時の揮発性及び溶媒回収の面からは、有機溶剤は、メチルエチルケトン(MEK)、又は、メトキシプロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル)であることが好ましい。
【0126】
上記有機溶剤の含有量は、無機微粒子分散体100質量部に対して40質量部~70質量部であることが好ましく、45質量部~65質量部であることがより好ましい。
【0127】
本開示に係るハードコート層に使用される無機微粒子分散体は、紫外線により無機微粒子分散体を硬化させる場合には、光重合開始剤を更に含むことが好ましい。
光重合開始剤としては公知のものを使用すればよく、例えば、アセトフェノン類、ベンジルケタール類、ベンゾフェノン類からなる群から選ばれる一種以上を好ましく用いることができる。前記アセトフェノン類としては、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、及び4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトンが挙げられる。前記ベンジルケタール類としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、及びベンジルジメチルケタールが挙げられる。
ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、及びo-ベンゾイル安息香酸メチルが挙げられる。
ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、及びベンゾインイソプロピルエーテルが挙げられる。
【0128】
光重合開始剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
光重合開始剤の使用量は、複合樹脂C1の100質量部に対して、1質量%~15質量%が好ましく、2質量%~10質量%がより好ましい。
【0129】
-B層及びC層の形成方法-
B層及びC層の形成方法としては、特に制限はなく、B層及びC層を別々に形成させてもよいし、B層及びC層を同時に形成させてもよい。B層及びC層の形成方法は、例えば、A層のいずれか一方の表面に、無機微粒子分散体を塗布してB層を形成し、B層の上にC層形成用の無機微粒子分散体を塗布してC層を形成させる方法であってもよい。また、B層及びC層の形成方法は、A層のいずれか一方の表面に、C層形成用の無機微粒子分散体を塗布して、C層及びB層を形成させる方法であってもよい。
【0130】
B層は、C層を形成する成分のうち、C2成分とA層を構成するポリカーボネート樹脂との溶解性パラメーターの差が10((MPa)1/2)以下であることが好ましい。溶解性パラメーターの差が10((MPa)1/2)以下であると、A層にC層を塗工後の接触面において、分子運動による拡散でA層及びC層の両成分が入り混じった浸透層(B層)を形成することができる。
【0131】
B層及びC層を同時に形成させる方法としては、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、無機微粒子分散体の塗布液を塗布した後、乾燥させて形成する方法が挙げられる。B層及びC層を同時に形成させる方法は、これに限定されることはない。
【0132】
乾燥方法は特に限定されず、自然乾燥、風乾、及び加熱による乾燥方法が挙げられる。
乾燥温度は、65℃~95℃であることが好ましく、70℃~85℃であることがより好ましい。
また、乾燥時間は、耐候性の観点から、5分~20分であることが好ましく、5分~15分であることがより好ましく、5分~13分であることが更に好ましい。
【0133】
無機微粒子分散体をA層に塗布する方法は、特に制限はないが、例えば、刷毛塗り法、ローラー塗装法、スプレー塗装法、浸漬塗装法、フロー・コーター塗装法、ロール・コーター塗装法、電着塗装法などの公知慣用の塗装方法を適用することが可能である。
【0134】
C層の厚みは、特に制限はないが、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性の観点から、7μm~26μmの範囲であることが好ましく、8μm~24μmの範囲であることがより好ましく、10μm~15μmであることが更に好ましい。
C層の厚みは、A層の厚みと同様の方法により求められる。
【0135】
-ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の製造方法-
ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の製造方法は、公知の製造方法を用いることができる。例えば、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも一方の表面に無機微粒子分散体の塗布液を塗布した後、塗布面を例えば、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより、屋外における長期耐候性と優れた耐摩耗性を併有し、且つ、基材に対する密着性に優れるハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を得ることができる。
上記活性エネルギー線としては、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等の光源から発せられる紫外線、並びに、通常20kV~2,000kVの粒子加速器から取り出される電子線、α線、β線、及びγ線が挙げられる。
活性エネルギー線は、中でも、紫外線、又は、電子線が好ましく、紫外線が更に好ましい。
紫外線等の活性エネルギー線の照射によりC2成分中の二重結合が付加重合することにより、ハードコート層(C層)を構成する分子の自由な分子運動が抑制され、浸透層(B層)を固定化することができる。
【0136】
紫外線源としては、太陽光線、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、アルゴンレーザー、及びヘリウム・カドミウムレーザーが挙げられる。これらの紫外線源を用いて、約180nm~400nmの波長の紫外線を、無機微粒子分散体の塗工面に照射することによって、塗膜を硬化させることが可能である。
紫外線の照射量は、使用される光重合開始剤の種類及び量によって適宜選択される。
活性エネルギー線による硬化は、基材がプラスチック等の耐熱性に乏しい素材である場合に特に有効である。一方、基材に影響を与えない範囲で熱を併用する場合には、熱風、近赤外線など公知の熱源が使用できる。
【0137】
また、その後、紫外線照射によりC2成分中の二重結合が付加重合することにより、コート層を構成する分子の自由な分子運動が制限され、浸透層が固定化される
【0138】
本開示に係る積層体は、無色であってもよいし、有色であってもよいが、透明部材であることが好ましい。
本開示に係る積層体は、JIS K7361-1(1997)(対応ISO:13468-1 1996)に従い測定した全光線透過率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、85%以上であることが更に好ましい。
本開示に係る積層体は、耐摩耗性、耐沸水性及び耐候性に優れるため、自動車のパノラマルーフ、及びバックドアウインドウを始めとするグレージング部材、液晶テレビ、プラズマテレビ等の前面板用途、パチンコ等の遊戯具における透明遊戯板として好適に使用することができる。これらの中でも、本開示の積層体は、車両用グレージング部材として好適に用いることができる。
【実施例
【0139】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例において、「%」、「部」とは、特に断りのない限り、それぞれ「質量%」、「質量部」を意味する。
【0140】
<合成例1-1:ポリシロキサンセグメント(C1-1)を有するポリシロキサンの合成>
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管、及び、窒素ガス導入口を備えた反応容器に、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPTS)842.23質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)842.23重量部を仕込んで、窒素ガスの通気下、攪拌しながら、60℃まで昇温した。次いで、「Phoslex A-4」(製品名、SC有機化学(株)製、ブチルアシッドホスフェート)0.44質量部と脱イオン水:138.53質量部と、からなる混合物を5分間で滴下した。滴下終了後、反応容器中を80℃まで昇温し、4時間攪拌することにより加水分解縮合反応を行い、反応生成物を得た。得られた反応生成物中に含まれるメタノールおよび水を、1キロパスカル(kPa)~30キロパスカル(kPa)の減圧下、40℃~60℃の条件で除去することにより、固形分量が60.0質量%であるポリシロキサンセグメント(C1-1)を有するポリシロキサン1013.16質量部を得た。
【0141】
<合成例1-2:複合樹脂C1の合成>
合成例1と同様の反応容器に、フェニルトリメトキシシラン(PTMS):61.32質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)336.48質量部を仕込んで、窒素ガスの通気下、攪拌しながら、80℃まで昇温した。
次いで、メチルメタクリレート(MMA)125.38質量部、n-ブチルメタクリレート(BMA)43.98質量部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)228.79質量部、アクリル酸(AA)質量部、n-ブチルアクリレート(n-BA)4.58質量部、MPTS:27.45質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)22.88質量部、PGM:106.77質量部、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(TBPEH):20.59質量部を含有する混合物を、同温度で、窒素ガスの通気下、攪拌しながら、反応容器中へ4時間で滴下した。
さらに同温度で2時間撹拌したのち、反応容器中に、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)77.73質量部、「Phoslex A-4」:0.26質量部と脱イオン水:65.8質量部の混合物を、5分間をかけて滴下し、同温度で4時間攪拌することにより、PTMS、DMDMS、及び、MPTSの加水分解縮合反応を進行させた。反応生成物を、H-NMRで分析したところ、反応容器中のシランモノマーが有するトリメトキシシリル基のほぼ100%が加水分解していた。
次いで、同温度にて10時間攪拌することにより、TBPEHの残存量が0.1%以下の反応生成物が得られた。尚、TBPEHの残存量は、ヨウ素滴定法により測定し残存量を確認した。
【0142】
次いで、反応生成物に、合成例1-1で得られたポリシロキサン:1013.16質量部を添加して、5分間攪拌したのち、80℃で4時間攪拌を行い、反応生成物とポリシロキサンの加水分解縮合反応を行った。得られた反応生成物を、10kPa~300kPaの減圧下で、40℃~60℃の条件で2時間蒸留することにより、生成したメタノール及び水を除去し、次いで、PGMを添加し、不揮発分(固形分)が50.0質量%であるポリシロキサンセグメント(C1-1)とビニル系重合体セグメント(C1-2)とからなる複合樹脂C1:4082質量部を得た。
複合樹脂C1において、ポリシロキサンセグメント(C1-1)の配合比率は60質量%であり、ビニル系重合体セグメント(C1-2)の配合比率は40質量%であった。
【0143】
<合成例2:イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)の合成>
攪拌装置及び空気の吹き込み管を備えた3Lセパラブルフラスコに、1、6-ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体を主成分とするイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ(株)製、デュラネートTPA-100、NCO含有量:23.5質量%。)178.72質量部(NCO:1.0モル)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール1.8質量部、ジブチルスズジラウレート0.2質量部を仕込み、液温を60~70℃で攪拌しながら、M-305(東亞合成(株)製)158.72質量部と2-ヒドロキシ-プロピルアクリレート85.9質量部(0.66モル)を滴下した。
滴下終了後、80℃で4時間攪拌し、赤外線分光(IR)分析にて、反応液からイソシアネート(NCO)基が消失していることを確認して反応を終了し、下記構造のイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(C2-1)を得た。
【0144】
【化24】
【0145】
<<調製例1:無機微粒子分散体1の製造>>
複合樹脂C1(固形分量:50質量部)を36質量部、シリカ微粒子C3としてPGM-ST(日産化学工業(株)製、固形分量:30質量%)60質量部を配合し、(株)東洋精機製作所製ペイントシェイカーを用いて分散物を得た。
得られた分散物を32質量部、合成例2で得られた化合物(C2-1)を21.38質量部と、化合物(C2-2)としてM―315(東亜合成(株)製、イソシアヌル酸2-ヒドロキシエチル-トリアクリレート)を60.7質量部、化合物(C2-3)として1、9-DA(共栄社化学(株)製1、9-ノナンジオールジアクリレート)を5.9質量部を配合及び攪拌した。得られた配合物に対し、トリアジン系紫外線吸収剤C4としてTinuvin479(BASF社製)を4質量部、非反応性表面調整剤C5としてBYK-377(ビックケミー社製)0.1質量部、光安定剤として、Tinuvin123を1.0質量部(BASF社製)、及び、Irgcure819(BASF社製)3質量部を配合及び攪拌し、その後プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)を88.1質量部にて希釈攪拌し、無機微粒子分散体1を得た。
【0146】
<<調製例2~30:無機微粒子分散体2~30の製造>>
調製例1において、配合を表3又は表4に記載の配合率に変更したこと以外は、調製例1と同様にして、無機微粒子分散体2~30を得た。
<<基材A>>
樹脂材料としてポリカーボネート樹脂ペレット(帝人(株)製:パンライトL-1250Z(商品名))を110℃で5時間乾燥させた。かかる樹脂材料を4軸平行制御機構を備えた射出プレス成形可能な大型成形機((株)名機製作所製:MDIP2100、最大型締め力33540kN)を用いて射出プレス成形し、図1に示す厚み4mm、長さ1,200mm、幅1,000mmの大型成形品を製造した。かかる成形機には、乾燥後のペレットが圧空輸送により成形機供給口に供給され成形に使用された。ランナーはHOTSYS社製のバルブゲート型のホットランナー(直径8mmφ)を用いた。なお、図1中、23は偏光板を通して観察される線状会合部を表し、24は、仮想基準線を表す。
【0147】
成形条件はシリンダ温度310℃、ホットランナー設定温度280℃、金型温度は可動側110℃、固定側110℃、圧縮ストローク4.0mm、中間型締め状態から最終型締め状態までの金型の移動速度10mm/秒、および保圧時間150秒であった。溶融樹脂の充填は図1のゲート部分(第1充填ゲート)21より射出を開始し、ゲート部分(第2充填ゲート)22に溶融樹脂が到達した後、ゲート部分22を開放する、カスケード成形法にて行った。型圧縮は、充填完了直前に開始し、オーバーラップは0.5秒とした。充填完了後直ちにバルブゲートを閉じて溶融樹脂がゲートからシリンダへ逆流しない条件とした。圧縮工程時の圧力は17.2MPaとし、保圧工程時の圧力は該圧力の半分の圧力で保持した。可動金型パーティング面は最終の前進位置において固定金型パーティング面に接触しないものとした。また、かかる成形においては、その4軸平行制御機構により、傾き量および捩れ量を表すtanθは約0.000025以下で保持された。
得られた成形品を取出し、温度23℃、相対湿度50%の条件で24時間静置して十分に冷却した後、基材Aを得た。
【0148】
<<基材B~E>>
表3又は表4に記載の粘度平均分子量に変更し、適宜成形温度を調整したこと以外は基材Aと同様の条件で成形し、基材B~Eを得た。
【0149】
<ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の作製>
(実施例1~実施例16及び比較例1~比較例14)
表3又は表4に記載の基材の表面に、表3又は表4に記載の無機微粒子分散体を塗布し、表1又は表2に記載の条件で加熱乾燥させた。その後、ランプ出力1kWの水銀ランプ下、表1又は表2に記載の照射量で紫外線を照射することにより、ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を作製した。
得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体におけるポリカーボネート樹脂層(A層)、浸透層(B層)及びハードコート層(C層)の厚さは、既述の方法で測定し、表3又は表4に値を示した。また、得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体は、下記の評価を行い、結果を表3及び表4に示した。
また、得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体の断面をSEMで確認したところ、図2に示されるとおり、A層、B層(図2中の2は、B層の厚みを示す)及びC層(図2中の1はC層の厚みを示す)が形成されていることが確認された。なお、A層は、図2中のB層の下側に表されている。
また、得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体を顕微FT-IRにより測定したところ、B層が、A層及びC層の両成分を含むことが前述の方法により確認された。
【0150】
〔評価〕
全光線透過率:JIS K7361-1(1997)(対応ISO:13468-1 1996)に従い、日本電色(株)製NDH-300Aにより測定した。
【0151】
初期ヘーズ(H):日本電色工業株式会社製のヘイズメーターNDH2000を用いて測定した。尚、曇値(H)は、H=Td/Tt×100(Td:散乱光線透過率、Tt:全光線透過率)で示される。
【0152】
<耐摩耗性>
ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の表面を、テーバー摩耗性試験前にTaber社製ST-11研磨石で25回転摩耗輪表面を研磨し、試験片を調製した。研磨後の試験片に、摩耗輪(製品名:CS-10F、Taber社製)を用いて、荷重500g、100回転及び500回転の条件で、ASTM D1044準拠して、テーバー摩耗試験を行い、テーバー摩耗試験前後のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体表面の曇値(ヘイズ値)の変化(△H)を測定した。
曇値の変化(△H)は、ヘイズメーター(製品名:NDH2000、日本電色工業(株)製)を用いて、測定方法2、A光源で測定した。なお、曇値(H)は、H=Td/Tt×100(Td:散乱光線透過率、Tt:全光線透過率)で示される値を示す。
曇値(H)の測定は同一の研磨仕様の3つの試験片について行い、△Hの平均値を下記の評価基準に従い評価した。ΔHの値が小さいほど、耐摩耗性に優れるといえ、ΔHが9.0未満であることが好ましい。
なお、テーバー摩耗性試験に用いる摩耗輪は、市販のフロートガラス(板ガラス)を上記同様の方法で荷重500g、1,000回転の条件でテーバー摩耗試験を行った場合の曇値の変化(△H)が0.6~1.0の範囲にある摩耗輪を使用した。△Hが上記範囲を外れる摩耗輪は試験には用いないものとした。
【0153】
<耐沸水性>
ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を60mm×120mmのサイズに切断し、試験片を用意した。試験片を100℃の沸騰水中に浸せきし、3時間保持の後に沸騰水中より取り出し、試験片表面に付着した水分を取り除いて2時間室温(25℃)環境にて放置の後、試験片に対して下記の密着性のテストを行った。
【0154】
試験片のハードコート層側の表面にカッターナイフで1mm間隔の100個の碁盤目を作り、所定の粘着力を有するテープ(例えばニチバン製セロテープ(登録商標))を貼り付け固着した後に、垂直に強く引き剥がす操作を3回繰り返した後、試験片上に残った碁盤目の数を測定した。残った碁盤目の数が多いほど、密着性に優れ、碁盤目の数が100であることが好ましい
【0155】
<耐候性(デューサイクル超促進耐候性)>
光源にメタルハライドランプを用いた促進耐候性試験機(ダイプラ・ウインテス社製、製品名:ダイプラ・メタルウェザーKW-R5TP-A)を用い、光の照射、暗黒、及び、結露の3条件を連続で120サイクル(1,440時間)を得られたハードコート層射出成型品に負荷した。
ここで、光照射の条件は、照度90mW/cm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%で4時間光を照射するものであり、暗黒の条件は、光を照射せずにブラックパネル温度70℃、相対湿度90%で4時間保持するものであり、結露の条件は、光を照射せずに相対湿度98%でブラックパネル温度を70℃から30℃に自然冷却させて4時間保持するものである。さらに、ハードコート層射出成型品に対して、結露の前後に水によるシャワー処理を各10秒間ずつ実施した。
上記耐候性試験中、5サイクル終了毎にハードコート層表面の外観を目視によって観察し、ハードコート層表面にクラック、剥離等の欠陥が確認された直前のサイクル数(5サイクル単位)を記録し下記の評価基準により評価を行った。サイクル数が多いほど、耐候性に優れるといる。
ハードコート層表面の外観にクラック、白化、又は、黄変の全てが確認されないことが好ましく、サイクル数が100以上であることが好ましい。
【0156】
【表1】
【0157】
【表2】
【0158】
【表3】
【0159】
【表4】
【0160】
表3及び表4中、「-」は該当する成分を含まないことを意味している。表2及び表4の比較例14中、「PC基材成形不可」とは、基材Dが形成できなかったことを意味する。
表3及び表4中、C1、C2及びC3の数値(質量%)は、それぞれ、C1、C2及びC3の合計量中の配合率を意味している。
表3及び表4中、C3の数値(質量%)は、C1の固形分全質量に対する、配合率を意味している。
表3及び表4中、C1-1、C2-1及びC2-3の数値(質量%)は、それぞれ、C1-1、C2-1及びC2-3の合計量中の配合率を意味している。
表3及び表4中、C4及びC5の数値(質量%)は、それぞれ、C1、C2及びC3の合計100質量部に対する配合量を意味している。
【0161】
なお、上記で説明していない表3及び表4中の各成分の詳細は以下に示す。
・MEK:メチルエチルケトン
・IPA:イソプロピルアルコール
・トリアゾール系紫外線吸収剤:Tinuvin384-2(NV80%)、BASFジャパン(株)製
・反応性表面調整剤:BYK-UV3505、ビックケミー社製
【0162】
実施例1~16のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体は、比較例1~14のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に比べて、耐候性に優れることが分かる。更に、実施例1~16のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体は、比較例1~14のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に比べて、耐摩耗性及び耐沸水性及びにも優れることが分かる。また、実施例1~16のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体は、ヘーズ値を低く抑えることができ、全光線透過率にも優れる。
【0163】
2019年7月30日に出願された日本国特許出願2019-140244号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2