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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20220817BHJP
   H01L 21/76 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
H01L21/265 J
H01L21/76 R
H01L21/265 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017205248
(22)【出願日】2017-10-24
(65)【公開番号】P2018093184
(43)【公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2016234920
(32)【優先日】2016-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500216466
【氏名又は名称】住重アテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛
(72)【発明者】
【氏名】八木 宏親
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-194197(JP,A)
【文献】特開2000-232212(JP,A)
【文献】特開2015-119039(JP,A)
【文献】特開平05-102161(JP,A)
【文献】国際公開第2007/055352(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
H01L 21/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子が形成されたp型シリコン基板に水素(H)イオンを照射し、水素密度が5×1015cm-3以上2×1017cm-3以下となる領域であってイオン照射前の前記p型シリコン基板よりも抵抗率が高い高抵抗領域を形成することと、
前記高抵抗領域が形成されたp型シリコン基板を200℃以上300℃以下の温度で加熱することと、を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記高抵抗領域は、欠陥密度が1×1017cm-3以上となるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記高抵抗領域は、照射エネルギーが4MeV以上17MeV以下、ドーズ量が2×1013cm-2以上2×1014cm-2以下の水素イオン照射により形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記加熱する時間は、10分以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記イオン照射前のp型シリコン基板の抵抗率は、100Ωcm以下であり、前記加熱後の前記高抵抗領域の抵抗率は、500Ωcm以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記高抵抗領域は、水素密度が前記イオン照射前のp型シリコン基板のキャリア濃度の10倍以上50倍以下の値となるように形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記高抵抗領域は、前記加熱後の導電型がp型であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
p型シリコン基板と、前記p型シリコン基板上に設けられる半導体素子と、前記p型シリコン基板内に設けられる高抵抗領域と、を備え、
前記高抵抗領域は、水素密度が5×1015cm-3以上2×1017cm-3以下となる領域であって前記p型シリコン基板よりも抵抗率が高い領域であることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CMOS技術が向上し、アナログ回路とデジタル回路を混載させたSoC(System on a Chip)が様々な用途に用いられている。このような混載チップでは、アナログ回路の特性向上のために半導体基板内に高抵抗領域が形成される。例えば、素子領域の裏側から加速エネルギーを変えながらイオン照射を複数回行うことにより、ノイズ低減のための高抵抗領域が形成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-119039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の文献では、イオン照射により形成した高抵抗領域に200℃以上の熱処理を加えると、抵抗率の顕著な低下が生じることが報告されており、抵抗率の安定化を目的として200℃以下の熱処理を加えることが望ましい旨が記載されている。しかしながら、半導体装置の製造工程では、200℃以上の熱処理を伴う後工程が実行されることがあり、その場合、イオン照射により得られた高抵抗率を維持できなくなってしまう。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、200℃以上の熱処理に耐えうる高抵抗領域を形成する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の半導体装置の製造方法は、半導体素子が形成されたp型半導体基板に水素(H)イオンを照射し、水素密度が2×1015cm-3以上2×1017cm-3以下となる領域であってイオン照射前のp型半導体基板よりも抵抗率が高い高抵抗領域を形成することと、高抵抗領域が形成されたp型半導体基板を200℃以上400℃以下の温度で加熱することと、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、半導体装置である。この装置は、p型半導体基板と、p型半導体基板上に設けられる半導体素子と、p型半導体基板内に設けられる高抵抗領域と、を備える。高抵抗領域は、水素密度が2×1015cm-3以上2×1017cm-3以下となる領域であってp型半導体基板よりも抵抗率が高い領域である。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、200℃以上の熱処理に耐えうる高抵抗領域を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る半導体装置の構造を模式的に示す断面図である。
図2】比較例に係るヘリウム(He)イオン照射および熱処理による抵抗率変化の一例を示すグラフである。
図3】実施例に係る水素(H)イオン照射および熱処理による抵抗率変化の一例を示すグラフである。
図4】別の実施例に係る水素(H)イオン照射および熱処理による抵抗率変化の一例を示すグラフである。
図5】熱処理による水素の活性化率を示すグラフである。
図6】熱処理によるキャリア濃度変化を模式的に示すグラフである。
図7】水素密度と熱処理による抵抗率変化との関係の一例を示すグラフである。
図8】水素イオン照射のドーズ量と水素密度の関係の一例を示すグラフである。
図9】半導体装置の製造方法を模式的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明において参照する各断面図において、半導体基板やその他の層の厚みや大きさは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0012】
図1は、実施の形態に係る半導体装置10の構造を模式的に示す断面図である。半導体装置10は、システムLSIやシステム・オン・チップといった集積回路(IC)である。半導体装置10は、半導体基板12と配線層18とを備える。
【0013】
半導体基板12は、抵抗率が100Ω・cm以下の低抵抗の半導体基板であり、抵抗率が1~100Ω・cm程度の半導体基板である。半導体基板12は、例えば、チョクラルスキー(CZ)法により作製されたp型のシリコン(Si)ウェハである。CZ法により作製されたウェハは、フローティングゾーン(FZ)法等により作製された高抵抗ウェハと比較して抵抗率が低く、安価である。ある実施例において、半導体基板12の抵抗率は4Ω・cmであり、p型キャリア濃度が3.4×1015cm-3である。
【0014】
半導体基板12の主面14には、第1素子領域22と第2素子領域24が設けられる。例えば、第1素子領域22にはデジタル回路用の第1半導体素子26が設けられ、第2素子領域24にはアナログ回路用の第2半導体素子28が設けられる。第1半導体素子26および第2半導体素子28は、例えば、トランジスタやダイオードなどである。第1素子領域22および第2素子領域24のそれぞれには、半導体素子を形成するためのウェル領域、ソース/ドレイン領域、コンタクト領域などの不純物拡散層が設けられる。
【0015】
本明細書において、半導体基板12の主面14に直交する方向を上下方向または深さ方向ということがある。また、半導体基板12の内部において、主面14に向かう方向を上方向または上側、主面14と反対の裏面16に向かう方向を下方向または下側ということがある。また、主面14に平行する方向を横方向または水平方向ということがある。
【0016】
半導体基板12の内部には、高抵抗領域30が設けられる。高抵抗領域30は、半導体基板12のボティ部分よりも抵抗率が高い領域である。高抵抗領域30は、100Ω・cm以上の抵抗率を有し、例えば500Ω・cm以上の抵抗率を有し、好ましくは1kΩ・cm以上である。高抵抗領域30は、トレンチ型高抵抗領域32とプレーナ型高抵抗領域34とを含む。
【0017】
トレンチ型高抵抗領域32は、第1素子領域22と第2素子領域24の間の分離領域20に設けられ、半導体基板12の主面14から裏面16に向けてある程度の深さを持つように形成される。トレンチ型高抵抗領域32の深さは、20μm以上であり、好ましくは50μm~200μm程度である。トレンチ型高抵抗領域32は、第1素子領域22や第2素子領域24に形成される不純物拡散層よりも深い位置に到達するように形成される。トレンチ型高抵抗領域32は、例えば、デジタル回路からアナログ回路に向かうノイズを遮断してアナログ回路の特性を向上させる機能を有する。
【0018】
プレーナ型高抵抗領域34は、第2素子領域24において水平方向に延在する。プレーナ型高抵抗領域34は、分離領域20から第2素子領域24にわたって水平方向に延在し、トレンチ型高抵抗領域32と連続した高抵抗領域を形成するように設けられてもよい。プレーナ型高抵抗領域34は、アナログ回路の直下に形成されることでアナログ回路の特性向上に寄与する。
【0019】
図示する例では、半導体基板12の内部にトレンチ型高抵抗領域32とプレーナ型高抵抗領域34の双方が形成されているが、変形例においては、トレンチ型高抵抗領域32およびプレーナ型高抵抗領域34のいずれか一方のみが設けられてもよい。
【0020】
高抵抗領域30は、低抵抗基板である半導体基板12のボディ部分に水素(H)イオンを照射することにより形成される。ウェハにイオン照射がなされると、イオンの加速エネルギーに応じた深さまでイオンが到達する。その際、到達した領域を含む近傍では格子欠陥が形成され、結晶の規則性(周期性)が乱れた状態となる。このような格子欠陥が多い領域ではキャリア(電子または正孔)が散乱されやすくなり、キャリアの移動が阻害される。その結果、イオン照射により局所的な格子欠陥が生じた領域では、照射前に比べて抵抗率が上昇する。
【0021】
イオン照射によって抵抗率が上昇する深さ方向の位置や範囲は、イオン照射の加速エネルギーや照射量を適宜選択することで調整可能である。例えば、イオン照射する際のイオンの加速エネルギーを調整することで高抵抗領域が形成される深さ位置を調整できる。また、イオン照射の加速エネルギーを選択することで、高抵抗領域が形成される深さ位置、深さ方向の範囲(半値幅)や横方向の拡がり幅を調整できる。さらに、加速エネルギーを変化させながら複数回のイオン照射をすることで、深さ方向にわたってより厚い高抵抗領域を形成できる。
【0022】
本実施の形態では、水素(H)イオンを1MeV以上、100MeV以下の加速エネルギーで照射する。例えば、1価の水素イオン()を4MeV、8MeV、17MeVの加速エネルギーで照射する。このような加速エネルギーのイオンビームを照射する装置として、サイクロトロン方式やバンデグラフ方式の装置が用いられる。このような照射条件を用いることにより、シリコンウェハにおいて半導体基板12の主面14の近傍から深さ100μm以上の位置にまでイオンを到達させることができる。
【0023】
イオン照射により形成される高抵抗領域の抵抗率は、生成される格子欠陥の密度(欠陥密度)に依存する。本発明者らの知見によれば、欠陥密度が1×1017cm-3以上であれば、1kΩ・cm以上の抵抗率を好適に得られることが分かっている。このような欠陥密度は、照射イオンの加速エネルギーが4MeV~17MeVであれば、水素イオンの照射量(ドーズ量)を1×1013cm-2以上にすることで実現できる。
【0024】
このようにして形成される高抵抗領域は、熱処理を加えることにより抵抗率が低下することが知られている。発明者らの知見によれば、イオン照射後の半導体基板12を200℃以上に加熱することで抵抗率の低下が見られ、300℃以上または400℃以上に半導体基板12を加熱すると抵抗率が顕著に低下する。これは、熱処理によって格子欠陥が回復して欠陥密度が低下することが原因と考えられる。したがって、イオン照射により高抵抗領域を形成した場合、その後の工程において200℃以上の熱処理を加えないことが好ましいかもしれない。
【0025】
一方で、高抵抗領域30を分離領域20や第2素子領域24といった狙い通りの位置に形成するためには、ウェハをダイシングする前、つまり、半導体プロセスにおける後工程より前の段階でイオン照射を実行する必要がある。後工程では、ダイボンディングやワイヤボンディング、樹脂封止といった熱処理がなされ、これらの工程では200℃~300℃程度の温度に半導体基板12が加熱されうる。そのため、後工程での熱処理により高抵抗領域の抵抗率が低下し、所望の抵抗率(例えば、500Ω・cm以上)を維持できないおそれがある。
【0026】
そこで、本実施の形態では、イオン照射により半導体基板12に打ち込まれる水素を熱処理により活性化させることで、熱処理後であっても高抵抗領域の抵抗率が維持されるようにする。水素を熱処理により活性化させるとドナー化によりn型キャリア濃度が増えるため、p型である半導体基板12の多数キャリア(p型キャリア)が中性化されて導電率が低下する。例えば、水素の活性化により、半導体基板12のp型キャリア濃度と同程度のn型キャリア濃度が得られるようにすることで、半導体基板12を中性化して抵抗率を上げることができる。
【0027】
図2は、比較例に係るヘリウム(He)イオン照射および熱処理による抵抗率変化の一例を示すグラフである。比較例では、水素イオン()ではなく、ヘリウムイオン(He2+)を用いている。加速エネルギーは23MeVであり、ドーズ量は1.0×1013cm-2であり、照射対象は約4Ω・cmのp型シリコン基板である。図2は、イオン照射前、イオン照射後(熱処理前)および熱処理後(200℃、250℃、300℃)の基板の深さ方向の抵抗率分布を示している。図示されるように、熱処理前では60μm程度の深さまで1~2kΩ・cm程度の高抵抗領域を形成できており、200℃の熱処理後においてもほぼ同様の抵抗率分布の高抵抗領域が維持できている。しかしながら、250℃の熱処理後では、高抵抗領域の抵抗率が1kΩ・cm未満、部分的には500Ω・cm未満となっており、300℃の熱処理後では高抵抗領域の抵抗率が100Ω・cm未満となっている。このようにヘリウムを用いてイオン照射した場合には、200℃を超える熱処理によって高抵抗領域の抵抗率が低下し、300℃以上の熱処理によって抵抗率が顕著に低下することが分かる。
【0028】
図3は、実施例に係る水素(H)イオン照射および熱処理による抵抗率変化の一例を示すグラフである。本実施例は、水素イオン()を照射しており、加速エネルギーは8MeVであり、ドーズ量は1.0×1014cm-2であり、照射対象は約4Ω・cmのp型シリコン基板である。図3は、イオン照射前、イオン照射後(熱処理前)および熱処理後(250℃、400℃)の基板の深さ方向の抵抗率分布を示している。図示されるように、熱処理前では110μm程度の深さまで1kΩ・cm以上の高抵抗領域を形成できており、250℃の熱処理後においてもほぼ同様の抵抗率分布の高抵抗領域を維持できている。また、400℃の熱処理後においても10μm~80μmの深さにおいて1kΩ・cm以上の高抵抗領域を維持することができている。このように、水素イオンを用いることで、200℃を超える熱処理または300℃以上の熱処理が加わる場合であっても、500Ω・cm以上、好ましくは1kΩ・cm以上の高抵抗領域を維持できる。
【0029】
図4は、別の実施例に係る水素(H)イオン照射および熱処理による抵抗率変化の一例を示すグラフである。本実施例は、図3と同様に水素イオン()を照射しており、加速エネルギーは8MeVであり、照射対象は約4Ω・cmのp型シリコン基板である。本実施例は、図3とは異なるドーズ量を用いており、上述の実施例よりも高ドーズ量の2.6×10-14cm-2としている。図4は、イオン照射前、イオン照射後(熱処理前)および熱処理後(200℃、300℃、400℃)の基板の深さ方向の抵抗率分布を示している。図示されるように、熱処理前では45μm程度の深さまで1kΩ・cm以上の高抵抗領域を形成できており、200℃の熱処理後においてもほぼ同様の抵抗率分布の高抵抗領域を維持できている。しかしながら、300℃の熱処理後では深さ10~30μm程度の抵抗率が1kΩ・cm未満となり、400℃の熱処理後では100Ω・cm未満となっている。これは、水素イオンのドーズ量を増やしたことにより、水素が過剰にドナー化されて導電型がp型からn型に反転し、多数キャリアとなったn型キャリア濃度の増大によって抵抗率が低下してしまうことが原因と考えられる。
【0030】
以上の比較例および実施例から、200℃を超える熱処理後においても高抵抗率(500Ω・cm以上)を維持するためには、水素イオンのドーズ量および熱処理の温度を適切に制御することが必要と言える。
【0031】
図5は、熱処理による水素の活性化率を示すグラフであり、温度と活性化率の関係を示している。図示されるように、200℃~400℃の範囲は、水素の活性化率が低く、温度上昇による活性化率の増加も緩やかである。一方、400℃を超えると、温度上昇による活性化率の増加率が大きくなり、活性化率の値も10%を超える。したがって、温度上昇による活性化率の増加が緩やかな200℃~400℃の範囲の熱処理を用いることで、後工程における熱処理の温度に個体差が生じる場合であっても、処理温度の違いによる抵抗率の顕著な変化を抑えることができる。
【0032】
図6は、熱処理によるキャリア濃度変化を模式的に示すグラフであり、異なる三つの水素密度について、熱処理によりドナー化されるn型キャリア濃度の値を模式的に示す。Aは、水素密度が5×1016cm-3であり、図3の実施例(エネルギー:8MeV,ドーズ量:1.0×1014cm-2)に対応する。Bは、水素密度が1.3×1017cm-3であり、図4の実施例(エネルギー:8MeV,ドーズ量:2.6×1014cm-2)に対応する。Cは、水素密度が5×1015cm-3であり、Dは、水素密度が2.5×1016cm-3である。なお、グラフ中の破線は、半導体基板中のp型キャリア濃度を示しており、3.4×1015cm-3である。
【0033】
Aの場合、200℃においてn型キャリア濃度が1.0×1015cm-3程度となり、330℃程度において基板のp型キャリア濃度と同じ3.4×1015cm-3程度となり、400℃において6.0×1015cm-3程度となる。その結果、格子欠陥の回復による抵抗率低下が顕著となる250℃~400℃の範囲で、p型キャリア濃度とn型キャリア濃度が同程度となり、基板の中性化による高抵抗率化を実現できる。その結果、図3に示すように、200℃~400℃の熱処理を加えたとしても1kΩ・cm以上の高抵抗を維持できる。
【0034】
Bの場合、200℃においてn型キャリア濃度が2.6×1015cm-3程度となり、230℃程度において基板のp型キャリア濃度と同じ3.4×1015cm-3程度となり、300℃程度において基板のp型キャリア濃度の2倍の6.8×1015cm-3程度となり、350℃以上において1.0×1016cm-3以上となる。その結果、図4に示すように、300℃以上の熱処理がなされると基板のn型反転により抵抗率が低下し、400℃の熱処理がなされると基板の抵抗率がさらに低下する。
【0035】
Cの場合、水素密度がAの0.1倍であるため、水素のドナー化に起因するキャリア濃度が少なく、400℃以上の熱処理を加えても基板のp型キャリア濃度(3.4×1015cm-3)に達しない。その結果、200℃~400℃の熱処理を加えたとしても基板の中性化は生じず、欠陥密度の減少による抵抗率の低下のみが生じると考えられる。Dの場合も同様、水素密度がAの0.5倍であり、200℃~400℃の熱処理を加えたとしても基板のp型キャリア濃度(3.4×1015cm-3)に達しないため、基板の中性化が生じず、欠陥密度の減少による抵抗率の低下のみが生じると考えられる。
【0036】
図7は、水素密度と熱処理による抵抗率変化との関係の一例を示すグラフであり、図6の条件A,B,C,Dに対応する抵抗率変化を示す。図示されるように、A(水素密度:5×1016cm-3)の場合、200℃~400℃の範囲において1kΩ・cm以上の高抵抗を維持することができる。B(水素密度:1.3×1017cm-3)の場合、200℃~300℃の範囲で500Ω・cm以上の高抵抗を維持できるが、350℃以上において抵抗率が200Ω・cm以下になってしまう。C(水素密度:5×1015cm-3)の場合、200℃の熱処理では1kΩ・cmの高抵抗を維持できているが、熱処理が200℃超えると抵抗率が顕著に低下し、250℃以上の熱処理後において10Ω・cm以下となってしまう。これは、水素密度が少ないために中性化のためのn型キャリア濃度が不足することが原因と考えられる。また、D(水素密度:2.5×1016cm-3)の場合、200℃~230℃の範囲で500Ω・cm以上の高抵抗を維持できるが、250℃以上において抵抗率が200Ω・cm以下になってしまう。
【0037】
以上の考察から、熱処理後でも高抵抗率を維持するためには、200℃~400℃の温度範囲において半導体基板12のp型キャリア濃度と同程度のn型キャリア濃度を実現することが必要である。200℃~400℃の熱処理による水素の活性化率は2%~10%程度であるため、半導体基板12のp型キャリア濃度の10倍~50倍程度の水素密度を実現すればよい。一般に、低抵抗(1~100Ω・cm)のp型シリコン基板のp型キャリア濃度は、1014~1016cm-3であることから、5×1015cm-3以上2×10-17cm-3以下の水素密度を実現できればよい。例えば、p型キャリア濃度が3.4×1015cm-3であれば、3.4×1016cm-3以上1.7×10-17cm-3以下の水素密度が好ましい。
【0038】
なお、高抵抗領域30の少なくとも一部の導電型がn型に反転すると、高抵抗領域においてpn接合が形成され、半導体基板12に形成される回路素子の動作に影響を与えるおそれがある。このような影響を抑えるため、水素の活性化によるn型キャリア濃度が半導体基板12のp型キャリア濃度を超えないように水素密度の値を制御してもよい。つまり、高抵抗領域30の導電型がp型のままとなるように水素密度と熱処理温度を制御してもよい。
【0039】
図8は、水素イオン照射のドーズ量と水素密度の関係の一例を示すグラフであり、水素イオンの加速エネルギーを4MeV,8MeV,17MeVとした場合について示す。図示されるように、水素イオンのドーズ量と照射後の水素密度は比例関係にある。また、照射エネルギーが低いほど得られる水素密度は高い。これは、加速エネルギーが低いと水素イオンが注入される深さ方向の範囲が限定され、単位体積あたりの水素注入量が増えるためである。グラフより、5×1015cm-3以上2×10-17cm-3以下の水素密度を実現するためには、4MeVの場合に1×10-13cm-2以上2×10-14cm-2以下、8MeVの場合に1×10-13cm-2以上4×10-14cm-2以下、17MeVの場合に3.6×10-13cm-2以上1×10-15cm-2以下にすればよい。なお、これらのドーズ量でイオン照射をすれば、1×1017cm-3以上の欠陥密度が得られるため、熱処理前の状態においても500Ω・cm以上の高抵抗率を実現することができる。
【0040】
つづいて、本実施の形態に係る半導体装置10の製造方法について述べる。図9は、半導体装置10の製造方法を模式的に示すフローチャートである。まず、p型の半導体基板12に種々の工程により素子を形成し(S10)、半導体基板12の上に配線層を形成し、形成した素子や配線を保護するための保護膜を形成する(S14)。S10~S14の工程は、半導体プロセスにおいて「前工程」といわれる工程であり、熱酸化、熱拡散、CVD、アニールといった400℃以上の高温処理がなされうる。つづいて、半導体基板12に水素イオンを照射して高抵抗領域30を形成し(S16)、半導体基板12の裏面研磨がなされる(S18)。S16およびS18の工程は、いわゆる「中間工程」または「ポストパッシベーションプロセス(PPP;Post Passivation Process)」といわれる工程である。
【0041】
つづいて、熱処理を含む後工程(S20)がなされ、半導体集積回路として完成する。S20の後工程では、例えば、ウェハをダイシングして個片化する工程、個片化されたチップを実装基板上に接着するダイボンド工程、実装基板とチップとをワイヤボンドで結線する工程、チップを樹脂で封止する工程などが含まれる。例えば、ダイボンド工程、ワイヤボンド工程および樹脂封止工程では、200℃~300℃程度の熱処理がなされ、ある実施例において熱処理の最高温度は260℃程度である。なお、ボンディングや封止工程とは別に半導体装置10を加熱するアニール処理がなされてもよい。このアニール処理は、高抵抗領域30を200℃以上400℃以下の所定温度で加熱することにより、高抵抗領域30の抵抗率を安定化させてもよい。このアニール処理は、10分以下の比較的短い時間実行すれば十分であり、5分以下、1分以下、または、30秒以下の時間であってもよい。
【0042】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0043】
上述の実施の形態では、水素イオンのみを照射して高抵抗領域30を形成することとした。変形例においては、水素以外のイオン照射を組み合わせることにより高抵抗領域を形成してもよい。例えば、水素イオン照射により上述の数値範囲の水素密度を実現するとともに、水素以外のイオン種を照射することにより上述の数値の欠陥密度を実現してもよい。ある変形例において、水素イオンとヘリウムイオンの照射を組み合わせることにより、200℃以上の熱処理が施されても高抵抗(500Ω・cm以上)が維持できる高抵抗領域を形成してもよい。
【符号の説明】
【0044】
10…半導体装置、12…半導体基板、14…主面、16…裏面、18…配線層、20…分離領域、22…第1素子領域、24…第2素子領域、26…第1半導体素子、28…第2半導体素子、30…高抵抗領域、32…トレンチ型高抵抗領域、34…プレーナ型高抵抗領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9