(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】チップ、混合装置及び混合方法
(51)【国際特許分類】
B01F 35/71 20220101AFI20220815BHJP
B01F 35/75 20220101ALI20220815BHJP
B01F 25/40 20220101ALI20220815BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20220815BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
B01F35/71
B01F35/75
B01F25/40
B01J19/00 321
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2020509597
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2018040587
(87)【国際公開番号】W WO2019187294
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2018066536
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】石井 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄喜
(72)【発明者】
【氏名】大内 彩
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-250830(JP,A)
【文献】特開2008-062232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0092409(US,A1)
【文献】国際公開第2016/136551(WO,A1)
【文献】特開2007-278502(JP,A)
【文献】国際公開第2013/153912(WO,A1)
【文献】特開2001-165939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00-25/90、35/00-35/95
F16K 17/38
G01N 35/08、37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップと、
加熱部と、
移動機構と、
を備え、
前記チップは、
流体が収容される第一収容部と、
前記流体と混合される混合対象が収容される第二収容部と、
前記第一収容部と前記第二収容部とを連通する第一流路と、
前記第一流路に設けられ、加熱により形状が変化して前記第一流路を開放可能な第一弁と、
前記流体と混合された混合対象と該流体とを前記第二収容部からチップ外部へ流出させる第二流路と、
前記第二流路に設けられ、加熱により形状が変化して前記第二流路を開放可能な第二弁と、
を有し、前記第一流路及び前記第二流路は、底面が平面とされた断面半円形状に形成され、
前記加熱部は、
前記第一弁及び前記第二弁を加熱することにより、前記第一弁及び前記第二弁を軟化させて扁平な状態にし、
前記移動機構は、
前記第一収容部に収容された流体を前記第二収容部へ移動させ、前記流体が移動する方向の下流側へ向けて下り勾配となるように前記チップを支持する支持体である
混合装置。
【請求項2】
前記第一流路及び前記第二流路が形成され、光を透過可能な形成部材、を備え、
前記第一弁及び前記第二弁は、前記形成部材を透過した光を吸収することで加熱される
請求項1に記載の
混合装置。
【請求項3】
前記第一弁及び前記第一弁の周辺部の少なくとも一方と、前記第二弁及び前記第二弁の周辺部の少なくとも一方とは、光を吸収する色材を有している
請求項2に記載の
混合装置。
【請求項4】
前記第一弁及び前記第二弁は、熱可塑性物質である
請求項1~3のいずれか1項に記載の
混合装置。
【請求項5】
前記第一弁及び前記第二弁は、前記流体に含まれる検体が熱変性する温度未満の融点を有している
請求項4に記載の
混合装置。
【請求項6】
前記第一弁及び前記第二弁の形状の変化は、不可逆である
請求項1~5のいずれか1項に記載の
混合装置。
【請求項7】
前記加熱部は、前記第一弁及び前記第二弁へ光を照射する照射部である
請求項1~6のいずれか1項に記載の混合装置。
【請求項8】
流体が収容される第一収容部と、
前記流体と混合される混合対象が収容される第二収容部と、
前記第一収容部と前記第二収容部とを連通する第一流路と、
前記第一流路に設けられ、加熱により形状が変化して前記第一流路を開放可能な第一弁と、
前記流体と混合された混合対象と該流体とを前記第二収容部からチップ外部へ流出させる第二流路と、
前記第二流路に設けられ、加熱により形状が変化して前記第二流路を開放可能な第二弁と、
を備えるチップであって、
前記第一流路及び前記第二流路は、底面が平面とされた断面半円形状に形成され、
前記流体が移動する方向の下流側へ向けて下り勾配となるように支持された前記チップ
に対して用いられる混合方法であって、
前記第一収容部と前記第二収容部とを連通する前記第一流路に設けられた前記第一弁を加熱し、該第一弁を軟化させることで扁平な状態にして前記第一流路を開放する第一工程と、
前記第一収容部に収容された流体を、混合対象が収容された前記第二収容部へ移動させる第二工程と、
前記第二収容部と前記チップの外側と連通する第二流路に設けられた第二弁を加熱し、該第二弁を軟化させることで扁平な状態にして前記第二流路を開放する第三工程と、
前記流体と混合された混合対象と該流体とを前記第二収容部から前記チップの外側へ前記第二流路を通じて流出させる第四工程と、
を有する混合方法。
【請求項9】
前記第一工程では、前記第一弁へ光を照射することで前記第一弁を加熱し、該第一弁を軟化させることで扁平な状態にして前記第一流路を開放し、
前記第三工程では、前記第二弁へ光を照射することで前記第二弁を加熱し、該第二弁を軟化させることで扁平な状態にして前記第二流路を開放する
請求項8に記載の混合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、チップ、混合装置及び混合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004-317325号公報には、加熱により流体をゲル化して分岐流路を閉じることで、流体をバルブとして機能させる構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特開2004-317325号公報の構成では、流路を閉じるバルブとして流体を機能させているため、閉じられた流路を加熱により開放して流体と混合対象とを混合することができなかった。
【0004】
本開示の技術は、上記事実を考慮し、閉じられた流路を加熱により開放して流体と混合対象とを混合させることができる、チップ、混合装置及び混合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様に係るチップは、流体が収容される第一収容部と、流体と混合される混合対象が収容される第二収容部と、第一収容部と第二収容部とを連通する流路と、流路に設けられ、加熱により形状が変化して流路を開放可能な弁と、を備える。
【0006】
第1態様に係るチップによれば、流体が第一収容部に収容される。流体と混合される混合対象は、第二収容部に収容される。第一収容部と第二収容部とを連通する流路には、弁が設けられている。この弁は、加熱により形状が変化して流路を開放する。これにより、閉じられた流路を加熱により開放して流体と混合対象とを混合させることができる
【0007】
第2態様に係るチップとしては、流路が形成され、光を透過可能な形成部材、を備え、弁が、形成部材を透過した光を吸収することで加熱されてもよい。
【0008】
第2態様に係るチップによれば、形成部材を介して弁へ光を照射することで、流路を開放できる。
【0009】
第3態様に係るチップとしては、弁及び弁の周辺部の少なくとも一方が、光を吸収する色材を有していてもよい。
【0010】
第3態様に係るチップによれば、弁及び弁の周辺部の少なくとも一方が、色材によって光を吸収するので、光の照射を開始してから短時間で弁を加熱することができる。この結果、光の照射を開始してから短時間で流路を開放できる。
【0011】
第4態様に係るチップとしては、弁が、熱可塑性物質であってもよい。
【0012】
第4態様に係るチップによれば、弁を軟化させて扁平な状態にすることで流路を開放できるので、例えば弁を収縮させて流路を開放させる場合に比べ、流路を広く開放できる。
【0013】
第5態様に係るチップとしては、弁が、流体に含まれる検体が熱変性する温度未満の融点を有していてもよい。
【0014】
第5態様に係るチップによれば、検体を熱変性させずに、流路を開放できる。
【0015】
第6態様に係るチップとしては、弁の形状の変化が、不可逆であってもよい。
【0016】
第6態様に係るチップによれば、不用意に流路が閉じることを抑制できる。
【0017】
第7態様に係る混合装置は、第1~第6態様のいずれかのチップと、弁を加熱する加熱部と、を備える。
【0018】
第7態様に係る混合装置によれば、加熱部が弁を加熱することで流路を開放して流体と混合対象とを混合させることができる。
【0019】
第8態様に係る混合装置としては、加熱部が、弁へ光を照射する照射部であってもよい。
【0020】
第8態様に係る混合装置によれば、チップに対して非接触で弁を加熱できる。
【0021】
第9態様に係る混合装置としては、第一収容部に収容された流体を第二収容部へ移動させる移動機構を備えていてもよい。
【0022】
第9態様に係る混合装置によれば、流体を混合対象と第二収容部で混合させることができる。
【0023】
第10態様に係る混合方法は、第一収容部と第二収容部とを連通する流路に設けられた弁を加熱し、弁の形状を変化させて流路を開放する第一工程と、第一収容部に収容された流体を、混合対象が収容された第二収容部へ移動させる第二工程と、を有する。
【0024】
第10態様に係る混合方法によれば、弁を加熱することで流路を開放して、流体を混合対象と第二収容部で混合させることができる。
【0025】
第11態様に係る混合方法としては、第一工程において、弁へ光を照射することで弁を加熱し、弁の形状を変化させて流路を開放してもよい。
【0026】
第11態様に係る混合方法によれば、チップに対して非接触で弁を加熱できる。
【発明の効果】
【0027】
本開示の技術によれば、閉じられた流路を加熱により開放して流体と混合対象とを混合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施形態に係る混合装置の概略構成を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係るチップの概略構成を示す分解斜視図である。
【
図3】本実施形態に係るチップの概略構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0030】
(混合装置10)
本実施形態に係る混合装置10について説明する。
図1は、混合装置10の概略構成を示す断面図である。なお、
図1に示されるチップ12は、
図3に示される1-1線で切断されたチップ12である。
【0031】
図1に示される混合装置10は、流体と混合対象とを混合する装置である。具体的には、混合装置10は、
図1に示されるように、チップ12と、照射部60(加熱部の一例)と、移動機構70と、を有している。以下、流体及び混合対象と、混合装置10の各部(チップ12、照射部60及び移動機構70)の具体的な構成と、について説明する。
【0032】
(流体及び混合対象)
流体としては、混合対象と混合可能な流体が用いられる。具体的には、流体としては、例えば、混合対象に対して反応する流体、又は、混合対象に対して反応する物質を含む流体が用いられる。また、流体としては、例えば、液体が用いられる。液体としては、例えば、検体を含む検体液が用いられる。検体液としては、例えば、DNA(デオキシリボ核酸)が遊離される細胞を含む液体が用いられる。
【0033】
混合対象としては、流体を反応させる反応剤が用いられる。反応剤としては、例えば、流体を反応させることで特定の処理を行う処理剤が用いられる。処理剤としては、例えば、検体液に含まれた細胞からDNAを遊離させる界面活性剤などが用いられる。
【0034】
(チップ12)
図2は、チップ12の概略構成を示す分解斜視図である。
図3は、チップ12の概略構成を示す平面図である。
【0035】
図1、
図2及び
図3に示されるチップ12は、液体及び混合対象が収容され、液体と混合対象とを混合させる収容体である。具体的には、
図1、
図2及び
図3に示されるように、チップ12は、第一基板21と、第二基板22と、複数の混合室30と、流入路25と、複数の流路40と、複数の弁50と、を有している。以下、チップ12の各部(第一基板21、第二基板22、複数の混合室30、流入路25、複数の流路40、及び複数の弁50)の具体的な構成について説明する。
【0036】
(第一基板21及び第二基板22)
第一基板21は、流路が形成され光を透過可能な形成部材の一例である。具体的には、第一基板21として、透明な部材が用いられている。第一基板21の材料としては、例えば、樹脂材料やガラスなどが挙げられる。
【0037】
一方、第二基板22には、光を透過する機能は不要である。したがって、第二基板22としては、例えば、不透明な部材が用いられる。なお、第二基板22として、透明な部材を用いてもよい。
【0038】
また、第一基板21及び第二基板22は、それぞれ、一例として、矩形板状に形成されている。第一基板21は、厚み方向一方側の面としての上面21Aと、厚み方向他方側の面としての下面21Bと、を有している。第二基板22は、厚み方向一方側の面としての上面22Aと、厚み方向他方側の面としての下面22Bと、を有している。そして、第一基板21の下面21Bと、第二基板22の上面22Aと、が接合されている。なお、第一基板21及び第二基板22の厚み方向は、
図1におけるT方向である。
【0039】
(複数の混合室30、流入路25、及び複数の流路40)
複数の混合室30として、4つの混合室がチップ12に備えられている。具体的には、複数の混合室30として、混合室31、32、33、34(以下、混合室31~34と称する場合がある)がチップ12に備えられている。なお、混合室31は、流体が収容される第一収容部の一例である。また、混合室32は、流体と混合される混合対象が収容される第二収容部の一例である。
【0040】
図2及び
図4に示されるように、混合室31~34は、それぞれ、第一基板21に形成された流体が収容可能な収容空間によって、構成されている。収容空間は、以下のように、第一基板21の下面21Bに形成されている。すなわち、第一基板21の下面21Bに凹部が形成され、その凹部における下側(第二基板22側)の開口が、第二基板22の上面22Aによって閉鎖されることで、収容空間が形成されている。なお、
図4は、
図3における4-4線断面図である。
【0041】
混合室31、32、33、34は、この順で、厚み方向に対する直交方向(
図1、
図2及び
図3の矢印A方向)に沿って配置されている。混合室31、32、33、34のそれぞれには、流体と混合される混合対象が予め収容される。
【0042】
流入路25は、流体を混合室31に流入させる通路である。流入路25は、
図2及び
図5に示されるように、第一路25Aと、第二路25Bと、を有している。第一路25Aは、第一基板21を厚み方向(
図5のT方向)に沿って形成された孔(具体的には円孔)で構成されている。なお、
図5は、
図3における5-5線断面図である。
【0043】
第二路25Bは、以下のように、第一基板21の下面21Bに形成されている。すなわち、第一基板21の下面21Bに溝部が直交方向(矢印A方向)に沿って形成され、その溝部における下側(第二基板22側)の開口が、第二基板22の上面22Aによって閉鎖されることで、第二路25Bが形成されている。なお、第二路25Bは、
図5に示されるように、例えば、断面半円形状に形成されている。
【0044】
第一路25Aの一端(上端)は、第一基板21の上面21Aで開口している。第一路25Aの他端(下端)は、第二路25Bの一端と連通している。第二路25Bの他端は、混合室31と連通している。これにより、流入路25を通じて流体が混合室31に流入し、その流体が混合室31に収容される。
【0045】
本実施形態では、複数の流路40として、4つの流路がチップ12に備えられている。具体的には、複数の流路40として、流路41、42、43、44(以下、流路41~44と称する場合がある)がチップ12に備えられている。なお、流路41は、第一収容部と第二収容部とを連通する流路の一例である。
【0046】
図2及び
図6に示されるように、流路41~44は、それぞれ、以下のように、第一基板21の下面21Bに形成されている。すなわち、第一基板21の下面21Bに溝部が直交方向(矢印A方向)に沿って形成され、その溝部における下側(第二基板22側)の開口が、第二基板22の上面22Aによって閉鎖されることで、流路41~44の各々が形成されている。各流路41~44は、
図6に示されるように、例えば、断面半円形状に形成されている。なお、
図6は、
図3における6-6線断面図である。
【0047】
流路41は、混合室31と混合室32とを連通している。さらに、流路42は、混合室32と混合室33とを連通している。また、流路43は、混合室33と混合室34とを連通している。
【0048】
流路44は、混合室34に対する流路43側(
図1及び
図3の左側)とは反対側(
図1及び
図3の右側)で、一端が混合室34とを連通している。流路44の他端は、第一基板21の側面(
図1の右側面)で開口している。これにより、混合室34に収容された流体が、流路44を通じてチップ12の外側(
図1及び
図3の右側)へ流出可能となっている。このように、流路44は、流体を混合室34から流出させる通路として機能する。
【0049】
(複数の弁50)
図1等に示される複数の弁50として、流路40と同数の4つの弁がチップ12に備えられている。具体的には、複数の弁50として、弁51、52、53、54(以下、弁51~54と称する場合がある)がチップ12に備えられている。なお、弁51は、流路に設けられ、加熱により形状が変化して流路を開放可能な弁の一例である。
【0050】
各弁51~54は、各流路41~44に設けられている。この各弁51~54は、各流路41~44を閉じている。これにより、各流路41~44において流体の流通ができない状態となっている。したがって、各混合室31~34に予め収容された混合対象は、各混合室31~34から流出されず、混合対象同士が混合することがない。
【0051】
各弁51~54には、例えば、熱可塑性物質が用いられる。すなわち、各弁51~54として、例えば、加熱すると軟化し別の形に変形しうる性質を有する物質が用いられる。
【0052】
熱可塑性物質としては、例えば、汎用プラスチック(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリウレタン(PUR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂(PMMA))、エンジニアリング・プラスチック(ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリエステル(PEs)の内、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF-PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、環状ポリオレフィン(COP))、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI))、ろう、パラフィン、ワックス、石鹸、脂肪などが挙げられる。なお、これらの熱可塑性物質は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
なお、各弁51~54は、加熱されていない状態において、すなわち、常温(チップ12が取り扱われる環境温度)において、固体とされている。すなわち、各弁51~54は、常温よりも高い温度の融点を有している。
【0054】
また、各弁51~54は、流体に含まれる検体が熱変性する温度未満の融点を有している。検体がタンパク質である場合、熱変性する温度は、例えば、70℃とされる。したがって、各弁51~54として、70℃未満の融点を有する熱可塑性物質が用いられる。このような熱可塑性物質としては、例えば、ろう、パラフィン、ワックス、石鹸、脂肪などが挙げられる。
【0055】
また、各弁51~54は、各混合室31~34に収容された状態における流体の温度よりも高い温度の融点を有している。これにより、各弁51~54は、流体が接触しても融解しない。
【0056】
各弁51~54は、光を吸収する色材を有している。色材の一例として、黒色の色材が用いられている。そして、各弁51~54は、第一基板21を透過した光を吸収することで加熱される。この各弁51~54は、加熱されると形状が変化して各流路41~44を開放する。
【0057】
各弁51~54における形状変化は、第一基板21の厚み方向(
図1のT方向)の寸法が小さくなる形状変化である。具体的には、各弁51~54は、溶解することで、例えば、直交方向(
図1の矢印A方向)に流れて扁平な状態となる。
【0058】
また、各弁51~54の形状の変化は、不可逆である。すなわち、各弁51~54は、元の状態(各流路41~44を閉じる状態)には戻らない。換言すれば、各弁51~54は、各流路41~44を開放した状態を維持する。
【0059】
そして、各弁51~54が各流路41~44を開放することで、各流路41~44での流体の流通が可能となる。
【0060】
具体的には、流入路25を通じて混合室31に流入した流体は、流路41を通じて混合室32へ流通可能となる。混合室32に流入した流体は、流路42を通じて混合室33へ流通可能となる。混合室33に流入した流体は、流路43を通じて混合室34へ流通可能となる。混合室34に流入した流体は、流路44を通じてチップ12の外側(上側)へ流出可能となる。なお、チップ12における流体の流通方向は、直交方向(
図1の矢印A方向)とされる。
【0061】
(照射部60)
図1に示される照射部60は、弁へ光を照射する照射部の一例である。照射部60は、弁を加熱する加熱部の一例でもある。
【0062】
照射部60は、具体的には、
図1に示されるように、光源62と、集光素子としてのレンズ64と、を有している。光源62は、第一基板21に対する第二基板22側(下側)とは反対側(上側)から弁51(
図1の下方側)へ向けて照射する。光源62としては、半導体光源、放電ランプ及びハロゲンランプが用いられる。半導体光源としては、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)などが挙げられる。
【0063】
光源62は、例えば、光として赤外光を照射する。具体的には、光源62は、例えば、20μm以下の波長の赤外光を照射する。好ましくは、光源62は、2μm以下の波長の赤外光を照射する。
【0064】
レンズ64は、光源62から照射された光を弁51で集光する機能を有している。なお、温度センサにより弁51の温度を測定して、光源62の出力を制御してもよい。また、照射部60は、各弁51~54に光を照射可能な各照射位置に、チップ12に対して直交方向(
図1の矢印A方向)へ相対移動可能とされている。すなわち、チップ12に対して直交方向(
図1の矢印A方向)へ相対移動することで、照射部60の照射位置が、各弁51~54に光を照射可能な各照射位置に変更可能とされている。
【0065】
(移動機構70)
図1に示される移動機構70は、第一収容部に収容された流体を第二収容部へ移動させる移動機構の一例である。
【0066】
移動機構70は、具体的には、混合室31から混合室34に向けて下り勾配となるようにチップ12を支持する支持体で構成されている。これにより、混合室31(第一収容部の一例)よりも混合室32(第二収容部の一例)が下側に位置し、混合室32よりも混合室33が下側に位置し、混合室33よりも混合室34が下側に位置している。
【0067】
これにより、流体は、重力により、混合室31から混合室32へ移動し、混合室32から混合室33へ移動し、混合室33から混合室34へ移動する。このように、移動機構70は、流体に作用する重力を用いて流体を移動させる。
【0068】
(混合方法)
次に、混合装置10を用いて、流体と混合対象とを混合する混合方法について説明する。
【0069】
本混合方法は、流入工程と、第一開放工程と、第一移動工程と、第二開放工程と、第二移動工程と、第三開放工程と、第三移動工程と、第四開放工程と、流出工程と、を有している。本混合方法では、流入工程、第一開放工程、第一移動工程、第二開放工程、第二移動工程、第三開放工程、第三移動工程、第四開放工程、及び流出工程の順で、各工程が実行される。以下、各工程について説明する。
【0070】
(流入工程)
流入工程では、流入路25を通じて流体を混合室31に流入させる。これにより、流体が混合室31に収容される。混合室31に収容された流体は、混合室31に予め収容された混合対象と、混合室31にて混合される。
【0071】
(第一開放工程)
第一開放工程は、第一収容部と第二収容部とを連通する流路に設けられた弁を加熱し、弁の形状を変化させて流路を開放する第一工程の一例である。具体的には、第一開放工程では、照射部60が弁51に光を照射することで弁51を加熱し、弁51の形状を変化させて流路41を開放する。
【0072】
(第一移動工程)
第一移動工程は、第一収容部に収容された流体を、混合対象が収容された第二収容部へ移動させる第二工程の一例である。第一移動工程では、混合室31に収容された流体を、弁51により開放された流路41を通じて、混合室32へ移動させる。
【0073】
具体的には、第一移動工程では、混合室31から混合室34に向けて下り勾配となるように支持されたチップ12において流路41を開放することで、流体を重力により混合室31から混合室32へ移動させる。これにより、流体は、混合室32に収容された混合対象と混合室32において混合される。
【0074】
(第二開放工程)
第二開放工程では、照射部60が弁52に光を照射することで弁52を加熱し、弁52の形状を変化させて流路42を開放する。
【0075】
(第二移動工程)
第二移動工程では、混合室32に収容された流体を、弁52により開放された流路42を通じて混合室33へ移動させる。具体的には、第二移動工程では、混合室31から混合室34に向けて下り勾配となるように支持されたチップ12において流路42を開放することで、流体を重力により混合室32から混合室33へ移動させる。これにより、流体は、混合室33に収容された混合対象と混合室33において混合される。
【0076】
(第三開放工程)
第三開放工程では、照射部60が弁53に光を照射することで弁53を加熱し、弁53の形状を変化させて流路43を開放する。
【0077】
(第三移動工程)
第三移動工程では、混合室33に収容された流体を、弁53により開放された流路43を通じて混合室34へ移動させる。具体的には、第三移動工程では、混合室31から混合室34に向けて下り勾配となるように支持されたチップ12において流路43を開放することで、流体を重力により混合室33から混合室34へ移動させる。これにより、流体は、混合室34に収容された混合対象と混合室34において混合される。
【0078】
(第四開放工程)
第四開放工程では、照射部60が弁54に光を照射することで弁54を加熱し、弁54の形状を変化させて流路44を開放する。
【0079】
(流出工程)
流出工程では、混合室34に収容された流体を、弁54により開放された流路44を通じてチップ12の外側へ流出させる。
【0080】
(本実施形態の作用効果)
本実施形態によれば、前述の第一開放工程において、加熱により弁51の形状を変化させることで流路41を開放する。そして、前述の第一移動工程において、混合室31に収容された流体を、弁51により開放された流路41を通じて、混合室32へ移動させる。これにより、流体を混合対象と混合室32で混合させることができる。したがって、弁51に対する機械的な操作が不要となる。なお、機械的な操作とは、例えば、弁51に外力を加えて、押す、引く、回す等の操作を行うことをいう。
【0081】
本実施形態では、弁51へ光を照射することで弁51を加熱し、弁51の形状を変化させて流路41を開放するので、チップ12に対して非接触で弁51を加熱できる。この結果、流体に異物が混入することを抑制できる。
【0082】
さらに、本実施形態では、弁51が光を吸収する色材を有しているので、光の照射を開始してから短時間で弁51を加熱することができる。この結果、光の照射を開始してから短時間で流路41を開放できる。
【0083】
また、本実施形態によれば、弁51を軟化させて扁平な状態にすることで流路41を開放できるので、例えば弁51を収縮させて流路41を開放される場合に比べ、流路41を広く開放できる。
【0084】
さらに、弁51は、流体に含まれる検体が熱変性する温度未満の融点を有している。このため、検体を熱変性させずに、流路41を開放できる。
【0085】
また、本実施形態では、弁51の形状の変化は、不可逆であるので、不用意に流路41が閉じることを抑制できる。
【0086】
(変形例)
本実施形態では、各流路41~44において、重力により、流体を移動させていたが、これに限られない。例えば、磁力、静電吸引力、及び圧力などを用いて、流体を移動させる構成であってもよい。また、重力、磁力、静電吸引力及び圧力などを複数組み合わせて、流体を移動させる構成であってもよい。
【0087】
また、本実施形態では、弁51を軟化させて扁平な状態にすることで流路41を開放していたが、これに限られない。例えば、弁を収縮させて流路を開放される構成であってもよい。この場合では、例えば、弁として、熱硬化性物質が用いられる。熱硬化性物質としては、例えば、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)などが挙げられる。なお、これらの熱硬化性物質は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
本実施形態では、各弁51~54へ光を照射することで各弁51~54を加熱し、各弁51~54の形状を変化させて各流路41~44を開放していたが、これに限られない。例えば、チップ12に接触するヒータを用いて各弁51~54を加熱する構成であってもよい。
【0089】
本実施形態では、各弁51~54が、光を吸収する色材を有しているが、これに限られない。例えば、各弁51~54の周辺部が、光を吸収する色材を有していてもよい。したがって、弁及び弁の周辺部の少なくとも一方が、光を吸収する色材を有していればよい。なお、周辺部としては、例えば、第一基板21において各弁51~54と接触する接触部分や、第二基板22において各弁51~54と接触する接触部分が挙げられる。
【0090】
前述では、混合室31を第一収容部の一例として、混合室32を第二収容部の一例として、流路41を、第一収容部と第二収容部とを連通する流路の一例として、弁51を、加熱により形状が変化して流路を開放可能な弁の一例として説明したが、これに限られない。例えば、混合室32を第一収容部の一例として、混合室33を第二収容部の一例として、流路42を、第一収容部と第二収容部とを連通する流路の一例として、弁52を、加熱により形状が変化して流路を開放可能な弁の一例として把握してもよい。また、混合室33を第一収容部の一例として、混合室34を第二収容部の一例として、流路43を、第一収容部と第二収容部とを連通する流路の一例として、弁53を、加熱により形状が変化して流路を開放可能な弁の一例として把握してもよい。
【0091】
(混合装置10の具体的な使用例)
混合装置10は、ポリメラーゼ連鎖反応の処理装置として用いることができる。この場合では、例えば、以下のように混合装置10が構成される。
【0092】
細胞膜を溶解する作用を有する界面活性剤が、混合室31に予め収容される。DNA(デオキシリボ核酸)を洗浄する洗浄液(例えば70%エタノール)が、混合対象として、混合室32に予め収容される。
【0093】
DNAポリメラーゼ及びプライマーを含む反応液が、混合対象として、混合室33に予め収容される。試料調製を行うための調製液(例えば、バッファ液)が、混合対象として、混合室34に予め収容される。
【0094】
混合装置10をポリメラーゼ連鎖反応の処理装置として用いた場合では、例えば、以下の処理方法により、ポリメラーゼ連鎖反応の処理が行われる。
【0095】
(流入工程)
流入工程では、検体としての細胞を含む検体液(流体の一例)を、流入路25を通じて混合室31に流入させる。これにより、検体液が混合室31に収容される。混合室31に収容された検体液は、混合室31に予め収容された界面活性剤と、混合室31にて混合される。これにより、細胞からDNAが遊離される。
【0096】
(第一開放工程)
第一開放工程では、照射部60が弁51に光を照射することで弁51を加熱し、弁51の形状を変化させて流路41を開放する。
【0097】
(第一移動工程)
第一移動工程では、検体液の細胞から遊離されたDNAを、弁51により開放された流路41を通じて混合室32へ移動させる。すなわち、検体液からDNAを混合室32へ分離する。
【0098】
具体的には、例えば、磁性粒子へDNAを吸着させその磁性粒子を磁力で混合室32へ移動させることでDNAを分離する分離法や、フィルタによりDNAを分離する分離法などを用いてDNAを分離する。なお、分離法は、単独又は複数組み合わせて用いてもよい。
【0099】
混合室32へ分離されたDNAは、混合室31に収容された洗浄液と混合される。これにより、DNAが洗浄される。
【0100】
(第二開放工程)
第二開放工程では、照射部60が弁52に光を照射することで弁52を加熱し、弁52の形状を変化させて流路42を開放する。
【0101】
(第二移動工程)
第二移動工程では、洗浄液と混合されたDNAを、弁52により開放された流路42を通じて混合室33へ移動させる。すなわち、洗浄液からDNAを混合室33へ分離する。具体的には、前述の分離法を用いてDNAを分離する。
【0102】
混合室33へ分離されたDNAは、混合室33に収容された反応液と混合される。そして、反応液と混合されたDNAに対して、加熱と冷却を繰り返すことで、ポリメラーゼ連鎖反応の処理が行われる。
【0103】
(第三開放工程)
第三開放工程では、照射部60が弁53に光を照射することで弁53を加熱し、弁53の形状を変化させて流路43を開放する。
【0104】
(第三移動工程)
第三移動工程では、DNAが混合された反応液を、弁53により開放された流路43を通じて混合室34へ移動させる。これにより、反応液が調製液と混合され、試料調製が行われる。
【0105】
(第四開放工程)
第四開放工程では、照射部60が弁54に光を照射することで弁54を加熱し、弁54の形状を変化させて流路44を開放する。
【0106】
(流出工程)
流出工程では、混合室34に収容された試料(DNAが混合された反応液)を、弁54により開放された流路44を通じてチップ12の外側へ流出させる。なお、流出された試料に対して分析(例えばクロマトグラフィ)が行われる。
【0107】
本発明は、前述した実施形態に限るものではなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更、改良が可能である。例えば、前述した変形例は、適宜、複数を組み合わせて構成してもよい。
【0108】
2018年3月30日に出願された日本国特許出願2018-066536号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。