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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】リング圧延材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 5/00 20060101AFI20220812BHJP
   B21H 1/06 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B21B5/00
B21H1/06 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019234875
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102222
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】武者 和也
(72)【発明者】
【氏名】大曽根 淳
(72)【発明者】
【氏名】石割 雄二
(72)【発明者】
【氏名】大路 桃子
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188580(JP,A)
【文献】特開2013-169563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 5/00
B21H 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング圧延装置でリング素材をリング圧延することによってリング圧延材を製造する方法であって、前記リング圧延装置が、主ロール及びマンドレルロールを備え、前記主ロールの外周面が、前記リング素材と前記マンドレルロールの外周面とを収容する窪み部と、前記窪み部に対して、前記主ロールの中心軸線方向の一方の側に位置する第1の鍔部と、その反対の側に位置する第2の鍔部とを有し、前記窪み部の内面が、前記リング素材の外周面と接触する圧延面と、前記第1の鍔部側の第1の内面と、前記第2の鍔部側の第2の内面とを有し、前記第1の内面および前記第2の内面の少なくとも1つの内面が、前記主ロールの中心軸線方向に対して垂直に交わる垂直面を基準に、前記窪み部の開口が広がるように勾配を有しており、前記勾配が、前記少なくとも1つの内面と前記圧延面との交線から、前記リング圧延材の厚さに相当する距離までの範囲内から始まるものであり、前記勾配の角度が、前記垂直面を基準にして0.3°超、9°以下であるリング圧延材の製造方法。
【請求項2】
前記リング素材が、Ni基合金、Co基合金、またはFe基合金の耐熱合金である請求項1に記載のリング圧延材の製造方法。
【請求項3】
前記リング素材の外周面が、少なくとも部分的に前記リング素材の中心軸線に対して傾斜しており、前記リング素材の大径外周の端面角と小径外周の端面角を結んだ直線と、前記リング素材の中心軸線との角度が10°超である請求項1又は2に記載のリング圧延材の製造方法。
【請求項4】
前記内面の勾配の角度が、前記垂直面を基準にして0.6°以上、9°以下である請求項3に記載のリング圧延材の製造方法。
【請求項5】
前記リング素材の外周面が、少なくとも部分的に前記リング素材の中心軸線に対して傾斜しており、前記リング素材の大径外周の端面角LDと小径外周の端面角SDを結んだ直線Dと、前記リング素材の中心軸線との角度が10°以下である場合、前記内面の勾配の角度が、前記垂直面を基準にして0.3°超、3°未満である請求項1又は2に記載のリング圧延材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング圧延材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リング素材をリング圧延してリング圧延材を製造する方法として、例えば、特許第5895111号公報に開示されているように、リング形状を有するリング素材の外周面と内周面に、主ロールとマンドレルロールをそれぞれ当接して、主ロール及びマンドレルロールをそれぞれ中心軸線周りに回転させながら、リング素材の径方向にて挟み込み、且つ押圧するとともに、一対のアキシャルロールでリング素材を、リング素材の中心軸線方向にて挟み込み、且つ押圧することで、リング圧延材を製造する方法が知られている。
【0003】
また、リング圧延材の製造方法として、例えば、中国特許出願公開第107127279号明細書には、主ロールが、リング素材の下方に位置する下部支持板と、リング素材の上方に位置する上部押圧板とを備えるものが開示されており、上部押圧板調整リング部材によって、上部押圧板の位置を調節して、異なる高さのリング素材に容易に対応可能なリング圧延の方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5895111号公報
【文献】中国特許出願公開第107127279号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リング素材をリング圧延する場合、特にリング素材がテーパー形状を有していたり又はリング素材の肉厚が部分的に異なるような形状を有していたりすると、金型である主ロール及びマンドレルロールとリング素材との周速差により発生する抵抗や、厚肉部および薄肉部の拡径量の差などによって、リング圧延中のリング素材の姿勢が安定し難いという問題がある。リング素材の回転が不安定になると、リング素材がアキシャルロールやテーブル等へ過剰接触して欠陥が発生したり、圧延後のリング圧延材が歪な形状になる等の問題がある。
【0006】
リング素材の回転を安定化させるために、主ロールに、リング素材の上下に位置する鍔部を設けて、リング素材の姿勢を安定化させる方法が考えられるが、リング圧延中にリング素材が暴れて、上記の鍔部を含む主ロールやマンドレルロールと接触すると、得られるリング圧延材にバリ等の欠陥が発生したり、このような接触の衝撃によってリング圧延装置に対する負荷が大きくなるという問題がある。よって、上記のように主ロールに鍔部を設ける場合、鍔部を含む主ロールの形状(いわゆる金型)を複数パターン用意して、リング素材との当たりを調整しながらリング圧延したり、装置への負荷を減らすために、リング素材を加熱した後にリング圧延するという工程を多く行って(いわゆるヒート数を増加させて)少しずつリング圧延を行うなどの必要があった。
【0007】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、主ロールに、リング素材の上下に位置する鍔部を設けても、得られるリング圧延材に欠陥等が発生することなく、圧延中のリング素材の姿勢を安定化させることができるリング圧延材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、リング圧延装置でリング素材をリング圧延することによってリング圧延材を製造する方法であって、前記リング圧延装置は、主ロール及びマンドレルロールを備え、前記主ロールの外周面は、前記リング素材と前記マンドレルロールの外周面とを収容する窪み部と、前記窪み部に対して、前記主ロールの中心軸線方向の一方の側に位置する第1の鍔部と、その反対の側に位置する第2の鍔部とを有し、前記窪み部の内面は、前記リング素材の外周面と接触する圧延面と、前記第1の鍔部側の第1の内面と、前記第2の鍔部側の第2の内面とを有し、前記第1の内面および前記第2の内面の少なくとも1つの内面は、前記主ロールの中心軸線方向に対して垂直に交わる垂直面を基準に、前記窪み部の開口が広がるように勾配を有している。前記勾配は、前記少なくとも1つの内面と前記圧延面との交線から、前記リング圧延材の厚さに相当する距離までの範囲内から始まるものである。換言すると、前記少なくとも1つの内面と前記圧延面との交線と、前記勾配の前記圧延面側の末端との距離は、前記リング圧延材の厚さ未満である。前記勾配の角度は、前記垂直面を基準にして0.3°超、9°以下である。
【0009】
前記リング素材は、Ni基合金、Co基合金、またはFe基合金の耐熱合金が好ましい。
【0010】
前記リング素材の外周面は、少なくとも部分的に前記リング素材の中心軸線に対して傾斜していてもよく、この場合、前記リング素材の大径外周の端面角と小径外周の端面角を結んだ直線と、前記リング素材の中心軸線との角度は、10°超であってよい。そして、この傾斜の角度が10°超の場合、前記内面の勾配の角度は、前記垂直面を基準にして0.6°以上、9°以下であることが好ましい。勾配の角度の下限は、0.8°以上が好ましく、1°以上が更に好ましい。勾配の角度の上限は、4°以下が好ましく、3°以下が更に好ましい。
【0011】
前記リング素材の外周面は、少なくとも部分的に前記リング素材の中心軸線に対して傾斜していてもよく、この場合、前記リング素材の大径外周の端面角と小径外周の端面角を結んだ直線と、前記リング素材の中心軸線との角度は、10°以下であってもよい。そして、この傾斜の角度が10°以下の場合、前記内面の勾配の角度は、前記垂直面を基準にして0.3°超、3°未満であることが好ましい。好ましい勾配の角度の下限は、0.5°以上が好ましく、0.6°以上が更に好ましい。勾配の角度の上限は、2.5°以下が好ましく、2°以下が更に好ましい。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明によれば、主ロールの外周面が、リング素材とマンドレルロールの外周面とを収容する窪み部を有し、この窪み部の第1の鍔部側の第1の内面および第2の鍔部側の第2の内面の少なくとも1つの内面は、その全面または所定の一部において、窪み部の開口が広がるように勾配を有していることから、回転中のリング素材が適度に拘束されて、リング素材の姿勢を安定化させることができ、円滑にリング圧延することができる。よって、金型を複数パターン用意したりヒート数を増加させたりする必要がなく、リング圧延に要するコストを削減することができる。特に、リング素材がテーパー形状を有していたり又はリング素材の肉厚が部分的に異なるような形状を有している場合であっても、リング素材の姿勢を安定化させることができ、よって、得られるリング圧延材にニアネットシェイプの形状付与ができ、リング素材の投入重量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るリング圧延材の製造方法に用いるリング圧延装置の一例を模式的に示す平面図である。
図2図1のリング圧延装置における主ロール及びマンドレルロールを模式的に示す部分拡大断面図である。
図3図2の主ロールの上鍔の部分を拡大して示す断面図である。
図4図2の主ロールの下鍔の部分を拡大して示す断面図である。
図5】本発明に係るリング圧延材の製造方法に用いるリング素材の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るリング圧延材の製造方法の一実施の形態について説明する。なお、図面は、本発明の実施の形態を明確に図示することに重点がおかれており、必ずしも縮尺通りに描かれたものではない。
【0015】
本実施の形態のリング圧延材の製造方法では、例えば、図1図4に示すようなリング圧延装置を用いる。このリング圧延装置は、圧延対象であるリング形状を有するリング素材1の外周側と内周側にそれぞれ位置する主ロール10とマンドレルロール20を備えている。主ロール10の外周面とマンドレルロール20の外周面は、リング素材1を挟んで互いに対向している。主ロール10は、その中心軸線10Xを中心に回転可能に構成されており、マンドレルロール20も、その中心軸線20Xを中心に回転可能に構成されている。主ロール10の中心軸線10Xとマンドレルロール20の中心軸線20Xは略平行である。主ロール10とマンドレルロール20は、それらの間にてリング素材1をリング形状の径方向(以下、「リング径方向」という)に圧下するためのものであり、マンドレルロール20は、主ロール10に対してリング径方向に沿って移動可能に構成されている。なお、主ロールの中心軸線方向とリング素材の中心軸線方向とは一致している。
【0016】
また、リング圧延装置は、リング素材1をリング形状の中心軸線方向(以下、「リング軸線方向」という)に挟むように位置する一対のアキシャルロール30を備えている。なお、本明細書では、説明の便宜上、中心軸線10Xないし中心軸線20Xに沿って、図2の上側を「上」、下側を「下」という。すなわち、一対のアキシャルロール30は、リング素材1の上下両側に位置している。一対のアキシャルロール30は、リング素材1をリング軸線方向に圧下するものであり、一対のアキシャルロール30の外周面は、リング素材1を挟んで互いに対向している。一対のアキシャルロール30は、それぞれの中心軸線を中心に回転可能に構成されている。
【0017】
主ロール10の外周面は、圧延対象であるリング素材1及びマンドレルロール20の外周面が収容される略U字状の窪み部12と、主ロールの中心軸線方向の一方の側に位置する第1の鍔部(以下、「上鍔部」という)11と、その反対の側に位置する第2の鍔部(以下、「下鍔部」という)13とを有する。そして、主ロール10の窪み部12の内面は、リング素材1の外周面と接触する圧延面12Sと、上鍔部11側の第1の内面(以下、「上面」という)11Sと、下鍔部13側の第2の内面(以下、「下面」という)13Sとを有する。
【0018】
主ロール10の窪み部12の圧延面12Sは、圧延後のリング圧延材の外周面に対応して傾斜している。同様に、マンドレルロール20の外周面20Sも、同様に、圧延後のリング圧延材の内周面に対応して傾斜している。図2に示すように、主ロール10の窪み部12の圧延面12Sとマンドレルロール20の外周面20Sとの間の隙間が、圧延後のリング圧延材の形状となる。このように主ロール10の窪み部12の圧延面12Sとマンドレルロール20の外周面20Sは、所望するリング圧延材の外周面および内周面の形状にそれぞれ対応するものであり、直線状、曲線状、またはそれらの組み合わせで傾斜していてよい。リング圧延材の肉厚は、一様でなくてもよく、よって、リング圧延材の外周面と内周面の傾斜は、同じ角度でなくてもよい。
【0019】
主ロール10の窪み部12の下面13Sは、図2に示すように、主ロール10の外周側に向かって、窪み部12の開口が広がるように勾配が付与されている。なお、図2では、下面13Sが上面11Sよりも広い面積を有することから、下面13Sに勾配が付与されているが、所望するリング圧延材の形状によっては、上面11Sが下面13Sよりも広い面積を有する場合、上面11Sに、窪み部12の開口が外周側に向かって広がるように、勾配が付与される。また、このように上面11Sまたは下面13Sの一方に勾配を付与させるだけではなく、上面11Sと下面13Sの両方に勾配を付与させてもよい。
【0020】
上面11Sの勾配角θaは、図3に示すように、主ロールの中心軸線方向に対して垂直に交わる垂直面H(通常、リング径方向の水平面となる)と上面11Sとの角度で表される。上面11Sの勾配角θaの下限は、後述するリング素材の傾斜角によって変化するが、0.3°超が好ましく、0.5°以上がより好ましく、0.6°以上が更に好ましく、1°以上が更により好ましい。また、上面11Sの勾配角θaの上限は、9°以下が好ましく、5°未満がより好ましく、3°以下が更に好ましく、2°以下が更により好ましい。
【0021】
また、上面11Sの勾配は、図3に示すように、主ロール10の窪み部12の圧延面12Sとの交線Vから外周側の端まで(すなわち、上面11S全面に)付与されているが、本発明の効果を得るためには、圧延面12Sとの交線Vからではなく、所望する圧延後のリング圧延材の内周面の位置Saから外周側の端まで、勾配を付与すればよい(すなわち、上記の交線Vと上記の位置Saとの間の距離は、所望するリング圧延材の上端部の厚さRaである)。換言すると、上面11Sと圧延面12Sとの交線Vと、上面11Sの勾配の圧延面12S側の末端との距離が、リング圧延材の厚さRa未満である。
【0022】
下面13Sの勾配角θbは、図4に示すように、主ロール10の中心軸線方向に対して垂直に交わる垂直面H(通常、リング径方向の水平面となる)と下面13Sとの角度で表される。下面13Sの勾配角θbの下限は、後述するリング素材の傾斜角によって変化するが、0.3°以上が好ましく、0.5°以上がより好ましく、0.6°以上が更に好ましく、1°以上が更により好ましい。また、下面13Sの勾配角θbの上限は、後述するリング素材の傾斜角によって変化するが、9°未満が好ましく、5°未満がより好ましく、3°未満が更に好ましく、2°未満が更により好ましい。
【0023】
また、下面13Sの勾配は、図4に示すように、主ロール10の窪み部12の圧延面12Sとの交線Vから外周側の端まで(すなわち、下面13S全面に)付与されているが、本発明の効果を得るためには、圧延面12Sとの交線Vからではなく、所望する圧延後のリング圧延材の内周面の位置Sbから外周側の端まで、勾配を付与すればよい(すなわち、上記の交線Vと上記の位置Sbとの間の距離は、所望するリング圧延材の下端部の厚さRbである)。換言すると、下面13Sと圧延面12Sとの交線Vと、下面13Sの勾配の圧延面12S側の末端との距離が、リング圧延材の厚さRb未満である。
【0024】
このようなリング圧延装置を用いてリング圧延材を製造するために、先ず、リング圧延装置にリング素材1を投入する。リング素材1としては、Ni基合金、Co基合金、Fe基合金等の耐熱合金で作製されたものが適している。耐熱合金は、温度低下による熱間延性の低下が著しいことから、塑性加工可能な温度領域が非常に狭い。すなわち、耐熱合金では、圧延可能な時間が短いということであり、安定した姿勢で圧延できる本実施の形態のリング圧延装置で得られる効果は大きい。リング圧延装置に投入されるリング素材1の加熱温度は、リング素材1の材質によって異なる。例えば、リング素材1がNi基合金のAlloy718で作製される場合、1000℃~1050℃の範囲の加熱温度が好ましいが、各製品の要求により変化するため、この温度範囲に限定されるものではない。
【0025】
また、投入されるリング素材1の形状は、例えば、外周面および内周面が略一定に直線状に傾斜している、いわゆるテーパーリングであってもよいし、曲線状に、または直線状と曲線状との組み合わせで傾斜していたり、リング素材の肉厚が部分的に異なるような、いわゆる異形リングであってもよい。このようなリング素材1の傾斜角θrは、図5に示すように、リング素材の一部の肉厚が異なる場合であっても、テーパーリングの場合、リング素材1の大径外周の端面角LDと小径外周の端面角SDとを結んだ線Dと、リング素材1のリング形状の中心軸線1Xとの角度で表される。リング素材1の傾斜角θrの下限は、5°以上が好ましく、7°以上がより好ましく、10°超が更に好ましく、15°以上が更により好ましい。リング素材1の傾斜角θrの上限は、特に限定されないが、例えば、40°以下が好ましく、35°以下がより好ましく、30°以下が更に好ましい。投入されるリング素材1としては、もちろん、傾斜のない、いわゆる矩形リングであってもよい。
【0026】
そして、主ロール10の外周面とマンドレルロール20の外周面を、リング素材1の外周面と内周面にそれぞれ当接させ、また、一対のアキシャルロール30の外周面をそれぞれリング素材1の上下両端面に当接させる。主ロール10及びマンドレルロール20を図1図2に示す矢印方向に回転させながら、マンドレルロール20を主ロール10に向かって移動させることよって、主ロール10とマンドレルロール20でリング素材1をリング径方向に挟み込み、押圧する。また、一対のアキシャルロール30を図1に示す矢印方向に回転させながら、一対のアキシャルロール30によってリング素材1をリング軸線方向に挟み込み、押圧する。これによりリング素材1をリング圧延して、リング圧延材を得る。
【0027】
その際、リング素材1がテーパーリングや異形リングであっても、主ロール10の窪み部12の下面13Sが、図2に示すように、主ロール10の外周側に向かって窪み部12の開口が広がるように勾配が付与されていることから、主ロール10の窪み部12内に収容されたリング素材1は、窪み部12の下面13Sおよび上面11Sによって姿勢が安定することから、リング素材1を中心軸線1Xを中心に安定して回転させることができる。よって、リング素材1がアキシャルロール30等と過剰に接触することを抑えることができ、欠陥の発生を防ぐことができる。特に、傾斜角θrが10°超のリング素材1は、金型と素材間に周速差が発生し、リング圧延時において姿勢が安定しにくいことから、本発明の効果は顕著である。また、異形リングを得るために主ロール10及びマンドレルロール20の外周面に所定の形状が付与されている場合も、厚肉部と薄肉部の拡径量の差が発生し、リング圧延時において姿勢が安定しにくいことから、本発明の効果は顕著である。
【実施例
【0028】
以下、本発明の実施例について説明する。先ず、リング圧延装置の主ロールの窪み部の下面全面に、表1に示すように0°から12°までの勾配角θbの勾配をそれぞれ付与し、リング素材をリング圧延する試験を行った。また、リング素材は、傾斜角が10°超のテーパーリングと傾斜角が10°以下のテーパーリングの2種類のものについて試験を行った。そして、リング圧延中のリング素材の安定性と、得られたリング圧延材の欠陥について評価した。その結果を表1に併記した。
【0029】
また、リング圧延装置の主ロールの窪み部の下面全面に1.5°の勾配角θbの勾配を付与するとともに、主ロールの窪み部の上面全面に、表2に示すように0°から12°までの勾配角θaの勾配をそれぞれ付与し、リング素材をリング圧延する試験を行った。リング素材は、上記と同様に、傾斜角が10°超のテーパーリングと傾斜角が10°以下のテーパーリングの2種類のものについて試験を行った。そして、リング圧延中のリング素材の安定性と、得られたリング圧延材の欠陥について評価した。その結果を表2に併記した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表中の「圧延安定性」は、リング圧延時のリング素材の挙動を、リング素材の上部方向および側面方向から動画撮影して観察し、リング圧延中のリング素材の異常挙動(スリップ、うねり、暴れ)が無い場合を「◎」、異常挙動の程度が小さい場合を「○」、異常挙動の程度が大きい場合(所望の寸法まで目標時間内で圧延することができず、途中で圧延を中止した場合)を「×」と評価した。また、その中間の場合を「△」と評価した。
【0033】
表中の「欠陥」は、得られたリング圧延材の欠陥を研削機により疵除去し、疵取り後の減少重量を測定し、この減少重量が、リング素材の重量に対して、0.1%未満の場合を「◎」、0.1%以上~0.3%未満の場合を「○」、0.3%以上~1.5%未満の場合を「△」、1.5%以上の場合を「×」と評価した。
【0034】
表1、表2に示すように、主ロールの窪み部の下面、上面のどちらも勾配角が0.1°のように小さすぎると、リング素材に対する下面、上面の拘束が強すぎて、リング素材の回転の抵抗となり、回転が不安定になっていた。逆に、勾配角が10°より大きすぎると、リング素材の保持が不十分で、リング素材の姿勢が傾き、主ロールとの擦れにより、回転の不安定性が増した。
【0035】
また、傾斜角の大きいリング素材を投入すると、主ロールとリング素材の周速差により、リング圧延中にリング素材の姿勢が傾いてしまったが、そのリング素材の傾きを拘束しない範囲の勾配角の場合、リング素材の回転の安定性を得ることができた。圧延安定性と欠陥の発生は、ある程度同じ傾向を示した。
【0036】
特に、表1及び表2に示す結果から、リング素材の傾斜角を問わず、主ロールに形成した下面、上面のどちらの勾配の角度も、0.5°以上~3°未満の範囲のものは、圧延安定性に優れ、欠陥も少ないことが分かる。特に、リング素材の傾斜角が10°以下の場合、0.3°超~3°未満の範囲で圧延安定性が優れ、0.5°以上~2°未満の範囲で、圧延安定性および欠陥の両方で顕著に優れていた。また、リング素材の傾斜角が10°超の場合、0.6°以上~9°以下の範囲で圧延安定性が優れ、1°以上~3°未満の範囲で、圧延安定性および欠陥の両方で顕著に優れていた。
【符号の説明】
【0037】
1 リング素材
10 主ロール
11 第1の鍔部(上鍔部)
11S 第1の内面(上面)
12 窪み部
12S 圧延面
13 第2の鍔部(下鍔部)
13S 第2の内面(下面)
20 マンドレルロール
30 アキシャルロール
図1
図2
図3
図4
図5