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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】混合エントロピー電池及び発電方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 14/00 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
H01M14/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018202063
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2019079814
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2017207150
(32)【優先日】2017-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】中村 暢文
(72)【発明者】
【氏名】大野 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 梨沙
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-092010(JP,A)
【文献】特開2016-096141(JP,A)
【文献】特開2015-098833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 14/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
第一の温度区と第二の温度区とを区分する臨界温度を有し、第一の相と第二の相とを含む複数の相に相転移する媒質と、
金属塩と、
を含み、
前記媒質は、前記第一の温度区では、少なくとも第一の媒質と第二の媒質とが混合した混合体の状態であり、前記第二の温度区では、少なくとも二相に相転移した前記複数の相の状態であり、
前記正極及び前記負極は、前記第一の温度区においては混合体に接し、前記第二の温度区においては前記複数の相のうち一相のみと接し、
前記第一の温度区における前記混合体と、前記第二の温度区における前記正極及び負極が接する一相の媒質とでは、前記金属塩の濃度が異なる、
混合エントロピー電池。
【請求項2】
前記第一の媒質と第二の媒質との組み合わせが、イオン液体と水との組み合わせである、請求項1に記載の混合エントロピー電池。
【請求項3】
前記第一の媒質と第二の媒質との組み合わせが、双性イオンと水との組み合わせである、請求項1に記載の混合エントロピー電池。
【請求項4】
前記混合体がLCST型相転移挙動を示す、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の混合エントロピー電池。
【請求項5】
前記金属塩が、リチウム塩化合物又はナトリウム塩化合物である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の混合エントロピー電池。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の混合エントロピー電池を、前記臨界温度よりも低い温度下に置く工程と、
前記混合エントロピー電池を、前記臨界温度よりも高い温度下に置く工程と、を含む
発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、混合エントロピー電池及び発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合エントロピー電池とは、高塩濃度水溶液と低塩濃度水溶液との塩濃度差により生じるエントロピー差を利用して電気化学エネルギーを得る発電方法に用いられる電池である。
具体的には、塩は溶液中で陽イオンと陰イオンに解離するが、前記陽イオンを可逆的に吸脱着する電極、及び、前記陰イオンを可逆的に吸脱着する電極の少なくとも一方を高濃度の塩溶液に浸漬すると、イオンと電極との酸化還元反応に伴い放電が起こり(発電)、放電後に低濃度の塩溶液に浸漬すると、電極に固定された塩が溶解して、再度高濃度の塩溶液に浸漬した場合に放電が可能な状態へと電極の状態が戻る、という仕組みを利用した発電方法に用いられる電池である。
【0003】
非特許文献1には、混合エントロピー電池に必要な塩濃度差を生み出すために、汽水域を利用する方法が記載されている。
【0004】
特許文献1には、「作業媒体を利用して発電する循環型浸透圧発電システムであって:第1の温度区と第2の温度区とを区分する臨界温度で、第1の相と第2の相とに相転移し、前記第1の温度区では、第1の液体と第2の液体と液-液相互溶解した2成分混合溶液の状態であり、当該第2の温度区では、前記第1の液体と前記第2の液体とが相転移した状態である、臨界温度を有する作業媒体;
処理容器と、前記処理容器内を第1の室と第2の室とに区画する浸透膜と、前記第1の室が位置する前記処理容器に設けられ前記第1の液体が流入する第1の流入口と、前記第2の室が位置する前記処理容器に設けられ前記第2の液体が流入する第2の流入口と、前記第2の室が位置する前記処理容器に設けられ、前記第1の室から前記浸透膜を透過する前記第1の液体の一部分と前記第2の液体とが前記第2の室において混合して液-液相互溶解した混合溶液が流出する流出口とを備え、前記作業媒体の前記第1の温度区の温度下に置かれる浸透圧発生器;
前記浸透圧発生器の前記第2の室から前記流出口を通して流出した前記混合溶液の流れで発電するタービン;
前記タービンを稼働した前記混合溶液を収容するタンク;
前記タンクから流出した前記混合溶液を前記第2の温度区の温度で前記第1の室に再流入される前記第1の液体と前記第2の室に再流入される前記第2の液体とに分離する分離塔;および
前記分離塔および前記浸透圧発生器の何れか一方に取り付けられ、前記分離塔または前記浸透圧発生器に収容された液体を前記臨界温度以上に加熱する熱源;
を具備する循環型浸透圧発電システム。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-098833号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】F. L. Mantia et al., Nano Lett., 11, 1810-1813 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1には、河口付近での淡水と海水が混ざり合う際に生じる塩濃度差を利用して、混合エントロピー電池による発電を行う方法が記載されている。
本発明者らは、上記方法には、発電場所が限定される、装置が大型にならざるを得ない、という問題点が存在することを見出した。
また、特許文献1には、温度による相転移状態の変化を利用して浸透圧差を生じさせて発電する、浸透圧発電システムが記載されている。しかし、特許文献1に記載の方法は、浸透圧差によりタービンを稼働させて発電する発電方法であり、混合エントロピー電池を用いることについては、記載も示唆もない。
【0008】
本開示の混合エントロピー電池は、上記を鑑みてなされたものであり、汽水域における塩濃度差等ではなく、温度変化により発電を繰り返すことが可能となる混合エントロピー電池を提供すること、及び、上記混合エントロピー電池を用いた発電方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
[1] 正極と、
負極と、
第一の温度区と第二の温度区とを区分する臨界温度を有し、第一の相と第二の相とを含む複数の相に相転移する媒質と、
金属塩と、
を含み、
前記媒質は、前記第一の温度区では、少なくとも第一の媒質と第二の媒質とが混合した混合体の状態であり、前記第二の温度区では、少なくとも二相に相転移した前記複数の相の状態であり、
前記正極及び前記負極は、前記第一の温度区においては混合体に接し、前記第二の温度区においては前記複数の相のうち一相のみと接する
混合エントロピー電池。
[2] 前記第一の媒質と第二の媒質との組み合わせが、イオン液体と水との組み合わせである、前記[1]に記載の混合エントロピー電池。
[3] 前記第一の媒質と第二の媒質との組み合わせが、双性イオンと水との組み合わせである、前記[1]に記載の混合エントロピー電池。
[4] 前記混合体がLCST型相転移挙動を示す、前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の混合エントロピー電池。
[5] 前記金属塩が、リチウム塩化合物又はナトリウム塩化合物である、前記[1]~[4]のいずれか1項に記載の混合エントロピー電池。
[6] 前記[1]~[5]のいずれか1項に記載の混合エントロピー電池を、前記臨界温度よりも低い温度下に置く工程と、
前記混合エントロピー電池を、前記臨界温度よりも高い温度下に置く工程と、を含む
発電方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、温度変化により発電を繰り返すことが可能となる混合エントロピー電池、及び、上記混合エントロピー電池を用いた発電方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示に係る混合エントロピー電池の一例を表す模式図である。
図2】実施例1における測定電圧の時間変化を表すグラフである。
図3】実施例1における測定電圧の時間変化を表すグラフである。
図4】実施例1における測定電圧の時間変化を表すグラフである。
図5】実施例1における分極曲線のグラフである。
図6】実施例1における測定電圧の時間変化を表すグラフである。
図7】実施例2における分極曲線のグラフである。
図8】実施例3における測定電圧の時間変化を表すグラフである。
図9】実施例3における金属塩の電荷密度と電圧の関係を表すグラフである。
図10】実施例4における測定電圧の時間変化を表すグラフである。
図11】実施例4における金属塩の電荷密度と電圧の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示について詳細に説明する。
なお、本開示において、「xx~yy」の記載は、xx及びyyを含む数値範囲を表す。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
以下、本開示を詳細に説明する。
【0013】
(混合エントロピー電池)
本開示に係る混合エントロピー電池は、正極と、負極と、第一の温度区と第二の温度区とを区分する臨界温度を有し、第一の相と第二の相とを含む複数の相に相転移する媒質と、金属塩と、を含み、前記媒質は、前記第一の温度区では、少なくとも第一の媒質と第二の媒質とが混合した混合体の状態であり、前記第二の温度区では、少なくとも二相に相転移した前記複数の相の状態であり、前記正極及び前記負極は、前記第一の温度区においては混合体に接し、前記第二の温度区においては前記複数の相のうち一相のみと接する。
【0014】
温度変化のみによる発電及び充電を可能とする詳細なメカニズムは、以下のように推定している。
混合エントロピー電池は、第一の温度区において少なくとも第一の媒質と第二の媒質とが混合した混合体の状態であり、第二の温度区において少なくとも二相に相転移した複数の相の状態である。
また、正極及び負極は、第一の温度区においては、混合体に接し、第二の温度区においては、前記複数の相のうち一相のみと接している。
【0015】
第一の媒質に対する金属塩の溶解度と、第二の媒質に対する金属塩の溶解度とは、通常異なる。そのため、前記第一の温度区における状態と、第二の温度区における状態とでは、正極及び負極が接する媒質における金属塩の濃度は異なることとなる。
本開示に係る混合エントロピー電池は、前記臨界温度の前後において温度変化を繰り返すことにより、第一の温度区における混合体の状態と、第二の温度区における複数の相の状態とが繰り返される。その結果、温度変化により正極及び負極の周囲における塩濃度の変化が繰り返され、発電を繰り返す混合エントロピー電池が得られると推測される。
【0016】
ここで、図1に、第二の温度区において、正極及び負極が、金属塩の溶解度が低い第一の媒質を主としてなる第一の相(上層)のみに接する態様の混合エントロピー電池の例を挙げて説明する。なお、図1に示す混合エントロピー電池では、第二の温度区において、金属塩の溶解度が低い第一の媒質を主としてなる第一の相(上層)と、金属塩の溶解度が高い第二の媒質を主としてなる第二の相(下層)と、の二相に相転移する混合体を用いた。
図1は、本開示に係る混合エントロピー電池の一例を表す模式図である。図1に示す混合エントロピー電池は、正極12と、負極11と、第一の媒質と、第二の媒質と、陽イオン14及び陰イオン16に分かれる金属塩と、を有する。第二の温度区において、第一の相20の主成分は第一の媒質となる。第二の温度区において第二の相22の主成分は第二の媒質となる。
【0017】
図1中、(A)および(B)は、第二の温度区における状態を表しており、第一の媒質を主としてなる第一の相20と、第二の媒質を主としてなる第二の相22とが、相転移した状態である。
図1中、(C)および(D)は、第一の温度区における状態を表しており、前記第一の媒質と前記第二の媒質とが、混合した混合体10の状態である。
【0018】
図1(A)において、正極12及び負極11は、それぞれ第一の相20に接しており、第二の相22には接していない。図1(A)において、正極12では、金属塩に由来する陽イオン14が還元され、負極11では、金属塩に由来する陰イオン16が酸化され、それぞれ電極に吸着又は固定されている。
図1(B)に示すように、図1(A)の状態で、第一の相20及び第二の相22に対し電圧を印加すると、正極12に吸着又は固定されていた金属が陽イオン14に酸化され、負極11に吸着又は固定されていた物質が陰イオン16に還元され、第一の相20へと放出され、溶解する。
図1(B)の状態から、各媒質の温度を臨界温度以下とすると、図1(C)に示すように、各媒質が混合した混合体10の状態となる。図1(C)において、混合体10は、第一の相20よりも金属塩の溶解度が高い。そのため、混合体10における陽イオン14及び陰イオン16の濃度は、上述の図1(B)に示す第一の相20における陽イオン14及び陰イオン16の濃度よりも高くなる。
図1(C)に示す状態で放電すると、時間の経過にともない、図1(D)に示すように、正極12において陽イオン14が還元され、負極11に陰イオン16が酸化され、それぞれ吸着または固定される。
【0019】
上述したように、金属塩の濃度が低い状態で充電し、金属塩の濃度が高い状態で放電することにより、電気化学エネルギーを獲得できる。
本開示に係る混合エントロピー電池においては、第一の温度区と第二の温度区とを区分する臨界温度の前後で媒質の温度を変化させるとともに充放電を繰り返し行う。つまり、図1中、(A)→(B)→(C)→(D)→(A)→・・・とサイクルを回すごとに、電気化学エネルギーを繰り返し獲得することが可能になると考えられる。
【0020】
図1では、第二の温度区において相転移した際に金属塩の溶解度が低くなる相(第一の相20)に、正極12及び負極11が接する態様の混合エントロピー電池を示したが、正極12及び負極11の接する相は、金属塩の溶解度が高くなる相(第二の相22)に正極及び負極が接する態様としてもよい。
【0021】
以下、本開示に係る混合エントロピー電池の詳細について、混合エントロピー電池を構成する材料に沿って説明する。
【0022】
<正極及び負極>
本開示に係る混合エントロピー電池に用いられる正極及び負極としては、特に限定されず二次電池の分野で公知の正極及び負極を使用することができる。
【0023】
正極及び負極は、第一の温度区においては混合体に接し、第二の温度区においては複数の相のうち一相のみと接する。
【0024】
正極としては、金属塩における陽イオンと酸化還元反応を起こすものであればよく、金属塩と負極との組み合わせに応じて適宜選択してよい。
【0025】
金属塩における陽イオンとしては、例えば、Li、Na、Pb2+等が挙げられる。
Li、Na等の1価の陽イオンを用いる場合、正極における酸化還元反応の半反応式が下記式P1を満たす電極が、正極として好ましく挙げられるが、本開示に係る正極はこれに限定されるものではない。
【0026】
【化1】
【0027】
式P1中、Pは電極を構成する化合物を、XはLi、Na等の1価の陽イオンを、eは電子を、PXはPとXが反応した反応物を、それぞれ表す。
【0028】
Pb2+等の2価の陽イオンを用いる場合、正極における酸化還元反応の半反応式が下記式P2を満たす電極が、正極として好ましく挙げられるが、本開示に係る正極はこれに限定されるものではない。
【0029】
【化2】
【0030】
式P2中、Pは電極を構成する化合物を、X2+はPb2+等の2価の陽イオンを、eは電子を、PXはPとXが反応した反応物を、それぞれ表す。
【0031】
金属塩がリチウム化合物である場合、正極としては、リチウム塩化合物を電解質として用いる二次電池の分野において公知の正極を使用してよい。例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePO、LiFePOF、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li(LiNiMnCo)O等のリチウム化合物を含む正極が挙げられる。
【0032】
金属塩が鉛塩化合物である場合、正極としては、鉛塩化合物を電解質として使用する二次電池の分野において公知の正極を使用してよい。例えば、Pb、PbO等の鉛塩化合物を含む正極が挙げられる。
【0033】
金属塩がナトリウム塩化合物である場合、正極としては、ナトリウム塩化合物を電解質として使用する二次電池の分野において公知の正極を使用してよい。例えば、NaCoO、NaMnO、NaFeO、NaNiO、NaCrO、NaVO、NaNi0.6Co0.4、NaFePO、NaVPO、NaFePOF、NaFe(PO、Na(PO、NaMn10、NaFeMnNi等のナトリウム塩化合物を含む正極が挙げられる。
【0034】
正極は、導電助剤として、アセチレンブラック、黒鉛、カーボンブラックなどの炭素材料を含んでもよく、バインダとしてフッ素系樹脂、オレフィン系樹脂等を含んでもよい。
【0035】
負極としては、金属塩における陰イオンと酸化還元反応するものであればよく、金属塩と正極の組み合わせに応じて適宜選択してよい。
【0036】
金属塩が塩化リチウムである場合、正極としては前述のリチウム化合物、負極としては塩化物イオンと酸化還元反応する塩化銀等の銀化合物など、を用いることが好ましい。
【0037】
負極としては、例えば、黒鉛、カーボンクロス、ハロゲン化物等のイオン二次電池の分野において公知の負極を使用することが可能である。その他、金属塩がマグネシウム塩化合物である場合、マグネシウム二次電池の分野において公知の正極及び負極を用いてよい。
【0038】
<媒質>
本開示に係る媒質は、第一の温度区と第二の温度区とを区分する臨界温度を有する。媒質は、前記第一の温度区において、少なくとも第一の媒質と第二の媒質とが混合した混合体の状態である。媒質は、前記第二の温度区において、少なくとも二相に相転移した前記複数の相の状態である。
【0039】
媒質は、上記要件を満たすものであれば、特に制限されず、適宜公知の媒質を使用してよい。媒質の数は、第一の媒質及び第二の媒質を含んでいれば、特に制限されず、何種類混合してもよい。媒質は、第二の温度区において複数の相に相転移するものであれば、それぞれ独立に、固体、液体及びゲルのいずれであってもよい。
【0040】
第一の媒質とは、第一の相に主成分として含まれる媒質を表す。第二の媒質とは、第二の相に主成分として含まれる媒質を表す。
【0041】
「主成分」とは、例えば第一の相に、第一の媒質とその他複数の媒質とを含む場合、第一の相の全量に対する第一の媒質の含有量が、第一の相の全量に対するその他複数の媒質それぞれの含有量よりも多い場合を表す。
【0042】
媒質が、例えば、第一の媒質及び第二の媒質の他に、第Xの媒質及び第Yの媒質を含む場合、第一の温度区における媒質は、第一の媒質と、第二の媒質と、第Xの媒質と、第Yの媒質と、が全て混合した混合体の状態である。
【0043】
媒質が、例えば、第一の媒質及び第二の媒質の他に、第Xの媒質及び第Yの媒質を含む場合、媒質は、第二の温度区において以下(1)~(3)に示す相転移の状態のいずれの状態であってもよい。
(1)第一の媒質を主としてなる第一の相と、第二の媒質を主としてなる第二の相と、第Xの媒質を主としてなる第Xの相と、第Yの媒質を主としてなる第Yの相と、の四相に相転移した状態。
(2)第一の媒質を主としてなる第一の相と、第二の媒質を主としてなる第二の相と、第Xの媒質及び第Yの媒質との混合体を主としてなる第XYの相と、の三相に相転移した状態。
(3)第一の媒質を主としてなる第一の相、及び、第二の媒質を主としてなる第二の相に対し、第Xの媒質及び第Yの媒質が、それぞれ独立に混合され、二相に相転移した状態。
【0044】
第一の媒質を主としてなる第一の相とは、第一の相を構成する主成分の媒質が、第一の媒質であることをいう。つまり、第一の相は、第二の相と相が分かれる範囲で、他の媒質(例えば、第二の媒質、第Xの媒質及び第Yの媒質)を含んでいてもよい。
その他、第二の相、第Xの相及び第Yの相についても、第一の相と同様に、第二の媒質、第Xの媒質及び第Yの媒質が、それぞれ各相を構成する主成分の媒質であり、互いに相が分かれる範囲で、互いの媒質を含んでいてもよい。
【0045】
〔臨界温度〕
臨界温度としては、特に限定されず、電池の用途に応じて選定してよい。例えば、-50℃~200℃の範囲内に臨界温度を有する媒質を使用することが可能である。
例えば、本開示に係る混合エントロピー電池を用いて昼夜の温度差を利用した発電を行う場合、-10℃~30℃の範囲内に臨界温度を有する媒質を使用することが好ましい。
また、本開示に係る混合エントロピー電池を用いて工業排熱等を利用した発電を行う場合、80℃~200℃の範囲内に臨界温度を有する媒質を使用することが好ましい。
このように、発電方法に応じた臨界温度を有する媒質を適宜選択することにより、本開示に係る混合エントロピー電池は、様々な用途に使用可能であると考えられる。
【0046】
-LCSTとUCST-
本開示において、第一の温度区とは、少なくとも第一の媒質と第二の媒質とが混合した混合体の状態である温度範囲をいう。
本開示において、第二の温度区とは、少なくとも二相に相転移した前記複数の相の状態となる温度範囲をいう。
第一の温度区と第二の温度区との境界となる温度を臨界温度というが、第一の温度区が臨界温度より低い温度範囲であり、かつ、第二の温度区が臨界温度より高い温度範囲であってもよいし、第一の温度区が臨界温度より高い温度範囲であり、かつ、第二の温度区が臨界温度より低い温度範囲であってもよい。
第一の温度区が臨界温度より低い温度範囲であり、かつ、第二の温度区が臨界温度より高い温度範囲で有る場合を、媒質の混合体がLCST(lower critical solution temperature)型相転移挙動を示すという。
また、逆に、第一の温度区が臨界温度より高い温度範囲であり、かつ、第二の温度区が臨界温度より低い温度範囲で有る場合を、媒質の混合体がUCST(upper critical solution temperature)型相転移挙動を示すという。
本開示に係る混合エントロピー電池においては、LCST型相転移挙動を示す媒質の混合体を用いてもよいし、UCST型相転移挙動を示す媒質の混合体を用いてもよい。
【0047】
媒質の混合体は、LCST型相転移挙動を示すものであってもよく、UCST型相転移挙動を示すものであってもよい。
【0048】
〔第一の媒質と第二の媒質〕
本開示において用いられる媒質に含まれる第一の媒質と第二の媒質の組み合わせとしては、媒質の混合体が上述のLCST型相転移挙動又はUCST型相転移挙動を示すものであれば特に制限されず、金属塩の溶解度、臨界温度等を考慮して適宜選択してよい。
【0049】
第一の媒質と第二の媒質の組み合わせとしては、2種のイオン液体の組み合わせ、イオン液体と水又は有機溶剤との組み合わせ、双性イオンと水又は有機溶剤との組み合わせ、有機溶剤と水との組み合わせ、高分子化合物と水又は有機溶剤との組み合わせ、2種類の高分子化合物の組み合わせ、等が挙げられる。
上記の中でも、第一の媒質と第二の媒質との組み合わせは、難揮発性、難燃性等の観点から、イオン液体と水若しくは有機溶剤との組み合わせ、又は、双性イオンと水若しくは有機溶剤との組み合わせが好ましく、イオン液体と水との組み合わせ、又は、双性イオンと水との組み合わせがより好ましい。
【0050】
有機溶剤としては、脂肪族炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物、エーテル化合物、アルコール化合物等が挙げられる。
【0051】
イオン液体としては、[P4444]等のテトラアルキルホスホニウム塩、[N4444]等の四級アルキルアンモニウム塩、[Cmim]塩(n=1,4,5,8,10)、[TfN]塩などが挙げられる。イオン液体は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0052】
媒質としてイオン液体を複数種含む場合、第二の温度区において、前記複数種のイオン液体それぞれが主成分となる複数の相を形成していてもよく、前記複数種のイオン液体が混合され主成分となる一つの相を形成していてもよい。
【0053】
イオン液体は、臨界温度の調整が容易であること、塩濃度の調整が容易であること、低粘度であることなどの観点からは解離型のイオン液体を使用することが好ましい。
【0054】
双性イオン(Zwitterion、ZIと称される化合物)としては、陽イオンと陰イオンを一分子中に共有結合により結合させた化合物であれば特に制限されず、適宜公的な双性イオンを適用してよい。双性イオンとしては、例えば、P8C2P、N666C3S(N,N,N-trihexyl-3-sulfonyl-1-propaneammonium)、N555C3S(N,N,N-tripentyl-3-sulfonyl-1-propaneammonium)等の双性イオンが挙げられる。双性イオンは、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0055】
媒質として双性イオンを複数種含む場合、第二の温度区において、前記複数種の双性イオンそれぞれが主成分となる複数の相を形成していてもよく、前記複数種の双性イオンが混合され主成分となる一つの相を形成していてもよい。
【0056】
媒質における第一の媒質と第二の媒質との含有比は、特に限定されず、使用する媒質に応じて適宜設定すればよい。
【0057】
媒質の臨界温度は、第一の媒質と第二の媒質の含有比を適宜設定することにより、調整することが可能である。
【0058】
第一の媒質と第二の媒質との組み合わせの例を、表1~表4に挙げるが、第一の媒質と第二の媒質との組み合わせはこれに限定されるものではない。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
表1~表4中に略称で記載した構造の詳細は下記の通りである。
【0064】
【化3】
【0065】
【化4】
【0066】
表1~表4に記載された各化合物として、下記文献に記載の化合物を使用することができる。また、これらの化合物の合成方法として、下記文献に記載の合成方法が使用可能である。
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【0067】
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【0068】
<金属塩>
金属塩としては、特に限定されず、イオン二次電池の分野で公知の金属塩を使用することが可能であり、例えば、リチウム塩化合物、マグネシウム塩化合物、鉛塩化合物、ナトリウム塩化合物等が挙げられ、リチウム塩化合物又はナトリウム塩化合物であることが好ましい。
リチウム塩化合物としては、例えば、Li(CFCOO)、LiF、LiCl、LiPF、LiBF、LiN(SORf)、LiC(SORf)等(Rfは-CF、-C等のパーフルオロアルキル基を表す)が挙げられ、その他、Liを含有する有機塩を用いてもよい。
マグネシウム塩化合物としては、Mg(PF、Mg(BF、Mg(ClO、Mg(AsF等が挙げられ、その他、Mgを含有する有機塩を用いてもよい。
鉛塩化合物としては、PbSO等が挙げられ、その他、Pbを含有する有機塩を用いてもよい。
ナトリウム塩化合物としては、NaCl、NaPF、NaBF等が挙げられ、その他、Naを含有する有機塩を用いてもよい。
【0069】
<用途>
本開示に係る混合エントロピー電池を用いることにより、温度変化により発電を繰り返すことが可能となる。
例えば、排熱利用、昼夜の温度変化の利用等の、これまでに利用されていない再生エネルギーを利用した発電が可能となると考えられる。
本開示に係る混合エントロピー電池は、温度変化により発電を繰り返すことが可能であるため、非特許文献1に記載の方法のような汽水域における塩濃度の変化を利用した方法や、特許文献1に記載のようなタービンを利用した方法と比較して、発電可能な場所が限定されにくい点、装置を小型化しやすい点、装置の構成を単純化しやすい点においても有用であると考えられる。
また、従来の太陽電池とは異なり、天候の影響を受けにくいという点も有用であると考えられる。
【0070】
(発電方法)
本開示に係る発電方法は、本開示に係る混合エントロピー電池を、前記臨界温度よりも低い温度下に置く工程と、本開示に係る混合エントロピー電池を、前記臨界温度よりも高い温度下に置く工程と、を含む。
【0071】
混合エントロピー電池における媒質として、LCST型相転移挙動を有する媒質を用いる場合、図1中の(C)及び(D)は、本開示に係る混合エントロピー電池を臨界温度よりも低い温度下(第一の温度区に含まれる温度下)に置く工程における状態を示し、図1中の(A)及び(B)は、前記臨界温度よりも高い温度下(第二の温度区に含まれる温度下)に置く工程における状態を示すこととなる。
本開示に係る発電方法においては、本開示に係る混合エントロピー電池を、前記臨界温度よりも低い温度下に置く工程と、本開示に係る混合エントロピー電池を、前記臨界温度よりも高い温度下に置く工程と、を繰り返すことにより、発電を繰り返すことが可能となる。
LCST型相転移挙動を示す媒質を用いる場合は、前記臨界温度よりも高い温度下に置く工程において、相転移を起こしやすいよう、媒質を撹拌してもよい。
UCST型相転移挙動を示す媒質を用いる場合は、前記臨界温度よりも低い温度下に置く工程において、相転移を起こしやすいよう、媒質を撹拌してもよい。
【実施例
【0072】
[実施例1]
(電極の作製)
<正極(作用極)>
LiFePO粉末、カーボンクロス(東陽テクニカ社製、EC-CC1-060)、ポリフッ化ビニリデン(SIGMA-ALDRICH社製、182702-100G)が質量比で8:1:1の割合となるように混合した後、N-メチルピロリドンを添加し、一晩撹拌してペーストを作製した。作製したペーストをカーボンクロスへ塗布した後、100℃で1時間乾燥することで正極を作製した。
【0073】
<負極(対極)>
Ag板(ケニヤ株式会社製、1-126-138)を#600 耐水ペーパー(エスコ、EA366CA-60)で両面を研磨した後、3mol/LのNaCl溶液中に挿入し、3mAの定電流を1時間印加することで作製したAg/AgCl電極を負極として用いた。
【0074】
(媒質の調製)
下記成分を混合することにより金属塩を含む媒質を調製した。得られた媒質は30℃でLCST型相転移挙動を示した。
・[P4444][TMBS](イオン液体):2g
・純水:2g
・塩化リチウム(LiCl):3.8mg(終濃度:0.23mol/L)
【0075】
(電気化学測定1:第一の温度区から第二の温度区への変化に伴う電位変化の観測)
27℃の媒質(水と[P4444][TMBS]との混合体)に接するように正極及び負極を配置した。正極及び負極は、相転移時には主として[P4444][TMBS]からなる相(下層)には接さず、第二の温度区において第一の媒質(主として水)からなる相(上層)にのみ接するように設け、混合エントロピー電池を作製した。
上記配置の後に、媒質の温度を27℃とし、正極及び負極を媒質の外部において接続し、ガルバノスタット(Solartron Analytical社製、ModuLab XM ECS)により250μA/cmの電流を流しながら電位を測定した。1200秒間静置した後に、上記電位の測定を継続しながら、媒質の温度を4℃/分の条件により37℃となるまで昇温し、媒質を混合体の状態から相転移させた。相転移後、更に上記電位の測定を継続しながら、1200秒間静置した。一連の電位変化を測定した結果は図2に記載した。
図2から、相転移状態においては正極の電位と負極の電位との電位差が減少することがわかる。
【0076】
(電気化学測定2:第二の温度区から第一の温度区への変化に伴う電位変化の観測)
次に、37℃の相転移した媒質(主として水を含む相と主として[P4444][TMBS]を含む相の二相を有する)に接するように正極及び負極を配置した。正極及び負極は、主として[P4444][TMBS]を含む相(下層)には接さず、主として水を含む相(上層)にのみ接するように配置した。また、媒質中の主として[P4444][TMBS]を含む相の相内には撹拌子を配置した。上記配置の後に、室温(26℃)下ですぐに正極及び負極を媒質の外部において接続し、ガルバノスタット(Solartron Analytical社製、ModuLab XM ECS)により250μA/cmの電流を流しながら電位を測定した。1200秒間静置した後に、上記電位の測定を継続しながら、撹拌子により撹拌し、媒質を相互に混合した混合体状態とした。相溶後、更に上記電位の測定を継続しながら、1200秒間静置した。一連の電位変化を測定した結果は図3に記載した。
図3から、混合状態においては、正極の電位と負極の電位との電位差が増大することがわかる。また、図2及び図3の結果から、混合状態と相転移状態を連続して行うことにより、発電が可能であることがわかる。
【0077】
(電気化学測定3:第一の温度区と第二の温度区との温度変化に伴う繰り返し発電)
上記と同様の正極、負極、金属塩及び媒質を有する混合エントロピー電池を使用した。
まず、27℃の媒質(水と[P4444][TMBS]との混合体)に接するように正極及び負極を配置した。媒質中には撹拌子を配置した。正極及び負極は、相転移時には主として[P4444][TMBS]を含む相には接さず、主として水を含む相にのみ接するように配置した。上記配置の後に、正極及び負極を媒質の外部において接続し、ガルバノスタット(Solartron Analytical社製、ModuLab XM ECS)により250μA/cmの電流を流しながら電位を測定した。300秒間静置した後に、上記電位の測定を継続しながら、媒質の温度を20℃/分の条件により37℃となるまで昇温し、媒質を相転移させた。
相転移後、更に上記電位の測定を継続しながら、300秒間静置した。上記静置後、上記電位の測定を継続しながら、媒質の温度を20℃/分の条件により27℃となるまで降温し、媒質を相互に混合した混合体状態とした。上記降温は、撹拌子により撹拌しながら行った。混合体状態とした後に、更に上記電位の測定を継続しながら、300秒間静置した。その後、上記電位の測定を継続しながら、上記昇温と降温とを1サイクルとして、計10サイクルとなるまで繰り返した。測定結果は図4に記載した。
図4から、降温による電位の上昇と昇温による電位の低下とが10サイクルにおいて繰り返されていることがわかる。すなわち、図4の結果から、本開示に係るエントロピー電池によれば、混合状態と相転移状態を繰り返すことにより、繰り返し発電が可能であることがわかる。
【0078】
(電気化学測定4:分極曲線の測定)
上記と同様の正極、負極、金属塩及び媒質を有する混合エントロピー電池を使用した。
まず、27℃の媒質(水と[P4444][TMBS]との混合体)に接するように正極及び負極を配置した。正極及び負極は、相転移時には[P4444][TMBS]との混合体には接さず、水にのみ接するように配置した。上記配置の後に、正極及び負極を媒質の外部において接続し、250μA/cm-2の電流を20分間印加した。上記印加後、37℃に昇温し、10分間放置することにより、水の層と[P4444][TMBS]との2相に相転移させた。37℃の状態を保ったまま、分極曲線を得た。測定結果は図5に記載した。
図5から、電極における金属塩の酸化還元反応が起こることがわかる。
【0079】
(電気化学測定5:撹拌をせずに第二の温度区から第一の温度区への変化に伴う電位変化の観測)
上記と同様の正極、負極、金属塩及び媒質を有する混合エントロピー電池を使用した。
37℃の相転移した媒質(主として水を含む相と主として[P4444][TMBS]を含む相の二相を有する)に接するように正極及び負極を配置した。正極及び負極は、主として[P4444][TMBS]を含む相には接さず、主として水を含む相にのみ接するように配置した。また、媒質中の主として[P4444][TMBS]を含む相の相内には撹拌子は配置しなかった。上記配置の後に、正極及び負極を媒質の外部において接続し、ガルバノスタット(Solartron Analytical社製、ModuLab XM ECS)により250μA/cmの電流を印加しながら電位を測定した。上記電位の測定を継続しながら、媒質を室温(26℃)下において静置し、媒質を相互に混合した混合体状態とした。測定は約6時間(21600秒間)行った。一連の電位変化を測定した結果は図6に記載した。
図6から、撹拌を行わずとも、相転移による正極の電位と負極の電位との電位差の減少が確認された。
【0080】
[実施例2]
(電極の作製)
正極及び負極は、実施例1と同様の仕様とした。
(媒質の調製)
下記成分を混合することにより金属塩を含む媒質を調製した。得られた媒質は46℃でLCST型相転移挙動を示した。
・N666C3S(ZI):2240mg(5.73mmol)
・N555C3S(ZI):2001mg(5.73mmol)
・LiClaq:0.5mol/L(終濃度:0.265mol/L)
(電気化学測定)
実施例1と同様の正極、負極を使用した。
まず、40℃の媒質(水とN666C3SとN555C3Sとの混合体)に接するように正極及び負極を配置した。正極及び負極は、相転移時には主として水を含む相(下層)には接さず、主としてN666C3SとN555C3Sを含む相(上層)のみ接するように配置した。上記配置の後に、正極及び負極を媒質の外部において接続し、250μA/cmの電流を20分間印加した。上記印加後、50℃に昇温し、10分間放置することにより、主として水を含む相(下層)と主としてN666C3S及びN555C3Sの混合体を含む相)(上層)とに相転移させた。50℃の状態を保ったまま、分極曲線を得た。測定結果は図7に記載した。
図7から、第一の媒質として双性イオン(ZI)を用いた場合であっても、電極における金属塩の酸化還元反応が起こることがわかる。
【0081】
[実施例3]
(電極の作製)
<正極(作用極)>
NaNO水溶液とMn(NOを混合し、NaMn10を合成した。この液中に綿を浸漬させ、100℃から700℃まで連続的に昇温を行った後、700℃で24時間焼成することで、NaMn10粉末を作製した。NaMn10粉末、カーボンブラック(東陽テクニカ社製、EC-CC1-060)、ポリフッ化ビニリデン(SIGMA-ALDRICH社製、182702-100G)が質量比で8:1:1の割合となるように混合した後、N-メチルピロリドンを添加し、一晩撹拌してペーストを作製した。作製したペーストをカーボンクロスへ塗布した後、100℃で1時間乾燥することで正極を作製した。
【0082】
<負極(対極)>
Ag板(ケニヤ株式会社製、1-126-138)を#600 耐水ペーパー(エスコ、EA366CA-60)で両面を研磨した後、3mol/LのNaCl溶液中に挿入し、3mAの定電流を1時間印加することで作製したAg/AgCl電極を負極として用いた。
【0083】
(媒質の調製)
下記成分を混合することにより金属塩を含む媒質を調製した。得られた媒質は、30℃でLCST型相転移挙動を示した。
・[P4444][TMBS](イオン液体):2g
・純水:2g
・塩化ナトリウム(NaCl):163.6mg(終濃度:0.75mol/L)
【0084】
(電気化学測定)
第二の温度区において主として第一の媒質(イオン液体)からなる相(上層)のみに接するように正極及び負極を設け、混合エントロピー電池を作製した。正極及び負極を媒質の外部において接続し、ガルバノスタット(Solartron Analytical社製、ModuLab XM ECS)を用いて、以下STEP1~4で電位を測定した。
STEP1:媒質の温度を37℃とし、媒質を、主として水を含む相(下層)と主としてイオン液体を含む相(上層)とからなる2相に相転移させた。相転移後、電極から10μA/cmの電流を5分間流し、一定電流の状態における電位を測定した。
STEP2:開回路により媒質に電流が流れない状態にした後、媒質の温度を27℃に温度とし、撹拌することで混合体とし、電位を測定した。
STEP3:媒質の温度を27℃に保ったまま、電極へ10μA/cm(STEP1の逆向き)の電流を5分間流し、一定電流の状態における電位を測定した。
STEP4::開回路により媒質に電流が流れない状態にした後、媒質の温度を37℃とし、媒質を再度相転移させ、電位を測定した。
【0085】
図8に、上記測定で得られた実施例3における測定電圧の時間変化を表すグラフを示す。
図9に、実施例3における金属塩の電荷密度と電圧の関係を表すグラフを示す。なお、電圧と電荷の積が、電気化学エネルギーである。そのため、図9において、測定電圧の軌跡で囲まれた領域の積分値が、エネルギー密度となる。
【0086】
[実施例4]
(電極の作製)
正極及び負極は、実施例3と同様の仕様とした。
(媒質の調製)
下記成分を混合することにより金属塩を含む媒質を調製した。得られた媒質は52℃でLCST型相転移挙動を示した。
・N555C3S(ZI、「双性イオン1」と称す): 940mg(2.70 mmol)
・N666C3S(ZI、「双性イオン2」と称す):1053mg(2.70 mmol)
・NaClaq:2860μl(1 mol/L)
【0087】
(電気化学測定)
第二の温度区において主として第一の媒質(双性イオン1と双性イオン2の混合物)からなる相(上層)のみに接するように正極及び負極を設け、混合エントロピー電池を作製した。正極及び負極を媒質の外部において接続し、ガルバノスタット(Solartron Analytical社製、ModuLab XM ECS)を用いて、以下STEP1~4で電位を測定した。
【0088】
STEP1:媒質の温度を57℃とし、媒質を、主として双性イオン1と双性イオン2との混合物を含む相と、主として水を含む相と、からなる2相に相転移させた。相転移後、電極から10μA/cmの電流を5分間流し、一定電流の状態における電位を測定した。
STEP2:開回路により媒質に電流が流れない状態にした後、媒質の温度を47℃に温度とし、撹拌することで混合体とし、電位を測定した。
STEP3:媒質の温度を47℃に保ったまま、電極へ10μA/cm(STEP1の逆向き)の電流を5分間流し、一定電流の状態における電位を測定した。
STEP4:開回路により媒質に電流が流れない状態にした後、媒質の温度を57℃とし、媒質を再度相転移させ、電位を測定した。
【0089】
図10に、上記測定で得られた実施例4における測定電圧の時間変化を表すグラフを示す。
図11に、実施例4における金属塩の電荷密度と電圧の関係を表すグラフを示す。なお、電圧と電荷の積が、電気化学エネルギーである。そのため、図11において、測定電圧の軌跡で囲まれた領域の積分値が、エネルギー密度となる。
【0090】
図8及び図10に示すように、実施例3及び4の混合エントロピー電池は、媒質の温度変化により発電を繰り返すことができた。
より具体的に、
図10~11に示すように、媒質として2種類の双性イオンと水とを用いた実施例4の混合エントロピー電池においても、媒質の臨界温度の前後で温度変化を与えることで、混合体と相転移状態とを繰り返させ、発電させることができた。
【符号の説明】
【0091】
10 混合体(媒質)
11 負極
12 正極
16 金属塩に由来する陰イオン
14 金属塩に由来する陽イオン
20 第一の相
22 第二の相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11