(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】タンパク質含有加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20220817BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20220817BHJP
A23L 17/00 20160101ALN20220817BHJP
【FI】
A23L5/00 A
A23L5/00 M
A23J3/00
A23L17/00 101G
A23L17/00 102B
A23L17/00 102Z
A23L17/00 101H
(21)【出願番号】P 2020552589
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2019041697
(87)【国際公開番号】W WO2020085428
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2018199632
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉富 文司
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/060348(WO,A1)
【文献】特開2013-226084(JP,A)
【文献】実公昭56-51751(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00
A23J 3/00
A23L 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と脂質と水分とを含有し、かつ、流動性を有する混合物を、加熱部と該加熱部に続く非加熱部とを有する筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質含有加工食品の製造方法であって、
前記非加熱部は、前記筒体の内部に背圧を生じさせる背圧構造を備え、
前記背圧構造として、前記非加熱部の少なくとも一部分が前記加熱部の終点より垂直方向に高い位置となっている高位置部として形成され、
前記高位置部は、前記加熱部の終点から垂直上方に湾曲し、さらに前記高位置部の末端部分は水平又は水平に対し30°以内の傾斜を有することを特徴とす
るタンパク質含有加工食品の製造方法。
【請求項2】
タンパク質と脂質と水分とを含有し、かつ、流動性を有する混合物を、加熱部と該加熱部に続く非加熱部とを有する筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質含有加工食品の製造方法であって、
前記非加熱部は、前記筒体の内部に背圧を生じさせる背圧構造を備え、
前記背圧構造として、前記非加熱部の少なくとも一部分が前記加熱部の終点より垂直方向に高い位置となっている高位置部として形成され、
前記高位置部は、前記加熱部の終点から垂直上方に湾曲してから一旦垂直下方に湾曲し、さらに前記非加熱部の末端は水平又は水平に対し30°以内の傾斜を有することを特徴とす
るタンパク質含有加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記背圧構造として、前記非加熱部に加熱成
形された前記混合物を切断する切断装置が設置されていることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
【請求項4】
前記切断装置が、カット線及び刃のうちの少なくとも一方であることを特徴とする請求項
3に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
【請求項5】
前記加熱部は、水平又は水平に対し30°以内の傾きとなるように配置されていることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
【請求項6】
前記内部加熱方式がマイクロ波加熱、ジュール加熱又は高周波加熱であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
【請求項7】
前記加熱部においては、前記混合物は中心温度が70~120℃になるように加熱されることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
【請求項8】
前記加熱部及び前記非加熱部のうちの少なくとも一方を回転させることを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
【請求項9】
前記筒体に前記混合物とは別の付加混合物を送り込むためのノズルを設け、前記混合物及び前記付加混合物を同時に前記筒体中に送り込み、筒体中で加熱成形することにより、前記混合物で形成される層の中心部に前記付加混合物が貫通した形状の食品を製造することを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
【請求項10】
前記筒体と前記混合物との間に潤滑剤を供給することを特徴とする請求項1~
9のいずれか1項に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内部加熱方式を用いて、被加熱物を連続的に加熱する方法を用いた、畜肉、鶏肉、水産物、卵、植物等のタンパク質を主原料とする加熱成形されたタンパク質含有加工食品の製造方法に関する。加熱により不可逆的なゲルを形成する物質原料を内部加熱方式により連続的に、しかも安定的に筒体から加熱押出成形を行う製造方法に関する。加熱方法としては内部加熱方法であるジュール加熱、マイクロ波加熱又は高周波加熱が用いられる。
【背景技術】
【0002】
食品加工における加熱工程は、その対象物の種類や目的にかかわらず、対象物に質的な変化をもたらし、その性質を決定する重要な処理の1つであり、種々の加熱方法が知られている。その加熱方法は、外部加熱(直接加熱及び間接加熱)と内部加熱(自己発熱)とに分類される。内部加熱方式に分類される代表的なものとして、ジュール加熱、マイクロ波加熱及び高周波加熱がある。
【0003】
たとえば、畜産練り製品の製造において、練り肉をジュール加熱で予備加熱した後、成形し、この成形したものをさらにジュール加熱する技術が開示されている(特開2002-142724号公報)。また、竹輪、さつま揚げ、カニ風味カマボコ等の練り製品の製造においては、成形後の練り肉の加熱にジュール加熱を利用する技術、及び、成形前の練り肉の予備加熱にジュール加熱を利用する技術が開示されている(実開平5-20590号公報、特開平9-121818号公報、特許第3179686号公報、特許第3614360号公報)。
【0004】
マイクロ波加熱は電子レンジとして広く普及している。特開昭55-48371号公報、特開2003-325138号公報及び実公昭56-51751号公報には、マイクロ波加熱を用いて皮なし練り製品を加熱成形する方法が開示されている。また、WO2012/060348Aには、マイクロ波加熱が施される被加熱物を、筒体中を下から上へ向けて送出しながら加熱成型する方法が開示されている。
【0005】
高周波加熱はマイクロ波加熱と同じ原理であるが、マイクロ波より周波数の小さい電磁波を用いる加熱方式である。
【0006】
ミンチ肉の加工品として知られているソーセージには、魚肉の練り肉と副原料を混合し、ケーシングに充填し加熱した魚肉ソーセージ、及び、羊腸などの可食ケーシングに練り肉を充填し、燻製などを施し、加熱して食する畜肉のソーセージなどがある。いずれも、ケーシングで成形してから、加熱処理される食品である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開昭55-48371号公報、特開2003-325138号公報及び実公昭56-51751号公報に記載される方法では、水平に配置された筒体内部で被加熱物を加熱しながら押し出している。この方法では、被加熱物が加熱によりゲル化すると、蒸気の開放経路が閉塞している筒体内で内圧が高まり、蒸気と被加熱物が一気に噴出するフラッシュ現象(突沸)が発生するため、被加熱物を安定して吐出することが不可能であった。
【0008】
本発明者らはWO2012/060348Aに示すような、マイクロ波加熱が施される被加熱物を、縦に配置した筒体中を下から上へ向けて送出しながら加熱成形する方法により、連続的に安定した加熱ができることを見出した。その方法により、ソーセージのような加熱工程を経て製造する熱凝固性タンパク質含有加工食品をケーシング無しで連続生産することを可能にした。すなわち、筒体を重力方向、つまり垂直に設置して、その中で被加熱物を重力方向と逆方向へ連続的に移動させながら加熱することにより、加熱により筒内で発生する蒸気は加熱物と同方向に円滑に移動することで加熱物の安定吐出が可能となるという原理に基づくものである。
【0009】
しかしながら、加熱部を垂直に配置すると、製造装置の高さが高くなってしまうため、実生産においては、装置の管理、清掃などの作業効率が悪くなるという不都合が避けられない。また、垂直部分に係る背圧がフラッシュ現象を制御するのであるが、必要以上に高い背圧は被加熱物を送る際により高いエネルギーを必要とする。
【0010】
本発明は、WO2012/060348Aに開示されたタンパク質含有加工食品の製造方法において、「加熱部を垂直に配置する」という方法を用いることを必要としない方法であって、フラッシュ現象の発生を起こさず、流動性のある被加熱物を連続的に加熱及び成形する方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、下記(1)~(13)のタンパク質含有加工食品の製造方法を要旨とする。
(1)タンパク質と脂質と水分とを含有し、かつ、流動性を有する混合物を、加熱部と該加熱部に続く非加熱部とを有する筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質含有加工食品の製造方法であって、前記非加熱部は、前記筒体の内部に背圧を生じさせる背圧構造を備える。
(2)前記背圧構造として、前記非加熱部の少なくとも一部分が前記加熱部の終点より垂直方向に高い位置となっている高位置部として形成されている(1)のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(3)前記高位置部は、前記加熱部の終点から垂直上方に湾曲し、さらに前記高位置部の末端部分は水平又は水平に対し30°以内の傾斜を有する(2)のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(4)前記高位置部は、前記加熱部の終点から垂直上方に湾曲してから一旦垂直下方に湾曲し、さらに前記非加熱部の末端は水平又は水平に対し30°以内の傾斜を有する(2)に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(5)前記高位置部として、前記加熱部の終点から垂直方向に高く旋回する少なくとも1つのループが形成されている(2)に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(6)前記背圧構造として、前記非加熱部の筒体中に加熱成形された前記混合物を切断する切断装置が設置されている(1)~(5)のいずれかに記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(7)前記切断装置が、カット線及び刃のうちの少なくとも一方である(6)に記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(8)前記加熱部は、水平又は水平に対し30°以内の傾きとなるように配置されている(1)~(7)のいずれかに記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(9)前記内部加熱方式がマイクロ波加熱、ジュール加熱又は高周波加熱である(1)~(8)のいずれかに記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(10)前記加熱部においては、前記混合物は中心温度が70~120℃になるように加熱される(1)~(9)のいずれかに記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(11)前記加熱部及び前記非加熱部のうちの少なくとも一方を回転させる(1)~(10)のいずれかに記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(12)前記筒体に前記混合物とは別の付加混合物を送り込むためのノズルを設け、前記混合物及び前記付加混合物を同時に前記筒体中に送り込み、筒体中で加熱成形することにより、前記混合物で形成される層の中心部に前記付加混合物が貫通した形状の食品を製造する(1)~(11)のいずれかに記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
(13)前記筒体と前記混合物との間に潤滑剤を供給する(1)~(12)のいずれかに記載のタンパク質含有加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示の製造方法では、筒体の加熱部を水平に配置した場合であっても、加熱部と非加熱部との高低差及び/又は切断装置の存在により、重力及び/又は切断装置の抵抗により、筒体内に背圧が発生する。その背圧により、筒体内容物の加熱によるフラッシュ現象を防止し、加熱成形された被加熱物の安定吐出を行うことができる。
【0013】
これにより、装置の加熱部を垂直方向から水平方向まで自由に設置することが可能になり、生産現場の状況に応じて、作業性の高い設計にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1a】水平方向吐出方式による連続加熱装置の一態様を示す模式図である。
【
図1b】垂直方向吐出方式による連続加熱装置の一態様を示す模式図である。
【
図2a】内部加熱方式としてマイクロ波加熱を用いる際に用いるマイクロ波加熱装置の一態様を側面視で示す模式図である。
【
図2b】内部加熱方式としてマイクロ波加熱を用いる際に用いるマイクロ波加熱装置の一態様を平面視で示す模式図である。
【
図3】内部加熱方式としてジュール加熱を用いる際に用いるジュール加熱装置の一態様を示す模式図である。
【
図4a】本開示の態様の連続加熱装置における背圧構造の例を示す模式図である。
【
図4b】本開示の態様の連続加熱装置における背圧構造の例を示す模式図である。
【
図4c】本開示の態様の連続加熱装置における背圧構造の例を示す模式図である。
【
図5】本開示の態様の連続加熱装置における背圧構造の例を示す模式図である。
【
図6a】本開示の態様の連続加熱装置における背圧構造の例を示す模式図である。
【
図6b】本開示の態様の連続加熱装置における背圧構造の例を示す模式図である。
【
図8b】
図6aに示す連続加熱装置の変形例である。
【
図8c】
図6bに示す連続加熱装置の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
畜産加工品及び水産加工品に成形性を付与したり、また、成形性を向上させたりするために、ジュール加熱、マイクロ波加熱、高周波加熱等の内部加熱を用いて、40~50℃といった比較的低温の温度帯で加工品の原料としての被加熱物を一次加熱することがある。この温度帯では被加熱物は自己流動性を保持しており、たとえばポンプ等で被加熱物を連続的に移送しながら内部加熱を行うことは可能である。しかしながら、一次加熱を経た被加熱物が最終製品となるための加熱工程では、被加熱物中に含まれている動物性塩溶性タンパク質が加熱変性してゲル化する温度帯以上となる。よって、畜肉又は水産物由来肉を主成分とする食品材料、特にこれらに含まれる筋原繊維タンパク質、主にはミオシンやアクトミオシン等の塩溶性タンパク質は加熱によりその構造が不可逆的に変化し、微細な網状構造を有する強固なゲルに変換する。そのため、筒体の中では容易に目詰まりが生ずる。
【0016】
内部加熱方式を利用した畜肉又は水産物由来肉による熱凝固性タンパク質の連続加熱装置10は種々提案されている。
【0017】
図1aに示す水平方向吐出方式では、水平方向に設置された筒体20の加熱部21内で図中白抜き矢印に示す方向に被加熱物を移動させながら、加熱部21の周囲に設置された内部加熱装置30にて加熱が行われる。図中黒塗り矢印は加熱による熱の伝達方向である。この方式の場合、被加熱物がゲル化しない比較的低い温度帯であればまだしも、たとえば70~120℃のようなタンパク質が加熱変性してゲル化する比較的高い温度帯においてはゲル化により流動性を失った被加熱物が流路を塞ぎ、同時に、発生した蒸気は周囲の物質よりも比重が小さいため、加熱部21の上部に移動する。しかし、水平方向の筒体20内では蒸気が上方へ抜ける経路がないため内部の圧力が高まり、蒸気及び被加熱物が一気に噴出するフラッシュ現象が発生し、加熱物を安定して吐出することは不可能であった。
【0018】
一方、
図1bに示す垂直方向吐出方式では、被加熱物を垂直方向に設置された筒体20の加熱部21内で、図中白抜き矢印に示す、重力方向とは逆方向へ連続的に移動させながら加熱部21の周囲に設置された内部加熱装置30にて加熱が行われる。図中黒塗り矢印は加熱による熱の伝達方向である。この方式の場合、加熱により筒体20内で発生する蒸気は被加熱物の移動方向と同方向に円滑に移動することができ、加熱物の安定吐出を行うことが可能となった(WO2012/060348A)。
【0019】
本願は、WO2012/060348Aの方法をさらに改良し、加熱部を垂直に設置することを必要とせずに、加熱物を安定に吐出する方法を開示する。
【0020】
本開示の実施態様のタンパク質含有加工食品の製造方法は、タンパク質と脂質と水分を含有し、かつ、流動性を有する混合物を、加熱部21と該加熱部21に続く非加熱部22とを有する筒体20の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質含有加工食品の製造方法であって、前記非加熱部22は、前記筒体20の内部に背圧を生じさせる背圧構造40を備えることを特徴とする。
【0021】
具体的には、前記背圧構造40として、前記非加熱部22の少なくとも一部分が前記加熱部21の終点より垂直方向に高い位置となっている高位置部41として形成されていることとしてもよい。あるいは、このような背圧構造40の代わりに、又は、このような背圧構造40に加えて、前記背圧構造40として、前記非加熱部22に加熱成形された前記混合物を切断する切断装置42が設置されていることとしてもよい。
【0022】
本開示では、垂直方向吐出方式を採用する必要はないが、その使用を排除するものではない。また、水平方向吐出方式における加熱部21は完全な水平である必要はなく、傾斜があってもかまわない。また、製造装置を配置する工場の状況によって、垂直方向加熱方式、水平方向加熱方式及び本開示の実施態様の方法を適宜組み合わせることができる。
【0023】
流動性を有する混合物としての被加熱物は、液体から固体まで種類を問わないが、少なくとも原料の時点ではポンプなどを用いて筒体に送り込める程度の流動性が必要である。特に、本開示の実施態様は一定の粘度を有する原料の加熱に適している。ここで、水のように粘度の低いものであれば、筒体中で連続加熱を行っても移動中に対流が生ずるため、温度差を生ずることがなく、水平方向吐出方式であってもさほど問題はない。しかし、粘度が高い場合、対流による熱伝導が困難となるため、局所的な温度差が生じ易く、安定した吐出は望めない。
【0024】
具体的には、本開示の実施態様は、水分、タンパク質及びデンプンなどを含む天然物や食品素材のうち、特に、加熱によりゲル化するタンパク質を含有する練り肉や卵等を含む食品素材などの加工に適している。ここで、タンパク質がゲル化しないものでも、味噌のような物性のもの、クリームのような物性のもの、粥のような物性のものなど、粘度の高い食品、あるいは、天然物由来成分を含有する医薬品原料、医薬品成分、健康食品原料、培地など、タンパク質や糖分を含有するものなどを内部加熱により連続加熱するには本開示の実施態様の方法によって加熱することが可能である。
【0025】
筒体20とは、その内部に被加熱物を流動させる空間を有し、内部加熱、すなわち、マイクロ波及び高周波を透過し、電気的な絶縁性を有し、さらに加熱耐性を有した素材が好ましい。加えて、被加熱物が付着しにくい合成樹脂、シリコン樹脂、フッ化樹脂、それらの素材で表面加工した筒が好ましい。筒体20の直径は加熱方法及び加熱エネルギーによるが、マイクロ波加熱の場合、原料素材のマイクロ波半減深度がさほど深くないため直径40mm以内、好ましくは30mm以内の直径の筒が望ましい。高周波加熱の場合は、マイクロ波と比較して電磁波の半減深度が深いので、太い直径の筒体20を使用することも可能である。ジュール加熱では、マイクロ波とは加熱原理が異なるため、理論的には加熱電極の大きさに依存するため、直径200mmの筒体20を使用することも可能である。筒体20の長さは、被加熱物が内部で移動する速度と必要到達温度を勘案した長さに調節される。
【0026】
筒体20の加熱部21の外側には、内部加熱方式を用いた内部加熱装置30を配置する。たとえば、
図2に示す例では、マイクロ波加熱装置31が用いられる。すなわち、
図2aの側面視において矢印で示す吐出方向に沿って加熱部21の外周に3箇所、マイクロ波加熱装置31としてのマグネトロンが装着される。これらのマイクロ波加熱装置31は、
図2bの平面視に示すように120°の間隔で等配されている。被加熱物が筒体20に送り込まれると、加熱部21においてこれらマイクロ波加熱装置31が放射するマイクロ波を吸収することで、被加熱物はマイクロ波加熱を受ける。一方、
図3に示す例では、ジュール加熱装置32が用いられる。すなわち、加熱部21の両端に、ジュール加熱装置32としての1対の電極32Aが装着される。これら電極32Aにはそれぞれ電線32Bが接続され、高周波電流が供給される。そして、被加熱物が筒体20へ送り込まれると、ような内部加熱装置30が配置された加熱部21を通過する際にこれら1対の電極32Aの間で高周波電流の通電を受けることで、被加熱物はジュール加熱を受ける。
【0027】
筒体20において加熱部21とは、上記の内部加熱方法により筒体20の中を通過する被加熱物が加熱される部分である。非加熱部22とは加熱部21の後に連続する部分であって、加熱部21と同じ材質のまま延長させたものであってもよい。あるいは、別の材質の筒状物を加熱部21に結合させてもよい。なお、筒体20を湾曲させる部分に各種ジョイントを用いてもよい。その場合、筒体20の内部が滑らかに結合され、その直径が一定に保たれるのが好ましい。
【0028】
背圧構造40とは、筒体20のうち非加熱部22に設けられ、筒体20の内部に背圧を生じさせる構造である。たとえば、非加熱部22の少なくとも一部分が加熱部21の終点より垂直方向に高い位置となっている高位置部41として形成されていることとしてもよい。すなわち、
図4a~
図4cに示す連続加熱装置10のように、加熱部21の終点よりも非加熱部22の少なくとも1部分を垂直方向に高い位置に配置した高位置部41を背圧構造40とすることができる。
【0029】
たとえば、
図4aに示す例では、高位置部41は、加熱部21の終点から垂直上方に湾曲し、さらに高位置部41の末端部分は水平又は水平に対し30°以内の傾斜を有している。また、
図4bに示す例では、高位置部41は、加熱部21の終点から垂直上方に湾曲してから一旦垂直下方に湾曲し、さらに非加熱部22の末端は水平又は水平に対し30°以内の傾斜を有している。さらに、
図4cに示す例では、高位置部41として、加熱部21の終点から垂直方向に高く旋回する少なくとも1つのループが形成されている。
【0030】
いずれの場合も、加熱部21の終点と高位置部41との間に、各図中に両端矢印で示すような高低差があれば、高位置部41に至る傾き具合は特に限定されず、また、高位置部41の長さは任意に設定できる。加熱部21の終点と高位置部41との間の高低差は、加熱された筒体20の内部のフラッシュ圧よりも、非加熱部22に存在する被加熱物にかかる重力である「背圧」が大きくなるように設定すればよい。すなわち、高位置部41において加熱部21の終点より高い位置に存在する距離が長ければ高低差は小さくてよく、高い位置に存在する距離が短ければ高低差を大きくすればよいことになる。必要な高低差は、被加熱物の組成、処理量、処理温度、筒体20の管径等の要素により変化する。実用的には、非加熱部22として、耐圧フレキシブルホースを用いて、フラッシュ現象が生じないように高低差を調整することができる。
【0031】
たとえば、直径1~4cmのチューブを用いる場合、加熱部21の長さは0.5~2m、非加熱部22の長さは0.5~8m、1~6m、3~5m、高低差は30~100cm、40~80cmが適当である。
【0032】
図4a~
図4cに示す連続加熱装置10の形態以外でも、必要な高低差を設けて、背圧が生じる構成であれば、非加熱部22の形態を様々に構成することができる。
【0033】
上記したような背圧構造40により、筒体20内の被加熱物は、重力により自重を常に受け、内部圧力が高まることとなる。このため、原料に含まれる水の沸点が高まり、常圧よりも高温まで安定して加熱できる。さらに、加熱により筒体20内で発生する蒸気や被加熱物が加熱膨張することを抑制し、安定した被加熱物の吐出に寄与する結果となる。
【0034】
また、背圧構造40として、
図5に示す連続加熱装置10のように、非加熱部22に加熱成
形された混合物を切断する切断装置42が設置されることとしてもよい。この切断装置42とは、たとえば、ピアノ線のような丈夫で細い線状体のようなカット線若しくは刃、又はこれらの組み合わせである。切断装置42により、加熱成
形された混合物は吐出方向に沿って平行に切断される。
【0035】
切断装置42は、加熱成形された混合物に切り目を入れると同時に、筒体20を移動する被加熱物に対して抵抗、すなわち背圧を与える。加熱成形したばかりの混合物であるタンパク質含有加工食品は柔らかく、容易に切断できるので、混合物は、カット線に押し付けられて、あるいは、刃により縦割りにされる。このようなカット線又は刃を複数組み合わせることにより、二等分、三等分、四等分、八等分などだけでなく、2~10mm、あるいは2~5mmの格子状のメッシュとして切断装置42を形成して、混合物を繊維状に縦割りにすることもできる。
【0036】
カット線又は刃は数が多くなれば、それだけ背圧としての抵抗が大きくなるが、カット線又は刃を複数箇所に分けて設置したり、あるいは、タンパク質含有加工食品の断面に対して斜度を持って設置したりするなどの方法により、抵抗の大きさを調整することができる。抵抗を小さくするにはフッ素樹脂素材又はフッ素樹脂加工された素材を用いて切断装置42を形成すればよい。また、切断装置42の素材としてステンレス等を用いると抵抗を大きくすることができる。
【0037】
切断装置42を用いて繊維状に縦割りにすることにより、従来のカニカマ、ホタテ風味繊維状カマボコなどの製品を特殊な装置を必要とせず、容易に製造することができる。
【0038】
背圧構造40として、筒体20の非加熱部22に高位置部41を設ける方法と、非加熱部22に切断装置42を配置する方法は、
図4a~
図4c及び
図5に示す連続加熱装置10のようにそれぞれ単独で用いても、あるいは、
図6a及び
図6bに示す連続加熱装置10のように組み合わせて用いることもできる。ここで、
図6aに示す例では、
図4aの高位置部41の末端に切断装置42を配置している。また、
図6bに示す例は、
図4bの高位置部41を経た非加熱部22の末端に切断装置42を配置している。なお、高位置部41と切断装置42とをそれぞれ単独で使用する場合は、それぞれの背圧が、フラッシュ圧よりも大きくなるように設計すればよく、また、併用する場合はそれぞれの抵抗の合計がフラッシュ圧よりも大きくなるように設計すればよい。
【0039】
なお、背圧構造40としての切断装置42を単独で用いる場合、被加熱物の物性にもよるが、筒体20の内部空間の断面積に対する切断装置42の開口面積が70%以下になるようにすると十分な抵抗が得られる。
【0040】
ジュール加熱とは、通電加熱とも呼ばれる内部加熱方式の一つである。食品など被加熱物に直接通電して、被加熱物の電気抵抗により発熱させる方法である。流動性を有する食品を連続加熱するためのジュール加熱の装置は前記した特開2002-142724号公報、実開平5-20590号公報、特開平9-121818号公報及び特許第3179686号公報などに開示されているような装置を利用することができる。基本的には、
図3に示すように、絶縁性の筒体20とその筒体20に設けられた1対の電極32Aを有し、電極32Aは電線32Bを介して電源に接続されたものがジュール加熱装置32であり、この筒体20に連続的に被加熱物を送り込めるようにポンプを接続し、加熱された食品を受ける受け皿あるいは冷却部があれば本実施態様の製造方法に用いることができる装置となる。流動性のある食品を筒体中でジュール加熱する場合でも筒体の内部に食品が焦げ付かないための工夫や、温度管理をするために温度センサーを設けるような技術も知られている。本開示の態様においてもこれら技術を利用することができる。
【0041】
たとえば、電圧150~400V、電流10~30A程度のジュール加熱装置32を使用することができる。
【0042】
マイクロ波加熱とは、高周波により被加熱物に含まれる水分子などの電気双極子を激しく振動させることによって加熱をする方法で、その原理は家庭用の電子レンジに応用され、広く普及している。マイクロ波加熱の装置は前記した特開昭55-48371号公報、特開2003-325138号公報、実公昭56-51751号公報及びWO2012/060348Aに開示されているような装置を利用することができる。基本的には、高周波透過性のある、たとえば
図2a及び
図2bに示すようにフッ化樹脂性の筒体20とその筒体部分に高周波を照射するマイクロ波加熱装置31とから成り、この筒体20に連続的に食品原料を送り込めるようにポンプを接続し、加熱された食品を受ける受け皿あるいは冷却部があれば本実施態様の製造方法に用いることができる装置となる。
【0043】
たとえば、2450Hz、200V、20A程度のマイクロ波加熱装置31を使用することができる。
【0044】
高周波加熱はマイクロ波加熱よりも周波数の低い電磁波を用いる加熱方式であるが、装置や理論はマイクロ波加熱と基本的に同様のものを使用することができる。
【0045】
ここで、被加熱物を加熱する際には、背圧構造40として切断装置42を備える
図5の例の変形例である
図7に示す連続加熱装置10のように、筒体20の長さ方向の中心線を回転軸として筒体20を回転させながら加熱することが望ましい。換言すると、筒体20の中に被加熱物を送り込みながら、筒体20自体を長さ方向の中心線を回転軸として、回転装置60によって回転させながら加熱することが望ましい。
【0046】
たとえば、マイクロ波加熱の場合、
図2a及び
図2bに示すように筒体20の周辺に120度の位相でマイクロ波加熱装置31を配置して均等に加熱する装置が存在するが、それでも、マイクロ波加熱装置31の位置及び被加熱物のマイクロ波吸収率の相違によって加熱の程度にムラが生ずる。特に、粘度の高い被加熱物ではその差が大きくなり、商品の品質不良につながることになったが、被加熱物が通過する筒体20を回転させることによりその加熱ムラを低減し、商品品質を大きく改善できることを見出した。筒体20を回転させても加熱凝固したタンパク質含有加工食品が筒体内部でくずれたり、切れたりすることもなく、筒体20とともに被加熱物も回転し均一な加熱という効果を得ることができる。回転速度は、被加熱物の種類及び筒体20の加熱部21の長さによって適宜調節すればよいが、5~30rpm、 好ましくは10~20rpmくらいの回転数で充分な効果が得られる。
【0047】
筒体20を回転させるためにはたとえばWO2012/060348Aに示されるような方法を用いることができる。たとえば、被加熱物を送るポンプと筒体20との間に介装される筒状部分と、回転する筒体20との間にロータリージョイントなどを設置すれば、筒体20が自由に回転できるようにする。その筒体20には回転速度調整可能な駆動装置としての回転装置60を付帯させ、筒体20の回転速度を任意に調整することが望ましい。なお、筒体20においては、加熱部21及び非加熱部22のうちの少なくとも一方を回転させることができる。
【0048】
本開示で言及される「タンパク質含有加工食品」とは、具体的には、畜肉ソーセージ、魚肉ソーセージ及び魚肉練り製品のような、原材料が含有するタンパク質が加熱凝固してできる食品のことである。
【0049】
畜肉又は水産物由来肉を主成分とし、これに任意の食品素材を添加して混練した混練肉を加熱して得られる加工品は畜産加工品及び水産加工品として一般的であり、ハム・ソーセージ類、ハンバーグ、ミートローフ及び魚肉練り製品はその例である。これらの加工品を工業的に製造する場合、原材料の加熱工程と、任意の型やケーシングに充填することも含めた成形工程とが、独立した二つの工程として実施されていた。
【0050】
本開示の態様によれば、畜肉、水産物由来肉又は豆類由来代用肉(いわゆるフェイクミート)を主成分とし、これに任意の食品素材を添加して混練した混練肉中に脂質を添加ししたものを被加熱物とすることにより、被加熱物が加熱によってゲル化した後も、加熱ゲル中に脂質が保持されるとともに、一部の脂質が放出され、放出された脂質の潤滑作用により、筒体20の内壁と加熱ゲルとの移動摩擦を低減せしめ、結果として加熱ゲルの円滑な移送性を維持することが可能である。
【0051】
魚肉ソーセージは通常、魚肉すり身に食塩、砂糖などの調味料、香辛料、澱粉、植物油等の副原料を混合し、ペースト化して合成樹脂製のケーシングに充填し、レトルト加熱して製造される。一方、本開示の態様では、このペーストをケーシングに充填するのではなく、筒体20の中を移動させながら加熱凝固させて製造する。その結果、ケーシングを使用せずに魚肉ソーセージを連続的に製造することが可能である。
【0052】
なお、魚肉ソーセージに限らず、タンパク質を含有する液状からペースト状の物性を有する原料を加熱凝固して製造するタンパク質含有加工食品であれば、いずれもこの方法によって製造することができる。
【0053】
本開示において、背圧構造40として切断装置42を用いる方法を採用することにより、細断された魚肉ソーセージ等を提供することができるだけでなく、繊維状カマボコ製品、いわゆるカニカマのような製品を連続生産することができる。非加熱部22に切断装置42として2~3mmの格子状のメッシュを用いると筒型に加熱成形されたカマボコが繊維状に細断される。この筒状で押し出されてくるカマボコを樹脂フィルム、可食性フィルムで包み、カットすることによりカニカマ、ホタテ風カマボコなどを製造することができる。油脂含量の少ないカマボコの配合を用いる場合、後述する潤滑剤などを併用することができる。
【0054】
日本の農林水産省の定める「魚肉ハムおよび魚肉ソーセージ品質表示基準」(制定 平成12年12月19日農林水産省告示第1658号。最終改正 平成20年農林水産省告示第1368号)の「普通魚肉ソーセージ」の定義では、魚肉ハムとは、「(1)魚肉(鯨その他魚以外の水産動物の肉を含む。以下同じ。)の肉片を塩漬けしたもの(以下「魚肉の肉片」という。)又はこれに食肉(豚肉、牛肉、馬肉、めん羊肉、山羊肉、家と肉又は家きん肉をいう。以下同じ。)の肉片を塩漬けしたもの、肉様の組織を有する植物性たん白(以下「肉様植たん」という。)若しくは脂肪層(肉様植たん又は脂肪層にあっては、それぞれ、おおむね5g以上のものに限る。)を混ぜ合わせたものにつなぎを加え若しくは加えないで調味料及び香辛料で調味したもの又はこれに食用油脂、結着補強剤、酸化防止剤、保存料等を加えて混ぜ合わせたものをケーシングに充てんし、加熱したもの(魚肉の原材料に占める重量の割合が50%を超え、魚肉の肉片の原材料に占める重量の割合が20%以上であり、つなぎの原材料に占める重量の割合が50%未満であり、かつ、植物性たん白の原材料に占める重量の割合が20%以下であるものに限る。)(2)(1)をブロックに切断し、又は薄切りして包装したもの」とある。
【0055】
また、魚肉ソーセージは「(1)魚肉をひき肉したもの若しくは魚肉をすり身にしたもの又はこれに食肉をひき肉したものを加えたものを調味料及び香辛料で調味し、これにでん粉、粉末状植物性たん白その他の結着材料、食用油脂、結着補強剤、酸化防止剤、保存料等を加え若しくは加えないで練り合わせたものであって、脂肪含有量が2%以上のもの(以下単に「練合わせ魚肉」という。)をケーシングに充てんし、加熱したもの(魚肉の原材料に占める重量の割合が50%(パーセント)を超え、かつ、植物性たん白の原材料に占める重量の割合が20%以下であるものに限る。特殊魚肉ソーセージの項において同じ。)、(2)(1)をブロックに切断し、又は薄切りして包装したもの」とされている。
【0056】
本開示において「魚肉ハム及びソーセージ類」とは上記した定義の魚肉ハム及びソーセージを包含するものであるが、魚肉を30重量%以上含有し、脂肪含有量を2重量%以上含有する原材料を練り合わせたものを加熱加工したものを含む。ただし、本開示の態様においてはケーシングに充填せずに加熱した、ケーシングなしのものである。
【0057】
本開示の態様において「タンパク質含有加工食品」とは、畜肉、水産物の他に、卵タンパク、乳タンパク、植物タンパクを主原料とするものも含む。いずれも、加熱によりタンパク質が加熱凝固する点では同じであり、同じ方法で加工食品とすることができる。
【0058】
畜肉又は水産物由来肉に含まれる筋原繊維を構成する塩溶性タンパク質は塩を添加することで溶解する性質を持っている。この塩溶性タンパク質は繊維状のタンパク質であり、構造中に疎水基と親水基を持つため、乳化作用を有している。このため、塩を加えて充分に擂潰した練り肉に脂質を添加して混練すると、均一な乳化物が得られる。
【0059】
加熱によるゲル化とは塩で溶解した塩溶性タンパク質が加熱によりその立体構造が変化し、三次元的に複雑に絡み合い、微細な網目構造を形成する現象である。加熱によりその立体構造が変化した塩溶性タンパク質は同時に乳化性も低下し、塩溶性タンパク質は乳化した脂質を一度は解放するが、同時に形成される微細網目構造中にその脂質を取り込み、構造中に保持する。また、微細網目構造中の外に放出された脂質は、それ自身が潤滑油として機能する。そのため、ゲル化した塩溶性タンパク質と加熱装置内壁の動摩擦抵抗を低減させ、移送性を向上し、さらに機器への付着性も低減する。
【0060】
これらの複数の要素により、魚肉ソーセージ等を文字通り連続的に生産することが可能となった。
【0061】
本開示の態様のタンパク質、脂質、水分を含む原料から製造するタンパク質含有加工食品には、原料中に脂質を2~35重量%添加するのが好ましい。畜肉、魚肉を主原料とする混練肉中に脂質を均等に分散させる。脂質添加量は少ないと加熱ゲルの移送性が得られず、多すぎるとゲル形成が阻害される。好ましくは、5~20重量%である。
【0062】
さらに、タンパク質含有加工食品の原料に含まれる脂質として固形油脂を用いることにより、潤滑性を向上させることができる。すなわち、本開示の態様は、原料に添加する脂質として固形油脂を用いることを特徴とする。液状油脂でも一定の効果があるが、原料にタンパク質を含むため、液状油脂を用いると油脂が乳化し、潤滑油としての効果が弱くなる。固形油脂を固形油脂のままで分散・混合させると、加熱成形させる際に、筒体内壁周辺部にある固形油脂が溶融し、潤滑油として機能する。
【0063】
固形油脂は、加熱前の原料混合物の温度より融点の高いものを選択する。実際には、加熱前の原料混合温度よりも7℃以上高い融点を有する食用油脂であれば、攪拌中に溶けてしまうことはない。たとえば、魚肉を原料とする場合、タンパク質変性防止の観点から通常15℃以下の温度で混合を行う。混合温度が15℃の場合、融点が22℃以上の油脂を用いればよいし、混合温度が8℃の場合、融点が15℃以上の油脂を使うことができる。融点があまり高いとでき上がった食品の舌触りが悪くなるので、融点が15~70℃程度の固形油脂を用いるのが好ましい。特に好ましくは、15~45℃の融点の油脂である。添加量は原料混合物中の固形油脂の含有量が2~20重量%が好ましい、特に好ましくは、5~10重量%である。種々の融点の固形油脂を混合して用いても、また、液状油脂と混合して用いても良い。タンパク質含有加工食品全体として固形油脂及びその他の脂質を合計2~35重量%含有するのが好ましい。
【0064】
得られた混練肉は必要に応じて脱気処理を行い、肉送りポンプ等の搬送装置にて長軸方向を水平方向に向けられた水平方向吐出方式である筒体20に重力とは垂直方向に連続的に被加熱物として移送され、移送しながらジュール加熱、マイクロ波加熱若しくは高周波加熱、又はそれらの加熱方法の組み合わせにより混練肉中心温度を70℃以上120℃以下の範囲で任意に設定した温度まで昇温加熱が行われる。筒体20中で形成されたゲルは連続的に押し出され、加熱成形された加工品が得られる。加熱温度が70℃以下ではタンパク質の加熱変性が充分ではなく良好な物性を持ったゲルが得られない。また、120℃以上ではゲルは形成するが、高温の影響でゲル構造がダメージを受け、ゲル強度が低下する。
【0065】
被加熱物を脱気してから筒体に導入することにより、タンパク質含有加工食品中に大きな気泡ができるのを防ぐことができる。ケーシングに充填するソーセージでは脱気しなくても、ケーシングにより気泡の形成は抑制されるが、ケーシングなしでは、目視で目立つ気泡の原因となる。
【0066】
原料に含まれる脂質に依存せず、筒体20と被加熱物の間にすべりを滑らかにする潤滑剤を存在させることによっても、被加熱物のより安定な吐出が可能となる。本開示の態様において「潤滑剤」とは、飲食物に利用することができるものであり、流動性のある被加熱物が筒体20内を移送する際に筒体20の内壁との間の摩擦を減らして移送を滑らかにするものである。また、潤滑剤は、使用時に液体であるものが好ましい。より具体的には、潤滑剤は、水、植物性油脂や動物性油脂などを含む油、アルコール、乳化剤などを含むことができ、移送する飲食物に適するものを選択することができる。
【0067】
潤滑剤を供給するための一つの方法は、内部加熱装置30が設けられている加熱部21に被加熱物を送り込む際に被加熱物と筒体20との間に油脂や水分を供給する方法である。潤滑剤を供給することにより、筒体20内における被加熱物の優れた流動性が得られる。具体的には、WO2012/060348Aに開示されているような装置を用いて、筒体20の加熱部21の手前に、潤滑剤を供給する供給部が形成された装置を用いて潤滑剤を供給することができる。
【0068】
本開示の態様の製造方法は以下のような手順で実施することができる。
【0069】
筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、これをサイレントカッター等の混練機に供し、充分に細断する。この際の温度はなるべく低温を維持し、10℃程度が望ましい。これに塩を添加し、原料に含まれる筋原繊維由来の塩溶性タンパク質の溶解を充分に行う。この後に、必要に応じて澱粉、植物タンパク質、香辛料、調味料、乳化剤等を加え、さらに混練肉の2~35重量%の脂質を加える。脂質は植物油、硬化油、豚脂、牛脂等、食用に値する脂質を用いてもよいし、原料の畜肉又は水産物由来肉が含有する脂質を利用してもよい。脂質添加後、さらに充分に混練し、添加した脂質を均等に分散、乳化させる。混練の際に必要に応じて脱気処理を行う。
【0070】
この混練肉を被加熱物として送肉ポンプ等で筒体20へ連続的に送り込みながら、70℃以上120℃以下の温度帯で所望の温度までジュール加熱、マイクロ波加熱若しくは高周波加熱又はそれらを組み合わせた加熱を行うが、たとえば最初に30℃まで加熱した後、所望の温度まで加熱するという二段加熱、また、必要に応じて複数段階の加熱、さらに加熱時の昇温速度の調整も可能であり、最適の物性を得るために自由に調整することが出来る。
【0071】
加熱によってゲル化した混練肉は、それ自身が含有する脂質により、移送性を失わずに加熱装置から連続的に加熱成形されて押し出され、所望の加工品が連続して得られる。
【0072】
さらに、上記筒体20を回転させながら、同様に加熱成形すると、筒体20の回転により、表面の加熱ムラがなくなり、より好ましい製品が得られる。
【0073】
本開示の態様の畜肉又は水産物由来肉としては、魚介類のすり身、落し身や、畜肉のミンチなどが利用できる。加熱装置の筒体の直径を適宜選択することにより、種々の直径の製品を容易に連続生産することができる。
【0074】
本開示の態様のタンパク質含有加工食品は、ロープのように連続的に生産されるので、目的に応じて適当な長さにカットして用いる。
【0075】
また、本開示の態様は以下のように加熱成形する際に、2種類以上の素材を組み合わせた製品とする実施態様を含む。
【0076】
本開示の態様のタンパク質含有加工食品は、
図8a~
図8dに示す連続加熱装置10のように、内部加熱装置30の手前の筒体20に前記混合物とは別の付加混合物を送り込むためのノズル50を設け、前記混合物及び前記付加混合物を同時に前記筒体20中に送り込み、筒体20中で加熱成形することにより、前記混合物で形成される層の中心部に前記付加混合物が貫通した形状の食品を製造することができる。なお、
図8a、
図8b、
図8c及び
図8dはそれぞれ、
図5、
図6a、
図6b及び
図7に示す連続加熱装置10において、筒体20に上記したノズル50が設けられている態様を示す。
【0077】
付加混合物の種類及び性状については特に限定されないが、タンパク質含有加工食品から流れ出さない程度の粘性がある必要はある。具体的には、外側の被加熱物と同じ配合の付加混合物に異なる色をつけたものを貫通させると、切断面に模様をつくることができる。あるいは、ケチャップ、マヨネーズのような調味料を付加混合物として貫通させると味つきのソーセージなどを製造することができる。調味料は流れない程度に粘度を高めたものが好ましい。貫通させる付加混合物は1種である必要はなく、複数のノズル50で複数の付加混合物を貫通させることができる。外側の被加熱物と貫通させる付加混合物は導入する圧力を均等にすると筒体中で混ざってしまわないようにすることができる。たとえば、ハート型のノズル50で外側と色の異なる練り肉を貫通するように送りこむと、出来上がりのソーセージは断面にハート型の模様ができる。
【0078】
あるいは、複数の種類の加熱によりゲル化する混合物を同時に筒体に導入することにより、二色、三色のストライプ状などのタンパク質含有加工食品を製造することもできる。
【0079】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
[製造方法]
表1の魚肉ソーセージ、又はホタテ風味繊維状カマボコの配合で、すり身に食塩を添加して塩摺りし、その後、その他の調味料、植物タンパク、デンプン、植物油及び水を添加して、混合しペースト状にして練り肉を調製した。
【0081】
それぞれの練り肉を、フッ化樹脂性筒体にポンプで送り、筒体の加熱部をマイクロ波により加熱し、ケーシング無しの魚肉ソーセージ又はホタテ風味繊維状カマボコを製造した。マイクロ波加熱には、株式会社廣電製の連続マイクロ波加熱装置を用いた。
【0082】
連続マイクロ波加熱装置を用いて、加熱温度は吐出された被加熱物の中心温度が85℃となるようにマグネトロンの出力を調整した。使用した機器は、マイクロ波加熱の連続処理では、筒体の外周に金属壁で三つに区分けされたそれぞれの区画にマイクロ波発生装置(マグネトロン)が120度の位相で装着されたマイクロ波加熱装置である。用いた筒体は直径23mm、筒体の加熱部は2000mmとした。
【0083】
【0084】
[実施例1]魚肉ソーセージ
上述の製造方法により、魚肉ソーセージを製造した。表2に示すように、垂直方向吐出方式のみを採用した比較例以外は水平方向吐出方式を採用し、非加熱部筒体を構成するチューブの全長、チューブの形状、チューブの高低差(加熱部の終点とチューブの最高点)、切断装置の有無、種類を変えて製造した。切断装置の四分割は、二等分する刃物を二カ所に設置することにより行い、メッシュには線径0.5mmで開口部の一辺が2mm又は3mmのステンレスの網を用いた。
【0085】
いずれの条件でもフラッシュ現象は発生せず、安定に生産することができた。
【0086】
参考のために、製造が安定化した時点の筒体内の平均圧力を測定した結果を表2に示した。測定方法は、マイクロ波加熱装置の入口付近の筒体内に圧力センサー(GP-M010、株式会社キーエンス)を挿入し、圧力を連続的に記録した(ペーパーレスレコーダーTR-V、株式会社キーエンス)。同じ条件でも平均圧力が異なる理由は、配合が同じであっても、原材料のロットが異なるための品質のブレや当日の気温の変化などによるものと考えられる。従来技術である垂直方向吐出方式の平均圧力250kPa以下の圧力でも安定に生産できた。垂直方向吐出方式では、加熱部のチューブが垂直(2000mm)であるが故にフラッシュ現象を防止する以上の圧力が発生していると考えられる。安定吐出のためには、100kPa程度でも十分であると考えられる。
【0087】
水平方向吐出方式を用いて、垂直方向吐出方式を用いたのと同様に、ケーシングのない魚肉ソーセージを安定して連続生産できた。
【0088】
【0089】
[実施例2]ホタテ風味繊維状カマボコ
表1のホタテ風味繊維状カマボコの配合の練り肉を用いて、実施例1同様に、ホタテ風味繊維状カマボコを製造した。筒体の非加熱部にメッシュ状の切断装置を設けることにより、繊維状カマボコの形状の製品を連続的に生産することができた。水平方向吐出方式に切断装置を組み合わせるだけでも、また、非加熱部の高低差と切断装置を組み合わせても、また、垂直方向吐出方式と切断装置を組み合わせても、いずれも突沸することなく安定に生産することができた。魚肉ソーセージと比較すると、油脂の含有量が少ないため、筒体内の平均圧力は高くなっている。
【0090】
【0091】
[実施例3]ホタテ風味繊維状カマボコ
表1のホタテ風味繊維状カマボコの練り肉を用いて、実施例1同様に、ホタテ風味かまぼこ(切断装置無し)又はホタテ風味繊維状カマボコ(切断装置有り)を製造した。本実施例では、潤滑剤を供給するため外皮ノズルを用いて表4に記載の醤油又は醤油+カラメルを潤滑剤として用いた。いずれの方法でもフラッシュを生じることなく生産することができた。表4に示すように、潤滑剤を用いることにより、平均内圧を低くすることができる。
【0092】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の製造方法により、筒体内での内部加熱による加熱を水平状態で行うことができ、各種タンパク質含有加工食品を、より作業効率よく、連続生産することができる。