(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220818BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220818BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20220818BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20220818BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20220818BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20220818BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/02
C08K5/00
C08F293/00
C08L53/00
C08J3/20 B CER
C08J3/20 CEZ
C08L1/02
(21)【出願番号】P 2016201243
(22)【出願日】2016-10-12
【審査請求日】2019-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2015237019
(32)【優先日】2015-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術創造促進事業(異分野融合共同研究)」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】原田 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】生熊 崇人
(72)【発明者】
【氏名】大川 淳也
(72)【発明者】
【氏名】松末 一紘
(72)【発明者】
【氏名】新谷 淳次
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/133019(WO,A1)
【文献】特開2013-127141(JP,A)
【文献】特開2014-227639(JP,A)
【文献】特開2014-193959(JP,A)
【文献】特開2014-162880(JP,A)
【文献】特開2008-274247(JP,A)
【文献】特開2012-087171(JP,A)
【文献】特表2008-520821(JP,A)
【文献】辻井 敬亘,高分子分散剤による木材由来NCの界面機能制御と樹脂複合材料への応用,Nanocellulose Symposium 2015 進む!セルロースナノファイバープロジェクト,2015年03月20日,p.59-62
【文献】榊原圭太,辻井敬亘,原田哲哉,高分子分散剤による木材由来ナノセルロースの界面機能制御と樹脂複合材料への応用,日本ゴム協会誌,2015年11月15日,第88巻,第11号,p.443-446,特にp.445,Figure 4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が5μm以上のセルロースナノファイバー、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物の製造方法であって、
(1)パルプ及び樹脂を混合する工程、及び
(2)前記工程(1)の混合物を
混練機に供し混練することでパルプを解繊し、平均繊維長が5μm以上のセルロースナノファイバー及び樹脂を含む樹脂組成物を得る工程を順に含み、
前記工程(1)の混合工程
並びに工程(2)の
混練及び解繊工程から選ばれる少なくとも1工程において、解繊助剤を添加する工程を含み、
前記解繊助剤が、尿素、ビウレット、ビウレア、ヒドラジド、糖、ギ酸ナトリウム、ギ酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸三アンモニウム、シュウ酸ナトリウム、及びシュウ酸アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)の混合工程
並びに工程(2)の
混練及び解繊工程から選ばれる少なくとも1工程において、分散剤を添加する工程を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記解繊助剤が室温で固体である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記解繊助剤を添加する工程における解繊助剤が固形の解繊助剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物が分散剤を更に含む、請求項
2~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法で樹脂組成物を得る工程、及び得られた樹脂組成物を成形する工程を含む、成形材料の製造方法。
【請求項7】
前記成形材料の形態が、シート、ペレット又は粉末である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の製造方法で成形材料を得る工程、及び得られた成形材料を成形する工程を含む、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維は、鋼鉄の1/5の軽さであり、鋼鉄の5倍以上の強度を示し、ガラスの1/50の低線熱膨張係数を示す繊維である。そのセルロース繊維を、樹脂等のマトリックス中にフィラーとして含有させ、樹脂組成物の機械的強度を付与させる技術がある。
【0003】
また、セルロース繊維が有する機械的強度を更に向上させる目的で、セルロース繊維を解繊することで、セルロースナノファイバー(CNF、ミクロフィブリル化植物繊維(MFC)等とも表す)が製造されている。
【0004】
CNFは、セルロース繊維を機械的解繊等の処理を施すことで得られる繊維であり、繊維
幅4~100nm程度、繊維長5μm程度の繊維である。CNFは、高比表面積(250~300m2/g)であり、鋼鉄と比較して軽量であり且つ高強度である。
【0005】
CNFを活用して、軽量且つ高強度を示す樹脂複合材料を製造するためには、大きく三つ
の課題が存在する。一つ目は、樹脂複合材料を低コストで製造する技術を確立することである。二つ目は、セルロース繊維をナノレベルの大きさまで解繊してCNFを調製し、そのCNFを樹脂中で良好に分散させる技術を確立することである。三つ目は、CNFと樹脂成分と
の界面の補強させる技術を確立することである。
【0006】
前記二つ目及び三つ目の課題の解決のために、本発明者らは、特定の高分子分散剤を使用する技術を開発している(特許文献1)。また、特許文献2では、CNFの分散性の向上と
樹脂複合材料の機械的物性向上を目的として、CNFに尿素、ビウレット等の成分が添加さ
れている。しかし、特許文献2のそれら尿素、ビウレット等の成分は、パルプの解繊を向
上させる成分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-162880号公報
【文献】特開2014-227639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、前記一つ目の課題を解決すること、つまり、樹脂複合材料を低コストで製造する技術を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。
【0010】
これまで、CNF強化樹脂の製造では、先ず植物原料を微細化(ナノレベルまでの解繊処
理)してCNFを作製し、このCNFを樹脂に混練するプロセスが検討されている。これは、CNF作製と、CNF及び樹脂の混練との2段階プロセスである。このプロセスでは、CNFは通常水中で作製される。このCNFは極めて高い親水性を示し、その比表面積の大きいため、CNFにはCNF量に対して約100倍量の水が含まれる。
【0011】
この含水CNFを疎水性(親油性)の樹脂と混練するためには、含水CNFに含まれる不要な水を除去することと、その水の除去と同時に進行するCNFの自己凝集を防止することとが
必要となる。このことが、CNF強化樹脂の製造において、製造コストが高くなる要因の一
つである。
【0012】
そのため、CNFの調製とCNFの樹脂中への分散化、並びにCNFと樹脂との複合化を同時に
行うことができる、CNF強化樹脂の製造方法の開発が必要である。このCNF強化樹脂の製造方法は、環境負荷が低いプロセスとなり、低コストを実現でき、実用性が高いプロセスである。
【0013】
本発明は、更に鋭意検討を重ねて完成した発明であり、前記技術を可能とした。
【0014】
項1.
セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物。
【0015】
項2.
更に分散剤を含む前記項1に記載の樹脂組成物。
【0016】
項3.
前記セルロース繊維がセルロースナノファイバーである、前記項1又は2に記載の樹脂組成物。
【0017】
項4.
前記解繊助剤が、尿素、ビウレット、ビウレア、ヒドラジド、糖、糖アルコール、有機酸、及び有機酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分である、前記項1~3の
いずれかに記載の樹脂組成物。
【0018】
項5.
前記分散剤が、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造又はグラジエント共重合体構造を有する成分である、前記項2~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0019】
項6.
セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物の製造方法であって、
(1)パルプ及び樹脂を混合する工程、及び
(2)前記工程(1)の混合物を混練することでパルプを解繊し、セルロース繊維及び樹脂を含む樹脂組成物を得る工程を順に含み、
前記工程(1)の混合工程、工程(2)の混練工程、及び工程(2)の解繊工程から選ば
れる少なくとも1工程において、解繊助剤を添加する工程を含む、製造方法。
【0020】
項7.
前記工程(1)の混合工程、工程(2)の混練工程、及び工程(2)の解繊工程から選ば
れる少なくとも1工程において、分散剤を添加する工程を含む前記項6に記載の製造方法
。
【0021】
項8.
前記樹脂組成物に含まれるセルロース繊維がセルロースナノファイバーである前記項6又は7に記載の製造方法。
【0022】
項9.
樹脂組成物を作製するための、セルロース繊維及び解繊助剤を含む組成物。
【0023】
項10.
更に分散剤を含む前記項9に記載の組成物。
【0024】
本発明では、CNFの作製とCNFの樹脂中への分散を単一操作で行うことができ、これはナノ解繊(ナノレベルまでの解繊)とナノ分散(ナノレベルでの分散)との同時プロセス(Simultaneous nano-Fibrillation Compounding Process、SFCプロセス)である。
【0025】
本発明では、SFCプロセスを開発し、CNF強化樹脂複合材料の製造コストの低減化を実現することが可能である。
【0026】
発明者らは、有機溶媒を使用しない、水系の前処理プロセスを開発した。このプロセスでは、二軸押出機等を用いた混練処理により、木材由来のパルプから効率良くCNFを製造
することが可能である。このプロセスでは、それと同時に、得られたCNFを樹脂中で良好
に分散させることが可能である。
【0027】
本発明の樹脂複合材料を低コストで製造する技術は、パルプに対して、解繊助剤や、好ましくは分散剤(より好ましくは水溶性分散剤)を使用することが特徴である。
【0028】
本発明では、木材由来のパルプに、解繊助剤及び樹脂(高密度ポリエチレン等)を添加し、混合物(プレミックス)を調製する。この混合物を、二軸押出機等を用いて、溶融混練することで、パルプをナノレベルまで解繊する。その結果、CNFを含み、高い力学物性
を示す樹脂複合材料を得ることができる。
【0029】
本発明では、更に好ましくは、原料として、分散剤(より好ましくは高分子分散剤)で処理した木材由来のパルプを用いることで、より高い力学物性を示す樹脂複合材料を得ることができる。
【0030】
本発明は、特殊な脱水装置を用いること無く、複合樹脂材料を調製することができ、低コスト且つ環境負荷の少ない複合樹脂材料の製造プロセスを提供することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、低コスト且つ環境負荷の少ない複合樹脂材料の製造プロセスを提供することができる。
【0032】
本発明は、CNFを含み、高い力学物性を示す複合樹脂材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】ナノ解繊・ナノ分散同時プロセス(SFCプロセス)を示す図である。
【
図3】尿素添加効果を示す引張-ひずみ曲線(SS曲線)を示す図である。
【
図4】尿素を解繊助剤として用いたCNF/PEコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す図である。
【
図5】分散剤と尿素を共に含むCNF/PEコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)を示す図である。
【
図6】分散剤と尿素を共に含むCNF/PEコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す図である。
【
図7】CNF/PEコンポジットにおける分散剤添加量と力学特性の関係を示す図である。
【
図8】異なる混練時間で作製したCNF/PEコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)を示す図である。
【
図9】異なる混練時間で作製したCNF/PEコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す図である。
【
図10】コンポジットにおける解繊性を示すX線CTを示す図である。
【
図11】コンポジットにおける解繊性を示すX線CTを示す図である。
【
図12】異なる種類のパルプを用いて作製したコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)を示す図である。
【
図13】異なる種類のパルプを用いて作製したコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す図である。
【
図14】コンポジットを熱キシレン処理した後の残存セルロース繊維部分のSEM観察結果を示す図である。
【
図15】D-グルコースを解繊助剤に用いたコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)を示す図である。
【
図16】D-グルコースを解繊助剤に用いたコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す図である。
【
図17】プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤からなるコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)を示す図である。
【
図18】プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤からなるコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す図である。
【
図19】プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤からなるコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す図である。
【
図20】プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤からなるコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)を示す図である。
【
図21】プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤からなるコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(1) 樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、更に分散剤を含むことが好ましい。
【0036】
前記セルロース繊維は、セルロースナノファイバー(CNF)であることが好ましい。つ
まり、最終生成物である樹脂組成物に、パルプが解繊されたCNFを含むことが好ましい。
【0037】
本発明の樹脂組成物では、好ましくはセルロース繊維がナノレベルの大きさまで解繊されている。本発明の樹脂組成物では、そのCNFが樹脂中で良好に分散されており、そのCNFと樹脂との界面が補強されている。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、CNFを含み、高い力学物性を示す複合樹脂材料である。本発明
の樹脂組成物は、更に好ましくは、原料として、分散剤(より好ましくは高分子分散剤)で処理した木材由来のパルプを用いることで、より高い力学物性を示す複合樹脂材料となる。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、解繊助剤により、セルロース繊維(CNF)が樹脂中で良好に分
散されている。
【0040】
(1-1) セルロース繊維
セルロース繊維(単にセルロースとも記す)は、原料として、木材、竹、麻、ジュート
、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、布といった天然植物原料から得られるパルプ等の植物繊維を用いて、調製することができる。セルロース繊維の原料として、新聞古紙、段ボール古紙、雑誌古紙、コピー用紙古紙等の古紙を用いることも可能である。木材として、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等を用いることができる。原料は、1種単独でも用いても良く、これらから選ばれた2種以上を用いても良い。
【0041】
セルロース繊維の原料は、パルプやパルプをフィブリル化したフィブリル化セルロースが好ましい。パルプとして、植物原料を化学的又は機械的に、或いは両者を併用してパルプ化することで得られる、ケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)が好ましい。また、これらのパルプ
を主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプを用いても良い。
【0042】
本発明で用いるセルロース繊維原料の平均繊維長は、0.5mm以上が好ましく、2.5mm以上が更に好ましい。繊維長が長いほど、樹脂中で解繊されたCNFのアスペクト比が高くなり
、補強効果を上げることができる。
【0043】
セルロース繊維原料のフリーネスの上限は、720ccが好ましく、540ccが更に好ましい。フリーネスの下限としては、15ccが好ましく、30ccがより好ましいい。フリーネスを上記の範囲にとすることで、樹脂中でセルロース繊維を解繊し易くでき、補強効果を上げることができる。
【0044】
パルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP))等が好ましい。その他、広葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)等)等を用いても良い。
【0045】
セルロース繊維の原料は、必要に応じて、脱リグニン処理、漂白処理等を行い、パルプ中のリグニン量を調整しても良い。パルプは主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成される。パルプ中のリグニン含有量は、特に限定されるものではない。パルプ中のリグニン含有量は、0重量%~40重量%程度であり、好ましくは0重量%~10重量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0046】
植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(MFC)が最小単位として存在する。これが、植物の基本骨格物質(基本エレメント)である。そして、このMFC
が集まって、植物の骨格を形成している。
【0047】
セルロース繊維は、リグノセルロース、MFC、CNF、パルプ、木粉等を含む集合繊維である。
【0048】
本発明の樹脂組成物に含まれるセルロース繊維は、セルロースナノファイバー(CNF)
を用いることができる。CNFとは、セルロース繊維を含む材料(例えば、前記木材パルプ
等の植物原料)を、その繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊処理した)植物繊維である。CNFは、鋼鉄と比較して軽量であり且つ高強度であり、ガラスと比較して熱
変形が小さい植物繊維である。
【0049】
CNFは、セルロース繊維を機械的解繊等の処理を施すことで得られる繊維であり、繊維
径(繊維幅)(平均値)が4nm~200nm程度であり、繊維長(平均値)が5μm程度以上の繊
維である。
【0050】
CNFの繊維径は、4nm~150nm程度が好ましく、4nm~100nm程度がより好ましい。
【0051】
CNFの繊維長は、5μm~100μm程度が好ましい。
【0052】
CNFの繊維径(平均値)や繊維長(平均値)は、例えば電子顕微鏡の視野内のCNFの少なくとも50本以上について測定した時の平均値として表すことができる。
【0053】
CNFの比表面積は、70m2/g~300m2/g程度が好ましく、70 m2/g~250m2/g程度がより好ましく、100 m2/g~200m2/g程度が更に好ましい。
【0054】
CNFの比表面積を高くすることで、樹脂と組み合わせて組成物とした場合に、樹脂との
接触面積を大きくすることができ、樹脂組成物の強度を向上させることができる。CNFの
比表面積を調整することで、樹脂組成物の樹脂中でのCNFの凝集を抑え、高強度の樹脂複
合材料を調製することができる。
【0055】
CNFは、パルプ等のセルロース繊維を解繊することで調製できる。解繊方法では、先ず
、セルロース繊維の水懸濁液又はスラリーを調製する。次いで、その水懸濁液又はスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、混練機(押出機)、ビーズミル等を用いて、機械的に摩砕したり、叩解したりすることで、セルロース繊維を解繊し、CNFを調製することができる。
【0056】
或いは、化学的によりパルプを処理することで、比較的軽微な機械的叩解操作にてCNF
を調製することも可能である。上記解繊方法は、単独で使用することも、組み合わせて使用することも可能である。
【0057】
混練機(押出機)として、一軸又は多軸混練機を使用することが好ましく、二軸混練機を用いることが好ましい。
【0058】
セルロース繊維及びCNFは、セルロースI型結晶を有することが好ましい。その結晶化度は50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましい。セルロース繊
維及びCNFのセルロースI型の結晶化度の上限は、一般的に90%程度である。
【0059】
セルロース繊維及びCNFがI型結晶構造を成すことで、結晶弾性率が高くなる。CNF(或
いはセルロース繊維)及び樹脂(マトリックス材料)を含む樹脂組成物や複合樹脂材料は、CNF(或いはセルロース繊維)がI型結晶構造を成すことで、線熱膨張係数が低く、弾性率が高い複合樹脂材料となる。CNF(或いはセルロース繊維)がI型結晶構造を成すことは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と2θ=22~23°付近の二つの位置に典型的なピークを持つことから同定することができる。
【0060】
セルロースの重合度は天然セルロースで500~10,000程度である。セルロース繊維は、
β-1,4結合により直線的に伸びたセルロースが何本かの束になって、分子内或いは分子間の水素結合で固定され、伸びきり鎖となった結晶を形成している。天然セルロースの結晶形はI型である。セルロース(或いはCNF)は、伸びきり鎖結晶であることに起因して、弾性率が高いだけでなく、鋼鉄と比較して軽量であり且つ高強度であり、ガラスと比較して熱変形が小さい植物繊維である。
【0061】
本発明の樹脂組成物では、セルロース繊維としてCNFが含まれる場合、解繊助剤により
、CNFが樹脂中で良好に分散され、補強素材として樹脂との接合性が良好となる。
【0062】
(1-2) 解繊助剤
本発明の樹脂組成物の調製では、木材由来のパルプ等のセルロース繊維に、解繊助剤、及び高密度ポリエチレン等の樹脂を添加し、混合物(プレミックス)を調製する。この混合物を、二軸混練機(二軸押出機)等を用いて、溶融混練することで、セルロース繊維をナノレベルまで解繊することができる。
【0063】
但し、解繊助剤を添加する時期は問わない。
【0064】
解繊助剤は、パルプの叩解時に添加したり、パルプを含む水中に添加したりすることで、セルロース繊維及び樹脂を含む乾燥状態の混合物(プレミックス)に混ぜることが可能である。
【0065】
その結果、CNFを含み、高い力学物性を示す複合樹脂材料を調製することができる。本
発明の樹脂組成物では、解繊助剤が含まれることで、樹脂組成物中では、CNFの調製(セ
ルロース繊維の解繊)と、CNFの樹脂中への分散化と、CNFと樹脂との複合化とが同時に進む。
解繊助剤は、例えばエステル結合やエーテル結合、アミド結合、尿素結合等のセルロースやヘミセルロースと相互作用する極性の官能基を有する物質が好ましい。また、解繊助剤は、水酸基、アミノ基等の水素結合性の官能基を有する物質が好ましい。
【0066】
解繊助剤は、セルロースやヘミセルロースと相互作用する極性及び水素結合性の官能基を合わせて有する物質が更に好ましい。
【0067】
また、解繊助剤は、混練条件で液体である物質であることが望ましい。
【0068】
以下、「mp」は「融点」を表す。
【0069】
解繊助剤の融点とは、その固体・液体の転移温度である。解繊助剤の分解温度とは、例えば尿素が分解されてビウレット(尿素の二量体)とアンモニアに変換される温度である。解繊助剤は、高温処理で融点に達すると溶け出し、更に高温処理で分解温度に達すると分解し始める。
【0070】
解繊助剤の融点は混練温度以下であることが好ましく、分解温度は混練温度(加工温度)以上であることが好ましい。
【0071】
解繊助剤の融点は、混練時に溶けていることが必要であることから、混練機(押出機)(Xplore Instruments社製等)で、樹脂(ポリエチレン等)を混練している温度以下であることが好ましい。解繊助剤は、一方で、室温では固体であることが望ましい。
【0072】
また、解繊助剤の分解温度は混練温度以上であることが望ましい。
【0073】
尿素及び尿素の誘導体
解繊助剤として、特に尿素(NH2-CO-NH2)(mp: 133~135℃)、ビウレット(H2N-CO-NH-CO-NH2)(mp: 186~189℃)、ビウレア(H2N-CO-NH-NH-CO-NH2)(mp: 247~250℃)
及びヒドラジドからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分が好ましい。
【0074】
解繊助剤として用いるヒドラジドは、4-アミノベンゾヒドラジド(mp: 226~230℃)、2-アミノベンゾイルヒドラジド(mp: 122~125℃)、アゼライン酸ジヒドラジド(mp: 182~187℃)、カルボヒドラジド(mp: 153~157℃)、イソフタル酸ジヒドラジド(mp: 22
7℃)、オキサリルジヒドラジド(mp: 242~244℃)、オキサミン酸ヒドラジド、アジピ
ン酸ジヒドラジド(mp: 179~184℃)、セバシン酸ジヒドラジド(mp: 186℃)、ドデカ
ン二酸ジヒドラジド(mp: 186~191℃)、イソフタル酸ジヒドラジド(mp: 227℃)、テ
レフタル酸ジヒドラジド及びコハク酸ジヒドラジド(mp: 168℃)からなる群から選ばれ
る少なくとも1種の成分が好ましい。
【0075】
解繊助剤が分解すると、解繊助剤の分解物が、別の解繊助剤となり得る。
【0076】
例えば、尿素の融点は133℃程度であるが、融解以降徐々に分解することが知られてお
り、尿素が分解するとアンモニア分子の遊離によりイソシアン酸が生じる。これが別の尿素分子と反応すればビウレットが生成すると考えられる。一方、イソシアン酸がセルロース繊維の表面と反応すればカルバメート化される。
【0077】
このことから、解繊助剤として、尿素又は尿素の誘導体を使用することが好ましく、尿素及びビウレットをより好ましく使用することできる。
【0078】
また、解繊助剤として、尿素及びビウレットと類似分子構造で、融点が約250℃程度の
ビウレア(熱水に可溶である)も、好ましく使用することができる。
【0079】
また、尿素、ビウレット及びビウレアの分子構造に基づき、ヒドラジド類(アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等)も、好ましく使用することができる。
【0080】
尿素の誘導体とは、尿素(NH2-CO-NH2)の水素(原子)を置換してできる化合物である(有機化学・生化学命名法、改訂第2版、南江堂、1988年)。尿素誘導体として、NH2-CO-NH-を有する化合物(ウレイド化合物)や-NH-CO-NH-を有する化合物(ウレイレン化合物
)を使用することができる。
【0081】
尿素の誘導体として、例えば、N,N’-ジメチル尿素(1,3-ジメチル尿素)(mp: 102~108℃)、N,N’-ジエチル尿素(1,3-ジエチル尿素)(mp: 110~113℃)、N,N’-ビス(ヒ
ドロキシメチル)尿素(mp: 125℃)、N,N’-ビス(トリメチルシリル)尿素(mp: 219~221℃)、N,N'-トリメチレン尿素(mp: 263~267℃)、N-フェニル尿素(mp: 145~147℃
)、N,N'-ジシクロヘキシル尿素(mp: 232~233℃)、N,N'-フェニル尿素(1,3-ジフェニルウレア)(mp: 239~241℃)、バルビツル酸(mp: 248~252℃)、ヒダントイン酸(mp: 220℃)、2-イミダゾリドン(エチレン尿素、2-イミダゾリジノン)(mp: 129~132℃
)、シアヌル酸(mp: >360℃)等を使用することができる。
【0082】
尿素の誘導体として、イソウレア(HN=C(OH)-NH2)やHN=C(OH)-NH-を有する化合物(1-イソウレイド化合物)、-N=C(OH)-NH2を有する化合物(3-イソウレイド化合物)を使用することができる。
【0083】
尿素、イソウレア、及びこれらの誘導体の酸素(原子)をアミン又はイオウ(原子)で置き換えてできる化合物も使用することができる。チオ尿素(NH2-CS-NH2)(mp: 170~176℃)、N-メチルチオ尿素(mp: 118~121℃)、N-エチルチオ尿素(mp: 108~110℃)、N-アリルチオ尿素(mp: 70~72℃)、N-フェニルチオ尿素(mp: 145~150℃)、グアニジン塩酸塩(mp: 180~185℃)、S-メチルイソチオ尿素 ヘミ硫酸塩(mp: 240~241℃)、O-メチルイソ尿素 ヘミ硫酸塩(mp: 163~167℃)、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素(mp: 76~78℃)、N,N’-ジイソプロピルチオ尿素(mp: 143~145℃)、N,N’-ジフェニルチオ尿素(mp: 152~155℃)、2-イミダゾリジンチオン(mp: 196~200℃)等を使用することができる。
【0084】
尿素の縮合生成物を使用することができる。例えば、ビウレット(NH2-CO-NH-CO-NH2)に加えて、2-イミノ-4-チオビウレット(mp: 171~173℃)等を使用することができる。
【0085】
尿素の誘導体として、セミカルバジド、カルボノヒドラジド、カルバゾン、カルボジアゾン等を使用することができる。更に、NH2-CO-NH-NH-を有する化合物(セミカルバジド
化合物)、NH=N-CO-NH-NH-を有する化合物(カルバゾノ化合物)を使用することができる。
【0086】
尿素の誘導体として、2,5-ジチオビウレア(mp: 212℃)を使用することができる。
【0087】
糖及び糖アルコール
解繊助剤として、糖を使用することが好ましく、単糖類や二糖類の糖、糖アルコール、単糖・二糖の誘導体等を使用することが好ましい。
【0088】
単糖類として、ケトトリオース(1,3-ジヒドロキシアセトン(mp: 75~80℃)等)及びアルドトリオース(DL-グリセルアルデヒド(mp: 145℃)等)のトリオースを使用することができる。
【0089】
ケトペントース(リブロース、キシルロース等)、アルドペントース(アラビノース(L-(+)-アラビノース)(mp: 160~163℃)、キシロース(D-(+)-キシロース)(mp: 144
~145℃)等)及びデオキシ糖(デオキシリボース(mp: 91℃))のペントースを使用す
ることができる。
【0090】
ケトヘキソース(フルクトース(D-(-)-フルクトース)(果糖)(mp: 104℃)等)、
アルドヘキソース(グルコース(D(+)-グルコース)(mp: 146~150℃)、マンノース
(D-(+)-マンノース)(mp: 132~133℃)等)及びデオキシ糖(ラムノース(L-(+)-ラムノース・一水和物)(mp: 91~93℃)等)のヘキソースを使用することができる。
【0091】
スクロース(サッカロース)(mp: 186℃)、マルトース(マルトース・一水和物(麦
芽糖))(mp: 160~165℃)、トレハロース(D-(+)-トレハロース・二水和物)(mp: 203℃)、セロビオース(D-(+)-セロビオース、mp: 239℃)等の二糖類を使用することができる。
【0092】
ウロン酸(グルクロン酸(D(+)-グルクロン酸)(mp: 159~161℃)等)、アミノ糖(N-アセチル-D-グルコサミン(mp: 211℃)等)、糖アルコール(ソルビトール(D-グルシ
トール)(mp: 95℃)、キシリトール(mp: 92~96℃)等)等を使用することができる。
【0093】
糖アルコールとして、グリセリン(mp: 17.8℃)を使用することができる。
【0094】
上記糖化合物の水酸基を反応させた糖誘導体(β-D-グルコースペンタアセタート(mp:
130-132℃)、α-D(+)-グルコースペンタアセタート(mp: 109~111℃)等)を使用することが出来る。
【0095】
有機酸及びその塩(有機酸塩)
解繊助剤として、有機酸及びその塩(有機酸塩)を使用することが好ましい。
【0096】
ギ酸ナトリウム(mp: 253℃)、ギ酸アンモニウム(mp: 116℃)、酢酸ナトリウム(mp: 324℃)、酢酸アンモニウム(mp: 112℃)、クエン酸ナトリウム(mp: 300℃以上)、
クエン酸三アンモニウム(mp: 185℃)、シュウ酸ナトリウム(mp: 250~270℃分解)、
シュウ酸アンモニウム(mp: 65℃で無水物)等を使用することができる。
【0097】
解繊助剤は単独で使用してもよく、2種以上の解繊助剤を組み合わせて用いても良い。
【0098】
つまり、前記化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の解繊助剤を使用することができる。本発明の樹脂組成物において、前記解繊助剤を用いることで、セルロース繊維(好ましくは、CNF)が樹脂中で良好に分散されている。
【0099】
(1-3) 樹脂
本発明の樹脂組成物に含まれる樹脂成分として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が好ましい。
【0100】
樹脂として、複合樹脂材料を良好に成形できるという利点から、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、オレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ABS樹脂等の汎用樹脂、ナイロン樹脂、ポリアミド樹脂(PA)、ポ
リカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエステル樹脂等の汎用エンジニアリングプラスチック、トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂等が好ましい。
【0101】
熱可塑性樹脂としては、樹脂組成物とした場合の補強効果を十分に得ることができるという利点、安価であるという利点から、オレフィン樹脂等が好ましい。オレフィン樹脂としては、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)等が好ましい。
【0102】
オレフィン系樹脂の中でも、樹脂組成物とした場合の補強効果を十分に得ることができるという利点、安価であるという利点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、バイオポリエチレン等のPE、PP等が好ましい。
【0103】
PAとして、ポリアミド6(PA6、ε-カプロラクタムの開環重合体)、ポリアミド66(PA66、ポリヘキサメチレンアジポアミド)、ポリアミド11(PA11、ウンデカンラクタムを開
環重縮合したポリアミド)、ポリアミド12(PA12、ラウリルラクタムを開環重縮合したPA等が好ましい。
【0104】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂等が好ましい。
【0105】
エポキシ樹脂を用いる場合は、硬化剤を使用することが好ましい。硬化剤を配合することによって、樹脂組成物から得られる成形材料をより強固に成形することができ、機械的強度を向上させることができる。
【0106】
樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いても良い。
【0107】
相溶化剤として、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂に無水マレイン酸やエポキシ等を付加し極性基を導入した樹脂、例えば無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂(PE)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PP)、市販の各種相溶化剤を併用しても良い。相溶化剤は、単独で使用しても良く、2種以上の組み合わせて用いても良い。
【0108】
無水マレイン酸変性樹脂とその他のポリオレフィン系樹脂を組み合わせた混合樹脂を用いる場合、無水マレイン酸変性樹脂の含有割合は、ポリオレフィン系樹脂中、1~40質量%程度が好ましく、1~20質量%程度がより好ましい。混合樹脂として用いる場合の具体例
は、無水マレイン酸変性PPと、PE及び/又はPPとの混合樹脂、無水マレイン酸変性PEと、
PE及び/又はPPとの混合樹脂等が好ましい。
【0109】
本発明の樹脂組成物は、解繊助剤により、セルロース繊維(好ましくは、CNF)が樹脂
中で良好に分散されている。
【0110】
(1-4) 分散剤
本発明の樹脂組成物は、更に分散剤を含むことが好ましい。その分散剤は、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造又はグラジエント共重合体構造を有する成分が好ましい。
【0111】
本発明の樹脂複合材料の調製では、パルプに対して、解繊助剤や分散剤(好ましくは水溶性分散剤や高分子分散剤)を添加し、混合物(プレミックス)を調製する。原料として、分散剤で処理した木材由来のパルプを用い、その混合物を、二軸押出機等を用いて、溶融混練することで、パルプをナノレベルまで解繊する。その結果、CNFを含み、より高い
力学物性を示す複合樹脂材料を得ることができる。
【0112】
ブロック共重合体構造とは、性質(例えば極性等)の異なる高分子鎖A、B、C・・・2種類以上直線状に結合した構造(例えばA-B、A-B-A、A-B-C等)のことである。高分子鎖A
と高分子鎖Bが直線状に結合した様な、A-B型ブロック共重合体構造が挙げられる。公知
のリビング重合を利用することで、ブロック共重合体構造を得ることができる。
【0113】
分散剤は、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、A-B型ジ
ブロック共重合体であることが好ましい。
図1には高分子分散剤の概略を示す。
【0114】
樹脂親和性セグメントA及びセルロース親和性セグメントBを構成するモノマー単位は、ビニルモノマー単位であることが好ましく、(メタ)アクリレート系モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー及びスチレン系モノマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマー単位を含むことがより好ましい。
【0115】
グラジエント共重合体構造とは、性質(例えば極性等)の異なる2種類のモノマーA及びB由来の繰り返し単位からなる共重合体を例にとると、Aユニットに富む高分子鎖の一端からBユニットに富む他端に向かうつれ、Aユニットの割合が減少しBユニットの割合が増加
するような、繰り返し単位の分布勾配がある構造である。公知のリビング重合を利用することで、グラジエント共重合体構造を得ることができる。
【0116】
セルロース繊維の表面は、水酸基を有するため、A-B型ジブロック共重合体又はA-B型グラジエント共重合体のセルロース親和性セグメントBで効果的に被覆される。また、A-B型ジブロック共重合体又はA-B型グラジエント共重合体の樹脂親和性セグメントAにより、セルロース繊維の表面が疎水化される。
【0117】
分散剤により、常温・常圧の穏和な条件で、セルロース繊維を、本来親和性の低い疎水性樹脂にも、セルロース繊維を混合、分散させることができる。
【0118】
そして、疎水化されたセルロース繊維は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の疎水性が非常に高い熱可塑性樹脂中でも均一に分散される。分散剤により、セルロース繊維と樹脂との界面の強度が向上され、樹脂中のセルロースの凝集を抑制できる。その結果、強度及び弾性率に優れた複合材料及び成型体を得ることができる。
【0119】
樹脂親和性セグメントA
樹脂親和性セグメントAは、セルロース親和性セグメントBを介して、セルロースの表面
を疎水化する。樹脂親和性の基本は、対象となる樹脂の構造に類似、又は対象となる樹脂に近い疎水性を有する必要がある。
【0120】
樹脂親和性セグメントAを構成するモノマー単位は、(メタ)アクリレート系モノマー
、(メタ)アクリルアミド系モノマー及びスチレン系モノマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマー単位を含むことが好ましい。
【0121】
樹脂親和性セグメントAは、メタクリル酸ラウリル(lauryl methacrylate: LMA)、メ
タクリル酸合成ラウリル(synthetic lauryl methacrylate: SLMA)、メタクリル酸4-t-
ブチルシクロヘキシル(tert-butylcyclohexyl methacrylate: tBCHMA)、メタクリル酸
シクロヘキシル(cyclohexyl methacrylate: CHMA)、メタクリル酸メチル(methyl methacrylate: MMA)、メタクリル酸エチル(ethyl methacrylate: EMA)、メタクリル酸ブチル(butyl methacrylate: BMA)、メタクリル酸ヘキシル(hexyl methacrylate: HMA)、メタクリル酸2-エチルヘキシル(EHMA)、メタクリル酸ベンジル(benzyl methacrylate: BnMA)、メタクリル酸イソボルニル(isobornyl methacrylate: IBOMA)、メタクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル(dicyclopentenyloxyethyl methacrylate: DCPOEMA)、
メタクリル酸ジシクロペンタニル(dicyclopentanyl methacrylate: DCPMA)等のモノマ
ー成分で構成される繰り返しユニットが好ましい。
【0122】
特に、DCPOEMA等の脂環式化合物を用いることが好ましい。
【0123】
樹脂親和性セグメントAのモノマー成分として、MMA、LMA等のCnH2n+1基、或いは分岐アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリレートモノマー、炭素数の異なるアルキル基が混じった(メタ)アクリレートモノマー、不飽和アルキル基を有する(メタ)アクリレートモノマー等を好ましく用いることができる。
【0124】
樹脂親和性セグメントAのモノマー成分は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0125】
樹脂親和性セグメントAを構成する好ましい繰り返しユニット(モノマー成分)の化学
構造と略号を以下に記す。
【0126】
(a)は樹脂親和性セグメントAの繰り返しユニットである。
【0127】
【0128】
樹脂親和性セグメントAの好ましい態様を表1に示す。
【0129】
【0130】
樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフにおけるポリスチレン
換算の数平均分子量は、500~20,000程度であることが好ましく、500~15,000程度であることがより好ましく、1,000~10,000程度であることが更に好ましい。
【0131】
樹脂親和性セグメントAが、樹脂と樹脂親和性(樹脂との相溶性)示すためには、1,000~10,000程度であることが好ましい。
【0132】
樹脂親和性セグメントAの数平均重合度(繰り返し単位の平均数)は1~200程度が好ま
しく、5~100程度がより好ましく、10~50程度が更に好ましい。
【0133】
樹脂親和性セグメントAを構成するモノマー単位は、(メタ)アクリレート系モノマー、スチレン系モノマー等の疎水性のモノマー群から選ばれるモノマー単位からなることが好ましい。
【0134】
セルロース親和性セグメントB
セルロース親和性セグメントBは、セルロース繊維の表面に対して、水素結合による相
互作用等を含む分子間相互作用を示す。分散剤において、水酸基等を多数有するセルロース親和性セグメントBは、高分子効果によりセルロース繊維と多点水素結合を形成するた
めセルロース表面によく吸着し、且つ脱着され難いとされる。
【0135】
セルロース繊維の表面のゼータ電位がマイナスを示すことは知られており、セルロース繊維を含む材料にはヘミセルロース(グルクロン酸等の負電荷を含むユニットを一部含む)が含まれるため、カチオン性官能基、例えば4級アンモニウム塩等を多数有するセルロ
ース親和性セグメントBが、セルロース繊維に良く吸着される。
【0136】
セルロース親和性セグメントBを構成するモノマー単位は、(メタ)アクリレート系モ
ノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー及びスチレン系モノマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマー単位を含むことが好ましい。
【0137】
セルロース親和性セグメントBとしては、セルロースに対する水素結合性を示す点で、
水酸基(HEMA、糖残基等)、カルボン酸、アミド(尿素、ウレタン、アミジン等)、カチオン部位(4級アンモニウム塩等)を有するセグメントであることが好ましい。
【0138】
セルロース親和性セグメントBを構成する好ましい繰り返しユニット(モノマー成分)
の中で、セルロースに対する水素結合性モノマーとしては、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(hydroxyethyl methacrylate: HEMA)、メタクリル酸ジメチルアミノエチルのベン
ジル化物(quaternized dimethyl aminoethyl methacrylate: QDEMAEMA)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムヨージド(DMAEMA-Me+I-)等が好ましい。
【0139】
セルロース親和性セグメントBのモノマー成分として、セルロースの水酸基と反応でき
る官能基であるという点から、例えばイソシアナート基、アルコキシシリル基、ホウ酸、グリシジル基を有するセグメントを好ましく用いることができる。
【0140】
セルロース親和性セグメントBのモノマー成分として、2-ヒドロキシエチル(メタ)ア
クリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコ-ルモノメチルエーテル(メタ)アクリレート等のグリコールエーテル系(メタ)アクリレート等を好ましく用いることができる。
【0141】
前記「ポリ」及び「(ポリ)」は、いずれもn=2以上を意味する。
【0142】
セルロース親和性セグメントBのモノマー成分は、1種又は2種以上を使用することがで
きる。
【0143】
セルロース親和性セグメントBを構成する好ましい繰り返しユニット(モノマー成分)
の化学構造と略号を以下に記す。
【0144】
(b)はセルロース親和性セグメントBの繰り返しユニットで相互作用するものである。
【0145】
【0146】
セルロース親和性セグメントBの好ましい態様を表2に示す。
【0147】
【0148】
高分子分散剤を水溶化させるために、セルロース親和性セグメントBは、4級アンモニウム塩型の[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムヨージドあるいはクロライド(DMAEMA-Me+I-)を含むセグメントが好ましい。
【0149】
セルロース親和性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフにおけるポリスチレン換算の数平均分子量は、500~20,000程度であることが好ましく、500~15,000程度であることがより好ましく、1,000~10,000程度であることが更に好ましい。セルロース
親和性セグメントBの最も吸着効率が高いと思われる分子量領域である。
【0150】
セルロース親和性セグメントBが、セルロースと多点相互作用を示すためには、1,000~10,000程度であることが好ましい。
【0151】
セルロース親和性セグメントBの数平均重合度(繰り返し単位の平均数)は1~200程度
が好ましく、5~100程度がより好ましく、10~50程度が更に好ましい。セルロース親和性セグメントBの最も吸着効率が高いと思われる分子量領域である。
【0152】
セルロース親和性セグメントBが、セルロースと多点相互作用を示すためには、少なく
とも10量体を含むことが好ましい。
【0153】
分散剤
分散剤は、リビング重合法で合成されるものが好ましく、リビングラジカル重合法で合成されるものがより好ましい。
【0154】
分散剤は、ビニルポリマーが好ましい。特に、(メタ)アクリレート系モノマー、(メ
タ)アクリルアミド系モノマー及びスチレン系モノマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマー単位から構成されることが好ましい。
【0155】
樹脂親和性セグメントA及びセルロース親和性セグメントBとして、リビングラジカル重合法以外で得られるセグメントも使用可能である。例えば、樹脂親和性セグメントAには
、オリゴエチレン鎖、オリゴプロピレン鎖、ポリ乳酸等を用いることが好ましい。
【0156】
セルロース親和性セグメントBには、ポリオキシエチレン(PEO)、オリゴ糖等が好ましい。この場合、一方のセグメントをリビングラジカル重合で合成し、他方のブロックを既存のポリマー、オリゴマー等を使用することが好ましい。
【0157】
分散剤の基本設計は、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有することであり、A-Bジブロック共重合体、A-Bのグラジエント共重合体が好ましい。
【0158】
分散剤全体に占める樹脂親和性セグメントAの割合は、5質量%~95質量%程度であることが好ましく、20質量%~95質量%程度であることがより好ましく、40質量%~70質量%程度であることが更に好ましい。
【0159】
分散剤全体に占めるセルロース親和性セグメントBの割合は、5質量%~95質量%程度であることが好ましく、5質量%~60質量%程度であることがより好ましく、10質量%~50質量%
程度であることが更に好ましい。
【0160】
セルロース親和性セグメントBの占める割合が小さいと、セルロースを被覆する作用が
弱くなる。また、セルロース親和性セグメントBの数平均分子量が大きかったり、その全
体に占める割合が大きかったりすると、溶解性が悪くなったり、セルロースの粒子間の吸着が行なわれ、微粒子分散に不具合が生じる可能性がある。
【0161】
樹脂親和性セグメントA及びセルロース親和性セグメントBの長さは、分散剤全体で1nm
~100nm程度の比較的中分子量ポリマーが好ましい。その長さは、1nm~50nm程度であることがより好ましく、1nm~10nm程度であることが更に好ましい。
【0162】
分散剤のゲルパーミエーションクロマトグラフにおけるポリスチレン換算の数平均分子量は、200~40,000程度であることが好ましく、1,000~20,000程度であることがより好ましく、2,000~10,000程度であることが更に好ましい。分子量が小さいと、物品の物性を
低下させる可能性がある。
【0163】
分子量が大きいため、溶解性が悪くなる傾向があり、例えば、分散剤として用いてセルロース分散体とした場合に、本発明の顕著な効果である、容易にセルロースを分散させる性能が劣るものとなる可能性がある。
【0164】
分散剤の分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.0~1.6程度であることが好ましく、1.0~1.5程度であることがより好ましく、1.0~1.4程度であることが更に好ましい。
【0165】
分散剤の分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)は、分子量分布の程度を表し、その値が小さいことは、分散剤の分子量の分布が狭いこと、即ち、分子量の均一性が高いことを意味する。また、分子量の分布が狭いということは、分子量が大きいものや小さいものが少なく、分散剤の性質が均一なものとなり、その分子量が大きい場合の溶解性の悪化や、小さい場合の物品へ与える影響が少なくなる。この結果、分散剤によってもたらされる高度な微分散状態を与える効果を、より向上させることができる。
【0166】
分散剤の好ましい態様を表3に示す。
【0167】
【0168】
分散剤は、樹脂親和性セグメントAと、セルロース親和性セグメントBからなる、A-B型
ブロック共重合体構造が好ましい。
【0169】
ブロック共重合体は、リビングラジカル重合(LRP)により設計及び合成されることが
好ましく、リビングラジカル重合して得られるビニルポリマーが好ましい。
【0170】
ブロック共重合体を、セルロースを含む水に水溶液或いは水溶性混合溶媒(水とイソプロパノール)に溶かした状態で添加することが好ましい。
【0171】
セルロースと樹脂(PE等)を混合する際に、ブロック共重合体を添加することで、溶融混練時におけるセルロースの凝集を抑制することができる。また、本発明のブロック共重合体を、セルロース及び樹脂(PE等)を含む水中に添加することで、セルロースの解繊工程により、樹脂組成物(成型材料、成型体)の強度を高めることができる。
【0172】
分散剤は、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとの間で、グラジエント共重合体構造を成すことが好ましい。樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとからなるグラジエント共重合体構造では、樹脂親和性セグメントAを構成す
るモノマーaと、セルロース親和性セグメントBを構成するモノマーbとは、極性が異なる
2種類のモノマーである。
【0173】
グラジエント共重合体構造では、モノマーaに富む高分子鎖の一端からモノマーbに富む他端に向かうつれ、モノマーaの割合が減少しモノマーbの割合が増加するような、繰り返し単位の分布勾配がある構造であることが好ましい。
【0174】
分散剤の製造方法
樹脂親和性セグメントAになるモノマー(例えばtBCHMA等)を、両親媒性な溶媒(例え
ばプロピレングリコール、モノプロピルエーテル等)に溶解させ、触媒存在下で、リビングラジカル重合(Living Radical Polymerization:LRP)に供す。次いで、所定時間後に、セルロース親和性セグメントBになるモノマー(例えばHEMA等)を添加してブロック共
重合体を合成する。調製後のブロック共重合体溶液を、含水メタノールに滴下し、固体として析出させる。触媒及び残存モノマーを除去することができる。
【0175】
得られた固体(ブロック共重合体又はグラジエント共重合体)を溶剤に溶解させ、貧溶媒(例えばアセトン等)に滴下させることで再沈殿させることで精製する。
【0176】
LRPとは、ラジカル重合反応において連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、
単量体が反応しつくした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。
【0177】
LRPの特徴としては、モノマーと重合開始剤の濃度比を調節することにより任意の平均
分子量をもつ重合体の合成ができること、また、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いこと、ブロック共重合体の合成へ応用できること、等が挙げられる。リビングラジカル重合はLRPと略される場合や、制御ラジカル重合と呼ばれる場合もある。
【0178】
本発明の重合方法には、上記ラジカル重合性モノマーを用いる。ラジカル重合性モノマーとは、有機ラジカルの存在下にラジカル重合を行い得る不飽和結合を有するモノマーをいう。このような不飽和結合は二重結合であるのが好ましい。即ち、本発明の重合方法には、従来から、LRPを行うことが公知の任意のモノマーを用いることができる。
【0179】
LRP方法は、単独重合、即ち、ホモポリマーの製造に応用することが可能であるが、共
重合によりコポリマーを製造することも可能である。樹脂親和性セグメントA或いはセル
ロース親和性セグメントBは、ランダム共重合であっても良い。
【0180】
ブロック共重合体は、2種類以上のブロックが結合した共重合体であっても良く、3種類以上のブロックが結合した共重合体であっても良い。
【0181】
2種類のブロックからなるブロック共重合の場合、例えば、第1のブロックを重合する工程と、第2のブロックを重合する工程とを包含する方法によりブロック共重合体を得るこ
とができる。
【0182】
この場合、第1のブロックを重合する工程にLRP法を用いても良く、第2のブロックを重
合する工程にLRP法を用いても良い。第1のブロックを重合する工程と、第2のブロックを
重合する工程の両方にLRP法を用いることが好ましい。
【0183】
第1のブロックを重合した後、得られた第1のポリマーの存在下に、第2のブロックの重
合を行うことにより、ブロック共重合体を得ることができる。第1のポリマーは、単離精
製した後に、第2のブロックの重合に供することもできるし、第1ポリマーを単離精製せず、第1のポリマーの重合の途中又は完結時に、第1の重合に第2のモノマーを添加すること
により、ブロックの重合を行うこともできる。
【0184】
3種類のブロックを有するブロック共重合体を製造する場合も、2種類以上のブロックが結合した共重合体を製造する場合と同様に、それぞれのブロックを重合する工程を行って、所望の共重合体を得ることができる。
【0185】
分散剤は、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造又はグラジエント共重合体構造を有するものである。樹脂親和性セグメントAは疎水性部分であり、分散化セグメントとも表すことができる。
【0186】
セルロース親和性セグメントBは親水性部分であり、固定化セグメントとも表すことが
できる。分散剤はA-B型ジブロック共重合体であることが好ましく、LRPにより設計及び合成されることが好ましい。
【0187】
本発明の樹脂組成物は、解繊助剤に加えて分散剤を用いることより、セルロース繊維(好ましくは、CNF)が樹脂中でより良好に分散されている。
【0188】
(1-5) 樹脂組成物の配合割合
樹脂組成物中のセルロース繊維、解繊助剤、分散剤及び樹脂の配合割合は、セルロース繊維が分散できる程度の含有量であれば良い。
【0189】
樹脂組成物中のセルロース繊維の配合割合は、0.1質量%~50質量%程度が好ましく、1質量%~20質量%程度がより好ましく、5質量%~10質量%程度が更に好ましい。
【0190】
樹脂組成物中の解繊助剤の配合割合は、0.01質量%~20質量%程度が好ましく、0.1質量%~10質量%程度がより好ましく、0.1質量%~4質量%程度が更に好ましい。
【0191】
樹脂組成物中の分散剤の配合割合は、0.1質量%~20質量%程度が好ましく、0.1質量%~10質量%程度がより好ましく、1質量%~6質量%程度が更に好ましい。
【0192】
樹脂組成物中の樹脂の配合割合は、10質量%~99.99質量%程度が好ましく、50質量%~99質量%程度がより好ましく、80質量%~95質量%程度が更に好ましい。
【0193】
CNFの調製とCNFの樹脂中への分散化、並びにCNFと樹脂との複合化を同時に行うことが
できる。これにより、CNF強化樹脂の製造が可能である。本発明では、CNFの作製とCNFの
樹脂中への分散を単一操作で行うことができ、これはナノ解繊とナノ分散との同時プロセス(SFCプロセス)である。
【0194】
その結果、CNFを含み、CNFが樹脂中で良好に分散され、高い力学物性を示す複合樹脂材料を得ることができる。
【0195】
(2)樹脂組成物の製造方法
発明の樹脂組成物の調製では、解繊助剤を添加する時期は問わない。
【0196】
解繊助剤は、パルプの叩解時に添加したり、パルプを含む水中に添加したり、セルロース繊維及び樹脂を含む混合物(プレミックス)に混ぜたりすることが可能である。
【0197】
セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物の製造方法は、
(1)パルプ及び樹脂を混合する工程、及び
(2)前記工程(1)の混合物を混練することでパルプを解繊し、セルロース繊維及び樹脂を含む樹脂組成物を得る工程を順に含み、
解繊助剤を添加する好ましい時期は、前記工程(1)の混合工程、工程(2)の混練工程、或いは工程(2)の解繊工程のいずれの時期であっても良い。
【0198】
解繊助剤は、これら工程の少なくとも1工程において添加されても良く、複数の工程(
少なくとも一つの工程)において添加されても良い。
【0199】
セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物の製造方法は、
(1)パルプ、解繊助剤及び樹脂を混合する工程(解繊助剤前添加)、及び
(2)前記工程(1)の混合物を混練することでパルプを解繊し、セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物を得る工程を順にを含むことが好ましい。
【0200】
工程(1)で解繊助剤を添加すること(解繊助剤前添加)は、次の工程(2)でパルプを解繊する際に、CNFが樹脂中で良好に分散される点で好ましい。
【0201】
セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物の製造方法は、
(1)パルプ及び樹脂を混合する工程、及び
(2)前記工程(1)の混合物に解繊助剤を添加して混練することでパルプを解繊し、セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物を得る工程(解繊助剤後添加)を順に含むことが好ましい。
【0202】
工程(2)で解繊助剤を添加すること(解繊助剤後添加)は、パルプを解繊する際に、C
NFが樹脂中で良好に分散される点で好ましい。
【0203】
セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物の製造方法は、
(1)パルプ、解繊助剤及び樹脂を混合する工程(解繊助剤前添加)、及び
(2)前記工程(1)の混合物を混練することでパルプを解繊し、更に解繊助剤を添加して、セルロース繊維、解繊助剤及び樹脂を含む樹脂組成物を得る工程(解繊助剤後添加)を順に含むことが好ましい。
【0204】
工程(1)及び(2)の両工程で解繊助剤を添加すること(解繊助剤前添加+解繊助剤後添加)は、パルプを解繊する際に、CNFが樹脂中で良好に分散される点で好ましい。
【0205】
分散剤を添加する好ましい時期は、前記工程(1)の混合工程、工程(2)の混練工程、或いは工程(2)の解繊工程のいずれの時期であっても良い。分散剤は、これら工程の少
なくとも1工程において添加されても良く、複数の工程(少なくとも一つの工程)におい
て添加されても良い。
【0206】
前記樹脂組成物に含まれるセルロース繊維は、セルロースナノファイバー(CNF)であ
ることが好ましい。
【0207】
各工程では、前述のセルロース繊維、解繊助剤、分散剤、樹脂等の各成分を用いることができる。樹脂組成物中のセルロース繊維、解繊助剤、分散剤、樹脂等の配合割合は、前述の含有量となるように設定すれば良い。
【0208】
樹脂組成物(樹脂複合材料)は、解繊助剤及び分散剤を用いて、セルロース繊維と樹脂とを混合することで調製することができる。解繊助剤を加えることが特徴である。
【0209】
セルロース繊維及び樹脂成分(及び任意の添加剤)を混合する方法としては、混練機(押出機)、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機により混練する方法、攪拌羽により混合する方法、公転・自転方式の攪拌機により混合する方法等が挙げられる。混練機(押出機)として、一軸又は多軸混練機を使用することが好ましく、二軸混練機を用いることが好ましい。
【0210】
混合温度としては、用いる樹脂の加工温度、即ち溶融温度以上が好ましい。混合温度を溶融温度以上に設定することにより、解繊助剤の効果によりセルロース繊維がナノファイバー化され(ナノ解繊)、且つ分散性も損なわれない。分散剤を加えることで、解繊されたセルロースナノファイバー表面が分散剤で覆われることで、更に分散性が向上し(ナノ分散)、理想的なCNF強化樹脂複合材料が得られる。
【0211】
混合温度は、140~200℃程度が好ましい。
【0212】
混合時間は、10分間~1時間程度が好ましい。
【0213】
本発明の樹脂組成物(樹脂複合材料)は、解繊助剤及び好ましくは分散剤を用いて、セルロース繊維と樹脂とを混合することで調製されることから、樹脂組成物中のセルロース繊維(CNF)と樹脂とが混ざり易い。
【0214】
従来の樹脂組成物では、親水性が強いセルロース繊維(CNF)と疎水性が強い可塑性樹
脂(PP、PE等)とは混ざり難くかった。本発明の樹脂組成物では、樹脂に対し、セルロース繊維(CNF)が良好に分散する。その樹脂組成物を用いて作製した成形材料、成形体の
強度及び弾性率は高い。
【0215】
本発明の製造方法により、CNFの調製とCNFの樹脂中への分散化、並びにCNFと樹脂との
複合化を同時に行うことができる。これにより、CNF強化樹脂の製造が可能である。このCNF強化樹脂の製造方法は、環境負荷が低いプロセスであり、低コストを実現でき、実用性が高いプロセスである。
【0216】
つまり、本発明では、CNFの作製とCNFの樹脂中への分散を単一操作で行うことができ、これはナノ解繊とナノ分散との同時プロセス(SFCプロセス)である。本発明では、CNF強化樹脂複合材料の製造コストの低減化を実現することが可能である。
【0217】
本発明の製造プロセスは、有機溶媒を使用しない、水系の前処理プロセスである。このプロセスでは、二軸押出機等を用いた混練処理により、木材由来のパルプから効率良くCNFを製造することが可能である。このプロセスでは、それと同時に、得られたCNFを樹脂中で良好に分散させることが可能である。
【0218】
このプロセスでは、パルプに対して、解繊助剤や分散剤(好ましくは水溶性分散剤)を使用することから、低コストで樹脂複合材料を製造することができる。つまり、本発明では、木材由来のパルプに、解繊助剤及び樹脂(高密度ポリエチレン等)を添加し、混合物(プレミックス)を調製する。この混合物を、二軸押出機等を用いて、溶融混練することで、パルプをナノレベルまで解繊する。
【0219】
その結果、CNFを含み、高い力学物性を示す複合樹脂材料を得ることができる。
【0220】
本発明では、更に、原料として、分散剤(好ましくは高分子分散剤)で処理した木材由来のパルプを用いることで、より高い力学物性を示す複合樹脂材料を得ることができる。
【0221】
本発明は、特殊な脱水装置を用いること無く、複合樹脂材料を調製することができ、低コスト且つ環境負荷の少ない複合樹脂材料の製造プロセスを提供することができる。
【0222】
本発明の樹脂組成物は、解繊助剤や好ましくは分散剤を含むことにより、セルロース繊維(好ましくは、CNF)が樹脂中で良好に分散されており、強度があり、高い力学物性を
示す。
【0223】
本発明は、樹脂組成物を作製するための、セルロース繊維及び解繊助剤を含む組成物であることが好ましい。前記組成物は、更に分散剤を含むことが好ましい。
【0224】
本発明の組成物は、解繊助剤や分散剤により、セルロース繊維(好ましくは、CNF)が
樹脂中で良好に分散されることとなる。本発明の組成物を、樹脂に用いると、強度があり、高い力学物性を示す樹脂組成物を作製することが可能である。
【0225】
(3) 樹脂成形材料及び樹脂成形体
本発明の樹脂組成物を用いて、セルロース繊維と樹脂とを複合化して成形材料を製造することができる。本発明の成形材料から成形体(成形品)を作製することができる。
【0226】
本発明のセルロース繊維と樹脂とを含む成形体は、セルロース繊維が樹脂中で良好に分散することで、高い引張強さ及び弾性率を示す。
【0227】
樹脂組成物は、所望の形状に成形され成形材料として用いることができる。成形材料の形状としては、例えば、シート、ペレット、粉末等が挙げられる。これらの形状を有する成形材料は、例えば圧縮成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いて得られる。
【0228】
本発明は、前記成形材料を用いて成形体を成形することができる。成形の条件は樹脂の成形条件を必要に応じて適宜調整して適用すればよい。本発明の成形体は、セルロース繊維(CNF)含有樹脂成形物が使用されていた繊維強化プラスチック分野に加え、より高い
機械強度(引っ張り強度等)が要求される分野にも使用できる。
【0229】
例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等として有効に使用することができる。
【0230】
図2に、本発明のセルロース繊維(CNF等)、解繊助剤、分散剤及び樹脂を含む樹脂組成物の製造方法で、SFCプロセスの模式図を示す。本発明の樹脂組成物では、セルロース繊
維(CNF等)を、疎水性樹脂に混合させ、二軸押出機においてセルロースナノファイバー
化(CNF化)と共に、それを良好に分散させることができる。
【0231】
セルロースの表面は水酸基を有するため、セルロースは分散剤の親和性セグメントBで
効果的に被覆される。分散剤の樹脂親和性セグメントAにより、セルロースの表面が疎水
化される。そして、表面上、疎水化されたセルロースは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の疎水性が非常に高い熱可塑性樹脂中でも均一に分散される。
【0232】
分散剤の樹脂親和性セグメントAにより、セルロースと樹脂との界面の強度が向上され
る。本発明の組成物を用いることで、樹脂中のセルロースの凝集を抑制でき、強度及び弾性率に優れた複合材料及び成型体を得ることができる。
【0233】
本発明の組成物に含まれる分散剤では、樹脂親和性セグメントAとして、好ましくはメ
タクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル(DCPOEMA)を含むブロック共重合体又はグ
ラジエント共重合体からなることが好ましい。セルロース親和性セグメントBとして、好
ましくは[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムヨージド(DMAEMA-Me+I-)を含むことが好ましい。
【0234】
セルロース繊維と樹脂(PE、PP、PS等)との混合前に、解繊助剤及び分散剤を添加することで、セルロース繊維(CNF)が樹脂中で凝集を起こさない。
【実施例】
【0235】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0236】
本発明はこれらに限定されるものではない。
【0237】
<実施例>
実施例は、パルプに対して、解繊助剤(尿素等)や分散剤(水溶性高分子分散剤等)を使用し、樹脂複合材料を低コストで製造する技術である。このプロセスは、有機溶媒を使用しない、水系の前処理プロセスである。
【0238】
(1) 使用した分散剤(ブロック共重合体)
分散剤の態様を以下に示す。
【0239】
【0240】
分散剤の態様を表4に示す。
【0241】
【0242】
樹脂親和性セグメント(A鎖)になるモノマー: ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(DCPOEMA)(日立化成製、FA-512M)を両親媒性な溶媒(例えばプロピレングリコールモノプロピルエーテル)に溶解させ、触媒存在下、リビングラジカル重合に供した。1st block: ポリ(ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート)(polyDCPOEMA)を調製した。
【0243】
所定時間後に、セルロース繊維親和性セグメント(B鎖)になるモノマー: メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)を添加してブロック共重合体を合成した。2nd block:ポリ(メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル)(polyDMAEMA)を調製した。
【0244】
調製したブロック共重合体を水:メタノール(4:1)の混合溶媒に滴下し、固体として析出させた。触媒及び残存モノマーを除去した。
【0245】
次に、得られたブロック共重合体を脱水アセトンに溶解させ、DMAEMA成分に対して1等
量のヨウ化メチルを氷浴、アルゴンガス雰囲気下、滴下させた。室温にて一昼夜攪拌後、水:メタノール(4:1)の混合溶媒に滴下し、固体として析出させ、分散剤1~3を得た。
【0246】
得られた分散剤1~3の溶解性を表5に示す。
【0247】
【0248】
分散剤1は、水には不溶であった。分散剤1は、2-プロパノール(イソプロパノール, IPA)と混合させた溶媒には可溶であり、特にIPA:水の重量比率が1:2或いは1:1の混合溶媒に良好に溶解させることができた。
【0249】
分散剤2又は分散剤3の水:IPA(1:1 (w/w))溶液(20 wt%)を、水でポリマー濃度が2 wt%になるまで希釈したが、沈殿物は生じなかった。
【0250】
得られた分散剤は、パルプの水スラリーに添加しても析出することなく水溶性を示すことが確認された。
【0251】
(2) セルロース繊維の調製
各木材パルプ2~4及び6~8はナイヤガラビーターを用いて叩解処理を行った。各木材パルプは吸引濾過と遠心分離により濃縮し、水湿潤スラリーを得た。
【0252】
木材パルプの態様を表6に示す。
【0253】
【0254】
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)の水湿潤スラリーに水を添加し、水懸濁液を調製した(パルプスラリー濃度3重量%の水懸濁液)。
【0255】
(3) プレミックスの調製
(3-1) セルロース繊維/樹脂の調製方法
パルプの3重量%の水懸濁液と高密度ポリエチレン(住友精化株式会社製フロービーズHE3040)を30:40 (w/w)の比率で混合後、送風乾燥機(105℃設定)で一昼夜乾燥させることでセルロース繊維/樹脂のプレミックス(PM-1)を得た。
【0256】
(3-2) セルロース繊維/樹脂/分散剤の調製方法
分散剤3を2-プロパノール(IPA)/水の混合溶媒(1:2, w/w)に溶解させ、20重量%の
分散剤溶液を得た。
【0257】
パルプ:HDPE:分散剤=30:70-x:x(w/w/w)の所定比(x=6, 9, 12, 15, 18, 24, 30)で混合し、送風乾燥機(105℃設定)で一昼夜乾燥させることでセルロース繊維/樹脂の乾燥体を得た。粉砕処理によりプレミックス(PM-2~PM-8)を得た。
【0258】
プレミックスの態様を表7に示す。
【0259】
表中、HDPEは高密度ポリエチレンを表す。
【0260】
【0261】
(4) 樹脂組成物(PE)の調製1
セルロース繊維(CNF)/解繊助剤/分散剤/樹脂の調製方法
【0262】
【0263】
【0264】
表8の配合組成に従ってプレミックス、解繊助剤及び希釈樹脂を混合し、溶融混練サン
プルを調製した。各サンプルを表9の条件の二軸混練機に供し、溶融混練した。
【0265】
解繊助剤として、尿素及びビウレットを用いた。
【0266】
希釈樹脂として、高密度ポリエチレン(HDPE, J320, 旭化成)を用いた。
【0267】
混練条件
・混練装置:Xplore Instruments社製のXplore MC15K
・混練条件:表9を参照
射出成型条件
・射出成形機:Xplore Instruments社製のIM12K
・成型条件:成型温度=150℃(PEの場合)
・金型温度:50℃
・射出圧力:10bar/5s →13bar/32s
引張試験
電気機械式万能試験機(インストロン社製)を用い、試験速度を1.5mm/分として弾性
率及び引張強度を測定した(ロードセル5kN)。その際、支点間距離を4.5cmとした。
【0268】
解繊性の評価
ダンベル成型体からミクロトームで厚さ20μmの薄片を切り出し、ホットステージで140℃(HDPEの場合)に加熱した薄片を偏光顕微鏡により観察した。
【0269】
(5) 混練時の尿素添加量の最適化
図3及び表10に評価結果を示す。
図3に、尿素添加効果を示す引張-ひずみ曲線(SS曲線
)を示す。
図4に、尿素を解繊助剤として用いたCNF/PEコンポジットの偏光顕微鏡観察結
果を示す。
【0270】
分散剤は添加していない。
【0271】
【0272】
解繊助剤として尿素を加えることで、弾性率と強度が大きく向上した。
【0273】
また、解繊助剤を加える程、パルプに由来する太い繊維が減り、CNFに由来する散乱光
が増大したことから、CNF化の進行を確認した。
【0274】
(6) 樹脂組成物(PE)の調製2、及び
(7) 分散剤を含む時の尿素添加量の最適化
図5及び表11に評価結果を示す。
図5は、分散剤と尿素を共に含むCNF/PEコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)である。
図6に、分散剤と尿素を共に含むCNF/PEコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す。
【0275】
分散剤は添加されている。
【0276】
【0277】
分散剤の添加により、さらなる弾性率と強度の向上が確認された。
【0278】
(8) 分散剤を添加する時の混練時の分散剤添加量の最適化
図7及び表12に評価結果を表す。
図7は、CNF/PEコンポジットにおける分散剤添加量と力学特性の関係を示す。
【0279】
【0280】
セルロースに対して、2wt%の分散剤添加量でも効果が発揮された。
【0281】
(9) 分散剤を添加する時の混練時の混練時間の最適化
図8及び表13に評価結果を示す。
図8は、異なる混練時間で作製したCNF/PEコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)である。
図9に、異なる混練時間で作製したCNF/PEコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す。
【0282】
【0283】
混練時間は60分で十分である。
【0284】
混練時間を150分以上行うと物性が低下する傾向が有る(サンプルNo.27及び28)。
【0285】
図9より、混練時間の増加により未解繊繊維が減少したことが確認できた。
【0286】
解繊助剤として、ビウレットを用いても、CNF化とナノ分散化は達成された(サンプルNo. 29)。
【0287】
図10及び11に、コンポジットにおける解繊性を示すX線CTを示す。
【0288】
図10では、尿素・分散剤なし(サンプルNo.3)、尿素有り・分散剤無し(サンプルNo.7)、尿素有り・分散剤有り(サンプルNo.21)を比較している。
【0289】
図11では、尿素有り・分散剤有りで混練時間が30分(サンプルNo.24)、60分(サンプ
ルNo.21)、180分(サンプル No.28)を比較している。
【0290】
(10) パルプの種類の違いによる評価
図12及び表14に評価結果を示す。
図12は、異なる種類のパルプを用いて作製したコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)である。
図13に、異なる種類のパルプを用いて作製
したコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す。
【0291】
【0292】
【0293】
いずれの場合においても、力学物性が樹脂単独よりも向上しており、また、樹脂の溶融下における偏光顕微鏡観察よりCNF化の促進が確認された。
【0294】
より詳細に観察すると、NBKPを原料に用いた場合、叩解処理を施すことで二軸押出機でのナノファイバー化は容易となり、結果として力学物性の指標である引張弾性率と破断強度は増加する。
【0295】
一方、同一の混練条件では、叩解時間が長すぎると引張弾性率が多少減少する。しかしながら、ナノファイバー化はより容易に進行した。
【0296】
(11) 熱キシレン処理後のダンベル試験片のSEM観察
ダンベル試験片を160℃に加熱したキシレン溶媒に浸漬することで、HDPE樹脂を溶解さ
せることができる。
【0297】
そこで、熱キシレン処理後に残存する成分、即ちダンベル試験片のセルロース繊維部分を取り出し、SEM観察に供した。
【0298】
図14に、コンポジットを熱キシレン処理した後の残存セルロース繊維部分のSEM観察結
果を示す。
【0299】
図14に示すように、条件7の混練により得られたサンプルNo.35(セルロース/分散剤3/
樹脂/尿素=10/0/80/0)は、繊維の切断が観察された。
【0300】
サンプルNo. 36(セルロース/分散剤3/樹脂/尿素=10/0/86/4)及びサンプルNo.37(セ
ルロース/分散剤3/樹脂/尿素=10/10/76/4)は、繊維の切断が顕著に抑制された。サンプ
ルNo.36とサンプルNo.37とのSEM画像で、顕著な違いが内ことから、セルロース繊維の切
断を抑制したのは解繊助剤である尿素が担ったものと考えられる。
【0301】
(12) 解繊助剤の検討1
一例として、解繊助剤にD-グルコース(mp:146-150℃)を用いた結果を表す(サンプルNo.38)に示す。
【0302】
図15及び表15に評価結果を示す。
図15は、D-グルコースを解繊助剤に用いたコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)である。
図16に、D-グルコースを解繊助剤に用いたコン
ポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す。
【0303】
【0304】
解繊助剤とD-グルコースを使用すると、サンプルNo.3(セルロース/樹脂=10/90)やサ
ンプルNo.11(セルロース/分散剤3/樹脂=10/10/80)に比べて、力学物性の指標となる引
張弾性率及び破断強度が向上した。
【0305】
解繊助剤とD-グルコースを使用すると、同条件において、解繊助剤に尿素(サンプルNo. 21)やビウレット(サンプルNo. 29)を用いたサンプルに比べて、物性が劣り、また解繊性も不十分であった。
【0306】
従って、解繊助剤としては、アミノ基や尿素結合を有する物質が好ましい。
【0307】
(13) 解繊助剤の検討2
解繊助剤として、尿素(mp:133-135℃)に替えて、D-(+)-グルコース(mp: 146-150℃)、D-グルシトール(D-ソルビトール)(mp: 95℃)、ビウレア(mp: 247-250℃)、2,5-ジチオビウレア(mp: 212℃)、1,3-ジフェニルウレア(mp: 239-241℃)、又はジメチル尿素(mp: 101-104℃)を用いた結果を表す。
【0308】
プレミックス(PM)の調製方法を示す。
【0309】
【0310】
得られたプレミックスに解繊助剤をパルプに対して4重量%添加し、且つパルプ濃度が10重量%となるようにPEで希釈した。これを溶融混練に供した。
【0311】
混練条件
・混練装置:Xplore Instruments社製のXplore MC15K
・混練条件:二軸回転数200 rpm, 混練時間60 min, 混練温度140℃
射出成型条件
・射出成形機:Xplore Instruments社製のIM12K
・成型条件:成型温度=150℃
・金型温度:50℃
・射出圧力:10bar/5s →13bar/32s
表16に解繊助剤の詳細及び評価結果を表す。
【0312】
【0313】
図17は、プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤からなるコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)である。
図18に、プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤
からなるコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す。
【0314】
解繊助剤として、ジメチル尿素、グルシトール等を使用すると、力学物性の指標となる引張弾性率及び破断強度が向上した。
【0315】
(14) 解繊助剤の検討3
解繊助剤として、尿素(mp:133-135℃)に替えて、L-(+)-アラビノース(mp: 160-163℃)、D-(+)-キシロース(mp: 144-145℃)、D-(-)-フルクトース(果糖)(mp: 104℃)、D-(+)-マンノース(mp: 132-133℃)、L-(+)-ラムノース・一水和物(mp: 91-93℃)、スクロース(サッカロース)(mp: 186℃)、マルトース・一水和物(麦芽糖)(mp: 160-165℃)、D-(+)-トレハロース・二水和物(mp: 203℃)、又はキシリトール(mp: 92-96℃)を用いた結果を表す。
【0316】
混練条件:200 rpm, 60 min, 140℃
【0317】
前記解繊助剤の検討2と同様の手法で、プレミックスを調製した。得られたプレミック
スに解繊助剤をパルプに対して4重量%添加し、且つパルプ濃度が10重量%となるようにPE
で希釈した。これを溶融混練に供した。
【0318】
表17に解繊助剤の詳細及び評価結果を表す。
【0319】
【0320】
図19に、プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤からなるコンポジットの偏光
顕微鏡観察結果を示す。
【0321】
解繊助剤として、キシリトールを添加することで、力学物性の指標となる引張弾性率及び破断強度が向上した。
【0322】
(15) 解繊助剤の添加タイミングの検討1
解繊助剤として、尿素(mp:133-135℃)を用い、前処理時の添加タイミングを検討した。
【0323】
プレミックスの調製方法を示す。
【0324】
処理1は室温下で15分間の攪拌、処理2は沸騰条件下で60分攪拌を示す。
【0325】
【0326】
表18にプレミックスの詳細及び評価結果を表す。
【0327】
【0328】
得られたプレミックスに対して、パルプ濃度が10重量%となるようにPEで希釈した。こ
れを溶融混練に供した。
【0329】
混練条件
・混練装置:Xplore Instruments社製のXplore MC15K
・混練条件:二軸回転数200 rpm, 混練時間60 min, 混練温度140℃
射出成型条件
・射出成形機:Xplore Instruments社製のIM12K
・成型条件:成型温度=150℃
・金型温度:50℃
・射出圧力:10bar/5s →13bar/32s
図20は、プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤からなるコンポジットの引張-ひずみ曲線(SS曲線)である。
図21に、プレミックスPM6/分散剤3/HDPE/種々の解繊助剤
からなるコンポジットの偏光顕微鏡観察結果を示す。
【0330】
(16) 解繊助剤の検討4
ナイヤガラビーターを用いてフリーネスを150mL以下となるまで叩解処理したNBKPを用いて、SFCプロセスで140℃、200rpm、60分間混練し、CNF複合PEを得た。
【0331】
解繊助剤としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、グリセリンを用い、パルプ/分散剤/PE/解繊助剤は、10/0/86/4質量%とした。
【0332】
解繊助剤は、SFCプロセスで混練する直前に添加した。
【0333】
結果及び考察(表19)
4種類の解繊助剤を添加したCNF複合PEは、いずれも解繊助剤を添加しない場合に比べて、高い引張強度、弾性率を示した。特に、グリセリンを添加した系で最も高い物性を示した。
【0334】
解繊助剤を添加したことによりCNF複合PEの物性が向上し、グリセリンを用いた場合にCNF複合PEの物性が最も高くなったが、CNF複合PEの偏光顕微鏡観察においてパルプが解繊
されている様子が確認できており、解繊助剤がSFCプロセスにおいてパルプの解繊を促進
し、物性向上に寄与したものと考えられた。
【0335】
解繊助剤としてクエン酸ナトリウム、クエン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、グリセリンを添加することにより、パルプの解繊が促進され、CNF複合PEの物性は向上した。
【0336】
【0337】
(17) 解繊助剤の添加量の検討
前項で検討した解繊助剤の中で最も効果の高かったグリセリンについて、最適添加量を調査した。
【0338】
ナイヤガラビーターを用いてフリーネスを150mL以下となるまで叩解処理したNBKPを用
いて、SFCプロセスで140℃、200rpm、60分間混練し、CNF複合PEを得た。
【0339】
パルプ/分散剤/PE/解繊助剤は、10/0/86/4質量%を基本に、解繊助剤を1質量%、10質量%とした系(PEと置換え)で検討した。
【0340】
解繊助剤は、SFCプロセスの直前ではなく、叩解処理したパルプに事前に混合した。
【0341】
結果及び考察(表20)
解繊助剤グリセリンを添加量が増加すると共に、CNF複合PEの引張強度、弾性率は向上
した。
【0342】
10質量%までの添加量では、解繊助剤グリセリンの添加量を増加させると、CNF複合PEの偏光顕微鏡観察においてパルプの解繊が促進されており、CNF複合PEの物性は向上し、よ
り好ましい結果となった物性向上に寄与したものと考えられた。
【0343】
【0344】
(18) 解繊助剤添加タイミングの検討2
解繊助剤グリセリンを添加するタイミングが異なるが、添加のタイミングとCNF複合PE
の物性について比較評価した。
【0345】
具体的には、前記ではパルプとPEを混合して105℃乾燥してプレミックスを作製し、そ
れに解繊助剤を添加し、SFCプロセスで混練した。
【0346】
今回、パルプと解繊助剤を事前混合した後、PEと混合、105℃乾燥してプレミックスを
作製し、そのままSFCプロセスで混練した。
【0347】
結果及び考察(表21)
解繊助剤グリセリンを添加の添加タイミングが異なっても、CNF複合PEの物性に大きな
変化はなかった。
【0348】
解繊助剤の添加タイミングによって、CNF複合PEの物性が変化することはなく、どのタ
イミングで解繊助剤を添加してもパルプの解繊は促進され、CNF複合PEの物性は向上する
ことが明らかとなった。
【0349】
【0350】
(19) 高分子分散剤代替としての市販マレイン酸PPの添加効果
水系SFCプロセスにおいて、ブロック共重合体型高分子分散剤を用いない複合材料の作
製を検討した。弾性率及び強度の向上を確認した。最適なMAPPや市販分散剤でもSFCプロ
セスが適用可能と期待できた。
【0351】
表22に用いたマレイン酸PP(MAPP)を表す。
【0352】
【0353】
プレミックス(PM)の調製方法を示す。数字は重量(g)である。
【0354】
【0355】
得られたプレミックスに尿素(解繊助剤)をパルプに対して4重量%添加し、且つパル
プ濃度が10重量%となるようにPEで希釈した。これを溶融混練に供した。
【0356】
混練条件
・混練装置:Xplore Instruments社製のXplore MC15K
・混練条件:二軸回転数200 rpm, 混練時間60 min, 混練温度140℃
射出成型条件
・射出成形機:Xplore Instruments社製のIM12K
・成型条件:成型温度=150℃
・金型温度:50℃
・射出圧力:10bar/5s →13bar/32s
【0357】
表23にサンプルの配合比率及び引張試験結果を表す。
【0358】
【0359】
本発明のSFCプロセスによれば、CNF強化樹脂複合材料の製造コストの低減化を実現することが可能である。
【0360】
産業上の利用可能性
本発明のプロセスでは、木材由来のパルプに、解繊助剤及び樹脂(高密度PE等)を添加し、混合物(プレミックス)を調製できた。この混合物を、二軸押出機等を用いて、溶融混練することで、パルプをナノレベルまで解繊できた。このプロセスでは、二軸押出機等を用いた混練処理により、木材由来のパルプから効率良くCNFを製造することができた。
【0361】
このプロセスでは、それと同時に、得られたCNFを樹脂中で良好に分散させることがで
きた。その結果、CNFを含み、高い力学物性を示す複合樹脂材料を得ることができた。原
料として、分散剤(好ましくは高分子分散剤)で処理した木材由来のパルプを用いることで、より高い力学物性を示す複合樹脂材料を得ることができた。
【0362】
本発明のプロセスは、CNFの作製とCNFの樹脂中への分散を単一操作で行うことができ、これはナノ解繊(ナノレベルまでの解繊)とナノ分散(ナノレベルでの分散)との同時プロセス(Simultaneous nano-Fibrillation Compounding Process、SFCプロセス)である
。このSFCプロセスにより、CNF強化樹脂複合材料の製造コストの低減化を実現することができた。このプロセスは、特殊な脱水装置を用いること無く、複合樹脂材料を調製することができ、低コスト且つ環境負荷の少ない複合樹脂材料の製造プロセスであった。