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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20220815BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20220815BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D63/00 500
C02F1/44 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018192780
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020058988
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187908
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 康平
(72)【発明者】
【氏名】西川 健幸
(72)【発明者】
【氏名】三宅 孝治
(72)【発明者】
【氏名】竹下 俊光
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-226057(JP,A)
【文献】実開平03-043316(JP,U)
【文献】実開昭52-055949(JP,U)
【文献】実開昭48-087338(JP,U)
【文献】実開昭58-183201(JP,U)
【文献】特開2017-042764(JP,A)
【文献】特開昭61-240964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00- 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸膜と、前記複数の中空糸膜を束状に固定する固定部と、を含む中空糸膜エレメントと、
前記中空糸膜エレメントを挿抜するための開口部が形成され、原水及び濾過水の一方が充たされる第1充水空間が内部に形成されたハウジングと、
前記開口部を覆うように前記ハウジングに取り付けられ、原水及び濾過水の他方が充たされる第2充水空間が内部に形成されたキャップと、
前記第1充水空間と前記第2充水空間との間、前記第1充水空間と前記ハウジングの外部空間との間及び前記第2充水空間と前記外部空間との間をそれぞれ遮断するように、前記固定部、前記ハウジング及び前記キャップのそれぞれに接する位置に配置されたシール部材と、を備え
前記ハウジングは、前記シール部材に接すると共に前記開口部を規定するハウジング端縁を含み、
前記キャップは、前記シール部材に接すると共に前記ハウジング端縁と共に前記シール部材を挟むキャップ端縁を含み、
前記ハウジング端縁及び前記キャップ端縁を取り囲む円環形状を有するバンド部材からなり、前記ハウジング端縁及び前記キャップ端縁を挟む固定具をさらに備え、
前記ハウジング端縁及び前記キャップ端縁はそれぞれ、外端ほど互いに近づく傾斜状であり、
前記ハウジング端縁及び前記キャップ端縁は、前記固定具による押圧によって互いに近づく方向に姿勢を変えることによって前記シール部材を前記固定部に押し付けながら前記シール部材に密着することを特徴とする、中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記シール部材は、前記固定部、前記ハウジング及び前記キャップのそれぞれに接する単一の部材により構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記固定部の外周面には、前記シール部材を配置するためのシール溝が形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記シール部材は、前記固定部に接する平面状のエレメントシール部と、前記ハウジングに接する曲面状のハウジングシール部と、前記キャップに接する曲面状のキャップシール部と、を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記シール部材の厚みは、前記ハウジングと前記キャップとの間の隙間よりも大きいことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールを用いた膜濾過は、多数の細孔が形成された多孔質な濾過膜の内外に圧力差を生じさせることにより、細孔よりも大きな物質(イオンから粒子まで幅広い物質)を原水から分離する技術である。この技術は、分離対象物質の相変化や化学変化を伴わないため、他の分離法に比べて高効率且つ省エネルギーという観点から有望視されている。
【0003】
水処理の濾過工程では、まず、原水入口を通じて原水(被濾過水)が中空糸膜モジュール内に供給される。そして、中空糸膜を通過した濾過水が、濾過水出口を通じて中空糸膜モジュールの外部に排出される。ここで、中空糸膜モジュールにおいては、濾過水に対する原水の混入を防ぐために原水空間と濾過水空間とを液密に分画することが求められ、また中空糸膜モジュールの外部への原水及び濾過水の漏れを防ぐために、原水空間と中空糸膜モジュールの外部空間との間及び濾過水空間と当該外部空間との間を液密に分画することが求められる。
【0004】
特許文献1に記載されたカートリッジ型中空糸膜モジュールは、中空糸膜エレメントと、当該中空糸膜エレメントを収容するモジュールケース本体部と、当該モジュールケース本体部の上部及び下部に取り付けられたヘッダーと、を備えている。この中空糸膜モジュールでは、モジュールケース本体部と上ヘッダーとの間、中空糸膜エレメントと上ヘッダーとの間、及び中空糸膜エレメントとモジュールケース本体部との間のそれぞれにシール部材が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/136903号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された中空糸膜モジュールでは、三つのシール部材がそれぞれ別の箇所に配置されており、それぞれの箇所(モジュールケース本体部と上ヘッダーとの間、中空糸膜エレメントと上ヘッダーとの間、及び中空糸膜エレメントとモジュールケース本体部との間)に応じたシール機能が得られるように各シール部材を設計する必要がある。このため、中空糸膜モジュールにおけるシール設計が複雑化するという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、シール設計を簡易化すると共に、濾過水への原水の混入を防ぐと共に濾過水及び原水のモジュール外への漏れを防ぐことが可能な中空糸膜モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の一局面に係る中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜と、前記複数の中空糸膜を束状に固定する固定部と、を含む中空糸膜エレメントと、前記中空糸膜エレメントを挿抜するための開口部が形成され、原水及び濾過水の一方が充たされる第1充水空間が内部に形成されたハウジングと、前記開口部を覆うように前記ハウジングに取り付けられ、原水及び濾過水の他方が充たされる第2充水空間が内部に形成
されたキャップと、前記第1充水空間と前記第2充水空間との間、前記第1充水空間と前記ハウジングの外部空間との間及び前記第2充水空間と前記外部空間との間をそれぞれ遮断するように、前記固定部、前記ハウジング及び前記キャップのそれぞれに接する位置に配置されたシール部材と、を備え、前記ハウジングは、前記シール部材に接すると共に前記開口部を規定するハウジング端縁を含み、前記キャップは、前記シール部材に接すると共に前記ハウジング端縁と共に前記シール部材を挟むキャップ端縁を含み、前記ハウジング端縁及び前記キャップ端縁を取り囲む円環形状を有するバンド部材からなり、前記ハウジング端縁及び前記キャップ端縁を挟む固定具をさらに備え、前記ハウジング端縁及び前記キャップ端縁はそれぞれ、外端ほど互いに近づく傾斜状であり、前記ハウジング端縁及び前記キャップ端縁は、前記固定具による押圧によって互いに近づく方向に姿勢を変えることによって前記シール部材を前記固定部に押し付けながら前記シール部材に密着する。
【0009】
この中空糸膜モジュールでは、第1充水空間と第2充水空間との間、第1充水空間と外部空間との間、及び第2充水空間と外部空間との間が、シール部材によりそれぞれ遮断されている。これにより、第1充水空間と第2充水空間との間の水の流通(濾過水と原水との混水)を防ぐと共に、第1充水空間及び第2充水空間から外部空間への水の流通(濾過水及び原水の漏れ)を防ぐことができる。しかも、当該シール部材が、中空糸膜エレメントの固定部、ハウジング及びキャップのそれぞれに接する位置に配置されているため、混水防止及び水漏れ防止の両機能を一つのシール部材に持たせることができる。このため、従来の中空糸膜モジュールに比べてシール設計を簡易化することが可能になる。また、押し縮められたシール部材の反力により、ハウジング及びキャップに対するシール部材の密着性を高めることができる。しかも、シール部材がハウジング内に入り込む場合と異なり、カートリッジ型の中空糸膜エレメントをシール部材と共にハウジングから容易に引き抜くことができる。これにより、中空糸膜エレメントの交換時の取扱い性が向上する。
【0010】
上記中空糸膜モジュールにおいて、前記シール部材は、前記固定部、前記ハウジング及び前記キャップのそれぞれに接する単一の部材により構成されていてもよい。
【0011】
この構成によれば、シール部品の数を少なくすることができるため、中空糸膜モジュールをより簡素化することができる。
【0012】
上記中空糸膜モジュールにおいて、前記固定部の外周面には、前記シール部材を配置するためのシール溝が形成されていてもよい。
【0014】
上記中空糸膜モジュールにおいて、前記シール部材は、前記固定部に接する平面状のエレメントシール部と、前記ハウジングに接する曲面状のハウジングシール部と、前記キャップに接する曲面状のキャップシール部と、を含んでいてもよい。
【0015】
この構成によれば、シール部材を、固定部、ハウジング及びキャップのそれぞれに対して容易に密着させることができる。
【0016】
上記中空糸膜モジュールにおいて、前記シール部材の厚みは、前記ハウジングと前記キャップとの間の隙間よりも大きくてもよい。
【0017】
この構成によれば、原水及び濾過水がハウジングとキャップとの間の隙間からモジュール外へ漏れるのをより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、シール設計を簡易化すると共に、濾過水への原水の混入を防ぐと共に濾過水及び原水のモジュール外への漏れを防ぐことが可能な中空糸膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態1に係る中空糸膜モジュールの構成を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の実施形態1に係る中空糸膜モジュールの上部拡大断面図である。
図3図1中の矢印IIIに示す方向から見た中空糸膜エレメントの平面図である。
図4図2中の線分IV-IVに沿った中空糸膜エレメントの固定部の断面図である。
図5】本発明の実施形態1に係る中空糸膜モジュールにおけるシール部材の平面図である。
図6図5中の線分VI-VIに沿ったシール部材の断面図である。
図7】本発明の実施形態2に係る中空糸膜モジュールの構成を模式的に示す断面図である。
図8】本発明のその他実施形態におけるシール部材の断面図である。
図9】本発明のその他実施形態におけるシール部材の断面図である。
図10】本発明のその他実施形態におけるシール部材の断面図である。
図11】本発明のその他実施形態における中空糸膜モジュールの上部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る中空糸膜モジュールについて詳細に説明する。
【0021】
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1に係る中空糸膜モジュール10の構成について説明する。図1は、中空糸膜モジュール10の全体構成を模式的に示している。図2は、中空糸膜モジュール10の上部拡大断面図である。
【0022】
本実施形態に係る中空糸膜モジュール10は、外圧濾過式のモジュールであり、原水RWを中空糸膜11の外面から内面に向かって透過させ、当該中空糸膜11の中空部から濾過水FWを取り出すように構成されている。外圧濾過式の中空糸膜モジュール10は、内圧濾過式のものに比べて一次側の流路が広く、中空糸膜11の間に濁質が堆積しにくいという利点がある。
【0023】
図1及び図2に示すように、中空糸膜モジュール10は、複数の中空糸膜11と当該複数の中空糸膜11を束状に固定する固定部12とを含む中空糸膜エレメント1と、中空糸膜エレメント1を挿抜するための開口部2Aが形成されたハウジング2と、当該開口部2Aを覆うようにハウジング2に取り付けられたキャップ3と、固定部12、ハウジング2及びキャップ3のそれぞれに接する位置に配置されたシール部材4と、を主に備えている。以下、中空糸膜モジュール10の各構成要素について説明する。
【0024】
[中空糸膜エレメント]
図1に示すように、複数の中空糸膜11の各々は、上端11B及び下端11Aを有しており、上端11Bが開口した状態で固定部12により固定されると共に、下端11Aが封止されている。固定部12は、複数の中空糸膜11の上端11Bを収束固定している。
【0025】
図3は、図1中の矢印IIIに示す方向から見た固定部12の平面図である。図3に示すように、固定部12は、中空糸膜11の上端を接着固定する円筒形状の接着樹脂部12Bと、当該接着樹脂部12Bを取り囲むと共にその外周面に接着固定され、当該接着樹脂部12Bを支持する中空円筒形状の支持部12Aと、により構成されている。複数の中空糸膜11は中空糸膜束13を構成しており、図3に示すように、中空糸膜束13がモジュールの中心軸P1の周りにおいて周方向に並んでいる。
【0026】
図4は、図3中の線分IV-IVに沿った固定部12の断面図である。図4に示すように、支持部12Aの外周面には、シール部材4(図2)を配置するためのシール溝12A1が形成されている。シール溝12A1は、径方向内側に凹むと共に、支持部12Aの外周面に沿って環状に形成されている。
【0027】
また支持部12Aの外周面には、バックアップ用のシール部材(図示しない)を配置するためのバックアップ溝12A2が、シール溝12A1と軸方向に並んで当該シール溝12A1よりもキャップ3(図2)側に形成されている。なお、バックアップ溝12A2及び当該バックアップ溝12A2に配置されるバックアップ用のシール部材は、本発明の中空糸膜モジュールにおいて必須ではなく、省略されてもよい。
【0028】
支持部12Aの材質としては、例えばポリ塩化ビニルなどが挙げられる。また接着樹脂部12Bの材質としては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
図1に示すように、複数の中空糸膜11は、長さが略同一となるように切り揃えられている。中空糸膜エレメント1は、複数(例えば数十から数万本)の中空糸膜11を束ねると共に、これらを固定部12によって固定することにより構成されている。
【0030】
図2に示すように、各中空糸膜11の上端11Bは、固定部12の一方の端面12B1(キャップ3側を向く端面)と面一になっており、キャップ3内の空間(後述する濾過水空間3A)側に開口している。これにより、各中空糸膜11の中空部が濾過水空間3Aと連通している。
【0031】
図1に示すように、本実施形態における中空糸膜エレメント1は、各中空糸膜11の下端11Aが一本ずつ固定されていない状態で封止された片端フリータイプとなっているが、これに限定されない。例えば、中空糸膜エレメントは、各中空糸膜11の下端11Aを固定する他の固定部(図示しない)を有する両端固定タイプとなっていてもよい。また中空糸膜11の下端11Aが閉塞封止される場合にも限定されず、例えば中空糸膜11を長さ方向の中間部においてU字状に折り返し、両端が濾過水空間3Aに開口するように固定部12により固定されてもよい。
【0032】
中空糸膜11は、多孔質の膜である。中空糸膜11の材質としては、種々のものを用いることが可能であり、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール及びポリエーテルスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種類を含んでいることが好ましく、膜強度や耐薬品性の観点からポリフッ化ビニリデン(Poly Vinylidene DiFluoride;PVDF)を含むことがより好ましい。また中空糸膜11の内外径は特に限定されるものではなく、種々の内外径、断面構造のものを使用することができる。さらに、中空糸膜11の表面に、同種又は異種材料からなるコーティング層が形成されてもよい。
【0033】
中空糸膜11は、親水化されていることが好ましい。本実施形態における中空糸膜11は、0.1重量%以上10重量%以下の親水性樹脂を含有することにより、親水化されている。親水性樹脂としては、例えばポリビニルピロリドン、セルロースエステル、エチレン-ビニルアルコール又はポリビニルアルコールなどの樹脂を用いることができるが、親水性が高いという観点からポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0034】
[ハウジング]
ハウジング2は、上下方向に長い形状を有する容器であり、中空糸膜エレメント1を挿抜するための開口部2A(図2)が上部に形成されている。ハウジング2の内部には、原水RW及び濾過水FWの一方が充たされる第1充水空間2Bが形成されている。本実施形態における第1充水空間2Bは、原水RW(中空糸膜11により濾過される前の水)が充たされる原水空間2Bである。原水空間2Bは、ハウジング2の底面と、ハウジング2の内側面と、固定部12の下面と、により取り囲まれている。ハウジング2の材質としては、例えばSUS、変性PPE(Poly Phenylene Ether)、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリオレフィン又はABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂などを用いることができるが、特に限定されない。
【0035】
図1に示すように、ハウジング2には、原水空間2Bに原水RWを導入するための原水入口6と、原水空間2Bから余剰の原水RWを排出するための原水抜き口22と、中空糸膜11の洗浄用エアを原水空間2Bに導入するためのエア入口8と、エア洗浄後に原水空間2Bから排水するための排水口9と、がそれぞれ設けられている。原水入口6は、原水空間2Bに連通しており、ハウジング2の下部に設けられている。図略の送液ポンプにより送られた原水RWが、原水入口6を通じて原水空間2B内に導入される。
【0036】
原水抜き口22は、原水空間2Bに連通しており、ハウジング2の長さ方向の中央部よりも上側の側部に設けられている。中空糸膜11により濾過されなかった原水RWは、原水抜き口22からハウジング2の外部に排出される。また中空糸膜11により濾過されなかった原水RWは、ハウジング2の外部に排出された後に排水口に連通してそのまま排出されてもよいし、図略の原水槽に戻されてもよい。つまり、本実施形態における中空糸膜モジュール10は、全量濾過式の構成としてもよいし、循環濾過式の構成としてもよい。
【0037】
エア入口8は、原水入口6と同様に、ハウジング2の下部に設けられている。エア入口8は、配管などを介して図略のエア供給源(エアーコンプレッサ)に接続されている。エア入口8からハウジング2内に導入された空気は、図略の散気盤により分散し、気泡となって中空糸膜11の下端11Aから固定部12に向かって上昇する。このバブリング作用により、一定期間の濾過運転中に中空糸膜11の表面(外面)に付着した不純物を除去し、中空糸膜11を洗浄することができる。
【0038】
排水口9は、原水入口6及びエア入口8と同様に、ハウジング2の下部に設けられている。上述のようにして中空糸膜11の表面をバブリング洗浄した後、不純物を含む原水RWを排水口9からハウジング2の外部に排出することができる。
【0039】
図1に示すように、ハウジング2は、中空糸膜11を収容する円筒形状の本体筒部2Cと、本体筒部2Cの下部に取り付けられた下筒部2D(原水入口6、エア入口8及び排水口9が設けられた部分)と、を含む。本体筒部2Cと下筒部2Dとは、一体形成されていてもよいし、着脱可能となっていてもよい。
【0040】
図2に示すように、ハウジング2は、開口部2Aを規定するハウジング端縁21を有している。ハウジング端縁21は、シール部材4における一方の(下側の)外周角部に接しており、径方向外側に広がると共に周方向全体に亘って形成されている。ハウジング端縁21の近傍には、ハウジング2の内径が変化する段差部2Cが設けられており、中空糸膜エレメント1の固定部12が当該段差部2Cに係止されている。
【0041】
図2に示すように、中空糸膜エレメント1がハウジング2内に挿入された状態において、固定部12の一方の端面12B1は、ハウジング端縁21よりもキャップ3側に位置している。つまり、固定部12は、下部がハウジング2内に収容されると共に、上部が開口部2Aからキャップ3側(上側)に突き出た状態となっている。また図2に示すように、固定部12(支持部12A)の外周面とハウジング2の内面との間には、隙間が形成されている。
【0042】
[キャップ]
図2に示すように、キャップ3は、ハウジング2の開口部2Aを覆うように被せられており、固定部12の上部がキャップ3内に収容されている。キャップ3は、ハウジング2と略同じ内径を有しており、原水RW及び濾過水FWの他方が充たされる第2充水空間3Aが内部に形成されている。本実施形態における第2充水空間3Aは、濾過水FWが充たされる濾過水空間である。濾過水空間3Aは、キャップ3の内周面と固定部12の端面12B1(図2)とにより取り囲まれている。図2に示すように、固定部12(支持部12A)の外周面とキャップ3の内面との間には、隙間が形成されている。
【0043】
キャップ3は、ハウジング端縁21に対して間隔を空けて対向するキャップ端縁31を有している。図2に示すように、キャップ端縁31は、シール部材4における他方の(上側の)外周角部に接しており、径方向外側に広がると共に周方向全体に亘って形成されている。シール部材4は、ハウジング端縁21とキャップ端縁31とにより挟まれており、ハウジング端縁21及びキャップ端縁31のそれぞれに対して密着している。この構成によれば、キャップ3を取り外すだけで中空糸膜エレメント1をシール部材4と共にハウジング2から引き抜くことが可能となり、中空糸膜エレメント1の交換作業を簡単に行うことができる。
【0044】
キャップ3の上部には、濾過水FWをハウジング2の外部に取り出すための濾過水口7が設けられている。濾過水FWは、中空糸膜11の中空部から上端11Bの開口を通じて濾過水空間3Aに流入し、その後、濾過水口7を通じてハウジング2の外部に取り出される。
【0045】
[シール部材]
シール部材4は、原水空間2Bと濾過水空間3Aとの間、原水空間2Bとハウジング2の外部空間10Aとの間及び濾過水空間3Aと外部空間10Aとの間をそれぞれ遮断するように、固定部12、ハウジング2及びキャップ3のそれぞれに接する位置に配置されている。換言すると、シール部材4は、原水空間2Bと濾過水空間3Aとの間の流路、原水空間2Bと外部空間10Aとの間の流路及び濾過水空間3Aと外部空間10Aとの間の流路のそれぞれの途中に位置している。
【0046】
具体的には、図2に示すように、シール部材4は、固定部12(支持部12A)に接する平面状のエレメントシール部41と、ハウジング2に接する曲面状のハウジングシール部42と、キャップ3に接する曲面状のキャップシール部43と、を含む。エレメントシール部41は、シール溝12A1の底面に接触(密着)しており、原水空間2Bと濾過水空間3Aとの間における水の流れを遮断する。ハウジングシール部42は、ハウジング端縁21に接触(密着)しており、原水空間2Bから外部空間10Aへの水の流れを遮断する。キャップシール部43は、キャップ端縁31に接触(密着)しており、濾過水空間3Aから外部空間10Aへの水の流れを遮断する。シール部材4は、その外周面が固定部12(支持部12A)の外周面よりも径方向外側に位置するように、シール溝12A1に嵌め込まれている。
【0047】
図5は、シール部材4の平面図である。図6は、図5中の線分VI-VIに沿ったシール部材4の厚み方向の断面図である。図5に示すように、本実施形態におけるシール部材4は、円環形状を有する単一の部材により構成されている。シール部材4の内径D1は、シール溝12A1における固定部12の外径D2(図2)と同じ又は当該外径D2よりも僅かに小さくなっている。
【0048】
図6に示すように、シール部材4は、内周面(エレメントシール部41)と、外周面47と、内周面と外周面47とを接続する一対の端面45,46と、を含む。外周面47は、曲面状に面取りされたハウジングシール部42及びキャップシール部43と、当該ハウジングシール部42とキャップシール部43とを接続する外周平面44と、を含む。
【0049】
図2に示すように、シール部材4の厚みT1は、ハウジング2とキャップ3との間の隙間G1(ハウジング端縁21とキャップ端縁31との間の隙間)よりも大きくなっている。シール部材4は、外周平面44がハウジング2とキャップ3との間の隙間G1に臨むように配置されている。
【0050】
シール部材4は、例えばゴム、エラストマー又は樹脂等の弾性体により構成されている。具体的には、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム及びウレタンゴムからなる群より選択される少なくとも一種を、シール部材4の材料として用いることができる。
【0051】
[固定具]
中空糸膜モジュール10は、シール部材4を押し縮めるようにハウジング端縁21及びキャップ端縁31を挟む固定具5をさらに備えている(図2)。固定具5は、ハウジング2とキャップ3との接続部を取り囲む円環形状を有するバンド部材であり、ハウジング端縁21とキャップ端縁31とを互いに近づける方向(上下方向)に挟持する。これにより、シール部材4が押し縮められ、その反力により当該シール部材4をハウジング端縁21及びキャップ端縁31に対して密着させることが可能となる。これにより、ハウジング2の外部への原水RW及び濾過水FWの漏れを防ぐことができる。本実施形態における固定具5は、単一の部材により構成されているがこれに限定されず、複数の部材により構成されていてもよい。また固定具5は、バンド式のものに限定されず、例えば複数のボルトやナットなどにより固定するものでもよい。
【0052】
固定具5の材質としては、例えばSUS、変性PPE、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリオレフィン又はABS樹脂などを用いることができる。また固定具5は、ハウジング2と同じ材質のものであることが好ましいが、これに限定されない。
【0053】
また中空糸膜モジュール10は、原水空間2B内において上下方向に延びると共に上端が固定部12に固定された導水管(図示しない)をさらに備えていてもよい。この場合、原水入口6から導水管内に原水RWが導入され、当該導水管の壁部に形成された通水孔を通じて原水空間2Bに原水RWが導入される。しかし、当該導水管は、本発明の中空糸膜モジュールにおいて必須の構成要素ではなく、省略されてもよい。
【0054】
上記構成を備えた本実施形態に係る中空糸膜モジュール10は、以下のようにして使用される。まず、図略の送液ポンプを作動させ、原水入口6からハウジング2の第1充水空間2Bに原水RWを導入する。原水RWは、中空糸膜11の外面から内面に向かって膜壁を透過する。これにより、中空糸膜11の細孔よりも大きな不純物が原水RWから取り除かれ、中空糸膜11の中空部から清浄な濾過水FWを取り出すことができる。濾過水FWは、中空糸膜11の中空部からキャップ3の第2充水空間3Aに流出した後、濾過水口7を通じてモジュールの外部に取り出される。
【0055】
以上の通り、本実施形態に係る中空糸膜モジュール10によれば、原水空間2Bと濾過水空間10Aとの間、原水空間2Bと外部空間10Aとの間、及び濾過水空間3Aと外部空間10Aとの間を、シール部材4によりそれぞれ遮断することができる。これにより、原水RWと濾過水FWとの混水を防ぐと共に、原水RW及び濾過水FWがハウジング2の外部に漏れるのを防ぐことができる。しかも、単一の部材であるシール部材4を、中空糸膜エレメント1の固定部12、ハウジング2及びキャップ3のそれぞれに接する位置に配置することにより、混水防止機能と水漏れ防止機能の両方を単一のシール部材4に持たせることができる。これにより、混水防止機能及び水漏れ防止機能のそれぞれを担うシール部材が別々に配置される場合に比べて、中空糸膜モジュールにおけるシール設計を簡素化することができると共に、シール部品の数を減らすことが可能になる。
【0056】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る中空糸膜モジュール100について、図7を参照して説明する。実施形態2に係る中空糸膜モジュール100は、基本的に実施形態1に係る中空糸膜モジュール10と同様の構成を備え且つ同様の効果を奏するものであるが、内圧濾過式の中空糸膜モジュールである点で異なっている。以下、実施形態1に係る中空糸膜モジュール10と異なる点についてのみ説明する。
【0057】
図7に示すように、実施形態2に係る中空糸膜モジュール100では、ハウジング2内の空間が、分離部24により第1充水空間2Bとその下側の原水入口空間2Eとに液密に分画されている。各中空糸膜11は、分離部24を貫通すると共に、下端11Aが原水入口空間2Eに開口している。原水入口空間2Eは、原水入口6に連通している。
【0058】
ハウジング2の側部には、濾過水FWをモジュールの外部に取り出すための濾過水口23が設けられている。濾過水口23は、第1充水空間2Bに連通している。またキャップ3の上部には、中空糸膜11により濾過されなかった余剰の原水RWをモジュールの外部に排出するための原水抜き口25が設けられている。
【0059】
この中空糸膜モジュール100では、原水入口6から原水入口空間2Eに原水RWが導入され、当該原水RWが中空糸膜11の下端11Aの開口から中空部内に導入される。そして、原水RWが中空糸膜11の内面から外面に向かって透過することにより濾過され、その後、濾過水口23からハウジング2の外部へ濾過水FWとして取り出される。また中空糸膜11の上端11Bまで流れた原水RWは、キャップ3の第2充水空間3Aに導入された後、原水抜き口25を通じてモジュールの外部に排出される。つまり、実施形態2に係る中空糸膜モジュール100においては、ハウジング2の第1充水空間2Bは濾過水FWが充たされる濾過水空間となっており、一方でキャップ3の第2充水空間3Aは原水RWが充たされる原水空間となっている。
【0060】
このような内圧濾過式の中空糸膜モジュール100においても、シール部材4を固定部12、ハウジング2及びキャップ3のそれぞれに接する位置に配置することにより、実施形態1における外圧濾過式の中空糸膜モジュール10の場合と同様に、原水RWと濾過水FWとの混水を防ぐと共に、原水RW及び濾過水FWが中空糸膜モジュール100の外部へ漏れるのを防ぐことができる。特に内圧濾過式の中空糸膜モジュール100では、外圧濾過式の中空糸膜モジュール10に比べて一次側の流路が狭いため、クロスフローの流量を少なくすることができるという利点もある。なお、モジュールの濾過方式は、濁質濃度などの原水RWの状態に応じて選択可能であり、特に限定されない。
【0061】
(その他実施形態)
ここで、本発明のその他実施形態に係る中空糸膜モジュールについて説明する。
【0062】
シール部材4の形状は、上記実施形態1において説明した形状(図6)に限定されず、例えば図8図10に示すような種々の形状であってもよい。図8に示すシール部材4Aは、厚さ方向の断面が円形状となっている。図9に示すシール部材4Bは、厚さ方向の断面がリングの径方向に長い楕円形状となっている。すなわち、図8及び図9のシール部材4A,4Bのように、外縁が全て曲線状に形成されたシール部材が用いられてもよい。また図10に示すシール部材4Cは、厚さ方向の断面が矩形状となっており、外縁が全て直線状となっている。
【0063】
シール部材4は、上記実施形態1,2のように単一の部材により構成される場合に限定されない。図11に示すシール部材4Dのように、キャップ端縁31に接する(密着する)キャップ側シール片71と、ハウジング端縁21に接する(密着する)ハウジング側シール片72と、によりシール部材が構成されていてもよい。図11に示すように、キャップ側シール片71とハウジング側シール片72とは、互いに接するようにシール溝12A1内に配置される。
【0064】
上記実施形態1では、シール部材4の厚みT1がハウジング2とキャップ3との間の隙間G1よりも大きい場合について説明したが、これに限定されない。シール部材4の厚みT1は、隙間G1と同じであってもよい。
【0065】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 中空糸膜エレメント
2 ハウジング
2A 開口部
2B 第1充水空間
3 キャップ
3A 第2充水空間
4,4A,4B,4C,4D シール部材
5 固定具
10,100 中空糸膜モジュール
11 中空糸膜
12 固定部
21 ハウジング端縁
31 キャップ端縁
T1 厚み
G1 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11