(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】ケーブルおよびケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 11/18 20060101AFI20220815BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20220815BHJP
H01B 7/295 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
H01B11/18 D
H01B7/18 D
H01B7/18 H
H01B7/18 Z
H01B7/295
(21)【出願番号】P 2018012026
(22)【出願日】2018-01-26
【審査請求日】2020-08-07
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】西浦 紀裕
(72)【発明者】
【氏名】森山 真至
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】小田 浩
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-282776(JP,A)
【文献】特開2014-024910(JP,A)
【文献】特開2017-212185(JP,A)
【文献】実開昭58-159783(JP,U)
【文献】実開昭62-69765(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の外周に形成された素線よりなるシールド層と、
前記シールド層の外周に形成された被覆層と、
を有し、
前記被覆層は、ベースポリマとして、
前記ベースポリマ100質量%中に、融点が90℃以上のポリオレフィンである直鎖状低密度ポリエチレン
を60質量%、エチレン-酢酸ビニル共重合体
を15質量%およびマレイン酸変性ポリオレフィンを
25質量%で含有し、
2Mradの照射量で電子線が照射された前記被覆層における、前記ベースポリマの架橋度
が62.6%であり、
5.8GHzの信号を伝送した場合の信号減衰量が59.62dB/100m以下である、ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載のケーブルにおいて、
前記絶縁層は、前記導体側の第1層と、前記第1層を被覆する第2層とを有し、
前記第1層は、発泡層である、ケーブル。
【請求項3】
請求項1に記載のケーブルにおいて、
前記絶縁層と、前記シールド層との間に遮光層を有し、
前記遮光層は、金属層と、前記金属層の内側に形成された樹脂層と、を有する、ケーブル。
【請求項4】
請求項
3に記載のケーブルにおいて、
前記シールド層と前記被覆層との間、または、前記シールド層と前記遮光層との間に難燃テープを有し、
前記難燃テープは、ポリイミドよりなる、ケーブル。
【請求項5】
導体の外周に発泡層を有する絶縁層を形成する工程、
前記絶縁層の外周に素線よりなるシールド層を形成する工程、
前記シールド層の外周に被覆層を形成する工程、
前記被覆層に電子線を照射することにより前記被覆層を構成するベースポリマを架橋する工程、
を有し、
前記被覆層は、ベースポリマとして、
前記ベースポリマ100質量%中に、融点が90℃以上のポリオレフィンである直鎖状低密度ポリエチレン
を60質量%、エチレン-酢酸ビニル共重合体
を15質量%およびマレイン酸変性ポリオレフィンを
25質量%で含有し、
2Mradの照射量の電子線が照射された前記被覆層における、前記ベースポリマの架橋度
が62.6%であり、
5.8GHzの信号を伝送した場合の信号減衰量が59.62dB/100m以下である、ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルに関し、特に、高周波信号伝送用同軸ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信機器内および機器間の信号伝送用のケーブルとしては、例えば、導体の外周を絶縁層で覆い、その外周にシールド層を設け、その外周を被覆層で覆った同軸形状で構成されるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無線通信に用いられる信号においては、使用周波数が高くなる傾向にあり、通信機器間の信号伝送に用いられる高周波信号伝送用同軸ケーブルにおいては、誘電体損失を小さくするため、導体を発泡層で覆う構造を有している。さらに、高周波信号伝送用同軸ケーブルにおいては、インピーダンスの変化の抑制やノイズ特性の劣化を抑制するため、素線を編み込んで形成された編組シールドよりなるシールド層が設けられ、その外周には、最外層として樹脂よりなるシース層が設けられている。
【0005】
上記構成の高周波信号伝送用同軸ケーブルにおいて、本発明者が検討したところ、後述するように、ケーブルの電気特性が劣化することが判明した。そして、電気特性の劣化について鋭意検討し、高周波信号伝送用同軸ケーブルの電気特性の改善に至った。
【0006】
本発明の目的は、伸び、耐燃料性、難燃性を維持し、かつ、電気特性の良好なケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のケーブルは、導体と、前記導体の外周に形成された絶縁層と、前記絶縁層の外周に形成された素線よりなるシールド層と、前記シールド層の外周に形成された被覆層と、を有する。そして、前記被覆層は、ベースポリマとして、融点が90℃以上のポリオレフィンを、前記ベースポリマ100質量%中60質量%以上含有する。
【0008】
本発明のケーブルの製造方法は、導体の外周に発泡層を有する絶縁層を形成する工程、前記絶縁層の外周に素線よりなるシールド層を形成する工程、前記シールド層の外周に被覆層を形成する工程、前記被覆層に電子線を照射することにより前記被覆層を構成するベースポリマを架橋する工程、を有する。そして、前記電子線の照射量は、7Mrad以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、伸び、耐燃料性、難燃性を維持しつつ、電気特性の良好なケーブルを提供することができる。また、このようなケーブルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態のケーブルの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ケーブルの構造]
図1は、本実施の形態のケーブルの構造を示す断面図である。本実施の形態のケーブルは、高周波信号伝送用同軸ケーブルである。
図1に示すように、本実施の形態に係る高周波信号伝送用同軸ケーブル100は、導体101と、導体101の外周に形成された絶縁層102と、絶縁層102の外周に形成された遮光層103と、遮光層103の外周に形成されたシールド層104と、シールド層104の外周に形成された難燃テープ106と、難燃テープ106の外周に形成された被覆層107と、を有している。
【0012】
導体101は、導電性に優れた金属(例えば、銅やアルミニウム)からなる単線又は撚線よりなる。これらの単線又は撚線は、めっき処理が施されためっき線であってもよい。めっき線としては、例えば、錫めっき線又は銀めっき線を使用することができる。
【0013】
絶縁層102は、樹脂(ポリマ)よりなる。高周波信号の伝送に対応するために低誘電率の樹脂を用いることが好ましい。また、低誘電率化するためには、発泡層を用いることが好ましい。ここでは、絶縁層102は、発泡層102aと、その外側の充実層(補強層)102bとで構成している。充実層102bは、発泡層102aより発泡率が小さい層である。発泡層102aおよび充実層102bは、例えば、ポリエチレンよりなる。発泡層102aの発泡度は、例えば、50%以上である。また、絶縁層102用の樹脂組成物としては、低誘電率化のために、発泡剤など不可避的なものを除いて着色剤等の添加物が含有されていない高純度なもの(例えば、絶縁層102に対するベースポリマ(例えば、ポリエチレン)が98%以上のもの)を使用することが好ましい。絶縁層102は、導体101の外周に樹脂組成物を押出成型した後、電子線(電離放射線)を照射することにより形成される。
【0014】
遮光層103は、基材となる樹脂層103aと、この樹脂層103aの外周の金属層103bと、を有するシート部材である。樹脂層103aは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート、polyethylene terephthalate)よりなる。また、金属層103bは、銅膜(銅薄膜)よりなる。なお、遮光層103は、電子線を反射して遮光するための機能を有するものであれば、他の構成としてもよい。遮光層103は、例えば、絶縁層102の外周に巻き付ける(縦巻きする)ことにより形成される。
【0015】
シールド層104は、複数の素線よりなる。素線は、導電性に優れた金属(例えば、銅やアルミニウム)からなると共にめっき処理が施されためっき線で構成される。めっき線としては、例えば、錫めっき線又は銀めっき線を用いることができる。
【0016】
シールド層104は、隣接する素線同士が隙間を生じないように、複数の素線を遮光層103の外周に巻き付けることにより形成される。特に、遮光層103の外周に、複数の素線を編み込んで形成されたシールド層を編組シールド層という。
【0017】
難燃テープ106は、例えば、ポリイミドよりなる。難燃テープ106は、シールド層104の外周に巻き付けることにより形成される。
【0018】
被覆層(シース層)107は、樹脂(ポリマ)よりなる。被覆層107は、ベースポリマとして、1種または2種以上のポリマを有し、ベースポリマとしてポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)を有する。
【0019】
そして、被覆層(シース層)107は、融点が90℃以上のポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)を、ベースポリマ100質量%中60質量%以上含有する。また、この融点が90℃以上のポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)のベースポリマ中の含有量は、可撓性を維持するため90質量%以下が好ましい。
【0020】
被覆層107は、難燃テープ106の外周にベースポリマと添加剤とを有する樹脂組成物を押出成型した後、電子線を照射することにより形成される。この電子線の照射量は、7Mrad以下である。別の言い方をすれば、被覆層107は、照射量が7Mrad以下の電子線によりベースポリマが架橋されたものである。なお、
図1に示される被覆層107は1層で構成されているが、被覆層107が複数層からなる多層構造であってもよい。
【0021】
本実施の形態の高周波信号伝送用同軸ケーブルによれば、被覆層(シース層)107として、融点が90℃以上のポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)であって、ベースポリマ100質量%中60質量%以上のポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)を用いたので、伸び、耐燃料性、難燃性を維持し、かつ、電気特性(高周波特性)の良好なケーブルを提供することができる。
【0022】
また、本実施の形態の高周波信号伝送用同軸ケーブル100は、ハロゲンフリーのケーブルとなり、ハロゲン元素などによる環境負荷を低減することができる。
【0023】
[ケーブルの製造方法]
次に、本実施の形態のケーブル(高周波信号伝送用同軸ケーブル)の製造方法について説明する。
【0024】
導体101を準備し、その外周に絶縁層102を形成する。ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)を高純度で含むベースポリマのペレット材および発泡剤などの添加剤(樹脂組成物)を、押出部に投入し、導体101の外周に押出被覆し、第1層(発泡層)を形成する。次いで、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)を高純度で含むベースポリマのペレット材および発泡剤以外の添加剤(樹脂組成物)を、押出部に投入し、上記第1層(発泡層)の上にさらに、押出被覆する。この際、2層押出機を用い、発泡層およびその外周の充実層を同時に形成しても良い(2軸練り)。この後、電子線を照射し、絶縁層102を架橋させる。
【0025】
次いで、遮光層(シート部材)103を、絶縁層102上に巻き付け、さらに、遮光層(シート部材)103上に、編組シールド層(シールド層104)を形成する。次いで、編組シールド層上に、難燃テープ106を巻き付け、さらに、その外周に被覆層(シース層)107を形成する。シース層の形成工程について以下に説明する。
【0026】
(シース層の形成工程)
難燃テープ106まで形成された中間体の外周に被覆層107を形成する。ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)を含むベースポリマ、添加剤などを含むペレット材(樹脂組成物)を、押出部に投入し、難燃テープ106の外周を押出被覆する。この後、電子線を照射し、被覆層107を架橋させる。以上により、本実施の形態のケーブルを製造することができる。
【0027】
被覆層107用の樹脂組成物について以下に説明する。被覆層107用の樹脂組成物は、ベースポリマ、難燃剤およびその他の添加剤を有する。
【0028】
(ベースポリマ)
被覆層107用の樹脂組成物は、ベースポリマとして、ポリオレフィンを含んでいる。このようなポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)が挙げられ、さらにベースポリマに用いることができる樹脂として、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、マレイン酸変性ポリオレフィン等が挙げられる。
【0029】
そして、被覆層107用の樹脂組成物は、ベースポリマとして、融点が90℃以上のポリエチレンを、ベースポリマ100質量%中60質量%以上有する。例えば、上記直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の融点は、118℃である。
【0030】
なお、被覆層107用の樹脂組成物としては、上記したベースポリマの説明で例示した1種類の樹脂を単独で用いてもよいし、2種類以上の樹脂を混合して用いてもよい。
【0031】
(難燃剤)
被覆層107用の樹脂組成物は、難燃剤を有している。難燃剤は、例えば、水酸化マグネシウムである。
【0032】
(その他の添加剤)
被覆層107用の樹脂組成物としては、上記した難燃剤の他、適宜、架橋剤、架橋助剤、充填剤、安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤等が添加されていてもよい。
【0033】
[実施例]
以下に、実施例を説明する。以下の実施例は一例であって、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
上記ケーブルの製造方法において説明した、導体が絶縁層、遮光層、編組シールド層、難燃テープ(中間層)で順次覆われた中間体を準備する。絶縁層は、架橋ポリエチレン(架橋PE)であり、発泡度は、約70%、誘電率は、約76.5である。遮光層は、PET/銅膜よりなるシート部材を用いた。編組シールド層は、Alの素線を編み込んだものを用いた。難燃テープ(中間層)は、ポリイミドフィルムを用いた。ポリイミドフィルムは、厚さ0.025mm、幅20mmのものを2枚重ねて、1/3~1/4ラップで巻きつけた。
【0035】
表1に示したシース配合にて、溶融混練し、混練材を得た。次に、押出機により、上記混練材をストランド状に押し出し、ペレタイザにより、ストランド状の押出材を切断し、樹脂組成物のペレット材を形成した。
【0036】
次に、上記樹脂組成物のペレット材を、押出機に投入し、上記中間体の外周に押出成型することにより、シース層を形成した。次に、ケーブル(シース層)に、表1に示す強度(照射量)で、電子線を照射し、シース層(ベースポリマ)を架橋した。このようにして、実施例1のケーブルを製造した。
【0037】
(比較例1)
比較例1では、表1に示したシース配合、照射量を用いる他は、実施例1と同様にケーブルを製造した。
【0038】
なお、表1において、ポリマ1~3は、ベースポリマであり、これらの合計質量部は、100質量部である。ベースポリマ以外の添加剤の量は、ベースポリマを100質量部とした場合の質量部である。
【0039】
【0040】
(評価)
実施例1、比較例1のケーブルに対して、以下の評価を行った。
【0041】
(電気特性)
ネットワークアナライザを用いて、ケーブルの伝送された信号の信号減衰量を求めた。5.8GHzの信号を伝送した場合において、信号減衰量が59.62dB/100m以下のものを○(合格)とし、59.62dB/100mを越えたものを×(不合格)とした。
【0042】
(伸び)
試験規格EN60811-1-1 9.2に準拠した試験を行った。具体的には、ケーブルのシース材を指定形状に打ち抜き、引張試験を行った。引張強度が規格に合格するものを○(合格)とし、合格しないものを×(不合格)とした。
【0043】
(難燃性)
実施例1、比較例1のケーブルに対して、以下の(1)、(2)の試験を行った。
【0044】
(1)一条燃焼試験
試験規格EN60332-1-2に準拠した試験を行った。具体的には、ケーブルを一条敷設し、バーナーを用いて燃焼し、炭化距離を測定した。
【0045】
(2)多条燃焼試験
試験規格EN60332-3-25に準拠した試験を行った。具体的には、ケーブルを、非金属量が規定値になるように、多条敷設し、バーナーを用いて燃焼し、炭化距離を測定した。
【0046】
上記(1)(2)の双方において、炭化距離が規格に合格するものを○(合格)とし、合格しないものを×(不合格)とした。
【0047】
(耐燃料性)
試験規格EN60811-2-1 10に準拠した試験を行った。具体的には、ケーブルのシース材を指定形状に打ち抜きテストピースを得た。次いで、テストピースを指定オイルに168時間浸漬した。浸漬前後のテストピースについて、引張試験を行った。浸漬前後のテストピースの引張強度の変化率を求めた。変化率が規格に合格するものを○(合格)とし、合格しないものを×(不合格)とした。
【0048】
(結果)
実施例1では、電気特性、伸び、難燃性、耐燃料性(耐油性)のいずれも○(合格)であった。これに対し、比較例1では、伸び、難燃性は、○(合格)であったが、耐燃料性(耐油性)が合格基準値より少し低かった(表1では、△(三角)で表示した)。そして、比較例1では、電気特性は、×(不合格)であった。
【0049】
以上の試験結果から、実施例1は総合判定において○(合格)となり、実施例1のケーブルは、伸び、耐燃料性、難燃性などのケーブルに要求される特性を維持し、かつ、電気特性の良好なケーブルであることが判明した。
【0050】
これに対し、比較例1は総合判定において×(不合格)となり、高周波信号伝送用のケーブルとしては不適であることが判明した。
【0051】
(考察)
シース材として、融点72℃のエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)に代えて直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いたところ、電子線の照射量の低下が可能となった。直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることで、シース層の強度が向上し、低照射(実施例1では2Mrad)でも、即ち、架橋度が低くても(実施例1では62.6%)、伸び、難燃性、耐燃料性(耐油性)を○(合格)とすることができた。
【0052】
また、電子線の照射量を低くすることで、シース層の内側、特に、絶縁層を構成する発泡層の劣化を抑制でき、電気特性を向上させることができた。即ち、電子線自体、また、電子線の照射による発熱により、発泡層中の発泡部が破壊され、発泡層の誘電率が低下する。また、絶縁層の変形により、高周波信号の伝送特性が劣化する。このような不具合を、電子線の照射量を低く抑えることで、解消し、電気特性を向上することができた。具体的には、前述したように、5.8GHzの信号を伝送した場合において、信号減衰量が59.62dB/100m以下の電気特性を有するケーブルを実現することができた。
【0053】
別の言い方をすれば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることで、融点72℃未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いた比較例1のように、架橋助剤(TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート)の添加量を多く、また、電子線の照射量を高く(比較例1では13Mrad)して架橋度を高く(比較例1では90.6%)し、難燃性、耐燃料性(耐油性)を確保する必要がなく、電子線の高照射量による弊害である電気特性の低下を回避することができた。
【0054】
本発明は、実施例1に限定されるものではない。実施例1においては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いたが、この他、融点が90℃以上となるような結晶性の高いポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)を用いることができる。このように、結晶性を高めることで、難燃性、耐燃料性(耐油性)を確保することができる。また、結晶性を高めることで、難燃剤の添加量を低く抑えることができる。また、結晶性を高めても、規格を満たす伸びを確保することができる。
【0055】
ここで、融点が90℃以上となるような結晶性の高いポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)の含有量としては、ベースポリマ100質量%中60質量%以上が好ましい。このように、結晶性の高いポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)の含有量を60質量%以上とすることで、シース層の強度を向上させつつ、電子線の照射量を低く抑えることができ、電気特性を向上させることができる。また、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)の含有量の上限としては、90質量%を超えると可撓性が低下してしまうため、90質量%以下が好ましい。
【0056】
このような電気特性等の良好なシース層を形成するための、電子線の照射量は、7Mrad以下、より好ましくは、5Mrad以下、さらに好ましくは、3Mrad以下である。また、融点が90℃以上のポリエチレンの架橋度としては、90%以下、より好ましくは、80%以下、さらに好ましくは、70%以下である。
【0057】
また、実施例1においては、シールド層104の外周(シールド層104とシース層107との間)に、難燃テープ106を設けたので、その内部の構成材、例えば、難燃剤を添加し難い絶縁層102などの難燃性を補強することができる。なお、シールド層104の内側(遮光層103とシールド層104との間)に、難燃テープ106を設けてもよい。難燃テープ106は、1/2~1/4ラップ(1/2~1/4の重なり)で巻き付けることができる。
【0058】
また、実施例1においては、絶縁層102の外周に、遮光層103を設けたので、絶縁層102に対する電子線自体、また、電子線の照射による発熱の影響を緩和することができ、絶縁層102の特性劣化を抑制することができる。但し、比較例1から明らかなように遮光層103のみでは、電子線の影響を回避することはできない。
【0059】
また、実施例1においては、絶縁層102を、発泡層102aと、その外側の充実層102bとの積層構造としたので、充実層102bにより発泡層102aを保護することができる。また、充実層102bにより電子線の照射による発熱の影響が発泡層102aに及び発泡部が破壊されることを抑制することができる。
【0060】
また、上記実施の形態および実施例で説明したケーブルは、例えば、鉄道車両内でのWiFi用ケーブルなど、電気特性(高周波特性)および伸び、耐燃料性、難燃性などの要求の高いケーブル(高周波信号伝送用同軸ケーブル)として用いることができる。特に、1MHz以上、3MHz以上、または、6MHz以上の高周波の信号伝送用のケーブルとして用いることができる。
【0061】
本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものでなく、その趣旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
100 高周波信号伝送用同軸ケーブル(ケーブル)
101 導体
102 絶縁層
102a 発泡層
102b 充実層
103 遮光層
103a 樹脂層
103b 金属層
104 シールド層
106 難燃テープ
107 被覆層(シース層)