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特許7124861撥水撥油剤組成物の製造方法及び撥水撥油性物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】撥水撥油剤組成物の製造方法及び撥水撥油性物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20220817BHJP
   C08F 20/24 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C09K3/18 102
C08F20/24
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020504940
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007355
(87)【国際公開番号】W WO2019172021
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2018042322
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】福田 麗香
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-62348(JP,A)
【文献】特開2004-161838(JP,A)
【文献】特開2015-105287(JP,A)
【文献】特開2009-155591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18
C08F6/00-246/00
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルフルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位を有するポリマーの乳化液とペルフルオロアルキル基を有するモノマーを含むモノマー成分の乳化液とを混合し、次いで前記モノマー成分を重合する、撥水撥油剤組成物の製造方法であって、
前記ポリマー中の全単位に対するペルフルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位の割合が10~50質量%であり、
前記モノマー成分の総量に対するペルフルオロアルキル基を有するモノマーの割合が80質量%以上であり、
前記ポリマーの質量と前記モノマー成分の総質量との合計に対する前記ポリマーの質量の割合が50~99質量%となるように前記2つの乳化液を混合することを特徴とする撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリマーが、さらに、ポリフルオロアルキル基を有さず、かつ炭素数12~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有し、前記ポリマー中の全単位に対する該単位の割合が10~80質量%である、請求項1に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーが、ポリフルオロアルキル基を有さず、かつ炭素数20~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有し、ポリフルオロアルキル基を有さず、かつ炭素数12~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位の全単位に対する該単位の割合が20~100質量%である、請求項2に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、さらに、ハロゲン化オレフィンに基づく単位を有し、前記ポリマー中の全単位に対する該単位の割合が50質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリマーが、さらに、架橋性官能基を有するモノマーに基づく単位を有し、前記ポリマー中の全単位に対する該単位の割合が20質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項6】
前記モノマー成分が、さらに、ポリフルオロアルキル基を有さず、かつ炭素数12~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを、モノマー成分の総質量に対して1~20質量%含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項7】
前記モノマー成分が、さらに、架橋性官能基を有するモノマーを、モノマー成分の総質量に対して0.1~15質量%含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項8】
前記モノマー成分の乳化液が、モノマー成分、界面活性剤及び媒体を含む混合液を高圧乳化機により乳化して得られた乳化液である、請求項1~7のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項9】
前記モノマー成分の乳化液中の乳化粒子の平均粒子径が、50~600nmである、請求項1~8のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項10】
前記モノマー成分の重合後に、イソシアネート系架橋剤、メチロール系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤及びオキサゾリン系架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤を添加する、請求項1~9のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法で製造した撥水撥油剤組成物により被処理物品を処理する、撥水撥油性物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油剤組成物の製造方法及び撥水撥油性物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣類等の繊維製品には、雨水等を弾くことが求められることが多く、撥水性、豪雨耐久性、撥油性が付与される。繊維製品等の物品の表面に撥水撥油性を付与する方法として、ペルフルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位を有するポリマーを媒体に分散させた撥水撥油剤組成物で物品を処理する方法が知られている。ポリマー中のペルフルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位の割合が多いと撥油性に優れた物品が得られる。しかし、ペルフルオロアルキル基を有するモノマーは高価である。
【0003】
特許文献1には、炭素数が1~6であるペルフルオロアルキル基を有するモノマーと炭素数が20~30であるアルキル基を有するアクリレートモノマーを共重合したコポリマーを含む撥水撥油剤組成物が開示されている。前記コポリマーはペルフルオロアルキル基を有するモノマーの割合が低いため安価であるが、ペルフルオロアルキル基を有するモノマーの割合が低いため撥油性が不充分であった。撥油性を向上させるには前記ペルフルオロアルキル基を有するモノマーの割合を高くすればよいが、該割合を高くするとコポリマーが高価となり、また豪雨耐久性や撥水性が低下してしまう。すなわち、従来技術では、撥水性及び豪雨耐久性が維持されるか、または大幅な低下がなく、撥油性に優れた物品を得ることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2008/136436号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、撥水性及び豪雨耐久性が維持されるか大幅な低下がなく、撥油性に優れた撥水撥油性物品が得られる撥水撥油剤組成物を製造できる撥水撥油剤組成物の製造方法、及び撥水撥油性物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]ペルフルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位を有するポリマーの乳化液とペルフルオロアルキル基を有するモノマーを含むモノマー成分の乳化液とを混合し、次いで前記モノマー成分を重合する、撥水撥油剤組成物の製造方法であって、
前記ポリマー中の全単位に対するペルフルオロアルキル基を有するモノマーに基づく単位の割合が10~50質量%であり、
前記モノマー成分の総量に対するペルフルオロアルキル基を有するモノマーの割合が80質量%以上であり、
前記ポリマーの質量と前記モノマー成分の総質量との合計に対する前記ポリマーの質量の割合が50~99質量%となるように前記2つの乳化液を混合することを特徴とする撥水撥油剤組成物の製造方法。
【0007】
[2]前記ポリマーが、さらに、ポリフルオロアルキル基を有さず、かつ炭素数12~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有し、前記ポリマー中の全単位に対する該単位の割合が10~80質量%である、[1]の撥水撥油剤組成物の製造方法。
[3]前記ポリマーが、ポリフルオロアルキル基を有さず、かつ炭素数20~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有し、ポリフルオロアルキル基を有さず、かつ炭素数12~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位の全単位に対する該単位の割合が20~100質量%である、[2]の撥水撥油剤組成物の製造方法。
[4]前記ポリマーが、さらに、ハロゲン化オレフィンに基づく単位を有し、前記ポリマー中の全単位に対する該単位の割合が50質量%以下である、[1]~[3]のいずれかの撥水撥油剤組成物の製造方法。
[5]前記ポリマーが、さらに、架橋性官能基を有するモノマーに基づく単位を有し、前記ポリマー中の全単位に対する該単位の割合が20質量%以下である、[1]~[4]のいずれかの撥水撥油剤組成物の製造方法。
[6]前記モノマー成分が、さらに、ポリフルオロアルキル基を有さず、かつ炭素数12~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを、モノマー成分の総質量に対して1~20質量%含む、[1]~[5]のいずれかの撥水撥油剤組成物の製造方法。
[7]前記モノマー成分が、さらに、架橋性官能基を有するモノマーを、モノマー成分の総質量に対して0.1~15質量%含む、[1]~[6]のいずれかの撥水撥油剤組成物の製造方法。
【0008】
[8]前記モノマー成分の乳化液が、モノマー成分、界面活性剤及び媒体を含む混合液を高圧乳化機により乳化して得られた乳化液である、[1]~[7]のいずれかの撥水撥油剤組成物の製造方法。
[9]前記モノマー成分の乳化液中の乳化粒子の平均粒子径が、50~600nmである、[1]~[8]のいずれかの撥水撥油剤組成物の製造方法。
[10]前記モノマー成分の重合後に、イソシアネート系架橋剤、メチロール系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤及びオキサゾリン系架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤を添加する、[1]~[9]のいずれかの撥水撥油剤組成物の製造方法。
[11]前記[1]~[10]のいずれかの撥水撥油剤組成物の製造方法で製造した撥水撥油剤組成物により被処理物品を処理する、撥水撥油性物品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、撥水性及び豪雨耐久性が維持されるか大幅な低下がなく、撥油性に優れた撥水撥油性物品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書においては、式1で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書においては、式2で表される基を基(2)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
以下の用語の意味及び定義は以下である。
「モノマーに基づく単位」は、モノマー1分子が重合して直接形成される原子団と、前記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。本明細書において、モノマーに基づく単位を、単に、モノマー単位とも記す。
「R基」は、アルキル基の水素原子の一部又はすべてがフッ素原子に置換された基を意味する。ポリフルオロアルキル基はR基である。
「R基」は、R基の中でも、特にアルキル基の水素原子のすべてがフッ素原子に置換された基を意味する。ペルフルオロアルキル基はR基である。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
化学式における「φ」はフェニレン基を表す。フェニレン基は、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基のいずれであってもよい。
「数平均分子量」(以下、「Mn」とも記す。)及び「質量平均分子量」(以下、「Mw」とも記す。)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によってポリメチルメタクリレート換算で測定される値である。
「固形分濃度」は、加熱前の試料の質量を試料質量、120℃の対流式乾燥機で試料を4時間乾燥した後の質量を固形分質量として、(固形分質量/試料質量)×100により計算される。
【0011】
[撥水撥油剤組成物の製造方法]
本発明の撥水撥油剤組成物の製造方法は、後述のポリマー(以下、「原料ポリマー」とも記す。)の乳化液と、後述のモノマー成分(以下、「モノマー成分(b)」とも記す。)の乳化液とを混合して、次いでモノマー成分(b)を重合する方法である(以下、このような重合方法を「二段重合」とも記す。)。
【0012】
(ポリマーの乳化液)
原料ポリマーは、R基を有するモノマー(以下、「Rfモノマー」とも記す。)に基づく単位と、Rfモノマー以外のモノマー(以下、「他のモノマー」とも記す。)に基づく単位とを有するコポリマーである。原料ポリマーは、Rfモノマー単位を全単位に対して10~50質量%の割合で有する。
【0013】
Rfモノマーとしては、撥水撥油性に優れる点から、下記式で表される化合物(1)が好ましい。
(Z-Y)X ・・・(1)
【0014】
Zは、炭素数が1~6のR基、又は下記式で表される基(2)である。
2i+1(CHCF(CFCF- ・・・(2)
ただし、iは、1~6の整数であり、pは1~4の整数であり、qは1~3の整数である。
基の炭素数は、4~6が好ましい。R基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状が好ましい。
Zとしては、F(CF-、F(CF-、F(CF-、(CFCF(CF-を例示できる。
【0015】
Yは、フッ素原子を有しない2価有機基又は単結合である。
2価有機基としては、アルキレン基が好ましい。アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。2価有機基は、-O-、-NH-、-CO-、-SO-、-S-、-CD=CD-(ただし、D、Dは、それぞれ水素原子又はメチル基である。)、-φ-C(O)O-等が含まれていてもよい。
Yとしては、-CH-、-CHCH-、-(CH-、-CHCHCH(CH)-、-CH=CH-CH-、-S-CHCH-、-SO-CHCH-、-CHCHCH-S-CHCH-、-CHCHCH-SO-CHCH-、-CHCH-OC(O)-φ-を例示できる。
【0016】
nは、1又は2である。
Xは、nが1の場合は、下記式で表される基(3-1)~基(3-5)のいずれかであり、nが2の場合は、下記式で表される基(4-1)~基(4-4)のいずれかである。
【0017】
-CR=CH ・・・(3-1)
-C(O)OCR=CH ・・・(3-2)
-OC(O)CR=CH ・・・(3-3)
-OCH-φ-CR=CH ・・・(3-4)
-OCH=CH ・・・(3-5)
ただし、Rは、水素原子、メチル基又はハロゲン原子である。
【0018】
-CH[-(CHCR=CH]- ・・・(4-1)
-CH[-(CHC(O)OCR=CH]- ・・・(4-2)
-CH[-(CHOC(O)CR=CH]- ・・・(4-3)
-OC(O)CH=CHC(O)O- ・・・(4-4)
ただし、Rは、上記と同様であり、mは0~4の整数である。Rとしては、水素原子、メチル基又は塩素原子が好ましい。
【0019】
化合物(1)としては、他のモノマーとの重合性、得られたポリマーの柔軟性、被処理物品に対するポリマーの密着性、媒体に対する分散性又は溶解性、重合の容易性等の点から、炭素数が1~6のR基を有する(メタ)アクリレート、及び炭素数が1~6のR基を有しかつα位がハロゲン原子で置換されたアクリレートが好ましく、炭素数が4~6のR基を有する(メタ)アクリレート、及び炭素数が4~6のR基を有しかつα位がハロゲン原子で置換されたアクリレートがより好ましい。
【0020】
化合物(1)としては、Zが炭素数4~6のR基であり、Yが炭素数1~4のアルキレン基又はCHCHOC(O)-φ-であり、nが1であり、Xが基(3-3)であり、Rが水素原子、メチル基又は塩素原子である化合物が特に好ましい。
【0021】
好ましい化合物(1)としては、C13OC(O)C(CH)=CH、C13OC(O)CH=CH、C13OC(O)CCl=CH、COC(O)C(CH)=CH、COC(O)CH=CH、COC(O)CCl=CH、F(CFCHCHOC(O)-φ-OC(O)CH=CH、F(CFCHCHOC(O)-φ-OC(O)C(CH)=CH、F(CFCHCHOC(O)-φ-OC(O)CH=CH、F(CFCHCHOC(O)-φ-OC(O)C(CH)=CHを例示できる。
Rfモノマーは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
他のモノマーとしては、R基を有さず、炭素数12~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(以下、「長鎖アルキルモノマー」とも記す。)、ハロゲン化オレフィン、架橋性官能基を有するモノマー(以下、「架橋性モノマー」とも記す。)を例示できる。他のモノマーは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
原料ポリマーは、洗濯耐久性及び豪雨耐久性がさらに優れる点から、長鎖アルキルモノマー単位を有することが好ましい。
長鎖アルキルモノマーのアルキル基の炭素数は、12~30であり、18~30が好ましく、20~30がより好ましく、20~24がさらに好ましい。アルキル基の炭素数が前記範囲の下限値以上であれば、洗濯耐久性及び豪雨耐久性に優れる。アルキル基の炭素数が前記範囲の上限値以下であれば、重合操作における取り扱いが容易であり、収率良く原料ポリマーが得られる。
【0024】
長鎖アルキルモノマーとしては、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート及びイコシル(メタ)アクリレートを例示できる。
原料ポリマーは、長鎖アルキルモノマー単位として、炭素数20~24のアルキル基を有する長鎖アルキルモノマーに基づく単位を含むことが好ましい。
【0025】
原料ポリマーは、被処理物品との密着性に優れ、洗濯耐久性及び豪雨耐久性がさらに優れる点から、ハロゲン化オレフィン単位を有することが好ましい。
ハロゲン化オレフィンとしては、塩素化オレフィン、フッ素化オレフィンが好ましい。
【0026】
ハロゲン化オレフィンとしては、被処理物品との密着性が優れる点から、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン及びフッ化ビニリデンが好ましく、塩化ビニル及び塩化ビニリデンがより好ましい。
【0027】
原料ポリマーは、洗濯耐久性及び豪雨耐久性がさらに優れる点から、架橋性モノマー単位を有することが好ましい。
架橋性モノマーが有する架橋性官能基としては、共有結合、イオン結合又は水素結合のうち少なくとも1つの結合を有する官能基、及び、前記結合の相互作用により架橋構造を形成できる官能基が好ましい。
【0028】
架橋性官能基としては、洗濯耐久性及び豪雨耐久性が優れる点から、イソシアネート基、ブロックドイソシアネート基、アルコキシシリル基、アミノ基、アルコキシメチルアミド基、シラノール基、アンモニウム基、アミド基、エポキシ基、水酸基、オキサゾリン基、カルボキシ基、アルケニル基及びスルホン酸基が好ましい。特に、エポキシ基、水酸基、ブロックドイソシアネート基、アルコキシシリル基、アミノ基、及びカルボキシ基が好ましい。
【0029】
架橋性モノマーとしては、(メタ)アクリレート類、アクリルアミド類、ビニルエーテル類、及びビニルエステル類が好ましい。
架橋性モノマーとしては、洗濯耐久性及び豪雨耐久性がさらに優れる点から、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ダイアセトンアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのポリカプロラクトンエステル、フェニルグリシジルルアクリレートとトリレンジイソシアネートのウレタンプレポリマー(AT-600、共栄社化学社製)及びメタクリル酸-2-[1,3,3-トリメチル-5-(1-メチルプロビリデンアミノオキシカルボニルアミノ)-1-シクロヘキシルメチルアミノカルボニルオキシ]エチル(テックコートHE-6P、京絹化成社製)がより好ましく、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、及び3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0030】
他のモノマーとしては、長鎖アルキルモノマー、ハロゲン化オレフィン及び架橋性モノマー以外のモノマー(以下、「モノマー(m)」ともいう。)を用いてもよい。
【0031】
モノマー(m)としては、下記の化合物を例示できる。
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ブテン、イソプレン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、ペンテン、エチル-2-プロピレン、ブチルエチレン、シクロヘキシルプロピルエチレン、デシルエチレン、ドデシルエチレン、ヘキセン、イソヘキシルエチレン、ネオペンチルエチレン、(1,2-ジエトキシカルボニル)エチレン、(1,2-ジプロポキシカルボニル)エチレン、ビニルアルキルエーテル(メトキシエチレン、エトキシエチレン、ブトキシエチレン、ペンチルオキシエチレン等)、2-メトキシプロピレン、シクロペンタノイルオキシエチレン、シクロペンチルアセトキシエチレン、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ヘキシルスチレン、オクチルスチレン、ノニルスチレン、クロロプレン。
【0032】
N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ビニルアルキルケトン、ベンジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシルメタクリレート、シクロドデシルアクリレート、3-エトキシプロピルアクリレート、メトキシ-ブチルアクリレート、2-エチルブチルアクリレート、1,3-ジメチルブチルアクリレート、2-メチルペンチルアクリレート、アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレンジ(メタ)アクリレート。
【0033】
クロトン酸アルキルエステル、マレイン酸ジオクチル等のマレイン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステル、シトラコン酸アルキルエステル、メサコン酸アルキルエステル、トリアリルシアヌレート、酢酸アリル、N-ビニルカルバゾール、マレイミド、N-メチルマレイミド、側鎖にシリコーンを有する(メタ)アクリレート、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート、末端が炭素数1~4のアルキル基であるポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート、アルキレンジ(メタ)アクリレート等。
【0034】
原料ポリマーとしては、撥油性、撥水性及び豪雨耐久性に優れる点から、炭素数4~6のR基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位と、ベヘニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及びN-メチロールアクリルアミドからなる群から選ばれるモノマーに基づく単位の少なくとも1種とを有するポリマーが好ましい。
【0035】
原料ポリマー中のRfモノマー単位の割合は、全単位に対して、10~50質量%であり、10~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。
【0036】
原料ポリマー中の長鎖アルキルモノマー単位の割合は、全単位に対して、10~80質量%が好ましく、20~70質量%がより好ましく、30~70質量%がさらに好ましく、40~60質量%が特に好ましい。Rfモノマー単位の割合が前記範囲の下限値以上、上限値以下であり、長鎖アルキルモノマー単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、撥水性及び豪雨耐久性に優れる。Rfモノマー単位の割合が前記範囲の下限値以上であり、長鎖アルキルモノマー単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、撥油性が発現する。
原料ポリマー中の長鎖アルキルモノマー単位の全単位に対する、炭素数20~30のアルキル基を有する長鎖アルキルモノマーに基づく単位の割合は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。原料ポリマー中の長鎖アルキルモノマー単位の全単位に対する、炭素数20~30のアルキル基を有する長鎖アルキルモノマーに基づく単位の割合は、100質量%であってもよく、100質量%以下が好ましく、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。上記炭素数20~30のアルキル基を有する長鎖アルキルモノマーに基づく単位の割合が、上記下限値以上であると、豪雨耐久性により優れ、上記上限値以下であると、撥油性及び豪雨耐久性により優れる。
【0037】
原料ポリマーがハロゲン化オレフィン単位を有する場合、原料ポリマー中のハロゲン化オレフィン単位の割合は、全単位に対して、50質量%以下が好ましく、1~45質量%がより好ましく、5~35質量%がさらに好ましく、10~25質量%が特に好ましい。ハロゲン化オレフィン単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、被処理物品との密着性に優れる。Rfモノマー単位と長鎖アルキルモノマー単位が前記範囲内であり、ハロゲン化オレフィン単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、撥水性及び豪雨耐久性がさらに優れる。
【0038】
原料ポリマーが架橋性モノマー単位を有する場合、原料ポリマー中の架橋性モノマー単位の割合は、全単位に対して、20質量%以下が好ましく、0.1~15質量%がより好ましく、0.1~10質量%がさらに好ましく、0.1~7質量%が特に好ましい。架橋性モノマー単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、洗濯後の撥水性、長時間に渡る豪雨耐久性に優れる。架橋性モノマー単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、撥水撥油性組成物の貯蔵安定性に優れる。
【0039】
原料ポリマー中のモノマー(m)に基づく単位の割合は、全単位に対して、0~35質量%が好ましく、0~30質量%がより好ましく、0~20質量%がさらに好ましく、0~15質量%が特に好ましい。モノマー(m)に基づく単位の割合が前記範囲の下限値以上、前記範囲の上限値以下であれば、撥水性及び豪雨耐久性に優れる。
ポリマーにおけるモノマー単位の割合は、ポリマー製造時のモノマーの仕込み量に基づいて算出される。
【0040】
原料ポリマーのMwは、8,000~1,000,000が好ましく、10,000~800,000がより好ましい。原料ポリマーのMwが前記範囲内であれば、撥水性及び撥油性を発現しやすい。
原料ポリマーのMnは、3,000~800,000が好ましく、5,000~600,000がより好ましい。原料ポリマーのMnが前記範囲内であれば、撥水性及び撥油性を発現しやすい。
原料ポリマーの乳化液に含まれる原料ポリマーは、2種以上であってもよい。
【0041】
原料ポリマーの乳化液は、例えば、界面活性剤及び重合開始剤の存在下、媒体中にてRfモノマーと他のモノマーとを含む、原料ポリマーを形成するためのモノマー成分(以下、「モノマー成分(a)」とも記す。)を重合して乳化液を得る方法で製造できる。原料ポリマーの収率が向上する点から、重合の前に、モノマー成分(a)、界面活性剤及び媒体からなる混合物を前乳化することが好ましい。乳化処理の方法は、特に限定されず、高圧乳化機、超音波ホモジナイザー、高速ホモジナイザーを用いる方法を例示できる。重合前後及び貯蔵時の分散安定性がより優れることから、高圧乳化機を用いる方法が好ましい。
モノマー成分(a)における各モノマーの好ましい割合は、前記した原料ポリマーにおける各モノマーに基づく単位の好ましい割合と同様である。
【0042】
媒体としては、水、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、ハロゲン化合物、炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、窒素化合物を例示できる。媒体は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。媒体としては、溶解性、取り扱いの容易さの点から、水、アルコール、グリコール、グリコールエーテル及びグリコールエステルからなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。媒体を2種以上混合して用いる場合、水と他の媒体との組み合わせが好ましい。
【0043】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を例示でき、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が好ましい。界面活性剤は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
ノニオン性界面活性剤としては、国際公開第2010/047258号、国際公開第2010/123042号に記載の界面活性剤s1~s6、特許第5569614号公報に記載のアミドアミン界面活性剤を例示できる。
カチオン性界面活性剤としては、国際公開第2010/047258号、国際公開第2010/123042号に記載の界面活性剤s7を例示できる。
両性界面活性剤としては、国際公開第2010/047258号、国際公開第2010/123042号に記載の界面活性剤s8を例示できる。
【0045】
重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤、放射線重合開始剤、ラジカル重合開始剤、イオン性重合開始剤を例示できる。重合開始剤は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合開始剤としては、水溶性又は油溶性のラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、レドックス系開始剤等の汎用の開始剤が、重合温度に応じて用いられる。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系化合物が好ましく、アゾ系化合物の塩がより好ましい。
重合温度は20~150℃が好ましい。
【0046】
モノマー成分(a)の重合の際には、分子量調整剤を用いてもよい。
分子量調整剤としては、メルカプトエタノール、メルカプトグリセロール、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタンを例示できる。分子量調整剤は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
モノマー成分(a)の乳化液中のモノマー成分(a)濃度は、20~50質量%が好ましく、25~40質量%がより好ましい。乳化液中のモノマー成分(a)濃度が前記範囲の下限値以上であれば、重合の反応率が良好である。乳化液中のモノマー成分(a)濃度が前記範囲の上限以下であれば、ラテックスの凝集が起こりにくく、重合が安定して進行する。
【0048】
原料ポリマーの乳化液中の界面活性剤の含有量は、モノマー成分(a)の合計100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~8質量部がより好ましい。
【0049】
原料ポリマーの乳化液の固形分濃度は、10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。原料ポリマーの乳化液の固形分濃度が前記範囲の下限値以上であれば、モノマー成分(b)と混合した重合反応時に取り扱いやすい。原料ポリマーの乳化液の固形分濃度が前記範囲の上限値以下であれば、ラテックスの凝集が起こりにくく安定した原料ポリマーの乳化液が得られる。
【0050】
(モノマー成分(b)の乳化液)
モノマー成分(b)は、Rfモノマーを80~100質量%含む。モノマー成分(b)に含まれるRfモノマーとしては、原料ポリマーで挙げたRfモノマーと同じものを例示できる。モノマー成分(b)に用いるRfモノマーは、2種以上でもよい。
【0051】
モノマー成分(b)は、Rfモノマー以外のモノマーを含んでもよい。Rfモノマー以外のモノマーとしては、長鎖アルキルモノマー、ハロゲン化オレフィン、架橋性モノマー、モノマー(m)を例示でき、長鎖アルキルモノマー、ハロゲン化オレフィン及び架橋性モノマーが好ましく、長鎖アルキルモノマー及び架橋性モノマーがより好ましい。モノマー成分(b)に用いる他のモノマーは、2種以上でもよい。
【0052】
モノマー成分(b)がRfモノマーとRfモノマー以外のモノマーとを含む場合、モノマー成分(b)中のRfモノマーの割合は、モノマー成分(b)の全量に対して、80質量%以上であり、80~99質量%であることが好ましく、90~99質量%であることがより好ましい。モノマー成分(b)中のRfモノマーの割合が前記範囲の下限値以上であれば、撥油性に優れる。モノマー成分(b)中のRfモノマーの割合が前記範囲の上限値以下であれば、他のモノマーによる効果が得られる。
【0053】
モノマー成分(b)が長鎖アルキルモノマーを含む場合、モノマー成分(b)中の長鎖アルキルモノマーの割合は、モノマー成分(b)の全量に対して、1~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。モノマー成分(b)中の長鎖アルキルモノマーの割合が前記範囲の下限値以上であれば、原料ポリマーとの相溶性が高く、耐久性に優れる。モノマー成分(b)中の長鎖アルキルモノマーの割合が前記範囲の上限値以下であれば、Rfモノマーによる高い撥油性が維持される。
【0054】
モノマー成分(b)が架橋性モノマーを含む場合、モノマー成分(b)中の架橋性モノマーの割合は、モノマー成分(b)の全量に対して、0.1~15質量であること%が好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。モノマー成分(b)中の架橋性モノマーの割合が前記範囲の下限値以上であれば、耐久性に優れる。モノマー成分(b)中の架橋性モノマーの割合が前記範囲の上限値以下であれば、Rfモノマーによる高い撥油性が維持される。
【0055】
モノマー成分(b)の乳化液は、例えば、モノマー成分(b)と、媒体と、界面活性剤とを混合し、乳化処理する方法で製造できる。モノマー成分(b)の乳化液に用いる媒体及び界面活性剤は、原料ポリマーの乳化液の製造で挙げたものと同じものを例示でき、好ましい態様も同じである。乳化処理の方法は、特に限定されず、高圧乳化機、超音波ホモジナイザー、高速ホモジナイザーを用いる方法を例示できる。重合前後及び貯蔵時の分散安定性に優れることから、高圧乳化機を用いる方法が好ましい。
モノマー成分(b)の乳化液において、モノマー成分(b)は媒体中に乳化粒子として分散している。モノマー成分(b)は、通常常温で液体であることより、乳化液中のモノマー成分(b)の乳化粒子は、通常、液体の粒子である。モノマー成分(b)の乳化液中の乳化粒子の平均粒子径は、50~600nmが好ましく、80~400nmがより好ましい。乳化粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、重合前後及び貯蔵時の分散安定性が良好となりやすく、原料ポリマーの乳化液とよく混ざりやすい。
【0056】
モノマー成分(b)の乳化液中の界面活性剤の含有量は、モノマー成分(b)の合計100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~8質量部がより好ましい。
【0057】
モノマー成分(b)の乳化液のモノマー成分(b)濃度は、20~50質量%が好ましく、25~40質量%がより好ましい。乳化液のモノマー成分(b)濃度が前記範囲の下限値以上であれば、重合の反応率が良好である。乳化液のモノマー成分(b)濃度が前記範囲の上限値以下であれば、ラテックスの凝集が起こりにくく、重合が安定して進行する。
【0058】
原料ポリマーの乳化液とモノマー成分(b)の乳化液とを混合した混合液中でのモノマー成分(b)の重合は、重合開始剤の存在下で実施できる。混合液中でモノマー成分(b)を重合することで、原料ポリマーの存在下でモノマー成分(b)が重合したポリマーを含む乳化液からなる撥水撥油剤組成物が得られる。
モノマー成分(b)の重合に用いる重合開始剤としては、原料ポリマーの乳化液の製造で挙げたものと同じものを例示でき、好ましい態様も同じである。
モノマー成分(b)の重合の際には、分子量調整剤を用いてもよい。分子量調整剤としては、原料ポリマーの乳化液の製造で挙げたものと同じものを例示でき、好ましい態様も同じである。
【0059】
本発明では、原料ポリマーの質量とモノマー成分(b)の総質量との合計に対する原料ポリマーの質量の割合が50~99質量%となるように、原料ポリマーの乳化液とモノマー成分(b)の乳化液とを混合することが好ましい。原料ポリマーの質量の割合は、60~99質量%であることが好ましく、70~99質量%であることがより好ましい。原料ポリマーの質量の割合が前記範囲の下限値以上であれば、原料ポリマーの撥水性及び豪雨耐久性が維持されるか大幅に低下しにくく、前記範囲の上限値以下であれば、より撥油性に優れる。
【0060】
本発明の撥水撥油剤組成物の製造方法では、モノマー成分(b)の重合後に、得られた乳化液に架橋剤を添加することが好ましい。これにより、撥水撥油剤組成物の被処理物品への密着性が向上する。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、メチロール系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤及びオキサゾリン系架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0061】
イソシアネート系架橋剤としては、芳香族ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、脂肪族ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、芳香族非ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、脂肪族非ブロックタイプイソシアネート系架橋剤を例示できる。イソシアネート系架橋剤は、界面活性剤により乳化された水分散型、又は親水基を有した自己水分散型が好ましい。
【0062】
メチロール系架橋剤は、メラミン、尿素、アミド、アミン等とホルムアルデヒドとが反応して生じる、窒素原子にメチロール基が結合した化合物、及びそのメチロール基がアルキルエーテル化された誘導体である。メチロール系架橋剤としては、メラミンとホルムアルデヒドとの反応生成物又は予備縮合物であるメチロールメラミン、アルキルエーテル化メチロールメラミン、尿素とホルムアルデヒドとの反応生成物又は予備縮合物であるメチロール尿素、メチロール-ジヒドロキシエチレン-尿素及びその誘導体、メチロール-エチレン-尿素、メチロール-プロピレン-尿素、メチロール-トリアゾン、ジシアンジアミド-ホルムアルデヒドの縮合物、メチロール-カルバメート、メチロール-(メタ)アクリルアミドを例示できる。
【0063】
カルボジイミド系架橋剤は、分子中にカルボジイミド基を有するポリマーであり、被処理物品又は撥水撥油剤組成物中のカルボキシ基、アミノ基、活性水素含有基との反応性に優れる。活性水素とはカルホジイミド系架橋剤が反応し得る反応性基が有する水素原子をいい、酸素原子、窒素原子、イオウ原子等に結合した水素原子をいう。活性水素含有基は上記活性水素を有する基のことであり、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミド基、ヒドラジド基、アミノ基及びメルカプト基が挙げられる。
オキサゾリン系架橋剤は、分子中にオキサゾリン基を有するポリマーであり、被処理物品又は撥水撥油剤組成物中のカルボキシ基との反応性に優れる。
【0064】
撥水撥油剤組成物にメチロール系架橋剤を添加する場合は、メチロール系架橋剤とともに触媒を添加することが好ましい。
触媒としては、無機アミン塩類及び有機アミン塩類を例示できる。無機アミン塩類としては、塩化アンモニウムを例示できる。有機アミン塩類としては、アミノアルコール塩酸塩及びセミカルバジド塩酸塩を例示できる。アミノアルコール塩酸塩としては、モノエタノールアミン塩酸塩、ジエタノールアミン塩酸塩、トリエタノール塩酸塩及び2-アミノ-2-メチルプロパノール塩酸塩を例示できる。
【0065】
本発明の撥水撥油剤組成物の製造方法では、撥水撥油剤組成物に架橋剤以外の添加剤を添加してもよい。
架橋剤以外の添加剤としては、原料ポリマーの存在下でモノマー成分(b)を重合して得られるポリマー以外の含フッ素ポリマー、非フッ素系ポリマー、水溶性高分子樹脂(親水性ポリエステル及びその誘導体、又は親水性ポリエチレングリコール及びその誘導体等)、浸透剤(アセチレン基を中央に持ち左右対称の構造をしたノニオン性界面活性剤等)、消泡剤、造膜助剤、防カビ剤、抗菌剤、防虫剤、難燃剤、帯電防止剤、防しわ剤、柔軟剤、pH調整剤を例示できる。
【0066】
撥水撥油剤組成物の固形分濃度は、10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。撥水撥油剤組成物の固形分濃度が前記範囲の下限値以上であれば、処理浴調整時の取り扱いに優れる。撥水撥油剤組成物の固形分濃度が前記範囲の下限値以上であれば、撥水撥油剤組成物の貯蔵安定性に優れる。
【0067】
以上説明したように、本発明の撥水撥油剤組成物は、原料ポリマーの乳化液とモノマー成分(b)の乳化液とを特定の割合で混合し、モノマー成分(b)を重合することにより製造される。重合して得られた乳化液に必要に応じて添加剤を加えた撥水撥油剤組成物で処理することで、原料ポリマーの撥水性及び豪雨耐久性が維持されるか大幅な低下がなく、撥油性に優れた撥水撥油性物品を製造できる。
【0068】
前記の効果が得られる要因は、必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
原料ポリマーを含む乳化液は撥水性及び豪雨耐久性が比較的良好である。一方、モノマー成分(b)はフッ素含有量の多いモノマーを多く含むため、重合して得られた乳化液を含む撥水撥油剤は撥油性が良好である。後述の実施例で示すとおり、原料ポリマーの乳化液とモノマー成分(b)の乳化液を混合してモノマー成分(b)を重合して(二段重合)得られた乳化液を含む撥水撥油剤は、原料ポリマーと、モノマー成分(b)を重合して得られるポリマーとを単純にブレンドしたり、コアシェル重合したりして得られた撥水撥油剤と比較して、撥水性が大きく低下することなく撥油性が向上している。すなわち、具体的な性状は必ずしも明らかではないが、本発明の製造方法によって得られる乳化液は、単純な2種のポリマーのブレンドやコアシェル重合によって得られる乳化液とは異なった分散状態となっていることが示唆される。
【0069】
[撥水撥油性物品の製造方法]
本発明の撥水撥油性物品の製造方法は、本発明の撥水撥油剤組成物の製造方法で製造した撥水撥油剤組成物により被処理物品を処理する。これにより、撥水性、豪雨耐久性及び撥油性が付与された撥水撥油性物品が得られる。
【0070】
被処理物品としては、繊維、繊維織物、繊維編物、不織布、ガラス、紙、木、皮革、人工皮革、石、コンクリート、セラミックス、金属及び金属酸化物、窯業製品、プラスチックス、フィルム、フィルター、多孔質樹脂、多孔質繊維を例示できる。多孔質樹脂の素材としては、ポリプロピレン、PTFEを例示できる。
【0071】
処理方法は、撥水撥油剤組成物を被処理物品に付着できる方法であればよく、塗布、含浸、浸漬、スプレー、ブラッシング、パディング、サイズプレス、ローラー等の公知の被覆加工法を例示できる。
撥水撥油剤組成物を被処理物品の表面に付着させた後には乾燥することが好ましい。乾燥は常温で行っても加熱してもよく、加熱することが好ましい。加熱する場合、加熱温度は40~200℃が好ましい。また、撥水撥油剤組成物が架橋剤を含有する場合、必要であれば、前記架橋剤の架橋温度以上に加熱してキュアリングすることが好ましい。
【実施例
【0072】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1~7、14は実施例であり、例8~13は比較例である。
【0073】
[評価方法]
各例で得た撥水撥油剤組成物によって処理された試験布の評価方法を以下に示す。
【0074】
(撥油性)
試験布について、AATCC-TM118-1966の試験方法にしたがって撥油性を評価した。撥油性は、表1に示す等級で表した。それぞれの性能がわずかに良い(悪い)時には等級に+0.5(-0.5)した値を記した。
【0075】
【表1】
【0076】
(撥水性)
試験布について、JIS L 1092(1998年)のスプレー試験にしたがって撥水性を評価した。撥水性は、1~5の5段階の等級で表した。点数が大きいほど撥水性が良好であることを示す。
【0077】
(豪雨耐久性)
試験布について、JIS L 1092(1998年)(c)法に記載の方法(ブンデスマン試験)にしたがって、降雨量が100mL/分、降雨水温が20℃、降雨時間が10分の条件で降雨させた後、撥水性を1~5の5段階の等級で表して豪雨耐久性の評価とした。
(モノマー成分(b)の乳化液中の乳化粒子の平均粒子径測定)
モノマー成分(b)の乳化液をアドバンテック社製セルロースアセテート0.2μmのフィルターを通した蒸留水で50倍に希釈した。得られた希釈液について、動的光散乱光度計(大塚電子社製、ELS-Z2)を用い、温度:25℃、積算回数:70回、溶媒の屈折率:1.3313、溶媒の粘度:0.8852cpの条件で散乱強度を測定し、得られた自己相関関数からキュムラント法解析によって、モノマー成分(b)の乳化液中の乳化粒子の平均粒子径を算出した。
【0078】
[略号]
本実施例における略号は、以下のとおりである。
(Rfモノマー)
C6FMA:F(CFCHCHOC(O)C(CH)=CH
【0079】
(長鎖アルキルモノマー)
BeA:ベヘニルアクリレート
StA:ステアリルアクリレート
【0080】
(ハロゲン化オレフィン)
VCM:塩化ビニル
【0081】
(架橋性モノマー)
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
NMAM水溶液:N-メチロールアクリルアミド(NMAM)の52質量%水溶液
【0082】
(界面活性剤)
PEO-30水溶液:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エチレンオキシド付加モル数:約30モル。エマルゲンE430、花王社製品名。)の10質量%水溶液
AGE-10:アセチレングリコールエチレンオキシド付加物(エチレンオキシド付加モル数:10モル。サーフィノール465、日信化学工業社製品名。)
EPO-40:エチレンオキシドプロピレンオキシド重合物(エチレンオキシドの割合:40質量%。プロノン204、日油社製品名。)
STMAC:塩化アルキル(炭素数:16~18)トリメチルアンモニウムクロリドの63質量%水及びイソプロピルアルコール溶液(リポカード 18-63、ライオン社製品名。)
CTMAC:塩化アルキル(炭素数:8~18)トリメチルアンモニウムクロリドの50質量%水及びイソプロピルアルコール溶液(リポカード C-50、ライオン社製品名)
【0083】
(媒体)
DPG:ジプロピレングリコール
DPGMME:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
水:イオン交換水
【0084】
(分子量調整剤)
StSH:ステアリルメルカプタン
DoSH:n-ドデシルメルカプタン
【0085】
(重合開始剤)
VA-061A:2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](VA-061、和光純薬社製品名。)酢酸塩の10質量%水溶液
V-65:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロリニトリル)(V-65、和光純薬社製品名)
【0086】
[製造例1]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの4.60g、BeAの18.67g、NMAM水溶液の2.21g、HEMAの0.16g、PEO-30水溶液の7.78g、EPO-40の0.16g、STMACの0.49g、DPGMMEの18.67g、水の44.80g、DoSHの0.31gを入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合した。得られた液を、60℃に保ちながら高圧乳化機(APVラニエ社製、ミニラボ)を用いて40MPaで処理し、モノマー成分(a-1)の乳化液を得た。得られたモノマー成分(a-1)の乳化液をステンレス製反応容器に入れ、20℃以下となるまで冷却した。VA-061Aの1.56gを加え、気相を窒素置換した後、VCMの6.53gを添加した。撹拌しながら60℃で15時間重合反応を行った後、水を加えて固形分濃度が20質量%の原料ポリマー(A-1)の乳化液を得た。原料ポリマー(A-1)の乳化液中の原料ポリマー(A-1)の濃度は19質量%であった。
原料ポリマー(A-1)における各単位の割合は、C6FMA単位/BeA単位/NMAM単位/HEMA単位/VCM単位=14.8/60/3.7/0.5/21(質量%)であった。
【0087】
[製造例2]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの5.60g、BeAの3.11g、StAの15.71g、NMAM水溶液の0.3g、PEO-30水溶液の6.22g、AGE-10の0.31g、EPO-40の0.31g、STMACの0.49g、CTMACの0.31g、DPGの9.33g、水の40.74g、StSHの0.31gを入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合した。得られた液を製造例1と同様にしてモノマー成分(a-2)の乳化液を得た。得られたモノマー成分(a-2)の乳化液を用いて、製造例1と同様にして固形分濃度が20%の原料ポリマー(A-2)の乳化液を得た。原料ポリマー(A-2)の乳化液中の原料ポリマー(A-2)の濃度は19質量%であった。
原料ポリマー(A-2)における各単位の割合は、C6FMA単位/BeA単位/StA単位/NMAM単位/VCM単位=18/10/50.5/0.5/21(質量%)であった。
【0088】
[製造例3]
ガラス製ビーカーに、BeAの21.74g、NMAM水溶液の2.07g、HEMAの0.15g、PEO-30水溶液の7.27g、EPO-40の0.15g、STMACの0.46g、DPGMMEの17.44g、水の43.53g、DoSHの0.29gを入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合した。得られた液を製造例1と同様にしてモノマー成分(a-3)の乳化液を得た。得られたモノマー成分(a-3)の乳化液を用い、VA-061Aの添加量を0.81g、VCMの添加量を6.10gとした以外は、製造例1と同様にして固形分濃度が20%の原料ポリマー(A-3)の乳化液を得た。原料ポリマー(A-3)の乳化液中の原料ポリマー(A-3)の濃度は19質量%であった。
原料ポリマー(A-3)における各単位の割合はBeA単位/NMAM単位/HEMA単位/VCM単位=74.8/3.7/0.5/21(質量%)であった。
【0089】
[例1]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの45.71g、HEMAの2.41g、PEO-30水溶液の12.03g、STMACの0.76g、PEO-40の0.24g、DPGMMEの4.81g、水の98.74g、DoSHの0.48gを入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合した。得られた液を、60℃に保ちながら高圧乳化機(APVラニエ社製、ミニラボ)を用いて40MPaで処理し、モノマー成分(b-1)の乳化液を得た。モノマー成分(b-1)の乳化液中の乳化粒子の平均粒子径は195nmであり、当該乳化液中のモノマー成分濃度は29質量%であった。
原料ポリマー(A-1)の乳化液の58.99gと、モノマー成分(b-1)の乳化液の0.98gをステンレス製反応容器に入れ、20℃以下となるまで冷却した後、VA-061Aの0.03gを加えて、気相を窒素置換した。混合液を撹拌しながら60℃で12時間重合反応を行う二段重合により、原料ポリマー(A-1)の存在下でモノマー成分(b-1)を重合して得たポリマーを含む乳化液である撥水撥油剤組成物(C-1)を得た。モノマー成分(b-1)の乳化液とVA-061Aの混合物の固形分濃度は30質量%であった。原料ポリマー(A-1)の質量とモノマー成分(b-1)の合計質量の比率は、98/2であった。モノマー成分(b-1)中の各モノマーの割合は、C6FMA/HEMA=95/5(質量%)であった。
撥水撥油剤組成物(C-1)を固形分濃度が1.0質量%となるまで水道水で希釈し、イソシアネート系架橋剤(明成化学工業社製、メイカネートCX)を濃度が1.0質量%となるように添加し、処理液を得た。
パディング法によって、前記処理液に染色済みナイロンタスランを浸漬し、ウェットピックアップが60質量%となるように絞った。これを110℃で90秒間乾燥した後、さらに180℃で60秒間乾燥したものを試験布とした。前記試験布について、撥油性、撥水性、豪雨耐久性を評価した。
【0090】
[例2~5]
原料ポリマー(A-1)、モノマー成分(b-1)の乳化液、VA-061Aの仕込み量を表3に示すとおりに変更した以外は、例1と同様にして撥水撥油剤組成物(C-2)~(C-5)を得た。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-2)~(C-5)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0091】
[例6]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの33.97g、PEO-30水溶液の8.49g、STMACの0.54g、PEO-40の0.17g、DPGMMEの3.40g、水の69.70g、DoSHの0.34gを入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合した。得られた液を例1と同様に処理し、モノマー成分(b-2)の乳化液を得た。モノマー成分(b-2)の乳化液中の乳化粒子の平均粒子径は210nmであり、当該乳化液中のモノマー成分濃度は29質量%であった。
原料ポリマー(A-1)の乳化液の55.86gとモノマー成分(b-2)の乳化液の4.02gをステンレス製反応容器に入れ、20℃以下となるまで冷却した後、VA-061Aの0.12gを加えて、気相を窒素置換した。混合液を撹拌しながら60℃で12時間重合反応を行い、撥水撥油剤組成物(C-6)を得た。モノマー成分(b-2)の乳化液とVA-061Aの混合物の固形分濃度は30質量%であった。原料ポリマー(A-1)の質量とモノマー成分(b-2)の合計質量の比率は、90/10であった。モノマー成分(b-2)中のモノマーの割合は、C6FMA=100(質量%)であった。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-6)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0092】
[例7]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの27.17g、BeAの5.09g、HEMAの1.70g、PEO-30水溶液の8.49g、STMACの0.54g、PEO-40の0.17g、DPGMMEの3.40g、水の69.70g、DoSHの0.34gを入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合した。得られた液を例1と同様に処理し、モノマー成分(b-3)の乳化液を得た。モノマー成分(b-3)の乳化液中のモノマー成分濃度は29質量%であった。
モノマー成分(b-2)の乳化液の代わりにモノマー成分(b-3)の乳化液を用いる以外は、例6と同様にして二段重合を行い、撥水撥油剤組成物(C-7)を得た。原料ポリマー(A-1)の質量とモノマー成分(b-3)の合計質量の比率は、90/10であった。モノマー成分(b-3)中の各モノマーの割合は、C6FMA/BeA/HEMA=80/15/5(質量%)であった。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-7)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0093】
[例8]
原料ポリマー(A-1)、モノマー成分(b-1)の乳化液、VA-061Aの仕込み量を表3に示すとおりに変更した以外は、例1と同様にして撥水撥油剤組成物(C-8)を得た。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-8)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0094】
[例9]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの23.81g、BeAの8.49g、HEMAの1.70g、PEO-30水溶液の8.49g、STMACの0.54g、PEO-40の0.17g、DPGMMEの3.40g、水の69.70g、DoSHの0.34gを入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合した。得られた液を例1と同様に処理し、モノマー成分(b-4)の乳化液を得た。モノマー成分(b-4)の乳化液中のモノマー成分濃度は29質量%であった。
モノマー成分(b-2)の乳化液の代わりにモノマー成分(b-4)の乳化液を用いる以外は、例6と同様にして二段重合を行い、撥水撥油剤組成物(C-9)を得た。原料ポリマー(A-1)の質量とモノマー成分(b-4)の合計質量の比率は、90/10であった。モノマー成分(b-4)中の各モノマーの割合は、C6FMA/BeA/HEMA=70/25/5(質量%)であった。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-9)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0095】
[例10]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの45.71g、HEMAの2.41g、PEO-30水溶液の12.03g、EPO-40の0.24g、STMACの0.76g、DPGMMEの4.81g、水の98.74g、DoSHの0.48gを入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合した。得られた液を例1と同様に処理し、モノマー成分(b-5)の乳化液を得た。モノマー成分(b-5)の乳化液中のモノマー成分濃度は29質量%であった。
得られたモノマー成分(b-5)の乳化液をステンレス製反応容器に入れ、20℃以下となるまで冷却した後、VA-061Aの4.81gを加えて、気相を窒素置換した。撹拌しながら60℃で15時間重合反応を行い、第2ポリマー(B-5)の乳化液を得た。第2ポリマー(B-5)における各単位の割合は、C6FMA単位/HEMA単位=95/5(質量%)であった。
原料ポリマー(A-1)の乳化液と第2ポリマー(B-5)の乳化液とを、原料ポリマー(A-1)と第2ポリマー(B-5)の質量比が90/10となるように混合して撥水撥油剤組成物(C-10)(ブレンド品)を得た。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-10)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0096】
[例11]
ガラス製ビーカーに、C6FMAの9.53g、BeAの22.54g、NMAM水溶液の2.67g、HEMAの0.40g、PEO-30水溶液の10.44g、EPO-40の0.21g、STMACの0.66g、DPGMMEの22.96g、水の60.82g、DoSHの0.42gを入れ、60℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合した。得られた液を例1と同様に処理し、原料ポリマー(A-1)の形成用のモノマー成分(a-1)とモノマー成分(b-1)の両方を含む乳化液を得た。モノマー成分(a-1)の合計質量とモノマー成分(b-1)の合計質量の比率は、90/10であった。
モノマー成分(a-1)とモノマー成分(b-1)の両方を含む乳化液をステンレス製反応容器に入れ、20℃以下となるまで冷却した。VA-061Aの1.46gを加えて、気相を窒素置換した後、VCMの7.89gを添加した。撹拌しながら60℃で15時間重合反応を行い、一括重合による撥水撥油剤組成物(C-11)を得た。一括重合生成物における各単位の割合は、C6FMA単位/BeA単位/NMAM単位/HEMA単位/VCM単位=22.82/54.00/3.33/0.95/18.90(質量%)であった。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-11)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0097】
[例12]
ガラス製ビーカーにDPGMMEの2.68g、C6FMAの25.45g、HEMAの1.34g、DoSHの0.27gを加え、35℃で30分撹拌し、モノマー成分(b-6)の液を得た。モノマー成分(b-6)の液中のモノマー成分濃度は90質量%であった。
ガラス製反応容器に原料ポリマー(A-1)の乳化液の58.57gと成分(b-6)の液の1.43gを加え、60℃で30分撹拌した後、20℃以下となるまで冷却した。V-65の0.046gを加えて、気相を窒素置換した後、撹拌しながら60℃で12時間重合反応を行い、コアシェル重合による撥水撥油剤組成物(C-12)を得た。原料ポリマー(A-1)の質量とモノマー成分(b-6)の合計質量の比率は、90/10であった。コアシェル重合による撥水撥油剤組成物のシェル部分を形成するポリマー(Y-1)における各単位の割合は、C6FMA単位/HEMA単位=95/5(質量%)であった。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-12)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0098】
[例13]
原料ポリマー(A-1)の代わりに原料ポリマー(A-3)を用いた以外は、例4と同様にして二段重合による撥水撥油剤組成物(C-13)を得た。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-13)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0099】
[基準例1]
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに、原料ポリマー(A-1)の乳化液を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0100】
[基準例2]
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに、原料ポリマー(A-3)の乳化液を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0101】
原料ポリマー(A-1)~(A-3)及びポリマー(Y-1)の各単位の割合、モノマー成分(b-1)~(b-5)の各モノマーの割合を表2に示す。
また例1~13の重合条件及び評価結果を表3に示す(ただし、例11については、重合形態と評価のみを示す。)。例1~12の撥油性、撥水性及び豪雨耐久性は、基準例1の撥油性、撥水性及び豪雨耐久性の等級を基準とする「基準との等級差」により評価した。例13の撥油性、撥水性及び豪雨耐久性は、基準例2の撥油性、撥水性及び豪雨耐久性の等級を基準とする「基準との等級差」により評価した。
表3における重合形態の欄における「単独」は単独重合、「二段」は二段重合、「ブレンド」は原料ポリマーの乳化液と原料ポリマー非存在下でのモノマー成分(b)の重合により得られたポリマーの単純なブレンド、「一括」は一括重合、「コアシェル」はコアシェル重合を示す。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
表3に示すように、原料ポリマーの乳化液とモノマー成分(b)の乳化液とを混合してモノマー成分(b)を重合して撥水撥油剤組成物を得た例1~7では、基準例1の撥油性の等級を基準とする撥油性の等級差が+2であり、撥油性に優れていた。また、例1~7では、基準例1の撥水性の等級を基準とする撥水性の等級差が0であり、撥水性が維持されていた。また、例1~7では、基準例1の豪雨耐久性の等級を基準とする豪雨耐久性の等級差が-1又は0であり、豪雨耐久性の大幅な低下はみられなかった。
一方、本発明の製造方法以外の方法で撥水撥油剤組成物を得た例8~12では、基準例1の豪雨耐久性の等級を基準とする豪雨耐久性の等級差が-2であり、豪雨耐久性が大幅に低下した。ブレンド、一括重合、コアシェル重合を採用した例10~12では、基準例1の撥水性の等級を基準とする撥水性の等級差が-1であり、撥水性も劣っていた。
Rfモノマー単位を有しない原料ポリマーを用いて撥水撥油剤組成物を得た例13では、基準例2の撥油性及び撥水性の等級を基準とするそれらの等級差がそれぞれ-0.5、-2であり、撥油性及び撥水性がいずれも劣っていた。
このように、例1~7において、原料ポリマーの乳化液とモノマー成分(b)の乳化液とを混合し、モノマー成分(b)を重合(二段重合)して得られた乳化液を含む撥水撥油剤組成物は、例10~12の単純なブレンド、一括重合、コアシェル重合で得られる乳化液を含む撥水撥油剤組成物よりも、撥水性が大きく損なわれることなく優れた撥水撥油性を有している。このことから、例1~7の撥水撥油剤組成物と例10~12の撥水撥油剤組成物とでは、ポリマーの分散状態が異なっており、そのことが前記効果を奏する要因になっていると考えられる。
【0105】
[例14]
原料ポリマー(A-1)の乳化液の代わりに原料ポリマー(A-2)の乳化液を用いた以外は、例4と同様にして二段重合による撥水撥油剤組成物(C-14)を得た。
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに撥水撥油剤組成物(C-14)を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0106】
[基準例3]
撥水撥油剤組成物(C-1)の代わりに、原料ポリマー(A-2)の乳化液を用いる以外は、例1と同様にして試験布を得た。
【0107】
基準例3及び例14の重合条件及び評価結果を表4に示す。例14の撥油性、撥水性及び豪雨耐久性は、基準例1の撥油性、撥水性及び豪雨耐久性の等級を基準とする「基準との等級差」により評価した。
【0108】
【表4】
【0109】
表4に示すように、原料ポリマーの乳化液とモノマー成分(b)の乳化液とを混合してモノマー成分(b)を重合して撥水撥油剤組成物を得た例14では、基準例3の撥油性の等級を基準とする撥油性の等級差が+1であり、撥油性に優れていた。また、例14では、基準例3の撥水性及び豪雨耐久性の等級を基準とするそれらの等級差がいずれも0であり、撥水性及び豪雨耐久性が維持されていた。
なお、2018年03月08日に出願された日本特許出願2018-042322号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。