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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】垂直磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/66 20060101AFI20220817BHJP
   G11B 5/64 20060101ALI20220817BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
G11B5/66
G11B5/64
G11B5/65
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019003874
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020113353
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】特許業務法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】キム コング
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 知成
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 了輔
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 伸
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-187652(JP,A)
【文献】特開2010-257564(JP,A)
【文献】特開2009-110641(JP,A)
【文献】特開2008-146816(JP,A)
【文献】再公表特許第15/087510(JP,A1)
【文献】特開2011-034665(JP,A)
【文献】米国特許第8110298(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録層および前記垂直磁気記録層を覆うキャップ層を備える垂直磁気記録媒体であって、
前記垂直磁気記録層は、CoPt合金磁性結晶粒と非磁性粒界酸化物とからなるグラニュラ構造を有し、
前記キャップ層は、CoPt合金磁性結晶粒と磁性粒界酸化物とからなるグラニュラ構造を有し、
前記キャップ層の前記CoPt合金磁性結晶粒は、Coを65at%以上90at%以下、Ptを10at%以上35at%以下含有し、
前記磁性粒界酸化物の前記キャップ層全体に対する体積分率は5vol%以上40vol%以下であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
垂直磁気記録層および前記垂直磁気記録層を覆うキャップ層を備える垂直磁気記録媒体であって、
前記垂直磁気記録層は、CoPt合金磁性結晶粒と非磁性粒界酸化物とからなるグラニュラ構造を有し、
前記キャップ層は、CoPt合金磁性結晶粒と磁性粒界酸化物とからなるグラニュラ構造を有し、
前記キャップ層の前記CoPt合金磁性結晶粒は、Coを70at%以上85at%未満、Ptを10at%以上20at%以下、Cr、Ti、B、Mo、Ta、Nb、W、Ruのうちの1種以上の元素を0.5at%以上15at%以下含有し、
前記磁性粒界酸化物の前記キャップ層全体に対する体積分率は5vol%以上40vol%以下であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性粒界酸化物は、希土類酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性粒界酸化物は、Gd、Nd、Sm、Ce、Eu、La、Pr、Ho、Er、Yb、Tbの酸化物のうちの1種以上の酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体に関し、詳細には、垂直磁気記録層および垂直磁気記録層を覆うキャップ層を備える垂直磁気記録媒体に関する。なお、本願において、キャップ層とは、垂直磁気記録媒体において垂直磁気記録層を覆う層であって、垂直磁気記録層の磁性結晶粒の間の粒間交換結合の程度を調整する層のことである。
【背景技術】
【0002】
現行の垂直磁気記録媒体の垂直磁気記録層はグラニュラ層であり、隣接する磁性結晶粒から各磁性結晶粒を磁気的に分離するために、非磁性粒界酸化物が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この現行の垂直磁気記録媒体において、更なる高記録密度化が試みられているが、トリレンマの課題に直面している。トリレンマの課題とは、信号対雑音比(SNR)、熱安定性、および磁気記録の容易さの3つの特性を全て向上させることである。これらの3つの特性を全て向上させて、トリレンマの課題を打破するためには、グラニュラ層である垂直磁気記録層の磁性結晶粒間の粒間交換結合を適切に調整して、垂直磁気記録層の熱安定性を向上させるとともに、スイッチング磁界(磁性結晶粒の磁化反転に必要な磁界)を低減させることが必須である。
【0004】
このため、現行の垂直磁気記録媒体においては、グラニュラ層である垂直磁気記録層の上にキャップ層が設けられているが、現行のキャップ層は、例えばCoPtCrB等のCoPt合金である(例えば、特許文献2、3参照)。
【0005】
しかしながら、前述したトリレンマの課題を打破するべく、現行のキャップ層よりも特性の優れたキャップ層を開発して、垂直磁気記録媒体の熱安定性を向上させるとともに、スイッチング磁界を低減させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-306228号公報
【文献】特開2009-59402号公報
【文献】特開2011-34665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、現行のキャップ層よりも特性(垂直磁気記録媒体の熱安定性を向上させるとともに、スイッチング磁界を低減させる特性)の優れたキャップ層を備えさせて、熱安定性の向上およびスイッチング磁界の低減がなされた垂直磁気記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、現行の垂直磁気記録媒体のキャップ層を透過電子顕微鏡(以下、TEMと記す。)で観察し、現行のキャップ層においては、垂直磁気記録層との境界面に凹凸が生じていて、垂直磁気記録層の非磁性粒界酸化物の上方にボイドが形成されており、現行のキャップ層は膜厚が不均一になっていることを発見した。現行のキャップ層は、金属合金層(例えばCoPtCrB等のCoPt合金)で構成されているため、磁気記録層(グラニュラ層)の非磁性粒界酸化物とは濡れにくいことが原因であると考え、本発明者は、垂直磁気記録層と同様のグラニュラ構造となる材料でキャップ層の研究開発を進め、前記課題を解決する本発明をするに至った。
【0009】
即ち、本発明に係る垂直磁気記録媒体の第1の態様は、垂直磁気記録層および前記垂直磁気記録層を覆うキャップ層を備える垂直磁気記録媒体であって、前記垂直磁気記録層は、CoPt合金磁性結晶粒と非磁性粒界酸化物とからなるグラニュラ構造を有し、前記キャップ層は、CoPt合金磁性結晶粒と磁性粒界酸化物とからなるグラニュラ構造を有し、前記キャップ層の前記CoPt合金磁性結晶粒は、Coを65at%以上90at%以下、Ptを10at%以上35at%以下含有し、前記磁性粒界酸化物の前記キャップ層全体に対する体積分率は5vol%以上40vol%以下であることを特徴とする垂直磁気記録媒体である。
【0010】
本発明に係る垂直磁気記録媒体の第2の態様は、垂直磁気記録層および前記垂直磁気記録層を覆うキャップ層を備える垂直磁気記録媒体であって、前記垂直磁気記録層は、CoPt合金磁性結晶粒と非磁性粒界酸化物とからなるグラニュラ構造を有し、前記キャップ層は、CoPt合金磁性結晶粒と磁性粒界酸化物とからなるグラニュラ構造を有し、前記キャップ層の前記CoPt合金磁性結晶粒は、Coを70at%以上85at%未満、Ptを10at%以上20at%以下、Cr、Ti、B、Mo、Ta、Nb、W、Ruのうちの1種以上の元素を0.5at%以上15at%以下含有し、前記磁性粒界酸化物の前記キャップ層全体に対する体積分率は5vol%以上40vol%以下であることを特徴とする垂直磁気記録媒体である。
【0011】
前記磁性粒界酸化物として、希土類酸化物を用いてもよい。
【0012】
前記磁性粒界酸化物は、例えば、Gd、Nd、Sm、Ce、Eu、La、Pr、Ho、Er、Yb、Tbの酸化物のうちの1種以上の酸化物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、現行のキャップ層よりも特性(垂直磁気記録媒体の熱安定性を向上させるとともに、スイッチング磁界を低減させる特性)の優れたキャップ層を備えさせて、熱安定性の向上およびスイッチング磁界の低減がなされた垂直磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る垂直磁気記録媒体10を説明するための断面模式図である。
図2】本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図である。
図3】本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10(キャップ層26を最適化した後の状態)の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図である。
図4】現行の垂直磁気記録媒体100の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図である。
図5】実施例17の厚さ9nmのキャップ層(Co80Pt20-30vol%Gd23)(アルゴンガス圧0.6Paで成膜)を含む領域の断面TEM写真である。
図6】実施例8の厚さ9nmのキャップ層(Co80Pt20-30vol%Gd23)(アルゴンガス圧4.0Paで成膜)を含む領域の断面TEM写真である。
図7】現行の垂直磁気記録媒体(比較例20)において、キャップ層(CoPtCrB)を含む領域の断面TEM写真である。
図8図5に示す実施例17の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で撮影した暗視野像である。
図9図5に示す実施例17の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で行ったエネルギー分散型X線分析(EDX)の測定結果を示す写真であり、(a)はGdの分布結果を示し、(b)はO(酸素)の分布結果を示し、(c)はCoの分布結果を示し、(d)はPtの分布結果を示す。
図10図6に示す実施例8の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で撮影した暗視野像である。
図11図6に示す実施例8の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で行ったエネルギー分散型X線分析(EDX)の測定結果を示す写真であり、(a)はGdの分布結果を示し、(b)はO(酸素)の分布結果を示し、(c)はCoの分布結果を示し、(d)はPtの分布結果を示す。
図12図7に示す現行の垂直磁気記録媒体(比較例20)の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で撮影した暗視野像である。
図13図7に示す現行の垂直磁気記録媒体(比較例20)の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で行ったエネルギー分散型X線分析(EDX)の測定結果を示す写真であり、(a)はCrについての分布結果を示し、(b)はO(酸素)についての分布結果を示し、(c)はCoについての分布結果を示し、(d)はPtについての分布結果を示す。
図14】実施例143のキャップ層(Co80Pt20-30vol%Gd23)を含む領域の平面TEM写真である。
図15】実施例144のキャップ層(Co80Pt20-30vol%Nd23)を含む領域の平面TEM写真である。
図16】実施例145のキャップ層(Co80Pt20-30vol%Sm23)を含む領域の平面TEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る垂直磁気記録媒体10を説明するための断面模式図である。また、図2は、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図であり、図3は、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10(キャップ層26を最適化した後の状態)の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図である。
【0017】
(1)垂直磁気記録媒体10の構成
本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10は、基板12上に、付着層14、シード層16、第1のRu下地層18、第2のRu下地層20、バッファ層22、垂直磁気記録層24、キャップ層26、および表面保護層28を順次形成して成る構成を有する。
【0018】
基板12としては、各種公知の垂直磁気記録媒体用に用いられる基板を用いることができ、例えば、ガラス基板を用いることができる。
【0019】
付着層14は、金属膜であるシード層16と基板12との密着性を高めるための層である。付着層14としては、例えばTa層等を用いることができる。
【0020】
シード層16は、第1のRu下地層18の結晶配向性および結晶成長性を制御するための層であり、例えばNi9010層等を用いることができる。
【0021】
第1のRu下地層18は、垂直磁気記録層24の結晶配向性、結晶粒径、及び粒界偏析を好適に制御するための層である。第1のRu下地層18は、六法最密充填(hcp)構造である。第1のRu下地層18の厚さは、例えば10nm程度である。
【0022】
第2のRu下地層20は、2層構成のRu下地層(第1のRu下地層18および第2のRu下地層20)の表面(即ち、第2のRu下地層20の表面)に凹凸形状を設けて、バッファ層22が望ましい層構成になるようにするための層である。第2のRu下地層20の厚さは例えば10nm程度である。第2のRu下地層20の上に設けるバッファ層22としてRu50Co25Cr25-30vol%TiO2層を設ける場合、第2のRu下地層20の凸部にはRu50Co25Cr25が形成され、第2のRu下地層20の凹部にはTiO2が形成される。
【0023】
バッファ層22は、垂直磁気記録層24のグラニュラ構造における柱状のCoPt合金磁性結晶粒同士の分離性を向上させるための層である。バッファ層22としては、例えばRu50Co25Cr25-30vol%TiO2層等を用いることができる。
【0024】
垂直磁気記録層24は、磁気記録を行うための層であり、その層構造はグラニュラ構造である。垂直磁気記録層24としては、例えばCo80Pt20-30vol%B23層等を用いることができ、この場合、柱状のCoPt合金磁性結晶粒24Aが非磁性粒界酸化物24B(B23)によって仕切られた構造になっている(図2および図3参照)。垂直磁気記録層24の厚さは、例えば16nm程度である。
【0025】
キャップ層26は、垂直磁気記録層24を覆う層で、垂直磁気記録層24のCoPt合金磁性結晶粒24A間の粒間交換結合を適切に調整して、垂直磁気記録層24の熱安定性を向上させるとともに、スイッチング磁界(磁性結晶粒の磁化反転に必要な磁界)を低減させるための層であり、CoPt合金磁性結晶粒26Aと磁性粒界酸化物26Bとからなるグラニュラ構造を有する(図2および図3参照)。キャップ層26としては、例えばCo80Pt20-30vol%磁性酸化物(Gd23、Nd23、Sm23、CeO2等)を用いることができ、この場合、柱状のCoPt合金磁性結晶粒26Aが磁性粒界酸化物26B(Gd23、Nd23、Sm23、CeO2等)によって仕切られたグラニュラ構造になっている。キャップ層26の厚さは、垂直磁気記録層24のCoPt合金磁性結晶粒24A間の粒間交換結合に求められる大きさおよびキャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26A間の粒間交換結合26Cの大きさに応じて適宜に定めることができ、例えば1nm以上9nm以下である。
【0026】
表面保護層28は、垂直磁気記録媒体10の表面を保護するための層であり、表面保護層28としては、例えば、カーボンを主体とする保護膜を用いることができ、その厚さは例えば7nmである。
【0027】
(2)キャップ層26の組成についてのさらに詳細な説明
キャップ層26は、前述したように、CoPt合金磁性結晶粒26Aと磁性粒界酸化物26Bとからなるグラニュラ構造を有するが、キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26Aは、Coを65at%以上90at%以下、Ptを10at%以上35at%以下含有する。垂直磁気記録媒体10の保磁力Hcをより大きくする観点から、キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26Aは、Coを70at%以上75at%以下、Ptを25at%以上30at%以下含有することが好ましい。
【0028】
また、キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26Aは、Coを70at%以上85at%未満、Ptを10at%以上20at%以下、Cr、Ti、B、Mo、Ta、Nb、W、Ruのうちの1種以上の元素を0.5at%以上15at%以下含有するようにしてもよい。
【0029】
また、垂直磁気記録媒体10の保磁力Hcをより大きくする観点およびキャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26Aの粒間交換結合26Cを大きくして、垂直磁気記録媒体10の飽和磁界Hsを小さくする観点から、磁性粒界酸化物26Bのキャップ層26全体に対する体積分率は5vol%以上40vol%以下であることが好ましく、10vol%以上35vol%以下であることがより好ましく、15vol%以上30vol%以下であることが特に好ましい。垂直磁気記録媒体10に求められる特性に応じて、磁性粒界酸化物26Bのキャップ層26全体に対する体積分率を適宜に定めればよい。
【0030】
キャップ層26の磁性粒界酸化物26Bは、磁性を大きくする観点から、希土類酸化物であることが好ましく、具体的には、Gd、Nd、Sm、Ce、Eu、La、Pr、Ho、Er、Yb、Tbの酸化物のうちの1種以上の酸化物とすることが好ましい。
【0031】
なお、キャップ層26の磁性粒界酸化物26Bは希土類酸化物でなくてもよく、具体的には例えば、次のような磁性酸化物、即ち、Fe23、Fe34、CoFe24、MnTi0.44Fe1.564、Mn0.4Co0.3Fe24、Co1.1Fe2.24、Co0.7Zn0.3Fe24、Ni0.35Fe1.34、NiFe24、Li0.3Fe2.54、Fe2.69Ti0.314、Mn0.98Fe2.024、Mn0.8Zn0.2Fe24、Y2Fe512、Y3Al0.83Fe4.1712、3Ga0.4Fe4.612、Bi0.2Ca2.81.4Fe3.612、Y1.4Ca1.260.63Fe4.3712、Y2Gd1Fe512、Y1.2Gd1.8Fe512、Y2.64Gd0.36Al0.56Fe4.4412、Y2.36Gd0.64Al0.43Fe4.5712、BaFe1219、BaFe1827、BaZnFe1727、BaZn1.5Fe17.527、BaMnFe1627、BaNi2Fe1627、BaNi0.5ZnFe16.527、Ba4Zn2Fe3669、GdFeO3、SrFe1219、Sn0.985Mn0.0152、In1.75Sn0.2Mn0.05等を用いることもできる。
【0032】
(3)キャップ層26の作用効果について
前述したように、図2は、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図であり、図3は、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10(キャップ層26を最適化した後の状態)の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図である。また、図4は、現行の垂直磁気記録媒体100の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図である。なお、図2および図3において、キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cは、バネ状の線で模式的に表現し、同様に図4において、キャップ層102のCoPt合金磁性結晶粒102A同士の粒間交換結合102Bは、バネ状の線で模式的に表現している。
【0033】
図2図4を参照しつつ、キャップ層26の作用効果について詳細な説明をするが、説明の便宜上、ここでは、垂直磁気記録層24としてCo80Pt20-30vol%B23層を用い、キャップ層26としてCo80Pt20-30vol%Gd23層を用いるものとして説明を行う。また、バッファ層22としてRu50Co25Cr25-30vol%TiO2層を用いるものとする。また、現行の垂直磁気記録媒体100のキャップ層102としてCoPtCrB合金を用いるものとする。
【0034】
キャップ層26は、垂直磁気記録層24のCoPt合金磁性結晶粒24A間の粒間交換結合を適切に調整して、垂直磁気記録層24の熱安定性を向上させるとともに、スイッチング磁界(磁性結晶粒の磁化反転に必要な磁界)を低減させるための層である。垂直磁気記録層24自体は、グラニュラ構造であり、CoPt合金磁性結晶粒24Aが非磁性粒界酸化物24B(B23)によって仕切られた構造になっているため、垂直磁気記録層24自体では、CoPt合金磁性結晶粒24A同士の粒間交換結合は小さくなっており、このため、熱安定性が不十分であり、また、スイッチング磁界の低減も不十分な状態になっている。
【0035】
キャップ層26は、垂直磁気記録層24自体では不足しているCoPt合金磁性結晶粒24A同士の粒間交換結合を補う役割を有しており、このため、キャップ層26においては、CoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cをある程度大きくすることが必要である。
【0036】
そのため、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10のキャップ層26においては、酸化物として磁性酸化物(磁性が大きい点で希土類酸化物が好ましい。)を用いて磁性粒界酸化物26Bを形成しており、キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cをある程度大きくするようにしており、その結果、垂直磁気記録層24のCoPt合金磁性結晶粒24A同士の粒間交換結合も適切に補うことができるようになっている。
【0037】
キャップ層26におけるCoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cは、キャップ層26の厚さによって制御する。キャップ層26の厚さが厚くなれば、キャップ層26におけるCoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cは大きくなる。キャップ層26の厚さは、必要な粒間交換結合26Cの大きさに応じて定めればよいが、保磁力Hcを低下させない観点から、キャップ層26の厚さは1nm以上7nm以下であることが好ましい。
【0038】
ここで、図4は、現行の垂直磁気記録媒体100の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図であるが、図4に示すように、空隙104が垂直磁気記録層24の非磁性粒界酸化物24B(B23)の上に生じている。現行の垂直磁気記録媒体100のキャップ層102はCoPtCrB合金であり、酸化物を含まないため、垂直磁気記録層24の非磁性粒界酸化物24B(B23)と濡れにくく、そのため、空隙104が垂直磁気記録層24の非磁性粒界酸化物24B(B23)の上に生じると考えられる。また、現行の垂直磁気記録媒体において空隙104が観察されない場合でも、後に図7として示す断面TEM写真(比較例20)、図12として示す暗視野像(比較例20)、および図13として示すエネルギー分散型X線分析(EDX)の測定結果(比較例20)から読み取れるように、現行の垂直磁気記録媒体においては垂直磁気記録層(CoPt-B23層)とキャップ層(CoPtCrB層)との境界面は波打っており、凹凸が大きくなっている。
【0039】
したがって、現行の垂直磁気記録媒体100のキャップ層102は、その厚さ方向における不均一性が大きい(厚さ方向と直交する平面で、厚さ方向に異なる位置で切断したときの断面の不均一性が大きい)ため、キャップ層102の厚さを変えても、その厚さに正確に比例してキャップ層102のCoPt合金磁性結晶粒102A同士の粒間交換結合102Bの大きさが変わるわけではなく、キャップ層102の厚さを制御しても、キャップ層102のCoPt合金磁性結晶粒102A同士の粒間交換結合102Bの大きさを正確に制御することは困難である。
【0040】
一方、図2に示すように、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10のキャップ層26は、Co80Pt20-30vol%Gd23層であり、磁性酸化物Gd23を有しており、垂直磁気記録層24の非磁性粒界酸化物24B(B23)の上にはそれと濡れやすい磁性粒界酸化物26B(Gd23)が形成されるため、空隙は生じない。このため、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10のキャップ層26はその厚さ方向における均一性が高い(厚さ方向と直交する平面で、厚さ方向に異なる位置で切断したときの断面はいずれもほぼ同一である)ため、キャップ層26の厚さを変えた場合、その厚さに比例してキャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cの大きさが変わる。このため、キャップ層26の厚さを制御することにより、キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cの大きさを正確に制御することが可能である。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10のキャップ層26はCoPt合金磁性結晶粒26Aおよび磁性粒界酸化物26Bを有するグラニュラ構造であるが、その磁性粒界酸化物26B(Gd23)は磁性を備えており、キャップ層26におけるCoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cが大きくなっている。
【0042】
また、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10のキャップ層26は、その厚さ方向における均一性が高い(厚さ方向と直交する平面で、厚さ方向に異なる位置で切断したときの断面はいずれもほぼ同一である)ため、キャップ層26の厚さを制御することにより、キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cの大きさを正確に制御することが可能である。
【0043】
このため、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10においては、キャップ層26の厚さを制御することにより、正確にキャップ層26におけるCoPt合金磁性結晶粒26A同士の粒間交換結合26Cの大きさを制御することができ、その結果、垂直磁気記録層24のCoPt合金磁性結晶粒24A同士の粒間交換結合の大きさを正確に制御することができる。
【0044】
図3は、前述したように、本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10(キャップ層26を最適化した後の状態)の垂直断面の一部を模式的に示す垂直断面図である。
【0045】
本実施形態に係る垂直磁気記録媒体10においてキャップ層26を最適化した状態においては、厚さ方向と直交する方向の断面における磁性粒界酸化物26B(Gd23)の厚さが最小化されており、また、キャップ層26の表面の凹凸も最小化されている。
【0046】
キャップ層26の磁性粒界酸化物26B(Gd23)の厚さ(キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26A同士の間の距離)を最小化することにより、キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26A同士の間の粒間交換結合26Cの強さを強くすることができ、キャップ層26を薄くしても、キャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26A同士の間の粒間交換結合26Cの強さを一定の程度まで制御することができる。また、キャップ層26の表面の凹凸を最小化することにより、より正確にキャップ層26におけるCoPt合金磁性結晶粒26A同士の間の粒間交換結合26Cの大きさを、キャップ層26の厚さを制御することにより制御することができ、その結果、垂直磁気記録層24のCoPt合金磁性結晶粒24A同士の粒間交換結合の大きさをより正確に制御することができる。
【0047】
(4)キャップ層26の作製に用いるスパッタリングターゲット
(4-1)スパッタリングターゲットの組成
キャップ層26の作製に用いるスパッタリングターゲットは、キャップ層26と同様の組成を有し、金属および磁性酸化物を含有しており、具体的には例えば、前記金属の全体に対して、Coを65at%以上90at%以下、Ptを10at%以上35at%以下含有し、前記スパッタリングターゲットの全体に対して、前記磁性酸化物を5vol%以上40vol%以下含有する。また、具体的には例えば、金属の全体に対して、Coを70at%以上85at%未満、Ptを10at%以上20at%以下、Cr、Ti、B、Mo、Ta、Nb、W、Ruのうちの1種以上の元素を0.5at%以上15at%以下含有し、前記スパッタリングターゲットの全体に対して、前記磁性酸化物を5vol%以上40vol%以下含有する。
【0048】
(4-2)スパッタリングターゲットの製造方法
次に、キャップ層26の作製に用いるスパッタリングターゲットの製造方法について説明するが、ここでは、組成がCo80Pt20-30vol%Gd23であるスパッタリングターゲットを取り上げて説明する。ただし、キャップ層26の作製に用いるスパッタリングターゲットの製造方法が以下の具体例に限定されるわけではない。
【0049】
まず、金属Coおよび金属Ptの合計に対する金属Coの原子数比が80at%、金属Ptの原子数比が20at%となるように、金属Coおよび金属Ptを秤量してCoPt合金溶湯を作製する。そして、ガスアトマイズを行い、CoPt合金アトマイズ粉末を作製する。作製したCoPt合金アトマイズ粉末は分級して、粒径が所定の粒径以下(例えば106μm以下)となるようにする。
【0050】
作製したCoPt合金アトマイズ粉末に30vol%となるようにGd23粉末を加えてボールミルで混合分散して、加圧焼結用混合粉末を作製する。CoPt合金アトマイズ粉末およびGd23粉末をボールミルで混合分散することにより、CoPt合金アトマイズ粉末およびGd23粉末が微細に分散し合った加圧焼結用混合粉末を作製することができる。
【0051】
前述したように、垂直磁気記録媒体10の保磁力Hcをより大きくする観点およびキャップ層26のCoPt合金磁性結晶粒26Aの粒間交換結合26Cを大きくして、垂直磁気記録媒体10の飽和磁界Hsを小さくする観点から、磁性粒界酸化物26Bのキャップ層26全体に対する体積分率は5vol%以上40vol%以下であることが好ましいので、Gd23粉末の加圧焼結用混合粉末の全体に対する体積分率を、5vol%以上40vol%以下となるようにすることが好ましい。
【0052】
作製した加圧焼結用混合粉末を、例えば真空ホットプレス法により加圧焼結して成形し、スパッタリングターゲットを作製する。作製した加圧焼結用混合粉末はボールミルで混合分散されており、CoPt合金アトマイズ粉末とGd23粉末とが微細に分散し合っているので、本製造方法により得られたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行っているとき、ノジュールやパーティクルの発生等の不具合は発生しにくい。
【0053】
なお、加圧焼結用混合粉末を加圧焼結する方法は特には限定されず、真空ホットプレス法以外の方法でもよく、例えばHIP法等を用いてもよい。
【0054】
また、以上説明した製造方法の例では、アトマイズ法を用いてCoPt合金アトマイズ粉末を作製し、作製したCoPt合金アトマイズ粉末にGd23粉末を加えてボールミルで混合分散して、加圧焼結用混合粉末を作製しているが、CoPt合金アトマイズ粉末を用いることに替えて、Co単体粉末およびPt単体粉末を用いてもよい。この場合には、Co単体粉末、Pt単体粉末およびGd23粉末をボールミルで混合分散して加圧焼結用混合粉末を作製する。
【実施例
【0055】
以下、実施例および比較例ならびに本発明に関連して取得した実験データについて記載する。
【0056】
(実施例1~142、比較例1~20)
図1と同様の層構成(基板12上に、付着層14、シード層16、第1のRu下地層18、第2のRu下地層20、バッファ層22、垂直磁気記録層24、キャップ層26、および表面保護層28を順次形成する層構成)で、実施例1~142、比較例2~20の垂直磁気記録媒体を作製した。具体的には、次のようにした。
【0057】
基板12としては、ガラス基板を用いた。
【0058】
付着層14としては、アルゴンガス圧0.6Pa、投入電力500Wの条件でTa層を5nm成膜した。
【0059】
シード層16としては、アルゴンガス圧0.6Pa、投入電力500Wの条件でNi9010層を6nm成膜した。
【0060】
第1のRu下地層18としては、アルゴンガス圧0.6Pa、投入電力500Wの条件でRu層を10nm成膜した。
【0061】
第2のRu下地層20としては、アルゴンガス圧8.0Pa、投入電力500Wの条件でRu層を10nm成膜した。
【0062】
バッファ層22としては、アルゴンガス圧0.6Pa、投入電力300Wの条件でRu50Co25Cr25-30vol%TiO2層を2nm成膜した。
【0063】
垂直磁気記録層24としては、アルゴンガス圧4.0Pa、投入電力500Wの条件で、Co80Pt20-30vol%B23層を16nm成膜した。
【0064】
キャップ層26としては、前記「(4)キャップ層26の作製に用いるスパッタリングターゲット」に記載したようにして製造したスパッタリングターゲットを用いて、アルゴンガス圧0.6Paまたは4.0Pa、投入電力500Wの条件で、CoPt合金-磁性粒界酸化物を、表1~4に示すような組成および厚さで成膜した。
【0065】
表面保護層28としては、アルゴンガス圧0.6Pa、投入電力300Wの条件で、カーボンを7nm成膜した。
【0066】
また、比較例1として、上記の構成において、キャップ層26を削除した構成の垂直磁気記録媒体を作製した。
【0067】
実施例1~142、比較例2~20において変更した条件は、キャップ層の組成、キャップ層の厚さ、およびキャップ層作製時のアルゴンガス圧である。比較例20は、キャップ層に現行の垂直磁気記録媒体のキャップ層(CoPtCrB)を用いた比較例である。
【0068】
作製した実施例1~142および比較例1~20の垂直磁気記録媒体について、その磁気特性を、超伝導量子干渉素子を使用した試料振動型磁力計(Squid-VSM)(製造会社:QUANTUM DESIGN、品番名、MPMS3)、高感度磁気異方性トルク計(トルク磁力計)(製造会社:玉川製作所、品番名:TM-TR2050-HGC)、磁気光学カー効果測定装置(Magneto Optical Kerr Effect(MOKE))を用いて測定した。また、作製した実施例1~142および比較例1~20の垂直磁気記録媒体のキャップ層の微細組織を、平面TEM-EDXおよび断面TEM-EDXを用いて観察した。
【0069】
以下の表1~4に、実施例1~142および比較例1~20の垂直磁気記録媒体について測定した保磁力Hcおよび飽和磁界Hsを示す。保磁力Hcおよび飽和磁界Hsは試料振動型磁力計(Squid-VSM)を用いて測定したヒステリシスループから求めた。
【0070】
また、表1~4において、厚さはキャップ層の厚さを示し、Arガス圧はキャップ層作製時のアルゴンガス圧を示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
表1~4から明らかなように、本発明の範囲内に含まれる実施例1~142は、保磁力Hcがいずれも5kOe以上であり、かつ、飽和磁界Hsは20kOe未満である。一方、本発明の範囲内に含まれない比較例1~20は、保磁力Hcが5kOe未満であるか、または、飽和磁界Hsは20kOe以上である。
【0076】
保磁力Hcがいずれも5kOe未満では熱安定性が不十分であり、飽和磁界Hsが20kOe以上では、スイッチング磁界が大きすぎ、磁気記録の容易さが不十分である。
【0077】
(実施例143~159、比較例21)
実施例143~159、比較例21においてはキャップ層の組成を変えてサンプルの作製を行い、キャップ層の活性化粒径GDactを測定して、キャップ層の熱安定性の評価を行った。実施例143~159、比較例21のサンプルにおいては、垂直磁気記録層24は設けておらず、バッファ層22の上に厚さ16nmのキャップ層26を設けた。それ以外の点は、実施例1~142と同様にしてサンプルの作製を行った。なお、バッファ層22の上に厚さ16nmのキャップ層26を設ける際の成膜条件は、アルゴンガス圧4.0Pa、投入電力500Wとした。
【0078】
実施例143~159、比較例21の各サンプルについて、磁気光学カー効果測定装置(Magneto Optical Kerr Effect(MOKE))を用いて、活性化粒径GDactを測定した。
【0079】
次の表5に、測定した活性化粒径GDactを示す。比較例21で用いたB23は比較例2~14で用いた酸化物であり、実施例143、153~159で用いたGd23は実施例1~17、122~142、比較例15~19で用いた酸化物であり、実施例144で用いたNd23は実施例18~34で用いた酸化物であり、実施例145で用いたSm23は実施例35~51で用いた酸化物であり、実施例146で用いたCeO2は実施例52~67で用いた酸化物であり、実施例147で用いたEu23は実施例68~76で用いた酸化物であり、実施例148で用いたLa23は実施例77~85で用いた酸化物であり、実施例149で用いたPr611は実施例86~94で用いた酸化物であり、実施例150で用いたHo23は実施例95~103で用いた酸化物であり、実施例151で用いたEr23は実施例104~112で用いた酸化物であり、実施例152で用いたYb23は実施例113~121で用いた酸化物である。
【0080】
なお、実施例143、153~159は、Gd23の体積分率を5~40vol%の範囲で変更した実施例である。
【0081】
【表5】
【0082】
表5に記載の酸化物のうち、非磁性酸化物は比較例21のB23のみであり、実施例143~159の酸化物(Gd23、Nd23、Sm23、CeO2、Eu23、La23、Pr611、Ho23、Er23、Yb23)は磁性酸化物である。
【0083】
表5から明らかなように、キャップ層中の酸化物の体積分率が30vol%の場合、非磁性酸化物であるB23を用いたキャップ層の活性化粒径GDactは6.5nmであるのに対し、磁性酸化物(Gd23、Nd23、Sm23、CeO2、Eu23、La23、Pr611、Ho23、Er23、Yb23)を用いたキャップ層の活性化粒径GDactは8.5~10.5nmであり、非磁性酸化物であるB23を用いたキャップ層の活性化粒径GDactと比べて30%以上大きくなっており、磁性酸化物(Gd23、Nd23、Sm23、CeO2、Eu23、La23、Pr611、Ho23、Er23、Yb23)を用いたキャップ層は熱安定性に優れていると考えられる。
【0084】
また、実施例143、153~159から明らかなように、キャップ層中のGd23の体積分率を5~40vol%の範囲で変更した場合、Gd23の体積分率が小さいほど活性化粒径GDactの値は大きくなっており、熱安定性に優れると考えられる。
【0085】
(断面TEM写真)
図5は、実施例17の厚さ9nmのキャップ層(Co80Pt20-30vol%Gd23)(アルゴンガス圧0.6Paで成膜)を含む領域の断面TEM写真であり、図6は、実施例8の厚さ9nmのキャップ層(Co80Pt20-30vol%Gd23)(アルゴンガス圧4.0Paで成膜)を含む領域の断面TEM写真であり、図7は、現行の垂直磁気記録媒体(比較例20)において、キャップ層(CoPtCrB)を含む領域の断面TEM写真である。
【0086】
また、図8は、図5に示す実施例17の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で撮影した暗視野像であり、図9は、図5に示す実施例17の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で行ったエネルギー分散型X線分析(EDX)の測定結果を示す写真である。図10は、図6に示す実施例8の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で撮影した暗視野像であり、図11は、図6に示す実施例8の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で行ったエネルギー分散型X線分析(EDX)の測定結果を示す写真である。図12は、図7に示す現行の垂直磁気記録媒体(比較例20)の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で撮影した暗視野像であり、図13は、図7に示す現行の垂直磁気記録媒体(比較例20)の断面領域の一部について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で行ったエネルギー分散型X線分析(EDX)の測定結果を示す写真である。
【0087】
図5図6図8図11から読み取れるように、アルゴンガス圧0.6Paで厚さ9nmにキャップ層を成膜した実施例17およびアルゴンガス圧4.0Paで厚さ9nmにキャップ層を成膜した実施例8のどちらにおいても、垂直磁気記録層24の非磁性粒界酸化物24B(B23)の上に空隙は生じておらず、また、垂直磁気記録層(CoPt-B23層)とキャップ層(Co80Pt20-30vol%Gd23)との境界は平坦になっている。
【0088】
一方、図7図12図13から読み取れるように、現行の垂直磁気記録媒体(比較例20)においては、垂直磁気記録層(CoPt-B23層)とキャップ層(CoPtCrB層)との境界面は波打っており、凹凸が大きくなっている。
【0089】
なお、垂直磁気記録層(CoPt-B23層)のCoPt合金磁性結晶粒の形状については、図9図11および図13に示すCoとPtの分布状態から推測することができる。
【0090】
また、図5図6から明らかなように、アルゴンガス圧0.6Paで厚さ9nmに成膜した実施例17のキャップ層(Co80Pt20-30vol%Gd23)の表面の方が、アルゴンガス圧4.0Paで厚さ9nmに成膜した実施例8のキャップ層(Co80Pt20-30vol%Gd23)の表面よりも平坦になっており、アルゴンガス圧0.6Paで成膜した実施例17のキャップ層の方が良好であることがわかる。
【0091】
(平面TEM写真)
図14は、実施例143のキャップ層(Co80Pt20-30vol%Gd23)を含む領域の平面TEM写真であり、図15は、実施例144のキャップ層(Co80Pt20-30vol%Nd23)を含む領域の平面TEM写真であり、図16は、実施例145のキャップ層(Co80Pt20-30vol%Sm23)を含む領域の平面TEM写真である。
【0092】
図14~16に示すように、実施例143~145のキャップ層がグラニュラ構造であることを確認した。
【符号の説明】
【0093】
10…垂直磁気記録媒体
12…基板
14…付着層
16…シード層
18…第1のRu下地層
20…第2のRu下地層
22…バッファ層
24…垂直磁気記録層
24A、26A…CoPt合金磁性結晶粒
24B…非磁性粒界酸化物
26…キャップ層
26B…磁性粒界酸化物
26C…粒間交換結合
28…表面保護層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16