(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-12
(45)【発行日】2022-08-22
(54)【発明の名称】プロピレンのアンモ酸化用触媒、その製造方法、およびこれを利用したプロピレンのアンモ酸化方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/887 20060101AFI20220815BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20220815BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20220815BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220815BHJP
C07C 253/26 20060101ALI20220815BHJP
C07C 255/08 20060101ALI20220815BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
B01J23/887 Z
B01J35/10 301G
B01J37/04 102
B01J37/08
C07C253/26
C07C255/08
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021523938
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 KR2020013099
(87)【国際公開番号】W WO2021066411
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】10-2019-0121172
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0124245
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム、チ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】カン、キョンヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、チュン-ソン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/148158(WO,A1)
【文献】特開2016-120468(JP,A)
【文献】国際公開第2014/051090(WO,A1)
【文献】特表2013-527141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 253/26
C07C 255/08
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される金属酸化物を含み、
CuKαによるX線回折分析時、2θが26.3±0.5度の範囲内で強度がAである第1ピークが現れ、2θが28.3±0.5度の範囲内で強度がBである第2ピークが現れ、
前記第2ピークに対する前記第1ピークの強度比(A/B)は1.5以上であ
り、
BET比表面積が50~300m
2
/gであるプロピレンのアンモ酸化用触媒:
[化学式1]
Mo
xBi
aFe
bA
cB
dC
eD
fO
y
前記化学式1中、
AおよびBは異なり、それぞれ独立して、Ni、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素であり、
CはLi、Na、K、RbおよびCsのうちの一つ以上の元素であり、
DはCr、W、B、
Al、およびVのうちの一つ以上の元素であり、
前記a~f、xおよびyは原子または原子団のモル分率であり、
aは0.1~7であり、bは0.1~7であり、但し、aおよびbの和は0.1~7であり、
cは0.1~10であり、dは0.01~5であり、eは0.1~10であり、fは0~10であり、
xは11~14であり、yは前記Mo、Bi、Fe、A、B、CおよびDの各酸化数によって決定される値である。
【請求項2】
前記触媒は、CuKαによるX線回折分析時、前記第2ピークに対する前記第1ピークの強度比(A/B)は3.0以上である、請求項1に記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒。
【請求項3】
前記触媒中の気孔の体積は0.3~1.3cm
3/gである、請求項1
または2に記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒。
【請求項4】
前記金属酸化物は下記化学式1-1で表される、請求項1~
3のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒:
[化学式1-1]
Mo
xBi
aFe
bNi
cCo
dK
eO
y
前記化学式1-1中、x、a~eおよびyの定義は化学式1で定義した通りである。
【請求項5】
前記触媒は、前記金属酸化物を担持するシリカ担体をさらに含む、請求項1~
4のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒。
【請求項6】
前記金属酸化物および前記シリカ担体の重量比(金属酸化物:シリカ担体)は15:85~35:65である、請求項
5に記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒。
【請求項7】
Mo前駆体を含む第1前駆体溶液を製造する段階と、
Fe前駆体;およびNi、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素の前駆体を含む第2前駆体溶液、または、Fe前駆体;Ni、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素の前駆体;およびCr、W、B、Al、CaおよびVのうちの一つ以上の元素の前駆体を含む第2前駆体溶液を製造する段階と、
Bi前駆体;前記第2前駆体溶液とは異なるNi、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素の前駆体;およびLi、Na、K、RbおよびCsのうちの一つ以上の元素の前駆体を含む第3前駆体溶液を製造する段階と、
金属のモル比が下記化学式1の化学量論的モル比を満たし、前記第1~第3前駆体溶液を混合する段階と、
シリカ担体に、前記第1~第3前駆体溶液の混合物を担持させる段階と、
前記第1~第3前駆体溶液の混合物が担持されたシリカ担体を乾燥させる段階と、
前記乾燥された物質を焼成する段階と、を含む、プロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法:
[化学式1]
Mo
xBi
aFe
bA
cB
dC
eD
fO
y
前記化学式1中、
AおよびBは異なり、それぞれ独立して、Ni、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素であり、
CはLi、Na、K、RbおよびCsのうちの一つ以上の元素であり、
DはCr、W、B、
Al、およびVのうちの一つ以上の元素であり、
前記a~f、xおよびyは原子または原子団のモル分率であり、
aは0.1~7であり、bは0.1~7であり、但し、aおよびbの和は0.1~7であり、
cは0.1~10であり、dは0.01~5であり、eは0.1~10であり、fは0~10であり、
xは11~14であり、yは前記Mo、Bi、Fe、A、B、CおよびDの各酸化数によって決定される値である。
【請求項8】
前記第1前駆体溶液を製造する段階において、クエン酸、シュウ酸またはこれらの混合物を添加剤として添加する、請求項
7に記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記第1前駆体溶液を製造する段階は50~90℃で行われる、請求項
7または
8に記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記第2前駆体溶液を製造する段階は、水、Fe前駆体およびCo前駆体を含む水溶液を製造する段階である、請求項
7~
9のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項11】
前記第3前駆体溶液を製造する段階は、硝酸、Bi前駆体、Ni前駆体およびK前駆体を含む溶液を製造する段階である、請求項
7~
10のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項12】
前記第2前駆体溶液を製造する段階および前記第3前駆体溶液を製造する段階は、それぞれ独立して、20~50℃で行われる、請求項
7~
11のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項13】
前記第1、第2、および第3前駆体溶液を混合する段階は、
前記第2および第3前駆体溶液を混合する段階と、
前記第2および第3前駆体溶液の混合物を前記第1前駆体溶液に滴下する段階と、を含む、請求項
7~
12のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項14】
前記第1、第2、および第3前駆体溶液の混合物を前記シリカ担体に担持させる段階は、
前記シリカ担体および前記第1、第2、および第3前駆体溶液を20~30℃の温度範囲内で1次混合する段階と、
得られた1次混合物を70~90℃の温度範囲内で2次混合する段階と、を含む、請求項
7~
13のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項15】
前記1次および2次混合は、それぞれ独立して、1~3時間行われる、請求項
14に記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項16】
前記第1、第2、および第3前駆体溶液の混合物が担持されたシリカ担体を乾燥させる段階は、100~120℃の温度範囲内で行われる、請求項
7~
15のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項17】
前記第1、第2、および第3前駆体溶液の混合物が担持されたシリカ担体を乾燥させる段階は、5~12時間行われる、請求項
7~
16のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項18】
前記乾燥された物質を焼成する段階は500~700℃の温度範囲内で行われる、請求項
7~
17のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法。
【請求項19】
反応器内で、請求項1~
6のいずれかに記載のプロピレンのアンモ酸化用触媒存在下でプロピレンおよびアンモニアを反応させる段階を含む、プロピレンのアンモ酸化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年9月30日付の韓国特許出願第10-2019-0121172号および2020年9月24日付の韓国特許出願第10-2020-0124245号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、プロピレンのアンモ酸化用触媒、その製造方法、およびこれを利用したプロピレンのアンモ酸化方法に関する。
【背景技術】
【0003】
プロピレンのアンモ酸化工程は、アンモニアとプロピレンを反応させる還元反応と酸素によって再酸化されるメカニズムに基づいて、その反応物(すなわち、プロピレン)の転換率、反応生成物(すなわち、アクリロニトリル)の選択度および収率を高めるための多様な組成の触媒が研究されてきた。
【0004】
具体的には、Mo(モリブデン)-Bi(ビスマス)酸化物触媒が提示されて以来、その触媒活性と安全性を高めるために多様な酸化状態を有する金属添加された触媒が研究された。その結果、添加された金属の種類や量によって、アクリロニトリルの収率は初期研究に比べて向上した。
【0005】
しかし、触媒組成の多様化にもかかわらず、その構造および物性に対する研究の不足により、プロピレンのアンモ酸化時の反応物(すなわち、プロピレン)の転換率と反応生成物(すなわち、アクリロニトリル)の選択度を顕著に高めるには限界があった。
【0006】
具体的には、目的とする組成の金属前駆体とナノシリカゾルを共沈させた後、噴霧乾燥して焼成することによって、金属酸化物粒子とシリカ粒子が集合した2次粒子構造の触媒を得ることが一般的である。
【0007】
しかし、前記2次粒子構造の触媒は、その製造工程中の噴霧乾燥工程を経ながら必然的に高い結晶性を有することになる。このように結晶性の高い触媒は、反応中に加わる高温によって容易に壊れるかまたは崩れることがあり、その内部から表面にMoなどが溶出して触媒性能が劣化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、プロピレンのアンモ酸化反応中にMo溶出が抑制され、かつ触媒活性が高い水準に維持されるプロピレンのアンモ酸化用触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によると、プロピレンのアンモ酸化反応に対する高い活性を示し、かつ非晶質相含有量の高い、プロピレンのアンモ酸化用触媒を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態の触媒は、プロピレンのアンモ酸化反応に対する高い活性を示し、かつ非晶質相含有量が高くて、プロピレンのアンモ酸化反応中にMo溶出が抑制されかつ触媒活性が高い水準に維持し得る。
【0011】
したがって、本発明の一実施形態の触媒を使用する場合、より高い比率でプロピレンを転換させ、かつより高い収率でアクリロニトリルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】噴霧乾燥法を用いて製造された触媒を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による触媒を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態の触媒に対するXRD分析結果を示す図である。
【
図4】比較例の触媒に対するXRD分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は多様な変換を加えることができ、様々な実施形態を有することができるため、特定の実施形態を例示し詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変換、均等物~代替物を含むものとして理解しなければならない。本発明を説明するにあたって関連する公知技術に対する具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にすると判断される場合はその詳細な説明を省略する。
【0014】
また、以下で使用される第1、第2などのような序数を含む用語は、多様な構成要素を説明するために使用されるが、前記構成要素は前記用語によって限定されない。前記用語は一つの構成要素を他の構成要素と区別する目的のみに使用される。例えば、本発明の権利範囲から外れることなく、第1構成要素は第2構成要素であり得、同様に第2構成要素は第1構成要素であり得る。
【0015】
単数の表現は文脈上明白に異なる意味を示さない限り、複数の表現を含む。本明細書において「含む」または「有する」などの用語は明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するためであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加の可能性をあらかじめ排除しないものとして理解されなければならない。
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態のプロピレンのアンモ酸化用触媒について詳しく説明する。
【0017】
(プロピレンのアンモ酸化用触媒)
本発明の一実施形態においては、
下記化学式1で表される金属酸化物を含み、
CuKαによるX線回折分析時、2θが26.3±0.5度の範囲内で強度がAである第1ピークが現れ、2θが28.3±0.5度の範囲内で強度がBである第2ピークが現れ、
前記第2ピークに対する前記第1ピークの強度比(A/B)は1.5以上である、プロピレンのアンモ酸化用触媒を提供する:
[化学式1]
MoxBiaFebAcBdCeDfOy
上記化学式1中、
AおよびBは異なり、それぞれ独立して、Ni、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素であり、
CはLi、Na、K、RbおよびCsのうちの一つ以上の元素であり、
DはCr、W、B、Al、CaおよびVのうちの一つ以上の元素であり、
前記a~f、xおよびyは原子または原子団のモル分率であり、
aは0.1~7であり、bは0.1~7であり、但し、aおよびbの和は0.1~7であり、
cは0.1~10であり、dは0.01~5であり、eは0.1~10であり、fは0~10であり、
xは11~14であり、yは前記Mo、Bi、Fe、A、B、CおよびDの各酸化数によって決定される値である。
【0018】
上述したように、プロピレンのアンモ酸化用触媒としては、金属前駆体とナノシリカゾルの共沈と噴霧乾燥により製造された2次粒子構造の触媒が知られている。
【0019】
前記2次粒子構造の触媒は、内部および外部に金属酸化物粒子が均一に分布する代わりに気孔を殆ど含まず、単位体積当たりの反応物の吸着量が少なく、反応活性度が低いという問題がある。
【0020】
一方、前記2次粒子構造の触媒は、その製造工程中に噴霧乾燥工程を経ながら必然的に高い結晶性を有することになる。このように結晶性の高い触媒は、反応中に加わる高温によって容易に壊れるかまたは崩れることがあり、その内部から表面にMoなどが溶出して触媒性能が劣化する。
【0021】
これに対し、本発明の一実施形態の触媒は、プロピレンのアンモ酸化反応に対する高い活性を示し、かつ非晶質相含有量が高くて、プロピレンのアンモ酸化反応中にMo溶出が抑制され、かつ触媒活性の高い水準に維持し得る。
【0022】
ここで、前記プロピレンのアンモ酸化反応に対する高い活性を示しながらも非晶質相は、モリブデン(Mo)および異種金属の複合酸化物相、例えばCoMoO4相であり得る。
【0023】
具体的には、本発明の一実施形態の触媒に対するX線回折(XRD)分析時、2θが26.3±0.5度の範囲内で強度がBである第1ピークが現れ、2θが28.3±0.5度の範囲内で強度がBである第2ピークが現れる。
【0024】
ここで、前記第1ピークは、モリブデン(Mo)および異種金属の複合酸化物相、例えばCoMoO4相によって現れる。また、前記第2ピークは、モリブデン(Mo)酸化物相、すなわちMoO3相によって現れる。
【0025】
前記モリブデン(Mo)および異種金属の複合酸化物相は、プロピレンのアンモ酸化反応に対する活性を示す反面、前記MoO3相はプロピレンのアンモ酸化反応に対する活性を示さない。
【0026】
前記2次粒子構造の触媒は、シリカゾルおよび金属酸化物前駆体が不均一に混合したスラリーから製造され、不活性相のMoO3相含有量が相対的に高く、前記第2ピークに対する前記第1ピークの強度比(A/B)が1.5未満であり得る。したがって、プロピレンのアンモ酸化反応中にMo溶出が発生し、触媒活性が低下する。
【0027】
これに対し、本発明の一実施形態の触媒は、活性相の異種金属の複合酸化物相含有量が相対的に高く、前記第2ピークに対する前記第1ピークの強度比(A/B)が1.5以上、具体的に2.0以上、より具体的には2.5以上、例えば3.0以上であり得る。
【0028】
さらに詳細な説明については後述するが、本発明の一実施形態の触媒は、含浸法を利用して製造される。非常に均一な状態の透明溶液をシリカに担持すると、金属成分同士がよく結合した状態で存在してMoO3相が単独で形成される確率が非常に低くなる。
【0029】
特に、担体自体の広い表面積を活用するので、CoMoO4のみならず、FeMoO3、Bi2MoO6などの活性相の分散性が非常に向上する。分散性が向上するとXRDピーク強度が減少傾向にあるにもかかわらず、本発明の一実施形態で金属酸化物の形成のために添加されるMo量とCo量が多いため、CoMoO4のピークが非常に発達した状態でXRDパターンが形成される。
【0030】
そこで、本発明の一実施形態の触媒は、前記2次粒子構造の触媒に比べて、プロピレンのアンモ酸化反応中にMo溶出が抑制され、かつ触媒活性の高い水準に維持し得る。
【0031】
一方、Bi以外の異種金属を含まない触媒、例えば金属成分としてMoおよびBiのみを含む触媒は、モリブデン(Mo)および異種金属の複合酸化物相が形成されず、したがって、XRD分析時に前記第1ピークが現れない。
【0032】
言い換えると、Bi以外の異種金属を含まない触媒は、不活性相かつ結晶質のMoO3相のみを含むので、プロピレンのアンモ酸化反応中にMo溶出が発生し、触媒活性が低下する。
【0033】
以下、本発明の一実施形態の触媒について詳しく説明する。
【0034】
(触媒のD50粒径、気孔の体積およびBET比表面積)
本発明の一実施形態の触媒は、体積が大きい複数の気孔を含み、外部表面積のみならず、気孔も反応に参加できる有効表面積を提供することができる。
【0035】
具体的には、本発明の一実施形態の触媒は、D50粒径が10~300μmであり、0.3~1.3cm3/gの体積の気孔を含み、50~300m2/gのBET比表面積を有する。
【0036】
本発明の一実施形態の触媒が提供するBET比表面積、気孔の体積は、前記2次粒子構造の触媒に比べて向上したものであり、したがって、さらに高い比率でプロピレンを転換させ、さらに高い選択度および収率でアクリロニトリルが得られる。
【0037】
上記の範囲内で、本発明の一実施形態の触媒に含まれている気孔の体積が大きくなるほど、これを含む触媒のBET比表面積も広くなる。但し、本発明の一実施形態の触媒に含まれている気孔の体積が大きすぎると、前記金属酸化物の含有量が相対的に減少して触媒活性が減少する。
【0038】
そこで、本発明の一実施形態の触媒として目的とする特性を総合的に考慮して、そのBET比表面積と気孔の体積などを制御することができる。
【0039】
例えば、本発明の一実施形態の触媒は、D50粒径の下限を10μm以上、20μm以上、30μm以上、または45μm以上としながら、上限を300μm以下、280μm以下、260μm以下、240μm以下、220μm以下、または200μm以下とすることができる。
【0040】
また、本発明の一実施形態の触媒は、気孔の体積を0.3cm3/g以上、0.35cm3/g以上、0.4cm3/g以上、0.45cm3/g以上、または0.5cm3/g以上であり、かつ1.3cm3/g以下、1.2cm3/g以下、1.1cm3/g以下、1.0cm3/g以下とすることができる。
【0041】
また、本発明の一実施形態の触媒は、50m2/g以上、70m2/g以上、90m2/g以上、110m2/g以上、または120m2/g以上であり、かつ300m2/g以下、270m2/g以下、240m2/g以下、210m2/g以下、または180m2/g以下であるBET比表面積を有する。
【0042】
(金属酸化物)
一方、本発明の一実施形態の触媒と同じ構造を有しても、前記金属酸化物を構成する成分の種類と含有量が前記化学式1を満たさない場合は、プロピレンのアンモ酸化に足りないかまたは過度に密度が高い触媒の活性点が形成される。
【0043】
そこで、前記金属酸化物を構成する種類と含有量は前記化学式1を満たす必要がある。例えば、前記金属酸化物は下記化学式1-1で表され、これに含まれている金属成分のシナジー効果により、プロピレンのアンモ酸化反応に対する活性点を高めるのに有利である:
[化学式1-1]
MoxBiaFebNicCodKeOy
上記化学式1-1中、x、a~eおよびyの定義は上述した通りである。
【0044】
前記金属酸化物の組成および含有量を直接測定する場合、ICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)などの測定装置を用いて測定可能である。
【0045】
(触媒の構造)
上述したように、一般的に知られているプロピレンのアンモ酸化用触媒は、共沈と噴霧乾燥により製造され、金属酸化物ナノ粒子とシリカナノ粒子が集合した2次粒子構造を有する(
図1)。
【0046】
これは、内部および外部に金属酸化物粒子が均一に分布する代わりに、プロピレンのアンモ酸化反応に参加できる部位が外表面(すなわち、2次粒子の表面)に制限され、小さな表面積を提供するので、プロピレンのアンモ酸化反応中の触媒表面から脱着するアンモニアの量が多い。
【0047】
これに対し、本発明の一実施形態の触媒は含浸法により製造され、金属酸化物がシリカ担体に担持された構造を有する(
図2)。
【0048】
例えば、目的とする金属酸化物の化学量論的モル比を満たすように製造された金属前駆体溶液にシリカ担体を浸漬し、前記シリカ担体内に前記金属前駆体溶液を含浸させる。
【0049】
その後、乾燥工程により溶媒(すなわち、水)を除去すると、シリカ担体の気孔壁に金属前駆体が残存し、焼成工程で金属前駆体が酸化してシリカ担体の気孔壁を連続的にコーティングする膜が形成される。
【0050】
このように製造された本発明の一実施形態の触媒は、前記金属酸化物を担持するシリカ担体をさらに含む。
【0051】
この場合、本発明の一実施形態の触媒は、第2気孔を含むシリカ担体と、前記第2気孔の壁面を連続的にコーティングし、前記化学式1で表される金属酸化物を含む内部コーティング層と、前記第2気孔の内部に位置し、前記内部コーティング層を除いた空の空間を占める第1気孔と、を含む構造である。
【0052】
前記構造を有する触媒は、製造後、後処理として分級工程を進行しなくても、共沈と噴霧乾燥により同じ組成で製造された触媒より耐久性に優れている。
【0053】
また、前記シリカ担体の内部気孔に前記金属酸化物を均一に担持してプロピレンのアンモ酸化反応に参加できる部位が外表面(すなわち、触媒の表面)のみならず、その内表面(気孔)に拡張される利点がある。
【0054】
具体的には、本発明の一実施形態の触媒は、エッグシェル(egg-shell)構造を有する。
【0055】
そのため、前記シリカ担体としては、非多孔性コア部と、前記非多孔性コアの表面に位置し第2気孔を含む多孔性シェル部と、を含むものを使用する。
【0056】
より具体的には、前記多孔性シェルは表面の凹部および凸部を含み、前記凹部は前記第2気孔が前記多孔性シェルの表面に開かれて形成されたものであり得る。
【0057】
したがって、本発明の一実施形態の触媒は、前記多孔性シェルの凹部および凸部を連続的にコーティングし、前記化学式1で表される金属酸化物を含むコーティング層と、前記シリカ担体の凹部に、前記コーティング層を除いた空の空間を占める第1気孔と、を含む構造を有する。
【0058】
本発明の一実施形態の触媒構造は、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)などの電子顕微鏡により確認できる。
【0059】
金属酸化物:シリカ担体の重量比
本発明の一実施形態の触媒は、前記シリカ担体をさらに含む場合、前記金属酸化物および前記シリカ担体の重量比を10:90~15:95、具体的には20:80~50:50、例えば15:85~35:65(金属酸化物:シリカ担体)とすることができる。
【0060】
上記の範囲内で、本発明の一実施形態の触媒は、高い活性度とともに高いアクリロニトリルの選択度を有する。
【0061】
前記金属酸化物および前記シリカ担体の重量比を直接測定する場合、ICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)などの測定装置を用いて測定可能である。
【0062】
(プロピレンのアンモ酸化用触媒の製造方法)
本発明の他の一実施形態においては、Mo前駆体を含む第1前駆体溶液を製造する段階と、
Fe前駆体;およびNi、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素の前駆体を含む第2前駆体溶液を製造する段階と、
Bi前駆体;前記第2前駆体溶液とは異なるNi、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素の前駆体;およびLi、Na、K、RbおよびCsのうちの一つ以上の元素の前駆体を含む第3前駆体溶液を製造する段階と、
金属のモル比が下記化学式1の化学量論的モル比を満たし、前記第1~第3前駆体溶液を混合する段階と、
シリカ担体に、前記第1~第3前駆体溶液の混合物を担持させる段階と、
前記第1~第3前駆体溶液の混合物が担持されたシリカ担体を乾燥させる段階と、
前記乾燥された物質を焼成する段階と、を含む方法を提供する:
[化学式1]
MoxBiaFebAcBdCeDfOy
上記化学式1中、x、a~eおよびyの定義は上述した通りである。
【0063】
本発明の一実施形態の製造方法は、含浸法を利用して上述した一実施形態の触媒を製造する方法に該当する。
【0064】
以下、上述した内容と重複する説明は省略し、本発明の一実施形態の製造方法を段階別に説明する。
【0065】
(第1前駆体水溶液の製造工程)
前記第1前駆体溶液を製造する段階は、50~90℃の水にMo前駆体を溶解させ、水およびMo前駆体を含む水溶液を製造する段階である。
【0066】
前記第1前駆体溶液を製造する段階において、クエン酸、シュウ酸、またはこれらの混合物を含む添加剤が使用される。
【0067】
共沈と噴霧乾燥を用いる触媒の製造工程においては、前記添加剤は強度調整剤として機能する。しかし、本発明の一実施形態においての前記添加剤は、前記第1前駆体溶液を透明にして、完全に溶解した状態の混合物前駆体を製造できるようにする。
【0068】
前記添加剤の添加時、前記モリブデン前駆体および前記添加剤の重量比は1:0.1~1:1、具体的には1:0.2~1:0.7を満たし、このような範囲内でモリブデン前駆体の溶解度は増加するが、これに限定されるものではない。
【0069】
(第2前駆体溶液の製造工程)
前記第2前駆体溶液を製造する段階は、20~50℃の水に、Fe前駆体;およびNi、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素を含む第2前駆体を溶解させる段階である。選択的にD前駆体(D=Cr、W、B、Al、CaおよびVのうちの一つ以上の元素)をさらに含む前駆体をさらに溶解できる。
【0070】
ここで、最終目的とする触媒中の金属酸化物の組成を考慮して、前駆体の種類と配合量を選択することができる。
【0071】
例えば、上述した化学式1-1を満たす金属酸化物の組成を考慮して水、Fe前駆体およびCo前駆体を含む水溶液を製造することができる。
【0072】
(第3前駆体溶液の製造工程)
前記第3前駆体溶液を製造する段階は、20~50℃の硝酸に、Bi前駆体;前記第2前駆体溶液とは異なるNi、Mn、Co、Zn、Mg、CaおよびBaのうちの一つ以上の元素の前駆体;およびLi、Na、K、RbおよびCsのうちの一つ以上の元素の前駆体を溶解させる段階である。
【0073】
ここでも最終目的とする触媒中の金属酸化物の組成を考慮して、前駆体の種類と配合量を選択することができる。
【0074】
例えば、上述した化学式1-1を満たす金属酸化物の組成を考慮して硝酸、Bi前駆体、Ni前駆体およびK前駆体を含む溶液を製造することができる。
【0075】
(前駆体溶液の混合工程)
前記第1~第3前駆体溶液を製造する工程はそれぞれ独立的であり、製造順序が限定されるものではない。
【0076】
但し、前記各金属の特性を考慮して、前記第1~第3前駆体溶液を混合する段階は、前記第2および第3前駆体溶液を混合する段階と、前記第2および第3前駆体溶液の混合物を前記第1前駆体溶液に滴下する段階と、を含む。
【0077】
また、前記第1~第3前駆体溶液の混合時、金属のモル比が前記化学式1、具体的には前記化学式1-1の化学量論的モル比を満たすように、混合比を制御することができる。
【0078】
(前駆体混合溶液の担持工程)
前記第1~第3前駆体溶液の混合物を製造した後、これをシリカ担体に担持させる。
【0079】
ここで、粒子のサイズが10~200μmであり、気孔の大きさが20~25nmであり、窒素吸着法による気孔の体積が1~3cm3/gであり、BET比表面積が250~300m2/gであるシリカ(SiO2)粒子を前記第1~第3前駆体溶液の混合物に投入して混合し、前記シリカ担体の気孔に前記第1~第3前駆体溶液の混合物が担持されるようにすることができる。
【0080】
具体的には、前記シリカ担体に前記第1~第3前駆体溶液の混合物を担持させる段階は、前記シリカ担体および前記第1~第3前駆体溶液を20~30℃の温度範囲内で1次混合する段階と、前記1次混合物を70~90℃の温度範囲内で2次混合する段階を含み、前記1次および2次混合時間はそれぞれ独立に1~3時間とすることができる。
【0081】
但し、これは例示したものに過ぎず、シリカ担体に前記第1~第3前駆体溶液の混合物が十分に担持される条件であれば特に限定されない。
【0082】
(乾燥および焼成工程)
その後、前記第1~第3前駆体溶液の混合物が担持されたシリカ担体を100~120℃の温度範囲内で5~12時間乾燥した後、500~700℃の温度範囲内で1~6時間焼成して、最終的に触媒を得ることができる。
【0083】
但し、前記乾燥および焼成の各条件は例示したものに過ぎず、前記担体の気孔から溶媒を十分に除去し、金属前駆体を酸化させる条件であれば構わない。
【0084】
これによって形成される触媒の構造は上述した通りである。
【0085】
(プロピレンのアンモ酸化方法)
本発明のさらに他の一実施形態においては、反応器内で、上述した一実施形態の触媒存在下でプロピレンおよびアンモニアを反応させる段階を含む、プロピレンのアンモ酸化方法を提供する。
【0086】
本発明の一実施形態の触媒は、高い活性度とともに高温安定性を有し、プロピレンのアンモ酸化反応に用いられ、プロピレンの転換率、アクリロニトリルの選択度および収率を高めることができる。
【0087】
本発明の一実施形態の触媒以外の事項については、当業界で公知の事項を参照できるので、それ以上の詳細な説明は省略する。
【0088】
以下、本発明の実施形態を下記の実施例でより詳細に説明する。但し、下記の実施例は発明の実施形態を例示したものに過ぎず、本発明の内容は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0089】
(実施例1)
(1)前駆体溶液の製造工程
85℃の水にMo前駆体((NH4)6Mo7O24)4.24gを溶解させ、そこにシュウ酸(Oxalic acid)またはクエン酸(Citric acid)を3g添加して、Mo前駆体溶液を製造した。
【0090】
それとは別に、常温の水にFe前駆体(Fe(NO3)2・9H2O)2.5gおよびCo前駆体(Co(NO3)2・6H2O)3.5gを溶解させ、FeおよびCo前駆体混合溶液を製造した。
【0091】
また、それとは別に、Bi前駆体(Bi(NO3)3・5H2O)1.46g、Ni前駆体(Ni(NO3)2・6H2O)0.58g、およびK前駆体(KNO3)0.2gの混合物に硝酸2gを添加して、Bi、Ni、およびK前駆体混合溶液を製造した。
【0092】
前記FeおよびCo前駆体混合溶液および前記Bi、NiおよびK前駆体混合溶液を攪拌しながら混合した後、これを前記Mo前駆体溶液に滴下(dropwise)して、Mo、Bi、Fe、Ni、CoおよびK前駆体混合溶液を得た。
【0093】
前記前駆体混合溶液で、水の総量は45gである。
【0094】
(2)シリカ担体内前駆体溶液の担持工程(含浸法利用)
粒子のサイズが50~150μmであり、気孔の大きさが10~25nmであり、窒素吸着法による気孔の体積が1~3cm3/gであり、BET比表面積が500~600m2/gであるシリカ(SiO2)粒子を担体として使用した。
【0095】
前記Mo、Bi、Fe、Ni、CoおよびK前駆体混合溶液に前記シリカ担体13gを投入し、常温および80℃で順次にそれぞれ2時間攪拌して、前記シリカ担体の気孔に前記Mo、Bi、Fe、Ni、CoおよびK前駆体混合溶液が十分に担持されるようにした。
【0096】
(3)シリカ担体内金属酸化物が担持された触媒の製造工程
その後、前記Mo、Bi、Fe、Ni、CoおよびK前駆体混合溶液が担持されたシリカ担体を回収して110℃のオーブンで12時間乾燥させた後、窒素雰囲気下で管型焼成炉で580℃の温度を維持しながら6時間熱処理して、25重量%の金属酸化物(但し、金属酸化物内Moのモル比率は12)が担持された実施例1の触媒を得た。
【0097】
(4)プロピレンのアンモ酸化工程
触媒の活性化のために石英ウール(Quartz wool)0.05gが充填された反応器内に実施例1の触媒0.2gを反応器内に充填させた。
【0098】
このように石英ウールと触媒が充填された反応器の内圧は常圧(1atm)に維持させ、5℃/minの昇温速度で反応器の内部温度を昇温させながら、前処理工程として窒素とアンモニアガスを流した。これにより、反応器の内部温度がアンモ酸化反応が可能な温度である400℃に到達するようにして、十分な前処理が行われるようにした。
【0099】
このように前処理が完了した反応器に、反応物であるプロピレンおよびアンモニアと一緒に空気(air)を供給し、プロピレンのアンモ酸化工程を行った。この時、反応物の供給量はプロピレン:アンモニア:空気=1:1.1:2=1.5~1:4:3の体積比となるように構成し、プロピレン、アンモニアおよび空気の総重量空間速度(WHSV:weight hourly space velocity)は1h-1となるようにした。
【0100】
前記アンモ酸化反応終了後にその生成物を回収し、アクリロニトリルがよく生成されたかどうかを確認するために多様な装置を用いて分析した。
【0101】
その分析方法、分析結果などについては、後述する実験例で詳細に記述する。
【0102】
(実施例2~実施例4)
(1)触媒の製造工程(含浸法利用)
下記表1に記載された組成により前駆体溶液を製造し、下記表2に記載されたシリカ担体を使用し、残りは実施例1と同様にして実施例2~実施例4の各触媒を製造した。
【0103】
(2)プロピレンのアンモ酸化工程
また、実施例1の触媒の代わりに実施例2~実施例4の各触媒を使用してプロピレンのアンモ酸化工程を行った後、その生成物を回収し、実施例1と同様に分析を実施した。
【0104】
(比較例1)
(1)触媒の製造工程(共沈後に噴霧乾燥)
まず、85℃の水200gにMo前駆体(Ammonium Molybdate)200gを溶解させ、そこにシリカゾル270gを添加して攪拌した後、約50℃で加熱して溶液Aを製造した。
【0105】
それとは別に、Bi前駆体(Bi(NO3)3・5H2O)69.4g、Co前駆体(Co(NO3)2・6H2O)165g、Fe前駆体(Fe(NO3)2・9H2O)115g、およびNi前駆体(Ni(NO3)2・6H2O)10g、K前駆体(KNO3)17.5gの混合物に硝酸10gを添加して50℃で加熱して溶液Bを製造した。
【0106】
前記溶液AとBを攪拌しながら混合して水性スラリーを得て、回転ノズル型噴霧乾燥機を用いて前記溶液AおよびBの混合水性スラリーを150℃で乾燥した。これにより得られた固相乾燥体を580℃で3時間焼成して、比較例1の触媒が最終的に得られた。
【0107】
(2)プロピレンのアンモ酸化工程
実施例1の触媒の代わりに前記比較例1の触媒を使用し、残りは実施例1と同様にしてプロピレンのアンモ酸化工程を行った。
【0108】
比較例1のアンモ酸化反応終了後にその生成物を回収し、実施例1と同様に分析を実施した。
【0109】
(比較例2)
(1)触媒の製造工程(含浸法利用)
下記表1に記載された組成により前駆体溶液を製造し、下記表2に記載されたシリカ担体を使用し、残りは実施例1と同様にして比較例2の触媒を製造した。
【0110】
(2)プロピレンのアンモ酸化工程
また、実施例1の触媒の代わりに比較例2の触媒を使用してプロピレンのアンモ酸化工程を行った後、その生成物を回収し、実施例1と同様に分析を実施した。
【0111】
【0112】
上前記表1において、Moは(NH4)6Mo7O24であり、BiはBi(NO3)3・5H2Oであり、CoはCo(NO3)2・6H2Oであり、FeはFe(NO3)2・9H2Oであり、NiはNi(NO3)2・6H2Oであり、KはKNO3である。また、省略単位はgである。
【0113】
一方、前記表1の原料の投入量は、下記表2の目的組成、すなわち、最終の金属酸化物の化学量論的モル比および金属酸化物の含有量を考慮して計算したものである。下記表2の金属酸化物の組成および含有量を直接測定する場合、ICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)などの測定装置を用いて測定可能である。
【0114】
【0115】
(実験例1:触媒分析)
以下の分析法により、実施例1および比較例1それぞれの触媒を分析した:
XRD主要ピーク強度比:実施例1および比較例1それぞれの触媒に対して、CuKαX線(X-ray)を用いた回折分析(X-Ray Diffraction、XRD)を行った後、その分析結果を
図3(実施例1)および
図4(比較例1)にそれぞれ示した。
【0116】
図3(実施例1)および
図4(比較例1)において共通的に26.3±0.5度および28.3±0.5度で主要ピーク(main peaks)が現れる。26.3±0.5度で現れるピーク強度をA、28.3±0.5度で現れるピーク強度をBとして、各触媒に対するA/Bのピーク強度比を計算して、その計算値を
表3に示す。
【0117】
BET比表面積:実施例1および比較例1それぞれの触媒に対して、BET比表面積測定装置(製造会社:BEL Japan社、機器名:BELSORP-mino X )を用いて、液体窒素温度(77K)下での窒素ガス吸着量から比表面積を評価してその評価結果を表3に示す。
【0118】
気孔の体積:ASTM D4641に従う装置(製造会社:BEL Japan社、機器名:BELSORP-mino X)を用いて、実施例1および比較例1それぞれの触媒中の気孔の体積を測定してその測定結果を表3に示す。
【0119】
触媒構造:走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)などの電子顕微鏡により確認できる。
【0120】
【0121】
1)実施例1~実施例4および比較例1の比較
実施例1~実施例4および比較例1において、XRDピーク強度特性と、気孔の体積およびBET比表面積の特性は触媒の製造方法と関連している。
【0122】
具体的には、比較例1の触媒は、共沈および噴霧乾燥工程を経ながら結晶質相が相対的に多く形成され、高い結晶性を有する。
【0123】
また、比較例1の触媒は、共沈および噴霧乾燥工程を経ながら気孔を殆ど含まない2次粒子構造を有し、反応に参加できる有効表面積が外部表面積に限定される。
【0124】
これに対して、実施例1~実施例4の触媒は含浸法によって製造され、非晶質相が相対的に多く形成され、低い結晶性を有する。
【0125】
また、実施例1~実施例4の触媒は含浸法によって製造され、複数の大きな気孔を含む構造になり、反応に参加できる有効表面積が気孔にまで拡張される。
【0126】
実際に、実施例1~実施例4および比較例1の触媒に対するX線回折(XRD)分析時、CoMoO4相によって2θが26.3±0.5度の範囲内で強度がBである第1ピークが現れ、MoO3相によって2θが28.3±0.5度の範囲内で強度がBである第2ピークが現れた。
【0127】
前記CoMoO4相はプロピレンのアンモ酸化反応に対する活性相であり、前記MoO3相は不活性相である。したがって、XRDピーク強度比(A/B)が高いほど触媒の結晶性が低く、活性が低いとみなされる。
【0128】
このような脈絡で、比較例1の触媒は、XRDピーク強度比(A/B)が1.47に過ぎず、結晶性が高く活性は低いと判断される。これに対して、実施例1~実施例4の触媒は、XRDピーク強度比(A/B)が高い範囲を満たし、結晶性が低く活性は高いと判断される。
【0129】
また、比較例1に比べて、実施例1~実施例4の触媒に含まれている気孔の体積が大きく、さらに広いBET比表面積を有することが確認された。
【0130】
2)実施例1~実施例4および比較例2の比較
一方、実施例1~実施例4および比較例1において、XRDピーク強度特性と、気孔の体積およびBET比表面積の特性は、触媒中の金属酸化物の組成と関連している。
【0131】
具体的には、比較例2の触媒は含浸法で製造したにもかかわらず、MoおよびBiのみを含む金属酸化物の影響により、不活性相のMoO3によるピークのみが形成され、活性相によるピークは形成されなかった。
【0132】
これに対して、実施例1~実施例4の触媒は含浸法で製造され、MoおよびBiのみならず、複数の適切な金属成分を含む金属酸化物の影響により、不活性相のMoO3によるピークに比べて、活性相(特にCoMoO4)によるピーク面積がさらに広く形成された。
【0133】
また、実施例1~実施例4の触媒は、活性相かつ結晶質相のCoMoO4によってシリカ担体の気孔壁面が均一にコーティングされ、適切な気孔の体積およびBET比表面積が確保されたと判断される。
【0134】
(実験例2:アンモ酸化生成物の分析)
FID(Flame Ionization Detector)とTCD(Thermal conductivity detector)が装着されたガスクロマトグラフィー(Gas chromatography、製造会社:Agilent社、機器名:GC6890N )を用い、実施例1~実施例4および比較例1および比較例2それぞれのアンモ酸化生成物を分析した。
【0135】
具体的には、FIDとしてはエチレン(ehthlene)、シアン化水素(hydrogen cyanide)、アセトアルデヒド(Acetaldehyde)、アセトニトリル(Acetonitrile)、アクリロニトリル(Acrylonitrile)などの生成物を分析し、TCDとしてはNH3、O2、CO、CO2などのガス生成物を分析して、実施例1および比較例1でそれぞれ反応したプロピレンのモル数とアンモ酸化生成物のモル数を求めた。
【0136】
これによる分析結果とともに供給されたプロピレンのモル数を下記式1、式2および式3に代入して、プロピレンの転換率、プロピレンのアンモ酸化反応生成物であるアクリロニトリルの選択度および収率を計算し、その計算値を表4に記載した。
【0137】
[式1]
プロピレンの転換率(%)=100*(反応したプロピレンのアンモ酸化モル数)/(供給されたプロピレンのモル数)
[式2]
アクリロニトリルの選択度(%)=100*(生成されたアクリロニトリルのモル数)/(反応したプロピレンのモル数)
[式3]
アクリロニトリルの収率(%)=100*(プロピレンの転換率*アクリロニトリルの選択度)
【0138】
【0139】
比較例1の触媒は、共沈と噴霧乾燥により製造された結果、反応に参加できる有効表面積(BET比表面積)が外表面に限定され、活性相かつ非晶質のCoMoO4の形成が抑制されたものである。
【0140】
したがって、比較例1の触媒は、狭い有効表面積および低い活性相含有量に起因して活性が低く、高い結晶性に起因して容易に壊れるかまたは崩れることがある。特に、プロピレンのアンモ酸化反応中に高温によって触媒が壊れるかまたは崩れる場合、触媒内部から表面にMoなどが溶出し、触媒性能が劣化する。
【0141】
実際に、比較例1の触媒を用いた反応時、プロピレンの転換率は56.5%、アクリロニトリルの収率は33.7%に過ぎないことが確認された。
【0142】
一方、比較例2の触媒は含浸法で製造したにもかかわらず、金属成分としてMoおびBiのみを含む金属酸化物の影響により、反応に参加できる有効活性相、特に活性相(CoMoO4)が形成されない。
【0143】
実際に、比較例2の触媒を用いた反応時、比較例1よりもプロピレンの転換率とアクリロニトリルの収率が低いことが確認された。
【0144】
これに対して、実施例1~実施例4の触媒は含浸法で製造した結果、反応に参加できる広い有効表面積(BET比表面積)を有し、活性相のCoMoO4の形成が増加した。
【0145】
したがって、実施例1~実施例4の触媒は、広い有効表面積および高い活性相含有量に起因して活性が高く、プロピレンのアンモ酸化反応中に加わる高温でも壊れるかまたは崩れない。
【0146】
実際に、実施例1~実施例4の触媒を用いた反応時、プロピレンの転換率は70%以上、アクリロニトリルの収率は60%以上と高く現れた。
【0147】
総合的に、金属酸化物の組成が上述した化学式1を満たし、XRD主要ピーク強度比(A/B)が1.5以上である触媒は、プロピレンのアンモ酸化反応時、プロピレンの転換率およびアクリロニトリルの収率が顕著に改善されると判断される。