IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人埼玉大学の特許一覧 ▶ 信越ポリマー株式会社の特許一覧 ▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-基板製造方法 図1
  • 特許-基板製造方法 図2
  • 特許-基板製造方法 図3
  • 特許-基板製造方法 図4
  • 特許-基板製造方法 図5
  • 特許-基板製造方法 図6
  • 特許-基板製造方法 図7
  • 特許-基板製造方法 図8
  • 特許-基板製造方法 図9
  • 特許-基板製造方法 図10
  • 特許-基板製造方法 図11
  • 特許-基板製造方法 図12
  • 特許-基板製造方法 図13
  • 特許-基板製造方法 図14
  • 特許-基板製造方法 図15
  • 特許-基板製造方法 図16
  • 特許-基板製造方法 図17
  • 特許-基板製造方法 図18
  • 特許-基板製造方法 図19
  • 特許-基板製造方法 図20
  • 特許-基板製造方法 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】基板製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220812BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20220812BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018043006
(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2019160915
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】池野 順一
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】野口 仁
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199784(WO,A1)
【文献】特開2008-044807(JP,A)
【文献】特開2017-216424(JP,A)
【文献】特開2012-004315(JP,A)
【文献】特開2017-028072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を集光するレーザ集光手段を、酸化マグネシウムの単結晶部材の被照射面上に非接触に配置する第1工程と、
前記レーザ集光手段を用い、所定の照射条件で、前記単結晶部材表面にレーザ光を照射して前記単結晶部材内部にレーザ光を集光しつつ前記レーザ集光手段と前記単結晶部材とを二次元状に相対的に移動させることにより加工痕列を並列に形成していく第2工程と、
前記レーザ集光手段を用い、所定の照射条件で、前記単結晶部材表面にレーザ光を照射して前記単結晶部材内部にレーザ光を集光しつつ前記レーザ集光手段と前記単結晶部材とを二次元状に相対的に移動させることにより、前記第2工程の照射によって形成された隣り合う前記加工痕列の間に新たに加工痕列を形成していくことで面状剥離を生じさせる第3工程と
を備え
前記第2工程では、レーザ光の集光によって、レーザ光を反射する反射層を形成し、
前記第3工程では、前記反射層によってレーザ光が反射されることを特徴とする基板製造方法。
【請求項2】
前記単結晶部材として単結晶基板を用いることを特徴とする請求項に記載の基板製造方法。
【請求項3】
レーザ光として高輝度レーザ光を照射することを特徴とする請求項1又は2に記載の基板製造方法。
【請求項4】
レーザ光としてパルス幅が10ns以下のレーザ光を照射することを特徴とする請求項に記載の基板製造方法。
【請求項5】
レーザ光としてパルス幅が100ps以下のレーザ光を照射することを特徴とする請求項に記載の基板製造方法。
【請求項6】
レーザ光としてパルス幅が15ps以下のレーザ光を照射することを特徴とする請求項に記載の基板製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄厚の酸化マグネシウム単結晶基板を製造するのに最適な基板製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野、ディスプレイ分野、エネルギー分野などで、酸化マグネシウム単結晶基板が使用されている。この酸化マグネシウム単結晶基板を製造するには、バルク状に結晶成長させて基板状に切断する他、薄膜状にエピタキシャル成長させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、ダイヤモンドは高周波・高出力電子デバイスに適した半導体と考えられ、その合成方法のひとつである気相合成法では酸化マグネシウム基板やシリコン基板がベース基板として利用されている(例えば特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-080996号公報
【文献】特開2015-59069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体装置の高性能化に伴い、格子欠陥が少なくて薄型の酸化マグネシウム単結晶基板が益々必要になりつつある。
【0006】
上記のダイヤモンド基板の製造においてベース基板である酸化マグネシウム基板(MgO基板)は高価であり、例えば単結晶ダイヤモンドを気相合成した後にベース基板として必要な厚さを残しつつ酸化マグネシウム基板を剥離して分離することで酸化マグネシウム基板をベース基板として再利用可能となる。具体的には例えば厚さ200μmの酸化マグネシウムのベース基板から厚さ180μmの酸化マグネシウム基板を得て再利用すればダイヤモンド基板製造プロセスにおいて大幅なコストダウンを達成でき、ダイヤモンド基板のコスト低減に大きく貢献することが期待できる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、薄厚の酸化マグネシウム単結晶基板を容易に得ることができる基板製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ところで、単結晶シリコン基板を得る製造方法が種々提案されているが、本発明者は、鋭意検討の結果、本発明においては酸化マグネシウム基板を対象とした単結晶シリコンとは異なる新たな加工原理に基づく製造方法を見出した。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一態様によれば、レーザ光を集光するレーザ集光手段を、酸化マグネシウムの単結晶部材の被照射面上に非接触に配置する第1工程と、前記レーザ集光手段を用い、所定の照射条件で、前記単結晶部材表面にレーザ光を照射して前記単結晶部材内部にレーザ光を集光しつつ前記レーザ集光手段と前記単結晶部材とを二次元状に相対的に移動させることにより加工痕列を並列に形成していく第2工程と、前記レーザ集光手段を用い、所定の照射条件で、前記単結晶部材表面にレーザ光を照射して前記単結晶部材内部にレーザ光を集光しつつ前記レーザ集光手段と前記単結晶部材とを二次元状に相対的に移動させることにより、前記第2工程の照射によって形成された隣り合う前記加工痕列の間に新たに加工痕列を形成していくことで面状剥離を生じさせる第3工程とことを特徴とする基板製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薄厚の酸化マグネシウム単結晶基板を容易に得ることができる基板製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は、本発明の一実施形態で用いる剥離基板製造装置の模式的な斜視図であり、(b)は、本発明の一実施形態で用いる剥離基板製造装置の部分拡大側面図である。
図2】(a)は、本発明の一実施形態でレーザ光の照射手順を説明する模式的な平面図であり、(b)は、本発明の一実施形態で、レーザ光の照射後の酸化マグネシウム単結晶基板を説明する模式的な部分側面断面図である。
図3】実験例1で、単結晶酸化マグネシウムウエハの剥離前の写真図である。
図4】実験例1で、(a)は、レーザ光を照射していくことを説明する模式図であり、(b)は、レーザ光の照射条件を説明する説明図である。
図5】実験例1で、テストピースを剥離させて露出した剥離面の写真図である。
図6】実験例1で、テストピース剥離面でP1~P5を説明するための写真図である。
図7】実験例1で、テストピース剥離面でP1~P5を説明するための写真図である。
図8】実験例1で、テストピースの剥離面で撮影位置を順次ずらして撮影した写真図である。
図9】実験例1で、上部テストピースの剥離面および下部テストピースの剥離面を撮影した写真図である。
図10】実験例1で、上部テストピースの剥離面および下部テストピースの剥離面を撮影した写真図である。
図11】実験例2で、上部テストピースの剥離面および下部テストピースの剥離面の表面粗さの測定結果を示すチャート図である。
図12】実験例3で、(a)は上部テストピースの剥離面の写真図であり、(b)は上部テストピースの断面の写真図である。
図13】実験例3で、(a)は上部テストピースの剥離面の写真図であり、(b)は上部テストピースの断面の写真図である。
図14】実験例3で、(a)は上部テストピースの剥離面の写真図であり、(b)は上部テストピースの断面の写真図である。
図15】実験例3で、(a)は下部テストピースの剥離面の写真図であり、(b)は下部テストピースの断面の写真図である。
図16】実験例3で、(a)は下部テストピースの剥離面の写真図であり、(b)は下部テストピースの断面の写真図である。
図17】実験例3で、(a)は下部テストピースの剥離面の写真図であり、(b)は下部テストピースの断面の写真図である。
図18】実験例3で、上部テストピースと下部テストピースとの相対位置を検討した写真図である。
図19】実験例3で、上部テストピースと下部テストピースとの相対位置を検討した写真図である。
図20】実験例3で、上部テストピースと下部テストピースとの相対位置を検討した写真図である。
図21】実験例3で、上部テストピースと下部テストピースとの相対位置を検討した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、すでに説明したものと同一または類似の構成要素には同一または類似の符号を付し、その詳細な説明を適宜省略している。また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための例示であって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。この発明の実施の形態は、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0013】
図1で、(a)は、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)で用いる基板製造装置の模式的な斜視図であり、(b)は、本実施形態で用いる基板製造装置の部分拡大側面図である。図2で、(a)は、本実施形態でレーザ光の照射手順を説明する模式的な平面図であり、(b)は、本実施形態で、レーザ光の照射後の酸化マグネシウム単結晶基板を説明する模式的な部分側面断面図である。
【0014】
本実施形態では、基板製造装置10(図1参照)を用いて酸化マグネシウム単結晶基板(MgO基板)から剥離基板を得る。
【0015】
基板製造装置10は、XYステージ11と、XYステージ11のステージ面11f上に保持された基板載置用部材12(例えばシリコン基板)と、基板載置用部材12に載せられた酸化マグネシウム単結晶基板20に向けてレーザ光Bを集光するレーザ集光手段14(例えば集光器)とを備えている。なお、図1(a)では酸化マグネシウム単結晶基板20を平面視矩形状に描いているが、もちろんウエハ状であってもよく、形状を自在に選定することができる。
【0016】
XYステージ11はステージ面11fの高さ位置(Z軸方向位置)を調整できるようになっており、ステージ面11fとレーザ集光手段14との距離が調整可能、すなわち、ステージ面11f上の単結晶基板とレーザ集光手段14との距離が調整可能になっている。
【0017】
本実施形態では、レーザ集光手段14は、補正環13と、補正環13内に保持された集光レンズ15とを備えており、酸化マグネシウムの単結晶基板20の屈折率に起因する収差を補正する機能、すなわち収差補正環としての機能を有している。具体的には、図1(b)に示すように、集光レンズ15は、空気中で集光した際に、集光レンズ15の外周部Eに到達したレーザ光Bが集光レンズ15の中央部Mに到達したレーザ光Bよりも集光レンズ側で集光するように補正する。つまり、集光した際、集光レンズ15の外周部Eに到達したレーザ光Bの集光点EPが、集光レンズ15の中央部Mに到達したレーザ光Bの集光点MPに比べ、集光レンズ15に近い位置となるように補正する。
【0018】
この集光レンズ15は、空気中で集光する第1レンズ16と、この第1レンズ16と単結晶基板20との間に配置される第2レンズ18と、で構成される。本実施形態では、第1レンズ16および第2レンズ18は、何れもレーザ光Bを円錐状に集光できるレンズとされている。そして、補正環13の回転位置を調整すること、すなわち第1レンズ16と第2レンズ18との間隔を調整することにより、集光点EPと集光点MPとの間隔が調整できるようになっており、レーザ集光手段14は補正環付きレンズとしての機能を有している。
【0019】
第1レンズ16としては、球面または非球面の単レンズのほか、各種の収差補正や作動距離を確保するために組レンズを用いることが可能である。
【0020】
(基板製造方法)
以下、酸化マグネシウム単結晶基板から薄厚の酸化マグネシウム単結晶基板を製造する例を、添付図面を参照しつつ説明する。
【0021】
本実施形態では、レーザ集光手段14を、格子欠陥の少ない酸化マグネシウム単結晶基板20(以下、単に単結晶基板20という)の被照射面20r上に非接触に配置する第1工程を行う。なお、図示しないが酸化マグネシウム基板をベース基板として形成されたダイヤモンド基板において酸化マグネシウム基板の薄基板を残して酸化マグネシウム基板を剥離する場合には酸化マグネシウム基板側からレーザ光を照射すればよい。
【0022】
第1工程後、第2工程を行う。この第2工程では、レーザ集光手段14を用い、所定照射条件で単結晶基板20の表面に、1回目の照射ラインL1上にレーザ光Bを照射して単結晶基板20内部にレーザ光Bを集光しつつレーザ集光手段14と単結晶基板20とを二次元状に相対的に移動させることにより、加工痕K1を単結晶部材内部に一列に形成してなる加工痕列LK1を並列に形成していく(例えば図2(a)や図4(a)参照)。本実施形態では、加工痕K1および後述の加工痕K2(何れも、例えば図4(a)参照)は主に熱加工によって形成される。
【0023】
ここで、本明細書で加工痕とは、レーザ光の集光によって集光位置から単結晶基板成分が飛び散った範囲まで含む概念である。また、本明細書で面状剥離とは、実際に剥離していなくても、僅かな力を加えることで剥離する状態も含む概念である。
【0024】
第2工程後、第3工程を行う。この第3工程では、レーザ集光手段14を用い、所定照射条件で、単結晶基板20の表面にレーザ光Bを照射して単結晶基板20内部にレーザ光を集光しつつレーザ集光手段14と単結晶基板20とを二次元状に相対的に移動させることにより、第2工程で照射したときの隣り合う照射ラインL1の間(すなわち隣り合う加工痕列LK1の間)に加工痕列LK2を形成していくことで面状剥離を生じさせる。
【0025】
すなわち、第2工程では1回目の照射ラインL1上に加工痕列LK1を形成し、第3工程では、隣り合う1回目の照射ラインL1の間に加工痕列LK2を形成する。この加工痕列LK2は2回目の照射ラインL2上に形成されていく。そして第3工程で加工痕列LK2を形成することで面状剥離が自然に生じていき、被照射面側に剥離基板20pが形成される。
【0026】
第2工程および第3工程では、上記面状剥離によって製造される剥離基板20p(図2参照)の厚みを考慮して、所定高さ位置に焦点を結ぶように、すなわち、単結晶基板20の被照射面20rからの所定深さ位置に焦点を結ぶように、レーザ集光手段14と単結晶基板20との相対距離を予め設定しておく。
【0027】
本実施形態では、第2工程による加工痕は、面状剥離によって分離された両基板部分(上側基板部分および下側基板部分)にそれぞれ形成されている。そして、本実施形態では、第2工程によって、第3工程で照射したレーザ光が剥離面によって反射される構造が形成されている。例えば、第2工程で加工痕周囲に形成された加工層によって第3工程の照射レーザ光が反射される構造が形成されており、言い換えれば、第2工程によってレーザ光の反射層(例えば後述の図9に示す反射層R)を形成している。
【0028】
また、第3工程での照射位置は、第2行程で形成された加工層の存在する部分の位置に照射すればよい。この場合、図4に示すように、オフセット間で精度よく配列することが好ましい。
【0029】
そして、第3工程でのレーザ光Bが反射層で反射されて面状剥離が自然に生じるように、第2工程および第3工程でレーザ光Bの所定照射条件を予め設定しておく。この所定照射条件の設定では、単結晶基板20の性質(結晶構造等)、形成する剥離基板20pの厚みt(図2(b)参照)、焦点におけるレーザ光Bのエネルギー密度などを考慮して、照射するレーザ光Bの波長、集光レンズ15の収差補正量(デフォーカス量)、レーザ出力、加工痕K1、K2のドットピッチdp(例えば図4(a)参照。同一加工痕列において隣り合う加工痕の間隔)、ラインピッチlp1、lp2(図2(a)や図4(a)参照。オフセットピッチ。各工程で隣り合う加工痕列同士の間隔)などの種々の値を設定する。得られた剥離基板20pには、その後、必要に応じて剥離面の研磨などの後処理を行う。
【0030】
本実施形態により、薄厚の酸化マグネシウム単結晶基板を容易に得ることができる。また、格子欠陥の少ない単結晶基板20から剥離して薄厚の酸化マグネシム単結晶基板を得ているので、得られた薄厚の酸化マグネシウム単結晶基板では格子欠陥が少ない。
【0031】
なお、隣り合う照射ライン間では加工痕K1の反射層同士が一部重なっていてもよい。これにより、第3工程でのレーザ光の照射位置の自由度が広がる。
【0032】
更には、レーザ光の走査方向に隣り合う加工痕K1の反射層同士が一部重なっていてもよい(例えば図9参照)。これにより、第2工程で形成する隣り合う照射ライン間でほぼ全面にわたって反射層を形成することが容易になる。
【0033】
また、酸化マグネシウムの単結晶部材として単結晶基板20を用いており、同一寸法の剥離基板20pを順次に剥離して得ていくことができ、酸化マグネシウム単結晶部材の使用効率を充分に上げること(すなわち、酸化マグネシウムの切り屑の発生を充分に抑えること)が可能になる。
【0034】
また、レーザ光の走査方向を単結晶基板20の結晶方位に沿った方向にしているので、面状剥離が自然に生じていくレーザ照射にし易い。
【0035】
また、本実施形態では、レーザ光Bは高輝度レーザ光を利用することが好ましい。本発明において高輝度レーザ光とは、ピークパワー(パルスエネルギーをパルス幅で除算した値)およびパワー密度(単位時間当たりのエネルギーの単位面積当たりの値)で特定される。一般的にパワー密度を高めるためには高出力レーザを用いることができる。一方、本実施形態においては例えば1kWを超えるような高い出力でレーザ光Bを照射すると加工基板にダメージを与え易くなり目標とする薄肉の加工痕を形成することがあまり容易でない。すなわち、本実施形態で用いる高輝度レーザ光は、パルス幅が短いレーザ光を用いて低いレーザ出力でレーザ光Bを照射し加工基板にダメージを与えないレーザ光であることが好ましい。
【0036】
さらにパワー密度を高めるためにはパルス幅の短いレーザ光(例えばパルス幅が10ns以下のレーザ光)が好ましい。このようにパルス幅の短いレーザ光を照射することで、高輝度レーザ光のパワー密度を格段に高めやすい。
【0037】
また、本実施形態では、補正環13および集光レンズ15により収差補正が調整可能であり、第2工程では、収差補正の調整によってデフォーカス量を設定することができる。これにより、上記の所定照射条件の範囲を大きく広げることができる。このデフォーカス量は加工基板の厚さや剥離する基板の厚さにより加工痕の形成深さを調整する手段並びに加工痕を薄肉に形成する条件を選定することが可能であり、加工対象となる酸化マグネシウム基板の厚さが200~300μmの場合ではデフォーカス量を30~120μmの範囲とすることで、上記範囲を効果的に広げることができる。
【0038】
また本実施形態では、上記の第2行程と第3工程とでレーザを照射することにより、各工程で形成される加工痕列から逸脱するような大きな劈開の発生を抑制することが可能である。しかも、隣り合う加工痕列のみを確実に連結させることにより基板を剥離させることが容易となり、表面状態に優れた剥離面が得られる。
【0039】
また、面状剥離した剥離基板20pを単結晶基板20から取り出す際、剥離基板20pに面接触する当接部材を剥離基板20pに面接触させて取り出してもよい。これにより、剥離基板20pを貼り付けたい部材をこの当接部材とすることで貼り付け工程を短縮化することが可能になり、また、剥離基板20pの端縁が単結晶基板20から完全には剥れていない場合には、剥離基板20pに割れが生じることを抑えつつこの端縁から剥離基板20pを剥して取り出すことも可能になる。なお、レーザ光の照射後に何もしなくても自然剥離をし易くする観点で、この時の剥離強度が2MPa以下、さらには1.0MPaを下回る状態を形成することが好ましい。
【0040】
また、上記実施形態では、XYステージ11に基板載置用部材12を保持させ、その上に単結晶基板20を載置してレーザ光Bを照射する例で説明したが、XYステージ11に単結晶基板20を直接に載置して保持させ、レーザ光Bにより加工痕K1、K2を形成していくことも可能である。
【0041】
また、本実施形態では、単結晶基板20(酸化マグネシウム単結晶基板)から剥離基板20pを得る例で説明したが、単結晶基板20に限らず、酸化マグネシウムの単結晶部材から被照射面20r側を面状剥離させて剥離基板20pを得てもよい。
【0042】
<実験例1>
本発明者は、図3に示すように、直径が2インチで厚みが300μmの単結晶酸化マグネシウムウエハ(図3参照。以下、テストピースJ1という)を用いた。
【0043】
(1)照射条件
本実験例では、上記実施形態で説明した基板製造装置10を用い、上記の第1~第3工程を行った。第2工程では、図4(a)に示すように、テストピースJ1に加工痕K1を所定のドットピッチdp、ラインピッチlp1で形成していった。第3工程では、同じく図4(a)に示すように、テストピースJ1に加工痕K2を所定のドットピッチdp、ラインピッチlp2で形成していった。この結果、加工痕列LK1および加工痕列LK2が配列されている改質層が形成された。このレーザ光照射では、集光レンズ15への入射時のレーザ光Bの径を3000μm、集光レンズ15の焦点距離を1200μm、焦点の基板表面からの深さを150μm±10μm以内とした。レーザ光のその他の照射条件を図4(b)に示す。
【0044】
(2)剥離面
図3は、第3工程を終了した、剥離前のテストピースJ1の平面図である。加工状態を判別し易くするために、紙面上部には加工が不十分な部分を意図的に残した。それ以外の部分では加工ムラは抑制された。
【0045】
第3工程のレーザ光の照射後、テストピースJ1の被照射面側(上側)をアルミニウム製の台座で接着剤を介して挟んだ。台座は何れもアルミニウム製である。接着剤としてはエポキシ接着剤を用い、テストピースJ1の被照射面側(上側)に一方の台座を接着させ、テストピースJ1の底面側(下側)にもう一方の台座を接着させた。
【0046】
そして、両台座を上下方向に引っ張ることで、改質層(加工痕列LK1、LK2が形成された層)からの引き剥がし力を測定し、改質層から、テストピースJ1の被照射面側(上側)を有している上部テストピースJ1uと、テストピースJ1の底面側(下側)を有している下部テストピースJ1bとを分離させるのに必要な引張り破断応力を算出した。この結果、6MPaの引張り応力で分離させることができた。従って、単結晶シリコン基板の引張り破断応力である12MPaに比べ、大幅に小さい引張り破断応力で改質層から分離させることができた。なお、上述したように紙面上部に加工が不十分な部分を意図的に残したテストピースJ1での引張り破断応力(6MPa)で分離させることができたので、このような加工が不十分な部分を形成しない場合には引張り破断応力は更に下がる。
【0047】
そして、上部テストピースJ1uの剥離面J1us(図6参照)を上方から(平面から)SEM(走査型電子顕微鏡)で、基板中心P1点からP5点まで撮像位置を500μmずつ同一直線上で順次ずらして5領域を撮影した。同様に、下部テストピースJ1bの剥離面J1bs(図7参照)を上方から(平面から)SEM(走査型電子顕微鏡)で、基板中心P1点からP5点まで撮像位置を同一直線上で500μmずつ順次ずらして5領域を撮影した。撮影結果を図8に示す。
【0048】
なお、図8で横線はSEMのチャージアップを示す線であり、剥離面に形成されたものではない。また、本明細書に添付する撮像図では適宜に結晶方位も併せて示す。
【0049】
更に、本発明者は、SEMの撮影倍率を挙げて、基板中心P1点において、上部テストピースJ1uの剥離面J1usと、下部テストピースJ1bの剥離面J1bsとを上方から(平面から)撮影した。撮影結果を図9に示す。図9では、F9u1は上部テストピースJ1uの剥離面の写真図、F9u2はF9u1の部分拡大図、F9b1は下部テストピースJ1bの剥離面の写真図、F9b2はF9b1の部分拡大図、をそれぞれ示す。
【0050】
F9u1では、1回目のレーザ照射(第2工程)による加工痕上半部Ku1が形成され、F9b1では、加工痕上半部Ku1に対応する位置に、1回目のレーザ照射(第2工程)による加工痕下半部Kb1が形成されていた。加工痕上半部Ku1と加工痕下半部Kb1とはほぼ同等の寸法であり、加工痕上半部Ku1と加工痕下半部Kb1で構成される加工痕K1は、基板厚み方向に細長状であると考えられる。
【0051】
そして、F9b1では、2回目のレーザ照射(第3工程)による加工痕下半部Kb2が配列して形成され、F9u1では、加工痕下半部Kb2に対応する位置に、2回目のレーザ照射(第3工程)による加工痕上半部Ku2が配列して形成されていた。加工痕上半部Ku2は、反射したレーザ光によって太径の穴が開いた形状になっていた。一方、加工痕下半部Kb2は加工痕上半部Ku2からの溶融噴射物が皿状にへこんだ形状で形成されていた。従って、加工痕下半部Kb2の剥離面は、上部からの噴射によって物理的に形成された可能性が高いと考えられる。
【0052】
また、本発明者は、同様にして、P1点において、上部テストピースJ1uの剥離面J1usと、下部テストピースJ1bの剥離面J1bsとを斜め45°から撮影した。撮影結果を図10に示す。図10では、F10u1は上部テストピースJ1uの剥離面の写真図、F10u2はF10u1の部分拡大図、F10b1は下部テストピースJ1bの剥離面の写真図、F10b2はF10b1の部分拡大図、をそれぞれ示す。図9から得られた知見と同様の知見が得られた。
【0053】
(3)まとめ
本実験例の照射条件でレーザ光を照射した後、上部テストピースJ1uと下部テストピースJ1bとを分離することで、格子欠陥が少ない薄厚の酸化マグネシウム単結晶基板を容易に得ることができた。
【0054】
また、この分離を行う際に、上述したように単結晶シリコン基板に比べて大幅に小さい引張り破断応力で改質層から分離させることができた。従って、改質層には面状剥離が生じていると考えられる。
【0055】
<実験例2>
本発明者は、上部テストピースJ1uの剥離面J1usで、P1点からP5点まで表面粗さ計(プローブ半径は12.5μm)を用いて段差測定を行った。測定結果を図11に示す。また、本発明者は、同様にして、下部テストピースJ1bの剥離面J1bsを、P1点からP5点まで表面粗さ計を用いて段差測定を行った。測定結果を図11に併せて示す。Raが0.46μmという測定結果になった。
【0056】
<実験例3>
本発明者は、上部テストピースJ1uの加工痕上半部Ku1(1回目のレーザ照射による加工痕)を通過する断面Su1をSEMで観察した(図12参照)。上部テストピースJ1uの加工痕上半部Ku1では、径が0.9μmφ、深さが5.0μmであった。
【0057】
また、本発明者は、上部テストピースJ1uの加工痕上半部Ku2(2回目のレーザ照射による加工痕)を通過する断面Su2をSEMで観察した(図13参照)。加工痕上半部Ku2では、径が2.2~2.8μmφ、深さが6.5μmであった。
【0058】
更に、本発明者は、上部テストピースJ1uの別の加工痕上半部Ku2(2回目のレーザ照射による加工痕)を通過する断面をSEMで観察した(図14参照)。別の加工痕上半部Ku2では、径が4.2μmφ、深さが6.5μmであった。
【0059】
また、本発明者は、下部テストピースJ1bの加工痕下半部Kb1(1回目のレーザ照射による加工痕)を通過する断面Sb1をSEMで観察した(図15参照)。加工痕下半部Kb1では、径が0.8μmφ、深さが12.7μmであった。
【0060】
更に、本発明者は、下部テストピースJ1bの別の加工痕下半部Kb1(1回目のレーザ照射による加工痕)を通過する断面をSEMで観察した(図16参照)。別の加工痕下半部Kb1では、径が0.8μmφ、深さが12.0μmであった。
【0061】
また、本発明者は、下部テストピースJ1bの加工痕下半部Kb2(2回目のレーザ照射による加工痕)を通過する断面Sb2をSEMで観察した(図17参照)。下部テストピースJ1bの加工痕下半部では、径が3.7μmφ、深さが0.4μmであった。
【0062】
そして、本発明者は、上部テストピースJ1uの剥離面と下部テストピースJ1bの剥離面とを重ね合わせて、各加工痕上半部Ku1と各加工痕下半部Kb1との位置合わせをすることを試みた。この結果、各加工痕上半部Ku1と各加工痕下半部Kb1との位置が合致し(図18図19参照)、各加工痕上半部Ku2と各加工痕下半部Kb2との位置が合致した(図20図21参照)。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明により剥離された酸化マグネシウム単結晶基板を効率良く形成することができることから、酸化マグネシウム単結晶基板から得られた剥離基板は、高温超電導膜、強誘電体膜などで有用であり、半導体分野、ディスプレイ分野、エネルギー分野などの幅広い分野において適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 基板製造装置
11 XYステージ
11f ステージ面
12 基板載置用部材
13 補正環
14 レーザ集光手段
15 集光レンズ
16 第1レンズ
18 第2レンズ
20 酸化マグネシウム単結晶基板(単結晶部材)
20p 剥離基板
20r 被照射面
B レーザ光
E 外周部
EP 集光点
K1 加工痕
K2 加工痕
L1 照射ライン
L2 照射ライン
LK1 加工痕列
LK2 加工痕列
M 中央部
MP 集光点
dp ドットピッチ
lp1 ラインピッチ
lp2 ラインピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21