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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】X線検出装置及びX線検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20220816BHJP
   G21K 1/06 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
G01N23/223
G21K1/06 M
G21K1/06 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018201219
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2019109220
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2017240833
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】滝本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】上田 英雄
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-220027(JP,A)
【文献】国際公開第2009/028613(WO,A1)
【文献】特開平07-190962(JP,A)
【文献】特開2016-085860(JP,A)
【文献】特開2013-053872(JP,A)
【文献】国際公開第2006/022333(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G21K 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線発生部と、該X線発生部から発生したX線を表面に照射され、X線を単色化する分光結晶と、該分光結晶により単色化されたX線を照射された試料から発生するX線を検出する検出部とを備えるX線検出装置において、
前記分光結晶は、凹曲線を該凹曲線が含まれる平面に直交する軸に沿って連続させてなる凹曲面を前記表面としたシングルベントの形状を有し、
前記X線発生部から発生するX線の光軸が前記X線発生部において移動することに応じて、前記X線の前記表面上での照射位置が変動する方向は、前記軸に沿った方向であること
を特徴とするX線検出装置。
【請求項2】
試料を保持する保持部を更に備え、
前記X線発生部、前記分光結晶及び前記保持部は、前記X線発生部でX線が発生する位置及び前記試料が前記表面に係るローランド円上に位置するように配置されており、
前記X線発生部から発生するX線の光軸が移動する方向は、前記ローランド円が含まれる平面の法線に沿った方向であること
を特徴とする請求項1に記載のX線検出装置。
【請求項3】
前記X線発生部は、電子が衝突することによりX線を発生させるターゲットを有し、
前記ターゲットの熱膨張に応じて、前記X線発生部から発生するX線の光軸が移動すること
を特徴とする請求項1又は2に記載のX線検出装置。
【請求項4】
前記X線発生部は、
前記ターゲットへ衝突する電子を発生させる電子発生部を更に有し、
前記ターゲットの表面に対して前記電子が非垂直に衝突すること
を特徴とする請求項に記載のX線検出装置。
【請求項5】
X線発生部と、該X線発生部から発生したX線を表面に照射され、X線を単色化する分光結晶と、該分光結晶により単色化されたX線を照射された試料から発生するX線を検出する検出部とを備えるX線検出装置において、
前記分光結晶は、凹曲線を該凹曲線が含まれる平面に直交する軸に沿って連続させてなる凹曲面を前記表面としたシングルベントの形状を有し、
前記X線発生部は、
電子発生部と、
該電子発生部から発生した電子が衝突することによりX線を発生させるターゲットとを有し、
前記ターゲットの表面に対して前記電子が非垂直に衝突し、
前記X線発生部から発生するX線の光軸が前記ターゲットの熱膨張に起因して移動することに応じて、前記X線の前記表面上での照射位置が変動する方向は、前記軸に沿った方向であること
を特徴とするX線検出装置。
【請求項6】
前記検出部が検出したX線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、
該スペクトル生成部が生成したスペクトルに基づいて元素分析を行う分析部と、
元素分析の結果を表示する表示部と
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一つに記載のX線検出装置。
【請求項7】
X線発生部と、
凹曲線を該凹曲線が含まれる平面に直交する軸に沿って連続させてなる凹曲面である表面を有し、前記X線発生部から発生したX線を前記表面に照射され、X線を単色化する分光結晶と、
X線を検出する検出部とを用い、
前記X線発生部から発生するX線の光軸が前記X線発生部において移動することに応じて前記X線の前記表面上での照射位置が変動する方向を、前記軸に沿った方向とするように、前記X線発生部及び前記分光結晶を配置し、
前記分光結晶が単色化したX線を液体状の試料へ照射させ、
X線を照射された試料から発生するX線を前記検出部で検出すること
を特徴とするX線検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光結晶を用いたX線検出装置及びX線検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、X線を試料へ照射し、試料から発生する蛍光X線を検出し、蛍光X線のスペクトルから試料に含有される成分を分析する手法である。蛍光X線分析の一手法として、分光結晶を用いて特定波長領域のX線を試料へ照射する手法がある。分光結晶へX線を照射した場合は、ブラッグの条件を満たす特定波長領域のX線が分光結晶から発生する。X線発生部と分光結晶と試料とをブラッグの条件を満たす位置に配置しておき、X線発生部から発生するX線を分光結晶へ照射することにより、分光結晶から試料へ特定波長領域のX線が照射される。試料へ照射されるX線の波長を限定することにより、蛍光X線を検出する際のS/N比(signal-to-noise ratio )が改善される。特許文献1には、分光結晶を用いたX線検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-270652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
X線発生部には、ターゲットに対して電子を衝突させることによりX線を発生させるものがある。このようなX線発生部では、X線発生部の温度の上昇に伴って、X線発生部の内部でX線が発生する位置が移動し、X線の光軸が移動することがある。分光結晶を用いたX線検出装置は、多くのX線がブラッグの条件を満たすような位置にX線の光軸が存在するように、設定されている。X線の光軸が移動した場合、ブラッグの条件を満たすX線の強度が変動する。このため、試料へ照射される特定波長領域のX線の強度が変動し、検出される蛍光X線の強度が変動する。従って、X線発生部の温度変化に伴って、検出される蛍光X線の強度にばらつきが生じ、蛍光X線分析の測定誤差が発生していた。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、試料へ照射されるX線の強度の変動を抑制することにより、検出されるX線の強度のばらつきを低減することができるX線検出装置及びX線検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るX線検出装置は、X線発生部と、該X線発生部から発生したX線を表面に照射され、X線を単色化する分光結晶と、該分光結晶により単色化されたX線を照射された試料から発生するX線を検出する検出部とを備えるX線検出装置において、前記分光結晶は、凹曲線を該凹曲線が含まれる平面に直交する軸に沿って連続させてなる凹曲面を前記表面としたシングルベントの形状を有し、前記X線発生部から発生するX線の光軸が前記X線発生部において移動することに応じて、前記X線の前記表面上での照射位置が変動する方向は、前記軸に沿った方向であることを特徴とする。
【0007】
本発明においては、X線検出装置は、凹曲線を該凹曲線が含まれる平面に直交する軸に沿って連続させてなる凹曲面を表面とした分光結晶を備える。X線発生部からX線が分光結晶へ照射され、ブラッグの条件を満たす波長のX線が分光結晶から発生し、試料へ照射され、試料で発生したX線を検出部で検出する。分光結晶の表面上にX線が照射される位置が変動する方向は、軸に沿った方向になっている。分光結晶の表面上にX線が照射される位置が変動したとしても、表面に対する入射角は変化せず、ブラッグの条件を満たすX線の強度は変化しない。このため、試料へ照射される特定波長領域のX線の強度はほとんど変動しない。
【0008】
本発明に係るX線検出装置は、試料を保持する保持部を更に備え、前記X線発生部、前記分光結晶及び前記保持部は、前記X線発生部でX線が発生する位置及び前記試料が前記表面に係るローランド円上に位置するように配置されており、前記X線発生部から発生するX線の光軸が移動する方向は、前記ローランド円が含まれる平面の法線に沿った方向であることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、X線発生部でのX線の発生位置と試料とが分光結晶の表面に係るローランド円上に配置される。また、X線発生部で発生するX線の光軸が移動する方向は、ローランド円の含まれる平面の法線に沿った方向である。X線の光軸の移動に応じて分光結晶の表面上にX線が照射される位置が変動する方向は、分光結晶の軸に沿った方向になる。
【0010】
本発明に係るX線検出装置は、前記X線発生部は、電子が衝突することによりX線を発生させるターゲットを有し、前記ターゲットの熱膨張に応じて、前記X線発生部から発生するX線の光軸が移動することを特徴とする。
本発明に係るX線検出装置は、前記X線発生部は、前記ターゲットへ衝突する電子を発生させる電子発生部を更に有し、前記ターゲットの表面に対して前記電子が非垂直に衝突することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るX線検出装置は、X線発生部と、該X線発生部から発生したX線を表面に照射され、X線を単色化する分光結晶と、該分光結晶により単色化されたX線を照射された試料から発生するX線を検出する検出部とを備えるX線検出装置において、前記分光結晶は、凹曲線を該凹曲線が含まれる平面に直交する軸に沿って連続させてなる凹曲面を前記表面としたシングルベントの形状を有し、前記X線発生部は、電子発生部と、該電子発生部から発生した電子が衝突することによりX線を発生させるターゲットとを有し、前記ターゲットの表面に対して前記電子が非垂直に衝突し、前記X線発生部から発生するX線の光軸が前記ターゲットの熱膨張に起因して移動することに応じて、前記X線の前記表面上での照射位置が変動する方向は、前記軸に沿った方向であることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、X線発生部では、電子発生部から発生した電子がターゲットの表面に非垂直に衝突することによってX線が発生する。ターゲットの熱膨張によってターゲットの表面が移動し、電子がターゲットに衝突する位置が変化し、X線の発生する位置が変化し、X線の光軸が移動する。
【0013】
本発明に係るX線検出装置は、前記検出部が検出したX線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、該スペクトル生成部が生成したスペクトルに基づいて元素分析を行う分析部と、元素分析の結果を表示する表示部とを更に備えることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、X線検出装置は、試料から発生したX線のスペクトルに基づいて元素分析を行い、分析結果を表示する。例えば、試料に含まれる元素の濃度を調べることができる。
【0015】
本発明に係るX線検出方法は、X線発生部と、凹曲線を該凹曲線が含まれる平面に直交する軸に沿って連続させてなる凹曲面である表面を有し、前記X線発生部から発生したX線を前記表面に照射され、X線を単色化する分光結晶と、X線を検出する検出部とを用い、前記X線発生部から発生するX線の光軸が前記X線発生部において移動することに応じて前記X線の前記表面上での照射位置が変動する方向を、前記軸に沿った方向とするように、前記X線発生部及び前記分光結晶を配置し、前記分光結晶が単色化したX線を液体状の試料へ照射させ、X線を照射された試料から発生するX線を前記検出部で検出することを特徴とする。
【0016】
本発明においては、液体状の試料に対してX線を照射し、試料から発生したX線を検出する。液体状の試料中で成分が均等に分散されている場合は、試料にX線が照射される位置が変動したとしても、試料から発生するX線は変化せず、安定的なX線分析が可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明にあっては、試料へ照射される特定波長領域のX線の強度はほとんど変動せず、検出されるX線の強度のばらつきは軽減される。従って、X線分析の測定誤差が低減される等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】X線検出装置の構成を示すブロック図である。
図2】X線発生部の内部構成の一部を示す模式的断面図である。
図3】分光結晶を示す斜視図である。
図4】分光結晶によってX線が集束される様子を示す模式図である。
図5】X線発生部、分光結晶及び天板部の位置関係を示す模式図である。
図6】実施形態1に係る天板部の模式的平面図である。
図7】実施形態1に係る分光結晶と天板部との位置関係を示す模式図である。
図8】実施形態2に係る天板部の模式的平面図である。
図9】実施形態2に係る天板部の模式的断面図である。
図10】実施形態2に係る分析部の内部構成例を示すブロック図である。
図11】蛍光X線のスペクトルの例を示す特性図である。
図12】実施形態2に係る分析部が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施形態1)
図1は、X線検出装置10の構成を示すブロック図である。X線検出装置10は、蛍光X線分析装置である。X線検出装置10は、X線発生部1と、X線発生部1から発生したX線を照射され、X線を単色化する分光結晶2と、X線を検出する検出部3とを備えている。分光結晶2は、例えば、単結晶である。分光結晶2の成分は、例えば、炭素である。分光結晶2は、少なくとも、X線を照射される表面の近傍が結晶で構成されている。結晶の格子定数は所定の値になっており、分光結晶2の表面に照射されたX線の内、ブラッグの条件を満たす特定波長領域のX線が分光結晶2によって回折し、ブラッグの条件を満たす方向へ表面から出射する。このようにして、単色化されたX線が発生する。単色化とは、分光結晶2による回折によって特定波長領域のX線を抽出することを意味する。検出部3は、検出したX線のエネルギーに比例した信号を出力する。検出部3は、例えば、半導体素子を検出素子として用いたX線検出器である。
【0020】
X線検出装置10は、内部を減圧することが可能な減圧容器4を有している。X線発生部1、分光結晶2及び検出部3は、減圧容器4の内部に配置されている。X線発生部1又は検出部3の一部分は、減圧容器4の外部に配置されていてもよい。減圧容器4は、X線を遮蔽することができる材料で構成されている。減圧容器4は、天板部41を有する。天板部41は減圧容器4の上側を構成する部分である。天板部41には、天板部41を上下に貫通する孔42が形成されている。カップ状の試料容器61に収容された液体状の試料6が、天板部41上の孔42を塞ぐ位置に載置される。天板部41は、試料6が載置されることによって、試料6を保持する。天板部41は、保持部及び板状部材に対応する。分光結晶2は、ブラッグの条件を満たすX線が孔42を通過するような位置に配置されている。孔42を通過したX線が試料6に照射され、試料6から蛍光X線が発生し、蛍光X線は、孔42を通過し、検出部3で検出される。図1中には、蛍光X線を含むX線を実線矢印で示している。
【0021】
検出部3には、検出部3が出力した信号を処理する信号処理部52が接続されている。信号処理部52は、検出部3が出力した各値の信号をカウントし、検出された蛍光X線のエネルギーとカウント数との関係、即ち蛍光X線のスペクトルを生成する処理を行う。信号処理部52はスペクトル生成部に対応する。信号処理部52は、分析部53に接続されている。分析部53は、演算を行う演算部及びデータを記憶するメモリを含んで構成されている。信号処理部52は、生成したスペクトルを示すデータを分析部53へ出力する。分析部53は、信号処理部52からのデータを入力され、入力されたデータが示すスペクトルに基づいて、試料6に含まれる元素の定性分析又は定量分析を行う。例えば、分析部53は、オイル等の液体状の試料6に含まれる硫黄等の不純物の濃度を計算する。分析部53には、液晶ディスプレイ等の表示部54が接続されている。分析部53は、元素分析の結果を示す画像を表示部54に表示させる。表示部54は、蛍光X線のスペクトルを表示してもよい。また、信号処理部52は蛍光X線のスペクトルを生成せず、分析部53が蛍光X線のスペクトルを生成してもよい。この場合は、分析部53はスペクトル生成部を兼ねる。
【0022】
X線検出装置10は、更に、制御部51を備えている。X線発生部1は制御部51に接続されている。また、制御部51には、使用者からの操作を受け付けるキーボード及びポインティングデバイス等の操作部55が接続されている。制御部51は、X線発生部1及び操作部55の動作を制御する。また、制御部51は、使用者が操作部55を操作することにより使用者からの処理指示を受け付け、受け付けた処理指示に応じてX線検出装置の各部を制御する。なお、信号処理部52、分析部53又は表示部54は、制御部51に接続され制御部51に制御されてもよい。また、制御部51及び分析部53は同一の装置で構成されていてもよい。
【0023】
図2は、X線発生部1の内部構成の一部を示す模式的断面図である。X線発生部1はエンドウインド対応のフィラメント部13を用いた反射型X線管である。柱状の軸材12の先端に板状のターゲット11が連結されている。軸材12及びターゲット11は金属製である。例えば、軸材12の材質は銅であり、ターゲット11の材質は銀である。X線発生部1は、熱電子を発生させるフィラメント部13を備えている。フィラメント部13は電子発生部に対応する。フィラメント部13が発生させた熱電子は、図示しない電極によりX線発生部1内に生成された電界によって加速し、ターゲット11に衝突する。熱電子が衝突したターゲット11からX線が発生する。発生したX線は、放射口14から放射される。X線の発生位置は、ターゲット11の表面の熱電子が衝突した位置である。
【0024】
図2には、熱電子の流れを矢印付の一点鎖線で示す。熱電子は、ターゲット11の表面に対して非垂直に衝突する。熱電子がターゲット11に衝突することにより熱が発生し、ターゲット11から軸材12へ熱が伝導する。このため、軸材12又はターゲット11が熱膨張することがある。熱膨張により、ターゲット11の表面の位置が変化する。より詳しくは、熱膨張により、ターゲット11の表面の位置は、衝突してくる熱電子に近づくように変化する。図2では、熱膨張時のターゲット11の表面を破線で示す。ターゲット11の表面の位置が変化することによって、熱電子がターゲット11に衝突する位置が変化し、X線が発生する位置が変化する。熱電子はターゲット11の表面に対して非垂直に衝突するので、X線が発生する位置は、ターゲット11の表面に沿った方向に移動する。ターゲット11で発生するX線の光軸は、表面に直交する。X線が発生する位置がターゲット11の表面に沿った方向に移動することにより、発生するX線の光軸は、表面に沿った方向に移動する。このとき、X線の光軸はほぼ平行に移動し、ターゲット11の表面に対向する側から見て直線状に移動する。図2では、熱膨張が無い状態で発生したX線の光軸を実線矢印で示し、熱膨張時に発生したX線の光軸を破線矢印で示す。また、X線の光軸が直線状に移動する方向15を双方向矢印で示している。
【0025】
図3は、分光結晶2を示す斜視図である。分光結晶2は、X線発生部1からのX線を照射される表面21を有する。表面21は、凹曲線22を凹曲線22が含まれる平面23に直交する軸24に沿って連続させてなる凹曲面である。例えば、表面21の形状は、円筒の内面の一部分の形状である。軸24は、円筒の中心軸に平行である。即ち、分光結晶2は、シングルベントの形状を有している。表面21の形状は、円筒の内面以外の形状であってもよい。例えば、表面21の形状は、凹曲線22が放物線であってもよい。
【0026】
図4は、分光結晶2によってX線が集束される様子を示す模式図である。図4には、X線を実線矢印で示している。シングルベントの形状のため、表面21から出射される特定波長領域のX線は、線状に集束する。即ち、X線は焦線25に集束する。表面21上にX線が照射される位置が軸24に沿った方向に変化した場合、表面21に対するX線の入射角は変化せず、出射角も変化しない。ブラッグの条件を満たすような入射角でX線が表面21へ入射している場合、X線が照射される位置が軸24に沿った方向に変化したとしても、入射角は変化しないので、依然としてブラッグの条件は満たされる。このため、表面21上にX線が照射される位置が軸24に沿った方向に変化した場合、ブラッグの条件を満たすX線の強度は変化せず、分光結晶2で発生する特定波長領域のX線の強度が変動することは無い。また、表面21上にX線が照射される位置が軸24に沿った方向に変化した場合、表面21から出射される特定波長領域のX線は同じ焦線25に集束する。
【0027】
X線発生部1及び分光結晶2は、X線発生部1で発生するX線の光軸が移動することに応じてX線の表面21上に照射される位置が変動する方向26が、軸24に沿った方向になるように、互いの位置が調整されている。図4には、X線発生部1で発生するX線の光軸が移動する方向15、及びX線の表面21上に照射される位置が変動する方向26を、破線矢印で示している。X線の表面21上に照射される位置が変動する方向26が軸24に沿っていることにより、X線発生部1で発生するX線の光軸が移動した場合でも、表面21に対するX線の入射角は変化せず、ブラッグの条件を満たすX線の強度は変化せず、分光結晶2で発生する特定波長領域のX線の強度が変動することは無い。
【0028】
図5は、X線発生部1、分光結晶2及び天板部41の位置関係を示す模式図である。分光結晶2はヨハン型である。分光結晶2に係るローランド円20は、凹曲面である表面21の曲率中心と表面21上の中心点とを結ぶ線を直径とする円である。軸24は、ローランド円20の含まれる平面に対して直交する。X線発生部1は、X線の発生位置がローランド円20上にあるように、分光結晶2に対して配置されている。例えば、軸材12又はターゲット11が熱膨張した状態でのX線の発生位置がローランド円20上にある。分光結晶2と天板部41との位置関係は、天板部41上の孔42を塞ぐ位置に載置された試料6がローランド円20上に位置するような、位置関係になっている。このような位置関係によって、X線発生部1で発生したX線は、分光結晶2へ入射し、分光結晶2で発生した特定波長領域のX線は、試料6で集束する。このため、試料6へ照射されるX線の強度が高くなり、試料6から発生する蛍光X線の強度が高くなり、蛍光X線分析の精度が向上する。
【0029】
X線発生部1は、X線の光軸が移動する方向15がローランド円20の含まれる平面の法線に沿った方向になるように、分光結晶2に対して配置されている。このため、X線の光軸が移動した場合、分光結晶2の表面21にX線の光軸が交差する位置は、分光結晶2の軸24に沿った方向に移動する。即ち、X線の光軸が移動することに応じてX線の表面21上に照射される位置が変動する方向26は、軸24に沿った方向になる。X線の表面21に対する入射角はほぼ変化せず、分光結晶2で発生した特定波長領域のX線は、X線の光軸が移動する前と同様に、試料6で集束する。従って、X線発生部1で発生するX線の光軸が移動した場合でも、試料6へ照射されるX線の強度の変動が抑制される。
【0030】
なお、分光結晶2はヨハンソン型であってもよい。この場合は、分光結晶2に係るローランド円20は、凹曲面である表面21の曲率中心と表面21上の中心点とを結ぶ線を半径とする円である。この場合でも、X線発生部1、分光結晶2及び天板部41の位置関係は、X線の発生位置がローランド円20上にあり、試料6がローランド円20上に位置するようになっている。また、X線発生部1は、X線の光軸が移動する方向15がローランド円20の含まれる平面の法線に沿った方向になるように、分光結晶2に対して配置されている。分光結晶2がヨハン型である場合と同様に、X線の光軸が移動することに応じて分光結晶2の表面21上にX線の照射される位置が変動する方向26は、分光結晶2の軸24に沿った方向になる。従って、X線発生部1で発生するX線の光軸が移動した場合でも、試料6へ照射されるX線の強度の変動が抑制される。
【0031】
天板部41の孔42は、分光結晶2で発生したブラッグの条件を満たす特定波長領域のX線が通過する位置に、形成されている。これにより、分光結晶2で分光された特定波長領域のX線が試料6へ照射される。X線発生部1で発生するX線の光軸が移動した場合であっても、X線の表面21上に照射される位置が変動する方向26は、軸24に沿った方向になるので、ブラッグの条件を満たすX線の強度は変化せず、分光結晶2で発生する特定波長領域のX線の強度は変化しない。このため、試料6へ照射される特定波長領域のX線の強度はほとんど変動せず、試料6から発生する蛍光X線の強度もほとんど変動しない。この結果、検出部3で検出される蛍光X線の強度もほとんど変動しない。即ち、検出される蛍光X線の強度のばらつきは、本実施形態において軽減される。検出される蛍光X線の強度のばらつきが軽減されるので、蛍光X線分析の測定誤差が低減される。
【0032】
図6は、実施形態1に係る天板部41の模式的平面図である。図7は、実施形態1に係る分光結晶2と天板部41との位置関係を示す模式図である。孔42は、天板部41を貫通している。少なくともX線検出装置10の動作時には、孔42は、X線透過膜43で塞がれる。X線透過膜43は、例えば、孔42を塞ぐように、天板部41の上に貼着される。試料容器61に収容された試料6は、孔42及びX線透過膜43の上に載置される。図6に示す例では、試料6は、孔42及びX線透過膜43を隠すように配置される。X線透過膜43は、分光結晶2で発生して試料6へ照射される特定波長領域のX線を透過させ、試料6で発生する蛍光X線を透過させる。
【0033】
孔42の形状は、真円とは異なる形状であり、長形になっている。前述したように、分光結晶2で発生した特定波長領域のX線は、線状の焦線25に集束する。分光結晶2と天板部41との位置関係は、分光結晶2で発生して試料6へ照射される特定波長領域のX線の焦線25の長手方向が、孔42の長手方向に沿った方向になるような、位置関係になっている。これにより、孔42の形状は焦線25の長手方向に沿って長い長形となる。孔42では、焦線25の長手方向に沿った方向の長さに比べて、当該方向に交差する方向の長さは短くなる。孔42の形状が焦線25の長手方向に沿って長い長形であることにより、焦線25に集束するX線は孔42を通過することができる。分光結晶2で発生した特定波長領域のX線が孔42を通り易くなる。また、X線が孔42の周縁に照射され難いようにすることも可能である。例えば、焦線25の長手方向と孔42の長手方向とのなす角度は、焦線25の一部が孔42の周縁に重ならない範囲に収められている。X線が孔42の周縁に照射されることが抑制された場合は、試料6へ照射されるX線の強度の変動が抑制され、試料6から発生して検出部3で検出される蛍光X線の強度の変動も抑制される。更に、孔42の周縁から試料6に由来しない蛍光X線が発生することが抑制され、試料6に由来しない蛍光X線に起因する蛍光X線分析の精度の悪化が、抑制される。
【0034】
X線が孔を通過できるように単純に孔を大きくした場合に比べて、本実施形態では、孔42の面積が小さい。孔42の形状を長形にすることによって、孔42を無暗に大きくする事無く、分光結晶2で発生した特定波長領域のX線が孔42を通り易くする。孔42が無暗に大きくないので、X線透過膜43が破損する可能性は低い。孔42が無暗に大きくなく、また孔42の形状が長形であるので、減圧によるX線透過膜43のたわみが抑制される。例えば、長形の孔42では、円形の孔に比べて、面積が同一であっても、孔42の中心から縁までの距離が短く、X線透過膜43のたわみは小さくなる。X線透過膜43のたわみが抑制されるので、試料6とX線透過膜43との間に入る空気の量は少なく、試料6へ照射されるX線及び試料6から発生する蛍光X線の減衰は抑制される。このため、検出部3で検出される蛍光X線の強度の変動が抑制される。また、従来に比べてX線透過膜43の厚みを薄くすることができる。X線透過膜43の厚みが薄いほどたわみが大きくなるものの、本実施形態では、たわみを小さくすることができるので、X線透過膜43の厚みを薄くすることができる。X線透過膜43の厚みが薄い場合は、X線透過膜43を透過するX線の減衰が軽減される。このため、試料6へ照射されるX線の強度が向上し、検出される蛍光X線の強度が向上する。
【0035】
孔42の形状は、単一の長軸を有する形状である。ここで、長軸は、孔42の中心を通り孔42の内部に引いた直線である複数の軸の内、長さが最大の軸である。孔42の長軸は一本のみであり、長軸に交差する他の軸は全て長さが長軸よりも短い。例えば、孔42の形状は、長円でもよく、矩形であってもよい。孔42の長手方向に沿った縁は、平行であることが望ましい。孔42の長手方向に沿った縁が平行である場合は、当該縁の形状がより外側に膨らんでいる場合に比べて、孔42の面積が小さくなる。孔42の面積がより小さくなることにより、減圧によるX線透過膜43のたわみがより抑制され、X線の減衰がより抑制される。また、孔42の長手方向に沿った縁が平行である場合は、当該縁の形状がより外側に膨らんでいる場合に比べて、孔42の中心から縁までの距離が短く、X線透過膜43のたわみがより小さくなる。
【0036】
以上詳述した如く、実施形態1においては、X線発生部1で発生するX線の光軸が移動することに応じて分光結晶2の表面21上にX線が照射される位置が変動する方向26は、分光結晶2の軸24に沿った方向である。X線の表面21上に照射される位置が変動したとしても、ブラッグの条件を満たすX線の強度は変化せず、分光結晶2で発生する特定波長領域のX線の強度は変化しない。このため、試料6へ照射される特定波長領域のX線の強度はほとんど変動せず、検出される蛍光X線の強度のばらつきは軽減される。従って、蛍光X線分析の測定誤差が低減される。
【0037】
また、実施形態1においては、X線発生部1でのX線の発生位置と分光結晶2の表面21と試料6とがローランド円20上に配置される。これにより、分光結晶2で発生した特定波長領域のX線は試料6で集束する。試料6へ照射されるX線の強度が高くなり、検出される蛍光X線の強度が高くなり、蛍光X線分析の精度が向上する。特に、X線の光軸が移動する方向15はローランド円20の含まれる平面の法線に沿った方向である。これにより、X線の光軸が移動することに応じてX線の表面21上に照射される位置が変動する方向26は、軸24に沿った方向になる。表面21に対するX線の入射角はより変化しなくなり、ブラッグの条件を満たすX線の強度がより変化し難くなる。従って、検出される蛍光X線の強度のばらつきがより軽減され、蛍光X線分析の測定誤差がより低減される。
【0038】
また、実施形態1においては、液体状の試料6に対してX線を照射し、蛍光X線分析を行う。液体状の試料6中で成分が均等に分散されている場合は、X線発生部1で発生するX線の光軸が移動することに応じて試料6にX線が照射される位置が変動したとしても、試料6から発生する蛍光X線は変化せず、安定的な蛍光X線分析が可能である。試料6に照射されるX線は線状に集束されるものの、液体状の試料6中で成分が均等に分散されている場合は、X線が一点に集束した場合と同様の蛍光X線が試料6から発生し、安定的な蛍光X線分析が可能である。
【0039】
また、実施形態1においては、天板部41の孔42の形状は、試料6へ照射されるX線が線状に集束する焦線25の長手方向に沿って長い長形である。孔42の大きさを無暗に大きくする事無く、試料6へ照射されるX線が孔42を通り易くなる。試料6へ照射されるX線の強度の変動が抑制され、試料6から発生する蛍光X線の強度の変動も抑制される。孔42が無暗に大きくないので、X線透過膜43が破損する可能性が低く、減圧によるX線透過膜43のたわみが抑制される。X線透過膜43のたわみが抑制されることにより、X線の減衰が抑制される。従って、検出部3で検出される蛍光X線の強度の変動が抑制され、蛍光X線分析の精度が向上する。
【0040】
なお、実施形態1においては、X線発生部1が反射型X線管である例を示したが、X線発生部1は透過型のX線管であってもよい。また、実施形態1においては、検出部3が試料6から発生した蛍光X線を検出する形態を示したが、X線検出装置10は、蛍光X線以外のX線を検出部3で検出する形態であってもよい。また、実施形態1においては、X線をエネルギー別に分離して検出するエネルギー分散型の形態を示したが、X線検出装置は、X線を波長別に分離して検出する波長分散型の形態であってもよい。また、実施形態1においては、試料6が液体状の試料である例を示したが、X線検出装置10は、試料を固体とすることも可能である。
【0041】
(実施形態2)
実施形態2においては、生成するスペクトルに含まれるピークのスペクトル中での位置の較正を行うX線検出装置10を示す。図8は、実施形態2に係る天板部41の模式的平面図である。図9は、実施形態2に係る天板部41の模式的断面図である。天板部41は板状部材に対応する。図8には、天板部41を図9における下側から見た図を示す。図9には、図8に示すIX-IX線で天板部41を切断した断面図を示す。
【0042】
孔42は、天板部41を貫通している。少なくともX線検出装置10の動作時には、孔42は、X線透過膜43で塞がれる。例えば、X線透過膜43は、孔42を塞ぐように天板部41の上に貼着され、孔42に連通する貫通孔を有する押さえ板44と天板部41との間に挟まれる。図示しないネジを用いて押さえ板44が天板部41に固定されることにより、X線透過膜43が固定される。試料容器61に収容された試料6は、孔42及びX線透過膜43の上に載置される。X線透過膜43は、試料6へ照射されるX線を透過させ、試料6で発生する蛍光X線を透過させる。
【0043】
図8に示すように、平面視での孔42の形状は、ほぼ真円である。天板部41は、板状部46と、孔42の周辺に配置された周辺部45とを有している。周辺部45は、孔42を囲った環の形状を有しており、孔42の周縁を構成している。板状部46の主成分と周辺部45の主成分とは異なった元素である。例えば、板状部46の主成分はアルミニウムであり、周辺部45の主成分は銅である。このとき、アルミニウムは第1の元素であり、銅は第2の元素である。実施形態1と同様に、分光結晶2は、シングルベントの形状を有し、特定波長領域のX線を発生させ、特定波長領域のX線を線状の焦線25に集束する。分光結晶2と天板部41との位置関係は、分光結晶2で発生した特定波長領域のX線が天板部41へ照射されるような位置関係になっている。また、特定波長領域のX線は、天板部41の孔42がある部分へ照射されるようになっている。X線は、図9における下側から天板部41へ照射される。
【0044】
特定波長領域のX線は、焦線25に集束した状態で天板部41へ照射される。図8には、天板部41の面上で特定波長領域のX線が収束する焦線25の範囲を破線で示している。焦線25の範囲は、天板部41の面上でX線が照射される部分に対応する。即ち、天板部41の面上では、X線が照射される部分は焦線25に応じた線状に分布する。焦線25の長さは、天板部41の面上での焦線25に沿った周辺部45の大きさよりも長い。即ち、天板部41の面上でX線が照射される線状の部分の長さは、天板部41の面上での周辺部45の大きさよりも長い。このため、図8に示すように、天板部41へ照射されたX線の内、一部は孔42を通過し、他の一部は周辺部45へ照射され、他の一部は板状部46へ照射される。
【0045】
孔42を通過したX線は、試料6へ照射され、試料6から蛍光X線が発生する。蛍光X線は、孔42を通過し、検出部3で検出される。図9には、試料6へ照射されるX線、及び試料6から発生する蛍光X線を実線矢印で示している。X線を照射された周辺部45からは蛍光X線が発生し、蛍光X線は検出部3で検出される。また、X線を照射された板状部46からは蛍光X線が発生し、蛍光X線は検出部3で検出される。図9には、周辺部45及び板状部46へ照射されるX線、並びに周辺部45及び板状部46から発生する蛍光X線を破線矢印で示している。
【0046】
図10は、実施形態2に係る分析部53の内部構成例を示すブロック図である。分析部53は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを用いて構成されている。分析部53は、演算を行うCPU(Central Processing Unit )531と、演算に伴って発生する一時的なデータを記憶するRAM(Random Access Memory)532と、光ディスク等の記録媒体530から情報を読み取るドライブ部533と、不揮発性の記憶部534とを備えている。記憶部534は例えばハードディスクである。CPU531は、記録媒体530からコンピュータプログラム535をドライブ部533に読み取らせ、読み取ったコンピュータプログラム535を記憶部534に記憶させる。CPU531は、必要に応じてコンピュータプログラム535を記憶部534からRAM532へロードし、ロードしたコンピュータプログラム535に従って分析部53に必要な処理を実行する。
【0047】
なお、コンピュータプログラム535は、図示しない通信ネットワークを介して分析部53に接続された図示しない外部のサーバ装置から分析部53へダウンロードされて記憶部534に記憶されてもよい。また分析部53は、外部からコンピュータプログラム535を受け付けるのではなく、コンピュータプログラム535を記録したROM(Read Only Memory)等の記録手段を内部に備えた形態であってもよい。これらの形態では、分析部53はドライブ部533を備えていなくてもよい。
【0048】
また、分析部53は、表示部54及び信号処理部52に接続されている。信号処理部52は、検出部3が検出した蛍光X線のスペクトルを生成し、スペクトルを示すデータを分析部53へ入力し、分析部53は、スペクトルを示すデータを記憶部534に記憶する。あるいは、信号処理部52は、検出部3が出力した信号を適宜処理した上で分析部53へ入力し、分析部53のCPU531は、入力された信号から、検出部3が検出した蛍光X線のスペクトルを生成し、スペクトルを示すデータを記憶部534に記憶する。X線検出装置10の天板部41及び分析部53以外の部分の構成は、実施形態1と同様である。
【0049】
図11は、蛍光X線のスペクトルの例を示す特性図である。横軸は蛍光X線のエネルギーをkeVの単位で示し、縦軸は各エネルギーの蛍光X線の強度を示す。例えば、蛍光X線の強度はカウント数に対応する。スペクトルに含まれるピークの位置はエネルギーの値によって規定されている。検出部3は試料6から発生する蛍光X線を検出するので、スペクトルには、試料6に含まれる元素に起因するピークが含まれる。図11には、試料6として重油を用いた例を示す。重油には不純物として硫黄(S)が含まれており、スペクトルには硫黄に起因するピークが含まれる。硫黄に起因するピークは、エネルギーが約2.3keVになる位置に現れる。図11では、硫黄に起因するピークにSを付して示している。
【0050】
検出部3は周辺部45及び板状部46から発生する蛍光X線を検出するので、スペクトルには、板状部46の主成分(第1の元素)に起因するピークと、周辺部45の主成分(第2の元素)に起因するピークとが含まれる。板状部46の主成分はアルミニウム(Al)であり、周辺部45の主成分は銅(Cu)である例では、スペクトルにはアルミニウム及び銅に起因するピークが含まれる。アルミニウムに起因するピークは、エネルギーが約1.5keVになる位置に現れる。銅に起因するピークは、エネルギーが約8keVになる位置に現れる。図11では、アルミニウムに起因するピークにAlを付し、銅に起因するピークにCuを付して示している。Alのピークは第1のピークであり、Cuのピークは第2のピークである。
【0051】
また、検出部3には、X線発生部1で発生したX線も入射する。X線発生部1で発生するX線のエネルギーは、ターゲット11の主成分に依存する。このため、スペクトルには、ターゲット11の主成分に起因するピークが含まれる。例えば、ターゲット11の主成分は銀(Ag)であり、スペクトルには銀に起因するピークが含まれる。銀に起因するピークは、エネルギーが約3keVになる位置に現れる。図11では、銀に起因するピークにAgを付して示している。
【0052】
蛍光X線のスペクトルを生成する際・BR>ノは、各元素に起因するピークの位置(各ピークに対応するエネルギーの値)は、理論又は実験によって予め正確に特定されている位置(エネルギー値)から若干ずれて得られることがある。実施形態2では、分析部53は、Alのピーク(第1のピーク)及びCuのピーク(第2のピーク)の位置に基づいて、スペクトルに含まれるピークの位置を較正する。Alのピーク及びCuのピークのスペクトル中での位置は、理論又は実験によって予め正確に特定されている。Alのピーク及びCuのピークの予め特定されている位置を示すデータは、記憶部534に記憶されている。
【0053】
図12は、実施形態2に係る分析部53が実行する処理の手順を示すフローチャートである。記憶部534は、検出部3で検出したX線のスペクトルを示すデータを記憶する(S1)。CPU531は、次に、Alのピーク及びCuのピークに基づいて、スペクトルに含まれるピークのスペクトル中での位置を較正する(S2)。
【0054】
S2では、まず、CPU531は、記憶部534に記憶しているデータが示すAlのピーク及びCuのピークの予め特定されている位置に近い位置にあるピークを、Alのピーク及びCuのピークであると同定する。CPU531は、次に、Alのピーク及びCuのピークの位置が予め特定されている位置と同じ位置になるように、スペクトルに含まれる各ピークの位置を調整する。例えば、CPU531は、各ピークの位置を均等にずらすように、各ピークの位置を変更する。また、例えば、CPU531は、各ピークの位置を示す数値に対して特定の値による加減乗除を行う。また、例えば、CPU531は、Alのピーク及びCuのピークの間のスペクトル中での距離を変更するように、各ピークの位置を調整する。CPU531は、複数の方法で各ピークの位置を変更してもよい。各ピークの位置がエネルギーで表される場合は、エネルギーの値が変更される。このように、CPU531は、各ピークの位置を調整することによって、各ピークのスペクトル中での位置を較正する。較正によって、各元素に起因するピークのスペクトル中での位置は、元素に応じた位置に修正される。特に、スペクトル中でAlのピークとCuのピークとの間に位置するピークの位置がより正確になる。
【0055】
CPU531は、次に、各ピークの位置が較正されたスペクトルに基づいて、試料6に含まれる元素を同定する(S3)。試料6中の元素に起因するピークは、スペクトルに含まれており、較正によってピークの位置は正確になっている。各元素に起因するピークのスペクトル中での位置は、理論又は実験によって予め正確に特定されており、記憶部534は、各元素に起因するピークの位置を示すデータを記憶している。S3では、CPU531は、較正後のスペクトル中でのピークの位置と、記憶部534に記憶しているデータが示す各元素に起因するピークの位置とを比較し、ピークの位置が実質的に一致する元素を特定することにより、元素を同定する。例えば、試料6に含まれる元素が硫黄であると同定される。
【0056】
CPU531は、次に、スペクトルに基づいて、試料6に含まれる元素を定量する(S4)。S4では、CPU531は、試料6中の元素に起因するピークの強度から、所定の方法により、元素の量又は濃度を計算する。例えば、CPU531は、Sのピークの強度の値又は強度の積分値から、試料6に含まれる硫黄の量又は濃度を計算する。また、例えば、CPU531は、ターゲット11に起因するピーク(Agのピーク)とSのピークとの間での強度の値又は強度の積分値の比較に基づいて、試料6に含まれる硫黄の量又は濃度を計算する。試料6が重油である場合、重油に含まれる不純物としての硫黄の濃度が得られる。CPU531は、定量結果を示すデータを記憶部534に記憶させる。分析部53は、処理の結果を表示部54に表示してもよい。分析部53は、以上で処理を終了する。
【0057】
以上詳述した如く、実施形態2においては、X線が試料6へ照射されると共に、周辺部45及び板状部46へもX線が照射され、試料6、周辺部45及び板状部46から発生した蛍光X線が検出部3で検出される。板状部46の主成分である第1の元素と、周辺部45の主成分である第2の元素とは異なる。蛍光X線のスペクトルには、第1の元素に起因する第1のピークと、第2の元素に起因する第2のピークと、試料6中の元素に起因するスペクトルが含まれる。第1のピーク及び第2のピークのスペクトル中での位置は、理論的又は実験的に予め正確に特定されている。第1のピーク及び第2のピークの位置を特定されている位置に合わせるように、スペクトルに含まれるピークのスペクトル中での位置を較正することが可能である。
【0058】
従来の較正方法として、較正用の試料を用いる方法がある。較正用の試料から発生した蛍光X線のスペクトルを生成し、スペクトルに基づいてピークの位置を較正する。較正用の試料を試料6へ交換し、試料6からの蛍光X線のスペクトルを生成し、較正用の試料を用いた較正結果に基づいて、スペクトル中のピークの位置を調整する。試料6からの蛍光X線のスペクトルとは別のスペクトルに基づいて較正が行われるので、正確な較正がなされない虞がある。実施形態2では、試料6中の元素に起因するピークが含まれるスペクトルを用いて較正が行われるので、試料6中の元素に起因するピークの位置がより正確になるように較正が行われる。試料6中の元素に起因するピークの位置が正確になることにより、元素の正確な同定が可能となり、元素の正確な定量が可能となる。従って、X線検出装置10は、試料6に含まれる不純物の分析を精度良く行うことができる。
【0059】
実施形態2で示した例では、第1の元素はアルミニウムであり、第1のピークはAlのピークである。第2の元素は銅であり、第2のピークはCuのピークである。AlのピークとCuのピークとは、互いに重ならずにある程度離隔しており、ターゲット11に起因するAgのピークと試料6中の元素に起因するSのピークとにも重ならない。AlのピークとCuのピークとは、他のピークに重ならないので、特定が容易であり、較正のための基準のピークとして適している。また、スペクトル中では、AlのピークとCuのピークとの間に、分析対象の元素に起因するSのピークが位置している。較正の基準となる二つのピークの間に分析対象の元素に起因するピークが位置していることにより、二つのピークの間に分析対象の元素に起因するピークが位置していない場合に比べて、分析対象の元素に起因するピークの位置が較正によってより正確に定められる。
【0060】
第1の元素及び第2の元素は、アルミニウム及び銅以外の元素であってもよい。第1の元素及び第2の元素は、蛍光X線のスペクトル中で第1のピーク及び第2のピークが互いに重ならないような元素である。第1のピーク及び第2のピークは、ターゲット11に起因するピークにも重ならないことが望ましい。また、第1のピーク及び第2のピークの間に分析対象の元素に起因するピークが位置できるように、第1のピーク及び第2のピークはある程度離隔していることが望ましい。例えば、第1の元素及び第2の元素は、ニッケル、チタン、鉄、又はコバルト等の遷移金属であってもよい。板状部46及び周辺部45は、これらの元素を主成分とする。
【0061】
試料6に含まれる分析対象の元素は、硫黄以外の元素であってもよい。分析対象の元素に起因するピークは、蛍光X線のスペクトル中で第1のピーク及び第2のピークの間に位置していることが望ましい。第1のピーク及び第2のピークの間に分析対象の元素に起因するピークが位置していることにより、分析対象の元素に起因するピークの位置が較正によってより正確に定められる。例えば、分析対象の元素は、塩素、リン又はケイ素であってもよい。蛍光X線のスペクトルには、これらの分析対象の元素に起因するピークが含まれることになる。なお、X線検出装置10は、第1のピーク及び第2のピークの間に分析対象の元素に起因するピークが位置していない場合であっても、分析対象の元素に起因するピークの位置を較正することは可能である。試料6は、重油以外の物質であってもよい。試料6は固体であってもよく、例えば、試料6は樹脂であってもよい。
【0062】
実施形態2においては、平面視での孔42の形状がほぼ真円である形態を示したが、孔42の形状はその他の形状であってもよい。実施形態2においては、周辺部45が環の形状を有した形状である形態を示したが、周辺部45の形状はその他の形状であってもよい。例えば、周辺部45の形状は弧の形状であってもよく、周辺部45は複数の部分に分割されていてもよい。また、周辺部45は孔42の縁から離隔していてもよい。いずれの形態においても、焦線25の長さは、焦線25に沿った周辺部45の大きさよりも長い。
【0063】
また、実施形態2においては、分光結晶2を用いて天板部41にX線を照射する形態を示したが、X線検出装置10は、その他の方法で天板部41にX線を照射してもよい。また、実施形態2においては、天板部41にX線が線状に照射される形態を示したが、これに限るものではなく、X線は、板状部46及び周縁部45に照射され孔42を通過するように照射されればよい。また、実施形態2においては、X線発生部1が反射型X線管である例を示したが、X線発生部1は透過型のX線管であってもよい。また、X線検出装置10は、波長分散型の形態であってもよい。スペクトルに含まれるピークの位置は、波長又は波数によって規定されてもよい。
【0064】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0065】
(付記1)
X線発生部と、X線が通過する孔を有する板状部材と、前記孔を通過したX線を照射された試料から発生するX線を検出する検出部とを備えるX線検出装置において、
前記板状部材は、
第1の元素を主成分とする板状部と、
前記第1の元素とは異なる第2の元素を主成分としており、前記孔の周辺に配置された周辺部とを有し、
前記板状部材はX線を照射され、前記X線の一部が前記孔を通過し、前記X線の他の部分が前記板状部及び前記周辺部に照射され、
前記検出部は、前記板状部及び前記周辺部から発生するX線を検出する
ことを特徴とするX線検出装置。
【0066】
(付記2)
前記周辺部は、前記孔を囲った環の形状を有し、
前記板状部材は、X線が照射される部分が前記板状部材の面上で線状に分布するように、前記X線が照射され、
前記板状部材の面上で前記X線が照射される線状の部分の長さは、前記板状部材の面上での前記周辺部の大きさよりも長いこと
を特徴とする付記1に記載のX線検出装置。
【0067】
(付記3)
前記X線発生部から発生したX線を表面に照射され、X線を単色化する分光結晶を更に備え、
前記分光結晶は、単色化されたX線を線状に集束する形状を有しており、
前記板状部材は、前記単色化されたX線が線状に集束された状態で照射されること
を特徴とする付記2に記載のX線検出装置。
【0068】
(付記4)
前記分光結晶はシングルベントの形状を有すること
を特徴とする付記3に記載のX線検出装置。
【0069】
(付記5)
前記検出部が検出したX線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、
前記スペクトルに基づいて元素分析を行う分析部とを更に備え、
前記分析部は、前記第1の元素に起因するピーク及び前記第2の元素に起因するピークに基づいて、前記スペクトルに含まれるピークの前記スペクトル中での位置を較正すること
を特徴とする付記1乃至4の何れ一つに記載のX線検出装置。
【0070】
(付記6)
第1の元素を主成分とする板状部と、孔と、前記第1の元素とは異なる第2の元素を主成分としており、前記孔の周辺に配置された周辺部とを有する板状部材を用い、
前記板状部材へX線を照射して、前記X線の一部が前記孔を通過し、前記X線の他の部分が前記板状部及び前記周辺部に照射されるようにし、
前記孔を通過したX線を試料へ照射し、
前記孔を通過したX線を照射された試料から発生するX線、並びに前記板状部及び前記周辺部から発生するX線を検出し、
検出したX線のスペクトルを生成し、
前記第1の元素に起因する第1のピーク及び前記第2の元素に起因する第2のピークに基づいて、前記スペクトルに含まれるピークの前記スペクトル中での位置を較正すること
を特徴とする分析方法。
【0071】
(付記7)
前記第1のピーク及び前記第2のピークの前記スペクトル中での予め特定されている位置に基づいて、前記スペクトル中で前記第1のピーク及び前記第2のピークの間に存在するピークの位置を較正すること
を特徴とする付記6に記載の分析方法。
【0072】
(付記8)
前記試料に含まれている元素に起因するピークは、前記スペクトル中で前記第1のピーク及び前記第2のピークの間に位置すること
を特徴とする付記6又は7に記載の分析方法。
【0073】
(付記9)
前記第1の元素はアルミニウムであり、前記第2の元素は銅であること
を特徴とする付記6乃至8のいずれか一つに記載の分析方法。
【符号の説明】
【0074】
1 X線発生部
10 X線検出装置
11 ターゲット
13 フィラメント部(電子発生部)
2 分光結晶
20 ローランド円
21 表面
22 凹曲線
24 軸
25 焦線
3 検出部
4 減圧容器
41 天板部(保持部、板状部材)
42 孔
43 X線透過膜
45 周辺部
46 板状部
51 制御部
52 信号処理部(スペクトル生成部)
53 分析部
54 表示部
6 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図12