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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】アイオノマー樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/44 20060101AFI20220816BHJP
   C08F 210/02 20060101ALI20220816BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20220816BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20220816BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20220816BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20220816BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C08F8/44
C08F210/02
C08F220/06
C08F220/18
C03C27/12 F
B32B17/10
C08J5/18 CES
C08J5/18 CEY
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022514248
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2021042630
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2020197524
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100224591
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 征志
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
(72)【発明者】
【氏名】新村 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】竹本 憲太
(72)【発明者】
【氏名】淺沼 芳聡
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-507278(JP,A)
【文献】特開昭60-079008(JP,A)
【文献】特開昭58-023850(JP,A)
【文献】特開昭63-270709(JP,A)
【文献】特開2016-079408(JP,A)
【文献】特表平06-501519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00、301/00
C03C 27/12
B32B 17/10
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)を含むアイオノマー樹脂であって、
該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、カルボン酸エステル単位(A)の含有量が0.01~1.8モル%であり、かつカルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、及びカルボン酸中和物単位(C)の合計含有量が6~10モル%であり、
カルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)をカルボン酸メチル単位に変換して、GPCによりポリエチレン換算の分子量を測定した際に、積分分子量分布曲線から得られる分子量2500g/モル以下の低分子量成分の割合が、2.6~4.0質量%であり、数平均分子量が8,000~14,000g/モルである、アイオノマー樹脂。
【請求項2】
カルボン酸中和物単位(C)の含有量が0.1~3.0モル%である、請求項1に記載のアイオノマー樹脂。
【請求項3】
カルボン酸単位(B)の含有量が1.0~9.0モル%である、請求項1又は2に記載のアイオノマー樹脂。
【請求項4】
カルボン酸エステル単位(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位である、請求項1~3のいずれかに記載のアイオノマー樹脂。
【請求項5】
エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の一部をけん化する工程(I);及び工程(I)により得られたけん化物の少なくとも一部を脱金属化する工程(II)を含み、
前記エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)に含まれるカルボン酸エステル単位の含有量は、該エチレン-カルボン酸エステル共重合体を構成する全単量体単位を基準にして、6~10モル%である、請求項1~4のいずれかに記載のアイオノマー樹脂の製造方法。
【請求項6】
樹脂組成物の質量に対して90質量%以上の請求項1~4のいずれかに記載のアイオノマー樹脂を含む、樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載のアイオノマー樹脂、又は請求項6に記載の樹脂組成物を含んでなる、樹脂シート。
【請求項8】
50℃でマスターカーブを作成した際の2.6×10秒後における緩和弾性率が、0.25MPa以上である、請求項7に記載の樹脂シート。
【請求項9】
2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された中間膜とを有する合わせガラスであって、該中間膜が、請求項7又は8に記載の樹脂シートである、合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス用中間膜等として使用できる樹脂シートを形成可能なアイオノマー樹脂、該アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物、該アイオノマー樹脂又は該樹脂組成物を含んでなる樹脂シート、及び該樹脂シートを有する合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和物であるアイオノマー樹脂は、透明性、ガラスとの接着性に優れるため、合わせガラスの中間膜に使用されている(例えば、特許文献1)。近年、合わせガラスに対する要求性能が高くなり、アイオノマー樹脂に対しても、合わせガラスの製作条件によらず高い透明性を保持し、より着色が少なく外観に優れること、また高温環境下であっても高い自立性を有すること、さらに、これまでより低い温度で合わせガラスを貼り合わせても高い接着力を有することが求められるようになってきた。
【0003】
例えば、特許文献2には、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体に、第3成分として、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を5~15質量%導入したアイオノマー樹脂が記載されており、このアイオノマー樹脂は透明性が向上されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6432522号明細書
【文献】特表2017-519083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献2のようなアイオノマー樹脂は、合わせガラスの中間膜に要求される高透明性、低着色性、及び高温環境下における高い自立性が十分ではないことがわかった。さらに、特許文献2のようなアイオノマー樹脂は、従来よりも低い温度でガラスと貼り合わせると、ガラスとの十分な接着力を発現できず、また長時間経過後の緩和弾性率が低いため、高い強度を維持できないこともわかった。
【0006】
従って、本発明の目的は、透明性及び高温環境下における自立性に優れ、着色性が低く、従来よりも低い温度で合わせガラスと貼り合わせてもガラスとの十分な接着性を有し、かつ、長時間経過しても高い強度を維持できる樹脂シートを形成可能なアイオノマー樹脂、該アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物、該アイオノマー樹脂又は該樹脂組成物を含んでなる樹脂シート、及び該樹脂シートを有する合わせガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)を含むアイオノマー樹脂において、カルボン酸エステル単位(A)の含有量が0.01~1.8モル%であり、かつこれらの単位の合計含有量が6~10モル%であり、特定のポリエチレン換算の数平均分子量が8,000~14,000g/モルであり、かつ分子量2500以下の低分子量成分の割合が2.6~4.0質量%であると、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には、以下のものが含まれる。
【0008】
[1]カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)を含むアイオノマー樹脂であって、
該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、カルボン酸エステル単位(A)の含有量が0.01~1.8モル%であり、かつカルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、及びカルボン酸中和物単位(C)の合計含有量が6~10モル%であり、
カルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)をカルボン酸メチル単位に変換して、GPCによりポリエチレン換算の分子量を測定した際に、積分分子量分布曲線から得られる分子量2,500以下の低分子量成分の割合が、2.6~4.0質量%であり、数平均分子量が8,000~14,000g/モルである、アイオノマー樹脂。
[2]カルボン酸中和物単位(C)の含有量が0.1~3.0モル%である、[1]に記載のアイオノマー樹脂。
[3]カルボン酸単位(B)の含有量が1.0~10.0モル%である、[1]又は[2]に記載のアイオノマー樹脂。
[4]カルボン酸エステル単位(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位である、[1]~[3]のいずれかに記載のアイオノマー樹脂。
[5]エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の一部をけん化する工程(I);及び工程(I)により得られたけん化物の少なくとも一部を脱金属化する工程(II)を含み、
前記エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)に含まれるカルボン酸エステル単位の含有量は、該エチレン-カルボン酸エステル共重合体を構成する全単量体単位を基準にして、6~10モル%である、[1]~[4]のいずれかに記載のアイオノマー樹脂の製造方法。
[6]樹脂組成物の質量に対して90質量%以上の[1]~[4]のいずれかに記載のアイオノマー樹脂を含む、樹脂組成物。
[7][1]~[4]のいずれかに記載のアイオノマー樹脂、又は[6]に記載の樹脂組成物を含んでなる、樹脂シート。
[8]50℃でマスターカーブを作成した際の2.6×10秒後における緩和弾性率が、0.25MPa以上である、[7]に記載の樹脂シート。
[9]2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された中間膜とを有する合わせガラスであって、該中間膜が、[7]又は[8]に記載の樹脂シートである、合わせガラス。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアイオノマー樹脂は、透明性、高温環境下における自立性に優れ、着色性が低く、従来よりも低い温度でガラスと貼り合わせてもガラスとの十分な接着性を有し、かつ、長時間経過しても高い強度を維持可能な樹脂シートを形成できる。そのため、合わせガラス用中間膜として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[アイオノマー樹脂]
本発明のアイオノマー樹脂は、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)を含み、該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、カルボン酸エステル単位(A)の含有量が0.01~1.8モル%であり、かつカルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、及びカルボン酸中和物単位(C)の合計含有量(以下、「単位(A)~(C)の合計含有量」ということがある)が6~10モル%であり、カルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)をカルボン酸メチル単位に変換して、GPCによりポリエチレン換算の分子量を測定した際に、積分分子量分布曲線から得られる分子量2500以下の低分子量成分の割合が、2.6~4.0質量%であり、数平均分子量が8,000~14,000g/モルである。なお、本明細書において、「単位」とは、「由来の構成単位」を意味するものであり、例えばカルボン酸エステル単位とはカルボン酸エステル由来の構成単位を示し、カルボン酸単位とはカルボン酸由来の構成単位を示し、カルボン酸中和物単位とはカルボン酸中和物由来の構成単位を示し、エチレン単位とはエチレン由来の構成単位を示す。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸又はアクリル酸を示す。
【0011】
本発明者は、アイオノマー樹脂の単量体単位及び分子量に着目して検討を進めたところ、0.01~1.8モル%のカルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)を含み、単位(A)~(C)の合計含有量が6~10モル%である特定のアイオノマー樹脂において、数平均分子量を8,000~14,000g/モルに調整し、かつ分子量2,500g/モル以下の低分子量成分の割合を2.6~4.0質量%に調整すると、意外なことに、該アイオノマー樹脂を含んでなる樹脂シートの透明性の向上、高温環境下における自立性の向上、及び着色性の低減を達成できるとともに、長時間経過しても樹脂シートの強度の低下を有効に抑制でき、かつ高い低温接着性を発現できることを見出した。本明細書において、高温環境下における自立性とは、樹脂シートを合わせガラス用中間膜として合わせガラスに使用した場合に、高温環境下においてガラスが破損した状態になったとしても、破損したガラスが樹脂シート(合わせガラス用中間膜)を貫通しにくい特性又は樹脂シートが垂れにくい特性などを意味し、低温接着性とは、例えば、後述の加熱圧着工程において、従来よりも低温度で樹脂シートをガラスと貼り合わせた際に、ガラスと樹脂シートとが接着しやすい特性を意味し、着色性とは着色しやすい特性を意味し、樹脂シートの透明性とは、樹脂シート自体の透明性、及び/又は、該樹脂シートを中間膜として形成した合わせガラスの透明性を意味である。また、本明細書において、長時間経過後の緩和弾性率を「長時間緩和弾性率」と略すことがある。
本発明の樹脂シートが、特に、優れた低温接着性と、長時間経過後の優れた強度とを両立できるのは、低分子量成分を2.6質量%以上含むことにより、合わせガラス作製時の加熱圧着工程において、溶融したアイオノマー樹脂がガラスと樹脂シート(中間膜)との界面の凹凸に追随し得ることで有効に接着性を向上できるとともに、アイオノマー樹脂の数平均分子量が8,000~14,000g/モルに調整され、かつ低分子量成分が4.0質量%以下の量に抑制されているため、長時間使用時の緩和弾性率の低下を有効に抑制できるためと推定される。
【0012】
本発明のアイオノマー樹脂は、カルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)をカルボン酸メチル単位に変換して、GPCによりポリエチレン換算の分子量を測定した際に、数平均分子量(Mnと表記することがある)が8,000~14,000g/モルであり、積分分子量分布曲線から得られる分子量2,500以下の低分子量成分の割合が2.6~4.0質量%である。本明細書において、カルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)をカルボン酸メチル単位に変換して、GPCによりポリエチレン換算の分子量を測定した際の数平均分子量を単に「数平均分子量」又は「Mn」ということがあり、積分分子量分布曲線から得られる分子量2,500g/モル以下の低分子量成分を単に「低分子量成分」ということがある。アイオノマー樹脂の数平均分子量が8,000g/モル未満であると、得られる樹脂シートの長時間経過後の十分な強度が得られない傾向があり、該数平均分子量が14,000g/モルを超えると、アイオノマー樹脂の成形加工性に劣る傾向がある。また、アイオノマー樹脂の低分子量成分の割合が2.6質量%未満であると、得られる樹脂シートの十分な低温接着性が得られない傾向があり、該低分子量成分の割合が4.0質量%を超えると、得られる樹脂シートの長時間経過後の十分な強度が得られない傾向がある。
【0013】
本発明のアイオノマー樹脂は、数平均分子量が8,000g/モル以上、好ましくは8,500g/モル以上、より好ましくは9,000g/モル以上、さらに好ましくは9,500g/モル以上であり、14,000g/モル以下、好ましくは13,500g/モル以下、より好ましくは13,000g/モル以下である。数平均分子量が上記の下限以上であると、得られる樹脂シートの長時間緩和弾性率の低下を抑制しやすいため、長時間経過後の強度を向上しやすく、また数平均分子量が上記の上限以下であると、アイオノマー樹脂の成形加工性を向上しやすい。
【0014】
本発明のアイオノマー樹脂は、低分子量成分の割合が2.6質量%以上、好ましくは2.7質量%以上、より好ましくは2.8質量%以上、さらに好ましくは3.0質量%以上、さらにより好ましくは3.2質量%以上であり、4.0質量%以下、好ましくは3.9質量%以下である。低分子量成分の割合が上記の下限以上であると、得られる樹脂シートの低温接着性を高めやすく、また低分子量成分の割合が上記の上限以下であると、得られる樹脂シートの長時間緩和弾性率の低下を抑制しやすいため、長時間経過後の強度を向上しやすい。
【0015】
アイオノマー樹脂のポリエチレン換算の数平均分子量及び低分子量成分の割合は、以下のように算出できる。まず、アイオノマー樹脂のカルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)をカルボン酸メチル単位に変換し、変換したアイオノマー樹脂についてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPCと表記することがある)を用いてクロマトグラムを測定する。次いで、ポリスチレン標準ポリマーを用いて作成した検量線から、Qファクターによりポリエチレン換算のMnを得る。また、分子量2,500g/モル以下の低分子量成分の割合は、検量線を用いて算出した積分分子量分布から算出できる。Qファルターについては、「サイズ排除クロマトグラフィー 高分子の高速液体クロマトグラフィー」(1991年、森定雄著、共立出版株式会社)を参照でき、例えば、Qファクターとしてポリスチレン41.3及びポリエチレン17.7を用いることができる。アイオノマー樹脂のポリエチレン換算の数平均分子量及び低分子量成分の割合は、例えば実施例に記載の方法により算出できる。
【0016】
本発明のアイオノマー樹脂は、1種類のアイオノマー樹脂から構成されていてもよく、2種類以上のアイオノマー樹脂から構成されていてもよい。2種類以上のアイオノマー樹脂から構成されている場合、各アイオノマー樹脂は、互いに構成単位及びその割合が異なっていても、互いに分子量が異なっていてもよい。また、アイオノマー樹脂のMn及び低分子量成分の割合は、原料としてエチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)を用いる場合、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のMn及び低分子量成分の割合を適宜変更することにより調整できる。また、アイオノマー樹脂を2種以上使用する場合、例えば、異なるMnを有する、及び/又は低分子量成分の割合が異なるアイオノマー樹脂を組み合わせて、所望とするMnや低分子量成分の割合に調整してもよい。
【0017】
本発明のアイオノマー樹脂は、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)を含む。
【0018】
<カルボン酸エステル単位(A)>
本発明のアイオノマー樹脂において、カルボン酸エステル単位(A)を構成する単量体としては、不飽和カルボン酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸エステル;イタコン酸ジメチル;マレイン酸ジメチル;マレイン酸ジエチルなどが挙げられる。これらの中でも、得られる樹脂シートの透明性及び高温環境下における自立性、長時間経過後の強度、及び低温接着性を高めやすく、また着色性を低減しやすい観点から、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルがより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルがさらに好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルがさらにより好ましく、(メタ)アクリル酸メチルが特に好ましい。メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルでは、メタクリル酸エステルの方が、耐熱分解性に優れ、低着色性であるため好ましい。カルボン酸エステル単位(A)は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0019】
本発明のアイオノマー樹脂は、カルボン酸エステル単位(A)の含有量が、該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、0.01~1.8モル%である。
【0020】
本発明のアイオノマー樹脂中のカルボン酸エステル単位(A)の含有量は、該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、0.01モル%以上、好ましくは0.03モル%以上、より好ましくは0.05モル%以上、さらに好ましくは0.08モル%以上であり、1.8モル%以下、好ましくは1.5モル%以下、より好ましくは1.0モル%以下、さらに好ましくは0.9モル%以下、さらにより好ましくは0.8モル%以下、特に好ましくは0.6モル%以下である。カルボン酸エステル単位(A)の含有量が上記の下限以上であると得られる樹脂シートの透明性を高めやすく、またカルボン酸エステル単位(A)の含有量が上記の上限以下であると、得られる樹脂シートの高温環境下における自立性及び長時間経過後の強度を高めやすい。
【0021】
<カルボン酸単位(B)>
本発明のアイオノマー樹脂において、カルボン酸単位(B)を構成する単量体としては、不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられる。これらの中でも、得られる樹脂シートの透明性及び高温環境下における自立性、長時間経過後の強度、及び低温接着性を高めやすく、また着色性を低減しやすい観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましく、メタクリル酸がさらに好ましい。カルボン酸単位(B)は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
本発明のアイオノマー樹脂中のカルボン酸単位(B)の含有量は、該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、好ましくは1.0モル%以上、より好ましくは3.0モル%以上、さらに好ましくは4.5モル%以上、さらにより好ましくは5.0モル%以上、特に好ましくは5.5モル%以上、特により好ましくは5.8モル%以上であり、好ましくは10.0モル%以下、より好ましくは9.0モル%以下、さらに好ましくは8.5モル%以下、さらにより好ましくは8.0モル%以下、特に好ましくは7.5モル%以下である。カルボン酸単位(B)の含有量が上記の下限以上であると、得られる樹脂シートの透明性及び低温接着性を高めやすく、またカルボン酸単位(B)の含有量が上記の上限以下であると、アイオノマー樹脂の成形加工性を高めやすい。
【0023】
<カルボン酸中和物単位(C)>
本発明のアイオノマー樹脂において、カルボン酸中和物単位(C)を構成する単量体としては、カルボン酸単位(B)を構成する単量体の中和物が好ましい。該カルボン酸中和物は、カルボン酸の水素イオンを金属イオンで置き換えたものである。金属イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の1価金属;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、チタン等の多価金属のイオンが挙げられる。これらの金属イオンは、単独又は2種以上併用することができる。例えば、1価金属イオンの1種以上と2価金属イオンの1種以上の組み合わせであってもよい。カルボン酸中和物単位(C)は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
本発明のアイオノマー樹脂中のカルボン酸中和物単位(C)の含有量は、該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.3モル%以上、さらに好ましくは0.65モル%以上、さらにより好ましくは1.0モル%以上、特に好ましくは1.3モル%以上、特により好ましくは1.5モル%以上、最も好ましくは1.6モル%以上であり、好ましくは3.0モル%以下、より好ましくは2.7モル%以下、さらに好ましくは2.6モル%以下、さらにより好ましくは2.5モル%以下である。カルボン酸中和物単位(C)の含有量が上記の下限以上であると、得られる樹脂シートの透明性、高温環境下における自立性、及び長時間経過後の強度を高めやすく、また着色性を低減しやすい。カルボン酸中和物単位(C)の含有量が上記の上限以下であると、アイオノマー樹脂の成形加工性を高めやすい。
【0025】
本発明のアイオノマー樹脂は、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、及びカルボン酸中和物単位(C)の合計含有量が、該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、6~10モル%である。
【0026】
本発明のアイオノマー樹脂において、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、及びカルボン酸中和物単位(C)の合計含有量は、該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、6.0モル%以上、好ましくは6.5モル%以上、より好ましくは7.0モル%以上、さらに好ましくは7.5モル%以上であり、好ましくは10モル%以下、より好ましくは9.9モル%以下、さらに好ましくは9.5モル%以下、さらにより好ましくは9.3モル%以下である。単位(A)~(C)の合計含有量が上記の下限以上であると、得られる樹脂シートの透明性及びガラスとの低温接着性を高めやすく、また単位(A)~(C)の合計含有量が10モル%以下であると、アイオノマー樹脂の成形加工性が高まりやすく、得られる樹脂シートの長時間緩和弾性率が低下し難いため、長時間経過後の強度が高まりやすい。
【0027】
本発明の一実施態様において、アイオノマー樹脂を構成する単量体単位のうち、アクリル酸類単位の含有量(アクリル酸エステル単位、アクリル酸単位及びアクリル酸中和物単位の合計含有量)が、メタアクリル酸類単位の含有量(メタアクリル酸エステル単位、メタアクリル酸単位及びメタアクリル酸中和物単位の合計含有量)よりも多い場合、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、及びカルボン酸中和物単位(C)の合計含有量を比較的多くすることが好ましい。例えば、アクリル酸類単位のみから構成され、メタアクリル酸類単位を含まない場合、単位(A)~(C)の合計含有量は、好ましくは7.0モル%以上、より好ましくは7.5モル%以上、さらに好ましくは8.0モル%以上、さらにより好ましくは8.5モル%以上であり、好ましくは9.9モル%以下、より好ましくは9.8モル%以下、さらに好ましくは9.7モル%以下、さらにより好ましくは9.6モル%以下であってよい。
【0028】
<エチレン単位(D)>
本発明のアイオノマー樹脂はエチレン単位(D)を含む。アイオノマー樹脂中のエチレン単位(D)の含有量は、該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、好ましくは90モル%以上、より好ましくは90.1モル%以上、さらに好ましくは90.5モル%以上、さらにより好ましくは90.7モル%以上であり、好ましくは94モル%以下、より好ましくは93.5モル%以下、さらに好ましくは93モル%以下、さらにより好ましくは92.5モル%以下である。エチレン単位(D)の含有量が上記の下限以上であると、機械的特性及び成形加工性を高めやすく、またエチレン単位(D)の含有量が上記の上限以下であると、得られる樹脂シートの透明性及びガラスとの低温接着性が高まりやすい。
【0029】
本発明のアイオノマー樹脂は、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)以外の他の単量体単位を含んでいてもよい。他の単量体単位としては、例えばプロピレン、nブテン、イソブテン、酢酸ビニル、ビニルアルコールなどが挙げられる。他の単量体単位は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。アイオノマー樹脂が他の単量体単位を含む場合、その含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択すればよく、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
【0030】
本発明のアイオノマー樹脂中のカルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)の含有量は、以下の手順で分析することが可能である。まず、アイオノマー樹脂中の構成単位を熱分解ガスクロマトグラフィー(熱分解GC-MS)で同定した後、核磁気共鳴分光法(NMR)と元素分析を用いてそれぞれの含有量を評価することができる。また、IRやラマン分析を組合せることもできる。これらの分析の前にアイオノマー樹脂以外の成分を、再沈澱法やソックスレー抽出法にて除去しておくことが好ましい。本発明のアイオノマー樹脂中のカルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)の含有量は、例えば実施例に記載の方法により算出できる。
【0031】
本発明の一実施態様において、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)の各含有量は、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)を原料とし、工程(I)(けん化反応工程)及び工程(II)(脱金属反応工程)を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)中のカルボン酸エステル単位を、けん化反応及び脱金属反応によって、カルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)に変換する各反応における反応度によって調整できる。また、単位(A)~(C)の合計含有量は、原料として使用するエチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のエチレン単位とカルボン酸エステル単位との比率により調整できる。
【0032】
本発明の一実施態様において、本発明のアイオノマー樹脂の融点は、透明性及び加工性を高めやすい観点から、50℃~200℃が好ましく、60℃~180℃がより好ましく、80℃~150℃がさらに好ましい。融点は、例えばJIS K7121:2012に記載の方法を参考に、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、冷却速度-10℃/分、昇温速度10℃/分、2回目の昇温の融解ピークのピックトップ温度から求めることができる。
【0033】
本発明の一実施態様において、本発明のアイオノマー樹脂の融解熱としては、透明性を高めやすい観点から、0J/g~25J/gが好ましい。融解熱は、例えばJIS K7122:2012に記載の方法を参考に、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、冷却速度-10℃/分、昇温速度10℃/分、2回目の昇温時の融解ピークの面積から算出することができる。
【0034】
本発明の一実施態様において、本発明のアイオノマー樹脂の190℃、2.16Kgfの条件で測定したメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.3g/10分以上、さらに好ましくは0.5g/10分以上、さらにより好ましくは0.7g/10分以上、特に好ましくは0.9g/10分以上であり、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下、さらに好ましくは10g/10分以下、さらにより好ましくは5g/10分以下である。アイオノマー樹脂のMFRが上記範囲であることで、熱による劣化を抑えた成形加工が容易になり得る。アイオノマー樹脂のMFRは、分子量、並びにカルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)の含有率により調整し得る。本発明のアイオノマー樹脂のMFRは、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0035】
本発明の一実施態様において、本発明のアイオノマー樹脂の炭素1000個当たりの分岐度は、特に限定されないが、5~30が好ましく、6~20がより好ましい。炭素1000個当たりの分岐度の分析は、例えば固体NMRを用いてDDMAS法にて行うことができる。
【0036】
[アイオノマー樹脂の製造方法]
本発明のアイオノマー樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えばエチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)(単に共重合体(X)ということがある)の一部をけん化する工程(I);及び工程(I)により得られたけん化物の少なくとも一部を脱金属化する工程(II)を含む方法が挙げられる。
【0037】
<工程(I)>
工程(I)では、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)を、好ましくは強塩基によってけん化することにより、カルボン酸エステル単位の一部をカルボン酸中和物単位に変換して、けん化物であるエチレン-カルボン酸エステル-カルボン酸中和物共重合体を得る。
【0038】
エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)は、例えばエチレン及びカルボン酸エステルを高温・高湿下で共重合して得ることができる。原料として使用するカルボン酸エステルとしては、例えば、上述の不飽和カルボン酸エステルを用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとを比較すると、得られる樹脂の耐熱分解に優れ、低着色性である観点から、メタクリル酸エステルの方が好ましい。カルボン酸エステルは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0039】
エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の具体例としては、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸n-プロピル共重合体、エチレン-メタクリル酸n-プロピル共重合体、エチレン-アクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン-メタクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン-アクリル酸n-ブチル共重合体、エチレン-メタクリル酸n-ブチル共重合体、エチレン-アクリル酸sec-ブチル共重合体、エチレン-メタクリル酸sec-ブチル共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、市販のものを用いてもよいし、米国特許出願公開第2013/0274424号明細書、特開2006-233059号公報、又は特開2007-84743号公報を参考に合成してもよい。
【0040】
本発明の好適な実施態様において、アイオノマー樹脂の製造方法は、工程(I)及び工程(II)を含み、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)に含まれるカルボン酸エステル単位の含有量が、該エチレン-カルボン酸エステル共重合体を構成する全単量体単位を基準にして、6~10モル%であることが好ましい。カルボン酸エステル単位の含有量が上記の範囲であると、得られるアイオノマー樹脂のカルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)の含有量を好適な範囲に調整しやすい。エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)中のカルボン酸エステル単位の含有量は、好ましくは6.0モル%以上、より好ましくは6.5モル%以上、さらに好ましくは7.0モル%以上、さらにより好ましくは7.5モル%以上であり、好ましくは10モル%以下、より好ましくは9.9モル%以下、さらに好ましくは9.5モル%以下、さらにより好ましくは9.3モル%以下である。共重合体(X)中のカルボン酸エステル単位の含有量は、得られるアイオノマー樹脂中のカルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)の合計含有量と対応するため、共重合体(X)中のカルボン酸エステル単位の含有量が上記の下限以上であると、得られる樹脂シートの透明性及びガラスとの低温接着性を高めやすく、また共重合体(X)中のカルボン酸エステル単位の含有量が10モル%以下であると、アイオノマー樹脂の成形加工性が高まりやすい。
【0041】
本発明の一実施態様において、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の190℃、2.16Kgfの条件で測定したメルトフローレート(MFR)は、好ましくは80g/10分以上、より好ましくは90g/10分以上、さらに好ましくは100g/10分以上、さらにより好ましくは150g/10分以上であり、好ましくは400g/10分以下、より好ましくは350g/10分以下、さらに好ましくは330g/10分以下である。エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のMFRを上記範囲にすることで、得られるアイオノマー樹脂の成形加工性及び強度を両立しやすい。エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のMFRは、該共重合体の重合度とカルボン酸エステル単位の含有率により調整し得る。エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のMFRは、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0042】
本発明の一実施態様において、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のポリエチレン換算の数平均分子量(Mn)は、好ましくは8,000g/モル以上、より好ましくは8,500g/モル以上、さらに好ましくは9,000g/モル以上、さらにより好ましくは9,500g/モル以上であり、好ましくは14,000g/モル以下、より好ましくは13,500g/モル以下、さらに好ましくは13,000g/モル以下である。エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のMnが上記範囲であると、得られるアイオノマー樹脂の数平均分子量及び低分子量成分の割合を上記範囲に調整しやすいため、アイオノマー樹脂の成形加工性、得られる樹脂シートの低温接着性、及び長時間経過後の強度が向上しやすい。なお、これらのエチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の分子量(Mn)は、カラム(TSKgel GMHHR-H(20)HTの3本直列)及び1,2,4-トリクロロベンゼン溶媒を用いて、カラム温度140℃の条件で、ポリエチレン換算で測定できる。なお、ポリエチレン換算の分子量は、ポリスチレン標準ポリマーを用いて作成した検量線から、上記に記載のQ-ファクターを用いて算出できる。また、共重合体(X)の数平均分子量及び低分子量成分の割合は、モノマーの重合条件、例えば、重合開始剤や連鎖移動剤の種類及び量、重合温度、重合様式(CSTRやプラグフロー方式等)により調整できる。
【0043】
本発明の一実施態様において、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の炭素1000個当たりの分岐度は、特に制限はないが、好ましくは5~30、より好ましくは6~20である。前記分岐度は、エチレン-カルボン酸エステル共重合体を重水素化オルトジクロロベンゼンに溶解させ、13C-NMRのインバースゲートデカップリング法によって測定できる。また、前記分岐度は、共重合体(X)を重合する際の重合温度等により調整できる。
【0044】
工程(I)において、けん化反応で好ましく使用し得る強塩基の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、けん化反応に使用する溶媒への溶解性及び経済性の観点から、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
【0045】
強塩基の添加量は、例えば、エチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)のカルボン酸エステル単位100モル部に対して、好ましくは100~300モル部、より好ましくは120~250モル部、さらに好ましくは150~200モル部である。
【0046】
工程(I)において、上記けん化反応に溶媒を用いることが好ましい。けん化反応に用いる溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;クロロホルム、ジクロロベンゼン等のハロゲン含有溶媒;メチルブチルケトン等の炭素数6以上のケトン類;炭化水素化合物とメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類との混合溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族化合物;芳香族化合物とアルコール類との混合溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は単独で、又は2以上組み合わせて使用してもよい。
これらのうち、けん化反応前後の樹脂の溶解性の観点から、好ましい溶媒は炭化水素化合物とアルコール類との混合溶媒、芳香族化合物とアルコール類との混合溶媒であり、より好ましい溶媒はトルエン等の芳香族化合物とメタノール等のアルコール類との混合溶媒である。前記混合溶媒における炭化水素化合物又は芳香族化合物とアルコール類との割合は、用いる各溶媒の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば、炭化水素化合物又は芳香族化合物とアルコール類との質量割合(炭化水素化合物又は芳香族化合物/アルコール類)は、50/50~90/10であってよい。
【0047】
工程(I)において、上記けん化反応を行う際の温度としては、その反応性及びエチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)の溶解性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上、特に好ましくは80℃以上であり、好ましく180℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
【0048】
工程(I)において、上記けん化反応は、空気中で行っても、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で行ってもよい。また、上記けん化反応は、常圧下、加圧下、又は減圧下のいずれで行ってもよく、好ましくは加圧下で行われる。
【0049】
<工程(II)>
工程(II)は、工程(I)により得られたけん化物の少なくとも一部、すなわち、けん化物の全部又は一部を脱金属化する工程である。工程(II)において、けん化物の一部を脱金属化する場合(工程(II-a)と称する)、該けん化物であるエチレン-カルボン酸エステル-カルボン酸中和物共重合体中のカルボン酸中和物単位の一部を、好ましくは強酸により脱金属化して、カルボン酸単位に変換することにより、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)を含むアイオノマー樹脂を得ることができる。また、工程(II)において、けん化物の全部を脱金属化する場合(工程(II-b)と称する)、該けん化物であるエチレン-カルボン酸エステル-カルボン酸中和物共重合体中のカルボン酸中和物単位の全部を、好ましくは強酸により脱金属してカルボン酸単位に変換し、エチレン-カルボン酸エステル-カルボン酸共重合体を得て、次いで、得られた脱金属化物中のカルボン酸単位の一部を金属イオンによって中和して、(メタ)アクリル酸中和物単位に変換することにより、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)を含むアイオノマー樹脂を得ることができる。
【0050】
工程(II)は、工程(II-a)又は工程(II-b)により行われるが、反応回数を減らしてアイオノマー樹脂の製造効率を向上しやすい観点からは、工程(II-a)によりアイオノマー樹脂を製造することが好ましい。
【0051】
工程(II)において、脱金属化反応に用いる強酸の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、トルエンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、けん化反応に用いる強塩基と脱金属化反応に用いる強酸とから副生する塩を洗浄除去しやすい観点から、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸が好ましい。上記脱金属化に用いる溶媒としては、上述のけん化反応に用いる溶媒と同様の溶媒を選択できる。
【0052】
強酸の添加量は、カルボン酸中和物単位(C)を任意の値に調節するために、強塩基の添加量に合わせて適した量を選択することができる。
【0053】
工程(II)において、上記脱金属化を行う際の温度は、反応溶液の粘度を低くしやすい観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上であり、脱金属化反応による遷移金属の腐食の過度な進行を抑制しやすい観点から、好ましく180℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
【0054】
工程(II)において、上記脱金属化は、上記けん化反応と同様に、空気中で行っても、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で行ってもよい。また、上記脱金属化は、常圧下、加圧下、又は減圧下のいずれで行ってもよい。
【0055】
工程(II-b)において、カルボン酸単位の一部を中和してカルボン酸中和物単位に変換する際に用いる中和剤は、金属イオンを含有するイオン性化合物等が挙げられる。該金属イオンの例としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン、亜鉛、ニッケル、鉄、チタン等の遷移金属イオン、アルミニウムイオン等が挙げられる。例えば、金属イオンがナトリウムカチオンである場合、中和剤の例としては、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。また、カルボン酸ナトリウム単位を含有するアイオノマー樹脂等の重合体も中和剤として用いることができる。
【0056】
工程(II-a)における脱金属化工程後、又は、工程(II-b)における中和工程後、得られた反応液中の反応生成物である粗アイオノマー樹脂を反応混合物から分離精製することにより、本発明のアイオノマー樹脂を得ることができる。分離精製は、慣用の方法、例えば濾過、洗浄、濃縮、再沈殿、再結晶、シリカゲルカラムトグラフィー等の分離手段により行ってもよい。本発明の一実施態様において、前記分離精製は、副生した塩を洗浄除去しやすい観点から、粗アイオノマー樹脂の溶液に貧溶媒を添加して粒状樹脂を析出させ、次いで析出した粒状樹脂を洗浄液で洗浄することにより行うことが好ましい。なお、本発明のアイオノマー樹脂の製造方法は、工程(I)及び工程(II)以外の工程を含んでいてもよい。
【0057】
[樹脂組成物]
本発明は、本発明のアイオノマー樹脂を含む樹脂組成物を包含する。本発明の樹脂組成物に含まれるアイオノマー樹脂の含有量は、得られる樹脂シートの透明性及び高温環境下における自立性、長時間経過後の強度、及び低温接着性を高めやすく、また着色性を低減しやすい観点から、該樹脂組成物の質量に対して、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらにより好ましくは98質量%以上であり、好ましくは99.9質量%以下である。
【0058】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、紫外線吸収剤、老化防止剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、光安定剤、膠着防止剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、有機色素、艶消し剤、蛍光体などが挙げられる。これらの中でも、紫外線吸収剤、老化防止剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、光安定剤、膠着防止剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、有機色素が好ましい。添加剤は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜に決定でき、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、さらにより好ましくは2質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上である。
【0059】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物であり、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる。紫外線吸収剤の例としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0060】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色等の光学特性低下を抑制する効果が高いため、紫外線吸収剤として好ましい。好ましいベンゾトリアゾール類の例としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-オクチルフェノール]((株)ADEKA製;LA-31)、2-(5-オクチルチオ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0061】
トリアジン類の紫外線吸収剤の例としては、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン((株)ADEKA製;LA-F70)や、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;TINUVIN477やTINUVIN460)、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン等を挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0062】
老化防止剤の例としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ(t-ブチル)-4-メチルフェノール、モノ(又はジ、又はトリ)(α-メチルベンジル)フェノール等のフェノール系化合物;2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等のビスフェノール系化合物;2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール系化合物;6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、ジフェニルアミンとアセトンの反応物、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体等のアミン-ケトン系化合物;N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等の芳香族二級アミン系化合物;1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオ尿素、トリブチルチオ尿素等のチオウレア系化合物等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0063】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は1種を単独でも2種以上の組み合わせでもよい。これらの中でも、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との組み合わせがより好ましい。
【0064】
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを組み合わせる場合、リン系酸化防止剤の使用量:ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量は、質量比で、好ましくは1:5~2:1、より好ましくは1:2~1:1である。
【0065】
好ましいリン系酸化防止剤の例としては、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト((株)ADEKA製;商品名:アデカスタブHP-10)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)、3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサー3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン((株)ADEKA製;商品名:アデカスタブPEP-36)等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0066】
好ましいヒンダードフェノール系酸化防止剤の例としては、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0067】
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。好ましい熱劣化防止剤の例としては、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学(株)製;商品名スミライザーGM)、2,4-ジ-t-アミル-6-(3’,5’-ジ-t-アミル-2’-ヒドロキシ-α-メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学(株)製;商品名スミライザーGS)等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0068】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤の例としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物等のヒンダードアミン類が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0069】
膠着防止剤の例としては、脂肪酸の塩もしくはエステル、多価アルコールのエステル、無機塩、無機酸化物、粒子状の樹脂が挙げられる。好ましい膠着防止剤の例としては、ステアリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、二酸化ケイ素(エボニック社製;商品名アエロジル)、粒子状のアクリル樹脂等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0070】
滑剤の例としては、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0071】
離型剤の例としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0072】
高分子加工助剤は、通常、乳化重合法によって製造できる、0.05~0.5μmの粒子径を有する重合体粒子が用いられる。該重合体粒子は、単一組成比及び単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよく、組成比又は極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましい。高分子加工助剤の極限粘度は好ましくは3~6dl/gである。極限粘度が小さすぎると成形性の改善効果が低い傾向があり、極限粘度が大きすぎると共重合体の成形加工性の低下を招く傾向がある。
【0073】
有機色素の例としては、紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。有機色素は1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0074】
蛍光体の例としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0075】
本発明の樹脂組成物は、本発明のアイオノマー樹脂を製造中又は製造後に、前記添加剤を添加することにより得ることができる。例えば、添加剤は、アイオノマー樹脂を製造する際の重合もしくは高分子反応系に添加してもよいし、アイオノマー樹脂を分離する工程で添加してもよいし、分離した後に添加してもよい。また、フィルム等の成形体の製造時に添加してもよい。
【0076】
本発明のアイオノマー樹脂及び本発明の樹脂組成物は、保存、運搬、又は成形時の利便性を高めるために、ペレット等の形態にしてよい。アイオノマー樹脂及び樹脂組成物をペレット化する場合は、例えば、溶融押出法にて得られるストランドをカットすることにより得ることができる。溶融押出法によってペレット化する場合における溶融押出時のアイオノマー樹脂又は樹脂組成物の温度は、押出機からの吐出を安定化しやすい観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上である。また、前記温度は、樹脂が熱分解して劣化することを抑制する観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。本発明のアイオノマー樹脂及び本発明の樹脂組成物は耐熱分解性が高いため、このように溶融押出法によりペレット化する際に、アイオノマー樹脂が熱分解して黒色異物が生じる等の問題が起こりにくい。また、本発明のアイオノマー樹脂及び本発明の樹脂組成物は、臭気が少ないため、作業者の健康を確保することができる。
【0077】
[樹脂シート]
本発明は、本発明のアイオノマー樹脂又は本発明の樹脂組成物を含んでなる樹脂シートを包含する。本発明の樹脂シートは、本発明のアイオノマー樹脂又は本発明の樹脂組成物を含むため、透明性及び高温環境下における自立性に優れ、着色性が低く、従来よりも低い温度でガラスと貼り合わせてもガラスとの十分な接着性を有し、かつ、長時間経過しても高い強度を有することができる。そのため、合わせガラス用中間膜として好適に使用できる。
【0078】
本発明の樹脂シートは、低温接着性に優れる。低温接着性は、合わせガラス作製時の温度、例えば、後述の加圧圧着工程における温度を比較的低温(例えば130℃程度)にして、合わせガラスを作製し、得られた合わせガラスの最大せん断応力を測定することで評価できる。本発明の一実施態様において、本発明の樹脂シートを合わせガラス用中間膜として含んでなる合わせガラスの最大せん断応力は、好ましくは25MPa以上、より好ましくは26MPa以上、さらに好ましくは27MPa以上、特に好ましくは28MPa以上である。最大せん断応力が上記の下限以上であると、優れた低温接着性を発現できる。最大せん断応力の上限は通常60MPa以下であり、好ましくは55MPa以下、より好ましくは50MPa以下、さらに好ましくは45MPa以下、特に好ましくは40MPa以下である。なお、最大せん断応力は、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0079】
本発明の樹脂シートは、長時間経過しても強度に優れる。該長時間経過後の強度は、長時間経過後の緩和弾性率(長時間緩和弾性率)、例えば50℃でマスターカーブを作成した際の2.6×10秒後(約1ヵ月後)における緩和弾性率により評価できる。本発明の一実施態様において、50℃でマスターカーブを作成した際の2.6×10秒後(約1ヵ月後)における緩和弾性率は、好ましくは0.25MPa以上、より好ましくは0.27MPa以上、さらに好ましくは0.29MPa以上、特に好ましくは0.32MPa以上、最も好ましくは0.35MPa以上である。該緩和弾性率が上記の下限以上であると、樹脂シート及び該樹脂シートを中間膜として有する合わせガラスは、長時間経過後の優れた強度を発現できる。該緩和弾性率の上限は、樹脂シートの取り扱い性の観点から、通常5.0MPa以下であり、好ましくは4.0MPa以下、より好ましくは3.0MPa以下、さらに好ましくは2.0MPa以下である。なお、上記緩和弾性率は、樹脂シートを23℃、50%RH雰囲気下で1週間以上静置した後に、動的粘弾性測定装置を用いて、動的粘弾性測定と時間-温度換算則から得られる、基準温度50℃の合成曲線(マスターカーブと称する)から求めることができ、例えば実施例に記載の方法により求めることができる。
【0080】
本発明の樹脂シートは、高温環境下における自立性に優れている。高温環境下における自立性は、50℃での貯蔵弾性率により評価できる。本発明の一実施態様において、本発明の樹脂シートの50℃での貯蔵弾性率は、好ましくは30MPa以上、より好ましくは35MPa以上、さらに好ましくは40MPa以上、さらにより好ましくは45MPa以上、特に好ましくは50MPa以上、特により好ましくは55MPa以上である。50℃での貯蔵弾性率が上記の下限以上であると、樹脂シートは高温環境下(例えば50℃程度)における優れた自立性を発現できる。50℃での貯蔵弾性率の上限は、好ましくは300MPa以下、より好ましくは250MPa以下、さらに好ましくは200MPa以下、さらにより好ましくは150MPa以下である。なお、50℃での貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0081】
本発明の樹脂シートは着色性が低く、好ましくは無色である。本発明の樹脂シートの黄色度(YI)は好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下、さらにより好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.0以下である。黄色度(YI)が上記の上限以下であると、樹脂シート及び該樹脂シートを中間膜として有する合わせガラスが低着色性を示すことができる。黄色度(YI)の下限は0以上である。なお、黄色度(YI)は測色色差計を用い、JIS Z8722に準拠して測定した値を基に、JIS K7373に準拠して測定でき、例えば実施例に記載の方法により算出できる。
【0082】
本発明の樹脂シートは、表面にメルトフラクチャーやエンボスがない平坦な表面状態におけるシート自体の透明性に優れるとともに、該樹脂シートを中間膜として形成した合わせガラスの透明性にも優れる。本発明の樹脂シートを中間膜として有する合わせガラスの透明性は、例えば該合わせガラスを140℃まで加熱後、0.1℃/分の速度で23℃に徐冷した際のヘイズ(徐冷ヘイズと称する)により評価できる。徐冷ヘイズは、該徐冷によりアイオノマー樹脂の結晶化を促進させた状態のヘイズである。本発明の樹脂シートを中間膜として有する合わせガラスの徐冷ヘイズは、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらにより好ましくは3.5%以下、特に好ましくは3.0%以下である。ヘイズが小さいほどアイオノマー樹脂の透明性が高まるため、下限は特に制限されず、例えば0.01%以上であってもよい。徐冷ヘイズは、樹脂シートを中間膜として有する合わせガラスを作製し、該合わせガラスを140℃まで加熱した後、140℃から0.1℃/分の速度で23℃まで徐冷した後のヘイズを、ヘイズメーターでJIS K7136:2000に準拠して測定することで求められ、例えば実施例に記載の方法により求められる。
【0083】
本発明の一実施態様において、本発明の樹脂シートは、ガラスとの接着性の観点から、含水量が少ない方が好ましい。含水量は、樹脂シートの質量に対して、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.02質量%以下であり、特に好ましくは0.01質量%以下である。
【0084】
本発明の一実施態様において、本発明の樹脂シートに含まれるアイオノマー樹脂の含有量は、得られる樹脂シートの透明性及び高温環境下における自立性、長時間経過後の強度、及び低温接着性を高めやすく、また着色性を低減しやすい観点から、該樹脂シートの質量に対して、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらにより好ましくは98質量%以上であり、好ましくは100質量%以下である。
【0085】
本発明の一実施態様において、本発明の樹脂シートの厚さは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、さらにより好ましくは0.4mm以上、特に好ましくは0.5mm以上、特により好ましくは0.6mm以上、最も好ましくは0.7mm以上であり、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、さらに好ましくは3mm以下、さらにより好ましくは1.5mm以下、特に好ましくは1.2mm以下、特により好ましくは1mm以下である。樹脂シートの厚さが上記の下限以上であると、樹脂シートの低温接着性及び長時間経過後の強度を高めやすく、また樹脂シートの厚さが上記の上限以下であると、樹脂シートの透明性を高めやすく、かつ着色性を低減しやすい。樹脂シートの厚さは、例えば接触式又は非接触式の厚み計などを用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。なお、樹脂シートが積層体である場合、上記樹脂シートの厚さは、層(x)一層の厚さを示す。
【0086】
本発明の樹脂シートは、前記アイオノマー樹脂又は前記樹脂組成物を含んでなる層(層(x)と称する)のみで構成されていてもよく、層(x)を少なくとも1層含む積層体であってもよい。前記積層体としては、特に限定されないが、層(x)に加え、他の層を含む積層体、例えば、層(x)と他の層が積層した2層体や、2つの層(x)の間に他の層が配置されている積層体などが挙げられる。また、樹脂シートはロール状に巻き取った状態であってもよいし、枚葉の状態であってもよい。
【0087】
前記他の層としては、公知の樹脂を含んでなる層が挙げられる。該樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステルのうちポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリイミド、熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。また、他の層も、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、顔料、染料、遮熱材料(例えば、赤外線吸収能を有する、無機遮熱性微粒子又は有機遮熱性材料)、機能性無機化合物などの添加剤を含んでいてもよい。
【0088】
本発明の樹脂シートは、前記アイオノマー樹脂又は前記樹脂組成物を混練、好ましくは均一に溶融混練した後、押出法、カレンダー法、圧縮成形法、プレス法、溶液キャスト法、溶融キャスト法、インフレーション法等の公知の製膜方法により層(x)を形成することで得ることができる。樹脂シートが積層体である場合、該層(x)と他の層とをプレス成形等で積層させて積層樹脂シートにしてもよいし、層(x)とその他の層とを共押出法により成形して積層樹脂シートとしてもよい。なお、アイオノマー樹脂又は樹脂組成物を混練、好ましくは溶融混練中に前記添加剤を添加してもよい。
【0089】
公知の製膜方法の中でも、特に圧縮成形法や押出法を用いた樹脂シートの製造方法が好ましく用いられる。圧縮成形時や押出時の樹脂温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上であり、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。樹脂温度が上記の上限以下であると、樹脂の分解や劣化を抑制しやすい。逆に樹脂温度が上記の下限以上であると、樹脂の成形性を向上しやすい。また、例えば押出機を使用する場合、揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から減圧により、揮発性物質を除去することが好ましい。本発明のアイオノマー樹脂を用いることで、製膜時の作業環境を悪化させることなく、製膜可能となる。
【0090】
本発明の樹脂シートは表面にメルトフラクチャーやエンボスなど、従来公知の方法で凹凸構造を形成してもよい。メルトフラクチャー及びエンボスの形状は、従来公知のものを採用することができる。本発明の樹脂シートの表面に凹凸構造を形成すると、樹脂シートとガラス等の基材とを熱圧着する際の泡抜け性に優れる観点からは好ましい。
【0091】
[合わせガラス]
本発明は、2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された中間膜とを有する合わせガラスであって、該中間膜が本発明の樹脂シートである合わせガラスを包含する。本発明の合わせガラスは、本発明の樹脂シートを中間膜として有するため、透明性、高温環境下における自立性に優れ、着色性が低く、製造工程において従来よりも低い温度でガラスと樹脂シート(中間膜)とを貼り合わせても十分な接着性を有し、かつ、長時間経過しても高い強度を維持可能である。
【0092】
本発明の樹脂シートと積層させるガラス板は、例えば、フロート板ガラス、強化ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、熱線吸収板ガラスなどの無機ガラスのほか、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートなどの従来公知の有機ガラス等を使用できる。これらは無色又は有色のいずれであってもよい。これらは1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、ガラスの厚さは、100mm以下であることが好ましい。
【0093】
本発明の樹脂シートを2枚のガラスに挟んでなる合わせガラスは、従来公知の方法で製造できる。例えば真空ラミネーター装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、ニップロールを用いる方法等が挙げられる。また上記方法により仮圧着した後に、オートクレーブに投入して本接着する方法も挙げられる。
【0094】
真空ラミネーター装置を用いる場合、例えば1×10-6~1×10-1MPaの減圧下、60~200℃、特に80~160℃でガラス板、樹脂シート(中間膜)、及び任意に接着性樹脂層、有機ガラス板等がラミネートされてもよい。真空バッグ又は真空リングを用いる方法は、例えば欧州特許第1235683号明細書に記載されており、約2×10-2~3×10-2MPa程度の圧力下、100~160℃でラミネートされてもよい。
【0095】
ニップロールを用いる製造方法としては、樹脂シート(中間膜)の流動開始温度以下の温度でロールにより脱気した後、さらに流動開始温度に近い温度で圧着を行う方法が挙げられる。具体的には、例えば赤外線ヒーターなどで30~70℃に加熱した後、ロールで脱気し、さらに50~120℃に加熱した後ロールで圧着させる方法が挙げられる。
【0096】
上述の方法を用いて圧着させた後にオートクレーブに投入してさらに圧着を行う場合、オートクレーブ工程の運転条件は合わせガラスの厚さや構成により適宜選択されるが、例えば0.5~1.5MPaの圧力下、100~160℃にて0.5~3時間処理することが好ましい。なお、本明細書において、上記真空ラミネーター等で予備接着する工程、及びオートクレーブ等で本接着する工程を含めて加熱圧着工程ということがある。本発明の合わせガラスは、低分子量成分を2.6質量%以上含むアイオノマー樹脂又はアイオノマー樹脂を含む樹脂組成物を含んでなる樹脂シートで形成されているため、上記加熱圧着工程、例えば本接着の圧着温度が比較的低くても(例えば130℃程度であっても)、ガラスと樹脂シートとの接着性に優れている。本発明の合わせガラスの低温接着性の指標となる最大せん断応力は、[樹脂シート]の項に記載した合わせガラスの最大せん断応力と同様である。
【0097】
また、本発明の合わせガラスは、所定の数平均分子量を有し、かつ低分子量成分が4.0質量%以下であるアイオノマー樹脂又は該アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物を含んでなる長時間緩和弾性率が高い樹脂シートで形成されているため、長時間(例えば1ヵ月程度)経過後であっても優れた強度を維持できる。
【0098】
本発明の合わせガラスは透明性に優れ、特に合わせガラスを140℃まで加熱後、0.1℃/分の速度で23℃に徐冷した際のヘーズ(徐冷ヘイズ)が低い。徐冷ヘイズは、該徐冷によりアイオノマー樹脂の結晶化を促進させた状態のヘイズである。本発明の合わせガラスの徐冷ヘイズは、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらにより好ましくは3.5%以下、特に好ましくは3.0%以下である。ヘイズが小さいほどアイオノマー樹脂の透明性が高まるため、下限は特に制限されず、例えば0.01%以上であってもよい。徐冷ヘイズは、合わせガラスを140℃まで加熱した後、140℃から0.1℃/分の速度で23℃まで徐冷した後のヘイズを、ヘイズメーターでJIS K7136:2000に準拠して測定することで求められ、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0099】
本発明の合わせガラスは着色が少なく、好ましくは無色である。本発明の合わせガラスの黄色度(YI)は、[樹脂シート]の項に記載した樹脂シートの黄色度(YI)と同様の範囲から選択できる。
【0100】
上記のように、本発明のアイオノマー樹脂及び本発明のアイオノマー樹脂を含む樹脂組成物を含んでなる樹脂シートは、合わせガラス用中間膜として有用である。該合わせガラス用中間膜は、ガラス等の基材への接着性、透明性、自立性、強度に優れる点から、特に、構造材料用合わせガラスの中間膜として好ましい。また、構造材料用合わせガラスの中間膜に限らず、自動車用フロントガラス、自動車用サイドガラス、自動車用サンルーフ、自動車用リアガラス、ヘッドアップディスプレイ用ガラス、その他自動車等の移動体、外壁及び屋根のためのラミネート、パネル、ドア、窓、壁、屋根、サンルーフ、遮音壁、表示窓、バルコニー、手摺壁等の建築物、議室の仕切りガラス部材、太陽電池、などの各種用途における合わせガラス用中間膜としても好適であるが、これらの用途に限定されるものではない。
【実施例
【0101】
以下、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0102】
[実施例・比較例で得られたアイオノマー樹脂の分析]
カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)の含有量の分析は以下のようにして行った。
【0103】
実施例及び比較例で得られたアイオノマー樹脂をそれぞれ脱水トルエン/脱水酢酸(75/25質量%)の混合溶媒に溶解し、100℃にて2時間反応させた後、アセトン/水(80/20質量%)の混合溶媒に再沈殿させることでカルボン酸中和物単位(C)をカルボン酸単位(B)に変換した。得られた樹脂を十分水で洗浄した後、乾燥し、乾燥した樹脂について下記(1)~(3)を行った。
(1)熱分解GC-MSにより、樹脂を構成する単量体単位の成分を分析した。
(2)JIS K0070-1992に準じて、樹脂の酸価を測定した。
(3)重水素化トルエンと重水素化メタノールとの混合溶媒を用いて、樹脂のH-NMR(400MHz、日本電子(株)製)測定を行った。
(4)また、実施例及び比較例で得られたアイオノマー樹脂を、それぞれ、硝酸によるマイクロ波分解前処理に付した後、ICP発光分析(Thermo Fisher Scientific社製、「iCAP6500Duo」)によって、カルボン酸中和物単位(C)の金属イオンの種類と量を同定した。
上記(1)から、カルボン酸エステル単位(A)及びカルボン酸単位(B)の種類と構造を同定した。その情報を基に、上記(2)及び(3)の情報から、エチレン単位(D)/カルボン酸エステル単位(A)/(カルボン酸単位(B)とカルボン酸中和物単位(C)の合計)の比率を算出した。さらに上記(4)の情報からエチレン単位(D)/カルボン酸エステル単位(A)/カルボン酸単位(B)/カルボン酸中和物単位(C)の比率を算出した。
【0104】
[メルトフローレート(MFR)]
JIS K7210に準拠して、実施例及び比較例で使用したエチレン-カルボン酸エステル共重合体(X)、及び実施例及び比較例で得られたアイオノマー樹脂のメルトフローレートを測定した。具体的には、各共重合体又は各樹脂をシリンダ内で溶融し、190℃、2.16kg荷重条件の下で、シリンダ底部に設置された規定口径(2.095mm)のダイスから押し出し、1分間あたりに押し出される樹脂量(g/分)を測定し、10分あたりに押し出される樹脂量(g/10分)に換算しメルトフローレートを求めた。
【0105】
[数平均分子量、分子量分布及び低分子量成分の含有量]
実施例及び比較例で得られたアイオノマー樹脂の分子量は、以下のようにして測定した。
実施例及び比較例で得られたアイオノマー樹脂を酢酸/トルエンの混合溶媒に加熱溶解させ、カルボン酸中和物単位をカルボン酸単位に変換した。さらにカルボン酸単位を、トリメチルシリルジアゾメタンによりカルボン酸メチルにエステル化させた。このようにカルボン酸中和物単位及びカルボン酸単位をカルボン酸メチル単位に変換させたアイオノマー樹脂を、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を0.1%添加した1,2,4-トリクロロベンゼンに加熱溶解させ、次いで0.5μmの焼結フィルターで加熱ろ過した。得られたアイオノマー樹脂について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記の条件でクロマトグラムを測定し、ポリエチレン換算の数平均分子量(Mn)及び分子量分布を算出した。ポリエチレン換算の分子量は、標準ポリスチレン換算の分子量をQファルターを用いてポリエチレン換算の分子量に換算した値である。なお、ベースラインはGPCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点を結んだ線とした。
また、検量線を用いて算出した積分分子量分布から、分子量2500以下の低分子量成分の割合を算出した。
GPC装置:東ソー株式会社製、HLC-8320
検出器:示差屈折率検出器
カラム:東ソー株式会社製のTSKgel guardcolumnHHR(30)(7.5mmI.D.×7.5cm)の1本とTSKgel GMHHR-H(20)HT(7.8mmT.D.×30cm)の3本を直列に繋いだものを用いた。
溶離剤:1,2,4-トリクロロベンゼン+BHT(0.05%)
溶離剤流量:1.0ml/分
試料注入量:0.3ml
カラム温度:140℃
検量線:標準ポリスチレン10点のデータを用いて作成
Qファクター:ポリスチレン 41.3、ポリエチレン17.7 を用いた
【0106】
[高温環境下における自立性]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートから縦40mm×横5mmの試験片を切り出し、(株)UBM製動的粘弾性測定装置を用いて、測定温度50℃、周波数1Hz、昇温速度3℃/分の条件で、貯蔵弾性率(E’)を測定し、その値を高温環境下における樹脂シートの自立性の指標とした。50℃の貯蔵弾性率が高いほど、高温環境下における樹脂シートの自立性が高いことを示す。高温環境下における自立性の評価において、上記貯蔵弾性率が30MPa以上の場合を「A」、30MPa未満の場合を「B」として評価した。
【0107】
[長時間経過後の強度]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートを23℃、50%RH雰囲気下で1週間以上静置した後に、縦40mm×横5mmの試験片を切り出し、(株)UBM製動的粘弾性測定装置を用いて、動的粘弾性測定と時間-温度換算則から得られる、基準温度50℃の合成曲線(マスターカーブ)から長時間緩和弾性率を求め、その値を長時間経過後の樹脂シートの強度の指標とした。長時間緩和弾性率が高いほど、長時間経過後の樹脂シートの強度が高いことを示す。長時間経過後の樹脂シートの強度の評価において、上記長時間緩和弾性率が0.25MPa以上の場合を「A」、0.25MPa未満の場合を「B」として評価した。
動的粘弾性測定は、JIS K 0129:2005に準拠した方法に従い、温度50~100℃、周波数0.1、0.5、1、5、10、50、100Hzの条件下で引張測定を行い、得られた貯蔵弾性率の測定結果から、温度時間換算則を用いて、基準温度を50℃としてマスターカーブを作成し、周波数4.0×10-7Hzにおける貯蔵弾性率(E’(t1))、及び周波数2.0×10-7Hzにおける損失弾性率(E’’(t2))を読み取り、ポアソン比を0.5に固定し、下記式(A)により、50℃、2.6×10秒後の緩和弾性率G(t)を求めた。
G(t)=E’(t1)/3-0.4×E’’(t2)/3・・・(A)
なお、これらの一連の計算は、(株)UBM製動的粘弾性測定装置に付帯の計算ソフト「RheoStation」((株)UBM)を用いて行った。
【0108】
[ガラスとの低温接着性]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートを厚さ2.7mmのフロートガラス2枚に挟み、真空ラミネーター(日清紡メカトロニクス(株)製 1522N)を使用し、100℃で真空ラミネーター内を1分減圧し、減圧度及び温度を保持したまま30kPaで5分プレスして、仮接着体を得た。得られた仮接着体をオートクレーブに投入し、130℃、1.2MPaで30分処理して、合わせガラスを得た。
次いで、得られた合わせガラスを25mm×25mmの大きさに切断して試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを国際公開第1999/058334号公報に記載の圧縮せん断強度試験(Compression shear strength test)により評価した。合わせガラスが剥離した際の最大せん断応力を、ガラスとの低温接着性の指標とした。最大せん断応力が高いほど、ガラスとの低温接着性が高いことを示す。ガラスとの低温接着性の評価において、上記最大せん断応力が25MPa以上であった場合を「A」、25MPa未満であった場合を「B」として評価した。
【0109】
[着色性]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートを日本電色工業(株)製の測色色差計「ZE-2000」(商品名)を用い、JIS Z8722に準拠して測定した。得られた値を元にJIS K7373に準拠して算出した黄色度の値をイエロインデックス(YI)とした。YIが低いほど、樹脂シートの着色性が低いことを示す。着色性の評価において、測定されたYIが2.0以下の場合を「A」、2.0超の場合を「B」として評価した。
【0110】
[徐冷時の透明性(徐冷ヘイズ)]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートを厚さ2.7mmのフロートガラス(日本板硝子製)2枚に挟み、真空ラミネーター(日清紡メカトロニクス(株)製 1522N)を使用し、100℃で真空ラミネーター内を1分減圧し、減圧度及び温度を保持したまま30kPaで5分プレスして、仮接着体を得た。得られた仮接着体をオートクレーブに投入し、140℃、1.2MPaで30分処理して、合わせガラスを得た。
得られた合わせガラスを140℃まで加熱したのち、0.1℃/分の速度で23℃まで徐冷した。徐冷操作後の合わせガラスのヘイズをヘイズメーターHZ-1(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS K7136:2000に準拠して測定した。徐冷ヘイズが低いほど、合わせガラスを徐冷した際の透明性が高いことを示す。徐冷時の透明性の評価において、測定されたヘイズが5.0%以下の場合を「A」、5.0%超10%以下の場合を「B」、10%超の場合を「C」として評価した。
【0111】
[樹脂シートの厚さ]
実施例及び比較例で得られた樹脂シートの厚さは、デジタルマイクロゲージを用いて測定した。
【0112】
〔原料樹脂〕
実施例及び比較例において、アイオノマー樹脂の原料として用いた各エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)のメタクリル酸メチル(MMA)変性量又はアクリル酸エチル(EA)変性量、及びMFRを表1に示す。これらエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)は、US2013/0274424、特開2006-233059又は特開2007-84743に記載の高温高圧ラジカル重合法にて合成することができる。例えば、EMMAとして住友化学(株)製「アクリフト」(登録商標)、EEAとして日本ポリエチレン(株)製「レクスパール」(登録商標)を用いることができる。
【0113】
【表1】

EMMA:エチレンとメタクリル酸メチルとの共重合体
EEA:エチレンとアクリル酸エチルとの共重合体
EMA:エチレンとアクリル酸メチルとの共重合体
変性量:樹脂を構成する全単量体単位を基準とする(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量
【0114】
〔実施例1〕
(アイオノマー樹脂)
反応槽に、表1中のEMMA2 100質量部を導入し、そこにトルエン233質量部を加えて、0.02MPa加圧下、60℃で撹拌し、EMMA2を溶解させた。得られた溶液に水酸化ナトリウムのメタノール溶液(20質量%)96質量部を添加し、100℃で4時間撹拌し、EMMA2をけん化して、メタクリル酸メチル単位の一部をメタクリル酸ナトリウム単位に変換した。次いで、この溶液を50℃まで冷却した後に、塩酸(20質量%)79質量部を反応液中に添加し、50℃で1時間撹拌して、メタクリル酸ナトリウム単位の一部をメタクリル酸に変換し、粗アイオノマー樹脂溶液を得た。
得られた粗アイオノマー樹脂溶液にトルエン/メタノール(75/25質量%)の混合溶媒を粗アイオノマー樹脂濃度が10質量%となるように添加して、該溶液を希釈した。次いで、得られた粗アイオノマー樹脂の希釈溶液を34℃に調整した後、前記希釈溶液に34℃のメタノールを粗アイオノマー樹脂溶液100質量部に対して430質量部添加して、粒状樹脂を析出させた。次いで、得られた粒状樹脂を濾取した後、濾取した粒状樹脂100質量部と水/メタノール(50/50質量%)の混合溶媒600質量部とを混合した。前記混合により得られたスラリーを40℃で1時間撹拌し、その後、粒状樹脂を室温にて濾取した。水/メタノールの混合溶媒による粒状樹脂の洗浄をさらに3回行い、洗浄された粒状アイオノマー樹脂を得た。得られた粒状アイオノマー樹脂を8時間以上真空乾燥した後、バッチ式溶融混練機を用いて210℃、回転数90rpm、3分間溶融混錬してアイオノマー樹脂を得た。
【0115】
(樹脂シート)
得られたアイオノマー樹脂の溶融混練物を210℃加熱下、50kgf/cmの圧力により5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmの樹脂シートを得た。
【0116】
〔実施例2〕
表1にあるEMMA3を用い、水酸化ナトリウムのメタノール溶液100質量部、及び塩酸(20質量%)83質量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0117】
〔実施例3〕
表1にあるEMMA3を用い、水酸化ナトリウムのメタノール溶液100質量部、及び塩酸(20質量%)83質量部を添加し、けん化反応時間を2時間に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0118】
〔実施例4〕
表1にあるEMMA4を70質量部及びEMMA5を30質量部用い、水酸化ナトリウムのメタノール溶液104質量部、及び塩酸(20質量%)83量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0119】
〔実施例5〕
表1にあるEEAを用い、塩酸(20質量%)78質量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0120】
〔実施例6〕
表1にあるEMAを用い、水酸化ナトリウムのメタノール溶液111質量部、及び塩酸(20質量%)91質量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0121】
〔比較例1〕
表1にあるEMMA1を用い、水酸化ナトリウムのメタノール溶液72質量部、及び塩酸(20質量%)58質量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0122】
〔比較例2〕
塩酸(20質量%)90質量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0123】
〔比較例3〕
表1にあるEMMA4を用い、水酸化ナトリウムのメタノール溶液100質量部、及び塩酸(20質量%)83質量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0124】
〔比較例4〕
表1にあるEMMA3を用い、水酸化ナトリウムのメタノール溶液100質量部、及び塩酸(20質量%)83質量部を添加し、けん化反応温度を80℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0125】
〔比較例5〕
表1にあるEMMA5を用い、水酸化ナトリウムのメタノール溶液112質量部、及び塩酸(20質量%)84質量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂及び樹脂シートを得た。
【0126】
〔比較例6〕
米国特許第6518365号に記載の方法を参考に、エチレン及びメタアクリル酸を共重合してエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を得た後、該共重合体を水酸化ナトリウムにより部分中和することにより表2に記載の組成のアイオノマー樹脂(Ionomer1と表記することがある)を得た。得られたアイオノマー樹脂を用いて、実施例1と同様の方法により樹脂シートを得た。
〔比較例7〕
米国特許第6518365号に記載の方法を参考に、エチレン、メタアクリル酸及びアクリル酸t-ブチルを共重合してエチレン-(メタ)アクリル酸-アクリル酸t-ブチル共重合体を得た後、該共重合体を水酸化ナトリウムにより部分中和することにより、表2に記載の組成のアイオノマー樹脂(Ionomer2と表記することがある)を得た。得られたアイオノマー樹脂を用いて、実施例1と同様の方法により樹脂シートを得た。
【0127】
上記方法に従って、実施例及び比較例で得られた樹脂シートの高温環境下における自立性、長時間経過後の強度、着色性及びガラスとの接着性、並びに、合わせガラスの徐冷時の透明性を評価し、その結果を表2に示した。なお、表2中、括弧内に、50℃での貯蔵弾性率、長時間緩和弾性率、黄色度(YI)、最大せん断応力及び徐冷ヘイズを測定した値を示した。
また、上記方法に従って、実施例及び比較例で使用したアイオノマー樹脂を分析し、その結果も表2に示した。表2中、カルボン酸エステル単位(A)[(メタ)アクリル酸エステル単位]の含有量をエステル(A)、カルボン酸単位(B)[(メタ)アクリル酸単位]の含有量を酸(B)、カルボン酸中和物単位(C)[(メタ)アクリル酸中和物単位]の含有量を中和物(C)、及び、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)及びカルボン酸単位(C)の合計含有量を(A)+(B)+(C)と表記し、各含有量はアイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準としたものである。
【0128】
【表2】
【0129】
実施例1~6で得られたアイオノマー樹脂からなる樹脂シートは、高温環境下における自立性、長時間経過後の強度、ガラスとの低温接着性、透明性、及び着色性の評価全てにおいて良好な評価「A」であることが確認された。これに対して、比較例1~7で得られたアイオノマー樹脂からなる樹脂シートは、少なくともいずれかにおいて不良な評価「B」であることが確認された。従って、本発明のアイオノマー樹脂は、透明性、高温環境下における自立性に優れ、着色性が低く、従来よりも低い温度でガラスと貼り合わせてもガラスとの十分な接着性を有し、かつ、長時間経過しても高い強度を維持可能な樹脂シートを形成できる。
【要約】
本発明は、カルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、カルボン酸中和物単位(C)及びエチレン単位(D)を含むアイオノマー樹脂であって、該アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準にして、カルボン酸エステル単位(A)の含有量が0.01~1.8モル%であり、かつカルボン酸エステル単位(A)、カルボン酸単位(B)、及びカルボン酸中和物単位(C)の合計含有量が6~10モル%であり、カルボン酸単位(B)及びカルボン酸中和物単位(C)をカルボン酸メチル単位に変換して、GPCによりポリエチレン換算の分子量を測定した際に、積分分子量分布曲線から得られる分子量2500g/モル以下の低分子量成分の割合が、2.6~4.0質量%であり、数平均分子量が8000~14000g/モルである、アイオノマー樹脂に関する。