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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-09
(45)【発行日】2022-08-18
(54)【発明の名称】電気分解用電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/093 20210101AFI20220810BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20220810BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20220810BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20220810BHJP
   C25B 11/095 20210101ALI20220810BHJP
【FI】
C25B11/093
C25B11/052
C25B11/061
C25B11/031
C25B11/095
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021530159
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 KR2020002241
(87)【国際公開番号】W WO2020171509
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】10-2019-0021361
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】オム、ヒ-チュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン-イ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミョン-フン
(72)【発明者】
【氏名】イ、トン-チョル
(72)【発明者】
【氏名】チョン、サン-ユン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、キョ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、チョン-ウク
(72)【発明者】
【氏名】パン、ヨン-チュ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-193768(JP,A)
【文献】特開2009-215580(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031753(WO,A1)
【文献】特開2010-037619(JP,A)
【文献】特許第4453973(JP,B2)
【文献】特開2015-052145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッシュ構造を有する金属基材層;及び
ルテニウム系酸化物、セリウム系酸化物、白金系酸化物及び尿素を含むコーティング層を含み、
前記コーティング層は、前記メッシュ構造を構成するワイヤの表面上に形成され、
前記ワイヤの個々の断面の縦横比は、120%以上である、電気分解用電極。
【請求項2】
前記縦横比は、120から180%である、請求項1に記載の電気分解用電極。
【請求項3】
前記金属は、ニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、ステンレススチールまたはこれらの合金である、請求項1または2に記載の電気分解用電極。
【請求項4】
前記金属基材層の厚さは、100から300μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気分解用電極。
【請求項5】
メッシュ構造を構成するワイヤの個々の断面の縦横比が120%以上になるように、前記メッシュ構造を有する金属基材を平坦化処理する段階;
前記平坦化処理された金属基材のワイヤ表面上にコーティング組成物を塗布する段階;及び
前記コーティング組成物が塗布された金属基材を乾燥及び焼成してコーティングする段階を含み、
前記コーティング組成物は、ルテニウム系前駆体、セリウム系前駆体、白金系前駆体及び尿素を含む、電気分解用電極の製造方法。
【請求項6】
前記平坦化は、圧延または化学的エッチングを介して行われる、請求項5に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項7】
前記金属基材は、ニッケル基材である、請求項5または6に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項8】
前記ルテニウム系前駆体は、六フッ化ルテニウム(RuF6)、塩化ルテニウム(III)(RuCl3)、塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl3・xH2O)、臭化ルテニウム(III)(RuBr3)、臭化ルテニウム(III)水和物(RuBr3・xH2O)、ヨウ化ルテニウム(RuI3)及び酢酸ルテニウム塩からなる群から選択される1つ以上であり、
前記セリウム系前駆体は、硝酸セリウム(III)六水和物(Ce(NO33・6H2O)、硫酸セリウム(IV)四水和物(Ce(SO42・4H2O)及び塩化セリウム(III)七水和物(CeCl3・7H2O)からなる群から選択される1つ以上であり、
前記白金系前駆体は、クロロ白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)、ジアミンジニトロ白金(Pt(NH32(NO)2)及び塩化白金(IV)(PtCl4)、塩化白金(II)(PtCl2)、テトラクロロ白金酸カリウム(K2PtCl4)、ヘキサクロロ白金酸カリウム(K2PtCl6)からなる群から選択される1つ以上である、請求項5~7のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項9】
前記塗布、乾燥及び焼成は、それぞれ5から20回繰り返して行われる、請求項5~8のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年2月22日付韓国特許出願第10-2019-0021361号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、電気分解用電極及びこの製造方法に関し、電極の金属基材層が平坦化処理された電気分解用電極及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
海水等の低価の塩水(Brine)を電気分解し、水酸化物、水素及び塩素を生産する技術が広く知られている。このような電気分解工程は、通常クロール-アルカリ(chlor-alkali)工程とも呼ばれ、既に数十年間の商業運転により性能及び技術の信頼性が立証された工程と言える。
【0004】
このような塩水の電気分解は、電解槽の内部にイオン交換膜を設置して電解槽を陽イオン室と陰イオン室に区分し、電解質として塩水を用い、陽極で塩素ガスを、陰極で水素及び苛性ソーダを得るイオン交換膜法が現在最も広く用いられている方法である。
【0005】
一方、塩水の電気分解工程は、下記の電気化学反応式に示された通りの反応を介して行われる。
【0006】
陽極(anode)反応:2Cl-→Cl2+2e-(E0=+1.36V)
陰極(cathode)反応:2H2O+2e-→2OH-+H2(E0=-0.83V)
全体反応:2Cl-+2H2O→2OH-+Cl2+H2(E0=-2.19V)

塩水の電気分解の遂行において電解電圧は、理論的な塩水の電気分解に必要な電圧に、陽極の過電圧、陰極の過電圧、イオン交換膜の抵抗による電圧、及び陽極と陰極間の距離による電圧を全て考慮しなければならず、これらの電圧のうち、電極による過電圧が重要な変数として作用している。
【0007】
このため、電極の過電圧を減少させることができる方法が研究されており、例えば、陽極としては、DSA(Dimensionally Stable Anode)と呼ばれる貴金属系の電極が開発され用いられており、陰極に対しても、過電圧が低く耐久性のある優れた素材の開発が要求されている。
【0008】
このような陰極としては、ステンレススチールまたはニッケルが主に用いられており、最近には過電圧を減少させるためにステンレススチールまたはニッケルの表面を酸化ニッケル、ニッケルとスズの合金、活性炭と酸化物の組み合わせ、酸化ルテニウム、白金などで被覆して用いる方法が研究されている。
【0009】
また、活性物質の組成を調節して陰極の活性を高めるべく、ルテニウムのような白金族元素とセリウムのようなランタン族元素を用いて組成を調節する方法も研究されている。しかし、過電圧現象が発生し、逆電流による劣化が起こるという問題が発生した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2003-2977967号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、メンブレンとの密着力が増加され、ガストラップが減少されることにより、過電圧が改善された電気分解用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明は、メッシュ構造を有する金属基材層;及びルテニウム系酸化物、セリウム系酸化物、白金系酸化物及びアミン系化合物を含むコーティング層を含み、前記コーティング層は、前記メッシュ構造を構成するワイヤの表面上に形成され、前記ワイヤの個々の断面の縦横比は120%以上であるものである電気分解用電極を提供する。
【0013】
また、本発明は、メッシュ構造を構成するワイヤの個々の断面の縦横比が120%以上になるように、前記メッシュ構造を有する金属基材を平坦化処理する段階;前記平坦化処理された金属基材のワイヤ表面上にコーティング組成物を塗布する段階;及びコーティング組成物が塗布された金属基材を乾燥及び焼成してコーティングする段階を含み、前記コーティング組成物は、ルテニウム系前駆体、セリウム系前駆体、白金系前駆体及びアミン系化合物を含むものである電気分解用電極の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電気分解用電極は、金属基材が平坦化されてメンブレンとの密着力が高く、これによりガストラップが減少して効果的に気体脱着が可能であることにより、過電圧を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明において、金属基材が平坦化される際に現れ得る効果を簡略に示した図である。
図2】本発明の実施例1から2及び比較例1から2の電極の時間に応じた性能変化を示したグラフである。
図3】本発明の実施例1及び比較例2の電極の表面を観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例及び実験例を挙げてさらに詳しく説明する。ただし、本発明がこれら実施例及び実験例によって制限されるものではない。本発明に係る実施形態はいくつか異なる形態に変形されてよく、本発明の範囲が下記で詳述する実施形態に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施形態は、当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0017】
[材料]
本実施例では、金属基材として、日東金網(社)で製造したニッケル基材(Ni純度99%以上、直径200μm、厚さ370μm)を使用しており、ルテニウム系前駆体としてはHeraeus社の塩化ルテニウム水和物、白金系前駆体としてはAlfa Aesar社の塩化白金(白金(IV)クロリド、99.9%)、セリウム系前駆体としてはSigma-Aldrich社の硝酸セリウム六水和物、アミン系化合物としては大井化金(株)の尿素を使用した。また、溶媒としては、大井化金(株)のイソプロピルアルコールと2-ブトキシエタノールを使用した。
【0018】
[コーティング組成物の製造]
金属前駆体であるRuCl3・nH2O、Ce(NO33・6H2O及びPtCl4を5:1:0.4のモル比で混合してイソプロピルアルコールと2-ブトキシエタノールを1:1の体積比で混合した溶媒に溶かした。その後、金属前駆体が溶解されると、アミン系化合物である尿素を3.13のモル比で添加し、50℃で一晩撹拌してルテニウム基準100g/Lの濃度を有するコーティング組成物溶液を製造した。
【0019】
<実施例>
[実施例1.圧延で平坦化したニッケル基材を使用した電気分解用電極の製造]
前記材料のニッケル基材を圧延して厚さ170μmの平坦化処理されたニッケル基材を製造した。前記平坦化処理されたニッケル基材の個々のワイヤ断面の縦横比を測定しており、その値は120から169%であった。その後、前記基材の表面をアルミニウムオキシド(120mesh)で0.4MPa条件でサンドブラスティング処理して凹凸のある構造に加工した。その後、80℃の5M H2SO4水溶液に加工されたニッケル基材を入れ、3分間処理して前処理過程を完了した。その後、前処理されたニッケル基材に前記で製造したコーティング組成物溶液をブラシ方法でコーティングし、180℃の対流式乾燥オーブンに入れて10分間乾燥させた後、500℃の電気加熱炉に入れて10分間焼成した。このようなコーティング、乾燥及び焼成過程を更に9回行った後、最終的に500℃に加熱された電気加熱炉で1時間焼成して電気分解用電極を製造した。
【0020】
[実施例2.化学的エッチングで平坦化したニッケル基材を使用した電気分解用電極の製造]
実施例1で圧延の代わりに化学的エッチングしたという点を除き、全て同一に行って電気分解用電極を製造した。前記平坦化処理されたニッケル基材の個々のワイヤ断面の縦横比を測定しており、その値は132から155%であった。
【0021】
[実施例3.プレスで平坦化したニッケル基材を使用した電気分解用電極の製造]
実施例1で圧延の代わりにプレスしたという点を除き、全て同一に行って電気分解用電極を製造した。但し、プレス処理した場合、他の方法で平坦化した場合に比べて一定に平坦化が行われなかったが、その縦横比の値は120から180%であって、他の方法で平坦化した場合に比べさらに大きいものと確認された。
【0022】
[比較例1.商用電極]
フレッシュ電極を電解過程を介して電圧安定化を完了した後、活性化して比較例1の商用電極として使用した。
【0023】
[比較例2.平坦化していないニッケル基材を使用した電気分解用電極の製造]
実施例1で平坦化していないという点を除き、全て同一に行って電気分解用電極を製造した。平坦化していないニッケル基材の個々のワイヤ断面の縦横比は100%であった。
【0024】
[比較例3.平坦化せず、薄い厚さのニッケル基材を使用した電気分解用電極の製造]
実施例1で厚さが170μmであり、平坦化していないニッケル基材を使用したという点を除き、全て同一に行って電気分解用電極を製造した。平坦化していないニッケル基材の個々のワイヤ断面の縦横比は100%であった。
【0025】
前記実施例1から3、及び比較例1から3で製造した電極の情報を下記表1で整理した。
【0026】
【表1】
【0027】
[実験例1.製造された電気分解用電極の性能確認]
前記実施例1から3、及び比較例1から3で製造した電極の性能を確認するため、定電流での過電圧を測定するシングルセル(Single cell)装置を使用した。酸化電極(anode)としては、使用電極であるAKC社の酸化電極を使用しており、還元電極(cathode)としては、電流測定器の上にニッケルマットレスを載置し、電極を載置した形態でゼロギャップセルを具現することができる5X5cm2セルを用いて測定した。メンブレンとしては、Aciplex社のF6808を使用しており、定電流としては、電流密度6.2kA/m2条件で実験を行った。塩水電気分解(Chlor-Alkali Electrolysis)でのハーフセルを用いた陰極電圧測定実験を行った。酸化電極側の電解質は305g/Lの塩化ナトリウム、還元電極側の電解質は30.6%の水酸化ナトリウムを使用した。反応温度は90℃とし、酸化電極及び還元電極は全て15ml/分の流量を流しながら実験を行った。その結果を下記表2で整理しており、時間に応じた変化を図2に示した。
【0028】
【表2】
【0029】
前記表2で確認できるように、平坦化処理して縦横比が120%以上である実施例の電極が、そうでない比較例の電極よりさらに低い過電圧を示すということを確認した。また、図2で確認したように、比較例1の電極は、初期から高い過電圧を示し、一定時間が経た後、収束する過電圧値において実施例1及び2の電極が比較例2の電極に比べて低い値を示すという点を確認した。
【0030】
[実験例2.電極の表面観察]
前記実施例1及び比較例2で製造した電極の表面を観察しており、これを図3に示した。観察は、SEM(Scanning Electron Microscope)を介して行った。図3から、圧延処理した場合、メッシュ構造で交差されるワイヤが広い面積で接触し、これによりさらに広い面積のコーティング層を確保することができることを確認した。すなわち、実施例1の電極が比較例2に比べ、電気分解反応が円滑に行われ得ることを確認した。
【0031】
[実施例]
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0032】
本明細書及び特許請求の範囲において用いられた用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最良の方法で説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0033】
用語の定義
本明細書で用いられるところのような「縦横比」は、高さに対する幅の比(幅/高さ)を称する。
【0034】
本明細書で用いられるところのような「メッシュ構造」は、ワイヤが互いに絡み合って形成された網構造を称する。
【0035】
[電気分解用電極]
本発明は、メッシュ構造を有する金属基材層;及びルテニウム系酸化物、セリウム系酸化物、白金系酸化物及びアミン系化合物を含むコーティング層を含み、前記コーティング層は、前記メッシュ構造を構成するワイヤの表面上に形成され、前記ワイヤの個々の断面の縦横比は120%以上であるものである電気分解用電極を提供する。
【0036】
前記金属基材は、ニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、ステンレススチールまたはこれらの合金であってよく、このうちニッケルであることが好ましい。金属基材としてニッケルを用いる場合、耐久性及び電極の性能に優れる。
【0037】
前記電気分解用電極に含まれる金属基材において、このメッシュ構造を構成する個々のワイヤは、平坦化処理されることにより、それぞれのワイヤ断面の縦横比が120%以上であるものである。好ましくは、前記縦横比の下限値は120%、125%または130%であってよく、前記縦横比の上限値は180%、170%、160%または150%であってよい。図1で分かるように、メッシュ構造を有する金属基材を平坦化してメッシュ構造を構成する個々のワイヤ断面の縦横比を120%以上にした場合、メンブレンとの密着力が増加してガストラップを減らし、結果的に過電圧を改善することができ、円滑な電気分解反応を進行させることができる。一方、前記縦横比が大きすぎる場合、金属基材自体の耐久性が弱化されるという問題が発生し得る。平坦化は、金属基材の耐久性に影響を与えず、メッシュ構造を構成する個々のワイヤ断面の縦横比を120%以上にすることができる方法であれば、方法の制限なく行うことができ、好ましくは、プレス、圧延または化学的エッチングを介して行われ得る。
【0038】
前記コーティング層のルテニウム系酸化物、セリウム系酸化物及び白金系酸化物は、電極の過電圧を下げる役割を行い、特に、白金系酸化物は、さらに過電圧改善触媒層の安定性を改善することができ、セリウム系酸化物は、耐久性及び触媒層の安定性を改善することができる。
【0039】
前記金属基材の厚さは100から300μm、好ましくは120から280μm、さらに好ましくは150から250μmであってよい。金属基材が薄すぎる場合、例えば100μmより薄い場合、電極の耐久性が弱いため使用に問題があり、金属基材が厚すぎる場合、例えば300μmを超過する場合、電極の製造に多くの費用が消耗され、厚いメッシュ構造の金属基材を用いることになれば、基材の硬度が高いためゼロギャップセルで電極とメンブレンとの間の密着力が減少することになり、これによって電気分解反応が円滑に発生しないこともある。
【0040】
[電気分解用電極の製造方法]
本発明は、メッシュ構造を構成するワイヤの個々の断面の縦横比が120%以上になるように、前記メッシュ構造を有する金属基材を平坦化処理する段階;前記平坦化処理された金属基材のワイヤ表面上にコーティング組成物を塗布する段階;及びコーティング組成物が塗布された金属基材を乾燥及び焼成してコーティングする段階を含み、前記コーティング組成物は、ルテニウム系前駆体、セリウム系前駆体、白金系前駆体及びアミン系化合物を含むものである電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0041】
前記平坦化は、前述したような方法を介して行われてよく、圧延または化学的エッチングを介して行うのが好ましい。
【0042】
前記ルテニウム系前駆体は、電気分解用陰極の触媒層に活性物質であるルテニウムを提供する物質である。前記ルテニウム系前駆体は、六フッ化ルテニウム(RuF6)、塩化ルテニウム(III)(RuCl3)、塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl3・xH2O)、臭化ルテニウム(III)(RuBr3)、臭化ルテニウム(III)水和物(RuBr3・xH2O)、ヨウ化ルテニウム(RuI3)及び酢酸ルテニウム塩からなる群から選択される1種以上であってよく、このうち塩化ルテニウム(III)水和物が好ましい。
【0043】
前記セリウム系前駆体は、電気分解用陰極の触媒層にセリウム元素を提供する物質である。前記セリウム元素は、電気分解用陰極の耐久性を改善させて活性化または電気分解時、電気分解用電極の触媒層内のルテニウムの損失を最小化させることができる。具体的に説明すると、電気分解用陰極の活性化または電気分解時、触媒層内のルテニウムを含む粒子は構造が変化しないながら、金属性Ru(metallic Ru)になるか、部分的に水和されて活性種(active species)に還元される。そして、触媒層内のセリウム元素を含む粒子は構造が変化され、触媒層内でルテニウムを含む粒子とネットワークを形成し、結果的に、電気分解用陰極の耐久性を改善させ、触媒層内のルテニウムの損失を防止することができる。
【0044】
前記セリウム系前駆体は、硝酸セリウム(III)六水和物(Ce(NO33・6H2O)、硫酸セリウム(IV)四水和物(Ce(SO42・4H2O)及び塩化セリウム(III)七水和物(CeCl3・7H2O)からなる群から選択される1種以上であり、このうち硝酸セリウム(III)六水和物が好ましい。
【0045】
前記触媒組成物は、前記ルテニウム系前駆体1モルに対して、前記セリウム系前駆体を0.01から0.5モルまたは0.05から0.35モルで含んでよく、このうち0.05から0.35モルで含むのが好ましい。
【0046】
前述した範囲を満たすと、製造される電極の耐久性を改善させ、活性化または電気分解時、触媒層内のルテニウムの損失を最小化させることができる。
【0047】
前記白金系前駆体は、電気分解用陰極の触媒層に白金を提供する物質である。前記白金は、電極の過電圧現象を改善させることができる。また、前記白金は、電極の初期性能と一定時間経過した後の性能の偏差を最小化させることができ、結果的に電極が別の活性化工程を行わなくなるか、最小化させることができる。
【0048】
前記白金系前駆体は、クロロ白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)、ジアミンジニトロ白金(Pt(NH32(NO)2)及び塩化白金(IV)(PtCl4)、塩化白金(II)(PtCl2)、テトラクロロ白金酸カリウム(K2PtCl4)、ヘキサクロロ白金酸カリウム(K2PtCl6)からなる群から選択される1種以上であってよく、このうち塩化白金(IV)が好ましい。
【0049】
前記触媒組成物は、前記白金系前駆体を前記ルテニウム系前駆体1モルに対して、0.01から0.7モルまたは0.02から0.5モルで含んでよく、このうち0.02から0.5モルで含むのが好ましい。
【0050】
上述した範囲を満たすと、電極の過電圧現象を顕著に改善させることができる。また、電極の初期性能と一定時間経過した後の性能を一定に維持することができるので、電極の活性化工程が不必である。これによって、電極の活性化工程にかかる時間及び費用を節減させることができる。
【0051】
前記アミン系化合物は、ナノ粒子などを製造する際に、添加物として投入して粒子相を小さくする役割を担うものとして知られており、電極コーティングにおいても、酸化ルテニウムの結晶相を小さくするという効果を奏する。また、前記触媒組成物がアミン系化合物を含むことにより、セリウムの針状構造の大きさを増大させ、形成されたセリウムのネットワーク構造がルテニウム粒子をより堅固に固定させる役割を担うようになるので、電極の耐久性を改善させる。そして、結果的に電極の長時間作動時にも、電極の剥離現象を顕著に低減することができるという効果がある。
【0052】
前記触媒組成物は、前記ルテニウム系前駆体1モルに対して、前記アミン系化合物を0.5から1モルまたは0.6から0.9モルで含んでよく、このうち0.6から0.9モルで含むのが好ましい。
【0053】
前述した含量を満たすと、前記アミン系化合物は、電極の活性化以後または電気分解時に、アミン系化合物を使用していないときよりセリウム元素を含む粒子の構造を速やかに変化させ、触媒層内でネットワークを形成させることができ、結果的に電極の耐久性を改善させることができる。具体的には、前記アミン系化合物は、セリウムを含む粒子の針状構造を増大させて電極の耐久性を改善させることができる。
【0054】
前記アミン系化合物は、尿素であることが好ましい。尿素を使用する場合、他のアミン系化合物を使用したことに比べ、コーティング液の安定性及び安全性に優れる。また、大面積の電極を製造する際にも、有害物質及び臭気の発生が少ないという長所がある。
【0055】
本発明の製造方法において、前記コーティング段階を行う前に前記金属基材を前処理する段階を含んでよい。
【0056】
前記前処理は、金属基材を化学的エッチング、ブラスティングまたは熱溶射して前記金属基材の表面に凹凸を形成させるものであってよい。
【0057】
前記前処理は、金属基材の表面をサンドブラスティングして微細凹凸を形成させ、塩処理または酸処理して行ってよい。例えば、金属基材の表面をアルミナでサンドブラスティングして凹凸を形成し、硫酸水溶液に浸漬させ、洗浄及び乾燥して金属基材の表面に微細な凹凸が形成されるように前処理することができる。
【0058】
前記塗布は、前記触媒組成物が金属基材上に均一に塗布され得るものであれば、特に制限なく当業界で公知された方法で行ってよい。
【0059】
前記塗布は、ドクターブレード、ダイキャスティング、コンマコーティング、スクリーンプリンティング、スプレー噴射、電気放射、ロールコーティング及びブラッシングからなる群から選択されるいずれか一つの方法で行われてよい。
【0060】
前記乾燥は、50から300℃で5から60分間行ってよく、50から200℃で5から20分間行うのが好ましい。
【0061】
前述した条件を満たすと、溶媒を充分に除去できるとともに、エネルギーの消費は最小化することができる。
【0062】
前記焼成は、400から600℃で1時間以下の間行ってよく、450から550℃で5から30分間行うのが好ましい。
【0063】
前記焼成は、金属前駆体を酸化物に転換させる役割を担う。焼成が前述した条件を満たすと、触媒層内の不純物は容易に除去されながら、金属基材の強度には影響を及ぼさないことができる。
【0064】
一方、前記コーティングは、金属基材の単位面積(m2)当たりのルテニウムを基準に10g以上になるように塗布、乾燥及び焼成を順次繰り返して行ってよい。すなわち、本発明の他の一実施形態による製造方法は、金属基材の少なくとも一面上に前記触媒組成物を塗布、乾燥及び焼成した後、一回目の触媒組成物を塗布した金属基材の一面上に再び塗布、乾燥及び焼成するコーティングを繰り返して行ってよい。前記繰り返しは5から20回行われるものであってよい。
図1
図2
図3