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特許7121682フライアッシュ含有セメント組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】フライアッシュ含有セメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/26 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
C04B7/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019069093
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164392
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山下 牧生
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 智彦
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-66020(JP,A)
【文献】特開2015-194475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英結晶の平均結晶子径が73nm以上88nm以下の範囲内にあるフライアッシュ及び石膏を含み、ブレーン値が4200cm/g以上5300cm/g以下の範囲内にあって、Lab表色系におけるb値が4.8以上9.0以下の範囲内にあり、SO含有量が0.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内にあるフライアッシュ組成物と、セメント組成物とを、前記フライアッシュ組成物と前記セメント組成物の合計量に対する前記フライアッシュ組成物の量が0.5質量%以上35質量%以下の範囲内となる割合で混合する工程を含むフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法。
【請求項2】
前記フライアッシュは、不溶残分が82質量%以上98質量%以下の範囲内にある請求項1に記載のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法。
【請求項3】
前記セメント組成物が、ブレーン値が3000cm/g以上3900cm/g以下の範囲内にあって、SO含有量が2.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内にある普通ポルトランドセメント組成物である請求項1または2に記載のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法。
【請求項4】
前記セメント組成物が、ブレーン値が4000cm/g以上5000cm/g以下の範囲内にあって、SO含有量が2.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内にある早強ポルトランドセメント組成物である請求項1または2に記載のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法。
【請求項5】
前記セメント組成物が、ブレーン値が3000cm/g以上4000cm/g以下の範囲内にあって、SO含有量が2.0質量%以上3.5質量%以下の範囲内にある中庸熱ポルトランドセメント組成物である請求項1または2に記載のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュ含有セメント組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フライアッシュは、石炭火力発電所の発電ボイラーで微粉炭を燃焼させた際に、高温のガス中で溶融した燃え殻が凝集することによって生成した粒子であって、その粒子中から電気集塵機で捕集された微粒子の粉末である。フライアッシュは、二酸化ケイ素(SiO)および酸化アルミニウム(Al)を主成分とするポゾランを含む。このポゾランは、セメントに含まれている水酸化カルシウム(Ca(OH))と反応(ポゾラン反応)して水和物を生成し、モルタルまたはコンクリートの強度発現性に寄与する。このポゾラン反応は、常温では反応速度がセメントに比較して緩慢である。このため、フライアッシュは、例えば、低熱性が要求されるマスコンクリートの混和材料として用いられる。また、フライアッシュは球状粒子を多く含み、流動性向上に寄与することからコンクリートにおける単位水量を軽減可能であり、耐久性に優れたコンクリートを得ることができる。
【0003】
フライアッシュとセメントを含むフライアッシュ含有セメント組成物は、下記の文献に記載されている。
特許文献1には、ブレーン比表面積が1000cm/g以上のフライアッシュを、普通ポルトランドセメントに対して2重量%以上混合したことを特徴とするフライアッシュ含有セメント組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、フライアッシュを含むセメント99.7~90重量部と塩素バイパスダスト0.3~10重量部とからなるフライアッシュ含有セメント組成物が開示されている。
特許文献3には、エーライト高含有クリンカーに石膏を添加してなるセメントと、フライアッシュとを含むフライアッシュ含有セメント組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-255380号公報
【文献】特開平10-218657号公報
【文献】特開2017-154905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フライアッシュ含有セメント組成物は、様々な現場で同じ条件で利用できるように、モルタルやコンクリートとしたときの強度発現性や流動性が安定していることが望ましい。フライアッシュ含有セメント組成物で使用されるセメントは、一般に品質が安定している。しかしながら、フライアッシュは石炭火力発電所において発生する副生物であり、その石炭火力発電所の発電ボイラーの構成や燃焼条件あるいは微粉炭の種類などの生成条件によって、ガラス状態(ガラス化率)や粒度分布などの品質が大きく異なる。このため、フライアッシュ含有セメント組成物をモルタルやコンクリートとしたときの強度発現性や流動性は、フライアッシュの生成条件によって大きく変動し、安定して高い強度発現性と流動性を示すフライアッシュ含有セメント組成物を得るのが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、モルタルやコンクリートとしたときに高い強度発現性と流動性を示すフライアッシュ含有セメント組成物を安定して得ることができるフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の発明者は鋭意検討を行った結果、石英結晶の平均結晶子径が特定の範囲にあるフライアッシュと石膏とを、ブレーン値、Lab表色系におけるb値およびSO量が所定の範囲内となるように混合して得たフライアッシュ組成物を、所定の割合でセメント組成物と混合することによって、モルタルやコンクリートとしたときに高い強度発現性と流動性を示すフライアッシュ含有セメント組成物を安定して製造することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
従って、本発明のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法は、石英結晶の平均結晶子径が73nm以上88nm以下の範囲内にあるフライアッシュ及び石膏を含み、ブレーン値が4200cm/g以上5300cm/g以下の範囲内にあって、Lab表色系におけるb値が4.8以上9.0以下の範囲内にあり、SO含有量が0.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内にあるフライアッシュ組成物と、セメント組成物とを、前記フライアッシュ組成物と前記セメント組成物の合計量に対する前記フライアッシュ組成物の量が0.5質量%以上35質量%以下の範囲内となる割合で混合する工程を含む。
【0010】
本発明のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法において、セメント組成物と混合するフライアッシュ組成物は、フライアッシュの石英結晶の平均結晶子径、ブレーン値、Lab表色系におけるb値、そしてSO量がそれぞれ上記の範囲内にあるので、フライアッシュに含まれているポゾランとセメントに含まれている水酸化カルシウムとのポゾラン反応が起こりやすく水和物を生成しやすい。また、本発明の製造方法では、フライアッシュと石膏とを予め混合したフライアッシュ組成物として、セメント組成物と混合するので、フライアッシュと石膏とをそれぞれ分けてセメント組成物と混合した場合と比較して、セメント組成物中にフライアッシュと石膏とが均一に分散される。そして、石膏に含まれるSO成分がポゾラン反応の反応助剤として作用することによって、ポゾラン反応が均一に進行する。このため、本発明の製造方法によって得られるフライアッシュ含有セメント組成物を用いたモルタルやコンクリートは、強度発現性が向上する。また、フライアッシュ組成物は、ブレーン値が上記の範囲内にあるので、フライアッシュ粒子の凝集が抑制される。このため、本発明の製造方法により得られるフライアッシュ含有セメント組成物を用いたモルタルやコンクリートは、流動性が向上する。以上の理由から、本発明のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法によれば、モルタルやコンクリートとしたときに高い強度発現性と流動性を示すフライアッシュ含有セメント組成物を安定して製造することが可能となる。
【0011】
ここで、本発明のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法において、前記フライアッシュは、不溶残分が82質量%以上98質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、フライアッシュは不溶残分の主成分であるポゾランが多くなるので、ポゾラン反応がより起こりやすく水和物を生成しやすい。このため、モルタルやコンクリートとしたときの強度発現性がより向上したフライアッシュ含有セメント組成物を安定して製造することが可能となる。
【0012】
また、本発明のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法において、前記セメント組成物は、ブレーン値が3000cm/g以上3900cm/g以下の範囲内にあって、SO含有量が2.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内にある普通ポルトランドセメント組成物であってもよい。
この場合、モルタルやコンクリートとしたときに高い強度発現性と流動性を示す、普通ポルトランドセメント組成物と前記フライアッシュ組成物を構成材料とするフライアッシュ含有セメント組成物を安定して製造することが可能となる。
【0013】
また、本発明のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法において、前記セメント組成物は、ブレーン値が4000cm/g以上5000cm/g以下の範囲内にあって、SO含有量が2.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内にある早強ポルトランドセメント組成物であってもよい。
この場合、モルタルやコンクリートとしたときに高い強度発現性と流動性を示す、早強ポルトランドセメント組成物と前記フライアッシュ組成物を構成材料とするフライアッシュ含有セメント組成物を安定して製造することが可能となる。
【0014】
さらに、本発明のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法において、前記セメント組成物は、ブレーン値が3000cm/g以上4000cm/g以下の範囲内にあって、SO含有量が2.0質量%以上3.5質量%以下の範囲内にある中庸熱ポルトランドセメント組成物であってもよい。
この場合、モルタルやコンクリートとしたときに高い強度発現性と流動性を示す、中庸熱ポルトランドセメント組成物と前記フライアッシュ組成物を構成材料とするフライアッシュ含有セメント組成物を安定して製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モルタルやコンクリートとしたときに高い強度発現性と流動性を示すフライアッシュ含有セメント組成物を安定して得ることができるフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法について説明する。
本実施形態のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法は、所定のフライアッシュ組成物とセメント組成物とを混合する工程を含む。本実施形態のフライアッシュ含有セメント組成物において用いるフライアッシュ組成物は、フライアッシュと石膏とを含む。
【0017】
フライアッシュは、石炭を燃焼させた際に生成する灰である。本実施形態においては、フライアッシュとして、主として、石炭火力発電所の発電ボイラーで微粉炭を燃焼させた際に生成した灰が用いられる。
フライアッシュは、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを主成分とするポゾランを含む。フライアッシュに含まれる二酸化ケイ素は、平均結晶子径は73nm以上88nm以下の範囲内にある石英結晶を含む。平均結晶子径がこの範囲にある石英結晶はポゾラン反応が起こりやすくなり、フライアッシュ含有セメント組成物をモルタルやコンクリートとしたときの強度発現性を向上させる効果が高くなる。石英結晶の平均結晶子径は、73nm以上85nm以下の範囲内にあることがより好ましい。フライアッシュ中の石英結晶の含有量は、5質量%以上30質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0018】
また、フライアッシュは、不溶残分が82質量%以上98質量%以下の範囲内にあることが好ましい。不溶残分は、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」に規定される塩酸-炭酸ナトリウム方法による不溶残分の定量方法に準拠して測定した値である。この方法によって測定される不溶残分は、フライアッシュに含まれるポゾランの量と相関し、不溶残分が多くなるとポゾランの量が多くなる。よって、不溶残分がこの範囲にあるフライアッシュはポゾランの量が多くなり、フライアッシュ含有セメント組成物をモルタルやコンクリートとしたときの強度発現性を向上させる効果が高くなる。不溶残分は82質量%以上95質量%以下の範囲内にあることがより好ましく、82質量%以上92質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0019】
フライアッシュ組成物に含まれる石膏は、無水石膏であることが好ましい。石膏に含まれるSO成分は、ポゾラン反応の反応助剤として作用して、フライアッシュ含有セメント組成物をモルタルやコンクリートとしたときの強度発現性を向上させる作用がある。また、SO成分は、フライアッシュ含有セメント組成物をモルタルやコンクリートとしたときの流動性を向上させる作用がある。
【0020】
フライアッシュ組成物は、ブレーン値が4200cm/g以上5300cm/g以下の範囲内にあって、Lab表色系におけるb値が4.8以上9.0以下の範囲内にあり、SO量が0.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内に調整されている。
【0021】
ブレーン値は、フライアッシュ組成物の粉末度(粉体の細かさ)を指標する。ブレーン値が大きいと、フライアッシュ組成物の粒子径が小さくなる。フライアッシュ組成物は粒子径が小さくなるとポゾラン反応は起こりやすくなるが、粒子径が小さくなりすぎると、凝集しやすくなって流動性が低下するおそれがある。このため、本実施形態ではブレーン値を4200cm/g以上5300cm/g以下の範囲内と設定している。
【0022】
Lab表色系におけるb値は、フライアッシュ組成物の鉱物組成、化学組成および粉末度に関係する。b値が低くなりすぎると、活性度指数が低下するおそれがある。一方、b値が高くなりすぎると、流動性が低下するおそれがある。このため、本実施形態ではLab表色系におけるb値を4.8以上9.0以下の範囲内と設定している。Lab表色系におけるb値は6.9以上9.0以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0023】
SO量は、石膏の含有量の指標である。SO量が少なくなりすぎると、上述のSO成分による効果が得られにくくなるおそれがある。一方、SO量が多くなりすぎると、フライアッシュ含有セメントをモルタルやコンクリートとしたときの長期材齢での強度発現性を向上させる効果が低下するおそれがある。このため、本実施形態ではSO量を0.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内と設定している。SO量は1.0質量%以上3.0質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0024】
フライアッシュ組成物の製造方法は特に制限はない。フライアッシュ組成物は、例えば、フライアッシュと石膏とを混合した後、粉砕および/または分級することによって製造することができる。
なお、原料のフライアッシュとしては、原料受け入れ時に、石英結晶の平均結晶子径と、ブレーン値を4200cm/g以上5300cm/g以下の範囲内に調整したときのLab表色系におけるb値とを測定し、石英結晶の平均結晶子径が73nm以上88nm以下の範囲内にあって、b値が4.8以上9.0以下の範囲内となったものを使用する。また、原料の石膏としては、原料受け入れ時に、ブレーン値を4200cm/g以上5300cm/g以下の範囲内に調整したときのLab表色系におけるb値を測定し、b値が4.8以上9.0以下の範囲内となったものを使用する。
【0025】
フライアッシュと石膏との混合は乾式で行うことが好ましい。また、フライアッシュと石膏との混合は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。例えば、エアースライダーやベルトコンベアーなどの搬送装置を用いて、連続的にフライアッシュを搬送しながら、石膏を添加し、次いで混合装置を用いて混合してもよい。混合装置としては、V型混合機、リボンミキサー、プロ-シェアミキサー等を用いることができる。
【0026】
フライアッシュと石膏との混合割合は、得られるフライアッシュ組成物のSO量が0.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内となる割合である。フライアッシュがSOを含有する場合は、フライアッシュ中のSOと石膏中のSOの合計量が0.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内となるように調整する。
【0027】
粉砕あるいは分級は、得られるフライアッシュ組成物のブレーン値が4200cm/g以上5300cm/g以下の範囲内となるように行う。粉砕あるいは分級は、乾式で行うことが好ましい。粉砕は、ボールミル、ビーズミル、竪型ミル、ロッドミル、振動ミル、回転ミル、転動ミル、ジェットミルなどの粉砕装置を用いて行うことができる。分級は、乾式で行うことが好ましい。分級は、気流を利用した分級装置、あるいは篩などの装置を用いて行うことができる。気流を利用した分級装置としては、渦式遠心方式の分級装置、サイクロンなどを用いることができる。
【0028】
また、フライアッシュ組成物は、粉砕あるいは分級によってブレーン値を4200cm/g以上5300cm/g以下に調整したフライアッシュと、粉砕あるいは分級によってブレーン値を4200cm/g以上5300cm/g以下に調整した石膏とを混合することによって製造することができる。
【0029】
セメント組成物に含まれる石膏は、SO量として2.0質量%以上3.5質量%以下の範囲内にあることが好ましく、2.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0030】
セメント組成物に含まれるセメントとしては、ポルトランドセメントおよび混合セメントを用いることができる。ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントを含む。混合セメントは、高炉セメント、シリカセメントを含む。セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントであることが好ましい。
【0031】
セメント組成物の製造方法は特に制限はない。セメント組成物は、例えばセメントクリンカーと石膏とを混合し、粉砕することによって製造することができる。混合粉砕装置としては、ボールミル、ビーズミル、竪型ミル、ロッドミル、振動ミル、回転ミル、転動ミル、ジェットミルなどの粉砕装置を用いることができる。
【0032】
セメントクリンカーと石膏との混合割合は、通常は、得られるセメント組成物のSO量が2.0質量%以上3.5質量%以下の範囲内となる割合である。セメントクリンカーがSOを含有する場合は、セメントクリンカー中のSOと石膏中のSOの合計量が、2.0質量%以上3.5質量%以下の範囲内となるように調整する。
【0033】
普通ポルトランドセメントを含む普通ポルトランドセメント組成物は、ブレーン値が3000cm/g以上3900cm/g以下の範囲内にあって、SO含有量が2.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内にあることが好ましい。普通ポルトランドセメントのクリンカーの組成は、CS(3CaO・SiO)の含有量が50質量%以上70質量%以下の範囲内、CS(2CaO・SiO)の含有量が5質量%以上20質量%以下、CA(3CaO・Al)の含有量が5質量%以上12質量%以下、CAF(4CaO・Al・FE)の含有量が5質量%以上12質量%以下、SOの含有量が1.0質量%以上2.0質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0034】
早強ポルトランドセメントを含む早強ポルトランドセメント組成物は、ブレーン値が4000cm/g以上5000cm/g以下の範囲内にあって、SO含有量が2.5質量%以上3.5質量%以下の範囲内にあることが好ましい。早強ポルトランドセメントのクリンカーの組成は、CSの含有量が55質量%以上75質量%以下、CSの含有量が3質量%以上15質量%以下、CAの含有量が5質量%以上12質量%以下、CAFの含有量が5質量%以上12質量%以下、SOの含有量が1.0質量%以上2.0質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0035】
中庸熱ポルトランドセメントを含む中庸熱ポルトランドセメント組成物は、ブレーン値が3000cm/g以上4000cm/g以下の範囲内にあって、SO含有量が2.0質量%以上3.5質量%以下の範囲内にあることが好ましい。中庸熱ポルトランドセメントのクリンカーの組成は、CSの含有量が30質量%以上50質量%以下、CSの含有量が30質量%以上50質量%以下、CAの含有量が1質量%以上8質量%以下、CAFの含有量が5質量%以上15質量%以下、SOの含有量が0.5質量%以上1.5質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0036】
フライアッシュ組成物とセメント組成物との混合割合は、フライアッシュ組成物とセメント組成物の合計量に対するフライアッシュ組成物の量が0.5質量%以上35質量%以下の範囲内、好ましくは1.0質量%以上35質量%以下の範囲内となる割合である。フライアッシュ組成物の割合が少なくなりすぎると、フライアッシュ組成物の添加効果を得るのが困難となるおそれがある。一方、フライアッシュ組成物の割合が多くなりすぎると、得られるフライアッシュ含有セメント組成物をモルタルやコンクリートとしたときの強度発現性が低下し、強度の高いセメント硬化物を得るのが困難となるおそれがある。
【0037】
以上のような構成とされた本実施形態のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法によれば、セメント組成物と混合するフライアッシュ組成物は、フライアッシュの石英結晶の平均結晶子径、ブレーン値、Lab表色系におけるb値、そしてSO量がそれぞれ上述の範囲内にあるので、フライアッシュに含まれているポゾランとセメントに含まれている水酸化カルシウムとのポゾラン反応が起こりやすく水和物を生成しやすい。また、本実施形態の製造方法では、フライアッシュと石膏とを予め混合したフライアッシュ組成物として、セメント組成物と混合するので、フライアッシュと石膏とをそれぞれ分けてセメント組成物と混合した場合と比較して、セメント組成物中にフライアッシュと石膏とが均一に分散される。そして、石膏に含まれるSO成分がポゾラン反応の反応助剤として作用することによって、ポゾラン反応が均一に進行する。このため、本実施形態の製造方法によって得られるフライアッシュ含有セメント組成物を用いたモルタルやコンクリートは、強度発現性が向上する。また、フライアッシュ組成物は、ブレーン値が上述の範囲内にあるので、フライアッシュ粒子の凝集が抑制される。このため、本実施形態の製造方法によって得られるフライアッシュ含有セメント組成物を用いたモルタルやコンクリートは、流動性が向上する。以上の理由から、本発明のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法によれば、モルタルやコンクリートとしたときの強度発現性と流動性とが向上したフライアッシュ含有セメント組成物を安定して製造することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態のフライアッシュ含有セメント組成物の製造方法において、フライアッシュの不溶残分が82質量%以上98質量%以下の範囲内にある場合は、得られるフライアッシュ含有セメント組成物に含まれるポゾランが多くなるので、セメントに含まれている水酸化カルシウムとのポゾラン反応がより起こりやすく水和物を生成しやすい。このため、モルタルやコンクリートとしたときの強度発現性がより向上したフライアッシュ含有セメント組成物を安定して製造することが可能となる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、フライアッシュを主として、石炭火力発電所の発電ボイラーで微粉炭を燃焼する際に生じた灰としたが、石炭火力発電所の発電ボイラー以外で生成したフライアッシュを用いてもよい。
【実施例
【0040】
[フライアッシュ組成物の調製]
フライアッシュとして、石英結晶の平均結晶子径と不溶残分とが下記の表1に示す値の(FA1~3)を用意した。このフライアッシュと無水石膏とをプロ-シェアミキサーを使用して、回転数300回/分の条件で10分間混合し、得られた混合物を強制渦式遠心方式の分級装置(ターボクラシファイアー、日清エンジニアリング(株)製)を用いて分級して、フライアッシュ組成物A~Cを調製した。
【0041】
得られたフライアッシュ組成物のブレーン値、Lab表色系におけるb値、SO量を下記の表1に示す。なお、フライアッシュの石英結晶の平均結晶子径、不溶残分、フライアッシュ組成物のブレーン値、Lab表色系におけるb値、SO量は下記の方法により測定した。
【0042】
(石英結晶の平均結晶子径)
フライアッシュの石英結晶の平均結晶子径は、フライアッシュのX線回折パターンを、粉末X線回折装置を用いて測定し、得られたX線回折パターンをリートベルト解析法により解析することによって求めた。粉末X線回折装置としては、ブルカージャパン製のD8 Advanceを用いた。X線はCuKα線(λ=0.15418nm)を用い、測定範囲2θは10~70°とした。その他のX線回折パターンの測定条件は、下記の参考文献01に記載されている条件と同じとした。
参考文献01:M. Yamashita, Y. Koga, H. Tanaka, Y. Nakanishi, “Conditions of sample preparation for quantitative X-ray diffraction of cement clinker,” Cement Science and Concrete technology, Vol. 63, pp. 49-54, (2009)
【0043】
リートベルト解析法による解析は、ブルカーエイエックスエス社製リートベルト解析ソフトTOPAS(ver.3)を使用した。具体的には,測定範囲内にある石英に帰属する回折線の全てをPawley法によりフィッティングした後、試料による回折線の広がりを算出した。
そして、試料による回折線の広がりと、結晶子径と不均一ひずみとの関係を表す下記の式(1)を用いて、結晶子径を算出した。
β=λ/(ε×cosθ)+2ηtanθ ・・・(1)
式(1)において、βは、試料による回折線の広がりを表し、λは、X線の波長を表し、εは、結晶子径を表し、θは、X線の回折角度を表し、ηは不均一ひずみを表す。なお、本実施例では、試料による回折線の広がりは全て結晶子径に起因するものとして、不均一ひずみ(η)の値は固定値とした。
【0044】
(不溶残分)
JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」に規定される塩酸-炭酸ナトリウム方法による不溶残分の定量方法に準拠して測定した。
【0045】
(ブレーン値)
JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に規定される比表面積試験器(ブレーン空気透過測定装置)に準拠して測定した。
【0046】
(Lab表色系におけるb値)
測色色差計を用いて測定した。
【0047】
(SO量)
JIS R 5204:2002「セメントの蛍光X線分析方法」に規定されるガラスビードを用いた蛍光X線分析により計測した。
【0048】
【表1】
【0049】
[本発明例1~2、比較例1]
セメント組成物として、普通ポルトランドセメント(クリンカー)と無水石膏とを混合粉砕して得た普通ポルトランドセメント組成物を用意した。この普通ポルトランドセメント組成物の製造で使用したクリンカーの組成と、普通ポルトランドセメント組成物のSO量とブレーン値を、下記の表2に示す。なお、表2中のクリンカー組成は、クリンカーを100質量%とした値である。
【0050】
【表2】
【0051】
上記の普通ポルトランドセメント組成物と上記のフライアッシュ組成物A~Cとを、普通ポルトランドセメント組成物とフライアッシュ組成物の合計含有量に対するフライアッシュ組成物の含有量が下記の表3に示す量となるように混合して、フライアッシュ含有セメント組成物を製造した。普通ポルトランドセメント組成物とフライアッシュ組成物は、プロ-シェアミキサーを用い、回転数300回/分の条件で10分間混合した。
【0052】
[比較例2]
フライアッシュセメント組成物Aの代わりに、フライアッシュFA1と無水石膏とを、フライアッシュセメント組成物Aに相当する割合で、かつ普通ポルトランドセメント組成物とフライアッシュFA1と無水石膏(SO量)の合計含有量に対するフライアッシュFA1と無水石膏(SO量)の合計含有量が下記の表3に示す量となるように混合したこと以外は、本発明例1と同様にしてフライアッシュ含有セメント組成物を製造した。
【0053】
[評価]
本発明例1~2、比較例1~2で得られたフライアッシュ含有セメント組成物について、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して、モルタルのフロー値(落下運動15回)と、モルタルの圧縮強さ(材齢3日、7日、28日)を測定した。その結果を、下記の表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
フライアッシュの石英結晶の平均結晶子径と、フライアッシュ組成物のブレーン値、Lab表色系におけるb値及びSO含有量が本発明の範囲にある本発明例1、2で得られたフライアッシュ含有普通ポルトランドセメント組成物は、上記の石英結晶の平均結晶子径やブレーン値などの物性が本発明の範囲よりも低い比較例1で得られたフライアッシュ含有普通ポルトランドセメント組成物と比較して、モルタルとしたときのフロー値及び圧縮強さが高くなることがわかる。この結果から、フライアッシュの石英結晶の平均結晶子径と、フライアッシュ組成物のブレーン値、Lab表色系におけるb値及びSO含有量が本発明の範囲にあることによって、モルタルとしたときの強度発現性と流動性が向上することが確認された。
【0056】
また、本発明例1で得られたフライアッシュ含有普通ポルトランドセメント組成物は、本発明例1で使用したフライアッシュFA1と、無水石膏と、普通ポルトランドセメント組成物とを、本発明例1と同じ割合で混合した比較例2で得られたフライアッシュ含有普通ポルトランドセメント組成物と比較して、モルタルとしたときのフロー値及び圧縮強さが高くなることがわかる。これは、フライアッシュと無水石膏とを予め混合してフライアッシュ組成物として、セメント組成物と混合することによって、セメント組成物中にフライアッシュと石膏とが均一に分散したためであると考えられる。
【0057】
[本発明例3~4、比較例3]
セメント組成物として、早強ポルトランドセメント(クリンカー)と無水石膏とを混合粉砕して得た早強ポルトランドセメント組成物を用意した。この早強ポルトランドセメント組成物の製造で使用したクリンカーの組成と、早強ポルトランドセメント組成物のSO3量とブレーン値を、下記の表4に示す。なお、表4中のクリンカー組成は、クリンカーを100質量%とした値である。
【0058】
【表4】
【0059】
上記の早強ポルトランドセメント組成物と上記のフライアッシュ組成物A~Cとを、早強ポルトランドセメント組成物とフライアッシュ組成物の合計含有量に対するフライアッシュ組成物の含有量が下記の表5に示す量となるように混合したこと以外は、本発明例1と同様にしてフライアッシュ含有セメント組成物を製造した。
【0060】
[比較例4]
フライアッシュセメント組成物Aの代わりに、フライアッシュFA1と無水石膏とを、フライアッシュセメント組成物Aに相当する割合で、かつ早強ポルトランドセメント組成物とフライアッシュFA1と無水石膏(SO量)の合計含有量に対するフライアッシュFA1と無水石膏(SO量)の合計含有量が下記の表5に示す量となるように混合したこと以外は、本発明例1と同様にしてフライアッシュ含有セメント組成物を製造した。
【0061】
[評価]
本発明例3~4、比較例3~4で得られたフライアッシュ含有セメント組成物について、モルタルのフロー値と、モルタルの圧縮強さを本発明例1と同様に測定した。その結果を、下記の表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
フライアッシュの石英結晶の平均結晶子径と、フライアッシュ組成物のブレーン値、Lab表色系におけるb値及びSO含有量が本発明の範囲にある本発明例3、4で得られたフライアッシュ含有早強ポルトランドセメント組成物は、上記の石英結晶の平均結晶子径やブレーン値などの物性が本発明の範囲よりも低い比較例3で得られたフライアッシュ含有早強ポルトランドセメント組成物と比較して、モルタルとしたときのフロー値及び圧縮強さが高くなることがわかる。
また、本発明例3で得られたフライアッシュ含有早強ポルトランドセメント組成物は、本発明例3で使用したフライアッシュFA1と、無水石膏と、普通ポルトランドセメント組成物とを、本発明例3と同じ割合で混合した比較例4で得られたフライアッシュ含有早強ポルトランドセメント組成物と比較して、モルタルとしたときのフロー値及び圧縮強さが高くなることがわかる。
【0064】
[本発明例5~6、比較例5]
セメント組成物として、中庸熱ポルトランドセメントと無水石膏とを混合して得た中庸熱ポルトランドセメント組成物を用意した。この中庸熱ポルトランドセメント組成物の製造で使用したクリンカーの組成と、中庸熱ポルトランドセメント組成物のSO量とブレーン値を、下記の表6に示す。なお、表6中のクリンカー組成は、クリンカーを100質量%とした値である。
【0065】
【表6】
【0066】
上記の中庸熱ポルトランドセメント組成物と上記のフライアッシュ組成物A~Cとを、中庸熱ポルトランドセメント組成物とフライアッシュ組成物の合計含有量に対するフライアッシュ組成物の含有量が下記の表7に示す量となるように混合したこと以外は、本発明例1と同様にしてフライアッシュ含有セメント組成物を製造した。
【0067】
[比較例4]
フライアッシュセメント組成物Aの代わりに、フライアッシュFA1と無水石膏とを、フライアッシュセメント組成物Aに相当する割合で、かつ中庸熱ポルトランドセメント組成物とフライアッシュFA1と無水石膏(SO量)の合計含有量に対するフライアッシュFA1と無水石膏(SO量)の合計含有量が下記の表7に示す量となるように混合したこと以外は、本発明例1と同様にしてフライアッシュ含有セメント組成物を製造した。
【0068】
[評価]
本発明例5~6、比較例5~6で得られたフライアッシュ含有セメント組成物について、モルタルのフロー値と、モルタルの圧縮強さを本発明例1と同様に測定した。その結果を、下記の表7に示す。
【0069】
【表7】
【0070】
フライアッシュの石英結晶の平均結晶子径と、フライアッシュ組成物のブレーン値、Lab表色系におけるb値及びSO含有量が本発明の範囲にある本発明例5、6で得られたフライアッシュ含有中庸熱ポルトランドセメント組成物は、上記の石英結晶の平均結晶子径やブレーン値などの物性が本発明の範囲よりも低い比較例5で得られたフライアッシュ含有中庸熱ポルトランドセメント組成物と比較して、モルタルとしたときのフロー値及び圧縮強さが高くなることがわかる。
また、本発明例5で得られたフライアッシュ含有中庸熱ポルトランドセメント組成物は、本発明例5で使用したフライアッシュFA1と、無水石膏と、普通ポルトランドセメント組成物とを、本発明例5と同じ割合で混合した比較例6で得られたフライアッシュ含有中庸熱ポルトランドセメント組成物と比較して、モルタルとしたときのフロー値及び圧縮強さが高くなることがわかる。