(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】抗インフルエンザウイルス剤及びそれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/644 20150101AFI20220816BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220816BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220816BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20220816BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20220816BHJP
A61K 36/18 20060101ALI20220816BHJP
A61K 36/45 20060101ALI20220816BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220816BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220816BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
A61K35/644
A23L33/10
A23L33/105
A61K31/353
A61K35/747
A61K36/18
A61K36/45
A61P31/16
A61P43/00 121
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2017236214
(22)【出願日】2017-12-08
【審査請求日】2020-04-16
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大曲 純子
(72)【発明者】
【氏名】和泉 亨
(72)【発明者】
【氏名】森 卓也
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】齋藤 恵
【審判官】冨永 みどり
(56)【参考文献】
【文献】特許第5646124(JP,B1)
【文献】特開平9-221484(JP,A)
【文献】Nutrition Journal, 2013, Vol.12, Article No.161, pp.l-9
【文献】Food STYLE 21, 2011, Vol.15, No.11, pp.85-88
【文献】Immune Defence Cranberry + Propolis Capsules, 商品説明, 2007.11, Mintel GNPD [online], Mintel Group Ltd [retrieved on 2020.06.15], retrieved from: Mintel GNPD DB
【文献】Urinary Trouble Capsules, 商品説明, 2016.08, Mintel GNPD [online], Mintel Group Ltd [retrieved on 2020.06.15], retrieved from: Mintel GNPD DB
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/00-A61K35/768
A61K36/00-A61K36/9068
A23L5/40-5/49
A61K31/00-33/29
MEDLINE/CAplus/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
日経テレコン
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、
クランベリーエキスを0.1~0.98重量部、エタノール抽出されたプロポリスエキスを0.01~0.98重量部、乳酸菌を乾燥重量換算で0.01~0.98重量部含
み、
前記乳酸菌がラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌である、抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項2】
前記ラクトバチルス・パラカゼイがラクトバチルス・パラカゼイMCC1849(NITE BP-01633)株である、請求項
1に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の抗インフルエンザウイルス剤を含む、組成物。
【請求項4】
飲食品、サプリメント又は医薬に配合される、請求項
3に記載の組成物。
【請求項5】
インフルエンザウイルス感染の予防又は治療のための、請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
前記クランベリーエキスの配合量が0.1~0.98重量部、
前記プロポリスエキスの配合量が0.01~0.98重量部、
前記乳酸菌
の配合量が乾燥重量換算で0.01~0.98重量部含
である、請求項
3~
5のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗インフルエンザウイルス剤及びそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザはインフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症であり、毎年違う型のインフルエンザが世界中で流行している。一般的に、インフルエンザウイルスの感染に対しては、ワクチン接種による予防や、ノイラミニダーゼ阻害剤等の薬剤による治療が行われているが、インフルエンザウイルスのタイプによってはそれらの効果が著しく異なるという問題がある。また、薬剤によっては副作用や耐性ウイルスの出現といった問題も残されている。
【0003】
上記のような問題に鑑み、インフルエンザウイルスの予防・治療に効果のある物質の探索においては、飲食品に配合されるような、人体に害の少ない安全・安心な抗インフルエンザウイルス剤が望まれている。
【0004】
クランベリー(Vaccinium macrocarpon Ait.)は、北アメリカなどの寒冷地に生育するツツジ科スノキ属ツルコケモモ節の植物であり、小果実を実らせる。アメリカでは品種改良が行われて大規模に栽培されている。クランベリー果実はそのままでも食せるが、これまでドライフルーツとして、またジュースなどの飲料用、料理用ソース、ジャム、ゼリー菓子などの原料として広く利用されている。またクランベリージュースの摂取が、尿路感染症に有効であることが知られている。
【0005】
プロポリスは、蜜蜂が巣箱内に貯蔵する樹脂状物で、これには樹脂、ミツロウ、精油、花粉、フラボノイドなどが含まれており、古くから民間療法薬として感受性疾患の予防、治療や健康の維持、増進などに利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Planta Med.2012;78(10):962-7
【文献】Antiviral Res.2005;66(1):9-12
【文献】Nutr J.2013 ;12:161
【文献】J Biomol Screen.2012 ;17(5):605-17
【文献】Antivir Chem Chemother.2008;19(1):7-13
【特許文献】
【0007】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規な抗インフルエンザウイルス剤及びそれを含む組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
抗インフルエンザウイルス作用を有する種々の天然物由来のエキスが存在しており、例えば、クランベリーのエキスは、アガリクス茸の子実体及び/又は菌糸体を親水性溶媒で抽出処理した抽出物との組み合わせでインフルエンザウイルス感染及び/又は該感染後の生体内での増殖を顕著に抑制することが知られている(特許文献1)。また、クランベリーエキス単独又はクランベリーに含まれる抗酸化成分であるプロアントシアニジンがインフルエンザウイルスなどの種々のウイルスの増殖を阻害することも知られている(非特許文献1-4)。
【0010】
プロポリスについても、そのエタノール抽出物がインフルエンザの感染に対して効果を奏するという知見が存在している(非特許文献5)。
【0011】
その他にも種々の天然物抽出物について抗インフルエンザウイルス作用の報告がなされているが、その効果は十分ではないと考えられる。事実、このことを裏付けるかのように、いずれの抽出物も我が国において一般的にインフルエンザ対策に使用されるまでには至っていない。
【0012】
飲食品に配合可能な数多の成分のうち、抗インフルエンザウイルス作用を有することが知られている成分の効果について本発明者らが確認したところ、単独での抗インフルエンザウイルス作用はさほど強くないものの、組み合わせることにより効果が増大する場合があることが明らかとなった。本発明者らは、これらの特定の組み合わせについて更に鋭意検討を行った結果、(A)プロアントシアニジン含有植物エキス、(B)プロポリスエキス、及び、任意に(C)乳酸菌を含有する組成物が(A)、(B)、(C)単独の効果の総和を遥かに上回る抗インフルエンザ効果を有することを見出し、本発明に至った。
【0013】
本発明の概要は、以下の通りである。
(1)有効成分として、プロアントシアニジン含有植物エキスと、プロポリスエキスとを含む抗インフルエンザウイルス剤。
(2)プロアントシアニジン含有植物がベリー類に属する植物である、(1)に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
(3)ベリー類に属する植物がクランベリーである、(1)又は(2)に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
(4)エキスの抽出がエタノールによる、(1)~(3)のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤。
(5)インターロイキン-12(IL-12)産生促進作用を有するか、若しくは二本鎖RNAを含有する、乳酸菌又はその他の菌類を更に含む、(1)~(4)のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤。
(6)乳酸菌がラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌である、(5)に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
(7)ラクトバチルス・パラカゼイがラクトバチルス・パラカゼイMCC1849(NITE BP-01633)株である、(6)に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤を含む、組成物。
(9)飲食品、サプリメント又は医薬に配合される、(8)に記載の組成物。
(10)インフルエンザウイルス感染の予防又は治療のための、(8)に記載の組成物。
(11)プロアントシアニジンを0.1~0.98重量部、プロポリスエキスを0.01~0.98重量部、乳酸菌を乾燥重量換算で0.01~0.98重量部含む、(8)~(10)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤及び飲食用組成物は、(A)プロアントシアニジン含有植物エキス、(B)プロポリスエキス、及び、任意に(C)乳酸菌を含有し、優れた抗インフルエンザ効果を有する。特に、エキス(A)と(B)の組み合わせは、抗インフルエンザウイルス作用について顕著な相乗効果を有することが確認されている。また、いずれの成分も飲食品に配合される成分であることから、安全に経口摂取できると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
(抗インフルエンザウイルス剤)
本実施形態の抗インフルエンザウイルス剤は、有効成分として、プロアントシアニジン含有植物エキスと、プロポリスエキスとを含む。抗インフルエンザウイルス作用は、広くインフルエンザウイルス、特にA型インフルエンザウイルスの活性を抑制することを意味する。理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明の抗インフルエンザウイルス剤は体内でインフルエンザウイルスの増殖を抑え、インフルエンザウイルスに起因するあらゆる症状を緩和し、重篤化を防ぐことが期待される。本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、各症状の緩和のみならず、インフルエンザの治療や、二次感染の防止などの予防にも使用され得る。
【0017】
(A)プロアントシアニジン含有植物エキス
プロアントシアニジンは各種植物体中に存在する縮合型タンニン、あるいは非加水分解性タンニン、すなわちフラバン-3-オールまたはフラバン-3,4-ジオールを構成単位として縮合、重合により結合した化合物群である。プロアントシアニジンは、結合様式の違いから数種類に分類されており、例えば、2つ以上のフラバン-3-オール構造が4β位→8位および2β位→O→7位または4β位→6位および2β位→O→7位を介して結合する部位が少なくとも1箇所に存在する場合はA型、2つ以上のフラバン-3-オール構造が4β位→8位または4β位→6位を介して結合している場合はB型に分類されることが知られている。エキスに含まれるプロアントシアニジンはA型又はB型のいずれか、あるいはその両方でもよいが、A型が好ましい。
【0018】
プロアントシアニジン含有植物とは、プロアントシアニジンを含む植物を意味する。限定することを意図するものではないが、プロアントシアニジン含有植物として、ベリー類、プラム、アボカド、ピーナッツ、シナモンなどが挙げられる。ベリー類の中では、プロアントシアニジンを多く含むことが知られているクランベリーが好ましい。
【0019】
本明細書で使用する場合、プロアントシアニジン含有植物エキスとは、例えば、ベリー果実などのプロアントシアニジンを含有する部位から搾汁して得られた汁もしくはその汁を濃縮したもの、前記汁もしくは濃縮汁にデキストリンなどの賦形剤を添加混合し噴霧乾燥あるいは凍結乾燥するなどの手段で得られた汁中の固形分を含有するもの、またはプロアントシアニジンを含有する果実や果皮・種子より適当な溶剤を用いて抽出された抽出物などをいう。有効成分を所定の量含んでいる限り、エキスの剤型は重要ではなく、軟エキス剤又は乾燥エキス剤、あるいはそれ以外の類似の形態、例えば乾燥状態であってもよい。本発明で使用する他のエキスについても同様である。
【0020】
抽出処理に用いる溶剤は特に限定されず、通常の極性溶媒、両極性溶媒等が使用できる。溶剤としては、例えば、水、有機溶媒またはそれを含む溶剤、水と有機溶媒との混合液等が使用できる。有機溶媒としては例えば、低級アルコール(具体的にはエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール)、エーテル類(具体的にはジエチルエーテル)、ハロゲン化炭化水素(具体的にはクロロホルム)、ニトリル類(具体的にはアセトニトリル)、エステル類(具体的には酢酸エチル)、ケトン類(具体的にはアセトン)などの他に、ヘキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等であるが、作業性の面から、エタノール、メタノール、または、酢酸エチルが好ましい。有機溶媒は2種以上を混合して使用しても良い。
【0021】
プロアントシアニジンを植物原料から抽出する場合、水やエタノール等の有機溶媒を用いて抽出し乾燥濃縮させる方法(例えば、特開平9-221484号公報、再表2005/079825号公報、再表2006/068212号公報参照)等が知られている。これらの方法により、プロアントシアニジンB型を果実果皮等から効率よく抽出することができる。プロアントシアニジンA型については、その抽出効率を上げるために、抽出後に得られる溶液を合成吸着剤や逆相の吸着剤により吸着処理を行う方法(例えば、特許2975997号明細書、再表2005/030200号公報、再表2005/072762号公報、特開2008-156265号公報、特開2008-156265号公報参照)等が知られている。更に、プロアントシアニジンAの抽出に伴う諸問題を改良した方法が特許第5459699号に開示されている。
【0022】
なお、クランベリー抽出物中の有効成分を濃縮・精製するために更なる溶媒抽出、合成吸着剤やイオン交換樹脂処理等を行ってもよい。
【0023】
プロアントシアニジン含有植物エキスの配合量は、所望とする効果やエキスに含まれるプロアントシアニジン又はその他の有効成分等の量によっても変動し、例えば、エキス中のプロアントシアニジン含量が40質量%の場合、抗インフルエンザウイルス剤100重量部に対して0.05~0.98重量部程度であってもよい。単独での抗インフルエンザウイルス作用を考慮した場合、例えば、エキス末中のプロアントシアニジン含量が40質量%であるとすると、エキスの配合量は抗インフルエンザウイルス剤中の終濃度が約5~約40μg/ml、好ましくは約7.8~約31.3μg/mlの範囲となるように調節され得る。
【0024】
(B)プロポリスエキス
プロポリスは、粘稠性を有する樹脂、粘性物質及びバルサム(balsam)物質の集合物であって、これを巣に輸送し並びに自身の唾液分泌及びワックスの添加によってこれを或る程度改良するハチによって、植物の或る特定の部分、特に芽(buds)及び樹皮(barks)上に収集される、粘稠性を有する樹脂、粘性物質及びバルサム物質の集合物を指す。
【0025】
プロポリスは、担体として賦形剤、例えば、マルトデキストリン、水アルコール溶液と混合してもよい。エキスの形態は液体に限定されず、粉末であってもよい。例えば、エタノール抽出で得られたプロポリスエキスにデキストリンを練合させ、プロポリス末としたものを使用することができる。
【0026】
プロポリスエキスとは、日本プロポリス協議会のプロポリス食品自主規格基準に従い、プロポリス(原塊)の水、含水エタノール又はエタノール、超臨界抽出法、等による抽出物をいう。本明細書では、日本健康栄養食品協会の「プロポリスエキス加工食品」(プロポリスエキス含有量10%以上)におけるプロポリスエキスを使用する。本明細書に記載のプロポリスエキスの量は、特に断らない限り、プロポリス食品自主規格基準(2010年4月)に記載の算出方法に従い表される。以下に具体的に説明する。
【0027】
試験溶液の高速液体クロマトグラム(HPLC)から保持時間30分までの(水抽出プロポリスエキスを用いた場合は保持時間45分まで)の全ピークの面積合計量を求める。次に、p-クマル酸標準溶液のピーク面積をもとめ、標準面積とする。全ピークの合計面積をp-クマル酸に相当する量によるものとみなし、その相当量を算出する。このp-クマル酸相当量から換算係数を用いプロポリス可溶性成分量を算出する。最後にこのプロポリス可溶性成分量が表示値以上であることを判定する。
【0028】
プロポリスエキス末の配合量は、所望とする効果やエキスに含まれるプロポリス由来の固形分量又はその他の有効成分等の量によっても変動し、例えば、p-クマル酸相当量として25%含む原料を使用する場合、抗インフルエンザウイルス剤に対して0.01~0.98重量部程度であってもよい。単独での抗インフルエンザウイルス作用を考慮した場合、例えば、p-クマル酸相当量として25%含む原料を使用すると、終濃度が約200~約500μg/ml、好ましくは約250~約300μg/mlの範囲となるように調節され得る。
【0029】
(C)乳酸菌
乳酸菌は、様々な感染症に対して予防作用や防御作用を示すことが報告されている。乳酸菌によるこれらの作用は、宿主の細胞性免疫を賦活化することや、腸管や呼吸器などの粘膜からのIgAの分泌を亢進させることなどによることが報告されている。ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)に属する乳酸菌は、宿主の免疫担当細胞からのIL-12(インターロイキン-12)やIFN-γ(インターフェロン-γ)などのサイトカイン産生を誘導することにより、宿主の細胞性免疫を賦活化し、インフルエンザウイルスなどの感染を防御することが報告されている。
【0030】
本発明において乳酸菌が果たす抗インフルエンザウイルス作用は上記エキスとは異なっていてもよい。そのため、in vitroでの抗インフルエンザウイルス活性が低い場合であっても、サイトカイン産生を顕著に増大させる乳酸菌であれば本発明において好適に使用することができる。例えば、二本鎖RNAはサイトカイン産生を促進することが知られており(特許第5099649号)、二本鎖RNAを大量に含有する乳酸菌は上記エキスと組み合わせるのに好ましいと考えられる。
【0031】
本発明の一態様の乳酸菌における二本鎖RNAの含有量は、同一の菌株を至適温度かつ非通気条件下で同一の培養時間で培養したときの該菌株の二本鎖RNAの含有量と比べて、2.0倍以上の量であり、好ましくは3.0倍以上の量であり、より好ましくは5.0倍以上の量であり、さらに好ましくは10倍以上の量であり、なおさらに好ましくは30倍以上の量であってもよい。また、本発明の一態様の乳酸菌は、二本鎖RNAの含有量が乾燥菌体5mgあたり1,000ng/mL以上である乳酸菌であることが好ましい。
【0032】
IL-12産生促進作用を有するか、若しくは二本鎖RNAを含有する乳酸菌は、乳酸菌を所定の条件下の培養に供することにより得ることができる。この際に使用する乳酸菌は通常知られているとおりの乳酸を生成する微生物のことを意味する。乳酸菌としては、例えば、ペディオコッカス(Pediococcus)属乳酸菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属乳酸菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属乳酸菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属乳酸菌、ロイコノストック(Leuconostoc)属乳酸菌、テトラジェノコッカス(Tetragenococcus)属乳酸菌などに属する乳酸菌が挙げられ、具体的にはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、テトラジェノコッカス・ハロフィラス(Tetragenococcus halophilus)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・カゼイ・サブスピーシーズ・カゼイ(Lactobacillus casei subsp. casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei subsp. paracasei)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピーシーズ・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides)、ロイコノストック・シュードメセンテロイデス(Leuconostoc pseudomesenteroides)、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
乳酸菌のより具体的な非限定的な例としては、ペディオコッカス・アシディラクティシ K15株、ラクトコッカス・ラクティス ATCC19435株、ラクトバチルス・プランタラム ATCC14917株、ラクトバチルス・ペントーサス ATCC8041株、ラクトバチルス・サケイ K41株、テトラジェノコッカス・ハロフィラス KK221株、テトラジェノコッカス・ハロフィラス NBRC12172株、ペディオコッカス・ペントサセウス OS株(NITE P-354)、ペディオコッカス・ペントサセウス NRIC1915株、ペディオコッカス・ペントサセウス NRIC0099株、ペディオコッカス・ペントサセウス NRIC0122株、ラクトバチルス・プランタラム NRIC1930株、ラクトバチルス・プランタラム NRIC1067株、ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス NRIC1688株、ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ラクティス NRIC1683株、ラクトバチルス・ブレビス NRIC1713株、ラクトバチルス・ペントーサス NRIC0391株、ラクトバチルス・ペントーサス NRIC0396株、ラクトバチルス・ペントーサス NRIC1836株、ラクトバチルス・カゼイ・サブスピーシーズ・カゼイ NRIC0644株、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ NRIC1936、ストレプトコッカス・サーモフィラス NRIC0256株、ロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピーシーズ・メセンテロイデス NRIC1982株、ロイコノストック・シュードメセンテロイデス ATCC12291株、ロイコノストック・ラクティス NRIC1582株などが挙げられる。
【0034】
本発明の一態様の乳酸菌を得るために使用する乳酸菌としては、上記したものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、上記したもののうち、二本鎖RNAの含有量の観点から、ペディオコッカス・アシディラクティシ K15株、ラクトコッカス・ラクティス ATCC19435株、ラクトバチルス・プランタラム ATCC14917株、ラクトバチルス・ペントーサス ATCC8041株及びラクトバチルス・サケイ K41株が好ましく、ペディオコッカス・アシディラクティシ K15株がより好ましい。
【0035】
別の好ましい態様において、乳酸菌は、ラクトバチルス・パラカゼイに属する乳酸菌の新規菌株である、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)MCC1849(NITE BP-01633)株であってもよい(特許第特許5646124号)。
【0036】
本発明で使用するラクトバチルス・パラカゼイは、上記寄託菌株に制限されず、同寄託菌株と実質的に同等の菌株であってもよい。実質的に同等の菌株とは、ラクトバチルス・パラカゼイに属する菌株であって、寄託菌株と同程度の高いIL-12産生促進作用を有し、かつ、好ましくは細胞壁分解酵素、及び、RNaseによる処理によってもIL-12産生促進作用の低下が寄託菌株と同程度に少ない菌株を言う。また、実質的に同等の菌株は、さらに、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、上記寄託菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは100%の相同性を有し、且つ、好ましくは上記寄託菌株と同一の菌学的性質を有する。さらに、本発明の乳酸菌は、本発明の効果が損なわれない限り、寄託菌株、又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
【0037】
乳酸菌の配合量は、所望とする効果や乳酸菌の種類又はその他の有効成分等の量によっても変動し、例えば、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1849を使用する場合、抗インフルエンザウイルス剤に対して0.001~0.98重量部程度であってもよい(乾燥重量換算)。単独での抗インフルエンザウイルス作用を考慮した場合、例えばラクトバチルス・パラカゼイMCC1849の終濃度が乾燥重量換算で約200~約1,500μg/ml、好ましくは約250~約1,000μg/mlの範囲となるように配合量が調節され得る。
【0038】
(組成物)
本実施形態の組成物は、上記抗インフルエンザウイルス剤を含む。本発明の組成物は飲食品、サプリメント又は医薬品に配合され得る。
【0039】
本発明の組成物における、(A)クランベリーエキス、(B)プロポリスエキス、(C)乳酸菌の合計量の配合比(質量比)は、各成分について述べた量に特に限定されず、目的や使用対象等の条件に応じて適宜設定できる。
【0040】
本発明の成物には、(A)クランベリーエキス、(B)プロポリスエキス、(C)乳酸菌以外に、その他の成分を含有しても良い。その他の成分としては、例えば、タンパク質、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維等の食物繊維、ミネラル類、植物又は植物加工品、藻類、乳酸菌以外の微生物等を配合することができる。
【0041】
さらに必要に応じて、通常飲食品分野で用いられるデキストリン、でんぷん等の糖類、オリゴ糖類、甘味料、酸味料、着色料、増粘剤、光沢剤、賦形剤、ビタミン類、栄養補助剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、増量剤、乳化剤、食品添加物、調味料等を挙げることができる。これらその他の成分の含有量は、本発明の組成物の形態等に応じて適宜選択することができる。その他、最終製品の目的に応じて適宜追加の成分を組成物に配合してもよい。
【0042】
本発明の組成物の形態は、特に限定されず、任意の形態とすることができる。具体的な形態としては、例えば、粉や顆粒、細粒等の粉末状、タブレット(チュアブル)状、球状、カプセル状、カプレット状、液状等の形状が挙げられる。なお、カプセル状の組成物は、ソフトカプセル及びハードカプセルが含まれる。
【0043】
本発明の組成物は、粉や顆粒、細粒等の粉末状が好ましく、特に、水などと混合し、溶解したり懸濁させたりして使用する粉末飲料とすることにより、組成物としての安定性にも優れるとともに、カプセルや錠剤等と異なり1度に多くの組成物を摂取することができるので好ましい。
【0044】
本発明の組成物は、従来公知の方法により製造することができる。本発明の組成物を製造する際、使用する原料の形態は、特に限定されず、組成物の形態に合わせて適宜選択し、使用することができる。例えば、粉や顆粒、細粒等の粉末状の組成物を得る場合、(A)クランベリーエキス、(B)プロポリスエキス及び(C)乳酸菌は、これらをそのまま使用しても良いし、賦形剤、増量剤等との混合物を使用しても良い。また、カプセル状の組成物を得る場合は、水や食用油等の溶媒にあらかじめ溶解又は分散させたものを使用しても良い。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
・(In vitro抗インフルエンザウイルス活性評価試験)
(A)クランベリーエキス、(B)プロポリスエキス及び(C)乳酸菌(ラクトバチルス・パラカゼイMCC1849)(以下、3種をまとめて「被験物質」ということがある。)について、A型インフルエンザウイルス(H1N1)に対する抗ウイルス活性を評価した。
【0047】
評価は、培養細胞を使用したin vitro感染系にて行い、抗ウイルス活性と同時に被験物質の細胞毒性についても評価した。試験は、まず、(1)(A)クランベリーエキス、(B)プロポリスエキス及び(C)乳酸菌の単独使用時の抗ウイルス活性並びに細胞毒性について評価し、その結果にもとづき試験内容を定めた後に、(2)(A)クランベリー抽出物、(B)プロポリス及び(C)乳酸菌の3種併用時の抗ウイルス活性について評価した。
【0048】
・(試験材料)
(A)~(C)の原料はいずれも粉末状のものを用いた。クランベリーエキス末はネキシラ株式会社製の総プロアントシアニジン規格40%のもの、プロポリスエキス末は森川健康堂株式会社製のブラジル産プロポリスエキス20%パウダー(賦形剤:β―CD)(注:β-CDはβ-シクロデキストリンを意味する)、乳酸菌末は森永乳業株式会社製のシールド乳酸菌M-1(ラクトバチルス・パラカゼイ・MCC1849株)をそれぞれ使用した。
【0049】
使用した対照物質は、下記のとおりである。
物質名 :Zanamivir hydrate(商品名:リレンザ(登録商標))
由来 :グラクソ・スミスクライン社製
溶媒 :DMSO(ジメチルスルホキシド)
保管方法 :溶解後-20℃に保管
備考 :ノイラミニダーゼ阻害薬
【0050】
使用したウイルスは、下記のとおりである。
ウイルス名 :A型インフルエンザウイルス
株名 :WSN(A/WSN/33, H1N1)株
由来 :AVSS保有株(管理番号:H1611)、MDCK細胞で増幅し培養上清中に回収したウイルス液
【0051】
インフルエンザウイルスの感染宿主として使用した細胞は、下記のとおりである。
細胞株名 MDCK(Madin-Darby Canine Kidney)細胞由来(イヌ腎臓由来細胞株 )
【0052】
(試薬・器具類)
・MEM培地(Wako, Cat.# 051-07615)
・牛胎児血清 FBS(Sigma,Cat.# 172012-500ML)
・100×MEM vitamin(Gibco,Cat.# 11120-052)
・ペニシリンGカリウム(nacalai,Cat.# 26239-42)
・ストレプトマイシン硫酸塩(nacalai,Cat.# 32204-92)
・ジメチルスルホキシド(Wako,Cat.# 031-24051)
・トリプシン(Thermo Fisher,Cat.# 15090046)
・96-well plate(TPP,Cat.# 92096)
・φ10cm dish(TPP,Cat.# 93100)
・マイクロプレートリーダー(TECAN,infinite M200)
・プレートシェーカー(M&S,Microplate genie)
・8連マイクロピペット(GILSON)
・マイクロピペット(20,200,1000 L,eppendorf)
【0053】
・(試験方法)
試験は、「試験(1)」と「試験(2)」の2段階で実施した。
試験(1)では、被験物質3種について、各々を単独で使用した際の抗インフルエンザウイルス活性並びに細胞毒性を評価した。
【0054】
次に、試験(2)では試験(1)の結果にもとづき、各被験物質の試験濃度やプレートレイアウトを決定した後、3種併用時の抗ウイルス活性について評価した。
【0055】
以下に試験(1)の概要を示す。試験(2)は試験(1)と各被験物質添加時の液量が異なるが基本的な方法は同一である。
【0056】
・(被験物質の調製方法)
クランベリーエキス末及びプロポリスエキス末については、これらを秤量し、エタノールを添加して濃度を100mg/mlに調整し、更に感染維持培地(ビタミン含有無血清MEM)を添加し、各被験物質の濃度が2mg/mlとなるようにサンプルを調製した。これにより溶媒として使用したエタノールの最終濃度は2%(v/v)となった。乳酸菌末については、上記感染維持培地で濃度が2mg/mlとなるよう調製した。調製後のサンプルは使用時まで4℃で保存した。希釈用に別途用意する96-well plate上で、2mg/mlを最高濃度とした2倍段階希釈系列を計10濃度(非添加群を除く)調製した。希釈には感染維持培地を使用した。また、同様にして陽性対照物質の2倍段階希釈系列を調製した。
【0057】
・(抗インフルエンザウイルス活性)
MDCK細胞を10%血清含有MEM(MEM-10%FBS)で3.0×105cells/mlに調製し、100μl/wellで96-well plateへ播種した(例えば、3.0×104cells/well)。
ただし、プレート左端1列目(計8 wells)には細胞を播種せず、解析時の補正用ブランク群とした。37℃、5%CO2下で24時間培養後、培養液を除去し、100μl/wellの無血清MEMで各wellの細胞単層を1回洗浄した。
【0058】
洗浄後、調製する被験物質等の2倍段階希釈系列を100μl/wellで添加し、続けて、抗ウイルス活性評価群には感染維持培地で1,000TCID50/mlに調製したインフルエンザウイルス溶液を100μl/wellで添加した(MOI≒0.002 pfu/cell相当)。
【0059】
被験物質等は0~2mg/mlの各濃度から2倍に希釈され、0~1mg/mlに示した最終試験濃度に調製した。ウイルス添加後の96-well plateは室温下で30秒間撹拌した後、37℃、5%CO2下で3日間(72hrs)培養した。なお、試験はN=2(duplicate)で実施した。
【0060】
・(結果の定量・解析方法)
培養後の96-well plateから培養液を除去し、70%エタノール水溶液で細胞を固定後(室温下で5分間)、エタノールを除去し、0.5%クリスタルバイオレット水溶液で残存細胞を染色した。染色後、水道水でプレートを軽くリンスし風乾させた。
【0061】
風乾後、各wellの吸光度(λ=560nm)をマイクロプレートリーダーで測定し、得られた測定結果をもとに統計解析ソフト「GraphPad Prism 5.0(GraphPad Software社)」を使用して、50%感染阻害濃度(IC
50)を算定した。
結果を以下に示す。
表1:単独で使用した際の抗インフルエンザウイルス活性
【表1】
【0062】
その結果、クランベリーエキスは、単独の場合、添加濃度が7.8~31.3μg/mlにおいて濃度依存的な抗ウイルス活性の上昇が認められた。プロポリスエキスは単独で添加濃度が250μg/ml付近の場合に顕著な抗ウイルス活性が認められた。乳酸菌末も単独で250~1,000μg/mlの濃度において抗ウイルス活性の上昇が認められた。
【0063】
更に、(A)~(C)の成分を全て組み合わせ、クランベリーエキスの抗ウイルス活性の変化を見た場合、各成分単独の効果を大幅に上回る顕著な抗インフルエンザウイルス作用を確認することができた。以下に一部の結果を示す。
表2:被験物質3種併用時のクランベリーエキスIC
50値一覧
【表2】
【0064】
(飲食用組成物の製造)
以下の表3に示す配合を有するソフトカプセルを調製した。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、クランベリーエキス、プロポリスエキス、及び、任意に乳酸菌を含有することにより、優れた抗インフルエンザ用組成物を提供することができる。