(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】固体前駆体の低温焼結
(51)【国際特許分類】
C23C 16/448 20060101AFI20220810BHJP
C23C 14/54 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C23C16/448
C23C14/54 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020041681
(22)【出願日】2020-03-11
(62)【分割の表示】P 2018517891の分割
【原出願日】2016-10-06
【審査請求日】2020-04-09
(32)【優先日】2015-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バウム, トーマス エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】リー, ユイチー
(72)【発明者】
【氏名】エルドリッジ, デーヴィッド ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ライト, ロバート エル.
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-502833(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0120723(US,A1)
【文献】特開2012-255193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/448
C23C 14/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長プロセスのための前駆体蒸気を発生させる揮発に有用な固体送達前駆体であって、
前記固体送達前駆体が、自由流動性粉末のエンベロープ密度として測定された、
同じ質量の粒子状の前駆体材料のかさ密度よりも少なくとも20%高い片密度を有し、且つ更に粒子状
の前駆体材料の絶対密度の少なくとも80%であるかさ密度を有する
、圧縮
された粒子状の前駆体材料の固形体を含み、
圧縮された粒子状の前駆体材料の固形体が、五塩化タングステンを含む、固体送達前駆体。
【請求項2】
圧縮
された粒子状の前駆体材料の固形体が揮発操作において加熱されたとき、対応する揮発操作条件下で粒子前駆体によって示される前駆体蒸気流束よりも実質的に高い前駆体蒸気流束を示す、請求項1に記載の固体送達前駆体。
【請求項3】
圧縮
された粒子状の前駆体材料が、20-30℃の周囲温度条件及び約1atmの周囲圧力で固体である、請求項1に記載の固体送達前駆体。
【請求項4】
圧縮
された粒子状の前駆体材料の固形体がバインダ又はマトリックス材料を含む、請求項1に記載の固体送達前駆体。
【請求項5】
圧縮
された粒子状の前駆体材料の固形体が六塩化タングステンを含む、請求項1に記載の固体送達前駆体。
【請求項6】
請求項1に記載
の固体送達前駆体を保持する蒸発器容器を含む蒸発器を含む固体送達装置。
【請求項7】
蒸発器が、キャリヤーガスを容器の内容積に導入するように構成されたガス入口、キャリヤーガスと揮発した前駆体蒸気とのガス混合物を容器の内容積から排出するように構成されたガス出口及びガス入口に連結され且つガス入口から容器の内容積の下部にキャリヤーガスを送達するように構成された流路を含み、
蒸発器が
請求項1に記載の固体送達前駆体のための支持構造物を含み、支持構造物が流路に連結された多数のトレイを含み、トレイが容器の内容積内に互いに対して垂直方向に隔置されている、
請求項6に記載の固体送達装置。
【請求項8】
固体送達前駆体を揮発させて対応する前駆体蒸気を発生させる工程と、気相成長条件下で、前記前駆体蒸気からの材料を基板上に堆積させる工程とを含む気相成長プロセス
であって、前記固体送達前駆体が、請求項1に記載の圧縮された粒子状の前駆体材料の固形体を含む、気相成長プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体前駆体が揮発して、例えば、半導体製品、フラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル、LED及び光学コーティングの製造における気相成長プロセスのための対応する前駆体蒸気を生成する固体送達用途において有用な固体前駆体だけでなく、このような固体前駆体を含む固体送達装置、並びにこのような固体前駆体を調製及び利用するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
揮発して、半導体製品、フラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル、LED及び光学コーティングの製造などの用途のための対応する前駆体蒸気を生成する固体前駆体の使用において、固体前駆体は、加熱されたときに、対応する最大の表面積が固体状から蒸気状への相転移に利用できるように、体積に対する表面積の比を最大にするよう細分された形態で使用されることが多い。
【0003】
固体前駆体、すなわち、周囲温度及び圧力の条件(例えば、25℃及び圧力1atm)で固体である前駆体は、実装及び取り扱い性、体積の考慮、精製の容易さ、並びに製造性に関し、代替の液体又は気体の前駆体に比べて、多くの用途において著しい利益を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の用途において固体前駆体が広く使用されているため、当該技術分野は絶えず、蒸気供給システムの所有コストの低減につながる、このような目的のために利用される蒸気発生操作において前駆体蒸気の流束を増加させる改善だけでなく、このような蒸気発生操作の熱管理の向上、及び蒸発器の同じ容積内に、より多くの前駆体を投入できる形態の前駆体の実現に注目している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、非限定的な例として、化学気相成長、パルス化学気相成長、原子層成長、並びに源材料に対して蒸気が利用される他の方法及び技術などの気相成長プロセスのための固体送達用途において有用である固体源試薬前駆体だけでなく、このような固体前駆体を含む固体送達装置、及びこのような固体前駆体を利用するプロセスに関する。
【0006】
1つの態様において、本開示は、気相成長プロセスのための前駆体蒸気を発生させる揮発に有用な固体源送達前駆体に関し、前記固体送達前駆体は、圧縮粒子前駆体の固形体を含む。
【0007】
別の態様において、本開示は、本開示の固体源送達前駆体の保持に適合させた蒸発器容器を含む蒸発器を含む固体送達装置に関する。
【0008】
別の態様において、本開示は、本開示の固体源送達前駆体の保持に適合させた蒸発器容器を含む蒸発器を含む固体送達装置に関する。
【0009】
別の態様において、本開示は、本開示の固体源送達前駆体を保持する蒸発器容器を含む蒸発器を含む固体送達装置に関する。
【0010】
本開示の別の態様は、半導体製品、フラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル、LED及び光学コーティングからなる群から選択される製品を製造するように構成された製造設備に関し、このような製造設備は、製造設備内の前駆体蒸気利用ツールに前駆体蒸気を送達するために構成された本開示の固体送達装置を含む。
【0011】
別の態様において、本開示は、本開示の固体送達前駆体を揮発させて、対応する前駆体蒸気を発生させる工程と、気相成長条件下で、前駆体蒸気からの材料を基板上に堆積させる工程とを含む気相成長プロセスに関する。
【0012】
本開示の別の態様は、本開示の固体送達前駆体の調製方法に関し、このような方法は、粒子前駆体を単一固形体に固結するのに十分な圧力下で粒子前駆体を圧縮する工程を含む。
【0013】
本開示の他の態様、特徴及び実施態様は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲から、より十分に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】圧縮前駆体を揮発させるための本開示の様々な実施態様において有用なタイプの蒸発器の透視図である。
【
図2】先行ベースライン試験において、対応する蒸発条件下、対応するより低密度の粉末前駆体材料について測定された前駆体蒸気流束と対照し、圧縮前駆体ペレットについて測定された前駆体蒸気流束に関するそれぞれの試験1及び2の1時間平均データ(◆)及び2時間平均データ(■)としてプロットした、それぞれの先行ベースラインと対照した試験1及び2のそれぞれにおける蒸発器内に残留する前駆体の充填重量(グラム)に対する前駆体蒸気の流速(グラム/時間(g/hr))のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、半導体製品、フラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル、LED及び光学コーティングの製造などの気相成長用途のための対応する蒸気を生成する固体送達において有用な固体前駆体に関する。本開示は、固体源前駆体だけでなく、このような固体源前駆体を含む固体送達実装、並びにこのような固体前駆体を調製及び使用するためのプロセスに関する。
【0016】
本開示の背景技術のセクションに示した通り、当該技術分野ではしばしば、細分された形態の固体前駆体が、加熱されて対応する前駆体蒸気を生成する粉末として用いられてきた。このような使用においては、一般に、体積に対する表面積の比を最大にして、加熱された固体粒子から蒸気を発生させる表面積を最大にするために、例えば、ミリング操作及び粉砕操作を用いることにより、粒子材料の粒径を最小にすることが非常に望ましいと考えられてきた。
【0017】
しかし、このような従来の見識に反して、驚くべきことに予想外にも、粒子固体前駆体材料が高度に圧縮されて、例えば、ペレット、プレートレット、タブレット、ビーズ、ディスク、モノリスなどの形態の圧縮固形体を形成するとき、このような圧縮固形体は、前駆体固体から前駆体蒸気を発生させるために用いられる揮発操作において加熱されたとき、前駆体材料の流束のレベルを著しく高くすることができることを見出した。さらに、このような圧縮固形体には、副次的な利点として、粒子輸送及び「ダスティング」、並びに対応する細分された粉末材料が蒸気発生のために用いられるときに発生する固体移動挙動を回避する能力があるだけでなく、下流の前駆体蒸気利用プロセスシステムに送達するために蒸発器容器から排出されつつある蒸気中の前駆体の微粒子の同伴を避けるために必要な蒸発器容器内の微粒子フィルターに関する要件を緩和する。
【0018】
揮発する固体と接触したキャリヤーガスと同一の温度及び流量で、細分された粉末状の対応する前駆体で実現可能な流束に対して、少なくとも15%、最大50%以上、送達される前駆体蒸気の流束を大幅に増加させる本開示の利点が示された。特定の実施態様において、送達される前駆体蒸気の流束の増加量は、20%、25%、30%、35%、40%又は45%の少なくとも何れか、それぞれ、さらに高い値までになり得、特定の範囲における増加量は、最大40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、100%、200%、500%、1000%又はそれ以上になり得る。
【0019】
したがって、本開示は、低密度粉末状の合成されたままの対応する前駆体に対して大幅に圧縮されている圧縮前駆固形体を意図している。様々な実施態様において、圧縮前駆固形体は、個々の圧縮材料片(例えば、ペレット、プレートレット、ビーズ、ディスク、モノリス又は他の圧縮された片形状の形態)のかさ密度を測定するピクノメーター法によって決定される片密度が、自由流動性粉末のエンベロープ密度として測定された同じ質量の粉末状の前駆体のかさ密度よりも少なくとも15%高くなり得、特定の実施態様において、圧縮前駆固形体の片密度は、同じ質量の粒子状の前駆体のかさ密度よりも、少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%、150%及び最大2000%又はそれ以上高くなり得、粒子状の前駆体のかさ密度は、自由流動性粉末のエンベロープ密度として測定され、個々の圧縮材料片のかさ密度は、材料の絶対密度の100%に近くなり得、例えば、材料の絶対密度の少なくとも80%、82%、85%、87%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%及び99%になり得る。
【0020】
このような文脈において用いられるとき、粉末状の前駆体のエンベロープ密度又はかさ密度は、自由流動性粉末を容器又は「エンベロープ」に流し込むことによって決定され、その中で粉末は、決定される密度が粉末サンプル内の細孔、間隙体積及び他のボイド体積を含むように、さらに振動させたり、圧縮させたり、又は固結させたりしない。
【0021】
前駆体材料の絶対密度は、ボイド体積を含まずに決定される密度であり、したがって、ボイドを含まない前駆体材料の固有密度である。
【0022】
圧縮前駆材料体の片密度は、圧縮体内のあらゆるボイドを含むが、圧縮体の外のいかなるボイド体積も含まない圧縮前駆材料体のかさ密度である。
【0023】
圧縮体内のボイドは、圧縮体用の出発材料が受ける圧縮の性質及び程度に応じて減少することを理解されたい。例えば、出発材料は、材料を圧縮して、製品圧縮体として単一の片形状に固結するための圧縮ダイ又は他の装置内で圧縮される粉末状であってもよい。圧縮力の大きさが増すにつれて、ボイドは前駆体材料からさらに「圧迫され」、圧縮体のかさ密度は、前駆体材料の固有密度又は真(絶対)密度に徐々に近くなる。圧縮は、例えば、出発材料が、より高密度の単一体形態に圧縮されるように、ペレットミル、シングルステーションプレス、マルチステーションプレス、押出プレス、又は出発材料に圧縮圧力を加えるように構成されたその他の任意の適した装置によって行われてもよい。
【0024】
圧縮前駆体材料の単一体は、任意の適した寸法を有してもよく、圧縮固体として任意の適した形状又は構造を有してもよい。様々な実施態様において、圧縮前駆体材料は、0.2cm以上の寸法を有する単一体で形成されてもよいが、他の実施態様において、さらに小さいサイズの圧縮前駆体材料単一体が好ましいこともある。例示的な例として、様々な実施態様の前駆体材料の単一体は、その寸法のそれぞれが0.2-2.5cmの範囲内であり、且つその厚さが0.2-2.5cmの範囲内である面を有するプレートレット又はタブレットの形態であってもよい。別の例として、前駆体材料の単一体は、2-20cmの範囲内の直径及び1-4cmの範囲内の厚さを有する円筒パックの形態であってもよい。圧縮前駆体材料の単一体の形状又は構造は、特徴において幾何学的に規則的でも、変則的でもよく、一般に、前駆体材料が内部で使用される特定の蒸発器又は蒸発環境に適切な任意の空間充填幾何形状であってもよい。例えば、いくつかの実施態様において、前駆体材料の単一体は、前駆体材料の単一体が内部に配置される蒸発器容器の内容積の寸法と概して等しくても、又は一致していてもよい。多数の圧縮単一体が用いられるとき、前駆体材料の単一体のサイズ及び形状は、蒸発器の内容積の最適な空間充填を与えるよう選択されてもよい。例えば、単一体は、等しい長さ(L)及び直径(D)の寸法を有する円筒形のペレット、例えば、厚さ2mm、直径2mmのペレット(すなわち、L/D=1)であってもよい。
【0025】
非限定的な例には、Co、Hf、Zr、Al、Ti、W、Mo、Ba、Nb、Pb、Mg、Mn、Ta、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、B、Si、Ge、Sr、La、Y、Ir、Pt、Pd、Rh、Ru、In、Sn、Bi、Y、Ce、Pr、Eu、Er、Yb、Lu及びDy、ハライド、カルボニル、オキシハライド、アルキル、アルコキシド、シクロペンタジエニル、β-ジケトネート、シリル、アミジネート、ホルムアミジネート、カルボキシレート、HfCl4、ZrCl4、AlCl3、TiCl4、WCl6、WCl5、NbCl4、MoOCl4、NbF4、W(CO)6、Mo(CO)6、Co(CO)6、Co2(CO)8、ジコバルトヘキサカルボニルヘキサフルオロ-2-ブチン、ジコバルトヘキサカルボニルtert-ブチルプロピン、ジコバルトヘキサカルボニルトリメチルシリルプロピン、(CO)2CoNO(CNtBu)、(3,3-ジメチル-1-ブチン)ジコバルトヘキサカルボニル、コバルトカルボニルビス(トリメチルシリルアセチレン)、ジコバルトヘキサカルボニルトリメチルシリルアセチレン、ビス(トリメチルシリル)アミドコバルト(II)、トリメトキシペンタメチルシクロペンタイエニル)チタン、ペンタキスジメチルアミノタンタル、トリメチルインジウム、ビスシクロペンタジエンマグネシウム、テトラメチル亜鉛、テトラエチル亜鉛、前述の組み合わせ及び誘導体、並びに20-30℃の周囲温度条件及び約1atmの周囲圧力で固体であるその他の任意の前駆体材料が含まれる。
【0026】
圧縮前駆体単一体を形成するための出発材料は、このような単一体を形成するよう圧縮できる任意の適した出発材料形態であってもよい。好ましくは、出発材料は、粉末又は粒状材料のように細分された形態である。出発材料は、単一体に圧縮されたとき、その後、このような形態で前駆体材料をその後に使用するために十分な構造的完全性を保持しなければならない。例えば、圧縮前駆体材料単一体は、前駆体蒸気を発生させる使用ポイントで蒸発器に投入されるとき、十分な構造的完全性を望ましく保持して、このような投入並びに蒸発器のその後の設置及び初期使用の間、単一体形態を維持し、実装及び製造場所から使用ポイントまでの輸送に適応する十分な構造的完全性を有利に有する。一般に、少なくとも初期の蒸発操作を通して、圧縮前駆体材料の元の単一体形態を維持することが望ましいが、場合によっては、圧縮材料のより大きな初期体が、例えば、圧縮前駆材料体に熱を加えたときに、構成要素のより小さな片に分割するように、分割層又はエバネッセント領域を有する圧縮前駆体材料の単一体を形成することが望ましい場合がある。
【0027】
この点に関して、蒸発器容器の製造ポイントで、又は充填ポイントで圧縮前駆体材料単一体が蒸発器内に配置される場合、充填された蒸発器はその後、密閉容器として使用場所まで輸送され、次いで、圧縮材料単一体は、その後の蒸気発生操作に悪影響なく、このような取り扱い及びその後の輸送、並びに使用のために蒸気を発生させるプロセス設備における蒸発器容器の設置に適応しなければならない。したがって、その後の蒸発操作の少なくとも初期段階を通して維持され、最小限の摩耗、ダスティング挙動などを伴う形態で、圧縮前駆体材料の単一体を形成することが好ましい。
【0028】
一般に、圧縮材料は、粒子が、固結した塊に互いに結合して前駆体材料の単一体を形成する出発材料の顆粒であるように十分に自己付着性であるべきであり、或いは、圧縮材料が単一体形態を維持するほど十分に自己付着性でない場合、単一体形態が満足のいくように得られ、本開示の前駆体材料の生成中に維持されるように、不活性な不揮発性のバインダ又は他のマトリックス材料が出発材料に加えられてもよい。
【0029】
バインダ又はマトリックス材料は、このような場合、前駆体蒸気を発生させるために圧縮材料単一体に施す揮発条件において、好ましくは不揮発性であり、又は、このような条件において揮発性である場合は、バインダ又はマトリックス材料の対応する蒸気は、発生した前駆体蒸気が流される気相成長プロセスに対して望ましく無害である。バインダ又はマトリックス材料は例えば、不揮発性の非反応性ポリマー媒体、高純度の不揮発性炭素質材料、或いは高純度且つ不揮発性の非反応性の特徴を有する他の適したバインダ又はマトリックス材料を含んでもよく、この特徴は、その後の取り扱い、実装及び少なくとも初期使用の間、その単一体形態を保持するように、圧縮前駆体材料に構造的完全性を与えるのに効果的である。したがって、バインダ又はマトリックス材料は、対応する前駆体材料が利用される固体送達揮発及び気相成長プロセスに対して望ましく不活性である。
【0030】
場合によっては、出発材料の組成は、同じ出発材料中の同族化合物又は密接に関係している化合物に関して、圧縮前駆体材料単一体の形態及び物理的特性に影響を与える。例えば、場合によっては、様々な少量の六塩化タングステンを含む五塩化タングステンと六塩化タングステンの混合物は、同様の構造的完全性及び形態的特徴を実現するために、異なるレベルの圧縮が必要であったことが明らかになっている。前駆体出発材料中の関連化合物の特定の混合組成に最も有利な圧力レベル及び温度条件を決定するための特定の圧縮条件は容易に経験的に決定され得ることを理解されたい。関連材料の混合物が意図されるが、前駆体蒸気の発生には純粋な前駆体材料が好ましい。
【0031】
一般に、前駆体出発材料の圧縮は、粒子前駆体出発材料を固結させるために、周囲温度又は周囲温度付近の条件、例えば、15℃-30℃の範囲内の温度で実施され得る。粒子前駆体出発材料を固結させるために、いくつかの実施態様では、圧縮操作においてさらに高い温度が用いられる場合があり、他の実施態様では、前駆体出発材料の圧縮において、より熱い(高温の)加工が望ましい場合がある。
【0032】
本出願の1つの実施態様は、段落[0027]に列挙した材料のうちの少なくとも1つを使用して、20-30℃の間の温度及び約4800psi-48500psi(約326-3300atm)の範囲の圧力で材料をプレスすることによって、固体前駆体粒子から圧縮前駆体組成物を形成することを含む。
【0033】
本出願の別の実施態様において、段落[0027]の材料の純粋な組成物の前駆体粒子材料、及びそれらからのみ作り出された組み合わせが用いられて圧縮前駆体固体材料を生成し、材料は、250℃未満の圧縮時の昇華温度を有し、約4800psi-48500psi(約326-3300atm)の範囲の圧力でプレスできるような材料である。したがって、この実施態様の利点は、圧縮時に用いられる温度が250℃未満であるとき、好ましくは、20-30℃の温度範囲で、材料の崩壊及び割れが最小限になることである。さらに、20-250℃の温度で圧縮すると、粉末形態などの非圧縮の形態と比べて、材料の密度が劇的に高くなり、したがって、得られる圧縮固体前駆体材料が生成される粒子材料に関連する結晶密度の少なくとも50パーセントをこの固体前駆体材料は達成する。
【0034】
本出願の別の実施態様において、実質的に純粋な、又は完全に純粋な粉末形態の五塩化タングステン粒子は、約4,800psi(約326atm)で20-30℃の間で圧縮される。粉末形態で、五塩化タングステンの密度は0.3-0.5gm/cm3である一方、圧縮されると3.0-3.2gm/cm3の間の密度が認められ、前記密度は、五塩化タングステンを相当含むことが明らかになった固体組成物に関連する約3.8gm/cm3の結晶密度の86パーセントであった。さらに、本出願のこの実施態様のために、約85%-95%の五塩化タングステン及び5%-15%の六塩化タングステンを含む材料を使用することができる。さらに、五塩化タングステンと併せて六塩化タングステンを用いる利点は、この組み合わせによって、得られる圧縮固体の密度が高くなり、割れが減ることであることに留意されたい。したがって、この実施態様により得られる固体前駆体の密度は、同じ材料から構成される結晶性固体の約80パーセントであり、粉末形態の少なくとも6倍である。
【0035】
本出願の別の実施態様において、粉末形態の五塩化タングステン-六塩化タングステン粒子材料は、35,000psiを超える圧力で100℃-175℃の間の温度で圧縮され、3.5gm/cm3を超える密度を有する圧縮固体材料が得られる。
【0036】
本出願の別の実施態様において、粉末形態のタングステンカルボニルを相当含む前駆体材料粒子を約4,800psi(約326atm)で20-30℃の間でプレスした。得られた圧縮固体前駆体材料は、約1.7gm/cm3の密度を有していたが、粒子状タングステンカルボニルの粉末形態は、1.0gm/cm3の密度を有していた。タングステンカルボニルに関連する結晶密度は約2.6gm/cm3である。したがって、得られた固体前駆体材料の密度は、その粒子形態に対して70パーセント高くなり、タングステンカルボニルの純粋な結晶性固体の約60%の密度を有していた。
【0037】
固体前駆体材料の圧縮は、ダイプレス、静水圧プレスによって、本出願において他に表されている可能性のある技術によって、又は、当技術分野において既知のプレスの他の形態を用いることによって実現することができる。圧縮又はその他の間に加熱が必要なとき、加熱は、電気抵抗加熱(加熱テープ)を用いることによって実現することができて、所望の温度は、圧縮時、レーザー光源、電気誘導の利用、炎源もしくはガス源の利用によって、摩擦の利用によって、本出願において他に表されている可能性のある技術によって、又は、当技術分野において既知のプレスの他の形態を用いることによって得ることができる。
【0038】
本出願の様々な実施態様の利益は、蒸発器容器を含むが、これに限定されない輸送容器内に、より多くの材料を入れることができるように、圧縮前駆体材料の密度を高める能力であることに留意されたい。
【0039】
本開示の圧縮単一体前駆体材料を用いて、このような圧縮単一体が形成される粒子材料に対してさらに高い前駆体蒸気の流束の実現が可能になり得るが、このような圧縮単一体の粒子源材料で実現可能な流束と等しいか、又はそれよりもさらに低い流束を発生させるが、前駆体材料の圧縮単一体形態に、取り扱いが容易である、粒子が同伴しにくいなどの他の利点がある様々なプロセス条件下で、圧縮単一体が利用されてもよい。
【0040】
本開示はさらに、本開示の固体送達装置からの蒸気の供給を必要とする製品を製造するように構成された製造設備を意図しており、固体送達装置は、本開示の固体送達前駆体を含む蒸発器を含み、製造設備は、固体送達装置の蒸発器から製造設備内の蒸気利用ツールに蒸気を送達するための構成内の固体送達装置を含む。
【0041】
図1は、圧縮前駆体を揮発させるための本開示の様々な実施態様において有用なタイプの蒸発器の透視図である。
【0042】
蒸発器10は、例えば、銀、銀合金、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉛、ニッケルクラッド、ステンレス鋼、黒鉛、炭化ケイ素被覆黒鉛、窒化ホウ素、セラミック材料などの何れか、或いはこのようなタイプの材料のうちの2つ以上の組み合わせ、混合物又は合金などの適した熱伝導材料で製作された容器12を含む。容器は、これらの表面(一又は複数)に保護被覆を含んでもよい。
【0043】
容器は、床14と、容器の内容積を一緒に形成する外接側壁16とを含む。容器は、その内容積を通る一様なキャリヤーガス流を容易にする任意の適した形状を有することができる。
図1に示す例示的な実施態様において、容器は円筒形である。容器は蓋18を含み、その上には、弁が開いているとき、キャリヤーガスを容器の内容積に選択的に導入するよう配置されたキャリヤーガス入口弁20が取り付けられている。
【0044】
容器の内容積内に配置されているのは、複数の垂直積層トレイ22である。積層トレイは、容易な洗浄及び補充のために互いに分離可能であり、容器から取り外し可能である。容器内に配置されているのは内部キャリヤーガスダウンチューブ23であり、入口弁20に関連する蓋内のガス入口に、例えば、溶接、ろう付けなどによって接続されており、垂直積層トレイの配列内の最も下のトレイ下方の内容積の底部にキャリヤーガスを運ぶ。示した実施態様において、ダウンチューブ23は、トレイの床を通って延びる各トレイの円筒カラーを通過する。ダウンチューブとトレイの床との接合部で漏れないシールを確保する助けとなるように、シール用Oリング38が連続するトレイの間に配置されてもよい。別の外側のOリングも使用して、各トレイ側壁の上面でトレイ間をシールすることができる。
【0045】
例示の通り、個々のトレイ22のそれぞれは、床及び側壁を有し、圧縮前駆体の単一体の配置及び支持のためのトレイのキャビティを形成する。トレイは、好ましくは、例えば、銀、銀合金、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉛、ニッケルクラッド、ステンレス鋼、黒鉛、炭化ケイ素被覆黒鉛、窒化ホウ素、セラミック材料、或いは前述のうちの2つ以上の組み合わせ、混合物又は複合材などの非反応性の熱伝導材料で製作される。トレイは、連続するトレイの積層として、蒸発器容器の内容積内に互いに対して垂直方向に隔置されてもよい。トレイのこのような積層において、隣接するトレイ間の間隔は、積層全体にわたって一定であってもよく、或いは、蒸発器容器の内容積内の前駆体蒸気発生流束が、このような内容積全体にわたって適切に高いレベルで維持されるように、蒸発器の操作中に前駆体材料が最適に消費される異なる間隔距離でトレイが隔置されてもよい。
【0046】
蒸発器容器の内容積が前駆体材料支持トレイの配列を含むとき、トレイは互いに同じであってもよく、或いは、トレイの配列は、異なるタイプのトレイを含んでもよい。例えば、様々な実施態様において、配列内の異なるトレイで保持された前駆体材料の圧縮単一体の体積が変化し得るように、トレイは、外接側壁に取り囲まれた異なる高さのものであってもよい。したがって、より低い側壁を有するトレイで保持されるよりも大きな前駆体材料の圧縮単一体の体積を保持する、より高い側壁を有するトレイが用いられてもよい。
【0047】
図1の例示した実施態様の個々のトレイのそれぞれは、複数の貫通管30を含み、各貫通管は、キャリヤーガスが貫通管内を移動するための流路を含む。貫通管は、その内部を通るガス流を実現する任意の形状又は構成を有することができる。好ましくは、貫通管は円筒形又は円錐形である。様々な実施態様の貫通管は、トレイの床から上向きに延び、トレイの床内の対応する開口部と連絡している中央の流路を画定する。他の実施態様において、貫通管は、同じようにトレイの床から上向きに延びているが、中央の流路がトレイの床の上方及び下方の両方で、例えば、その中央の孔として貫通管で囲まれるようにトレイの下方で下向きにも貫通管は延びている。
【0048】
貫通管は、任意の適した物質において、例えば、溶接、ろう付け、機械的な留め具の取り付け、プレス嵌め、スエージングなどによってトレイの床に固定することができる。或いは、貫通管は、トレイの床の一部として一体成形することができる。特定の実施態様において、貫通管のそれぞれの高さはトレイ側壁とほぼ同じ高さであるが、貫通管のそれぞれの高さが、このような側壁よりも高い、又は低い他の実施態様が意図される。
【0049】
蒸発器の容器の内容積内に垂直に延びる積層配列を形成するようトレイが積層可能であるように、それぞれのトレイの側壁は十分な高さのものであり得る。
【0050】
別の実施態様において、トレイは、側壁なしで製作されてもよく、円周方向のシール用ガスケットと共に容器の内壁表面の支持を利用して、或いは他の取り付け構造物又は要素を利用して内容積内に取り付けられてもよい。トレイが、組立品として互いに対して垂直方向に隔置されて取り付けられる別の実施態様が意図される。例えば、蒸発器の組立時及び分解時に、所望の通り容器の内容積に挿入され、容器の内容積から引き出される単一の配列として、フレーム又は他の位置決め構造物の上にトレイを取り付けることができる。
【0051】
1つの特定の実施態様において、トレイのそれぞれは外接側壁を有し、各貫通管の高さはトレイ側壁の高さよりも低く、それによって、それぞれのトレイ内でガスが分散及び循環するためのヘッドスペースが貫通管の端部の上方に設けられる。
【0052】
代替的又は追加的に、その内部に多孔質の開口部を有するトレイを、トレイ上面で支持された前駆体の圧縮単一体と共に製作することができて、キャリヤーガスは、貫通管及び/又は多孔質の開口部を通って流れ、蒸発器の操作中に前駆体の圧縮固形体から揮発する前駆体蒸気を取り込む。トレイ構造物内に存在する貫通管及び/又は多孔質の開口部の寸法は、トレイ上に支持された前駆体の圧縮固形体を保持するようなものになることが理解されるであろう。その他の種々の実施態様において、トレイのそれぞれ、或いはそのうちの一又は複数は、蒸気発生操作中にその内部をガスが流れてもよく、且つその上に圧縮前駆体材料が支持される透過流路を形成する、焼結金属マトリックス又は焼結セラミックマトリックス材料などの多孔質のフリット材料で形成されてもよい。
【0053】
多孔質のフリットはまた、所望の程度まで粒子がなくなるように、排出されつつある前駆体蒸気を濾過するために、蒸発器装置の前駆体蒸気出口で用いられてもよい。多孔質のフリットはまた、前駆体材料の圧縮単一体と接触させるための蒸発器装置に導入されつつあるキャリヤーガスを相応に濾過するために、蒸発器装置のキャリヤーガス入口で用いられてもよい。
【0054】
様々な実施態様において、各貫通管は、トレイの底部から、例えば、約0.5mm-約5mmの範囲内、より好ましくは約1.5mm-約3.0mmの範囲内にすることができる高さまで、垂直に上向きに延びている。
【0055】
図1に示す通り、各トレイ内の貫通管の位置決めは、隣接するトレイ内の貫通管の位置からわずかにずれている場合があり、それによって、得られるキャリヤーガスと前駆体蒸気とのガス混合物が貫通管を通って次の隣接するトレイ領域内に運ばれる前に、キャリヤーガスを前駆体の圧縮固形体と接触させるために、キャリヤーガスをトレイ内で循環させる。このような配置によって、キャリヤーガスと前駆体の圧縮固形体との複数のレベルの接触により、キャリヤーガスが高効率で飽和するようになる。
【0056】
蒸発器10のサイズは、化学気相成長(CVD)装置、パルスCVD装置、原子層成長(ALD)装置、イオン注入システム、スパッタリング装置又は気相エピタキシー装置などの下流の流体利用装置に供給される蒸気の量に応じて大きく変化させることができる。様々な実施態様において、蒸発器は、約3-6インチの範囲内にあってもよい内径を有する円筒構造を有する。蒸発器容器の内容積内のトレイの数は、蒸発器のサイズによって決定される。様々な実施態様において、3-5枚のトレイが蒸発器容器に封入される。
【0057】
前駆体の圧縮固形体を蒸発させるのに適切な所望の温度、蒸発器から下流の前駆体蒸気利用設備に送達されるキャリヤーガス混合物中の前駆体蒸気の所望の濃度、及び蒸発操作において用いられる特定の組の操作条件で、多数のトレイを含む蒸発器を加熱及び維持することができる。
【0058】
蒸発器容器の加熱は、任意の適した方法で実施することができる。1つの実施態様において、リボンヒーターが蒸発器の周りに巻かれる。別の実施態様において、蒸発器の外面の少なくとも主要な部分を覆う形状を有するブロックヒーターを用いて蒸発器容器を加熱する。さらに別の実施態様において、高温の熱伝達流体を蒸発器容器の外面と接触させて、蒸発器容器を加熱してもよい。別の実施態様は、蒸発器容器に当てている赤外又は他の放射エネルギーによる加熱を含む。蒸発器容器に関連する流れ回路、或いはその選択された構成要素又は部品もまた、固体送達プロセスの特定の実施において必要に応じて、又は望ましく加熱されてもよい。
【0059】
別の実施態様の本発明は、容器内で高温ガスを循環させて、蒸発器内で前駆体の圧縮固形体を対流加熱することにより源試薬を加熱することを意図している。
【0060】
蒸発器容器の加熱方法は、それによって蒸発器が、前駆体の圧縮固形体を揮発させるための所望の温度レベルになり、このような温度レベルに正確に信頼性高く維持される限り特に限定されない。
【0061】
容器の内容積内の温度偏差が最小限になるように、蒸発器容器を熱的に一様に加熱することが望ましい。トレイが壁と直接熱的に接触している特定の実施態様において、壁からの熱伝導によるこのようなトレイの加熱は、前駆体の圧縮固形体をトレイ上で蒸発させる好都合で効果的な方法を提供する。
【0062】
いくつかの用途では、蒸発器容器の内容積内に加えられた表面領域構造を利用して、前駆体の圧縮固形体を揮発させるためのその加熱の程度及び速度を高めることが望ましい場合がある。
【0063】
前駆体の圧縮固形体の高効率の蒸発を実現するための別の得策として、キャリヤーガスを蒸発器容器の内容積に導入する前に加熱して、前駆体の圧縮固形体の加熱及びその揮発を助けてもよい。例えば、キャリヤーガスを入口弁20に供給するフローラインをヒートトレース又は加熱して、所望の温度レベルでキャリヤーガスを蒸発器容器に送達してもよい。
【0064】
いくつかの用途において、より一定した温度を加工中に維持するために、蒸発器容器が大きな熱質量を有することが望ましい場合がある。所与の用途において用いられる蒸発器の特定の温度は、下流の前駆体蒸気利用装置、例えば、CVD装置、ALD装置又はイオン注入システムの操作条件、並びに供給される前駆体の圧縮固形体の特定のタイプ、蒸気圧及び量に依存する。様々な実施態様において、適した範囲内又は適した値、例えば、約40℃-約300℃の範囲内、200℃-300℃の範囲内、又は他の特定の温度範囲内の蒸発器温度が用いられてもよい。
【0065】
前駆体の圧縮固形体を利用する蒸発器送達システムは、特定の実施態様において、以下を様々にさらに含むことができる:キャリヤーガスを蒸発器容器に供給するためのライン;源試薬蒸気を蒸発器容器から排出するためのライン;流れ回路構成要素、例えば、流量制御弁、質量流量コントローラ、レギュレータ、流れを制限するオリフィス要素、熱電対、圧力変換器、監視装置及び制御装置、熱エネルギーを蒸発器容器に投入するためのヒーター、キャリヤーガス供給ライン内及び源試薬蒸気排出ライン内の温度を維持するためのヒーターなど。
【0066】
いくつかの実施態様において、前駆体蒸気排出ラインの加熱は、このような排出ライン内での凝縮を防ぐために、蒸発温度よりも高い温度を維持するように実施される。排出ラインの加熱の程度は、凝縮を回避するために必要な安全マージンが得られる任意の適したレベルであってもよい。例えば、特定の用途において、ラインは、前駆体材料の蒸発温度を5-10℃上回る温度まで加熱されてもよい。他の実施態様において、前駆体蒸気の分解温度に近づくが、それよりも低い高温まで前駆体蒸気排出ラインを加熱することが望ましい場合がある。
【0067】
本開示による前駆体の圧縮固形体を揮発するために利用される蒸発器装置は多種多様なタイプのものであってもよく、
図1に関連して例示的に説明した特定の蒸発器と類似していても、或いは著しく異なっていてもよいことを理解されたい。例えば、蒸発器は、前駆体の圧縮固形体のための他の支持構造物を利用してもよく、或いは、容器の内容積内に特定の付属支持構造物又は表面がない、前駆体の圧縮固形体の床で完全に充填された蒸発器容器を含んでもよい。
【0068】
本開示の圧縮前駆体の特徴及び利点を、本開示の特定の実施態様を例示する以下の非限定的な実施例を参照してさらに詳しく示す。
【0069】
実施例1
【0070】
ペレット化前に粒径40-90μm及び粉末密度0.3-0.5g/mLを有するような前駆体の粉末状の出発材料から五塩化タングステンの圧縮ペレットを調製した。出発粉末材料に加えた圧力は4800psiであった。得られた円筒形のペレットを、直径13.8mm及び厚さ2.0-2.7mmを有するディスクに成形した。ペレットの密度は3-3.2g/mLの範囲であった。ペレット1キログラム(1kg)をMegaVap(商標)蒸発器(Entegris,Inc.(米国マサチューセッツ州ビルリカ))に投入して加熱し、対応する前駆体蒸気を発生させた。結果を、粉末状出発材料1キログラム(1kg)を同じ加熱条件下、同じ蒸発器に導入して前駆体蒸気を発生させた対応する先行試験(「先行ベースライン」)と比べた。
【0071】
2つの異なる組のプロセス条件で連続試験を実施した。第1の組のプロセス条件(試験1)は、キャリヤーガス予熱(+5℃)、蒸発器弁加熱(+10℃)及び排出ガスライン加熱(+20℃)と共に、蒸発器温度165℃、蒸発器内の体積流量500標準立方センチメートル/分(sccm)、蒸発器圧力60torrのアルゴンのキャリヤーガス流で前駆体蒸気を4時間発生させるための蒸発器の操作を含んでいた。第2の組のプロセス条件(試験2)は、キャリヤーガス予熱(+5℃)、蒸発器弁加熱(+10℃)及び排出ガスライン加熱(+20℃)と共に、蒸発器温度160℃、蒸発器内の体積流量200標準立方センチメートル/分(sccm)、蒸発器圧力15torrのアルゴンのキャリヤーガス流で前駆体蒸気を4時間発生させるための蒸発器の操作を含んでいた。
【0072】
連続試験の結果を
図2に示す。図中、それぞれの先行ベースラインと対照した試験1及び2のそれぞれにおける蒸発器内に残留する前駆体の充填重量(グラム)に対する前駆体蒸気の流速(グラム/時間(g/hr))がプロットされている。
図2のデータは、対応する蒸発条件下、対応する粉末前駆体材料について測定された前駆体蒸気流束と対照し、圧縮前駆体ペレットについて測定された前駆体蒸気流束に関するそれぞれの試験1及び2の1時間平均データ(◆)及び2時間平均データ(■)としてプロットされている。
【0073】
試験1の4時間の蒸発器の操作において、ペレット化した前駆体を含む蒸発器容器からの前駆体蒸気流束は、先行ベースラインの41.9g/hrの前駆体蒸気流束に対して、前駆体蒸気が一貫して56-62g/hrの範囲内にあり、増加量が34-48%、平均増加量が40%を超える前駆体蒸気流束の増加を示した。
【0074】
試験2の4時間の蒸発器の操作において、蒸発器操作開始時の蒸発器容器からの前駆体蒸気流束は、先行ベースラインの80g/hrの前駆体蒸気流束値を大幅に上回り、ペレット化した前駆体を使用した蒸気発生の最初の1時間の平均値は先行ベースライン値よりも15%高く、ペレット化した前駆体を使用した蒸気発生の最初の2時間の平均値は先行ベースライン値よりも10%程度高い。
【0075】
試験2のペレット化した前駆体のそれぞれの流束レベルは、先行ベースライン値を下回るレベルまで継続的な低下を示したが、このような試験1のデータとの不一致は、蒸発器の操作中の固体の減少の初期段階の蒸発器に起因していた。その理由は、試験1の蒸発器は、ペレット化した前駆体で完全に充填されたが、試験2の蒸発器は、70%未満の量のペレット化した前駆体を含んでおり、試験1での実施よりも大幅に高い流束レベルでさらに急速に減少したためである。とはいえ、データは、プロセス条件を適切に選択することによって、粉末前駆体を使用して達成可能な流束レベルと比べて、本開示の圧縮前駆体を使用する蒸発器容器から著しく高いレベルの前駆体蒸気流束を実現することが可能であることを示す。
【0076】
本明細書では本発明の特定の態様、特徴及び例示的な実施態様に関して本開示を説明してきたが、本開示の有用性は、そのように限定されず、むしろ、本開示の分野の当業者なら本明細書の説明に基づいて思いつく多数の他の変形、修正及び代替の実施態様にまで及び、且つこれらを包含することを理解されたい。それに応じて、以下に記載の本開示は、その趣旨及び範囲にすべてのこのような変形、修正及び代替の実施態様を含むよう広く解釈されることが意図される。