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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】眼鏡用レンズ及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/00 20060101AFI20220815BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20220815BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
G02C7/00
G02C7/10
G02B5/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020541062
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029889
(87)【国際公開番号】W WO2020049903
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018166423
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-224282(JP,A)
【文献】国際公開第2018/082946(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/031810(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136784(WO,A1)
【文献】特開平08-015805(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043185(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/034518(WO,A1)
【文献】特開2002-090521(JP,A)
【文献】特開2000-162431(JP,A)
【文献】国際公開第2007/146933(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、チオウレタン樹脂中における極大吸収波長が700nmを超え1000nm以下の範囲にあり、且つ、波長400nmの光の透過率が50%以上100%以下である近赤外吸収剤と、を含有する眼鏡用レンズであって、
前記近赤外線吸収剤は、下記一般式(1)で表されるイオン対、及び一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記樹脂は、チオウレタン樹脂及びエピスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む、眼鏡用レンズ。
【化1】

一般式(1)中、Aは下記一般式(1-a)から一般式(1-x)からなる群より選ばれる酸性核のケト体を表す。
は下記一般式(1-a)から一般式(1-x)からなる群より選ばれる酸性核のエノール体を表し、エノール体の水酸基は解離していてもよい。
、及びAで表される酸性核は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
、L及びLはそれぞれ独立に、メチン基を表す。
はプロトン又は一価の対カチオンを表し、nは、一般式(1)で表される化合物の正電荷数と負電荷数とが等しくなるために必要な数を表す。kは2又は3を表す。
【化2】


一般式(1-a)から一般式(1-x)において、*は酸性核のケト体AがLと、酸性核のエノール体AがLと、それぞれ結合する位置を示す。
Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは電子吸引性基を表す。Zは、水素原子、又はカルバモイル基、アルキル基、アリール基、シアノ基、カルボキシル基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルホ基を表す。
、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は一価の置換基を表す。
【化3】

一般式(2)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。
Ar及びArは、それぞれ独立に、ヘテロアリール基を表す。
及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に一価の置換基を表す。
【請求項2】
前記近赤外線吸収剤の極大吸収波長における透過率が1%以下であり、波長700nmの光の透過率が60%以上100%以下である請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項3】
前記近赤外線吸収剤のチオウレタン樹脂中におけるLxy座標のx値が0.285以上0.350以下の範囲であり、y値が0.280以上0.350以下である請求項1又は請求項2に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項4】
前記近赤外吸収剤が、極大吸収波長帯における吸光度をAmaxとし、前記極大吸収波長より100nm短波長側の波長における吸光度をAmax-100としたとき、Amaxに対するAmax-100の比率Dが、0.20未満である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項5】
前記近赤外吸収剤は、シアニン色素、オキソノール色素、スクアリリウム色素、及びピロロピロール色素から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項6】
波長400nm~700nmの範囲の光の透過率が80%以上100%以下である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項7】
前記近赤外線吸収剤を少なくとも2種含む請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項8】
さらに、紫外線吸収剤の少なくとも1種を含む請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の眼鏡用レンズを備える眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡用レンズ及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな波長の光が人間の目に直接入射すると目への悪影響を及ぼすことが知られている。なかでも、波長700nmを超え1000nm以下の近赤外光は、生体内での透過性が高く、細胞の奥深くまで吸収されずに浸透するために、目の視神経に損傷を与えることが懸念される場合がある。
【0003】
例えば、近赤外光を吸収することができる眼鏡用レンズとして、ジインモニウム系近赤外色素を含む眼鏡用レンズが提案されている(特開2008-281973号公報参照)。
また、赤外線のみならず、紫外線も吸収しうる広範な波長の太陽光を遮断する樹脂組成物が提案され、赤外線吸収剤として広範な色素が開示されている(特開2017-149820号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の検討によれば、近年、自動車に備えられる自動運転のセンサに近赤外光が用いられ、運転者は、長時間に亘り近赤外光に曝されることになることが問題となっている。自動車における自動運転以外の条件でも近赤外光がセンサなどに使用される事例が見受けられる。
このため、視認性を損なうことなく、近赤外光を有効に、且つ、長期間に亘り遮断する技術が求められる。一例として、メガネレンズに近赤外光(特に、700nmを超え1000nm以下の波長領域の光)を吸収させ、近赤外光の眼への影響を低減する試みがなされている。
【0005】
しかしながら、特開2008-281973号公報に赤外線吸収剤として記載されるジインモニウム系近赤外色素は、プラスチックレンズの材料である樹脂との相溶性が良好ではない。従って、ジインモニウム系近赤外色素を眼鏡用レンズに適用すると析出する場合がある。また、ジインモニウム系近赤外色素は耐光性が低く、長期の使用において色素が分解して性能が劣化するという課題がある。
一般的に、眼鏡用レンズには、レンズを介して対象物を視認した際に色味の変化を感じ難いことが求められるのに対して、この文献に記載のジインモニウム系近赤外線吸収色素は、吸収波形がブロードで樹脂中における吸収帯の半値幅が大きく、可視域の光にも吸収を有する。このため、ジインモニウム系近赤外線吸収色素を含む眼鏡用レンズは着色し、色味が悪くなってしまうという課題がある。
特開2017-149820号公報に記載の発明は、広範な波長範囲で太陽光を遮断しうる樹脂組成物の提供を課題とする。従って、近赤外光のみを遮断し、可視光透過性が良好であるという、眼鏡用レンズに必要な樹脂組成物の性能に対する着目はないため、特開2008-281973号公報と同様に、特開2017-149820号公報に記載の樹脂組成物もまた眼鏡用レンズに適用すると着色があり、視認性が低下するという課題がある。
さらに、これら各文献に記載の近赤外線吸収剤色素は、眼鏡用レンズに含有させた場合、いずれも耐光性が低く、経時により樹脂との相溶性が低下して眼鏡用レンズのヘイズが上昇する場合がある。
【0006】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、少なくとも700nmを超え1000nm以下の波長領域の近赤外光を遮断することができ、可視光領域の波長の光の透過性が良好であり、レンズを介して対象物を視認した際の対象物の色味の変化を感じ難い眼鏡用レンズを提供することである。
本発明の別の実施形態が解決しようとする課題は、上記眼鏡用レンズを備える眼鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 樹脂と、チオウレタン樹脂中における極大吸収波長が700nmを超え1000nm以下の範囲にあり、且つ、波長400nmの光の透過率が50%以上100%以下である近赤外吸収剤と、を含有する眼鏡用レンズ。
【0008】
<2> 近赤外線吸収剤の極大吸収波長における透過率が1%以下であり、波長700nmの光の透過率が60%以上100%以下である<1>に記載の眼鏡用レンズ。
<3>近赤外線吸収剤のチオウレタン樹脂中におけるLxy座標のx値が0.285以上0.350以下の範囲であり、y値が0.280以上0.350以下である<1>又は<2>に記載の眼鏡用レンズ。
<4> 近赤外吸収剤が、極大吸収波長帯における吸光度をAmaxとし、極大吸収波長より100nm短波長側の波長における吸光度をAmax-100としたとき、Amaxに対するAmax-100の比率Dが、0.20未満である<1>~<3>のいずれか1つに記載の眼鏡用レンズ。
【0009】
<5> 近赤外吸収剤は、シアニン色素、オキソノール色素、スクアリリウム色素、及びピロロピロール色素から選ばれる少なくとも1種を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の眼鏡用レンズ。
<6> 近赤外線吸収剤は、下記一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む<5>に記載の眼鏡用レンズ。
【0010】
【化1】

【0011】
一般式(1)中、Aは下記一般式(1-a)から一般式(1-x)からなる群より選ばれる酸性核のケト体を表す。
は下記一般式(1-a)から一般式(1-x)からなる群より選ばれる酸性核のエノール体を表し、エノール体の水酸基は解離していてもよい。
、及びAで表される酸性核は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
、L及びLはそれぞれ独立に、メチン基を表す。
はプロトン又は一価の対カチオンを表し、nは、一般式(1)で表される化合物の正電荷数と負電荷数とが等しくなるために必要な数を表す。kは2又は3を表す。
【0012】
【化2】

【0013】
一般式(1-a)から一般式(1-x)において、*は酸性核のケト体AがLと、酸性核のエノール体AがLと、それぞれ結合する位置を示す。
Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは電子吸引性基を表す。Zは、水素原子、又はカルバモイル基、アルキル基、アリール基、シアノ基、カルボキシル基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルホ基を表す。
、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は一価の置換基を表す。
【0014】
【化3】

【0015】
一般式(2)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。
Ar及びArは、それぞれ独立に、ヘテロアリール基を表す。
及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に一価の置換基を表す。
<7> 近赤外線吸収剤のチオウレタン樹脂中における 波長400nm~700nmの範囲の光の透過率が80%以上100%以下である<1>~<6>のいずれか1つに記載の眼鏡用レンズ。
【0016】
<8> 樹脂は、チオウレタン樹脂及びエピスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む<1>~<7>のいずれか1つに記載の眼鏡用レンズ。
<9> 近赤外線吸収剤を少なくとも2種含む<1>~<8>のいずれか1つに記載の眼鏡用レンズ。
<10> さらに、紫外線吸収剤の少なくとも1種を含む<1>~<9>のいずれか1つに記載の眼鏡用レンズ。
【0017】
<11> <1>~<10>のいずれか1つに記載の眼鏡用レンズを備える眼鏡。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも700nmを超え1000nm以下の波長領域の近赤外光を遮断することができ、可視光領域の波長の光の透過性が良好であり、レンズを介して対象物を視認した際の対象物の色味の変化を感じ難い眼鏡用レンズを提供することができる。
本発明の別の実施形態によれば、上記眼鏡用レンズを備える眼鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の近赤外線吸収色素の一例であるピロロピロール色素(D-1)の、波長300nm~1000nmにおける吸光度を示すグラフである。
図2】本開示の近赤外線吸収色素の一例であるシアニン色素(E-1)の、波長300nm~1000nmにおける吸光度を示すグラフである。
図3】本開示の近赤外線吸収色素の一例であるスクアリリウム色素(G-13)の、波長300nm~1000nmにおける吸光度を示すグラフである。
図4】本開示の近赤外線吸収色素の一例であるオキソノール色素(F-53)の、波長300nm~1000nmにおける吸光度を示すグラフである。
図5】比較近赤外線吸収色素の一例であるフタロシアニン色素(H-1)の、波長300nm~1000nmにおける吸光度を示すグラフである。
図6】比較近赤外線吸収色素の一例であるジインモニウム色素(H-2)の、波長300nm~1000nmにおける吸光度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の眼鏡用レンズ及び眼鏡について説明する。
但し、本開示は、以下に記載の実施形態に何ら限定されるものではなく、目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0021】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分の含有率又は配合率は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計の含有率又は配合率を意味する。
【0022】
本開示において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
「置換基」の表記は、特に断りのない限り、無置換のもの、置換基を更に有するものを包含する意味で用いられ、例えば「アルキル基」と表記した場合、無置換のアルキル基と置換基を更に有するアルキル基の双方を包含する意味で用いられる。その他の置換基についても同様である。
本開示における置換基の炭素数は、特に断らない限り、置換基がさらに置換基を有する場合を含む総炭素数を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「近赤外光(近赤外光)の遮断」とは、近赤外光を完全に遮断する場合のみならず、眼鏡用レンズを介することで、近赤外光の少なくとも一部を遮断し、近赤外光の透過率を減少させることを包含する。
【0023】
[眼鏡用レンズ]
本開示の眼鏡用レンズは、樹脂と、チオウレタン樹脂中における極大吸収波長が700nmを超え1000nm以下の範囲にあり、且つ、波長400nmの光の透過率が50%以上100%以下である近赤外吸収剤と、を含有する。
なお、以下、上記条件を満たす近赤外線吸収剤を、「特定近赤外線吸収剤」と称することがある。
近赤外線吸収剤は、波長400nmの光の透過率が高いほど、近赤外線吸収剤を含有する樹脂の黄色味が小さく、透過率が低いほど樹脂の黄色味が大きい。
本開示の眼鏡用レンズは、少なくとも700nmを超え1000nm以下の波長領域の近赤外光を遮断することができ、且つ、波長400nmにおける光の透過率が高いため、レンズを介して対象物を視認した際に黄色味を感じ難い。
黄色味は、眼鏡用レンズにおいて色味の違和感を認識し易い色であることから、眼鏡用レンズに含まれる近赤外線吸収剤は波長400nmにおける光の透過率が高く、レンズとして黄色味が小さいことが望ましい。
このような観点からは、波長400nmにおける光の透過率が60%以上100%以下であることが好ましく、70%以上100%以下であることがより好ましい。
【0024】
〔特定近赤外線吸収剤〕
本開示の眼鏡用レンズに含まれる特定近赤外線吸収剤は、既述のように、チオウレタン樹脂中における極大吸収波長が700nmを超え1000nm以下の範囲にあり、且つ、波長400nmの光の透過率が50%以上100%以下である。
【0025】
本開示では、近赤外線吸収剤の透過率の測定、言い換えれば吸光度の測定は、近赤外線吸収剤がチオウレタン樹脂中に含まれる状態で測定している。近赤外線吸収剤のチオウレタン樹脂中における吸光度を測定する測定方法によれば、一般に行われる近赤外線吸収剤がメタノールなどの有機溶媒中に含まれる状態で測定した吸光度に比較して、眼鏡用レンズに含まれる近赤外線吸収剤の特性をより正確に確認し易いためである。
本開示における、チオウレタン樹脂中の近赤外線吸収剤の吸光度は、以下の条件で近赤外線吸収剤の吸光度を測定することで算出することができる。また、算出された吸光度から、透過率を得ることができる。吸光度の測定は、以下の方法で行うことができる。
【0026】
チオウレタン樹脂としては、チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)(屈折率n=1.67)〔商品名、三井化学(株)〕を重合して得られるチオウレタン樹脂を用いる。
測定条件としては、チオウレタン樹脂前駆体モノマー100質量部に対して、0.05質量部の近赤外線吸収剤及び、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを、0.01質量部を混合し、樹脂組成物を得る。得られた樹脂組成物をモールド(即ち、成形型:以下同様)内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mm、幅100mm、長さ50mmの樹脂評価用の試料を作製する。得られた試料の厚さ方向が、吸光度を測定する光路となる。
測定装置は、(株)島津製作所、紫外可視近赤外分光光度計 型番:UV 3150を用い、測定は室温(25℃)にて行い、測定条件として、空気をコントロールとして参照し、吸光度を測定して吸収スペクトルを得る。
所定の波長範囲の波長の吸光度を測定することで、極大吸収波長、透過率などを算出することができる。
【0027】
本開示の眼鏡用レンズが上記の如き効果を奏し得る理由については明らかではないが、本発明者は、以下の如く推測している。
【0028】
700nmを超え1000nm以下の波長領域の近赤外光は、700nmを超え1000nm以下の波長領域に極大吸収を有する近赤外線吸収剤によって、ある程度、遮断することができる。しかし、一般的な近赤外線吸収剤は、樹脂を用いたプラスチックレンズに適用すると析出しやすく、経時により眼鏡用レンズのヘイズが高くなる場合がある。このため、一般的な近赤外線吸収剤を含むプラスチックレンズは、眼鏡用レンズとしての適性に劣る傾向がある。
従来の眼鏡用レンズに適用される近赤外吸収色素としては、フタロシアニン色素及びジインモニウム色素が挙げられる。このうちフタロシアニン色素は極大吸収波長が700nmを超え1000nm以下の範囲にあるが、複数の振動構造を有するため、分子構造が熱的に捩れやすい傾向にある。また、ジインモニウム色素は、極大吸収波長が1000nmの範囲よりも長波長側にあり、且つ、フタロシアニン色素と同様に、複数の振動構造を有するため、分子構造が熱的に捩れやすい傾向にある。
これに対し、本開示の眼鏡用レンズに含まれる特定赤外線吸収剤は、チオウレタン樹脂中において、700nmを超え1000nm以下の波長領域に極大吸収を有し、かつ、波長400nmの光の透過性が良好である。このことは、吸収スペクトルにおける極大吸収波長のピークがシャープであり、極大吸収波長よりも短波長側の波長の光の吸収性が著しく低いことを示している。従って、特定近赤外線吸収剤は、単一の振動モードを有し、熱的に捩れ難い傾向にある。
【0029】
本開示の眼鏡用レンズに含まれる特定赤外線吸収剤は、既述のように、吸収スペクトルにおける極大吸収波長のピークが、遮断が必要な近赤外領域にあり、極大吸収波長よりも短波長側の波長の光の吸収性が著しく低い。このため、必要な特定波長の近赤外光の遮断性が良好であり、且つ、吸収スペクトルの形状がシャープになり、周辺部の波長の光の透過率が良好となる。よって、特定赤外線吸収剤を眼鏡用レンズに適用した際に、可視域の光の透過率が高く、眼鏡用レンズが着色せずに、眼鏡用レンズを介して対象物を視認した際に色味の変化を感じ難いと考えられる。
【0030】
一般的に、化合物の分子構造が熱的に捩れやすい場合には、複数の振動モードが存在し半値幅が大きくなり、一方、単一の振動モードのみが存在する場合には、化合物が、熱的に捩れない傾向がある。
樹脂に対する近赤外線吸収剤の相分離に関しては、近赤外線吸収剤である色素化合物と樹脂の親疎水性の差、分子間相互作用の大きさ、などの要因が関わると推定される。さらに、樹脂に対する色素化合物の相分離に関しては、色素化合物の分子の捩れの違いも起因すると考えられる。すなわち、複数の吸収ピークを有する、言い換えれば、複数の振動構造を有する色素化合物は、励起した場合に分子構造に捻れが生じやすくなり、例えば、紫外線照射等によるエネルギー付与により分子の捩れが生じやすい。そのため、樹脂に分散された色素化合物の捩れによる相分離が起こり易いという懸念がある。
他方、吸収ピークが単一であり、単一の振動モードのみが存在する本開示の特定近赤外線吸収剤は、分子構造に捩れが生じ難く、相分離が起こりにくいことが予想される。このため、所望の近赤外光の遮断性を有しながら、色素化合物分子の捩れが生じることによる樹脂と特定近赤外線吸収剤との相分離が抑制され、相分離に起因する透明性の低下、ヘイズの上昇が抑制され、眼鏡用レンズの耐久性がより向上するという利点をも有すると考えられる。
【0031】
特定近赤外線吸収剤は、特定近赤外線吸収剤の極大吸収波長における透過率が1%以下であり、波長700nmの光の透過率が60%以上100%以下であることが好ましく、極大吸収波長における透過率が0.8%以下であり、波長700nmの光の透過率が70%以上100%以下であることがより好ましく、極大吸収波長の透過率が0.5%以下であり、波長700nmの光の透過率が80%以上100%以下であることがより好ましい。
特定近赤外線吸収剤は、チオウレタン樹脂中における極大吸収波長が700nmを超え1000nm以下の範囲にあり、且つ、その極大吸収波長における透過率が1.0%以下であることで、本開示の眼鏡用レンズは、所定の波長の近赤外光をより効率的に遮断することができる。また、波長700nmの光の透過率が60%以上100%以下であることで、近赤外線吸収剤を含有する樹脂が青緑味を帯びることが抑制され、レンズを介して対象物を視認した際の、対象物の色の変化をより感じ難くなる。
【0032】
特定近赤外線吸収剤は、チオウレタン樹脂中におけるLxy座標のx値が0.285以上0.350以下の範囲であり、y値が0.280以上0.350以下であることが好ましく、x値が0.3以上0.330以下の範囲であり、y値が0.3以上0.330以下であることが好ましい。
特定近赤外線吸収剤のLxy座標のx値とy値がこの範囲内であると、色味がニュートラルとなり、眼鏡用レンズを備える眼鏡は、装着時に観察対象物の色味についての違和感がより少なくなる。
【0033】
特定近赤外吸収剤は、チオウレタン樹脂中で測定した極大吸収波長における吸光度をAmaxとし、極大吸収波長より100nm短波長側の波長における吸光度をAmax-100としたとき、Amaxに対するAmax-100の比率D〔D=(Amax-100)/(Amax)〕が、0.20未満であることが好ましく、比率Dは0.16以下であることがより好ましく、0.15以下であることがよりさらに好ましく、0.10以下であることがさらに好ましい。
特定近赤外吸収剤は、チオウレタン樹脂中で測定した極大吸収波長における吸光度をAmaxとし、前記極大吸収波長より100nm短波長側の波長における吸光度をAmax-100としたとき、Amaxに対するAmax-100の比率Dが、0.20未満であることで、目的とする特定波長及びその近傍の波長帯における近赤外光を効率的に遮断しつつ、より短波長側の可視域の遮断性が低いため、特定近赤外線吸収剤の光安定性がより良好となる。このため、眼鏡用レンズの耐光性がより高くなる。さらに、眼鏡用レンズの着色もより低減できるという副次的効果も奏する。
【0034】
本開示の眼鏡用レンズは、特定近赤外線吸収剤として、シアニン色素、オキソノール色素、スクアリリウム色素、及びピロロピロール色素から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、シアニン色素、オキソノール色素、及びピロロピロール色素から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
なかでも、特定近赤外線吸収剤としては、下記一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0035】
(一般式(1)で表される化合物)
【0036】
【化4】
【0037】
一般式(1)中、Aは下記一般式(1-a)から一般式(1-x)からなる群より選ばれる酸性核のケト体を表す。
は下記一般式(1-a)から一般式(1-x)からなる群より選ばれる酸性核のエノール体を表し、エノール体の水酸基は解離していてもよい。
、及びAで表される酸性核は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
、L及びLはそれぞれ独立に、メチン基を表す。
はプロトン又は一価の対カチオンを表し、nは、一般式(1)で表される化合物の正電荷数と負電荷数とが等しくなるために必要な数を表す。kは2又は3を表す。
【0038】
【化5】

【0039】
一般式(1-a)から一般式(1-x)において、*は、酸性核のケト体AがLと、酸性核のエノール体AがLと、それぞれ結合する位置を示す。
Xはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは電子吸引性基を表す。Zは、水素原子、又はカルバモイル基、アルキル基、アリール基、シアノ基、カルボキシル基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルホ基を表す。
、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は一価の置換基を表す。
【0040】
上記一般式(1-a)から一般式(1-x)について説明する。
一般式(1-a)から一般式(1-x)において、Xは酸素原子、又は硫黄原子を表す。Xは酸素原子であることが好ましい。
【0041】
Yは、電子吸引性基を表す。電子吸引性基とは、分子の特定の置換位置について、置換位置から電子を吸引する性質を有する置換基であり、電子密度を減弱させる効果を持つ置換基を指す。電子吸引性基としては、ハロゲン原子、ニトリル基、カルボキシ基、カルボニル基、ニトロ基などを有する基が挙げられる。
【0042】
Yで表される電子吸引性基としては、具体的には、アシル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアリールホスフィニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロ環スルホニル基、スルホニルオキシ基、アシルチオ基、スルファモイル基、チオシアネート基、チオカルボニル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン化アリールオキシ基、ハロゲン化アルキルアミノ基、ハロゲン化アルキルチオ基、ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の他の電子吸引性基で置換されたアリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アゾ基、又はセレノシアネート基が挙げられる。
【0043】
本開示において「ハメットの置換基定数」とは、ハメット則として成立する関係式における置換基に特有の定数である。ハメットの置換基定数σ値が正であることは、置換基が電子吸引性であることを示す。
ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるため、1935年にL.P.Hammettによって提唱された経験則であるが、今日では広く妥当性が認められている。ハメット則により求められた置換基定数には、σp値とσm値とがある。これらの値は、多くの一般的な成書に記載されており、例えば、J.A.Dean編「Lange’sHandbook of Chemistry」第12版、1979年(Mc Graw-Hill)及び「化学の領域増刊」、122号、第96頁~第103頁、1979年(南江堂)を参照することができる。
【0044】
ハメットの置換基定数σp値により規定される置換基は、これらの成書に記載の文献既知の値がある置換基にのみ限定されるものではなく、その値が文献未知であっても、ハメット則に基づいて測定した場合に、0.2以上である限り、包含されることはいうまでもない。
ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の基の例としては、シアノ基(0.66)、カルボキシ基(-COOH:0.45)、アルコキシカルボニル基(-COOMe:0.45、-COOC17:0.44、-COOC19:0.44、-COOC13H27:0.44)、アリールオキシカルボニル基(-COOPh:0.44)、カルバモイル基(-CONH:0.36)、アセチル基(-COMe:0.50)、アリールカルボニル基(-COPh:0.43)、アルキルスルホニル基(-SOMe:0.72)、アリールスルホニル基(-SOPh:0.68)等が挙げられる。括弧内は、代表的な置換基及びそのσp値をChem.Rev.,1991年,91巻,第165頁~第195頁から抜粋したものである。また、スルファモイル基、スルフィニル基、ヘテロ環基等もハメットの置換基定数σp値が0.2以上の基に包含される。
【0045】
なかでも、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロ環スルホニル基、アシル基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基から選ばれる置換基が好ましい。
ここで、スルファモイル基、カルバモイル基が置換基を有する場合の置換基としては、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基が挙げられる。
【0046】
Zは水素原子、カルバモイル基、アルキル基、アリール基、シアノ基、カルボキシル基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルホ基を表す。Zとしては、水素原子、カルバモイル基、アルキル基、シアノ基、アシル基、ハロゲン原子、アシルアミノ基、アルキルスルホニル基、又はスルホ基が好ましく、水素原子、カルバモイル基、又はシアノ基がより好ましい。
Zが水素原子以外の置換基である場合、置換基は、さらに置換基を有していてもよい。
【0047】
一般式(1-a)から一般式(1-x)において、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又は一価の置換基を表す。
、R、R、R、R、及びRが一価の置換基を表す場合、一価の置換基は、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールアゾ基、ヘテロ環アゾ基、又はイミド基であり、これらの置換基は更に上記置換基によって置換されていてもよく、置換基同士が結合して環を形成してもよい。
以下、R、R、R、R、R、及びRが一価の置換基を表す場合の、各置換基について説明する。
【0048】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられる。
【0049】
アルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよい。また、置換基を有するアルキル基であっても無置換のアルキル基であってもよい。即ち、一価の置換基におけるアルキル基とは、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、更に多環構造であるトリシクロ構造等を有するアルキル基なども包含する意味で用いられる。
以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えば、アルコキシ基、アルキルチオ基のアルキル基)もこのような概念のアルキル基を表す。
詳細には、アルキル基としては、好ましくは、炭素数1から30のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、t-ブチル基、n-オクチル基、エイコシル基、ベンジル基、フェネチル基、2-クロロエチル基、2-シアノエチル基、2―エチルヘキシル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、好ましくは、炭素数3から30のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4-n-ドデシルシクロヘキシル基等が挙げられる。ビシクロアルキル基としては、好ましくは、炭素数5から30のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5から30のビシクロアルカンから水素原子を一つ取り去った一価の基、例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン-2-イル基、ビシクロ[2,2,2]オクタン-3-イル基等が挙げられる。
【0050】
アルケニル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよい。また、置換基を有するアルキル基であっても無置換のアルケニル基であってもよい。即ち、一価の置換基におけるアルケニル基は、シクロアルケニル基、及びビシクロアルケニル基を包含する。
詳細には、アルケニル基としては、好ましくは、炭素数2から30の置換又は無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基、プレニル基、ゲラニル基、オレイル基等が挙げられる。シクロアルケニル基としては、好ましくは、炭素数3から30の置換若しくは無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3から30のシクロアルケンの水素原子を一つ取り去った一価の基、例えば、2-シクロペンテン-1-イル基、2-シクロヘキセン-1-イル基等が挙げられる。ビシクロアルケニル基としては、ビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5から30のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一つ有するビシクロアルケンの水素原子を一つ取り去った一価の基、例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-1-イル基、ビシクロ[2,2,2]オクト-2-エン-4-イル基等が挙げられる。
【0051】
アルキニル基としては、好ましくは、炭素数2から30のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。
【0052】
アリール基としては、好ましくは、炭素数6から30のアリール基、例えば、フェニル基、p-トリル基、ナフチル基、m-クロロフェニル基、o-ヘキサデカノイルアミノフェニル基等が挙げられる。
【0053】
ヘテロ環基としては、好ましくは、5員又は6員の芳香族若しくは非芳香族のヘテロ環化合物から水素原子を一つ取り除いた一価の基が挙げられる。更に好ましくは、炭素数3から30の5員又は6員の芳香族のヘテロ環基、例えば、2-フリル基、2-チエニル基、2-ピリミジニル基、2-ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0054】
アルコキシ基としては、好ましくは、炭素数1から30のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基、n-オクチルオキシ基、2-メトキシエトキシ基等が挙げられる。
【0055】
アリールオキシ基としては、好ましくは、炭素数6から30のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、4-t-ブチルフェノキシ基、3-ニトロフェノキシ基、2-テトラデカノイルアミノフェノキシ基等が挙げられる。
【0056】
シリルオキシ基としては、好ましくは、炭素数0から20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、ジフェニルメチルシリルオキシ基等が挙げられる。
【0057】
ヘテロ環オキシ基としては、好ましくは、炭素数2から30のヘテロ環オキシ基、例えば、1-フェニルテトラゾール-5-オキシ基、2-テトラヒドロピラニルオキシ基等が挙げられる。
【0058】
アシルオキシ基としては、好ましくは、ホルミルオキシ基、炭素数2から30のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6から30のアリールカルボニルオキシ基、例えば、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p-メトキシフェニルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0059】
カルバモイルオキシ基としては、好ましくは、炭素数1から30のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N-ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N-ジ-n-オクチルアミノカルボニルオキシ基、N-n-オクチルカルバモイルオキシ基等が挙げられる。
【0060】
アルコキシカルボニルオキシ基としては、好ましくは、炭素数2から30のアルコキシカルボニルオキシ基、例えば、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、t-ブトキシカルボニルオキシ基、n-オクチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0061】
アリールオキシカルボニルオキシ基としては、好ましくは、炭素数7から30のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p-メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p-n-ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0062】
アミノ基は、アミノ基に加え、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を有するアミノ基であるアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基を包含する。

アミノ基としては、好ましくは、アミノ基、炭素数1から30のアルキルアミノ基、炭素数6から30のアニリノ基、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N-メチル-アニリノ基、ジフェニルアミノ基、トリアジニルアミノ基等が挙げられる。
【0063】
アシルアミノ基としては、好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1から30のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6から30のアリールカルボニルアミノ基、例えば、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、3,4,5-トリ-n-オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0064】
アミノカルボニルアミノ基としては、好ましくは、炭素数1から30のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N-ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N-ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0065】
アルコキシカルボニルアミノ基としては、好ましくは、炭素数2から30のアルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、t-ブトキシカルボニルアミノ基、n-オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N-メチルーメトキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0066】
アリールオキシカルボニルアミノ基としては、好ましくは、炭素数7から30のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p-クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m-n-オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0067】
スルファモイルアミノ基としては、好ましくは、炭素数0から30のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N-ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N-n-オクチルアミノスルホニルアミノ基等が挙げられる。
【0068】
アルキルスルホニルアミノ基又はアリールスルホニルアミノ基としては、好ましくは、炭素数1から30のアルキルスルホニルアミノ基、炭素数6から30のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5-トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p-メチルフェニルスルホニルアミノ基等が挙げられる。
【0069】
アルキルチオ基としては、好ましくは、炭素数1から30のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n-ヘキサデシルチオ基等が挙げられる。
【0070】
アリールチオ基としては、好ましくは、炭素数6から30のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p-クロロフェニルチオ基、m-メトキシフェニルチオ基等が挙げられる。
【0071】
ヘテロ環チオ基としては、好ましくは、炭素数2から30のヘテロ環チオ基、例えば、2-ベンゾチアゾリルチオ基、1-フェニルテトラゾール-5-イルチオ基等が挙げられる。
【0072】
スルファモイル基としては、好ましくは、炭素数0から30のスルファモイル基、例えば、N-エチルスルファモイル基、N-(3-ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N-ジメチルスルファモイル基、N-アセチルスルファモイル基、N-ベンゾイルスルファモイル基、N-(N‘-フェニルカルバモイル)スルファモイル基等が挙げられる。
【0073】
アルキルスルフィニル基又はアリールスルフィニル基としては、好ましくは、炭素数1から30のアルキルスルフィニル基、6から30のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p-メチルフェニルスルフィニル基等が挙げられる。
【0074】
アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基としては、好ましくは、炭素数1から30のアルキルスルホニル基、6から30のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p-メチルフェニルスルホニル基等が挙げられる。
【0075】
アシル基としては、好ましくは、ホルミル基、炭素数2から30のアルキルカルボニル基、炭素数7から30のアリールカルボニル基、炭素数2から30の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイル基、2-クロロアセチル基、ステアロイル基、ベンゾイル基、p-n-オクチルオキシフェニルカルボニル基、2-ピリジルカルボニル基、2-フリルカルボニル基等が挙げられる。
【0076】
アリールオキシカルボニル基としては、好ましくは、炭素数7から30のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル基、o-クロロフェノキシカルボニル基、m-ニトロフェノキシカルボニル基、p-t-ブチルフェノキシカルボニル基等が挙げられる。
【0077】
アルコキシカルボニル基としては、好ましくは、炭素数2から30のアルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、n-オクタデシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0078】
カルバモイル基としては、好ましくは、炭素数1から30のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N-メチルカルバモイル基、N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジ-n-オクチルカルバモイル基、N-(メチルスルホニル)カルバモイル基等が挙げられる。
【0079】
アリールアゾ基又はヘテロ環アゾ基としては、好ましくは炭素数6から30のアリールアゾ基、炭素数3から30のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ、p-クロロフェニルアゾ、5-エチルチオ-1,3,4-チアジアゾール-2-イルアゾ等が挙げられる。
【0080】
イミド基としては、好ましくは、N-スクシンイミド基、N-フタルイミド基等が挙げられる。
【0081】
一般式(1-a)から一般式(1-x)において、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、カルボキシル基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、シアノ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、カルバモイルオキシ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、又はスルファモイル基が好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、カルボキシル基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、シアノ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、又はスルファモイル基がより好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、カルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、シアノ基、アシルアミノ基、ヒドロキシル基、又はアルコキシ基がさらに好ましい。
【0082】
特定近赤外線吸収剤の吸収ピークが急峻になりやすく、半値幅を適切な範囲に保ち易いという観点から、A及びAは、いずれも、5員環、6員環、及び縮環構造から選ばれる環構造を有する構造、及び、電子吸引性基を有する構造の酸性核に由来する構造が好ましい。環構造のなかでも、飽和の5員環を有する構造がより好ましく、カルボニル基が対照の位置にある飽和の5員環を有する構造がさらに好ましい。
及びAは、それぞれ同じ構造の酸性核に由来するケト体及びエノール体であることが、合成適性の観点から好ましい。
【0083】
一般式(1)において、極大吸収波長の吸収ピークが急峻になりやすい、色価がより高い、及び特定近赤外線吸収剤の耐久性がより高いという観点から、Aは、既述の一般式(1-a)~(1-x)のうち、(1-b)、(1-c)、(1-f)、(1-o)、(1-q)、(1-r)、(1-v)、及び(1-w)からなる群より選ばれる酸性核のケト体であることが好ましく、且つ、Aは、(1-b)、(1-c)、(1-f)、(1-o)、(1-q)、(1-r)、(1-v)、及び(1-w)からなる群より選ばれる酸性核のエノール体であることが好ましく、Aは(1-b)、(1-c)及び(1-q)からなる群より選ばれる酸性核のケト体を表し、且つ、Aは(1-b)、(1-c)及び(1-q)からなる群より選ばれる酸性核のエノール体を表すことがさらに好ましい。
【0084】
一般式(1)において、塩を形成する対カチオンMの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、及びカリウムイオン)及び有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、トリヘキシルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジウムイオン、及びテトラメチルホスホニウム)が含まれる。
対カチオンMとしては、有機カチオンが好ましく、具体的には、テトラアルキルアンモニウムイオン、又はトリアルキルアンモニウムイオンがより好ましい。
【0085】
一般式(1)で表される特定近赤外線吸収剤の例を、その構造を示す一般式と、それぞれの一般式における置換基とを明示することで以下に示す。
なお、本開示における一般式(1)で表される特定近赤外線吸収剤は以下の例に限定されない。
なお、以下に示す各構造式において、Meはメチル基を、Etはエチル基を、Buはブチル基を、Prはプロピル基を、Phはフェニル基を、Hは水素原子を表す。
また、以下に示す各構造式において、1,8-ジアザビシクロウンデセン(1,8-Diazabicyclo(5,4,0)undec-7-ene)はDBUと略記する。
【0086】
オキソノール色素は、下記一般式(1-2)~一般式(1-4)で表される化合物であることが好ましく、一般式(1-2)又は一般式(1-3)で表される化合物がより好ましい。
【0087】
【化6】
【0088】
一般式(1-2)中、Lは、5個又は7個のメチンからなるメチン鎖を表し、Xは、多価金属原子イオンを表す。R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基を表す。
アルキル基、アリール基又はヘテロ環基は一般式(1)におけるアルキル基、アリール基又はヘテロ環基とそれぞれ同義であり、好ましい例も同様である。
【0089】
【化7】
【0090】
一般式(1-3)中、R、R及びRはそれぞれ独立に一価の基を表し、Xは、一般式(1-2)におけるXと同義である。
及びRで表される一価の基は、一般式(1)においてアリール基の置換基として記載のものを挙げることができ、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、アミド基、カルバモイル基又はアシルアミノ基が好ましい。Rで表される一価の基は水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、又は臭素原子)、アリール基(例えば、フェニル基)、ヘテロ環基(例えば、ピリジル基、2-ピリドン環基、又は2,5-ジオキソ-ピロリジン環基)、OR又はSRが好ましい。ここで、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。Rとしては、水素原子、フェニル基又はピリジル基が好ましい。
【0091】
【化8】
【0092】
一般式(1-4)中、R及びRは、それぞれ独立にアリール基を表し、Rは、アルキル基を表す。ただし、R及びRが置換基を有するアリール基の場合、その置換基は、イオン化しうるプロトンを持つことはなく、また塩を形成することはない。
及びRとしてのアリール基は、一般式(1)におけるのと同義である。 オキソノール色素の両末端の環構造に連結するカルコゲン原子は、一般式(1-2)及び一般式(1-3)で表される化合物では酸素原子であり、一般式(1-4)で表される化合物では硫黄原子であり、いずれも好ましい態様である。なかでも、カルコゲン原子は、酸素原子であることがより好ましい。
【0093】
以下、本開示の眼鏡用レンズに使用しうるオキソノール色素の例を挙げるが、本開示は、下記例示化合物に限定されない。
【0094】
【化9】

【0095】
【化10】

【0096】
【化11】

【0097】
【化12】

【0098】
【化13】

【0099】
【化14】

【0100】
(ピロロピロール色素)
本開示の眼鏡用レンズに使用しうる特定近赤外線吸収剤としてのピロロピロール色素としては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0101】
【化15】
【0102】
一般式(2)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。
Ar及びArは、それぞれ独立に、ヘテロアリール基を表す。
及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は一価の置換基を表し、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に一価の置換基を表す。
【0103】
、R、R、R、R及びRが表す置換基としては、酸素原子を含んでもよい炭化水素基、ヘテロアリール基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、メルカプト基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基等が挙げられる。
ヘテロアリール基は、単環又は縮合環が好ましく、単環又は縮合数が2~8の縮合環が好ましく、単環又は縮合数が2~4の縮合環がより好ましい。ヘテロアリール基を構成するヘテロ原子の数は1~3が好ましい。ヘテロアリール基を構成するヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子が好ましい。ヘテロアリール基の炭素数は3~30が好ましく、3~18がより好ましく、3~12がより好ましく、3~5が特に好ましい。ヘテロアリール基は、5員環又は6員環が好ましい。ヘテロアリール基の具体例としては、例えば、イミダゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、トリアジル基、キノリル基、キノキサリル基、イソキノリル基、インドレニル基、フリル基、チエニル基、ベンズオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、ナフトチアゾリル基、ベンズオキサゾリ基、m-カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0104】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基などが挙げられる。
アルキル基の炭素数は、1~40が好ましい。下限は、2以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、4以上が一層好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。アルキル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、直鎖又は分岐が好ましく、分岐が特に好ましい。分岐のアルキル基の炭素数は、3~40が好ましい。下限は、例えば、5以上がより好ましく、8以上が更に好ましく、10以上が一層好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。分岐のアルキル基の分岐数は、例えば、2~10が好ましく、2~8がより好ましい。分岐数が上記範囲であると、色素化合物の溶剤溶解性がより良好となる。
アルケニル基の炭素数は、2~40が好ましい。下限は、例えば、2以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、4以上が一層好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。アルケニル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、直鎖又は分岐が好ましく、分岐が特に好ましい。分岐のアルケニル基の炭素数は、3~40が好ましい。下限は、例えば、5以上がより好ましく、8以上が更に好ましく、10以上が一層好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。分岐のアルケニル基の分岐数は、2~10が好ましく、2~8がより好ましい。分岐数が上記範囲であると、色素化合物の溶剤溶解性がより良好となる。
アリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~20がより好ましく、6~12が更に好ましい。
【0105】
ピロロピロール色素としては、以下に示す化合物が挙げられるが、本開示におけるピロロピロール色素は、以下の例示化合物に限定されない。
【0106】
【化16】

【0107】
【化17】

【0108】
【化18】
【0109】
【化19】

【0110】
【化20】

【0111】
【化21】

【0112】
【化22】
【0113】
(シアニン色素)
本開示の眼鏡用レンズに使用しうる特定近赤外線吸収剤としてのシアニン色素としては、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0114】
【化23】
【0115】
一般式(3)中、Z及びZは、それぞれ独立に、縮環してもよい5員又は6員の含窒素複素環を形成する非金属原子群を表す。R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、又はアラルキル基を表し、Lは5個、7個又は9個のメチン基が二重結合で共役する位置で結合している連結基を表す。a、b及びcは、それぞれ独立に、0又は1であり、xは対アニオンを表す。
【0116】
一般式(3)中、Z及びZは、それぞれ縮環してもよい5員又は6員の含窒素複素環を形成する非金属原子群である。
含窒素複素環及びその縮環の例には、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ナフトオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ナフトチアゾール環、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ナフトイミダゾール環、キノリン環、ピリジン環、ピロロピリジン環、フロピロール環、インドリジン環、イミダゾキノキサリン環、キノキサリン環等が含まれる。含窒素複素環は、6員環より5員環の方が好ましい。5員の含窒素複素環にベンゼン環又はナフタレン環縮合している態様がさらに好ましい。インドレニン環及びベンゾインドレニン環が最も好ましい。
【0117】
含窒素複素環及びそれに縮合している環は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、アルキル基(例、メチル、エチル、又はプロピル)、アルコキシ基(例、メトキシ、又はエトキシ)、アリールオキシ基(例、フェノキシ、又はp-クロロフェノキシ)、ハロゲン原子(Cl、Br、又はF)、アルコキシカルボニル基(例、エトキシカルボニル)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基(塩でもよい)及びカルボキシル基(塩でもよい)が含まれる。
【0118】
及びRは、それぞれアルキル基、アルケニル基、又はアラルキル基である。特にアルキル基が好ましい。アルキル基は炭素原子数1ないし10が好ましく、ハロゲン原子(Cl、Br、又はF)、アルコキシカルボニル基(例、メトキシカルボニル、又はエトキシカルボニル)、ヒドロキシル基、カルボキシル基(塩でもよい)及びスルホ基(塩でもよい)等で置換されていてもよい。アルケニル基の炭素原子数は2ないし10が好ましく、2-ペンテニル、ビニル、アリル、2-ブテニル及び1-プロペニルが含まれる。アルケニル基はアルキル基で述べた置換基で置換されていてもよい。アラルキル基の炭素原子数は7ないし12が好ましく、ベンジル及びフェネチルが含まれる。アラルキル基は、Z及びZで述べた置換基で置換されていてもよい。
【0119】
Lは5個、7個又は9個のメチン基が二重結合で共役する位置で結合している連結基である。メチン基は7個又は9個が好ましく、7個がさらに好ましい。メチン基はメチン基同士が結合して5員又は6員環を形成してもよい。
メチン基は置換基を有していてもよい。置換基を有するメチン基は中央の(メソ位の)メチン基であることが好ましい。置換基の例としては、メチル基、エチル基、メトキシ基、フェノキシ基、ハロゲン原子(Cl、Br、又はF)、アリール基(フェニル、又はナフチルを含み、置換基を有していてもよい。置換基としては、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、フェノキシ、Cl、Br、F、エトキシカルボニル、シアノ、ニトロ等が挙げられる)、-NR(R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、-OR、-SR、SO(Rは水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、ヒドロキシル基又はケトンを挙げることが出来る。
及びRが、それぞれアルキル基、又はアリール基である場合のアルキル基、又はアリール基は、メチン基に導入可能な置換基として例示したアルキル基、又はアリール基と同義である。
【0120】
a、b及びcは、それぞれ0又は1である。cは,一般式(3)において、xで表される対アニオンが存在する場合には1である。また、カルボキシルのようにアニオン性置換基がNと分子内塩を形成する場合にはcは0である。
は対アニオンを表す。対アニオンの例としては、ハライドイオン(Cl、Br、I)、p-トルエンスルホン酸イオン、エチル硫酸イオン、PF 、 BF 、又はClO を挙げることができる。
【0121】
特定近赤外線吸収剤として用い得るシアニン色素を、一般式及びその置換基を示すことにより例示するが、本開示は下記化合物に限定されない。
【0122】
【化24】
【0123】
【化25】
【0124】
【化26】
【0125】
【化27】
【0126】
【化28】
【0127】
【化29】
【0128】
【化30】
【0129】
【化31】
【0130】
(スクアリリウム色素)
本開示の眼鏡用レンズに使用しうる特定近赤外線吸収剤としてのスクアリリウム色素としては、例えば、下記一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0131】
【化32】
【0132】
一般式(4)中、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16及びR17は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はヘテロ環基を表し、R10とR11及び、又はR12とR13及び、又はR13とR14及び、又はR14とR15及び又はR16とR17とは、互いに結合し、5員環又は6員環を形成してもよい。
は酸素原子、又はNR18を、Xは酸素原子又はNR19を、Xは酸素原子又はNR20を、Xは、酸素原子又はNR21を、それぞれ表し、R18、R19、R20及びR21は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はヘテロ環基を表し、R18とR10及び又は、R19とR11及び、又はR20とR16及び、又はR21とR17がお互いに連結して5員環又は6員環を形成してもよい。
22、R23及びR24は、水素原子又は1価の基を表し、nは1から3の整数を、mは0又は1から6の整数を表す。
【0133】
一般式(4)において、R10からR21で表されるアルキル基は、炭素数1から20、より好ましくは炭素数1から12のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、へキシル、又はウンデシル)である。また、ハロゲン原子(F、Cl、又はBr)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、又はエトキシカルボニル)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、フェノキシ、又はイソブトキシ)又はアシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ、ブチリルオキシ、ヘキシリルオキシ、又はベンゾイルオキシ)、スルホ基(塩でもよい)、カルボキシル基(塩でもよい)等で置換されていてもよい。R10からR21で表されるシクロアルキル基は、シクロペンチル、又はシクロヘキシルを挙げることができる。
10からR21で表されるアリール基は、6から12の炭素数のアリール基が好ましく、フェニル基又はナフチル基が挙げられる。アリール基は、置換していてもよい。置換基としては、炭素数1から8のアルキル基(例えば、メチル、エチル、又はブチル)、炭素原子数1から6のアルコキシ基(例えば、メトキシ、又はエトキシ)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、又はp-クロロフェノキシ)、ハロゲン原子(F、Cl、又はBr)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、又はエトキシカルボニル)、アミノ基(例えば、メチルアミノ、アセチルアミノ、又はメタンスルホンアミド)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基(塩でもよい)及びスルホ基(塩でもよい)が含まれる。
10からR21で表されるアラルキル基は、7から12の炭素数を有するアラルキル基が好ましく(例えば、ベンジル、又はフェニルエチル)、置換基(例えば、メチル、メトキシ、又はクロル原子)を有していてもよい。
10からR21で表されるヘテロ環基としては、チエニル、フリル、ピロリル、ピラゾリル、ピリジル、インドリル等を挙げることができる。
22からR24で表される1価の基としては、上記アリール基で述べた置換基を挙げることができる。R10とR11、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R16とR17、R13とR10、R19とR11、R20とR16、R21とR17がお互いに結合しシクロペンタン又はシクロヘキサン環を形成してもよい。mは0又は1~6の整数を表す。一般式(4)で表される化合物は、mが互いに異なる2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0134】
特定近赤外線吸収剤として用い得るスクアリリウム色素を、具体例〔(G-1)及び(G-2)〕として例示する。さらに、下記一般式及びその置換基を示すことにより例示する〔(G-3)~(G-15)〕。なお、本開示における特定近赤外線吸収剤としてのスクアリリウム色素は下記例示化合物に限定されない。
【0135】
【化33】
【0136】
【化34】
【0137】
【化35】

【0138】
【化36】
【0139】
【化37】

【0140】
上記特定近赤外線吸収剤のなかでも、極大吸収波長などの物性及び樹脂との相溶性の観点からは、一般式(1)で表されるオキソノール色素、一般式(2)で表されるピロロピロール色素、及び一般式(3)で表されるシアニン色素から選ばれる少なくとも1種が好ましく、オキソノール色素及びピロロピロール色素から選ばれる少なくとも1種よりが好ましい。
【0141】
より具体的には、ピロロピロール色素としては、上記例示化合物中、(D-1)、(D-28)、(D-35)、(D-32)等が好ましく、シアニン色素としては、上記例示化合物中、(E-1)、(E-13)、(E-21)、(E-25)等が好ましく、スクアリリウム色素としては、(G-1)、(G-5)、(G-7)等が好ましく、オキソノール色素としては、(F-1)、(F-53)等が好ましい。
【0142】
本開示の眼鏡用レンズは、特定近赤外線吸収剤を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
広範な領域の近赤外光を吸収しうると言う観点からは、本開示の眼鏡用レンズは、特定近赤外線吸収剤を少なくとも2種含むことが好ましい。
【0143】
本開示の眼鏡用レンズ中における特定近赤外線吸収剤の含有率は、特に制限されない。含有率の例を挙げれば、例えば、樹脂の全質量に対して、0.01質量%~1.0質量%であることが好ましく、0.01質量%~0.5質量%であることがより好ましく、0.01質量%~0.1質量%であることが更に好ましい。
本開示の眼鏡用レンズ中における特定近赤外線吸収剤の含有率が上記範囲内であると、樹脂との相溶性がより良好となるため、特定近赤外線吸収剤が樹脂中に析出し難く、ヘイズの上昇が生じ難い。
特定近赤外線吸収剤は、700nmを超え1000nm以下の波長領域におけるモル吸光係数が高いため、本開示の眼鏡用レンズ中における含有率が上記範囲内であっても、上記波長領域の近赤外光を良好に遮断することができる。
【0144】
上記の如き特定近赤外線吸収剤を含む本開示の眼鏡用レンズは、波長400nmから700nmの範囲における光の透過率が80%以上100%以下であることが好ましく、85%以上100%以下であることがより好ましい。
波長400nmから700nmの範囲の光の透過率が高いほど、眼鏡用レンズの着色が小さくなり、上記透過率が低いほど、着色が大きくなる。このため、眼鏡用レンズの波長400nmから700nmの範囲の光の透過率を上記範囲とすることにより、眼鏡用レンズを介して対象物を視認した場合の色味の変化をより感じ難くなる。
【0145】
〔眼鏡用レンズ用樹脂〕
本開示の眼鏡用レンズは、樹脂を含有する。
樹脂としては、眼鏡用レンズに求められる透明性、屈折率、加工性、硬化後の硬度等の物性を満たす樹脂であれば、特に制限はない。樹脂は、熱可塑性樹脂(例えば、ポリカーボネート樹脂)であってもよいし、熱硬化性樹脂(例えば、ウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂)であってもよい。
【0146】
樹脂としては、ウレタン樹脂が好ましく、ウレタン樹脂としては、チオウレタン樹脂がより好ましい。
チオウレタン樹脂及びエピスルフィド樹脂は、高い屈折率を有する眼鏡用レンズの材料として広く用いられているが、従来の眼鏡用レンズに用いられている近赤外線吸収剤(例えば、ベンゾトリアゾール系近赤外線吸収剤)との相溶性が悪く、近赤外線吸収剤が析出しやすい樹脂である。
本開示の眼鏡用レンズは、樹脂としてチオウレタン樹脂及びエピスルフィド樹脂を含有する場合であっても、特定近赤外線吸収剤と樹脂との相溶性が良好であり、近赤外線吸収剤の析出が抑制されるため、経時によるヘイズの上昇が抑制され、レンズを介して対象物を視認した際に色味の変化を感じ難い。
従って、本開示の眼鏡用レンズに含まれる樹脂は、チオウレタン樹脂及びエピスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
なお、本開示の眼鏡用レンズの樹脂として好適なチオウレタン樹脂及びエピスルフィド樹脂の詳細については、特開2009-256692号公報、特開2007-238952号公報、特開2009-74624号公報、特開2015-212395号公報、及び特開2016-84381号公報の記載を参照することができる。
【0147】
樹脂としては、市販の樹脂を用いることができる。
樹脂の市販品の例としては、パンライト(登録商標)L-1250WP〔商品名、芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー、帝人化成(株)〕、SP-1516〔商品名、帝人化成(株) EP5000、三菱瓦斯化学(株)〕、EP4000〔商品名、三菱瓦斯化学(株)〕等が挙げられる。
樹脂は、市販の樹脂の前駆体モノマーを用いて形成された樹脂であってもよい。
樹脂の前駆体モノマーの市販品の例としては、チオウレタン樹脂の前駆体モノマーである、MR-7(登録商標)(屈折率n=1.67)、MR-8(登録商標)(屈折率n=1.60)、MR-10(登録商標)(屈折率n=1.67)、MR-174(登録商標)(屈折率n=1.74)〔以上商品名、三井化学(株)〕等が挙げられる。また、ルミプラスLPB-1102(登録商標)(屈折率n=1.71)〔以上商品名、三菱化学(株)〕等が挙げられる。
【0148】
本開示の眼鏡用レンズは、樹脂を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0149】
本開示の眼鏡用レンズ中における樹脂の含有率は、特に制限されず、例えば、眼鏡用レンズの全質量に対して、20質量%以上100質量%未満であることが好ましく、30質量%以上100質量%未満であることがより好ましく、50質量%以上100質量%未満であることが更に好ましい。
本開示の眼鏡用レンズ中における樹脂の含有率が上記範囲内であると、軽量で、かつ薄いレンズが作成できる。
【0150】
〔その他の近赤外線吸収剤〕
本開示の眼鏡用レンズは、既述の特定近赤外線吸収剤以外の近赤外線吸収能を有する化合物(以下、「その他の近赤外線吸収剤」ともいう。)を含有していてもよい。
本開示の眼鏡用レンズは、その他の近赤外線吸収剤を含有することにより、近赤外線領域の広い範囲において、近赤外光を遮断し得る。
その他の近赤外線吸収剤としては、眼鏡用レンズに用いられる公知の近赤外線吸収剤であれば、特に制限はない。
その他の近赤外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ジベンゾイルメタン系化合物、桂皮酸系化合物、アクリレート系化合物、安息香酸エステル系化合物、シュウ酸ジアミド系化合物、ホルムアミジン系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、メロシアニン系化合物等の近赤外線吸収剤が挙げられる。
これらの近赤外線吸収剤の詳細については、例えば、「月刊ファインケミカル」2004年5月号、28ページ~38ページ、東レリサーチセンター調査研究部門発行「高分子用機能性添加剤の新展開」(東レリサーチセンター、1999年)96ページ~140ページ、大勝靖一監修「高分子添加剤の開発と環境対策」(シーエムシー出版、2003年)54ページ~64ページ、(株)技術情報協会発行「高分子の劣化・変色メカニズムとその安定化技術-ノウハウ集-」(技術情報協会、2006年)等の記載を参照することができる。
ベンゾオキサジノン系化合物の具体例としては、例えば、特許第5591453号公報及び特許第5250289号公報に記載の化合物が挙げられる。
既述の特定近赤外線吸収剤は、波長350nm以下の光を吸収しないため、その他の近赤外線吸収剤としては、近赤外線領域の広い範囲において近赤外光を遮断するという観点から、例えば、極大吸収波長が350nm以下の近赤外線吸収剤であることが好ましい。
【0151】
本開示の眼鏡用レンズは、その他の近赤外線吸収剤を含有する場合、その他の近赤外線吸収剤を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0152】
本開示の眼鏡用レンズがその他の近赤外線吸収剤を含有する場合、眼鏡用レンズ中におけるその他の近赤外線吸収剤の含有率は、選択される近赤外線吸収剤の種類によって、適宜設定される。
一般的には、本開示の眼鏡用レンズ中におけるその他の近赤外線吸収剤の含有率は、その他の近赤外線吸収剤1種類あたり、樹脂の全質量に対して、0.01質量%~1.0質量%であることが好ましい。
【0153】
本開示の中におけるその他の近赤外線吸収剤の総含有率は、特に制限されず、例えば、樹脂の全質量に対して、0.01質量%~10質量%であることが好ましく、0.05質量%~5質量%であることがより好ましく、0.1質量%~1質量%であることがさらに好ましい。
【0154】
本開示の眼鏡用レンズ中におけるその他の近赤外線吸収剤の合計含有率が上記範囲内であると、ヘイズが発生したり、黄色味を帯びたりすることを抑制しつつ、広い範囲の近赤外線領域の近赤外光を良好に遮断し得る。
【0155】
〔紫外線吸収剤〕
本開示の眼鏡用レンズは、太陽光、蛍光灯などに含まれる紫外線の目に対する影響を低減するため、紫外線吸収剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。
眼鏡用レンズに使用しうる紫外線吸収剤には特に制限はなく、400nm以下の波長域に極大吸収を有する紫外線吸収剤であれば目的に応じて使用することができる。眼鏡用レンズに好適であるという観点からは、可視光域の光の透過率が高い紫外線吸収剤が好ましい。
紫外線吸収剤としては、メロシアニン系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、ベンゾチラン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられ、より長波長側の紫外線を吸収し、かつ、黄色味が小さく、眼鏡用レンズとの相溶性が高く、経時における析出が小さいという観点から、メロシアニン系化合物、及びベンゾチラン系化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
本開示の眼鏡用レンズには、紫外線吸収剤を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
本開示の眼鏡用レンズが紫外線吸収剤を含む場合の紫外線吸収剤の含有率は、特に制限されず、目的に応じて選択できる。
一般的には、例えば、眼鏡用レンズに含まれる樹脂100質量部に対して、0.01質量部~10質量部の範囲で用いることができ、0.05質量部~5質量部であることが好ましく、0.1質量部~2質量部であることがより好ましい。
【0156】
〔その他の成分〕
本開示の眼鏡用レンズは、既述した成分以外の成分(所謂、他の添加剤)を含んでいてもよい。
他の添加剤としては、可塑剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)、染料、内部離型剤、消臭剤等が挙げられる。
【0157】
〔眼鏡用レンズの製造方法〕
本開示の眼鏡用レンズの製造方法は、既述の本開示の眼鏡用レンズを製造できればよく、特に制限されるものではない。
例えば、眼鏡用レンズに含有される樹脂が熱可塑性樹脂の場合、本開示の眼鏡用レンズは、樹脂と、特定近赤外線吸収剤と、必要に応じて、任意成分であるその他の近赤外線吸収剤と、その他の添加剤と、を含む樹脂組成物を、溶融押出機を用いてペレット状に成形し、得られたペレット状の樹脂組成物を用いて、射出成形法等の公知の成形法を適用することにより製造することができる。
例えば、眼鏡用レンズに含有される樹脂が熱硬化性樹脂の場合、本開示の眼鏡用レンズは、樹脂の前駆体であるモノマーと、特定近赤外線吸収剤と、重合触媒(例えば、ジブチルスズジクロリド)と、必要に応じて、任意成分であるその他の近赤外線吸収剤と、その他の添加剤と、を含む樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物をモールド内に充填し、加熱して硬化させることにより製造することができる。
【0158】
[眼鏡]
本開示の眼鏡は、既述の本開示の眼鏡用レンズを備える。
すなわち、本開示の眼鏡は、既述の本開示の眼鏡用レンズを適切な眼鏡フレームに装着した構成を有する。
本開示の眼鏡によれば、少なくとも700nmを超え1000nm以下の波長領域の近赤外光を遮断することができるので、画像表示装置のディスプレイを見る作業等を長時間行った場合の眼の疲労の軽減が期待できる。
また、本開示の眼鏡によれば、レンズを介して対象物を視認した際に色味の変化を感じ難い。
【実施例
【0159】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されない。
下記実施例及び比較例に用いた特定近赤外線吸収剤及び比較近赤外線吸収剤をチオウレタン樹脂(MR-7由来の樹脂)中に含有させて測定した極大吸収波長及び半値幅を以下に示す。
まず、測定用試料を作製する。
チオウレタン樹脂としては、チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)(屈折率n=1.67)〔商品名、三井化学(株)〕を重合して得られるチオウレタン樹脂を用いた。
測定用試料としては、チオウレタン樹脂前駆体モノマー100質量部に対して、0.05質量部の近赤外線吸収剤及び、重合触媒であるジブチルスズジクロリド0.01質量部を混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mm、幅100mm、長さ50mmの樹脂評価用の試料を作製する。得られた試料の厚さ方向を、吸光度を測定する光路とした。
測定装置は、(株)島津製作所、紫外可視近赤外分光光度計 型番:UV 3150を用い、測定は室温(25℃)にて行い、測定条件として、空気をコントロールとして参照して吸光度を測定し、吸収スペクトルを得た。
所定の波長範囲の波長の吸光度を測定することで、極大吸収波長、透過率などを算出することができる。
【0160】
[近赤外線吸収剤の物性]
(近赤外域の極大吸収波長)
得られた試料を用い、700nmから1000nmの範囲における吸光度を測定し、極大吸収波長を求めた。測定装置は、(株)島津製作所、紫外可視近赤外分光光度計 型番:UV 3150を用い、室温(25℃)に測定を行い、測定条件として、空気をコントロールとして参照して吸光度を測定した。その結果、吸光度の最も高い波長を極大吸収波長とした。
【0161】
(波長400nm及び波長700nmの光の透過率)
得られた試料を用い、400nm及び波長700nmの波長の吸光度を測定し、吸光度から当該波長の光の透過率を求めた。測定装置は、極大吸収波長の測定と同様の装置を用い、同様の条件で実施した。
【0162】
(近赤外域の半値幅)
得られた試料を用い、波長700nmから波長1000nmの範囲における吸光度を測定し、極大吸収帯の半値幅を求めた。測定装置は、極大吸収波長の測定と同様の装置を用いた。
測定された半値幅の値が小さいほど、特定の波長の近赤外光を効率的に遮蔽できることを示す。結果を表1に示す。
【0163】
(Lxy座標のx値及びy値)
得られた試料を用い、分光測色計、X-rite eXact(エックスライト社製)にて、Lxy座標のx値及びy値を求めた。結果を表1に示す。
【0164】
(極大吸収波長における吸光度に対する極大吸収波長より100nm短波長側における吸光度の比率)
得られた試料を用い、極大吸収波長(Amax)における吸光度に対する、極大吸収波長より100nm短波長側(Amax-100)における吸光度の比率(下記式により算出されるD)を求めた。測定結果を表1に示す。
〔式〕
D=〔(極大吸収波長より100nm短波長側における吸光度)/(極大吸収波長における吸光度)〕=〔(Amax-100)/(Amax)〕
【0165】
【表1】

【0166】
表1に記載の結果より、本開示の眼鏡用レンズに用いる特定近赤外線吸収剤は、いずれも、700nmを超え1000nm以下の範囲に極大吸収波長を有し、極大吸収波長の透過率が低いため、目的とする近赤外線の遮断性に優れることが分かる。また、波長400nm及び100nmの光の透過率が高く、半値幅が狭いために、可視光域の光の透過性が良好であった。
さらに、特定近赤外線吸収剤のLxy座標のx値及びy値xの測定結果より、色味がニュートラルであり、眼鏡用レンズに適用した場合の、装着時における観察対象物の色味についての違和感がより少なくなることが期待できる。
表1より、特定近赤外線吸収剤は、極大吸収波長における吸光度に対する極大吸収波長より100nm短波長側における吸光度の比率Dが小さく、特定波長の近赤外光を効率よく遮断すると同時に、極大吸収波長より短波長側の可視域の光の透過性が高いことがわかる。
【0167】
[眼鏡用レンズの作製]
(実施例1)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-8(登録商標)〔商品名、屈折率:1.60、三井化学(株)〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-1を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0168】
図1は、実施例1で用いた特定近赤外線吸収剤であるピロロピロール色素(D-1)の、既述の装置により得た吸収スペクトルを示すグラフである。図1に示すように、特定近赤外線吸収剤(D-1)は,波長900nm近傍に急峻な極大吸収ピークを示し、半値幅が狭いことが分かる。
【0169】
(実施例2)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株)〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-1を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0170】
(実施例3)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株)〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-28を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0171】
(実施例4)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株)〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-35を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0172】
(実施例5)
ポリカーボネート樹脂であるパンライト(登録商標)L-1250WP〔商品名、ビスフェノールとホスゲンとから界面縮重合法により製造された芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー、粘度平均分子量:24,000、帝人化成(株)〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-35を0.1質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを、ブレンダーを用いて混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、ベント式二軸押出機を用いて溶融混練し、ペレットを得た。
なお、ベント式二軸押出機には、(株)日本製鋼所のTEX30α(仕様:完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を用いた。混練ゾーンは、ベント口の手前〔上流側〕に1箇所のタイプとした。押出条件は、吐出量を30kg/hrとし、スクリュー回転数を150rpm(round per minute)とし、ベントの真空度を3kPaとし、第1供給口からダイズ部分までの押出温度を280℃とした。得られたペレットを120℃で5時間、熱風循環式乾燥機を用いて乾燥させた後、射出成形機(射出条件:シリンダー温度340℃、金型温度80℃)を用いて、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0173】
(実施例6)
エピスルフィド樹脂の前駆体として、ビス-βエピチオプロピルジスルフィド100質量部と4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン10質量部、既述の特定近赤外線吸収剤D-35を0.05質量部と、重合触媒であるN,N-ジメチルシクロヘキシルアミンを0.01質量部とを、ブレンダーを用いて混合し、得られた混合物をモールド内に充填した後、30℃で8時間放置し、次に100℃で10時間硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0174】
(実施例7)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株)〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-35を0.05質量部と、下記紫外線吸収剤(メロシアニン系化合物)UV-1を0.1質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0175】
【化38】
【0176】
(実施例8)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株)〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-35を0.05質量部と、下記紫外線吸収剤(ベンゾオキサジノン系化合物)UV-2を0.1質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
下記「UV-2」の構造において「Me」はメチル基を表す。
【0177】
【化39】
【0178】
(実施例9)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株)〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-35を0.05質量部と、下記紫外線吸収剤(ベンゾジチラン系化合物)UV-3を0.1質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド(即ち、成形型)内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
下記「UV-3」の構造において「t-Bu」はターシャリブチル基を表す。
【0179】
【化40】

【0180】
(実施例10)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株)〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-35を0.05質量部と、下記紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系化合物)UV-4を0.1質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
下記「UV-4」の構造において「t-Bu」はターシャリブチル基を表す。
【0181】
【化41】

【0182】
(実施例11)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-8(登録商標)〔商品名、屈折率:1.60、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤E-1を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0183】
図2は、実施例11で用いた特定近赤外線吸収剤であるシアニン色素(E-1)の、既述の装置により得た吸収スペクトルを示すグラフである。図2に示すように、特定近赤外線吸収剤(E-1)は、波長700nm~800nm近傍に急峻な極大吸収ピークを示し、半値幅が狭いことが分かる。
【0184】
(実施例12)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤E-13を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0185】
(実施例13)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤E-13を0.05質量部と、紫外線吸収剤UV-1を0.1質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0186】
(実施例14)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤E-21を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0187】
(実施例15)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤G-13を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0188】
図3は、実施例15で用いた特定近赤外線吸収剤であるスクアリリウム色素(G-13)の、既述の装置により得た吸収スペクトルを示すグラフである。図3に示すように、特定近赤外線吸収剤(G-13)、波長700nm~800nm近傍に急峻な極大吸収ピークを示し、半値幅が狭いことが分かる。
【0189】
(実施例16)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤G-13を0.05質量部と、紫外線吸収剤UV-1を0.1質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0190】
(実施例17)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤F-53を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0191】
(実施例18)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-8(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤F-53を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0192】
(実施例19)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤F-53を0.05質量部と、紫外線吸収剤UV-1を0.1質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0193】
図4は、実施例19で用いた特定近赤外線吸収剤であるオキソノール色素(F-53)の、既述の装置により得た吸収スペクトルを示すグラフである。図4に示すように、特定近赤外線吸収剤(F-53)は、波長650nm~750nm近傍に急峻な極大吸収ピークを示し、半値幅が狭いことが分かる。
【0194】
(実施例20)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株))〕を100質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-1を0.05質量部と、既述の特定近赤外線吸収剤D-35を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
【0195】
(比較例1)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株)〕を100質量部と、下記比較近赤外線吸収剤H-1を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
比較近赤外線吸収剤H-1は、フタロシアニン系近赤外線吸収剤である。
【0196】
【化42】
【0197】
図5は、比較例1で用いた比較近赤外線吸収剤であるフタロシアニン色素(H-1)の、既述の装置により得た吸収スペクトルを示すグラフである。図5に示すように、比較近赤外線吸収剤(H-1)は、波長700nm~900nmに極大吸収ピークを示すが、複数のピークを有し、半値幅が広いことが分かる。このことから、比較近赤外線吸収剤(H-1)は、複数の振動モードを有すると推定される。
【0198】
(比較例2)
チオウレタン樹脂の前駆体モノマーであるMR-7(登録商標)〔商品名、屈折率:1.67、三井化学(株)〕を100質量部と、下記比較近赤外線吸収剤H-2を0.05質量部と、重合触媒であるジブチルスズジクロリドを0.01質量部とを混合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をモールド内に充填した後、130℃で2時間加熱し、硬化させることにより、厚さ2mmの眼鏡用レンズを作製した。作製した眼鏡用レンズは、目視にて確認したところ、透明であることが確認された。
比較近赤外線吸収剤H-2は、ジインモニウム系近赤外線吸収剤である。
【0199】
【化43】
【0200】
図6は、比較例2で用いた比較近赤外線吸収剤であるジインモニウム色素(H-2)の、既述の装置により得た吸収スペクトルを示すグラフである。図6に示すように、比較近赤外線吸収剤(H-2)は、波長1000nm~1200nmの、やや長波長側に極大吸収ピークを示し、複数のピークを有し、且つ、半値幅が広いことが分かる。このことから、比較近赤外線吸収剤(H-2)は、近赤外光の遮断性が低く、且つ、複数の振動モードを有すると推定される。
【0201】
[眼鏡の作製]
実施例1~実施例20、比較例1~比較例2の各眼鏡用レンズを、それぞれ眼鏡フレームに装着し、眼鏡を作製した。
【0202】
[評価]
1.対象物の色味の変化の有無
評価モニター2名に、作製した眼鏡を装着してもらい、画像表示装置のディスプレイに表示された画像を視認してもらった。そして、眼鏡用レンズを介して画像を視認した際に、装着の前後において色味の変化を感じるか否かを評価してもらった。
その結果、実施例1~実施例20の眼鏡用レンズを備える眼鏡を装着した2名の評価モニターは、いずれも色味の変化がほとんど感じられない(「なし」)と評価した。これは、眼鏡用レンズにおける黄味の着色がないことによると考えられる。
一方、比較例1~比較例2の眼鏡用レンズを備える眼鏡を装着した2名の評価モニターは、いずれも色味の変化を感じる(「あり」)と評価した。
【0203】
2.近赤外域の透過率
実施例1~実施例20及び比較例1~比較例2で作製した眼鏡用レンズの波長700nmを超え1000nm以下の範囲における透過率を測定し、極大吸収波長における透過率を求めた。測定装置には、(株)島津製作所、紫外可視近赤外分光光度計(型番:UV 3150)を用いた。測定された透過率の値が小さいほど、眼鏡用レンズの近赤外光の遮蔽性が高いことを示す。結果を表2~表3に示す。
【0204】
3.可視域の光の透過率
実施例1~実施例20及び比較例1~比較例2で作製した眼鏡用レンズの波長400nm~700nmまでの光の透過率を測定し、その平均を求めた。測定装置には、(株)島津製作所、紫外可視近赤外分光光度計(型番:UV 3150)を用いた。測定された透過率の値が高いほど、波長400nm~700nmまでの光が透過するため、眼鏡用レンズの着色が小さいことを示す。結果を表2~表3に示す。
【0205】
4.色価(モル吸光係数/分子量)
モル吸光係数は、2.近赤外域の透過率での測定結果に関して、特定化合物のモル数と透過率の関係からランベルトベールの法則に従って算出した。得られたモル吸光係数と特定化合物の分子量から色価=モル吸光係数/分子量を算出した。
【0206】
5.ヘイズ
実施例1~実施例20及び比較例1~比較例2で作製した眼鏡用レンズのヘイズを測定した。測定装置には、日本電色工業(株)のヘイズメーター(型番:NDH 7000)を用いた。測定されたヘイズの値が低いほど、眼鏡用レンズは透明性に優れることを示す。結果を表2~表3に示す。
【0207】
6.耐光性
実施例1~実施例20及び比較例1~比較例2で作製した眼鏡用レンズの耐光性を評価した。まず、眼鏡用レンズの波長700nmを超え1000nm以下の範囲における極大吸収波長における透過率を、(株)島津製作所、紫外可視近赤外分光光度計(型番:UV 3150)を用いて測定した。
次いで、超促進耐候性試験機〔製品名:アイ スーパーUVテスター、岩崎電気(株)〕を用いて、眼鏡用レンズに対して、メタルハライドランプ(約290nm以下カット)の光を、照度90mW/cm、温度63℃、相対湿度50%の条件で、60時間照射した。光照射後、眼鏡用レンズの波長400nmにおける光の透過率を、上記と同様に、(株)島津製作所、紫外可視近赤外分光光度計(型番:UV 3150)を用いて測定した。
光照射前後の極大吸収波長における透過率の変化の幅を算出し、変化の幅が10%未満の場合を耐光性が「特に良好」であると評価し、変化の幅が10%以上15%未満の場合を耐光性が「良好」であると評価し、変化の幅が15%以上の場合を耐光性が「不良」であると評価した。結果を表2~表3に示す。
【0208】
7.着色(黄色味の評価)
実施例1~実施例20及び比較例1~比較例2で作製した眼鏡用レンズを白い紙の上に配置した。評価モニター1名に、紙上の眼鏡用レンズを目視にて観察してもらい、眼鏡用レンズに着色があるか否か、特に黄色味を感じるか否かを評価してもらった。結果を表2~表3に示す。
【0209】
8.眼の疲れ
実施例1~実施例20及び比較例1~比較例2で得た眼鏡用レンズを備えた各眼鏡について、評価モニター2名に眼鏡を装着させ、画像表示装置のディスプレイを3時間連続して眺めた後、眼の疲れを感じるか否かの評価を行った。
その結果、実施例1~実施例20の眼鏡用レンズを備える眼鏡を装着した2名の評価モニターは、いずれも眼の疲れが感じられない(「なし」)と評価した。
一方、比較例1~比較例2の眼鏡用レンズを備える眼鏡を装着した2名の評価モニターは、いずれも眼の疲れを感じる(「あり」)と評価した。
【0210】
【表2】
【0211】
【表3】
【0212】
表2~表3に示すように、実施例1~実施例20の眼鏡用レンズは、比較例1及び比較例2の眼鏡用レンズと比較して、近赤外域における透過率の値が低く、半値幅が小さいため、特定の波長の近赤外光の遮蔽性に優れていることが確認された。
また、実施例1~実施例20の眼鏡用レンズは、比較例1~比較例2の眼鏡用レンズと比較して、ヘイズの値が低く、透明性に優れていることが確認された。
さらに、実施例1~実施例20の眼鏡用レンズは、比較例1~比較例2の眼鏡用レンズと比較して、耐光性に優れ、着色を帯び難いことも確認された。
実施例1~実施例20の眼鏡用レンズを備えた眼鏡は、画像表示装置のディスプレイを長時間目視した場合の目の疲れが、比較例1及び比較例2の眼鏡用レンズを備えた眼鏡に比較して、軽減され、目の疲れを感じ難いことが分かる。
【0213】
2018年9月5日に出願された日本国特許出願2018-166423の開示は参照により本開示に取り込まれる。
本開示に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本開示中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6