(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】映写用スクリーン
(51)【国際特許分類】
G03B 21/60 20140101AFI20220816BHJP
【FI】
G03B21/60
(21)【出願番号】P 2018066574
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】591053926
【氏名又は名称】一般財団法人NHKエンジニアリングシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】397003275
【氏名又は名称】株式会社イーストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】日下部 裕一
(72)【発明者】
【氏名】金澤 勝
(72)【発明者】
【氏名】東田 吉藏
【審査官】中村 直行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-262210(JP,A)
【文献】米国特許第06128130(US,A)
【文献】特開2010-060745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 21/00 - 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のスクリーン生地で構成されたスクリーンの表面側から投影を行う映写用スクリーンであって、
隣接する前記スクリーン生地同士の裏面周縁部分に接する裏地又は、前記スクリーン生地同士の周縁を重ね合わせた部分からなるスクリーン生地接合部分と、
前記スクリーンの裏面側に位置し、前記スクリーンと前記スクリーン生地接合部分との境界で発生する輝度変化を緩和する輝度変化緩和
材と、を備え、
前記輝度変化緩和材は、前記スクリーンから離間して設置されており、前記スクリーンの正面視において、前記境界の少なくとも一部に重なり
、前記スクリーン生地接合部分と同一の光反射特性を有することを特徴とする映写用スクリーン。
【請求項2】
前記スクリーンの正面視における前記スクリーン生地接合部分の端から前記輝度変化緩和材の端までの第1距離は、前記スクリーンから前記輝度変化緩和材までの第2距離以上であることを特徴とする請求項1に記載の映写用スクリーン。
【請求項3】
前記第1距離は、前記第2距離の3倍以下であり、
前記第2距離は、前記スクリーンの高さの1/150以上、1/50以下であることを特徴とする請求項2に記載の映写用スクリーン。
【請求項4】
前記スクリーン生地、前記裏地及び前記輝度変化緩和材は、同一の素材であることを特徴とする請求項
1に記載の映写用スクリーン。
【請求項5】
前記スクリーンは、音響透過型スクリーンであることを特徴とする請求項1から請求項
4の何れか一項に記載の映写用スクリーン。
【請求項6】
前記スクリーンから前記輝度変化緩和材を離間して支持する支持部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項
5の何れか一項に記載の映写用スクリーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映写用スクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スピーカから出力する音の透過率を高めた音響透過型の映写用スクリーンが提案されている。この技術を使えば、スクリーンの背後にスピーカを配置できるので、居住空間の混雑を解消することが可能である。音の透過率を高める手法として、レーザ加工によりスクリーンに微小な穴をあけたものや、平織物のようにスクリーンの組織(パターン形状)を工夫したものが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
映写用スクリーンでは、1枚のスクリーン生地だけで所要のサイズに足りない場合、複数枚のスクリーン生地を繋ぐことがある。例えば、
図16に示すように、映写用スクリーン9は、同一平面上に複数枚のスクリーン生地90を並べ、スクリーン生地90同士の境界部分に補強用裏地91をあてがう。そして、映写用スクリーン9は、縫い合わせ用の糸92を用いて、スクリーン生地90同士の境界部分と補強用裏地91とを縫い合わせる。このとき、映写用スクリーン9は、糸92を細くすることで、この糸92が目立たなくなる。この他、
図17に示すように、映写用スクリーン9Aは、スクリーン生地90同士の境界部分を重ね合わせ、その重ね合わせ部分を糸92で縫い合わせてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
音響透過型の映写用スクリーンは、音響特性の低下を最小限に抑えるため、スクリーン生地を薄くする必要がある。この場合、
図18に示すように、プロジェクタからの投射光は、その大部分がスクリーン生地90で反射される一方、その一部がスクリーン生地90を表面側から透過する。スクリーン生地90の厚さにもよるが、その投射光の透過量は、その全光量のうち、数10%近くになる場合がある。さらに、補強用裏地91がある領域では、その透過光の大部分が補強用裏地91で反射されて再びスクリーン生地90に入射し、スクリーン生地90を裏面側から透過する。この点、
図17に示すように、スクリーン生地90を重ね合わせた場合も同様である。
なお、
図18では、図面を見やすくするため、スクリーン生地90及び補強用裏地91を離して図示した。また、
図18では、光を破線のブロック矢印で図示し、ブロック矢印の向きと大きさが、光の向きと光量を表す。
【0006】
つまり、補強用裏地91がある領域は、補強用裏地91がない領域よりも明るくなる。
図19に示すように、補強用裏地91の左端位置x
L及び右端位置x
Rにおいて、輝度変化を表す直線が垂直であり、破線部分で急激に輝度が変化する。人間の視覚では、輝度変化が1%程度であれば、破線で図示した補強用裏地91の境界部分がエッジとして認識される。このように、補強用裏地91が画質を低下させる要因となる。
なお、
図19は、縦軸が輝度を表し、横軸がスクリーン上での水平位置を表し、補強用裏地91が左端位置x
Lと右端位置x
Rとの間に位置する。
【0007】
そこで、本発明は、スクリーン生地接合部分に起因する輝度変化を緩和し、画質を改善する映写用スクリーンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題に鑑みて、本発明に係る映写用スクリーンは、複数枚のスクリーン生地で構成されたスクリーンの表面側から投影を行う映写用スクリーンであって、隣接する前記スクリーン生地同士の裏面周縁部分に接する裏地、又は、前記スクリーン生地同士の周縁を重ね合わせた部分からなるスクリーン生地接合部分と、前記スクリーンの裏面側に位置し、前記スクリーンと前記スクリーン生地接合部分との境界で発生する輝度変化を緩和する輝度変化緩和材と、を備え、前記輝度変化緩和材は、前記スクリーンから離間して設置されており、前記スクリーンの正面視において、前記境界の少なくとも一部に重なり、前記スクリーン生地接合部分と同一の光反射特性を有する構成とした。
【0009】
かかる構成によれば、映写用スクリーンは、スクリーンとスクリーン生地接合部分との境界において、スクリーンを透過した光が輝度変化緩和材で反射されてスクリーンに再入射する。このように、映写用スクリーンは、スクリーン生地接合部分からの光だけでなく、輝度変化緩和材からの光もスクリーンに再入射するので、前記境界で輝度が急激に変化せず、スクリーン生地接合部分に起因する輝度変化を緩和することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スクリーン生地接合部分に起因する輝度変化を緩和し、画質を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態における音響映像システムの構成を示す概略図である。
【
図3】(a)は
図2の平面図であり、(b)は
図3の正面図である。
【
図4】実施形態において、輝度変化緩和の原理を説明する説明図である。
【
図5】実施形態において、輝度とスクリーンの水平位置との関係を示すグラフである。
【
図6】実施形態において、映写用スクリーンの各部寸法や距離を説明する説明図である。
【
図7】実施形態において、改善用布地の反射や拡散を説明する説明図である。
【
図8】実施形態において、スクリーンへの入射を説明する説明図である。
【
図9】実施形態において、輝度差とスクリーンの水平位置との関係を示すグラフであり、(a)は改善用布地がない場合、(b)は改善用布地がスクリーンに近い場合、(c)は改善用布地がスクリーンから離れている場合、(d)は改善用布地がスクリーンからさらに離れている場合である。
【
図10】実施形態において、輝度差と視野角の関係を説明するグラフであり、(a)は視野角が0.06°の場合であり、(b)は視野角が0.6°の場合である。
【
図11】変形例1において、映写用スクリーンの各部寸法や距離を説明する説明図である。
【
図12】変形例2における映写用スクリーンの斜視図である。
【
図14】変形例3における映写用スクリーンの斜視図である。
【
図16】従来技術において、スクリーン生地同士の縫い合わせを説明する説明図である。
【
図17】従来技術において、スクリーン生地同士の縫い合わせを説明する説明図である。
【
図18】従来技術において、輝度変化を説明する説明図である。
【
図19】従来技術において、輝度とスクリーンの水平位置との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
以下の説明において参照する図面は、実施形態を概略的に示したものであるため、各部材のスケールや間隔、位置関係などが誇張、あるいは、部材の一部の図示が省略されている場合がある。また、以下の説明では、同一の名称および符号については原則として同一もしくは同質の部材を示しており、詳細な説明を適宜省略することとする。さらに、各図において示す方向は、構成要素間の相対的な位置を示し、絶対的な位置を示すことを意図したものではない。
【0013】
(実施形態)
[音響映像システム]
図1を参照して、実施形態に係る映写用スクリーン10を用いた音響映像システムSの構成を説明する。
図1に示すように、音響映像システムSは、スクリーン装置1と、スクリーン装置1から一定の距離をおいた前方に配置されるプロジェクタ2と、スクリーン装置1の背後(後方すぐ近く)に配置されるスピーカ3と、を備える。
【0014】
スクリーン装置1は、後記するプロジェクタ2から照射された映像を映し出すものである。例えば、スクリーン装置1は、プロジェクタ2からの映像が投影される映写用スクリーン10と、映写用スクリーン10を支持するフレーム(支持部材)20とを備える。
【0015】
映写用スクリーン10は、複数枚のスクリーン生地13で構成されたスクリーン11を備え、このスクリーン11の表面11aの側から投影を行うものである(
図2)。例えば、映写用スクリーン10は、3枚の縦長のスクリーン生地13の左右を縫い合わせて、1枚のスクリーン11を構成する。
なお、映写用スクリーン10の詳細は、後記する。
【0016】
フレーム20は、映写用スクリーン10のスクリーン面が張った状態で、映写用スクリーン10を支持するものである。例えば、フレーム20は、映写用スクリーン10より一回り大きい横長の枠体であり、部屋の天井に固定される。また、フレーム20は、枠体内側に取り付けたバネ21を介して、映写用スクリーン10の周縁を上下左右斜めに引っ張るように支持する。
【0017】
プロジェクタ2は、映像をスクリーン装置1に投影する一般的な投影装置である。例えば、プロジェクタ2は、e-shift方式を採用しており、1フレーム期間単位で投影する画素の位置を0.5画素分だけ斜め方向に動かすことで、画素数4K(「3840×2160」画素)でありながら等価的に8K解像度を実現できる(例えば、特許5538093号公報)。
【0018】
スピーカ3は、音を発生させる装置である。例えば、スピーカ3は、22.2マルチチャンネルの音響装置である。スピーカ3から発生した音は、スクリーン装置1を通過して、スクリーン装置1の前方にいる観視者に到達する。
【0019】
[映写用スクリーン]
図2,
図3を参照し、映写用スクリーン10の構造について説明する。
図2、
図3に示すように、映写用スクリーン10は、スクリーン11と、補強用裏地(接合、スクリーン生地接合部分)15と、改善用布地(輝度変化緩和材)17とを備える。
なお、以後の図面では、水平方向をX軸とし、垂直方向をY軸とし、奥行き方向をZ軸として図示した。
また、
図2ではフレーム20の図示を省略し、
図3ではフレーム20及びバネ21の図示を省略した。
【0020】
スクリーン11は、縦長のスクリーン生地13(131,132,133)で構成されており、プロジェクタ2から照射された映像を奇麗に映し出せるように、表面11aが平坦なスクリーン面を形成する。
なお、スクリーン11は、映像が投影される側のスクリーン面を表面11aとし、補強用裏地15が接する側のスクリーン面を裏面11bとする。
【0021】
ここでは、スクリーン11は、補強用裏地15
1を介して、2枚のスクリーン生地13
1,13
2の裏面側を接合する。例えば、スクリーン11は、細い糸(不図示)を用いて、同一平面上で隣接するスクリーン生地13
1,13
2の裏面周縁部分13aと補強用裏地15
1とを縫い合わせる(
図16参照)。
また、スクリーン11は、スクリーン生地13
2,13
3も同様に接合するので、計2枚の補強用裏地15
1,15
2を有する。このように、スクリーン11は、縦長な3枚のスクリーン生地13を水平方向に接合することで、横長のスクリーン面を形成する。
【0022】
スクリーン生地13は、一般的な音響透過スクリーン用の生地である。例えば、スクリーン生地13の素材としては、レーザ加工により微小な穴をあけたもの、平織物のように繊維のパターン形状を工夫したもの、マルチフィラメント糸の経編生地に音響透過用の穴を形成したものがあげられる(例えば、特開2016-114701号公報)。
【0023】
補強用裏地15は、同一平面(X-Y平面)でスクリーン生地13を接合するために、スクリーン生地13の繋ぎ目にあてがう裏地である。また、補強用裏地15は、スクリーン生地13の裏面周縁部分13aを補強する役目も有する。例えば、補強用裏地15は、スクリーン生地13の裏面周縁部分13aに対応するように、スクリーン11の上端から下端に達する縦長帯状の形状となる。
【0024】
改善用布地17は、スクリーン11と補強用裏地15との境界で発生する輝度変化を緩和するものである。つまり、改善用布地17は、補強用裏地15に起因する輝度変化を緩和し、音響映像システムSの画質を改善する役目を有する。
図3(a)に示すように、改善用布地17は、スクリーン11の平面視において、スクリーン11の裏面11bから離間して設置されている。また、
図3(b)に示すように、改善用布地17は、スクリーン11の正面視において、スクリーン11と補強用裏地15との境界全部分に重なっている。例えば、改善用布地17は、補強用裏地15より一回り幅が広く、スクリーン11の上端から下端に達する縦長帯状の形状となる。
【0025】
なお、スクリーン11の正面視とは、X-Y平面の法線がZ軸と平行になるようにスクリーン11を見ることである。
また、スクリーン11の平面視とは、X-Z平面の法線がY軸と平行になるようにスクリーン11を見ることである。
【0026】
改善用布地17は、補強用裏地15と同数必要になり、それぞれの補強用裏地15に対応するように配置する。ここでは、改善用布地171が補強用裏地151に対応し、改善用布地172が補強用裏地152に対応する。
【0027】
以下、スクリーン11の素材について説明する。
補強用裏地15の素材は、特に制限されないが、スクリーン生地13と同一の光反射特性を有することが好ましい。ここで、補強用裏地15及びスクリーン生地13の伸縮率が異なる場合、スクリーン11に弛みやシワが発生しやすくなる。このため、補強用裏地15の素材は、スクリーン生地13と同一の伸縮率を有することが好ましい。
改善用布地17の素材は、特に制限されないが、補強用裏地15と同一の光反射特性を有することが好ましい。さらに、素材調達及び製造の容易性を考慮すれば、スクリーン生地13、補強用裏地15及び改善用布地17は、同一の生地を用いて、同一の光反射特性、同一の伸縮率及び同一の厚みとすることが好ましい。
【0028】
フレーム20によるスクリーン11の支持について説明する。
フレーム20は、スクリーン11及び改善用布地17が所定の位置関係を維持するように、映写用スクリーン10を支持することが好ましい。
図1,
図2に示すように、フレーム20は、上下左右に12本、四隅に4本、計16本のバネ21で、スクリーン11を支持する。さらに、フレーム20は、上下2本のバネ21で、それぞれの改善用布地17を支持する。このとき、フレーム20は、スクリーン11に接続するバネ21と、改善用布地17に接続するバネ21との取付位置を、奥行き方向で所定距離だけ離すとよい。
【0029】
<輝度変化緩和の原理>
以下、改善用布地17が輝度変化を緩和する原理について、説明する。
図4に示すように、プロジェクタ2からの投射光は、その一部がスクリーン11を表面11aの側から透過する。また、スクリーン11の透過光は、補強用裏地15がある領域では、その大部分が反射され、再びスクリーン11を裏面11bの側から透過する。さらに、スクリーン11の透過光は、改善用布地17でも反射されて再びスクリーン11を裏面11bの側から透過する。すなわち、映写用スクリーン10は、補強用裏地15からの光だけでなく、改善用布地17からの光もスクリーン11に再入射する。従って、映写用スクリーン10は、
図5に示すように、補強用裏地15の左端位置x
L及び右端位置x
Rの付近で輝度が急激に変化せずに、輝度変化が緩和される(破線部分参照)。このように、映写用スクリーン10では、輝度差自体は変化しないが、人間の視覚により輝度変化が認識されにくいので、画質が改善される。
【0030】
なお、
図4では、図面を見やすくするため、スクリーン11及び補強用裏地15を離して図示した。また、
図4では、光を破線のブロック矢印で図示し、ブロック矢印の向きと大きさが、光の向きと光量を表す。
また、
図5は、縦軸が輝度を表し、横軸がスクリーン上での水平位置を表し、補強用裏地15が左端位置x
Lと右端位置x
Rとの間に位置する。
【0031】
<補強用裏地及び改善用布地の位置関係>
補強用裏地15及び改善用布地17の位置関係の説明に際し、映写用スクリーン10の各部寸法や距離を以下のように定義する。
【0032】
図6に示すように、補強用裏地15の幅をL
1とする。
改善用布地17が補強用裏地15からはみ出る幅をL
2とする。この幅L
2は、スクリーン11の正面視において、補強用裏地15の端から改善用布地17の端までの距離を表す(第1距離)。つまり、幅L
2は、水平方向(X軸方向)での補強用裏地15の端から改善用布地17の端までの距離を表す。
スクリーン11から改善用布地17までの距離をL
3とする(第2距離)。この距離L
3は、スクリーン11の裏面11bから改善用布地17までの距離を表す。
スクリーン11上での水平位置をxとする(
図6では水平位置x=x
a)。
改善用布地17で反射される光のうち、水平位置xに入射する光量をp(x)とする。なお、光量p(x)は、補強用裏地15がある領域での光量を1として規格化する。
改善用布地17において、補強用裏地15の周縁(
図6では補強用裏地15の右端)に対応する位置と、水平位置xとのなす角をθ
1とする。
改善用布地17の端と水平位置xとのなす角をθ
2とする。
【0033】
説明を簡易にするため、スクリーン11の透過光は、直進することとする。この透過光は、
図7に示すように、改善用布地17によって、角度θのとき強度f(θ)で反射、拡散されることとする。拡散の形状が完全拡散であると仮定すると、強度f(θ)は、式(1)で表される。
【0034】
【0035】
改善用布地17により角度θで拡散された光がスクリーン11に再入射するとき、角度θ~θ+Δθに対応するスクリーン11の幅をg(θ)△θとする。
図8に示すように、g(θ)は、角度θにおけるスクリーン11の幅gの微分値であり、式(2)で表される。さらに、
図6より、角度θ
1,θ
2は、式(3)で表される。
【0036】
【0037】
【0038】
以上より、光量p(x)は、式(4)で表される(なお、Aは、後記する定数)。
【0039】
【0040】
前記したように、光量p(x)は、補強用裏地15がある領域での光量を1として規格化されている。これは、式(4)において、θ1=-π/2、θ2=π/2としたとき、光量p(x)が1になることを意味する。この条件より、定数A=3/4となり、式(4)が式(5)で表される。
【0041】
【0042】
図6に示すように、光量p(x)は、改善用布地17がある領域とない領域の輝度差に相当する。また、式(3)からわかるように、光量p(x)が幅L
2,距離L
3に依存する。そこで、幅L
2,距離L
3と輝度変化との関係について検討する。
【0043】
幅L
1=1として幅L
2,距離L
3を変化させたとき(0≦L
2,L
3≦1)、水平位置xでの輝度差を
図9に図示した。
図9では、実線が式(6)で計算したp(x)を表す。さらに、輝度差と視野角(輝度変化の幅W)の関係を
図10に図示した。
【0044】
図9(a)では、改善用布地17を配置しておらず、補強用裏地15に起因する輝度変化を‘1’を基準として図示した。
図9(b)では、改善用布地17をスクリーン11に近づけた(距離L
3=0.1)。この場合、映写用スクリーン10は、補強用裏地15を大きくしたのと同等であり、輝度変化が殆ど緩和されず、画質改善効果が得られない。
【0045】
図9(c)では、改善用布地17をスクリーン11から離し(距離L
3=0.5)、幅L
2,距離L
3を等しくした。この場合、映写用スクリーン10は、補強用裏地15の境界部分において、輝度変化がさほど改善されない。例えば、人間の視覚で一番目立つ細かさは4cycle/deg程度である。
図10(a)に示すように、視野角が0.06°(4cycle/degに相当する角度の1/4、1m離れたとき約1mmとなる角度に相当)の場合、輝度変化が目立ってしまう。
なお、
図9(c)においては、補強用裏地15からの透過光が改善用布地17で反射されることや、スクリーン11からの透過光が拡散されて改善用布地17に入射して平均化されることがある。このため、実際には、スクリーン11で急激な輝度変化が生じず、なだらかな輝度変化になると思われる(破線参照)。
【0046】
図9(d)では、幅L
2と距離L
3を等しくしたまま、改善用布地17をスクリーン11からさらに離した(距離L
3=1.0)。この場合、映写用スクリーン10は、輝度変化が緩和されるため、人間の視覚により境界部分が認識されにくくなり、画質が改善される。例えば、
図10(b)に示すように、視野角が0.6°(
図10(a)の10倍、1m離れたとき約1cmとなる角度に相当)の場合、輝度変化が目立たなくなる。
【0047】
このように、改善用布地17による効果を発揮するためには、改善用布地17をある程度スクリーン11の裏面11bから離すことと、その離した距離以上に、改善用布地17が補強用裏地15からはみ出すことが必要になる。
図9によれば、輝度が1から0へ変化する幅と、改善用布地17からスクリーン11の裏面11bまでの距離L
3が、同程度である。
【0048】
ここで、音響透過スクリーンの場合、改善用布地17が大きすぎると、スピーカを設置するときの邪魔となり、音響特性を劣化させる原因ともなる。このため、改善用布地17は、必要以上に大きくしないことが好ましい。
【0049】
人間の視覚で一番目立つ細かさは、4cycle/deg程度である。輝度変化の幅がこの細かさの10倍程度であれば、目立ちにくくなると考えられる(
図10(b)参照)。このため、輝度変化の幅を視野角1°以上とする。この輝度変化の幅とは、
図10に示すように、改善用布地17が存在する部分の輝度がスクリーン11だけの部分の輝度に変化するまでの幅Wに相当する視野角である。なお、輝度変化の幅は、補強用裏地15の幅、その両側の輝度変化の全部を含んでいる。輝度が1から0へ変化する幅をその1/4程度として、改善用布地17からスクリーン11の裏面11bまでの距離L
3は、視野角に換算して0.25°になる。
【0050】
例えば、スクリーン11を高精細音響透過用とする場合、解像度が4K以上になるので、スクリーン11と観視者の距離は、最大でスクリーン11の高さの3倍と想定する。例えば、スクリーン11のアスペクト比が16:9の場合、スクリーン11に対する角度は、水平33°、垂直19°となる。前記した視野角0.25°を考慮すると、スクリーン11の裏面11bから改善用布地17までの距離L3は、スクリーン11の高さの1/75程度となる。この条件では、ある1点のみでスクリーン11の裏面11bから改善用布地17までの距離L3が決まるが、元々誤差を含んでいるので、3倍までの範囲とする。
【0051】
つまり、画質改善の効果があると思われるのは、スクリーン11の裏面11bから改善用布地17までの距離L3は、スクリーン11の高さの1/150以上、1/50以下の範囲となる。さらに、改善用布地17が補強用裏地15からはみ出す幅L2は、距離L3以上で3倍以下の範囲となる。
【0052】
[作用・効果]
以上のように、映写用スクリーン10は、スクリーン11と補強用裏地15との境界において、スクリーン11を透過した光が改善用布地17で反射されてスクリーン11に再入射するので、その境界で輝度が急激に変化せず、輝度変化を緩和することができる。このように、映写用スクリーン10は、複数枚のスクリーン生地13を縫い合わせて大画面のスクリーン11を構成した場合でも、縫い合わせ部分が目立つような画質妨害を引き起こしにくく、画質を改善することができる。
【0053】
(変形例1)
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0054】
前記した実施形態では、スクリーン生地と補強用裏地とを縫い合わせることとして説明したが、これに限定されない。
図11に示すように、映写用スクリーン10Bは、補強用裏地を用いずに、スクリーン生地13同士を接合してもよい。例えば、映写用スクリーン10Bは、隣接するスクリーン生地13
1,13
2の周縁を重ね合わせた後、糸(不図示)を用いて、この重ね合わせ部分(スクリーン生地接合部分)19を縫い合わせる。この場合、重ね合わせ部分19の幅が幅L
1となる。
改善用布地17は、スクリーン11Bの正面視において、重ね合わせ部分19の端に重なるように配置する。例えば、改善用布地17は、重ね合わせ部分19より幅を広くすればよい。
これにより、映写用スクリーン10Bは、補強用裏地を用いない場合でも、前記した実施形態と同様、重ね合わせ部分19に起因する輝度変化を緩和し、画質を改善することができる。
【0055】
(変形例2)
前記した実施形態では、スクリーン生地と補強用裏地との境界全部分に改善用布地を配置することとして説明したが、これに限定されない。
図12,
図13に示すように、映写用スクリーン10Cは、スクリーン11の一部(中央部)のみ改善用布地17Cを配置する。例えば、改善用布地17Cは、スクリーン11の半分程度の高さで、補強用裏地15よりも一回り幅が広くなる。
これのように、映写用スクリーン10Cは、観視者が注視するスクリーン11の中央部のみに改善用布地17Cを配置するので、画質を改善すると共に、音響特性の低下をより抑えることができる。
なお、改善用布地17Cの配置箇所は、スクリーン11の中央部のみに限定されない。
【0056】
(変形例3)
前記した実施形態では、縦長のスクリーン生地を横方向に接合することとして説明したが、スクリーン生地の枚数、形状、及び接合箇所は、これに限定されない。
図14,
図15に示すように、映写用スクリーン10Dは、略正方形状の6枚のスクリーン生地13(13
1~13
6)を縦に2枚、横に3枚で接合することで、一枚のスクリーン11を構成する。この場合、補強用裏地15Dは、スクリーン生地13
1~13
6の周縁部分に沿って、スクリーン11の左右に達する1本の横帯と、スクリーン11の上下に達する2本の縦帯とが交わる形状となる。そして、改善用布地17Dは、補強用裏地15Dと同様の形状で、補強用裏地15Dよりも一回り幅が広くなる。
【0057】
(その他変形例)
前記した実施形態では、スクリーン生地同士を縫い合わせることとして説明したが、スクリーン生地の接合方法は、これに限定されない。例えば、スクリーン生地同士を接着又は溶着してもよい。
また、前記した実施形態では、バネを介して、フレームがスクリーン及び改善用布地を支持することとして説明したが、これに限定されない。例えば、フレームは、内側の全周囲に2つの溝(不図示)を形成する。この溝は、奥行き方向に所定距離だけ離すことが好ましい。そして、フレームは、それぞれの溝でスクリーン及び改善用布地の周縁を挟むように支持する。
【符号の説明】
【0058】
S 音響映像システム
1 スクリーン装置
2 プロジェクタ
3 スピーカ
10,10B,10C,10D 映写用スクリーン
11,11B スクリーン
11a 表面
11b 裏面
13,131~136 スクリーン生地
13a 裏面周縁部分
15,151,152,15D 補強用裏地(裏地、スクリーン生地接合部分)
17,171,172,17C,17D 改善用布地(輝度変化緩和材)
19 重ね合わせ部分(スクリーン生地接合部分)
20 フレーム(支持部材)
21 バネ
9,9A 映写用スクリーン
90 スクリーン生地
91 補強用裏地
92 糸