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  • 特許-絶縁電線及び多芯ケーブル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】絶縁電線及び多芯ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20220812BHJP
   H01B 7/04 20060101ALI20220812BHJP
   H01B 11/04 20060101ALI20220812BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H01B7/04
H01B11/04
H01B3/44 F
H01B3/44 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019083485
(22)【出願日】2019-04-25
(62)【分割の表示】P 2018183032の分割
【原出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2019175853
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2018060194
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】小林 正則
(72)【発明者】
【氏名】相田 一宏
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-192412(JP,U)
【文献】実開昭52-165281(JP,U)
【文献】特開平09-198934(JP,A)
【文献】特開2011-187293(JP,A)
【文献】特開2010-282913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 7/04
H01B 11/04
H01B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の素線からなる撚り線で構成される導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層と、を備え、
前記絶縁被覆層は、前記導体に密着して前記導体の外周を被覆する内層と、前記内層の外周を被覆する外層とを備え、
前記内層は、ポリ塩化ビニル(PVC)により形成されており、
前記外層は、エチレン四フッ化エチレン共重合樹脂(ETFE)により形成されており、
前記内層の厚さは、前記外層の厚さよりも大きく、
前記内層は、前記導体の最外側に配置された前記複数本の素線の間に存在する隙間に充填されることによって前記導体の外周に充実に設けられており、
前記外層は、前記内層と前記外層との間前記内層の厚さ及び前記外層の厚さよりも小さい厚さの空気層を有することによって前記内層に対して非接着に設けられている
絶縁電線。
【請求項2】
前記外層を形成する前記エチレン四フッ化エチレン共重合樹脂は、20g/10min以上の流動性(MFR)を有し、
前記内層を形成する前記ポリ塩化ビニルは、前記外層を形成する前記エチレン四フッ化エチレン共重合樹脂の引張強さの1/2以下の引張強さを有する
請求項に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記外層は、0.1mm以下の厚さで前記内層の厚さの1/4以上、1/2以下の厚さを有する、
請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の複数の絶縁電線を含むケーブルコアと、
前記ケーブルコアの外周に設けられたシースと、
を備える多芯ケーブル。
【請求項5】
前記ケーブルコアが2本の前記絶縁電線を対撚りした対撚線を含む、
請求項に記載の多芯ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線及び多芯ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用のロボット等の電気配線に使用される多芯ケーブル(以下、ロボットケーブルということがある)は、ロボットの動きに追随して、所定の回数以上に亘って繰り返して曲げる動作(以下、「繰り返し曲げ」ともいう。)を受ける。そのため、多芯ケーブル内に収容されている絶縁電線には、その繰り返し曲げに耐える優れた耐屈曲性が要求される。また、多芯ケーブルが繰り返し曲げを受けた際には、ケーブル内に収容された複数本の絶縁電線同士が擦れ、絶縁電線の絶縁被覆表面が摩耗する虞がある。この絶縁被覆表面の摩耗は、二本の絶縁電線を対撚した対撚線をケーブル内に含むときに、対撚線同士が局部的に接触して激しく擦れるため顕著である。このように、産業用ロボットの配線に使用される絶縁電線には、耐屈曲性と絶縁被覆の耐摩耗性が要求されるため、絶縁被覆にフッ素樹脂を用いることが多い。
【0003】
一方、フッ素樹脂は引張り強さが高いため硬く、フッ素樹脂を被覆した絶縁電線は柔軟性に劣る。そこで、絶縁電線の柔軟性を改善するため、内側に柔らかい樹脂、その外側にフッ素樹脂の2層構造の被覆を設けた絶縁電線が提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
特許文献1に記載の絶縁電線は、導体周上に、エチレン-極性モノマー共重合体を主体とした組成物からなる第一層が被覆され、該第一層の外周に放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層が被覆され、上記第一層と上記第二層とが、接着処理を施されることなく接着しているとともに、上記第一層及び上記第二層がともに架橋されている構成を備えている。
【0005】
特許文献2に記載の絶縁電線は、導体の周囲が少なくとも内側絶縁層とその外側の外側絶縁層の2層の絶縁層により被覆されている絶縁電線であって、前記内側絶縁層がEVA、EEA、EBA等のオレフィン系樹脂を含有し、前記外側絶縁層がフッ素樹脂を含有する構成を備えている。
【0006】
特許文献3に記載の絶縁電線は、導体周上に、アクリルゴムを含有する組成物からなる第一層が被覆され、該第一層の外周にフッ素樹脂からなる第二層が被覆され、上記第一層と上記第二層とが密着している構成を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-284895号公報
【文献】特開2013-225405号公報
【文献】特開2009-272100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1から3に記載の絶縁電線は、いずれも自動車、電機・電子機器等に使用されることを想定しており、過酷な繰り返し曲げを受けるロボットケーブルに使用することは想定されていない。特に、複数本の絶縁電線をケーブルコアに含む多芯ケーブルが小さな曲げ半径で曲げられて配置される場合であっても、繰り返し曲げに耐えることが望まれる。
【0009】
本発明は、耐摩耗性を維持しつつ耐屈曲性及び柔軟性に優れた絶縁電線及びそれをケーブルコアに含む多芯ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、下記の[1]~[4]の絶縁電線、及び[5]、[6]の多芯ケーブルを提供する。
【0011】
[1]導体と密着して前記導体の外周を被覆する内層と、前記内層の外周を被覆する外層とを備え、前記内層は、ポリ塩化ビニル(PVC)により形成されており、前記外層は、エチレン四フッ化エチレン共重合樹脂(ETFE)により形成されており、前記内層の厚さは、前記外層の厚さよりも大きく、前記内層と前記外層との間には、前記内層の厚さ及び前記外層の厚さよりも小さい厚さの空気層を有する、絶縁電線。
[2]前記外層は、前記内層に対して非接着に設けられている、前記[1]に記載の絶縁電線。
[3]前記外層を形成する前記エチレン四フッ化エチレン共重合樹脂は、20g/10min以上の流動性(MFR)を有する、前記[1]又は[2]に記載の絶縁電線。
[4]前記外層は、前記内層の厚さの1/4以上、1/2以下の厚さを有する、前記[1]から[3]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
[5]前記[1]から[4]のいずれか1つに記載の複数の絶縁電線を含むケーブルコアと、前記ケーブルコアの外周に設けられたシースと、を備える多芯ケーブル。
[6]前記ケーブルコアが2本の前記絶縁電線を対撚りした対撚線を含む、前記[5]に記載の多芯ケーブル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、耐摩耗性を維持しつつ耐屈曲性及び柔軟性に優れた絶縁電線及びそれをケーブルコアに含む多芯ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る多芯ケーブルの構造の一例を示す横断面図である。
図2図1に示す多芯ケーブルの絶縁電線を拡大して示す横断面図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係る多芯ケーブルの構造の一例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。また、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の絶縁電線及び多芯ケーブルの寸法比と一致するものではない。
【0015】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態について、図1及び図2を参照して説明する。図1に示すように、多芯ケーブル1は、複数本の絶縁電線2を含むケーブルコア4と、このケーブルコア4の周囲に巻き付けられた押さえ巻6と、この押さえ巻6の外周に設けられたシールド層7と、このシールド層7の外周に設けられたシース8とを備える。なお、絶縁電線2の周囲の隙間には、その隙間を埋めるために、例えば、アラミド繊維、スフ糸等を含む介在物を設けてもよい。
【0016】
図1は、絶縁電線2の本数を4本とする例を示している。なお、絶縁電線2の本数は、4本に限定されるものではなく、1本、2本、3本又は5本以上でもよい。また、好ましくは、絶縁電線2の本数は、50本以下である。また、ケーブルコア4は、絶縁電線2の他に、例えば同軸ケーブル等の他の電線やケーブルを含んでもよい。
【0017】
(絶縁電線2)
図2は、図1に示す多芯ケーブル1の絶縁電線2を拡大して示す横断面図である。図1及び図2に示すように、絶縁電線2は、複数本の素線211を含んで構成される導体層21(図1及び図2の破線参照)と、導体層21の外周を被覆する絶縁体を含む絶縁被覆層22とを備える。なお、図1及び図2の破線は、導体層21を説明するために便宜上付したものであり、実際の多芯ケーブル1上に実体として存在する境界面を示すものではない。また、導体層21は、導体の一例である。
【0018】
絶縁被覆層22の厚さ(図2の「L3」参照)は、好ましくは、0.50mm以下であり、例えば、約0.25mmとすることができる。以下の説明では、絶縁被覆層22が0.25mmの厚さ(L3)を有する多芯ケーブル1を例に挙げて説明する。
【0019】
〔導体層21〕
導体層21は、複数本の素線211を撚り合わせた撚り線を含んで構成される。素線211の本数は、図1で示す本数に特に限定されるものではないが、例えば、30本や60本とすることが好ましい。
【0020】
各素線211は、細径であることが好ましい。各素線211の直径(図2の「d」参照)は、例えば、約0.08mmとすることができる。また、素線211には、例えば、軟銅線を用いることができる。軟銅線には、銀めっき等のめっきが施されていてもよい。
【0021】
なお、素線211の直径dを0.08mmとし、本数を60本とする場合(すなわち、23AWG(American Wire Gauge)の場合)、導体層21の直径(図2の「φ」)は、約0.72mmとなる。この場合、導体層21の縦断面積(すなわち、破線で囲む円形の面積)は、約0.30mm2となる。
【0022】
〔絶縁被覆層22〕
絶縁被覆層22は、導体層21の外周を被覆する内層221と、内層221の外周を被覆する外層223とを備える。そして、絶縁被覆層22は、内層221の厚さが外層223の厚さよりも大きい。また、内層221と外層223との間に、内層221の厚さ(図2の「L1」参照)及び外層223の厚さ(図2の「L2」参照)に比して微小な厚さの空気層222を設けてもよい。詳細は後述する。
【0023】
(1)内層221
内層221は、絶縁電線2の柔軟性を向上させる役割を担う層である。絶縁電線2の柔軟性が向上することにより、結果的に多芯ケーブル1の柔軟性も向上する。そのため、内層221を形成する材料には、繰り返し曲げに対する耐性(すなわち、割れにくい)を有するやわらかい材料を用いることが好ましい。具体的には、内層221を形成する材料には、所定の値以下の引張強さを有する材料を用いることが好ましい。
【0024】
また、内層221を形成する材料には、例えば、薄い厚さ(例えば、約0.4mm以下の厚さ)で押出方式等の被覆成形による加工がし易い材料を用いることが好ましい。さらに、多芯ケーブル1が所定の温度(例えば、定格温度)に耐えられる耐熱性を有するために、内層221を形成する材料には、所定の温度以上の耐熱性を有する材料を用いることが好ましい。好ましくは、定格温度は、80℃以上である。なお、本実施の形態では、定格温度を105℃とした。
【0025】
以上を鑑みて検討した結果、発明者らは、内層221を形成する材料には、PVC(ポリ塩化ビニル)(融点約170℃、引張強さ35MPa以下)が最適であるとの知見を得た。なお、PVCは、電線やケーブルの被覆材料として一般的なものを用いることができるが、200%以上の伸び率を有するものを用いるのがより好ましい。また、PVCの引張強さは、後述する外層223を形成する材料の引張強さの1/2以下であることが好ましい。このようなPVCであれば、繰り返し曲げに対する耐性があり内層221として好適である。
【0026】
内層221は、好ましくは、絶縁被覆層22の厚さの2/3以上の厚さを有する。具体的には、内層221の厚さL1は、好ましくは、0.4mm以内、より好ましくは、約0.18mmとすることができる。
【0027】
内層221は、例えば、充実押出方式により、導体層21と密着するように導体層21の外周を被覆する。具体的には、内層221は、導体層21を構成する素線211のうち最外側に配置された複数本の素線211Aの外周面211Aaとそれぞれ密着するように、導体層21の外周を被覆する。最外側に配置された複数本の素線211Aのうち、隣接する素線211A間に存在する隙間(図2の「S」参照)は、内層221を形成するPVCで充填されていることが好ましい。
【0028】
(2)外層223
外層223は、多芯ケーブル1が所定の回数(例えば、1000万回)以上に亘って繰り返し曲げを受けたとしても不具合が生じないようにするために、絶縁電線2の耐屈曲性及び耐摩耗性を満足させる役割を担う層である。そのため、外層223を形成する材料には、耐屈曲性及び耐摩耗性の高い材料を用いることが好ましい。
【0029】
また、外層223は、後述するように、押出方式により内層221の外側を被覆する。そのため、外層223を形成する材料には、内層221の融点よりも大きすぎない融点を有する材料を用いることが好ましい。
【0030】
以上を鑑みて検討した結果、発明者らは、外層223を形成する材料には、フッ素系樹脂の一つであるETFE(エチレン四フッ化エチレン共重合樹脂)(融点約270℃、引張強さ50MPa以上)が最適であるとの知見を得た。ETFEであれば、絶縁電線2に要求される耐屈曲性及び耐摩耗性を満足させることができる。ETFEは、好ましくは、150%以上の伸び率を有する。また、ETFEは、好ましくは、150℃以上の耐熱性を有する。
【0031】
さらに、ETFEは、好ましくは、MFR(Melt Flow Rate;流動性)が20g/10min以上の値を有するものを用いるのが好ましい。ここで、MFRは、対象とする材料の流れやすさを示す指標であり、10分当たりに押し出される樹脂の量を示す。所定値以上のMFRを有するETFEを用いることによって、外層223を薄く加工することができるようになる(例えば、0.1mm以内)。
【0032】
具体的には、ETFEには、以下の材料を用いることができる。
・ダイキン工業株式会社製「EP506」
・旭硝子株式会社(AGCガラス(通称社名))製「フルオンC-88AXM」
【0033】
外層223は、好ましくは、内層221の厚さL1の1/4以上1/2以下の厚さを有する。また、外層223は、好ましくは、絶縁被覆層22の厚さ(L3)の1/3以下の厚さL2を有する。具体的には、外層223の厚さL2は、より好ましくは、0.1mm以内、さらに好ましくは、約0.07mmとすることができる。このように、外層223を薄くすることによって、多芯ケーブル1の細径化を図るとともに、加工時の外層223の温度の上昇を抑制して加工時の内層221の劣化を抑制することができる。
【0034】
外層223は、例えば、チューブ押出方式により、内層221の外周を被覆する。なお、内層221の外周面と外層223の内周面とは、密着していないことが好ましい。すなわち、外層223は、内層221に対して非接着に設けられていることが好ましい。換言すれば、内層221と外層223との間には、各層の厚さと比較して微小な厚さを有する空気層222が含まれていることが好ましい。
【0035】
(その他の構成)
押さえ巻6は、例えば、ポリエステル等を含む樹脂テープを用いる。押さえ巻6は、和紙でもよい。シールド層7は、例えば、導線を編組して形成される。なお、シールド層7は、導体付きテープを巻き付けたものでもよい。
【0036】
シース8は、特に限定はされないが、例えば、PVC、PE(ポリエチレン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂)等の材料を用いて形成される。また、シース8は、単層で構成してもよく、また、多層で構成してもよい。
【0037】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
本発明の実施の形態によれば、導体層21と密着するように導体層21の外周を被覆するポリ塩化ビニル(PVC)により形成された内層221と、エチレン四フッ化エチレン共重合樹脂(ETFE)により形成された内層221の外周を被覆する外層223とを備え、ポリ塩化ビニル(PVC)からなる内層221の厚さがエチレン四フッ化エチレン共重合樹脂(ETFE)からなる外層223の厚さよりも大きいことにより、耐摩耗性を維持しつつ耐屈曲性及び柔軟性に優れた絶縁電線及びそれをケーブルコアに含む多芯ケーブルを提供することができる。
【0038】
具体的には、内層221を柔らかい材料であるポリ塩化ビニル(PVC)で外層223の厚さよりも大きく形成することにより多芯ケーブル1の柔軟性を向上させるとともに、外層223を耐屈曲性及び耐摩耗性の高い材料であるエチレン四フッ化エチレン共重合樹脂(ETFE)で内層221の厚さよりも小さく形成することによって、絶縁電線2の耐摩耗性を満足させることができる。また、外層223を内層221と非接触で設けることにより、内層221と外層223との間に生じる微小な隙間によって、内層221が曲がりやすくなるためさらに耐屈曲性を満足させることができる。なお、このような絶縁電線2をケーブルコアに含む多芯ケーブル1は、柔軟性が向上する。柔軟性が向上した一例として、発明者らは、本発明の実施の形態に係る多芯ケーブル1により、曲げ半径を約6Dから約3Dに小さくすることができたことを確認した。なお、Dは、多芯ケーブル1の自己径を示す。
【0039】
このように多芯ケーブル1の柔軟性が向上する(すなわち、曲げ半径を小さくできる)ことで、例えば、可動ケーブルベア(登録商標)(不図示)内に多芯ケーブル1を配置したときに、シース8と走行するケーブルベア(登録商標)の内壁との衝突や擦れを低減(すなわちシース8の損傷や粉塵の発生を抑制)することができる。すなわち、複数本の絶縁電線2をケーブルコアに含む多芯ケーブル1が小さな曲げ半径で曲げられて配置される場合であっても、繰り返し曲げに耐えることができる。
【0040】
上記の実施の形態では、絶縁電線2の本数を4本としたが、これに限定されるものではない。なお、本発明は、絶縁電線2の本数が多いほどメリットがある。
【0041】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について図3を参照して説明する。図3は、本発明の第2の実施の形態に係る多芯ケーブル1の構造の一例を示す横断面図である。第2の実施の形態に係る多芯ケーブル1は、一対(2本)の絶縁電線2を撚り合わせた対撚線20を備える点で、第1の実施の形態に係る多芯ケーブル1と相違する。以下、第1の実施の形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して重複した説明を省略するとともに、第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0042】
図3に示すように、ケーブルコア4は、2本の絶縁電線2を一対として互いに撚り合わせて構成した対撚線20を3本含んで構成されている。なお、対撚線20の本数は、3本に限定されるものではなく、1本、2本、又は4本以上でもよく、目的に応じて適宜調整することができる。好ましくは、対撚線20の数は、25本以下である。
【0043】
また、絶縁電線2の構成は、上述した第1の実施の形態に係る絶縁電線2と同様の構成を有する。詳細の説明は省略する。なお、図3では、導体層21として7本の素線211を撚り合わせた構成を例に挙げたが、撚り線としての素線211の数は、7本に限定されるものではなく、例えば、19本、37本等でもよい。
【0044】
対撚線20を複数本含むとき、多芯ケーブル1が屈曲すると、撚っていない場合と比較して、隣接する対撚線20同士が互いに擦れ合い摩耗する虞が大きい。また、対撚線20と他の絶縁電線2とが互いに擦れ合い摩耗する場合も同様である。そのため、摩耗しにくいETFEを絶縁電線2の表面に被覆する。
【0045】
(第2の実施の形態の作用及び効果)
以上、第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、耐摩耗性を維持しつつ耐屈曲性及び柔軟性に優れた絶縁電線及びそれをケーブルコアに含む多芯ケーブルを提供することができる。また、摩耗しにくいETFEを絶縁電線2の表面に被覆することによって、多芯ケーブル1が屈曲する際に対撚線20同士の擦り合いや対撚線20と絶縁電線2との擦り合いが生じる場合であっても、繰り返し曲げによって絶縁電線2が摩耗することを抑制することができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0047】
1:多芯ケーブル、2:絶縁電線、4:ケーブルコア、6:押さえ巻、7:シールド層、8:シース、20:対撚線、21:導体層、22:絶縁被覆層、211,211A:素線、211Aa:素線の外周面、221:内層、222:空気層、223:外層
図1
図2
図3