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特許7125449ベーキングパウダー組成物及び食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】ベーキングパウダー組成物及び食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/02 20060101AFI20220817BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20220817BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220817BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20220817BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20220817BHJP
【FI】
A21D2/02
A21D2/14
A21D13/00
A21D13/60
A21D13/80
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020104221
(22)【出願日】2020-06-17
(62)【分割の表示】P 2016051460の分割
【原出願日】2016-03-15
(65)【公開番号】P2020146065
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2020-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】荒井 努
(72)【発明者】
【氏名】橋本 明日香
(72)【発明者】
【氏名】乾 真也
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-337131(JP,A)
【文献】特開2011-067195(JP,A)
【文献】特開2002-335849(JP,A)
【文献】特開2014-223042(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0202758(US,A1)
【文献】特開2007-202533(JP,A)
【文献】月刊フードケミカル, 2006年,Vol.8,p.38-43
【文献】調理科学, 1975年,Vol.8, No.3,p.16-21 (p.126-131)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸水素ナトリウムと、フマル酸とを含み
フマル酸が、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウムの少なくともいずれかにより被覆され、
前記フマル酸と、前記ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウムの少なくともいずれかとの質量比が、20:1~2:1の範囲であることを特徴とするベーキングパウダー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のベーキングパウダー組成物を用いて、揚げ菓子類、蒸しパン類、ケーキ類、シュー菓子類、クッキー類、和菓子類、揚げ物類、お好み焼き及びたこ焼きからなる群から選択される1種以上の食品を製造することを特徴とする食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーキングパウダー組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーキングパウダー組成物は膨張剤の一種であり、炭酸ガスを発生する炭酸水素ナトリウム(重曹)を基剤とし、前記重曹の分解を助けるための助剤として酸性剤を含む食品添加物である。
【0003】
前記ベーキングパウダー組成物には、低い温度で大量のガスを発生させる速効性のもの、高い温度になってから大量のガスを発生させる遅効性のもの、速効性と遅効性との中間に位置する中間性のもの、長い加熱時間に耐えられる持続性のものがある。
前記ベーキングパウダー組成物は、使用する食品に応じて、適宜選択して用いられている。例えば、高温で短時間の加熱による加熱調理には速効性のベーキングパウダー組成物を用いることができ、中~長時間の加熱調理には中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物を用いることができる。
【0004】
従来、中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物に含まれる酸性剤としては、焼ミョウバンがよく用いられてきた。しかしながら、焼ミョウバンにはアルミニウムが含まれていることから、最近ではその使用は避けられる傾向にあり、代替品の開発が急務となっている。
【0005】
これまでに、中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物の酸性剤として、融点55℃~70℃の硬化油脂で平均膜厚が5μm~50μmとなるようにコーティングされたアルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤を用いる技術(例えば、特許文献1参照)、遅効性のベーキングパウダー組成物の酸性剤として、中位径100μm以上、融点55℃~75℃の油脂でコーティングされた酸性剤と、中位径100μm未満のコーティングされていない酸性剤とを用いる技術(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
しかしながら、これらの提案では、焼ミョウバンと比較するとその機能は十分とは言えず、更なる改良が求められている。
【0006】
また、保存中の膨張剤の損失を抑制するために、硬化油脂、ワックス、セルロースエステル、シェラックなどで膨張剤をコーティングする技術(例えば、特許文献3参照)や、保存時における膨張剤の吸湿を防止し、膨張剤の固結化並びに水との反応による脱ガス現象を防ぐために、膨張剤組成物に微粉末のステアリン酸カルシウムを配合する技術(例えば、特許文献4参照)なども提案されている。
【0007】
しかしながら、焼ミョウバンに匹敵するような機能を有する中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物は未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-67195号公報
【文献】特開2014-223042号公報
【文献】特開2004-313185号公報
【文献】特開2004-337131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、焼ミョウバンと代替可能な新規な中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により、炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくとも一方を被覆することにより、焼ミョウバンと代替可能で優れた中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物が得られることを知見した。
【0011】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 炭酸水素ナトリウムと、酸性剤とを含み、
前記炭酸水素ナトリウム及び前記酸性剤の少なくともいずれかが、長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されていることを特徴とするベーキングパウダー組成物である。
<2> 前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点が100℃以上である前記<1>に記載のベーキングパウダー組成物である。
<3> 前記長鎖脂肪酸の金属塩が、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である前記<1>又は<2>に記載のベーキングパウダー組成物である。
<4> 前記酸性剤が、酒石酸、フマル酸、酒石酸水素カリウム、フマル酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン、L-アスコルビン酸又はその塩及びグルコン酸からなる群から選択される1種以上である前記<1>~<3>のいずれかに記載のベーキングパウダー組成物である。
<5> 粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状の炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかとを、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度で接触させ、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかを前記長鎖脂肪酸の金属塩で被覆する工程を含むことを特徴とするベーキングパウダー組成物の製造方法である。
<6> 撹拌しながら、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかとを温度50℃~90℃で接触させる前記<5>に記載の製造方法である。
<7> 前記長鎖脂肪酸の金属塩が、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である前記<5>又は<6>に記載の製造方法である。
<8> 前記酸性剤が、酒石酸、フマル酸、酒石酸水素カリウム、フマル酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン、L-アスコルビン酸又はその塩及びグルコン酸からなる群から選択される1種以上である前記<5>~<7>のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、焼ミョウバンと代替可能な新規な中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ベーキングパウダー組成物)
本発明のベーキングパウダー組成物は、炭酸水素ナトリウムと、酸性剤とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0014】
<炭酸水素ナトリウム>
前記炭酸水素ナトリウムとしては、ベーキングパウダー組成物に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記炭酸水素ナトリウムは、市販品を使用することができる。
前記炭酸水素ナトリウムの前記ベーキングパウダー組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0015】
<酸性剤>
前記酸性剤としては、特に制限はなく、通常ベーキングパウダーの成分や食品添加物として使用され得るものであれば適宜選択して用いることができ、例えば、酒石酸、酒石酸水素カリウム、フマル酸、フマル酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、アジピン酸、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸カルシウム、L-アスコルビン酸マグネシウム、グルコン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン、乳酸、ピロリン酸二水素カルシウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸水素二ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記酸性剤は、市販品を使用することができる。
前記酸性剤の前記ベーキングパウダー組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0016】
前記酸性剤は、ベーキングパウダー組成物中での保存安定性、炭酸水素ナトリウムとの反応性、食経験・安全性、入手容易性、価格等の点で、酒石酸、フマル酸、酒石酸水素カリウム、フマル酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン、L-アスコルビン酸又はその塩及びグルコン酸からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、フマル酸及びL-アスコルビン酸又はその塩がより好ましい。
【0017】
前記炭酸水素ナトリウムと、前記酸性剤との質量比としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、1:10~10:1などが挙げられるが、1:5~5:1が好ましい。なお、前記質量比は、後述する長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種による被覆がされていない状態での比である。
【0018】
<被覆>
前記炭酸水素ナトリウム及び前記酸性剤の少なくともいずれかは、長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆されている。
【0019】
-長鎖脂肪酸の金属塩-
前記長鎖脂肪酸の金属塩としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、焼ミョウバンの挙動により近い挙動を示し、中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物として優れた性能を示す点で、融点が100℃以上のものが好ましく、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上がより好ましく、ステアリン酸カルシウムが特に好ましい。
前記長鎖脂肪酸の金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記長鎖脂肪酸の金属塩は、市販品を使用することができる。
【0020】
--炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかと、長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種との質量比--
前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかと、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種との質量比としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、通常100:1~1:1であり、100:1~2:1が好ましく、20:1~2:1がより好ましい。前記質量比が、好ましい範囲内であると、焼ミョウバンの挙動により近い挙動を示し、中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物として優れた性能を示す点で、有利である。
【0021】
前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種による被覆は、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかの表面の少なくとも一部が被覆されていればよく、全体が被覆されていてもよい。また、前記被覆には、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかの表面に前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種が付着している態様も含まれる。
【0022】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、澱粉、穀粉、セルロース等の賦形剤などが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分は、市販品を使用することができる。
前記その他の成分の前記ベーキングパウダー組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
前記賦形剤の前記ベーキングパウダー組成物における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、前記炭酸水素ナトリウムと前記酸性剤の合計量に対して、1質量%~200質量%程度などが挙げられる。
【0024】
<態様>
前記ベーキングパウダー組成物は、前記炭酸水素ナトリウムと、前記酸性剤と、必要に応じて前記その他の成分とを同一の包材に含む態様であってもよいし、前記各成分を別々の包材に入れ、使用時に混合する態様であってもよい。
【0025】
前記ベーキングパウダー組成物の製造方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、後述する本発明のベーキングパウダー組成物の製造方法により好適に製造することができる。
【0026】
本発明のベーキングパウダー組成物は、後述する試験例で示すように、焼ミョウバンと同様の挙動を示す優れた中間性~遅効性のベーキングパウダー組成物である。
【0027】
前記ベーキングパウダー組成物は、様々な食品の製造において使用することができる。
前記食品としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、ドーナツ類等の揚げ菓子類、蒸しパン類、マフィン、パウンドケーキ、スポンジケーキ等のケーキ類、シュー菓子類、クッキー類、今川焼き、どら焼き等の和菓子類、天ぷら等の揚げ物類、お好み焼き、たこ焼きなどが挙げられる。これらの中でも、スポンジケーキ等の焼成時間が長い食品、天ぷら、ホットケーキ等のバッター系の食品に好適に用いることができる。
前記ベーキングパウダー組成物の使用量としては、特に制限はなく、食品に応じて適宜選択することができる。
【0028】
(ベーキングパウダー組成物の製造方法)
本発明のベーキングパウダー組成物の製造方法は、被覆工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0029】
<被覆工程>
前記被覆工程は、粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状の炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかとを、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度で接触させ、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかを前記長鎖脂肪酸の金属塩で被覆する工程である。
【0030】
-長鎖脂肪酸の金属塩-
前記長鎖脂肪酸の金属塩は、上記した本発明のベーキングパウダー組成物の長鎖脂肪酸の金属塩の項目に記載したものと同様である。
前記長鎖脂肪酸の金属塩の形状は、粉末状又は顆粒状である。
前記粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の大きさとしては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0031】
-炭酸水素ナトリウム-
前記炭酸水素ナトリウムは、上記した本発明のベーキングパウダー組成物の炭酸水素ナトリウムの項目に記載したものと同様である。
前記炭酸水素ナトリウムの形状は、粉末状又は顆粒状である。
前記粉末状又は顆粒状の炭酸水素ナトリウムの大きさとしては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0032】
-酸性剤-
前記酸性剤は、上記した本発明のベーキングパウダー組成物の酸性剤の項目に記載したものと同様である。
前記酸性剤の形状は、粉末状又は顆粒状である。
前記粉末状又は顆粒状の酸性剤の大きさとしては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0033】
-温度-
前記粉末状又は顆粒状の長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、粉末状又は顆粒状の炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかとを接触させる温度(品温)としては、前記長鎖脂肪酸の金属塩の融点未満の温度であれば、特に制限はなく、適宜選択することができるが、50℃~90℃が好ましく、50℃~80℃がより好ましい。
【0034】
-接触-
前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかとを接触させる方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、両者を撹拌し、接触させる方法などが挙げられる。
【0035】
前記被覆工程では、撹拌しながら、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種と、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかとを温度50℃~90℃で接触させることが好ましい。
【0036】
-被覆-
前記被覆工程により、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかは、前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種により被覆される。
なお、前記被覆は、本発明のベーキングパウダー組成物の項目に記載したように、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかの表面の少なくとも一部が被覆されていればよく、全体が被覆されていてもよい。また、前記被覆には、前記炭酸水素ナトリウム及び酸性剤の少なくともいずれかの表面に前記長鎖脂肪酸の金属塩の少なくとも1種が付着している態様も含まれる。
【0037】
前記被覆工程に用いる装置としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、撹拌ミキサー、ニーダー、流動層装置などが挙げられる。
前記装置の条件としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0038】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、固結物除去工程などが挙げられる。
【0039】
前記固結物除去工程は、前記被覆工程で得られた混合物中の固結物を除去する工程である。
前記除去の方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、前記混合物をふるいに通して固結物を除去する方法などが挙げられる。
【0040】
本発明のベーキングパウダー組成物の製造方法によれば、本発明のベーキングパウダー組成物を効率良く製造することができる。
【実施例
【0041】
以下、調製例、比較調製例、及び試験例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらの調製例及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0042】
(調製例1)
コーティング装置として温度調節機能付ユニバーサルミキサーを用い、これに、フマル酸 7,200gと、ステアリン酸カルシウム(融点:177℃~179℃) 800gとを混合したものを投入し、アジテーター回転数 400rpm、チョッパー回転数 1,800rpmの条件下にて、ジャケット温度65℃(品温59℃)で50分間混合した。
次いで、混合物をふるい(20メッシュ径)に通して固結物を除去し、ステアリン酸カルシウムで被覆されたフマル酸を得た。
【0043】
(比較調製例1)
被覆されていないフマル酸を比較調製例1のフマル酸とした。
【0044】
(調製例2)
調製例1において、フマル酸 7,200gと、ステアリン酸カルシウム 800gとを用いていた点を、フマル酸 7,600gと、ステアリン酸カルシウム 400gとに変えた以外は、調製例1と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたフマル酸を得た。
【0045】
(調製例3)
調製例1において、フマル酸 7,200gと、ステアリン酸カルシウム 800gとを用いていた点を、フマル酸 5,600gと、ステアリン酸カルシウム 2,400gとに変えた以外は、調製例1と同様にして、ステアリン酸カルシウムで被覆されたフマル酸を得た。
【0046】
(調製例4)
調製例1において、フマル酸 7,200gと、ステアリン酸カルシウム 800gとを用いていた点を、フマル酸 7,200gと、ステアリン酸マグネシウム(融点:約155℃) 800gとに変えた以外は、調製例1と同様にして、ステアリン酸マグネシウムで被覆されたフマル酸を得た。
【0047】
(比較調製例2)
調製例1において、フマル酸 7,200gと、ステアリン酸カルシウム 800gとを用いていた点を、フマル酸 7,200gと、ステアリン酸 800gとに変えた以外は、調製例1と同様にして、ステアリン酸で被覆されたフマル酸を得た。
【0048】
(調製例5)
コーティング装置として流動層装置(MP-01CT、株式会社パウレック製)を用い、これに、フマル酸 2,700gと、ステアリン酸カルシウム 300gとを混合したものを投入し、60℃の条件下で20分間混合した。
次いで、混合物をふるい(20メッシュ径)に通して固結物を除去し、ステアリン酸カルシウムで被覆されたフマル酸を得た。
【0049】
下記表1に前記調製例1~5及び比較調製例1~2の組成を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
(試験例1:各温度帯におけるガス発生量の測定及び評価)
前記調製例1~5、又は比較調製例1~2で調製した酸性剤について、以下のようにして、ガス発生量の測定及び評価を行った。
【0052】
<ガス発生量の測定>
炭酸水素ナトリウム 1gと、前記調製例1~5、又は比較調製例1~2で調製した酸性剤をフマル酸量で換算して0.69gとを混合し、加温された純水100mLに投入した。前記投入後4分間のガス発生量を測定した。前記純水の温度は、30℃、50℃、又は85℃とし、それぞれの温度帯でガス発生量を測定した。
なお、対照として、中間性~遅効性の酸性剤である焼ミョウバンについて、炭酸水素ナトリウム 1gと、焼ミョウバン1.03gとを混合した以外は同様にして、ガス発生量を測定した。
結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2の結果から、調製例1~5の長鎖脂肪酸の金属塩で被覆した酸性剤を用いた場合には、30℃帯及び50℃帯でのガス発生量が抑制されることが確認された。
【0055】
<ガス発生量の抑制の評価>
焼ミョウバンは、中間性~遅効性の酸性剤として知られていることから、焼ミョウバンのガス発生量に近い挙動を示しているほど、ガス発生量が抑制されており、遅効性であると判断することができる。そこで、測定したガス発生量を焼ミョウバンのガス発生量と比較した結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3の結果から、調製例1~5の長鎖脂肪酸の金属塩で被覆した酸性剤を用いた場合には、焼ミョウバンに近い挙動を示していることが示された。調製例1~5の酸性剤の中でも、調製例1の酸性剤が最も焼ミョウバンのガス発生量と差が小さく、より優れていることが示された。
【0058】
(試験例2:ホットケーキの製造)
前記調製例1~5、又は比較調製例1~2で調製した酸性剤を用いてベーキングパウダーを製造し、前記ベーキングパウダーを用いてホットケーキを製造し、評価を行った。
【0059】
<ベーキングパウダーの製造>
炭酸水素ナトリウムと、前記調製例1~5、又は比較調製例1~2で調製した酸性剤とを質量比で、1:0.69となるように混合し、ベーキングパウダー組成物とした。なお、前記調製例1~5、又は比較調製例1~2で調製した酸性剤の量は、フマル酸量で換算した値である。
また、対照として、炭酸水素ナトリウムと、焼ミョウバンとを質量比で、1:1.03となるように混合し、ベーキングパウダー組成物とした。
【0060】
<ホットケーキの製造>
以下の配合及び工程で、ホットケーキのタネ生地を製造した。
-配合-
・ ミックス粉 ・・・ 48.0g
・ ベーキングパウダー組成物 ・・・ 2.0g
・ 全卵 ・・・ 17.0g
・ 水 ・・・ 33.0g
なお、ミックス粉の配合は、以下のとおりである。
[ミックス粉]
・ 小麦粉(中力粉) ・・・ 100.0質量部
・ 砂糖 ・・・ 30.0質量部
・ ブドウ糖 ・・・ 10.0質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 5.0質量部
・ 油脂 ・・・ 10.0質量部
-工程-
・ ミキシング時間 ・・・ 30回/20秒→30回/10秒→20回/10秒
合計80回/40秒
【0061】
前記タネ生地 100g(全量)を用い、170℃で表3分、裏3分の条件で焼成し、ホットケーキを製造した。なお、前記タネ生地の焼成は、以下の2つの試験区について行った。
・ 試験区1:タネ生地を調製後、すぐに焼成する試験区(寝かし0分)
・ 試験区2:タネ生地を調製後、35℃で60分寝かしてから焼成する試験区(寝かし60分)
【0062】
<評価>
-体積維持率-
前記試験区1及び2のそれぞれについて、製造されたホットケーキの体積を測定し、試験区1のホットケーキの体積を100%として、試験区2のホットケーキの体積維持率を算出した。結果を表4に示す。
【0063】
-食感(寝かし後の食感)-
前記試験区2で製造されたホットケーキの食感について、10名の評価者により、以下の評価基準で評価した。各評価者による評価の平均値を表4に示す。
4点 : ソフトで乾いた食感
3点 : ソフトでやや乾いた食感
2点 : ややソフトでややくちゃつく食感
1点 : 硬くてくちゃつく食感
【0064】
【表4】
【0065】
表4の結果から、調製例1~5の長鎖脂肪酸の金属塩で被覆した酸性剤を用いた場合には、焼ミョウバンを用いた場合に近い体積維持率及び食感を示すことが確認された。調製例1~5の酸性剤の中でも、調製例1の酸性剤を用いた場合には、最も焼ミョウバンに近い結果となり、より優れていることが示された。