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特許7121721繊維強化プラスチック用樹脂組成物、その硬化物、及び該硬化物からなる繊維強化プラスチック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック用樹脂組成物、その硬化物、及び該硬化物からなる繊維強化プラスチック
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20220810BHJP
   C08K 5/315 20060101ALI20220810BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20220810BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20220810BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K5/315
C08J5/24 CFC
C08G59/32
C08G59/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019501855
(86)(22)【出願日】2018-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2018006883
(87)【国際公開番号】W WO2018155672
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2017035565
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲留 将人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直博
(72)【発明者】
【氏名】森野 一英
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-504499(JP,A)
【文献】特開昭62-246924(JP,A)
【文献】特開2017-008236(JP,A)
【文献】特開2014-019815(JP,A)
【文献】特開2016-210922(JP,A)
【文献】特開2011-162710(JP,A)
【文献】特開2009-013205(JP,A)
【文献】特開平08-225667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
C08J 5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シアン酸エステル、(B)エポキシ樹脂、及び(C)25℃で液状の芳香族アミン系硬化剤を含み、
下記式(1)で表される(A)シアン酸エステルの平均シアネート基数が2.1以上、及び/又は下記式(2)で表される(B)エポキシ樹脂の平均エポキシ基数が2.1以上であり、
(B)エポキシ樹脂が、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルアニリン及びN,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)アニリンから選択される少なくとも1種の多官能エポキシ樹脂を含有する、繊維強化プラスチック用樹脂組成物。
【数1】

(式(1)において、nは(A)シアン酸エステルに含まれるシアン酸エステル成分の種類数を表し、Aは(A)シアン酸エステルに含まれるi番目のシアン酸エステル成分のシアネート基数を表し、Xは(A)シアン酸エステルにおけるi番目のシアン酸エステル成分の質量基準の含有割合を表す。)
【数2】

(式(2)において、nは(B)エポキシ樹脂に含まれるエポキシ樹脂成分の種類数を表し、Bは(B)エポキシ樹脂に含まれるk番目のエポキシ樹脂成分のエポキシ基数を表し、Yは(B)エポキシ樹脂におけるk番目のエポキシ樹脂成分の質量基準の含有割合を表す。)
【請求項2】
(A)シアン酸エステルが、下記一般式(3-1)で表される化合物、下記一般式(3-1)で表される化合物のプレポリマー、及び下記一般式(3-2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物及び/又はプレポリマーを含有する、請求項1に記載の繊維強化プラスチック用樹脂組成物。
【化1】

(一般式(3-1)において、Rは単結合、-S-又は2価の炭化水素基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、非置換、又は1~4個のアルキル基で置換されているフェニレン基を表し、
及びRが2~4個のアルキル基で置換されている場合、該アルキル基は同一の場合があり、異なる場合がある。)
【化2】

(一般式(3-2)において、nは1~10の整数を表し、Rは水素原子、又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。)
【請求項3】
上記一般式(3-1)で表される化合物が、下記一般式(3-3)で表される化合物である、請求項2に記載の繊維強化プラスチック用樹脂組成物。
【化3】

(一般式(3-3)において、Rは、単結合、メチレン基、-CH(CH)-、-C(CH-、又は下記一般式(4-1)~(4-8)で表される何れかの官能基を表し、
、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。)
【化4】

(一般式(4-3)において、mは4~12の整数を表し、
一般式(4-1)~(4-8)中の*は結合手を表す。)
【請求項4】
(C)25℃で液状の芳香族アミン系硬化剤が、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、及びジアミノジエチルトルエンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、請求項1~3の何れか1項に記載の繊維強化プラスチック用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の繊維強化プラスチック用樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の樹脂組成物及び強化繊維を含有する組成物を硬化させてなる、繊維強化プラスチック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック用樹脂組成物に関し、より詳しくは、シアン酸エステルのシアネート基数とエポキシ樹脂のエポキシ基数を調整して、ガラス転移点温度(Tg)と、繊維強化プラスチックに適用した時の強度とのバランスが良好な、繊維強化プラスチック用樹脂組成物、及び該組成物の硬化物を含有してなる繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維等の繊維材料に対し、補強材として熱硬化性のエポキシ樹脂や、不飽和ポリエステル、ポリアミド樹脂、又はフェノール樹脂を用いて成型物を作る方法は周知である。この方法を用いた繊維強化プラスチックは、航空機、船舶などの構造体の材料や、テニスラケット、ゴルフクラブ等のスポーツ用品に広く使われている。エポキシ樹脂は、接着性、耐熱性、耐薬品性に優れているだけでなく安価であることから、バランスの良い材料として補強材に使用されることが多い。
【0003】
エポキシ樹脂組成物は優れた電気的性能と接着力を有するが、エポキシ樹脂に、さらにシアン酸エステルを混合した場合には、硬化の際にトリアジン環を形成することにより剛直で高耐熱性の硬化物を得ることができることから、半導体の封止材料、あるいは電子回路基板等の成形用途に多用されている。
【0004】
特許文献1には、エポキシ樹脂、シアン酸エステルにポリイミド樹脂を添加して、薄膜のプリプレグを製造し、そのプリプレグを積層することにより電気特性や耐熱性の良好な銅張積層板を提供することが記載されている。引用文献1に記載の発明では、ポリイミド樹脂により高耐熱性の樹脂組成物を達成しているが、この発明を繊維強化プラスチック用に適用した場合には、ポリイミドが固形であることから、溶剤を用いないと使用が困難であること、及び溶剤を用いた場合には乾燥工程なども経由しなければならないなど、作業性に問題が生じてしまうこという問題があった。また、ポリイミド樹脂を用いない場合においては、耐熱性や諸物性において課題があった。
【0005】
特許文献2には、ビフェニル骨格を有する多官能シアン酸エステルを使用したプリプレグ、及び積層板が提供することが記載されている。引用文献2に記載の積層板やプリント配線基板は、高耐熱、低誘電特性を有している。しかしながら、引用文献2に記載の発明を繊維強化プラスチックを製造するために利用した場合、硬化物の繊維に対する追従性が悪く、引張りや曲げなどの諸物性を測定した場合、繊維と樹脂組成物間の剥離などが見られ、結果的に満足のいく繊維強化プラスチックを得ることができないという問題があった。
【0006】
通常、シアン酸エステルとエポキシ樹脂を用いた硬化系では、シアン酸エステルが活性水素を持つ硬化剤と作用して、活性種となった後、その活性種がエポキシ樹脂と反応し、高分子量化が進行する。シアン酸エステルのシアネート基数、又はエポキシ樹脂のエポキシ基数が少なすぎる場合には、反応点が少なく高分子量化が進行しづらく、満足のいく硬化物が得られない。
【0007】
更には、シアン酸エステルとエポキシ樹脂を用いた硬化系では、使用する硬化剤においても適切なものを選択する必要がある。例えば、メタキシリレンジアミンやイソホロンジアミンなどの脂肪族アミンのような反応性の高い硬化剤では、繊維強化プラスチック用に適用した場合に可使時間が短く、繊維に含浸する前に樹脂組成物が硬化してしまい、均一な繊維強化プラスチックが得られない。また、特許文献3のように、常温で固形の潜在性硬化剤を用いた場合には、可使時間は確保できるものの、硬化剤が固形であるので繊維強化プラスチックに適用しようとする場合に、繊維の表面から硬化剤が浸透しづらく、シアン酸エステル、及びエポキシ樹脂と、硬化剤とが分離してしまって、硬化反応が適切に進行しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-294689号公報
【文献】特開2010-174242号公報
【文献】米国特許8911586号公報
【発明の概要】
【0009】
従って、本発明が解決しようとする課題は、高耐熱性であり、さらに、繊維強化プラスチックを製造するために使用した場合、繊維への追従性に優れ、引張や曲げなどの諸物性が良好な繊維強化プラスチックを得ることができる樹脂組成物を提供することである。
【0010】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討し、シアン酸エステル、エポキシ樹脂を使用した場合において、系内の平均シアネート基数、及び平均エポキシ基数をコントロールし、硬化剤として25℃で液状の芳香族アミンを使用することにより、耐熱性と諸物性のバランスが良好な硬化物をえることができる樹脂組成物を見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、(A)シアン酸エステル、(B)エポキシ樹脂、及び(C)25℃で液状の芳香族アミン系硬化剤を含み、下記式(1)で表される(A)シアン酸エステルの平均シアネート基数が2.1以上、及び/又は下記式(2)で表される(B)エポキシ樹脂の平均エポキシ基数が2.1以上である、繊維強化プラスチック用樹脂組成物である。
【0011】






【数1】
【0012】
(式(1)において、nは(A)シアン酸エステルに含まれるシアン酸エステル成分の種類数を表し、Aは(A)シアン酸エステルに含まれるi番目のシアン酸エステル成分のシアネート基数を表し、Xは(A)シアン酸エステルにおけるi番目のシアン酸エステル成分の質量基準の含有割合を表す。)
【0013】
【数2】
【0014】
(式(2)において、nは(B)エポキシ樹脂に含まれるエポキシ樹脂成分の種類数を表し、Bは(B)エポキシ樹脂に含まれるk番目のエポキシ樹脂成分のエポキシ基数を表し、Yは(B)エポキシ樹脂におけるk番目のエポキシ樹脂成分の質量基準の含有割合を表す。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物の実施形態について説明する。
[(A)シアン酸エステル]
本発明で使用する(A)成分であるシアン酸エステルは、分子中にシアネート基を有する化合物である。(A)成分であるシアン酸エステルは1種類のシアン酸エステルからなる場合があり、又は複数種類のシアン酸エステルの混合物である場合もある。(A)成分であるシアン酸エステルは、下記式(1)で表した時の(A)成分全体の平均シアネート基数が、2.1以上であることが好ましい。
【0016】
【数3】
【0017】
(式(1)において、nは(A)シアン酸エステルに含まれるシアン酸エステル成分の種類数を表し、Aは(A)シアン酸エステルに含まれるi番目のシアン酸エステル成分のシアネート基数を表し、Xは(A)シアン酸エステルにおけるi番目のシアン酸エステル成分の質量基準の含有割合を表す。)
【0018】
上記式(1)については、例えば、(A)シアン酸エステルが3種類のシアン酸エステルを含有する混合物である場合、nは3となる。この時、3種類のシアン酸エステルはそれぞれ成分1、成分2、成分3と表され、各成分のシアネート基数はA、A、Aで表される。また、成分A1、2、の質量基準の含有割合は、それぞれX、X、Xで表され、この時の平均シアネート基数は、{(A×X)+(A×X)+(A×X)}/100で計算される。そして、本発明で使用される(A)シアン酸エステルは、上記式(1)によって得られたシアネート基数の値が、2.1以上となることが好ましい。
上記平均シアネート基数は、硬化物のTgと繊維強化プラスチックの信頼性とのバランスの観点から、2.1~5.0であることが好ましく、2.2~5.0であることがより好ましく、2.4~4.1であることが更に好ましい。平均シアネート基数が前記の範囲より多い場合、樹脂組成物の粘度が高くなり、繊維へ樹脂組成物全量を含浸させることができず、繊維強化プラスチックの成形が困難になる傾向にある。
【0019】
本発明で使用される(A)シアン酸エステルが1種類のシアン酸エステルからなる場合、上記の該シアン酸エステルのシアネート基数が上述の範囲であることが好ましい。また、本発明の(A)シアン酸エステルが複数種類のシアン酸エステルの混合物である場合、混合物におけるシアン酸エステルの配合量を調整することによって、混合物の上記平均シアネート基数を上述の範囲とすることが好ましい。
【0020】
本発明の(A)シアン酸エステルとしては、例えば、下記一般式(3-1)で表される化合物、下記一般式(3-1)で表される化合物のプレポリマー、及び下記一般式(3-2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物及び/又はプレポリマーを用いることが好ましい。
【0021】
【化1】
【0022】
(一般式(3-1)において、Rは単結合、-S-又は2価の炭化水素基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、非置換、又は1~4個のアルキル基で置換されているフェニレン基を表し、
及びRが2~4個のアルキル基で置換されている場合、該アルキル基は同一の場合があり、異なる場合がある。)
【0023】
【化2】
【0024】
(一般式(3-2)において、nは1~10の整数を表し、Rは水素原子、又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。)
【0025】
一般式(3-1)中のRで表される2価の炭化水素基としては、炭素原子数1~8のアルキレン基、炭素原子数3~13のシクロアルキレン基、炭素原子数6~12のアリーレン基、アリーレンアルキレン基、アリーレンジアルキレン基等が挙げられる。
炭素原子数1~8のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、1,2-ジメチルプロピレン、1,3-ジメチルプロピレン、1-メチルブチレン、2-メチルブチレン、3-メチルブチレン、4-メチルブチレン、2,4-ジメチルブチレン、1,3-ジメチルブチレン、ペンチレン、へキシレン、ヘプチレン、オクチレン、エタン-1,1-ジイル、プロパン-2,2-ジイル等が挙げられる。
炭素原子数3~13のシクロアルキレン基としては、1,2-シクロプロピレン基、1,3-シクロヘプチレン基、トランス-1,4-シクロヘキシレン基等が挙げられる。
炭素原子数6~12のアリーレン基としてはフェニレン、トリレン、ナフチレン等が挙げられる。
アリーレンアルキレン基としてはフェニレンメチレン、フェニレンエチレン等が挙げられる。
アリーレンジアルキレン基としてはフェニレンジメチレン、フェニレンジエチレン等が挙げられる。
上記炭素原子数1~8のアルキレン基及びアリーレンアルキレン基並びにアリーレンジアルキレン基中のメチレン鎖は、-O-、-S-、-CO-又は-C=C-に置き換えられている場合もある。
炭素原子数1~8のアルキレン基、炭素原子数6~12のアリーレン基、アリーレンアルキレン基及びアリーレンジアルキレン基は、シアノ基、カルボキシル基、炭素原子数1~4のアルキル基、水酸基、炭素原子数1~4のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されている場合がある。炭素原子数1~8のアルキレン基等を置換する場合がある炭素原子数1~4のアルキル基としては、後述する炭素数が1~4のアルキル基が挙げられ、炭素原子数1~4のアルコキシ基としては、後述する炭素数が1~4のアルキル基を酸素原子で中断したものが挙げられる。
【0026】
一般式(3-1)中のフェニレンを置換する場合があるR及びRで表されるアルキル基としては、炭素数1~8のアルキル基が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第2アミル、第3アミル、ヘキシル、1-エチルペンチル、シクロヘキシル、1-メチルシクロヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、第3ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、第3オクチル、2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0027】
一般式(3-2)中のRで表される炭素数が1~4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル等が挙げられる。
【0028】
上記一般式(3-1)で表される化合物は、入手の容易性などの観点から、下記一般式(3-3)で表される化合物であることが好ましい。
【0029】
【化3】
【0030】
(一般式(3-3)において、Rは、単結合、メチレン基、-CH(CH)-、-C(CH-、又は下記一般式(4-1)~(4-8)で表される何れかの官能基を表し、
、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。)
【0031】
【化4】
【0032】
(一般式(4-3)において、mは4~12の整数を表し、
一般式(4-1)~(4-8)中の*は結合手を表す。)
【0033】
一般式(3-3)中のR、R、R、及びRで表される炭素数が1~4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(3-3)で表される化合物としては、例えば、ビス(4-シアナトフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパンなどが挙げられる。
本発明で使用される(A)シアン酸エステルは、入手の容易性と硬化物の耐熱性の観点から、上記一般式(3-2)で表される化合物、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパンであることが特に好ましい。
【0035】
本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物における(A)シアン酸エステルの含有量は、後述する(B)エポキシ樹脂100質量部に対して、10~200質量部であることが好ましく、30~150質量部であることがより好ましく、50~120質量部であることが更に好ましい。(A)シアン酸エステルの含有量が10質量部よりも少ない場合、樹脂組成物の強度が向上しない傾向にあり、200質量部よりも多い場合は、樹脂組成物の基材に対する密着性が著しく低下する傾向にある。
【0036】
[(B)エポキシ樹脂]
本発明で使用する(B)成分であるエポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基を有する化合物である。(B)成分であるエポキシ樹脂は、1種類のエポキシ樹脂からなる場合があり、又は、複数種のエポキシ樹脂の混合物である場合がある。(B)成分であるエポキシ樹脂は、下記式(2)で表される(B)成分全体の平均エポキシ基数が2.1以上であることが好ましい。
【0037】
【数4】
(式(2)において、nは(B)エポキシ樹脂に含まれるエポキシ樹脂成分の種類数を表し、Bは(B)エポキシ樹脂に含まれるk番目のエポキシ樹脂成分のエポキシ基数を表し、Yは(B)エポキシ樹脂におけるk番目のエポキシ樹脂成分の質量基準の含有割合を表す。)
【0038】
上記式(2)について、例えば、(B)エポキシ樹脂が3種類のエポキシ樹脂成分の混合物である場合、nは3となる。この時、3種類のエポキシ樹脂はそれぞれ成分1、成分2,成分3と表され、各成分のエポキシ基数はB、B、Bで表される。また、(B)エポキシ樹脂における成分B1、2、の質量基準の含有割合は、それぞれY、Y、Yで表される。この時の平均シアネート基数は、{(B×Y)+(B×Y)+(B+Y)}/100で計算される。本発明で使用される(B)エポキシ樹脂は、上記平均エポキシ基数の値が2.2~5.0であることが好ましく、2.5~4.0であることがより好ましい。平均エポキシ基数が前記の範囲より少ない場合は、硬化物のTgが向上せず耐熱性が低下する傾向にあり、前記の範囲より大きい場合は、対応するエポキシ樹脂の入手が困難である他、樹脂組成物の粘度も高くなり、実用性に劣る傾向にある。
【0039】
本発明で使用される(B)エポキシ樹脂が1種類のエポキシ樹脂からなる場合、該エポキシ樹脂のエポキシ基数が上述の範囲であることが好ましい。また、本発明の(B)エポキシ樹脂が複数種類のエポキシ樹脂の混合物である場合、混合物におけるエポキシ樹脂の配合量を調整することによって、混合物の上記平均エポキシ基数を上述の範囲とすることが好ましい。
【0040】
本発明の(B)エポキシ樹脂は、具体的には、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコール、フロログルクシノールなどの単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)、テトラブロモビスフェノールA、1,3-ビス(4-ヒドロキシクミルベンゼン)、1,4-ビス(4-ヒドロキシクミルベンゼン)、1,1,3-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,2,2-テトラ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、チオビスフェノール、スルホビスフェノール、オキシビスフェノール、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、エチルフェノールノボラック、ブチルフェノールノボラック、オクチルフェノールノボラック、レゾルシンノボラック、テルペンフェノール等の多核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;α-ナフトール、β-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン等のナフタレン骨格含有ジオール、並びにこれらのジオールとアルデヒドを酸性触媒下で縮合させた化合物のポリグリシジルエーテルであるナフタレン型エポキシ樹脂;9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンなどのフルオレン骨格を有するジオールのジグリシジルエーテルであるフルオレン型エポキシ樹脂;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリグリコール、チオジグリコール、ジシクロペンタジエンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン(水素化ビスフェノールA)、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールA-エチレンオキシド付加物などの多価アルコール類のポリグリシジルエーテル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂肪族、芳香族又は脂環族多塩基酸のグリシジルエステル類及びグリシジルメタクリレートの単独重合体又は共重合体;N,N-ジグリシジルアニリン、ビス(4-(N-メチル-N-グリシジルアミノ)フェニル)メタン、ジグリシジルオルトトルイジン、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルアニリン、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)アニリン、N,N,N’,N’-テトラ(2,3-エポキシプロピル)-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミノ基を有するエポキシ化合物;ビニルシクロヘキセンジエポキシド、ジシクロペンタンジエンジエポキサイド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等の環状オレフィン化合物のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン-ブタジエン共重合物等のエポキシ化共役ジエン重合体、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環化合物があげられる。また、これらのエポキシ樹脂は末端イソシアネートのプレポリマーによって内部架橋されたもの、あるいは多価の活性水素化合物(多価フェノール、ポリアミン、カルボニル基含有化合物、ポリリン酸エステル等)で高分子量化したものでもよい。
【0041】
上記に挙げたエポキシ樹脂の中では、繊維への含浸性が良好という観点から、液状のものが好ましく、入手容易性と平均エポキシ基数の調整が容易であるという観点から、単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物、多核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物、フルオレン型エポキシ樹脂、多価アルコール類のポリグリシジルエーテル、グリシジルアミノ基を有するエポキシ化合物であることがより好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルアニリン、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)アニリン、及びN,N,N’,N’-テトラ(2,3-エポキシプロピル)-4,4’-ジアミノジフェニルメタンであることが特に好ましい。
【0042】
シアン酸エステルとエポキシ樹脂とを用いた硬化系では、架橋密度を上げすぎた場合には、硬化物が強靭になりすぎて繊維強化プラスチックに適用した時の応力緩和性が低くなり、満足な繊維強化プラスチックが得られない傾向にある。逆に架橋密度が低すぎる場合には、高分子量化がしづらく、硬化物の強度において問題がある場合がある。そのため、(A)シアン酸エステルと(B)エポキシ樹脂の反応する官能基(シアネート基、エポキシ基)の基数を調整する必要がある。すなわち、本発明においては、上記式(1)で表される平均シアネート基数を2.1以上とするか、及び/又は上記式(2)で表される平均エポキシ基数を2.1以上とすることを必須とする。本発明においては、平均シアネート基数と平均エポキシ基数について検討する場合、上記式(2)で表される平均エポキシ基数を増やす方が、上記式(1)で表される平均シアネート基数を増やすよりも、硬化物のTgをより向上させることができるという点で好ましい。その場合の平均エポキシ基数は、2.2~5.0であることが好ましく、2.5~4.0であることがより好ましい。
平均エポキシ基数を2.1以上とした場合、平均シアネート基数は2.1未満でも構わないが、1.8以上であることが好ましく、1.9以上であることがより好ましく、2.0以上であることが更に好ましい。
【0043】
[(C)25℃で液状の芳香族アミン系硬化剤]
本発明で使用する、(C)25℃で液状の芳香族アミン系硬化剤は、繊維材料に容易に浸透が可能にするために、25℃で液状であり、さらに芳香環に直接アミノ基が備わっている化合物である。そのような化合物としては、例えば、ジアミノジメチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルトルエン、1-メチル-3、5-ビス(メチルチオ)-2、4-ベンゼンジアミン、1-メチル-3、5-ビス(メチルチオ)-2、6-ベンゼンジアミンなどが挙げられる。
これらの中では、硬化物の耐熱性が向上するという観点から、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジメチルジフェニルメタン、及びジアミノジエチルトルエンが好ましく、ジアミノジエチルジフェニルメタンがより好ましい。
【0044】
本発明において(C)25℃で液状の芳香族アミン系硬化剤の使用量は、(B)エポキシ樹脂100質量部に対し、20~100質量部であることが好ましく、40~90質量部がより好ましい。20質量部より少ない場合、又は100質量部よりも多い場合は、樹脂組成物が完全に硬化しない傾向にある。
【0045】
本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物は(D)光吸収性成分を含有する場合がある。(D)光吸収性成分を含有する場合には、活性エネルギー線を照射することにより硬化時間をより短くすることができる。硬化時間が短くなることにより、作業時間が短くなり、また、加熱硬化する場合と比べて少ないエネルギーで硬化するため経済的であるだけでなく、環境の面でも有利である。
【0046】
本発明の樹脂組成物に含まれる(D)光吸収性成分は、前記活性エネルギー線を吸収し、熱エネルギーを放出することができる成分であり、放出された熱エネルギーにより樹脂組成物を硬化させることができる。このような光吸収性成分としては、繊維と繊維の間に樹脂組成物を浸透させるという観点から、25℃で液状のもの、若しくは、他の材料と混合した時に相溶化して液状となるものが好ましい。そのような化合物としては、アニリンブラック、金属錯体、スクエア酸誘導体、インモニウム染料、ポリメチン、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ペリレン系化合物、クオテリレン系化合物、ニグロシン系化合物等が挙げられる。本発明においては、これらの化合物の中でも、容易に入手が可能であるという点から、ニグロシン系化合物を使用することがより好ましい。
【0047】
市販されているニグロシン系化合物としては、オリエント化学工業(株)製の、BONASORBシリーズ、eBIND ACWシリーズ、eBIND LTWシリーズ、eBIND LAWシリーズ、ORIENT NIGROSINEシリーズ、NUBIAN BLACKシリーズ等が挙げられる。本発明においては、これらのニグロシン系化合物の中でも、安価で入手が容易であるという点で、NUBIAN BLACKシリーズを使用することが好ましい。これらのニグロシン系化合物は1種類を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の樹脂組成物に含有させる(D)光吸収性成分の配合量は、樹脂組成物の総量に対し、0.001~1質量%の範囲であればよい。樹脂組成物の硬化速度と発熱(組成物の焦げ付き)のバランスの観点を加味すると、0.01~0.5質量%であることが好ましく、0.05~0.2質量%であることが更に好ましい。0.001%より少ないと、活性エネルギー線照射だけでは発熱不足となり、樹脂組成物が完全に硬化することが困難になる。また、1%よりも多い場合には、樹脂組成物の表面で活性エネルギー線が殆ど吸収され、樹脂組成物の表面のみが炭化して内部まで活性エネルギーが通らないので、樹脂組成物の内部まで完全に硬化させることが困難となる。
【0049】
[添加剤]
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、添加剤を併用してもよい。
上記添加剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ベンジルアルコール、コールタール等の非反応性の希釈剤(可塑剤);顔料;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-N’-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ-n-ドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジ-トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリロイルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラキス(2-エチルヘキシル)チタネート、テトラステアリルチタネート、テトラメチルチタネート、ジエトキシビス(アセチルアセトナト)チタン、ジイソプロピルビス(アセチルアセトナト)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、イソプロポキシ(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン、ジ(2-エチルヘキソキシ)ビス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン、ジ-n-ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、テトラアセチルアセトネートチタン、ヒドロキシビス(ラクタト)チタン、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等のチタンカップリング剤;ネオアルコキシトリスネオデカノイルジルコネート、ネオアルコキシトリス(ドデシル)ベンゼンスルホニルジルコネート、ネオアルコキシトリス(ジオクチル)ホスフェートジルコネート、ネオアルコキシトリス(ジオクチル)ピロホスフェートジルコネート、ネオアルコキシトリス(エチレンジアミノ)エチルジルコネート、ネオアルコキシトリス(m-アミノ)フェニルジルコネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル)ブチル,ジ(ジトリデシル)ホスフィトジルコネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ,トリネオデカノイルジルコネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ,トリ(ドデシル)ベンゼン-スルホニルジルコネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ,トリ(ジオクチル)ホスファトジルコネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ,トリ(ジオクチル)ピロ-ホスファトジルコネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ,トリ(N-エチレンジアミノ)エチルジルコネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ,トリ(m-アミノ)フェニルジルコネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ,トリメタクリルジルコネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ,トリアクリルジルコネート、ジネオペンチル(ジアリル)オキシ,ジパラアミノベンゾイルジルコネート、ジネオペンチル(ジアリル)オキシ,ジ(3-メルカプト)プロピオニックジルコネート、ジルコニウム(IV)2,2-ビス(2-プロペノラトメチル)ブタノラト,シクロジ[2,2-(ビス2-プロペノラトメチル)ブタノラト]ピロホスファト-O,O、ネオアルコキシトリスネオデカノイルジルコネート、ネオアルコキシトリス(ドデシル)ベンゼンスルホニルジルコネート、ネオアルコキシトリス(ジオクチル)ホスフェートジルコネート、ネオアルコキシトリス(ジオクチル)ピロホスフェートジルコネート、ネオアルコキシトリス(エチレンジアミノ)エチルジルコネート、ネオアルコキシトリス(m-アミノ)フェニルジルコネート、また、ジルコニウム系カップリング剤としては、テトラノルマルプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシステアレート、ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等のジルコニウム系カップリング剤;キャンデリラワックス、カルナウバワックス、木ろう、イボタロウ、みつろう、ラノリン、鯨ろう、モンタンワックス、石油ワックス、脂肪酸ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、芳香族エステル、芳香族エーテル等の潤滑剤;増粘剤;チキソトロピック剤;酸化防止剤;光安定剤;紫外線吸収剤;難燃剤;消泡剤;防錆剤等の常用の添加剤を挙げることができる。
【0050】
上記に挙げた添加剤の中では、繊維へ含浸させるという観点から、25℃で液状のもの、若しくはシアン酸エステル、エポキシ樹脂、芳香族アミン系硬化剤に溶解するものであることが好ましく、繊維への密着性が向上するという点で、シランカップリング剤を添加することがより好ましく、入手が容易で安価であるという点で、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、及び/又はγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランを添加することがさらに好ましく、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランを添加することが特に好ましい。
【0051】
上記に挙げたシランカップリング剤の配合量は、(B)エポキシ樹脂100重量部に対し、0.1~50質量部配合させることが好ましく、樹脂との混和性が良好であり、繊維との密着性が向上するという点において、7~20質量部配合させることがより好ましい。
【0052】
本発明の硬化物は、本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物を硬化させてなる。本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物を硬化させる方法には特に制限はなく、公知の方法で硬化させることができる。具体的には、本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物は、加熱により硬化させることもできる。また、本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物が(D)光吸収性成分を含有する場合には、活性エネルギー線を照射することにより硬化時間をより短くすることができる。硬化時間が短くなることにより、作業時間が短くなり、また、加熱硬化する場合と比べて少ないエネルギーで硬化するため経済的であるだけでなく、環境の面でも有利である。
【0053】
上記活性エネルギー線には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。この活性エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線、赤外線、レーザー光線、可視光線、電離放射線(X線、α線、β線、γ線等)、マイクロ波、高周波等が挙げられる。
【0054】
本発明では、これらの活性エネルギー線の中でも、より硬化速度を向上させられるという観点から、レーザー光線及び/又は赤外線を使用することが好ましく、赤外線を使用することがより好ましい。
【0055】
上記レーザー光線としては、ルビー、ガラス、YAG(イットリウム、アルミニウム、ガーネットに微量のレアアースが添加された結晶体)を媒体とした固体レーザー;色素を、水やアルコールなどの溶媒に溶解させたものを媒体とした液体レーザー;CO2、アルゴン、又は、He-Ne混合気体などを媒体とした気体レーザー;半導体の再結合発光を利用した半導体レーザーが挙げられる。本発明においては、安価である上、出力のコントロールが容易な半導体レーザーを使用することが好ましい。
【0056】
本発明で使用するレーザー光線の波長には特に制限はなく、例えば、近赤外線領域(波長がおよそ0.7~2.5μm)であれば、樹脂組成物を硬化させることができる。レーザー光線の出力も特に制限されず、例えば、1W~4kWの範囲で、樹脂組成物を硬化させることができる。
【0057】
レーザーを照射させる時間も特に制限されることはないが、照射面積や出力によりさまざまな範囲となり、例えば、0.2W/mm~10W/mm の範囲で樹脂組成物を硬化させることができる。本発明の樹脂組成物を硬化させる赤外線の波長も、特に制限されることはない。例えば、近赤外線領域(波長がおよそ0.7~2.5μm)、中赤外線領域(波長がおよそ2.5~4μm)、及び遠赤外線領域(波長がおよそ4~1000μm)など、どの領域の波長でも、樹脂組成物を硬化させることができる。
【0058】
本発明の樹脂組成物を硬化させる赤外線を照射する方法としては、赤外線ヒーターを用いて照射する方法が挙げられる。赤外線ヒーターとしては、例えば、ハロゲンヒーター、石英ヒーター、シーズヒーター、及びセラミックヒーターなどが挙げられる。ハロゲンヒーターは、近赤外線領域から中赤外線領域までの波長をもつ赤外線を照射することができ、石英ヒーター、シーズヒーター、及びセラミックヒーターは、中赤外領域から遠赤外領域の波長をもつ赤外線を照射することもできる。これらの中では、電源を入れてから熱源が加熱されるまでの時間が短く、迅速に加熱できるという理由で、ハロゲンヒーターを使用することが好ましい。
【0059】
本発明の樹脂組成物を硬化させる赤外線の波長は、特に制限されるものではないが、使用する光吸収性成分の吸収領域により、様々な波長領域を使用することができる。例えば、ニグロシン系化合物を使用した場合には、近赤外線領域(波長がおよそ0.7~2.5μm)において、短時間で本発明の樹脂硬化物を硬化させることができる。
【0060】
本発明の繊維強化プラスチックは、本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物及び強化繊維を均一に含有する繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂(組成物)を硬化させることにより得ることができる。本発明において繊維強化プラスチック用樹脂組成物及び強化繊維を均一に含有するとは、樹脂組成物が表面に留まることなく、繊維内部まで完全に行き渡っていることを意味する。強化繊維の種類は、特に限定されず、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、シリコーンカーバイド繊維等を単独で用いてもよいし、2種類以上のハイブリッド繊維として用いてもよい。
上記に挙げた強化繊維の形態としては、高強度・高弾性率繊維を一方向に配列させたいわゆるトウシートや、前記繊維糸状を一方向又は二方向に配列させた一方向性織物や二方向性織物、三方向に配列させた三軸織物、多方向に配列させた多軸織物などが挙げられる。トウシートにおいては、基材への樹脂含浸性を向上させるためにストランド間に適度の隙間を確保するように前記繊維を配列するとよい。
【0061】
本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物に対する強化繊維の使用量には特に制限はなく、得られる繊維強化プラスチックの用途に応じて適宜決定することができるが、例えば、繊維強化プラスチック用樹脂組成物の全体の体積に対し、強化繊維の体積含有率が、好ましくは45~70%であり、より好ましくは50~65%である。また、繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂を硬化させる方法にも特に制限はなく、例えば、上述した本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物の硬化方法と同様にして硬化することができる。
【0062】
本発明の樹脂組成物を使用した繊維強化プラスチックを成形するための方法については、特に限定はされないが、例えば、押し出し成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法、RTM(Resin Transfer Molding)成形、VaRTM(Vaccum assist Resin Transfer Molding)成形、積層成形、ハンドレイアップ成形、フィラメントワインディング成形法等が挙げられる。
【0063】
本発明の樹脂組成物を用いて得られる繊維強化プラスチックは、各種の用途に利用することができる。例えば、自動車、船舶及び鉄道車両等の移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラー、屋根材、ケーブル、及び補修補強材料等の一般産業用途;胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、座席、内装材、モーターケース、アンテナ等の航空宇宙用途;ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット用途、ホッケー等のスティック用途、及びスキーポール用途等のスポーツ用途が挙げられる。
【実施例
【0064】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において%は特に記載が無い限り質量基準である。
【0065】
[実施例1]
500mLディスポカップに、(A)シアン酸エステルとして、LECy(1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン;ロンザ社製、平均シアネート基数:2)を100g、(B)エポキシ樹脂として、アデカレジンEP-4901E(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、(株)ADEKA製、エポキシ当量:170g/eq.、平均エポキシ基数:2)を75g、MY-0510(N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルアニリン、ハンツマン社製、エポキシ当量:101g/eq.、平均エポキシ基数:3)を12.5g、(C)25℃で液状の芳香族アミン系硬化物として、カヤハードAA(ジアミノジエチルジフェニルメタン、日本化薬(株)製)を70g加え、25℃にて5分間スパチュラで撹拌した。その後、遊星式攪拌機を使用して更に撹拌し、配合物を得た。得られた配合物について、以下の方法によりガラス転移点温度(Tg)、曲げ試験の評価を行った。
【0066】
<Tg測定>
示差走査熱量測定用のパンに、上記配合物を5mg測量し、80℃で5時間加熱し、その後更に150℃で2時間加熱して硬化させた後、示差走査熱量計(DSC6220ASD-2、セイコーインスツル(株)製)により、10℃/分の昇温条件で加熱させ、示差走査熱量の変曲点を読み取ることにより、Tgを測定した。結果を表1に示す。
【0067】
<曲げ試験>
ガラス繊維(UDR S14EU970-01190-00100-100000、SAERTEX社製)100gに対し、得られた配合物33gを、ローラーを用いて含浸させた。その後、樹脂を含浸させたガラス繊維を150℃の恒温槽に入れ、3時間かけて樹脂を硬化させた。得られた樹脂硬化後の樹脂繊維複合物(繊維強化プラスチック)について、JIS K 7057に準拠した方法で上降伏点応力、最大点応力、弾性率、層間せん断を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例2~実施例8、比較例1]
表1の通りに配合を変えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2~3及び比較例1の配合物を得た。得られた配合物について、実施例1と同様にTgと曲げ試験の評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1の結果の通り、本発明の樹脂組成物は、Tgの値が良好であり、繊維に含浸させ硬化させた後の繊維強化プラスチックにおいても、曲げ試験で優れた結果となった。本発明の樹脂組成物を用いない繊維強化プラスチックは、繊維強化プラスチックにした時の物性については、ある程度良い評価となったものの、Tgにおいて満足のいく結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の繊維強化プラスチック用樹脂組成物と強化繊維を用いて製造した繊維強化プラスチックは、耐熱性が良好であることに加えて、引張や曲げ物性にも優れることから、船舶、自動車、航空機などの輸送機、スポーツ用品、洗面台、窓枠などの建築材料、高圧ガスタンク、風力発電用ブレードなどの産業機材など、幅広い分野に応用することができる。