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特許7126367荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20220819BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
H01L21/30 541M
H01L21/30 541W
H01J37/305 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018063857
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019176049
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100088487
【氏名又は名称】松山 允之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 良一
(72)【発明者】
【氏名】井上 英郎
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-063926(JP,A)
【文献】特表2013-527981(JP,A)
【文献】特開2009-004699(JP,A)
【文献】特開2015-045720(JP,A)
【文献】特開2014-049467(JP,A)
【文献】特開2017-139458(JP,A)
【文献】特開2018-006748(JP,A)
【文献】特表2008-505363(JP,A)
【文献】特開2013-125800(JP,A)
【文献】特開2008-256932(JP,A)
【文献】特開2016-058723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/302
37/317
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の図形パターンが定義された描画データを記憶する記憶装置と、
前記複数の図形パターンの形状を解釈して、図形パターンの一部である、形状補正が必要な図形部分を検出する検出部と、
検出された前記図形部分を補正する、ドーズ情報を有する補正図形パターンのパターンデータを生成する補正図形データ生成部と、
不均一に設定されるピクセル格子を用いて、前記複数の図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される描画パターンピクセルデータに変換する描画パターンデータ変換部と、
前記描画パターンピクセルデータと共通のピクセル設定で、前記補正図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される補正図形パターンピクセルデータに変換する補正図形パターンデータ変換部と、
ピクセル毎に前記描画パターンピクセルデータと前記補正図形パターンピクセルデータに定義された値を加算した合成ピクセルデータを生成する合成ピクセルデータ生成部と、
前記合成ピクセルデータに定義された値に対応するドーズ量のビームがそれぞれのピクセルのために照射されるように、荷電粒子ビームを用いて試料にパターンを描画する描画機構と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記補正図形パターンのパターンデータには、補正図形パターンの形状データと、補正内容に応じた正若しくは負のドーズ情報とが定義されることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記補正図形パターンのパターンデータには、補正図形をメッシュ状に分割した小領域毎のドーズ情報が定義されることを特徴とする請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記図形部分を補正する前記補正図形パターンとして、正のドーズ情報が定義された第1の補正図形パターンと負のドーズ情報が定義された第2の補正図形パターンとを近傍に配置することを特徴とする請求項2又は3記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記記憶装置は、前記描画データと、前記補正図形パターンのパターンデータとを別々のファイルとして記憶することを特徴とする請求項1~4いずれか記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項6】
記憶装置に格納された複数の図形パターンが定義された描画データを読み出し、前記複数の図形パターンの形状を解釈して、図形パターンの一部である、形状補正が必要な図形部分を検出する工程と、
検出された前記図形部分を補正する、ドーズ情報を有する補正図形パターンのパターンデータを生成する工程と、
不均一に設定されるピクセル格子を用いて、前記複数の図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される描画パターンピクセルデータに変換する工程と、
前記描画パターンピクセルデータと共通のピクセル設定で、前記補正図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される補正図形パターンピクセルデータに変換する工程と、
ピクセル毎に前記描画パターンピクセルデータと前記補正図形パターンピクセルデータに定義された値を加算した合成ピクセルデータを生成する工程と、
前記合成ピクセルデータに定義された値に対応するドーズ量のビームがそれぞれのピクセルのために照射されるように、荷電粒子ビームを用いて試料にパターンを描画する工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法に係り、例えば、電子ビームを用いたラスタ描画の手法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、ウェハ等へ電子線を使って描画することが行われている。
【0003】
例えば、マルチビームを使った描画装置がある。1本の電子ビームで描画する場合に比べて、マルチビームを用いることで一度に多くのビームを照射できるのでスループットを大幅に向上させることができる。かかるマルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持ったマスクに通してマルチビームを形成し、各々、ブランキング制御され、遮蔽されなかった各ビームが光学系で縮小され、偏向器で偏向され試料上の所望の位置へと照射される。
【0004】
マルチビーム描画では、個々のビームの照射量を照射時間により個別に制御する。そのために、各ビームを個別にON/OFF制御可能な個別ブランキング機構をアレイ配置している。試料面上をピクセル化し、各ピクセルへの照射量を定義したピクセルデータに沿ってビームを照射することで所望のパターンを描画する。ここで、設計データに基づいて描画した際に、描画パターンが所望の形状からずれが生じてしまう場合がある。かかる問題は、マルチビーム描画に限らず、シングルビームのVSBまたガウシアンビームの描画装置でも同様に生じ得る。描画パターンの形状が所望の形状からずれが生じるのは種々の要因が考えられる。例えば、ビームと基盤、あるいは、その表面に塗布されたレジストとの散乱等の相互作用による影響、また、レジスト現像プロセスの特性としての寸法、形状依存性によるもの、また、エッチング条件による寸法、形状依存性、などがある。このような要因による形状のずれは寸法がより細い部分でより顕著となる傾向がある。そのため、最近の高精度化の要求に対して、高精度な補正方法が必要となる。
【0005】
かかる問題に対して、図形パターン毎にドーズ変調量を定義して、変調されたドーズ量で描画することにより、描画されるパターンの形状を補正する手法がある。しかし、かかる補正方法では、図形パターン内の局所的な部分補正は困難であり、また、細かな補正を行うために図形パターンを小さくすると、データ量が極端に増加してしまうという問題がある。その他、マルチビーム描画ではないが、図形パターンをピクセル化(ラスタライズまたはラスタ化)した後のラスタデータに対して領域サンプリングと称される処理を行って、像を再構築することでパターン形状を補正するといった手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これは、ラスタデータ上で、小領域単位に、その小領域に含まれるピクセルの値とその配置により、小領域中心のピクセルの値を修正する演算を行うもので、この演算を対象の中心ピクセルを順次ずらしながら全てのピクセル(すなわち、全領域)に実施する。ラスタライズ後のピクセルデータはデータ量が非常に大きくなる。そのため、このようなラスタデータ上で複雑な演算処理を行うには、高速処理が可能な専用のハードウェアが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2007-517239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の一態様は、ピクセルデータを用いて荷電粒子ビームによる描画を行う場合に、描画パターンの局所的な形状のずれを補正可能な描画装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
複数の図形パターンが定義された描画データを記憶する記憶装置と、
複数の図形パターンの形状を解釈して、図形パターンの一部である、形状補正が必要な図形部分を検出する検出部と、
検出された図形部分を補正する、ドーズ情報を有する補正図形パターンのパターンデータを生成する補正図形データ生成部と、
不均一に設定されるピクセル格子を用いて、複数の図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される描画パターンピクセルデータに変換する描画パターンデータ変換部と、
描画パターンピクセルデータと共通のピクセル設定で、補正図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される補正図形パターンピクセルデータに変換する補正図形パターンデータ変換部と、
ピクセル毎に描画パターンピクセルデータと補正図形パターンピクセルデータに定義された値を加算した合成ピクセルデータを生成する合成ピクセルデータ生成部と、
合成ピクセルデータに定義された値に対応するドーズ量のビームがそれぞれのピクセルのために照射されるように、荷電粒子ビームを用いて試料にパターンを描画する描画機構と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、補正図形パターンのパターンデータには、補正図形パターンの形状データと、補正内容に応じた正若しくは負のドーズ情報とが定義される。
【0010】
また、補正図形パターンのパターンデータには、補正図形をメッシュ状に分割した小領域毎のドーズ情報が定義されると好適である。
【0011】
また、図形部分を補正する補正図形パターンとして、正のドーズ情報が定義された第1の補正図形パターンと負のドーズ情報が定義された第2の補正図形パターンとを近傍に配置すると好適である。
【0012】
また、記憶装置は、描画データと、補正図形パターンのパターンデータとを別々のファイルとして記憶すると好適である。
【0013】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法は、
記憶装置に格納された複数の図形パターンが定義された描画データを読み出し、複数の図形パターンの形状を解釈して、図形パターンの一部である、形状補正が必要な図形部分を検出する工程と、
検出された図形部分を補正する、ドーズ情報を有する補正図形パターンのパターンデータを生成する工程と、
不均一に設定されるピクセル格子を用いて、複数の図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される描画パターンピクセルデータに変換する工程と、
描画パターンピクセルデータと共通のピクセル設定で、補正図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される補正図形パターンピクセルデータに変換する工程と、
ピクセル毎に描画パターンピクセルデータと補正図形パターンピクセルデータに定義された値を加算した合成ピクセルデータを生成する工程と、
合成ピクセルデータに定義された値に対応するドーズ量のビームがそれぞれのピクセルのために照射されるように、荷電粒子ビームを用いて試料にパターンを描画する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、ピクセルデータを用いて荷電粒子ビームによる描画を行う場合に、描画パターンの局所的な形状のずれを補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図2】実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図3】実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の一部を示す上面概念図である。
図4】実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。
図5】実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図6】実施の形態1におけるマルチビームの描画方法の一例を説明するための図である。
図7】実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図8】実施の形態1における制御ピクセルのシフトとシフト後の画素の領域を説明するための図である。
図9】実施の形態1における補正対象となる図形部分の一例を示す図である。
図10】実施の形態1における描画図形パターンと補正図形パターンとそれぞれのピクセルデータとの一例を示す。
図11】実施の形態1における描画用ラインパターンと補正図形パターンと補正テーブルとの一例を示す図である。
図12】実施の形態1におけるピクセル合成の一例を示す図である。
図13】実施の形態1におけるラインパターンと補正図形パターンの他の一例を示す図である。
図14】実施の形態1における補正図形の効果を説明するための図である。
図15】実施の形態1におけるラインパターンと補正図形パターンの他の一例を示す図である。
図16】実施の形態1におけるグレイマップ補正図形と、グレイマップ補正図形に対応する矩形の補正図形との一例を示す図である。
図17】実施の形態1におけるグレイマップ図形を補正図形として補正ドーズ量を可変にした場合の照射パターン形状の一例を等高線表示で示した図である。
図18】実施の形態1におけるコンタクトホールパターンのコーナーR補正用の補正図形パターンの一例を示す図である。
図19】実施の形態1における線幅補正(リニアリティ補正)用の補正図形パターンの一例を示す図である。
図20】実施の形態1における線幅補正(リニアリティ補正)用の補正図形パターンの他の一例を示す図である。
図21】実施の形態1における標準条件でのドーズ分布と描画図形と補正図形との一例を示す図である。
図22】実施の形態1における近接効果補正後のドーズ分布と描画図形と補正図形との一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、以下、マルチビーム描画装置について説明するが、描画装置はマルチビーム方式に限るものではなく、ラスタライズされたピクセルデータを用いる描画装置であればシングルビームを用いる場合であっても構わない。
【0017】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、制限アパーチャ基板206、対物レンズ207、及び偏向器208,209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0018】
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、ステージ制御回路138、ステージ位置検出器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ステージ制御回路138、ステージ位置検出器139及び記憶装置140,142,144は、図示しないバスを介して互いに接続されている。記憶装置140(記憶部)には、複数の図形パターンが定義された描画データが描画装置100の外部から入力され、格納されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ機構204が図示しないバスを介して接続されている。ステージ位置検出器139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、かかる反射光の情報を利用してXYステージ105の位置を測定する。
【0019】
制御計算機110内には、検出部50、補正図形データ生成部51、ラスタライズ部52、面積密度演算部60、補正照射係数演算部62、ラスタライズ部64、加算部65、照射量演算部66、照射時間演算部68、配列加工部70、画素領域補正部71、及び描画制御部72が配置される。検出部50、補正図形データ生成部51、ラスタライズ部52、面積密度演算部60、補正照射係数演算部62、ラスタライズ部64、加算部65、照射量演算部66、照射時間演算部68、配列加工部70、画素領域補正部71、及び描画制御部72といった各「~部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。検出部50、補正図形データ生成部51、ラスタライズ部52、面積密度演算部60、補正照射係数演算部62、ラスタライズ部64、加算部65、照射量演算部66、照射時間演算部68、配列加工部70、画素領域補正部71、及び描画制御部72に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0020】
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0021】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。図2では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、図2のように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0022】
図3は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の一部を示す上面概念図である。なお、図3において、電極24,26と制御回路41の位置関係は一致させて記載していない。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、図3に示すように、図2に示した成形アパーチャアレイ基板203の各穴22に対応する位置にマルチビームのそれぞれのビームの通過用の通過孔25(開口部)が開口される。そして、各通過孔25の近傍位置に、該当する通過孔25を挟んでブランキング偏向用の電極24,26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、各通過孔25の近傍には、各通過孔25用の例えば電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。各ビーム用の2つの電極24,26の他方(例えば、電極26)は、グランド接続される。また、各制御回路41は、制御信号用の必要な本数のnビットの配線が接続される。各制御回路41は、このnビットの配線の他、クロック信号線および電源用の配線等が接続される。マルチビームを構成するそれぞれのビーム毎に、電極24,26と制御回路41とによる個別ブランキング機構47が構成される。偏向制御回路130から各制御回路41用の制御信号が出力される。各制御回路41内には、図示しないシフトレジストが配置され、例えば、n×m本のマルチビームの1列分の制御回路内のシフトレジスタが直列に接続される。そして、例えば、n×m本のマルチビームの1列分の制御信号がシリーズで送信され、例えば、n回のクロック信号によって各ビームの制御信号が対応する制御回路41に格納される。
【0023】
各通過孔25を通過する電子ビームは、それぞれ独立に対となる2つの電極24,26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。マルチビーム20のうちの対応ビームをそれぞれブランキング偏向する。このように、複数のブランカーが、成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビーム20のうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ部材203全体を照明する。成形アパーチャアレイ部材203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a~eが形成される。かかるマルチビーム20a~eは、ブランキングアパーチャアレイ部204のそれぞれ対応するブランカー(個別ブランキング機構)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を演算された描画時間(照射時間)の間だけビームON、それ以外はビームOFFとなるように偏向する(ブランキング偏向を行う)。
ブランキングアパーチャアレイ部204を通過したマルチビーム20a~eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングアパーチャアレイ部204のブランカーによってビームOFFとなるように偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ部204のブランカーによって偏向されなかった或いはビームONとなるように偏向された電子ビーム20は、図1に示すように制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。かかる個別ブランキング機構のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ部材206は、個別ブランキング機構によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより、1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208及び偏向器209によって、制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの描画位置(照射位置)に照射される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画装置100は、描画位置をシフトしながら順にショットビームを照射していく方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
【0024】
図4は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。図4において、試料101に描画されるチップパターン(複数のチップが一緒に描画される場合には複数のチップが1チップにマージされたマージチップパターン)の領域が試料101の描画領域30となる。かかる描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば-x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、例えば、y方向にストライプ領域幅の距離だけ移動させて、第2番目のストライプ領域の描画を行う。第2番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば+x方向に移動させることにより、相対的に-x方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。そして、同様に、第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、-x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、成形アパーチャアレイ基板203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で各穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0025】
図5は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。図5において、ストライプ領域32には、例えば、試料101面上におけるマルチビーム20のビームサイズピッチで格子状に配列される複数の制御ピクセル27(制御グリッド)が設定される。例えば、10nm程度の配列ピッチにすると好適である。かかる複数の制御ピクセル27が、マルチビーム20の設計上の照射位置となる。制御ピクセル27の配列ピッチはビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく偏向器209の偏向位置として制御可能な任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズは制御ピクセル27の配列ピッチのk倍のサイズで設定される。但し、ビームサイズが制御ピクセルより小さいと精度が悪化する問題があり、また、ビームサイズが制御ピクセルサイズに対して極端に大きくなると描画対象のピクセル数及びデータ量が過大となって描画時間を増加させることになる。そのため、kは1程度から5程度までの実数にすると好適である。例えば、最近の精度上の要求に対しては、10nmビームで5nmピクセル程度にすると好適である。そして、各制御ピクセル27を中心とした、制御ピクセル27の配列ピッチと同サイズでメッシュ状に仮想分割された複数の画素36が設定される。以下、制御ピクセル27を画素36の中心グリッドの意味として用いる。
【0026】
各画素36は、マルチビームの1つのビームあたりの照射単位領域となる。図5の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。照射領域34のx方向サイズは、マルチビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じた値で定義できる。照射領域34のy方向サイズは、マルチビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じた値で定義できる。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではない。照射領域34の位置をy方向に一括して偏向し移動させながら描画することにより、さらに広い幅のストライプ領域32を描画することもできる。この場合、ストライプ領域32の幅を照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。図5の例では、例えば512×512列のマルチビームの図示を8×8列のマルチビームに省略して示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチが設計上のマルチビーム20の各ビーム間のピッチとなる。図5の例では、隣り合う4つの画素28で囲まれると共に、4つの画素28のうちの1つの画素28を含む正方形の領域で1つのサブ照射領域29(ビーム間ピッチ領域)を構成する。図5の例では、各サブ照射領域29は、4×4(=16)画素で構成される場合を示している。
【0027】
図6は、実施の形態1におけるマルチビームの描画方法の一例を説明するための図である。図6では、図5で示したストライプ領域32を描画するマルチビームのうち、y方向3段目の座標(1,3),(2,3),(3,3),・・・,(512,3)の各ビームで描画するグリッドの一部を示している。図6の例では、例えば、XYステージ105が8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)する場合を示している。かかる4つの画素を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。図6の例では、8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)することで1回のトラッキングサイクルを実施する場合を示している。
【0028】
具体的には、ステージ位置検出器139が、ミラー210にレーザを照射して、ミラー210から反射光を受光することでXYステージ105の位置を測長する。測長されたXYステージ105の位置は、制御計算機110に出力される。制御計算機110内では、描画制御部72がかかるXYステージ105の位置情報を偏向制御回路130に出力する。偏向制御回路130内では、XYステージ105の移動に合わせて、XYステージ105の移動に追従するようにビーム偏向するための偏向量データ(トラッキング偏向データ)を演算する。デジタル信号であるトラッキング偏向データは、DACアンプ134に出力され、DACアンプ134は、デジタル信号をアナログ信号に変換の上、増幅して、トラッキング偏向電圧として偏向器208に印加する。
【0029】
そして、描画機構150は、当該ショットにおけるマルチビームの各ビームのそれぞれの照射時間のうちの最大描画時間Ttr内のそれぞれの画素36に対応する描画時間、各画素36にマルチビーム20のそれぞれ対応するビームを照射する。
【0030】
図6の例では、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=0からt=最大描画時間Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば最下段右から1番目の画素に1ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=0からt=Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ-x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
【0031】
ショットのビーム照射開始からショットの最大描画時間Ttrが経過後、偏向器208によってトラッキング制御のためのビーム偏向を継続しながら、トラッキング制御のためのビーム偏向とは別に、偏向器209によってマルチビーム20を一括して偏向することによって各ビームの描画位置(前回の描画位置)を次の各ビームの描画位置(今回の描画位置)にシフトする。図6の例では、時刻t=Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29の最下段右から1番目の画素から下から2段目かつ右から1番目の画素へと描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は定速移動しているのでトラッキング動作は継続している。
【0032】
そして、トラッキング制御を継続しながら、シフトされた各ビームの描画位置に当該ショットの最大描画時間Ttr内のそれぞれ対応する描画時間、マルチビーム20のそれぞれ対応するビームを照射する。図6の例では、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば下から2段目かつ右から1番目の画素に2ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間にXYステージ105は例えばさらに2ビームピッチ分だけ-x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
【0033】
図6の例では、時刻t=2Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29の下から2段目かつ右から1番目の画素から下から3段目かつ右から1番目の画素へと偏向器209によるマルチビームの一括偏向により描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。そして、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば下から3段目かつ右から1番目の画素に3ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ-x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。時刻t=3Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29の下から3段目かつ右から1番目の画素から下から4段目かつ右から1番目の画素へと偏向器209によるマルチビームの一括偏向により描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。そして、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば下から4段目かつ右から1番目の画素に4ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ-x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。以上により、注目サブ照射領域29の右から1番目の画素列の描画が終了する。
【0034】
図6の例では初回位置から3回シフトされた後の各ビームの描画位置に対応するビームを照射した後、DACアンプユニット134は、トラッキング制御用のビーム偏向をリセットすることによって、トラッキング位置をトラッキング制御が開始されたトラッキング開始位置に戻す。言い換えれば、トラッキング位置をステージ移動方向と逆方向に戻す。図6の例では、時刻t=4Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29のトランキングを解除して、x方向に8ビームピッチ分ずれた注目グリッドにビームを振り戻す。なお、図6の例では、座標(1,3)のビーム(1)について説明したが、その他の座標のビームについてもそれぞれの対応するグリッドに対して同様に描画が行われる。すなわち、座標(n,m)のビームは、t=4Ttrの時点で対応するグリッドに対して右から1番目の画素列の描画が終了する。例えば、座標(2,3)のビーム(2)は、図6のビーム(1)用の注目サブ照射領域29の-x方向に隣り合うグリッドに対して右から1番目の画素列の描画が終了する。
【0035】
なお、各グリッドの右から1番目の画素列の描画は終了しているので、トラッキングリセットした後に、次回のトラッキングサイクルにおいてまず偏向器209は、各グリッドの下から1段目かつ右から2番目の画素にそれぞれ対応するビームの描画位置を合わせる(シフトする)ように偏向する。
【0036】
以上のように同じトラッキングサイクル中は偏向器208によって照射領域34を試料101に対して相対位置が同じ位置になるように制御された状態で、偏向器209によって1画素ずつシフトさせながら当該パスの各ショットを行う。そして、トラッキングサイクルが1サイクル終了後、照射領域34のトラッキング位置を戻してから、例えば1画素ずれた位置に1回目のショット位置を合わせ、次のトラッキング制御を行いながら偏向器209によって1画素ずつシフトさせながら各ショットを行う。ストライプ領域32の描画中、かかる動作を繰り返すことで、図4の下段に示すように、照射領域34a~34oといった具合に順次照射領域34の位置が移動していき、当該ストライプ領域の描画を行っていく。なお、描画方法はこの例に限られるものではなく種々考えられる。それらは、要求に応じて選択されれば良い。
【0037】
実施の形態1では、描画される図形パターンの局所的な部分形状が設計パターンからずれてしまう場合に、かかる部分形状を補正する。
【0038】
図7は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図7において、実施の形態1における描画方法は、補正必要部分検出工程(S102)と、補正図形データ生成工程(S104)と、ドーズ補正計算工程(S106)と、描画用ピクセルデータ生成工程(S110)と、補正用ピクセルデータ生成工程(S112)と、合成工程(S120)と、照射時間データ演算工程(S122)と、描画工程(S130)と、いう一連の工程を実施する。
【0039】
実施の形態1における描画方法では、各ビームの照射位置のずれを補正した描画を行うことができる。描画処理を行う際、設定されたビーム間ピッチで各ビームが照射されることが理想的であるが、実際には様々な要因の歪みにより各ショットのビーム照射位置が所望する制御ピクセル位置からずれてしまう。歪みの要因としては、例えば、レンズ条件や偏向量の調整残による偏向歪み(光学歪)、また、光学系部品の設計精度や設置位置精度等により原理的に存在するフィールド歪み(転写歪み)等が存在する。これらに限らず、その他の何らかの要因による歪が存在してもよい。これらを要因とする歪みによってビームの照射位置がずれ、所望するパターンの位置ずれや形状精度の劣化が発生してしまう。
そこで、まず、予め、マルチビーム20の各ビームの照射位置の位置ずれ量を測定しておく。例えば、レジストが塗布された基板上にビーム毎に独立した図形パターンを描画した後、現像、及びアッシングを行う。そして、各図形パターンの位置を位置測定器で測定することで、設計位置からの位置ずれ量を求めることができる。また、XYステージ105上に載置された図示しないマークをビームでスキャンしてその位置を測定することでも各ビームの照射位置の位置ずれ量を測定できる。かかる位置ずれデータは、記憶装置144に格納しておく。例えば、かかる位置ずれによる照射領域34内の各位置の歪をマップ化した歪み量マップを作成しておき、かかる歪み量マップを記憶装置144に格納しておく。或いは、各位置の位置ずれ量を多項式でフィッティングして歪み量演算式を取得し、かかる歪み量演算式或いはかかる式の係数を記憶装置144に格納しておいても好適である。ここでは、マルチビーム20の照射領域34内の位置ずれを測定しているが、さらに、試料101の描画面の凹凸によりビームのフォーカス位置をダイナミック調整(Z位置補正)した際の像の拡大/縮小および回転により生じる歪み(Z補正歪み)等の影響を考慮してもよい。どの制御ピクセル27をマルチビーム20のどのビーム(どの開口部22を通過したビーム)が照射するのかは、描画シーケンスによって決定されるので、各制御ピクセルのずれ量は対応するビームのずれ量で決められる。
【0040】
図8は、実施の形態1における制御ピクセルのシフトとシフト後の画素の領域を説明するための図である。図8において、画素領域補正部71は、各ビームの位置ずれデータを入力し、位置ずれデータを基に、ストライプ領域32毎に、当該ストライプ領域32の各制御ピクセル27(R)の位置をそれぞれ担当するビームの位置ずれ後の照射位置にシフトし、照射量を位置ずれ量に応じて可変設定して、パターンの解像位置を本来の設計位置に合わせるようにする。図8の例では、各制御ピクセルの担当する画素の領域を各ビームの照射位置のずれ量に応じて変形させる。これにより、隣接する各制御ピクセルとの照射量の分担割合を可変してパターン解像位置を合わせる。位置ずれが生じていないビームについては当該制御ピクセル27をシフトさせて補正する必要はない。各ビームの照射位置が設計位置からずれが生じない場合、または、ずれがないと仮定した場合には、各制御ピクセル27(R)は、直交する複数の2直線による直交格子の交点になり、各画素36は、対応する制御ピクセル27を中心とした、制御ピクセル27の配列ピッチと同サイズでメッシュ状に仮想分割された矩形の領域となり、図形のピクセル化はXY方向に均一なピクセル化格子(均一格子)に従って行われる。しかし、ビームの位置ずれが生じている場合、図8に示すように、各制御ピクセル27(R)により構成される格子の形状に歪が生じる。そこで、画素領域補正部71は、制御ピクセル27のシフトに応じて画素36の領域を変化させて補正する。かかる場合、図8の例では、それぞれ直近の縦横2×2の制御ピクセルR群同士で囲まれる領域の中心Pを求める。そして、制御ピクセル27を中心とした、4つの領域中心Pで囲まれる領域を当該制御ピクセル27の画素36とする。図8において、座標(xn,yn)の制御ピクセルR(xn,yn)を中心とする第1象限では、制御ピクセルR(xn,yn)と制御ピクセルR(xn+1,yn)と制御ピクセルR(xn+1,yn+1)と制御ピクセルR(xn,yn+1)によって囲まれる領域の中心P(xn,yn)が求まる。同様に、制御ピクセルR(xn,yn)を中心とする第2象限では、制御ピクセルR(xn,yn)と制御ピクセルR(xn-1,yn)と制御ピクセルR(xn-1,yn+1)と制御ピクセルR(xn,yn+1)によって囲まれる領域の中心P(xn-1,yn)が求まる。同様に、制御ピクセルR(xn,yn)を中心とする第3象限では、制御ピクセルR(xn,yn)と制御ピクセルR(xn-1,yn)と制御ピクセルR(xn-1,yn-1)と制御ピクセルR(xn,yn-1)によって囲まれる領域の中心P(xn-1,yn-1)が求まる。同様に、制御ピクセルR(xn,yn)を中心とする第4象限では、制御ピクセルR(xn,yn)と制御ピクセルR(xn+1,yn)と制御ピクセルR(xn+1,yn-1)と制御ピクセルR(xn,yn-1)によって囲まれる領域の中心P(xn,yn-1)が求まる。よって、制御ピクセルR(xn,yn)の画素36は、領域中心P(xn,yn)と領域中心P(xn-1,yn)と領域中心P(xn-1,yn-1)と領域中心P(xn,yn-1)とによって囲まれた領域になる。よって、画素36は、矩形の形状から歪んだ形状に補正される。画素36の境界で形成される格子がピクセル化格子、この場合はXY方向に不均一なピクセル化格子(不均一格子)、となる。
以上のようにして、画素領域補正部71は、各制御ピクセル27のシフト位置に基づいて各画素36の領域を補正したピクセル化格子情報を生成する。生成されたピクセル化格子情報は、記憶装置144に格納される。かかるピクセル化格子情報は、予め描画装置100外のオフラインで生成され、記憶装置144に格納されても構わない。なお、図8はXY方向に不均一なピクセル化格子(不均一格子)の一例であるが、この場合、各画素36の領域は内部に隙間なく繋がっており、ある領域を仮定して比べれば、XY方向に均一なピクセル化格子(均一格子)の場合と、その領域内の画素の総面積は同じになる。そのため、その領域内の全体の照射量はどちらの場合も同じになるが、この不均一なピクセル化格子を用いれば、ビームの照射位置の位置ずれに伴う照射量の偏りが補正でき、パターンの寸法ずれ等を補正できる。また、ピクセル化格子情報は、この例に限定されるものではなく、要求に合わせて決められたものでよい。
【0041】
補正必要部分検出工程(S102)として、検出部50は、記憶装置140から描画データを読み出し、描画データに定義される複数の図形パターンの形状を解釈して、図形パターンの一部である、形状補正が必要な図形部分を検出する。実施の形態1では、描画後の形成パターンに予測される形状の変形をあらかじめ予測して、それを補正するように、パターンの形状に応じて、パターンのエッジにバイアスを付けたり、別のパターンを加えるなどの補正処理を行う。言い換えれば、実施の形態1では、局所的に形状が変形する図形パターンの補正を、局所的に+/-のドーズ量を加えてパターンエッジの解像位置をずらす。電子ビーム描画で想定される補正対象の例としては、リニアリティ補正、近距離近接効果補正、コーナーR補正、及びライン・ショートニング補正等が考えられる。検出対象は、検出条件テーブルに定義される。検出条件テーブルには、ライン・ショートニング補正用に、規定の線幅以下の線の端部が検出対象として定義される。また、線幅補正(リニアリティ補正)用に、規定の線幅以下の線が検出対象として定義される。また、コンタクトホールパターンのコーナーR補正用に、規定寸法以下のコンタクトホールパターンが検出対象として定義される。近距離近接効果補正用に、隣接図形との隣接距離が規定値以下かの図形が検出対象として定義される。検出条件は、これらに限るものではなく、補正が必要となる種々の図形配置に対して、その形状を検出するように、検出条件を設定すれば良い。検出条件テーブルは、予め、記憶装置144に格納しておく。
【0042】
なお、かかる補正対象図形の検出の代わりに、処理時間はかかるが、シミュレーション等を利用することも可能である。例えば、シミュレーションにより、規定値以上の形状変化をする部分を検出しても好適である。
【0043】
図9は、実施の形態1における補正対象となる図形部分の一例を示す図である。図9では、検出条件テーブルに定義される規定の線幅以下の線の端部の一例を示す。図9に示すように、描画データを使って線(ラインパターン10)を描画すると、描画された線(ラインパターン13)では、種々のプロセス条件等により、線の端部が先細りし、短くなってしまう(ライン・ショートニング)現象が発生する。実施の形態1では、例として、かかる端部の形状を補正する。
【0044】
補正図形データ生成工程(S104)として、補正図形データ生成部51は、検出された図形部分を補正する、ドーズ情報を有する補正図形パターンのパターンデータを生成する。補正図形パターンは、補正テーブルを参照して生成される。補正テーブルには、検出対象となる、変形が予想される図形部分について、その変形を補正するための補正図形パターンの配置位置、図形種、サイズ、及び補正ドーズ量(濃さ)が定義される。例えば、事前の評価実験から、補正が必要な形状(描画図形の線幅、間隔、形状等)の検出条件とともに、検出対象の図形部分の形状及び寸法に応じて、その補正図形の配置位置、図形種、サイズ、及び補正ドーズ量(濃さ)を決めておく。そして、補正テーブルには、検出対象の図形部分の形状及び寸法に関連させて、その補正図形の配置位置、図形種、サイズ、及び補正ドーズ量(濃さ)が定義される。或いは、シミュレーション等で最適な補正図形の配置位置、図形種、サイズ、及び補正ドーズ量(濃さ)を調整して決めておく。ただし、都度シミュレーション等を行うと処理量が増加するので、事前に補正テーブルを用意しておく。かかる補正テーブルに沿って生成される補正図形パターンのデータには、位置と図形の形状(図形種及びサイズ)と、±の濃さを含む情報(補正ドーズ量)が記述される。言い換えれば、生成される補正図形パターンのパターンデータには、補正図形パターンの形状データと、補正内容に応じた正若しくは負のドーズ情報とが定義される。この時、補正図形パターンの補正ドーズ量は、通常描画パターンの基準ドーズ量(標準ドーズ)との相対値で表すと都合が良い。ここで、補正図形パターンデータは、必要な補正精度に基づいて、代表図形表現フォーマットで定義した場合(後述)に、電子ビーム描画での解像限界未満の細かい図形定義を避ける。また、このとき、元図形データと補正図形パターンデータは、別々に保持し、複数条件で補正図形パターンデータを作成する場合でも、元図形データはそのまま保持し、各々の条件での補正図形パターンデータのみを追加作成することで、データ量の増大を防ぐことができ、データ管理もし易くなる。そこで、実施の形態1では、描画データと、補正図形パターンのパターンデータとを別々のファイルとして記憶装置に記憶する。図1の例では、描画データを記憶装置140に格納し、補正図形パターンのパターンデータを例えば記憶装置144に格納する。
【0045】
図10は、実施の形態1における描画図形パターンと補正図形パターンとそれぞれのピクセルデータとの一例を示す。図10(a)には、描画対象となるラインパターン10の端部(図形部分)を中心とした領域が示されている。かかるラインパターン10の端部(図形部分)をラスタライズしてピクセルデータに変換すると、図10(b)に示すように、ラインパターン10内の画素にはドーズ100%を示す値「100」が、ラインパターン10外の画素にはドーズ0%を示す値「0」が、それぞれ定義される。ドーズ量は、基準ドーズ量を100(或いは1,或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントで定義されると好適である。図10(b)の例では、基準ドーズ量を100とした場合の相対値が定義される。しかし、このまま描画処理を行うと、図9において説明したように、ラインパターン10の端部が先細りし、短くなってしまう。かかる形状変動に対して、補正図形データ生成部51は、補正テーブルによって、図10(c)に示すように、ラインパターン10の端部の少し手前のラインエッジ両側に重なる位置に、小さな矩形の2つの補正図形パターン12aと、ラインパターン10の端部に一部が重なる位置に、矩形の補正図形パターン12bを生成する。2つの補正図形パターン12aは、負の補正ドーズ量が定義される。一方、補正図形パターン12bには正の補正ドーズ量が定義される。図10(c)の例では、2つの補正図形パターン12aには、ドーズ-10%を示す値「-10」が、補正図形パターン12bには、ドーズ+20%を示す値「+20」が、それぞれ定義される。図10(c)の補正図形パターンをラスタライズすると図10(d)に示すようなピクセル配置に変換される。その後、図10(b)のピクセルと図10(d)のピクセルは加算されて描画に使用される。補正ドーズ量は、基準ドーズ量を100(或いは1,或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントで定義されると好適である。図10(c)の例では、基準ドーズ量を100とした場合の相対値が定義される。
【0046】
図11は、実施の形態1における描画用ラインパターンと補正図形パターンと補正テーブルとの一例を示す図である。図11(a)では、描画用ラインパターン10の端部と、ラインパターン10の端部に一部が重なるように配置される補正図形パターン12bを示している。図10(c)に示したラインパターン10の端部の少し手前のラインエッジ両側に配置した2つの補正図形パターン12aの図示は省略している。補正図形パターン12bを配置する場合、補正テーブル11を参照して、補正図形パターン12bの配置位置、サイズ、及び補正ドーズ量を決定する。ここでは、補正図形パターン12bの図形種が矩形と予め設定されているものとする。そのため、補正テーブル11には、図11(b)に示すように、ラインパターン10の線幅Wに応じて可変にサイズが設定された、補正図形パターン12bの配置位置と形状を決定するための各サイズが定義される。図11(b)の例では、補正テーブル11に、ラインパターン10の端部からラインパターン10の延びる方向に出っ張るサイズa、ラインパターン10の端部から内部に重なるサイズb、ラインパターン10の端部のラインエッジ(線幅を決める辺)からラインパターン10の線幅方向に出っ張るサイズc、及び補正ドーズ量が定義される。補正テーブル11には、その他、ライン・ショートニング補正用のデータであることを示す識別子が定義される。図11(b)の例では、ラインパターン10の線幅Wが30~60nmの場合が示されているが、さらに、別の線幅の場合についても同様に定義されていることは言うまでもない。また、図11(b)の例では、ラインパターン10の線幅Wが10nm毎に補正図形パターンのサイズが定義されているが、中間値の線幅については、例えば、定義されるデータを使って補正図形パターンのサイズを線形補間すればよい。
【0047】
ドーズ補正計算工程(S106)として、まず、面積密度演算部60(ρ演算部)は、描画領域(ここでは、例えばストライプ領域32)を所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。ρ演算部60は、記憶装置140から描画データを読み出し、また、生成された補正図形パターンのデータを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置される描画用の図形パターンと補正図形パターンとを重ねた上で、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンのパターン面積密度ρを演算する。ここで、補正図形パターンの場合には、図形の面積に濃さ(+または-の規格化された補正ドーズ量)を掛けたものをその図形の面積として演算する。
【0048】
次に、補正照射係数演算部62(Dp演算部)は、近接メッシュ領域毎に、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数Dp(x)(補正照射量)を演算する。近接効果補正照射係数Dp(x)は、後方散乱係数η、しきい値モデルの照射量閾値Dth、及び分布関数gp(x)を用いたしきい値モデルによって定義できる。計算手法は、従来と同様の手法で構わない。演算された近接効果補正照射係数Dp(x)は、一次的に記憶装置144に格納される。
【0049】
描画用ピクセルデータ生成工程(S110)として、ラスタライズ部64(描画パターンデータ変換部)は、複数の図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される描画パターンピクセルデータに変換する。具体的には以下のように動作する。
【0050】
まず、描画制御部72は、描画シーケンスに沿って、ストライプ領域32毎に、当該ストライプ領域32内の各制御ピクセル27と、それぞれの制御ピクセル27を担当するビームを対応付ける。そして、描画制御部72は、記憶装置144から事前に作成されたピクセル化格子情報を入力し、各制御ピクセル27とピクセル化格子の位置を対応付ける。
【0051】
次に、ラスタライズ部64は、記憶装置140から描画データを読み出し、制御ピクセル27毎に、当該制御ピクセル27の画素36内のパターン面積密度ρ’を演算する。かかる場合に、ラスタライズ部64は、記憶装置144に格納されたピクセル化格子情報に定義された各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを使って、制御ピクセル27毎に、当該制御ピクセル27の画素36における描画データに定義される描画用の複数の図形パターンのパターン面積密度ρ’を演算する。図8の例では、制御ピクセルR(xn,yn)の画素36内に配置される図形パターン40の面積密度Sを演算しパターン面積密度ρ’とする。この際、当該画素36に関係する図形が複数ある場合には、図形毎にパターン面積密度ρ’を演算し、それらを加算してその画素36のパターン面積密度ρ’とする。また、パターン面積密度ρ’は、ずれの無いXY方向に均一なピクセル化格子(均一格子)の画素領域面積を基準に相対値(例えば、100%)として面積密度を求めると良い。なお、不均一格子を使用した場合に、画素領域が均一格子の場合より大きくなる場合があるので、演算後に得られたパターン面積密度ρ’は100%を超える場合がある。このように、各制御ピクセル27のシフト位置に基づいて各画素36の領域を補正してパターン面積密度ρ’を求めることで、ビームの照射位置の位置ずれに伴う描画されるパターンの寸法ずれ等を補正できる。ここで、描画データでは、通常は、図形個別のドーズ量(濃さ)は設定されていないので、パターン面積密度ρ’が、そのまま規格化されたドーズ量を表すことになる。なお、描画データに図形個別のドーズ量(濃さ)が設定されたものがあれば、図形のパターン面積密度ρ’に、その図形の規格化されたドーズ量(濃さ)を乗じたものを規格化されたドーズ量とし、当該画素36について関係する図形の規格化されたドーズ量を加算して、当該画素36の規格化されたドーズ量とする。規格化されたドーズ量(ドーズ係数)は、基準ドーズ量を100(或いは1,或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントの値を示す
【0052】
上述したように、図10(b)の例では、描画パターンピクセルデータに、ラインパターン10内の画素にはドーズ100%を示す値「100」が、ラインパターン10外の画素にはドーズ0%を示す値「0」が、それぞれ定義される。図10(b)の例では、ピクセル化格子情報において、各ビームの照射位置のずれが無い場合、かつラインパターン10の両サイドのラインエッジが画素の輪郭線と一致した場合を示している。描画パターンピクセルデータは、一連のピクセルデータである描画パターンラスタデータとなる。
【0053】
補正用ピクセルデータ生成工程(S112)として、ラスタライズ部52(補正図形パターンデータ変換部)は、描画パターンピクセルデータと共通のピクセル設定で、補正図形パターンのパターンデータをピクセル毎のドーズ量に対応する値が定義される補正図形パターンピクセルデータに変換する。具体的には、以下のように動作する。ラスタライズ部52は、ピクセル化格子情報に定義された各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを使って、制御ピクセル27毎に、当該制御ピクセル27の画素36における補正図形パターンのデータに定義される補正図形パターンの面積密度ρ”を演算する。図8の例では、制御ピクセルR(xn,yn)の画素36内に配置される図形パターン40の面積密度Sを演算し面積密度ρ”とする。パターン面積密度ρ”は、ずれの無いXY方向に均一なピクセル化格子(均一格子)の画素領域面積を基準に相対値(例えば、100%)として面積密度を求めると良い。各制御ピクセル27のシフト位置に基づいて各画素36の領域を補正してパターン面積密度を求めることで、ビームの照射位置の位置ずれに伴う描画されるパターンの寸法ずれ等を補正できる。
【0054】
次に、ラスタライズ部52は、制御ピクセル27毎に、演算された補正図形パターンの面積密度ρ”に当該補正図形パターンの補正ドーズ量を乗じた、規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を演算する。規格化されたドーズ量(ドーズ係数)は、基準ドーズ量を100(或いは1,或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントの値を示す。当該画素36に関係する補正図形が複数ある場合には、補正図形毎にパターン面積密度ρ”を演算し、各々の補正図形パターンの面積密度ρ”に当該補正図形パターンの補正ドーズ量を乗じた規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を求め、関係する補正図形の規格化されたドーズ量を加算することにより、制御ピクセル27の規格化されたドーズ量を演算する。
【0055】
図10(c)に示した補正図形パターン12a,12bをラスタライズしてピクセルデータに変換すると、図10(d)に示すように、2つの補正図形パターン12a内の画素にはドーズ-10%を示す値「-10」が、補正図形パターン12b内の画素にはドーズ+20%を示す値「20」が、それぞれ定義される。図10(d)では、ピクセル化格子情報において、各ビームの照射位置のずれが無い場合を示している。補正図形パターンピクセルデータは、一連のピクセルデータである補正図形パターンラスタデータとなる。
【0056】
ここで、描画図形と補正図形をそれぞれピクセルデータに変換する場合(ラスタデータ作成の場合)に、通常、描画面内でX/Y均一のピクセル化格子を使用し、格子内の図形面積を求める方法でピクセル化(ラスタ化)する(均一格子によるラスタ化)方法がある。その結果、X/Y共通のピクセルサイズのラスタデータが作成される。しかしながら、マルチビーム20を用いて各ビームの照射位置ずれを高精度に補正するため、実施の形態1では、描画図形と補正図形をそれぞれピクセルデータに変換する場合(ラスタデータ作成の場合)に、共に、図8において説明したピクセル化格子情報を用いる。ビームの照射位置ずれに応じて設定される可変のピクセル化格子に従ってピクセル化して描画用ラスタデータを作成し、これを用いて描画することにより、各ビームの照射位置ずれが補正できる。図8において説明したように、ビームの照射位置ずれに対応して、描画面内でX/Y不均一に設定されるピクセル化格子を用いてピクセル化(ラスタ化)する。その際、格子位置を指定する情報に基づいて各格子内の面積を計算してピクセル化することになる(不均一格子によるラスタ化)。このような場合、ピクセルサイズが同じではないので、従来のようなピクセル空間上での補正処理を行うには多大で複雑な処理が必要となるか、または、ピクセル化格子の不均一性を無視して実施したとしても十分な精度が得られない結果(位置ずれの補正精度不良、解像性能の劣化等)となる。実施の形態1では、上記のようなX/Y不均一に設定されるピクセル化格子を用いてラスタ化する場合でも均一格子の場合でも、補正図形パターンを描画用データと同一のフォーマットとして作成し、通常描画用と同じラスタ化処理で、補正用ラスタデータを作成して描画することが出来るので、追加の複雑な処理系が不要で、追加リソースを使わずに効率良く実施できる。
【0057】
また、同じ格子位置情報を使うことで、格子位置ずれによる補正ずれが生じないようにできる。実施の形態1では、形状補正用の補正図形パターンと描画パターンを同一のピクセル化格子情報に従ってラスタ化し、ピクセル毎に加減算して描画ラスタデータを作成し描画する。このように、同一のピクセル化格子を用いてラスタ化することによって、ピクセル化格子が均一格子の場合でも不均一格子の場合でも、形状補正用のパターンを描画用データとして作成し、ラスタライズ時に描画パターンと同じピクセル化格子情報に従って補正用ラスタデータを作成して描画するので、描画データと形状補正データの双方のパターンで位置ずれは生じないため高精度の補正描画が実施できる。
【0058】
なお、描画装置100の運用管理上、描画に使用した、または、使用する予定のあるデータの保持が必要になる。しかし、ピクセルデータで保持するのは、データ量が膨大になるため現実的ではない。そこで、補正図形パターンのデータは、描画データとは別に保持するのが、データ管理上都合が良い。個別に保持していれば、プロセス条件等の変化で補正形状が変わった場合に、描画データと共に何種類も保管するのではなく、状況変化に応じて変わった補正図形パターンだけを個別に保管し、描画データはそのまま保持できるので、データ量が抑えられ、また、データの帰属(元の設計データか)が明確化できて都合が良い。さらに、元図形データとなる描画データが階層構造を持ったデータとして作成される場合、実施の形態1の方法を用いれば、元図形のデータはそのまま保持することができ、元図形データの階層構造が維持できるため、補正を行うことで階層構造が壊れてデータ量が増大することを避けられる。実施の形態1の、補正データを別に保持する、ということは、元の図形データと補正結果(合成した結果)の図形データとの差分を補正データ(補正図形パターンデータ)として保持するということになる。差分データを補正データとして別に持つことは、図形表現で+/-の表示をできるようにすることで可能になる。このように、実施の形態1の方式で差分データを補正データとして別に持つことが可能となり、データ量の増大を避けて効率良く処理が実施できることになる。なお、補正データについても、描画データと同様なデータ圧縮手法を用いれば、データ量がより削減できることは言うまでもない。
【0059】
合成工程(S120)として、加算部65(合成ピクセルデータ生成部)は、ピクセル毎に描画パターンピクセルデータと補正図形パターンピクセルデータに定義された値を加算した合成ピクセルデータを生成する。
【0060】
図12は、実施の形態1におけるピクセル合成の一例を示す図である。図12(a)には、図10(b)に示したラインパターン10の端部付近の領域の描画パターンピクセルデータが示されている。図12(b)には、ラインパターン10の端部付近の領域と同じ領域となる、図10(d)に示した補正図形パターン12a,12b付近の領域の補正図形パターンピクセルデータが示されている。ピクセル毎に画素値を加算することで、図12(c)に示すように、ラインパターン10の端部の少し手前のラインエッジ両側の一部の画素では、ラインパターン10内でありながらドーズ量が減少したドーズ90%を示す値「90」が定義される。また、ラインパターン10の端部のラインパターン10内の画素では、ドーズ量が増加したドーズ120%を示す値「120」が定義される。また、ラインパターン10の端部の右外側の隣接画素では、ラインパターン10外でありながらドーズ量が増加したドーズ20%を示す値「20」が定義される。また、ラインパターン10の端部の上下外側の隣接画素では、ラインパターン10外でありながらドーズ量が増加したドーズ10%を示す値「10」が定義される。
【0061】
以上のように、元図形データと形状補正データの各々を、共通のピクセル化格子位置情報に従ってピクセル化し、個々の描画ピクセル毎にドーズ量同士を加算(または、減算)して、実際に用いる合成ピクセルデータ(描画用ラスタデータ)を作成する。ここで、マイナスの補正図形では減算することになるが、補正図形が正確に配置されていれば、結果がマイナスの値になることはない。
【0062】
照射時間データ演算工程(S122)として、まず、照射量演算部66(D演算部)は、制御ピクセル27毎に、当該当該制御ピクセル27の画素36に照射するためのドーズ量D(x)を演算する。ドーズ量D(x)は、基準ドーズ量と近接効果補正照射係数Dp(x)と合成ピクセルデータに定義された画素値が示す基準ドーズ量に対する割合とを乗じることによって演算できる。
【0063】
次に、照射時間演算部68は、各制御ピクセル27に照射するビームの照射時間を演算する。ビームの照射時間tは、各制御ピクセル27に照射するビームのドーズ量D(x)を電流密度Jで割ることで演算できる。電流密度Jはビームの電流値を設定ビームサイズで割ることで求められる。
【0064】
各制御ピクセル27へのビームの照射時間tのデータは、配列加工部70によって、ショット順に並び替えられる。ショット順に並び替えられた各制御ピクセル27の照射時間データ(ショットデータ)は、記憶装置142に一時的に格納される。
【0065】
描画工程(S130)として、描画機構150は、合成ピクセルデータに定義された値に対応するドーズ量のビームがそれぞれの制御ピクセル27(或いは画素36)のために照射されるように、マルチビーム20(電子ビーム)を用いて試料101にパターンを描画する。
【0066】
図13は、実施の形態1におけるラインパターンと補正図形パターンの他の一例を示す図である。図形パターンの部分変形を補正するには、ドーズレベルを変えて補正する方法と、図形の形状を変えるように補正する方法とがある。図13(a)では、補正図形パターン12bにより、ラインパターン10の端部の領域におけるドーズレベルを変えるように補正ドーズ量を加算する。かかる補正では、変換差ΔL/Δドーズ(解像位置変化/ドーズ変化)に基づいて補正ドーズ量(濃さ)で変形量を補正する。図13(a)の例では、ラインパターン10の図形部分を補正する補正図形パターンとして、正のドーズ情報が定義された補正図形パターン12b(第1の補正図形パターン)と負のドーズ情報が定義された補正図形パターン12a(第2の補正図形パターン)とを近傍に配置する。補正図形パターン12bでの過補正で線幅が拡大してしまうのを防ぐ(過補正の補正)ために、図示のようにマイナスドーズの図形となる2つの補正図形パターン12aを近傍に配置して、線幅の増加を防ぐようにしている。このように、補正形状に合わせて、個別に+/-の濃さを持ったグレイ図形(補正図形パターン12b)を適宜配置して補正する。実施の形態1では、特に、補正図形追加による過補正部分の補正もできる。
【0067】
一方、図13(b)では、変化した寸法分だけ描画図形が大きくなったように補正図形パターン12bを作成する。ここでは、100%補正ドーズの濃さで補正寸法分の図形を補正図形として発生する。その他、先細りを補正するためにラインパターン10の端部部分にプラスの濃さの補正図形パターン12cを配置する。なお、描画図形となるラインパターン10の端部部分に、マイナスの濃さの補正図形を配置すれば、線幅を減少方向に補正することもできる。そこで、図形の形状を変えるように補正する場合でも、ラインパターン10の図形部分を補正する補正図形パターンとして、正のドーズ情報が定義された補正図形パターン12b(第1の補正図形パターン)と負のドーズ情報が定義された補正図形パターン12a(第2の補正図形パターン)とを近傍に配置する。言い換えれば、図13(a)の例と同様に、図13(b)の例でも、過補正で線幅が拡大してしまうのを防ぐ(過補正の補正)ために、図示のようにマイナスドーズの図形となる2つの補正図形パターン12aを配置して、線幅の増加を防ぐようにしている。
【0068】
図14は、実施の形態1における補正図形の効果を説明するための図である。規定の線幅以下のラインパターン10では、描画すると、図14(a)に示すように、ラインパターン10の端部がラインパターン13に示すように先細りし、短くなってしまう。かかる形状変動に対して、変化した寸法分だけ描画図形が大きくなったように補正図形パターン12bを配置する。これにより、図14(b)に示すように、ラインパターン10の端部の先細りは残るものの、長さは設計値に合わせることができる。次に、端部の先細りを補正するために、ラインパターン10の端部の両辺部分にプラスの補正ドーズ量(濃さ)の補正図形パターン12cを配置する。これにより、図14(c)に示すように、ラインパターン10の端部の先細りは解消されるものの、線幅よりも出っ張る過補正が生じる。そこで、線幅よりも出っ張る部分にマイナスの補正ドーズ量(濃さ)の補正図形パターン12aを配置する。これにより、図14(d)に示すように、線幅よりも出っ張る部分の過補正を補正できる。ずらす分だけの線幅を持った補正図形を接するように追加、または、マイナスの濃さの図形を付加して描画図形の線幅を削減するように追加することより、ドーズ解像性を維持したままパターンエッジの解像位置をずらすことができる。この場合、ドーズ解像性の悪化に伴うプロセス裕度の悪化がなく補正できる。また、補正図形テーブルには、図11(b)に示した例と同様に、寸法毎の補正図形パターンの配置情報と補正ドーズ量(濃さ)をテーブルとして作成しておけば良い。その際、中間の寸法の補正は、線幅に比例して補正量を決める等を行うのも同様である。寸法毎の補正図形の大きさ、位置、濃さ、等は、あらかじめ、実験、あるいは、シミュレーションなどで決めておけば良い。なお、ドーズを減少させる方法では、最終的な照射量が負の値にならないように、補正図形を注意して配置することが必要となる。
【0069】
ここで、簡易的な方法として、変形が生じる(設計より細く、短くなっている)ラインパターン10の先端部の領域全体に、一様にドーズ量を追加して線幅を増加させる方法で補正することもできる(領域補正)。但し、補正図形の配置上、補正ドーズ量は増加のみの補正となる。かかる場合、プロセス上のドーズ量に対する変換差ΔL/Δドーズ(解像位置変化/ドーズ変化)に基づいて補正量を決めて変形量を補正する。形状の変形は寸法に依存するので、補正量も寸法に依存して、補正図形テーブルの例に記載されるように、寸法に対する形状に大きさと位置関係とドーズ量で指定される。線幅が中間の寸法の場合には、補正図形の寸法、ドーズ量共に、線幅に比例して補完するような処理を行えば良い。なお、この方法は簡易であるが、パターンエッジ部分でドーズ解像性が悪化し、それに伴うプロセス裕度の悪化も想定されるので、精度上は少量の補正に制限すると良い。
【0070】
図15は、実施の形態1におけるラインパターンと補正図形パターンの他の一例を示す図である。図15(a)では、ラインパターン10の端部を含む領域形状をパターンとする補正図形パターン14により、ラインパターン10の端部の領域におけるドーズレベルを小領域毎に変えるように補正ドーズ量を増加または減少させる。図15(a)の補正図形パターン14では、図15(b)に示すように、補正図形パターン14のパターンデータに、補正図形をメッシュ状に分割した小領域毎のドーズ情報が定義される。言い換えれば、補正図形パターン14は、グレイ(濃淡)マップ図形として作成される。被補正図形となるラインパターン10に対して補正用グレイマップ図形の配置位置、メッシュサイズ、補正ドーズ量(濃さ)を設定し、小さなメッシュ領域毎に照射量を制御して、任意な補正照射形状が実施できる。グレイマップ補正の場合は、メッシュサイズを画素36に比べて同等程度以下にすると、解像性が悪化せずに好適である。グレイマップ補正の場合の補正テーブルは、寸法によって補正形状が変わるので、単純に寸法に比例して補間という訳には行かない。そこで、例えば、各々の寸法範囲に対して補正用グレイマップ図形を設定(被補正図形に対して補正用グレイマップ図形の配置位置、メッシュサイズ、濃さを設定)し、その寸法範囲では、補正ドーズ量(濃さ)はそのままで寸法に応じてメッシュサイズを含めてスケーリングすることで実施できる。設定される寸法範囲のつなぎ部分で所定誤差内になるように設定寸法範囲を細かくすることになる。なお、スケーリングの際に、寸法に応じて補正ドーズ量(濃さ)も変える設定を行えばより詳細な設定が可能になるが、その処理内容は要求(要求処理量と要求精度)に応じて適宜設定されれば良い。また、具体的な設定値は、実験またはシミュレーションで決定すると良い。
【0071】
図16は、実施の形態1におけるグレイマップ補正図形と、グレイマップ補正図形に対応する矩形の補正図形との一例を示す図である。図16(a)では、図15(b)に示したグレイマップ図形として作成される補正図形パターン14を示す。かかる補正図形パターン14を、図形数を制限して近似的に矩形の補正図形で表現すると、例えば、図16(b)に示すように、複数のサイズの矩形図形の組合せの補正図形パターン12になる。矩形図形の組合せでグレイマップ図形と同等に詳細な補正ドーズを設定するには、矩形パターンをグレイマップ図形のメッシュサイズ程度にする必要があるが、その場合はデータ量が増大する。グレイマップ図形を用いれば、細かい図形で補正ドーズを定義するよりもデータ量増加が抑えられる。どちらを使うかは要求精度に応じて使い分けると良い。
【0072】
図17は、図16(a)のグレイマップ図形を補正図形として補正ドーズ量を可変にした場合の照射パターン形状の一例を等高線表示で示した図である。図17では、ラインパターン10の端部付近の小領域単位に補正されたドーズ量を、80~100%ドーズ、60~80%ドーズ、40~60%ドーズ、20~40%ドーズ、及び0~20%ドーズで表示している。実際の照射形状は、グレイマップ補正図形で指定された照射形状にビームの解像性による影響が加わって、その分のぼかしが加わって裾を引いた形状となる。ビーム解像性がパターン形成精度に影響する場合には、ビーム解像性によるぼかし量を考慮してグレイマップ補正図形を作成すると良い。実施の形態1におけるグレイマップ補正図形を用いれば、このような照射形状補正が効率良く実施できる。
【0073】
ここで、上述した説明において、図15(a)及び図15(b)に示したように、補正図形パターンの1例として、代表図形の考え方を基にしたグレイ(濃淡)マップ図形の利用を提案している。代表図形の考え方は、領域を小領域に分割し、小領域毎にその中に含まれる複数の図形を矩形等の1個の代表図形で表現して、小領域(メッシュ)内の図形面積を表現するもので、従来、近接効果補正計算の効率化のために提案されたものである。この代表図形の考え方を用いれば、メッシュ内の面積比によりそのメッシュ全体の濃さを表現することで、全体の濃淡の変化を表現することができる。実施の形態1におけるグレイ(濃淡)マップ図形では、小領域単位にその小領域内の面積比をその小領域全体の補正ドーズ量(濃さ)で表現することで、全体の濃淡の変化を表現するようにしたものである。これは、上記の代表図形のように、小領域内に1個の図形を配置して、小領域内の面積比を表現することと等価になるがグレイ(濃淡)マップ図形として、小領域内の図形サイズではなく単に面積、または、面積比を補正ドーズ量(濃さ)として表せば、形状に関する情報が不要でデータ量が少なくて済む利点がある。また、メッシュ毎に、その濃さを、規格化された相対値、割合、或いはパーセント表示で表現すると処理上都合が良い。このように小領域毎に濃淡を表現したものとして、グレイ(濃淡)マップ図形と呼称する。図15(a)及び図15(b)に示したように、例えば、外形は長方形で、その内部に小領域毎にメッシュ状に濃淡を定義したものである。なお、図15(b)では、メッシュ(小領域)のサイズを面内で均一にしているが、これに限るものではない。メッシュ(小領域)のサイズは面内で均一でなくても良い。また、濃さの無い部分(0%)が多い場合等は、データ圧縮を行うことで、データ量の削減ができる。なお、下流の処理系が、図形の濃さを受け付けないような(従来の図形の濃さの定義の無い0/1表現の処理系の)ものなら、図16(b)に示すような、メッシュ毎に形状とサイズを表現したいわゆる代表図形で濃さを表現することでも実施可能となる。なお、グレイマップ図形をピクセル化する場合には、各メッシュをそのメッシュサイズの図形で指定された濃さを持った図形と想定して処理すれば良い。
【0074】
次に、補正図形パターンを通常の図形とグレイマップ図形とのどちらを選択するかの選択方法について一例を説明する。実際に形状補正を実施する際に、補正図形とグレイマップ図形のどちらを使用するかは、要求精度に合わせて、データ量が少ない方(結果として処理時間が短くなる方)を選ぶのが良い。補正ドーズ量の形状の細かさの要求に合わせて補正図形のサイズが決まるが、より補正の形状を細かく設定するためには、図形サイズをより細かくすることになる。しかし、一方で、補正図形をいくら細かくしても、ビームの解像性により制限されることになる。つまり、補正図形の細かさを、ビーム解像性で表現可能な濃淡を表現できる程度に細かくすれば良く、それ以上さらに補正図形を細かくしたとしても、ビーム解像性で制限された以上に細かい濃淡の補正描画は実行できない。そのため、補正図形が、ビームの解像性で制限される大きさの最少図形になれば、その最少図形程度をメッシュサイズにしたグレイマップ図形と補正形状の表現は同程度となり、それ以上細かくしても処理上は無駄ということになる。例えば、10nmビームで5nmピクセル、ビーム解像性(=σ値)を5nmとした場合、グレイマップ図形のメッシュサイズを2.5nm程度、言い換えれば、画素サイズの1/2程度まで細かくすれば、ビーム解像性で表現できる細かさを十分表現できるメッシュサイズにできる。かかる例に限らず、メッシュサイズの大きさで生じる補正照射の設定誤差はシミュレーション等で予測できるので、メッシュサイズは要求の精度に応じて決めれば良い。なお、補正図形を追加することで、ピクセル化してラスタデータを発生させる部分での処理量が少し増えるが、マルチビーム描画装置100の特性としてラスタデータ量は変わらないので、補正図形を追加しても描画時間は変わらない。また、補正図形は全体に比べて量的に少ないので、計算機リソースを少し追加するだけラスタデータの発生が問題なく実施できる。
【0075】
図18は、実施の形態1におけるコンタクトホールパターンのコーナーR補正用の補正図形パターンの一例を示す図である。コンタクトホールのような矩形状の小さなパターンでは、典型的に、角(コーナー)が丸くなり、設計上の形状より小さくなる現象が発生する。角の丸まり形状を円周で近似し、その円の半径の値で丸まり(すなわち、コーナーR)を表現している。かかる形状変動を改善するために、コーナー部分の照射量を増やして改善を図ることは既に知られている。そこで、実施の形態1では、図18(a)に示すように、描画対象のコンタクトホールパターン16aの4つの角部に、それぞれコンタクトホールパターン16aのサイズに応じた補正図形パターン18aを配置する。補正図形パターン18aの作成には、補正テーブルを参照して、補正図形パターン18aの位置、図形種、サイズ、及び補正ドーズ量が定義される。図18(a)の例では、補正ドーズ量として、+20%ドーズが定義される。また、補正図形パターン18aの位置として、コンタクトホールパターン16aの4つの角部に一部が重なるように配置される。
【0076】
図18(b)の例では、コンタクトホールパターン16aよりもサイズが小さい、同じく描画対象のコンタクトホールパターン16bの4つの角部に、それぞれコンタクトホールパターン16bのサイズに応じた補正図形パターン18bを配置する。補正図形パターン18bの作成には、補正テーブルを参照して、補正図形パターン18bの位置、図形種、サイズ、及び補正ドーズ量が定義される。図18(b)の例では、補正ドーズ量として、+40%ドーズが定義される。また、補正図形パターン18bの位置として、コンタクトホールパターン16bの4つの角部に一部が重なるように配置される。補正図形パターン18bは、補正図形パターン18aよりもコンタクトホールパターン16bの4つの角部に重なる重なり部分が少ない位置に配置される。
【0077】
図18(c)の例では、コンタクトホールパターン16bよりもサイズが小さい、同じく描画対象のコンタクトホールパターン16cの4つの角部に、それぞれコンタクトホールパターン16cのサイズに応じた補正図形パターン18cを配置する。補正図形パターン18cの作成には、補正テーブルを参照して、補正図形パターン18cの位置、図形種、サイズ、及び補正ドーズ量が定義される。図18(c)の例では、補正ドーズ量として、+70%ドーズが定義される。また、補正図形パターン18cの位置として、コンタクトホールパターン16cの4つの角部に接するように配置される。
【0078】
図18(a)~図18(c)に示すように、角部(コーナー部分)に補正図形パターン18a~18cを配置してドーズ量を追加するが、補正図形パターンは、描画用パターンとは独立に作成されるので、図18(a)及び図18(b)に示すように、描画図形と重なりがあっても良い。よって、補正形状が簡単で済む。検出条件テーブルには、規定寸法以下のコンタクトホールパターンを検出するように設定し、補正テーブルには、寸法毎の補正図形の配置情報と濃さ(補正ドーズ量)をテーブルとして作成しておき、寸法に比例して補正ドーズ量と配置位置を補間すれば、補正が実施できる。
【0079】
図19は、実施の形態1における線幅補正(リニアリティ補正)用の補正図形パターンの一例を示す図である。線幅の小さなラインパターンでは、典型的に、寸法が小さくなるにつれて、設計より、より小さく、あるいは、より大きくなる現象が発生する。寸法によらず、設計値に対して形成される線幅の値がリニアになるかどうかを評価して、リニアリティと呼んでいる。かかる問題を改善するために、線幅に依存して照射量を増やして改善を図ることは既に知られている。そこで、実施の形態1では、図19に示すように、描画対象のラインパターン17aと重なるように、同じ寸法及び形状の補正図形パターン19aを配置する。解り易くするため、補正図形をずらして書いているが、補正図形パターン19aは描画図形となるラインパターン17aと同じ線幅で重なっている。補正図形パターン19aの作成には、補正テーブルを参照して、補正図形パターン19aの位置、図形種、サイズ、及び補正ドーズ量が定義される。図19の例では、線幅に対応して、例えば、補正ドーズ量として、+3%ドーズが定義される。
【0080】
図20は、実施の形態1における線幅補正(リニアリティ補正)用の補正図形パターンの他の一例を示す図である。図20の例では、図19の例よりも線幅が小さいラインパターン17bが示されている。そこで、かかる場合には、図20に示すように、描画対象のラインパターン17bと重なるように、同じ寸法及び形状の補正図形パターン19bを配置する。解り易くするため、補正図形をずらして書いているが、補正図形パターン19bは描画図形となるラインパターン17bと同じ線幅で重なっている。補正図形パターン19bの作成には、補正テーブルを参照して、補正図形パターン19bの位置、図形種、サイズ、及び補正ドーズ量が定義される。図20の例では、線幅に対応して、例えば、補正ドーズ量として、+10%ドーズが定義される。
【0081】
図19及び図20に示すように、実施の形態1では、元図形(描画用のラインパターン17a、17b)のドーズ量を可変設定するのではなく、追加の補正図形パターン19a、19bで、補正ドーズ量を設定する。これにより、元の図形データは加工しないので、管理がし易くできる。なお、図19及び図20の例では、線幅に応じて設計寸法より細くなる場合にドーズ量を追加して線幅を太く補正する場合を想定しているが、逆に、設計寸法より太くなる場合にドーズ量を減らして細くする場合には、マイナスのドーズ量を補正図形で設定すれば良い。検出条件テーブルには、規定寸法以下のラインパターンを検出するように設定し、補正テーブルには、寸法毎の補正図形(この場合は、描画図形と同じ)の配置情報と濃さ(補正ドーズ量)をテーブルとして作成しておき、寸法に比例して補正量を補間すれば、補正が実施できる。
【0082】
或いは、線幅補正では、描画図形のドーズ量を追加するのではなく、描画線幅を増加または減少させるように描画図形に隣接させた追加図形(補正図形)を設定して補正することができる。追加図形による線幅補正だと、両側に図形が必要になるが、補正量が分かり易い利点もある。どちらでも実施可能であり、それぞれの都合で、どちらか、または、組み合わせを選択すれば良い。
【0083】
なお、コンタクトホールパターンのコーナーR補正用の補正図形パターン、及び線幅補正(リニアリティ補正)用の補正図形パターンについても、上述したグレイマップ図形を利用して作成しても良いことは言うまでもない。
【0084】
ここで、近接効果補正を行った後のラスタデータ上で、形状補正の補正図形パターンを追加すると、近接効果の条件が変わり近接効果補正が合わなくなる問題がある。言い換えれば、図形の形状変更、あるいは、補正図形追加により、近接効果補正の条件が変更されるため、描画精度を保証するには、近接効果補正の再計算が必要になる。図形の追加、修正を行った後に、近接効果補正計算を、ラスタ化後のピクセルデータ上で実施するのは、非常に難しい。ラスタ化後のピクセルデータでは、データ量が非常に大となるため、精度良い近接効果補正計算を通常の補正計算と同程度の時間で実施するのは困難である。例えば、ラスタデータ上での補正処理で実施される領域サンプリングの方法では通常数ピクセルの領域を扱うが、ピクセルサイズを10nmとすると、これは50nm程度の領域となる。一方、近接効果補正計算には、近接効果の影響範囲を含む、より大きな領域での計算処理が必要となる。通常、この領域は50μm程度が必要となる。扱うデータ量は領域の大きさに対してN倍で増加して膨大な量となるので、領域サンプリングの方法による実施は困難となる。また、近接効果補正計算をラスタデータ上で実施できる簡易的な方法として、例えば、小領域単位にその図形面積によって補正量を決めることもできるが、十分な補正精度は得られない。このように、ラスタデータ上で、再度、近接効果補正を行うことは、多大なリソースと処理時間が必要となるため、ラスタデータ上での近接効果補正の処理を行うのは好ましくない。そこで、実施の形態1における補正図形データ生成工程(S104)において、補正図形パターンを生成する場合に、標準条件を設定して補正図形パターンを発生する方法を取るのが好適である。
【0085】
図21は、実施の形態1における標準条件でのドーズ分布と描画図形と補正図形との一例を示す図である。パターンの解像位置を変換差(解像位置変化/ドーズ変化)に従って補正を行う場合、近接効果の大小で実際の変換差(解像位置変化/ドーズ変化)が変化する。そのため、パターンの解像位置をドーズ量で補正しようとする場合、近接効果の状況を確認しないと補正量が決められないことになる。かかる問題に対して、補正図形作成の際に、描画図形で作成された近接効果補正の補正ドーズマップ(Dp(x)のマップ)を参照して対応する変換差(解像位置変化/ドーズ変化)を求め、これにより補正図形を決めることもできるが、補正図形の追加による近接効果条件の変化を再度補償するためにはもう一度の近接効果補正計算が必要になり、大きなリソースを必要とするという問題がある。
【0086】
そこで、実施の形態1では、補正図形データ生成工程(S104)において、標準条件を設定し、標準条件で補正図形を作成した後、ドーズ補正計算工程(S106)において描画図形と併せて近接効果補正計算を1回実施(従来の描画手順と同様に)することで、補正図形の照射量も近接効果の条件に合わせて修正される、という方法を取る。以下、具体的に説明する。
【0087】
まず、標準条件とは、例えば、近接効果が無い、または、反射電子による影響が無いことを仮定した条件を示す。図21(a)及び図21(b)では、ラインパターン10aが所定のスペースを空けて連続して配置されたパターン密度が大の部分と、孤立したラインパターン10bが配置されたパターン密度が小(ほとんど無い)の部分のドーズ量に対する解像特性を模式的に表している。図21(b)は、描画による照射量を、また、図21(a)は、描画によって生じる露光量を模式的に表している。標準条件では、パターン密度によらず変換差ΔL/Δドーズ(解像位置変化/ドーズ変化)がほぼ同じになる。すなわち、パターン密度が大のラインパターン10aに補正図形パターン12aを配置した場合と、パターン密度が小のラインパターン10bに補正図形パターン12bを配置した場合と、において、近似的(少量の補正を仮定している)に、ΔL1/Δドーズ=ΔL2/Δドーズとなる。なお、他のプロセス要因(例えば、レジスト現像特性、エッチング特性など)で、パターン密度依存性がある場合には、変換差は正確には同じにならない場合があるが、それらの特性は、本件の補正のメカニズムを基本として、必要に応じて追加して補正すれば良い。また、図21(a)及び図21(b)が示す閾値モデルでは、ドーズ量の50%で解像する(パターンエッジ位置が決まる)と仮定している。なお、図21(a)及び図21(b)の例では、近接効果が無いと仮定したもの(条件的には孤立パターンの条件とほぼ同じ)を標準条件としているが、標準条件は他の条件(例えば、1:1のL/S等)に設定することも可能である。
【0088】
図22は、実施の形態1における近接効果補正後のドーズ分布と描画図形と補正図形との一例を示す図である。図22(a)及び図22(b)では、ラインパターン10a’が所定のスペースを空けて連続して配置されたパターン密度が大の部分と、孤立したラインパターン10b’が配置されたパターン密度が小(ほとんど無い)の部分のドーズ量に対する解像特性を模式的に表している。図22(b)は、描画による照射量を、また、図22(a)は、描画によって生じる反射電子を含む露光量を模式的に表している。近接効果補正では、反射電子による露光量(ドーズ量)とビーム照射による露光量(ドーズ量)が加わった状態で所定の線幅が解像されるように、ドーズ量が補正される。そのため、図22(a)に示すように、パターン密度に応じて、密度大でドーズ量小として、解像線幅が同じになるように補正する。ここでも、ドーズの50%でパターンエッジ位置が解像すると仮定したモデルを用いている。ここで、パターン密度に応じてドーズ量が小となると、所定のドーズ量変化に対する解像位置の変化量が増加する。例えば、ドーズ量が小(例えば、k倍(k<1))となると、近似的(少量の補正を仮定している)に、変換差ΔL/Δドーズは半比例して1/k倍で大きくなる。すなわち、パターン密度が大のラインパターン10a’に補正図形パターン12a’を配置した場合、図22(a)に示すΔL2‘/Δドーズ=(ΔL2/Δドーズ)/kとなる。変換差ΔL/Δドーズは、模式的に、図22(a)のドーズ量グラフの解像位置の傾きに対応している。グラフの山の高さがk倍になれば、側壁部分の傾き(グラフの傾きΔドーズ/ΔLになる)もそれに比例してk倍になる。ΔL/Δドーズで表すと、逆数の1/k倍となる。近接効果補正計算を行うと、補正図形の照射量も同じ比率でk倍に小さく補正され、結果として、所望のΔL分だけ補正される。すなわち、図21(a)及び図21(b)に示す標準条件では、ΔL1/Δドーズ=ΔL2/Δドーズなので、解像位置の補正量をΔ1=Δ2とし、補正図形による照射量Sは同じ照射量とすると、補正量Δ1は、次の式(1)で定義できる。
(1) Δ1=(ΔL1/Δドーズ)・S=Δ2=(ΔL2/Δドーズ)・S
【0089】
図22(a)及び図22(b)に示す近接効果補正計算後には、近接効果がほとんど無い部分では照射量はそのままになるので、ΔL1’/Δドーズ=ΔL1/Δドーズのままになり、補正図形の照射量SでΔ1の解像位置補正ができる。すなわち、近接効果補正計算後の補正量Δ1’は、次の式(2)で定義できる。
(2) Δ1’=(ΔL1’/Δドーズ)・S=(ΔL1/Δドーズ)・S=Δ1
【0090】
一方、パターン密度が大の部分では、近接効果補正により、照射量がk倍、すなわち、補正図形の照射量もk倍のkSとなる。ここで、ΔL2’/Δドーズ=(ΔL2/Δドーズ)/kなので、近接効果補正計算後の補正量Δ2’は、次の式(3)で定義できる。
(3) Δ2’=(ΔL2’/Δドーズ)・kS={(ΔL2/Δドーズ)/k}・kS
=(ΔL2/Δドーズ)・S=Δ2
となり、近接効果補正実施後も、同じΔ2の大きさの解像位置の補正ができることになる。
【0091】
実施の形態1では、ドーズ補正計算工程(S106)での近接効果補正計算の実施前に、補正図形データ生成工程(S104)において標準条件を設定し、その場合の変換差(解像位置変化/ドーズ変化)を考慮して、補正図形パターンを作成する。通常は線幅で評価するので、変換差を(線幅変化/ドーズ変化)と表現した方が分かり易いが、線幅ではなく、片側のパターンエッジの解像位置の変化分を意味するものとして、変換差を(解像位置変化/ドーズ変化)と表現する。近接効果補正は、例えばプロセス条件により50%ドーズ閾値で解像されることを仮定して、近接効果があった場合の反射電子による露光量(ドーズ)のレベルと合算して、50%ドーズで解像するように、それぞれの部分のドーズ量を調整する。そのため、近接効果補正計算の前に、例えば、近接効果が無い条件(標準条件)を仮定して、50%ドーズで所定の位置に解像位置がずれるように補正図形を発生すれば良いということになる。標準条件は、それ以外に、例えば、図形密度50%の条件にする等、選択は可能だが、密度0の部分を基準にすれば、近接効果補正によって、密度0の部分はそのままの照射量のままで、密度の多い部分では照射量を減少させるように調整され、それにより、密度の多い部分でも線幅が同じになるように調整される。そのため、標準条件を、密度0の部分、つまり、反射電子による露光が無いと仮定した条件とすると分かり易い。例えば、標準条件を図形密度50%の条件にした場合には、反射電子による露光量は、パターン密度が100%の場合の50%となり、この50%の反射電子の影響による近接効果が生じる条件を標準条件とすることになる。この場合、近接効果の補正計算では、実際のパターンで受ける近接効果と標準条件の設定値との差に従って照射量を増加または減少させて補正を行うことになる。そのため、実際に描画するパターンのターゲット密度(精度を最適化するパターン密度)に合わせて標準条件を設定すると補正量が少なくて済むので、近似精度の良い補正が実施できる。そこで、描画パターンの密度(ターゲット密度)に応じて標準条件を変えると良い。また、この際、描画パターンの場所によってターゲット密度が異なる場合には、その領域毎に、ターゲット密度に応じて標準条件を変えることも有効である。
【0092】
標準条件のパラメータは、実験的に、または、シミュレーション等で決めることができる。ここでは、標準条件のパラメータとして、反射電子による露光が無いと仮定した条件での変換差(解像位置変化/ドーズ変化)をあらかじめ実験的に求めておく例を説明する。なお、変換差は、現像条件(現像時間)等のプロセス条件で変わるが、ここではプロセス条件は固定して実験評価することを仮定する。
【0093】
変換差(解像位置変化/ドーズ変化)は、近接効果補正を行った描画で、パターン密度とドーズを変化させた描画結果から決めることができる。密度0%は、孤立描画パターン(ほぼ0%を仮定)で変換差(解像位置変化/ドーズ変化)を評価することで求められる。さらに、密度0%でない部分の変換差は、評価パターンの標準条件としての元の補正量と描画結果の図形のずれ量を対応させて比較することで、元図形で設定すべき変換差が判る。かかる場合に、標準条件で、孤立パターンの変換差と密度0%でない部分の近接効果補正前の元図形で設定されるべき変換差は同じになるはずなので、それらを比較することで、他の変動要因の有無(影響度)を検証することができる。
【0094】
実施の形態1によれば、補正量(図形サイズと補正ドーズ量(濃さ))は近接効果補正計算実施前の標準条件で作成しておけば、近接効果補正実施後も所望した補正量に合わせることができる。なお、補正図形の補正ドーズ量(濃さ)は、基準ドーズ量(標準ドーズ)に対する比で作成しておくと処理上都合が良い。その結果、補正図形パターンを追加しても、全体で近接効果補正の計算を1回やれば良いことになるので、従来のように、近接効果補正実施後のラスタデータ上で図形の補正計算をし、再度その影響を補正するために再度近接効果補正計算を実施するといった複雑で多大な処理が不要となり、リソースが大きく削減できる。
【0095】
また、上述した変換差(解像位置変化/ドーズ変化)を求める描画実験で、標準条件として、孤立パターンの変換差と密度0%でない部分の元図形で設定されるべき変換差が同じになるとした。しかし、プロセス上の他の要因、あるいは、非線形特性等により、このモデルからずれる場合に、それが要求精度に対して量的に大なら、パターン密度に依存した補正を併用することもできる。かかる場合、補正量が少ないのでパターン密度に依存した1次係数で変換差を補正するのみで十分と思われる。また、近接効果補正以外に、影響がある条件、例えば、かぶり(Fogging)等で、変換差に差が出るようなら、それに依存した変換差の補正を入れれば、より広範な条件で精度よく実施できる。
【0096】
その他、補正図形パターンの作成の際、+と-の各補正図形パターンを近傍に配置すると、図形を追加しても近接効果の条件を大きく変えることなく補正ができる。これは、形状補正を実施しても元の近接効果条件から大きくずれないので、プロセスの非線形性等他の要因による影響が顕在化せずに、精度維持したまま形状補正範囲を大きくできることが見込まれる。
【0097】
以上のように、実施の形態1によれば、領域サンプリング演算のような、補正用の描画処理機構として、特別なものを用意する必要が無い。補正図形は通常の描画図形データを対象としたラスタライザと同様のものでピクセル化することができ、単に、描画用ピクセルデータ上で加算/減算するだけで良い。また、補正図形パターンデータを別に持てば、元の描画用の図形データはそのまま変更無しで保持すれば良いので、効率的な処理が可能となり、管理がし易くなるメリットがある。補正図形パターンデータは、プロセス条件で変わるため、少しの変化で元図形を含む全データを処理し直すのは無駄になる。一部条件を変えた場合等は、対応する補正図形データの部分だけの処理で済む。補正図形パターンデータは元の図形データより一般的に容量が少ないので、補正条件を変えたデータを何種類も持てる。よって、ストレージ容量の削減につながる。また、データの検証等に関して、元図形データと補正図形データを区別し対応関係が分かり易いので検証が容易となる。一方、従来例のように、ラスタ後のピクセルデータ上で補正を行う場合、データ量が膨大になるため、処理後のピクセルデータで保持するのは現実的ではないし、結果のデータの検証も多くの労力が必要になる。また、実施の形態1によれば、補正図形で、マイナス照射量を含む、±の図形濃度(ドーズレベル)を表現可能にすることにより、多様な補正が実施できる。
【0098】
ここで、実施の形態1と、電子ビーム描画装置の一例である可変成形方式(VSB)描画装置とを比較する。VSB描画では、補正図形を増加し、十分な精度を得ようとすると図形数が増加し(ショット数が増加し)、スループットが低下する。VSB描画ではショット図形に分解する前提で考えられているので、マイナスのショット図形は元々無いし、ショット数が増えないことを優先条件にしているので、複雑な追加ショットは避けるのが普通の考え方である。これに対して、実施の形態1のラスタ描画を行う描画装置では、図形数が増加しても、ラスタライズ後の描画ピクセルデータの量は変わらないため、描画スループットの低下はない。なお、追加図形分だけ前処理量が増えるが、描画データの処理量に比べて小なので、必要ならばリソースの若干の追加をすれば済む。
【0099】
また、VSB描画において、補正量はプロセス条件に依存して変わるため、検証のためには、処理後のデータをプロセス条件毎に保持する必要がある。そのため、保持データ量が増大し、格納装置量が大きくなり、また、検証にもアクセスに時間が掛かるとともに複雑な処理が必要となる。これに対して、実施の形態1のラスタ描画を行う描画装置では、では、描画用ラスタデータのデータ量は膨大なため、そのまま保持するのには元々問題があり、さらに、プロセス条件毎に格納保持するのは困難である。そのため、実施の形態1では、補正図形をラスタライズ前のパターンデータとして元図形データと別に保持することでデータ量の増加を抑えている。なお、VSB描画装置でも、補正図形データを別に持つことで、本体の元の図形データを共通に、複数条件の補正図形データを別ファイルとして格納保持することで、データ量増加を抑えることはある程度可能である。しかし、従来、+/-の濃さを定義した補正図形の考えは無いので、特にマイナスドーズ量を反映したものは、元図形の形状を変えるしか方法が無く、処理後は元図形が変更された形状となるので、修正された元図形として個々に管理する必要が生じる。
【0100】
次に、従来のラスタ描画では、理想格子上(XY格子寸法が面内均一)での処理に限定されていた。これに対して、実施の形態1では、XY格子寸法が共通でない、また、面内で一定でない不等格子上で描画用ラスタデータ(描画用ピクセルデータ)を作成することで、ビーム照射位置ずれ等の補正が実施できる。かかる場合、従来のようなピクセル化後(ラスタ化後)の図形処理が困難になるので、実施の形態1の方法が特に有効となる。
【0101】
また、従来のピクセル化後の補正処理には、演算機構(各処理毎に専用ハードウェアを設計)が必要だった。これに対して、実施の形態1では、描画データの処理に用いるラスタライザと同様の機構で補正図形をラスタライズ処理してラスタデータの作成ができるため、ピクセル化後のピクセルデータによる図形演算用の追加ハードウェア等は不要となる。図1の例では、描画データのラスタライズ処理と補正図形のラスタライズ処理を別の構成で行う場合を示したが、1つの構成で順にラスタライズ処理を行っても構わない。
【0102】
また、従来のピクセル化後の補正処理では、ラスタデータのデータ量が大きいため、精度良い近接効果補正の実施が困難だった。これに対して、実施の形態1では、従来と同様の方法で、元図形レベルで、補正図形を含めて近接効果補正(照射量補正量)を計算する手法を用いることで、十分高精度の補正ができる。
【0103】
また、従来のピクセル化後の補正処理では、保持データ量が増大し、そのため、格納装置の容量も大きくなり、また、検証もアクセスに時間が掛かるとともに複雑な処理が必要であった。これに対して、実施の形態1では、+/-の補正ドーズ量(濃さ)を持つ補正図形パターンデータを別に保持することで、元の描画図形のデータを変更することなくそのまま保持でき、データ量の増加が抑えられる。さらに、補正図形パターンデータはデータ量が少ないためアクセス時間が速く、処理が高速に行えることになる。
【0104】
また、従来のピクセル化後の補正処理では、ピクセル単位の処理になるので、ピクセルサイズに依存した制約により計算誤差が発生する。有限の大きさのピクセルサイズを用いれば、それに依存して補正計算誤差が発生するが、ピクセルサイズを小さくしてその制約を小さくすると、データ量が増大し、また、領域サンプリング演算で参照する単位領域もピクセル数が2乗で増大して処理が複雑化するという問題がある。これに対して、実施の形態1では、ベクトルデータで定義される補正図形パターンを用いるので、データ上では、1nmの要求精度に対して、0.001nm(さらにそれ以下)の図形サイズ設定分解能を設定しても特に問題なく処理ができる。よって、設定分解能による発生誤差は実質ゼロで高精度の演算処理が実施できる。しかし、従来のピクセル化後の補正処理では、例えば、0.001nm設定分解能(0.001nmピクセルサイズ)の処理は、例えば、10nmのピクセルサイズの場合に対して、データ量は100,000,000倍となり、データ量的に実質的には実施不可能となる。
【0105】
以上のように、実施の形態1によれば、ピクセルデータを用いて電子ビームによる描画を行う場合に、描画パターンの局所的な形状のずれを効率良く補正できる。
【0106】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0107】
上述した例では、リニアリティ補正、近距離近接効果補正、コーナーR補正、及びライン・ショートニング補正について説明したが、これらは一例であって、補正が必要となる他の形状についても同様の補正論理を適用できる。上述した例では、周囲に他のパターンが無い例で示したが、パターン密度の違いによる影響等、例えば、近くに接するようにパターンがある場合等は、その影響を受けて、変形が上記とは異なる挙動を示す場合もある。そのため、他に補正が必要となる形状があれば、上記に限らずに、補正を必要とするそれぞれの形状に合わせて、補正図形を発生させる論理を追加すれば良い。
【0108】
また、上述した例では、ポジレジストの抜きパターン(照射部分のレジストが無くなることでパターンを形成)を想定して説明したが、ネガレジストの場合等、それぞれのプロセス条件に合わせて、補正論理を作成すれば良い。
【0109】
上記では補正の実施形態の例を示したが、上記に限定されることなく、種々形状のパターンに対して、簡易的な方法から、より詳細な方法まで、種々の補正が実施可能となる。また、それらは、併用が可能で、種々の組み合わせで実施可能である。
【0110】
上記で、補正図形を種々配置して、変形を補正する例を示したが、これらは、+または-の補正図形を適宜配置すると、寸法を補正すると共に、その補正の影響で、補正の不要な隣接する部分にも影響を与える等の弊害が無いように補正できるという点で優れている。
【0111】
補正図形の配置の最適値、補正量の最適値は、シミュレーションで決めるか、または、実験評価しておくとより良い。いずれの場合も、補正図形の発生はドーズプロファイル(解像性)を考慮して実施すると好適である。事前に実験あるいはシミュレーション等で解像性の影響を確認しておくと良い。例えば、矩形の補正図形パターンを配置した場合、そのサイズで生じるドーズ解像性の変化はシミュレーション等で予測できるので、要求の精度に応じて図形サイズを決めれば良い。
【0112】
なお、補正図形の+と-を近傍に配置し、照射量が差引き0になるような補正方法を実施することで、近接効果の補正条件を大きく変えることなく(図形の追加でも、近接効果補正の再計算をしないで)形状補正ができるという効果が期待できる。例えば、上述した標準条件の設定を行わないような場合、または、標準条件の設定でも、要求以上の発生誤差が生じる等の場合に、特に有効になる。
【0113】
なお、補正図形の補正ドーズ量(濃さ)は、基準ドーズ量に対して100%以上の設定も可能であり、より強度の高い補正設定を行うことも可能である。但し、かかる場合には、描画シーケンスによっては描画時間を増加させることもあるので、相反の要求に応じて決めれば良い。
【0114】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0115】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置及び方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0116】
10 ラインパターン
12,14,18,19 補正図形パターン
13 ラインパターン
16 コンタクトホールパターン
17 ラインパターン
20 マルチビーム
22 穴
24,26 電極
25 通過孔
27 制御ピクセル
28,36 画素
29 サブ照射領域
30 描画領域
32 ストライプ領域
34 照射領域
50 検出部
51 補正図形データ生成部
52 ラスタライズ部
60 面積密度演算部
62 補正照射係数演算部
64 ラスタライズ部
65 加算部
66 照射量演算部
68 照射時間演算部
70 配列加工部
71 画素領域補正部
72 描画制御部
100 描画装置
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 メモリ
130 偏向制御回路
132,134 DACアンプユニット
138 ステージ制御回路
139 ステージ位置検出器
140,142,144 記憶装置
150 描画機構
160 制御系回路
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
204 ブランキングアパーチャアレイ機構
205 縮小レンズ
206 制限アパーチャ基板
207 対物レンズ
208,209 偏向器
210 ミラー
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