(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】エンコーダ及び駆動装置、並びに加熱方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20220810BHJP
G01D 5/347 20060101ALI20220810BHJP
H02K 11/21 20160101ALI20220810BHJP
【FI】
G01D5/245 110W
G01D5/347 110X
H02K11/21
(21)【出願番号】P 2018188889
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100098165
【氏名又は名称】大森 聡
(72)【発明者】
【氏名】大野 康
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-233308(JP,A)
【文献】特開平11-318093(JP,A)
【文献】特開2018-136257(JP,A)
【文献】実開昭55-152411(JP,U)
【文献】特開平2-196923(JP,A)
【文献】米国特許第4631403(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00- 5/62
H02K 11/21-11/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の回転情報を検出するエンコーダであって、
前記回転軸に設けられたパターンを検出する検出器と、
前記回転軸に設けられたパターン及び前記検出器を収容する第1収容ケースと、
前記第1収容ケース内に収容された前記パターン及び前記検出器の少なくとも一方を加熱する加熱部と、
前記パターンと前記検出器との間に設けられ、前記パターンからの光を通過させる通過部が形成された板状部材と、を備え
、
前記加熱部は、前記板状部材に設けられるエンコーダ。
【請求項2】
前記板状部材は、前記回転軸側から前記検出器側に向かう電磁波を遮蔽する遮蔽板であり、
前記加熱部は、前記遮蔽板に設けられた発熱体である請求項
1に記載のエンコーダ。
【請求項3】
回転軸の回転情報を検出するエンコーダであって、
前記回転軸に設けられたパターンを検出する検出器と、
前記回転軸に設けられたパターン及び前記検出器を収容する第1収容ケースと、
前記第1収容ケース内に収容された前記パターン及び前記検出器の少なくとも一方を加熱する加熱部と、を備え
、
前記パターンは、前記回転軸の一端部に取り付けられたスケールの表面に形成され、
前記加熱部は、前記スケールの裏面に設けられた発熱体と、前記発熱体に電力を供給する接触式又は非接触式の配線部とを有す
るエンコーダ。
【請求項4】
前記発熱体は、発熱抵抗塗膜である請求項
2又は請求項
3に記載のエンコーダ。
【請求項5】
前記加熱部の加熱時間及び加熱量の少なくとも一方を制御する加熱制御部を備える請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載のエンコーダ。
【請求項6】
前記加熱制御部は、前記検出器の検出信号の振幅が目標値より小さいときに、前記加熱部を介して前記パターン及び前記検出器の少なくとも一方を加熱する請求項
5に記載のエンコーダ。
【請求項7】
前記第1収容ケース内の雰囲気の湿度を検出する湿度センサを備え、
前記加熱制御部は、前記湿度センサの検出結果に基づいて前記加熱部を制御する請求項
5に記載のエンコーダ。
【請求項8】
前記
検出器の周囲の雰囲気の温度を検出する第1温度センサと、
前記回転軸の周囲の雰囲気の温度を検出する第2温度センサと、を備え、
前記加熱制御部は、前記第1及び第2温度センサの検出結果に基づいて前記加熱部を制御する請求項
5に記載のエンコーダ。
【請求項9】
前記加熱制御部は、前記
検出器の周囲の雰囲気の蒸気圧が飽和蒸気圧以上になったときに、前記加熱部を介して前記パターンを加熱する請求項8に記載のエンコーダ。
【請求項10】
前記回転軸のうち、前記パターンが設けられた部分とは異なる軸部の少なくとも一部を収容する第2収容ケースを備える請求項1から請求項
9のいずれか一項に記載のエンコーダ。
【請求項11】
請求項1から請求項
10のいずれか一項に記載のエンコーダと、
前記回転軸を駆動するモータ部と、
前記エンコーダの検出結果を用いて前記モータ部を制御するモータ制御部と、を備える駆動装置。
【請求項12】
回転軸に設けられたパターンを検出する検出器と、
前記回転軸に設けられたパターン及び前記検出器を収容する第1収容ケースと、を備えるエンコーダの加熱方法であって、
前記パターンと前記検出器との間に設けられた板状部材の通過部を介して、前記パターンからの光を前記検出器に導くことと、
前記板状部材に設けられる加熱部を用いて、
前記第1収容ケース内に収容された前記パターン及び前記検出器の少なくとも一方を加熱すること
と、を含む加熱方法。
【請求項13】
前記板状部材によって、前記回転軸側から前記検出器側に向かう電磁波を遮蔽することを含む請求項12に記載の加熱方法。
【請求項14】
前記検出器に接する雰囲気の蒸気圧及び前記回転軸に接する雰囲気の飽和蒸気圧を求めることと、
前記蒸気圧が前記飽和蒸気圧以上になったときに、前記加熱部を用いて前記パターンを加熱することと、を含む請求項
12又は請求項
13に記載の加熱方法。
【請求項15】
回転軸に設けられたパターンを検出する検出器と、
前記回転軸に設けられたパターン及び前記検出器を収容する第1収容ケースと、を備えるエンコーダの加熱方法であって、
前記検出器の検出信号の振幅を求めることと、
前記検出信号の振幅が目標値より小さいときに、
前記第1収容ケース内に収容された前記パターン及び前記検出器の少なくとも一方を加熱すること
と、を含む加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダ、エンコーダを備えた駆動装置、及びエンコーダの加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボット又は工作機械等の駆動部に用いられるモータの回転角の制御を高精度に行うために、モータの回転軸にはエンコーダ(例えばロータリーエンコーダ)が取り付けられている。そして、モータの制御は、エンコーダの検出結果に基づいて行われている。モータは、一般にコイルからの熱を排熱するために、樹脂で覆われている。その樹脂は、モータの停止時に空気中の水分を吸収(吸湿)し、運転時に樹脂中の水分を放出する。そのため、モータの運転時には、コイルが急速に昇温し、モータの樹脂も高温になり、樹脂に含まれていた水分が空気中に放出され、放出された水蒸気がエンコーダ側にも流れることになる。このとき、その水蒸気がエンコーダ内で結露する恐れがあった。このような結露を防止するために、エンコーダ内に吸湿剤を配置することが提案されている(例えば、引用文献1参照)。
【0003】
最近では、エンコーダが取り付けられたモータはより様々な環境下で使用されるようになっており、さらにエンコーダの検出精度を常に高精度に維持することも求められている。このため、エンコーダ内での結露の防止、又は結露の抑制をより効果的に行うことが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、回転軸の回転情報を検出するエンコーダであって、その回転軸に設けられたパターンを検出する検出器と、その回転軸に設けられたパターン及びその検出器を収容する第1収容ケースと、その第1収容ケース内に収容されたそのパターン及びその検出器の少なくとも一方を加熱する加熱部と、そのパターンとその検出器との間に設けられ、そのパターンからの光を通過させる通過部が形成された板状部材と、を備え、その加熱部は、その板状部材に設けられるエンコーダが提供される。
また、別の態様によれば、回転軸の回転情報を検出するエンコーダであって、その回転軸に設けられたパターンを検出する検出器と、その回転軸に設けられたパターン及びその検出器を収容する第1収容ケースと、その第1収容ケース内に収容されたそのパターン及びその検出器の少なくとも一方を加熱する加熱部と、を備え、そのパターンは、その回転軸の一端部に取り付けられたスケールの表面に形成され、その加熱部は、そのスケールの裏面に設けられた発熱体と、その発熱体に電力を供給する接触式又は非接触式の配線部とを有するエンコーダが提供される。
第2の態様によれば、第1の態様のエンコーダと、その回転軸を駆動するモータ部と、そのエンコーダの検出結果を用いてそのモータ部を制御するモータ制御部と、を備える駆動装置が提供される。
【0006】
第3の態様によれば、回転軸に設けられたパターンを検出する検出器と、その回転軸に設けられたパターン及びその検出器を収容する第1収容ケースと、を備えるエンコーダの加熱方法であって、そのパターンとその検出器との間に設けられた板状部材の通過部を介して、そのパターンからの光をその検出器に導くことと、その板状部材に設けられる加熱部を用いて、その第1収容ケース内に収容されたそのパターン及びその検出器の少なくとも一方を加熱することと、を含む加熱方法が提供される。
別の態様によれば、回転軸に設けられたパターンを検出する検出器と、その回転軸に設けられたパターン及びその検出器を収容する第1収容ケースと、を備えるエンコーダの加熱方法であって、その検出器の検出信号の振幅を求めることと、その検出信号の振幅が目標値より小さいときに、その第1収容ケース内に収容されたそのパターン及びその検出器の少なくとも一方を加熱することと、を含む加熱方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(A)は本発明の第1の実施形態に係る駆動装置を示す断面図、(B)は
図1(A)内のエンコーダ部を示す拡大断面図である。
【
図2】(A)は
図1(A)内のパターンの一部を示す拡大図、(B)は
図1(A)内の受光素子の一部を示す拡大図、(C)は検出信号の一部を示す図、(D)は結露したパターンの一部を示す拡大図、(E)は結露した場合の検出信号の一部を示す図である。
【
図3】エンコーダの加熱方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】(A)は第1の実施形態の第1変形例の駆動装置を示す断面図、(B)は第2変形例の駆動装置を示す断面図である。
【
図5】(A)は第3変形例の駆動装置を示す断面図、(B)は
図5(A)中のシールド板36を示す平面図である。
【
図6】(A)は第2の実施形態に係る駆動装置を示す断面図、(B)は
図6(A)中のエンコーダで計測される温度の一例を示す図である。
【
図7】エンコーダの加熱方法の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、第1の実施形態につき
図1(A)~
図3を参照して説明する。
図1(A)は、本実施形態に係る駆動装置10の概略構成を示す。
図1(A)において、駆動装置10は、エンコーダ部12と、モータ部14と、エンコーダ部12の検出結果に基づいてモータ部14の動作を制御する制御装置16とを備えている。モータ部14は、互いに対向する2つの開口が形成された箱状のモータケース30と、モータケース30に形成された2つの開口の側面部(内側面)に設けられた1対の回転軸受28A及び28Bと、この1対の回転軸受28A及び28Bを介して回転可能に支持された細長い棒状の回転軸18と、回転軸18の中央の軸部18cの外面に装着された複数のマグネット20と、マグネット20を囲むようにモータケース30の内面に配置された複数のコイル22と、コイル22に複数の信号ライン26を介して接続された駆動回路24とを有する。マグネット20及びコイル22の少なくとも一部は合成樹脂等の樹脂(不図示)によって覆われ、モータ部14の停止中には、その樹脂は周囲の空気中の水分を吸収し、モータ部14の運転中(コイル22に電流を供給する期間)には、その樹脂は水分(水蒸気)を周囲の空気中に放出する。以下では、回転軸18の中心軸に平行にZ軸を取って説明する。回転軸18はZ軸に平行な軸の回りに回転可能である。
【0009】
一例として、モータ部14は3相交流モータであるが、モータ部14としては直流モータ等も使用できる。本実施形態では、回転軸18の軸部18cの一部、マグネット20、及びコイル22はモータケース30内に収容されている。一方、回転軸18の軸部18cよりも細い+Z方向の一端部18a及び軸部18cと同じ外径の-Z方向の他端部18bはそれぞれモータケース30の+Z方向及び-Z方向の側面の外側に突き出ている。
【0010】
また、エンコーダ部12は、回転軸18の一端部18a側に配置される。エンコーダ部12は、回転軸18の一端部18aの先端に取り付けられて、回転方向の位置を検出するための輪帯状の反射型のパターンPA(以下、回転型の検出パターンとも称する)が形成された円板状の回転板(以下、反射符号板という。)34を有する。さらに、エンコーダ部12は、反射符号板34のパターンPAに検出光を照射する光源40と、パターンPAからの反射光を受光する受光素子42と、受光素子42の検出信号S1を処理して反射符号板34(及び回転軸18)の回転方向の位置(角度及び/又は角速度)の情報(以下、エンコーダ情報という)S2を求める処理回路44とを含む検出部33を有する。エンコーダ情報S2は、駆動回路24及び制御装置16に供給される。反射符号板34は、回転型のスケール又はディスクとも呼ぶことができる。なお、反射符号板34に形成されるパターンPAは、アブソリュート型及びインクリメンタル型のパターンを含む。なお、パターンPAは、アブソリュート型又はインクリメンタル型のパターンであってもよく、その他の任意のパターンであってもよい。また、反射符号板34の代わりに、透過型のパターンが形成された回転板(透過符号板)を使用してもよい。
【0011】
制御装置16は、回転軸18の目標回転角及び/又は目標回転速度の情報と、エンコーダ情報S2とを用いて回転軸18の回転角等の情報を含む回転指令情報S4を生成し、その回転指令情報S4を駆動回路24に供給する。駆動回路24は、回転指令情報S4及びエンコーダ情報S2を用いて、コイル22に供給する電流を調整して回転軸18の回転角及び/又は回転速度を制御する。さらに、駆動回路24は、コイル22に供給する電流値を含む電流情報S3を制御装置16に供給する。
【0012】
モータケース30の+Z方向の端面に円筒状のエンコーダケース32が固定され、エンコーダケース32の+Z方向の端部を覆うように円板状の基板(例えばプリント基板)38が固定され、基板38に光源40、受光素子42、及び処理回路44が取り付けられている。エンコーダケース32は例えば合成樹脂又は金属から形成されている。
図1(B)は
図1(A)中のエンコーダ部12を示す拡大図である。
図1(B)において、基板38と反射符号板34との間に、モータ部14側から基板38側に向かう電磁波を遮蔽して検出部33におけるノイズを低減させるための円形の板状のシールド板36(遮蔽板)が配置されている。シールド板36は例えば真鍮等の非磁性体の金属(導電性材料)から形成されており、シールド板36のパターンPAと光源40及び受光素子42との間の部分には、検出光を通過させるための開口部
(後述の図5(B)のシールド板36Aの開口部36Acと同様の開口部)が形成されている。なお、シールド板36には、
その開口部の代わりにガラス板等の光透過性の窓部を設けてもよい。基板38のパターンPA側の面の外周部には接地された(0Vの)端子部38aが設けられ、シールド板36のリング状の外周部36aがエンコーダケース32の+Z方向側の端部と端子部38aとの間に挟み込まれて固定されている。エンコーダケース32の+Z方向側の端部の内面には、シールド板36の外形に合わせて段差部32aが設けられている。
【0013】
また、エンコーダ部12は、基板38と、シールド板36と、シールド板36の基板38側の面に設けられた、発熱抵抗塗膜よりなる膜状のヒータ46と、ヒータ46の加熱量を制御するヒータ制御部48(
図1(A)参照)とを有する。発熱抵抗塗膜は、一例として油性の密着用材料(いわゆるバインダ)に粉末カーボン及び/又は金属粉末を分散させたものである。発熱抵抗塗膜に電流を流すことによって、発熱抵抗塗膜は発熱する。なお、ヒータ46は、シールド板36の反射符号板34側の面に設けてもよい。ヒータ46の一面の端子部は、シールド板36を介して基板38の0Vの端子部38aに導通し、ヒータ46の他面の端子部46aは、基板38の貫通穴を通して電源端子部38bに導通している。ヒータ制御部48には処理回路44から検出信号S1が供給されている。ヒータ制御部48が、制御装置16からの制御情報S5及び検出信号S1に基づいて電源端子部38bに供給する電圧(電流)を制御することで、パターンPA(反射符号板34)及び検出部33(特に光源40及び受光素子42)の少なくとも一方の表面における結露を防止するように、ヒータ46の加熱のタイミング及び加熱量(温度)を制御する。ヒータ制御部48は、結露に関する情報S6を制御装置16に供給することができる。
【0014】
エンコーダケース32及び基板38で囲まれたほぼ密閉された空間32S内に、回転軸18の一端部18a、反射符号板34、光源40、受光素子42、シールド板36、及びヒータ46が収容されている。
本実施形態では、モータケース30(第2収容ケース)に対してエンコーダケース32(第1収容ケース)は隣接しており、モータケース30内の空間30Sと、エンコーダケース32内の空間32Sとは、回転軸受28A内の隙間を介してわずかに連通し、また、空間30Sは回転軸受28B内の隙間を介して外気とわずかに連通している。そのため、外気又は空間30S内で発生する水蒸気が回転軸受28A内の隙間を通して空間32S内に流入する場合がある。このため、空間32S内のパターンPA、光源40、及び受光素子42等の表面に結露が生じ、検出信号S1のSN比の低下等が起こる恐れがある。なお、モータケース30とエンコーダケース32との間に隙間があると、外気がこの隙間を介して空間32S内に流入する場合がある。
【0015】
本実施形態の駆動装置10の動作の一例につき説明する。基本的な動作として、エンコーダ部12の処理回路44は、所定の周期で求めた反射符号板34(及び回転軸18)の角度等のエンコーダ情報S2を駆動回路24及び制御装置16に供給する。そして、制御装置16が、エンコーダ情報S2等を用いて生成した回転指令情報S4をモータ部14の駆動回路24に供給し、それに応じて駆動回路24がコイル22に供給する電流値を制御する。この動作によって回転軸18の回転角等が目標値に制御される。
【0016】
次に、本実施形態の駆動装置10において、エンコーダケース32内での結露を防止又は抑制するためにヒータ46を用いる加熱方法の一例につき
図3のフローチャートを参照して説明する。一例としてパターンPA中の
図2(A)に示すアブソリュート型のパターンPAAから得られる検出信号S1Aを用いて結露の有無を判定するものとする。
図2(A)において、アブソリュート型のパターンPAAは、反射部58Aと非反射部58Bとを所定配列で円周方向に形成したものである。また、受光素子42中にはパターンPAAに対応して、
図2(B)に示すように反射符号板34の円周方向に対応する方向に複数の受光素子x0,y0,x1,y1,…,x8,y9を配列してなるアブソリュート型の受光素子42Aが含まれている。ヒータ制御部48は、受光素子42Aの各検出信号をスキャンするように読み出すことができる。処理回路44では、受光素子42Aから読み出した検出信号と、パターンPA中のインクリメンタル型のパターンから検出される例えば2相の検出信号(又はその内の1相の検出信号)とを用いて、受光素子x0~x9又はy0~y9の検出信号を選択することで、反射符号板34の回転方向の絶対位置を高精度に求めることができる。
【0017】
パターンPA、光源40、及び受光素子42の表面に結露がない状態でそのように読み出した検出信号S1A(複数の受光素子x0~y9の検出値を受光素子の配列方向の位置PD又は読み出した時間tの関数として補間した信号)は、
図2(C)に示すように、例えばパターンPAAに対応して比較的大きい振幅Am1で変化する矩形波状の信号となる。このようにアブソリュート型の受光素子42Aの検出信号を読み出す(スキャンする)ことによって、モータ部14で回転軸18を回転させることなく、検出信号S1Aの振幅を求めることができる。
【0018】
これに対して、
図2(D)に示すように、パターンPAA上に結露60が生じている場合には、受光素子42Aから読み出した検出信号S1Aは、
図2(E)に示すように、振幅Am2が振幅Am1よりも小さい信号となる。同様に、光源40又は受光素子42の表面に結露が生じている場合にも、検出信号S1Aの振幅は小さくなる。そこで、ヒータ制御部48内の記憶部には、予め結露がない場合の検出信号S1Aの振幅の最小値(例えば実測値又は理論値)が目標値Amとして記憶されている。
【0019】
そこで、駆動装置10の電源投入時には、制御装置16からヒータ制御部48に結露の有無の判定を行うことを指示する制御信号S5が出力される。そして、ステップ102において、ヒータ制御部48は、受光素子42Aからの検出信号S1Aの読み込み(取り込み)を行い、検出信号S1Aの振幅Am2を算出する。そして、ステップ104において、ヒータ制御部48はその算出した振幅Am2と予め記憶されている目標値Amとを比較し、振幅Am2が目標値Amより小さい場合には、パターンPA(反射符号板34)及び/又は検出部33の構成部材(特に光源40及び受光素子42)の表面に結露が生じているものと判定する。そして、ステップ106に移行して、エンコーダ部12のヒータ46への通電を開始し、ヒータ46でパターンPA及び検出部33(光源40及び受光素子42)の周囲の雰囲気の加熱を開始する。この際に、ヒータ制御部48は、結露が生じていると判定したこと、ヒータ46で加熱中であること、ヒータ46での加熱時間、及びヒータ46での加熱回数(ステップ106に移行した回数)を含む情報S6を制御装置16に出力する。制御装置16では、エンコーダ部12の計測値の不良(モータ部14による回転軸18の回転量に対してエンコーダ部12からの計測値の変化の割合が小さい場合等)が生じている場合に、その情報S6によって、その計測値の不良が結露によるものなのか、エンコーダ部12の処理回路44の異常等によるものなのか、又は光源40の不具合なのかを判定可能である。本実施形態の駆動装置10が例えばロボット等の同一環境下の複数軸の駆動機構として使用されている場合、例えば各エンコーダ部12の情報S6を比較し、全てのエンコーダ部12の検出信号S1Aの振幅Am2が目標値Amより小さい場合には、計測値の不良が結露によるものと判定でき、又は一部のエンコーダ部12の検出信号S1Aの振幅Am2が、他のエンコーダ部12の検出信号S1Aの振幅Am2と異なっている場合には、その一部のエンコーダ部12の処理回路44の異常、あるいは光源40の不具合等によって検出信号が変化したものなのかを判定することも可能である。
【0020】
ヒータ46での加熱時間は、エンコーダ部12の構成部材及び回転軸18の熱容量等に応じて予め定められている。その後、動作はステップ102に戻り、検出信号S1Aの読み込みを行い、次のステップ104で、検出信号S1Aの振幅Am2が目標値Am以上になっている場合には、結露が解消したものと判定してステップ108に移行する。そして、ヒータ制御部48はヒータ46への通電を停止して、ヒータ46による加熱を停止する。これによって、結露が解消しているにもかかわらずヒータ46によって無用な加熱を行うことを防止できるとともに、駆動装置10の待機時間を短縮できる。
【0021】
なお、ヒータ46でエンコーダケース32内の空間32Sの気体を加熱すると、熱膨張によってモータケース30内の空間30Sの気圧よりも空間32Sの気圧の方が大きくなり、空間30S内の水蒸気を含む気体が空間32S内に流入しにくくなる。このように水蒸気を含む気体が空間32S内に流入しにくくなることからも、エンコーダケース32内での結露の防止又は抑制の効果が大きくなる。
【0022】
その後、ステップ110において、ヒータ制御部48は結露が解消してヒータ46による加熱を停止したことを示す情報S6を制御装置16に供給する。この後のエンコーダ情報S2は正しい情報とみなすことができるため、このステップ110において、回転軸18(反射符号板34)の回転角(又は角速度等)の正確な計測が開始されたとみなすことができる。そして、ステップ112において、制御装置16は、エンコーダ情報S2を用いて駆動回路24を介してモータ部14を駆動する。これによって、結露が解消された状態で高精度に回転軸18の回転角等を検出でき、この検出結果を用いて回転軸18の回転角等を目標値に高精度に制御できる。
【0023】
なお、1回目のステップ104において、計測された振幅Am1が目標値Am以上である場合には、ヒータ46による加熱を行うことなくステップ110に移行して、回転軸18の回転角等の計測を開始することができる。また、制御装置16は、ヒータ制御部48にヒータ46による加熱を開始させた後、モータ部14の運転を開始させて、モータ部14の運転によって、エンコーダケース32内のパターンPA及び検出部33の各構成部材の表面の温度が露点よりも高くなり、ヒータ46を加熱する必要がなくなったと判断できる場合には、ヒータ制御部48にヒータ46に供給する電流をオフにする指令情報S5を供給してもよい。
【0024】
言い換えると、電源を投入した後、モータ部14の温度が一定の温度に落ち着くまでの間、またはモータ部14の運転開始後、モータ部14の温度が上昇し、モータ部14の温度が飽和状態(定常)になるまでの間は、ヒータ制御部48にヒータ46に電流を供給する指令情報が供給されるようにしてもよい。
上述のように本実施形態の回転軸18の回転情報(エンコーダ情報S1)を検出するエンコーダ部12は、回転軸18に設けられたパターンPAを検出する検出部33(検出器)と、回転軸18に設けられたパターンPA及び検出部33を収容するエンコーダケース32(第1収容ケース)と、パターンPA及び検出部33を加熱するヒータ46(加熱部)と、を備えるエンコーダである。
【0025】
また、本実施形態のエンコーダ部12の加熱方法は、エンコーダケース32に収容されたパターンPA及び検出部33を加熱するステップ106を含んでいる。
エンコーダ部12及びその加熱方法によれば、ヒータ46でエンコーダケース32内のパターンPA及び検出部33を加熱することによって、パターンPA及び検出部33の表面の温度を露点よりも高くできるため、エンコーダケース32内での結露を防止できる。このため、エンコーダ部12によって常に高精度に回転軸18の回転情報を検出できる。
また、エンコーダ部12及びその加熱方法によれば、エンコーダケース32内で結露が生じた場合に、その結露を迅速に解消することもできる。
【0026】
さらに、ヒータ46でエンコーダケース32内の気体(例えば空気)を加熱して、その気圧をモータケース30内の気圧よりも高くすることで、モータケース30内の高湿度の気体がエンコーダケース32内に流入しない。このため、エンコーダケース32内での結露をより効率的に防止できる。
なお、パターンPA及び検出部33を加熱すると、パターンPA及び検出部33の周囲の雰囲気(気体)の温度が上昇し、逆にパターンPA及び検出部33の周囲の雰囲気の温度が上昇すると、パターンPA及び検出部33の温度が上昇するため、パターンPA及び検出部33を加熱することは、実質的にパターンPA及び検出部33の周囲の雰囲気を加熱することと同じである。
【0027】
また、本実施形態の駆動装置10は、回転軸18の回転情報を検出するエンコーダ部12と、回転軸18を駆動するモータ部14と、エンコーダ部12の検出結果を用いてモータ部14を制御する制御装置16(モータ制御部)と、を備えている。駆動装置10によれば、結露を防止又は抑制して回転軸18の回転情報を高精度に計測できるため、その計測結果を用いて回転軸18を高精度に回転できる。
【0028】
また、本実施形態では、ヒータ46はシールド板36の一面に設けられているため、別途ヒータ46の支持部材を設ける必要がなく、エンコーダ部12の構成を簡素化できる。
なお、ヒータ46は、シールド板36のパターンPA(反射符号板34)側の面に設けてもよく、シールド板36の両面(基板38側の面及びパターンPA側の面)に設けてもよい。
【0029】
また、本実施形態では、ヒータ46は、パターンPA(反射符号板34)と検出部33との間に配置されているため、ヒータ46によってパターンPA及び検出部33の両方(又はパターンPA及び検出部33の両方の周囲の雰囲気中の気体)を効率的に加熱できる。このため、パターンPA及び検出部33の両方の結露を防止又は抑制できる。
なお、ヒータ46によってパターンPA及び検出部33の一方、又は検出部33の少なくとも一部の構成部材(例えば光源40又は受光素子42)を加熱するようにしてもよい。この場合でも、エンコーダケース32内での結露を抑制することができる。さらに、エンコーダケース32内で結露が生じた場合に、その結露を迅速に解消するか、又は回転情報の検出に影響が生じない程度にその結露を小さくできる。
【0030】
また、本実施形態では、ヒータ46として発熱抵抗塗膜が使用されているため、ヒータ46が小型化できるとともに、シールド板36に対してヒータ46を容易に設けることができる。なお、ヒータ46としては、発熱抵抗塗膜以外の発熱体、例えばシート状の発熱部材等を使用することができる。さらに、ヒータ46の代わりに、エンコーダケース32内に赤外線ヒータを設置し、この赤外線ヒータでエンコーダケース32内の空気の温度を高くしてもよい。また、その赤外線ヒータをエンコーダケース32の外部に設置し、外部からエンコーダケース32及びその内部の空気の温度を高めるようにしてもよい。
【0031】
次に、上述の実施形態の変形例及び他の実施形態につき説明する。なお、以下で参照する
図4(A)~
図7において、
図1(A)、
図2(A)、及び
図3に対応する部分には同一又は類似の符号を付してその詳細な説明を省略する。
まず、上述の実施形態では、アブソリュート型のパターンから得られる検出信号S1Aを取り込んで結露の有無を判定しているため、回転軸18を駆動する必要がないが、インクリメンタル型のパターンから得られる時間に関して正弦波状又は矩形波状に変化する検出信号の振幅から結露の有無を判定してもよい。この場合には、モータ部14で回転軸18(反射符号板34)をわずかに回転する必要がある。さらに、検出信号等を用いて結露の有無を判定することなく、例えば駆動装置10への電源投入時に、予め定められた時間(例えば経験的に結露が解消されると予測される時間)だけヒータ46に通電して反射符号板34及び検出部33を加熱するようにしてもよい。
【0032】
また、上述の実施形態では検出部33として反射型又は透過型の光学式の検出器が使用されている。その他に、検出部として磁気方式又は静電容量方式等の検出器を使用してもよい。さらに、パターンPAは反射符号板(スケール)34に設けられているが、回転軸18の一端部18a等を反射符号板又はスケールとして使用してもよい。すなわち、その一端部18aの表面に回転方向の位置を示す着磁パターン又は反射パターン等を形成しておき、その回転情報を磁気センサ又は受光素子等を含む検出部で検出してもよい。また、反射符号板(スケール)34の取付位置としては、回転軸18の一端部18a以外の位置、例えば、他端部18b、又は一端部18a及び他端部18bから離れた位置でも良い。
【0033】
また、上述の実施形態ではヒータ46がシールド板36に設けられているが、
図4(A)の第1変形例の駆動装置のエンコーダ部12Aで示すように、ヒータを反射符号板34に設けてもよい。
図4(A)において、シールド板36にはヒータは設けられていない。そして、回転軸18の例えばセラミックス等の絶縁体よりなる一端部18aの側面にZ方向に沿って導電性の電極膜54A及び54Bが形成され、一端部18aの+Z方向の端面に電極部54Ab及び54Bbが形成され、電極膜54A及び54Bはそれぞれ一端部18a内の信号ライン54Aa及び54Baを介して電極部54Ab及び54Bbに接続されている。また、反射符号板34の回転軸18側の面に、発熱抵抗塗膜よりなるヒータ46Aが設けられ、反射符号板34のヒータ46が設けられた面が、ボルト56によって一端部18aに連結されている。この際に、ヒータ46の一方(0V)の端子部及び他方の端子部がそれぞれ電極部54Ab及び54Bbに接触している。
【0034】
さらに、エンコーダケース32の内面に、Z方向に沿って直流モータの接触式のブラシのような接触部52A及び52Bが固定され、回転軸18の回転中にも接触部52A及び52Bは電極膜54A及び54Bに接触している。接触部52Aは基板38の0Vの端子部38a及び
図1(B)の電源端子部38bに不図示の信号ラインを介して接続されている。接触部52A及び52B、電極膜54A及び54B、信号ライン54Aa及び54Ba、並びに電極部54Ab及び54Bbより接触式の配線部50が構成されている。
図1(A)のヒータ制御部48と同様のヒータ制御部(不図示)が、配線部50を介してヒータ46Aに供給する電流(電圧)を制御することによって、ヒータ46Aによる加熱量を制御できる。この他の構成は第1の実施形態のエンコーダ部12と同様である。
【0035】
この変形例において、ヒータ46Aに通電することによって、ヒータ46Aが発熱すると、反射符号板34及びパターンPAの温度が上昇し、さらに反射符号板34の温度が上昇すると、その雰囲気の気体の温度が上昇し、検出部33の光源40及び受光素子42の温度が上昇する。このため、仮にエンコーダケース32内で結露が生じていても、パターンPAの表面の結露が解消され、光源40及び受光素子42の表面の結露が解消される。この後は、エンコーダ部12Aによって、回転軸18の回転情報を高精度に検出できる。また、エンコーダケース32内の気体の温度が露点に近いような場合には、ヒータ46Aで反射符号板34を加熱することによって、その周囲の気体の温度が上昇し、エンコーダケース32内での結露を防止できる。
【0036】
この変形例においては、ヒータ46Aが反射符号板34に設けられているため、ヒータ46Aによって特に反射符号板34のパターンPA及びこの周囲の雰囲気の温度を効率的に上昇させることができる。したがって、特にパターンPAにおける結露を抑制又は防止できる。
この変形例において、接触式の配線部50の代わりに非接触式の配線部(不図示)を用いて、ヒータ制御部とヒータ46Aとを接続してもよい。非接触式の配線部は、例えばエンコーダケース32内に設けられるコイルと、一端部18a側に設けられるコイルと、一端部18a側に設けられる整流回路とを含んで構成できる。
【0037】
さらに、ヒータ46Aを反射符号板34のパターンPAが形成されている面のパターンPAが形成されていない領域に設けてもよい。
次に、この変形例ではヒータ46Aが反射符号板34に設けられているが、
図4(B)の第2変形例の駆動装置のエンコーダ部12Bで示すように、ヒータをエンコーダケース32の内面に設けてもよい。
図4(B)において、シールド板36及び反射符号板34にはヒータは設けられていない。そして、エンコーダケース32の内面に反射符号板34を囲むように発熱抵抗塗膜よりなるヒータ46Bが設けられている。さらに、ヒータ46Bの一方(0V)の端子部及び他方の端子部がそれぞれ基板38の0Vの端子部38a及び
図1(B)の電源端子部38bに不図示の信号ラインを介して接続されている。このため、
図1(A)のヒータ制御部48と同様のヒータ制御部(不図示)が、それらの信号ラインを介してヒータ46Bに供給する電流(電圧)を制御することによって、ヒータ46Bによる加熱量を制御できる。この他の構成は第1の実施形態のエンコーダ部12と同様である。
【0038】
この変形例において、ヒータ46Bに通電することによって、ヒータ46Bが発熱すると、反射符号板34及びパターンPAの温度が上昇し、その雰囲気の気体の温度が上昇し、検出部33の光源40及び受光素子42の温度が上昇する。このため、エンコーダケース32内での結露を抑制又は防止できる。
この変形例においては、ヒータ46Bがエンコーダケース32の内面に設けられているため、ヒータ46Bを容易に設けることができる。さらに、ヒータ46Bによって反射符号板34のパターンPA及びこの周囲の雰囲気の温度を効率的に上昇させることができ、ヒータ46Bによって基板38の光源40及び受光素子42の周囲の雰囲気の温度を容易に上昇させることもできる。
【0039】
また、上述の実施形態及びその変形例では、ヒータ46~46Bがシールド板36、反射符号板34又はエンコーダケース32に設けられているが、
図5(A)の第3変形例の駆動装置のエンコーダ部12Cで示すように、シールド板36Aをヒータとしても兼用してもよい。
図5(A)において、基板38の反射符号板34側の面とエンコーダケース32の+Z方向の端部との間に、
図1(B)のシールド板36とほぼ同じ形状の電磁波の遮蔽用の円形の板状のシールド板36Aが設置されている。シールド板36Aは真鍮等の金属(導電性部材)から形成されている。
図5(B)に示すように、シールド板36Aには、検出部33の検出光を通過させるための開口部36Ac(光透過性の窓部でもよい)、及びエンコーダケース32内の他の部材(不図示)と機械的に干渉する部分の開口部等が形成されている。
【0040】
また、基板38の外周部のうちシールド板36Aと対向する面には、その面のうち互いに離れた2箇所の部分に、0Vの端子部38a及び電源端子部38cが形成されている。さらに、0Vの端子部38a及び電源端子部38cに接触するシールド板36Aの外周部がそれぞれ端子部36Aa及び36Abとされている。そして、
図1(A)のヒータ制御部48と同様のヒータ制御部(不図示)が、端子部38a及び電源端子部38cの間に所定の電圧を印加することによって、端子部36Aa及び36Abを介してシールド板36Aに所定の電流が流れ、シールド板36Aが発熱する。そのヒータ制御部では、例えば電流制御回路によってシールド板36Aに流れる電流の大きさ、ひいてはその発熱量(加熱量)を制御してもよい。この他の構成は第1の実施形態のエンコーダ部12と同様である。
【0041】
この変形例のエンコーダ部12Cにおいて、ヒータとしてのシールド板36Aに通電することによって、シールド板36Aが発熱すると、反射符号板34及びパターンPAの温度が上昇し、検出部33の光源40及び受光素子42の温度が上昇する。このため、エンコーダケース32内での結露を抑制又は防止できる。
この変形例においては、シールド板36Aがヒータを兼用しているため、エンコーダ部12Cの構成を複雑化することなく、実質的にヒータを設けることができる。
【0042】
なお、この変形例において、例えば反射符号板34を導電性材料から形成し、反射符号板34をヒータとして兼用してもよい。
次に、第2の実施形態につき
図6(A)~
図7を参照して説明する。
本実施形態のエンコーダ部12Dを備える駆動装置10Dを示す
図6(A)において、モータケース30の+Z方向の側面に、エンコーダケース32及び基板38を覆うように、円筒状で+Z方向の端部が閉じられたカバー部材62が設けられている。カバー部材62で覆われた空間はほぼ密閉されている。カバー部材62で覆われた空間内の基板38に、基板38(検出部33)の周囲の雰囲気の温度Te及び湿度Heを計測する温湿度センサ64が設置され、エンコーダケース32の内面の反射符号板34に近接した位置に、反射符号板34(回転軸18)の周囲の雰囲気の温度Tmを計測する温度センサ66が設置されている。温度センサ66で計測される温度Tmは実質的に反射符号板34(パターンPAが形成されている部分)の温度とみなすことができる。
【0043】
本実施形態のエンコーダ部12Dも、シールド板36に設けられたヒータ46と、ヒータ46による加熱を制御するヒータ制御部48Aとを有する。また、温湿度センサ64で計測される温度Te及び湿度He、並びに温度センサ66で計測される温度Tmの情報がヒータ制御部48Aに供給されている。ヒータ制御部48Aには処理回路44から検出信号S1も供給されている。ヒータ制御部48Aは、制御装置16からの制御情報S5に基づいて、温度Te,Tm及び湿度Heの情報及び/又は検出信号S1を用いてエンコーダケース32内での結露の有無を判定し、結露の恐れがあると判定される場合にはヒータ46に通電して、ヒータ46の発熱によって反射符号板34(パターンPA)及び検出部33(光源40及び受光素子42)を加熱する。これ以外の構成は第1の実施形態と同様である。
【0044】
次に、本実施形態の駆動装置10Dにおいてエンコーダケース32内での結露を抑制又は防止するためにヒータ46を用いて加熱する方法の一例につき
図7のフローチャートを参照して説明する。まず、駆動装置10Dの電源投入時には、制御装置16からヒータ制御部48Aに結露の有無の判定を行うことを指示する制御信号S5が出力される。そして、ステップ116において、ヒータ制御部48Aは、温湿度センサ64で計測される基板38の周囲の雰囲気(検出部33の周囲の気体)の温度Te及び湿度He、並びに温度センサ66で計測される反射符号板(スケール)34の周囲の雰囲気の温度Tmを取り込む。ヒータ制御部48Aの記憶部には、エンコーダケース32内の温度Tの気体の飽和蒸気圧A(T)の関数の情報が温度Tの所定範囲(エンコーダケース32内の気体及び反射符号板34(回転軸18)の想定される温度範囲を含む範囲)に関して記憶されている。飽和蒸気圧A(T)は温度Tに関して単調に増加する関数である。
【0045】
図6(B)は、温度Te及びTmの変化の一例を示す。
図6(B)において、横軸は経過時間t、縦軸は温度であり、実線の曲線70eが温度Teを示し、破線の曲線70mが温度Tmを示す。
図6(A)の例では、本実施形態の駆動装置10Dが使用されている工場において、時刻t1に工場の空調装置及び駆動装置10Dが停止する。その後、温度Te(検出部33の雰囲気の温度)が次第に低下するが、反射符号板34及び回転軸18の熱容量は検出部33及び基板38の熱容量よりも大きいため、温度Tm(反射符号板34の温度)の低下は温度Teの低下よりも緩やかである。その後、時刻t2でその工場の空調装置がオンになると、温度Teは次第に上昇するが、温度Tmの上昇は温度Teの上昇よりも遅れている。そして、駆動装置10Dの電源投入は時刻t2の後の時刻t3である。
【0046】
次のステップ118において、ヒータ制御部48Aは、反射符号板34の計測された温度Tmの飽和蒸気圧A(Tm)(反射符号板34(パターンPA)に接する気体の飽和蒸気圧)を求めるとともに、温度Te及び湿度He(%)を用いて次式から検出部33の周囲の気体の蒸気圧B(Te)を求める。
B(Te)=A(Te)・He/100 …(1)
さらに、ステップ120において、ヒータ制御部48Aは、次のように検出部33の周囲の気体の蒸気圧B(Te)が反射符号板34に接する気体の飽和蒸気圧A(Tm)以上であるかどうかを判定する。
【0047】
B(Te)≧A(Tm) …(2)
(2)式が成立する場合には、反射符号板34の表面に結露が生じる恐れがある。なお、次のように通常は検出部33の周囲の温度Teの気体の飽和蒸気圧A(Te)は蒸気圧B(Te)以上である。
A(Te)≧B(Te) …(3)
この際に飽和蒸気圧A(T)は温度Tに関して単調に増加する関数であるため、(2)式が成立する場合は、検出部33の周囲の気体の温度Teは反射符号板34の温度Tm以上である。このため、
図6(B)において、結露が生じる範囲70dは、温度Teが温度Tm以上となる範囲内にある。
【0048】
そこで、ステップ120において(2)式が成立する場合には、結露の恐れがあるため、ステップ106に移行して、ヒータ制御部48Aはヒータ46への通電を開始し、ヒータ46で反射符号板34及び検出部33(光源40及び受光素子42)の周囲の雰囲気の加熱を開始する。この際に、ヒータ制御部48Aは、結露が生じる恐れがあると判定したこと、ヒータ46で加熱中であること、ヒータ46での加熱時間、及びヒータ46での加熱回数(ステップ106に移行した回数)を含む情報S6を制御装置16に出力する。制御装置16では、一例として結露が生じる恐れがある場合には、エンコーダ部12Dの検出結果を用いるモータ部14の駆動を行わない。
【0049】
ヒータ46での加熱時間は、エンコーダ部12Dの構成部材及び回転軸18の熱容量等に応じて予め定められている。その後、動作はステップ116に戻り、ヒータ制御部48Aは温度Te及び湿度He、並びに温度Tmを取り込む。そして、ステップ118で蒸気圧B(Te)を算出し、ステップ120で蒸気圧B(Te)が飽和蒸気圧A(Tm)以上である場合にはステップ106(ヒータ46による加熱)を継続する。これに対して、ステップ120で蒸気圧B(Te)が飽和蒸気圧A(Tm)より小さい場合、結露の恐れがないため、ステップ108に移行する。そして、ヒータ制御部48Aはヒータ46への通電を停止して、ヒータ46による加熱を停止する。これによって、ヒータ46によって無用な加熱を行うことを防止できる。
【0050】
その後、ステップ110において、ヒータ制御部48Aは結露の恐れがなくなりヒータ46による加熱を停止したことを示す情報S6を制御装置16に供給する。この後のステップ110において、エンコーダ部12Dによる回転軸18(反射符号板34)の回転角(又は角速度等)の正確な計測が開始され、ステップ112において、例えば
図6(B)の時刻t4でその計測結果を用いてモータ部14の駆動が開始される。これによって、結露の恐れがない状態で高精度に回転軸18の回転角等を検出でき、この検出結果を用いて回転軸18の回転角等を目標値に高精度に制御できる。その後、温度Te及びTmは互いにほぼ同じ温度になるように安定化する。本実施形態によれば、駆動装置10Dの電源投入(時刻t3)からモータ部14の正確な駆動開始(時刻t4)までの時間を短縮できるため、駆動装置10Dの待機時間を短縮できる。
【0051】
なお、1回目のステップ120において、蒸気圧B(Te)が飽和蒸気圧A(Tm)より小さい場合には、ヒータ46による加熱を行うことなくステップ110に移行して、回転軸18の回転角等の正確な計測を開始することができる。
また、本実施形態において、ステップ120で蒸気圧B(Te)が飽和蒸気圧A(Tm)より小さい場合(結露の恐れがない場合)には、
図3のステップ102,104を実行し、検出部33から出力される検出信号の振幅を求め、その振幅が目標値以上である場合に、実際に結露が生じていないものと判定して、ステップ110に移行してもよい。また、その検出信号の振幅が目標値より小さい場合には、その検出信号の振幅が目標値以上になるまでヒータ46による加熱を行うようにしてもよい。
【0052】
上述のように本実施形態の回転軸18の回転情報(エンコーダ情報S1)を検出するエンコーダ部12Dは、回転軸18(反射符号板34)に設けられたパターンPAを検出する検出部33と、回転軸18に設けられたパターンPA及び検出部33を収容するエンコーダケース32(第1収容ケース)と、パターンPA及び検出部33を加熱するヒータ46(加熱部)と、検出部33の周囲の雰囲気の温度Te及び湿度Heを検出する温湿度センサ64(第1温度センサ及び湿度センサ)と、回転軸18(パターンPA)の周囲の雰囲気の温度Tmを検出する温度センサ66(第2温度センサ)と、温湿度センサ64及び温度センサ66の検出結果に基づいてヒータ46を制御するヒータ制御部48A(加熱制御部)とを備えている。
【0053】
本実施形態によれば、ヒータ制御部48Aが、温度Te,Tm及び湿度Heを用いて例えばパターンPAの表面における結露の恐れがあると判定した場合に、ヒータ46を用いてパターンPA及び検出部33を加熱することによって、結露を抑制又は防止できる。
なお、本実施形態では、次のような変形が可能である。
まず、本実施形態において、ヒータ46はパターンPA(反射符号板34)及び検出部33の両方をほぼ均等に加熱することなく、ヒータ46はパターンPAがある部分を重点的に加熱するようにしてもよい。このためには、ヒータ46を例えばシールド板36の反射符号板34側の面に設けてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、温湿度センサ64が基板38の+Z方向の面に設けられているが、温湿度センサ64を基板38の反射符号板34側の面に設け、温湿度センサ64で検出部33の光源40及び受光素子42の周囲の雰囲気の温度Te及び湿度Heを検出してもよい。この場合、エンコーダケース32を覆うカバー部材62を省略するようにしてもよい。さらに、温度センサ66をエンコーダケース32の内面でより反射符号板34に近い位置に設けてもよい。
【0055】
また、本実施形態では温湿度センサ64によって検出部33の周囲の雰囲気の温度Te及び湿度Heを検出しているが、温湿度センサ64の代わりに温度センサ68(第1温度センサ)を設けて、温度センサ68で検出部33の周囲の雰囲気の温度Teのみを検出してもよい。この場合には、
図6(B)より、検出部33の周囲の温度Teが回転軸18(パターンPA)の周囲の温度Tmよりも所定温度差δT(例えばヒータ46を使用しない場合の温度Teと温度Tmとの差の最大値の数分の1程度)以上に大きいときに、式(2)が成立する恐れがある。このため、温度Teが温度Tmよりも所定温度差δT以上に大きいときに、ヒータ46でパターンPA及び検出部33を(又はパターンPAを重点的に)加熱してもよい。
【0056】
さらに、本実施形態において、エンコーダケース32内にエンコーダケース32内の雰囲気の湿度Hecを計測する湿度センサを設け、温湿度センサ64及び温度センサ66を省略してもよい。この場合、湿度Hecが予め定められた値(例えば経験的に結露が生じる湿度よりもある程度低い湿度)以上になったときに、結露が生じる恐れがあると判定して、ヒータ46でパターンPA及び検出部33を加熱してもよい。
【0057】
また、本実施形態において、ヒータ46ではパターンPA及び検出部33の少なくとも一方、又は検出部33の一部を加熱してもよい。これによって、結露を抑制できる。
また、本実施形態においても、ヒータ46は、シールド板36以外の任意の位置(例えば反射符号板34又はエンコーダケース32の内面)に設けてもよい。さらに、ヒータ46としては発熱抵抗塗膜以外の任意の加熱装置(シート状発熱体又は赤外線ヒータ等)を使用してもよい。
なお、上述の各実施形態において、検出部が例えば磁気センサを含む場合、シールド板36,36Aの代わりに、例えば磁性体よりなり磁力線を遮蔽する磁気シールド部材を使用し、必要に応じてその磁気シールド部材にヒータ46を設けてもよい。
また、各実施形態において、一例としてシールド板36にヒータ46を設ける構成について説明したが、検出部33が、モータ部14側から基板38側に向かう電磁波の影響を受けにくい場合には、シールド板36の代わりに、シールド板36と同じ形状のヒータ支持部材(材質は金属でも非金属でもよい)を設け、このヒータ支持部材にヒータ46を設けても良い。さらに、そのヒータ支持部材自体をヒータとしてもよい。
【0058】
また、上述の各実施形態及びその変形例の駆動装置10,10Dは各種工作機械又はロボット装置の駆動機構として使用できる。
【符号の説明】
【0059】
10,10D…駆動装置、12,12A~12D…エンコーダ部、14…モータ部、16…制御装置、18…回転軸、22…コイル、24…駆動回路、28A,28B…回転軸受、30…モータケース、32…エンコーダケース、34…反射符号板、36,36A…シールド板、40…光源、42,42A…受光素子、44…処理回路、46,46A,46B…ヒータ、48,48A…ヒータ制御部、64…温湿度センサ、66…温度センサ