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特許7123168動物細胞、動物細胞の製造方法および目的タンパク質の製造方法
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  • 特許-動物細胞、動物細胞の製造方法および目的タンパク質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】動物細胞、動物細胞の製造方法および目的タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20220815BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220815BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12N5/10
C12P21/02 C
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020559242
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2019048216
(87)【国際公開番号】W WO2020122049
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2018231592
(32)【優先日】2018-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕也
(72)【発明者】
【氏名】松浦 達也
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-527009(JP,A)
【文献】特表2018-509904(JP,A)
【文献】国際公開第2009/054433(WO,A1)
【文献】特開2006-230252(JP,A)
【文献】HATANAKA, T., et al.,Amino acid transporter ATA2 is stored at the trans-Golgi network and released by insulin stimulus in,The Journal of Biological Chemistry,2006年,Vol.281, No.51,pp.39273-39284
【文献】DatabaseDDBJ/EMBL/GenBank [online],[retrieved on 2022-05-06],2001年04月23日,Accession No.AF259799,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF259799
【文献】CLONTECH Laboratories Inc.,pEGFP-C2 Vector Information,1997年,http://www.yrgene.com/documents/vector/pegfp-c2mapmcs.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的タンパク質をコードする遺伝子と選択可能なマーカーをコードする遺伝子とが導入され、さらにSNAT2をコードする外来遺伝子であってプロモーターに連結された外来遺伝子を有し、前記SNAT2が過剰発現している、動物細胞。
【請求項2】
目的タンパク質が組み換え分泌ポリペプチド鎖である、請求項1に記載の動物細胞。
【請求項3】
目的タンパク質をコードする遺伝子と、SNAT2をコードする外来遺伝子であってプロモーターに連結された外来遺伝子とが、それぞれ発現ベクターに組み込まれた形で、宿主である動物細胞に導入された、請求項1または2に記載の動物細胞。
【請求項4】
選択可能なマーカーが薬剤に耐性を与えるものである、請求項1から3のいずれか1項に記載の動物細胞。
【請求項5】
目的タンパク質をコードする遺伝子と選択可能なマーカーをコードする遺伝子とが同一の発現ベクターにおいて導入されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の動物細胞。
【請求項6】
過剰発現が恒常的である、請求項1から5の何れか一項に記載の動物細胞。
【請求項7】
SNAT2をコードする外来遺伝子が、配列番号1に記載の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を有する、請求項1から6の何れか一項に記載の動物細胞。
【請求項8】
SNAT2をコードする外来遺伝子が、配列番号1に記載の塩基配列を含む、請求項1から7の何れか一項に記載の動物細胞。
【請求項9】
動物細胞がCHO細胞である、請求項1からの何れか一項に記載の動物細胞。
【請求項10】
動物細胞に対して、目的タンパク質をコードする遺伝子と、選択可能なマーカーをコードする遺伝子と、SNAT2をコードする外来遺伝子であってプロモーターに連結された外来遺伝子とを導入する工程を含む、請求項1からの何れか一項に記載の動物細胞の製造方法。
【請求項11】
SNAT2をコードする外来遺伝子であってプロモーターに連結された外来遺伝子を導入する工程が、エレクトロポレーションにより行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1からの何れか一項に記載の動物細胞を培養することを含む、目的タンパク質の製造方法。
【請求項13】
培養が、フェドバッチ培養である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
細胞培養の播種細胞密度が0.2×10cells/mL以上5×10cells/mL以下である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
培養期間中の生細胞率が全期間において60%以上である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
培養が、灌流培養である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
細胞培養の播種細胞密度が0.2×10cells/mL以上1×10cells/mL以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
培養期間中の生細胞率が全期間において90%以上である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的タンパク質を発現する動物細胞に関する。本発明は、上記動物細胞の製造方法、および上記動物細胞を使用した目的タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体などのバイオ医薬品の製造においては、抗体の生産性を向上するため、培養液に栄養を追添加することで細胞の状態を良化させるフェドバッチ培養がよく用いられている。また、抗体などのバイオ医薬品の製造においては、抗体の生産性を向上するため、培養液を連続的に濾過および排出し、一方で栄養成分を含むフレッシュな培地を連続的に培養槽に供給する、灌流培養法がよく用いられている。
【0003】
特許文献1には、タンパク質を高い生産量で製造することができる方法として、アラニンアミノトランスフェラーゼを強発現し、かつ所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した細胞を培養し、所望のポリペプチドを産生させることを含む、ポリペプチドの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2009/020144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フェドバッチ培養においては、栄養を追添加しない場合に比べ、より高密度の細胞密度で長期間の細胞培養が可能になるが、細胞から分泌される老廃物の蓄積の影響で培養後半の細胞生存率が低下するため、培養期間延長によって産物が増やせないという問題がある。
また、灌流培養法において細胞を高密度で培養するためには、栄養の供給および老廃物を系外に排出する目的で、1日当たり、培養体積の1~3倍量の培地の回収および供給が必要であるため、培養コストが高くなることが問題である。
【0006】
本発明は、目的タンパク質を高い生産性で製造することができる動物細胞を提供することを解決すべき課題とする。本発明はさらに、上記動物細胞の製造方法、および上記動物細胞を使用した目的タンパク質の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、SNAT2(Sodium-dependent neutral amino acid transporter-2 )遺伝子(遺伝子名はSLC38A2)をCHO細胞に強制発現させることによりタンパク質の生産量に影響し、その結果として、抗体生産性(Qp)の向上及び抗体生産量の向上を達成することができた。本発明は、上記の知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> 目的タンパク質をコードする遺伝子と、SNAT2をコードする外来遺伝子であってプロモーターに連結された外来遺伝子とを有し、上記SNAT2が過剰発現している、動物細胞。
<2> 過剰発現が恒常的である、<1>に記載の動物細胞。
<3> SNAT2をコードする外来遺伝子が、配列番号1に記載の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を有する、<1>または<2>に記載の動物細胞。
<4> SNAT2をコードする外来遺伝子が、配列番号1に記載の塩基配列を含む、<1>から<3>の何れか一に記載の動物細胞。
<5> 動物細胞がCHO細胞である、<1>から<4>の何れか一に記載の動物細胞。
<6> 動物細胞に対して、目的タンパク質をコードする遺伝子と、SNAT2をコードする外来遺伝子であってプロモーターに連結された外来遺伝子とを導入する工程を含む、<1>から<5>の何れか一に記載の動物細胞の製造方法。
<7> SNAT2をコードする外来遺伝子であってプロモーターに連結された外来遺伝子を導入する工程が、エレクトロポレーションにより行われる、<6>に記載の方法。
<8> <1>から<5>の何れか一に記載の動物細胞を培養することを含む、目的タンパク質の製造方法。
<9> 培養が、フェドバッチ培養である、<8>に記載の方法。
<10> 細胞培養の播種細胞密度が0.2×10cells/mL以上5×10cells/mL以下である、<9>に記載の方法。
<11> 培養期間中の生細胞率が全期間において60%以上である、<10>に記載の方法。
<12> 培養が、灌流培養である、<8>に記載の方法。
<13> 細胞培養の播種細胞密度が0.2×10cells/mL以上1×10cells/mL以下である、<12>に記載の方法。
<14> 培養期間中の生細胞率が全期間において90%以上である、<13>に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の動物細胞によれば、目的タンパク質を高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、遺伝子導入後の細胞の培養上清における抗体濃度を測定した結果を示す。
図2図2は、遺伝子導入後の細胞の培養上清における細胞あたりの抗体生産性(Qp)を測定した結果を示す。
図3図3は、遺伝子導入後の細胞サイズを測定した結果を示す。
図4図4は、培養期間の積算生細胞数を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、詳細に説明する。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味する。
【0012】
[動物細胞]
本発明の動物細胞は、目的タンパク質をコードする遺伝子と、SNAT2をコードする外来遺伝子であってプロモーターに連結された外来遺伝子とを有し、上記SNAT2が過剰発現している、動物細胞である。
【0013】
マウス肝臓においてSNAT2遺伝子発現がmTORC1/S6Kパスウェイを活性化することから(Nature Communications 6, Article number:7940(2015))、SNAT2遺伝子の発現とmTOR遺伝子の発現の関連性が示唆される。ラット細胞においてはmTORの活性化により細胞増殖が抑えられ細胞サイズが大きくなることが報告されている(Genes Dev. 2002 Jun 15; 16(12):1472-1487)。また、細胞サイズが大きいほどタンパク質産物の生産量が多くなる(Cytotechnology 34:59-70,2000)ことが示されている。しかしながら、SNAT2遺伝子発現と組み換えタンパク質の生産量との関係は不明である。
【0014】
特許文献1においては、アラニンアミノトランスフェラーゼの導入の効果により生存率の低下が緩やかになったが、60%以下の期間が長いため、抗体品質への影響が懸念される。また、タウリントランスポーターの導入により、細胞あたりの抗体生産性(Qp)が低下しているために、細胞密度が上昇しても生産量に結びつかないという問題がある。これに対し、本発明においては、タンパク質生合成に関わるSNAT2遺伝子の発現を増強することにより、細胞あたりの抗体生産性(Qp)を向上させている。
【0015】
<目的タンパク質>
本発明において、目的タンパク質の種類は特に限定されず、例えば、組み換えポリペプチド鎖、組み換え分泌ポリペプチド鎖、抗原結合タンパク質、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、マウス抗体、バイスペシフィック抗体、Fc融合タンパク質、断片化免疫イムノグロブリン、一本鎖抗体(scFv)である。目的タンパク質は、好ましくはヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはマウス抗体である。断片化免疫イムノグロブリンとしては、Fab、F(ab’)、Fvなどが挙げられる。抗体のクラスも特に限定されるものではなく、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのIgG、IgA、IgD、IgE、IgMなどいずれのクラスでもよいが、医薬として用いる場合はIgGおよびIgMが好ましい。
【0016】
ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列から誘導される1つまたは複数の可変および定常領域を有する全ての抗体を含む。一実施形態では、可変および定常ドメインの全てが、ヒト免疫グロブリン配列から誘導される(完全ヒト抗体)。
ヒト化抗体は、ヒト対象に投与されたときに、非ヒト種抗体と比較して、ヒト化抗体が免疫反応を誘発する可能性が低くなるように、および/または重篤な免疫反応の誘発がより少なくなるように、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、および/または付加により非ヒト種から誘導された抗体の配列と異なる配列を有する。一実施形態では、非ヒト種抗体の重鎖および/または軽鎖のフレームワークおよび定常ドメイン内のある特定のアミノ酸は、ヒト化抗体を産生するように変異している。別の実施形態では、ヒト抗体からの定常ドメインは、非ヒト種の可変ドメインに融合される。
【0017】
キメラ抗体とは、互いに由来の異なる可変領域と定常領域を連結した抗体である。例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖の可変領域と、ヒト抗体の重鎖および軽鎖の定常領域からなる抗体は、マウス・ヒト異種キメラ抗体である。マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結させ、これを発現ベクターに組み込むことによって、キメラ抗体を発現する組換えベクターが作製できる。上記ベクターにより形質転換された組換え細胞を培養し、組み込まれたDNAを発現させることによって、培養中に生産されるキメラ抗体を取得できる。
【0018】
バイスペシフィック抗体とは、2つの異なる抗原特異性を認識する、化学的方法または細胞融合によって作製された抗体である。バイスペシフィック抗体を作製する方法としては、2つのイムノグロブリン分子をN-サクシンイミジル 3-(2-ピリジルジチオール) プロピオネートまたはS-アセチルメルカプトサクシニックアシッドアンハイドライドなどの架橋剤を用いて結合して作製する方法、イムノグロブリン分子のFabフラグメントどうしを結合して作製する方法などが報告されている。
【0019】
Fc融合タンパク質とは、Fc領域を有するタンパク質を示し、抗体を含む。
Fabは、V、V、CおよびC1ドメインを有する一価断片である。
F(ab’)は、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合された2つのFab断片を有する二価断片である。
Fv断片は、抗体のシングルアームのVおよびVドメインを有する。
一本鎖抗体(scFv)は、VおよびV領域がリンカー(例えば、アミノ酸残基の合成配列)を介して接合して、連続したタンパク質鎖を形成する抗体であり、ここでリンカーは、タンパク質鎖をそれ自身に折り重ね、一価抗原結合部位を形成させるのに十分な長さである。
【0020】
目的タンパク質をコードする遺伝子は、当業者に公知の方法により入手することができる。目的タンパク質が抗体である場合には、抗体のL鎖をコードするDNAおよびH鎖をコードするDNAを使用することができる。
【0021】
抗体のL鎖をコードするDNAおよびH鎖をコードするDNAは、以下のようにして調製することができる。抗体を発現する遺伝子を持つハイブリドーマ、細胞、ファージ、リボソームなどからmRNAを抽出する。このmRNAより逆転写酵素を用いる逆転写反応によりcDNAを作製する。L鎖遺伝子またはH鎖遺伝子と相補塩基配列を持つプライマーとcDNAを用いるPCRによりL鎖遺伝子またはH鎖遺伝子を増幅し、クローニング用プラスミドと結合することにより各遺伝子を取得する。
【0022】
抗体のL鎖の断片をコードするDNAおよびH鎖の断片をコードするDNAは、以下のようにして調製することができる。抗体を発現する遺伝子を持つハイブリドーマ、細胞、ファージ、リボソームなどからmRNAを抽出する。このmRNAより逆転写酵素を用いる逆転写反応によりcDNAを作製する。L鎖遺伝子断片またはH鎖遺伝子断片と相補塩基配列を持つプライマーとcDNAを用いるPCRによりL鎖遺伝子断片またはH鎖遺伝子断片を増幅し、クローニング用プラスミドと結合することにより各遺伝子断片を取得する。
【0023】
<SNAT2およびSNAT2遺伝子>
本発明において、SNAT2の由来は特に限定されず、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスターなどの哺乳動物由来のSNAT2をコードする外来遺伝子を使用することができる。本発明において、外来遺伝子とは、動物細胞に外から導入された遺伝子のことを言う。また、内在遺伝子を増幅させて遺伝子導入した場合でも外来遺伝子とみなす。
【0024】
ヒトSNAT2の塩基配列とアミノ酸配列を配列表の配列番号1および2に示す。
【0025】
ヒトSNAT2遺伝子の塩基配列(配列番号1)
ATGAAGAAGGCCGAAATGGGACGATTCAGTATTTCCCCGGATGAAGACAGCAGCAGCTACAGTTCCAACA
GCGACTTCAACTACTCCTACCCCACCAAGCAAGCTGCTCTGAAAAGCCATTATGCAGATGTAGATCCTGA
AAACCAGAACTTTTTACTTGAATCGAATTTGGGGAAGAAGAAGTATGAAACAGAATTTCATCCAGGTACT
ACTTCCTTTGGAATGTCAGTATTTAATCTGAGCAATGCGATTGTGGGCAGTGGAATCCTTGGGCTTTCTT
ATGCCATGGCTAATACTGGAATTGCTCTTTTTATAATTCTCTTGACATTTGTGTCAATATTTTCCCTGTA
TTCTGTTCATCTCCTTTTGAAGACTGCCAATGAAGGAGGGTCTTTATTATATGAACAATTGGGATATAAG
GCATTTGGATTAGTTGGAAAGCTTGCAGCATCTGGATCAATTACAATGCAGAACATTGGAGCTATGTCAA
GCTACCTCTTCATAGTGAAATATGAGTTGCCTTTGGTGATCCAGGCATTAACGAACATTGAAGATAAAAC
TGGATTGTGGTATCTGAACGGGAACTATTTGGTTCTGTTGGTGTCATTGGTGGTCATTCTTCCTTTGTCG
CTGTTTAGAAATTTAGGATATTTGGGATATACCAGTGGCCTTTCCTTGTTGTGTATGGTGTTCTTTCTGA
TTGTGGTCATTTGCAAGAAATTTCAGGTTCCGTGTCCTGTGGAAGCTGCTTTGATAATTAACGAAACAAT
AAACACCACCTTAACACAGCCAACAGCTCTTGTACCTGCTTTGTCACATAACGTGACTGAAAATGACTCT
TGCAGACCTCACTATTTTATTTTCAACTCACAGACTGTCTATGCTGTGCCAATTCTGATCTTTTCATTTG
TCTGTCATCCTGCTGTTCTTCCCATCTATGAAGAACTGAAAGACCGCAGCCGTAGAAGAATGATGAATGT
GTCCAAGATTTCATTTTTTGCTATGTTTCTCATGTATCTGCTTGCCGCCCTCTTTGGATACCTAACATTT
TACGAACATGTTGAGTCAGAATTGCTTCATACCTACTCTTCTATCTTGGGAACTGATATTCTTCTTCTCA
TTGTCCGTCTGGCTGTGTTAATGGCTGTGACCCTGACAGTACCAGTAGTTATTTTCCCAATCCGGAGTTC
TGTAACTCACTTGTTGTGTGCATCAAAAGATTTCAGTTGGTGGCGTCATAGTCTCATTACAGTGTCTATC
TTGGCATTTACCAATTTACTTGTCATCTTTGTCCCAACTATTAGGGATATCTTTGGTTTTATTGGTGCAT
CTGCAGCTTCTATGTTGATTTTTATTCTTCCTTCTGCCTTCTATATCAAGTTGGTGAAGAAAGAACCTAT
GAAATCTGTACAAAAGATTGGGGCTTTGTTCTTCCTGTTAAGTGGTGTACTGGTGATGACCGGAAGCATG
GCCTTGATTGTTTTGGATTGGGTACACAATGCACCTGGAGGTGGCCAT
【0026】
ヒトSNAT2遺伝子のアミノ酸配列(配列番号2)
MKKAEMGRFSISPDEDSSSYSSNSDFNYSYPTKQAALKSHYADVDPENQNFLLESNLGKKKYETEFHPGT
TSFGMSVFNLSNAIVGSGILGLSYAMANTGIALFIILLTFVSIFSLYSVHLLLKTANEGGSLLYEQLGYK
AFGLVGKLAASGSITMQNIGAMSSYLFIVKYELPLVIQALTNIEDKTGLWYLNGNYLVLLVSLVVILPLS
LFRNLGYLGYTSGLSLLCMVFFLIVVICKKFQVPCPVEAALIINETINTTLTQPTALVPALSHNVTENDS
CRPHYFIFNSQTVYAVPILIFSFVCHPAVLPIYEELKDRSRRRMMNVSKISFFAMFLMYLLAALFGYLTF
YEHVESELLHTYSSILGTDILLLIVRLAVLMAVTLTVPVVIFPIRSSVTHLLCASKDFSWWRHSLITVSI
LAFTNLLVIFVPTIRDIFGFIGASAASMLIFILPSAFYIKLVKKEPMKSVQKIGALFFLLSGVLVMTGSM
ALIVLDWVHNAPGGGH
【0027】
SNAT2をコードする外来遺伝子としては、
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子;または
(3)配列番号2に記載のアミノ酸配列と85%以上(さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子;
を使用することができる。
【0028】
SNAT2機能とは、mTORC1/S6Kパスウェイを活性化する機能を意味する。ラット細胞においてはmTORの活性化により細胞増殖が抑えられ細胞サイズが大きくなることが知られている。
【0029】
SNAT2をコードする外来遺伝子としてはさらに、
(4)配列番号1に記載の塩基配列からなる遺伝子;
(5)配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(6)配列番号1に記載の塩基配列の相補配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子;または
(7)配列番号1に記載の塩基配列と90%以上(さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上)の配列同一性を有する塩基配列を有し、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子:
を使用することもできる。
【0030】
「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」における「1若しくは数個」とは、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
【0031】
本発明における配列同一性は、以下の式で計算される値を指す。
%配列同一性=[(同一残基数)/(長い方のアラインメント長)]×100
2つのアミノ酸配列における配列同一性は当業者に公知の任意の方法で決定することができ、BLAST((Basic Local Alignment Search Tool))プログラム(J.Mol.Biol.215:403-410,1990)等を使用して決定することができる。分母の「長い方のアラインメント長」とは、二つのアラインメントを比較した場合に、分母には長い方のアラインメント長を用いることを意味する。
【0032】
「1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列」における「1若しくは数個」とは、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
【0033】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」における「ストリンジェントな条件下」とは、中程度または高程度のストリンジェント条件下でハイブリダイズすることを意味し、これらは当業者であれば認識することができる。中程度のストリンジェントな条件としては、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Vol.1、7.42-7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001に記載されている条件を挙げることができる。中程度のストリンジェントな条件は、例えば、ニトロセルロースフィルターにおいて5×SSC、0.5%SDS、1.0mmol/L EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40~50℃での約50%ホルムアミド、2×SSC~6×SSC(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1%SDSの洗浄条件を挙げることができる。高程度のストリンジェントな条件もまた当業者により容易に決定することができ、例えば、上記した中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度および/または低い塩濃度でのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を含む。例えば、上記のようなハイブリダイゼーション条件、および68℃、0.2×SSC、0.1%SDSでの洗浄を挙げることができる。ここで、1×SSCの組成は、150mmol/L NaCl、15mmol/Lクエン酸ナトリウム、pH7.4である。SDSはドデシル硫酸ナトリウムであり、EDTAはエチレンジアミン四酢酸である。
【0034】
ヒト以外のSNAT2のアミノ酸配列と塩基配列の情報を以下に示す。以下の番号はNCBI(National Center for Biotechnology Information)のGene No.を示す。
ID: 29642 ラット(Rattus norvegicus)
ID: 67760 マウス(Mus musculus)
ID: 566537 ゼブラフィッシュ(Danio rerio)
ID: 338044 ウシ(Bos taurus)
ID: 417807 ニワトリ(Gallus gallus)
ID: 702253 アカゲサル(Macaca mulatta)
ID: 101083348 ネコ(Felis catus)
ID: 100525644 ブタ(Sus scrofa)
ID: 101149564 ゴリラ(Gorilla gorilla)
【0035】
ヒト以外のSNAT2についても、ヒトSNAT2の場合と同様に、
(2A)所定のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(3A)所定のアミノ酸配列と85%以上(さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(5A)所定の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(6A)所定の塩基配列の相補配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子;または
(7A)所定の塩基配列と90%以上(さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上)の配列同一性を有する塩基配列を有し、SNAT2機能を有するタンパク質をコードする遺伝子:
を使用してもよい。
【0036】
SNAT2をコードする外来遺伝子はプロモーターに連結されている。
プロモーターとしては宿主の動物細胞において機能してSNAT2を発現させることができるものであれば特に限定されない。プロモーターとしては、CMVプロモーター(サイトメガロウィルスプロモーター)、EF1αプロモーター(ヒトポリペプチド鎖伸長因子遺伝子のプロモーター)、SV40プロモーター(シアミンウイルス40プロモーター)、β-actinプロモーター、MMLV-LTRプロモーター(モロニーマウス白血病ウイルスの長い末端反復のプロモーター)、またはマウスβグロビンプロモーターが好ましく、CMVプロモーターがより好ましい。
【0037】
本発明の動物細胞においては、SNAT2が過剰発現している。過剰発現とは、ある遺伝子の発現が、宿主における通常の発現量を超えていることを意味する。SNAT2をコードする外来遺伝子を宿主に導入し、上記外来遺伝子を宿主において発現させることにより、SNAT2を過剰発現している動物細胞を得ることができる。
【0038】
本発明の動物細胞におけるSNAT2の発現量は、SNAT2をコードする外来遺伝子を有さない動物細胞に対して、3倍以上であることが好ましく、3.5倍以上であることがより好ましく、4倍以上であることがより一層好ましく、4.5倍以上であることがさらに好ましく、5倍以上であることがさらに一層好ましく、5.5倍以上であることが特に好ましい。上限はなくてもよいが、30000倍以下でもよく、10000倍以下でもよい。
【0039】
SNAT2の発現量は、RT-PCR法(逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応)などによって調べることができる。SNAT2の発現量は、mRNAの逆転写とリアルタイムPCRにより実施することが好ましい。SNAT2の発現量は、ノーマライゼーションによって算出される相対的発現量であることが好ましい。ノーマライゼーションは、たとえば、β―アクチンやHPRT1などのハウスキーピング遺伝子の発現量を内在性コントロールとした比較定量によって行える。
【0040】
<動物細胞>
本発明における細胞は、動物細胞であれば特に限定されない。動物細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、BHK細胞、293細胞、ミエローマ細胞(NS0細胞など)、PerC6細胞、SP2/0細胞、ハイブリドーマ細胞、COS細胞、3T3細胞、HeLa細胞、Vero細胞、MDCK細胞、PC12細胞、WI38細胞などを挙げることができる。上記の中でも、特にCHO細胞、BHK細胞、293細胞、ミエローマ細胞(NS0細胞など)、PerC6細胞、SP2/0細胞、ハイブリドーマ細胞が好ましく、さらにCHO細胞が好ましい。CHO細胞は、組換えタンパク質、例えば、サイトカイン、凝固因子、および抗体の産生に広く使用されている。ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を欠損したCHO細胞を使用することが好ましく、DHFR欠損CHO細胞としては、例えば、CHO-DG44を使用することができる。
【0041】
[動物細胞の製造方法]
本発明によれば、動物細胞に対して、目的タンパク質をコードする遺伝子と、SNAT2をコードする外来遺伝子であってプロモーターに連結された外来遺伝子とを導入する工程を含む、本発明の動物細胞の製造方法が提供される。
【0042】
目的タンパク質をコードする遺伝子、およびSNAT2をコードする外来遺伝子はそれぞれベクターに組み込まれた形で、宿主である動物細胞に導入されることが好ましい。
【0043】
遺伝子を宿主に導入するために使用できるベクターとしては、例えば、哺乳動物由来の発現ベクターを使用することができ、例えば、pCMV6-Entry(OriGene社製)、pcDNA3(Invitrogen社製)、pEGF-BOS(Nucleic Acids.Res.1990,18(17),p5322)、pEF、pCDM8(フナコシ社製)、INPEP4(Biogen-IDEC社製)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0044】
また、ポリAを持つmRNAは細胞内で安定することが知られている。目的タンパク質をコードする遺伝子、およびSNAT2をコードする外来遺伝子は、ポリAを遺伝子に付加させるために必要なポリAシグナル、例えばマウスβグロビンポリAシグナル、ウシ成長ホルモンポリAシグナル、SV40ポリAシグナルなどを持っていてもよい。
【0045】
動物細胞への、目的タンパク質をコードする遺伝子、およびSNAT2をコードする外来遺伝子の導入方法は特に限定されず、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリポソームDOTAP(ロシュ・ライフサイエンス社製)を用いた方法、またはウイルスベクターを用いた方法で行うことが可能である。上記の中でも好ましくは、エレクトロポレーションである。
【0046】
動物細胞に遺伝子を導入する場合、使用する発現ベクターの種類および遺伝子導入法に応じて、遺伝子は、遺伝子導入に供された細胞のうちの一部の細胞のみに導入される。遺伝子を導入した細胞を同定および選択するために、例えば抗生物質に対する耐性について選択可能なマーカーをコードする遺伝子を、目的の遺伝子とともに宿主細胞内に導入してもよい。好ましい選択可能マーカーには、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキサートなどの、薬物に耐性を与えるものが含まれる。
【0047】
本発明の細胞においては、目的タンパク質をコードする遺伝子は、一過性発現系で発現していてもよいし、恒常的発現系で発現していてもよいが、恒常的発現系で発現しているものが好ましい。
【0048】
本発明の細胞においては、SNAT2をコードする外来遺伝子は、一過性発現系で発現していてもよいし、恒常的発現系で発現していてもよいが、恒常的発現系で発現しているものが好ましい。
【0049】
一過性発現系とは、環状プラスミドをリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法などにより細胞内に取り込ませ発現させる方法である。目的タンパク質をコードする遺伝子、およびSNAT2をコードする外来遺伝子は染色体外に存在することが多い。
【0050】
恒常的発現系とは、環状プラスミドまたは制限酵素処理などにより作成した直鎖上プラスミドをリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法などにより細胞内に取り込ませ、一部が細胞のゲノム中に挿入されることで目的タンパク質を発現させる方法である。目的タンパク質をコードする遺伝子、およびSNAT2をコードする外来遺伝子の発現を長期間維持することが可能である。またプラスミドへの薬剤耐性遺伝子の導入を行えば薬剤選抜が可能となり、目的タンパク質をコードする遺伝子、およびSNAT2をコードする外来遺伝子が染色体上に維持された細胞を効率的に選択することができる。
【0051】
[目的タンパク質の製造方法]
本発明によれば、本発明の動物細胞を培養することを含む、目的タンパク質の製造方法が提供される。
【0052】
本発明の動物細胞を培養することにより、目的タンパク質を製造することができる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。
本発明の動物細胞の培養に用いる培地としては、通常の動物細胞の培養で使用されている培地を用いることができる。例えば、OptiCHO(Lifetechnologies社、12681011)培地、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地(MEM)、RPMI-1640培地、RPMI-1641培地、F-12K培地、ハムF12培地、イスコブ変法ダルベッコ培地(IMDM)、マッコイ5A培地、ライボビッツL-15培地、およびEX-CELL(商標)300シリーズ(JRH Biosciences社)、CHO-S-SFMII(Invitrogen社)、CHO-SF(Sigma-Aldrich社)、CD-CHO(Invitrogen社)、 IS CHO-V(Irvine Scientific社)、PF-ACF-CHO (Sigma-Aldrich社)などを使用することができる。
【0053】
培地には牛胎児血清(FCS)等の血清を添加してもよく、より好ましくは無血清培地で培養してもよく、最も好ましくは完全合成培地がよい。
培地には、アミノ酸、塩、糖類、ビタミン、ホルモン、増殖因子、緩衝液、抗生物質、脂質、微量元素、植物タンパク質の加水分解物などの追加成分を補充してもよい。
【0054】
培地のpHは培養する細胞により異なるが、一般的にはpH6.0~8.0であり、好ましくはpH6.8~7.6であり、より好ましくはpH7.0~7.4である。
培養温度は、一般的には30℃~40℃であり、好ましくは32℃~37℃であり、より好ましくは36℃~37℃であり、培養中に培養温度を変更してもよい。
【0055】
培養は、CO濃度が0~40%、好ましくは2~10%の雰囲気下で行うことが好ましい。
培養時間は特に限定されないが、一般的には12時間~90日間であり、好ましくは24時間~60日間であり、より好ましくは24時間~30日間である。
培養においては、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加えることができる。
【0056】
本発明の動物細胞の培養は、培養装置(バイオリアクターとも言う)、またはそれ以外の好適な容器内で行うことができる。培養装置としては、発酵槽型タンク培養装置、エアーリフト型培養装置、カルチャーフラスコ型培養装置、スピンナーフラスコ型培養装置、マイクロキャリアー型培養装置、流動層型培養装置、ホロファイバー型培養装置、ローラーボトル型培養装置、充填槽型培養装置等を用いてすることができる。
【0057】
培養スケールは、一般的には1L~20000Lであり、好ましくは1L~10000Lであり、より好ましくは200L~2000Lであり、さらに好ましくは500L~2000Lである。
【0058】
培養は、バッチ培養(batch culture)、フェドバッチ培養 (fed-batch culture;流加培養とも言う)、灌流培養(perfusion culture)などのいずれの方法を用いてもよいが、フェドバッチ培養または灌流培養が好ましい。
【0059】
バッチ培養とは、細胞を固定体積の培養培地中で短期間増殖させ、その後、完全に回収する不連続な方法である。バッチ法を用いて増殖させた培養物は、最大細胞密度に達するまで細胞密度の増加を経験し、その後、培地成分が消費され、代謝副産物(乳酸塩およびアンモニア等)のレベルが蓄積するにつれて生存細胞密度が減退する。回収は、典型的には、最大細胞密度(典型的には、5~10×10cells/mL)が達成された時点で行う。バッチプロセスは、最も単純な培養方法であるが、しかしながら生存細胞密度は、栄養分利用能によって制限され、細胞が一度最大密度になると、培養は減退し、目的タンパク質の産生が低減する。廃棄産物の蓄積および栄養枯渇が培養減退に迅速につながるため(典型的には、約3~7日)、目的タンパク質の産生期間を延長することはできない。
【0060】
フェドバッチ培養は、ボーラスまたは連続的に培地を供給して、消費された培地成分を補給することによって、バッチプロセスを改善する培養方法である。即ち、フェドバッチ培養においては、培養形態は懸濁培養であり、培養プロセスの開始後の一以上の時点において培養に追加成分を提供する。追加成分としては、培養プロセス中に枯渇している細胞のための栄養補助成分が挙げられ、その他の補助成分(例えば、細胞周期阻害化合物)を含めてもよい。
【0061】
フェドバッチ培養では、培養期間を通して追加の栄養分を添加するため、バッチ培養と比較して、より高い細胞密度、および目的タンパク質の高い産生量を達成できる可能性がある。フェドバッチ培養では、バッチ培養とは異なり、所望の細胞密度を達成するための細胞増殖の期間(増殖期)を、中止したまたは遅い細胞増殖の期間(産生期)から区別するように供給スケジュールおよび培地成分を操作することにより二相培養を作製および持続することができる。これにより、フェドバッチ培養は、バッチ培養と比較して、目的タンパク質のより高い産生量を達成できる可能性がある。
【0062】
フェドバッチ培養において、細胞培養の播種細胞密度は、一般的には0.2×10cells/mL以上1×10cells/mL以下であり、好ましくは0.2×10cells/mL以上5×10cells/mL以下であり、より好ましくは0.5×10cells/mL以上2.5×10cells/mL以下であり、さらに好ましくは0.5×10cells/mL以上1.5×10cells/mL以下である。
フェドバッチ培養において、培養期間中の生細胞率は全期間において、好ましくは60%以上100%以下であり、より好ましくは70%以上100%以下であり、さらに好ましくは75%以上100%以下である。
【0063】
灌流培養は、新鮮な培地を添加し、同時に使用済み培地を除去する培養法であり、バッチ培養およびフェドバッチ培養をさらに改善できる可能性がある。灌流培養は、例えば、ATF(Alternating Tangential Flow Filtration)ポンプまたはTFF(Tangential Flow Filtration)ポンプを用いて行うことができる。灌流培養によれば、1×10cells/mLを超える高い細胞密度を達成することが可能である。典型的な灌流培養は、1日間または2日間続くバッチ培養スタートアップで始まり、その後、培養物に新鮮な供給培地を連続的、段階的、および/または断続的に添加し、使用済み培地を同時に除去する。灌流培養においては、沈降、遠心分離または濾過などの方法を用いて、細胞密度を維持しながら使用済み培地を除去することができる。灌流培養は、例えば、ATFポンプまたはTFFポンプを用いて行うことができる。
【0064】
灌流培養の利点は、目的タンパク質が生産される培養が、バッチ培養法またはフェドバッチ培養よりも長期間維持されることである。しかし、長期の灌流培養、特に高細胞密度での灌流培養を維持するためには、培地の調製、使用、保存および廃棄が必要である。灌流培養では、多くの栄養分が必要であり、バッチ培養およびフェドバッチ培養と比較して、目的タンパク質の生産コストが高くなる傾向にある。また、膜孔径の選択により、抗体を系外へ回収しながら培養を継続することが可能であるため、抗体の培養液中での滞留時間を短くし、化学的変化を減らすことで抗体の品質を高く保つことが可能である。
【0065】
フェドバッチ培養および灌流培養を組み合わせた培養を行うことも可能である。一例としては、ボーラス供給を伴うフェドバッチ培養を、増殖期の細胞の培養を維持するために使用し、次いで、灌流培養を目的タンパク質の産生のために使用することができる。
【0066】
灌流は、連続的、段階的、断続的またはこれらの組み合わせの何れの形態でもよい。動物細胞は、培養物中に保持され、除去される使用済みの培地は、細胞を実質的に含まないか、または培養物よりもはるかに少ない細胞を有していてもよい。細胞培養によって発現される目的タンパク質は膜孔径の選択により、培養物中に保持または回収することができる。培養中の細胞密度が過剰にならないよう、培養液の一部を細胞ごと抜き取り、新鮮な培地を同量加えることにより細胞密度を減らす(セルブリーディング)ことを行っても良い。
【0067】
灌流培養において、細胞培養の播種細胞密度は、一般的には0.2×10cells/mL以上3×10cells/mL以下であり、好ましくは0.2×10cells/mL以上1×10cells/mL以下であり、より好ましくは0.5×10cells/mL以上1×10cells/mL以下である。
灌流培養において、培養期間中の生細胞率は全期間において、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
【0068】
灌流培養において、最高到達細胞密度は、好ましくは2×10cells/mL以下であり、より好ましくは1.5×10cells/mL以下であり、さらに好ましくは1.0×10cells/mL以下である。
【0069】
灌流培養における灌流比としては、好ましくは0.3vvd以上5.0vvd以下であり、より好ましくは0.3vvd以上1.5vvd以下である。但し、vvdは以下を表す。
vvd=(volume of fresh medium/working volume of reactor/day, 1日当たりの供給培養液量/培養液量)
【0070】
細胞培養の播種細胞密度、および培養における最高到達細胞密度は、細胞数を常法により測定し、細胞数を培養液量で割ることにより求めることができる。
培養期間中の生細胞率(生存率)は、生細胞数を(生細胞数+死細胞数)で除算することで求められる。たとえば、細胞数の測定はVi-CELL XR(Beckman Coulter社)を用いて測定することができる。
【0071】
上記した培養により製造される目的タンパク質は精製することができる。目的タンパク質の分離および精製は通常のタンパク質で使用されている分離および精製方法を使用すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択および組み合わせることにより、目的タンパク質を分離および精製することができるが、これらに限定されるものではない。上記で得られた目的タンパク質の濃度測定は、吸光度測定または酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)等により行うことができる。
【0072】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(high performance liquid chromatography;高速液体クロマトグラフィー)またはFPLC(fast protein liquid chromatography)等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0073】
なお、目的タンパク質は、精製前または精製後に適当なポリペプチド修飾酵素を作用させることにより、目的タンパク質を修飾したり、部分的にペプチドを除去することもできる。ポリペプチド修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0074】
[目的タンパク質の利用]
本発明の方法により製造された目的タンパク質が、医薬品として有用な生物学的活性を有する場合には、目的タンパク質を、薬学的に許容される担体または添加剤と混合して製剤化することにより、医薬品を製造することができる。
【0075】
薬学的に許容される担体および添加剤の例として、水、薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、薬学的に許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0076】
例えば、注射用製剤として使用する場合、精製された目的タンパク質を溶剤、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに吸着防止剤、例えばTween80、Tween20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、目的タンパク質は、使用前に溶解再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のための賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0077】
目的タンパク質の投与方法は、経口投与または非経口投与のいずれでもよいが、好ましくは非経口投与である。例えば、注射(例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによる全身または局所投与)、経鼻投与、経肺投与、または経皮投与などが挙げられる。
【0078】
目的タンパク質の投与量は、目的タンパク質の種類、治療や予防の対象とする疾患の種類、患者の年齢、疾患の重篤度などにより適宜選択される。一般的には、一回につき体重1kgあたり0.001mgから1000mgの範囲であるが、特に限定されない。
【0079】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0080】
<実施例1>動物細胞の作製
ヒトSNAT2遺伝子をコードするベクター(OriGene社、Cat# RC201892)を購入し、SNAT2遺伝子の発現カセット(プロモーター、オープンリーディングフレーム、ターミネーター)をプライマー1(配列番号3)及びプライマー2(配列番号4)を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅した。
【0081】
抗体1(デノスマブ、https://www.drugbank.ca/drugs/DB06643)、抗体2(ブロソズマブ、https://www.drugbank.ca/drugs/DB12560)または抗体3(抗MUC1抗体、特表2016-517691号公報)の各抗体のL鎖及びH鎖を共発現するベクターに、増幅したSNAT2発現カセットを挿入した。L鎖及びH鎖共発現ベクターの構築および細胞への導入は、特表2016-517691号公報の実施例2に準じて行った。
【0082】
抗体及びSNAT2遺伝子を導入する前のホストCHO-DG44細胞はすべて37℃、5%CO雰囲気下のインキュベーターで培養した。ホスト細胞5×10cellsにエレクトロポレーション法(Lonza社、4D-Nucleofector)を用いて上記ベクターを導入し、100倍希釈したHT Supplement(x100)(Lifetechnologies社、11067-030)を含む20mLのOptiCHO(Lifetechnologies社、12681011)培地に懸濁の後、T75フラスコに播種した。1日後、HTサプリメントを含まず175nmol/Lのメトトレキサート(MTX)(和光純薬工業社)を含むOptiCHO(Lifetechnologies社、12681011)培地に入れ替えた。遺伝子導入後3週間からT75フラスコの顕微鏡観察を開始し、細胞の増殖が見られたフラスコから順次、培養体積を20mLへ拡大し、125mL容振とうフラスコ(Corning)へ播種し、140rpmで振とう培養した。
【0083】
上記の方法で、ヒトSNAT2遺伝子及び抗体1又は抗体2又は抗体3を強制発現する抗体1-SNAT2細胞、抗体2-SNAT2細胞、抗体3-SNAT2細胞を樹立した。また、抗体L鎖及びH鎖を発現するベクターを用いて、同様の方法で遺伝子導入を実施し、対照群の抗体1細胞、抗体2細胞、抗体3細胞を構築した。
【0084】
プライマ-1: CCGCGGTCATAGCTGTTTCCTGAAC(配列番号3)
プライマ-2: CAGCTATGACCGCGGTTAATGGCCACCTCCAGGTGCATTGTGT(配列番号4)
【0085】
<実施例2>培養実験
抗体1-SNAT2細胞、抗体2-SNAT2細胞、抗体3-SNAT2細胞および抗体1細胞、抗体2細胞、抗体3細胞をそれぞれ8水準ずつ用いて流加培養実験を実施した。
細胞を5×10cells/mLの細胞密度でOptiCHO(Lifetechnologies社、12681011)培地15mLに懸濁し、AMBR15培養装置(ザルトリウス・ステディム社)による自動培養を行った。培養開始2日目から13日目まで、毎日フィード培地(Cellboost7a,7b,GE healthcare社)を初期培養体積比で2%ずつ加えた。経時的に細胞密度、培養液成分および抗体濃度を測定するため、3-4日おきにサンプリングを実施した。培養開始14日目に培養液を回収し、0.22μmのデプスフィルター(メルクミリポア社)を用いて細胞および細胞デブリを除いた。上清中の抗体濃度および細胞あたりの抗体生産性(Qp)を液体クロマトグラフィーによって測定したところ、抗体濃度は抗体1で121%、抗体2で25%、抗体3で56%増加した(図1および表1)。また、Qpは抗体1で127%、抗体2で34%、抗体3で74%増加した(図2および表2)。SNAT2の発現によってタンパク質生合成が活性化したため、抗体生産性が向上したと考えられる。一方で、Vi-CELL(ベックマン・コールター社)にて細胞径を測定した結果、驚くべきことに、各細胞のサイズは、抗体1-SNAT2細胞(平均15.8μm)、抗体2-SNAT2細胞(平均16.3μm)、抗体3-SNAT2細胞(平均16.5μm)となっていることがわかり、対照群の抗体1細胞(平均16.3μm)、抗体2細胞(平均15.8μm)、抗体3細胞(平均16.2μm)と比較し、必ずしも細胞径が大きくならずほぼ同程度を示した(図3および表3)。また、細胞の増殖性を示す培養期間の積算生細胞数(IVCD)は、対照群と比較して同程度か若干多かった(図4および表4)。図1図4において、左は抗体のみ、右は抗体-SNAT2を示す。このことは、SNAT2を発現してもCHO細胞の分化が亢進せず、抗体産生細胞の樹立や抗体の生産に必要な細胞増殖能を維持していることを証明した。
なお、積分生存細胞密度(IVCD)は、以下の方法で測定した。0、3、7、10および14日目に生細胞密度(VCD)をVi-CELL XR(Beckman Coulter社)で測定し、それぞれの値をV0、V3、V7、V10およびV14とする。積分生存細胞密度(IVCD)は、以下の式で求められる。
積分生存細胞密度(IVCD)={(V0+V3)×(3-0)/2}+{(V3+V7)×(7-3)/2}+{(V10+V7)×(10-7)/2}+{(V14+V10)×(14-10)/2}
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
細胞あたりの抗体生産性Qp[pg/cell/day]は、以下の式で求めた。
【0091】
【数1】
【0092】
Pti[g/L] = 培養日tiにおける精製物の濃度
Xti[cell/day]= 培養日tiにおける生細胞密度
【0093】
積分の近似値は、時間t1からt2までの増殖曲線下面積を台形の面積として求めることで算定した。
【数2】
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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