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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】排水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20220817BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20220817BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20220817BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C02F1/58 J ZAB
C02F1/62
B01D53/62
B01D53/78
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021083652
(22)【出願日】2021-05-18
(62)【分割の表示】P 2017174338の分割
【原出願日】2017-09-11
(65)【公開番号】P2021121434
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-098307(JP,A)
【文献】特開2002-282867(JP,A)
【文献】特開2002-293537(JP,A)
【文献】特開2012-096975(JP,A)
【文献】特開2005-262051(JP,A)
【文献】特開2003-236497(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102008881(CN,A)
【文献】特開2010-137141(JP,A)
【文献】特開2016-016341(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0247270(US,A1)
【文献】特開平10-137540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58
C02F 1/62
B01D 53/14-53/22
B01D 53/62
B01D 53/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含む排ガスとアルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液とを接触させてアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を製造する工程と、アルカリ土類金属イオンを含む排水から重金属を除去する第1の水処理工程と、前記第1の水処理工程を行った後に前記第2の溶液と前記排水とを接触させて、排水中のアルカリ土類金属イオンをアルカリ土類金属炭酸塩として得る工程とを含み、
前記第2の溶液と前記排水とを接触させた後に、前記第2の溶液及び前記排水から重金属を除去する第2の水処理工程を更に含む、排水の処理方法。
【請求項2】
前記二酸化炭素を含む排ガスが、火力発電所、製鉄所、セメント工場、又は焼却炉から排出される排ガスである、請求項1に記載の排水の処理方法。
【請求項3】
前記二酸化炭素を含む排ガスが、セメント工場から排出される排ガスであり、前記排ガスが、電気集塵機及び/又はバグフィルターを通過した後の排ガス、並びに窯尻ダクトから燃焼ガスが抽気されて脱塩ダストを回収する脱塩バイパス設備から排出される排ガスから選ばれる少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の排水の処理方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属イオンを含む排水が、塩素含有焼却灰を洗浄した排水である、請求項1~3のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属イオンを含む排水が、塩素含有焼却灰と水とを含み、塩素含有焼却灰と水との質量比が1:1~1:10である、請求項4に記載の排水の処理方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項7】
前記第1の溶液に含まれるアルカリ金属水酸化物に対する前記第1の溶液に接触させる排ガス中に含まれる二酸化炭素のモル比(二酸化炭素/アルカリ金属水酸化物)が0.1~1.0である、請求項1~6のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中のアルカリ土類金属イオンを除去する排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ土類金属イオンを含む排水は、これらの排水が流通する設備の機器や配管中に炭酸カルシウムなどのアルカリ土類炭酸塩や、石膏などのアルカリ土類硫酸塩が析出し、析出したこれらの塩類がスケールとなってポンプや配管を閉塞し、又は、分離膜を閉塞する問題が生じている。
【0003】
スケールの発生を抑制する方法として、例えば、塩素バイパスダストのようにカルシウムを大量に含有するダストを処理するために、溶解槽にダストとともに種結晶として二水石膏を懸濁させ、石膏の成長を助長させて、アルカリ土類硫酸塩を取り除く方法が開示されている(特許文献1及び2)。
【0004】
また、スケールの発生を抑制する方法として、焼却主灰、焼却飛灰、バイパスダスト、溶融炉ダストなどの灰類を水処理する際に、灰洗浄濾液に硫酸カリウムを作用させて、石膏と塩化カリウムを得て、この塩化カリウムに硫酸を作用させて、硫酸カリウムと塩酸を得て、得られた硫酸カリウムを循環させて再び灰洗浄濾液に作用させ、灰洗浄濾液から硫酸と石膏と塩酸とを生成させて回収する方法が開示されている(特許文献3)。
【0005】
また、スケールの発生を抑制する方法として、焼却飛灰等のカルシウム含有粉体の水への溶解時に塩素バイパスダストを添加してカルシウムを析出させる方法が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-041978号公報
【文献】特開2003-326232号公報
【文献】特開2003-002611号公報
【文献】国際公開第2004/030839号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1又は2に開示されているように、溶解槽にダストとともに種結晶を添加して、石膏の成長を助長させる方法では、溶解槽に投入したダスト中に石膏として析出可能なイオンが存在していなければならず、また、種結晶から石膏として成長するまでに時間を要し、処理に時間がかかるという問題がある。また、大量のダストを処理するために大型の溶解槽が必要となり、設備が大型化する傾向がある。
【0008】
特許文献3又は4に開示されているように、焼却主灰、焼却飛灰、バイパスダスト、溶融炉ダストなどの灰類を水処理する方法では、処理する灰類に含まれる塩類等の成分が一定ではなく変化するため、灰類の成分の変化によってスケールの発生を抑制し難い場合がある。灰類を処理した処理水は、下水道に放流され、最終的には海に放流されることとなる。処理水は、海に放流される前に、通常、砂ろ過装置又は膜分離装置等によって、水質を環境省で定める基準値以下となるように処理する必要があり、砂ろ過装置や膜分離装置においてスケールが発生すると、トラブルの要因となる場合がある。
【0009】
本発明は、セメント工場等の工場設備から排出される排ガスを有効利用して、排水中のアルカリ土類金属イオンを除去してスケールの発生を抑制することができ、工業的に利用可能なアルカリ土類金属炭酸塩を得る排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、セメント工場等の工場設備から排出される排ガス中の二酸化炭素を有効利用し、排ガス中の二酸化炭素とアルカリ金属水酸化物とを反応させてアルカリ金属炭酸塩を得て、このアルカリ金属炭酸塩を用いて排水中のアルカリ土類金属イオンをアルカリ土類金属炭酸塩として析出させることにより、効率的にスケールの発生を抑制することできることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0011】
〔1〕二酸化炭素を含む排ガスとアルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液とを接触させてアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を製造する工程と、前記第2の溶液とアルカリ土類金属イオンを含む排水とを接触させて、排水中のアルカリ土類金属イオンをアルカリ土類金属炭酸塩として得る工程とを含む、排水の処理方法。
〔2〕前記二酸化炭素を含む排ガスが、火力発電所、製鉄所、セメント工場、又は焼却炉から排出される排ガスである、前記〔1〕に記載の排水の処理方法。
〔3〕前記二酸化炭素を含む排ガスが、セメント工場から排出される排ガスであり、前記排ガスが、電気集塵機及び/又はバグフィルターを通過した後の排ガス、並びに窯尻ダクトから燃焼ガスが抽気されて脱塩ダストを回収する脱塩バイパス設備から排出される排ガスから選ばれる少なくとも1つである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の排水の処理方法。
〔4〕前記アルカリ土類金属イオンを含む排水が、塩素含有焼却灰を洗浄した排水である、前記〔1〕~〔3〕に記載の排水の処理方法。
〔5〕前記アルカリ土類金属イオンを含む排水が、塩素含有焼却灰と水とを含み、塩素含有焼却灰と水との質量比が1:1~1:10である、前記〔4〕に記載の排水の処理方法。
〔6〕前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の排水の処理方法。
〔7〕前記第1の溶液に含まれるアルカリ金属水酸化物に対する前記第1の溶液に接触させる排ガス中に含まれる二酸化炭素のモル比(二酸化炭素/アルカリ金属水酸化物)が0.1~1.0である、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の排水の処理方法。
〔8〕前記排水に対する前記第2の溶液の体積比(第2の溶液/排水)が0.01~0.1である、前記〔1〕~〔7〕に記載の排水の処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セメント工場等の工場設備から排出される排ガスを有効利用して、排水中のアルカリ土類金属イオンを除去してスケールの発生を抑制し、工業的に利用可能なアルカリ土類金属炭酸塩を得ることができる排水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る排水の処理方法における各工程を示すフロー図である。
図2図2は、第2の溶液を製造する工程を実施するための一例を示す模式図である。
図3図3は、本発明の他の実施形態に係る排水の処理方法における各工程を示すフロー図である。
図4図4は、本発明の他の実施形態に係る排水の処理方法における各工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の排水の処理方法における各工程を示すフロー図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態の排水の処理方法は、二酸化炭素を含む排ガスとアルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液とを接触させてアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を製造する工程と、前記第2の溶液とアルカリ土類金属イオンを含む排水とを接触させて、排水中のアルカリ土類金属イオンをアルカリ土類金属炭酸塩として得る工程とを含む。
【0015】
二酸化炭素(CO)を含む排ガス
二酸化炭素(CO)を含む排ガスとしては、火力発電所、製鉄所、セメント工場又は焼却炉から排出される排ガスであることが好ましい。火力発電所、製鉄所、セメント工場又は焼却炉等の設備に近接して、排水処理設備が存在する場合には、前記設備から排出された排ガスを直接排水処理に利用することが可能であるが、前記設備に近接して排水処理設備が存在するとは限らない。火力発電所、製鉄所、セメント工場又は焼却炉等の設備から排出される排ガスを直接排水処理に使用する場合には、前記設備から排水処理設備まで配管ダクトを長距離に亘り敷設する必要があり、排ガスを利用することは容易ではない。その他に、例えば、セメント工場等においては、排ガスを流通させる配管のルートを大幅に変更し、ガス排出口などが既設の位置から変更することは法規制の問題があり、容易ではない。
【0016】
また、排ガスを直接排水の処理に利用する場合、排水中に含まれるアルカリ土類金属イオンが水酸化物の形態で含まれている場合は、排ガス中に含まれる二酸化炭素と速やかに反応し、下記式(I)に示すとおり、アルカリ土類金属炭酸塩となって排水中から容易に除去することが可能である。
(OH)+CO→MCO+HO (I)
(式(I)中、Mは、Mg、Ca、Ba及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属原子である。)
【0017】
一方、排水中に含まれるアルカリ土類金属イオンが塩化物の形態である場合は、二酸化炭素を排水に接触させても、排水のpHが低下し、アルカリ土類金属炭酸塩は生成されず、アルカリ土類金属イオンとして溶解してしまうため、排水中から効率よくアルカリ土類金属イオンを除去することができない。
【0018】
本発明の一実施形態に係る排水の処理方法は、二酸化炭素(CO)を含む排ガスとアルカリ金属水酸化物(MOH、図1中、MOHは、アルカリ金属水酸化物を表わす。)を含む第1の溶液を接触させてアルカリ金属炭酸塩(Ma2CO図1中、Ma2COは、アルカリ金属炭酸塩を表わす。)を含む第2の溶液を製造する工程を含む。本発明の一実施形態に係る排水の処理方法は、排ガスと排水を直接接触させる必要がないため、排ガスを排水に直接接触させるために配管等を敷設する必要がない。また、火力発電所、製鉄所、セメント工場又は焼却炉から排出される排ガスを得るために、排ガスのルートを大幅に変更する必要がない。したがって、火力発電所、製鉄所、セメント工場又は焼却炉から排出される排ガスを有効に利用することができる。
【0019】
二酸化炭素を含む排ガスは、火力発電所、製鉄所、セメント工場又は焼却炉から排出される排ガスを有効に利用できる。本発明の一実施形態に係る排水の処理方法において使用する二酸化炭素を含む排ガスは、規制のあるガス排出口などの配置を変更する必要ないことから、セメント工場から排出される排ガスであることが好ましい。
【0020】
二酸化炭素を含む排ガスが、セメント工場から排出される排ガスである場合には、前記排ガスが、電気集塵機及び/又はバグフィルターを通過した後の排ガス、並びに窯尻ダクトから燃焼ガスが抽気されて脱塩ダストを回収する塩素バイパス設備から排出される排ガスから選ばれる少なくとも1つの排ガスであることが好ましい。
二酸化炭素を含む排ガスが、電気集塵機及び/又はバグフィルターを通過した後の排ガスであると、電気集塵機及び/又はバグフィルターによって排ガス中から粉塵が除去されているため、排ガス中の二酸化炭素と、第1の溶液中のアルカリ金属水酸化物とを効率よく反応させて、金属炭酸塩を含む第2の溶液を得ることができる。
二酸化炭素を含む排ガスが、窯尻ダクトから燃焼ガスが抽気されて脱塩ダストを回収する塩素バイパス設備から排出される排ガスであると、電気集塵機及び/又はバグフィルターを通過した排ガス中の二酸化炭素の濃度と同程度の濃度の二酸化炭素が含まれるため、第1の溶液中のアルカリ金属水酸化物と効率よく反応させることができる。電気集塵機及び/又はバグフィルターを通過した排ガス中の二酸化炭素の濃度は15~25体積%であり、塩素バイパス設備から排出される排ガス中の二酸化炭素の濃度も15~25体積%である。
【0021】
二酸化炭素を含む排ガスが、セメント工場から排出される排ガスである場合には、電気集塵機及び/又はバグフィルターを通過する前の排ガスであってもよい。セメント工場において電気集塵機及び/又はバグフィルターを通過する前の排ガスには、粉塵が含まれており、粉塵が含まれている排ガスを、アルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液と接触させると、生成されるアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液中に粉塵が含まれてしまう場合があるが、この場合には、アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を、湿式スクラバーを使用して処理してもよい。第2の溶液を処理する湿式スクラバーとしては、ジェットスクラバー等が挙げられる。ジェットスクラバー等の湿式スクラバーを使用して第2の溶液を処理することにより、第2の溶液に含まれる粉塵、塩酸ミスト、フッ酸ミスト、重金属を除去することができる。湿式スクラバーにおいて、粉塵、塩酸ミスト、フッ酸ミスト又は重金属を除去するために使用した吸収液は、後述するアルカリ土類金属イオンを含む排水の水処理においても利用することができる。アルカリ土類金属イオンを含む排水は、後述するように、pH調整を行い、さらに凝集剤を添加して重金属イオン等の除去を行なう水処理が行われる。湿式スクラバーにおいて利用した吸収液を、アルカリ土類金属イオンを含む排水の水処理において利用し、アルカリ土類金属イオンを含む排水の水処理において添加した凝集剤を適切に除去することができる。
【0022】
二酸化炭素を含む排ガスは、アルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液と接触させる前に、化学吸収法、物理吸収法、膜分離法、深冷分離法、酸素燃焼法などの方法によって、予め排ガス中の二酸化炭素を回収して濃度を高めた状態の排ガスとしてアルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液と接触させてもよい。化学吸収法は、アミン等の溶剤を用いて化学的に排ガスからCOを吸収させて高濃度のCOガスとして分離する方法である。物理吸収法は、高圧下でCOを物理吸収液に吸収させて高濃度のCOガスとして分離する方法である。膜分離法は、COが選択的に透過する膜を用いて高濃度のCOガスとして分離する方法である。深冷分離法は、極低温下で液化し沸点の違いを用いて分離する方法である。酸素燃焼法は、空気分離装置で製造した酸素を燃焼させ、CO濃度を高濃度にして分離する方法である。上述の方法によって排ガス中にCO濃度を高めて第1の溶液と接触させることによって、効率よく排水の処理を行うことができる。
【0023】
アルカリ金属水酸化物
アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。安価であり、入手しやすいことから、アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムであることが好ましい。
【0024】
アルカリ金属炭酸塩(Ma2CO,MHCO)を含む第2の溶液を製造する工程
図1に示すように、二酸化炭素(CO)を含む排ガスと、アルカリ金属水酸化物(MOH)を含む第1の溶液とを接触させることにより、下記式(II)で示すように、アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を得ることができる。
2MOH+CO→Ma2CO+HO (II)
(式(II)中、Mは、Na、K及びLiからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子である。)
【0025】
二酸化炭素(CO)を含む排ガスと、アルカリ金属水酸化物(MOH)を含む第1の溶液とを接触させることによって、下記式(III)で示すように、アルカリ金属炭酸水素塩(MHCO図1中、MHCO3は、アルカリ金属炭酸水素塩を表わす。)が形成されてもよい。
OH+CO→MHCO (III)
(式(III)中、Mは、Na、K及びLiからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子である。)
【0026】
第1の溶液に含まれるアルカリ金属水酸化物に対する第1の溶液に接触させる排ガス中に含まれる二酸化炭素のモル比(二酸化炭素/アルカリ金属水酸化物)は、0.1~1.0であることが好ましい。二酸化炭素(CO)とアルカリ金属水酸化物(MOH)のモル比(CO/MOH)は、より好ましくは0.2~0.9であり、さらに好ましくは0.3~0.8である。なお、Mは、Na、K及びLiからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
第1の溶液に含まれるアルカリ金属水酸化物に対する第1の溶液に接触させる排ガス中に含まれる二酸化炭素のモル比(二酸化炭素/アルカリ金属水酸化物:CO/MOH)が0.1~1.0であると、排ガスを有効利用して、排水からアルカリ土類金属イオンをアルカリ土類金属炭酸塩として除去するための十分なアルカリ炭酸塩を含む第2の溶液を製造することができる。
【0027】
図2は、アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を製造する工程を実施するための一例を示す模式図である。図2に示すように、アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を製造する工程において、アルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液を貯留する第1の水槽1と、この第1の水槽1に貯留された第1の溶液に二酸化炭素を含む排ガスを接触させる配管2を備えた設備を用いることができる。アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を製造する工程は、アルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液を貯留する第1の水槽1と、二酸化炭素を含む排ガスを接触させる配管2があればよく、火力発電所、製鉄所、セメント工場又は焼却炉から排ガスが排出される場所にアルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液を貯留する第1の水槽1を配置し、二酸化炭素を含む排ガスを水槽1に導入する配管2があれば、アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を製造することができ、大掛かりな装置や設備を必要としないため、容易に実施することができる。なお、図2中、符号3は、アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を他の水槽(例えば、第2の水槽)に移動させるための導出路3を模式的に表わした。また、図2中、第1の水槽1内には、二酸化炭素を含む排ガスと接触させる前のアルカリ金属水酸化物を含む第1の溶液、又は、二酸化炭素を含む排ガスと接触させた後のアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液が貯留される。
第2の溶液を製造する工程は、排ガス中の二酸化炭素を有効に利用することから、温室効果ガスの発生抑制にも貢献する
【0028】
アルカリ土類金属炭酸塩を得る工程
図1に示すように、本発明の一実施形態の排水の処理方法は、前記第2の溶液を製造する工程と、前記第2の溶液とアルカリ土類金属イオン(M 2+図1において、M 2+は、アルカリ土類金属イオンを表わす。)を含む排水を接触させて、排水中のアルカリ土類金属イオンをアルカリ土類金属炭酸塩(MCO図1において、MCOは、アルカリ土類金属炭酸塩を表わす。)として得る工程とを含む。アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液と、アルカリ土類金属イオンを含む排水との接触は、例えば、図2に示す第1の水槽から第2の溶液を第1の水槽とは別の第2の水槽に移し、この第2の水槽に、アルカリ土類金属イオンを含む排水を流入させて、前記第2の溶液と排水とを接触させることができる。第1の水槽と第2の水槽は、配管で連結されていてもよい、第1の水槽と第2の水槽は、配管で連結されていなくてもよく、アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を製造する工程と、アルカリ土類金属炭酸塩を得る工程とは別の場所で行なってもよい。アルカリ土類金属炭酸塩を得る工程において、溶液中に生成されたアルカリ土類金属炭酸塩は、二酸化炭素と接触し続けることによって結晶として溶液中に析出し、濾過によってアルカリ土類金属炭酸塩を溶液から濾別して得ることが好ましい。
【0029】
以下に、アルカリ土類金属イオンを含む排水と、アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を接触させて、アルカリ土類金属炭酸塩を得る工程における反応の一例を示す。
排水中のアルカリ土類金属イオンが、例えば水酸化物の形態で排水に含まれている場合には、下記式(IV)又は(V)に示す反応によって、アルカリ土類金属炭酸塩を得ることができる。
(OH)+Ma2CO→MCO+2MOH (IV)
(式(IV)中、Mは、Na、K及びLiからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子であり、Mは、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属原子である。)
【0030】
(OH)+MHCO→MCO+MOH+HO (V)
(式(V)中、Mは、Na、K及びLiからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子であり、Mは、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属原子である。)
【0031】
アルカリ土類金属イオンを含む排水から、アルカリ土類金属炭酸塩を得る工程として、例えば、アルカリ土類金属イオンが水酸化物の形態となっている場合を前記式(IV)又は前記式(V)に示したが、排水中に含まれるアルカリ土類金属イオンは、水酸化物が溶解してアルカリ土類金属イオンとなったものに限定されず、例えば、塩化物(MCl)が溶解してアルカリ土類金属イオンとなったものでもよい。ここで、Mは、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属原子である。
【0032】
アルカリ土類金属イオンを含む排水
アルカリ土類金属イオンを含む排水は、塩素含有焼却灰を洗浄した排水であることが好ましい。塩素含有焼却灰を洗浄した排水である場合は、塩素含有焼却灰に含まれる塩類等の成分が一定ではない場合であっても、塩素含有焼却灰を洗浄した排水中に含まれるアルカリ土類金属イオンからアルカリ土類金属炭酸塩が得られる濃度のアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を接触させればよく、スケールの原因となるアルカリ土類金属イオンを排水中から除去することができる。本明細書において、スケールとは、石膏などの硫酸塩、炭酸カルシウムなどの炭酸塩を意味し、具体的には、スケールとは、石膏(CaSO)、炭酸カルシウム(CaCO)、硫酸バリウム(BaSO)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0033】
アルカリ土類金属イオンを含む排水が、塩素含有焼却灰を洗浄した排水であって、塩素含有焼却灰と水とを含む場合、塩素含有焼却灰と水との質量比が、1:1~1:10であることが好ましい。アルカリ土類金属イオンを含む排水が、塩素含有焼却灰と水とを含む場合、塩素含有焼却灰と水との質量比が1:1~1:10であれば、塩素含有焼却灰を含む排水に含まれるアルカリ土類金属イオンを、アルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液に接触させることによって、アルカリ土類金属炭酸塩として除去することができる。アルカリ土類金属イオンを含む排水が、塩素含有焼却灰を洗浄した排水であって、塩素含有焼却灰と水とを含む場合、塩素含有焼却灰と水との質量比(塩素含有焼却灰:水)は、より好ましくは1:2~1:8であり、さらに好ましくは1:3~1:6である。
【0034】
アルカリ土類金属イオンを含む排水は、塩酸等のpH調整剤によってpH調整を行い、塩化第二鉄等の凝集剤の添加によって重金属を除去する水処理工程を行なった後に、アルカリ金属炭酸塩(Ma2CO,MHCO)を含む第2の溶液と接触させることが好ましい
【0035】
図3は、本発明の他の実施形態の排水の処理方法を示し、アルカリ土類金属イオンを含む排水に、pH調整を行い、さらに凝集剤の添加による第1の水処理を行なう第1の水処理工程を含む排水の処理方法を記載したフロー図である。
図3に示すように、アルカリ土類金属イオンを含む排水は、塩酸等のpH調整剤によってpH調整を行い、塩化第二鉄等の凝集剤の添加によって重金属を除去する第1の水処理工程を行なった後に、アルカリ金属炭酸塩(Ma2CO,MHCO)を含む第2の溶液と接触させることが好ましい。アルカリ土類金属イオンを含む排水にpH調整剤及び/又は凝集剤を添加して、pH調整及び/又は重金属の除去を行なう第1の水処理工程を行なうことによって、排水中に含まれるアルカリ土類金属イオンと第2の溶液に含まれるアルカリ金属炭酸塩の反応の効率を向上することができる。第1の水処理工程において、二酸化炭素を含む排ガスの処理に利用した湿式スクラバーの吸収液を、アルカリ土類金属イオンを含む排水に添加して、重金属が含まれる凝集剤等を適切に除去するようにしてもよい。
【0036】
図4は、本発明の他の実施形態の排水の処理方法を示し、第1の水処理を行ったアルカリ土類金属イオンを含む排水とアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液と接触させ、排水と第2の溶液に、pH調整を行い、さらに凝集剤の添加による第2の水処理を行なう第2の水処理工程を含む排水の処理方法を記載したフロー図である。
図4に示すように、アルカリ土類金属イオンを含む排水とアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を接触させた後、塩酸等のpH調整剤によってpH調整を行い、塩化第二鉄等の凝集剤の添加によって重金属を除去する第2の水処理工程を行なってもよい。第2の水処理工程を行なうことにより、排水中に含まれるアルカリ土類金属イオンと第2の溶液に含まれるアルカリ金属炭酸塩の反応の効率をより向上することができる。第2の水処理工程において、二酸化炭素を含む排ガスの処理に利用した湿式スクラバーの吸収液を、排水と第2の溶液とを含む溶液に添加して、重金属が含まれる凝集剤等を適切に除去するようにしてもよい。
【0037】
アルカリ土類金属イオンを含む排水と第2の溶液の体積比
アルカリ土類金属イオンを含む排水に対するアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液の体積比(第2の溶液/排水)が0.01~0.1であることが好ましい。排水に対する第2の溶液の体積比が0.01~0.1の範囲であると、アルカリ土類金属イオンを含む排水とアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を反応させてアルカリ土類金属炭酸塩を得る場合に、排水の量にもよるが大容量の水槽を必要とせずに排水の処理を行うことができる。アルカリ土類金属イオンを含む排水に対するアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液の体積比(第2の溶液/排水)が、より好ましくは0.01~0.09であり、さらに好ましくは0.01~0.08である。
【0038】
本発明の一実施形態に係る排水の処理方法によって得られたアルカリ土類金属炭酸塩は、セメント用組成物、モルタル、コンクリート用の材料、フィラー、建材に好適に用いることができる。
【実施例
【0039】
次に、本発明を実施例により、詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0040】
実施例1~4及び比較例1
二酸化炭素(CO)を含む排ガスの準備
セメント工場から排出される排ガスを模擬して、空気80体積%、COガス20体積%の割合で混合した模擬排ガスを製造した。
【0041】
アルカリ金属水酸化物(MOH)を含む第1の溶液の準備
第1の溶液として、水道水を溶媒とし、20質量%の水酸化ナトリウム(NaOH、特級試薬、関東化学株式会社製)を含む水酸化ナトリウム溶液を準備した。
【0042】
アルカリ金属炭酸塩(Ma2CO,MaHCO)を含む第2の溶液を製造する工程
図2に示す第2の溶液を製造するため設備を用いてアルカリ金属炭酸塩を含む第2の溶液を製造した。具体的には、図2に示すように、第1の水槽1に、第1の溶液として、前記水酸化ナトリウム溶液を500mL貯留した。第1の水槽1中の水酸化ナトリウム溶液に、配管2から模擬排ガス2を5L/minの流通速度で、60分間通気すると、第1の溶液が途中から白濁したことから、炭酸水素ナトリウムが飽和し、炭酸ナトリウム(NaCO)を含む第2の溶液が得られた。得られた第2の溶液中の炭酸ナトリウムの含有量は3700mmol/Lであった。
第2の溶液中の炭酸ナトリウムの含有量は、以下のとおり測定した。
炭酸ナトリウムが生成された第2の溶液を適当量採取し、20質量%濃度の塩酸を滴下して、第2の溶液からCOガスを発生させ、発生したCOガスを粒状の塩化カルシウムを詰めた配管に通過させて水分を除去した後、ソーダ石灰を詰めた配管にCOガスを吸収させ、COガスを通過させる前のソーダ石灰の質量と、COガスを通過させた後のソーダ石灰の質量の変化を測定し、変化した差分の質量をソーダ石灰が吸収したCOガスとして測定した。測定したCOガスの質量から、第2の溶液中に含まれる炭酸ナトリウムの量を換算した。
また、第1の溶液中の水酸化ナトリウムに対する第1の溶液に接触させる模擬排ガス中のCOのモル比(CO/NaOH)は、0.740であった。ここで、水酸化ナトリウム溶液の密度は、水の密度1g/cmとして換算した。
【0043】
アルカリ土類金属イオン(M 2+)を含む排水の準備
一般ごみ焼却炉から排出される飛灰(塩素含有廃棄物)1質量部に対して水道水5質量部(飛灰:水が1:5)の割合で水洗した。30分間、飛灰と水の混合水を撹拌した後、フィルタープレス(製品名;ポータブル型フィルタープレス FS-3C-20、日本濾過装置株式会社製)により固液分離し、水洗水を得て、模擬排水とした。模擬排水のpHは10.8であり、アルカリ土類金属イオン(M 2+)として、カルシウムイオン(Ca2+)が含まれており、模擬排水中のカルシウム濃度は11000mg/Lであった。模擬排水中のカルシウム濃度は、ICP発光分光分析装置(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)(ICP-AES、製品名:ARCOS、SPECTRO社製)により測定した。
得られた模擬排水を、塩酸でpHが中性(pHが7)になるように調整し、塩化第二鉄、凝集剤(製品名:アコフロック(登録商標)A-150、MTアクアポリマー株式会社製)を用いて、重金属を除去し、第1の水処理を行った(図3参照)。第1の水処理後の模擬排水を静置しておくと、模擬排水中から石膏が析出し、溶液の壁面に付着した。このことから、模擬排水中には、カルシウムイオンが含まれることが確認できた。
【0044】
アルカリ土類金属炭酸塩(MCO)を得る工程
表1に示す配合で、得られた模擬排水に対して、炭酸ナトリウム(NaCO)が含まれる第2の溶液を添加し、第2の溶液を添加後の模擬排水中のカルシウム濃度を測定した。カルシウム濃度の測定は、模擬排水中のカルシウム濃度の測定と同様にして行なった。第2の溶液を添加した後の模擬排水中のカルシウム濃度の結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、実施例1~4の排水処理方法では、模擬排ガスと水酸化ナトリウムを含む第1の溶液を接触させて得られた炭酸ナトリウム(NaCO)を含む第2の溶液と、模擬排水とを接触させることによって、模擬排水中のカルシウム(Ca)イオン濃度は低減しており、模擬排水中からカルシウムイオンをカルシウム炭酸塩として析出して除去すれば、模擬排水中のカルシウムイオンを低減することができ、スケールの発生が抑制可能であることが確認できた。表1に示すように、実施例1~4においては、模擬排水に対する第2の溶液の体積比(第2の溶液/模擬排水)が0.01~0.075であった。
【0047】
一方、表1に示すように、比較例1では、模擬排水と炭酸ナトリウム(NaCO)を含む第2の溶液とを接触させていないため、実施例1~4の模擬排水よりも比較例1の模擬排水の方が多くのカルシウム(Ca)イオンが含まれ、石膏等のスケールの発生が抑制できないと推測された。
【0048】
実施例5
二酸化炭素(CO)を含む排ガスの準備
セメント工場から排出される排ガスを模擬して、空気80体積%、COガス20体積%の割合で混合した模擬排ガスを製造した。
【0049】
アルカリ金属水酸化物(MOH)を含む第1の溶液の準備
第1の溶液として、水道水を溶媒とし、20質量%の水酸化カリウム(KOH、特級試薬、関東化学株式会社製)を含む水酸化カリウム溶液を準備した。
【0050】
アルカリ金属炭酸塩(Ma2CO,MHCO)を含む第2の溶液を製造する工程
図2に示す第2の溶液を製造するため設備を用いて第2の溶液を製造した。具体的には、図2に示すように、第1の水槽1に、第1の溶液として、前記水酸化ナトリウム溶液を500mL貯留した。第1の水槽1中の水酸化カリウム溶液に、配管2から模擬排ガス2を5L/minの流通速度で、60分間通気すると、第1の溶液が途中から白濁したことから、炭酸水素ナトリウムが飽和し、炭酸カリウム(KCO)含む第2の溶液が得られた。得られた第2の溶液中の炭酸ナトリウムの含有量は1300mmol/Lであった。
第2の溶液中の炭酸ナトリウムの含有量は、以下のとおり測定した。
炭酸ナトリウムが生成された第2の溶液を適当量採取し、20質量%濃度の塩酸を滴下して、第2の溶液からCOガスを発生させ、発生したCOガスを粒状の塩化カルシウムを詰めた配管に通過させて水分を除去した後、ソーダ石灰を詰めた配管にCOガスを吸収させ、COガスを通過させる前のソーダ石灰の質量と、COガスを通過させた後のソーダ石灰の質量の変化を測定し、変化した差分の質量をソーダ石灰が吸収したCOガスとして測定した。測定したCOガスの質量から、第2の溶液中に含まれる炭酸ナトリウムの量を換算した。
また、第1の溶液中の水酸化カリウムに対する第1の溶液に接触させる模擬排ガス中のCOのモル比(CO/KOH)は、0.365であった。ここで、水酸化ナトリウム溶液の密度は、水の密度1g/cmとして換算した。
【0051】
アルカリ土類金属イオン(M 2+)を含む排水の準備
セメント脱塩ダスト1質量部に対して水道水5質量部(セメント脱塩ダスト:水が1:5)の割合で水洗した。30分間、セメント脱塩ダストと水の混合水を撹拌した後、フィルタープレス(製品名;ポータブル型フィルタープレス FS-3C-20、日本濾過装置株式会社製)により固液分離し、水洗水を得て、模擬排水とした。模擬排水のpHは12.3であった。
得られた模擬排水を、塩酸でpHが9になるように調整し、硫酸第二鉄、凝集剤(製品名:アコフロック(登録商標)A-150、MTアクアポリマー株式会社製)を用いて、重金属を除去し、第1の水処理を行った(図3参照)。
【0052】
アルカリ土類金属炭酸塩(MCO)を得る工程
得られた模擬排水1000mLに対して、炭酸カリウム(KCO、特級試薬、関東化学株式会社製)が含まれる第2の溶液50mLを添加し、硫酸第二鉄、凝集剤(製品名:アコフロック(登録商標)A-150、MTアクアポリマー株式会社製)を用いて、重金属を除去し、第2の水処理を行った(図4参照)。第2の水処理後の模擬排水中に溶存している表2に示す各成分(原子又はイオン)の含有量をICP発光分光分析装置(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)(ICP-AES、製品名:ARCOS、SPECTRO社製)により測定した。結果を表2に示す。
さらに、晶析法を用いて模擬排水中から析出させた析出塩(100質量%)中のカルシウム(Ca)の含有量をICP発光分光分析装置(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)(ICP-AES、製品名:ARCOS、SPECTRO社製)により測定した。晶析法は、具体的には、ロータリーエバポレーターを用い、ロータリーエバポレーターのフラスコ内に模擬排水を入れて、ダイヤフラムポンプでフラスコ内を真空状態にして、ウォーターバスで60℃に加熱しながら、フラスコ内の模擬排水をおおよそ5分の1(1/5)の体積となるまでの濃縮し、結晶を濾過により回収した。
【0053】
比較例2
実施例5における模擬排水に、炭酸カリウム(KCO)が含まれる第2の溶液を添加しなかったこと以外は、実施例5と同様にして、比較例2における模擬排水中の表2に示す各成分(原子又はイオン)の含有量を測定し、比較例2における模擬排水中から析出させた析出塩(100質量%)中のカルシウム(Ca)の含有量を測定した、結果を表2及び表3に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
表2に示すように、実施例5は、排水中のカルシウム(Ca)の濃度が、比較例2の排水中のカルシウム(Ca)の農度比べて少なかった。表2に示す結果から、実施例5においては排水中のスケールの発生の原因となるカルシウム(Ca)の濃度が低減しており、模擬排水中からカルシウムイオンをカルシウム炭酸塩として析出して除去すれば、スケールの発生を抑制できることが確認できた。また、表3に示すように、実施例5の排水中から晶析法により析出させた析出塩中のCa含有量は2.60質量%と多く、比較例2の排水中から晶析法により析出させた析出塩中のCa含有量は0.05質量%と少なかった。表2及び表3に示す結果から、二酸化炭素(CO)を含む排ガスと水酸化カリウム(KOH)を含む第1の溶液とを接触させて得られた炭酸カリウム(KCO)を含む第2の溶液と、カルシウムイオン(Ca2+)を含む排水とを接触させることによって、排水中に含まれていたカルシウムイオンから炭酸カルシウム(CaCO)が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
セメント工場等の工場設備から排出される排ガスを有効利用して、排水中のアルカリ土類金属イオンを除去してスケールの発生を抑制することができ、得られたアルカリ土類金属炭酸塩は、セメント組成物用、モルタル、コンクリート用の材料、フィラー、建材の原料として工業的に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1:第1の水槽、2:配管、3:導出路
図1
図2
図3
図4