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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-10
(45)【発行日】2022-08-19
(54)【発明の名称】ホログラム記録装置及び像再生装置
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/06 20060101AFI20220812BHJP
   G03H 1/22 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
G03H1/06
G03H1/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018091516
(22)【出願日】2018-05-10
(65)【公開番号】P2019144520
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2018030708
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】信川 輝吉
(72)【発明者】
【氏名】片野 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】室井 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 延博
(72)【発明者】
【氏名】石井 紀彦
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0139561(US,A1)
【文献】特開2011-099781(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050141(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0050832(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103257441(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/06
G03H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光に分割し、前記第1分割光と前記第2分割光の波面を互いに異なる曲率に変調し、前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ位相分布を付与し、その後、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させてホログラムを撮像面に形成し、記録するホログラム記録装置において、
光が所定位相進む領域と所定位相遅れる領域とが第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に配置された市松模様の位相変調領域を有する光学素子を、前記撮像面から所定距離離して前記第1分割光と前記第2分割光の光路にそれぞれ配置し、前記撮像面に中心位置が異なる複数のホログラムを形成するホログラム記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載のホログラム記録装置において、
前記市松模様の位相変調領域を有する第1光学素子と前記第1分割光の光軸との位置関係と、前記第1光学素子と同一の前記市松模様の位相変調領域を有する第2光学素子と前記第2分割光の光軸との位置関係とを、前記市松模様の格子の1辺より小さい距離で格子面内方向に相対的にずらし、前記第1分割光と前記第2分割光の位相差が異なる4つのホログラムを同時に取得することを特徴とする、ホログラム記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載のホログラム記録装置において、
前記市松模様の位相変調領域の格子の前記第1方向・前記第2方向の一辺をそれぞれdh、dvとし、格子面内方向での前記第1方向・前記第2方向のずれ量をそれぞれh,vとするとき、h=dh/4、v=dv/2、又は、h=dh/2、v=dv/4、とすることを特徴とする、ホログラム記録装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のホログラム記録装置において、
光波を前記第1分割光と前記第2分割光に分割する偏光ビームスプリッターと、
前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ異なる曲率を与える第1凹面鏡及び第2凹面鏡と、
光が所定位相進む領域と所定位相遅れる領域とが第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に配置された位相変調素子と、
複数のホログラムを撮像する撮像素子と
を備えることを特徴とする、ホログラム記録装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のホログラム記録装置において、
物体光を前記第1分割光と前記第2分割光に分割するビームスプリッターと、
前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ異なる曲率を与えると共に、第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に異なる位相を加える市松模様の位相変調を与える第1及び第2回折光学素子と、
複数のホログラムを撮像する撮像素子と
を備えることを特徴とする、ホログラム記録装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のホログラム記録装置において、
物体光を前記第1分割光と前記第2分割光に分割すると共に、前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ異なる曲率を与える空間光変調器と、
前記第1分割光と前記第2分割光に、第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に異なる位相を加える市松模様の位相変調を与える位相変調素子と、
複数のホログラムを撮像する撮像素子と
を備えることを特徴とする、ホログラム記録装置。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のホログラム記録装置において、
物体光を前記第1分割光と前記第2分割光に分割すると共に、前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ異なる曲率を与え、さらに第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に異なる位相を加える市松模様の位相変調を与える回折光学素子と、
複数のホログラムを撮像する撮像素子と
を備えることを特徴とする、ホログラム記録装置。
【請求項8】
対象物からのインコヒーレントな光波を分割した第1分割光と第2分割光にそれぞれ光が所定位相進む領域と所定位相遅れる領域とが第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に配置された光学素子により位相分布を付与し、その後、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させて撮像面に形成された複数のホログラムから、再生像を生成する像再生装置であって、
前記複数のホログラムに基づいて位相シフト法により光波の撮像面での複素振幅分布O(x,y)を求め、
前記複素振幅分布に回折伝搬の計算を適用して、前記撮像面からの距離z r における再生像O’(x,y;z r )を生成する像再生装置において、
既知の対象物から得たホログラムに基づいて得られた、前記撮像面での各ホログラムの中心位置を記録しておき、前記中心位置に基づいて、前記撮像面に形成された複数のホログラムをそれぞれ抽出することを特徴とする、像再生装置。
【請求項9】
対象物からのインコヒーレントな光波を分割した第1分割光と第2分割光にそれぞれ光が所定位相進む領域と所定位相遅れる領域とが第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に配置された光学素子により位相分布を付与し、その後、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させて撮像面に形成された複数のホログラムから、再生像を生成する像再生装置であって、
前記複数のホログラムに基づいて位相シフト法により光波の撮像面での複素振幅分布O(x,y)を求め、
前記複素振幅分布に回折伝搬の計算を適用して、前記撮像面からの距離z r における再生像O’(x,y;z r )を生成する像再生装置において、
位相シフト法により得られた、撮像面での複素振幅分布O(x,y)から、TVノルムに基づく最小化問題、あるいはL2ノルムにTVノルムの正則化項を加えた最小化問題を解くことにより、再生像を生成することを特徴とする、像再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホログラム記録装置及び像再生装置に関し、特に、インコヒーレントホログラフィによる立体像の記録装置及び再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィは立体像を記録・再生する技術として知られている。一般的なホログラフィの技術では、ホログラムを感光材料や撮像素子に記録するために、レーザーなどの干渉性が高い光源を用いて記録対象の物体を照明する必要がある。したがって、太陽光・蛍光灯・発光ダイオードなどの干渉性が低い光源を用いてホログラムを記録することができないため、適用範囲が限られていた。一方、上述のホログラフィの技術に対して、インコヒーレントホログラフィの技術では、干渉性が高い光源を必要とせず、上述した干渉性が低い光源を用いてホログラムの記録が可能である。この特徴から、インコヒーレントホログラフィは、自然光環境下の物体や、蛍光物体の立体像を記録・再生する技術として注目されている。
【0003】
インコヒーレントホログラフィによるホログラムの記録方法として、次のような方法が提案されている(特許文献1、非特許文献1,2)。記録対象の物体から、反射・透過した、あるいは発せられた干渉性が低い光波を、ビームスプリッターや空間光変調器、回折光学素子などの光波分割素子を用いて、2つの光波に分割する。これら2つの光波をそれぞれ第1分割光、第2分割光と呼ぶこととする。これら第1分割光と第2分割光の波面の曲率が異なるように、凹面鏡やレンズ、あるいは空間光変調器などの曲率変調素子を用いて各光の波面の曲率を変調する。その後、変調された第1分割光と第2分割光を撮像素子面上で重ね合わせることにより、ホログラムが形成される。このホログラムを撮像素子で撮像・取得し、コンピューター内に保存する。このとき位相差付与素子を用いて第1分割光と第2分割光の位相差を変調し、複数枚のホログラムを記録する。これら複数枚のホログラムに、コンピューター内で位相シフト法に基づく数値演算と回折伝搬の計算を適用することにより、記録対象の物体の立体像、すなわち3次元像が得られる。
【0004】
上述のインコヒーレントホログラフィの技術では、撮像素子を用いて複数枚のホログラムを記録する際に、記録対象の物体は静止している必要がある。仮に、記録対象の物体が移動する場合には、物体のホログラムを正しく取得することができず、立体像が得られない。この問題を解消し動物体の立体像を得るために、複数枚のホログラムを一括して同時に記録する方法が提案されている(特許文献2、非特許文献3,4,5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-533542号公報
【文献】特開2015-1726号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Rosen and G. Brooker、「Digital spatially incoherent Fresnel holography」、Optics Letters、(2007)、vol. 32、No.8、pp.912-914
【文献】M. K. Kim、「Incoherent digital holographic adaptive optics」、Applied Optics、(2013)、 vol. 52、No.1、pp.A117-A130
【文献】Y. Wan, T. Man, F. Wu, M. K. Kim, and D. Wang、「Parallel phase-shifting self-interference digital holography with faithful reconstruction using compressive sensing」、Optics and Lasers in Engineering、(2016)、vol. 86、pp. 38-43
【文献】Z. Zhu and Z. Shi、「Self-interference polarization holographic imaging of a three-dimensional incoherent scene」、Applied Physics Letter、(2016)、vol. 109、091104
【文献】T. Tahara, T. Kanno, Y. Arai, and T. Ozawa、「Single-shot phase-shifting incoherent digital holography」、Journal of Optics、(2017)、vol. 19、065705
【文献】M. Imbe and T. Nomura、「Study of reference waves in single-exposure generalized phase-shifting digital holography」、Applied Optics、(2013)、vol. 52、No.18、pp. 4097-4102
【文献】J. Bioucas-Dias and M. Figueiredo、「A new TwIST: Two-step iterative shrinkage/thresholding algorithms for image restoration」、IEEE Transactions on image processing、(2007)、vol. 16、Issue 12、pp. 2992-3004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の複数枚のホログラムを一括して記録する技術では、撮像素子にアレイ状の偏光変調素子を導入して、撮像素子の隣接画素毎に、第1分割光と第2分割光の位相差が異なるようにホログラムを記録している。これら隣接画素間で、測定対象の物体からの光の波面は一定、あるいは変化量が微小であるとみなし、コンピューター内で位相シフト法に基づく数値解析を適用することにより、立体像を再生することができる。
【0008】
しかしながら、この従来手法では、隣接画素間で光の波面が一定あるいは微小である必要があるため、記録されるホログラムの分解能が、撮像素子の分解能よりも低くなり、立体像の品質が低下する。例えば、2つの光の位相差が0、π/2、π、3/2π[rad]の4枚のホログラムを一括に記録する場合には、ホログラムの分解能が撮像素子の分解能の1/4倍となってしまう。このため、ぼやけた立体像となる。
【0009】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、インコヒーレントホログラフィにおいて、従来技術におけるホログラム取得時の分解能の低下を防ぎ、高品質な立体像の記録・再生を可能にするホログラム記録装置及び像再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係るホログラム記録装置は、インコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光に分割し、前記第1分割光と前記第2分割光の波面を互いに異なる曲率に変調し、前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ位相分布を付与し、その後、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させてホログラムを撮像面に形成し、記録するホログラム記録装置において、光が所定位相進む領域と所定位相遅れる領域とが第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に配置された市松模様の位相変調領域を有する光学素子を、前記撮像面から所定距離離して前記第1分割光と前記第2分割光の光路にそれぞれ配置し、前記撮像面に中心位置が異なる複数のホログラムを形成することを特徴とする。
【0011】
また、前記ホログラム記録装置は、前記市松模様の位相変調領域を有する第1光学素子と前記第1分割光の光軸との位置関係と、前記第1光学素子と同一の前記市松模様の位相変調領域を有する第2光学素子と前記第2分割光の光軸との位置関係とを、前記市松模様の格子の1辺より小さい距離で格子面内方向に相対的にずらし、前記第1分割光と前記第2分割光の位相差が異なる4つのホログラムを同時に取得することが望ましい。
【0012】
また、前記ホログラム記録装置は、前記市松模様の位相変調領域の格子の前記第1方向・前記第2方向の一辺をそれぞれdh、dvとし、格子面内方向での前記第1方向・前記第2方向のずれ量をそれぞれh,vとするとき、h=dh/4、v=dv/2、又は、h=dh/2、v=dv/4、とすることが望ましい。
【0013】
また、前記ホログラム記録装置は、光波を前記第1分割光と前記第2分割光に分割する偏光ビームスプリッターと、前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ異なる曲率を与える第1凹面鏡及び第2凹面鏡と、光が所定位相進む領域と所定位相遅れる領域とが第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に配置された位相変調素子と、複数のホログラムを撮像する撮像素子とを備えることが望ましい。
【0014】
また、前記ホログラム記録装置は、物体光を前記第1分割光と前記第2分割光に分割するビームスプリッターと、前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ異なる曲率を与えると共に、第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に異なる位相を加える市松模様の位相変調を与える第1及び第2回折光学素子と、複数のホログラムを撮像する撮像素子とを備えることが望ましい。
【0015】
また、前記ホログラム記録装置は、物体光を前記第1分割光と前記第2分割光に分割すると共に、前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ異なる曲率を与える空間光変調器と、前記第1分割光と前記第2分割光に、第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に異なる位相を加える市松模様の位相変調を与える位相変調素子と、複数のホログラムを撮像する撮像素子とを備えることが望ましい。
【0016】
また、前記ホログラム記録装置は、物体光を前記第1分割光と前記第2分割光に分割すると共に、前記第1分割光と前記第2分割光にそれぞれ異なる曲率を与え、さらに第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に異なる位相を加える市松模様の位相変調を与える回折光学素子と、複数のホログラムを撮像する撮像素子とを備えることが望ましい。
【0018】
上記課題を解決するために本発明に係る像再生装置は、対象物からのインコヒーレントな光波を分割した第1分割光と第2分割光にそれぞれ光が所定位相進む領域と所定位相遅れる領域とが第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に配置された光学素子により位相分布を付与し、その後、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させて撮像面に形成された複数のホログラムから、再生像を生成する像再生装置であって、前記複数のホログラムに基づいて位相シフト法により光波の撮像面での複素振幅分布O(x,y)を求め、前記複素振幅分布に回折伝搬の計算を適用して、前記撮像面からの距離z r における再生像O’(x,y;z r )を生成する像再生装置において、既知の対象物から得たホログラムに基づいて得られた、前記撮像面での各ホログラムの中心位置を記録しておき、前記中心位置に基づいて、前記撮像面に形成された複数のホログラムをそれぞれ抽出することを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するために本発明に係る像再生装置は、対象物からのインコヒーレントな光波を分割した第1分割光と第2分割光にそれぞれ光が所定位相進む領域と所定位相遅れる領域とが第1方向と該第1方向と垂直な第2方向にそれぞれ所定周期で交互に配置された光学素子により位相分布を付与し、その後、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させて撮像面に形成された複数のホログラムから、再生像を生成する像再生装置であって、前記複数のホログラムに基づいて位相シフト法により光波の撮像面での複素振幅分布O(x,y)を求め、前記複素振幅分布に回折伝搬の計算を適用して、前記撮像面からの距離z r における再生像O’(x,y;z r )を生成する像再生装置において、位相シフト法により得られた、撮像面での複素振幅分布O(x,y)から、TVノルムに基づく最小化問題、あるいはL2ノルムにTVノルムの正則化項を加えた最小化問題を解くことにより、再生像を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インコヒーレントホログラフィにおいて、撮像素子の分解能でホログラムを取得できるホログラム記録装置を提供すると共に、従来よりも高品質な立体像を再生することができる像再生装置を提供する。さらに、本発明は、インコヒーレントホログラフィにより、動画像記録を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のホログラム記録装置及び像再生装置の概念図である。
図2】第1分割光と第2分割光のそれぞれに付与する、位相分布である。
図3】第1分割光と第2分割光から、4つのホログラムが生成される概念図である。
図4】実施例1のホログラム記録装置である。
図5】実施例2のホログラム記録装置である。
図6】実施例2で用いる位相変調素子の位相分布である。
図7】実施例3のホログラム記録装置である。
図8】実施例4のホログラム記録装置である。
図9】空間周波数フィルタリング光学系の構成である。
図10】記録対象の3次元物体の例である。
図11】撮像素子面上で形成されるホログラムの例である。
図12】抽出した4枚のホログラムである。
図13】物体から伝搬してきた光波の複素振幅分布である。
図14】本発明の像再生装置による像再生の概念図である。
図15】物体の配置位置zsと再生距離zrの関係を示すグラフである。
図16】像再生結果を示す図である。
図17】本発明の検証実験に用いた光学系の構成である。
図18】検証実験で得られたホログラムと複素強度分布である。
図19】検証実験で得られた再生像である。
図20】検証実験で得られた複素振幅分布にTotal Variationノルムと伝搬計算のそれぞれを適用して取得した再生像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1に、本発明のホログラム記録装置及び像再生装置の概念図を示す。ホログラム記録装置100は、光波分割素子3、曲率変調素子6、位相変調素子7、及び撮像素子9を備える。なお、ホログラム記録装置100は、さらに図示しない記録素子を備え、ホログラムを記録することができる。像再生装置200は、像再生の画像処理計算を行う処理装置10を備える。
【0024】
光波分割素子3は、記録対象の物体1(立体物、あるいは、3次元位置の異なる複数の物体)から、反射・透過した、あるいは発せられたコヒーレンス(干渉性)の低い光波2を分割し、第1分割光4と第2分割光5を生成する。第1分割光4と第2分割光5は、例えば、波長的・空間的に微小領域から得られる光波を分割することにより、互いが自分自身の光波のように一定の干渉性を有する。
【0025】
曲率変調素子6は、これらの分割された光波4,5の波面の曲率を、互いに異なる曲率に変調する。なお、光波分割素子3及び曲率変調素子6は、従来のインコヒーレントホログラフィのものと同等のものを用いることができる。
【0026】
位相変調素子7は、第1分割光4と第2分割光5のそれぞれに、位相分布を付与する。この位相変調素子7として、回折光学素子、空間光変調器、メタサーフェスなどを用いて、図2に示すような2階調の位相値+Δφ,-Δφ[rad](0<φ≦π/2)が市松状に変化する位相分布を付与するものを用いる。なお、Δφが大きいほど光の利用効率が高い。この位相分布の水平方向、垂直方向の空間的な周期をそれぞれ2dh[m],2dv[m]とする。この周期は限定されるものではないが、例えば数μmから数十μmである。
【0027】
また、第1分割光4に付与する位相分布7aと第2分割光5に付与する位相分布7bは、図2(a)と図2(b)のように、面内での空間的な相対位置がずれている。水平方向・垂直方向の位相分布の相対位置のずれ量をそれぞれh[m],v[m]とすると、それぞれが以下の条件式(1)を満たすように設定する。
【0028】
【数1】
【0029】
この位置のずれにより、撮像素子面では、位相シフト量が、0,2πh/dh ,2πv/dv ,2π(h/dh+v/dv)の4枚のホログラムが得られる。なお、h=dh/4、v=dv/2、あるいは、h=dh/2、v=dv/4の場合に、位相シフト量が0、π/2、π、3/2π [rad]の4枚のホログラムが得られるため、最も高品質な立体像の再生が可能である。
【0030】
なお、図1では、光波分割素子3、曲率変調素子6、位相変調素子7をそれぞれ独立した素子として説明したが、空間光変調器や回折光学素子、メタサーフェスなどを用いることにより、光波分割素子3と曲率変調素子6の2つを、または光波分割素子3と曲率変調素子6と位相変調素子7の3つを一つの素子で実現することができる。すなわち、ホログラム記録装置として、光波を第1分割光と第2分割光に分割する機能と、第1分割光と第2分割光の波面を互いに異なる曲率に変調する機能と、第1分割光と第2分割光にそれぞれ位相分布を付与する機能を備えていれば良く、どのような光学素子で実現しても良い。
【0031】
撮像素子9は、位相変調素子7で変調した後の光波8によるホログラムを検出するものであり、位相変調素子7から距離L離して配置する。Lが大きいほど、視野の広い立体像を取得できるが、記録装置が大型になる。一方で、Lが小さいほど視野が狭くなるが、記録装置の小型化を実現できる。位相変調素子7により変調された第1分割光4と第2分割光5のそれぞれは、4つの異なる方向に伝搬する光波8となる。これら4方向に伝搬する第1分割光と第2分割光の位相差は、位相変調素子の相対位置のずれhとvの値に応じて変化し、撮像素子9の受光面上で位相差が異なる4枚のホログラムが形成される。
【0032】
図3に、第1分割光と第2分割光から、4つのホログラムが生成される概念図を示す。図3で入力される第1分割光と第2分割光は、既に波面がそれぞれ曲率変調された分割光である。第1分割光は2階調の位相値+Δφ,-Δφ[rad]を有する位相分布7aで位相変調され、4つの異なる方向に伝搬する光波8となる。第2分割光は、同様に2階調の位相値を有するが位相分布7aと面内方向でずれた位相分布7bで位相変調され、4つの異なる方向に伝搬する光波8となる。
【0033】
図3では第1分割光と第2分割光がそれぞれ分かれて記載されているが、実際の光学系では第1分割光と第2分割光の光波8は同じ空間を伝搬し、位相変調素子7から距離L離れた撮像素子9の受光面で重なり、位相差の異なる4つの干渉パターン(ホログラム)を生成する。図3の右端の撮像素子9で撮影した画像において、ホログラム11が2つの分割光の位相シフト量が0のホログラムであり、ホログラム12,13,14が、それぞれ位相シフト量2πh/dh ,2πv/dv ,2π(h/dh+v/dv)のホログラムである。なお、4つのホログラムの中心間の水平方向の距離lh、垂直方向の距離lvは、それぞれ次式(2)で与えられる。
【0034】
【数2】
【0035】
h 、dv 、L等を調整することにより、位相シフト量の異なる複数のホログラムが空間的に分散するように撮影することができる。
【0036】
このように、本発明では、第1分割光と第2分割光をそれぞれ位相変調素子7により変調して、一括して複数のホログラムとして撮像素子9により検出し、図示しない記録素子に記録する。よって、撮像素子の分解能でホログラムを取得できる。
【0037】
像再生装置200は、像再生の画像処理計算を行う処理装置10を備える。詳細は後述するが、立体像を再生する場合には、撮像素子9で同時に取得された分散された4つのホログラムをそれぞれ切り出し、4枚のホログラムに位相シフト法を適用し、回折伝搬の計算を適用することにより立体像を得ることができる。
【0038】
本発明は、インコヒーレントホログラフィの様々な光学系を用いて実現することができる。
【実施例1】
【0039】
図4に2光束の干渉(異なる光路で変調させた光の干渉)を利用するホログラム記録装置101の光学系を示す。本光学系は、レンズ21、偏光子22、偏光ビームスプリッター23、1/4波長板24,26、凹面鏡25,27、バンドパスフィルター28、位相変調素子29、偏光子30、撮像素子9を備える。本光学系では、光波分割素子として偏光ビームスプリッター23を用い、曲率変調素子として凹面鏡25,27を用いている。
【0040】
レンズ21は、記録対象の物体1から伝搬してきた光波2を集光し、再生像の倍率を変更するために用いる。
【0041】
偏光子22は、光波2の偏光状態を、例えば、45度傾いた直線偏光にする。
【0042】
偏光ビームスプリッター23は、直線偏光となったこの光波を2つに分割し、第1分割光4(反射光)と第2分割光5(透過光)を得る。偏光ビームスプリッター23を用いているため、第1分割光4と第2分割光5の偏光状態はともに直線偏光であり、その振動方向は直交している。第1分割光4と第2分割光5はそれぞれ1/4波長板24,26に入射する。なお、偏光ビームスプリッター23は、凹面鏡で反射されて再び入射される分割光4,5を、撮像素子9の方向に伝搬させる機能も有している。
【0043】
1/4波長板24,26は、入射光の電界振動方向(偏光面)にπ/2(=λ/4)の位相差を与える。入射光(分割光)の偏光面を波長板の高速軸(あるいは低速軸)に対して45度の方位角で入射させることにより、第1分割光4と第2分割光5のそれぞれの偏光状態は右回り円偏光と左回り円偏光となる。第1分割光4は1/4波長板24を通過して凹面鏡25に向かい、第2分割光5は1/4波長板26を通過して凹面鏡27に向かう。
【0044】
凹面鏡25,27は、それぞれの光波の波面の曲率を変調する。後に分割光の干渉を生じさせるため、第1分割光4と第2分割光5のそれぞれの波面の曲率は互いに異なるものとする。第1分割光4は凹面鏡25で変調・反射され、再度、1/4波長板24に入射し、第2分割光5は凹面鏡27で変調・反射され、再度、1/4波長板26に入射する。
【0045】
1/4波長板24,26により、右回り円偏光と左回り円偏光のそれぞれは、直交した直線偏光に変換される。これらの直線偏光は、再度、偏光ビームスプリッター23に入射し、撮像素子9が配置された方向に伝搬し、バンドパスフィルター28に入射する。
【0046】
バンドパスフィルター28は、光波の時間的コヒーレンスを高めるために用いる。例えば、所望の波長の光を中心に、透過帯域が10nm程度のバンドパスフィルター28とすることができる。
【0047】
位相変調素子29は、バンドパスフィルター28を通過した分割光4,5に、すなわち、直交した2つの直線偏光のそれぞれに、前述した図2に示す位相分布を付与する。なお、位相変調素子29は、例えば、図2(a)の位相分布7aを有する光学素子と図2(b)の位相分布7bを有する光学素子とが、面内方向に縦v[m]横h[m]ずれて重なった構造で実現することができ、図2(a)の位相分布が縦方向の直線偏光のみに変調を与え、図2(b)の位相分布が横方向の直線偏光のみに変調を与える光学素子を用いることにより、同じ中心軸で同じ空間を伝搬する2つの分割光にそれぞれ異なった位相変調を与えることができる。また、位相分布7aを有する光学素子との位相分布7bを有する光学素子とをずれなく重ねて配置し、分割光4,5の中心軸を面内方向に縦v[m]横h[m]ずらして入射することによっても、同等の位相変調を実現することができる。
【0048】
すなわち、市松模様の位相変調領域を有する第1光学素子と第1分割光の光軸との位置関係と、市松模様の位相変調領域を有する第2光学素子と第2分割光の光軸との位置関係とを、市松模様の格子の1辺より小さい距離で格子面内方向に相対的にずらすことが、実質的に実現されればよい。
【0049】
偏光子30は、位相変調を受けた直交する2つの直線偏光である分割光に対し、その偏光方向を揃えるように作用する。この結果、第1分割光4と第2分割光5は、偏光子30を通過すると、互いに干渉する。
【0050】
撮像素子9は、その受光面で図3に示すように4枚のホログラムを取得する。なお、この後、記録素子(図示せず)に取得したホログラムを記録することができる。
【0051】
このように、インコヒーレントホログラフィによりホログラム記録装置101は同時に4枚のホログラムを記録することができる。
【実施例2】
【0052】
図5は、図4と異なる光学系を用いたホログラム記録装置102の構成である。本光学系は、レンズ21、ビームスプリッター31、回折光学素子32,33、バンドパスフィルター28、撮像素子9を備える。図5の光学系では、曲率変調素子6である図4の凹面鏡の役割と、図2の位相分布を付与する位相変調素子7の役割を、回折光学素子32,33を用いて実現している。
【0053】
図5の光学系について説明する。なお、図4と共通の光学素子については、説明を簡略化する。
【0054】
レンズ21は、記録対象の物体1から伝搬してきた光波2を集光する。
【0055】
ビームスプリッター31は、物体からの光波2を2つに分割し、第1分割光4と第2分割光5を形成する。第1分割光4と第2分割光5はそれぞれ回折光学素子32,33に入射する。なお、ビームスプリッター31は、回折光学素子32,33で反射されて再び入射される分割光4,5を、撮像素子9の方向に伝搬させる機能も有している。
【0056】
回折光学素子32,33は、第1分割光4と第2分割光5のそれぞれに、図6(a)、図6(b)に示す位相分布を付与する。図6(a)、図6(b)の位相分布は、図2(a)、図2(b)の位相分布に、曲率が異なる凹面鏡の位相分布(同心円状の分布)を足し合わせることにより得られる。なお、本実施例では、図6(b)の位相分布と図6(a)の位相分布との平面内のずれを、h=dh/4、v=dv/2となるようにしている。回折光学素子32と33は空間的に異なる場所に設置されているが、各分割光の光軸とそれぞれの位相分布の位置を調整することにより、2つの位相分布のずれを等価的に実現している。すなわち、市松模様の位相変調領域を有する回折光学素子(第1光学素子)32と第1分割光4の光軸との位置関係と、市松模様の位相変調領域を有する回折光学素子(第2光学素子)33と第2分割光5の光軸との位置関係とを、市松模様の格子の1辺より小さい距離で格子面内方向に相対的にずらしている。なお、回折光学素子32,33で反射された分割光4,5は、同じ偏光状態を有するようにする。
【0057】
バンドパスフィルター28は、所望の波長を中心にある帯域幅の光を透過させ、光波の時間的コヒーレンスを高める。
【0058】
撮像素子9は、その受光面で図3に示すように4枚のホログラムを取得する。なお、この後、記録素子(図示せず)に取得したホログラムを記録することができる。
【0059】
図5のホログラム記録装置102は、この回折光学素子32,33を用いることにより、図4よりも少ない光学素子でインコヒーレントホログラフィを実現できる。
【実施例3】
【0060】
図7に、単一光路での干渉を利用したホログラム記録装置103の構成を示す。本光学系は、レンズ21、偏光子22、バンドパスフィルター28、空間光変調器34、位相変調素子35、偏光子30、及び、撮像素子9を備える。本光学系では、光波分割素子3の役割と曲率変調素子6の役割を、1つの空間光変調器34により実現している。
【0061】
図7の光学系について説明する。なお、図4,5と共通の光学素子については、説明を簡略化する。
【0062】
レンズ21は、記録対象の物体1から伝搬してきた光波2を集光する。
【0063】
偏光子22は、光波2の偏光状態を、例えば45度傾いた直線偏光にする。
【0064】
バンドパスフィルター28は、所望の波長を中心にある帯域幅の光を透過させ、光波の時間的コヒーレンスを高める。
【0065】
空間光変調器34は、偏光状態にある光波2を分割して、波面の曲率が異なる第1分割光4と第2分割光5を得る。例えば、第1分割光4と第2分割光5は、その振動方向が直交している2つの直線偏光であり、且つ、波面の曲率が異なっている。第1分割光4と第2分割光5はそれぞれ位相変調素子35に入射する。なお、空間光変調器34は、偏光依存性あるいは複屈折性を有する液晶素子や液晶レンズを用いることで実現可能である。
【0066】
位相変調素子35は、第1分割光4と第2分割光5のそれぞれに、図2に示す、面内方向にずれた位相分布7a,7bを付与する。図2の一方の位相分布が縦方向の直線偏光のみに変調を与え、図2の他方の位相分布が横方向の直線偏光のみに変調を与える光学素子を用いることにより、同じ空間を伝搬する2つの分割光にそれぞれ異なった位相変調を与えることができる。
【0067】
偏光子30は、位相変調を受けた直交する2つの直線偏光である分割光に対し、その偏光方向を揃えるように作用する。この結果、第1分割光4と第2分割光5は、偏光子30を通過すると、互いに干渉する。
【0068】
撮像素子9は、その受光面で図3に示すように4枚のホログラムを取得する。なお、この後、記録素子(図示せず)に取得したホログラムを記録することができる。
【0069】
図7のホログラム記録装置103は、単一光路での干渉を利用することにより、図4図5よりもコンパクトな光学系でインコヒーレントホログラフィを実現できる。
【実施例4】
【0070】
図8に、単一光路での干渉を利用した別のホログラム記録装置104の構成を示す。本光学系は、レンズ21、偏光子22、バンドパスフィルター28、回折光学素子36、偏光子30、及び、撮像素子9を備える。本光学系では、光波分割素子3の役割と、曲率変調素子6の役割と、位相変調素子7の役割の3つを、1つの回折光学素子36を用いて実現している。
【0071】
図8の光学系について説明する。なお、図4,5,7と共通の光学素子については、説明を簡略化する。
【0072】
レンズ21は、記録対象の物体1から伝搬してきた光波2を集光する。なお、このレンズ21の焦点距離をf0とする。
【0073】
偏光子22は、光波2の偏光状態を、例えば45度傾いた直線偏光にする。
【0074】
バンドパスフィルター28は、所望の波長を中心にある帯域幅の光を透過させ、光波の時間的コヒーレンスを高める。
【0075】
回折光学素子36は、偏光状態にある光波2を分割するとともに、第1分割光4と第2分割光5のそれぞれに、異なる波面の曲率(焦点距離fd1,fd2)と、前述した図2に示す面内方向にずれた位相分布7a,7bを付与する。なお、回折光学素子36は、偏光依存性あるいは複屈折性を有する液晶素子や液晶レンズ、又は、表面に微細な凹凸を形成した透光性材料基板等を用いることで実現可能である。
【0076】
偏光子30は、位相変調を受けた2つの直線偏光である分割光に対し、その偏光方向を揃えるように作用する。
【0077】
撮像素子9は、その受光面で図3に示すように4枚のホログラムを取得する。なお、この後、記録素子(図示せず)に取得したホログラムを記録することができる。
【0078】
図8のホログラム記録装置104の光学系を用いることにより、図7の単一光路干渉計の光学系をより小型化することができる。なお、図4図5図7図8の光学系を構成する光学素子は異なるが、撮像素子面上で得られるホログラムは同じである。
【0079】
以上の実施例では、2光束干渉計と単一光路干渉計に基づく実施例を記述したが、回転シアリング干渉計や、ラディアルシアリング干渉計でも本発明を適用することができる。
【0080】
これまで説明した各光学系において、例えば、位相変調素子のΔφがπ/2未満の場合は反射光が生じる可能性がある。同様に他の光学素子で反射する光波が存在する場合、撮像素子面上で不要な光波がホログラムに重なり、ホログラムの品質の低下を招くことが懸念される。この光波の影響が顕著となる場合には、図9に示す空間周波数フィルタリングの光学系を導入してハイパスフィルタを用いて不要な光波を除去し、ホログラム画像を得ることが望ましい。
【0081】
図9の空間周波数フィルタリング光学系は、焦点を一致させた2枚のレンズ37,38と、焦点に配置された空間周波数フィルタ39とを有する。空間周波数フィルタ39は、中心部が遮光され、他の部分は光を透過する構造を有する。入射光(入力画像)がレンズ37に入射すると、画像の空間周波数分布が焦点(フーリエ面)に得られ、ここに上記構造を有する空間周波数フィルタ39を置くことにより、画像の高い空間周波数成分を通過させるハイパスフィルタとして機能する。出力光(出力画像)は、レンズ38から出力される。
【0082】
次に、本発明のホログラムの記録と像再生の原理について説明する。
【0083】
図10に示す3つの画面41,42,43に表示された「1」、「2」、「3」の文字を記録対象の3次元物体とした。物体「1」、「2」、「3」の大きさ(横×縦)はそれぞれ、50μm×250μm、90μm×250μm、80μm×250μmであり、それぞれの物体の中心位置は、(x=300μm、y=650μm)、(x=630μm、y=650μm)、(x=950μm、y=650μm)である。また、物体「1」と物体「2」の間のz方向の距離は20mmであり、物体「2」と物体「3」の間のz方向の距離は30mmである。ただし、画面41,42,43は概念的なものであり、物体「1」、「2」、「3」が上記の位置で光を発し、他の領域は透光性のものであれば良い。
【0084】
これらを3次元物体とし、本発明のホログラム記録装置(例えば、図8の光学系)により撮像素子面(撮像面)上で形成されるホログラムを図11に示す。この画像は、位相変調素子の位相値Δφをπ/2とし、h=dh/4、v=dv/2として得られたものである。なお、記録・再生の原理説明で用いる図11図13及び図16の画像は、シミュレーションで作成した。
【0085】
次に、撮像素子により撮像・取得した図11の画像から4枚のホログラムを抽出する。このとき、抽出した4枚のホログラムに、抽出位置のずれが生じていると立体像を正しく再生することができない。この抽出位置のずれの問題を解消するために、物体のホログラムを記録する前に、あらかじめ3次元の位置情報が既知である物体のホログラムを記録しておき、以下の処理を実施する。
【0086】
はじめに、取得した既知の物体のホログラムに対して、回折伝搬の計算を適用し、既知の物体の配置位置まで伝搬して再生像を得る。ホログラムの強度分布をI(x,y)とすると(この強度分布のx、y座標は、撮像素子受光面の特定の1点を原点として取得した座標であり、この強度分布には4つのホログラムが含まれる。)、再生像I'(x,y;s)は、次式(3)により得られる。
【0087】
【数3】
【0088】
ここでFT[・・・]、FT-1[・・・]は、2次元のフーリエ変換演算子、2次元の逆フーリエ変換演算子であり、iは虚数、sは伝搬距離、λは波長、u,vは空間周波数である。また、時分割の位相シフト法などで、ホログラム面の複素振幅分布が求まる場合には、式(3)のI(x,y)をホログラム面の複素振幅分布として再生像の取得を行ってもよい。
【0089】
回折伝搬の結果、再生面内で4つの再生像が得られるため、この内の一つを切り出す。切り出した再生像をテンプレート画像T(x,y;s)とし、回折伝搬により得られた再生像I'(x,y;s)との相関[T(x,y;s)*I'(x,y;s)]の計算を行う。ここで、*は相関演算子である。この相関演算の結果、相関値のピーク位置から、4つの再生像の位置情報を取得する。取得した4つの再生像の位置情報と、4つのホログラムの中心位置はそれぞれ一致しているため、既知の物体の位置情報から撮像素子面でのホログラムの中心位置の情報を取得できる。この中心位置の情報を記録しておき、任意の物体のホログラムを撮像する際には、上述の手順で取得した位置情報を参照することにより、4枚のホログラムを正確に抽出することができる。
【0090】
上述の中心位置の情報に基づいて、図11の画像から正確に抽出した4枚のホログラムを図12に示す。なお、相関演算としては、正規化相互相関、位相限定相関などを用いることも可能である。また、上述の位置情報の取得方法では、ホログラム面から再生面まで、光波の回折伝搬の計算を行うために、2次元のフーリエ変換の演算が2回必要であり、計算時間が長くなる。計算時間の短縮を図るために、4つのホログラムの包絡線を取得する、あるいは、4つのホログラムの位相分布を取得し、これらの情報をもとに相関演算を適用することにより、位置情報を取得することも可能である。
【0091】
以上の手順により得られた4枚のホログラムが有する位相シフト量をφ1、φ2、φ3、φ4とし、その位相シフト量に対応したホログラムの強度分布をI1(x,y)、I2(x,y)、I3(x,y)、I4(x,y)とすると(このとき、各強度分布のx、y座標は、上述の手順で取得した各ホログラムの中心位置を原点として取得した座標である。)、物体から伝搬してきた光波分布O(x,y)は、非特許文献6の任意の位相シフト量のホログラムを解析可能な一般化位相シフトを用いて、以下の式(4)のように算出される。
【0092】
【数4】
【0093】
以上の演算により算出したO(x,y)の複素振幅分布を図13に示す。取得したO(x,y)に対して、式(3)と同様の次式(5)の回折伝搬の計算を適用する。
【0094】
【数5】
【0095】
この計算により、再生系において任意の距離zrにおける物体の像O'(x,y;zr)を再生することができ、フォーカス位置を任意に設定することができる。
【0096】
図14に、本発明の像再生装置による像再生の概念図を示す。像再生装置201は、像再生の画像処理計算を行う処理装置10を備え、必要に応じて、表示装置49を備える。処理装置10は、式(4)の位相シフト法に基づいて、得られた複数のホログラムから物体から伝搬してきた光波の複素振幅分布O(x,y)を求め、次いで、式(5)の回折伝搬の計算を適用し、任意の距離zrにおける物体の像を再生する計算処理を行う。表示装置49に得られた複素振幅分布を表示することにより、距離zrに再生像50を生成することもできる。
【0097】
記録対象の実際の物体の配置位置がzsである場合に、フォーカスが合った像を得るためには、次式(6)を満たすようにzrを設定する。
【0098】
【数6】
【0099】
ここで、f0は物体直後に配置されたレンズの焦点距離、dは焦点距離f0のレンズと回折光学素子との距離、fd1、fd2は回折光学素子により実現された曲率変調素子の焦点距離、zhは回折光学素子と撮像素子の距離である。図8の光学系を用いた実施例では、f0=250[mm]、d=132[mm]、fd1=460[mm]、fd2=171.6[mm]、zh=250[mm]としている。
【0100】
図15に、式(6)から導かれる物体の配置位置zsと再生距離zrの関係を示す。図15からわかるように、zsとzrは線形な関係ではない。この非線形性は、インコヒーレントホログラフィでホログラムを形成するために、zsに応じて異なる曲率の波面の自己干渉を利用していることに起因している。物体「1」とf0=250[mm]のレンズの間のz方向の距離は200[mm]であるため、物体「1」、物体「2」、物体「3」の配置位置のそれぞれは、zs =200,220,250 [mm]である。したがって、物体「1」、 物体「2」、 物体「3」のそれぞれにフォーカスが合った像を得るためには、図15に示すzsとzrの関係に基づいて、zrを43.8、52.7、57.1[mm]とする必要がある。本発明の像再生装置は、対象物の実際の位置と、再生像の再生位置の非線形性を補正するテーブルを備えることができ、このテーブルを参照して対象物の位置を計算することができる。
【0101】
図16に、zrを43.8、52.7、57.1[mm]とし、回折伝搬の計算を適用した結果の物体像を示す。「1」、「2」、「3」の物体のそれぞれにフォーカス位置を合わせることに成功していることがわかる。物体「1」にフォーカス位置を合わせた場合には、物体「2」と物体「3」の像がぼやける。同様に、物体「2」、 物体「3」のそれぞれにフォーカス位置を合わせた場合には、フォーカス位置と異なる面に配置された物体の像がぼやける。
【0102】
以上のように、本発明により、インコヒーレントホログラフィにおいて、一度の撮影で3次元情報を記録・再生することが可能である。
【0103】
(検証実験)
本発明によるインコヒーレントホログラフィの記録・再生を実験的に検証した。
【0104】
図17に、本発明の検証実験に用いた光学系の構成を示す。光学系は、簡単化のため、2つの空間光変調器を用いて2つの物体像の構成とした。
【0105】
発光素子71(LED)から放射されるインコヒーレント光(波長625nm)を、マスク72(O1)を通過させることにより、物体「1」の物体光とし、発光素子73(LED)から放射されるインコヒーレント光(波長625nm)を、マスク74(O2)を通過させることにより、物体「2」の物体光とした。物体「1」、「2」の大きさ(横×縦)はそれぞれ、300μm×520μm、420μm×670μmである。これらの物体光をビームスプリッター75(BS)で合成し、立体像とみなした。なお、マスク72(O1)とマスク74(O2)の光軸方向の距離は12mmである。また、マスク72,74は、焦点距離150mmのレンズ77(L1)の焦点近傍に配置した。合成光は、偏光子76(P)を通過し、直線偏光となり、さらに、レンズ77(L1)、バンドパスフィルター78(BPF)を通過する。バンドパスフィルター78の通過帯域幅は10nmである。
【0106】
ビームスプリッター79(BS)は、物体光を第1分割光と第2分割光に分割し、それぞれを位相変調用の空間光変調器80,81(SLM1,SLM2)に入射させる。空間光変調器80,81は市松模様の位相変調素子と曲率変調素子の機能を有しており、ピクセルピッチは10.4μm、その曲率の焦点距離(fd1,fd2)は、無限遠と430mmである。2つの空間光変調器80,81は、位相シフト量が0、π/2、π、3/2π [rad]の4枚のホログラムが得られるように調整されている。
【0107】
位相変調された分割光はビームスプリッター79(BS)で合成され、焦点距離200mmのレンズ82,84(L2,L3)及び空間周波数フィルタ83からなるハイパスフィルタを通過して、不要な光波が除去される。
【0108】
合成光は、空間光変調器の共役平面85から、撮像素子である8ビットのCMOSカメラ(10000×7096画素、画素ピッチ3.1μm)86に向かい、干渉してホログラムとなる。
【0109】
図18(a)は、実際に得られたホログラムの光強度分布であり、位相シフト量の異なる4つのホログラムが検出された。図18(b)は、ホログラムの一つを抽出したものである。4つのホログラムから式(4)に基づいて、伝搬光Oの複素振幅分布を得た。図18(c)は、その位相値の分布を示したものである。
【0110】
得られた伝搬光Oの複素振幅分布を元に、前述の数値計算式(5)により物体像を再生した。図19(a)は、様々な位置における再生像を示している。図19(b)に示すように、物体像「2」に焦点を合わせると物体像「1」がぼやけ、図19(c)に示すように、物体像「1」に焦点を合わせると物体像「2」がぼやける。また、像「1」と「2」の距離は13mmとなり、元の物体間の距離12mmとは異なっている。この像の距離は各種パラメータによって調整できる。
【0111】
このように、実際のインコヒーレントホログラフィにおいて、本発明の効果を検証することができた。
【0112】
(像再生の改善)
上記の検証実験では、物体像「1」あるいは「2」に焦点を合わせた際に、本来存在しないはずの光が、「1」と「2」の物体像の付近にノイズとして現れている。このノイズは、撮像素子に起因する熱雑音やショットノイズ、光学素子の端面反射による迷光、市松模様に配置された位相変調素子の作製誤差による4枚のホログラム間の強度のばらつき、の3つが主因で生じていると考えられる。また、前述の数値計算式(5)による再生方法では、物体像「1」と「2」が、それぞれの焦点面から光軸方向にずれた面でぼやけた像としてノイズとなる。以上のノイズは、記録対象の3次元情報を把握する際の弊害となる。
【0113】
これらのノイズを低減する必要がある場合には、TV(Total Variation)ノルムに基づいた3次元情報の再構成手法を適用する。取得すべき物体の3次元情報をxとし、位相シフト法により取得した、撮像素子面での光波の複素振幅分布をyとすると、以下に示す最小化問題を解くことにより3次元情報を推定することができる。
【0114】
【数7】
【0115】
TVノルムは、空間的な光波分布の勾配の大きさに対するL1ノルムに相当する。Hは前述したインコヒーレントホログラフィのホログラム記録過程に対応する観測行列である。撮像素子面での光波の複素振幅分布yにはノイズが含まれており、本来の解xが式(7)のy = Hxの等式を満たすことができるとは限らない。yにノイズが含まれている場合には、式(7)の代わりに、以下の式(8)に基づいてxを推定する。
【0116】
【数8】
【0117】
式(8)において、λは正則化パラメータである。式(8)の最小化問題を解くことによって得られた、zr =0、90、180、270、360[mm]における5枚の再生像を図20(a)に示す。なお、式(8)の最小化問題を解く際には、非特許文献7のTwo-step iterative shrinkage-thresholding algorithmを用い、正則化パラメータλを0.2とした。
【0118】
比較のため、数値計算式(5)を用いて取得したzr =0、90、180、270、360[mm]における5枚の再生像を図20(b)に示す。図20(b)と比較して、図20(a)では、zr =180、270[mm]の物体像「1」と「2」の周囲のノイズが抑えられていることがわかる。さらに、TVノルムに基づく3次元情報の再構成により、zr =0、90、360[mm]の面では、物体像「1」と「2」の合焦面以外で発生するぼやけた像の強度を抑制できていることがわかる。
【0119】
上記の実施例では、ホログラム記録装置及び像再生装置の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、ホログラム記録方法及び像再生方法として構成されてもよい。
【0120】
なお、上述した像再生装置として機能させるためにコンピューターを好適に用いることができ、そのようなコンピューターは、像再生装置の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピューターの記憶部に格納しておき、該コンピューターのCPUによってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。なお、このプログラムは、コンピューター読取り可能な記録媒体に記録可能である。
【0121】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0122】
1 物体
2 光波
3 光波分割素子
4 第1分割光
5 第2分割光
6 曲率変調素子
7 位相変調素子
8 光波
9 撮像素子
10 処理装置
11~14 ホログラム
21 レンズ
22 偏光子
23 偏光ビームスプリッター
24 1/4波長板
25 凹面鏡
26 1/4波長板
27 凹面鏡
28 バンドパスフィルター
29 位相変調素子
30 偏光子
31 ビームスプリッター
32,33 回折光学素子
34 空間光変調器
35 位相変調素子
36 回折光学素子
37,38 レンズ
39 空間周波数フィルタ
41~43 画面
49 表示素子
50~53 再生像
71 発光素子
72 マスク
73 発光素子
74 マスク
75 ビームスプリッター
76 偏光子
77 レンズ
78 バンドパスフィルター
79 ビームスプリッター
80,81 空間光変調器
82,84 レンズ
83 空間周波数フィルタ
85 共役平面
86 CMOSカメラ
100~105 ホログラム記録装置
200,201 像再生装置
図1
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