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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】水溶性フィルム及び薬剤包装体
(51)【国際特許分類】
   C08F 216/06 20060101AFI20220817BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220817BHJP
   B65D 65/46 20060101ALI20220817BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C08F216/06
C08J5/18 CEX
B65D65/46
C08L29/04 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018554600
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2018038554
(87)【国際公開番号】W WO2019078223
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2017201935
(32)【優先日】2017-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】日裏 貴裕
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047126(WO,A1)
【文献】特開昭64-014244(JP,A)
【文献】特表2006-521449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 216/06
C08J 5/18
B65D 65/46
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を主成分とし、更に可塑剤(B)を含有するポリビニルアルコール系水溶性フィルムであって、
上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)中のカルボン酸変性基のラクトン化率が20~70%であり、
上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)がアクリル酸変性ポリビニルアルコール樹脂であり、
上記可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(B1)と融点が50℃以下である多価アルコール(B2)とを含有することを特徴とする水溶性フィルム。
【請求項2】
上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)のカルボン酸変性量が1~20モル%であることを特徴とする請求項1記載の水溶性フィルム。
【請求項3】
記可塑剤(B)の含有量が上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)100重量部に対して20~70重量部であることを特徴とする請求項1または2記載の水溶性フィルム。
【請求項4】
薬剤包装体として用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の水溶性フィルム。
【請求項5】
pH8の液体洗剤に浸漬した後における10℃の水中での水溶解性テストの溶解時間が250秒以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水溶性フィルムを貼り合わせてなる包装体と、上記包装体に内包された薬剤とを含有することを特徴とする薬剤包装体。
【請求項7】
上記薬剤が洗剤であることを特徴とする請求項6記載の薬剤包装体。
【請求項8】
上記薬剤が液体洗剤であることを特徴とする請求項6または7記載の薬剤包装体。
【請求項9】
上記液体洗剤のpHが6~14であることを特徴とする請求項8記載の薬剤包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を主成分とする水溶性フィルムに関し、更に詳しくは、冷水溶解性に優れ、機械特性にも優れる、薬剤包装体として有用な水溶性フィルム、及びこれを用いてなる薬剤包装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶性を活かして、農薬や洗浄剤等の各種薬剤をポリビニルアルコール系樹脂のフィルムからなる袋に入れた薬剤の分包が提案され、幅広い用途に用いられている。
かかる薬剤包装用途に用いる水溶性フィルムには、優れた水溶解性に加えて、包装体とした際に、成型しやすい、破袋しない、張りが低減しないといった機械特性も満足することが要求される。
【0003】
このような薬剤の個包装体に用いるポリビニルアルコール系水溶性フィルムとして、種々の変性ポリビニルアルコール樹脂を用いたフィルムが知られている。例えば、引用文献1には、ランダムなモノマー分布を有する冷水溶解性に優れたアクリル酸変性ポリビニルアルコール樹脂からなるフィルムが開示されており、21℃の水溶解性評価において、フィルムの崩壊・溶解時間が短く水溶解性に優れることが記載されている。また、引用文献2には、冷水溶解性に適した水溶性フィルムとして、特定の可塑剤を含有してなる種々の変性ポリビニルアルコールフィルムが開示されており、20℃の水溶解性評価においてフィルムの残留物が少ないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/087821号
【文献】国際公開第2016/160116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、液体洗剤の包装体においては、市場の拡大に伴って様々な環境下で使用されるようになり、また、環境エネルギーの点からも、より低温の水にも容易に溶解することが要求されるようになっており、包装体用に用いられるポリビニルアルコール系水溶性フィルムにおいては水溶解性の更なる向上が求められている。
特に、アクリル酸変性ポリビニルアルコールフィルムは、他のカルボン酸変性ポリビニルアルコールフィルムと比べて低温での水溶解性が低く、使用条件によってはフィルムが溶け残るなどの問題が生じることがあった。また、中性~弱アルカリ性領域の薬剤の包装に用いると、フィルムの水溶解性が経時的に低下するという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明ではこのような背景下において、優れた冷水溶解性を示し、薬剤包装時のフィルムの経時的な水溶解性の低下も抑制され、機械特性にも優れた、薬剤の包装用途に有用な水溶性フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに、本発明者はかかる事情を鑑み鋭意研究した結果、カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を主成分とする水溶性フィルムにおいて、フィルム中のカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂のカルボン酸変性基のラクトン化率を従来よりも低い特定範囲とすることにより、冷水溶解性に優れ、機械特性にも優れたポリビニルアルコール系水溶性フィルムが得られることを見出した。
具体的には、フィルム中のポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸変性基の構造に着目し検討した結果、ラクトン環構造と、カルボン酸またはその塩とのバランスを調整すること、即ちカルボン酸変性基のラクトン化率を従来よりも低い特定範囲とすることにより、フィルムの機械特性を損なうことなく、低温でのフィルムの水溶解性を向上させることができ、冷水溶解性に優れた水溶性フィルムを得ることができたものである。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を主成分とするポリビニルアルコール系水溶性フィルムであって、上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)中のカルボン酸変性基のラクトン化率が20~70%である水溶性フィルムである。
【0009】
また、本発明では、pH8の液体洗剤に浸漬した後における10℃の水中での水溶解性テストの溶解時間が250秒以下である水溶性フィルムを第2の要旨とするものである。
【0010】
更に、本発明では、前記水溶性フィルムを貼り合わせてなる包装体と、上記包装体に内包された薬剤とを含有する薬剤包装体を第3の要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水溶性フィルムは、優れた冷水溶解性を有するとともに、機械特性にも優れる。
特にアクリル酸変性ポリビニルアルコール樹脂からなる水溶性フィルムにおいても、優れた冷水溶解性を有し、更には、薬剤包装時のフィルムの経時的な水溶解性の低下を効果的に抑制することができる。
【0012】
また、上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)のカルボン酸変性量が1~20モル%であると、より優れた冷水溶解性を得ることができる。
【0013】
また、更に可塑剤(B)を含有し、上記可塑剤(B)の含有量が上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)100重量部に対して20~70重量部であると、液体薬剤等の液体を包装して包装体とした場合に経時で水溶性フィルムの強靭さの低下を抑えることができ、更に機械強度が低下することも抑えることができる。
【0014】
上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)がアクリル酸変性ポリビニルアルコール樹脂であると、冷水に対する経時水溶解性の優れた改善効果を得ることができる。
【0015】
更に、上記水溶性フィルムを薬剤包装体として用いると、包装体を開封することなく、薬剤を用いることができる。
【0016】
pH8の液体洗剤に浸漬した後における10℃の水中での水溶解性テストの溶解時間が250秒以下である水溶性フィルムであると、従来では達成し得ない冷水溶解性改善効果を得ることができる。
【0017】
また、上記水溶性フィルムを貼り合わせてなる包装体と、上記包装体に内包された薬剤とを含有する薬剤包装体であると、開封する必要なく簡便に用いることができ、更に上記水溶性フィルムが、冷水溶解性に優れたものであり、機械特性にも優れるため、良好な包装体を得ることができる。
【0018】
上記薬剤が洗剤である薬剤包装体であると、洗剤使用の際に計量する手間を省くことができ、より簡便に用いることができる。
【0019】
上記薬剤が液体洗剤である薬剤包装体であると、液体洗剤で周囲を汚すことなく、より一層簡便に用いることができる。
【0020】
上記液体洗剤のpHが6~14であると、油脂・タンパク質などの汚れ成分に対する洗浄効果が優れ、また水溶性フィルムの継時的な水溶解性の低下抑制効果が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のポリビニルアルコール系水溶性フィルムは、カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を主成分とするポリビニルアルコール系水溶性フィルムであり、フィルム中のカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が有するカルボン酸変性基のラクトン化率が特定割合であることを特徴とするものである。
以下、ポリビニルアルコールを「PVA」、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水溶性フィルムを「PVA系水溶性フィルム」と略記することがある。
【0022】
ここでカルボン酸変性PVA樹脂(A)を主成分として含有するとは、水溶性フィルム全体に対して、カルボン酸変性PVA樹脂(A)を通常、50重量%以上、好ましくは55重量%以上、特に好ましくは60重量%以上含有することを意味する。
かかる含有量が少なすぎると、フィルムの水溶解性や機械特性が低下する傾向がある。かかる含有量の上限については、薬剤包装体とした場合の経時的な形状安定性の点から、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下、特に好ましくは90重量%以下である。
【0023】
本発明においては、上記フィルム中のカルボン酸変性PVA樹脂(A)が有するカルボン酸変性基のラクトン化率が20~70%であることが重要であり、好ましくは30~65%である。
かかるラクトン化率が低すぎると、フィルムが柔らかくなりすぎて成型性が低下したり水への溶解が速くなりすぎ本発明の効果を達成できず、高すぎてもフィルムの冷水への溶解性が低下したり、薬剤包装時に経時的に水溶解性が低下するため本発明の効果が達成できない。
【0024】
上記カルボン酸変性PVA樹脂(A)が有するカルボン酸変性基は、通常、カルボン酸またはその塩として存在し、一部はビニルエステル由来の水酸基とカルボキシル基が反応してラクトン環構造を形成している。
【0025】
そして、ラクトン化率の制御に関しては、例えば、(1)水溶性フィルムの製膜原料の調製時に、製膜原料のpHを適度な弱アルカリ性範囲に調整する方法、(2)水溶性フィルムの製膜原料の調製時に、酸触媒と水を共存させて調整する方法が挙げられ、ラクトン化率の制御が容易である点から(1)の方法が好ましい。上記の方法で調整することにより、フィルム中のカルボン酸変性PVA樹脂(A)が有するカルボン酸変性基のラクトン化率を本発明で規定する特定範囲内とすることができる。
【0026】
上記ラクトン環としては、例えば、炭素数3~10のものが挙げられ、例えば、α-アセトラクトン(C=2)、β-プロピオラクトン(C=3)、γ-ブチロラクトン(C=4)及びδ-バレロラクトン(C=5)等が挙げられる。
なかでも、ラクトン化を制御しやすい点から炭素数4のγ-ブチロラクトンが好ましい。
【0027】
本発明におけるカルボン酸変性PVA樹脂(A)が有するカルボン酸変性基のラクトン化率は、下記の方法で測定したものである。
即ち、PVA系水溶性フィルムを試料濃度5w/v%となるように溶媒(D2O)に溶解させ、1H-NMR測定を行い(装置:Bruker社製「Ascend400」(400MHz)使用、内部標準物質:3-トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム、溶媒:D2O、測定温度:50℃、積算回数16回)、1H-NMRスペクトルのピークの積分値より、各構造(カルボン酸、カルボン酸塩、ラクトン環)の含有量を算出し、ラクトン環の含有割合を求める。
【0028】
例えば、マレイン酸変性PVA樹脂の場合は、2.35~2.9ppmに検出されるピークの積分値(I)によりカルボン酸またはカルボン酸塩の含有量を、2.9~3.35ppmに検出されるピークの積分値(II)によりラクトン環構造の含有量を算出することができる。
そして、この場合のカルボン酸変性基のラクトン化率は下記式により算出される。
[式] ラクトン化率(%)=(II)/{(I)+(II)}×100
【0029】
また、例えばアクリル酸変性PVA樹脂の場合は、2.35~2.6ppmに検出されるピークの積分値(III)によりカルボン酸またはカルボン酸塩の含有量を、2.6~3.1ppmに検出されるピークの積分値(IV)によりラクトン環構造の含有量を算出することができる。
そして、この場合のカルボン酸変性基のラクトン化率は下記式により算出される。
[式] ラクトン化率(%)=(IV)/{(III)+(IV)}×100
【0030】
<カルボン酸変性PVA樹脂(A)>
まず、本発明で用いられるカルボン酸変性PVA樹脂(A)について説明する。
本発明で用いられるカルボン酸変性PVA樹脂(A)は、例えば、アクリル酸変性PVA樹脂、イタコン酸変性PVA樹脂、マレイン酸変性PVA樹脂等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
なかでも本発明においては、取扱い性やビニルエステル系単量体との重合性が高く生産性に優れる点ではマレイン酸変性PVA樹脂、イタコン酸変性PVA樹脂が好ましく、また、本発明の冷水溶解性改善効果が得られやすい点からは、アクリル酸変性PVA樹脂であることが好ましい。
【0031】
本発明のPVA系水溶性フィルムにおいては、主成分となるカルボン酸変性PVA樹脂(A)が特にアクリル酸変性PVA樹脂の場合において、冷水に対する経時水溶解性において顕著な効果を奏する。
【0032】
本発明で用いられるカルボン酸変性PVA樹脂(A)は任意の方法で製造することができ、例えば、(i)ビニルエステル系化合物とカルボキシル基を有する不飽和単量体を共重合した後にケン化する方法、(ii)カルボキシル基を有するアルコールやカルボキシル基を有し、かつアルデヒドあるいはチオール等の官能基を有する化合物を連鎖移動剤として共存させてビニルエステル系化合物を重合した後にケン化する方法等を挙げることができる。
【0033】
上記(i)または(ii)の方法におけるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられるが、酢酸ビニルを用いることが好ましい。上記ビニルエステル系化合物は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記(i)の方法におけるカルボキシル基を有する不飽和単量体としては、エチレン性不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等)、またはエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル(マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等)、またはエチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル(マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル等)〔但し、これらのジエステルは共重合体のケン化時に加水分解によりカルボキシル基に変化することが必要である〕、またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)、あるいはエチレン性不飽和モノカルボン酸((メタ)アクリル酸、クロトン酸等)等の単量体、及びそれらの塩が挙げられる。
【0035】
なかでもマレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、マレイン酸塩、無水マレイン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、(メタ)アクリル酸等を用いることが好ましく、特には、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、マレイン酸塩、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸を用いることが好ましい。上記カルボキシル基を有する不飽和単量体は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリルあるいはメタクリルを意味する。
【0036】
上記(ii)の方法においては、特に連鎖移動効果の大きいチオールに由来する化合物が有効であり、以下の化合物が及びそれらの塩が挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
【化2】
【0039】
[但し、上記一般式(1)、(2)において、nは0~5の整数で、R1、R2、R3はそれぞれ水素原子または低級アルキル基(置換基を含んでもよい)を示す。]
【0040】
【化3】
[但し、上記一般式(3)において、nは0~20の整数である。]
【0041】
具体的にはメルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトステアリン酸等が挙げられる。
【0042】
なお、上記カルボキシル基を有する不飽和単量体、ビニルエステル系化合物以外に、その他の一般の単量体を、水溶性を損なわない範囲で含有させて重合を行なうことができる。これらの単量体としては、例えば、飽和カルボン酸のアリルエステル、α-オレフィン、アルキルビニルエーテル、アルキルアリルエーテル、その他、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニル等を用いることができる。
【0043】
上記(i)の、ビニルエステル系化合物とカルボキシル基を有する不飽和単量体との共重合方法としては、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等、公知の重合方法を任意に用いることができるが、通常、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合法により行われる。
【0044】
重合触媒としては、重合方法に応じて、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系触媒、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物触媒等の公知の重合触媒を適宜選択することができる。また、重合の反応温度は50℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0045】
ケン化は公知の方法で行うことができ、通常、得られた共重合体をアルコールに溶解してケン化触媒の存在下で行なわれる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の共重合体の濃度は、溶解率の観点から20~50重量%の範囲から選択される。
【0046】
ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができ、酸触媒を用いることも可能である。ケン化触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して1~100ミリモル当量にすることが好ましい。
【0047】
また、カルボン酸変性PVA樹脂(A)の製造方法としては、上記方法に限らず、例えばポリビニルアルコール(部分ケン化物または完全ケン化物)にジカルボン酸、アルデヒドカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等の水酸基と反応性のある官能基をもつカルボキシル基含有化合物を後反応させる方法等も実施可能である。
【0048】
本発明で用いられるカルボン酸変性PVA樹脂(A)の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは82~99.9モル%、更に好ましくは85~99.5モル%、殊に好ましくは90~99.0モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、水溶性が低下する傾向がある。
【0049】
また、本発明で用いられるカルボン酸変性PVA樹脂(A)の20℃における4重量%水溶液粘度は10~50mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは15~45mPa・s、更に好ましくは20~40mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としてのフィルムの機械強度が低下する傾向があり、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。
【0050】
上記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定され、4重量%水溶液粘度は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。
【0051】
本発明において、上記カルボン酸変性PVA樹脂(A)の変性量は、1~20モル%であることが好ましく、特に好ましくは1.5~15モル%、更に好ましくは2~12モル%である。かかる変性量が少なすぎると、水に対する溶解性、特に冷水溶解性が低下したり、薬剤包装時にフィルムの水溶解性が経時的に低下する傾向があり、多すぎると樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下する傾向があり、また、ブロッキングを引き起こしやすくなる傾向がある。
【0052】
なかでも、カルボン酸変性PVA樹脂(A)がマレイン酸変性PVA樹脂の場合には、変性量は1~10モル%であることが好ましく、特に好ましくは1.5~9モル%、更に好ましくは2~8モル%であり、アクリル酸変性PVA樹脂の場合には、2~15モル%であることが好ましく、特に好ましくは3~12モル%、更に好ましくは4~10モル%である。
【0053】
本発明のPVA系水溶性フィルムにおいて、カルボン酸変性PVA樹脂(A)は単独で用いることもできるし、ケン化度、粘度、変性量、変性種等が異なる2種以上を併用すること等もできる。
【0054】
また、本発明のPVA系水溶性フィルムにおいては、本発明の効果を阻害しない範囲で、カルボン酸変性PVA樹脂(A)以外の他の変性PVA樹脂や未変性PVAを含有していてもよい。カルボン酸変性PVA樹脂(A)以外の他の変性PVA樹脂としては、例えば、スルホン酸基変性PVA樹脂、リン酸基変性PVA樹脂、側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA樹脂等が挙げられる。
これらカルボン酸変性PVA樹脂(A)以外の他の変性PVA樹脂や未変性PVAの含有量は、フィルム中のPVA系樹脂全体に対して、50重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは30重量%以下、更には10重量%以下であることが好ましい。
【0055】
〔可塑剤(B)〕
本発明のPVA系水溶性フィルムにおいては、更に可塑剤(B)を含有させることがフィルムに柔軟性や、成型容易性を付与する点で好ましい。可塑剤(B)は1種のみを用いても、2種以上を併用してもよいが、2種以上を併用することが、包装体として用いる場合のフィルム自身の強靭さや、特に液体洗剤を包装した際の包装体の経時的な形状安定性の点で好ましい。
【0056】
かかる可塑剤(B)を2種以上併用する場合、融点が80℃以上である多価アルコール(B1)(以下、「可塑剤(B1)」と略記することがある。)、及び融点が50℃以下である多価アルコール(B2)(以下、「可塑剤(B2)」と略記することがある。)の2種の可塑剤を用いることが、水溶性フィルム製造時や包装体製造時の強靭さ及び液体薬剤用の包装体とした際の経時的な形状安定性の点で好ましい。
【0057】
上記の融点が80℃以上である多価アルコール(B1)、すなわち可塑剤(B1)としては、糖アルコール、単糖類、多糖類の多くが適用可能であるが、なかでも、例えば、サリチルアルコール(83℃)、カテコール(105℃)、レゾルシノール(110℃)、ヒドロキノン(172℃)、ビスフェノールA(158℃)、ビスフェノールF(162℃)、ネオペンチルグリコール(127℃)等の2価アルコール、フロログルシノール(218℃)等の3価アルコール、エリスリトール(121℃)、トレイトール(88℃)、ペンタエリスリトール(260℃)等の4価アルコール、キシリトール(92℃)、アラビトール(103℃)、フシトール(153℃)、グルコース(146℃)、フルクトース(104℃)等の5価アルコール、マンニトール(166℃)、ソルビトール(95℃)、イノシトール(225℃)等の6価アルコール、ラクチトール(146℃)、スクロース(186℃)、トレハロース(97℃)等の8価アルコール、マルチトール(145℃)等の9価以上のアルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。
上記のなかでも、水溶性フィルムの引張強度の点で融点が85℃以上、特には90℃以上のものが好ましい。なお、融点の上限は通常300℃、特には200℃が好ましい。
【0058】
更に、本発明では、可塑剤(B1)のなかでも、1分子中の水酸基の数が4個以上であることがPVA系樹脂との相溶性の点で好ましく、特に好ましくは5~10個、更に好ましくは6~8個であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース、トレハロース等が好適なものとして挙げられる。
【0059】
また、本発明においては、水溶性フィルムの張りの点で、可塑剤(B1)の分子量が150以上であることが好ましく、特に好ましくは160~500、更に好ましくは180~400であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース等が好適なものとして挙げられる。
【0060】
一方、融点が50℃以下である多価アルコール(B2)、すなわち可塑剤(B2)としては、脂肪族系アルコールの多くが適用可能であり、例えば、好ましくはエチレングリコール(-13℃)、ジエチレングリコール(-11℃)、トリエチレングリコール(-7℃)、プロピレングリコール(-59℃)、テトラエチレングリコール(-5.6℃)、1,3-プロパンジオール(-27℃)、1,4-ブタンジオール(20℃)、1,6-ヘキサンジオール(40℃)、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン(18℃)、ジグリセリン、トリエタノールアミン(21℃)等の3価以上のアルコールが挙げられる。そして、水溶性フィルムの柔軟性の点で融点が30℃以下、特には20℃以下のものが好ましい。なお、融点の下限は通常-80℃であり、好ましくは-10℃、特に好ましくは0℃である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。
【0061】
更に、本発明では、可塑剤(B2)のなかでも、1分子中の水酸基の数が4個以下、特には3個以下であることが室温(25℃)近傍での柔軟性を制御しやすい点で好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。
【0062】
また、本発明においては、可塑剤(B2)として、柔軟性を制御しやすい点で、分子量が100以下であることが好ましく、特には50~100、更には60~95であることが好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。
【0063】
本発明においては、上記の可塑剤(B1)や(B2)以外の可塑剤(B3)を併用することもでき、かかる可塑剤(C3)としては、例えば、トリメチロールプロパン(58℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノール、カルビトール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類、ジブチルエーテル等のエーテル類、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ソルビン酸、クエン酸、アジピン酸等のカルボン酸類、シクロヘキサノン等のケトン類、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、イミダゾール化合物等のアミン類、アラニン、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン、システイン等のアミノ酸類等が挙げられる。また、耐カール性に優れる点や強度と柔軟性のバランスが良い点からは、可塑剤(B1)と(B2)に加えて、更に可塑剤(B3)として融点が50℃により大きく80℃未満である多価アルコールの3種類の可塑剤を用いることが好ましく、特には可塑剤(B3)としてトリメチロールプロパンを用いることが好ましい。
【0064】
可塑剤(B)の含有量は、カルボン酸変性PVA樹脂(A)100重量部に対して、20重量部以上であることが好ましく、より好ましくは20~70重量部、特に好ましくは25~65重量部、更に好ましくは30~60重量部、殊に好ましくは35~50重量部である。かかる可塑剤(B)の含有量が少なすぎると液体薬剤等の液体を包装して包装体とした場合に経時で水溶性フィルムの強靭さを損なう傾向があり、多すぎると機械強度が低下する傾向がある。
【0065】
また、可塑剤(B)として、可塑剤(B1)と可塑剤(B2)を併用する場合について、その含有割合(重量比)(B1/B2)が0.1~5であることが好ましく、特に好ましくは0.35~4.5、更に好ましくは0.4~4、殊に好ましくは0.5~3.5、最も好ましくは0.7~3であることが好ましい。かかる含有重量割合が小さすぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎる傾向があり、低温でのシール強度が低下する傾向があり、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、大きすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向がある。
【0066】
また、上記の可塑剤(B1)と可塑剤(B2)の含有量としては、カルボン酸変性PVA樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(B1)が5~40重量部、更には8~30重量部、特には10~25重量部であることが好ましく、可塑剤(B2)が5~40重量部、特には10~35重量部、更には15~30重量部であることが好ましい。
かかる可塑剤(B1)が少なすぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎて、低湿環境下でもろくなる傾向がある。また、可塑剤(B2)が少なすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。
【0067】
更に、可塑剤(B)全体に対して、可塑剤(B1)及び可塑剤(B2)の合計量が70重量%以上であることが好ましく、特には80重量%以上、更には85重量%以上であることが好ましい。かかる可塑剤(B1)と(B2)の合計量が少なすぎると機械強度が低下する傾向がある。
【0068】
また、上記の可塑剤(B1)と可塑剤(B2)に加えて、可塑剤(B3)を併用する場合において、可塑剤(B1)、(B2)、(B3)の相互の割合については、可塑剤(B1)、(B2)、(B3)の合計量に対する可塑剤(B3)の含有割合が、20重量%以下であることが好ましく、特には、成型容易性、耐ピンホール性及び耐破袋性の点から0.5~18重量%であることが好ましく、特に好ましくは2~15重量%、更に好ましくは4~13重量%である。可塑剤(B3)の含有割合が大きすぎると、常温時と高温時のフィルムの状態変化が大きくなり耐ピンホール性及び耐破袋性が低下するおそれがある。
【0069】
更に、可塑剤(B1)に対する可塑剤(B3)の含有割合(重量比)(B3/B1)が、0.02~10であることが好ましく、特に好ましくは0.05~8、更に好ましくは0.1~5である。かかる含有割合が小さすぎると成型性が低下する傾向があり、大きすぎると耐ピンホール性及び耐破袋性が低下する傾向がある。
【0070】
可塑剤(B2)に対する可塑剤(B3)の含有割合(重量比)(B3/B2)が、0.02~10であることが好ましく、特に好ましくは0.05~8、更に好ましくは0.1~5である。かかる含有割合が小さすぎると水溶性フィルムが柔らかくなり破袋するおそれがあり、大きすぎると耐ピンホール性及び耐破袋性が低下する傾向がある。
【0071】
本発明においては、必要に応じて、更に、フィラー(C)や界面活性剤(D)等を含有させることができる。
【0072】
上記フィラー(C)は、耐ブロッキング性の目的で含有されるものであり、有機フィラー(C1)や無機フィラー(C2)が挙げられるが、なかでも有機フィラー(C1)が好適に用いられる。また、包装体作製時の水シール性改良の点からは、有機フィラー(C1)と無機フィラー(C2)の両方を併用することが好ましい。
【0073】
本発明で用いられる有機フィラー(C1)とは、有機化合物で構成された針状・棒状、層状、鱗片状、球状等の任意の形状からなる粒子状物質(1次粒子)、もしくはその粒子状物質の集合体(2次粒子)のことを示す。
かかる有機フィラー(C1)としては、主に高分子化合物の中から選択され、例えば、メラミン系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂の他、澱粉、ポリ乳酸等の生分解性樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、澱粉、等の生分解性樹脂が好ましく、特にはPVAに対する分散性の点から澱粉が好ましい。
【0074】
上記の澱粉としては、例えば、生澱粉(トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、コムギ澱粉、キッサバ澱粉、サゴ澱粉、タピオカ澱粉、モロコシ澱粉、コメ澱粉、マメ澱粉、クズ澱粉、ワラビ澱粉、ハス澱粉、ヒシ澱粉等)、物理的変性澱粉(α-澱粉、分別アミロース、湿熱処理澱粉等)、酵素変性澱粉(加水分解デキストリン、酵素分解デキストリン、アミロース等)、化学分解変性澱粉(酸処理澱粉、次亜塩素酸酸化澱粉、ジアルデヒド澱粉等)、化学変性澱粉誘導体(エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、架橋澱粉等)等が挙げられる。なかでも入手の容易さや経済性の点から、生澱粉、とりわけトウモロコシ澱粉、コメ澱粉を用いることが好ましい。
【0075】
本発明で用いられる無機フィラー(C2)とは、無機化合物で構成された針状・棒状、層状、鱗片状、球状等の任意の形状からなる粒子状物質(1次粒子)、もしくはその粒子状物質の集合体(2次粒子)のことを示す。
無機フィラー(C2)としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、珪藻土、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化亜鉛等の酸化物系無機化合物や、タルク、クレー、カオリン、雲母、アスベスト、石膏、グラファイト、ガラスバルーン、ガラスビーズ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ウィスカー状炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドーソナイト、ドロマイト、チタン酸カリウム、カーボンブラック、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、加工鉱物繊維、炭素繊維、炭素中空球、ベントナイト、モンモリロナイト、銅粉、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アルミニウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、クロム酸カリウム等が挙げられる。これらは、単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0076】
なかでも、PVA系樹脂との水素結合作用に優れ、水シール性の向上効果が高くなる点から、酸化物系無機化合物、タルクを用いることが好ましく、特に好ましくは酸化チタン、タルク、シリカを用いることが好ましく、更には、シリカを用いることが好ましい。
【0077】
上記フィラー(C)の平均粒子径は、耐ブロッキング性の点から、1~50μmであることが好ましく、特に好ましくは3~35μmである。
【0078】
また、有機フィラー(C1)の平均粒子径は、5~50μmであることが好ましく、特に好ましくは10~40μm、更に好ましくは15~35μmである。かかる平均粒子径が小さすぎるとフィルムのブロッキング性が高くなる傾向があり、大きすぎるとフィラー同士が凝集しやすくなり分散性が低下したり、フィルムを成型加工時に引き伸ばした際にピンホールとなる傾向がある。
【0079】
なお、有機フィラー(C1)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した値であり、得られた累計体積分布のD50値(累積50%の粒子径)より算出したものである。
【0080】
また、無機フィラー(C2)の平均粒子径は、1~20μmであることが好ましく、特に好ましくは2~15μm、更に好ましくは3~10μmである。かかる平均粒子径が小さすぎるとフィルムのブロッキング性が高くなる、フィルムの柔軟性や靭性が低下する等の傾向があり、大きすぎると水シール性向上の作用効果が得られにくい傾向がある。
【0081】
なお、無機フィラー(C2)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した値であり、得られた累計体積分布のD50値(累積50%の粒子径)より算出したものである。
【0082】
上記フィラー(C)の含有量は、カルボン酸変性PVA樹脂(A)100重量部に対して1~30重量部であることが好ましく、特に好ましくは2~25重量部、更に好ましくは2.5~20重量部である。かかる含有割合が少なすぎるとブロッキング性が高くなる傾向があり、多すぎるとフィルムの柔軟性や靱性が低下する傾向がある。
【0083】
有機フィラー(C1)と無機フィラー(C2)を併用する場合においては、無機フィラー(C2)に対する有機フィラー(C1)の含有比率(重量比:C1/C2)が2~15であることが好ましく、特に好ましくは3~13、更に好ましくは4~10である。無機フィラー(C2)に対する有機フィラー(C1)の含有量が小さすぎると、フィルムの柔軟性や靱性が低下して、良好な包装体が得られにくくなる傾向があり、無機フィラー(C2)に対する有機フィラー(C1)の含有量が大きすぎると水シール性が低下する傾向がある。
【0084】
本発明で用いられる界面活性剤(D)としては、水溶性フィルム製造時のキャスト面からの剥離性改善の目的で含有されるものであり、通常、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤が挙げられる。例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも、製造安定性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルが好適である。
【0085】
かかる界面活性剤(D)の含有量については、カルボン酸変性PVA樹脂(A)100重量部に対して0.01~3重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.1~2.5重量部、更に好ましくは0.5~2重量部である。かかる含有量が少なすぎると製膜装置のキャスト面と製膜した水溶性フィルムとの剥離性が低下して生産性が低下する傾向があり、多すぎると水溶性フィルムを包装体とする場合に実施するシール時の接着強度が低下する等の不都合を生じる傾向がある。
【0086】
なお、発明の目的を阻害しない範囲で、更に他の水溶性高分子(例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)や、香料、防錆剤、着色剤、増量剤、消泡剤、紫外線吸収剤、流動パラフィン類、蛍光増白剤、苦味成分(例えば、安息香酸デナトニウム等)等を含有させることも可能である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0087】
また、本発明においては、黄変抑制の点で酸化防止剤を配合することが好ましい。かかる酸化防止剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム等の亜硫酸塩、酒石酸、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、カテコール、ロンガリット等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも亜硫酸塩、特には亜硫酸ナトリウムが好ましい。かかる配合量はカルボン酸変性PVA樹脂(A)100重量部に対して0.1~10重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.2~5重量部、更に好ましくは0.3~3重量部である。
【0088】
<PVA系水溶性フィルムの製造>
本発明のPVA系水溶性フィルムは、カルボン酸変性PVA樹脂(A)を含有するPVA系樹脂水溶液(製膜原料)を調製し、流延、乾燥して製膜することにより製造することができる。
詳細には、上記のカルボン酸変性PVA樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)、必要に応じて更に、フィラー(C)及び界面活性剤(D)等を含有してなるPVA系樹脂組成物を水で溶解または分散してPVA系樹脂水溶液(製膜原料)を調製する溶解工程、前記工程で得られた製膜原料を用いてPVA系水溶性フィルムを製膜する製膜工程、の順序で製造してPVA系水溶性フィルムとする。
【0089】
以下、各工程について具体的に説明する。
〔溶解工程〕
溶解工程では、上記PVA系樹脂組成物を水で溶解または分散して、PVA系樹脂水溶液(製膜原料)を調製する。
上記PVA系樹脂組成物を水に溶解する際の溶解方法としては、通常、常温溶解、高温溶解、加圧溶解等が採用され、なかでも、未溶解物が少なく、生産性に優れる点から高温溶解、加圧溶解が好ましい。
溶解温度としては、高温溶解の場合には、通常80~100℃、好ましくは90~100℃であり、加圧溶解の場合には、通常80~130℃、好ましくは90~120℃である。
溶解時間としては、溶解温度、溶解時の圧力により適宜調整すればよいが、通常1~20時間、好ましくは2~15時間、特に好ましくは3~10時間である。溶解時間が短すぎると未溶解物が残る傾向にあり、長すぎると生産性が低下する傾向にある。
【0090】
また、溶解工程において、撹拌翼としては、例えば、パドル、フルゾーン、マックスブレンド、ツイスター、アンカー、リボン、プロペラ等が挙げられる。
更に、溶解した後、得られたPVA系樹脂水溶液に対して脱泡処理が行われるが、かかる脱泡方法としては、例えば、静置脱泡、真空脱泡、二軸押出脱泡等が挙げられる。なかでも静置脱泡、二軸押出脱泡が好ましい。
静置脱泡の温度としては、通常50~100℃、好ましくは70~95℃であり、脱泡時間は、通常2~30時間、好ましくは5~20時間である。
【0091】
かかる製膜原料の固形分濃度は、10~50重量%であることが好ましく、特に好ましくは15~40重量%、更に好ましくは20~35重量%である。かかる濃度が低すぎるとフィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎ、製膜原料の脱泡に時間を要したり、フィルム製膜時にダイラインが発生したりする傾向がある。
【0092】
本発明の水溶性フィルムの製造においては、溶解工程での製膜原料の調製時に製膜原料のpHを適度な弱アルカリ性範囲に調整することにより、製膜後のフィルムにおいて、カルボン酸変性基のラクトン化率が特定割合を満たす本発明のPVA系水溶性フィルムを製造することができる。
【0093】
具体的には、製膜原料のpHが7.5~10であることが好ましく、特に好ましくはpH7.6~9、更に好ましくはpH7.7~8.5である。
【0094】
上記製膜原料のpHの調整方法としては、例えば、pH調整剤を配合することにより調製でき、(I)水溶液とした際にアルカリ性を示すアルカリ金属塩を製膜原料に適量配合する方法、(II)水酸化ナトリウムを製膜原料に適量配合する方法、(III)アミン、アンモニア等の塩基性物質を製膜原料に適量配合する方法、等が挙げられるが、なかでも、製膜して得られるフィルムの冷水溶解性の点から上記(I)、(II)の方法が好ましく、更には、目的とする弱アルカリ性の範囲への調整のし易さの点と、アルカリの添加によるPVA系樹脂のケン化度上昇に伴うフィルムの水溶解性の低下を抑制する点から、上記(I)の方法で調整することが特に好ましい。
【0095】
上記(I)の方法で用いることができる水溶液とした際にアルカリ性を示すアルカリ金属塩としては、アルカリ金属と弱酸からなる塩であることが好ましい。
【0096】
上記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等が挙げられるが、冷水溶解性の点からナトリウム、カリウムが好ましく、特にはナトリウムが好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0097】
上記弱酸としては、25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい酸が好ましく、25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい酸としては、例えば、ギ酸[3.55]、酢酸[4.56]等のカルボン酸、炭酸水素[pK1=6.35]、リン酸-水素[pK2=7.20]、炭酸[pK2=10.33]、リン酸[pK3=12.35]等が挙げられる。
なお、上記[ ]内は25℃の水溶液中の酸解離定数を示すものであり、「岩波 理化学辞典第4版(1987)」より引用した値である。
【0098】
なかでも、弱アルカリ性範囲への調整しやすさとケン化度上昇による水溶解性低下を抑制する観点から、酸解離定数pKaが、6<pKa<12である弱酸が好ましく、特には8<pKa<11である弱酸が好ましく、更には炭酸が好ましい。
pKaが小さすぎる酸とのアルカリ金属塩を用いると、製膜原料のpHを、目的とする弱アルカリ性の範囲に調整しにくくなる傾向があり、pKaが大きすぎると目的とするpHの範囲に調整する際の配合量が多くなりフィルムの機械強度やヒートシール性に影響を及ぼすおそれがある。
【0099】
なお、例えば亜硫酸塩など還元剤として機能する化合物は、製膜原料配合時に硫酸塩(強酸の塩)へ変化しやすく、弱アルカリ性範囲のpH調整には使用しにくい場合がある。
また、カルボン酸塩も場合によっては、酸が強く、弱アルカリ性範囲のpH調整には使用しにくい場合がある。
【0100】
水溶液とした際にアルカリ性を示すアルカリ金属塩として具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソブトキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムtert-ブトキシド等が挙げられるが、なかでも炭酸塩を用いることが好ましく、特には炭酸ナトリウムが好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0101】
また、上記(III)の方法で用いることができる塩基性物質としては、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン化合物;ポリオキシエチレンジアルキルアミン、ジポリオキシエチレンアルキルアミン、モノポリオキシエチレンモノアルキルアミン、ジポリオキシエチレンアミン、トリアルキルアミン、トリポリオキシエチレンアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン等のアミン系界面活性剤;アンモニア水等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
なかでもブロッキング性も良好になる点からアミン系界面活性剤を用いることが好ましく、特には弱アルカリ性の範囲への調製がしやすい点からポリオキシエチレンジアルキルアミンが好ましい。
【0102】
上記pH調整剤の配合量としては、カルボン酸変性PVA樹脂(A)100重量部に対して0.5~8重量部であることが好ましく、特に好ましくは1~7重量部、更に好ましくは2~6重量部である。かかる配合量が多すぎると得られるフィルム表面にブリードアウトしてフィルムのシール強度が低下する恐れがあり、少なすぎるとラクトン化率が高くなりフィルムの水溶解性が低下する傾向がある。
【0103】
上記pH調整剤の配合方法としては、例えば、(1)PVA系樹脂組成物を水で溶解または分散して製膜原料を調製した後で、pH調整剤を製膜原料に配合する方法、(2)PVA系樹脂組成物とpH調整剤を同時に水に配合して溶解または分散し、製膜原料を調製する方法、(3)予めpH調整剤を配合したPVA系樹脂組成物を水で溶解または分散して製膜原料を調製する方法、等が挙げられるが、充分な調整時間が得られる点で、(2)の方法が好ましい。
【0104】
〔製膜工程〕
製膜工程では、溶解工程で調製した製膜原料を膜状に賦形し、必要に応じて乾燥処理を施すことで、含水率15重量%未満にしたPVA系水溶性フィルムに製膜する。
製膜に当たっては、例えば、溶融押出法や流延法等の方法を採用することができ、膜厚の精度の点で流延法が好ましい。
流延法を行うに際しては、例えば、上記製膜原料を、(i)アプリケーター、バーコーター等を用いてギャップ間に通過させて金属表面等のキャスト面に流延する方法、(ii)T型スリットダイ等のスリットから吐出させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等のキャスト面に流延する方法、等により製膜原料を流延した後に乾燥することにより本発明のPVA系水溶性フィルムを製造することができる。
【0105】
以下、上記(ii)の、製膜原料をT型スリットダイからキャストドラム(ドラム型ロール)、エンドレスベルト等のキャスト型に吐出及び流延して、乾燥することによりPVA系水溶性フィルムを製造する方法について説明する。
【0106】
T型スリットダイ等の製膜原料吐出部における製膜原料の温度は、60~98℃であることが好ましく、特に好ましくは70~95℃である。かかる温度が低すぎると製膜原料の粘度が増加してPVA系水溶性フィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると発泡等が生じる傾向がある。
流延後、キャスト面上で製膜原料を乾燥させるのであるが、乾燥にあたっては、通常、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等のキャスト面を加熱することにより行う。上記キャスト面の表面温度は、50~110℃であることが好ましく、特に好ましくは70~100℃である。かかる表面温度が低すぎると、乾燥不足でフィルムの含水率が高くなり、ブロッキングしやすくなる傾向があり、高すぎると製膜原料が発泡し、製膜不良となる傾向がある。
また、製膜時の乾燥においては、熱ロールによる乾燥、フローティングドライヤーを用いてフィルムに熱風を吹き付ける乾燥や遠赤外線装置、誘電加熱装置による乾燥等を併用することもできる。
【0107】
上記の乾燥処理で製膜原料を含水率15重量%以下になるまで乾燥した後、キャスト面から剥離すること(キャスト面から剥離後に更に熱ロールによる乾燥を行う場合は、乾燥熱ロールから剥離すること)でPVA系水溶性フィルムが得られる。キャスト面(または、乾燥熱ロール)から剥離されたPVA系水溶性フィルムは、10~35℃の環境下で冷却されながら搬送される。
【0108】
なお、フィルムのカール抑制の点からは、製膜工程の後に更に熱処理を行うことも好ましい。
熱処理については、通常熱ロールにて行うことができるが、その他、フローティングドライヤーを用いてフィルムに熱風を吹き付ける熱処理や遠赤外線装置、誘電加熱装置による熱処理等も挙げられる。本発明においては、熱ロールを用いて行うことが、生産性の点で好ましい。なお、熱ロールは、複数本用いることもできる。
【0109】
具体的に、熱処理を行う際にフィルムを熱処理する温度(熱処理装置の温度)としては、50~120℃が好ましく、特に好ましくは60~115℃、更に好ましくは70~110℃である。かかる温度が低すぎるとカール改善効果が得られ難い傾向があり、高すぎるとフィルムの水溶解性が低下したり、包装体の成型時、シール性(特には水シール性)が低下する傾向がある。
【0110】
熱処理時間としては、熱処理温度により適宜調整すればよいが、0.01~30秒間であることが好ましく、特に好ましくは0.05~25秒間、更に好ましくは0.1~20秒間である。短すぎるとカール抑制効果が低い傾向があり、長すぎるとカールは抑制されるがフィルムの水溶解性が低下する傾向がある。
かかる熱処理温度と時間は、フィルムの水溶解性低下の抑制と生産性を向上させる観点から高温で短時間の熱処理を行うことが好ましく、特に好ましくは90~120℃で0.01~5秒間、更に好ましくは100~115℃で0.05~3秒間である。
【0111】
熱処理の際には、2面あるフィルム面のうち、キャスト面(エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等)と接触するフィルム面側(以下、β面側と記載することがある。)とは反対のフィルム面側(以下、α面側と記載することがある。)に熱処理を施すことが好ましく、特にはフィルムのα面が熱ロール(熱処理装置部分)と接触することが、フィルム表裏の熱履歴が近似し、フィルムのカール抑制の点で好ましい。
【0112】
また、本発明の水溶性フィルムの表面はプレーンであってもよいが、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品同士の密着性軽減、及び外観の点から、水溶性フィルムの片面或いは両面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄等の凹凸加工を施しておくことも好ましい。
かかる凹凸加工に際しては、加工温度は、通常60~150℃であり、好ましくは80~140℃である。加工圧力は、通常2~8MPa、好ましくは3~7MPaである。加工時間は、上記加工圧力、製膜速度にもよるが、通常0.01~5秒間であり、好ましくは0.1~3秒間である。
また、必要に応じて、凹凸加工処理の後に、熱によるフィルムの意図しない延伸を防止するために、冷却処理を施してもよい。
【0113】
本発明において、上記PVA系水溶性フィルムの製造は、10~35℃、特には15~30℃の環境下にて行うことが好ましく、湿度については、通常70%RH以下であることが好ましい。
このようにして、本発明のPVA系水溶性フィルムを製造することができる。
【0114】
〔その他工程〕
長尺形状のPVA系水溶性フィルムを製造する場合においては、上記の製膜工程の後で、巻取工程、包装、保管、輸送等が必要に応じて実施される。
巻取工程では、製膜工程でキャスト面等から剥離したPVA系水溶性フィルムを搬送して巻き取り、芯管(S1)に巻き取ることによりフィルムロールを調製する。
得られたフィルムロールは、そのまま製品として供給することもできるが、好ましくは所望サイズのPVA系水溶性フィルム幅に見合った長さの芯管(S2)に巻き取り直し、所望のサイズのフィルムロールとして供給することもできる。
【0115】
PVA系水溶性フィルムを巻き取る芯管(S1)は円筒状のもので、その材質は金属、プラスチック等、適宜選択できるが、堅牢性、強度の点で金属であることが好ましい。
芯管(S1)の内径は、3~30cmが好ましく、特に好ましくは10~20cmである。
芯管(S1)の肉厚は、1~30mmが好ましく、特に好ましくは2~25mmである。
芯管(S1)の長さは、PVA系水溶性フィルムの幅より長くすることが必要で、フィルムロールの端部から1~50cm突出するようにするのが好ましい。
【0116】
また、芯管(S2)は円筒状のもので、その材質は紙や金属、プラスチック等、適宜選択できるが、軽量化及び取扱いの点で紙であることが好ましい。
芯管(S2)の内径は、3~30cmが好ましく、特に好ましくは10~20cmである。
芯管(S2)の肉厚は、1~30mmが好ましく、特に好ましくは3~25mmである。
芯管(S2)の長さは、製品のPVA系水溶性フィルム幅と同等或いはそれ以上の長さのものであればよく、好ましくは同等~50cm長いものである。
【0117】
芯管(S2)に巻き取る際には、PVA系水溶性フィルムは所望の幅にスリットされる。
かかるスリットに当たっては、シェア刃やレザー刃等を用いてスリットされるが、シェア刃でスリットすることがスリット断面の平滑性の点で好ましい。
【0118】
PVA系水溶性フィルムの厚みは、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは10~120μmであり、特に好ましくは15~110μm、更に好ましくは20~100μmである。かかる厚みが薄すぎるとフィルムの機械強度が低下する傾向があり、厚すぎると水への溶解速度が遅くなる傾向があり、製膜効率も低下する傾向がある。
【0119】
PVA系水溶性フィルムの幅は、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは300~5000mmであり、特に好ましくは500~4000mm、更に好ましくは600~3000mmである。かかる幅が狭すぎると生産効率が低下する傾向があり、広すぎると弛みや膜厚の制御が困難になる傾向がある。
【0120】
PVA系水溶性フィルムの長さは、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは100~20000mであり、特に好ましくは500~15000m、更に好ましくは1000~10000mである。かかる長さが短すぎるとフィルムの切り替えに手間を要する傾向があり、長すぎると巻き締まりによる外観不良や重量が重くなりすぎる傾向がある。
【0121】
また、本発明のPVA系水溶性フィルムの含水率は、機械強度やシール性の点で3~15重量%であることが好ましく、特に好ましくは5~14重量、更に好ましくは6~13重量%である。かかる含水率が低すぎるとフィルムが硬くなりすぎる傾向があり、高すぎるとブロッキングが生じやすくなる傾向がある。かかる含水率に調整するに際しては、乾燥条件や調湿条件を適宜設定することにより達成することができる。
なお、上記含水率は、JIS K 6726 3.4に準拠して測定され、得られた揮発分の値を含水率とする。
【0122】
本発明のPVA系水溶性フィルムを芯管に巻き取って得られたフィルムロールは、水蒸気バリア性樹脂の包装フィルムで包装することが好ましく、かかるフィルムとしては特に限定されないが、透湿度が10g/m2/日(JIS Z 0208に準じて測定)以下のものが使用可能である。具体例としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデンコートポリブロピレン、ガラス蒸着ポリエステル、等の単層フィルム、あるいはこれらの積層フィルム、または割布、紙、不織布との積層フィルム等が挙げられる。積層フィルムとしては、例えば、ガラス蒸着ポリエステルとポリエチレンの積層フィルム、ポリ塩化ビニリデンコートポリブロピレンとポリエチレンの積層フィルム等が例示される。
【0123】
かかるフィルムは、帯電防止処理しておくことも異物の混入を防ぐ点で好ましく、帯電防止剤はフィルムに練り込まれていても、表面にコーティングされていてもよい。練り込みの場合は樹脂に対して0.01~5重量%程度、表面コーティングの場合は0.01~1g/m2程度の帯電防止剤が使用される。
帯電防止剤としては、例えば、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、高級脂肪酸アルカノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル等が使用される。
【0124】
また、フィルムロールを水蒸気バリア性樹脂の包装フィルムで包装した上から、更にアルミニウム素材からなる包装フィルムで包装することが好ましく、かかるフィルムとしては、アルミニウム箔、アルミニウム箔と耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミニウム箔とポリエチレンフィルムの積層フィルム)、アルミニウム蒸着フィルムと耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミニウム蒸着ポリエステルフィルムとポリエチレンフィルムの積層フィルム)、アルミナ蒸着フィルムと耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミナ蒸着ポリエステルフィルムとポリエチレンフィルムの積層フィルム)等が挙げられ、本発明では特に、アルミニウム箔とポリオレフィンフィルムの積層フィルム、アルミニウム蒸着フィルムとポリオレフィンフィルムの積層フィルムが有用で、特には延伸ポリプロピレンフィルム/ポリエチレンフィルム/アルミニウム箔/ポリエチレンフィルムの構成よりなる積層フィルム、延伸ポリプロピレンフィルム/低密度ポリエチレンフィルム/アルミニウム箔の構成よりなる積層フィルム等が有用である。
【0125】
包装に当たっては内側の水蒸気バリア性樹脂の包装フィルム、外側のアルミニウム素材からなる包装フィルムで順次包装を行い、幅方向に余った部分を芯管に押し込むことが好ましい。
【0126】
フィルムロールには、端部の傷付きやゴミ等の異物の付着を防止するため、直接、あるいは包装の後、フィルムロールの両端部に芯管貫通孔をもつ保護パッドを装着させることができる。
保護パッドの形状は、フィルムロールにあわせて、円盤状のシート、フィルムが実用的である。保護効果を顕著にするため発泡体、織物状、不織布状等の緩衝機能を付加させることが好ましい。また、湿度からフィルムロールを守るため乾燥剤を別途封入したり、前記保護パッドに積層または混入したりしておくこともできる。
保護パッドの素材はプラスチックが好ましく、その具体例としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0127】
また、上記乾燥剤入りの保護パッドとしては、例えば、塩化カルシウム、シリカゲル、モレキュラーシーブス、糖類、特に浸透圧の高い糖類、吸水性樹脂等の乾燥剤または吸水剤を天然セルロース類、合成セルロース類、ガラスクロス、不織布等の成型可能な材料に分散、含浸、塗布乾燥した吸湿層としたもの、これらの吸湿剤または吸水剤を上記の成型可能な材料やポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、テフロン(登録商標)フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムでサンドイッチ状に挟んだりしたものが挙げられる。
市販されているシート状乾燥剤の例としては、アイディ社製の「アイディシート」や品川化成社製の「アローシート」、「ゼオシート」、ハイシート工業社製の「ハイシートドライ」等がある。
【0128】
かかる手段によって包装されたフィルムロールは、芯管の両端突出部にブラケット(支持板)を設けたり、該両端突出部を架台に載置したりして支えられ、接地することなく、いわゆる宙に浮いた状態で保管や輸送が行われることが好ましい。フィルムの幅が比較的小さい場合はブラケットが使用され、フィルムの幅が比較的大きい場合は架台が使用される。
ブラケットはベニヤ板やプラスチック板からなるものであり、その大きさは通常ブラケットの4辺がフィルムロールの直径より大きいものである。
【0129】
そして、前記フィルムロールの両端の芯管突出部に一対のブラケットを互いに向かい合うように直立して配置、嵌合させフィルムロールにブラケットが設けられる。嵌合は、通常ブラケットの中央部に芯管直径よりやや大きめのくりぬき穴を設けたり、芯管が挿入し易いようにブラケットの上部から中心部までU字型にくりぬかれている。
【0130】
ブラケットで支持されたフィルムロールは、段ボール箱等のカートンに収納されて保管や輸送がされるが、収納時の作業を円滑にするため矩形のブラケットを使用するときはその四隅を切り落としておくことが好ましい。
また、上記一対のブラケットがぐらつかないように、両者を結束テープで固定することが好ましく、そのときテープの移動や弛みが起こらないようにブラケットの側面(厚み部分)にテープ幅と同程度のテープズレ防止溝を設けて置くのも実用的である。
【0131】
包装したフィルムロールの保管または輸送にあたっては、極端な高温や低温、低湿度、高湿度条件を避けるのが望ましく、具体的には温度10~30℃、湿度40~75%RHであることが好ましい。
【0132】
かくして得られる本発明のPVA系水溶性フィルムは冷水溶解性に優れ、また、機械特性も良好であるため薬剤等の個包装用途に有用である。
【0133】
具体的には、pH8の液体洗剤に浸漬した後における10℃の水中での水溶解性テストの溶解時間が250秒以下であることが従来では達成しえない冷水溶解性改善効果を得る点から好ましく、更に好ましくは200秒以下、特に好ましくは180秒以下、殊に好ましくは150秒以下である。
【0134】
本発明において、「pH8の液体洗剤に浸漬した後における10℃の水中でのフィルム水溶解性テストの溶解時間」とは、23℃、50%RHに1日調湿したPVA系水溶性フィルムを100mm×100mmのサイズにカットし、pH8の衣類用液体洗剤に50℃で2週間浸漬させた後、液体洗剤を拭き取り、3cm×5cmのサイズにカットし、治具に固定し、次に、1Lビーカーに水1Lを入れ、スターラーにより撹拌(回転子長3cm、回転数200~300rpm)しながら、水温を10℃に保ちつつ、治具に固定したフィルムをかかる水中に浸漬し、フィルムが溶解するまでの時間(秒)をいう。
ここで、「溶解」の基準として、直径1mm以上の不溶微粒子の分散が見られない場合を溶解とする。
なお、フィルム膜厚が76μmの場合は、上記溶解性試験により得られた溶解時間そのものでよいが、76μm以外の膜厚の場合は下記の換算式により溶解時間を求めることとする。
[式] 膜厚76μm換算での溶解時間(秒)=(76(μm)/フィルム膜厚(μm))2×(その膜厚での溶解時間(秒))
【0135】
<薬剤包装体>
本発明の薬剤包装体は、本発明のPVA系水溶性フィルムで薬剤を内包してなる包装体である。水溶性のPVA系フィルムで包装されているため、包装体ごと水に投入し、PVA系水溶性フィルムが溶解した後に、薬剤が水に溶解または分散して、薬剤の効果を発現するため、1回分等の比較的少量の薬剤が包装されている薬剤包装体に好適である。
【0136】
内包する薬剤としては、例えば、殺虫剤、殺菌剤、除草剤等の農薬、肥料、洗剤等が挙げられ、特に洗剤が好ましい。
薬剤の形状は、液体であっても固体であってもよく、液体の場合は、液状であり、固体の場合は、顆粒状、錠剤状、粉状等が挙げられる。薬剤は、水に溶解または分散させて用いる薬剤が好ましく、本発明においては、とりわけ液体洗剤を内包することが好ましい。
また、薬剤のpHは、アルカリ性、中性、酸性のいずれであっても良い。
【0137】
上記薬剤包装体は、その表面は、通常平滑であることが挙げられるが、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品(包装体)同士の密着性軽減、及び外観の点から、包装体(PVA系水溶性フィルム)の外表面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄、等の凹凸加工が施されたものであってもよい。
【0138】
以下、本発明の薬剤包装体の一例である液体洗剤包装体について述べる。
液体洗剤包装体は、保存の際には液体洗剤を内包した形状が保持されている。そして、使用時(洗濯時)には、包装体(水溶性フィルム)が水と接触することにより、包装体が溶解して内包されている液体洗剤が包装体から流出することとなる。
液体洗剤包装体の大きさは、通常長さ10~50mm、好ましくは20~40mmである。
また、PVA系水溶性フィルムからなる包装体のフィルムの厚みは、通常10~120μm、好ましくは15~110μm、特に好ましくは20~100μmである。
内包される液体洗剤の量は、通常5~50mL、好ましくは10~40mLである。
【0139】
本発明のPVA系水溶性フィルムを用いて、液体洗剤を包装して薬剤包装体とするに際しては、公知の方法を採用することができる。
例えば、2枚のPVA系水溶性フィルムを用いて貼り合わせることにより製造され、成型装置の下部にある金型の上に、フィルム(ボトムフィルム)を固定し、装置の上部にもフィルム(トップフィルム)を固定する。ボトムフィルムをドライヤーで加熱し、金型に真空成型し、その後、成型されたフィルムに液体洗剤を投入した後、トップフィルムとボトムフィルムを圧着する。圧着した後は真空を解放し、包装体を得ることができる。
【0140】
フィルムの圧着方法としては、例えば、(1)熱シールする方法、(2)水シールする方法、(3)糊シールする方法等が挙げられ、なかでも(2)水シールする方法が汎用的で生産性に優れる点で好ましい。
【0141】
液体洗剤としては制限はなく、アルカリ性、中性、酸性のいずれであってもよいが、フィルムの水溶性の点から、水に溶解または分散させた時のpH値が6~14であることが好ましく、特には7~11が好ましい。なお、上記pH値は、JIS K 3362 8.3に準拠して測定される。また、水分量は、JIS K 336 7.21.3に準じて測定される。
また、液体洗剤の水分量が15重量%以下であることが好ましく、特には0.1~10重量%、更には0.1~7重量%であるものが好ましく、水溶性フィルムがゲル化したり不溶化することがなく水溶性に優れることとなる。
液体薬剤は、流動性で、容器に合わせて形を変える液状の薬剤であれば、その粘度は特に限定されないが、好ましくは10~200mPa・sである。なお、かかる液体薬剤の粘度は、常温(20℃)下におけるB型回転粘度計にて測定される。
【実施例
【0142】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0143】
カルボン酸変性PVA樹脂(A)として、以下のものを用意した。
(A1):アクリル酸変性PVA樹脂
20℃における4%水溶液粘度23.5mPa・s、平均ケン化度97モル%、アクリル酸による変性量7.6モル%
(A2):マレイン酸変性PVA樹脂
20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度96モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%
【0144】
可塑剤(B)として、以下のものを用意した。
(B1):ソルビトール(融点95℃)
(B2):グリセリン(融点18℃)
(B3):トリメチロールプロパン(融点58℃)
【0145】
フィラー(C)として、以下のものを用意した。
(C1):澱粉(平均粒子径20μm)
(C2):シリカ(平均粒子径8μm)
【0146】
界面活性剤(D)として、以下のものを用意した。
(D1):ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩
【0147】
<実施例1>
カルボン酸変性PVA樹脂(A)として、アクリル酸変性PVA樹脂(A1)100部、可塑剤(B)として(B1)13.5部、(B2)24部、(B3)5部、フィラー(C)として(C2)4部、界面活性剤(D)として(D1)1.4部、pH調整剤として水酸化ナトリウムを4.4部、及び水を混合して、90℃で5時間撹拌しながら溶解処理をし、製膜原料であるPVA系樹脂水溶液(固形分濃度22%、pH8.9)を得た。
得られたPVA系樹脂水溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延し、105℃の乾燥室を通過させて乾燥し、厚み80μmのPVA系水溶性フィルムを得た。
【0148】
<実施例2、3>
実施例1において、水酸化ナトリウムの代わりに炭酸ナトリウム・無水物をpH調整剤として用い、下記表1に記載した製膜原料pHに調整した以外は同様にしてPVA系樹脂水溶液を調製して、PVA系水溶性フィルムを得た。
【0149】
<実施例4>
カルボン酸変性PVA樹脂(A)として、マレイン酸変性PVA樹脂(A2)100部、可塑剤(B)として(B1)20部、(B2)20部、フィラー(C)として(C1)8部、界面活性剤(D)として(D1)1.4部、pH調整剤として炭酸ナトリウム・無水物を4.4部、及び水を混合して、90℃で5時間撹拌しながら溶解処理をし、製膜原料であるPVA系樹脂水溶液(固形分濃度22%、pH7.7)を得た。それ以外は、実施例1と同様にしてPVA系水溶性フィルムを得た。
【0150】
<比較例1>
実施例1において、pH調整剤を配合しなかった以外は同様にしてPVA系樹脂水溶液を調製し、PVA系水溶性フィルムを得た。
【0151】
〔カルボン酸変性基のラクトン化率〕
上記実施例1~4、比較例1で得られた各PVA系水溶性フィルムにおけるカルボン酸変性PVA樹脂(A)中のカルボン酸変性基のラクトン化率を、前記の方法に従って測定し、その結果を表1に示す。
【0152】
〔水溶解性〕
上記実施例1~4、比較例1で得られた各PVA系水溶性フィルムの20℃及び10℃における水溶解性を、以下の通り測定し評価した。
得られたPVA系水溶性フィルムを3cm×5cmのサイズにカットし、治具に固定した。次に、1Lビーカーに水(1L)を入れ、スターラーにより撹拌(回転子長3cm、回転数200~300rpm)しながら、水温を10℃もしくは20℃に保ちつつ、治具に固定したフィルムをかかる水中に浸漬し、フィルムが溶解するまでの時間(秒)を測定した。
「溶解」の基準として、直径1mm以上の不溶微粒子の分散が見られない場合を溶解とした。結果を表1に示す。
【0153】
〔経時水溶解性〕
上記実施例1~4、比較例1で得られた各PVA系水溶性フィルムについて、以下の通り洗剤浸漬時の経時水溶解性評価を行った。
23℃、50%RHに1日調湿したPVA系水溶性フィルムを100mm×100mmのサイズに3枚カットし、それぞれチャック付ポリエチレン袋(横120mm×縦170mm)に広げて入れた。その後、各チャック付ポリエチレン袋に各pHの衣類用液体洗剤(pH8、pH10.2)を別々に約4mL入れてフィルムを浸漬させた。フィルム及び液体洗剤の入った各チャック付ポリエチレン袋をアルミ袋(300mm×200mm)に入れて、50℃で2週間静置した後、各チャック付ポリエチレン袋からフィルムを取り出し、液体洗剤を拭き取り、上記水溶解性の測定と同様にして10℃におけるフィルムの水溶解性試験を行った。結果を表1に示す。
【0154】
〔機械特性:8%弾性率〕
上記実施例1~4、比較例1で得られた各PVA系水溶性フィルムの引張特性を、JIS K 7127(1999年)に準じて測定した。即ち、PVA系水溶性フィルムを測定前に23℃、50%RH調湿条件下に24時間静置した後、この環境下で島津製作所社製のオートグラフAGS-H(解析ソフトは島津製作所社製 Factory SHiKiBU2000)を用いて、引張速度200mm/分で測定した(フィルム幅15mm、チャック間距離50mm)。
なお、8%弾性率は引張特性の測定結果より以下の数式を用いて算出し、その結果を表1に示す。
[式] 8%弾性率(MPa)=ひずみ8%時点における応力(MPa)/0.08
【0155】
【表1】
【0156】
上記表1の結果より、カルボン酸変性基のラクトン化率が本発明で規定する特定割合を満足する実施例1~4のPVA系水溶性フィルムは、常温(20℃)の水溶解性に加えて、冷水(10℃)溶解性にも優れており、これを用いて薬剤包装体を成型した際には良好な包装体が得られることがわかる。
同時に、8%弾性率の値も充分に実用可能な範囲であり、包装体とした際の機械特性も満足するものであることがわかる。
更には、洗剤浸漬後の冷水溶解性も優れており、カルボン酸変性基のラクトン化率が特定範囲であると、水溶解性の経時的低下が生じないことがわかる。特にカルボン酸変性基がアクリル酸変性基である変性PVA樹脂において、ラクトン化率が特定範囲であると、洗剤浸漬後の水溶解性の低下が著しく改善されており、中性~弱アルカリ性の薬剤を包装しても水溶解性の経時的低下が生じないことがわかる。
なお、実施例2~4のPVA系水溶性フィルムでは、8%弾性率が高い数値を示すことから、環境変化が生じやすい場合や、薬剤包装体においてフィルムの張り状態が長期に維持できる等機械特性の面でより高機能性が求められる場合に優位であることがわかる。
【0157】
これに対して、カルボン酸変性基のラクトン化率が本発明で規定する特定割合を満足しないPVA系水溶性フィルムである比較例1においては、冷水への溶解時間が長く、冷水溶解性に劣るものであることがわかる。
【0158】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の水溶性フィルムは、冷水溶解性に優れたものであり、機械特性にも優れるため、良好な包装体が得ることができる。このため、各種薬剤の包装用途に用いることができ、とりわけ液体洗剤の個包装用途に有用である。