(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】高周波トランスおよびそれを用いた電源回路
(51)【国際特許分類】
H01F 30/10 20060101AFI20220812BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20220812BHJP
H02M 3/28 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H01F30/10 C
H01F27/28 K
H01F30/10 A
H01F27/28 123
H01F30/10 M
H02M3/28 Q
(21)【出願番号】P 2018165054
(22)【出願日】2018-09-04
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿部 徹
(72)【発明者】
【氏名】菊地 慶子
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-101750(JP,A)
【文献】特開2012-169331(JP,A)
【文献】特開2009-212370(JP,A)
【文献】特開2017-195350(JP,A)
【文献】特開平05-190360(JP,A)
【文献】特開2002-198237(JP,A)
【文献】特開2005-108654(JP,A)
【文献】特開平04-338615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00- 7/02
H01B 7/38- 7/40
H01F 5/00- 5/06
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26-27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
H01F 41/12
H02M 3/00- 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉磁路磁心と、前記閉磁路磁心に巻回された一次巻線と二次巻線とを備え、前記一次巻線の巻軸方向に並んで前記二次巻線が配置され、
前記一次巻
線と前記二次巻
線が以下の
条件(2)を満たす高周波トランス。
(2)単一の二次巻線を挟む位置に2分割して配置された一次巻線を備え、素線の線径がφ0.05mm以上φ0.35mm以下の撚り線で構成され、前記一次巻線の素線占積率と前記二次巻線の素線占積率とが10.0%以上50.0%以下であ
り、前記2分割の一次巻線と前記単一の二次巻線とが、円錐状又は角錐状に旋回する形状に構成され、前記単一の二次巻線は中間部が大径、両端部が小径である
【請求項2】
請求項
1に記載の高周波トランスであって、
前記閉磁路磁心は第1の磁心と第2の磁心とを含み、前記第1の磁心と前記第2の磁心との間に磁気ギャップを有するように組み合わせて構成された高周波トランス。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の高周波トランスであって、
スイッチング周波数が100kHz~500KHzのLLC共振電源用である高周波トランス。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載の高周波トランスを用いた電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波トランスとそれを用いた電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電源の小型・軽量化、高効率化が強く要請されていて、コンバータ等の電源回路のスイッチング周波数を100kHz以上に高める対応が進められている。高周波化により電源回路に使用されるトランスを小型化することが出来るものの、トランスの巻線で生じる銅損や磁心で生じる鉄損が増加する。鉄損の低減には低損失の磁心材料の選定を行えばよいが、一方で銅損の低減には直流抵抗と交流抵抗の低減が必要である。
【0003】
高周波におけるトランスの銅損の要因は、コイルの素線断面における電流密度の偏りによって生ずる表皮効果と、近接効果に起因する交流抵抗が支配的で、周波数が高くなるとその影響が顕著となる。高周波電流をコイルに通電すると、巻線を流れる電流による磁界の時間変化によって電流分布が素線の表面に偏る。例えば断面が円形の素線では、電流分布が存在する領域として規定される表皮厚が半径以下となると、素線の外周と中心部で電流密度が大きく異なって交流抵抗が増加する。
【0004】
また、ソフトスイッチングが可能でスイッチング損失の低減可能な電源回路としてLLC共振駆動方式が知られているが、この方式はトランスの漏れインダクタンスを共振用インダクタとして用いる例が多く、この場合、漏洩磁束が巻線に鎖交することにより生じる渦電流によって交流抵抗の増加が生じやすい。更に、一方の巻線が作る磁場中に他方の巻線がある場合には、他の巻線に鎖交する磁束によって渦電流が生じ交流抵抗が増加する。
【0005】
つまり銅損の低減には、巻線の直流抵抗と、導体中の表皮効果、導体間の近接効果、漏洩磁束による渦電流に基づく交流抵抗を低減させることが必要である。
【0006】
一般に交流抵抗の低減のため、トランスの巻線に細い素線を撚り合わせた撚り線(リッツ線とも呼ばれる)が用いられる。特許文献1には撚り線を用いることで表皮効果の影響を少なくすることが記載されている。素線の断面積(線径)を小さくするとともに、本数を増加することで、表皮効果、近接効果、渦電流による損失を低減して巻線の交流抵抗を抑えることができる。
【0007】
また特許文献2では、トランスの一次巻線と二次巻線との接触面積を小さくして、一次巻線と二次巻線との間の近接効果によるトランスの温度上昇を抑制する。トランスの構造の一例を断面図として
図24に示す。銅線を傘状あるいは切頭円錐状に巻回した一次巻線506と二次巻線505を、小径側が対面するように接触させて磁心520に配置してトランス500とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭62-219605号公報
【文献】特開2012-169331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
撚り線をトランスの巻線に使用することや、巻線を円錐形状等にすることで交流抵抗を低減することは可能だが、電源回路の高周波化に対して、更なる交流抵抗の低減と、電源回路の効率の低下を抑制するという課題がある。そこで本発明は、交流抵抗の低減が可能な高周波トランス及び、それを用いた電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、閉磁路磁心と、前記閉磁路磁心に巻回された一次巻線と二次巻線とを備え、前記一次巻線の巻軸方向に並んで前記二次巻線が配置され、前記一次巻線の素線占積率と前記二次巻線の素線占積率が以下の条件(1)または(2)を満たす高周波トランスである。
(1)単一の一次巻線と単一の二次巻線とが間隔をもって並置され、素線の線径がφ0.15mm以上φ0.35mm以下の撚り線で構成され、前記一次巻線の素線占積率と前記二次巻線の素線占積率とが4.0%以上13.5%以下である
(2)単一の二次巻線を挟む位置に2分割して配置された一次巻線を備え、素線の線径がφ0.05mm以上φ0.35mm以下の撚り線で構成され、前記一次巻線の素線占積率と前記二次巻線の素線占積率とが10.0%以上50.0%以下である
【0011】
前記単一の一次巻線と前記単一の二次巻線とが、円錐状又は角錐状に旋回する形状に構成されるのが好ましい。
【0012】
また、前記2分割の一次巻線と前記単一の二次巻線とが、円錐状又は角錐状に旋回する形状に構成され、前記単一の二次巻線は中間部が大径、両端部が小径であるのが好ましい。
【0013】
また、前記閉磁路磁心は第1の磁心と第2の磁心とを含み、前記第1の磁心と前記第2の磁心との間に磁気ギャップを有するように組み合わせて構成されるのが好ましい。
【0014】
また本発明の高周波トランスは、スイッチング周波数が100kHz~500kHzのLLC共振電源用であるのが好ましい。
【0015】
また本発明は、前述の高周波トランスを用いた電源回路である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば交流抵抗の低減が可能な高周波トランス及び、それを用いた高効率な電源回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施態様に係る高周波トランスの平面図である。
【
図2】本発明の他の実施態様に係る高周波トランスの平面図である。
【
図3】集合よりの撚り線を径方向に切断して現れる断面の拡大図である。
【
図4】集合よりを更に束ねた、複合よりの撚り線を径方向に切断して現れる断面の拡大図である。
【
図5】解析を行った高周波トランスの巻線構造を示すシミュレーションモデルの部分断面図である。
【
図6】解析を行った高周波トランスの他の巻線構造を示すシミュレーションモデルの部分断面図である。
【
図7】解析を行った高周波トランスの他の巻線構造を示すシミュレーションモデルの部分断面図である。
【
図8】解析を行った高周波トランスの他の巻線構造を示すシミュレーションモデルの部分断面図である。
【
図9】解析を行った高周波トランスの他の巻線構造を示すシミュレーションモデルの部分断面図である。
【
図10】解析を行った高周波トランスの他の巻線構造を示すシミュレーションモデルの部分断面図である。
【
図11】(a)シミュレーションに使用した磁心のモデル構造を示す正面図であり、(b)その側面図である。
【
図12】(a)シミュレーションに使用したボビンのモデル構造を示す正面図であり、(b)その平側面図である。
【
図13】(a)シミュレーションに使用したボビンの他のモデル構造を示す正面図であり、(b)その側面図である。
【
図14】素線径がφ0.2mmの一次巻線の素線占積率と交流抵抗Rac1との関係を示す図である。
【
図15】素線径がφ0.3mmの一次巻線の素線占積率と交流抵抗Rac1との関係を示す図である。
【
図16】素線径がφ0.1mmの一次巻線の素線占積率と交流抵抗Rac1との関係を示す図である。
【
図17】素線径がφ0.2mmの一次巻線の素線占積率と交流抵抗Rac1との関係を示す図である。
【
図18】素線径がφ0.1mmの二次巻線の素線占積率と交流抵抗Rac2との関係を示す図である。
【
図19】素線径がφ0.2mmの二次巻線の素線占積率と交流抵抗Rac2との関係を示す図である。
【
図20】(a)本発明の高周波トランスに用いた磁心の正面図であり、(b)その側面図である。
【
図22】高周波トランスの変換効率の評価回路ブロック図である。
【
図23】実施例と比較例の高周波トランスの周波数と変換効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る高周波トランス、それを用いた電源回路について具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。なお、図の一部又は全部において、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大または縮小等して図示した部分がある。また説明において示される寸法や形状、構成部材の相対的な位置関係等は特に断わりの記載がない限りは、それのみに限定されない。さらに説明においては、同一の名称、符号については同一又は同質の部材を示していて、図示していても詳細説明を省略する場合がある。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る高周波トランスを示す断面図である。
図1に示すように、高周波トランス1は、弊磁路磁心を構成する一対の磁心10a、10bと一対の巻線20a、20b、そして巻線20a、20bを保持する巻枠(ボビン)15を備えていて、磁路にギャップGが構成されている。なお以降の説明では、巻線20aを一次巻線とし、巻線20bを二次巻線と呼ぶ場合があるが、入力側と出力側の区別は特に言及がなければ限定されない。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態に係る高周波トランスの他の構成を示す断面図である。
図1に示した高周波トランスとは一次巻線20aを分割して2つの巻線20a1、20a2で構成する点で相違する。2分割された一方の一次巻線20a1、単一の二次巻線20b、2分割された他方の一次巻線20a2の順に並んで配置され、分割された一次巻線20a1、20a2は直列接続されている。なお図示した例では、分割された一次巻線20a1、20a2で単一の二次巻線20bを挟む構成だが、二次巻線20bを分割し、その間に一次巻線20aを挟む構成としても良い。なお分割された巻線との関係で、分割されていない巻線を“単一の巻線”として区別する場合がある。
【0021】
一次巻線20a、二次巻線20bはそれぞれ、複数の細い銅線(素線)を撚った集合よりの撚り線、あるいは集合よりを更に束ねた複合よりの撚り線で構成される。撚り線は、単一の線材と比較して小径の素線を使用するので、引用文献1にも記載されるように表皮効果の影響を顕著に低減できて損失を低減する効果を有する。
【0022】
図3は複数の細い銅線(素線)を撚った、集合よりの撚り線を径方向に切断して現れる断面の拡大図である。撚り線100の断面形状は、その外形は点線で示すように等価的に円形となる。素線110は銅線やアルミ線で、それぞれに絶縁被覆120が設けられている。絶縁被覆120は、例えばビニル樹脂、フッ素樹脂、ホルマール樹脂等である。
図4は集合よりを更に束ねた、複合よりの撚り線を径方向に切断して現れる断面の拡大図である。複合よりの撚り線130の断面形状もまた点線で示すように等価的に円形となる。
【0023】
図3の例では同じ線径の7本の素線110が集合よりの撚り線100に構成され、
図4の例では、同じ径の3本の集合よりの撚り線100で複合よりの撚り線130が構成されるが、素線の本数や線径等は本発明の要旨を超えない範囲で適宜変更しても良く、図示した例に限定されるものではない。
【0024】
本発明において、一次巻線20a、二次巻線20bは、それぞれ素線の線径の上限をφ0.35mmとする。φ0.35mmの線径は銅の100kHzでの表皮厚の2倍に近く、線径がφ0.35mm超であると交流抵抗が増大するからである。また一次巻線20aを
図2に示すような分割巻にする場合には、線径がφ0.05mm以上であり、
図1に示すように一次巻線20a、二次巻線20bのどちらも単一の巻線である場合にはφ0.15mm以上とする。それぞれ線径が所定の値未満であると交流抵抗の低減効果が得られ難い場合がある。
【0025】
また一次巻線20a、二次巻線20bは交流抵抗の低減効果を得るのに、一次巻線20aを分割巻にする場合に素線占積率を10.0%以上50.0%以下とする。更に素線占積率は15.0%以上が好ましく、また40.0%以下であるのが好ましい。一次巻線20a、二次巻線20bともに分割巻としない場合には、素線占積率を4.0%以上13.5%以下とする。更に素線占積率は4.5%以上が好ましく、また12.0%以下であるのが好ましい。
【0026】
高周波トランス1に用いるボビン15は、一次巻線20a、二次巻線20bと磁心10a、10bとの間を仕切り、磁心10a、10bの連結部13a、13bとの間の仕切り部分15a、磁心10a、10bの中脚部11a、11bとの間の仕切り部分15b、一次巻線20a、二次巻線20b同士の間の仕切り部分15cを有する。仕切り部分15bは、磁心10a、10bの中脚部11a、11bを囲う筒状になっていて、仕切り部分15bの周囲から、仕切り部分15aと仕切り部分15cが立設される。仕切り部分15aと仕切り部分15cとで区画された領域に、一次巻線20aと二次巻線20bが並んで配置される。ボビン15は、一次巻線20a、二次巻線20bを巻回形成する巻き型であるとともに、磁心10a、10bと一次巻線20a、二次巻線20bとの間の絶縁を確保する。一対の磁心10a、10bは、中脚部11a、11bがボビン15の仕切り部15bによる筒状部に通されて接着剤で固定されるとともに、絶縁テープ、止め具、あるいはバンドで拘束固定される。
【0027】
ボビン15は、絶縁性、耐熱性及び成形性を有する樹脂により形成され、具体的にはポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が好ましい。それらの成形には射出成形法など、樹脂成形方法などの方法によって形成することができる。また図示した例ではボビン15を一次巻線20aと二次巻線20bで共通としているが、一次巻線20aと二次巻線20bのそれぞれに対応したボビンとしても良い。また仕切り部分15bは後述する一次巻線20aと二次巻線20bの形態に合わせて形成するのが好ましく、例えば一次巻線20aや二次巻線20bが円錐状であれば、各巻線の内側面の傾斜に合わせた形状とすれば良い。
【0028】
磁心10a、10bのそれぞれは、E字形状あるいはU字形状であることが好ましい。E字形状である場合、磁心10aは、中脚部11aおよび2つの側脚部12a、12a、それらを繋ぐ連結部13aとからなる。磁心10bも同様に、中脚部11bおよび2つの側脚部12b、12b、それらを繋ぐ連結部13bとからなる。連結部13 a、13bは略矩形板状に形成されていて、側脚部12a、12bは連結部13 a、13bの端部から互いに平行に起立し、中脚部11a、11bは、2つの側脚部12a、12bの中間にあって、連結部13a、13bの中央部から起立している。中脚部11a、11bの長さは側脚部12a、12bよりも短い。高周波トランス1は磁心10a、10bの中脚部11a、11b同士、および2つの側脚部12a、12b同士を対向させ、端部を突き合わせ正対させて組み合わせて構成される。高周波トランス1には中脚部11a、11b、側脚部12a、12b、連結部13a、13bを通ずる閉磁路が形成され、対面する中脚部11a、11bの間にはギャップGが形成される。
【0029】
磁心10a、10bのそれぞれは、Ni系、Mn系等のソフトフェライトや、純鉄、Fe-Si系磁性合金、Fe-Si-Al系磁性合金、Fe-Si-Cr系磁性合金、あるいはFe基、Co基等のアモルファス合金、ナノ結晶合金(典型的にはファインメット(登録商標))等の金属磁性材料を用いることができる。例えば、磁気飽和する負荷電流が相対的に小さい場合には、飽和磁束密度が小さい低損失のソフトフェライトを用いるのが好ましく、ソフトフェライトよりも大きい負荷電流まで高いインダクタンス値を維持する場合には、飽和磁束密度が大きい金属磁性材料を用いるのが好ましい。金属磁性材料がリボン状にて提供される場合、リボンを所定形状に打ち抜き積層した積層磁心としても良いし、粉末で提供される場合、絶縁被膜となる樹脂やガラスと混合し、成形し熱処理して構成される圧粉磁心としても良い。
【0030】
このような高周波トランスについて、有限要素法(FEM)解析を用いたシミュレーションによる交流抵抗の抑制効果について説明する。以下に主な解析条件を示す。
・シミュレーションに使用したソフトウエア
JMAG-Designer 17.0.02v x64 editionを使用した。
・解析方法
TS(トランス解析)モジュール並びにFQ(周波数応答磁界解析)モジュールを使った2次元周波数応答磁界解析を行った。
巻線の分割数は巻線条件によって異なり交流抵抗を高精度に計算可能な条件とする。後述の解析においては、例えば450kHzでの素線径φ0.1の条件(1次側5ターン素線数59×4層の密集巻、2次側2ターン素線数233本×2層の分散巻)では44097要素である。200kHzでのφ0.1密集巻条件(1次側12ターン素線数225本、2次側18ターン素線数225本)では215700要素である。
・材料パラメータ
巻線を銅とし、抵抗率ρ=1.673×10-8Ωmとした。
磁心材として日立金属株式会社製のMn系フェライトML91S材、ML29D材の2種とした。
・磁心形状
PQ形状
【0031】
図5から
図10は、解析を行った高周波トランスの巻線構造を示すシミュレーションモデルの部分断面図である。
図5から
図7は、
図1に示した高周波トランスと同様な構成を有し、
図8から
図10は
図2に示した高周波トランスと同様な構成を有していて、それぞれ巻線の形態が異なる。
【0032】
図5は高周波トランスのシミュレーションモデルの一例である。一次巻線20aは連結部13aの伸長方向に4層に重なり、各層で中脚部11aの伸長方向に撚り線100が5回巻回されている。また二次巻線20bは2層に重なり、各層で撚り線100が2回巻回されている。一次巻線20aは4層の一列を並列に接続して5ターンの巻線、二次巻線20bは2層の一列を並列に接続して2ターンの巻線とした。一次巻線20aの様な撚り線を多層に整列して密に巻回する構造を説明が容易なように密集巻と呼ぶことにする。また二次巻線20bは、密集巻構造の巻線よりも線間隔が広く、離れて構成されていて、この様な撚り線を巻回する構造を分散巻と呼ぶことにする。一次巻線20a、二次巻線20bの内周面及び外周面は磁心10a、10bの中脚部11a、11bとの間のボビン15の仕切り部分15bの外周面に倣った形状の周面となる。図示した例では、一次巻線20a、二次巻線20bの内周面及び外周面がともに円周となっているが、ボビン15の仕切り部分15bの外周が矩形であれば、一次巻線20a、二次巻線20bの内周面及び外周面は、それに倣った略矩形となる。
【0033】
図6は本発明の他の実施形態に係る高周波トランスのシミュレーションモデルである。一次巻線20a、二次巻線20bのそれぞれは、巻軸方向の両端で巻径が異なっていて、図示した例では、磁心10a側に設けられた一次巻線20aは、連結部13a側の一方から他方に向かって巻径が次第に大きくなっている。また磁心10b側に設けられた二次巻線20bは、連結部13b側に向かって、一方から他方に向かって巻径が次第に小さくなっている。一次巻線20aは一層で撚り線100が5回巻回されていて、5ターンの巻線としている。また二次巻線20bは、2層の撚り線100が2回巻回されていて、2層の撚り線を並列に接続した2ターンの巻線としている。一次巻線20a、二次巻線20bはともに、その周面は巻軸方向に対して傾斜していて、図示した例では周面の形状は円錐である。なお、周面の形状は、角錐であってもよい。この様な撚り線の巻線構造を錐状巻と呼ぶこととする。なお、二次巻線20bは2ヶ所の分散巻であり、周面とは2ヶ所の巻線を繋ぐ仮想面のことである。
【0034】
図7は本発明の他の実施形態に係る高周波トランスのシミュレーションモデルである。一次巻線20a、二次巻線20bのそれぞれは分散巻である。図示した例では、一次巻線20aは撚り線100が磁心10aの連結部13a側で3回巻回され、更に巻軸方向に離間した位置で2回巻回されて合計5回巻回されている。二次巻線20bも同様な構成となっていて、ともに5ターンの巻線となっている。
【0035】
図11にシミュレーションに使用した磁心のモデル構造を示す。磁心10はPQ形状で、2つを組み合わせ使用する。中脚部11および2つの側脚部12、それらを繋ぐ連結部13とからなる。図で現れない背面は平坦面となっている。磁心10の各部の寸法を表1に示す。磁心材を日立金属株式会社製のMn系フェライトのML91S材とし、シミュレーションには、その直流B-H曲線の初磁化曲線データを使用した。
【0036】
【0037】
図12にシミュレーションで使用したボビンのモデル構造を示す。ボビン15は一次巻線20a、二次巻線20bと磁心10a、10bとの間の仕切り部15a、15b、15c、15dを有する。シミュレーションで用いたボビン15の各部の寸法を表2に示す。
【0038】
【0039】
一次巻線20a、二次巻線20bの撚り線と巻線構造を変えてシミュレーションを行った条件を表3に、その結果を表4に示す。巻線仕様は一次巻線側の自己インダクタンス(二次巻線側オープン)が15.0μH~16.0μHとなるように、漏れインダクタンス(二次巻線側ショート)が3.0μH ~3.3μH となるように設定した。一次巻線と二次巻線との間隔LLは10mmに、ギャップ長は0.3mmに設定した。またシミュレーションでの駆動条件は、一次巻線側を周波数450kHzの正弦波で励振し、二次巻線側出力は電圧48V、電流20Aとなる様にしている。
【0040】
なお表3中の素線径ds1は
図3に示した銅線(素線)110の直径であり、素線径(皮膜含)DS1は絶縁被覆120を含む直径である。また撚り線の素線総断面積Slは、各素線断面積の合計であって次式で算出した。
Sl=N×π×1/4×ds1
2
N 素線本数
ds1 素線外径(絶縁被覆含まない)の公称値
【0041】
また素線占積率は、巻線の巻軸方向xと、それに直交する方向yの断面において、一次巻線20aのx方向の最大幅a1とy方向の最大高さb1で画定される矩形領域の面積S、二次巻線20bのx方向の最大幅c1とy方向の最大高さd1で画定される矩形領域の面積Sのそれぞれに対する素線総断面積Slの比Sl/Sの百分率として算出した。
【0042】
【0043】
【0044】
図14に素線径が0.2mmである場合(No.4~15)の一次巻線の素線占積率と交流抵抗との関係を示す。また
図15に素線径が0.3mmである場合(No.17~30)の一次巻線の素線占積率と交流抵抗との関係を示す。図中破線は占積率が大きいNo.3、No.16での交流抵抗の水準を示している。分散巻あるいは円錐状巻の巻線構造では、同じ素線径で素線占積率が相対的に大きい巻線構造である場合よりも交流抵抗Rac1が低減できる素線占積率の範囲があることが分かる。素線径が大きいほうが交流抵抗Rac1の低減の比率が大きく、また分散巻よりも円錐状巻の方が僅かだが交流抵抗Rac1が低減した。分散巻では交流抵抗が最大で約21%低減し、円錐状巻では最大で約26%低減した。これは巻線の大径側どうしが対向するように円錐状巻の一次巻線20a、二次巻線20bを配置することで、ギャップG部分の漏洩磁束の影響が小さくなって近接効果が抑制された影響と思われる。
【0045】
一方、表3と表4より、二次巻線20bの交流抵抗Rac2もまた低減している。素線径が大きいほうが交流抵抗Rac2の低減の比率が大きく、交流抵抗が最大で約41%低減した。
【0046】
更に巻線の構造を
図2の高周波トランスの分割巻に変えてシミュレーションを行った。
図8は本発明の他の実施形態に係る高周波トランスのシミュレーションモデルである。このモデルでは一次巻線20aが2分割された分割巻の構成となっている。一次巻線20aが分割された巻線20a1、20a2、二次巻線20bはともに円錐状巻で構成される。二次巻線20bは一方から他方に向かって巻径が次第に変わるが、両端部で巻径が小径で、中央部で大径となるように構成されている。
【0047】
図9は本発明の一実施形態に係る高周波トランスのシミュレーションモデルである。このモデルも
図2に示した構造の高周波トランスであって、一次巻線20aが2分割された分割巻の構成となっているが、
図8のモデルと比べて、一次巻線20aの小径側が二次巻線20bと対面するように配置する点が異なる。
【0048】
図10は本発明の一実施形態に係る高周波トランスのシミュレーションモデルである。このモデルも
図2に示した構造の高周波トランスであって、一次巻線20aが2分割された分割巻の構成となっているが、
図8のモデルと比べて、一次巻線20aを径方向に2回巻回し、それを巻軸方向に繰り返して円錐状巻とする点が異なる。
【0049】
図示しないが、一次巻線20aと二次巻線20bを密集巻や分散巻にした本発明の他の実施形態に係る高周波トランスついてもシミュレーションで交流抵抗を解析した。
【0050】
シミュレーションモデルの磁心の構造は
図11と同じであり、磁心10の各部の寸法を表5に示す。磁心材を日立金属株式会社製のMn系フェライトのML24D材とし、シミュレーションには、その直流B-H曲線の初磁化曲線データを使用した。
【0051】
【0052】
図13にシミュレーションに用いたボビンのモデル構造を示す。ボビン15は一次巻線20a、二次巻線20bと磁心10a、10bとの間を仕切り部15a、15b、15c、15dを有する。一次巻線20aを設ける箇所が二次巻線20b を挟むように2箇所ある。シミュレーションで用いたボビン15の各部の寸法を表6に示す。
【0053】
【0054】
一次巻線20a、二次巻線20bの撚り線の条件と、巻線構造を変えてシミュレーションを行った結果を表7と表8に示す。表中、
図8の巻線態様を円錐状巻A、
図9の巻線態様を円錐状巻B、
図10の巻線態様を円錐状巻Cとしている。一次巻線20aは2分割されて一次巻線20a1、一次巻線20a2として構成されるが、表7においては一次巻線20a1の撚り線の条件を示している。一次巻線20a1と同じ条件で構成される一次巻線20a2の条件については表中記載を省略している。なお巻線仕様は一次巻線側の自己インダクタンス(二次巻線側オープン)が167μH~177μHとなるように、漏れインダクタンス(二次巻線側ショート)が19μH~21μHとなるように設定した。一次巻線と二次巻線との間隔LL1とLL2はともに5.2mmに、ギャップ長は1.0mmに設定した。またシミュレーションでの駆動条件は、一次巻線側を周波数200kHzの正弦波で励振し、二次巻線側出力は電圧360V、電流10Aとなる様にしている。
【0055】
【0056】
【0057】
図16に素線径が0.1mmである場合(No.32~39)の一次巻線の素線占積率と交流抵抗との関係を示す。また
図17に素線径が0.2mmで場合(No.41~48)の一次巻線の素線占積率と交流抵抗との関係を示す。図中破線は占積率が大きいNo.31、No.40での交流抵抗の水準を示している。一次巻線20aを分散巻とした場合も、交流抵抗Rac1が低減できる素線占積率の範囲があることが分かる。また、一次巻線20aを分割巻きとしない
図1に示した高周波トランスよりも広く、素線占積率が10.0%以上50.0%以下を含む範囲で交流抵抗Rac1が低減できる。
【0058】
図18に素線径が0.1mmである場合(No.32~39)の二次巻線の素線占積率と交流抵抗との関係を示す。また
図19に素線径が0.2mmで場合(No.41~48)の二次巻線の素線占積率と交流抵抗との関係を示す。図中破線はNo.31、40での交流抵抗の水準を示している。この場合もまた、素線占積率が10.0%以上50.0%以下を含む範囲で交流抵抗Rac2が低減できる。
【実施例】
【0059】
図20に示す磁心を使って、
図21に示す高周波トランスを作製した。この高周波トランスは
図1に示した構造と同様であって、磁心10aの中脚部に配置された一次巻線20a、磁心10bの中脚部に配置された二次巻線20bを有し、一次巻線20a と二次巻線20bは絶縁樹脂からなるスペーサー16を介し、所定の間隔をもって並置されている。実施例として、磁心材は日立金属製ML24D材、磁心形状はEER53、ギャップは中脚部と側脚部に設けられたスペーサギャップ0.6mm(総ギャップ長は1.2mm)であり、一次巻線20a、二次巻線20bに素線径φ0.23mm×40本の撚り線を使用し、それぞれ巻数5回とし、円錐状巻で構成した高周波トランスを得た。比較例として実施例と同じコアとギャップで、一次巻線20a、二次巻線20bに素線径φ0.23mm×150本の撚り線を使用し巻数5回で3層の巻線を並列に接続した密集巻の高周波トランスも作成した。磁心の各部の寸法を表9に示す。ボビンは
図12に示したものと同様の構造であって、各部の寸法を表10に示す。また、それぞれの素線占積率、巻線間隔LLを表11にまとめて示す。なお、一次巻線20aと二次巻線20bを円錐状巻とするように、ボビンの仕切り部分15bに絶縁デープを巻回して傾斜を形成している。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
得られた高周波トランスを使って
図22の電源回路で変換効率を評価した。横河電機株式会社製パワーアナライザーWT3000で得られる一次巻線側と二次巻線側の電力値からトランスの変換効率を算出した。結果を
図23に示す。比較例の密集巻に比べて本発明の円錐状巻のものは、広い周波数範囲特に高周波数側で98%以上の高い効率が得られた。
【0064】
本発明の高周波トランスによれば、近接効果の影響を軽減でき、交流抵抗を低減できることが解った。また高周波トランスの変換効率は広い範囲で高くて電源回路に好適である。
【符号の説明】
【0065】
1 高周波トランス
10a、10b 磁心
15 ボビン
20a 一次巻線
20b 二次巻線
100 撚り線
110 素線(銅線)
120 皮膜