(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】超音波診断装置および超音波診断装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20220816BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2021534577
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021894
(87)【国際公開番号】W WO2021014773
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019135415
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-61591(JP,A)
【文献】特開2011-72522(JP,A)
【文献】特開2005-110724(JP,A)
【文献】特開2008-272025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の体表面に塗布されたジェル層に超音波プローブを接触させて超音波画像を取得する超音波診断装置であって、
少なくとも振動子アレイを含む前記超音波プローブと、
前記振動子アレイから前記被検体に向けて超音波ビームの送信を行わせ且つ前記被検体による超音波エコーを受信した前記振動子アレイから出力される受信信号を処理して音線信号を生成する送受信回路と、
前記送受信回路により生成された前記音線信号に基づいて前記超音波画像を生成する画像生成部と、
前記画像生成部により生成された前記超音波画像を解析することにより前記ジェル層の厚さを算出するジェル層厚さ算出部と、
前記画像生成部により生成された前記超音波画像を解析することにより前記被検体の組織を認識する組織認識部と、
前記ジェル層厚さ算出部により算出された前記ジェル層の厚さが厚さしきい値以下となった場合に、前記組織認識部により認識された前記組織の形状変化に基づいて前記被検体の体表面に対する前記超音波プローブの圧迫状態を判定する圧迫状態判定部と
を備える超音波診断装置。
【請求項2】
前記圧迫状態判定部は、前記組織認識部により認識された前記組織の形状変化を表す形状変化度が形状変化度しきい値を超える場合に、前記超音波プローブにより前記被検体の体表面が圧迫されていると判定し、前記組織認識部により認識された前記組織の前記形状変化度が前記形状変化度しきい値以下である場合に、前記超音波プローブにより前記被検体の体表面が圧迫されていないと判定する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記圧迫状態判定部により前記被検体の体表面が圧迫されていると判定された場合に、前記超音波プローブによる圧迫を止めるように操作者に指示し、前記圧迫状態判定部により前記被検体の体表面が圧迫されていないと判定された場合に、前記ジェル層のジェルを補充するように前記操作者に指示する報知部をさらに備える請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記組織認識部は、前記組織として、前記体表面、血管、前記血管以外の皮下の解剖学的構造のうちの少なくとも1つを認識する請求項1~3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記組織認識部は、前記組織として血管を認識し、
前記圧迫状態判定部は、前記組織認識部により認識された前記血管の位置が浅いほど値が大きくなるように前記形状変化度しきい値を設定する請求項2または3に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記厚さしきい値は、定められた値である請求項1~5のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記圧迫状態判定部は、前記ジェル層厚さ算出部により最初に算出された前記ジェル層の厚さに対して一定の割合を乗じた値を前記厚さしきい値に設定する請求項1~6のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
被検体の体表面に塗布されたジェル層に接触した超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームの送信を行わせ且つ前記被検体による超音波エコーを受信した前記振動子アレイから出力される受信信号を処理して音線信号を生成し、
生成された前記音線信号に基づいて超音波画像を生成し、
生成された前記超音波画像を解析することにより前記ジェル層の厚さを算出し、
生成された前記超音波画像を解析することにより前記被検体の組織を認識し、
算出された前記ジェル層の厚さが厚さしきい値以下となった場合に、認識された前記組織の形状変化に基づいて前記被検体の体表面に対する前記超音波プローブの圧迫状態を判定する
超音波診断装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の体表面に塗布されたジェル層を介して被検体の体内の超音波画像を取得する超音波診断装置およびその超音波診断装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検体の内部の画像を得るものとして、超音波診断装置が知られている。超音波診断装置は、一般的に、複数の超音波振動子が配列された振動子アレイが備えられた超音波プローブを備えている。この超音波プローブを被検体の体表面に接触させた状態において、振動子アレイから被検体内に向けて超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを振動子アレイにおいて受信して超音波エコーに対応する電気信号が取得される。さらに、超音波診断装置は、得られた電気信号を電気的に処理して、被検体の当該部位に対する超音波画像を生成する。
【0003】
ここで、被検体の皮下に存在する静脈等の組織は、外部からの圧迫により変形しやすいことが知られている。そのため、このような組織を超音波診断装置により観察する場合には、超音波プローブが被検体の体表面に押し付けられることで組織が変形してしまうことを防止するために、例えば、一般的に、被検体の体表面にいわゆる超音波検査用のジェル層を塗布し、塗布されたジェル層に超音波プローブが接触した状態で被検体の体表面に超音波プローブを押し付けないようにして組織の観察を行う手技が行われている。しかしながら、操作者が観察対象の組織の探索に集中する等により、被検体の体表面を超音波プローブで圧迫してしまうことがあった。
【0004】
そこで、超音波プローブによる被検体の体表面の圧迫を防止するために、例えば、特許文献1に開示されているような、操作者に適切な手技を促す超音波診断装置が開発されている。特許文献1の超音波診断装置は、被検体の体表面に塗布されたジェル層の厚さに基づいて、超音波プローブと観察対象の部位との位置関係が適切か否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、被検体の体表面に塗布されるジェル層は、超音波プローブが被検体の体表面を圧迫していない状態であっても、操作者により超音波プローブがジェル層上で動かされることで、徐々に薄くなっていくことが知られている。特許文献1の超音波診断装置は、ジェル層の厚さのみに基づいて超音波プローブと観察対象の部位との位置関係が適切か否かを判定しているため、超音波プローブが被検体の体表面を圧迫していなくても、ジェル層が薄くなったことを検出して、超音波プローブが被検体の体表面を圧迫していると誤って判定してしまう場合があった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであり、被検体の体表面に対する超音波プローブの圧迫状態を正確に判定することができる超音波診断装置および超音波診断装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る超音波診断装置は、被検体の体表面に塗布されたジェル層に超音波プローブを接触させて超音波画像を取得する超音波診断装置であって、少なくとも振動子アレイを含む超音波プローブと、振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームの送信を行わせ且つ被検体による超音波エコーを受信した振動子アレイから出力される受信信号を処理して音線信号を生成する送受信回路と、送受信回路により生成された音線信号に基づいて超音波画像を生成する画像生成部と、画像生成部により生成された超音波画像を解析することによりジェル層の厚さを算出するジェル層厚さ算出部と、画像生成部により生成された超音波画像を解析することにより被検体の組織を認識する組織認識部と、ジェル層厚さ算出部により算出されたジェル層の厚さが厚さしきい値以下となった場合に、組織認識部により認識された組織の形状変化に基づいて被検体の体表面に対する超音波プローブの圧迫状態を判定する圧迫状態判定部とを備えることを特徴とする。
【0009】
圧迫状態判定部は、組織認識部により認識された組織の形状変化を表す形状変化度が形状変化度しきい値を超える場合に、超音波プローブにより被検体の体表面が圧迫されていると判定し、組織認識部により認識された組織の形状変化度が形状変化度しきい値以下である場合に、超音波プローブにより被検体の体表面が圧迫されていないと判定することが好ましい。
さらに、超音波診断装置は、圧迫状態判定部により被検体の体表面が圧迫されていると判定された場合に、超音波プローブによる圧迫を止めるように操作者に指示し、圧迫状態判定部により被検体の体表面が圧迫されていないと判定された場合に、ジェル層のジェルを補充するように操作者に指示する報知部をさらに備えることが好ましい。
【0010】
組織認識部は、組織として、体表面、血管、血管以外の皮下の解剖学的構造のうちの少なくとも1つを認識することができる。
また、組織認識部は、組織として血管を認識し、圧迫状態判定部は、組織認識部により認識された血管の位置が浅いほど値が大きくなるように形状変化度しきい値を設定することができる。
【0011】
厚さしきい値は、定められた値であってもよい。
もしくは、圧迫状態判定部は、ジェル層厚さ算出部により最初に算出されたジェル層の厚さに対して一定の割合を乗じた値を厚さしきい値に設定することもできる。
【0012】
本発明に係る超音波診断装置の制御方法は、被検体の体表面に塗布されたジェル層に接触した超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームの送信を行わせ且つ被検体による超音波エコーを受信した振動子アレイから出力される受信信号を処理して音線信号を生成し、生成された音線信号に基づいて超音波画像を生成し、生成された超音波画像を解析することによりジェル層の厚さを算出し、生成された超音波画像を解析することにより被検体の組織を認識し、算出されたジェル層の厚さが厚さしきい値以下となった場合に、認識された組織の形状変化に基づいて被検体の体表面に対する超音波プローブの圧迫状態を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、超音波画像を生成する画像生成部と、画像生成部により生成された超音波画像を解析することによりジェル層の厚さを算出するジェル層厚さ算出部と、画像生成部により生成された超音波画像を解析することにより被検体の組織を認識する組織認識部と、ジェル層厚さ算出部により算出されたジェル層の厚さが厚さしきい値以下となった場合に、組織認識部により認識された組織の形状変化に基づいて被検体の体表面に対する超音波プローブの圧迫状態を判定する圧迫状態判定部とを備えるため、被検体の体表面に対する超音波プローブの圧迫状態を正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態1における受信回路の内部構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施の形態1における画像生成部の内部構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施の形態1においてジェル層が厚さしきい値よりも大きく且つ被検体の体表面が超音波プローブにより圧迫されていない状態の超音波画像の模式図である。
【
図5】本発明の実施の形態1において被検体の体表面が超音波プローブにより圧迫されている状態の超音波画像の模式図である。
【
図6】本発明の実施の形態1においてジェル層の厚さが厚さしきい値以下の状態の超音波画像の模式図である。
【
図7】本発明の実施の形態1において表示装置に表示された、超音波プローブによる圧迫を止める旨の指示を示す模式図である。
【
図8】本発明の実施の形態1において表示装置に表示された、ジェルを補充する旨の指示を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の動作を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の実施の形態2に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「垂直」および「平行」とは、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、「垂直」および「平行」とは、厳密な垂直あるいは平行に対して±10度未満の範囲内であることなどを意味し、厳密な垂直あるいは平行に対しての誤差は、5度以下であることが好ましく、3度以下であることがより好ましい。
本明細書において、「同一」、「同じ」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。また、本明細書において、「全部」、「いずれも」または「全面」などというとき、100%である場合のほか、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合を含むものとする。
【0016】
実施の形態1
図1に、本発明の実施の形態1に係る超音波診断装置1の構成を示す。超音波診断装置1は、振動子アレイ2を備えており、振動子アレイ2に、送信回路3および受信回路4がそれぞれ接続されている。ここで、送信回路3と受信回路4により、送受信回路5が構成されている。また、受信回路4に、画像生成部6、表示制御部7、表示装置8が順次接続されている。画像生成部6には、ジェル層厚さ算出部9と組織認識部10が接続され、ジェル層厚さ算出部9と組織認識部10に圧迫状態判定部11が接続されている。また、圧迫状態判定部11に、報知部12が接続され、報知部12に、表示制御部7が接続されている。
【0017】
また、送受信回路5、画像生成部6、表示制御部7、ジェル層厚さ算出部9、組織認識部10、圧迫状態判定部11および報知部12に、装置制御部13が接続されている。また、装置制御部13に、入力装置14と格納部15が接続されている。なお、装置制御部13と格納部15とは、互いに双方向の情報の受け渡しが可能に接続されている。
また、振動子アレイ2と送受信回路5は、超音波プローブ21に含まれている。また、画像生成部6、表示制御部7、ジェル層厚さ算出部9、組織認識部10、圧迫状態判定部11、報知部12および装置制御部13により、超音波診断装置1用のプロセッサ22が構成されている。
【0018】
図1に示す超音波プローブ21の振動子アレイ2は、1次元または2次元に配列された複数の振動子を有している。これらの振動子は、それぞれ送信回路3から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に、被検体からの超音波エコーを受信して、超音波エコーに基づく信号を出力する。各振動子は、例えば、PZT(Lead Zirconate Titanate:チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミック、PVDF(Poly Vinylidene Di Fluoride:ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子およびPMN-PT(Lead Magnesium Niobate-Lead Titanate:マグネシウムニオブ酸鉛-チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成することにより構成される。
【0019】
送信回路3は、例えば、複数のパルス発生器を含んでおり、装置制御部13からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、振動子アレイ2の複数の振動子から送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号を、遅延量を調節して複数の振動子に供給する。このように、振動子アレイ2の振動子の電極にパルス状または連続波状の電圧が印加されると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状または連続波状の超音波が発生して、それらの超音波の合成波から、超音波ビームが形成される。
【0020】
送信された超音波ビームは、例えば、被検体の部位等の対象において反射され、超音波プローブ21の振動子アレイ2に向かって伝搬する。このように振動子アレイ2に向かって伝搬する超音波エコーは、振動子アレイ2を構成するそれぞれの振動子により受信される。この際に、振動子アレイ2を構成するそれぞれの振動子は、伝搬する超音波エコーを受信することにより伸縮して電気信号を発生させ、これらの電気信号を受信回路4に出力する。
【0021】
受信回路4は、装置制御部13からの制御信号に従い、振動子アレイ2から出力される信号の処理を行って、音線信号を生成する。
図2に示すように、受信回路4は、増幅部23、AD(Analog Digital:アナログデジタル)変換部24およびビームフォーマ25が直列に接続された構成を有している。
【0022】
増幅部23は、振動子アレイ2を構成するそれぞれの振動子から入力された信号を増幅し、増幅した信号をAD変換部24に送信する。AD変換部24は、増幅部23から送信された信号をデジタルの受信データに変換し、これらの受信データをビームフォーマ25に送信する。ビームフォーマ25は、装置制御部13からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、AD変換部24により変換された各受信データに対してそれぞれの遅延を与えて加算することにより、いわゆる受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、AD変換部24で変換された各受信データが整相加算され且つ超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が取得される。
【0023】
画像生成部6は、
図3に示されるように、信号処理部26、DSC(Digital Scan Converter:デジタルスキャンコンバータ)27および画像処理部28が順次直列に接続された構成を有している。
信号処理部26は、受信回路4により生成された音線信号に対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
DSC27は、信号処理部26で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部28は、DSC27から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部7、ジェル層厚さ算出部9および組織認識部10に出力する。以降は、画像処理部28により画像処理が施されたBモード画像信号を、単に、超音波画像と呼ぶ。
【0024】
ところで、外部からの圧迫により変形しやすい静脈等の組織が観察される場合には、超音波プローブが被検体の体表面に押し付けられることで組織が変形してしまうことを防止するために、一般的に、被検体の体表面にいわゆる超音波検査用のジェル層を塗布し、塗布されたジェル層に超音波プローブが接触した状態で被検体の体表面に超音波プローブを押し付けないようにして組織の観察を行う手技が行われている。
ここで、ジェル層とは、いわゆる高分子吸収型ジェル等の粘度の高い液体により構成されるものである。一般的に、超音波プローブと被検体の体表面との間に空気の層が存在する場合には、超音波の反射および減衰が生じやすいが、ジェル層は、超音波を十分に透過し且つ被検体の体表面と超音波プローブとの間の隙間を埋めることができるため、超音波プローブと被検体の体表面との間で超音波の反射および減衰を低減することができる。
【0025】
ジェル層厚さ算出部9は、画像生成部6により生成された超音波画像を解析することにより、被検体の体表面に塗布されたジェル層の厚さを算出する。例えば、ジェル層厚さ算出部9は、
図4に示すように、超音波画像Uにおける被検体の体表面Sを認識し、超音波画像Uの深度方向における超音波画像Uの最も浅い位置すなわち超音波画像Uの上端部から体表面Sまでの最も短い長さをジェル層Gの厚さL1として算出する。
【0026】
ここで、ジェル層Gの内部では超音波の反射が起こりにくいため、ジェル層Gは超音波画像Uにおいては低輝度となる。一方、ジェル層Gと被検体の体表面Sの境界部分では超音波の反射が起こりやすいため、この境界部分は、超音波画像Uにおいては高輝度となる。そのため、ジェル層厚さ算出部9は、例えば、超音波画像Uの浅部からの深度方向の輝度変化が一定値よりも大きい箇所を体表面Sとして認識し、超音波画像Uの上端部から認識された体表面Sまでの最も短い長さをジェル層Gの厚さL1として算出することができる。また、ジェル層厚さ算出部9は、超音波画像U上の体表面Sを認識する際に、例えば、公知のアルゴリズムを用いることもできる。例えば、ジェル層厚さ算出部9は、体表面Sの典型的なパターンデータをテンプレートとして予め記憶しておき、超音波画像U内をテンプレートでサーチしながらパターンデータに対する類似度を算出し、類似度がしきい値以上かつ最大となった場所に体表面Sが存在するとみなすことができる。
ジェル層厚さ算出部9は、このようにして認識された体表面Sの超音波画像U内の深さ位置を求めることにより、間接的にジェル層Gの厚さを算出することもできる。
【0027】
また、類似度の算出には、単純なテンプレートマッチングの他に、例えば、Csurka et al.: Visual Categorization with Bags of Keypoints, Proc. of ECCV Workshop on Statistical Learning in Computer Vision, pp.59-74 (2004)に記載されている機械学習手法、あるいは、Krizhevsk et al.: ImageNet Classification with Deep Convolutional Neural Networks, Advances in Neural Information Processing Systems 25, pp.1106-1114 (2012)に記載されているディープラーニングを用いた一般画像認識手法等を用いることができる。
【0028】
組織認識部10は、画像生成部6により生成された超音波画像Uを解析することにより、被検体の組織を認識する。組織認識部10は、被検体の組織として、例えば、
図4に示すような被検体の体表面S、静脈B1および動脈B2の血管および血管以外の皮下の解剖学的構造のうち少なくとも1つを認識する。ここで、解剖学的構造には、例えば、神経および筋肉等が含まれる。組織認識部10は、例えば、テンプレートマッチング、機械学習手法、ディープラーニング等を用いた一般画像認識手法等の公知のアルゴリズムを用いて超音波画像Uから被検体の組織を認識することができる。
【0029】
ここで、
図4には、静脈B1および動脈B2の横断面を含む超音波画像Uが例示されているが、静脈B1および動脈B2の横断面の代わりに、その縦断面が超音波画像Uに含まれていてもよい。なお、静脈B1および動脈B2の横断面とは、静脈B1および動脈B2の走行方向に対して直交する平面による静脈B1および動脈B2の切断面のことを指し、静脈B1および動脈B2の縦断面とは、静脈B1および動脈B2の走行方向に沿った静脈B1および動脈B2の切断面のことを指す。
【0030】
圧迫状態判定部11は、ジェル層厚さ算出部9により算出されたジェル層Gの厚さが厚さしきい値以下となった場合に、組織認識部10により認識された組織の形状変化に基づいて被検体の体表面Sに対する超音波プローブ21の圧迫状態を判定する。この際に、圧迫状態判定部11は、組織認識部10による組織の認識結果に基づいて、認識された組織の形状変化を表す形状変化度を算出し、算出された形状変化度が形状変化度しきい値を超えた場合に、超音波プローブ21により被検体の体表面Sが圧迫されていると判定する。ここで、被検体の組織の変形が大きいほど形状変化度の値が大きくなり、被検体の組織の変形が小さいほど形状変化度の値が小さくなるものとする。
【0031】
例えば、形状変化度として、深度方向における血管の直径の変化率を用いることができる。ここで、深度方向における血管の直径の変化率は、例えば、超音波診断の基準となる超音波画像Uにおける血管の深度方向の直径に対する現在の超音波画像Uにおける血管の深度方向の直径の比を、1から引くことにより算出することができる。例えば、超音波診断の初期に生成された基準となる超音波画像Uにおいて、
図4に示すように、ジェル層Gが厚さしきい値よりも大きい厚さL1を有し且つ静脈B1の横断面がほぼ円形を有しており、現在の超音波画像Uにおいて、
図5に示すように、ジェル層Gが厚さしきい値以下の厚さL2を有し且つ静脈B1の横断面が深度方向に潰れるように変形しているとする。圧迫状態判定部11は、ジェル層Gの厚さL2が厚さしきい値以下であり且つ基準となる超音波画像Uにおける静脈B1と現在の超音波画像Uにおける静脈B1に基づいて算出された静脈B1の直径の変化率が形状変化度しきい値以上である場合に、超音波プローブ21により被検体の体表面Sが圧迫されていると判定することができる。
【0032】
ここで、動脈B2は、外部からの圧迫により変形しにくいことが知られている。そのため、圧迫状態判定部11は、被検体の体表面Sに対する超音波プローブ21の圧迫状態の判定に血管の形状変化を利用する場合には、動脈B2の形状変化よりも静脈B1の形状変化を用いることが、より有用である。
【0033】
また、圧迫状態判定部11は、ジェル層Gの厚さが厚さしきい値以下であり且つ算出された形状変化度が形状変化度しきい値以下である場合には、超音波プローブ21により被検体の体表面Sが圧迫されていないと判定する。例えば、圧迫状態判定部11は、
図4に示すように、ジェル層Gが厚さしきい値よりも大きい厚さL1を有し且つ静脈B1の横断面がほぼ円形を有している状態を表す超音波画像Uを基準とした場合に、現在の超音波画像Uにおいて、
図6に示すように、ジェル層Gが厚さしきい値以下の厚さL3を有していても、静脈B1の直径の変化率が形状変化度しきい値以下であれば、超音波プローブ21により被検体の体表面Sが圧迫されていないと判定することができる。
【0034】
さらに、圧迫状態判定部11は、ジェル層厚さ算出部9により算出されたジェル層Gの厚さが厚さしきい値よりも大きい場合には、操作者により適切な手技が行われており、圧迫状態を判定するまでもなく、超音波プローブ21により被検体の体表面Sは圧迫されていないと判断して、超音波プローブ21の圧迫状態の判定を行わない。
【0035】
ところで、一般的に、被検体の体表面に塗布されるジェル層は、超音波プローブが被検体の体表面を圧迫していない状態であっても、操作者により超音波プローブがジェル層上で動かされることで、徐々に薄くなっていくことが知られている。
そこで、報知部12は、圧迫状態判定部11により被検体の体表面Sが圧迫されていると判定された場合に、超音波プローブ21による圧迫を止めるように操作者に指示し、圧迫状態判定部11により被検体の体表面Sが圧迫されていないと判定された場合に、ジェル層Gのジェルを補充するように操作者に指示する。
【0036】
例えば、圧迫状態判定部11は、
図7に示すように、「圧迫を止めてください」というテキストを含む指示パネルP1を超音波画像Uと一緒に表示装置8に表示することにより、超音波プローブ21による圧迫を止めるように操作者に指示することができる。また、例えば、圧迫状態判定部11は、
図8に示すように、「ジェルを補充してください」というテキストを含む指示パネルP2を超音波画像Uと一緒に表示装置8に表示することにより、ジェル層Gのジェルを補充するように操作者に指示することができる。
【0037】
装置制御部13は、格納部15等に予め記憶されているプログラムおよび入力装置14を介した操作者による入力操作に基づいて、超音波診断装置1の各部の制御を行う。
表示制御部7は、装置制御部13の制御の下、画像生成部6により生成された超音波画像U、報知部12による操作者への指示を表す情報等に所定の処理を施して、超音波画像U、報知部12による操作者への指示等を表示装置8に表示する。
【0038】
表示装置8は、表示制御部7による制御の下、超音波画像U、報知部12による操作者への指示等を表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイ(Organic Electroluminescence Display)等のディスプレイ装置を含む。
入力装置14は、操作者が入力操作を行うためのものであり、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパッドおよびタッチパネル等を備えて構成することができる。
【0039】
格納部15は、超音波診断装置1の制御プログラム等を格納するもので、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive:ハードディスクドライブ)、SSD(Solid State Drive:ソリッドステートドライブ)、FD(Flexible Disc:フレキシブルディスク)、MOディスク(Magneto-Optical disc:光磁気ディスク)、MT(Magnetic Tape:磁気テープ)、RAM(Random Access Memory:ランダムアクセスメモリ)、CD(Compact Disc:コンパクトディスク)、DVD(Digital Versatile Disc:デジタルバーサタイルディスク)、SDカード(Secure Digital card:セキュアデジタルカード)、USBメモリ(Universal Serial Bus memory:ユニバーサルシリアルバスメモリ)等の記録メディア、またはサーバ等を用いることができる。
【0040】
なお、画像生成部6、表示制御部7、ジェル層厚さ算出部9、組織認識部10、圧迫状態判定部11、報知部12および装置制御部13を有するプロセッサ22は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、および、CPUに各種の処理を行わせるための制御プログラムから構成されるが、FPGA(Field Programmable Gate Array:フィードプログラマブルゲートアレイ)、DSP(Digital Signal Processor:デジタルシグナルプロセッサ)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit:アプリケーションスペシフィックインテグレイテッドサーキット)、GPU(Graphics Processing Unit:グラフィックスプロセッシングユニット)、その他のIC(Integrated Circuit:集積回路)を用いて構成されてもよく、もしくはそれらを組み合わせて構成されてもよい。
【0041】
また、プロセッサ22の画像生成部6、表示制御部7、ジェル層厚さ算出部9、組織認識部10、圧迫状態判定部11、報知部12および装置制御部13は、部分的にあるいは全体的に1つのCPU等に統合させて構成することもできる。
【0042】
以下では、
図9に示すフローチャートを用いて、実施の形態1における超音波診断装置1の動作を詳細に説明する。
まず、ステップS1において、操作者により、被検体の体表面Sに十分な量のジェル層Gが塗布され、塗布されたジェル層Gに超音波プローブ21が接触される。このような状態の下で、ジェル層Gが塗布された被検体の体表面Sと皮下に存在する組織が撮像されている超音波画像Uが生成され、生成された超音波画像Uが表示装置8に表示される。この際に、まず、送信回路3からの駆動信号に従って振動子アレイ2の複数の振動子から被検体内に超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各振動子から受信信号が受信回路4に出力される。受信回路4により受け取られた受信信号は、増幅部23で増幅され、AD変換部24でAD変換された後、ビームフォーマ25で整相加算されて、音線信号が生成される。この音線信号は、画像生成部6において、信号処理部26で包絡線検波処理が施されることでBモード画像信号となり、DSC27および画像処理部28を経て表示制御部7に出力され、
図4に示すように、表示制御部7の制御の下で超音波画像Uが表示装置8に表示される。
【0043】
次に、ステップS2において、組織認識部10は、ステップS1で生成された超音波画像Uを解析することにより、被検体の組織を認識する。例えば、組織認識部10は、被検体の組織として、
図4に示すように、静脈B1を認識することができる。また、この際に、組織認識部10は、例えば、テンプレートマッチング、機械学習手法、ディープラーニング等を用いた一般画像認識手法等の公知のアルゴリズムを用いて静脈B1を認識することができる。
続くステップS3において、圧迫状態判定部11は、ステップS2の認識結果、例えば、静脈B1の形状を表す情報を、その形状の変化を判断するための基準として保持する。
【0044】
ステップS4において、ステップS1と同様にして、新たに超音波画像Uが生成され、生成された超音波画像Uが表示装置8に表示される。
ステップS5において、ジェル層厚さ算出部9は、ステップS4で生成された超音波画像Uを解析することにより、ジェル層Gの厚さを算出する。例えば、ジェル層厚さ算出部9は、
図4に示すように、超音波画像Uにおける被検体の体表面Sを認識し、超音波画像Uの深度方向における超音波画像Uの最も浅い位置すなわち超音波画像Uの上端部から体表面Sまでの最も短い長さをジェル層Gの厚さL1として算出する。より具体的には、ジェル層厚さ算出部9は、例えば、超音波画像Uの浅部からの深度方向の輝度変化が一定の値よりも大きい箇所を体表面Sとして認識することができる。また、ジェル層厚さ算出部9は、例えば、テンプレートマッチング、機械学習手法、ディープラーニング等を用いた一般画像認識手法等の公知のアルゴリズムを用いて超音波画像U上の体表面Sを認識することもできる。
【0045】
ステップS6において、圧迫状態判定部11は、ステップS5で算出されたジェル層Gの厚さが定められた厚さしきい値以下であるか否かを判定する。圧迫状態判定部11により、ジェル層Gの厚さが厚さしきい値よりも大きいと判定された場合には、超音波プローブ21の圧迫状態の判定は不要と判断して、ステップS4に戻り、超音波画像Uが新たに生成される。このようにして新たに生成された超音波画像Uに基づいて、ステップS5でジェル層Gの厚さが算出され、ステップS6に進む。
ステップS6において、ジェル層Gの厚さが厚さしきい値以下であると判定された場合には、ステップS7に進む。ステップS7では、ステップS2と同様にして、ステップS4で生成された超音波画像Uが解析されることにより、静脈B1等の被検体の組織が認識される。
【0046】
ステップS8において、圧迫状態判定部11は、ステップS7で認識された被検体の組織に関する形状変化度を算出する。例えば、ステップS3で静脈B1の形状が保持された場合に、圧迫状態判定部11は、形状変化度として、ステップS3で形状が保持された静脈B1の深度方向における直径に対するステップS7で認識された静脈B1の深度方向における直径の比を1から引くことにより、静脈B1の直径の変化率を算出することができる。
【0047】
続くステップS9において、圧迫状態判定部11は、ステップS8で算出された形状変化度が形状変化度しきい値を超えているか否かを判定する。例えば、
図5に示すように、ステップS7で認識された静脈B1の横断面が超音波画像Uの深度方向に潰れており、ステップS7で認識された静脈B1とステップS3で形状が保持された静脈B1とに基づいて算出された静脈B1の直径の変化率を形状変化度として、この形状変化度が形状変化度しきい値を超えた場合には、被検体の体表面Sが超音波プローブ21により圧迫されていると判断されて、ステップS10に進む。
【0048】
ステップS10において、報知部12は、超音波プローブ21による圧迫を止めるように操作者に指示する。例えば、報知部12は、
図7に示すように、「圧迫を止めてください」というテキストを含む指示パネルP1を超音波画像Uと一緒に表示装置8に表示することにより、超音波プローブ21による圧迫を止めるように操作者に指示することができる。このようにして、ステップS10の処理が完了すると、超音波診断装置1の動作が終了する。
【0049】
また、
図6に示すように、静脈B1の横断面がほぼ円形を有しており、ステップS9において圧迫状態判定部11により、静脈B1に関する形状変化度が形状変化度しきい値以下であると判定された場合には、被検体の体表面Sが超音波プローブ21により圧迫されていないと判断されて、ステップS11に進む。
ステップS11において、報知部12は、ジェル層Gのジェルを補充するように操作者に指示する。例えば、報知部12は、
図8に示すように、「ジェルを補充してください」というテキストを含む指示パネルP2を超音波画像Uと一緒に表示装置8に表示することにより、ジェル層Gのジェルを補充するように操作者に指示することができる。このようにしてステップS11の指示が完了すると、超音波診断装置1の動作が終了する。
【0050】
以上のように、本発明の実施の形態1に係る超音波診断装置1によれば、超音波画像Uを解析することにより、被検体の体表面Sに塗布されたジェル層Gの厚さを算出し且つ被検体の組織を認識し、算出されたジェル層Gの厚さと被検体の組織の形状変化の双方に基づいて、被検体の体表面Sに対する超音波プローブ21の圧迫状態が判定される。そのため、例えば、ジェル層Gが薄くなったことに起因して、超音波プローブ21が被検体の体表面Sを圧迫していなくても被検体の体表面Sが超音波プローブ21により圧迫されていると誤って判定することが防止される。このように、本発明の実施の形態1に係る超音波診断装置1によれば、被検体の体表面Sに対する超音波プローブ21の圧迫状態を正確に判定することができる。
【0051】
また、圧迫状態判定部11による判定結果に応じて、報知部12により、超音波プローブ21による圧迫を止める旨の指示、または、ジェル層Gのジェルを補充する旨の指示が操作者に対してなされるため、操作者は、被検体の体表面Sを超音波プローブ21で圧迫しないように、適切な手技を行うことができる。そのため、本発明の実施の形態1の超音波診断装置1によれば、超音波診断の精度を向上させることもできる。
【0052】
なお、ステップS1~ステップS3において、超音波診断装置1の動作開始後、初めて生成された被検体の超音波画像Uに基づいて被検体の組織が認識され、その認識結果が保持されているが、ここで使用される超音波画像は、新たに生成されたものに限定されず、例えば、過去の診断において得られた超音波画像であってもよい。例えば、過去の診断において得られた超音波画像を記憶する図示しない画像メモリが超音波診断装置1に備えられ、ステップS1で超音波画像Uが生成される代わりに、画像メモリから過去の超音波画像が読み込まれることができる。その場合には、読み込まれた過去の超音波画像がステップS2で解析されることにより、その超音波画像に含まれる被検体の組織が認識され、認識結果がステップS3で保持される。
【0053】
また、ステップS2で組織の認識が行われる超音波画像は、撮像対象の部位が一致していれば、現在、超音波診断の対象となっている被検体とは別の被検体の内部を撮像することにより得られた超音波画像であってもよく、いわゆる超音波ファントムの内部を撮像することにより得られた超音波画像であってもよい。このような場合であっても、撮像対象の部位が一致していれば、体表面および皮下の解剖学的構造は被検体によって大きく変わらないため、本発明の実施の形態1に係る超音波診断装置1を用いることにより、被検体の体表面Sに対する超音波プローブ21の圧迫状態を正確に判定することができる。
【0054】
また、ジェル層厚さ算出部9は、超音波画像Uの上端部から被検体の体表面Sまでの最も短い長さをジェル層Gの厚さL1として算出することが説明されているが、例えば、超音波画像Uの上端部から被検体の体表面Sまでの長さの平均値をジェル層Gの厚さとして算出することもできる。この際に、ジェル層厚さ算出部9は、例えば、超音波画像Uの上端部から被検体の体表面Sまでの領域の面積を算出し、算出された面積を、深度方向に直交する方向における超音波画像Uの幅で除することにより、超音波画像Uの上端部から被検体の体表面Sまでの長さの平均値を算出することができる。
【0055】
また、形状変化度として、深度方向における血管の直径の変化率が例示されているが、形状変化度は、被検体の組織の形状の変化を表すものであれば、これに限定されない。例えば、形状変化度として、基準となる超音波画像Uにおける血管の横断面の面積に対する現在の超音波画像Uにおける血管の横断面の面積の比を1から引くことにより算出される血管の面積の変化率を用いることができる。また、例えば、形状変化度として、血管の横断面の扁平度を用いることができる。扁平度とは、超音波画像Uにおいて深度方向と直交する方向の血管の直径に対する深度方向の血管の直径の比を、1から引くことにより算出されるものである。この扁平度は、血管の横断面が真円に近いほど0に近い値を有し、血管の横断面が深度方向において潰れるほど1に近い値を有する。
また、形状変化度として、血管の横断面の円形度の逆数、血管の横断面と真円との類似度の逆数等を用いることもできる。
【0056】
また、圧迫状態判定部11は、超音波プローブ21の圧迫状態の判定に血管の横断面の形状変化を利用しているが、血管の横断面の形状変化を利用することに限定されず、例えば、圧迫状態判定部11は、血管の縦断面の形状変化を超音波プローブ21の圧迫状態の判定に利用することもできる。この場合に、圧迫状態判定部11は、例えば、浅部に位置する血管壁と深部に位置する血管壁との間の深度方向における距離を血管径として算出し、形状変化度として、基準となる超音波画像Uにおける血管径に対する現在の超音波画像Uにおける血管径の比を1から引くことにより算出される血管径の変化率を用いることができる。
【0057】
また、圧迫状態判定部11は、例えば、筋肉および神経等の皮下の解剖学的構造の形状変化を超音波プローブ21の圧迫状態の判定に利用することもできる。例えば、圧迫状態判定部11は、組織認識部10により認識された被検体の筋肉および神経等の深度方向の厚さを計測し、基準となる超音波画像Uにおける筋肉および神経等の深度方向の厚さに対する現在の超音波画像Uにおける筋肉および神経等の深度方向の厚さの比を1から引くことにより筋肉および神経等の厚さの変化率を算出し、算出された変化率を超音波プローブ21の圧迫状態の判定に利用することができる。
【0058】
また、被検体の筋肉および皮下組織等は、一般的に層構造を有しており、被検体の体表面Sが超音波プローブ21に圧迫されることにより、筋肉および皮下組織等の各層は、深度方向に圧縮されて薄くなる。筋肉および皮下組織等の層構造は、超音波画像Uにおいては繰り返しパターンとして描出されるため、超音波画像Uの深度方向における筋肉および皮下組織等の層構造の空間周波数は、筋肉および皮下組織等が深度方向に圧縮されるほど大きくなると考えられる。そのため、圧迫状態判定部11は、例えば、組織認識部10により認識された被検体の筋肉および神経等の画像の空間周波数を算出し、基準となる超音波画像Uにおける筋肉および神経等の深度方向の空間周波数に対する現在の超音波画像Uにおける筋肉および神経等の深度方向の空間周波数の比を形状変化率として算出することができる。
【0059】
また、
図4に示すように、被検体の体表面Sが超音波プローブ21により圧迫されていない場合には、皮下に静脈B1等の組織が存在することにより、被検体の体表面Sが超音波画像Uにおいて湾曲して写るが、
図5に示すように、被検体の体表面Sが超音波プローブ21により圧迫されている場合には、静脈B1等の組織が深度方向に圧縮されるため、被検体の体表面Sが超音波画像Uにおいてほぼ直線状に写る。そのため、例えば、圧迫状態判定部11は、被検体の体表面Sの形状変化を超音波プローブ21の圧迫状態の判定に利用することもできる。例えば、圧迫状態判定部11は、被検体の体表面Sの形状を曲線で近似して、その曲線の変曲点の数の逆数を形状変化度として算出することができる。また、圧迫状態判定部11は、被検体の体表面Sを近似する曲線と直線との類似度等を求めることにより、その曲線がどれだけ直線に近いかを表す直線度を算出し、算出された直線度を形状変化度として算出することができる。
【0060】
また、圧迫状態判定部11は、形状変化度しきい値として、予め定められた値を用いることができる。
また、例えば、圧迫状態判定部11による超音波プローブ21の圧迫状態の判定に血管の形状変化が利用される場合には、圧迫状態判定部11は、組織認識部10により認識された血管の位置が浅いほど値が大きくなるように形状変化度しきい値を設定することができる。例えば、圧迫状態判定部11は、被検体の体表面Sから静脈B1までの深度方向における距離の基準値とその距離に対応する形状変化度しきい値を記憶しており、被検体の体表面Sから静脈B1までの深度方向における距離が基準値に対して短いほど形状変化度しきい値が大きくなるように、また、被検体の体表面Sから静脈B1までの深度方向における距離が基準値に対して長くなるほど形状変化度しきい値が小さくなるように、形状変化度しきい値を設定することができる。
【0061】
例えば、静脈B1が浅い位置すなわち被検体の体表面Sに近い位置に配置されている場合には、静脈B1が深い位置すなわち被検体の体表面Sから遠い位置に配置されている場合と比較して、超音波プローブ21による圧迫の影響が大きく、静脈B1の形状が変化しやすい。そのため、静脈B1等の血管の深さに応じて形状変化度しきい値を設定することにより、深さに応じた血管の形状変化のしやすさに合わせて形状変化度しきい値を設定し、被検体の体表面Sに対する超音波プローブ21の圧迫状態をより正確に判定することができる。
【0062】
ここで、被検体の皮下の近傍に骨が存在する関節等を外部から圧迫すると、骨と体表面Sとの間の組織が容易に変形する。そこで、例えば、圧迫状態判定部11は、被検体の撮像対象の部位に応じて形状変化度しきい値を設定することもできる。例えば、圧迫状態判定部11は、被検体の部位毎に定められた値を記憶しており、操作者により入力装置14を介して関節等の撮像対象の部位を表す情報が入力されると、入力された部位に対応する値を形状変化度しきい値として設定することができる。また、図示しないが、組織認識部10により認識された被検体の組織に基づいて撮像されている被検体の部位を判定する部位判定部が超音波診断装置1Aに備えられることもできる。この場合には、圧迫状態判定部11は、部位判定部により判定された部位に対応する値を形状変化度しきい値として設定することができる。
【0063】
また、圧迫状態判定部11は、ジェル層Gの厚さのしきい値として、予め定められた値を用いているが、このしきい値は、ジェル層厚さ算出部9により算出されたジェル層Gの厚さに基づいて設定されることもできる。
例えば、圧迫状態判定部11は、超音波診断が開示されてから、ジェル層厚さ算出部9により最初に算出されたジェル層Gの厚さに対して、例えば30%等の一定の割合を乗じた値をしきい値として設定することができる。一般的に、被検体に塗布されるジェル層として用いられるジェルは、その種類によって様々な粘度を有している。そのため、ジェル層Gの厚さの初期値に対して一定の割合を乗じた値を厚さしきい値として設定することにより、ジェル層Gを構成するジェルに応じて適切な厚さしきい値を設定し、被検体の体表面Sに対する超音波プローブ21の圧迫状態をより正確に判定することができる。
【0064】
また、形状変化度は、被検体の組織の変形が大きいほど値が大きくなり、被検体の組織の変形が小さいほど値が小さくなることが説明されているが、形状変化度の代わりに、被検体の組織の変形が大きいほど値が小さくなり、被検体の組織の変形が小さいほど値が大きくなる指標を用いることもできる。このような指標として、例えば、超音波診断の基準となる超音波画像Uにおける血管の深度方向の直径に対する現在の超音波画像Uにおける血管の深度方向の直径の比、超音波診断の基準となる超音波画像Uにおける血管の面積に対する現在の超音波画像Uにおける血管の面積の比、超音波画像Uにおいて深度方向と直交する方向の血管の直径に対する深度方向の血管の直径の比、血管の横断面の円形度、血管の横断面と真円との類似度等を用いることができる。また、この場合には、圧迫状態判定部11は、例えば、ジェル層厚さ算出部9により算出されたジェル層Gの厚さが厚さしきい値以下となり、且つ、算出された指標が一定のしきい値以下となった場合に、超音波プローブ21により被検体の体表面Sが圧迫されていると判定することができる。
【0065】
また、
図7および
図8に示すように、報知部12により、操作者への指示を表す指示パネルP1、P2が表示装置8に表示されることが記載されているが、操作者への指示が行えるのであれば、その方法は、特に限定されない。例えば、音声を発生する図示しないスピーカが超音波診断装置1に備えられ、操作者への指示として、報知部12により、スピーカから「圧迫を止めてください」、「ジェルを追加してください」等の音声が発せられることもできる。
【0066】
また、送受信回路5は、超音波プローブ21に含まれることが示されているが、超音波プローブ21の外部に設けられていてもよい。このような場合であっても、送受信回路5は、送受信回路5が超音波プローブ21に含まれる場合と同様にして、振動子アレイ2から被検体に向けて超音波ビームの送信を行わせ且つ被検体による超音波エコーを受信した振動子アレイ2から出力される受信信号を処理することができる。
【0067】
また、いわゆる受信フォーカス処理を行うビームフォーマ25は、受信回路4に含まれているが、例えば、画像生成部6に含まれることもできる。この場合であっても、ビームフォーマ25が受信回路4に含まれる場合と同様に、画像生成部6により超音波画像Uが生成される。
【0068】
実施の形態2
実施の形態1の超音波診断装置1は、表示装置8、入力装置14、超音波プローブ21がプロセッサ22に直接的に接続される構成を有しているが、例えば、表示装置8、入力装置14、超音波プローブ21、プロセッサ22がネットワークを介して間接的に接続されることもできる。
【0069】
図10に示すように、実施の形態2における超音波診断装置1Aは、表示装置8、入力装置14、超音波プローブ21がネットワークNWを介して超音波診断装置本体31に接続されたものである。超音波診断装置本体31は、
図1に示す実施の形態1の超音波診断装置1において、表示装置8、入力装置14、超音波プローブ21を除いたものであり、送受信回路5、格納部15およびプロセッサ22により構成されている。
【0070】
超音波診断装置1Aがこのような構成を有している場合でも、実施の形態1の超音波診断装置1と同様に、超音波画像Uを解析することにより、被検体の体表面Sに塗布されたジェル層Gの厚さを算出し且つ被検体の組織を認識し、算出されたジェル層Gの厚さと被検体の組織の形状変化の双方に基づいて、被検体の体表面Sに対する超音波プローブ21の圧迫状態が判定される。そのため、例えば、ジェル層Gが薄くなったことに起因して、超音波プローブ21が被検体の体表面Sを圧迫していなくても被検体の体表面Sが超音波プローブ21により圧迫されていると誤って判定することが防止される。このように、本発明の実施の形態2に係る超音波診断装置1Aによれば、実施の形態1の超音波診断装置1と同様に、被検体の体表面Sに対する超音波プローブ21の圧迫状態を正確に判定することができる。
【0071】
また、圧迫状態判定部11による判定結果に応じて、報知部12により、超音波プローブ21による圧迫を止める旨の指示、または、ジェル層Gのジェルを補充する旨の指示が操作者に対してなされるため、操作者は、被検体の体表面Sを超音波プローブ21で圧迫しないように、適切な手技を行うことができる。そのため、本発明の実施の形態2に係る超音波診断装置1Aによれば、実施の形態1の超音波診断装置1と同様に、超音波診断の精度を向上させることもできる。
【0072】
また、表示装置8、入力装置14、超音波プローブ21がネットワークNWを介して超音波診断装置本体31と接続されているため、超音波診断装置本体31を、いわゆる遠隔サーバとして使用することができる。これにより、例えば、操作者は、表示装置8、入力装置14、超音波プローブ21を操作者の手元に用意することにより、被検体の診断を行うことができるため、超音波診断の際の利便性を向上させることができる。
また、例えば、いわゆるタブレットと呼ばれる携帯型の薄型コンピュータが表示装置8および入力装置14として使用される場合には、操作者は、より容易に被検体の超音波診断を行うことができ、超音波診断の利便性をさらに向上させることができる。
【0073】
なお、表示装置8、入力装置14、超音波プローブ21がネットワークNWを介して超音波診断装置本体31に接続されているが、この際に、表示装置8、入力装置14、超音波プローブ21は、ネットワークNWに有線接続されていてもよく、無線接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1,1A 超音波診断装置、2 振動子アレイ、3 送信回路、4 受信回路、5 送受信回路、6 画像生成部、7 表示制御部、8 表示装置、9 ジェル層厚さ算出部、10 組織認識部、11 圧迫状態判定部、12 報知部、13 装置制御部、14 入力装置、15 格納部、21 超音波プローブ、22 プロセッサ、23 増幅部、24 AD変換部、25 ビームフォーマ、26 信号処理部、27 DSC、28 画像処理部、31 超音波診断装置本体、B1 静脈、B2 動脈、G ジェル層、L1,L2,L3 厚さ、NW ネットワーク、P1,P2 指示パネル、S 体表面、U 超音波画像。