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特許7124074親水性多孔質膜および親水性多孔質膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】親水性多孔質膜および親水性多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/22 20060101AFI20220816BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20220816BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20220816BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20220816BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B01D71/22
B01D69/06
B01D71/44
B01D71/68
B01D69/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020525677
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2019023623
(87)【国際公開番号】W WO2019240254
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2018114754
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】石井 陽大
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】梅原 健志
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04413074(US,A)
【文献】特開2006-116383(JP,A)
【文献】特開2003-320230(JP,A)
【文献】特開平09-075694(JP,A)
【文献】特開2015-157278(JP,A)
【文献】特開2014-147853(JP,A)
【文献】特表2000-505719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜と前記多孔質膜に保持されたヒドロキシプロピルセルロースを含み、
前記多孔質膜がポリスルホンを含み、
前記多孔質膜が厚み方向に孔径分布を有し、かつ厚み方向において孔径分布が非対称である構造を有し、
ヒドロキシプロピルセルロースの重量平均分子量が10,000以上110,000未満であり、
前記ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が、前記親水性多孔質膜の質量に対し、0.117質量%以上~0.495質量%以下である、
親水性多孔質膜。
【請求項2】
前記ヒドロキシプロピルセルロースの重量平均分子量が10,000以上100,000以下である請求項1に記載の親水性多孔質膜。
【請求項3】
前記多孔質膜がポリビニルピロリドンを保持している請求項1または2に記載の親水性多孔質膜。
【請求項4】
前記多孔質膜の全面において前記ヒドロキシプロピルセルロースを保持している請求項1~3のいずれか一項に記載の親水性多孔質膜。
【請求項5】
前記多孔質膜が長尺シート状であり、長辺側両端部のみにおいて前記ヒドロキシプロピルセルロースを保持している請求項1~3のいずれか一項に記載の親水性多孔質膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の親水性多孔質膜の製造方法であって、
前記多孔質膜に、前記ヒドロキシプロピルセルロースを0.005~0.500質量%含む親水化液を浸透させることを含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性多孔質膜および親水性多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーを材料とする多孔質膜は水浄化用途などのろ過膜として工業的に有用であり、プリーツ加工して一定の容量のカートリッジ中に収めた製品も市販されている。通常、フィルターカートリッジには、ピンホールやシール不良のような欠陥の有無を確認するために完全性試験が実施される。完全性試験では、ろ過器に装着したろ過膜に通水して細孔を水で満たした後に圧力を負荷し気体の漏れを観察する。このとき、ろ過膜が水に濡れず、水で塞がれない細孔があると、圧力をかけたときにピンホールが存在しなくても気体が漏れ、完全性の判定ができない。すなわち、ろ過膜が疎水性であると、完全性試験による正確な欠陥の有無の確認が困難である。特に、フィルターカートリッジにおいては、円筒状に丸めたろ過膜の両端がエンドプレートと呼ばれる板に融着されるが、融着部の近傍を完全に濡らすことは難しく、欠陥が無くても完全性試験において不合格となりやすい。
【0003】
特許文献1には上記の融着部位となる多孔質膜の両端部のみに予め親水性ポリマーを濡れ剤として塗布してカートリッジに組み立てたときの融着部の濡れ性を確保することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリエーテルスルホン膜に親水性ポリマーを付与して得られたオートクレーブ滅菌処置にも耐える精密ろ過多孔質膜について開示されている。特許文献2に記載の精密ろ過多孔質膜の製造には、親水性ポリマーとして分子量110,000から150,000のヒドロキシプロピルセルロースが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-320230号公報
【文献】特開2003-251152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、基材である多孔質膜の親水性が向上している親水性多孔質膜およびその製造方法を提供することを課題とする。特に、本発明の課題は、フィルターカートリッジのろ過膜として使用された際に完全性試験に合格できる親水性多孔質膜であって透水性の高い親水性多孔質膜およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意検討を重ね、特定の親水性ポリマーを用いて作製した親水性多孔質膜が完全性試験において正確な結果を与えるとともに透水性も高いことを見出し、上記課題の解決に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の<1>~<14>を提供するものである。
<1>多孔質膜と上記多孔質膜に保持されたヒドロキシアルキルセルロースを含み、ヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量が10,000以上110,000未満である親水性多孔質膜。
<2>上記多孔質膜が厚み方向に孔径分布を有し、かつ厚み方向において孔径分布が非対称である構造を有する<1>に記載の親水性多孔質膜。
<3>上記ヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量が10,000以上100,000以下である<1>または<2>に記載の親水性多孔質膜。
<4>上記ヒドロキシアルキルセルロースの含有量が上記親水性多孔質膜の質量に対し、0.05~3質量%である<1>~<3>のいずれかに記載の親水性多孔質膜。
<5>上記ヒドロキシアルキルセルロースの含有量が、上記親水性多孔質膜の質量に対し、0.1質量%以上~0.5質量%未満である<1>~<3>のいずれかに記載の親水性多孔質膜。
<6>上記ヒドロキシアルキルセルロースがヒドロキシプロピルセルロースである<1>~<5>のいずれかに記載の親水性多孔質膜。
【0009】
<7>上記多孔質膜がポリスルホンを含む<1>~<6>のいずれかに記載の親水性多孔質膜。
<8>上記多孔質膜がポリビニルピロリドンを保持している<7>に記載の親水性多孔質膜。
<9>上記多孔質膜の全面において上記ヒドロキシアルキルセルロースを保持している<1>~<8>のいずれかに記載の親水性多孔質膜。
<10>上記多孔質膜が長尺シート状であり、長辺側両端部のみにおいて上記ヒドロキシアルキルセルロースを保持している<1>~<8>のいずれかに記載の親水性多孔質膜。
<11><1>~<9>のいずれかに記載の親水性多孔質膜の製造方法であって、
上記多孔質膜に、上記ヒドロキシアルキルセルロースを0.005~0.500質量%含む親水化液を浸透させることを含む製造方法。
<12>上記浸透が上記多孔質膜全体を上記親水化液に浸漬することにより行われる<11>に記載の製造方法。
<13>上記浸漬が30秒以下行なわれる<12>に記載の製造方法。
<14><10>に記載の親水性多孔質膜の製造方法であって、
上記長辺側両端部に上記ヒドロキシアルキルセルロースを0.005~0.500質量%含む親水化液を塗布することを含む製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、基材である多孔質膜の親水性が向上している親水性多孔質膜およびその製造方法が提供される。本発明の親水性多孔質膜は、フィルターカートリッジの完全性試験に合格できるとともに透水性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0012】
<親水性多孔質膜>
本明細書において、親水性多孔質膜は基材となる多孔質膜が親水化されている膜を意味する。親水性多孔質膜は、基材となる多孔質膜に対し、ヒドロキシアルキルセルロースを保持することにより親水性が増している膜を指し、基材となる多孔質膜が完全に疎水性であることを意味するものではない。
親水性多孔質膜は、複数の細孔を有する膜である。孔は例えば膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)撮影画像または透過型電子顕微鏡(TEM)撮影画像で確認することができる。
【0013】
本発明の親水性多孔質膜は、多孔質膜と、この多孔質膜に保持されたヒドロキシアルキルセルロースとを含む。
多孔質膜に保持されたとは、親水性多孔質膜の保存時や使用時に容易に剥離しない程度に多孔質膜に結合していることを意味する。多孔質膜とヒドロキシアルキルセルロースとは例えば疎水性相互作用により互いに結合していてもよい。
【0014】
ヒドロキシアルキルセルロースは多孔質膜の外面の少なくとも一部を被覆した状態で保持されていてもよい。本明細書において、多孔質膜の外面とは、多孔質膜の膜表面(膜のおもて面または裏面)および多孔質膜内部の各細孔に面している多孔質膜の面(本明細書において「細孔の表面」ということがある)を意味する。多孔質膜は、いずれか一方の膜表面が被覆されていても、両方の膜表面が被覆されていてもよい。本発明の親水性多孔質膜において、内部で被覆されている細孔が、多孔質膜内部の複数の細孔の一部であるとき、その一部は、例えば多孔質膜のいずれか一方の膜表面の近傍であればよい。そのときの膜表面は被覆されている膜表面であることが好ましい。多孔質膜の膜表面(膜のおもて面および裏面の双方)および細孔の表面全体が被覆されていることが最も好ましい。
【0015】
本発明の親水性多孔質膜は、ヒドロキシアルキルセルロースを全面で保持していても、一部のみにおいて保持していてもよい。全面で保持していることにより、多孔質膜全体の親水化が好ましく達成できる。また、特に親水性が必要となる一部のみにおいて親水化を行うことにより、基材である多孔質膜の特性を活かしつつ必要な範囲での親水化が達成できる。
【0016】
本発明の親水性多孔質膜が、ヒドロキシアルキルセルロースを一部のみにおいて保持している例として好ましくは、長尺シート状の多孔質膜の長辺側両端部のみにおいてヒドロキシアルキルセルロースを保持している親水性多孔質膜が挙げられる。長辺側両端部は、例えば、短辺が20~35cmの多孔質膜である場合、親水性多孔質膜の長辺の縁から短辺方向4cm、より好ましくは2cm以内の部位であればよい。多孔質膜は、フィルターカートリッジのろ過膜として使用される際、両端部において負荷がかかりやすい。すなわち、長尺シート状の多孔質膜は、必要に応じてプリーツ加工され、円筒状に丸められ、その合わせ目をシールしたうえで、その円筒の両端部がカートリッジのエンドプレートと呼ばれる板に融着される。融着の際は熱がかかることによって多孔質膜が疎水化され完全性試験において気体の漏れが生じ易い。特に熱がかかる両端部の親水性をヒドロキシアルキルセルロースの保持により高めておくことで、カートリッジ作製工程に由来する親水性の低下を防止することができる親水性多孔質膜が得られ、この親水性多孔質膜を利用して、完全性試験を合格するフィルターカートリッジを作製することができる。
【0017】
したがって、長尺シート状の多孔質膜は、特に、フィルターカートリッジのろ過膜として使用される長尺シート状の多孔質膜は、少なくとも長辺側両端部においてヒドロキシアルキルセルロースを保持していることが好ましい。
【0018】
本発明の親水性多孔質膜において、ヒドロキシアルキルセルロースを保持している部位ではヒドロキシアルキルセルロースを膜厚み方向全体において略均一に保持していてもよく膜厚み方向の一部において保持していてもよいが、膜厚み方向において略均一に保持していることが好ましい。
【0019】
[多孔質膜]
(多孔質膜の構造)
本明細書において、多孔質膜は親水性多孔質膜の基材となる膜である。
多孔質膜は複数の細孔を有する膜をいう。細孔は、例えば膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)撮影画像または透過型電子顕微鏡(TEM)撮影画像で確認することができる。
【0020】
多孔質膜の細孔の孔径は、ろ過対象物の大きさによって適宜選択することができるが、0.01μm~25μmであればよく、0.03μm~20μmであることがより好ましい。孔径分布を有する場合はこの範囲で分布していればよい。孔径は電子顕微鏡によって得られた膜断面の写真から測定すればよい。多孔質膜はミクロトーム等により切断し、断面が観察できる薄膜の切片として、多孔質膜断面の写真を得ることができる。
なお、親水性多孔質膜の細孔の孔径は、ヒドロキシアルキルセルロースを保持していることにより、基材の多孔質膜の孔径より小さくなっていてもよいが、通常、多孔質膜の孔径と同じであると近似できる。
【0021】
多孔質膜は、厚み方向に孔径分布を持つ構造であっても、厚み方向に孔径分布を持たない均質構造であってもよいが、厚み方向に孔径分布を持つ構造であることが好ましい。また、厚み方向に孔径分布を持つ構造においては、膜のおもて面の孔径および裏面の孔径が異なるように孔径分布を有する厚み方向に非対称である構造(非対称構造)であることが好ましい。親水性多孔質膜も同様である。非対称構造の例としては、一方の膜表面から他方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している構造、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有し、この緻密部位から多孔質膜の少なくとも一方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している構造などが挙げられる。
【0022】
特に、多孔質膜は、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有し、この緻密部位から多孔質膜の少なくとも一方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している構造であることが好ましい。
【0023】
本明細書において、膜の厚み方向の孔径の比較を行なう場合、膜断面のSEM撮影写真を膜の厚み方向に分割して行なうものとする。分割数は膜の厚みに応じて適宜選択できる。分割数は少なくとも5以上とし、例えば、200μm厚の膜では後述する表面Xから20分割して比較を行う。なお、分割幅の大きさは、膜における厚み方向の幅の大きさを意味し、写真での幅大きさを意味するものではない。膜の厚み方向の孔径の比較において、孔径は、各区分の平均孔径として比較される。各区分の平均孔径は、例えば、膜断面図の各区分の50個の孔の平均値であればよい。この場合の膜断面図は例えば80μm幅(表面と平行な方向において80μmの距離)で得てもよい。このとき、孔が大きく、50個測定できない区分については、その区分でとれる数だけ測定したものであればよい。また、このとき、孔が大きくその区分に収まるものでない場合は、ほかの区分にわたってその孔の大きさを計測する。
【0024】
孔径が最小となる層状の緻密部位は、上記膜断面の区分のうちで平均孔径が最小となる区分に相当する多孔質膜の層状の部位をいう。緻密部位は1つの区分に相当する部位からなっていても、2つ、3つなどの、平均孔径が最小となる区分の1.1倍以内の平均孔径を有する複数の区分に相当する部位からなっていてもよい。緻密部位の厚みは、0.5μm~50μmであればよく、0.5μm~30μmであることが好ましい。本明細書において、緻密部位の平均孔径を多孔質膜の最小孔径とする。多孔質膜の最小孔径は0.01μm以上であることが好ましく、0.02μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。ここで、緻密部位の平均孔径はASTM F316-80により測定したものとする。
【0025】
多孔質膜は、緻密部位を内部に有することが好ましい。内部とは膜の表面に接していないことを意味し、「緻密部位を内部に有する」とは、緻密部位が、膜のいずれかの表面にもっとも近い区分ではないことを意味する。緻密部位を内部に有する構造の多孔質膜を用いることによっては、同じ緻密部位を表面に接して有する多孔質膜を用いた場合よりも、透過させることが意図された物質の透過性が低下しにくい。いかなる理論にも拘泥するものではないが、緻密部位が内部にあることにより上記物質や他の物質の吸着が起こりにくくなっているためと考えられる。
【0026】
緻密部位は、多孔質膜の厚みの中央部位よりもいずれか一方の表面側に偏っていることが好ましい。具体的には、緻密部位が多孔質膜のいずれか一方の表面から多孔質膜の厚みの5分の2以内の距離にあることが好ましく、3分の1以内の距離にあることがより好ましく、4分の1以内の距離にあることがさらに好ましい。この距離は上述の膜断面写真において判断すればよい。本明細書において、緻密部位がより近い側の多孔質膜の表面を「表面X」という。
【0027】
多孔質膜においては緻密部位から少なくともいずれか一方の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していることが好ましい。多孔質膜において、緻密部位から表面Xに向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に厚み方向で向かうときも孔径が連続的に増加していてもよい。これらのうち、少なくとも緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していることが好ましく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に厚み方向で向かうときも孔径が連続的に増加していることがより好ましい。「厚み方向で孔径が連続的に増加」とは、厚み方向に隣り合う区分の間の平均孔径の差異が、最大平均孔径(最大孔径)と最小平均孔径(最小孔径)の差異の50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下となるように増加していることをいう。「連続的に増加」は、本質的には、減少がなく一律に増加することを意味するものであるが、減少している部位が偶発的に生じていてもよい。例えば、区分を表面から2つずつ組み合わせたときに、組み合わせの平均値が、一律に増加(表面から緻密部位に向かう場合は一律に減少)している場合は、「緻密部位から膜の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している」と判断できる。
【0028】
多孔質膜の最大孔径は0.1μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましく、また、25μm以下であることが好ましく、23μm以下であることがより好ましく、21μm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、上記膜断面の区分のうちで平均孔径が最大となる区分のその平均孔径を多孔質膜の最大孔径とする。
【0029】
緻密部の平均孔径と多孔質膜の最大孔径との比(多孔質膜の最小孔径と最大孔径との比であって最大孔径を最小孔径で割った値、本明細書において「異方性比」ということもある。)は、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。緻密部位以外の平均孔径を大きくし、多孔質膜の物質透過性を高くするためである。また、異方性比は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。上記の多段濾過のような効果は異方性比が25以下の範囲で効率よく得られるためである。
平均孔径が最大となる区分は膜のいずれかの表面にもっとも近い区分またはその区分に接する区分であることが好ましい。
【0030】
膜のいずれかの表面にもっとも近い区分においては、平均孔径が0.05μm超25μm以下であることが好ましく、0.08μm超23μm以下であることがより好ましく、0.1μm超21μm以下であることがさらに好ましい。また、膜のいずれかの表面にもっとも近い区分の平均孔径の緻密部の平均孔径との比は、1.2以上20以下であることが好ましく、1.5以上15以下であることがより好ましく、2以上13以下であることがさらに好ましい。
【0031】
多孔質膜の厚みは、特に限定されないが、膜強度、取扱性、およびろ過性能の観点から、10μm~1000μmであることが好ましく、10μm~500μmであることがより好ましく、30μm~300μmであることがさらに好ましい。
なお、親水性多孔質膜の厚みは、ヒドロキシアルキルセルロースを保持していることにより、基材の多孔質膜の厚みより大きくなっていてもよいが、通常、多孔質膜の厚みとほぼ同じとなる。
【0032】
(多孔質膜の組成)
多孔質膜はポリマーを含む。多孔質膜は本質的にポリマーから構成されていることが好ましい。ポリマーは数平均分子量(Mn)が1,000~10,000,000であるものが好ましく、5,000~1,000,000であるものがより好ましい。
【0033】
ポリマーの例としては、熱可塑性または熱硬化性のポリマーが挙げられる。ポリマーの具体的な例としては、ポリスルホン、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、スルホン化ポリエーテルスルホン、セルロースアシレート、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリルコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマーのケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、オルガノシロキサン-ポリカーボネートコポリマー、ポリエステルカーボネート、オルガノポリシロキサン、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、6,6-ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を挙げることができる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、強度、弾性等の観点から、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーやポリマーブレンド、ポリマーアロイとしてもよい。
これらのうち、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、PVDF,スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、6,6-ナイロン、セルロースアシレートが好ましく、ポリスルホンがより好ましい。
【0034】
多孔質膜はポリマー以外の他の成分を添加剤として含んでいてもよい。
上記添加剤としては、食塩、塩化リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛等の無機酸の金属塩、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム等の有機酸の金属塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の高分子、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等の高分子電解質、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルメチルタウリン酸ナトリウム等のイオン系界面活性剤等を挙げることができる。添加剤は多孔質構造のための膨潤剤として作用していてもよい。
【0035】
例えば、ポリマーとしてポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを用いる場合、多孔質膜は、さらにポリビニルピロリドンを含むことが好ましい。このとき、ポリビニルピロリドンは多孔質膜に保持されている状態であってもよい。疎水性であるポリスルホンまたはポリエーテルスルホンはポリビニルピロリドンを含むことにより親水性が高くなる。ポリビニルピロリドンは、例えば、特開昭64-34403号公報に記載があるようにポリスルホン膜またはポリエーテルスルホン膜の製膜原液中に孔形成剤として添加されるものである。製膜原液中のポリビニルピロリドンは製膜過程でそのほとんどが凝固水中に溶解して除去されるが、一部が膜表面に残留するものである。
【0036】
多孔質膜は単一の層として1つの組成物から形成された膜であることが好ましく、複数層の積層構造ではないことが好ましい。
多孔質膜の製造方法については、特開平4-349927号公報、特公平4-68966号公報、特開平04-351645号公報、特開2010-235808号公報等を参照することができる。
多孔質膜としては市販品を使用してもよい。例えば、スミライトFS-1300(住友ベークライト社製)、マイクロPES 1FPH(メンブラーナ社製)、PSEUH20(ポリスルホン膜、富士フイルム株式会社製)、Durapore(PVDF膜、メルクミリポア(Merkmillipore)社製)、15406(PES膜、Sartorius社製)等が挙げられる。
【0037】
[ヒドロキシアルキルセルロース]
本発明の親水性多孔質膜におけるヒドロキシアルキルセルロースは、多孔質膜を親水化する親水性ポリマーである。
ヒドロキシアルキルセルロースのセルロース骨格の疎水性が基材である多孔質膜との疎水性相互作用に寄与し、多孔質膜に保持させると同時に、ヒドロキシアルキルセルロースの側鎖のヒドロキシ基やヒドロキシプロピル基により多孔質膜に親水性を付与することができる。また、ヒドロキシアルキルセルロースは分子間力が高いため、分子が親水性多孔質膜中で強固に相互作用し、その形態を保持することができると推測される。
さらに、ヒドロキシアルキルセルロースは食品添加物として使用できる成分であるため、フィルターカートリッジ作製後に洗い流す必要がない。そのため、工程負荷が少なく、かつ、安全な親水性多孔質膜を得ることができる。
【0038】
ヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量は10,000以上110,000未満であればよく、10,000以上100,000以下であることが好ましく、10,000以上100,000未満であることがより好ましく、10,000以上80,000以下であることがさらに好ましく、30,000以上50,000以下であることが最も好ましい。本明細書において重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定したものを意味し、具体的には本明細書の実施例に記載の手順および条件で測定したものであればよい。
【0039】
ヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量を110,000未満とすることにより、ヒドロキシアルキルセルロースが凝集しにくくなる。このため、ヒドロキシアルキルセルロースによる目詰まりが生じにくくなり、親水性多孔質膜の透水性が低下することを防止することができる。また、10,000以上とすることにより、ヒドロキシアルキルセルロース間および、ヒドロキシアルキルセルロースと多孔質膜との相互作用が、ヒドロキシアルキルセルロースが多孔質膜に保持されるために十分なものとすることができる。
【0040】
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、炭素数が3以上5以下のアルキレンオキシドをセルロースに付加したヒドロキシアルキルセルロースが好ましい。多孔質膜とヒドロキシアルキルセルロースとの相互作用と得られる親水性多孔質膜の親水性とが実用に好ましい範囲で得られるからである。プロピレンオキシド(炭素数3)をセルロースに付加したヒドロキシプロピルセルロースが最も好ましい。アルキレンオキシドの付加数(置換度)は、多いと親水性が上がり、少ないと親水性が低くなる。この観点から、モル置換度は1以上が好ましく、2以上がより好ましい。
【0041】
ヒドロキシアルキルセルロースの含有量は、ヒドロキシアルキルセルロースを保持している部位(ヒドロキシアルキルセルロースを浸透させた部位)について、親水性多孔質膜の質量に対し、0.05~3質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることがより好ましく、0.1質量%以上~0.5質量%未満であることがさらに好ましく、0.2質量%以上~0.5質量%未満であることが特に好ましい。
【0042】
[親水性多孔質膜の製造方法]
親水性多孔質膜は基材である多孔質膜にヒドロキシアルキルセルロースによる親水化処理を行うことにより製造することができる。具体的には、ヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を多孔質膜に浸透させることにより製造することができる。親水化コーティングが形成された多孔質膜に、さらに洗浄処理、滅菌処理等を行ってもよい。
【0043】
(親水化液)
親水化液はヒドロキシアルキルセルロースを含む溶液として調製すればよい。溶媒は、水または水に混和する性質を持つ溶媒であれば、特に限定されない。溶媒は、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、その有機溶媒は少なくとも1種類以上の低級アルコールであることが好ましい。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数が5以下のアルコールが挙げられる。溶媒としては、メタノール、エタノール、またはイソプロパノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。
親水化液はヒドロキシアルキルセルロースを0.005~0.500質量%含むことが好ましく、0.200~0.490質量%含むことがより好ましい。0.005質量%以上とすることにより、基材である多孔質膜の親水化を十分に行なうことができ、0.500質量%以下とすることにより、多孔質膜の目詰まりによる透水性の低下を防止できる。
【0044】
親水化液はヒドロキシアルキルセルロースおよび溶媒以外に界面活性剤、防腐剤、ポリフェノール等の膜硬化剤等を含んでいてもよい。
【0045】
(浸透)
多孔質膜への親水化液の浸透方法は、特に限定されないが、例えば、浸漬法、塗布法、転写法、噴霧法等が挙げられる。
多孔質膜内部まで親水化液を効率よく浸透させるために浸漬法や塗布法が好ましい。浸透は、少なくとも親水化を行う部位において、多孔質膜の厚み方向全体に親水化液が浸透するように行うことが好ましい。
【0046】
浸漬法においては、親水化液中に多孔質膜を浸漬することにより親水化液を多孔質膜に含浸させる。浸漬後は親水化液から、多孔質膜を引き上げることによって余分な親水化液を除去すればよい。
浸漬は加圧下で行ってもよい。加圧により多孔質膜の各細孔内に効率よく親水化液を注入することができる。
【0047】
浸漬処理あるいは圧入処理する場合の浸漬時間または圧入時間は特に限定されないが一般的には0.5秒~1分間程度であればよく、0.5秒~30秒間程度が好ましい。溶媒等の選択により、浸漬時間の短縮を図ることができる。
多孔質膜の親水化液中への浸漬時間や親水化液中のヒドロキシアルキルセルロース濃度によってヒドロキシアルキルセルロースの付着量を適宜調節することができる。
【0048】
多孔質膜の一部のみを被覆する場合は、被覆したい一部のみに親水化液を塗布する塗布法を行うことができる。塗布は多孔質膜の厚み方向全体に親水化液が浸透するように行うことが好ましい。親水化液の塗布は、親水化液をスポンジや布に染み込ませたものを多孔質膜の表面に接触させる方法や、ビードコート、グラビアコートあるいはワイヤーバーコートなどの既知の方法により行うことができる。
【0049】
(乾燥、加熱)
多孔質膜への親水化液の浸透後、乾燥により親水化液中の溶媒を揮発除去することが好ましい。乾燥の手段としては、加温乾燥、風乾燥、および減圧乾燥等が挙げられ、特に限定されないが、製造工程の簡便性から風乾燥または加温乾燥が好ましい。乾燥は、単に放置することにより達成されていてもよい。
【0050】
(洗浄)
上記乾燥の後は、洗浄溶媒を用いた洗浄を行うことが好ましい。過剰のヒドロキシアルキルセルロースなどを除去することができるからである。また、洗浄により、原料の多孔質膜に含まれる不要な成分も除去することができる。洗浄方法は特に限定されないが、浸漬あるいは圧入法で親水性多孔質膜の膜表面および細孔表面に洗浄溶媒を浸透させ、その後、除去すればよい。洗浄溶媒としては、親水化液の溶媒として例示した溶媒を例示することができる。2回以上洗浄溶媒の浸透および除去を行ってもよい。このとき2回以上の洗浄において洗浄溶媒は同じであってもよく、異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。洗浄の最後に用いられる洗浄溶媒は水であることが好ましい。特に水に浸漬することが好ましい。アルコールなど有機溶媒成分を除くためである。
洗浄後の親水性多孔質膜は上述の手順で再度乾燥させればよい。
【0051】
(滅菌処理)
親水性多孔質膜の滅菌処理としては、例えば、高圧蒸気滅菌処理を行うことができる。特にオートクレーブを用いた高温高圧の水蒸気による処理を行うことが好ましい。通常、プラスチックに対する高圧蒸気滅菌処理は、飽和水蒸気によって加圧され110~140℃程度の環境下で10~30分間処理することによって行われるが、本発明の親水性多孔質膜の滅菌処理も同様の条件で行うことができる。滅菌処理に用いられるオートクレーブとしては、例えば、株式会社トミー精工製のSS325が挙げられる。
【0052】
<親水性多孔質膜の用途>
本発明の親水性多孔質膜はろ過膜として各種用途で使用することができる。ろ過膜は、種々の高分子、微生物、酵母、微粒子を含有あるいは懸濁する液体の分離、精製、回収、濃縮などに適用され、特にろ過を必要とする微細な微粒子を含有する液体からその微粒子を分離する必要のある場合に適用することができる。例えば、微粒子を含有する各種の懸濁液、発酵液あるいは培養液などの他、顔料の懸濁液などから微粒子を分離するときにろ過膜を使用することができる。本発明の親水性多孔質膜は、具体的には、製薬工業における薬剤の製造、食品工業におけるビールなどのアルコール飲料製造、電子工業分野での微細な加工、精製水の製造などにおいて必要となる精密ろ過膜として使用することができる。
【0053】
孔径分布を有する本発明の親水性多孔質膜をろ過膜として用いるとき、より孔径が小さい部位がろ過液の出口側(アウトレット側)に近くなるように配置してろ過を行うことにより、微粒子を効率よく捕捉することができる。また、親水性多孔質膜は、孔径分布を有するため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着または付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高いろ過効率を維持することができる。
【0054】
本発明の親水性多孔質膜は、用途に応じた形状に加工して、種々の用途に用いることができる。親水性多孔質膜の形状としては、平膜状、管状、中空糸状、プリーツ状、繊維状、球状粒子状、破砕粒子状、塊状連続体状などが挙げられる。多孔質膜の親水化処理前に用途に応じた形状に加工してもよく、多孔質膜の親水化処理後に用途に応じた形状に加工してもよい。
【0055】
親水性多孔質膜は、各種用途に用いられる装置において容易に取り外し可能であるカートリッジに装着されてもよい。カートリッジにおいて親水性多孔質膜はろ過膜として機能しうる形態で保持されていることが好ましい。親水性多孔質膜を保持したカートリッジは、公知の多孔質膜カートリッジと同様に製造することができ、例えば、WO2005/037413号、特開2012-045524号公報を参照することができる。
【0056】
例えば、フィルターカートリッジは、以下のように製造することができる。
長尺の親水性多孔質膜を短辺(幅)方向で折り目がつくようにプリーツ加工する。例えば、通常2枚の膜サポートの間に挟んで、公知の方法でプリーツ加工することができる。膜サポートとしては不織布、織布、ネットなどを使用すればよい。膜サポートは、ろ過圧変動に対してろ過膜を補強すると同時に、ひだの奥に液を導入するために機能する。プリーツひだの幅は例えば5mmから25mmであればよい。プリーツ加工した親水性多孔質膜は円筒状に丸め、その合わせ目をシールすればよい。
【0057】
円筒状の親水性多孔質膜はエンドプレートにエンドシールされる、エンドシールはエンドプレート材質にしたがって公知の方法で行えばよい。エンドプレートに熱硬化性のエポキシ樹脂を使用する時は、調合したエポキシ樹脂接着剤の液体をポッティング型中に流し込み、予備硬化させて接着剤の粘度が適度に高くなってから、円筒状ろ材の片端面をこのエポキシ接着剤中に挿入し、その後加熱して完全に硬化させればよい。エンドプレートの材質がポリプロピレンやポリエステルの如き熱可塑性樹脂の時は、熱溶融した樹脂を型に流し込んだ直後に円筒状ろ材の片端面を樹脂の中に挿入する方法を行ってもよい。一方、既に成形されたエンドプレートのシール面のみを熱板に接触させたり赤外線ヒーターを照射したりしてプレート表面だけを溶融し、円筒状ろ材の片端面をプレートの溶融面に押しつけて溶着してもよい。
【0058】
組み立てられたフィルターカートリッジはさらに公知の洗浄工程に付してもよい。
なお、親水性多孔質膜におけるヒドロキシアルキルセルロースは、フィルターカートリッジにおいて、一部または全てが洗浄工程等で用いられる溶剤に溶解して除去されていてもよい。
【実施例
【0059】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0060】
<実施例および比較例の親水性多孔質膜の作製>
表に記載の親水性ポリマーを水中で撹拌して親水性ポリマーを完全に溶解し、表に記載の濃度の親水化液を作製した。
ヒドロキシプロピルセルロースとしては日本曹達株式会社製のヒドロキシアルキルセルロース(NISSO HPC Mグレード、Hグレード、SLグレードまたはSSLグレードを用いた。
ヒドロキシエチルセルロースとしては三晶株式会社のSANHECのSANHEC-Lを用いた。
ポリビニルアルコールとしてはシグマアルドリッチ社製を用いた。
【0061】
多孔質膜に、親水化液を、浸漬法または塗布法を用いて浸透させた。浸漬法は、多孔質膜を表1に記載の時間連続的に浸漬槽に浸漬することにより実施した。塗布法は、多孔質膜の表1に記載の部位にダイコート法を用いて塗布液を適用することにより実施した。
表1において、PSE20は富士フイルム株式会社製のポリスルホン膜PSE20であり、PSK45は富士フイルム株式会社製 ポリスルホン膜PSK45である。PSE20は、最小孔径0.2μm、厚み140μmであり、孔径分布を非対称に有する構造である。PSK45は最小孔径0.45μm、厚み170μmであり、孔径分布を非対称に有する構造である。また、いずれの多孔質膜も25cm×200cmのサイズに切断して使用した。
【0062】
浸透後の多孔質膜を80℃のオーブンで80秒間乾燥させた。
その後、過剰な親水性ポリマーを除去するため洗浄を実施した。エタノールと純水を重量比3:7で混合した常温のエタノール30%水溶液に、多孔質膜を30分間浸漬した。その後、エタノールを除去するため純水に5分間浸漬した。最後に、70℃99%の温湿度環境下で26時間多孔質膜を乾燥させ、親水性ポリマーが表1に記載の量で含まれる親水性多孔質膜を得た。
【0063】
<実施例および比較例の親水性多孔質膜の評価>
[重量平均分子量評価]
原料の親水性ポリマーの重量平均分子量は、以下の分析条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)測定を行なって評価した。
【0064】
カラム: Shodex OHpak KB805HQ
移動相: 0.1M酢酸ナトリウム緩衝液
流速 : 1.0 mL/min
温度 : 40℃
検出器: RI(示差屈折計)
なお、分子量の算出には標準プルラン標品Shodex Pullulan P-5、P-10、P-20、P-50、P-82、P-100、P-200、P-400、P-800、P-1600を使用した。
【0065】
[完全性試験]
ポリプロピレン不織布2枚の間に上記親水性多孔質膜を挟んで、ひだ幅10mmにプリーツし、その138山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着した。円筒の両端5mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン製のエンドプレートに熱溶着して、膜長さ30inchのフィルターカートリッジに仕上げた。
得られたフィルターカートリッジをハウジングに装着しフィルターカートリッジの円筒の内側から外側の方向に、8L/minで200秒間、通水した後、ハウジング中の水を、ハウジング上部のリーク弁を開けて、大気圧で抜いた。続いて入水側から150kPaの空気圧をかけ、ろ過フィルターカートリッジを通過してくる空気の量(空気流量)を測定した。この測定値に基づき完全性を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
A:0ml/min以上30ml/min以下
B:30ml/min超60ml/min以下
C:60ml/min超90ml/min以下
D:90ml/min超300ml/min以下
E:300ml/min超
【0066】
[透水性]
透水性は、親水化処理を行った多孔質膜を、中央領域(短辺25cm中の中央部10cmの領域中の長辺200cm中の中央部15cmの領域)から、直径47mmの円形に切り出し、100kPaの圧力をかけ純水を透過させたときの透水性で評価した。単位面積当たり、1分間に膜を通って流れ出た水の体積を測定し透水性(ml/cm/min)とした。このとき、未処理多孔質膜を基準とし、ヒドロキシアルキルセルロース浸漬による透水率の下落率に基づき、透水性を次の5段階で評価をした。結果を表1に示す。
A:0%以上15%未満
B:15%以上30%未満
C:30%以上45%未満
D:45%以上60%未満
E:60%以上
【0067】
【表1】