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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】MEMS素子
(51)【国際特許分類】
   B81B 3/00 20060101AFI20220817BHJP
   H04R 23/02 20060101ALI20220817BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
B81B3/00
H04R23/02
H04R31/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018095877
(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2019198936
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒木 新一
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-183539(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0048138(US,A1)
【文献】特開2017-121028(JP,A)
【文献】実公昭48-031891(JP,Y1)
【文献】特開平02-122573(JP,A)
【文献】特開2006-167814(JP,A)
【文献】特表2017-525956(JP,A)
【文献】特開2011-004129(JP,A)
【文献】特開平10-242480(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0002489(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00
H04R 23/02
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックチャンバーを備えたハンドル基板と、該ハンドル基板上に固定された振動膜を備えたMEMS素子において、
前記振動膜の一部がトランジスタ形成領域となり、
該トランジスタ形成領域は、前記振動膜の一部を取り囲むように配置した一本のスリットにより区画された自由端を備えることで、前記ハンドル基板上に固定された前記振動膜の振動より大きく振動可能となる振動領域を含み、
該振動領域上に少なくともトランジスタの一部を配置し、
前記振動領域の振動に伴い変動する前記トランジスタの出力電流を検知信号として出力することを特徴とするMEMS素子。
【請求項2】
請求項1記載のMEMS素子において、
前記トランジスタは、相互に離間する第1の領域と第2の領域との間に流れる電流が前記第1の領域と前記第2の領域間に配置した第3の領域に印加する電圧により制御される構造であり、
前記第1の領域あるいは前記第2の領域の少なくともいずれか一方を、前記振動領域に配置し、
前記第1の領域と前記第2の領域間の電圧および前記第3の領域への印加電圧を所定の値としたとき、前記振動領域の振動に伴い変動する前記第1の領域と前記第2の領域との間に流れる電流を前記検知信号として出力することを特徴とするMEMS素子。
【請求項3】
請求項1または2いずれか記載のMEMS素子において、少なくとも前記振動膜の一部を半導体からなる膜とし、該半導体からなる膜に前記トランジスタが形成されていることを特徴とするMEMS素子。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載のMEMS素子において、導電性の前記振動膜上にスペーサーを介して導電性の対向電極膜を対向配置し、該対向電極膜と前記振動膜間に所定の電位を印加可能としたことを特徴とするMEMS素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はMEMS素子に関し、特にマイクロフォン、各種センサ等として用いられるMEMS素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスを用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子として、半導体基板上に可動電極、犠牲層および固定電極を形成した後、犠牲層の一部を除去することで、スペーサーを介して固定電極と可動電極との間にエアーギャップ(中空)構造が形成された容量型のMEMS素子が知られている。
【0003】
例えば、容量型のMEMS素子では、複数の貫通孔を備えた固定電極と、音圧等を受けて振動する可動電極とを対向して配置し、振動による可動電極の変位を電極間の容量変化として検出する構成となっている。この種のMEMS素子は、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
従来のMEMS素子の動作を図5に模式的に示す。ハンドル基板21上に絶縁膜22を介して導電性の可動電極を含む可動電極膜23(振動膜に相当)と導電性の固定電極を含む固定電極膜24がスペーサー25を介して配置され、音圧等を受けて可動電極膜23が振動すると、固定電極膜24との間の距離が変化し、固定電極膜24の固定電極と可動電極膜23の可動電極との間で形成されているキャパシタの容量値が変化する。この容量値を図示しない電極から取り出すことで、可動電極膜23が受ける音圧等に応じた出力信号を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-55087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種のMEMS素子では図5に示すように、可動電極膜23はその周囲をスペーサー25と絶縁膜22によって挟持、固定されており、大きな音圧等を受けた場合であっても、その変位量に限界があった。そのため一般的なMEMS素子では、可変電極膜23の変位から生じる容量値の変化は数パーセント以下程度で、センサー感度は非常に低く、高感度化が望まれていた。本発明はこのような実状に鑑み、感度の高いMEMS素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本願請求項1に係る発明は、バックチャンバーを備えたハンドル基板と、該ハンドル基板上に固定された振動膜を備えたMEMS素子において、前記振動膜の一部がトランジスタ形成領域となり、該トランジスタ形成領域は、前記振動膜の一部を取り囲むように配置した一本のスリットにより区画された自由端を備えることで、前記ハンドル基板上に固定された前記振動膜の振動より大きく振動可能となる振動領域を含み、該振動領域上に少なくともトランジスタの一部を配置し、前記振動領域の振動に伴い変動する前記トランジスタの出力電流を検知信号として出力することを特徴とする。
【0008】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載のMEMS素子において、前記トランジスタは、相互に離間する第1の領域と第2の領域との間に流れる電流が前記第1の領域と前記第2の領域間に配置した第3の領域に印加する電圧により制御される構造であり、前記第1の領域あるいは前記第2の領域の少なくともいずれか一方を、前記振動領域に配置し、前記第1の領域と前記第2の領域間の電圧および前記第3の領域への印加電圧を所定の値としたとき、前記振動領域の振動に伴い変動する前記第1の領域と前記第2の領域との間に流れる電流を前記検知信号として出力することを特徴とする。
【0009】
本願請求項3に係る発明は、請求項1または2いずれか記載のMEMS素子において、少なくとも前記振動膜の一部を半導体からなる膜とし、該半導体からなる膜に前記トランジスタが形成されていることを特徴とする。
【0010】
本願請求項4に係る発明は、請求項1乃至3いずれか記載のMEMS素子において、導電性の前記振動膜上にスペーサーを介して導電性の対向電極膜を対向配置し、該対向電極膜と前記振動膜間に所定の電位を印加可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のMEMS素子は、ハンドル基板に固定された振動膜より大きく振動可能な振動領域を備え、この振動領域にトランジスタを配置する構成としている。そのため、トランジスタを構成する膜が振動領域の振動とともに歪み、ピエゾ効果によりトランジスタの出力電流が変動する。このトランジスタの非飽和領域の出力電流を検知信号として出力する構成とすることで、振動の大きさの変化に対して検知信号の変化が大きくなり、感度の高いMEMS素子を得ることが可能となる。
【0012】
本発明のMEMS素子の振動膜は、トランジスタを構成する半導体からなる膜で構成し、トランジスタを構成する膜自体が振動する構成とすることで、感度の高いMEMS素子を得ることが可能となる。
【0013】
また本発明のMEMS素子は、振動膜上に複数のトランジスタ形成領域を配置することができ、それぞれのトランジスタの出力電流を合算して検知信号とすることも可能となる。
【0014】
さらに本発明において、振動膜に対向するように対向電極膜を配置し、振動膜と対向電極膜間に所定の電圧を印加した状態で振動可能とすることで、振動膜に歪が生じていない状態あるいは振動膜が大きく振動可能な状態でMEMS素子を動作させ、感度の高いMEMS素子を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施例のMEMS素子の説明図である。
図2】本発明の第1の実施例のスリットの配置を説明する図である。
図3】本発明の第1の実施例のトランジスタ形成領域を説明する図である。
図4】本発明の第2の実施例のMEMS素子の説明図である。
図5】一般的なMEMS素子の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のMEMS素子は、ハンドル基板上に固定された振動膜の一部にスリットを形成し、自由端を備える振動領域を備えている。この自由端を備えることで、ハンドル基板に固定された振動膜に比べて振動領域は大きく振動する。本発明は、この振動領域にトランジスタを備える構成とし、トランジスタを構成する膜の振動に伴うピエゾ効果による出力信号の変動から検知結果を得る構成となっている。以下、本発明を実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の実施例について、MEMS素子としてマイクロフォンを例にとり説明する。本発明のマイクロフォンは、結晶方位(100)面の厚さ420μmのシリコンからなるハンドル基板1上に、厚さ1μm程度の熱酸化膜2を介して、厚さ2μm程度の単結晶シリコン膜からなる振動膜3が積層形成されている。シリコン基板上に絶縁膜を介して単結晶の半導体層が形成されているSOI基板を用いることもでき、単結晶シリコン膜を振動膜3としても良い。ハンドル基板1には、一部が除去されバックチャンバー4が形成されている。振動膜3の一部は、トランジスタを形成するためP型領域6となっている。
【0018】
また振動膜3には、スリット5が形成されている。スリット5は、例えば図2に示す配置とする。なお図2は、図1に示す振動膜3の一部となる振動膜3aにスリット5を形成した例を示している。図1に示すように振動膜3は、熱酸化膜2を介してハンドル基板1に固定されている。これに対して図2に示すようにスリット5を形成すると、スリット5によって囲まれた領域(区画された領域)は、自由端を有する可動片となり、ハンドル基板1に固定された領域より大きく振動することが可能な振動領域3bを形成することになる。
【0019】
図3は、スリット5によって囲まれたトランジスタ形成領域の一部を拡大した断面図である。図2に示すように2つのスリット5によって囲まれた2つの振動領域3bと、2つの振動領域3bの間の振動膜3とからなるトランジスタ形成領域に、2つのトランジスタが形成されている。図3の示す例は、MOS型トランジスタを2個形成した場合を示している。
【0020】
図3に示すMOS型トランジスタは、通常の製造方法により形成可能である。具体的には、ハンドル基板1となるシリコン基板上に振動膜3となる単結晶シリコン膜を形成し、この単結晶シリコン膜の一部にイオン注入してP型領域6を形成し、P型領域6上にゲート酸化膜7とゲート電極8を形成する。このゲート電極8の両端に不純物イオンを注入等してN型のソース領域9およびドレイン領域10を形成すれば良い。なお、図3ではソース領域9、ドレイン領域10に接続する電極や、ゲート電極8等の引出電極については記載を省略している。
【0021】
通常のMEMS素子の製造方法に従えば、上記説明したMOS型トランジスタを形成した後、ハンドル基板1の裏面側の一部を除去してバックチャンバー4を形成することで図1に示すMEMS素子が形成できる。
【0022】
このような構造のMEMS素子では、振動膜3に音圧等が印加した場合、振動膜3が変形する。その際本実施例のMEMS素子では、スリット5により区画された振動領域3bは、自由端を有しておりハンドル基板1に固定されている振動膜3の振動より大きく振動することが可能となる。そのため大きな音圧等が印加された場合、振動領域3bは大きく振動する。
【0023】
振動領域3bにはMOS型トランジスタが形成されており、図3に示す例では、ソース領域9側が大きく振動することになる。つまり、MOS型トランジスタが動作状態となるようにソース-ドレイン間、ゲート電極にそれぞれ所望の電圧を印加し、ソース-ドレイン間に所定の電流が流れている状態で、振動領域3bが大きく振動すると、ソース領域9、ソース領域9とドレイン領域10の間のチャネル領域、さらにドレイン領域が圧縮されあるいは伸張され、ピエゾ効果によりソース-ドレイン間に流れる電流が変化する。この電流値を検出信号とすることで、振動領域が受ける音圧等の変化を検出することが可能となる。
【0024】
図3に示す例では、2つの振動領域3bが対称となるように配置され、さらにその2つの振動領域3bの中心に対称となるように2つのMOS型トランジスタが配置されている。その結果、電流値の変化は2倍となり出力される構成となっている。
【実施例2】
【0025】
次に第2の実施例について説明する。上述の第1の実施例のMEMS素子は、振動領域は音圧等が印加された場合、その大きさに応じて振動することになる。これに対し、導電性の対向電極膜を配置し、その振動を制御することも可能である。
【0026】
図4は、本発明の第2の実施例のMEMS素子の説明図である。上記第1の実施例で説明したMEMS素子にスペーサー11を介して対向電極膜12を配置している。この対向電極膜12は、容量型のトランスデューサーの固定電極膜に相当し、音圧等により変動しないように貫通孔13が形成されている。
【0027】
振動膜3と対向電極膜12は、それぞれ導電性を有する材料で構成し、導電性の振動膜3(P型領域6)と導電性の対向電極膜12に所定の電圧を印加する構成とする。この電圧の印加により、振動膜3、特に振動領域3bの変位を制御することができる。例えば、振動のない状態では振動領域3bは歪まない状態であるが、振動が加わり、振動領域3bが対向電極膜12に近づくと静電引力が加わり端部の変位が増すようにすることで、トランジスタのソース-ドレイン間電流の変化が増大するように構成することができる。
【0028】
以上本発明のMEMS素子について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、上記実施例では、振動膜3上に2つのMOS型トランジスタを形成した例を説明したが、複数のトランジスタから得られる出力信号が加算されるように配置する等すればトランジスタの数は適宜選択可能である。またMOS型トランジスタに限らず、バイポーラ型トランジスタ等適宜選択することができる。さらにまた振動膜3を半導体膜のみで形成する場合に限定されるものでもなく、絶縁膜と半導体膜の積層構造等適宜選択することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1:ハンドル基板、2:熱酸化膜、3:振動膜、3b:振動領域、4:バックチャンバー、5:スリット、6:P型領域、7:ゲート酸化膜、8:ゲート電極、9:ソース領域、10:ドレイン領域、11:スペーサー、12:対向電極膜、13:貫通孔、21:ハンドル基板、22:絶縁膜、23:可動電極膜、24:固定電極膜、25:スペーサー
図1
図2
図3
図4
図5