(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸エステル、および(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 69/54 20060101AFI20220817BHJP
C07C 67/14 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C07C69/54 B CSP
C07C67/14
(21)【出願番号】P 2018149277
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】大野 芙美
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066594(WO,A1)
【文献】特開2017-156649(JP,A)
【文献】特開2015-169843(JP,A)
【文献】DUA, S. K. et al.,The Search for the Gas-Phase Negative Ion Pinacol Rearrangement,Journal of the American Chemical Society ,1993年,115(13),pp. 5709-5715
【文献】KIRMSE, W. et al.,Deamination reactions. 42. Addition of diazocyclopropanes to carbonyl compounds,Chemische Berichte,1986年,119(5),pp. 1511-1524
【文献】LEVENE, P. A. et al.,The configurational relationship of methylcyclohexyl- carbinol to methylhexylcarbinol,Journal of Biological Chemistry ,1936年,113,pp. 55-59
【文献】MORIZUR, J. P. et al.,Photochemical reactions in solution. III. Differences between 2-isopropylcyclopentanone and 2-isopropylcyclohexanone,Bulletin de la Societe Chimique de France ,1970年,(5),pp. 1959-1967,CA 73:55380
【文献】STILL, W. Clark,Stannylation/Destannylation. Preparation of α-Alkoxy Organolithium Reagents and Synthesis of Dendrolasin via a Carbinyl Carbanion Equivalent,Journal of the American Chemical Society ,1978年,100(5),pp. 1481-1487
【文献】SHEVCHUK, T. A. et al.,Convenient Preparation of 2-Substituted Cyclobutanones from Esters of 2-Alkoxyalkanoic Acids,Russian Journal of Organic Chemistry (Translation of Zhurnal Organicheskoi Khimii),2000年,36(4),pp. 491-495,CA 133:362561
【文献】MOON, S. et al.,The Photochemistry of Bicyclo[6.1.0]nonan-3-one, Bicyclo [6.1.0]nonan-4-one, and Cyclooctanone,Journal of Organic Chemistry ,1971年,36(10),pp. 1434-1438
【文献】BASSETTI, M. et al.,Metalation of Alkynes. Part 2. Behavior of Alkynes with Mercury(II) Acetate in Methanol: a Systematic Reinvestigation,Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 2: Physical Organic Chemistry (1972-1999) ,1988年,(2),pp. 227-233
【文献】BOYLE, P. H. et al.,Synthesis of a Naturally Occurring Dihydrohomopteridine Insect Metabolite, 6-Acetyl-2-amino-7,8-dihydro-9H-pyrimido[4,5-b][1,4]diazepin-4(3H)-one,Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1: Organic and Bio-Organic Chemistry (1972-1999),1990年,(7),pp. 2071-2077
【文献】REGISTRY (STN) [online],Entered STN: 29 Jun 2018, 28 Jun 2018,検索日:2022年1月14日,CAS 登録番号2229447-68-9, 2229233-86-5, 2228849-02-1, 2228082-87-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C69/54
C07C67/14
C07C43/13-43/315
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル。
【化1】
[式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基、R
21、R
22、R
23のうちの1つは炭素数1~20のアルコキシ基、他の1つは炭素数1~20のアルキル基、残りの1つは水素原
子、Z
1
は単結合
、Z
3
は、(R
21R
22R
23)C-が結合している炭素原子とともに
シクロペンチル基を形成する原子団、nは
0である。]
【請求項2】
下記式(4)で表されるヒドロキシ化合物と
(メタ)アクリル酸塩化物とを反応させて、下記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルを得る、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化2】
[式(4)中、R
21、R
22、R
23のうちの1つは炭素数1~20のアルコキシ基、他の1つは炭素数1~20のアルキル基、残りの1つは水素原
子、Z
3
は、(R
21R
22R
23)C-が結合している炭素原子とともに
シクロペンチル基を形成する原子団である。]
【化3】
[式(5)中、R
1
は水素原子またはメチル基、R
21
、R
22
、R
23
のうちの1つは炭素数1~20のアルコキシ基、他の1つは炭素数1~20のアルキル基、残りの1つは水素原子、Z
3
は、(R
21
R
22
R
23
)C-が結合している炭素原子とともにシクロペンチル基を形成する原子団である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性に優れる新規(メタ)アクリル酸エステル、新規(メタ)アクリル酸エステルの製造方法、および前記製造方法に用いられるヒドロキシ化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に(メタ)アクリル酸エステルは、プラスチック、塗料、粘着剤、紙加工処理剤、繊維油剤、潤滑油添加剤、建築用シーラント、インキなどの多岐にわたる用途において有用である。また、ArFエキシマレーザーリソグラフィーにおいて用いられるレジスト用重合体として、波長193nmの光に対して透明なアクリル系重合体が注目されている。近年、照射光の短波長化およびパターンの微細化に好適に対応できるレジスト組成物として、酸の作用により酸脱離性基が脱離してアルカリ可溶性となる重合体と、光酸発生剤とを含有する、いわゆる化学増幅型レジスト組成物が提唱され、その開発および改良が進められている。
酸脱離性基を有する単量体として、特許文献1、2には、エステル部位がシクロアルキル基を含む炭化水素基であり、エステル結合を構成する酸素原子とシクロアルキル基との結合部位に第3級炭素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/062168号
【文献】特開2015-141353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、リソグラフィーによるパターン形成の微細化が急速に進んでおり、パターン形成性およびラインウィドゥスラフネス(LWR)等の種々のリソグラフィー特性をこれまで以上に改善できるレジスト材料の開発が切望されている。レジスト材料の親水性を高めることで現像液への溶解性を向上させることができ、その結果LWR、MEEF(マスクエラーファクタ)、DOF(焦点深度幅)等の性能を改善できる。そのためには、より親水性の大きな単量体が有用である。
本発明は、親水性に優れる(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法、および前記製造方法に用いられるヒドロキシ化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル。
【0006】
【0007】
[式(1)中、R1は水素原子またはメチル基、R21、R22、R23のうちの1つは炭素数1~20のアルコキシ基、他の1つは炭素数1~20のアルキル基、残りの1つは水素原子、炭素数1~20のアルコキシ基または炭素数1~20のアルキル基、Z1は、炭素数1~20の、置換もしくは無置換の2価の鎖式炭化水素基、炭素数1~20の、置換もしくは無置換の、ヘテロ原子を有していてもよい2価の環式炭化水素基、または単結合、Z2は、炭素数1~12の2価の鎖式炭化水素基、Z3は、(R21R22R23)C-が結合している炭素原子とともに炭素数3~10のヘテロ原子を有していてもよい環式炭化水素基を形成する原子団、nは0~3の整数である。]
[2]下記式(4)で表されるヒドロキシ化合物。
【0008】
【0009】
[式(4)中、R21、R22、R23のうちの1つは炭素数1~20のアルコキシ基、他の1つは炭素数1~20のアルキル基、残りの1つは水素原子、炭素数1~20のアルコキシ基または炭素数1~20のアルキル基、Z3は、(R21R22R23)C-が結合している炭素原子とともに炭素数3~10のヘテロ原子を有していてもよい環式炭化水素基を形成する原子団である。]
[3]前記[2]に記載のヒドロキシ化合物と(メタ)アクリル酸塩化物とを反応させて、下記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルを得る、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【0010】
【0011】
[式(5)中、R1は水素原子またはメチル基、R21、R22、R23のうちの1つは炭素数1~20のアルコキシ基、他の1つは炭素数1~20のアルキル基、残りの1つは水素原子、炭素数1~20のアルコキシ基または炭素数1~20のアルキル基、Z3は、(R21R22R23)C-が結合している炭素原子とともに炭素数3~10のヘテロ原子を有していてもよい環式炭化水素基を形成する原子団である。]
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、親水性に優れる(メタ)アクリル酸エステルが得られる。
本発明のヒドロキシ化合物は、(メタ)アクリル酸エステルの中間体として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
本明細書において、式(1)で表される化合物を、化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0014】
<(メタ)アクリル酸エステル>
本発明の(メタ)アクリル酸エステルは下記式(1)で表される化合物(1)である。化合物(1)は、酸脱離性基を有する単量体として有用である。
【0015】
【0016】
式(1)において、R1は、水素原子またはメチル基である。
R21、R22、R23のうちの1つは炭素数1~20のアルコキシ基、他の1つは炭素数1~20アルキル基、残りの1つは水素原子、炭素数1~20のアルコキシ基または炭素数1~20のアルキル基である。
【0017】
より高い親水性が得られやすい点で、R21、R22、R23のうち、アルキル基は1個であることが好ましい。
すなわち、前記R21、R22、R23のうちの1つはアルコキシ基、他の1つはアルキル基、残りの1つは水素原子またはアルコキシ基であることが好ましい。
【0018】
前記アルコキシ基は直鎖状または分岐状が好ましい。アルコキシ基の炭素数は1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましい。
前記アルキル基は直鎖状でもよく、分岐状でもよく、シクロアルキル基でもよい。直鎖状または分岐状アルキル基の炭素数は1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましい。
シクロアルキル基の炭素数は3~8が好ましく、5または6がより好ましい。
【0019】
Z1は、炭素数1~20の、置換もしくは無置換の、2価の鎖式炭化水素基、炭素数1~20の、置換もしくは無置換の、ヘテロ原子を有していてもよい2価の環式炭化水素基、または単結合である。
Z1が2価の鎖式炭化水素基であるとき、直鎖状でもよく、分岐状でもよい。2価の鎖式炭化水素基としてはアルキレン基が好ましい。置換基としては-O-、-S-、-NH-、-PH-が挙げられる。炭素数は1~10が好ましく、1~6がより好ましい。
Z1が2価の環式炭化水素基であるとき、単環式でもよく、多環式でもよい。環式炭化水素基としては環式の飽和炭化水素基が好ましい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子が挙げられる。環を構成する炭素原子に置換基が結合していてもよい。置換基としては、炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。アルキル基は直鎖状でもよく、分岐状でもよい。
Z1は、レジスト材料の現像液への溶解性を高める点で単結合が好ましい。
【0020】
Z2は、炭素数1~12の2価の鎖式炭化水素基である。直鎖状でもよく、分岐状でもよい。鎖式炭化水素基としてはアルキレン基が好ましい。炭素数は1~6が好ましく、1~3がより好ましい。
nは0~3の整数であり、0~2が好ましく、0または1がより好ましい。
【0021】
Z3は、(R21R22R23)C-が結合している炭素原子とともに炭素数3~10のヘテロ原子を有していてもよい環式炭化水素基を形成している原子団である。環式炭化水素基は単環式でもよく、多環式でもよい。環式炭化水素基は、炭化水素からなる(ヘテロ原子を有さない)環式炭化水素基が好ましい。
環式炭化水素基の炭素数には(R21R22R23)C-が結合している炭素原子も含まれる。
炭素数3~10の単環の炭化水素からなる環式炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロオクタジエニル基等が挙げられる。これらの中でも入手容易性の点からシクロペンチル基、シクロヘキシル基が好ましい。
炭素数3~10の多環の炭化水素からなる環式炭化水素基としては、例えばビシクロ[4.3.0]ノナニル基、ナフタレニル基、デカヒドロナフタレニル基、ボルニル基、イソボルニル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、ノルアダマンチル基等が挙げられる。これらの中でも入手容易性の点からノルボルニル基、アダマンチル基が好ましい。
【0022】
化合物(1)の好ましい態様として以下が挙げられる。
R1は水素原子またはメチル基であり、Z3は(R21R22R23)C-が結合している炭素原子とともに、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基またはアダマンチル基を形成する原子団であり、R21、R22およびR23が、メトキシ基、メチル基および水素原子の任意の組み合わせ、2つのメトキシ基およびメチル基の任意の組み合わせ、またはメトキシ基および2つのメチル基の任意の組み合わせであり、Z1が単結合であり、n=0である化合物。
【0023】
化合物(1)は、例えば、下記式(4)で表されるヒドロキシ化合物(4)と(メタ)アクリル酸塩化物とを反応させて、下記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステル(5)を得る方法で製造できる。
ヒドロキシ化合物(4)は、下記式(2)で表されるエステル化合物(2)に、下記式(3)で表される化合物(3)を反応させて製造できる。
【0024】
【0025】
式(2)において、R21、R22、R23は、好ましい態様も含めて式(1)におけるR21、R22、R23と同じである。
式(2)において、R11はアルキル基である。アルキル基は直鎖状でもよく、分岐状でもよく、シクロアルキル基でもよい。例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が挙げられる。これらの中でも入手容易性の点からメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましい。
【0026】
式(3)において、Y1は炭素数2~9のアルキレン基、またはシクロアルキレン基であり、M2、M3はそれぞれ独立にMgX(Xはハロゲン原子)である。
Y1のアルキレン基は直鎖状でもよく分岐状でもよい。例えばエチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。シクロアルキレン基としては、シクロヘキシレン基等が挙げられる。これらの中でも入手容易性の点からブチレン基、ペンチレン基が好ましい。
【0027】
化合物(2)と化合物(3)との反応において、化合物(3)の使用量は、特に限定されないが、化合物(4)を収率よく得る点から、化合物(2)の1モル当たり、0.5モル以上が好ましく、副反応や反応後の処理工程への負荷を抑制する点から5モル以下が好ましい。
化合物(2)の1モル当たり、化合物(3)は0.5~5モルが好ましく、0.8~4モルがより好ましく、1~3モルがさらに好ましい。
【0028】
化合物(2)と化合物(3)との反応において、溶媒を用いてもよい。溶媒は、化合物(3)と反応しない溶媒であれば特に限定されない。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒:ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒:ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。溶媒の使用量は適宜設定できる。
【0029】
化合物(2)と化合物(3)との反応温度は、化合物(3)を用いる通常の環化反応における温度でよい。反応時間を短縮する点で、-100℃以上が好ましく、-80℃以上がより好ましい。また副反応等の問題を抑制する点で、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。
反応時間は、反応温度等によって異なるため適宜決めればよい。例えば0.5~30時間程度が好ましい。
【0030】
化合物(2)と化合物(3)との反応で得た化合物(4)を精製してもよい。
精製方法は、生成物の物性、原料の種類および量、溶剤の種類等を考慮して、アルカリ水洗、水洗、蒸留、晶析、濾過等の公知の精製方法を、適宜組み合わせることができる。
【0031】
化合物(4)と、(メタ)アクリル酸塩化物とを反応させて化合物(5)が得られる。
(メタ)アクリル酸塩化物は、市販品でも別途合成したものを使用してもよい。(メタ)アクリル酸塩化物の使用量は、特に限定されないが、化合物(5)を収率よく得る点から、化合物(4)の1モル当たり0.5モル以上が好ましく、(メタ)アクリル酸塩化物由来の重合を防止する点では、4モル以下が好ましい。
化合物(4)の1モル当たり、アクリル酸塩化物は0.5~4モルが好ましく、0.7~3モルがより好ましく、0.9~2.5モルがさらに好ましい。
【0032】
化合物(4)と、(メタ)アクリル酸塩化物との反応において、化合物(5)を収率よく得る点から、塩基を添加してもよい。塩基の例としては、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、メチルマグネシウムブロミド、t-ブチルマグネシウムクロリド、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等が挙げられる。
塩基の使用量としては、反応収率の点から、化合物(4)の1モル当たり0.1モル以上が好ましく、反応後の処理工程への負荷を抑制する点から、3モル以下が好ましい。
化合物(4)の1モル当たり、塩基は0.1~3モルが好ましく、0.5~2モルがより好ましい。
【0033】
化合物(4)と、(メタ)アクリル酸塩化物との反応において、溶媒を用いてもよい。溶媒は、(メタ)アクリル酸塩化物と反応しない溶媒であれば特に限定されない。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒:ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒:ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。溶媒の使用量は適宜設定できる。
【0034】
化合物(4)と、(メタ)アクリル酸塩化物との反応において、重合を抑制するため、反応系内に重合禁止剤を存在させてもよい。重合禁止剤としては、特に限定されないが、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、フェノチアジン、銅塩等が挙げられる。これらは1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
化合物(4)と、(メタ)アクリル酸塩化物とを反応させる工程における反応温度は、通常のエステル化で用いられる温度であればよい。反応時間を短縮する点で、-100℃以上が好ましく、-80℃以上がより好ましい。また副反応や重合等の問題を抑制する点で、65℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。
反応時間は、反応温度等によって異なるため適宜決めればよい。例えば、0.5~20時間程度が好ましい。
【0036】
化合物(4)と、(メタ)アクリル酸塩化物との反応で得られた化合物(5)を精製することが好ましい。化合物(5)の精製方法は、生成物の物性、原料、塩基の種類および量、溶剤の種類等を考慮して、アルカリ水洗、水洗、蒸留、晶析、濾過等の公知の精製方法を、適宜組み合わせることができる。
【0037】
化合物(5)の製造方法の好ましい実施態様として、下記態様(1)~(3)が挙げられる。以下において、メトキシ基を「MeO-」、エトキシ基を「EtO-」と記載することもある。
態様(1):下記エステル化合物(2-1)に、前記式(3)においてY1がブチレン基であり、M2、M3がそれぞれMgBrである化合物(3-1)を反応させて、下記ヒドロキシ化合物(4-1)を得て、ヒドロキシ化合物(4-1)と(メタ)アクリル酸塩化物とを反応させて、下記化合物(5-1)を得る方法。
なお、化合物(3-1)は1,4-ジブロモブタンと金属Mgとの反応物である。
【0038】
【0039】
態様(2):下記エステル化合物(2-2)に、前記化合物(3-1)を反応させて、下記ヒドロキシ化合物(4-2)を得て、ヒドロキシ化合物(4-2)と(メタ)アクリル酸塩化物とを反応させて、下記化合物(5-2)を得る方法。
【0040】
【0041】
態様(3):下記エステル化合物(2-3)に、前記化合物(3-1)を反応させて、ヒドロキシ化合物(4-3)を得て、ヒドロキシ化合物(4-3)と(メタ)アクリル酸塩化物とを反応させて、下記化合物(5-3)を得る方法。
【0042】
【実施例】
【0043】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。反応追跡はガスクロマトグラフィーにより実施した。
<実施例1>
前記態様(1)の方法で化合物(5-1)を製造した。
[工程1]
ガラス製のフラスコに、60質量%水素化ナトリウム2.54g(63mmol)、テトラヒドロフラン50mLを加え、0℃に冷却した。テトラヒドロフラン28mLに溶解させた乳酸エチル5.00g(42mmol)を加え、0℃にて20分間撹拌した。ヨードメタン4.0mL(63mmol)を加え、室温にて2.5時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液85mLを加え分液した。水層をジイソプロピルエーテル60mLで3回抽出し、有機層に飽和食塩水20mLを加え洗浄した。硫酸マグネシウムを用いて乾燥させたのち、溶媒を留去し、化合物(2-1)2.97gを得た。
【0044】
[工程2]
次に、ガラス製のフラスコに、削り状マグネシウム1.52g(63mmol)、テトラヒドロフラン25mLを加え、室温にて、テトラヒドロフラン26mLに溶解させた1,4-ジブロモブタン2.7mL(23mmol)を1.3時間で滴下した。その後、3時間撹拌し、-10℃に冷却し、テトラヒドロフラン23mLに溶解させた化合物(2-1)2.97g(22mmol)を0.5時間で滴下した。-10℃にて、1時間撹拌した後、室温にて終夜撹拌した。20質量%塩化アンモニウム水溶液50mLを加え分液した。水層を酢酸エチル60mLで2回抽出し、有機層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液20mL、続いて飽和食塩水20mLを加え洗浄した。硫酸マグネシウムを用いて乾燥させたのち、溶媒を留去し、目的の化合物2.80gを得た。
1H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(4-1)であることを確認した。
1H-NMR(270MHz、CDCl3):δ3.38ppm(s、3H)、3.23ppm(q、1H)、2.11ppm(s、1H)、1.84-1.51ppm(m、8H)、1.15ppm(d、3H)。
【0045】
[工程3]
ガラス製のフラスコに、上記で得た化合物(4-1)2.80g(19mmol)、テトラヒドロフラン46mLを加え、窒素フロー下、-40℃に冷却した。n-ブチルリチウム20mL(15質量%ヘキサン溶液、32mmol)を滴下し、0℃で1時間撹拌した。再び-40℃に冷却し、メタクリル酸クロライド4.0mL(42mmol)を滴下した後、0℃で1.5時間撹拌した。10質量%水酸化リチウム水溶液19.45gを加え50℃で2時間撹拌した後、分液した。水層を酢酸エチル20mLで3回抽出し、有機層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液30mL、続いて飽和食塩水15mLを加え洗浄した。硫酸マグネシウムを用いて乾燥させたのち、溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的の化合物3.34gを得た。
1H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(5-1)であることを確認した。
1H-NMR(270MHz、CDCl3):δ6.03ppm(m、1H)、5.50ppm(m、1H)、4.17ppm(q、1H)、3.36ppm(s、3H)、1.90ppm(s、1H)、2.14-1.56ppm(m、8H)、1.09ppm(d、3H)。
【0046】
<実施例2>
実施例2は参考例である。
前記態様(2)の方法で化合物(5-2)を製造した。
実施例1の工程1において、乳酸エチルを2-ヒドロキシイソ酪酸メチルに変更した以外は同様にして、化合物(2-2)を得た。
実施例1の工程2において、化合物(2-1)の代わりに上記で得た化合物(2-2)を用いた以外は同様にして、化合物(4-2)を得た。1H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(4-2)であることを確認した。
1H-NMR(270MHz、CDCl3):δ3.24ppm(s、3H)、2.36ppm(s、1H)、1.90-1.54ppm(m、8H)、1.17ppm(s、6H)。
【0047】
実施例1の工程3において、化合物(4-1)の代わりに上記で得た化合物(4-2)を用いた以外は同様にして、目的の化合物を得た。
1H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(5-2)であることを確認した。
1H-NMR(270MHz、CDCl3):δ6.00ppm(m、1H)、5.48ppm(m、1H)、3.25ppm(s、3H)、1.91ppm(s、1H)、2.06-1.56ppm(m、8H)、1.24ppm(d、3H)。
【0048】
<比較例1>
比較化合物としてイソプロピルシクロペンチルメタクリレート(国際公開第2011/062168号の段落0245に記載されている化合物、表1に構造式を示す。)を用いた。
三口フラスコにシクロペンタノン(8.4g)、テトラヒドロフラン(200mL)を加え0℃に冷却した。ランタントリクロリドビスリチウムクロリド錯体(0.6mol/Lテトラヒドロフラン溶液)166mLを0℃で滴下し、30分時間攪拌した。次いでイソプロピルマグネシウムブロミド(1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液)100mLを0℃で滴下し2時間攪拌した。続いて、飽和塩化アンモニウム水溶液100mLを添加し、水相を酢酸エチル200mLで2回抽出し、有機相をまとめ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄した後、溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、1-イソプロピルシクロペンタノール11.4gを得た(収率88%)。
1-イソプロピルシクロペンタノール(11.4g)をテトラヒドロフラン200mLに加え、-40℃に冷却した。ノルマルブチルリチウム(1.6mol/Lヘキサン溶液)55mLを-40℃で滴下し、0℃で1時間攪拌した。反応液を再び-40℃に冷却した後、メタクリル酸クロライド8.4gを滴下し、室温まで昇温した。1時間攪拌後、0℃まで冷却し、水100mLを添加した。水相を酢酸エチル200mLで2回抽出し、有機相をまとめ、水、飽和食塩水で洗浄した後、溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、イソプロピルシクロペンチルメタクリレート(12.3g)を得た(収率86%)。
【0049】
<比較例2>
比較化合物としてt-ブチルシクロペンチルメタクリレート(特開2015-141353号公報の段落0408に記載されている化合物、表1に構造式を示す。)を用いた。
比較例1において、イソプロピルマグネシウムブロミドの代わりに、t-ブチルマグネシウムブロミドを用いた以外は比較例1と同様に実施し、t-ブチルシクロペンチルメタクリレートを得た。
【0050】
<試験例1:親水性の評価>
上記実施例および比較例で得たメタクリル酸エステルを試料とし、炭素数18の炭化水素基で表面処理したシリカゲルをカラム充填材として用いて、逆相液体クロマトグラフィー測定を、下記の条件で行った。
[測定条件]
装置:ウォーターズ社製、液体クロマトグラフィーシステム ACQUITY UPLC H-Class(製品名)。
カラム:ウォーターズ社製、ACQUITY UPLC BEH C18(製品名)、1.7μm(粒径)。
移動層:アセトニトリル/水=3/1。
流量:0.5mL/min。
UV検出波長:220nm。
【0051】
OECD Guidelines for the Testing of Chemicals,Section 1(Test No.117)によると、長鎖炭化水素基(例えばC8、C18)で表面処理したシリカゲルを充填材として用いる逆相液体クロマトグラフィーでは、試料は移動相の溶媒によって炭化水素シリカゲル(固定相)上を移動する。試料は固定相(炭化水素基)と移動相(水)との分配係数によって固定相上に保持される。したがって、親水性化合物ほど早く溶出し、疎水性化合物ほど遅く溶出する。すなわち、保持時間がより短い試料の方が親水性に優れると判定できる。
保持時間の測定結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1の親水性の評価結果に示されるように、実施例1で得られた化合物を試料とする液体クロマトグラフィーは、比較例1で得た化合物に比べて保持時間が短く、親水性が向上したことが認められた。同様に実施例2で得られた化合物を試料とする液体クロマトグラフィーは、比較例2で得た化合物に比べて保持時間が短く、親水性が向上したことが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明にて提供される(メタ)アクリル酸エステルは親水性に優れ、半導体レジスト用の原料としてリソグラフィー特性の改善に有用である。また、プラスチック、塗料等の用途にも有用である。