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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220817BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
A61N5/10 M
A61B5/055 390
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018086846
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019187993
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】安藤 竜弥
(72)【発明者】
【氏名】青木 学
(72)【発明者】
【氏名】梅垣 菊男
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 妙子
(72)【発明者】
【氏名】白土 博樹
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-61838(JP,A)
【文献】特開2010-12056(JP,A)
【文献】特開平10-192268(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0239066(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
A61N 5/10
A61B 6/00 ― 6/03
H01F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを生成して出射する加速器と、
前記荷電粒子ビームを照射標的に向けて照射する照射装置と、
前記照射装置と共に回転するガントリーと、
前記ガントリーと共に回転するMRI装置と、を備え、
前記MRI装置は、鉄心および磁束発生源である複数のコイルからなる磁気回路を有し、
前記鉄心は、対向配置された2つの磁極と磁極同士を接続する部材で構成され、
前記磁極のうち少なくとも1つは空洞を有しており、
前記荷電粒子ビームを前記空洞を通過させて前記照射標的に照射し、
前記MRI装置は、前記ガントリーの回転軸の方向に移動できる
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項2】
荷電粒子ビームを生成して出射する加速器と、
前記荷電粒子ビームを照射標的に向けて照射する照射装置と、
前記照射装置と共に回転するガントリーと、
前記ガントリーと共に回転するMRI装置と、を備え、
前記MRI装置は、鉄心および磁束発生源である複数のコイルからなる磁気回路を有し、
前記鉄心は、対向配置された2つの磁極と磁極同士を接続する部材を有し、
前記MRI装置は、前記ガントリーの回転軸の方向に移動できる
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記MRI装置からの信号に基づき、前記荷電粒子ビームの照射のON/OFFを制御する制御装置を更に備えた
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記MRI装置からの信号に基づき、前記荷電粒子ビームの照射前の位置合わせを行う制御装置を更に備えた
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記荷電粒子ビームの進行方向と前記MRI装置が生成する磁場の向きとが平行である
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項6】
請求項1または2に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記照射標的を透視するX線を発生させるX線発生装置と、前記X線発生装置で発生させた前記X線を検出するX線検出器を更に備えた
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項7】
請求項に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記X線発生装置と前記X線検出器とを結ぶ直線は、前記MRI装置が生成する磁場の向きと直交する
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項8】
請求項に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記MRI装置の励磁タイミングを前記X線発生装置の使用後とする
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項9】
請求項1または2に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記MRI装置は、前記MRI装置からの信号を用いないとき、または前記ガントリー内で移動するとき、消磁できる
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項10】
請求項1に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記対向配置された磁極は、同じ位置に同じ形状の前記空洞を有している
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項11】
請求項1または2に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記加速器はシンクロトロン、サイクロトロン、シンクロサイクロトロンのいずれかである
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項12】
請求項1または2に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記照射装置はスキャニング照射できる
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素やヘリウム等の重粒子、陽子等の荷電粒子ビーム(以下、粒子線とも記載)を患部に照射する粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
照射領域へ予め定められた方向に荷電粒子ビームを照射するように構成された粒子線治療装置の一例として、特許文献1には、予め定められた方向に荷電粒子ビームを向けるように構成された荷電粒子ビーム源と、荷電粒子ビームの照射と同時に照射領域を含む画像化ボリューム内に磁場を発生する磁場発生手段とを備え、磁場発生手段は、照射領域への荷電粒子ビームの進入を可能にし、荷電粒子ビームの照射領域に均一な磁場を生じさせるように構成され、磁場は予め定められた方向にほぼ向けられることが記載されている。
【0003】
また、非特許文献1には、患者の周りを回転するガントリーに搭載されたMRIを用いて標的の位置を計測し、標的が予め決めた位置(出射許可範囲)にある場合に粒子線を照射するゲート照射を実施する粒子線治療装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2008-543471号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Bradley M. Oborn et al., “Future of medical physics: Real‐time MRI‐guided proton therapy”, Med. Phys. 44(8) 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
癌などの患者に粒子線を照射する方法が知られている。粒子線を照射する粒子線治療システムは、荷電粒子発生装置とビーム輸送系と治療室とを備えている。
【0007】
特に、スキャニング照射法を用いる粒子線治療システムでは、加速器で生成・加速された粒子線はビーム輸送系を経て治療室の照射装置に達し、照射装置の走査電磁石により走査されて患者の体内で患部形状に適した線量分布を形成する。
【0008】
ところで、患部などの照射標的が呼吸などで移動すると、予め計画した線量分布を形成することが難しくなる。
【0009】
そこで、計画通りの線量分布を形成する方法として、上述した非特許文献1のような、患者の周りを回転するガントリーに搭載されたMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)を用いて標的の位置を計測し、標的が予め決めた位置(出射許可範囲)にある場合に粒子線を照射するゲート照射を実施する粒子線治療システムがある。
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載のようなMRIを搭載したガントリーでは、磁力線がMRIの外側の気中を通過するため、MRIの外側における磁場強度が強くなる。すなわち、大きな漏洩磁場をもつ。
【0011】
一方、粒子線の位置と照射量を計測するための粒子線モニタは、その特性上、磁場の影響を受け易い。このため、大きな漏洩磁場のもとでは、粒子線モニタを患者の近くに設置することが困難になるという課題があった。
【0012】
このような漏洩磁場を避けるために、特許文献1には、磁束を戻すための磁路としての鉄心を備えたMRIを搭載した粒子線治療システムが開示されている。
【0013】
このような構成では、磁束は主に鉄心を戻る構成になるために、上記の粒子線モニタをはじめとする、磁場の影響を受けやすい機器は配置しやすくなる。しかしながら、荷電粒子線が強磁場中を横切るために、その電磁力によりビーム軌道が影響を受けやすい、という課題があった。
【0014】
上述の特許文献1では、これを回避するために、MRI装置が発生する磁場の向きと、粒子線の入射方向とを平行にするための構造についても開示されている。しかしながら、その構造は複雑で、漏洩磁場は大きくなる課題があった。
【0015】
本発明は、簡易な構造で、MRI装置によって標的の位置を計測するとともに、粒子線モニタによって粒子線の位置と線量を高精度に評価することができる粒子線治療システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、荷電粒子ビームを生成して出射する加速器と、前記荷電粒子ビームを照射標的に向けて照射する照射装置と、前記照射装置と共に回転するガントリーと、前記ガントリーと共に回転するMRI装置と、を備え、前記MRI装置は、鉄心および磁束発生源である複数のコイルからなる磁気回路を有し、前記鉄心は、対向配置された2つの磁極と磁極同士を接続する部材で構成され、前記磁極のうち少なくとも1つは空洞を有しており、前記荷電粒子ビームを前記空洞を通過させて前記照射標的に照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構造で、MRI装置によって標的の位置を計測するとともに、粒子線モニタによって粒子線の位置と線量を高精度に評価することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の粒子線治療システムの全体概略構成を示す図である。
図2図1において開示される治療室の構造を例示する図である。
図3】照射対象に単一の粒子線を照射した場合に得られる深さ方向の線量分布を示す図である。
図4】照射対象に複数の粒子線を照射した場合に得られる深さ方向の線量分布を示す図である。
図5】照射対象に粒子線を照射した場合に得られる横方向の線量分布を示す図である。
図6】本発明の粒子線治療システムにおける、ガントリー奥にMRI装置を格納するための動作の途中状況を表す図である。
図7】本発明の粒子線治療システムにおける、ガントリー奥にMRI装置が格納された状態を示す図である。
図8】本発明の粒子線治療システムによって照射対象に粒子線を照射する手順を示したフローチャートである。
図9】本発明の粒子線治療システムにおける、粒子線の照射制御の手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の粒子線治療システムの実施例について図1乃至図9を用いて説明する。
【0020】
最初に、リターンヨークを備えたMRIをガントリーに搭載した本実施例の粒子線治療システムについて、主に図1および図2を用いて説明する。
【0021】
図1において、本実施例の粒子線治療システムは、加速器1、ビーム輸送系2、治療室17および制御装置7を備える。
【0022】
加速器1は、粒子線を生成して照射装置21に対して出射する装置であり、イオン源3aおよび前段荷電粒子ビーム加速装置であるライナック3bと、シンクロトロン4と、を有する。
【0023】
シンクロトロン4は、偏向電磁石7a、高周波印加装置5、加速装置6を有する。
【0024】
偏向電磁石7aは、シンクロトロン4のビーム周回軌道上に配置されている。高周波印加装置5は、ビーム周回軌道に配置された高周波印加電極8および高周波印加電源9を備えており、高周波印加電極8と高周波印加電源9とはスイッチにより接続されている。加速装置6は、ビームの周回軌道に配置された高周波加速空洞6aと、高周波加速空洞6aに高周波電力を印加する高周波電源6bとを備えている。出射用デフレクタ11がシンクロトロン4とビーム輸送系2を接続する。
【0025】
ビーム輸送系2は、ビーム経路12,四極電磁石,偏向電磁石13,14,15,16を有する。ビーム経路12は、治療室17内に設置された照射装置21に接続される。
【0026】
治療室17内に略筒状のガントリー18が設置されている。ガントリー18には、ビーム輸送系2の一部である偏向電磁石15,16、粒子線を照射標的26に向けて照射する照射装置21、MRI装置50、X線発生装置35、X線検出器37が設置されている。ガントリー18の内部には照射対象25を設置するために、カウチ24と呼ばれる治療用ベッドが設置されている。
【0027】
図2に示すように、ガントリー18は、モーター18Aにより回転可能な構造をしている。ガントリー18の回転と共に偏向電磁石15,16と照射装置21、MRI装置50、X線発生装置35、およびX線検出器37が回転する。このガントリー18の回転および各機器がこの動きに連動することにより、照射対象25の照射標的26に対してガントリー18の回転軸に垂直な平面内のいずれの方向からも粒子線を照射することができる。
【0028】
ガントリー18に備えられた照射装置21は、走査電磁石31,走査電磁石32と粒子線モニタとを内部に有している。粒子線モニタは、位置モニタ34と線量モニタ33から構成される。
【0029】
本実施の粒子線治療システム100は、照射装置21内に二台の走査電磁石31,32を備えている。これにより、ビーム進行方向と垂直な面内の二つの方向(X方向,Y方向)にそれぞれ粒子線を偏向して、照射位置を変更する、いわゆるスキャニング照射を実施できるように構成されている。位置モニタ34は、走査された粒子線の位置と粒子線の広がりを計測する。線量モニタ33は、照射された粒子線の量を計測する。
【0030】
MRI装置50は、図2に図示するように、ガントリー18に設置されている。MRI装置50は、磁束発生源である複数のコイル61により発生する磁束を鉄心60により戻す方式のパッシブシールド式の磁石と、磁気共鳴現象を起こしかつその信号を収集するための傾斜磁場コイル62aや高周波送受信系62bが格納される部材62と、コイル61や傾斜磁場コイル62aへの通電制御、高周波送受信系62bの検出値からMRI画像を生成して制御装置7へ出力する処理部51と、から構成される。
【0031】
本実施例のMRI装置50は、制御装置7側でMRI装置50からの信号を用いないときや、ガントリー18とともに回転する際や後述するガントリー18内でMRI装置50を退避移動させるときに、消磁可能に構成されている。
【0032】
ここで、MRI装置50が発生する磁場は、粒子線のビーム軸と同じ方向(平行)に発生させるように設置されている。これにより、MRI装置50のコイル61が生成する均一磁場内に照射標的26が入るように照射対象25が設置され、照射標的26の周辺のMRI画像が撮影される。
【0033】
MRI装置50の鉄心60は、対向配置された2つの磁極63A,63Bと、ガントリー18の奥側で磁極63A,63B同士を接続するリターンヨーク64と、から構成される。このリターンヨーク64と磁極63A,63Bとが磁束の通過経路、すなわち磁気回路となる。
【0034】
磁極63A,63Bは同じ形状であり、また同じ材質で構成されている。
【0035】
また、磁極63Aの中心には空洞65Aが形成されており、照射装置21からの粒子線が磁極63Aの中心付近を通過できるように構成されている。図2では、照射装置21が収まる大きさの空洞65Aが記載されているが、磁極63Aに設けられる空洞65Aは、最低でも走査されたビームが通過可能な大きさであればよい。
【0036】
また、磁極63Bの中心にも、磁極63Aに設けられた空洞65Aと同じ大きさ,形状の空洞65Bが形成されており、上下の磁極63A,63Bの対称性を高めてコイル61が生成する磁場を高める。
【0037】
なお、図2ではコイル61により主たる磁束(静磁場)を発生することを意図して図示されているが、主磁束の発生源はコイル61に限る必要はなく、たとえば、永久磁石によって主磁束が発生される構成であっても構わないことは自明である。
【0038】
図2に示すように、X線発生装置35とフラットパネル型のX線検出器37とは、MRI装置50が生成するガントリー18内の磁場の向きと垂直な方向にX線を発生させるように照射対象25の両側に設置されている。X線発生装置35は、透視用のX線を発生させる。X線検出器37はX線発生装置35から発生され、照射対象25の照射標的26の周辺を通過したX線の信号を検出する。
【0039】
照射対象25内には照射標的26があり、粒子線を照射することで照射標的26を覆うような線量分布を照射対象25内に形成する。ここで癌などの治療の場合は、照射対象25は人であり、照射標的26は腫瘍である。
【0040】
次に、本実施例の粒子線治療システム100が備えている制御装置7について、図1を用いて説明する。
【0041】
制御装置7は、記憶装置であるデータベース42に接続されており、データベース42は照射計画装置41に接続されている。照射計画装置41はX線CT装置40および表示装置43に接続されている。データベース42には照射計画装置41が作成した照射に必要なデータ(治療計画)が記録されている。
【0042】
制御装置7は、また、加速器1、ビーム輸送系2、ガントリー18、照射装置21、MRI装置50、X線発生装置35、X線検出器37に接続されている。この制御装置7は、加速器1や照射装置21、ビーム輸送系2、MRI装置50、X線発生装置35、X線検出器37を構成する各機器の動作を制御する装置である。また、制御装置7は、走査電磁石31,32の励磁量を出力し、照射装置21内の各モニタによる検出値の入力を受けている。
【0043】
本実施例の制御装置7は、特に、MRI装置50の処理部51から定期的に取得するMRI画像の信号に基づき、粒子線の照射のON/OFFの制御を実行するとともに、照射前の位置合わせの際のカウチ24の移動の制御を行う。
【0044】
例えば、粒子線の照射中であれば、照射中に取得したリアルタイムの照射標的26の3次元位置が予め定められた領域内に入っているか否かを判定し、領域内に入っていると判定されたときは出射用高周波印加指令信号を高周波印加装置5に対して出力し、領域内に入っていないと判定されたときは信号の出力を行わない。
【0045】
また、照射前であれば、照射標的26を治療計画時の照射位置に位置決めする際に取得されたX線透視画像あるいはMRI画像から照射標的26と照射位置との差分を求め、カウチ24の移動量を演算してカウチ24を移動させる。
【0046】
制御装置7や上述した処理部51は、1または複数のプロセッサ、CPU等で構成される。制御装置7や処理部51による各機器の動作の制御は各種プログラムで実行される。このプログラムは制御装置7内の内部記録媒体や外部記録媒体、データベース42に格納されており、CPUによって読み出され、実行される。
【0047】
なお、制御装置7や処理部51で実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに別れていてもよく、それらの組み合わせでもよい。また、プログラムの一部または全ては専用ハードウェアで実現してもよく、モジュール化されていても良い。更には、各種プログラムは、プログラム配布サーバや記憶メディアによって各計算機にインストールされてもよい。
【0048】
図3および図4を用いて、本実施例による粒子線治療システム100における照射対象25の表面を基準とした場合の照射標的26の深さと粒子線のエネルギーとの関係について説明する。図3および図4は、横軸が照射標的26の深さ、縦軸が粒子線の線量を示す図である。
【0049】
図3は、単一エネルギーの粒子線が照射対象内に形成する線量分布を深さの関数として示している。図3におけるピークをブラッグピークと称する。ブラッグピークの位置は粒子線のエネルギーに依存する。そのため、粒子線のエネルギーを調整することでブラッグピークの位置を調整でき、照射標的26の所望の深さに適切な線量の粒子線を照射することができる。
【0050】
照射標的26は深さ方向に厚みを持っているが、ブラッグピークは鋭いピークである。このため、いくつかのエネルギーの粒子線を適切な強度の割合で照射し、ブラッグピークを重ね合わせることで、図4に表すように深さ方向に照射標的26と同じ厚みを持った一様な高線量領域(SOBP:spread-out Bragg peak、拡大ブラッグピーク)を形成する。
【0051】
図5を用いて、ビーム軸に垂直な方向(XY平面の方向)の照射標的26の横方向の広がりと粒子線の関係について説明する。図5では、横軸に照射標的26の横方向の広がりを、縦軸に照射スポットにおける線量を示す。ビーム軸に垂直な方向を横方向と呼ぶ。
【0052】
粒子線は照射装置21に達した後、互いに垂直に設置された二台の走査電磁石31,32によって走査されることで横方向の所望の位置へと到達する。粒子線の横方向の広がりはガウス分布形状で近似することができる。そのため、ガウス分布を等間隔で配置し、その間の距離をガウス分布の標準偏差程度にすることで、図5に示すように、足し合わされた分布は一様な領域を有するものとなる。このように配置されるガウス分布状の線量分布をスポットと呼ぶ。粒子線を走査して複数のスポットを等間隔に配置することで、図5に示すような横方向に一様な線量分布を形成することができる。
【0053】
以上により、走査電磁石31,32による横方向へのビーム走査と、ビームエネルギー変更による深さ方向へのブラッグピークの移動により均一な照射野を形成することができる。なお、同一のエネルギーで照射され、走査電磁石31,32による粒子線の走査により横方向へ広がりを持つ照射野の単位をスライスと呼ぶ。
【0054】
照射計画装置41は、粒子線を照射標的26に照射する前に、照射に必要な照射パラメータ、ガントリー角度および照射対象位置情報を決定する。照射パラメータは、スライス数Nと、N個のスライスデータと、により構成される。
【0055】
ここで、スライスとは、同一のエネルギーで照射するスポットの集合を表す。スライスデータは、スライス番号i、エネルギーEi、スポット数NおよびN個のスポットデータを含む。スポットデータはスポット番号j、照射位置(Xij,Yij)、目標照射量Dijを含む。
【0056】
これらの照射パラメータは次のように決定される。
【0057】
予め照射対象25をX線CT装置40にて撮影する。X線CT装置40は照射標的26が周期的に動くときその動きの位相毎にCT画像を作成する機能を備える。特に患者を撮影する場合、呼吸位相毎のCT画像を取得できる。
【0058】
X線CT装置は照射対象を撮影し、n個の位相に対する照射対象25のCT画像を作成する。X線CT装置は作成したCT画像を照射計画装置41に送信する。
【0059】
照射計画装置41は、受け取った画像データを表示装置43の画面上に表示する。オペレータは位相毎のCT画像から基準となる位相のCT画像を選択する。例えば呼吸による患部の移動を考える場合、呼気位相を選択する。オペレータが選択したCT画像上で照射標的26を覆うように照射したい領域を指定する。
【0060】
照射計画装置41は、指定された領域に線量分布を形成できるような照射対象の設置位置、ガントリー角度、照射パラメータを求めて決定する。すなわち、照射計画装置41は、オペレータが入力した照射対象情報に基づいて照射対象設置位置とガントリー照射角度を決定後、照射標的26(患部)を深さ方向の複数のスライスに分割し、必要となるスライス数Nを決定する。
【0061】
照射計画装置41は、照射対象設置位置に照射対象を設置したとき、X線検出器37に投影される画像を計算し、それを照射対象位置情報とする。
【0062】
また、照射計画装置41はそれぞれのスライス(スライス番号i)の深さに応じた照射に適したイオンビームのエネルギーEiを求める。照射計画装置41は、さらに、各スライスの形状に応じてイオンビームを照射する照射スポットの数N,スポット番号j,各スポットの照射位置(Xij,Yij),各スポットの目標照射量DijをMRI装置50が生成する磁場分布を考慮して決定する。
【0063】
照射計画装置41は、決定した各値により照射対象を照射したときの線量分布をMRI装置50の磁場を考慮して求め、求めた線量分布を表示装置43に表示する。
【0064】
こうして作成するデータはガントリー18の回転角度の数だけ作成される。作成された照射パラメータ、ガントリー角度および照射対象位置情報はデータベース42へ送信され、記録される。
【0065】
ここで、粒子線モニタ(線量モニタ33や位置モニタ34)は、上述のように、その仕様上、磁場の影響を受けやすい。
【0066】
粒子線モニタは、平行平板型の電極を備えており、電極の両側に電圧がかかっている。この粒子線モニタの電極中を粒子線が通過することで、平行平板間に存在している気体が電離される。電離された電子とイオンが電場によって移動し、両電極で収集される。
【0067】
線量モニタ33ではひとつの電極で信号を収集し、位置モニタ34では電極が複数に分かれた構造をしている。
【0068】
これらの粒子線モニタが磁場内に設置されると、電離された電子とイオンが磁場の影響を受けて電極への経路が変化する。そのため、経路変更に伴う補正が必要となる、或いは、最悪の場合は電極で電子とイオンが収集できなくなる可能性がある。
【0069】
そこで、本実施例のように、リターンヨーク64を用いることで、MRI装置50の周囲の磁場強度を下げることができ、粒子線モニタを照射対象25の近くに設置することができるようになる。このように照射対象25の近くで計測するほど、照射対象25の照射標的26に達した粒子線の位置と量を精度よく計測することができる。
【0070】
また、同様に、X線発生装置35も、その仕様上、磁場の影響を受けやすい。具体的には、X線発生装置35は内部で電子線を発生し、その電子線をターゲットに衝突させることでX線を発生させている。そのため、磁場中に置かれると電子線の軌道が曲がるため、ターゲットに電子線を衝突させることができない。
【0071】
そこで、本実施例のようなリターンヨーク64を用いることで、X線発生装置35の周囲の磁場強度を低減することができる。また、X線発生装置35を用いた位置決めの後にMRI装置50の磁場を励磁することで、磁場のない状態でX線発生装置35によりX線透視画像を取得することができる。
【0072】
このようなケースにおいて照射標的26に着目した場合、狭い撮像領域においても照射標的26を撮像することができるが、照射標的26の周囲の構造については計測を十分に行うことが難しい場合がある。しかし、X線発生装置35を備えていることで、治療前に照射対象25の体表から照射標的26に至るまでの周囲の構造も確認することができるため、MRI装置50を小型化することができる。
【0073】
また、MRI装置50は、ガントリー18の奥の方向に移動する構成とすることで、必要な場合にのみMRI装置50を使用するような運用が可能となる。
【0074】
MRI装置50を用いる場合は、照射標的近傍の画像が取得できる、との利点を有する。しかし、この反面、磁極63Aの中心部の空洞65Aの大きさにより粒子線の照射野が制限される、との問題が生じる。
【0075】
そのため、MRI装置50が不要な場合には、MRI装置50をガントリー18の回転軸方向の奥側に退避させることで、大きな粒子線の照射野も併せて実現することができる。
【0076】
このような退避動作に一例について図6および図7を用いて説明する。
【0077】
図2に示した照射室の構成では、照射装置21はMRI装置50に一部挿入されている状態で運転される。そこで、まず、図6に示すように、照射装置21をMRI装置50から引き抜く。そののち、MRI装置50をガントリー18の奥に引き込む。
【0078】
MRI装置50をガントリー18の奥に引き込んだあとは、図7に示すように、再び照射装置21の位置を戻す。このような構造,動作により、MRI装置50は、不必要な場合にガントリー18から撤去することで、粒子線の照射野を広げることが可能である。
【0079】
この図6図7に示すようなMRI装置50の退避動作は、MRI装置50の磁極63A,63Bの外側の面に複数の車輪72A,72Bを設けて、車輪72A,72Bをモーター74A,74Bによって駆動させてレール70A,70B上を走らせることによって行うが、これに限定されるものではない。
【0080】
また、照射装置21の退避動作は、照射装置21に複数の車輪72Cを設けて、車輪72Cをモーター74Cによって駆動させてレール70C上を走らせることによって行うが、これに限定されるものではない。
【0081】
また、照射装置21内は、粒子線の広がりを抑えるために、粒子線モニタの直前まで真空となっており、粒子線モニタの下流には真空窓が配置されている。粒子線モニタは照射対象に近いほうが高精度に粒子線を照射することができ、真空領域が患者に近いほど細い粒子線を照射することができる。粒子線が細いほど、照射標的26に集中して粒子線を照射することができる。
【0082】
そこで、MRI装置50の磁極63A,63Bの中心部でできるだけ照射対象の近くまで粒子線モニタと真空を近づけることが好ましい。
【0083】
また、MRI装置50がガントリー18の奥に移動する場合の干渉を避けるため、真空窓と粒子線モニタは、粒子線のビーム軸方向に移動できる構造とすることが好ましい。
【0084】
<照射手順>
照射対象25が患者である場合に、照射計画装置41により作成した照射パラメータ、照射対象設置情報およびガントリー角度を使用して、患部である照射標的26に対して線量分布を形成する手順について、図8を用いて説明する。図8は二つの方向から粒子線を照射する場合の例である。
【0085】
図8において、最初に、治療室17に患者が入室し、一連の治療を開始する(ステップS101)。次いで、患者はガントリー18の外側でカウチ24上に固定され(ステップS102)、その後、カウチ24をガントリー18の内部へ移動させる。
【0086】
次いで、X線発生装置35およびX線検出器37を用いた位置決めを実施する(ステップS103)。位置決めでは、X線発生装置35を用いて、好ましくは直交する2方向のX線透視画像を取得する。2方向から取得するため、例えば、最初に水平方向のX線透視画像を取得し、ガントリー18を90度回転させた後、垂直方向のX線透視画像を取得する。
【0087】
こうして得られたX線透視画像とデータベース42に記録された照射対象設置情報の画像とを比較して、計画した位置に患者が設置されるようにカウチ24を移動させる。
【0088】
なお、撮像領域が大きい場合は、本ステップS103では、X線による位置決めの代わりに、MRI装置50を用いて代替することもできる。この場合、後述するステップS104と本ステップS103との順序を入れ替える。
【0089】
また、X線発生装置35とX線検出器37との相対位置を変えない状態で、同じ速度で回転させながら透視画像を取得することで多数の方向からの透視画像を取得し、その透視画像からコーンビームCT画像を再構成することもできる。コーンビームCT画像と照射対象設置情報の画像を比較して患者の設置位置を決定することでより高精度な位置決めが可能である。
【0090】
次いで、MRI装置50を励磁し(ステップS104)、最初に粒子線を照射する方向に合わせてガントリー18をMRI装置50ごと回転させる(ステップS105)。
【0091】
次いで、粒子線を照射する(ステップS106)。粒子線の照射フローについては後述する。
【0092】
粒子線の照射が完了すると、次いで照射方向を変更し(ステップS107)、再度粒子線を照射する(ステップS108)。
【0093】
粒子線の照射が完了すると、MRI装置50の磁場を消磁し(ステップS109)、カウチ24をガントリー18から引き出す。患者はカウチ24から降りて治療室17から退出して、照射が終了する(ステップS110)。
【0094】
次に、上述のステップS106,ステップS108の粒子線の照射における制御装置7の動作について図9を用いて説明する。
【0095】
前提として、オペレータが制御装置7に接続されたコンソール上の照射準備開始ボタンを押す。
【0096】
制御装置7は、照射準備開始ボタンが押下されたことを認識したときは、データベース42から照射対象設置情報を受信し、指定されたエネルギーの粒子線を出射するための各電磁石の励磁パターンを準備する。また、照射制御として、照射パラメータを設定し、照射位置とエネルギーから求めた励磁電流値を走査電磁石電源に対して出力する。
【0097】
図9において、最初に、エネルギー番号i=1、スポット番号j=1のスポットから照射を開始する(ステップS201)。具体的には、制御装置7は、加速器1を制御して、エネルギー番号i=1のエネルギーE1に粒子線を加速する。また、制御装置7は、MRI装置50から一定周期でMRI画像を取得し、取得した画像から照射標的26の位置(標的座標)を算出する。
【0098】
次いで、制御装置7は、イオン源3a、ライナック3b、シンクロトロン4を制御して粒子線を加速する(ステップS202)。具体的には、イオン源3aで発生させた粒子線をライナック3bに導入し、ライナック3bによりシンクロトロン4に入射させるのに適したエネルギーまで加速し、シンクロトロン4へ入射させる。シンクロトロン4へ入射された粒子線は、シンクロトロン4の周回軌道を周回しながら、加速装置6を通過するたびに高周波が印加されて第一のスライス番号を照射するためのエネルギーE1まで加速される。
【0099】
次いで、制御装置7は、スポットの照射準備を実施する(ステップS203)。具体的には、制御装置7は走査電磁石電源を制御して、i=1,j=1の照射位置に対応するように走査電磁石31,32を励磁する。
【0100】
次に、制御装置7は、MRI画像から求めた照射標的26の3次元位置が、照射計画装置41で照射パラメータを作成したときの位置に一致する、又は近づいたか否かを判定し、近づいたと判定されたときに粒子線の照射を開始する(S204)。一致しない、もしくは近づいていないと判定されたときには、一定時間の経過後に再度本ステップS204を実行する。
【0101】
具体的には、制御装置7は、高周波印加装置5を制御して、シンクロトロン4内を周回する粒子線に対して高周波を印加する。高周波が印加された粒子線は出射用デフレクタ11を通過し、ビーム経路12を通過して治療室17内の照射装置21に達する。粒子線は照射装置21内の走査電磁石31,32により走査され、位置モニタ34および線量モニタ33を通過した後、照射対象25内に到達し照射標的26に線量を付与する。
【0102】
照射標的26に到達した粒子線の量は線量モニタ33で検出される。制御装置7は線量モニタ33からの信号のカウントと照射パラメータに記載されたi=1,j=1の目標照射量を比較し、カウントが目標照射量に達すると出射の停止を開始する。その後、制御装置7は、高周波印加装置5を制御して高周波の印加を停止し、出射を停止する。また、制御装置7は、位置モニタ34が計測した位置と照射パラメータに記載された位置の差が予め設定された閾値以下であることを確認する。
【0103】
その後、制御装置7は、同一スライスのスポットに照射が完了していないスポットがあるか否かを判定する(ステップS205)。本ステップでは、スポット番号jがj<Nの場合は照射が完了していないスポットが存在することから、j+1番目のスポットを照射するために処理をステップS203に戻す。これに対し、同一スライスのスポットを全て照射したと判定された場合、すなわちj=Nの場合は、処理をステップS206に進める。
【0104】
その後、制御装置7は粒子線を減速させ(ステップS206)、ライナック3bから新たな粒子線を入射できる状態にさせて待機させる。
【0105】
次いで、制御装置7は、照射が完了していないレイヤーがあるか否かを判定する(ステップS207)。本ステップでは、照射が完了していないレイヤーが存在する場合、すなわちi<Nであると判定されたときは、i+1番目のレイヤーを照射するため、制御装置7は、処理をステップS202に戻す。これに対し、全てのレイヤーの照射が完了したと判定された場合、すなわちi=Nの場合は、制御装置7は、ステップS208に処理を進め、照射を完了させる(ステップS208)。
【0106】
以上の手順により実施される照射により、照射標的26に集中して粒子線を照射することができる。
【0107】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0108】
上述した本実施例の粒子線治療システム100は、粒子線を生成して出射する加速器1と、粒子線を照射標的26に向けて照射する照射装置21と、照射装置21と共に回転するガントリー18と、ガントリー18と共に回転するMRI装置50と、を備え、MRI装置50は、鉄心60および磁束発生源である複数のコイル61からなる磁気回路を有し、鉄心60は、対向配置された2つの磁極63A,63Bと磁極63A,63B同士を接続するリターンヨーク64で構成され、磁極63A,63Bは空洞65A,65Bを有しており、粒子線を空洞65Aを通過させて照射標的26に照射するする。
【0109】
これにより、磁力線の経路が鉄心60内を通過することから、MRI装置50の外側での磁場強度を低減することができ、線量モニタ33や位置モニタ34を照射対象25の近くに設置することができる。このため、複雑な構造を採用することなく、粒子線照射中にMRI装置50によってリアルタイムで照射標的26の3次元位置が計測できる。また、粒子線モニタにより高精度に粒子線の位置と照射量を計測しつつ、空洞65Aを介して任意の角度から粒子線を高精度に照射することができる。
【0110】
また、本実施例のような構成によりMRI装置50に起因する磁場の領域を必要最小限にすることで、照射計画装置41が磁場を考慮する領域を最小にすることができる。すなわち、MRI装置50に起因する磁場が粒子線の経路に及ぼす影響は、照射計画装置41による線量分布の計算時に考慮される必要がある。磁場の領域が小さければ、照射計画装置41が磁場を考慮する領域を最小限にすることができ、治療計画の計算に要する時間を短縮し、計算用メモリ使用量を削減することができる。
【0111】
更に、MRI画像を用いて粒子線照射中の照射標的26を撮影することができ、照射標的26の位置だけでなく、照射標的26の形状も計測することができる。形状の変化まで計測できることで、高精度に粒子線を照射することができる、との効果が得られる。
【0112】
その上、MRI装置50による画像を用いることで、照射対象25の体形変化など照射毎の照射対象の変化を計測することができる。MRI画像を用いて治療計画の再作成を実施するアダプティブ治療用に、上述のMRI装置50で撮影した画像を用いることもできる。なお、MRI画像は、粒子線照射前に撮像したものであっても、照射中に撮像したものであってもどちらでもよい。
【0113】
また、MRI装置50からの信号に基づき、粒子線の照射のON/OFFを制御する制御装置7を更に備えたため、照射標的26が移動する場合においても、照射標的26に対して高精度に粒子線を照射することができる。
【0114】
更に、MRI装置50からの信号に基づき、粒子線の照射前の位置合わせを行う制御装置7を更に備えたことで、照射標的26を照射位置に高精度に位置決めすることができ、粒子線の照射精度をより向上させることができる。
【0115】
また、粒子線の進行方向とMRI装置50が生成する磁場の向きとが平行であることにより、粒子線を磁場と平行に入射させることができる。このため、ビーム軌道を磁場の影響を受けにくい構成とすることができ、粒子線の照射精度を更に向上させることができる。
【0116】
更に、照射標的26を透視するX線を発生させるX線発生装置35と、X線発生装置35で発生させたX線を検出するX線検出器37を更に備えたことで、MRI装置50をより小型にでき、ガントリー18のサイズを小さくすることができる。なお、MRI装置50を小さくすると、MRI装置50による均一磁場を形成できる領域が小さくなり、撮像領域が小さくなるため、X線発生装置35とX線検出器37とによりカウチ24の位置決めを行うことが望ましい。
【0117】
また、X線発生装置35とX線検出器37とを結ぶ直線は、MRI装置50が生成する磁場の向きと直交することにより、磁場の影響を受けやすいX線発生装置35周囲の磁場強度を低減することができる。これにより、X線発生装置35とX線検出器37とによる照射標的26の位置検出を高精度に実行することができる。
【0118】
また、MRI装置50の励磁タイミングをX線発生装置35の使用後とすることで、磁場のない状態でX線発生装置35によりX線透視画像を取得することができる。
【0119】
更に、MRI装置50は、ガントリー18の回転軸の方向に移動できることで、大きな粒子線の照射野を実現するとともに、粒子線の高精度な照射の両立を一つのシステムで実現することができる。
【0120】
また、MRI装置50は、MRI装置50からの信号を用いないとき、またはガントリー18内で移動するときに、消磁できることにより、必要なタイミングのみでMRI装置50を励磁して、不要なときは消磁することができ、磁場の影響をより低減することができる。
【0121】
更に、対向配置された磁極63A,63Bは、同じ位置に同じ形状の空洞65A,65Bを有していることで、上下の磁極63A,63Bの対称性を高めてコイル61が生成する磁場を高精度化することができる。
【0122】
また、照射装置21はスキャニング照射できることにより、照射標的26に対して高精度に粒子線を照射することができる。
【0123】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【0124】
例えば、上述の実施例の構成では、粒子線の照射方向とMRI装置50が生成する主磁場の方向とが平行(同じ方向を向いている)の場合について説明したが、この二つの方向は厳密に平行である必要はなく、±10°のずれは許容可能である。また、平行である必要は必ずしもなく、直交する体系や直交でも平行でもない体系でも同様に本実施例が可能である。
【0125】
同様に、X線発生装置35およびX線検出器37を結ぶ直線と粒子線の照射方向とが直交している場合について説明したが、この二つの方向は厳密に直交である必要はなく、90°±10°のずれは許容可能である。また、直交である必要も必ずしもなく、平行する体系等でも同様に本実施例が可能である。
【0126】
また、上述の実施例では、鉄心60が備えるリターンヨーク64をガントリー18の奥側に配置した例を用いて説明したが、必ずしもこの配置でなければならないわけではない。
【0127】
例えば、リターンヨーク64がガントリー18の床面や天井面に配置されものとすることができる。これに合わせて、ビーム入射方向やX線発生装置用の空間を各々本発明の趣旨に沿って配置し直すことができる。
【0128】
また、照射方法として走査電磁石31,32を用いるスキャニング方式の場合について説明したが、ワブラー法や二重散乱体法など粒子線の分布を広げた後、コリメータやボーラスを用いて照射標的26の形状に合わせた線量分布を形成する照射法にも本発明を適用することができる。
【0129】
また、照射標的26が狙った位置に来たときのみ粒子線を照射するゲート照射について説明したが、照射標的26の位置に合わせて走査電磁石の励磁量を変更する追尾照射を実施することもできる。また、ゲート照射と追尾照射を組み合わせることも可能である。
【0130】
また、上述の実施例では、スポット毎に粒子線の出射を停止するスポットスキャニングを例に説明したが、粒子線の出射を停止しないラスタースキャニングおよびラインスキャニングにも適用することができる。
【0131】
また、MRI装置50によって照射標的26を直接検出する場合について説明したが、照射標的26の位置の代わりに、照射標的26の近くの代替物や予め埋め込んだマーカーを検出して照射標的26の位置を間接的に検出することもできる。
【0132】
また、加速器はシンクロトロンを例に説明したがサイクロトロンやシンクロサイクロトロンなどの他の種類の加速器を用いることができる。サイクロトロンの場合、出射はサイクロトロンからビーム輸送系へ向けてビームが出ることを表す。
【0133】
また、ビーム輸送系を設けずに、加速器から照射装置へ粒子線を直接輸送することができる。
【符号の説明】
【0134】
1…加速器
7…制御装置
17…治療室
18…ガントリー
18A…モーター
21…照射装置
24…カウチ
25…照射対象
26…照射標的
31,32…走査電磁石
33…線量モニタ
34…位置モニタ
35…X線発生装置
37…X線検出器
40…X線CT装置
41…照射計画装置
42…データベース
50…MRI装置
51…処理部
60…鉄心
61…コイル
62…部材
62a…傾斜磁場コイル
62b…高周波送受信系
63A,63B…磁極
64…リターンヨーク(部材)
65A,65B…空洞
70A,70B,70C…レール
72A,72B,72C…車輪
74A,74B,74C…モーター
100…粒子線治療システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9