(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/02 20060101AFI20220817BHJP
C22B 5/10 20060101ALI20220817BHJP
F27B 3/10 20060101ALI20220817BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/10
F27B3/10
F27D7/06 Z
(21)【出願番号】P 2018174202
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-227496(JP,A)
【文献】特開2014-227588(JP,A)
【文献】特開2018-127693(JP,A)
【文献】特公昭46-039588(JP,B1)
【文献】特開2012-251186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C21B 11/00-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程と、
得られた混合物を
バーナーを備える還元炉に装入し、還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程と、を含み、
前記還元工程では、前記還元処理によって
前記バーナーの燃料が燃焼したときに発生
する雰囲気気体に含まれる水分を還元炉から排出する
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記還元工程では、前記水分を液化することによって還元炉から排出する
請求項1に記載の
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
得られた混合物に乾燥処理を施し、乾燥後の混合物を前記還元工程に供する
請求項1又は2に記載の
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項4】
ニッケル酸化鉱石を含む混合物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得るための還元炉であって、
バーナーと、
前記バーナーの燃料が燃焼したときに発生する還元炉内の雰囲気気体に含まれる水分を液化する冷却部と、
液化した水分を該還元炉から排出する排出部と、
を備える還元炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉱石の製錬方法に関するものであり、例えば、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を原料として炭素質還元剤により還元することで還元物を得る製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉱石の一種であるリモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用して鉄とニッケルの合金(以下、鉄とニッケルの合金を「フェロニッケル」ともいう)を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して高温高圧で酸浸出し、ニッケルやコバルトが混在した混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した様々な方法の中で、特に乾式製錬法を用いてニッケル酸化鉱石を還元して製錬する場合、反応を進めるために原料のニッケル酸化鉱石を適度な大きさに破砕する等して塊状物化する処理が前処理として行われる。
【0004】
具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化する、すなわち粉状や微粒状の鉱石を塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石と、それ以外の成分、例えばバインダーやコークス等の還元剤とを混合して混合物とし、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば一辺あるいは直径が10mm以上30mm以下程度の成形物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」ということもある)とするのが一般的である。
【0005】
塊状物化して得られるペレットには、含有する水分を「飛ばす」ために、ある程度の通気性が必要となる。さらに、その後の還元処理においてペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一になり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じる。そのため、ペレットを作製する際には混合物を均一に混合したり、得られたペレットを還元する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0006】
加えて、還元処理により生成するメタル(フェロニッケル)を粗大化させることも非常に重要な技術である。生成したフェロニッケルが、例えば数10μm以上数100μm以下の細かな大きさであった場合、同時に生成するスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下してしまう。そのため、還元後のフェロニッケルを粗大化する処理が必要となる。
【0007】
例えば、特許文献1には、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、金属酸化物を還元溶融させる粒状金属の製造方法において、塊成物同士の距離を0としたときの塊成物の炉床への最大投影面積率に対する、塊成物の炉床への投影面積率の相対値を敷密度としたとき、平均直径が19.5mm以上32mm以下の塊成物を、敷密度が0.5以上0.8以下になるように炉床上に供給して加熱する方法が開示されている。この方法では、塊成物の敷密度と平均直径とを併せて制御することで、粒状金属鉄の生産性を高められることが記載されている。
【0008】
しかし、特許文献1にあるような、特定の直径を有するものを塊成物として用いる方法は、特定の直径を有しないものを取り除く必要があるため、塊成物を作製する際の収率が低いものであった。また、特許文献1にある方法は、塊成物の敷密度を0.5以上0.8以下に調整する必要があり、塊成物を積層させることもできないため、生産性の低い方法であった。これらの理由により、特許文献1にある方法は、製造コストが高いものであった。
【0009】
このように、酸化鉱石を混合及び還元して金属や合金を製造する技術には、生産性を高め、製造コストを低減させ、メタルの品質を高める点で、多くの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を含む混合物を還元することでメタルを製造する製錬方法において、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質のメタルを効率的に製造することができる酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、還元処理によって発生する水分を還元炉から排出することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明の第1は、酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程と、得られた混合物を還元炉に装入し、還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程と、を含み、前記還元工程では、前記還元処理によって発生した雰囲気気体に含まれる水分を還元炉から排出する酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記還元工程では、前記水分を液化することによって還元炉から排出する酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、得られた混合物に乾燥処理を施し、乾燥後の混合物を前記還元工程に供する、酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(4)本発明の第4は、第1から第3のいずれかの発明において、前記酸化鉱石は、ニッケル酸化鉱石である酸化鉱石の製錬方法である。
【0017】
(5)本発明の第5は、酸化鉱石を含む混合物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得るための還元炉であって、還元炉内の雰囲気気体に含まれる水分を液化する冷却部と、液化した水分を該還元炉から排出する排出部と、を備える還元炉である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る酸化鉱石の製錬方法によれば、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
【
図2】還元処理に使用する還元炉の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0021】
≪1.酸化鉱石の製錬方法の概要≫
本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石である酸化鉱石(酸化物)を炭素質還元剤と混合し、その混合物(ペレット)に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、メタルとスラグとを生成させるものである。
【0022】
例えば、酸化鉱石として、酸化ニッケルや酸化鉄等を含有するニッケル酸化鉱石を原料とし、そのニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得て、混合物に含まれるニッケルを優先的に還元し、また鉄を部分的に還元することで、鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する方法が挙げられる。
【0023】
そして、本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法においては、還元処理によって発生した雰囲気気体に含まれる水分を還元炉から排出することを特徴としている。
【0024】
このような方法によれば、水分を還元炉から排出していることにより、還元物が酸化されることを抑制し、得られるメタルの品位を高めることができる。
【0025】
≪2.ニッケル酸化鉱石を用いてフェロニッケルの製造する製錬方法≫
以下では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金のメタルを生成させ、さらに、そのメタルを分離することによってフェロニッケルを製造する製錬方法を例に挙げて説明する。
【0026】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、
図1に示すように、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程S1と、得られた混合物を還元炉に装入して、混合物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程S2と、還元物からメタルとスラグを分離する分離工程S3と、を含む。
【0027】
<2-1.混合工程>
混合工程S1は、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る工程である。具体的には、まず、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に、炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm以上0.8mm以下程度の粉末を添加して混合し、混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0028】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe2O3)とを少なくとも含有する。
【0029】
炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、均一に混合し易く、還元反応も均一に進みやすくなるため好ましい。
【0030】
炭素質還元剤の含有量(混合物中に含まれる炭素質還元剤の含有量)としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルの全量をニッケルメタル還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄(酸化第二鉄)を金属鉄に還元するのに必要な化学当量との両者合計値(便宜的に「化学当量の合計値」ともいう)を100質量%としたときに、50.0質量%以下の割合とすることが好ましく、40.0質量%以下の割合とすることがより好ましい。鉄の還元量を抑えて、ニッケル品位を高めることができ、高品質のフェロニッケルを製造することができる。
【0031】
炭素質還元剤の混合量としては、化学当量の合計値を100質量%としたときに、10.0質量%以上の割合とすることが好ましく、15.0質量%以上の割合とすることがより好ましい。ニッケルの還元を効率的に進行させることができ生産性が向上する。
【0032】
また、任意成分の添加剤である鉄鉱石としては、例えば、鉄品位が50.0質量%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0033】
また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
【0034】
混合工程S1では、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を均一に混合することによって混合物を得る。下記表1に、混合工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示すが、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0035】
【0036】
この混合に際しては、混合性を高めるために混練を同時に行ってもよく、混合後に混練を行ってもよい。混練は、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸混練機、二軸混練機等を用いて行うことができる。混合物を混練することによって、その混合物にせん断力を加え、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いて均一に混合できるとともに、各々の粒子の密着性を向上させ、また空隙を減少させることができる。これにより、その混合物において還元反応が起りやすくなるとともに均一に反応させることができ、還元反応の反応時間を短縮することができる。また、品質のばらつきを抑えることができる。
【0037】
また、混合を行った後、あるいは混合及び混練を行った後、押出機を用いて押出してもよい。これにより、混合物に対して圧力(せん断力)が加えられ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いてその混合物をより均一に混合させた状態とすることができる。さらに、混合物内の空隙を減少させることができる。これらのことから、後述する還元工程S2において混合物の還元反応が均一に起りやすくなり、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【0038】
押出機は、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましく、一軸押出機、二軸押出機等を挙げることができる。特に、二軸押出機を備えたものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、混合物の強度を高めることができる。また、二軸押出機を備えたものを用いることにより、連続的に高い生産性を保ちながら混合物を得ることができる。
【0039】
また、混合物を所定形状の成形物(ペレット)に成形してもよい。成形物の形状としては、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等とすることができる。このような形状は、簡易な形状であって複雑なものではないため、成形コストを抑制しつつ不良品の発生を抑制することができ、得られる成形物の品質も均一となり、歩留り低下を抑制することができる。
【0040】
成形物の形状は、特に球状であることが好ましい。球状の成形物であることにより還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。成形物の形状を球状とする場合には、直径が10mm以上30mm以下程度となるように成形することができる。また、直方体状、立方体状、円柱状等とする場合には、概ね、縦、横の内寸が500mm以下程度となるように成形することができる。
【0041】
成形物の大きさとしては、特に限定されないが、成形物の体積が8000mm3以上であることが好ましい。成形物の体積が8000mm3以上であることにより、成形コストが抑制され、さらに、成形物全体に占める表面積の割合が低くなるため、加熱還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。
【0042】
また、得られた混合物を所定の還元用の容器に充填してもよい。容器に充填された混合物が容器に充填された状態のまま還元処理が施されることにより、後述する分離工程S3において還元されたメタルが磁選等の処理によりメタルを分離回収し易くなり、ロスを抑制することができる。
【0043】
還元用の容器への混合物の充填方法としては、押出機等を用いて混合物を順次容器に供給することによって行うことができる。還元用の容器としては、特に限定されないが、直方体又は立方体の形状を有するものを用いることができる。容器の大きさについても、特に限定されないが、例えば、直方体の形状である場合、上面から視たときの面の縦と横の内寸が50mm以上1000mm以下、高さの内寸が5mm以上500mm以下のものを用いることが好ましい。還元用の容器としては、特に限定されないが、容器内に充填した成形物に対して還元処理時に悪影響をもたらさず、その還元反応を効率的に進行させることができる材質からなるものを用いることが好ましい。具体的には、黒鉛製のるつぼ、セラミックや金属からなるもの等を用いることができる。
【0044】
混合工程S1では、得られた混合物に乾燥処理を施してもよい。混合物は、混練や成形物の成形等において上記混合物を多量の水と共に混合する。本実施の形態におい乾燥処理を施すことは必須の態様ではないが、多量の水を含む混合物に乾燥処理を施すことにより、後述する還元処理において水分の気化に伴う混合物の膨張を防ぐことができる。
【0045】
さらに、混合物に乾燥処理を施すことで、還元炉内における混合物に起因する水分混入を抑制することができる。これにより、還元炉内の雰囲気気体に含まれる水分量をより効果的に減らすことができ、還元物に含まれるメタルの酸化をより効果的に抑制することができる。
【0046】
混合物を乾燥する方法は、特に限定されず、混合物を所定の乾燥温度(例えば、300℃以上400℃以下)に保持する方法や所定の乾燥温度の熱風を混合物に対して吹き付けて乾燥させる方法等、従来公知の手段を用いることができる。このような乾燥処理により、例えば、混合物の固形分が70質量%程度で、水分が30質量%程度となるようにする。なお、この乾燥処理時における混合物自身の温度としては、100℃未満とすることが、混合物内部からの水分の突沸等による混合物の破裂を抑制できて好ましい。
【0047】
また、乾燥処理は連続して一度に行ってもよいし複数回に分けて行ってもよい。乾燥処理を複数回に分けて行うことにより混合物の破裂をより効果的に抑制することができる。なお、乾燥処理を複数回に分けて行った場合において、2回目以降の乾燥温度としては、150℃以上400℃以下が好ましい。この範囲で乾燥することにより、還元反応が進むことなく乾燥することが可能となる。
【0048】
下記表2に、乾燥処理後の混合物における固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、成形物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0049】
【0050】
<2-2.還元工程>
[還元処理について]
還元工程S2は、得られた混合物を還元炉に装入して、混合物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る工程である。還元工程S2における還元処理により、製錬反応(還元反応)が進行して、混合物中では、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0051】
還元処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすい混合物の表面近傍において混合物中のニッケル酸化鉱石及び鉄酸化物が還元されメタル化してフェロニッケルとなり、殻(シェル)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、混合物中では、メタルと、スラグとが分かれて生成する。
【0052】
そして、処理時間が10分程度経過すると、還元反応に関与しない余剰の炭素質還元剤がメタルに取り込まれて融点を低下させて、メタルも液相となる。
【0053】
還元処理における温度(還元温度)としては、特に限定されないが、1200℃以上1450℃以下の範囲とすることが好ましく、1300℃以上1400℃以下の範囲とすることがより好ましい。このような温度範囲で還元することによって、均一に還元反応を生じさせることができ、品質のばらつきを抑制したフェロニッケルを生成させることができる。また、より好ましくは1300℃以上1400℃以下の範囲の還元温度で還元することで、比較的短時間で所望の還元反応を生じさせることができる。
【0054】
還元処理における時間(処理時間)としては、還元炉の温度に応じて設定されるが、10分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましい。
【0055】
還元処理においては、上述した範囲の還元温度になるまでバーナー等により還元炉の内部温度を上昇させ、昇温後にその温度を維持してもよい。
【0056】
なお、還元温度(℃)と還元時間(分)の数値を乗じた値を還元に要した熱量は、20000(℃×分)以上40000(℃×分)以下の範囲であることが好ましい。高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【0057】
さて、従来の酸化鉱石の製錬方法では、例えば、還元炉の内部温度を上昇させるバーナー等の燃料が燃焼したときに発生する水分が還元炉内に水分が残存することがあり、還元処理によって発生する雰囲気気体中の水分が還元炉内に残存していると、還元処理により得られた還元物に含まれるメタルがその水分に起因して酸化されることがあった。
【0058】
そこで、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法では、還元処理によって発生した雰囲気気体に含まれる水分を還元炉から外部へ排出することを特徴としている。これにより、還元炉内に残存する水分に起因して還元物に含まれるメタルが酸化されることを抑制することができ、高品質なメタルを製造することができる。
【0059】
還元炉からの水分の排出は、還元工程S2における処理のいずれのタイミングで行ってもよく、特に制限されない。例えば、混合物に対して還元処理を施すのと同時に(還元処理を施しながら)その還元処理によって発生した雰囲気気体に含まれる水分を常時還元炉から排出することができる。または、混合物に対する還元処理後の還元炉内に還元物が保持されている状況下(還元物を還元炉から取り出す前)に雰囲気気体に含まれる水分を還元炉から排出することができる。または、還元処理により得られた還元物の取り出し後であって新たな混合物を還元炉に装入する前に雰囲気気体に含まれる水分を還元炉から排出することができる。
【0060】
水分を還元炉から排出する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、還元処理によって発生した雰囲気気体に含まれる水分を液化させることによって排出する方法を挙げることができる。水分を液化させる方法としては、雰囲気気体を冷却することにより水分を液化する方法が挙げられる。より具体的には、還元炉の炉壁の一部を冷却板等で構成し、冷却板に雰囲気気体が接触するようにすることで、その冷却板に水分を水滴状態で付着生成させる。なお、雰囲気気体中の水分を液化させて排出する機構を有する還元炉の構成例については後で詳述する。
【0061】
還元炉内からの水分の排出は、例えば、雰囲気気体中に水分濃度が1.0%以下になるように行うことが好ましく、0.5%以下になるようにすることがより好ましい。水分を排出して還元炉内の水分濃度が1.0%以下の状態とすることで、還元物に含まれるメタルの酸化をより効果的に抑制することができる。
【0062】
[還元炉について]
図2は、還元処理に使用する還元炉の断面図であり、構成の一例を示すものである。還元炉1は、混合物aに加熱還元処理を施すための本体部10と、還元炉1内の雰囲気気体bに含まれる水分を液化する冷却部20と、液化した水分を還元炉1から排出する排出部30と、を備えている。
【0063】
(本体部)
本体部10は、還元炉1内に装入された混合物に対して加熱還元処理を施す場となる。具体的に、本体部10は、処理対象の混合物aが載置される炉床11と、炉壁12と、を備える。本体部10では、例えば1200℃以上1450℃以下程度の温度(還元温度)に加熱され、炉床11上に載置された混合物aに対して所定の還元時間で加熱還元処理が施される。
【0064】
炉床11は、還元温度に耐えるようにする観点から、耐火煉瓦で構成されることが好ましい。耐火煉瓦で構成されていることにより、混合物aが炉床11と反応してしまうことを防ぐことができ、熔着等を抑えることができる。なお、炉壁12についても同様に、耐久性の観点から耐火煉瓦で構成されていることが好ましい。
【0065】
また、炉床11は、固定されたものであってもよく、移動炉床等の回転移動等するものであってもよい。例えば、移動炉床を備える還元炉であれば、連続的に還元反応を進行させ、一つの設備で反応を完結させることができる。
【0066】
また、炉床11には、還元剤(以下、「炉床還元剤」ともいう)を敷き詰めて、その敷き詰められた炉床還元剤の上に混合物aを載置するようにしてもよい。また、炉床11には、酸化物を主成分とする床敷材を敷いてもよい。
【0067】
(冷却部)
冷却部20は、還元炉1内に設けられており、還元炉1内の雰囲気気体bに含まれる水分を冷却する。具体的に、
図2に例示する冷却部20は、炉壁12の一部を構成する冷却板により構成されており、雰囲気気体bよりも相対的に低い温度に保持されている。このような冷却部20に雰囲気気体bが接触することで、その冷却部20の冷却機能により冷却されて雰囲気気体bに含まれる水分が液化される。
【0068】
冷却部20は、例えば、炉外側に冷却液体を流す冷却配管が付属されており、冷却配管内を冷却液体が循環することで炉内側にある冷却板が冷却されるように構成されている。なお、冷却部20における冷却方法については冷却液体を流す方法に限られない。また、冷却液体を用いて冷却させる場合にも、その温度は雰囲気気体bの温度に応じて適宜設定することができる。
【0069】
なお、他の実施態様として、冷却部を、炉外に別途設けるよう構成してもよい。その場合、例えば冷却室等の構成として、還元炉と冷却室とを配管等を介して接続し、還元炉内の雰囲気気体を一旦冷却室に回収して冷却するようにしてもよい(図示せず)。このような態様であることにより、還元炉の内部温度の低下を防ぐことができ、エネルギーロスを抑えることができる。
【0070】
(排出部)
排出部30は、冷却部20の近傍に設けられ、冷却部20による冷却によって生成した液体の水分を還元炉1から排出する。具体的には、排出部30は、冷却部20の所定の位置に接続された配管から構成されており、液化した水分をその配管口に集め、配管内において自然通液させることによって排出する。なお、水分が効率的に排出されるように溝等の誘導機構を設けてもよい。
【0071】
排出部3は、液化した水分を排出できるような構成であれば特に制限はされず、例えば上述したように所定の内径を有する配管により構成することができる。
【0072】
<2-3.分離工程>
分離工程S3は、還元工程S2より得られた還元物からメタルとスラグを分離する工程である。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相とスラグ相とを含む混在物(混合物)からメタル相を分離して回収する。
【0073】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0074】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、還元工程S2における処理で得られた、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0075】
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによって、メタルを回収する。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例及び比較例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:85質量%、平均粒径:約200μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤(石炭粉)は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe2O3)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに、試料に応じて27.5質量%の割合となる量で含有させた。
【0078】
次に、得られた混合物を、適宜水分を添加してパン型造粒機を使って直径15±1.0mmの球状の成型物(試料)を9(実施例1~9、比較例1~3)に分けた。
【0079】
各試料は還元前に、固形分が70重量%程度、水分が30重量%程度となるように、170℃~250℃の熱風を吹き付けることで乾燥処理を施した。下記表3に、乾燥処理後の試料の固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0080】
【0081】
次に、製造した実施例1~9、比較例1~3の混合物(試料)還元炉の炉床に装入して、還元処理を施した。還元炉としては、
図2に示したような冷却部と配管(排出部)とを備える還元炉を用いた。なおこのとき、予め還元炉の炉床に炉床保護剤(主成分はSiO
2であり、その他の成分としてAl
2O
3、MgO等の酸化物を少量含有する。)を敷き詰め、その上に混合物(試料)を置いた。
【0082】
そして、下記表4に示すそれぞれの温度、時間で還元処理を施した。このとき、実施例1~9の混合物(試料)については、還元炉の冷却部と排出部を用いて還元処理によって発生した水分を、還元処理を施しながら還元炉から排出した。比較例1~3の混合物(試料)については、水分を還元炉から排出する操作を行うことなく、還元処理のみを施した。還元処理後は、窒素雰囲気中で速やかに室温まで冷却して、試料を大気中へ取り出した。
【0083】
冷却後の実施例1~6及び比較例1~3の試料を粉砕し、その後磁力選別によってメタルを回収した。
【0084】
還元加熱処理後の各試料について、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率、メタル回収率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。
【0085】
ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率、ニッケルメタルの回収率は、以下の式(1)、(2)、(3)により算出した。
ニッケルメタル化率=メタル中のニッケルの質量÷(還元物中の全てのニッケルの質量)×100(%) ・・・(1)式
メタル中ニッケル含有率=メタル中のニッケルの質量÷(メタル中のニッケルと鉄の合計質量)×100(%) ・・・(2)式
ニッケルメタル回収率=回収されたニッケルの量÷(投入した鉱石の量×鉱石中のニッケル含有割合)×100 ・・・・・(3)式
【0086】
下記表4に、それぞれの試料における、ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率、ニッケルメタル回収率を示す。
【0087】
【0088】
表4の結果からわかるように、還元処理によって発生する水分を還元炉から排出した実施例1~6では、比較例1~3と比べてニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率及びメタル回収率がいずれも高くなった。このことは、還元処理によって発生した水分を還元炉から排出したことで、還元物の酸化を抑制することができたためと考えられる。
【符号の説明】
【0089】
1 還元炉
10 本体部
11 炉床
12 炉壁
20 冷却部
30 排出部
a 混合物
b 雰囲気気体