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特許7126030音響レンズ用組成物、音響レンズ、音響波プローブ、超音波プローブ、音響波測定装置、超音波診断装置、光音響波測定装置及び超音波内視鏡並びに音響波プローブの製造方法
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  • 特許-音響レンズ用組成物、音響レンズ、音響波プローブ、超音波プローブ、音響波測定装置、超音波診断装置、光音響波測定装置及び超音波内視鏡並びに音響波プローブの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】音響レンズ用組成物、音響レンズ、音響波プローブ、超音波プローブ、音響波測定装置、超音波診断装置、光音響波測定装置及び超音波内視鏡並びに音響波プローブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20220818BHJP
   A61B 8/12 20060101ALI20220818BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
A61B8/14
A61B8/12
H04R17/00 330F
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021543676
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2020030767
(87)【国際公開番号】W WO2021044823
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019163019
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【弁理士】
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】中井 義博
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 和博
【審査官】伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002746(WO,A1)
【文献】特開2017-012435(JP,A)
【文献】特開2019-066818(JP,A)
【文献】特開2017-012436(JP,A)
【文献】特開2019-072510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
C08K 3/22
C08K 9/04
C08L 83/05
C08L 83/07
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(C)を含有する音響レンズ用組成物。
(A)ビニル基を有するポリシロキサン、
(B)分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリシロキサン、
(C)アミノシラン化合物、メルカプトシラン化合物、イソシアナトシラン化合物、チオシアナトシラン化合物、アルミニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物及びチタンアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種の表面処理剤で表面処理された酸化亜鉛
ただし、前記アミノシラン化合物はSi-N-Si構造を有しない。
【請求項2】
前記表面処理剤が、前記アミノシラン化合物、前記メルカプトシラン化合物、前記イソシアナトシラン化合物、前記アルミニウムアルコキシド化合物及び前記ジルコニウムアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種である、請求項1に記載の音響レンズ用組成物。
【請求項3】
前記表面処理剤が、前記メルカプトシラン化合物、前記イソシアナトシラン化合物、前記アルミニウムアルコキシド化合物及び前記ジルコニウムアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の音響レンズ用組成物。
【請求項4】
前記表面処理剤が、前記アルミニウムアルコキシド化合物及び前記ジルコニウムアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の音響レンズ用組成物。
【請求項5】
前記アルミニウムアルコキシド化合物が、アセトナト構造及びアセタト構造のうちの少なくとも1種を含むアルミニウムアルコキシド化合物を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の音響レンズ用組成物。
【請求項6】
前記アルミニウムアルコキシド化合物が、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の音響レンズ用組成物。
一般式(1): R1a m1-Al-(OR2a3-m1
1aは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
2aは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基、又は-SOS1を示す。RS1は置換基を示す。
m1は0~2の整数である。
【請求項7】
前記ジルコニウムアルコキシド化合物が、アセトナト構造及びアセタト構造のうちの少なくとも1種を含むジルコニウムアルコキシド化合物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の音響レンズ用組成物。
【請求項8】
前記ジルコニウムアルコキシド化合物が、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の音響レンズ用組成物。
一般式(2): R1b m2-Zr-(OR2b4-m2
1bは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
2bは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基、又は-SOS2を示す。RS2は置換基を示す。
m2は0~3の整数である。
【請求項9】
前記チタンアルコキシド化合物が、N、P及びSの少なくとも1種の原子を含むチタンアルコキシド化合物を含む、請求項1に記載の音響レンズ用組成物。
【請求項10】
前記チタンアルコキシド化合物が、下記一般式(3)で表される化合物の少なくとも1種を含む、請求項1又は9に記載の音響レンズ用組成物。
一般式(3): R1c m3-Ti-(OR2c4-m3
1cは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
2cは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基、又は-SOS3を示す。RS3は置換基を示す。
m3は0~3の整数である。
【請求項11】
前記成分(C)中、前記表面処理剤の含有量が、酸化亜鉛100質量部に対し、1~100質量部である、請求項1~10のいずれか1項に記載の音響レンズ用組成物。
【請求項12】
前記成分(C)を構成する酸化亜鉛の平均一次粒子径が10~200nmである、請求項1~11のいずれか1項に記載の音響レンズ用組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の音響レンズ用組成物を硬化してなる音響レンズ。
【請求項14】
請求項13に記載の音響レンズを有する音響波プローブ。
【請求項15】
請求項13に記載の音響レンズを有する超音波プローブ。
【請求項16】
請求項14に記載の音響波プローブを備える音響波測定装置。
【請求項17】
請求項14に記載の音響波プローブを備える超音波診断装置。
【請求項18】
請求項13に記載の音響レンズを備える光音響波測定装置。
【請求項19】
請求項13に記載の音響レンズを備える超音波内視鏡。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか1項に記載の音響レンズ用組成物を用いて音響レンズを形成することを含む、音響波プローブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響レンズ用組成物、音響レンズ、音響波プローブ、超音波プローブ、音響波測定装置、超音波診断装置、光音響波測定装置及び超音波内視鏡並びに音響波プローブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音響波測定装置においては、音響波を被検対象若しくは部位(以下、「被検対象等」とも称する)に照射し、その反射波(エコー)を受信して信号を出力する音響波プローブが用いられる。この音響波プローブで受信した反射波から変換された電気信号を画像として表示する。これにより、被検対象内部が映像化して観察される。
【0003】
音響波としては、超音波及び光音響波など、被検対象等又は測定条件などに応じて適切な周波数を有するものが選択される。
例えば、超音波診断装置は、被検対象内部に向けて超音波を送信し、被検対象内部の組織で反射された超音波を受信し、画像として表示する。光音響波測定装置は、光音響効果によって被検対象内部から放射される音響波を受信し、画像として表示する。光音響効果とは、可視光、近赤外光又はマイクロ波等の電磁波パルスを被検対象に照射した際に、被検対象が電磁波を吸収して発熱し熱膨張することにより、音響波(典型的には超音波)が発生する現象である。
【0004】
音響波測定装置は、被検対象である生体との間で音響波の送受信を行うため、例えば、生体(典型的には人体)との音響インピーダンスの整合性が要求され、また音響波減衰量の抑制が求められる。また、生体にこすり付けて使用するため一定の機械強度も求められる。これらの要求を満たすために、音響レンズには樹脂材料(母材)としてシリコーン樹脂が用いられ、酸化亜鉛等の無機フィラーを配合して音響インピーダンス、機械強度などを調整している。
例えば、特許文献1には、ビニル基とフェニル基とを有するポリシロキサンと、分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリシロキサンと、酸化亜鉛とを少なくとも含むポリシロキサン混合物を含有する音響波プローブ用組成物及びこの組成物を硬化してなる音響波プローブ用シリコーン樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-72510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
音響波プローブを具備する音響波測定装置は、腹部、心臓などの身体内部の検査に加えて、乳腺、甲状腺、末梢血管、筋骨格、神経及び皮膚等の体表付近の組織の検査にも用いられる。体表付近にある上記組織は微細な構造を持つことから、高解像度の検査画像が求められる。
一般に音響波画像は、音響波の周波数が高いほど解像度が高くなる。さらに、音響波プローブを構成する音響レンズの音速を低下させることにより焦点距離を短くでき、体表付近の組織のより高解像度の画像を得ることができる。つまり、音響レンズの音速を低下することで体表付近にある生体組織について、より精度の高い情報を得ることができる。
この音響波プローブは、生体にこすり付けるようにして音響波の送受信を行うため、音響レンズと、音響整合層との剥離が生じることがあり、この剥離は音響波画像の焦点のズレを生じる原因となる。この音響整合層の音響レンズ側(音響レンズと接する部位)は、一般的にエポキシ樹脂硬化物により構成される。したがって、音響レンズには、音響整合層を構成するエポキシ樹脂硬化物から剥離しにくい特性が必要である。
【0007】
音響波プローブは生体外から適用するだけでなく、内視鏡の鉗子口に挿通させるなどして食道、胃、腸管、気管支等の体腔内に挿入し、体の内部をより精密に検査するためにも使用される。このように体腔内に挿入する音響波プローブもまた、体腔の表層付近の高解像度画像を得ることが求められる。また、体腔内に挿入する音響波プローブには体液に対する耐久性も求められる。例えば、音響波プローブにより食道、胃、十二指腸等の壁面内部を調べる場合には胃酸に対する耐久性が求められる。
【0008】
本発明は、音速が低く、音響整合層から剥離しにくく、また、体液に対する耐久性にも優れた音響レンズを実現することができる音響レンズ用組成物、及び、この組成物を硬化させてなる音響レンズを提供することを課題とする。
また、本発明は、上記音響レンズを有する、音響波プローブ、超音波プローブ、音響波測定装置、超音波診断装置、光音響波測定装置及び超音波内視鏡並びに音響波プローブの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ビニル基を有するポリシロキサンとSi-H基を2個以上有するポリシロキサンとを、特定の表面処理剤で処理した酸化亜鉛の存在下で硬化反応させることにより、得られるシリコーン樹脂の音速を十分に低減できること、エポキシ樹脂硬化シートとの接着性に優れること、また胃液のような強酸性の体液に対する耐久性にも優れることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
<1>
下記成分(A)~(C)を含有する音響レンズ用組成物。
(A)ビニル基を有するポリシロキサン、
(B)分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリシロキサン、
(C)アミノシラン化合物、メルカプトシラン化合物、イソシアナトシラン化合物、チオシアナトシラン化合物、アルミニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物及びチタンアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種の表面処理剤で表面処理された酸化亜鉛
ただし、上記アミノシラン化合物はSi-N-Si構造を有しない。
<2>
上記表面処理剤が、上記アミノシラン化合物、上記メルカプトシラン化合物、上記イソシアナトシラン化合物、上記アルミニウムアルコキシド化合物及び上記ジルコニウムアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種である、<1>に記載の音響レンズ用組成物。
<3>
上記表面処理剤が、上記メルカプトシラン化合物、上記イソシアナトシラン化合物、上記アルミニウムアルコキシド化合物及び上記ジルコニウムアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種である、<1>又は<2>に記載の音響レンズ用組成物。
【0011】
<4>
上記表面処理剤が、上記アルミニウムアルコキシド化合物及び上記ジルコニウムアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の音響レンズ用組成物。
<5>
上記アルミニウムアルコキシド化合物が、アセトナト構造及びアセタト構造のうちの少なくとも1種を含むアルミニウムアルコキシド化合物を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の音響レンズ用組成物。
<6>
上記アルミニウムアルコキシド化合物が、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の音響レンズ用組成物。
一般式(1): R1a m1-Al-(OR2a3-m1
1aは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
2aは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基、又は-SOS1を示す。RS1は置換基を示す。
m1は0~2の整数である。
【0012】
<7>
上記ジルコニウムアルコキシド化合物が、アセトナト構造及びアセタト構造のうちの少なくとも1種を含むジルコニウムアルコキシド化合物を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の音響レンズ用組成物。
<8>
上記ジルコニウムアルコキシド化合物が、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の音響レンズ用組成物。
一般式(2): R1b m2-Zr-(OR2b4-m2
1bは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
2bは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基、又は-SOS2を示す。RS2は置換基を示す。
m2は0~3の整数である。
【0013】
<9>
上記チタンアルコキシド化合物が、N、P及びSの少なくとも1種の原子を含むチタンアルコキシド化合物を含む、<1>に記載の音響レンズ用組成物。
<10>
上記チタンアルコキシド化合物が、下記一般式(3)で表される化合物の少なくとも1種を含む、<1>又は<9>に記載の音響レンズ用組成物。
一般式(3): R1c m3-Ti-(OR2c4-m3
1cは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
2cは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基、又は-SOS3を示す。RS3は置換基を示す。
m3は0~3の整数である。
【0014】
<11>
上記成分(C)中、上記表面処理剤の含有量が、酸化亜鉛100質量部に対し、1~100質量部である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の音響レンズ用組成物。
<12>
上記成分(C)を構成する酸化亜鉛の平均一次粒子径が10~200nmである、<1>~<11>のいずれか1つに記載の音響レンズ用組成物。
<13>
<1>~<12>のいずれか1つに記載の音響レンズ用組成物を硬化してなる音響レンズ。
<14>
<13>に記載の音響レンズを有する音響波プローブ。
<15>
<13>に記載の音響レンズを有する超音波プローブ。
<16>
<14>に記載の音響波プローブを備える音響波測定装置。
<17>
<14>に記載の音響波プローブを備える超音波診断装置。
<18>
<13>に記載の音響レンズを備える光音響波測定装置。
<19>
<13>に記載の音響レンズを備える超音波内視鏡。
<20>
<1>~<12>のいずれか1つに記載の音響レンズ用組成物を用いて音響レンズを形成することを含む、音響波プローブの製造方法。
【0015】
本明細書の説明において、「金属アルコキシド化合物(具体的には、例えば、後述のチタンアルコキシド化合物、アルミニウムアルコキシド化合物及びジルコニウムアルコキシド化合物)」とは、金属原子にアルコキシ基が少なくとも1つ結合した構造を有する化合物を意味する。このアルコキシ基は置換基を有していてもよい。この置換基は1価でもよく、2価(例えばアルキリデン基)でもよい。また、1つの金属原子に結合する2つのアルコキシ基が互いに結合して環を形成していてもよい。
本明細書の説明において、特に断りがない限り、化合物を示す一般式に複数の同一符号の基が存在する場合、これらは互いに同一であっても異なってもよく、また、各基で特定する基(例えば、アルキル基)はさらに置換基を有していてもよい。また、「Si-H基」はケイ素原子上に3つの結合手を有する基を意味するが、この結合手の記載を省き、表記を簡略化している。同様に、「Si-N-Si構造」において、各ケイ素原子は結合手を3つ有し、窒素原子は結合手を1つ有する。
また、本明細書において「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の音響レンズ用組成物は、音速が低く、音響整合層から剥離しにくく、また、体液に対する耐久性にも優れた音響レンズを実現することができる。
また、本発明の音響レンズは、音速が低く抑えられ、音響整合層から剥離しにくく、また、体液に対する耐久性にも優れる。
また、本発明の、音響波プローブ、超音波プローブ、音響波測定装置、超音波診断装置、光音響波測定装置及び超音波内視鏡は、上記優れた性能を有する音響レンズ用組成物を用いて作製した音響レンズを有する。
また、本発明の音響波プローブの製造方法によれば、上記音響レンズを備える音響波プローブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、音響波プローブの一態様であるコンベックス型超音波プローブの一例についての斜視透過図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<<音響レンズ用組成物>>
本発明の音響レンズ用組成物(以下、単に組成物とも称す。)は、下記成分(A)~(C)を含有する。
(A)ビニル基を有するポリシロキサン(成分(A))
(B)分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリシロキサン(成分(B))
(C)アミノシラン化合物、メルカプトシラン化合物、イソシアナトシラン化合物、チオシアナトシラン化合物、アルミニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物及びチタンアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種の表面処理剤で表面処理された酸化亜鉛(成分(C))
ただし、上記アミノシラン化合物はSi-N-Si構造を有しない。その理由は後述する。
【0019】
本発明の組成物は、上記のとおり、(A)ビニル基を有するポリシロキサン(ポリオルガノシロキサン)及び(B)分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリシロキサンを含む。ただし、(B)分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリシロキサンは、(B)分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリオルガノシロキサンが好ましい。
従って、本発明の組成物は、成分(A)と、(B)分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリオルガノシロキサン(成分(B))と、成分(C)とを少なくとも含有することが好ましい。
上記構成を有する本発明の組成物を硬化して得られる本発明の音響レンズは、音速が低く、音響整合層から剥離しにくく、また、胃液のような腐食性の体液に対する耐久性にも優れる。これらの理由は未だ定かではないがいかのように推定される。
音響レンズが比重の大きいフィラーを含有すると、音響波(主に縦波)が音響レンズに侵入する際の慣性により、フィラー界面で位相が遅れて音速が低下すると推定される。本発明の音響レンズが含有する成分(C)は、酸化亜鉛が特定の表面処理剤で表面処理されていることにより、シリコーン樹脂をマトリックスとするレンズ中に実質的に均一に分散して位相の遅れを大きくして音速を効果的に低下させるものと考えられる。また、上述のように、音響整合層の音響レンズ側(音響レンズと接する部位)は、一般的にエポキシ樹脂硬化物により構成される。このエポキシ樹脂硬化物は水酸基を有しており、比較的親水的である。一方で、本発明の音響レンズを構成するシリコーン樹脂マトリックスは比較的疎水的である。本発明の音響レンズが含有する成分(C)を構成する表面処理剤(由来の成分)は、エポキシ樹脂硬化物が有する水酸基等の極性基と共有結合又は水素結合を形成することにより、上記の親水性の樹脂及び疎水性の樹脂間の密着性を向上させて、音響レンズが音響整合層から剥がれにくくなると考えられる。また、上記表面処理剤自身が体液に対する耐久性に優れること等により、上記音響レンズが体液に対する耐久性に優れると考えられる。
【0020】
以降の詳細な説明においては、好ましい態様である、成分(A)及び(B)分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリオルガノシロキサン(成分(B))について記載する。ただし、本発明は以下に記載する態様に限定されるものではない。
【0021】
<(A)ビニル基を有するポリオルガノシロキサン(成分(A))>
本発明に用いられる成分(A)は、分子鎖中に2個以上のビニル基を有することが好ましい。
成分(A)としては、例えば、少なくとも分子鎖両末端にビニル基を有するポリシロキサン(a1)(以下、単に成分(a1)とも称す。)、又は末端を除く分子鎖中に-O-Si(CH(CH=CH)を少なくとも2つ有するポリシロキサン(a2)(以下、単にポリシロキサン(a2)とも称す。)が挙げられる。なかでも、少なくとも分子鎖両末端にビニル基を有するポリシロキサン(a1)が好ましい。
ポリシロキサン(a2)は、-O-Si(CH(CH=CH)が主鎖を構成するSi原子に結合しているポリシロキサン(a2)が好ましい。
【0022】
成分(A)は、例えば白金触媒の存在下、成分(B)との反応によりヒドロシリル化される。このヒドロシリル化反応(付加反応)により、架橋構造(硬化体)が形成されうる。
【0023】
成分(A)のビニル基の含有量は、特に限定されない。なお、音響レンズ用組成物に含まれる各成分との間に十分なネットワークを形成する観点から、ビニル基の含有量は、例えば、0.01~5モル%が好ましく、0.05~2モル%がより好ましい。
ここで、ビニル基の含有量とは、成分(A)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。1つのビニル基含有シロキサンユニットは、1~3個のビニル基を有する。なかでも、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであることが好ましい。例えば、主鎖を構成するSi-O単位及び末端のSiの全てのSi原子がビニル基を少なくとも1つずつ有する場合、100モル%となる。
なお、ポリシロキサンの「ユニット」とは、主鎖を構成するSi-O単位及び末端のSiを言う。
【0024】
また、成分(A)は、フェニル基を有することも好ましく、ポリオルガノシロキサン(A)のフェニル基の含有量は、特に限定されない。音響レンズとしたときの機械的強度の観点から、例えば、好ましくは1~80モル%であり、より好ましくは2~40モル%である。
ここで、フェニル基の含有量とは、成分(A)を構成する全ユニットを100モル%としたときのフェニル基含有シロキサンユニットのモル%である。1つのフェニル基含有シロキサンユニットは、1~3個のフェニル基を有する。なかでも、フェニル基含有シロキサンユニット1つに対して、フェニル基2つであることが好ましい。例えば、主鎖を構成するSi-O単位及び末端のSiの全てのSi原子がフェニル基を少なくとも1つずつ有する場合、100モル%となる。
【0025】
重合度及び比重は、特に限定されるものではない。得られる音響レンズの機械強度(引裂強度)及び化学的安定性、ならびに組成物の硬化前粘度等の向上の点からは、重合度は200~3,000が好ましく、400~2,000がより好ましく、比重は0.9~1.1が好ましい。
【0026】
成分(A)の重量平均分子量は、音響レンズの機械強度及び組成物の硬化前粘度の点から、20,000~200,000が好ましく、40,000~150,000がより好ましく、45,000~120,000がさらに好ましい。
【0027】
重量平均分子量は、例えば、GPC(Gel Permeation Chromatography)装置HLC-8220(商品名、東ソー社製)を用意し、溶離液としてトルエン(湘南和光純薬社製)を用い、カラムとしてTSKgel G3000HXL+TSKgel G2000HXL(いずれも商品名、東ソー社製)を用い、温度23℃、流量1mL/minの条件下、RI(Refractive Index)検出器を用いて測定することができる。
【0028】
成分(A)の25℃における動粘度は、1×10-5~10m/sが好ましく、1×10-4~1m/sがより好ましく、1×10-3~0.5m/sがさらに好ましい。
なお、動粘度は、JIS Z8803に従い、ウベローデ型粘度計(例えば、柴田化学社製、商品名SU)を用い、温度25℃にて測定して求めることができる。
【0029】
少なくとも分子鎖両末端にビニル基を有するポリオルガノシロキサン(a1)は、下記一般式(A)で表されるポリオルガノシロキサンが好ましい。
【0030】
【化1】
【0031】
一般式(A)において、Ra1はビニル基を示し、Ra2及びRa3は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。x1及びx2は各々独立に1以上の整数である。
【0032】
a2及びRa3におけるアルキル基の炭素数は1~10が好ましく、1~4がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1が特に好ましい。アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルへキシル及びデシルが挙げられる。
【0033】
a2及びRa3におけるシクロアルキル基の炭素数は3~10が好ましく、5~10がより好ましく、5又は6がさらに好ましい。また、シクロアルキル基は、3員環、5員環又は6員環が好ましく、5員環又は6員環がより好ましい。シクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル及びシクロへキシルが挙げられる。
【0034】
a2及びRa3におけるアルケニル基の炭素数は2~10が好ましく、2~4がより好ましく、2がさらに好ましい。アルケニル基は、例えば、ビニル、アリル及びブテニルが挙げられる。
【0035】
a2及びRa3におけるアリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、6~8がさらに好ましい。アリール基は、例えば、フェニル、トリル及びナフチルが挙げられる。
【0036】
これらのアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基は置換基を有していてもよい。このような置換基は、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基及びシアノ基が挙げられる。
置換基を有する基としては、例えば、ハロゲン化アルキル基が挙げられる。
【0037】
a2及びRa3は、アルキル基、アルケニル基又はアリール基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基、ビニル基又はフェニル基がより好ましく、メチル基、ビニル基又はフェニル基がさらに好ましく、メチル基又はフェニル基が特に好ましい。
a2はなかでもメチル基が好ましい。Ra3はなかでもメチル基、ビニル基又はフェニル基が好ましく、メチル基又はフェニル基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0038】
x1は200~3,000の整数が好ましく、400~2,000の整数がより好ましい。
x2は、1~3,000の整数が好ましく、1~1,000の整数がより好ましく、40~1,000の整数がさらに好ましく、40~700の整数が特に好ましい。
また、別の態様としては、x1は1~3,000の整数が好ましく、5~1,000の整数がより好ましい。
本発明において、上記一般式(A)中の繰り返し単位「-Si(Ra3-O-」と「-Si(Ra2-O-」は、それぞれ、ブロック重合した形態で存在していてもよいし、ランダムに存在する形態であってもよい。
【0039】
少なくとも分子鎖両末端にビニル基を有するポリオルガノシロキサンは、例えば、いずれもGelest社製の商品名で、DMSシリーズ(例えば、DMS-V31、DMS-V31S15、DMS-V33、DMS-V35、DMS-V35R、DMS-V41、DMS-V42、DMS-V46、DMS-V51及びDMS-V52)、PDVシリーズ(例えば、PDV-0341、PDV-0346、PDV-0535、PDV-0541、PDV-1631、PDV-1635、PDV-1641及びPDV-2335)、PMV-9925、PVV-3522、FMV-4031及びEDV-2022が挙げられる。
なお、DMS-V31S15は、予めフュームドシリカが配合されているため、特別な装置での混練は不要である。
【0040】
本発明において、成分(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
<(B)分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するポリシロキサン(成分(B))>
本発明に用いられる成分(B)は、分子鎖中に2個以上のSi-H基を有する。ここで、成分(B)が「-SiH-」構造を有する場合、「-SiH-」構造中のSi-H基は2個と数えられる。また、成分(B)が「-SiH」構造を有する場合、「-SiH」構造中のSi-H基は3個と数えられる。
分子鎖中にSi-H基を2つ以上有することで、重合性不飽和基を少なくとも2つ有するポリオルガノシロキサンを架橋することができる。
【0042】
成分(B)には、直鎖状構造と分岐状構造が存在し、直鎖状構造が好ましい。
成分(B)の重量平均分子量は、シリコーン樹脂の機械強度及び組成物の硬化前粘度の点から、500~100,000が好ましく、1,500~50,000がより好ましい。成分(B)の重量平均分子量は、成分(A)の重量平均分子量と同様にして測定することができる。
【0043】
直鎖状構造を有する成分(B)は、下記一般式(B)で表されるポリオルガノシロキサンが好ましい。
【0044】
【化2】
【0045】
一般式(B)において、Rb1~Rb3は各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。y1及びy2は各々独立に1以上の整数である。ただし、分子鎖中に2個以上のSi-H基を有する。
【0046】
b1~Rb3におけるアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基としては、例えば、Ra2及びRa3におけるアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基を採用することができる。
【0047】
b1~Rb3は水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基が好ましく、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、ビニル基又はフェニル基がより好ましい。
このうち、Rb1及びRb2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基が好ましく、水素原子又はアルキル基がより好ましく、水素原子又はメチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
b3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基が好ましく、水素原子又はアリール基がより好ましく、水素原子又はフェニル基がさらに好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0048】
y1は、0~2,000の整数が好ましく、0~1,000の整数がより好ましく、0~30の整数がさらに好ましい。
y2は、1~2,000の整数が好ましく、1~1,000の整数がより好ましく、1~30の整数がさらに好ましい。
y1+y2は5~2,000の整数が好ましく、7~1,000の整数がより好ましく、10~50の整数がさらに好ましく、15~30の整数がなかでも好ましい。
本発明において、上記一般式(B)中の「-Si(Rb2-O-」と「-Si(Rb2)(Rb3-O-」は、それぞれ、ポリシロキサン中にブロック重合した形態で存在していてもよいし、ランダムに存在する形態であってもよい。
【0049】
b1~Rb3の組み合わせとしては、Rb1が水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、Rb2が炭素数1~4のアルキル基、Rb3が水素原子又はアリール基の組み合わせが好ましく、Rb1が炭素数1~4のアルキル基、Rb2が炭素数1~4のアルキル基、Rb3が水素原子又はアリール基の組み合わせがより好ましい。
この好ましい組み合わせにおいては、y2/(y1+y2)で表されるヒドロシリル基の含有量は、0.1を超え1.0以下が好ましく、0.2を超え1.0以下がより好ましい。
【0050】
直鎖状構造の成分(B)は、例えば、いずれもGelest社製のメチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー(トリメチルシロキサン末端)である、HMS-064(MeHSiO:5-7mol%)、HMS-082(MeHSiO:7-8mol%)、HMS-301(MeHSiO:25-30mol%)、HMS-501(MeHSiO:50-55mol%)、メチルヒドロシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマーであるHPM-502(MeHSiO:45-50mol%)及びメチルヒドロシロキサンポリマーであるHMS-991(MeHSiO:100mol%)が挙げられる。
ここで、MeHSiOのmol%は、上記Rb1~Rb3の好ましい組み合わせにおけるy2/(y1+y2)に100を乗じたものと同義である。
【0051】
分岐状構造の成分(B)は、分岐構造と2個以上のヒドロシリル基(Si-H基)を有する。
比重は、0.9~0.95が好ましい。
分岐状構造の成分(B)は、下記平均組成式(b)で表されるものが好ましい。
【0052】
平均組成式(b):[H(Rb63‐aSiO1/2y3[SiO4/2y4
【0053】
ここで、Rb6は、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、aは0.1~3を表し、y3およびy4は各々独立に1以上の整数を表す。
【0054】
b6におけるアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基としては、例えば、Ra2およびRa3におけるアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基を採用することができる。
aは、好ましくは1である。
a/3で表されるヒドロシリル基の含有量は、0.1を超え0.6未満が好ましく、0.1を超え0.4未満がより好ましい。
【0055】
一方、分岐状構造の成分(B)を化学構造式で表すと、-O-Si(CH(H)が主鎖を構成するSi原子に結合しているポリオルガノシロキサンが好ましく、下記一般式(Bb)で表される構造を有するものがより好ましい。
【0056】
【化3】
【0057】
一般式(Bb)において、*は少なくともシロキサンのSi原子と結合することを意味する。
【0058】
分岐状構造の成分(B)は、例えば、HQM-107(商品名、Gelest社製、水素化Qレジン)およびHDP-111(商品名、Gelest社製、ポリフェニル-(ジメチルヒドロキシ)シロキサン(水素末端)、[(HMeSiO)(CSi)O]:99-100mol%)が挙げられる。
【0059】
成分(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、直鎖状構造の成分(B)と分岐状構造の成分(B)とを組み合わせて用いてもよい。
【0060】
<アミノシラン化合物、メルカプトシラン化合物、イソシアナトシラン化合物、チオシアナトシラン化合物、アルミニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物及びチタンアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種の表面処理剤で表面処理された酸化亜鉛(成分(C))>
成分(C)は、アミノシラン化合物、メルカプトシラン化合物、イソシアナトシラン化合物、チオシアナトシラン化合物、アルミニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物及びチタンアルコキシド化合物のうちの少なくとも1種の表面処理剤で表面処理された酸化亜鉛である。
【0061】
成分(C)を構成する酸化亜鉛(以下、単に「酸化亜鉛」と称する。)及び成分(C)の形状は特に制限されず、例えば、不定形状、粒子状又は繊維状であり、粒子状が好ましい。
【0062】
本発明に用いられる酸化亜鉛の平均一次粒子径は特に特に制限されず、音響レンズの音速、接着性及び体液に対する耐久性の点から、10~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましく、10~150nmがより好ましく、10~80nmが更に好ましい。
なお、成分(C)の平均一次粒子径は、10~500nmが好ましく、10~200nmがより好ましく、10~100nmが更に好ましく、10~50nmが最も好ましい。
【0063】
平均一次粒子径は、酸化亜鉛の製造メーカーのカタログに記載されている。ただし、カタログに平均一次粒子径が記載されていないもの、又は、新たに製造したものは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)により測定した粒子径を平均することで求めることができる。すなわち、TEMにより撮影した電子顕微鏡写真の1つの酸化亜鉛について、最短径と最長径を測定し、その算術平均値を1つの酸化亜鉛の粒子径として求める。本発明においては、無作為に選択した300個の酸化亜鉛の粒子径を平均し、平均一次粒子径として求める。
【0064】
酸化亜鉛は市販のものを用いることができ、例えば、堺化学工業社製FINEXシリーズ及び住友大阪セメント社製ZnO-CX(いずれも商品名)が挙げられる。
【0065】
本発明に用いられる表面処理剤は、音響レンズの音速、接着性及び体液に対する耐久性の点から、アミノシラン化合物、メルカプトシラン化合物、イソシアナトシラン化合物、アルミニウムアルコキシド化合物及びジルコニウムアルコキシド化合物が好ましく、メルカプトシラン化合物、イソシアナトシラン化合物、アルミニウムアルコキシド化合物及びジルコニウムアルコキシド化合物がより好ましく、アルミニウムアルコキシド化合物及びジルコニウムアルコキシドが更に好ましい。
以下、本発明に用いられる表面処理剤について具体的に説明する。
【0066】
(アミノシラン化合物)
アミノシラン化合物(アミノ基を有するシラン化合物)は、好ましくはアミノ基を有するシランカップリング剤である。ただし、上記アミノシラン化合物はSi-N-Si構造を有しない。Si-N-Si構造を有するアミノシラン化合物(例えばヘキサメチルジシラザン)は、表面処理においてアミノ基はアンモニアとなって除去され、酸化亜鉛表面にアミノ基を導入することできない。そのため、目的の結着性を実現することが困難であり、また体液に対する耐久性の面でも不利である。
【0067】
アミノシラン化合物は、下記一般式(A)で表される化合物を少なくとも1種含むことが好ましく、下記一般式(A)で表される化合物であることがより好ましい。
【0068】
【化4】
【0069】
式中、R及びRは水素原子又は置換基を示す。L1aは単結合、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-S-、-NR-、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、チオアミド結合若しくはスルホニル基又はこれらの基若しくは結合を2つ以上組合せてなる2価の基を示す。Rは、水素原子又は置換基を示す。Y1aはヒドロキシ基又はアルコキシ基を示す。Y2a及びY3aはヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基又はケトオキシム基を示す。
【0070】
及びRとして採り得る置換基は、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~8)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数2~8)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数2~8)、アリール基(好ましくは炭素数6~20、より好ましくは炭素数6~10)が挙げられる。これらの置換基は更に置換基を有してもく、このような置換基としては、R及びR2aとして採り得る置換基として挙げた上記置換基及びアミノ基が挙げられる。
また、R及びRが組み合わされて、アルキリデン基(好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数2~8)を示してもよい。
【0071】
1aはアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、-O-又は-NR-を示すことが好ましく、アルキレン基、アリーレン基又は-NR-を示すことがより好ましく、アルキレン基を示すことが更に好ましい。
【0072】
1aはアルコキシ基を示すことが好ましい。
2a及びY3aはヒドロキシ基又はアルコキシ基を示すことが好ましく、アルコキシ基を示すことがより好ましい。
【0073】
1aとして採り得るアルキレン基は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよい。アルキレン基の炭素数は、1~30が好ましく、1~25がより好ましく、1~20がより好ましく、1~15がより好ましい。アルキレン基の具体例として、メチレン、エチレン、プロピレン、tert-ブチレン、ペンチレン、シクロへキシレン、へプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン及びウンデシレンが挙げられる。
【0074】
1aとして採り得るアルケニレン基は、直鎖及び分岐のいずれでもよい。アルケニレン基の炭素数は、2~20が好ましく、2~15がより好ましく、2~10がより好ましく、2~6がさらに好ましい。アルケニレン基の具体例として、エテニレン及びプロぺニレンが挙げられる。
【0075】
1aとして採り得るアルキニレン基は、直鎖及び分岐のいずれでもよい。アルキニレン基の炭素数は、2~20が好ましく、2~15がより好ましく、2~10がより好ましく、2~6がさらに好ましい。アルキニレン基の具体例として、エチニレン及びプロピニレンが挙げられる。
【0076】
1aとして採り得るアリーレン基の炭素数は6~20が好ましく、6~15がより好ましく、6~12がより好ましく、6~10がさらに好ましい。アリーレン基の具体例として、例えば、フェニレン及びナフチレンを挙げることができる。
【0077】
-NR-のRとして採り得る置換基は、アルキル基(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~8)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数2~8)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数2~8)、アリール基(好ましくは炭素数6~20、より好ましくは炭素数6~10)及び複素環基が挙げられる。Rとして採り得る複素環基を構成する複素環は、飽和又は不飽和の脂肪族複素環でも芳香族複素環でもよく、単環でも縮合環でもよい。また、橋かけ環でもよい。複素環が有するヘテロ原子は、例えば、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられる。1つの複素環が含むヘテロ原子の数は、特に制限されないが、1~3個が好ましく、1又は2個がより好ましい。複素環の炭素数は2~10が好ましく、4又は5がより好ましい。複素環は3~7員環が好ましく、3~6員環がより好ましく、3~5員環がさらに好ましい。複素環の具体例として、エポキシ環、3,4-エポキシシクロヘキサン環、フラン環及びチオフェン環が挙げられる。
-NR-としては、例えば、-NH-が挙げられる。
【0078】
1aとして採り得る、上記基若しくは上記結合を2つ以上組合せてなる2価の基(以下、「L1aとして採り得る組合わせてなる基」とも称す。)を構成する、組合わせる基若しくは結合の数は、2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。
また、L1aとして採り得る組合わせてなる基の分子量は、20~1000が好ましく、30~500がより好ましく、40~200がさらに好ましい。
1aとして採り得る組合わせてなる基としては、例えば、ウレア結合、チオウレア結合、カルバメート基、スルホンアミド結合、アリーレン-アルキレン、-O-アルキレン、アミド結合-アルキレン、-S-アルキレン、アルキレン-O-アミド結合-アルキレン、アルキレン-アミド結合-アルキレン、アルケニレン-アミド結合-アルキレン、アルキレン-エステル結合-アルキレン、アリーレン-エステル結合-アルキレン、-(アルキレン-O)-、アルキレン-O-(アルキレン-O)-アルキレン(「(アルキレン-O)」はいずれも繰り返し単位)、アリーレン-スルホニル-O-アルキレン及びエステル結合-アルキレンが挙げられる。
【0079】
1a~Y3aとして採り得るアルコキシ基を構成するアルキル基は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、これらの形態を組合わせて有してもよい。本発明において、このアルキル基は直鎖のアルキル基であることが好ましい。アルコキシ基を構成するアルキル基の炭素数は、1~15が好ましく、1~10がより好ましく、1~5がより好ましく、1又は2がさらに好ましい。アルコキシ基を構成するアルキル基の具体例として、メチル、エチル、プロピル、t-ブチル、ペンチル及びシクロヘキシルが挙げられる。
【0080】
2a及びY3aとして採り得るアルキル基としては、Y1a~Y3aとして採り得るアルコキシ基を構成するアルキル基を挙げることができ、好ましい形態もY1a~Y3aとして採り得るアルコキシ基を構成するアルキル基の好ましい形態と同じである。
【0081】
2a及びY3aとして採り得るケトオキシム基は下記構造を有する置換基である。
【0082】
【化5】
【0083】
上記構造中、R11及びR12は置換基を示し、*はケイ素原子に対する結合部を示す。
11及びR12が採り得る置換基として、上記Rにおける置換基が挙げられ、好ましい形態もRとして採り得る置換基の好ましい形態と同じである。
【0084】
ケトオキシム基として例えば、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基及びジエチルケトオキシム基等が挙げられる。
【0085】
以下、本発明に用いられるアミノシラン化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
3-アミノプロピルトリメトキシシラン
3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン
3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン
3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン
3-アミノプロピルトリメトキシシラン
3-アミノプロピルトリエトキシシラン
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメトキシシラン
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジエトキシシラン
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン
3-メチルジメトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン
3-メチルジエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデンプロピルアミン
3-トリメトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン
3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン
N-フェニル-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン
N-フェニル-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン
N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン
N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
【0086】
(メルカプトシラン化合物)
メルカプトシラン化合物(メルカプト基(スルファニル基)を有するシラン化合物)は、好ましくはメルカプト基を有するシランカップリング剤である。メルカプトシラン化合物で表面処理された酸化亜鉛は、メルカプトシラン化合物由来のメルカプト基を有することが好ましい。
【0087】
メルカプトシラン化合物は、下記一般式(B)で表される化合物を少なくとも1種含むことが好ましく、下記一般式(B)で表される化合物であることがより好ましい。
【0088】
【化6】
【0089】
1b、Y1b、Y2b及びY3bは、上記一般式(A)のL1a、Y1a、Y2a及びY3aとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0090】
以下、本発明に用いられるメルカプトシラン化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン
3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン
3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン
メルカプトメチルメチルジエトキシシラン
(メルカプトメチル)メチルジメトキシシラン
(メルカプトメチル)ジメチルエトキシシラン
11-メルカプトウンデシルトリメトキシシラン
【0091】
(イソシアナトシラン化合物)
イソシアナトシラン化合物(好ましくは、イソシアナト基を有するシラン化合物)は、好ましくはイソシアナト基を有するシランカップリング剤である。イソシアナトシラン化合物で表面処理された酸化亜鉛は、イソシアナトシラン化合物由来のイソシアナト基を有することが好ましい。
【0092】
イソシアナト化合物は、下記一般式(C)で表される化合物を少なくとも1種含むことが好ましく、下記一般式(C)で表される化合物であることがより好ましい。
【0093】
【化7】
【0094】
1c、Y1c、Y2c及びY3cは、上記一般式(A)のL1a、Y1a、Y2a及びY3aとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0095】
また、本発明においては、イソシアナト化合物として、上記一般式(C)で表される化合物の縮合物及び上記一般式(C)のイソシアナト基が置換基で保護された化合物を用いることも好ましい。上記置換基は、例えば、アルコール化合物、フェノール化合物、芳香族アミン、ラクタム及びオキシムにより導入することができる。このようなアルコール化合物としては、例えば、アルキルアルコール(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~8)が挙げられる。また、フェノール化合物としては、例えば、フェノール及びクレゾールが挙げられる。また、ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタムが挙げられる。
「上記一般式(C)のイソシアナト基が置換基で保護された化合物」とは、上記一般式(C)の-NCOを-NHC(=O)ORに置き換えた化合物である。Rは置換基を示し、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~8)が挙げられる。
【0096】
以下、本発明に用いられるイソシアナトシラン化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン
3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン
イソシアナトメチルトリメトキシシラン
(以下は、縮合や置換基により保護されたイソシアナトシラン化合物)
トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート
(3-トリエトキシシリルプロピル)-t-ブチルカルバメート
トリエトキシシリルプロピルエチルカルバメート
【0097】
(チオシアナトシラン化合物)
チオシアナトシラン化合物(チオシアナト基を有するシラン化合物)は、好ましくはチオシアナト基を有するシランカップリング剤である。チオシアナトシラン化合物で表面処理された酸化亜鉛は、チオシアナトシラン化合物由来のチオシアナト基を有することが好ましい。
【0098】
チオシアナト化合物は、下記一般式(D)で表される化合物を少なくとも1種含むことが好ましく、下記一般式(D)で表される化合物であることがより好ましい。
【0099】
【化8】
【0100】
1d、Y1d、Y2d及びY3dは、上記一般式(A)のL1a、Y1a、Y2a及びY3aとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0101】
以下、本発明に用いられるチオシアナトシラン化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
3-チオシアナトプロピルトリメトキシシラン3-チオシアナトプロピルトリエトキシシランチオシアナトメチルトリメトキシシラン
【0102】
(アルミニウムアルコキシド化合物)
アルミニウムアルコキシド化合物は、アセトナト構造及びアセタト構造の少なくとも1種を含むアルミニウムアルコキシド化合物を含むことが好ましく、アセトナト構造及びアセタト構造の少なくとも1種を含むアルミニウムアルコキシド化合物であることがより好ましい。
【0103】
アルミニウムアルコキシド化合物は、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種を含むことが好ましく、下記一般式(1)で表される化合物であることがより好ましく、アセトナト構造及びアセタト構造の少なくとも1種を含む下記一般式(1)で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0104】
一般式(1): R1a m1-Al-(OR2a3-m1
【0105】
1aは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
1aとして採り得るアルキル基は、直鎖アルキル基及び分岐アルキル基並びにアラルキル基を含む。このアルキル基の炭素数は1~20の整数が好ましく、1~15がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~8が特に好ましいが、アラルキル基の場合は7~30が好ましい。このアルキル基の好ましい具体例として、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、トリデシル、オクタデシル、ベンジル、及びフェネチルが挙げられる。
1aとして採り得るアルキル基はオキシラン環を有していることも好ましい。R1aとして採り得るエポキシシクロアルキルアルキル基におけるシクロアルキル基(オキシラン環が縮合した構造のシクロアルキル基)の環員数は4~8が好ましく、5又は6がより好ましく、6であること(すなわちエポキシシクロヘキシル基であること)がさらに好ましい。
また、R1aとして採り得るアルキル基はアミノ基、イソシアナト基、メルカプト基、エチレン性不飽和基、及び酸無水物基から選ばれる基を有することも好ましい。
【0106】
1aとして採り得るシクロアルキル基は、炭素数が3~20が好ましく、3~15がより好ましく、3~10がさらに好ましく、3~8が特に好ましい。このシクロアルキル基の好ましい具体例としては、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルが挙げられる。
【0107】
1aとして採り得るアシル基は、炭素数が2~40が好ましく、2~30がより好ましく、2~20がさらに好ましく、2~18が特に好ましい。
【0108】
1aとして採り得るアリール基は、炭素数が6~20が好ましく、6~15がより好ましく、6~12がさらに好ましく、6~10が特に好ましい。このアリール基の好ましい具体例としては、例えば、フェニル及びナフチルが挙げられ、フェニルがさらに好ましい。
【0109】
1aとして採り得る不飽和脂肪族基は、炭素-炭素不飽和結合の数が1~5であることが好ましく、1~3がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1であることが特に好ましい。不飽和脂肪族基はヘテロ原子を含んでもよく、炭化水素基であることも好ましい。不飽和脂肪族基が炭化水素基の場合、炭素数は2~20が好ましく、2~15がより好ましく、2~10がさらに好ましく、2~8がさらに好ましく、2~5であることも好ましい。不飽和脂肪族基はより好ましくはアルケニル基又はアルキニル基である。
【0110】
1aは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基が好ましく、アルキル基、又はシクロアルキル基がより好ましい。
一般式(1)の化合物がR1aを2つ以上有する場合、2つのR1aは互いに連結して環を形成していてもよい。
【0111】
2aは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基(ホスホン酸基)、又は-SOS1を示す。RS1は置換基を示す。
2aとして採り得るアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、及びアリール基は、それぞれ、R1aとして採り得るアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、及びアリール基と同義であり、各基の好ましい形態も同じである。また、R2aとして採り得るアルキル基は、置換基としてアミノ基を有することも好ましい。
【0112】
2aとして採り得るアルケニル基は、直鎖アルケニル基及び分岐アルケニル基を含む。このアルケニル基の炭素数は好ましくは2~18であり、より好ましくは2~7、さらに好ましくは2~5である。このアルケニル基の好ましい具体例として、例えば、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル及びヘキセニルが挙げられる。このアルケニル基は置換アルケニル基が好ましい。
【0113】
2aとして採り得るホスホネート基は、-P(=O)(-ORP1)ORP2で表される基である。RP1及びRP2は水素原子又は置換基を示し、この置換基はアルキル基、又はホスホネート基が好ましい。RP1及びRP2として採り得るアルキル基は上述したR1aとして採り得るアルキル基と同義であり、アルキル基の好ましい形態も同じである。RP1及びRP2として採り得るホスホネート基は、R2aとして採り得るホスホネート基と同義であり、好ましい形態も同じである。RP1又はRP2がホスホネート基の場合、このホスホネート基を構成するRP1及びRP2はアルキル基が好ましい。
2aとして採り得るホスホネート基は、RP1及びRP2がともにアルキル基であるか、又は、RP1が水素原子で、RP2がホスホネート基であることが好ましい。
なお、ホスホネート基はホスファイト基(亜リン酸基)と互変異性であるため、本発明においてホスホネート基は、ホスファイト基を含む意味である。
【0114】
2aとして採り得る-SOS1において、置換基RS1としてはアルキル基又はアリール基が好ましい。RS1として採り得るアルキル基及びアリール基の好ましい形態として、それぞれ、上述したR1aとして採り得るアルキル基及びアリール基の好ましい形態を挙げることができる。なかでもRS1はアルキル基を置換基として有するフェニルが好ましい。このアルキル基の好ましい形態は、上述したR1aとして採り得るアルキル基の好ましい形態と同じである。
【0115】
一般式(1)で表される化合物がR2aを2つ以上有する場合、2つのR2aは互いに連結して環を形成していてもよい。
【0116】
m1は0~2の整数である。
【0117】
上記の一般式(1)において、OR2aの少なくとも1つがアセトナト構造を有することが好ましい。このアセトナト構造は、アセトン又はアセトンが置換基を有した構造の化合物から水素イオンが1つ除かれてAlに配位している構造を意味する。このAlに配位する配位原子は通常は酸素原子である。このアセトナト構造は、アセチルアセトン構造(「CH-C(=O)-CH-C(=O)-CH」)を基本構造とし、そこから水素イオンが1つ除かれて、酸素原子を配位原子としてAlに配位している構造(すなわちアセチルアセトナト構造)が好ましい。上記の「アセチルアセトン構造を基本構造とする」とは、上記アセチルアセトン構造の他、上記アセチルアセトン構造の水素原子が置換基で置換された構造を含む意味である。OR2aがアセトナト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物SL-2及びSL-3が挙げられる。
上記の一般式(1)において、OR2aの少なくとも1つがアセタト構造を有することが好ましい。本発明において、アセタト構造は、酢酸もしくは酢酸エステル又はこれらが置換基(酢酸のメチル基が置換基としてアルキル基を有する形態を含む)を有した構造の化合物から水素イオンが1つ除かれてAlに配位している構造を意味する。このAlに配位する配位原子は通常は酸素原子である。このアセタト構造は、アルキルアセトアセタート構造(「CH-C(=O)-CH-C(=O)-O-Ralk」(Ralkはアルキル基(好ましくは炭素数1~10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。)を示す。))を基本構造とし、そこから水素イオンが1つ除かれて、酸素原子を配位原子としてAlに配位している構造(すなわちアルキルアセトアセタト構造)が好ましい。上記の「アルキルアセトアセタート構造を基本構造とする」とは、上記アルキルアセトアセタート構造の他、上記アルキルアセトアセタート構造の水素原子が置換基で置換された構造を含む意味である。OR2aがアセタト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物SL-3、SL―4、及びSL―5が挙げられる。
【0118】
上記R1a又はR2aとして採り得る各基は、対カチオンを有するアニオン性基(塩型の置換基)を置換基として有していてもよい。アニオン性基とは、アニオンを形成し得る基を意味する。上記対カチオンを有するアニオン性基としては、例えば、アンモニウムイオンを対カチオンとするカルボン酸イオンの基が挙げられる。この場合、上記対カチオンは、上記の一般式(1)で表される化合物中において、化合物全体の電荷が0となるように存在していればよい。このことは、後述する、一般式(2)で表される化合物及び一般式(3)で表される化合物についても同様である。
【0119】
以下、本発明に用いられるアルミニウムアルコキシド化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
アルミニウムトリエチレート
アルミニウムトリイソプロピレート
アルミニウムトリsec-ブチレート
アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)
エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート
アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)
アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)
ジイソプロポキシアルミニウム-9-オクタデセニルアセトアセテート
アルミニウムジイソプロボキシモノエチルアセトアセテート
アルミニウムトリスエチルアセトアセテート
アルミニウムトリスアセチルアセトネート
モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート
エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート
ジエチルアセトアセテートアルミニウムイソプロピレート
アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート
アルミニウムトリスエチルアセトアセテート
アルミニウムオクタデシルアセトアセテートジイソプロピレート
【0120】
(ジルコニウムアルコキシド化合物)
ジルコニウムアルコキシド化合物は、アセトナト構造、アセタト構造及びラクタト構造の少なくとも1種を含むジルコニウムアルコキシド化合物を含むことが好ましく、アセトナト構造及びアセタト構造の少なくとも1種を含むジルコニウムアルコキシド化合物を含むことがより好ましく、アセトナト構造及びアセタト構造の少なくとも1種を含むジルコニウムアルコキシド化合物であることがさらに好ましい。
【0121】
ジルコニウムアルコキシド化合物は、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を含むことが好ましく、下記一般式(2)で表される化合物であることがより好ましく、アセトナト構造及びアセタト構造の少なくとも1種を含む下記一般式(2)で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0122】
一般式(2): R1b m2-Zr-(OR2b4-m2
【0123】
1bは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族基として、例えば、上記一般式(1)のR1aとして採り得るアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族基を採用することができる。
【0124】
2bは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基、又は-SOS2を示す。RS2は置換基を示す。
アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基及びホスホネート基として、例えば、上記一般式(1)のR2aとして採り得るアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基を採用することができる。また、RS2として採り得る置換基として、例えば、上記一般式(1)のRS1として採り得る置換基を採用することができる。
【0125】
m2は0~3の整数である。
【0126】
上記の一般式(2)において、OR2bの少なくとも1つがアセトナト構造を有することが好ましい。このアセトナト構造は、一般式(1)で説明したアセトナト構造と同義である。OR2bがアセトナト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物SZ-3及びSZ-6が挙げられる。
また、上記の一般式(2)において、OR2bの少なくとも1つがアセタト構造を有することが好ましい。このアセタト構造は、一般式(1)で説明したアセタト構造と同義である。OR2bがアセタト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物SZ-5及びSZ-7が挙げられる。なお、化合物SZ-5は、一般式(1)において、R2bがアシル基である形態に相当する。
また、上記の一般式(2)において、OR2bの少なくとも1つがラクタト構造を有することが好ましい。このラクタト構造は、乳酸イオン(ラクタート)を基本構造とし、そこから水素イオンが1つ除かれてZrに配位している構造を意味する。上記の「乳酸イオンを基本構造とする」とは、上記乳酸イオンの他、上記乳酸イオンの水素原子が置換基で置換された構造を含む意味である。このZrに配位する配位原子は通常は酸素原子である。OR2bがラクタト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物SZ-4が挙げられる。
【0127】
以下、本発明に用いられるジルコニウムアルコキシド化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
テトラプロポキシジルコニウム(別名 ジルコニウムテトラn-プロポキシド)
テトラブトキシジルコニウム(別名 ジルコニウムテトラn-ブトキシド)
ジルコニウムテトラアセチルアセトネート
ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート
ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)
ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)
ジルコニウムトリブトキシエチルアセトアセテート
ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)
ジルコニウムトリブトキシモノステアレート(別名 ステアリン酸ジルコニウムトリn-ブトキシド)
ステアリン酸ジルコニウム
ジルコニウムラクテートアンモニウム塩
ジルコニウムモノアセチルアセトネート
【0128】
(チタンアルコキシド化合物)
チタンアルコキシド化合物は、N、P及びSの少なくとも1種の原子を含むチタンアルコキシド化合物を含むことが好ましく、N、P及びSの少なくとも1種の原子を含むチタンアルコキシド化合物であることがより好ましい。また、チタンアルコキシド化合物はアセタト構造を有することも好ましい。
【0129】
チタンアルコキシド化合物は、下記一般式(3)で表される化合物の少なくとも1種を含むことが好ましく、下記一般式(3)で表される化合物であることがより好ましく、N、P及びSの少なくとも1種の原子を含む下記一般式(3)で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0130】
一般式(3): R1c m3-Ti-(OR2c4-m3
【0131】
1cは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族基として、例えば、上記一般式(1)のR1aとして採り得るアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族基を採用することができる。
【0132】
2cは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基、又は-SOS3を示す。RS3は置換基を示す。
アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基及びホスホネート基として、例えば、上記一般式(1)のR2aとして採り得るアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基を採用することができる。また、RS3として採り得る置換基として、例えば、上記一般式(1)のRS1として採り得る置換基を採用することができる。
【0133】
m3は0~3の整数である。
【0134】
上記の一般式(3)で表される化合物は、N、P及びSの少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。一般式(3)で表される化合物がNを有する場合、このNをアミノ基として有することが好ましい。
一般式(3)で表される化合物がPを有する場合、このPをホスフェート基(リン酸基)ないしホスホネート基(ホスホン酸基)として有することが好ましい。
一般式(3)で表される化合物がSを有する場合、このSをスルホニル基(-SO-)として有することが好ましい。
また、上記の一般式(3)で表される化合物は、R2cとしてアシル基を有すること、すなわち、OR2cとして上述のアセタト構造を有することも好ましい。
【0135】
以下、本発明に用いられるジルコニウムアルコキシド化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
イソプロピルトリイソステアロイルチタネート
イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート
イソプロピルトリオクタノイルチタネート
イソプロピルトリ(ジオクチルホスファイト)チタネート
イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート
イソプロピルトリ(ジオクチルスルフェート)チタネート
イソプロピルトリクミルフェニルチタネート
イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート
イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート
イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート
イソブチルトリメチルチタネート
ジイソステアロイルエチレンチタネート
ジイソプロピルビス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート
ジオクチルビス(ジトリデシルホスフェート)チタネート
ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート
ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート
ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート
ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート
テトライソプロピルチタネート
テトラブチルチタネート
テトラオクチルチタネート
テトラステアリルチタネート
テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート
テトラオクチルビス(ジ-トリデシルホスファイト)チタネート
テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジ-トリデシル)ホスファイトチタネート
ブチルチタネートダイマー
チタンテトラアセチルアセトネート
チタンエチルアセトアセテート
チタンオクチレングリコレート
チタニウムジ-2-エチルヘキソキシビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)
【0136】
成分(C)中、酸化亜鉛と表面処理剤との質量比は、特に制限されず、例えば、酸化亜鉛100質量部に対して、表面処理剤が5~100質量部であること好ましく、10~80質量部であることより好ましく、10~50質量部であることがより好ましく、音響レンズの接着性及び体液に対する耐久性の点から20~50質量部であることが更に好ましく、20~40質量部であることが最も好ましい。
成分(C)中の酸化亜鉛と表面処理剤との質量比は、表面処理の際の酸化亜鉛と表面処理剤の使用量の質量比と同義である。成分(C)中の酸化亜鉛と表面処理剤との質量比は、成分(C)を熱質量測定(TGA)等で500℃以上に加熱することで有機成分を除去して無機成分(酸化亜鉛)を得て、この酸化亜鉛の質量と上記成分(C)の質量から算出することができる。
【0137】
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した表面処理剤以外の表面処理剤を用いてもよい。
【0138】
上記表面処理は常法により行うことができる。
成分(C)は、酸化亜鉛の表面全てが表面処理剤で処理されている必要はなく、例えば、酸化亜鉛の表面積100%のうちの50%以上が表面処理されていることが好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
成分(C)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
成分(A)~(C)の各含有量の合計100質量部中、成分(C)の含有量は、音響レンズの音速、接着性及び体液に対する耐久性の点から、1~100質量部が好ましく、20~80質量部がより好ましく、30~70質量部がより好ましく、40~60質量部がさらに好ましい。
また、成分(A)~(C)の各含有量の合計100質量部中の成分(A)~(C)の含有量は、以下の範囲にあることが好ましい。
成分(A)の含有量は20~80質量部が好ましく、30~65質量部がより好ましく、35~55質量部がさらに好ましい。
成分(B)の含有量は0.1~20質量部が好ましく、0.2~10質量部がより好ましく、0.3~5質量部がさらに好ましく、0.3~1.5質量部が最も好ましい。
【0140】
<その他の成分>
本発明の音響レンズ用組成物は、成分(A)~(C)以外に、付加重合反応のための触媒、硬化遅延剤、溶媒、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤及び熱伝導性向上剤等の少なくとも1種を適宜配合することができる。
【0141】
- 触媒 -
触媒としては、例えば、白金又は白金含有化合物(以下、単に白金化合物ともいう。)が挙げられる。白金又は白金化合物としては、通常のものを使用することができる。
具体的には、白金黒若しくは白金を無機化合物又はカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸又は塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンとの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。触媒は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0142】
触媒は、成分(B)のSi-H基が、成分(A)のビニル基に対して付加するヒドロシリル化反応(付加硬化反応)において好ましく用いられる。
ここで、触媒は本発明の音響レンズ用組成物中に含有させてもよく、また、音響レンズ用組成物に含有させずに、音響レンズ用組成物と接触させてもよい。
【0143】
市販の白金触媒としては、例えば、白金化合物(商品名:PLATINUM CYCLOVINYLMETHYLSILOXANE COMPLEX IN CYCLIC METHYLVINYLSILOXANES(SIP6832.2)、Pt濃度2質量%及び商品名:PLATINUM DIVINYLTETRAMETHYLDISILOXANE COMPLEX IN VINYL-TERMINATED POLYDIMETHYLSILOXANE(SIP6830.3)、Pt濃度3質量%、いずれもGelest社製)が挙げられる。
【0144】
触媒を本発明の音響レンズ用組成物に含有させる場合には、触媒の含有量は特に制限されず、反応性の観点から、成分(A)~(C)の合計100質量部に対し、0.00001~0.05質量部が好ましく、0.00001~0.01質量部がより好ましく、0.00002~0.01質量部がさらに好ましく、0.00005~0.005質量部が特に好ましい。
【0145】
また、適切な白金触媒を選択することにより硬化温度を調節することができる。例えば、白金-ビニルジシロキサンは50℃以下での室温硬化(RTV)に、白金-環状ビニルシロキサンは130℃以上での高温硬化(HTV)に使用される。
【0146】
- 硬化遅延剤 -
本発明において、硬化反応に対する硬化遅延剤を適宜に用いることができる。硬化遅延剤は、上記付加硬化反応を遅らせる用途で使用され、例えば、低分子量のビニルメチルシロキサンホモポリマー(商品名:VMS-005、Gelest社製)が挙げられる。
硬化遅延剤の含有量により、硬化速度、すなわち作業時間を調整することができる。
【0147】
[硬化前の音響レンズ用組成物の粘度]
成分(A)~(C)を均一に分散させる点から、硬化反応を行う前の音響レンズ用組成物の粘度は、低いことが好ましい。硬化前の粘度を測定する点から、硬化反応を開始する触媒を添加する前の音響レンズ用組成物の粘度を測定する。具体的には、国際公開第2017/130890号に記載の方法で測定することができる。
【0148】
上記粘度(23℃)は、5,000Pa・s以下が好ましく、1,000Pa・s以下がより好ましく、200Pa・s以下が特に好ましい。なお、実際的な下限値は10Pa・s以上である。
【0149】
<音響波レンズ用組成物、音響レンズ及び音響波プローブの製造方法>
本発明の音響レンズ用組成物は、常法で調製することが可能である。
例えば、音響レンズ用組成物を構成する成分を、ニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー(連続ニーダー)、2本ロールの混練装置で混練りすることにより得ることができる。各成分の混合順序は特に限定されない。
なお、均一な組成物を得る観点からは、まず、成分(A)及び(B)に、成分(C)を分散させたポリシロキサン混合物とすることが好ましい。その後、成分(C)を分散させたポリシロキサン混合物に触媒を添加し、減圧脱泡することで、音響レンズ用組成物を作製することができる。
成分(C)を分散させたポリオルガノシロキサン混合物の混練りの条件は、成分(C)が分散される限り、特に制限されないが、例えば、10~50℃で1~72時間混練することが好ましい。
【0150】
このようにして得られた本発明の音響レンズ用組成物を硬化させることにより、シリコーン樹脂を得ることができる。具体的には、例えば、20~200℃で5分~500分加熱硬化させることにより、シリコーン樹脂を得ることができる。上記シリコーン樹脂の形状は、特に制限されず、例えば、上記硬化時の金型により音響レンズとして好ましい形状にしてもよく、シート状のシリコーン樹脂を得て、この樹脂を切削等することにより、所望の音響レンズとしてもよい。
【0151】
本発明の音響レンズ用組成物は、医療用部材に有用であり、例えば、音響波プローブ及び音響波測定装置に好ましく用いることができる。なお、本発明の音響波測定装置とは、超音波診断装置又は光音響波測定装置に限らず、対象物で反射又は発生した音響波を受信し、画像又は信号強度として表示する装置を称する。
特に、本発明の音響レンズ用組成物は、超音波診断装置用探触子の音響レンズ、光音響波測定装置又は超音波内視鏡における音響レンズの材料ならびに超音波トランスデューサアレイとして容量性マイクロマシン超音波振動子(cMUT:Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducers)を備える超音波プローブにおける音響レンズの材料等に好適に用いることができる。
本発明の音響レンズは、具体的には、例えば、特開2003-169802号公報などに記載の超音波診断装置、及び、特開2013-202050号公報、特開2013-188465号公報などに記載の光音響波測定装置などの音響波測定装置に好ましく適用される。
本発明の音響波プローブは、本発明の音響レンズ用組成物を用いて音響レンズを形成すること以外は常法により製造することができる。
【0152】
<<音響波探触子(プローブ)>>
本発明の音響波プローブの構成を、図1に記載する、超音波診断装置における超音波プローブの構成に基づき、以下により詳細に説明する。なお、超音波プローブとは、音響波プローブにおける音響波として、特に超音波を使用するプローブである。そのため、超音波プローブの基本的な構造は音響波プローブにそのまま適用することができる。
【0153】
- 超音波プローブ -
超音波プローブ10は、超音波診断装置の主要構成部品であって、超音波を発生するとともに、超音波ビームを送受信する機能を有するものである。超音波プローブ10の構成は、図1に示すように、先端(被検対象である生体に接する面)部分から音響レンズ1、音響整合層2、圧電素子層3、バッキング材4の順に設けられている。なお、近年、高次高調波を受信することを目的に、送信用超音波振動子(圧電素子)と、受信用超音波振動子(圧電素子)を異なる材料で構成し、積層構造としたものも提案されている。
【0154】
<圧電素子層>
圧電素子層3は、超音波を発生する部分であって、圧電素子の両側に電極が貼り付けられており、電圧を加えると圧電素子が伸縮と膨張を繰り返し振動することにより、超音波が発生する。
【0155】
圧電素子を構成する材料としては、水晶、LiNbO、LiTaO及びKNbOなどの単結晶、ZnO及びAlNなどの薄膜ならびにPb(Zr,Ti)O系などの焼結体を分極処理した、いわゆるセラミックスの無機圧電体が広く利用されている。一般的には、変換効率のよいPZT:チタン酸ジルコン酸鉛等の圧電セラミックスが使用されている。
また、高周波側の受信波を検知する圧電素子には、より広い帯域幅の感度が必要である。このため、高周波、広帯域に適した圧電素子として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの有機系高分子物質を利用した有機圧電体が使用されている。
さらに、特開2011-071842号公報等には、優れた短パルス特性及び広帯域特性を示し、量産性に優れ、特性ばらつきの少ないアレイ構造が得られる、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したcMUTが記載されている。
本発明においては、いずれの圧電素子材料も好ましく用いることができる。
【0156】
<バッキング材>
バッキング材4は、圧電素子層3の背面に設けられており、余分な振動を抑制することにより超音波のパルス幅を短くし、超音波診断画像における距離分解能の向上に寄与する。
【0157】
<音響整合層>
音響整合層2は、圧電素子層3と被検対象間での音響インピーダンスの差を小さくし、超音波を効率よく送受信するために設けられる。
【0158】
<音響レンズ>
音響レンズ1は、屈折を利用して超音波をスライス方向に集束し、分解能を向上させるために設けられる。また、被検対象である生体と密着し、超音波を生体の音響インピーダンス(人体では、1.4~1.7Mrayl)と整合させることが求められている。
すなわち、音響レンズ1の材料としては、音速が人体の音速よりも十分小さく、また、音響インピーダンスが人体の皮膚の値に近い材料を使用することで、超音波の送受信感度がよくなる。
本発明の音響レンズ用組成物は、音響レンズ材として好ましく用いることができる。
【0159】
このような構成の超音波プローブ10の動作を説明する。圧電素子層3の両側に設けられた電極に電圧を印加して圧電素子層3を共振させ、超音波信号を音響レンズ1から被検対象に送信する。受信時には、被検対象からの反射信号(エコー信号)によって圧電素子層3を振動させ、この振動を電気的に変換して信号とし、画像を得る。
【0160】
特に、本発明の音響レンズ用組成物から得られる音響レンズは、一般的な医療用超音波トランスデューサとしては、およそ10MHz以上の超音波の送信周波数で、顕著な感度改善効果を確認できる。特に15MHz以上の超音波の送信周波数で、特に顕著な感度改善効果が期待できる。
以下、本発明の音響レンズ用組成物から得られる音響レンズが、従来の課題に対し特に機能を発揮する装置について、詳細に記載する。
なお、下記に記載する以外の装置に対しても、本発明の音響レンズ用組成物は優れた効果を示す。
【0161】
- cMUT(容量性マイクロマシン超音波振動子)を備える超音波プローブ -
特開2006-157320号公報、特開2011-71842号公報などに記載のcMUTデバイスを超音波トランスデューサアレイに用いる場合、一般的な圧電セラミックス(PZT)を用いたトランスデューサと比較して、一般的には、その感度が低くなる。
しかし、本発明の音響レンズ用組成物から得られる音響レンズを用いることで、cMUTの感度不足を補うことが可能である。これにより、cMUTの感度を、従来のトランスデューサの性能に近づけることができる。
なお、cMUTデバイスはMEMS技術により作製されるため、圧電セラミックスプローブよりも量産性が高く、低コストな超音波プローブを市場に提供することができる。
【0162】
- 光音響波イメージングを用いる光音響波測定装置 -
特開2013-158435号公報などに記載の光音響波イメージング(PAI:Photo Acoustic Imaging)は、人体内部へ光(電磁波)を照射し、照射した光によって人体組織が断熱膨張する際に発生する超音波を画像化したもの、又は超音波の信号強度を表示する。
【0163】
- 超音波内視鏡 -
特開2008-311700号公報などに記載の超音波内視鏡における超音波は、その構造上、信号線ケーブルが体表用トランスデューサと比較して長いため、ケーブル損失に伴い、トランスデューサの感度向上が課題である。また、この課題に対しては、下記の理由により、効果的な感度向上手段がないと言われている。
【0164】
第一に、体表用の超音波診断装置であれば、トランスデューサ先端にアンプ回路、AD変換IC等の設置が可能である。これに対して、超音波内視鏡は体内に挿入して使用するため、トランスデューサの設置スペースが狭く、トランスデューサ先端へのアンプ回路、AD変換IC等の設置は困難である。
第二に、体表用の超音波診断装置におけるトランスデューサで採用されている圧電単結晶は、その物理特性及びプロセス適性上、超音波の送信周波数10~15MHz以上のトランスデューサへの適用は困難である。しかしながら、内視鏡用超音波は概して超音波の送信周波数10~15MHz以上のプローブであるため、圧電単結晶材を用いた感度向上も困難である。
【0165】
しかし、本発明の音響レンズ用組成物から得られる音響レンズを用いることで、内視鏡用超音波トランスデューサの感度を向上させることが可能である。
また、同一の超音波の送信周波数(例えば15MHz)を使用する場合でも、内視鏡用超音波トランスデューサにおいて本発明の音響レンズ用組成物から得られる音響レンズ用いる場合には、特に有効性が発揮される。
【実施例
【0166】
以下に本発明を、音響波として超音波を用いた実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明は超音波に限定されるものではなく、被検対象及び測定条件等に応じて適切な周波数を選択してさえいれば、可聴周波数の音響波を用いてもよい。
【0167】
[調製例]表面処理酸化亜鉛(C-1)の調製例
3-アミノプロピルトリメトキシシラン3.0質量部、メタノール100質量部、蒸留水3.3質量部を混合した後、23℃で1時間静置してメトキシ基の加水分解を進行させた。この溶液に酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名「FINEX-30」、平均一次粒子径35nm)10.0質量部を入れた。この混合物をホモジナイザー(日本精機社製「ED-7型オートエクセルホモジナイザー」(商品名))を用いて、液温度が50℃を超えない様に冷却しながら、回転数10,000rpmで60分間撹拌し、粉砕しながら表面処理を行った。
上記で撹拌し粉砕した後の混合物を濾別し、得られた固形物を100℃で30分加熱乾燥し、粉末状の表面処理酸化亜鉛粒子(C-1)(成分(C))を得た。
【0168】
表面処理酸化亜鉛(C-1)の調製において、原料を下記表1の組成で用いたこと以外は、表面処理酸化亜鉛(C-1)と同様にして表面処理酸化亜鉛(C-2)~(C-29)を調製した。
【0169】
【表1】
【0170】
<表の注>
[酸化亜鉛(Q)]
Q-1:無処理酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名「FINEX-30」、平均一次粒子径35nm)
Q-2:無処理酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名「FINEX-50」、平均一次粒子径20nm)
Q-3:無処理酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名「FINEX-25」、平均一次粒子径60nm)
Q-4:無処理酸化亜鉛(住友大阪セメント社製、商品名「ZnO-CX」、平均一次粒子径250nm)
【0171】
[表面処理剤(S)]
<アミノシラン化合物>
(SA-1):
3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Gelest社製、商品名「SIA0611.0」)
<メルカプトシラン化合物>
(SM-1):
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(Gelest社製、商品名「SIM6476.0」)
(SM-2):
11-メルカプトウンデシルトリメトキシシラン(Gelest社製、商品名「SIM6480.0」)
<イソシアナトシラン化合物>
(SI-1):
3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン(Gelest社製、商品名「SII6456.0」)
(SI-2):
イソシアナトメチルトリメトキシシラン(Gelest社製、商品名「SII6453.8」)
【0172】
<チタンアルコキシド化合物>
(ST-1):
イソプロピルトリイソステアロイルチタネート(味の素ファインテクノ社製、商品名「プレンアクトTTS」
【化9】
【0173】
(ST-2):
ジオクチルビス(ジトリデシルホスフェート)チタネート(味の素ファインテクノ社製「プレンアクト46B」
【化10】
【0174】
(ST-3):
イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート(味の素ファインテクノ社製、商品名「プレンアクト44」)
【化11】
【0175】
<アルミニウムアルコキシド化合物>
(SL-1):
アルミニウムトリsec-ブチレート(川研ファインケミカル社製、商品名「ASBD」)
【化12】
【0176】
(SL-2):
アルミニウムトリスアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスAL-3100」)
【化13】
【0177】
(SL-3):
アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスAL-3200」)
【化14】
【0178】
(SL-4):
アルミニウムトリスエチルアセトアセテート(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスAL-3215」)
【化15】
【0179】
(SL-5):アルミニウムオクタデシルアセトアセテートジイソプロピレート(味の素ファインテクノ社製、商品名「プレンアクトAL-M」)
【化16】
【0180】
<ジルコニウムアルコキシド化合物>
(SZ-1):
ジルコニウムテトラn-プロポキシド(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスZA-45」)
【化17】
【0181】
(SZ-2):
ジルコニウムテトラn-ブトキシド(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスZA-65」)
【化18】
【0182】
(SZ-3):
ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスZC-150」)
【化19】
【0183】
(SZ-4):
ジルコニウムラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスZC-300」)
【化20】
【0184】
(SZ-5):
ステアリン酸ジルコニウムトリブトキシド(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスZC-320」)
【化21】
【0185】
(SZ-6):
ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスZC-540」)
【化22】
【0186】
(SZ-7):
ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)(マツモトファインケミカル社製、商品名「オルガチックスZC-580」)
【化23】
【0187】
<比較例で使用する表面処理剤>
(SA-2):N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(Gelest社製、商品名「SIT8415.0」、50%メタノール水溶液)
(SC-1):メチルトリクロロシラン(東京化成社製試薬)
(SC-2):1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(東京化成社製試薬)
(SC-3):ビニルトリクロロシラン(東京化成社製試薬)
【0188】
[実施例1]
ビニル末端ジメチルシロキサンコポリマー(下記表1の成分(A)、Gelest社製「DMS-V41」(商品名)、重量平均分子量62,7000)49.4質量部、メチルヒドロシロキサンポリマー(下記表1の成分(B)、Gelest社製「HMS-991」」(商品名)、重量平均分子量1,600、Si-H当量67g/mol)0.6質量部、上記調製例で準備した表面処理酸化亜鉛粒子(C-1)(下記表1の成分(C))50.0質量部を、温度23℃で2時間、ニーダーで混練りし、均一なペーストとした。このペーストに白金触媒溶液(Gelest社製SIP6832.2、白金濃度2%)を500ppm(白金として10ppm)添加し混合した後、減圧脱泡し、150mm×150mmの金属型に入れ、60℃で3時間熱処理をして、厚み2.0mmのシリコーン樹脂シートを得た。
【0189】
実施例1のシリコーン樹脂シートの作製において、下記表2記載の組成を採用したこと以外は、実施例1のシリコーン樹脂シートと同様にして実施例2~28及び比較例1~6のシリコーン樹脂シートを作製した。
【0190】
[音速]
得られた厚み2mmのシリコーン樹脂シートについて、JIS Z2353(2003)に従い、シングアラウンド式音速測定装置(超音波工業株式会社製、商品名「UVM-2型」)を用いて25℃の音速を測定し、下記基準に当てはめ評価した。「A」~「C」が本試験の合格である。
<評価基準>
A:840m/s未満
B:840m/s以上、870m/s未満
C:870m/s以上、900m/s未満
D:900m/s以上
【0191】
[密度、音響インピーダンス]
得られた厚み2mmのシリコーン樹脂シートについて、25℃における密度をJIS K7112(1999)に記載のA法(水中置換法)の密度測定方法に準じて、電子比重計(アルファミラージュ社製、商品名「SD-200L」)を用いて測定した。測定した密度と上記音速の積から音響インピーダンスを求め、下記基準に当てはめ評価した。「A」~「C」が本試験の合格である。
<評価基準>
A:1.4Mrayl以上
B:1.3Mrayl以上1.4Mrayl未満
C:1.2Mrayl以上1.3Mrayl未満
D:1.2Mrayl未満
【0192】
[接着試験]
エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、三菱ケミカル社製「jER828」、エポキシ当量189g/eq)67質量部、アミン系硬化剤(三菱ケミカル社製「jERキュア ST12」、アミン価365KOHmg/g)33質量部を混合して金型に流し込み、80℃で12時間硬化させ、長さ12cm×幅12cm×厚み2mmのエポキシ樹脂シートを得た。
得られたシート上に、上記実施例1記載のペーストを長さ10cm×幅2cm×厚み0.4mmとなる様に配置し、60℃で3時間熱処理させ、エポキシ樹脂シート上にシリコーン樹脂シートが接着した積層シートを得た。この積層シートから長さ8cm×幅1cmの試験片を切り出し、引張試験機(インストロン社製、製品名「3340型」)を用い、JIS K6864-1(1999)に従って、シリコーン樹脂シートをエポキシ樹脂シートから90°で剥離した際の剥離強度を測定し、下記基準に当てはめ評価した。「A」~「C」が本試験の合格である。
<評価基準>
A:20N/cm以上
B:15N/cm以上、20N/cm未満
C:10N/cm以上、15N/cm未満
D:10N/cm未満
【0193】
[塩酸耐久試験]
得られた厚み2mmのシリコーン樹脂シートを40℃の1%塩酸水溶液に一週間(168時間)浸漬し、水洗後23℃で24時間乾燥させた。浸漬前のシート及び浸漬後のシートから、それぞれ打ち抜きで3号ダンベル型試験片を作成した。試験片を用いてJIS K 7161-1:2014に従い引張試験を行い、破断強度の維持率(100×浸漬後の試験片の破断強度/浸漬前の試験片の破断強度(%))を算出し、下記基準に当てはめ評価した。「A」~「C」が本試験の合格である。本試験の結果が良好なほど体液(胃酸)に対する耐久性が良好である。
<評価基準>
A:95%以上
B:85%以上、95%未満
C:70%以上、85%未満
D:70%未満
【0194】
【表2】
【0195】
【表3】
【0196】
<表の注>
「EX」:実施例
「CEX」:比較例
「処理量[php]」:100×表面処理剤の質量部/酸化亜鉛100質量部
比較例2は、Q-1(無処理酸化亜鉛)を比較のために成分(C)の行に記載している。
[ビニル基を有するポリシロキサン(A)]
A-1:両末端ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(Gelest社製、商品名「DMS-V41」、重量平均分子量62,700)
A-2:両末端ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(Gelest社製、商品名「DMS-V46」、重量平均分子量117,000)
A-3:両末端ビニル基及びフェニル基含有ポリシロキサン(Gelest社製、商品名「PDV-0541」、重量平均分子量60,000、ジフェニルシロキシ単位5mol%)
【0197】
[Si-H基を有するポリシロキサン(B)]
B-1:ポリメチルヒドロシロキサン(Gelest社製、商品名「HMS-991」、重量平均分子量1,600、メチルヒドロキシシロキシ単位100mol%、Si-H当量67g/mol)
B-2:メチルヒドロシロキサン‐フェニルメチルシロキサンコポリマー(Gelest社製、商品名「HPM-502」、重量平均分子量4,500、メチルヒドロキシシロキシ単位45-50mol%、Si-H当量165g/mol)
【0198】
表2から明らかなように、比較例の組成物を用いて作製したシリコーン樹脂シートは、接着性及び塩酸耐久性試験がいずれも不合格であった。
これに対して、本発明の組成物を用いて作製したシリコーン樹脂シートは、音速が低く、音響整合層から剥離しにくく、また、体液に対する耐久性にも優れることがわかる。
【符号の説明】
【0199】
1 音響レンズ
2 音響整合層
3 圧電素子層
4 バッキング材
7 筐体
9 コード
10 超音波探触子(プローブ)
図1